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平成10年(ワ)第16157号 特許権侵害差止等請求事件
平成13年3月27日口頭弁論終結
判        決
原      告   株式会社白興商会
訴訟代理人弁護士   長谷川   純
同補佐人弁理士   三 好 秀 和
同            岩 崎 幸 邦
同            鹿 又 弘 子
同            中 嶋 知 子
被      告     ワイエイシイ株式会社
被      告     株式会社日東サービス
被      告     有限会社フレッシュ
被      告     有限会社ケイテイ商会
被告ら訴訟代理人弁護士萩 谷 雅 和
同復代理人弁護士   久連山 陽 子
同補佐人弁理士   田 辺 良 徳
主         文
原告の請求を,いずれも棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告ワイエイシイ株式会社は,別紙物件目録1,2記載の各包装装置を製造
し,販売してはならない。
 2 被告ワイエイシイ株式会社は,その占有に係る前項記載の各包装装置及びそ
の半製品を廃棄せよ。
 3 被告株式会社日東サービス及び被告有限会社フレッシュは,別紙方法目録1
記載の包装方法及び別紙物件目録1記載の包装装置を使用してはならない。
 4 被告有限会社ケイテイ商会は,別紙方法目録2記載の包装方法及び別紙物件
目録2記載の包装装置を使用してはならない。
 5 被告ワイエイシイ株式会社は,原告に対し,735万円及び平成12年6月
13日(請求の趣旨変更申立書が被告らに送達された日の翌日)から支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
 6 被告株式会社日東サービスは,原告に対し,33万4000円及び前同日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 7 被告有限会社フレッシュは,原告に対し,33万4000円及び前同日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 8 被告有限会社ケイテイ商会は,原告に対し,15万2000円及び前同日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 原告の各被告に対する請求の内容及びその主張の概要は,本判決末尾添付の別表
記載のとおりである。
 すなわち,原告は,(1) 被告ワイエイシイが,その製造する包装装置を製造・販
売・販売の申出をする行為は,① 原告の特許発明(物の発明)の実施(直接侵
害)又は当該発明に係る物の生産のみに使用する物を製造等する(間接侵害)もの
であり,かつ,② 原告の特許発明(方法の発明)の実施にのみ使用する物を製造
等する(間接侵害)ものである,(2) 被告日東サービス,同フレッシュ及び同ケイ
テイ商会が上記包装装置を使用する行為は,① 原告の特許発明(物の発明)を実
施(直接侵害)し,かつ,② 原告の特許発明(方法の発明)を実施する(直接侵
害)ものである旨を主張して,被告ワイエイシイに対して,上記包装装置の製造等
の差止め及び損害賠償を,その他の被告らに対して上記包装装置の使用差止め及び
損害賠償を,それぞれ求めている事案である(原告は,後記1イ記載の特許権の抹
消登録に伴い,平成12年6月15日の第9回弁論準備期日において,当初の差止
請求(請求欄1ないし4)を損害賠償請求(同5ないし8)に交換的に変更するこ
とを申し立てたが,被告らは,当初の請求(同1ないし4)の取下げに同意しなか
った。)。
 1 争いのない事実等(末尾に証拠を掲記した事実以外は,当事者間に争いがな
い。)
  (1) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有していた。
   ア特許番号  第2516866号
 発明の名称 シャツ類を包装するためのハンガーを利用したシャ
ツ類の包装方法と簡易包装装置
出願年月日 平成4年3月9日
出願公開年月日 平成5年8月24日
 登録年月日 平成8年4月30日
優先権主張国   日本
 優先権主張原出願 特願平3-350003
 優先日平成3年12月10日
イ 本件特許権は,平成11年4月30日までに納付すべき特許料の不納付
により,平成12年1月26日,抹消登録がされた(甲18)。
 ウ上記特許権に係る願書に添付した明細書(以下「本件明細書」とい
う。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(方法の発明。以
下,この発明を「本件特許発明1」という。)。
     「左右に水平に延設された肩部の中央に襟元保形部を介して懸吊部を形
成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細
長形状のガイド部を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部
の長さよりも長い補強部材で互いに一体的に連結してなるハンガーの懸吊部を,離
脱自在にフックに懸吊するとともに,このハンガーにシャツ類を着せ,その襟元を
ボタン等を利用して止めてから,この懸吊したシャツ類の袖部分と胴部分の側方
を,前記ハンガーの左右両端のガイド部に沿って裏側に折り畳み,その折り畳み状
態をストッパーで保持しながら,フックの上方に配置した,前記ハンガーの横幅よ
りもわずかに長い横幅を持つ筒状の包装袋を抜き取り,折り畳まれたシャツ類全体
を上から被覆するとともに,前記ハンガーの懸吊部をこの包装袋の孔から突出さ
せ,さらに,この懸吊部をフックより取り外してなるシャツ類の包装方法。」
   エ 同じく請求項2の記載は,次のとおりである(物の発明。以下,この発
明を「本件特許発明2」という。)。
「左右に水平に延設された肩部の中央に襟元保形部を介して懸吊部を形
成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細
長形状のガイド部を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部
の長さよりも長い補強部材で互いに一体的に連結してなるハンガーの懸吊部を,離
脱自在に懸吊するフックの上方に,ハンガーの懸吊部が突出自在となる孔をもち,
かつ,前記ハンガーの横幅よりもわずかに長い横幅を持つ筒状の包装袋を抜き取り
自在に配置し,さらに,フックにより懸吊されたシャツ類の袖部分と胴部分の側方
を,前記ハンガーの左右両端のガイド部に沿って裏側に折り畳んだ状態に保持で
き,かつ,包装されたシャツ類を簡単に取り出すことができるストッパーを設けて
なるシャツ類の簡易包装装置。」
  (2) 上記各発明の構成要件を分説すれば,次のとおりである。
 ア 本件特許発明1
  a 左右に水平に延設された肩部の中央に襟元保形部を介して懸吊部を形
成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細
長形状のガイド部を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部
の長さよりも長い補強部材で互いに一体的に連結してなるハンガーの懸吊部を,離
脱自在にフックに懸吊するとともに,このハンガーにシャツ類を着せ,その襟元を
ボタン等を利用して止める。
b この懸吊したシャツ類の袖部分と胴部分の側方を,前記ハンガーの左
右両端のガイド部に沿って裏側に折り畳み,その折り畳み状態をストッパーで保持
する。
c フックの上方に配置した,前記ハンガーの横幅よりもわずかに長い横
幅を持つ筒状の包装袋を抜き取り,折り畳まれたシャツ類全体を上から被覆すると
ともに,前記ハンガーの懸吊部をこの包装袋の孔から突出させる。
d この懸吊部をフックより取り外す。
以上,a,b,c及びdのプロセスよりなるシャツ類の包装方法であ
る。
イ 本件特許発明2
A 左右に水平に延設された肩部の中央に襟元保形部を介して懸吊部を形
成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細
長形状のガイド部を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部
の長さよりも長い補強部材で互いに一体的に連結してなるハンガーの懸吊部を,離
脱自在に懸吊するフックを設けている。
B フックの上方に,ハンガーの懸吊部が突出自在となる孔をもち,か
つ,前記ハンガーの横幅よりもわずかに長い横幅を持つ筒状の包装袋を抜き取り自
在に配置している。
C フックにより懸吊されたシャツ類の袖部分と胴部分の側方を,前記ハ
ンガーの左右両端のガイド部に沿って裏側に折り畳んだ状態に保持でき,かつ,包
装されたシャツ類を簡単に取り出すことができるストッパーを設けている。
以上,A,B及びCの構成よりなるシャツ類の簡易包装装置である。
  (3) 被告ワイエイシイは,別紙物件目録1及び同2記載の包装装置(以下,
「イ号装置」「ロ号装置」といい,両者を併せて「被告各装置」という。)の製
造,販売及び販売の申出をしている。被告日東サービス,同フレッシュは,イ号装
置を使用し,別紙方法目録1の方法(以下「イ号方法」という。)を用いている。
被告ケイテイ商会は,ロ号装置を使用し,別紙方法目録2の方法(以下「ロ号方
法」といい,イ号方法と併せて「被告各方法」という。)を用いている。
イ号方法は,イ号装置により実施されるものである。ロ号方法は,ロ号装
置により実施されるものである。
  (4) イ号装置の構成は以下のとおりである。
ア 物件の内容
被告ワイエイシイが商品名「ハーフワイシャツ立体包装機KM-05
0」として製造販売し,かつ,販売の申出をし,被告日東サービス,同フレッシュ
が使用する装置である。シャツ類を吊すためのハンガーを使用した,シャツ類の簡
易包装装置である(ハンガーの形状が一定のものに限定されるかは,争いがあ
る。)。
イ 構造の説明
(ア) イ号装置は,仕上げ工程及びボタン掛け作業を終えた品物(シャツ
類)を供給する(又はスクリューコンベアにて供給する。)ことにより折り込み-
包装-排出作業を自動で処理することを目的に製作された自動立体包装機であり,
その構造は次のとおりである。
イ号装置における機械本体100の上部には,シャツ類を掛けたハン
ガー101を離脱自在に懸吊するフック133が前後方向(図2において左右方
向)へ揺動可能に設けられている。
このフック133に対応して機械本体100の上部後側(図2におい
て右側)には,シャツを掛けたハンガーを前記フック133へ案内するガイド部材
135が傾斜して設けられている。また,機械本体100の上部前側には,包装袋
として使用するためのフィルムチューブ117をロール状127にしてストックし
て置くストック部131が設けられている。フィルムチューブ117の横幅は,使
用するハンガー101の横幅より長いものである。
前記フック133の上方部には,機械本体100の上部から下方向へ
引かれる包装袋として使用するためのフィルムチューブ117の口を包装袋として
使用するために広げるための袋開口部113が設けられている。この袋開口部11
3より下側の位置には,包装袋として使用するためのフィルムチューブ117の必
要部分を加熱接着してシールするための左右のヒーター台ユニットを備えると共に
包装袋として使用するためのフィルムチューブ117を切断するための鋸刃状のカ
ッター刃を備えたシールカット部165が設けられている。
また,前記フック133に対応して機械本体100の上部前側には,
