弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
被告が昭和五三年三月一四日付でした、原告の昭和四九年分所得税について下関税
務署長によつてされた更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分に対する原告の審
査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
主文同旨の判決。
二 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二 当事者の主張
一 原告の請求原因
(一) (1)原告は、法定期限内に、訴外下関税務署長に対し、昭和四九年分の
所得税について、分離長期譲渡所得金額を金一、九五五万〇、三〇〇円、税額を金
三八六万三、四〇〇円として確定申告をしたところ、下関税務署長から昭和五一年
九月二九日付で、分離短期譲渡所得金額を金二、二六九万七、八二〇円、税額を金
九六五万七、四〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税金二八万九、七〇〇円の
賦課決定処分を受けた。
原告は、同年一一月二〇日、同署長に対し、異議申立てをしたところ、同署長は、
昭和五二年二月八日付で、右異議申立てを棄却する旨の決定をした。
(2) 原告は、昭和五二年三月五日、被告に対し、審査請求をしたところ、被告
は、昭和五三年三月一四日付で、右審査請求を棄却する旨の裁決(以下本件裁決と
いう)をし、同月二〇日以降、原告にその裁決書謄本を送達した。
(二) 本件裁決の違法事由
(1) 原告は、昭和五三年三月一一日、被告に対し、国税通則法(以下通則法と
いう)九六条二項に基づき、原処分庁である下関税務署長から提出された書類の閲
覧請求をしたところ、被告は、右閲覧を許さなかつた。
(2) 被告は、右閲覧請求を何ら正当な理由もなく拒否し、原告から攻撃防禦の
機会を不当に奪つたもので、その審査手続には重大な手続上の瑕疵があるから、こ
れに基づいてされた本件裁決は違法である。
(三) 結論
原告は、本件裁決の取消しを求める。
二 被告の答弁と主張
(認否)
(一) 請求原因(一)の事実は認める。
(二) 同(二)について
(1) (1)のうち、原告が原処分庁である下関税務署長から提出された書類の
閲覧請求をしたところ、右閲覧が許されなかつたことは認めるが、その余の事実は
争う。なお、原告が右閲覧請求をした相手方は、広島国税不服審判所長である。
(2) (2)の主張は争う。
(主張)
(一) 原告の右閲覧請求は、次の理由により不適法であるから、被告が右閲覧を
許さなかつたことに手続上の瑕疵はない。すなわち、
(1) 被告は、昭和五二年四月七日付で、原告に対し、担当審判官の指定通知を
したから、原告としては、以後、右担当審判官に対し、閲覧請求をすべきであつた
(通則法九六条二項)のに、広島国税不服審判所長に対し、同請求をした。
(2) 通則法九六条の閲覧請求制度は、審査請求人に、原処分の理由となつた事
実を検討する機会を与え、審査請求人の攻撃防禦に資するという趣旨で設けられた
ものである。このような制度の趣旨や審査請求人が閲覧請求をする相手方が国税不
服審判所長(被告)ではなく、担当審判官とされていること(通則法九六条二項)
からすると、法令に規定はないが、審査請求人は、当該審査請求事件についての担
当審判官及び参加審判官の合議体による議決の前に閲覧請求をしなければならない
と解すべきである。
本件審査請求事件の合議体は、原告の右閲覧請求よりも前である昭和五二年一一月
二五日、議決をした。
(二) 被告が原告の右閲覧請求を拒否したことには、通則法九六条二項の「正当
な理由」がある。すなわち、
(1) 被告は、昭和五三年三月一四日、本件審査請求事件について裁決をしたの
で、審査手続は、実質的に終了し、送達の段階に入つていた。
このように、裁決が正式に成立し、送達の段階に至つている時点では、審査請求人
から新たな主張又は資料の追加があり、それが既にされた裁決の結果に影響を及ぼ
すと認められる場合は別論としても、単なる閲覧請求だけの場合にまで、閲覧請求
