弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被上告人B1同B2に対する請求に関する部分を破棄する。
     右部分につき本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
     原判決中その余の部分に関する上告人の上告を棄却する。
     前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人桜井紀の上告理由第一点について。
 原判決によれば、上告人と被上告人B1間の本件(一)(二)の土地の売買につ
いては、上告人の属する宗教法人D宗主管者の承認を得ていないというのであるか
ら、右売買が無効であることは宗教法人令一一条二項の規定に徴して明らかであり、
このことは、相手方たる被上告人B1が善意無過失であるからといつて、理を異に
するものではない。しかして、原判決が、「被控訴人B1が右の如く善意無過失で
あつた以上、宗教法人令第一一条第二項の適用は排除せられ」ると判示した趣旨は、
必らずしも明瞭でないけれども、原判決を通覧すれば、原審が上告人と被上告人B
1間の売買は無効であるとした趣旨であること明らかであるから、原判決が宗教法
人令一一条二項の解釈適用を誤つたものというのはあたらない。
 ところで、原判決は進んで、「控訴人主管者Eは同被控訴人(被上告人B1)に
対し、右売買契約上の債務の履行として、売買の目的物である右土地の所有権を同
被控訴人に移転し且つその所有権移転登記を為すべき義務を有したことは、宗教法
人令第一一条第三項により明白であるから、控訴人主管者Eが右土地の所有権を被
控訴人B1に移転し且つ同被控訴人に対し、その所有権移転登記を為したことは、
右に云う売買契約の履行を為したものとして有効であると解せられる。従つて同被
控訴人に対する右土地の所有権移転登記は真実の権利関係と一致する有効なもので
あ」る旨判示した。しかし、宗教法人令一一条三項は寺院または教会がした不動産
の処分行為等が同条二項により無効である場合における主管者の個人の資格におけ
る責任を定めたものであるところ、主管者が同令一一条三項により履行の責に任じ
ようとしても、寺院の不動産については、主管者個人が適法に処分する権限を取得
した場合でない限り、履行をなしえない筋合であるから、結局は履行不能となるも
のであるにもかかわらず、本件において、原判決が、なんら首肯するに足る事由を
示すことなく、上告人主管者Eが、同令一一条三項の履行義務の履行として、有効
に、本件(一)(二)の土地の所有権を移転し、その旨の登記を経由したものであ
ると判示したのは、畢竟、同令一一条三項に関する特異な解釈のもとに、これを事
案に適用した違法があるものといわざるをえない。論旨は結局理由があり、原判決
中被上告人B1同B2に対し、本件(一)(二)の土地の各所有権取得登記の抹消
登記手続を求める上告人の請求を棄却した部分は、破棄を免れない。
 同第二点について。
 原判決の引用する第一審判決は、挙示の証拠により、上告人と被上告人B3の本
件(三)の土地の売買に対する総代の同意書たる甲第三号証に、F「G」Hと記載
されているのは、Eが「I」と書くべきものを間違つて代書し、Fは右書面の記載
を認識してその名下に自ら押印したとの事実を認定したうえ、同号証にその余の挙
示の証拠を総合して、総代の一人たるJが前示売買に対し、同意を与えた旨の認定
をしたのであり、右認定は是認できる。所論は、原審の裁量に属する証拠の取捨判
断および事実の認定を非難するものであり、採用できない。
 (なお、上告代理人大塚一男の上告理由書は期限後提出にかかるものであるから
判断を加えない。)
 よつて、前記破棄部分以外の原判決は正当であるから、この点に関する上告は棄
却すべきものとし、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、
裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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