包装した後のハンガーを前記フック133から受け取る棒状の排出部137が設け
られている。前記機械本体100の前側下部にはユニット横スライド部119が左
右方向(図1においての左右方向)へ移動可能に設けられており,このユニット横
スライド部119にはユニット上下スライド部121が上下動可能に設けられてい
る。
上記ユニット横スライド部119には,垂直板123が立設してあ
り,この垂直板123の上部には後上方向へ傾斜したシャツ押え部125が形成し
てある。このシャツ押え部125の平断面形状は,左右両側部に側板を備えて後側
へ開口したコ字形状の凹部をなしている。
前記ユニット上下スライド部121には,前記フック133に懸吊さ
れたハンガー101に掛けられているシャツ類及び上記ハンガー101を共に前記
シャツ押え部125のコ字形状の凹部内へ背中側から押えておく押圧板105がほ
ぼ垂直な状態と後側へ大きく倒れた状態との間において前後方向へ揺動可能に設け
られている。さらに前記ユニット上下スライド部121には,前記押圧板105に
よって前記シャツ押え部125へ押えられ,かつ袖を後側へ折り込まれた状態のシ
ャツ類の袖が崩れないように押えておくストッパー145が前記押圧板105と同
様に前後方向へ揺動可能に設けられている。
前記機械本体100には,前記押圧板105によって前記シャツ押え
部125へ押さえてあるシャツ類の袖及び胴部分を折り込むための左右の肩折部1
92L,192Rが設けてあり,この左右の肩折部192L,192Rには左右の
肩折りプレート182L,182Rが左右方向へ往復動可能に設けられている。
さらに,前記機械本体100には,折り込んだ状態のシャツ類に包装
袋として使用するためのフィルムチューブ117を被せるために,上記フィルムチ
ューブ117の開口した下部をつかんで下方向に引張る爪部181が上下動可能に
設けられている。
(イ) イ号装置は,(ア)での構造の説明のとおり,シャツ類106を掛け
たハンガー101を離脱自在に懸吊するフック133を有する(使用できるハンガ
ーが,ハンガー101の形状のもの(図3)に限定されるかどうかは,争いがあ
る。)。
ウ 図面(本判決末尾添付)の説明
図1 イ号装置の正面図
図2 イ号装置の右側面図
図3 イ号装置に使用されるハンガーの説明図
図4 ハンガーにシャツ類を掛けた状態を示す説明図
図5 シャツ類を折り畳んだ状態を示す説明図
図6 ハンガーに掛けられ折り畳まれたシャツ類に包装袋を被せた状態
を示す説明図
(5) ロ号装置の構成は,以下のとおりである。
ア 物件の内容
被告ワイエイシイが商品名「ハーフワイシャツminiKM-075」
として製造販売し,かつ,販売の申出をし,被告ケイテイ商会が使用する装置であ
る。シャツ類を吊すためのハンガーを使用した,シャツ類の簡易包装装置である
(ハンガーの形状が一定のものに限定されるかは,争いがある。)。
イ 構造の説明
(ア) ロ号物件装置は,仕上げ工程及びボタン掛け作業を終え,ハンガー
アップされたシャツ類を人手にてセットするだけで,折り込み,包装作業を自動で
処理することを目的として製作された半自動立体包装機であり,その構造は次のと
おりである。
ロ号装置における機械本体281のベース281B上には前後方向
(図2においての左右方向)へ移動可能のユニットスライド292が設けてあり,
このユニットスライド292には押圧板283が立設してある。この押圧板283
の上部には,シャツ類206を掛けたハンガー201を離脱自在に懸吊するフック
233が設けられている。
前記ベース281Bにはハンガー201に掛けられたシャツ類206
を前記押圧板283へ押えて位置決めする位置決めアーム部287がペダル288
の操作によって前後方向に揺動するように設けられている。また,前記押圧板28
3の後側でユニットスライド292には,ハンガー201に掛けられたシャツ類2
06の裏側へ折り畳まれた袖部分215及び胴部分の側方216の裏側を崩れない
ように押えるストッパー245が前後方向へ揺動可能に設けられている。
前記機械本体281の上部後側には,包装袋として使用するためのフ
ィルムチューブ217をロール状291にしてストックしておくストック部295
が設けられている。フィルムチューブ217の横幅は,使用するハンガー201の
横幅より長いものである。そして,前記機械本体281の上部には,包装袋として
使用するためのフィルムチューブ217の口を包装袋として使用するために広げ開
口するための袋開口部213が設けられている。また,前記包装袋として使用する
ためのフィルムチューブ217の必要箇所を加熱接着してシールする左右のヒータ
ー台ユニットを備えると共にフィルムチューブ217を切断するための鋸刃状のカ
ッター刃を備えたシールカット部299が前記機械本体281の上部に設けられて
いる。
前記機械本体281には,袋開口部213によって下側を開口された
包装袋として使用するためのフィルムチューブ217を下方向へ引張るための爪部
271が上下動可能に設けられている。さらに,機械本体281には,ハンガー2
01をフック233に掛けた後,上記ハンガー201に掛けてあるシャツ類206
の肩部分を保持する左右のクリップ部261が設けられていると共に,シャツ類2
06の袖部分215と胴上部分の側方216を折り込むための左右の袖折り部材2
82が左右方向へ揺動するように設けられ,更に胴下部分の側方216を折り込む
ための左右の胴折り部材272が左右方向へ揺動するように設けられている。
(イ) ロ号装置は,(ア)での構造の説明のとおり,シャツ類206を掛け
たハンガー201を離脱自在に懸吊するフック233を有する(使用できるハンガ
ーが,ハンガー201の形状のもの(図4)に限定されるかどうかは,争いがあ
る。)。
ウ 図面(本判決末尾添付)の説明
 図1 ロ号装置の正面図
 図2 ロ号装置の右側面図
 図3 ロ号装置にハンガーを掛けた状態を示す正面図
 図4 ロ号装置に使用されるハンガーの説明図
 図5 ハンガーにシャツ類を掛けた状態を示す説明図
 図6 シャツ類を折り畳んだ状態を示す説明図
 図7 ハンガーに掛けられ折り畳まれたシャツ類に包装袋を被せた状態
を示す説明図
(6) イ号方法の構成は,以下のとおりである。
ア 方法の内容
被告日東サービス,及び同フレッシュが使用する,シャツ類を包装する
ためのハンガーを使用したシャツ類の簡易包装方法であり,前記(4)に記載した装置
によりなされるものである。
イ 方法の説明
① ハンガー301(使用できるハンガーが,ハンガー301の形状のも
の(図1)に限定されるかどうかは,争いがある。)にシャツ類306を着せ,そ
の襟元をボタン等を利用して止め,この状態のハンガー301の懸吊部303を,
離脱自在にフック333に懸吊する。
② フック333の上方に,上記ハンガー301の横幅より長い横幅を持
つ筒状で,ロール状に巻回された包装袋として使用するためのフィルムチューブ3
17の端部が配置されている。
③ フック333の上方に,上記フィルムチューブ317を開口するため
に設けた袋開口部と上記フック333との間にシールカット部を設けている。
④ 上記懸吊したシャツ類306の袖部分315と胴部分316の側方
を,左右の肩折りプレートで,裏側に折り畳む。
⑤ その折り畳み状態をストッパー345で保持する。
⑥ 上記フィルムチューブ317を上記袋開口部で開口し,その状態で包
装袋として使用するための上記フィルムチューブ317の端部を下に引き下げ,折
り畳まれたシャツ類に途中まで被せて下降を停止する。その後,シールカット部に
備え付けられている熱ヒーターにより,フック333部分が通過する部分を除い
て,上記フィルムチューブ317の必要箇所を加熱接着するとともにカッター刃で
切断し,下方に引っ張り下降することによってシャツ類306に完全に被せる。こ
の際,上記ハンガー301の懸吊部303を包装袋として使用するための上記包装
用フィルムチューブ317の未シール部から突出させる。
⑦ この懸吊部303をフック333より取り外す。
⑧ 以上の①ないし⑦の構成よりなるシャツ類の包装方法である。
   ウ 図面(本判決末尾添付)の説明
 図1 イ号方法に使用されるハンガーの説明図
 図2 フックに懸吊したハンガーにシャツ類が着せられた状態を示す説
明図
 図3 シャツ類を折り畳みストッパーで保持した状態を示す説明図
 図4 フック上方の包装袋によりシャツ類を上から被覆している状態を
示す説明図(側面より図示)
 図5 ハンガーに掛けられ折り畳まれたシャツ類に包装袋を被覆した状
態を示す説明図
(7) ロ号方法の構成は,以下のとおりである。
ア 方法の内容
被告ケイテイ商会が使用する,シャツ類を包装するためのハンガーを利
用したシャツ類の簡易包装方法であり,前記(5)に記載した装置によりなされるもの
である。
イ 方法の説明
 ① ハンガー401(使用できるハンガーが,ハンガー401の形状のも
の(図1)に限定されるかどうかは,争いがある。)にシャツ類406を着せ,そ
の襟元をボタン等を利用して止め,この状態のハンガー401の懸吊部403を,
離脱自在にフック433に懸吊する。
 ② フック433の上方に,上記ハンガー401の横幅よりもわずかに長
い横幅を持つ筒状で,ロール状に巻回された包装袋として使用するためのフィルム
チューブ417の端部が配置されている。
 ③ フック433の上方に,上記フィルムチューブ417を開口するため
に設けた袋開口部と上記フック433との間にシールカット部を設けている。
 ④ 上記懸吊したシャツ類406の袖部分415と胴部分416の側方
を,左右の折り畳み部材420で,裏側に折り畳むとともに,胴下部分の側方41
6を左右の胴折り部材419で折り込む。
 ⑤ その折り畳み状態をストッパー445で保持する。
 ⑥ 上記フィルムチューブ417を上記袋開口部で開口し,その状態で包
装袋として使用するための上記フィルムチューブ417の端部を下に引き下げ,折
り畳まれたシャツ類に途中まで被せて下降を停止する。その後,シールカット部に
備え付けられている熱ヒーターにより,フック433部分が通過する部分を除い
て,上記フィルムチューブ417の必要箇所を加熱接着するとともにカッター刃で
切断し,下方に引っ張り下降することによってシャツ類406に完全に被せる。こ
の際,上記ハンガー401の懸吊部403を包装袋として使用するための上記包装
用フィルムチューブ417の未シール部から突出させる。
 ⑦ この懸吊部403をフック433より取り外す。
 ⑧ 以上の①ないし⑦の構成よりなるシャツ類の包装方法である。
ウ 図面(本判決末尾添付)の説明
 図1 ロ号方法に使用されるハンガーの説明図
 図2 フックに懸吊したハンガーにシャツ類が着せられた状態を示す説
明図
 図3 シャツ類を折り畳みストッパーで保持した状態を示す説明図
 図4 フック上方の包装袋によりシャツ類を上から被覆している状態を
示す説明図(側面より図示)
 図5 ハンガーに掛けられ折り畳まれたシャツ類に包装袋を被覆した状
態を示す説明図
(8) イ号装置及びロ号装置の現地調査結果について
ア イ号装置について
平成10年11月30日,原告及び被告は,茨城県岩井市所在の訴外甲
クリーニングにおいて,イ号装置の現地調査を行った。その結果,使用されていた
ハンガーの幅は260mm,垂設部の長さは85mmであった。垂設部のうち,押
圧板よりも上部に突出する長さは50ないし65mmである。また,上部押圧板の
横幅は,逆台形の最も広い部位で251mmから253mm,底辺部で213mm
であり,下部押圧板の横幅は,204mmであった。
イ ロ号装置について
平成12年2月23日,原告及び被告は,被告ケイテイ商会において,
ロ号装置の現地調査を行った。その結果,使用されていたハンガーの幅は260m
m,垂設部の長さは81mmであった。垂設部のうち,押圧板よりも上部に突出す
る長さは48mmである。また,押圧板の横幅は,264mmであった。
 2 争点
  (1) 被告各装置が本件各特許発明の技術的範囲に属し,被告各装置の製造・販
売及び被告各方法の使用が本件特許発明1,2を侵害するか。なかでも,
ア 被告各装置及び被告各方法の構成(争点1)
イ 被告各装置が本件特許発明2の構成要件Aを充足するかどうか,また,
被告各方法が本件特許発明1の構成要件bを充足するかどうか(争点2)。
ウ 被告各装置が本件特許発明2の構成要件Bを充足するかどうか,また,
被告各方法が本件特許発明1の構成要件cを充足するかどうか(争点3)。
エ 被告ワイエイシイが被告各装置の生産・譲渡・譲渡の申し出をする行為
は,本件特許発明1の間接侵害となるかどうか,また,本件特許発明2の間接侵害
となるかどうか(争点4)。
(2) 原告の損害(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
 1 争点1(被告各装置及び被告各方法の構成)について
  (1) 原告の主張
ア イ号装置において,利用されているハンガーは,左右に水平に延設され
た肩部の中央に襟元保形部を介して懸吊部を形成し,肩部の左右両端にはシャツ類
の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部を垂設するととも
に,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部の長さよりも長い補強部材で互いに
一体的に連結してなるハンガーである(以下,このハンガーを「本件ハンガー」と
いう。)。図面で示すと,使用されるハンガー101は,左右に水平に延設された
肩部102の中央に襟元保形部109を介して懸吊部103を形成し,肩部の左右
両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部
104を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志をガイド部の長さよりも
長い補強部材107で互いに一体的に連結してなる構成のもの(一例として前記争
いのない事実等欄記載(4)の図3を示す)に限られ,イ号装置の使用時にハンガー1
01のガイド部104に沿ってシャツ類106の袖部分115と胴部分の側方11
6を押圧板105の上部のパッド部105Pの裏側に折り畳むものであり,ハンガ
ー101はイ号装置の使用時においてはイ号装置の構造の一部となっている。
イ ロ号装置においても同様である。使用されるハンガー201は,左右に
水平に延設された肩部202の中央に襟元保形部205を介して懸吊部203を形
成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細
長形状のガイド部204を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志をガイ
ド部の長さよりも長い補強部材207で互いに一体的に連結してなる構成のもの
(一例として前記争いのない事実等欄記載(5)の図4を示す)に限られ,ロ号装置の
使用時にハンガー201のガイド部204に沿ってシャツ類206の袖部分215
と胴部分の側方216を押圧板283の上部の裏側に折り畳むものであり,ハンガ
ー201はロ号装置の使用時においてはロ号装置の構造の一部となっている。
ウ イ号方法においても,左右に水平に延設された肩部302の中央に襟元
保形部305を介して懸吊部303を形成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方
を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部304を垂設するととも
に,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部の長さよりも長い補強部材307で
互いに一体的に連結してなるハンガー301を使用している。
  また,イ号方法においては,懸吊したシャツ類306の袖部分315と
胴部分316の側方を,左右の肩折りプレートで,上記ハンガー301の左右両端
のガイド部304に沿って裏側に折り畳む。
エ ロ号方法においても,左右に水平に延設された肩部402の中央に襟元
保形部405を介して懸吊部403を形成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方
を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部404を垂設するととも
に,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部の長さよりも長い補強部材407で
互いに一体的に連結してなるハンガー401を使用している。
  また,ロ号方法においては,懸吊したシャツ類406の袖部分415と
胴部分416の側方を,左右の折り畳み部材420で,上記ハンガー401の左右
両端のガイド部404に沿って裏側に折り畳むとともに,胴下部分の側方416を
左右の胴折り部材419で折り込む。
(2) 被告らの主張
 ア 被告各装置,したがって被告各方法に用いられるハンガーは,上記原告
の主張にいうようなハンガーに限られるものではない。被告各装置においては,使
用するハンガーは,懸吊したシャツ類の袖部分と胴部分の側方を,装置に設けられ
た押圧板に沿って裏側に折り畳むという構成上,当然その横幅は上記押圧板の横幅
より狭くなければならないが,それ以外の特段の制限がなく,シャツ類を着せてフ
ックに懸吊することができるものであれば足りる。イ号装置においては,前記争い
のない事実等欄記載(4)の図3のハンガー101のようなハンガーを,ロ号装置にお
いては,前記争いのない事実等欄記載(5)の図4のハンガー201のようなハンガー
を,それぞれ用いることもできるが,その場合でも,イ号装置におけるハンガー1
01の,原告の主張するガイド部(被告らの主張によれば,同部分はガイド部では
ない。垂設部と称するべきである。)104は,イ号装置においては,シャツ類を
折り曲げるためのガイド部としては,全く作用していない。同様に,ロ号装置にお
けるハンガー201の,原告の主張するガイド部204は,ロ号装置においては,
シャツ類を折り曲げるためのガイド部としては,全く作用していない。
イ ロ号方法について
ロ号方法において,④で,「ハンガー401の左右両端のガイド部40
4に沿って裏側に折り畳む」と原告は主張するが,「胴下部分の側方416を押圧
板に沿って左右の胴折り部材419で折り込む」が正しい。
ウ 図面について
イ号方法及び2の各図2ないし5に,押圧板の記載が欠けており,これ
を図示すべきである。
2 争点2(被告各装置が本件特許発明2の構成要件Aを充足するかどうか,ま
た,被告各方法が本件特許発明1の構成要件bを充足するかどうか)について
(1) 原告の主張
 ア イ号装置について
  (ア) イ号装置の構成を,本件特許発明1の構成要件と対比できるように
示すと,次のとおりとなる。
① シャツ類106を掛けたハンガー101を離脱自在に懸吊するフッ
ク133を有する。ここで使用されるハンガー101は,左右に水平に延設された
肩部102の中央に襟元保形部109を介して懸吊部103を形成し,肩部の左右
両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部
104を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部の長さより
も長い補強部材107で互いに一体的に連結してなる構成のものである。
② 機械本体100の上部後側には,包装袋として使用するためのフィ
ルムチューブ117をロール状127にしてストックしておくストック部131が
設けられている。フィルムチューブ117の横幅は,使用するハンガー101の横
幅よりもわずかに長いものである。
前記機械本体100には,袋開口部113によって下側を開口され
た包装袋として使用するためのフィルムチューブ117を下方向へ引張るための爪
部181が上下動可能に設けられている。
そして,前記機械本体100の上部には,包装袋として使用するた
めのフィルムチューブ117の口を包装袋として使用するために広げ開口するため
の袋開口部113が設けられている。また,前記包装袋として使用するためのフィ
ルムチューブ117の必要箇所を加熱接着してシールする左右のヒーター台ユニッ
トを備えるとともにフィルムチューブ117を切断するための鋸刃状のカッター刃
を備えたシールカット部165が前記フック133の上方部に設けられている。シ
ールカット部165による加熱接着により前記包装袋として使用するためのフィル
ムチューブ117に孔118が形成される。
このようにフック133の上方においてフィルムチューブ117
は,包装袋に形成され,爪部181の上下動により抜き取り自在になっている。
③ 押圧板105の後側でユニットスライド121には,ハンガー10
1に掛けられたシャツ類106の裏側へ折り畳まれた袖部分115及び胴部分の側
方116の裏側を崩れないように押えるストッパー145が前後方向へ揺動可能に
設けられている。
前記の折り畳みは,ハンガー101の左右両端のガイド部に沿って
行なわれる。
シャツ類106の包装が終了するとストッパー145は外に出た状
態となり,包装品は簡単に取り出すことができる。
(イ) 本件特許発明2の構成要件とイ号装置とを対比すると,次のとおり
となる。
(a) Aと①との対比
イ号装置に使用されるハンガー101は,左右に水平に延設された
肩部102の中央に襟元保形部109を介して懸吊部103を形成し,肩部の左右
両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部
104を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部の長さより
も長い補強部材107で互いに一体的に連結してなる構成である。
つまり,「左右に水平に延設された肩部の中央に襟元保形部を介して
懸吊部を形成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高
さを持つ細長形状のガイド部を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志
を,ガイド部の長さよりも長い補強部材で互いに一体的に連結してなるハンガー」
である。
イ号装置は,上記ハンガーの懸吊部を離脱自在に懸吊するフックを
設けている。したがって,構成①は構成要件Aを充足する。
(b) Bと②との対比
イ号装置のフィルムチューブ117は,フック133の上方におい
て実質上筒状の包装袋に形成されている。
上記包装袋は,シールカット部165により必要箇所が加熱接着さ
れ,ハンガーの懸吊部が突出自在となる孔118を持つものとなる。また,この包
装袋は,前記ハンガーの横幅よりもわずかに長い横幅を持つものである。したがっ
て,構成②は構成要件Bを充足する。
(c) Cと③との対比
イ号装置のストッパー145は,フック133により懸吊されたシ
ャツ類の袖部分115と胴部分の側方116を,前記ハンガー101の左右両端の
ガイド部に沿って裏側に折り畳んだ状態に保持でき,かつ,包装されたシャツ類を
簡単に取り出すことができるストッパーである。したがって,構成③は構成要件C
を充足する。
以上のとおりであるから,イ号装置は本件特許発明2のすべての構成
要件を充足する。
(ウ) ハンガーのガイド部がガイド部として作用することについて
被告らは,構成要件Aのハンガーがイ号装置において使用された場
合,ガイド部104はシャツ類の折り畳みの際,ガイド部として作用せず,また,
上部押圧板105pから突出する高さは「誘導高さ」として作用しないと主張す
る。
しかし,イ号装置においてシャツ類が折り畳まれる際,シャツ類を着
せたハンガーは傾斜し,その袖部分は垂れ下がり,シャツ類はハンガーのガイド部
に沿って曲げられ,折り畳まれる。よって,ガイド部104はイ号装置においてガ
イド部として作用しないという被告らの主張は失当である。
また,本件特許発明2において「ガイド部」とは,シャツ類を細長い
形状に折り畳む際の基準となる部分である。別紙イ号装置の説明図(たとえば説明
図15)に示すように,イ号装置において,シャツ類はハンガーのガイド部の外縁
部cに接しており,ガイド部の幅に合わせてシャツ類が折り畳まれている。よっ
て,かかる理由からも,ガイド部104はイ号装置においてガイド部として作用し
ないという被告らの主張は失当である。
また,被告らは,イ号装置において使用されるハンガーのガイド部
(垂設部)が上部押圧板105pより55mmしか突出しておらず,この長さはガ
イド部としての誘導高さとして作用しないと主張するが,上部押圧板105pより
もガイド部104が突出していれば,突出部分の高さにかかわらず,ガイド部とし
ての誘導高さとして作用することは自明のことである。
 イ ロ号装置について
(ア) ロ号装置の構成を,本件特許発明2の構成要件と対比できるように
示すと,次のとおりとなる。
① シャツ類206を掛けたハンガー201を離脱自在に懸吊するフッ
ク233を有する。ここで使用されるハンガー201は,左右に水平に延設された
肩部202の中央に襟元保形部205を介して懸吊部203を形成し,肩部の左右
両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部
204を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部の長さより
も長い補強部材207で互いに一体的に連結してなる構成のものである。
② 機械本体281の上部後側には,包装袋として使用するためのフィ
ルムチューブ217をロール状291にしてストックしておくストック部295が
設けられている。フィルムチューブ217の横幅は,使用するハンガー201の横
幅よりもわずかに長いものである。前記機械本体281には,袋開口部213によ
って下側を開口された包装袋として使用するためのフィルムチューブ217を下方
向へ引っ張るための爪部271が上下動可能に設けられている。そして,前記機械
本体281の上部には,包装袋として使用するためのフィルムチューブ217の口
を包装袋として使用するために広げ開口するための袋開口部213が設けられてい
る。また,前記包装袋として使用するためのフィルムチューブ217の必要箇所を
加熱接着してシールする左右のヒーター台ユニットを備えるとともにフィルムチュ
ーブ217を切断するための鋸刃状のカッター刃を備えたシールカット部299が
前記機械本体281の上部に設けられている。シールカット部299による加熱接
着により前記包装袋として使用するためのフィルムチューブ217に孔218が形
成される。
このようにフック233の上方においてフィルムチューブ217
は,包装袋に形成され,爪部271の上下動により抜き取り自在になっている。
③ 押圧板283の後側でユニットスライド292には,ハンガー20
1に掛けられたシャツ類206の裏側へ折り畳まれた袖部分215及び胴部分の側
方216の裏側を崩れないように押えるストッパー245が前後方向へ揺動可能に
設けられている。
前記の折り畳みは,ハンガー201の左右両端のガイド部に沿って
行なわれる。
シャツ類206の包装が終了するとストッパー245から包装品は
簡単に取り出すことができる。
(イ) 本件特許発明2の構成要件とロ号装置とを対比すると,次のとおり
となる。
(a) Aと①との対比
ロ号装置に使用されるハンガー201は,左右に水平に延設された
肩部202の中央に襟元保形部205を介して懸吊部203を形成し,肩部の左右
両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部
204を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部の長さより
も長い補強部材207で互いに一体的に連結してなる構成である。
つまり,「左右に水平に延設された肩部の中央に襟元保形部を介し
て懸吊部を形成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導
高さを持つ細長形状のガイド部を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志
を,ガイド部の長さよりも長い補強部材で互いに一体的に連結してなるハンガー」
である。
ロ号装置は,上記ハンガーの懸吊部を離脱自在に懸吊するフックを
設けている。したがって,構成①は構成要件Aを充足する。
(b) Bと②との対比
ロ号装置のフィルムチューブ217は,フック233の上方におい
て実質上筒状の包装袋に形成されている。この包装袋は,シールカット部299に
より必要箇所が熱接着されハンガーの懸吊部が突出自在となる孔218を持つもの
となる。また,この包装袋は,前記ハンガーの横幅よりもわずかに長い横幅を持つ
ものである。したがって,構成②は構成要件Bを充足する。
(c) Cと③との対比
ロ号装置のストッパー245は,フックにより懸吊されたシャツ類
の袖部分215と胴部分の側方216を,前記ハンガー201の左右両端のガイド
部に沿って裏側に折り畳んだ状態に保持でき,かつ,包装されたシャツ類を簡単に
取り出すことができるストッパーである。したがって,構成③は構成要件Cを充足
する。
以上のとおりであるから,ロ号装置は本件特許発明2の構成要件をす
べて充足する。
(ウ)ハンガーのガイド部がガイド部として作用することについて
被告らは,構成要件Aのハンガーがロ号装置において使用された場
合,ガイド部204はシャツ類の折り畳みの際,ガイド部として作用せず,また,
押圧板283から突出する高さは「誘導高さ」として作用しないと主張する。
しかし,被告らの主張は,以下の理由により失当である。
本件特許発明2において「ガイド部」とは,シャツ類を細長い形状に
折り畳む際の基準となる部分である。別紙説明図(例えば説明図25)に示すよう
に,ロ号装置において,シャツ類はハンガーのガイド部の外縁部cに接しており,
ガイド部の幅に合わせてシャツ類が折り畳まれている。よって,かかる理由から
も,ガイド部204はロ号装置においてガイド部として作用しないという被告らの
主張は失当である。
また,被告らは,ロ号装置において使用されるハンガーのガイド部
(垂設部)が押圧板から突出する長さがガイド部として充分な誘導高さを有しない
と主張するが,押圧板283よりもガイド部204が突出していれば,突出部分の
高さにかからわず,ガイド部としての誘導高さとして作用することは自明のことで
ある。
ウ 本件特許発明2についての予備的解釈(本判決末尾添付の別表の「法的
構成」欄における②記載の直接侵害の主張を前提とした場合の対比)
本件特許発明2は,請求項2記載のハンガーを離脱自在に懸吊するフッ
クが存在することを要件とし,右ハンガーがフックに実際に懸吊されていない装置
であっても,本件特許発明2の技術的範囲に属する。したがって,被告各装置を製
造販売する行為及びこれらの装置を使用する行為は,すべて直接侵害を構成する。
仮に,上記ハンガーを離脱自在に懸吊したフックが存在することが本件
特許発明2の構成要件であると解されたとしても,少なくとも被告日東サービス,
被告フレッシュ,被告ケイテイ商会は,上記ハンガーを懸吊したイ号装置を使用し
ているため,上記被告らの行為は,本件特許発明2の直接侵害を構成する。
(ア)本件特許発明2の構成要件を,この解釈に従って分説すれば,次の
とおりである。
A’左右に水平に延設された肩部の中央に襟元保形部を介して懸吊部を
形成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ
細長形状のガイド部を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志を,ガイド
部の長さよりも長い補強部材で互いに一体的に連結してなるハンガーがある。
B’このハンガーの懸吊部を,離脱自在に懸吊するフックがある。
C’かかるフックの上方に,ハンガーの懸吊部が突出自在となる孔をも
ち,かつ,前記ハンガーの横幅よりもわずかに長い横幅を持つ筒状の包装袋を抜き
取り自在に配置している。
D’フックにより懸吊されたシャツ類の袖部分と胴部分の側方を,前記
ハンガーの左右両端のガイド部に沿って裏側に折り畳んだ状態に保持でき,かつ,
包装されたシャツ類を簡単に取り出すことができるストッパーを設けている。
以上,A',B',C'及びD'の構成よりなるシャツ類の簡易包装装置であ
る。
(イ) イ号装置の構成を,上記解釈に従った本件特許発明2の構成要件と
対比できるように示すと,次のとおりとなる。
① 左右に水平に延設された肩部102の中央に襟元保形部109を介
して懸吊部103を形成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足
りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部104を垂設するとともに,この細長形状
のガイド部同志を,ガイド部の長さよりも長い補強部材107で互いに一体的に連
結してなるハンガー101がある。
② このハンガー101を離脱自在に懸吊するフック133がある。
③ 機械本体100の上部後側には,包装袋として使用するためのフィ
ルムチューブ117をロール状127にしてストックしておくストック部131が
設けられている。フィルムチューブ117の横幅は,使用するハンガー101の横
幅よりもわずかに長いものである。
前記機械本体100には,袋開口部113によって下側を開口され
た包装袋として使用するためのフィルムチューブ117を下方向へ引張るための爪
部181が上下動可能に設けられている。
そして,前記機械本体100の上部には,包装袋として使用するた
めのフィルムチューブ117の口を包装袋として使用するために広げ開口するため
の袋開口部113が設けられている。また,前記包装袋として使用するためのフィ
ルムチューブ117の必要箇所を加熱接着してシールする左右のヒーター台ユニッ
トを備えると共にフィルムチューブ117を切断するための鋸刃状のカッター刃を
備えたシールカット部165が前記フック133の上方部に設けられている。シー
ルカット部165による加熱接着により前記包装袋として使用するためのフィルム
チューブ117に孔118が形成される。
このようにフック133の上方においてフィルムチューブ117
は,包装袋に形成され,爪部181の上下動により抜き取り自在になっている。
④ 押圧板105の後側でユニットスライド121には,ハンガー10
1に掛けられたシャツ類106の裏側へ折り畳まれた袖部分115及び胴部分の側
方116の裏側を崩れないように押えるストッパー145が前後方向へ揺動可能に
設けられている。
前記の折り畳みは,ハンガー101の左右両端のガイド部に沿って
行なわれる。
シャツ類106の包装が終了するとストッパー145は外に出た状
態となり,包装品は簡単に取り出すことができる。
(ウ) 本件特許発明2の構成要件とイ号装置とを対比すると,次のとおり
となる。
(a) A'と①との対比
構成①は構成要件A'を充足する。
(b) B'と②との対比
構成②は構成要件B'を充足する。
(c) C'と③との対比
イ号装置のフィルムチューブ117は,フック133の上方におい
て実質上筒状の包装袋に形成されている。
上記包装袋は,シールカット部165により必要箇所が加熱接着さ
れ,ハンガーの懸吊部が突出自在となる孔118を持つものとなる。また,上記包
装袋は,前記ハンガーの横幅よりもわずかに長い横幅を持つものである。したがっ
て,構成③は構成要件C'を充足する。
(d) D'と④との対比
イ号装置のストッパー145は,フック133により懸吊されたシ
ャツ類の袖部分115と胴部分の側方116を,前記ハンガー101の左右両端の
ガイド部に沿って裏側に折り畳んだ状態に保持でき,かつ,包装されたシャツ類を
簡単に取り出すことができるストッパーである。したがって,構成④は構成要件D'
を充足する。
以上のとおりであるから,イ号装置は本件特許発明2の構成要件をす
べて充足する。
(エ) ロ号装置の構成を,上記(ア)の解釈に従った本件特許発明2の構成
要件と対比できるように示すと,次のとおりとなる。
① 左右に水平に延設された肩部202の中央に襟元保形部205を介
して懸吊部203を形成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足
りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部204を垂設するとともに,この細長形状
のガイド部同志を,ガイド部の長さよりも長い補強部材207で互いに一体的に連
結してなるハンガー201がある。
② このハンガー201を離脱自在に懸吊するフック233がある。
③ 機械本体281の上部後側には,包装袋として使用するためのフィ
ルムチューブ217をロール状291にしてストックしておくストック部295が
設けられている。フィルムチューブ217の横幅は,使用するハンガー201の横
幅よりもわずかに長いものである。前記機械本体281には,袋開口部213によ
って下側を開口された包装袋として使用するためのフィルムチューブ217を下方
向へ引っ張るための爪部271が上下動可能に設けられている。そして,前記機械
本体281の上部には,包装袋として使用するためのフィルムチューブ217の口
を包装袋として使用するために広げ開口するための袋開口部213が設けられてい
る。また,前記包装袋として使用するためのフィルムチューブ217の必要箇所を
加熱接着してシールする左右のヒーター台ユニットを備えるとともにフィルムチュ
ーブ217を切断するための鋸刃状のカッター刃を備えたシールカット部299が
前記機械本体281の上部に設けられている。シールカット部299による加熱接
着により前記包装袋として使用するためのフィルムチューブ217に孔218が形
成される。
このようにフック233の上方においてフィルムチューブ217
は,包装袋に形成され,爪部271の上下動により抜き取り自在になっている。
④ 押圧板283の後側でユニットスライド292には,ハンガー20
1に掛けられたシャツ類206の裏側へ折り畳まれた袖部分215及び胴部分の側
方216の裏側を崩れないように押えるストッパー245が前後方向へ揺動可能に
設けられている。
前記の折り畳みは,ハンガー201の左右両端のガイド部に沿って
行なわれる。
シャツ類206の包装が終了するとストッパー245から包装品は
簡単に取り出すことができる。
(オ) 本件特許発明2の構成要件とロ号装置とを対比すると,次のとおり
となる。
(a) A'と①との対比
構成①は構成要件A'を充足する。
(b) B'と②との対比
構成②は構成要件B'を充足する。
(c) C'と③との対比
ロ号装置のフィルムチューブ217は,フック233の上方におい
て実質上筒状の包装袋に形成されている。この包装袋は,シールカット部299に
より必要箇所が加熱接着され,ハンガーの懸吊部が突出自在となる孔218を持つ
ものとなる。また,この包装袋は,前記ハンガーの横幅よりもわずかに長い横幅を
持つものである。したがって,構成③は構成要件C'を充足する。
(d) D'と④との対比
ロ号装置のストッパー245は,フックにより懸吊されたシャツ類
の袖部分215と胴部分の側方216を,前記ハンガー201の左右両端のガイド
部に沿って裏側に折り畳んだ状態に保持でき,かつ,包装されたシャツ類を簡単に
取り出すことができるストッパーである。したがって,構成④は構成要件D'を充足
する。
以上のとおりであるから,ロ号装置は,本件特許発明2の構成要件を
すべて充足する。
エ イ号方法について
 (ア) イ号方法の構成を本件特許発明1の構成要件と対比できるように示
すと,次のとおりとなる。
① 左右に水平に延設された肩部302の中央に襟元保形部305を介
して懸吊部303を形成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足
りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部304を垂設するとともに,この細長形状
のガイド部同志を,ガイド部の長さよりも長い補強部材307で互いに一体的に連
結してなるハンガー301にシャツ類306を着せ,その襟元をボタン等を利用し
て止め,右ハンガーの懸吊部303を,離脱自在にフック333に懸吊する。
② この懸吊したシャツ類306の袖部分315と胴部分316の側方
を,左右の折り畳み部材で,右ハンガー301の左右両端のガイド部304に沿っ
て裏側に折り畳み,その折り畳み状態をストッパー345で保持する。
③ フック333の上方に,上記ハンガー301の横幅よりもわずかに
長い横幅を持つ筒状で,ロール状に巻回された包装袋として使用するためのフィル
ムチューブ317の端部が配置されている。フック333の上方に,上記フィルム
チューブ317を開口するために設けた袋開口部と上記フック333との間にシー
ルカット部を設けている。上記フィルムチューブ317を上記袋開口部で開口し,
その状態で包装袋として使用するための上記フィルムチューブ317の端部を下に
引き下げ,折り畳まれたシャツ類に被せて下降を停止する。その後,シールカット
部に備え付けられている熱ヒーターにより,フック333部分が通過する部分を除
いて,上記フィルムチューブ317必要箇所を加熱接着するとともにカッターで切
断し,下方に引っ張り未シール部を切断することによってシャツ類306に完全に
被せる。この際,上記ハンガー301の懸吊部303を包装袋として使用するため
の上記包装用フィルムチューブの未シール部から突出させる。
④ この懸吊部303をフック333より取り外す。
 以上の①ないし④の構成によりなるシャツ類の包装方法である。
(イ) 本件特許発明1の構成要件とイ号方法とを対比すると,次のとおり
となる。
(a) aと①との対比
イ号方法に使用するハンガー301は,左右に水平に延設された肩
部302の中央に襟元保形部305を介して懸吊部303を形成し,肩部の左右両
端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部3
04を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部の長さよりも
長い補強部材307で互いに一体的に連結してなる構成である。イ号方法は,上記
ハンガー301にシャツ類306を着せ,その襟元をボタン等を利用して止め,上
記ハンガーの懸吊部303を,離脱自在にフック333に懸吊するものである。請
求項1には,上記「ハンガーの懸吊部を離脱自在にフックに懸吊するとともに,こ
のハンガーにシャツ類を着せ,その襟元をボタン等を利用して止め」と記載されて
おり,「ともに」とは,「同時に」の意味である。イ号方法において,フックにハ
ンガーを懸吊することと,ハンガーにシャツ類を着せることはほぼ同時に行われて
いるため,構成①は構成要件aを充足する。
(b) bと②との対比
イ号方法は,この懸吊したシャツ類306の袖部分315と胴部分
316の側方を,左右の折り畳み部材で,右ハンガー301の左右両端のガイド部
304に沿って裏側に折り畳むものである。そして,その折り畳み状態をストッパ
ー345で保持するものである。したがって構成②は構成要件bを充足する。
(c) cと③との対比
イ号方法のフィルムチューブ317は,フックの上方において実質
上筒状の包装袋に形成されている。イ号方法は,この包装袋を下方に引き下げ,シ
ャツ類を被覆し,この包装袋をシールカット部により加熱接着後,加熱接着により
形成された孔からハンガーの懸吊部を突出させるものである。すなわち,包装袋を
抜き取ってシャツ類全体を被覆し上記ハンガーの懸吊部を上記包装袋の孔から突出
させている。また,上記包装袋は,前記ハンガーの横幅よりもわずかに長い横幅を
持つものである。したがって,構成③は構成要件cを充足する。
以上のとおりであるから,イ号方法は本件特許発明1の構成要件をす
べて充足する。
オ ロ号方法について
 (ア) ロ号方法の構成を本件特許発明1の構成要件と対比できるように示
すと次のとおりとなる。
① 左右に水平に延設された肩部402の中央に襟元保形部405を介
して懸吊部403を形成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足
りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部404を垂設するとともに,この細長形状
のガイド部同志を,ガイド部の長さよりも長い補強部材407で互いに一体的に連
結してなるハンガー401にシャツ類406を着せ,その襟元をボタン等を利用し
て止め,上記ハンガーの懸吊部403を,離脱自在にフック433に懸吊する。
② この懸吊したシャツ類406の袖部分415と胴部分416の側方
を,左右の折り畳み部材420で,上記ハンガー401の左右両端のガイド部40
4に沿って裏側に折り畳むとともに,胴下部の側方416を左右の胴折り部材41
9で折り込み,その折り畳み状態をストッパー445で保持する。
③ フック433の上方に,上記ハンガー401の横幅よりもわずかに
長い横幅を持つ筒状で,ロール状に巻回された包装袋として使用するためのフィル
ムチューブ417の端部が配置されている。フック433の上方に,上記フィルム
チューブ417を開口するために設けた袋開口部と上記フック433との間にシー
ルカット部を設けている。上記フィルムチューブ417を上記袋開口部で開口し,
その状態で包装袋として使用するための上記フィルムチューブ417の端部を下に
引き下げ,折り畳まれたシャツ類に被せて下降を停止する。その後,シールカット
部に備え付けられている熱ヒーターにより,フック433部分が通過する部分を除
いて,上記フィルムチューブ417の必要箇所を加熱接着するとともにカッター刃
で切断し,下方に引っ張り下降することによってシャツ類406に完全に被せる。
この際,上記ハンガー401の懸吊部403を包装袋として使用するための上記包
装用フィルムチューブ417の未シール部から突出させる。
④ この懸吊部403をフック433より取り外す。
以上の①ないし④の構成よりなるシャツ類の包装方法である。
(イ) 本件特許発明1の構成要件とロ号方法とを対比すると,次のとおり
となる。
(a) aと①との対比
ロ号方法に使用するハンガー401は,左右に水平に延設された肩
部402の中央に襟元保形部405を介して懸吊部403を形成し,肩部の左右両
端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細長形状のガイド部4
04を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部の長さよりも
長い補強部材407で互いに一体的に連結してなる構成である。ロ号方法は,上記
ハンガー401にシャツ類406を着せ,その襟元をボタン等を利用して止め,上
記ハンガーの懸吊部403を,離脱自在にフック433に懸吊するものである。請
求項1には,上記「ハンガーの懸吊部を離脱自在にフックに懸吊するとともに,こ
のハンガーにシャツ類を着せ,その襟元をボタン等を利用して止め」と記載されて
おり,「ともに」とは,「同時に」の意味である。ロ号方法において,フックにハ
ンガーを懸吊することと,ハンガーにシャツ類を着せることはほぼ同時に行われて
いるため,構成①は構成要件aを充足する。
(b) bと②との対比
ロ号方法は,この懸吊したシャツ類406の袖部分415と胴部分
416の側方を,左右の折り畳み部材で,上記ハンガー401の左右両端のガイド
部404に沿って裏側に折り畳むものである。そして,その折り畳み状態をストッ
パー445で保持するものである。したがって,構成②は構成要件bを充足する。
(c) cと③との対比
ロ号方法のフィルムチューブ417は,フックの上方において実質
上筒状の包装袋に形成されている。ロ号方法は,上記包装袋を下方に引き下げ,シ
ャツ類を被覆し,上記包装袋をシールカット部により加熱接着後,加熱接着により
形成された孔からハンガーの懸吊部を突出させるものである。すなわち,包装袋を
抜き取ってシャツ類全体を被覆し上記ハンガーの懸吊部を上記包装袋の孔から突出
させている。また,上記包装袋は,上記ハンガーの横幅よりもわずかに長い横幅を
持つものである。したがって,構成③は構成要件cを充足する。
以上のとおりであるから,ロ号方法は本件特許発明1の構成要件をすべ
て充足する。
(2) 被告らの主張
ア イ号装置について
 イ号装置においては,ハンガー101の垂設部104は,シャツ類10
6を折り曲げるためのガイド部としては全く作用していない。
別紙説明図12及び説明図13より明らかなように,まず肩折りプレー
ト182L,182Rが下部押圧板105Uに作用する。これにより,シャツ類1
06はまず下部押圧板105Uの側面Aに沿って折り曲げられる。続いて,肩折り
プレート182L,182Rがさらに移動すると,別紙説明図13及び説明図14
より明らかなように,シャツ類106の上方部は上端側面aとbを結ぶ線Bに沿っ
て折り曲げられる。
このように,構成要件Aの形状をしたハンガーを使用したとしても,シ
ャツ類106は垂設部104に沿って折り曲げられるものではない。すなわち,シ
ャツ類106は,まず下部押圧板105Uの側面Aに沿って折り曲げられる。続い
てその上方の上端側面aとbを結ぶ線Bに沿って折り曲げられ,これによってシャ
ツ類106のほとんどの部分が折り曲げられる。最後にシャツ類106の残りの上
部のわずかな部分が上端側面bと外縁部cを結ぶ線Cに沿って折り曲げられる。
したがって,たとえ構成要件Aの形状をしたハンガーを使用したとして
も,垂設部104はシャツ類106を折り曲げるためのガイド部として全く作用し
ないので,イ号装置は構成要件Aを充足しない。
なお,現在,イ号装置の上部押圧板105pの横幅はハンガー106の
横幅より大きくなっており,上部押圧板105pの横幅がハンガー106の横幅よ
り小さいものは製造販売していない。
イ ロ号装置について
ロ号装置においては,ハンガー201の垂設部204は,シャツ類20
6を折り曲げるためのガイド部としては全く作用していない。
別紙説明図22及び説明図23より明らかなように,まず胴上部折り部
材282が押圧板283に作用する。これにより,シャツ類206はまず押圧板2
83の上部側面Aに沿って折り曲げられる。続いて,別紙説明図23及び説明図2
4より明らかなように,胴上部折り部材282によってシャツ類206の上方部は
押圧板283の上端側面bとハンガー201の上縁部cを結ぶ線Cに沿って折り曲
げられる。
また胴下部折り部材272によってシャツ類206のほぼ下半分が押圧
板283の下部側面Bに沿って折り曲げられる。
このように,構成要件Aの形状をしたハンガーを使用したとしても,シ
ャツ類206は垂設部204に沿って折り曲げられるものではない。すなわち,シ
ャツ類206は,まず押圧板283の側面Aに沿って折り曲げられる。続いてその
上方の上端側面bと上縁部cを結ぶ線Cに沿って,また押圧板283の側面Bに沿
って折り曲げられ,これによってシャツ類206が折り曲げられる。
したがって,たとえ構成要件Aの形状をしたハンガーを使用したとして
も,垂設部204はシャツ類206を折り曲げるためのガイド部として全く作用し
ないので,ロ号装置は構成要件Aを充足しない。
ウ 原告の主張する予備的解釈について
原告の主張する予備的解釈は,本件特許発明2の構成要件A'に記載した
ハンガーが装着のフックに実際に懸吊されているか否かにかかわらず,構成要件A'
のハンガーを懸吊するためのフックが存在すれば,本件特許発明2の技術的範囲に
含まれることを前提とする。しかし,これは構成要件
D'の「フックにより懸吊されたシャツ類の袖部分と胴部分の側方を,前記
ハンガーの左右両端のガイド部に沿って裏側に折り畳んだ」という要件を無視して
いるもので,容認できない。本件特許発明2は,構成要件A'に記載したハンガーを
使用すること,構成要件D'に記載されているように,フックにより懸吊されたシャ
ツ類の袖部分と胴部分の側方を,前記ハンガーの左右両端のガイド部に沿って裏側
に折り畳むものである。
被告各装置は,構成要件A'記載のハンガー以外のハンガーも使用するこ
とができるし,構成要件D'に記載されているように,フックにより懸吊されたシャ
ツ類の袖部分と胴部分の側方を,前記ハンガーの左右両端のガイド部に沿って裏側
に折り畳んでもいないから,本件特許発明2の技術的範囲に属さない。
3 争点3(被告各装置及び各方法が本件特許発明2の構成要件Bを充足するか
どうか,また,被告各方法が本件特許発明1の構成要件cを充足するかどうか)に
ついて
(1) 被告らの主張
ア 被告各装置について
本件特許発明2の構成要件Bは,「フックの上方に,ハンガーの懸吊部
が突出自在となる孔をもち,かつ,‥‥包装袋を抜き取り自在に配置し,」となっ
ている。すなわち,包装袋は,①フックの上方に配置されていること,②ハンガー
の懸吊部が突出自在となる孔を持つこと,③抜き取り自在に配置されていること,
となっている。
この要件は,孔が穿設され,抜き取り自在にフックの上方に複数枚束ね
て配置した包装袋を順次抜き取り,これによってシャツ類に包装袋を被せるもので
ある。
被告各装置は,いずれも,シャツ類にロール状に巻回されたチューブフ
ィルムを被せた後,ハンガーの懸吊部を除いてシール及びカットするものであり,
孔の穿設された包装袋を抜き取ってシャツ類に包装袋を被せるものではない。
したがって,被告各装置は,構成要件Bを充足しない。
イ 被告各方法について
本件特許発明1の構成要件cは,本件特許発明2の構成要件Bほど明白
な記載でないので,これよりも広く解釈できなくもない。しかし,本件特許発明1
の構成要件cは,「フックの上方に配置した,」と「包装袋を抜き取り,」の文言
より,本件特許発明2の構成要件Bと同様に,フックの上方に,ハンガーの懸吊部
が突出自在となる孔を持つ包装袋を複数枚束ねて,抜き取り自在に配置されている
と解するのが妥当である。
すなわち,孔が穿設され,抜き取り自在にフックの上方に配置した包装
袋を抜き取り,これによってシャツ類に包装袋を被せる。
被告各方法は,シャツ類にロール状に巻回されたチューブフィルムを被
せた後,ハンガーの懸吊部を除いて,シール及びカットするものであり,孔の穿設
された包装袋を抜き取ってシャツ類に包装袋を被せるものではない。
したがって,被告各方法は,構成要件cを充足しない。
(2) 原告の主張
被告らの主張は,包装袋にあらかじめ孔が穿設されていることが本件特許
発明2の構成要件であると主張するに等しい。しかし,請求項2に「あらかじめ」
などの,特許請求の範囲を限定する文言は何ら含まれていない。したがって,ハン
ガーの懸吊部が突出自在となる孔は,実施例のようにあらかじめ設けられているも
のも,イ号装置のように加熱接着により孔を形成するものも,本件特許発明2の技
術的範囲に含まれる。よって,被告らの主張が到底採用できないものであることは
明らかである。
4 争点4(被告ワイエイシイが被告各装置の生産・譲渡・譲渡の申し出をする
行為は,本件特許発明1の間接侵害となるかどうか,また,本件特許発明2の間接
侵害となるかどうかについて 
(1) 原告の主張
 ア 被告ワイエイシイの特許法101条2号違反について
(ア) 被告各装置は,本件ハンガーを使用するものであること
(a) 被告各装置の構造
被告各装置は本件ハンガーを使用するため,特定の構造を有してい
る。
① シャツ類を押圧する為の押圧板は,シャツ類が本件ハンガーのガ
イド部に沿って裏側に折り畳まれるのを妨害しない位置及び構造になっている。
② 包装袋は本件ハンガーの横幅よりわずかに長い横幅を持つ筒状の
フィルムチューブを採用しているが,このフィルムチューブを設置するのに適切な
ストック部を有している。
③ フィルムチューブにミシン目状の切断線を入れる為の鋸刃状のカ
ッター刃を備えたシールカット部を有しているが,このシールカット部は上記フィ
ルムチューブをカットするのに適切な大きさを備えている。
④ フィルムチューブを下方向へ引っ張る為の爪部を有しているが,
この爪部は上記フィルムチューブを引っ張るのに適切な構造を有している。
(b) 被告各装置の取扱説明書
① 甲12は,ロ号装置の取扱説明書であり,4頁の装置仕様の(7)欄
において,ロ号装置で使用するハンガーについて次のとおり記載されている。
「本装置で使用するワイシャツハンガーは,一般的に下記形状・
寸法のものを使用して下さい。下記形状・寸法以外のハンガーをご使用になる場合
は,事前に弊社へお問い合わせ下さい。」
ここで示されている図-2は,前記争いのない事実等欄記載(5)の
図4と同じであり,ハンガーの幅が260mmであることが示されている。すなわ
ち,被告ワイエイシイは本件ハンガーを使用することを取扱説明書で指定している
のである。また,図-6(上記取扱説明書12頁)には,包装袋として使用される
フィルム原反が図示されていて,その幅が330mmであることが示されている。
ここでフィルム原反の幅330mmとハンガーの幅260mmの関係を考えると,
フィルム原反は包装袋としてハンガーをおおうものであるから両者の両側端部の間
隔は広くもなく,狭くもない間隔を必要とするが,ハンガーの幅を260mmとし
てそれを基準としてみると,フィルム原反の幅330mmはそれに適切に対応する
幅であることが分かる。つまり,ロ号装置で使用するフィルム原反の幅は,本件ハ
ンガーの幅を基準として定められたものである。
さらに,ロ号装置のパンフレットでは,「使用するハンガーによ
っては適合しない場合がありますので,あらかじめご相談下さい」と注意書をし,
写真や寸法図では本件ハンガーを掲載している(甲10)。
③ イ号装置の取扱説明書には,ハンガーの形状にふれた記載はない
が,そのパンフレットでは「包装材料及びハンガーについて下記の件,充分ご注意
下さい。‥‥5,使用するハンガーによっては適合しない場合がありますので,あ
らかじめご相談下さい。」との前記同様の注意書をし,写真において本件ハンガー
を掲載している(甲9)。
(c) 展示会における展示
平成9年11月1日,大阪において行われた展示販売会や,平成1
0年11月27日,東京において行われた展示販売会では,いずれも本件ハンガー
が使用されて展示されている(甲13,14)。
原告は被告各装置を使用しているクリーニング工場を調査している
が,現在まで本件ハンガーを使用していない工場を見たことがない。
(イ) 被告各装置の間接侵害性
(a) ところで,特許法101条2号所定の間接侵害の存否に関し,当該
方法の発明の実施に使用する物について,「他の用途」があるかどうかを決するた
めには,次のような点が考慮されるべきである。すなわち,まず一般に,物にはそ
れぞれが製造された目的,その物の有する機能等に由来してその物に備わった特性
にふさわしい本来の用途があると考えられる。方法の特許の構成要件に組み込まれ
た物も,まさに上記の意味において当該方法の発明の実施に適合するものとして考
えられた技術的所産であるはずである。
したがって,特許法101条2号にその物の「使用」というのも,
当該発明の一環としてその実施に最もふさわしい本来の用法を指していると解され
る。
 してみると,前記法条の解釈に関連して当該物の「他の用途」(他
の使用法)の存否を検討するに際しても,これと同じように,その存在を肯定する
ためには,単にその物が「他の用途」に使えば使えるといった程度の実験的または
一時的な使用の可能性があるだけでは足りないことはもちろん(身近な例として洗
濯ばさみを文具用の紙ばさみに用いるような場合),「他の用途」が商業的,経済
的にも実用性ある用途として社会通念上通用し承認されうるものであり,かつ原則
としてその用途が現に通用し承認されたものとして実用化されている必要があると
解すべきである。
(b) そこで,被告各装置を見ると,被告各装置は,本件特許発明1の実
施にのみ使用する物である。
確かに,被告各装置は,本件ハンガー以外のハンガーを使いうる実
験的又は一時的な使用の可能性は存在する。しかしながら,
① 被告各装置が他のハンガーを使用した場合は,商業的・経済的に
も実用性のある用途として社会通念上承認されない。本件ハンガーのように肩部が
水平であり,肩部の左右両端にシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持
つ細長形状のガイド部を垂設し,ガイド部の長さよりも長い補強部材で互いに一体
的に連結したハンガーでないと,ワイシャツ類を折り畳み,かつ折り畳んだシャツ
を折り畳んだ状態に維持することが困難なのである。
② また,現実に他のハンガーを使用しているケースは発見されてお
らず,少なくとも他の用途が現に通用したり,承認されたものとして実用化などさ
れていないのである。
(c) したがって,被告ワイエイシイが生産・譲渡・譲渡の申し出をして
いる被告各装置は,本件ハンガーを使用して本件特許発明1の実施にのみ使用する
物であるので,同被告の行為は特許法101条2号に該当し,同被告が本件特許権
を侵害することは明らかである。
イ 被告ワイエイシイの特許法101条1号違反について
(ア) 被告各装置の間接侵害性
ところで,前述の間接侵害とみなす場合の基準は,特許法101条1
号の場合にも適用されるべきである。
そこで,被告各装置を見ると,被告各装置は,本件特許発明2の装置
の生産にのみ使用する物である。
確かに,被告各装置は,本件ハンガー以外のハンガーを使用して,全
体として別個の簡易ワイシャツの折り畳み装置を構成する実験的又は一時的な使用
の可能性は存在する。しかしながら,
(a) 被告各装置が他のハンガーを使用した場合は,商業的・経済的にも
実用性のある用途として社会通念上承認されない。本件ハンガーのように肩部が水
平であり,肩部の左右両端にシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ
細長形状のガイド部を垂設し,ガイド部の長さよりも長い補強部材で互いに一体的
に連結したハンガーでないとワイシャツ類を折り畳み,かつ折り畳んだシャツを折
り畳んだ状態に維持することが困難である。
(b) また,現実に他のハンガーを使用しているケースは発見されておら
ず,少なくとも他の用途が現に通用したり,承認されたものとして実用化などされ
ていない。
(イ) したがって,被告ワイエイシイが生産・譲渡・譲渡の申し出をして
いる被告各装置は,本件ハンガーを使用して本件特許発明2の装置の生産にのみ使
用する装置であるので,同被告の行為は特許法101条1号に該当し,同被告が本
件特許権を侵害することは明らかである。
(2) 被告らの主張
被告各装置は,本件ハンガーを使用しなければならないものではない。第
三者たる他のハンガーメーカーから,被告各装置に使用するハンガーとして,本件
ハンガーとはおよそ異なった製品が販売されており,被告製品においては,これら
を使用することができる。一例として,訴外東ポリ株式会社の製品「ハーフ立体用
M型Yシャツ立体ハンガー」(乙10の2)及び訴外マルソー産業株式会社の製品
「YシャツハンガーM1」及び同「M2」(乙11の2)がある。したがって,被
告各装置は,本件特許発明1の実施にのみ使用する物ではないので,特許法101
条2号に該当しない。
また,同法101条1号該当の主張については,被告ワイエイシイは,被
告各装置を製造するメーカーであるので,本件特許発明2については直接侵害の,
本件特許発明1については間接侵害の問題が生じるのみであり,本件特許発明2に
ついて間接侵害の問題が生じることはあり得ない。したがって,本件特許発明2に
ついて直接侵害が生じていなければ,間接侵害は生じない。
5 争点5(原告の損害)について
  (1) 原告の主張
ア 被告ワイエイシイによる損害
被告ワイエイシイは,本件特許権が登録された平成8年4月30日か
ら,上記特許権が消滅した平成11年4月30日までの3年間にわたり,被告各装
置を販売した。
(ア) イ号装置のこの間の販売価格及び販売数及び実施料率は,以下のと
おりである。
① 販売価格  260万円
② 販売数   180台
③ 実施料率    5%
(イ) ロ号装置のこの間の販売価格及び販売数及び実施料率は以下のとお
りである。
① 販売価格  118万円
② 販売数    50台
③ 実施料率    5%
(ウ) 原告の被告ワイエイシイの被告各装置の販売による損害は,特許法
102条3項により,少なくとも440万円及び295万円の合計である735万
円となる。
イ 被告日東サービス及び同フレッシュによる損害
 被告日東サービス及び同フレッシュは,平成8年4月30日から平成1
1年4月30日までの3年間にわたり,イ号装置及びイ号方法によりシャツ類の簡
易包装を行った。
(ア) イ号装置及びイ号方法のこの間の使用による上記各被告らの利益
は,以下のとおりである。
① 販売価格             260万円
② 償却期間               7年
③ 各年の被告製品の利用価格      37万1000円
④ 本件装置における本件特許権の寄与度  3割
⑤ 3年間の上記各被告らの利益     33万4000円
(イ) よって,上記各被告らのこの間のイ号装置の利用による利益は各3
3万4000円と推定され,特許法102条2項により原告の損害は各33万40
00円と推定される。
ウ 被告ケイテイ商会による損害
被告ケイテイ商会は,平成8年4月30日から平成11年4月30日ま
での3年間にわたり,ロ号装置及びロ号方法によりシャツ類の簡易包装を行った。
(ア) ロ号装置及びロ号方法のこの間の使用による同被告の利益は以下の
とおりである。
① 販売価格             118万円
② 償却期間               7年
③ 各年の本件装置の利用価格      16万8000円
④ 本件装置における本件特許権の寄与度   3割
⑤ 3年間の同被告の利益        15万1200円
(イ) よって,被告ケイテイ商会のこの間のロ号装置の利用による利益は
15万1200円と推定され,特許法102条2項により原告の損害は15万12
00円と推定される。
(2) 被告らの主張
上記主張はいずれも否認又は争う。
第4 当裁判所の判断
 1 争点1(被告各装置及び被告各方法の構成)について
  (1) 被告各装置及び被告各方法において使用するハンガーについて
ア 本件特許発明1,2については,本件明細書において発明の名称とし
て,「シャツ類を包装するためのハンガーを利用したシャツ類の包装方法と簡易包
装装置」と記載されており,特許請求の範囲の請求項1,2の記載内容に照らして
も,いずれもハンガーを利用する発明であることが明らかである。そして,この利
用するハンガーについては,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2
に,全く同様な次の記載がある。
「左右に水平に延設された肩部の中央に襟元保形部を介して懸吊部を形
成し,肩部の左右両端にはシャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持つ細
長形状のガイド部を垂設するとともに,この細長形状のガイド部同志を,ガイド部
の長さよりも長い補強部材で互いに一体的に連結してなるハンガー」。
 上記記載によれば,その文言上,本件特許発明1,2は,いずれも,こ
のような特定のハンガーを使用することを要件とする発明というべきである。
他方,被告各装置も,前記争いのない事実等の欄記載のとおり,ハンガ
ーを利用した,シャツ類の簡易包装装置であることが明らかである。そこで,まず
最初に,本項において被告各装置に用いられるハンガーがどのような形状のものか
を確定し,しかる後に,次項(後記(2))において,これが本件特許発明1,2にお
いて要件とされているハンガーに該当するものかどうかを検討する。
(ア) ロ号装置の取扱説明書(甲12)の4頁の装置仕様の欄には,ロ号
装置で使用するハンガーについて次のとおり記載されている。
「(7) ワイシャツハンガーの形状について
 本装置で使用するワイシャツハンガーは,一般的に下記形状・寸法
のものを使用して下さい。下記形状・寸法以外のハンガーをご使用になる場合は,
事前に弊社へお問い合わせ下さい。」
そして,その下に図-2が示されており,ハンガーの幅260mm,
垂設部の長さ85mmとされている。この図は前記争いのない事実等欄(5)記載の図
4とほぼ同様である。また,同製品のパンフレット(甲10)には,「使用するハ
ンガーによっては適合しない場合がありますので,あらかじめご相談下さい」との
注意書が記載されており,図面には前記と同様なハンガーが記載されている。
イ号装置の取扱説明書には,ハンガーの形状に触れた記載はないが,
そのパンフレット(甲9)には,「包装材料及びハンガーについて下記の件,充分
にご注意下さい。…5,使用するハンガーによっては適合しない場合がありますの
で,あらかじめご相談下さい。」との上記同様の注意書がされ,写真として上記の
ハンガーに類似したものが掲載されている。
(イ) 展示会における展示
証拠(甲13,14)によれば,平成9年11月1日,大阪において
行われた展示販売会や,平成10年11月27日,東京において行われた展示販売
会では,いずれも前記争いのない事実等欄(4)記載の図3とほぼ同様のハンガーが使
用されて展示されていることが認められる。
(ウ) 当事者の調査の結果
証拠(甲15)及び弁論の全趣旨によれば,当事者双方が,平成10
年11月30日に訴外甲クリーニングにおいてイ号装置を,平成12年2月23日
に被告ケイテイ商会においてロ号装置を,それぞれ調査したところ,上記(イ)のハ
ンガーが使用されていたことが認められる。
(エ) 上記(ア)ないし(ウ)の事実に鑑みると,被告各装置においては,前
記争いのない事実等欄(4)記載の図3及び(5)記載の図4とほぼ同様の形状であっ
て,幅260mm,垂設部の長さ85mmのハンガーを使用することが予定されて
いるものと考えられる。
イ この点に関し,被告らは,被告各装置は,上記ハンガーを使用しなけれ
ばならないものではないと主張し,このハンガーとは異なった形状の訴外東ポリ株
式会社の製品「ハーフ立体用M型Yシャツ立体ハンガー」(乙10の2)及び訴外
マルソー産業株式会社の製品「YシャツハンガーM1」及び同「M2」(乙11の
2)を挙げる。
  しかしながら,この「ハーフ立体用M型Yシャツ立体ハンガー」は,上
記(ア)ないし(エ)に記載したハンガーとは,材質等において異なり,サイズも不明
であるが,垂設部を備えているものと認められる。また,「YシャツハンガーM
1」及び同「M2」も,垂設部を備えるほか,その下部の弓型の部分が,垂設部
「の長さよりも長い補強部材で互いに一体的に連結してなる」部分であるといえ
る。したがって,これら被告ら主張のハンガーも,上記(ア)ないし(エ)に記載した
ハンガーと異なる物ではないということができる。
  したがって,被告各装置は,前記争いのない事実等欄(4)の図3及び(5)
の図4各記載のハンガーを使用することを予定しているものというべきである。
(2) ハンガーの「ガイド部を垂設する」について
 ア 本件特許発明1,2の特許請求の範囲の記載によれば,本件特許発明
1,2に用いるハンガーは,「シャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導高さを持
つ細長形状のガイド部を垂設する」ものであるが,上記「ガイド部」は,その文言
上,シャツ類の側方を折り曲げる際のガイドとして機能することを要するものと解
される。そこで,被告各装置に用いられるハンガーがこのような「ガイド部」を備
えたものかどうかを,検討する。
イ イ号装置について
前記争いのない事実等に証拠(甲17,乙7)及び弁論の全趣旨を総合
すれば,以下の事実が認められる。
(ア) イ号装置においては,下部押圧板105Uと上部押圧板105Pが
設けられており,シャツ類106は,別紙説明図11ないし15のとおり,まず下
部押圧板105Uの側面Aに沿って折り曲げられる。続いて,その上方の上端側面
aと上部押圧板105Pの上端側面bを結ぶ線Bに沿って折り曲げられ,これによ
って,シャツ類106のほとんどの部分が折り曲げられる。
イ号装置に使用するいわゆる「ハーフサイズハンガー」の一般的な幅
は260mm前後であり,イ号装置の上部押圧板105Pの横幅は最大251ない
し253mmである。ハンガーの寸法によっては,上部押圧板の横幅がハンガーの
横幅よりも長い場合があるが,この場合には,最後にシャツ類106の残りの上部
のわずかな部分が,上部押圧板の上端側面bとハンガーの外縁部cを結ぶ線Cに沿
って折り曲げられる。
(イ) 反対に,上部押圧板の横幅がハンガーの横幅よりも短い場合には,
シャツ類106の上部はハンガーの垂設部に沿って折り曲げられることになる。し
かし,ハンガーの垂設部の長さは全体でも85mmであり,このうち押圧板よりも
上部に突出する長さは50ないし65mmしかないので,ハンガーの垂設部に沿っ
て折り曲げられる部分はわずかである。
(ウ) また,ハンガーの垂設部と補強部材を除去した,肩部と懸吊部のみ
にしたハンガーを用いてイ号装置を動作させても,下部押圧板105Uと上部押圧
板105Pの働きでシャツ類を折り畳んで包装することができる。
以上によれば,イ号装置においては,下部押圧板と上部押圧板に沿っ
て,シャツ類のほとんどの部分が折り曲げられるのであって,ハンガーの垂設部は
シャツ類を折り曲げる際のガイド部としては機能していないというべきである。
この点に関して,原告は,シャツ類がハンガーのガイド部の外縁cに接
しており,ガイド部の幅に合わせてシャツ類が折り畳まれていると主張する。しか
し,上記のように,垂設部のうち,押圧板よりも上部に突出する長さは50ないし
65mmしかないのであって,この点からすれば,シャツ類のほとんどの部分が,
下部押圧板と上部押圧板に沿って,折り曲げられるというべきである。さらにいえ
ば,もともと,本件特許発明1,2は,人の手により,ハンガーに掛けたシャツ類
を折り畳むことを予定した発明であるため,長さ85mmの垂設部をガイド部とし
て作用させることも可能であると考えられる。これに対し,イ号装置は,機械によ
り全自動で,肩折りプレート182R,182Lをもってシャツ類を折り畳むもの
であるから,この程度の垂設部をガイド部として機能させることは困難であり,下
部及び上部押圧板のような部品を,ガイド部として機能させる必要があるものと考
えられ,両者はその技術的思想において異なるものというべきである。
そうすると,イ号装置は,「シャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導
高さを持つ細長形状のガイド部」を備えておらず,本件特許発明2の構成要件Aを
充足しない。また,この点は,前記ハンガーがフックに懸吊されていることを要件
とするかどうかによって異なるものではないから,仮に原告の主張する予備的解釈
を前提としたとしても結論に差異はない(すなわち,原告の主張する本件特許発明
2の構成要件A'も充足しない。)。
本件特許発明1においても,このハンガーを用いることを要件としてい
るから,イ号装置によって行われるイ号方法も,本件特許発明1の構成要件aを充
足しない。
ウ ロ号装置について
前記争いのない事実等及び前記証拠によれば,以下の事実が認められ
る。
(ア) ロ号装置においては,押圧板283が設けられており,この幅は2
64mmであって,一般的なこの種ハンガーの横幅260mmよりも長いから,別
紙説明図21ないし25のとおり,シャツ類206は,まず押圧板283の側面A
に沿って折り曲げられる。続いて,その上方の上端側面bとハンガーの上縁部cを
結ぶ線Cに沿って,また押圧板283の側面Bに沿って折り曲げられ,これによっ
てシャツ類206が折り曲げられる。垂設部のうち,押圧板よりも上部に突出する
長さは48mmであり,この突出部分においては,シャツ類はハンガーの垂設部に
接している。
(イ) また,ハンガーの垂設部と補強部材を除去した,肩部と懸吊部のみ
にしたハンガーを用いてロ号装置を動作させても,押圧板283の働きでシャツ類
を折り畳んで包装することができる。
以上によれば,ロ号装置においては,押圧板に沿って,シャツ類のほと
んどの部分が折り曲げられるのであって,ハンガーの垂設部はシャツ類を折り曲げ
る際のガイド部としては機能していないというべきである。
この点に関し,原告が,シャツ類がハンガーのガイド部の外縁cに接し
ており,ガイド部の幅に合わせてシャツ類が折り畳まれていると主張することは上
記イと同様であるが,垂設部のうち,押圧板よりも上部に突出する長さがわずかで
あり,シャツ類のほとんどの部分が,押圧板に沿って折り曲げられると認められる
こともイと同様であるから,原告の主張は採用できない。さらに,全自動でシャツ
類を折り畳むロ号装置が,この程度の垂設部を,ガイド部として作用させることが
困難であると考えられること,両者が技術思想において異なるものであることもイ
と同様(ただし,ロ号装置では,肩折りプレートによってではなく,袖折り部材2
82及び胴折り部材272によって折り曲げられる。)である。
そうすると,ロ号装置は,「シャツ類の側方を折り曲げるに足りる誘導
高さを持つ細長形状のガイド部」を備えておらず,本件特許発明2の構成要件Aを
充足しない。また,この点は,前記ハンガーがフックに懸吊されていることを要件
とするかどうかによって異なるものではないから,仮に原告の主張する予備的解釈
を前提としたとしても結論に差異はない(すなわち,原告の主張する本件特許発明
2の構成要件A'も充足しない。)。
本件特許発明1においても,このハンガーを用いることを要件としてい
るから,ロ号装置によって行われるロ号方法も,本件特許発明1の構成要件aを充
足しない。
2 争点(被告各装置は,本件特許発明2の構成要件Bを充足するか)について
(1) 「孔をもち,‥‥包装袋を抜き取り自在に配置」の要件について
ア 本件特許発明2の特許請求の範囲には,構成要件Bに関し,「ハンガー
の懸吊部が突出自在となる孔をもち,かつ,前記ハンガーの横幅よりもわずかに長
い横幅を持つ筒状の包装袋を抜き取り自在に配置している。」との記載が存在す
る。
上記記載は,「孔をもち,‥‥包装袋を抜き取り自在に配置」という構
成であり,その文言上,本件特許発明2においては,孔を持つ,複数枚束ねられた
包装袋が,抜き取り自在に配置されていることが要件とされているものと解され
る。
イ 前記争いのない事実等欄(4)及び(5)記載のとおり,イ号装置において
は,シャツ類に被せるためのロール状に巻回されたフィルムチューブ117を備え
ており,ロ号装置においては,同じくフィルムチューブ217を備えている。乙7
によれば,このフィルムチューブをシャツ類に被せた後,ハンガーの懸吊部を除い
てヒーターによりシールし,シールカット部165(イ号装置)又は299(ロ号
装置)によりカットするのであり,孔を持つ,複数枚束ねられた包装袋が,抜き取
り自在に配置されているのではないと認められる。
したがって,被告各装置は,「孔をもち,‥‥包装袋を抜き取り自在に
配置」の要件を備えておらず,構成要件Bを充足しないというべきである。
3 以上判示したとおり,被告各装置は,本件特許発明2の構成要件A(及び本
件特許発明2の構成要件につき原告の主張する予備的解釈におけるA')並びにBを
充足しない。また,被告各装置により行われる被告各方法も,少なくとも本件特許
発明1の構成要件aを充足しない。
そうすると,その余の点について検討するまでもなく,被告各装置につき本
件特許発明2の侵害(直接侵害及び間接侵害)及び本件特許発明1の侵害(間接侵
害)をいい,被告各方法につき本件特許発明1の侵害(直接侵害)をいう原告の主
張は,いずれも採用できない。したがって,原告の被告らに対する請求は,いずれ
も理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官    三  村  量  一
裁判官村  越  啓  悦
     裁判官中吉徹郎は,転補のため,署名・押印することができない。
 裁判長裁判官  三  村  量  一
別紙物  件  目  録
 1 被告ワイエイシイが商品名「ハーフワイシャツ立体包装機KM-050」と
して製造販売し,かつ,販売の申出をし,被告日東サービス,同フレッシュが使用
する装置であり,シャツ類を吊すためのハンガーを使用した,シャツ類の簡易包装
装置
 2被告ワイエイシイが商品名「ハーフワイシャツminiKM-075」とし
て製造販売し,かつ,販売の申出をし,被告ケイテイ商会が使用する装置であり,
シャツ類を吊すためのハンガーを使用した,シャツ類の簡易包装装置
方  法  目  録
 1被告日東サービス及び同フレッシュが使用する,シャツ類を包装するための
ハンガーを使用したシャツ類の簡易包装方法であり,物件目録1に記載した装置に
よりなされるもの
2被告ケイテイ商会が使用する,シャツ類を包装するためのハンガーを利用し
たシャツ類の簡易包装方法であり,物件目録2に記載した装置によりなされるもの
別表
別紙 イ号装置の図面
  図1・2図3・4図5・6
別紙 ロ号装置の図面
  図1・2図3・4図5・6図7
別紙 イ号方法の図面
  図1・2図3・4・5
別紙 ロ号方法の図面
  図1・2図3・4図5
別紙 説明図11説明図12説明図13説明図14説明図15
  説明図21説明図22説明図23説明図24説明図25

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