を許容し、あるいは再審査をすべき必要性はない。
(2) 被告は、審査手続の過程で、原告に対し、答弁書副本を送付し、担当審判
官指定の通知(昭和五二年四月七日付)及び担当審判官の変更通知(同年七月二六
日付)をした。原告は、右各通知等によつて審理の経過を知ることができたし、本
件裁決がされるまでの間に、閲覧請求や反論等の機会、時間が与えられていたの
に、右期間を漫然と徒過し、送達の段階で閲覧請求をした。
(3) 被告がこのような事情のもとで原告の右閲覧請求を拒否したことには正当
な理由があるというべきである。
(三) 以上の次第で、右審査手続には瑕疵がないから、本件裁決は適法である。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一 課税の経緯について
請求原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件裁決が適法かどうかについて
(一) 原告が原処分庁である下関税務署長から提出された書類の閲覧請求をした
ところ、右閲覧が許されなかつたことは当事者間に争いがない。
(二) 前記一及び二(一)の争いがない事実や、成立に争いがない丙第一号証の
一、二、同第二号証、同第三号証の一、同第四号証の二、弁論の全趣旨によつて成
立が認められる同第四号証の一、同第五ないし第七号証及び弁論の全趣旨による
と、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
(1) 被告は、昭和五二年三月七日、原告が郵送によつて提出した同月五日付審
査請求書を受理し、この審査請求が形式的要件を具備しているかどうかの審査をし
たうえ、下関税務署長あてに審査請求書の副本を送付した。同署長は、答弁書を提
出したので、被告は、右審査請求事件の調査及び審理を行わせるため、担当審判官
一名と参加審判官二名を指定したのち、原告に対し、右答弁書の副本を送付すると
ともに、同年四月七日付で担当審判官指定の通知をした。
被告は、その後、担当審判官及び参加審判官を人事異動のため変更したので、同年
七月二六日付で、原告に対し担当審判官変更の通知をした。
(2) 担当審判官及び参加審判官の合議体は、右審査請求事件について調査及び
審理を行ない、合議体としての結論を出すに熟したので、同年一一月二五日、議決
をした。
(3) 被告は、昭和五三年三月一四日、右議決に基づいて本件裁決をし、同月二
〇日、その裁決書謄本を原告あてに郵便で発送したところ、同謄本は、その後、原
告に送達された。
(4) 原告は、同月一三日、同月一一日付の閲覧請求書(丙第一号証の一)を郵
便で発送したところ、被告は、同月一四日、これを受理した。
この閲覧請求書には、名宛人として「広島国税不服審判所長」との記載があり、ま
た、「国税通則法第九六条二項に基き原処分庁から提出された書類、その他の物件
の閲覧を求めます。」との記載がある。
(5) 被告は、右閲覧請求が不適法であると判断し、同月二二日付で、原告に対
し、右閲覧請求には応じられない旨を書面で通知した。
(三) 被告は、原告の右閲覧請求は広島国税不服審判所長に対してされた点で不
適法であるから、
被告が右閲覧を許さなかつたことに手続上の瑕疵はないと主張しているので判断す
る。
(1) 通則法九六条二項は、「審査請求人は、担当審判官に対し、原処分庁から
提出された書類その他の物件の閲覧を求めることができる。」と規定しているとこ
ろ、前記認定の事実によると、原告の閲覧請求書には名宛人として広島国税不服審
判所長が記載されている。
(2) しかし、前記認定のとおり、同請求書には「国税通則法第九六条二項に基
き原処分庁から提出された書類、その他の物件の閲覧を求めます。」との記載があ
り、この記載内容及び広島国税不服審判所長は、通則法八条四項、一一三条、同法
施行令三八条にいう「首席国税審判官」であつて、本件において担当審判官を指定
したものであり、行政機構上も、当該担当審判官の所属する庁の所長にあたること
にかんがみると、原告の閲覧請求は、客観的に通則法九六条二項に基づく担当審判
官に対する閲覧請求の趣旨であるといわなければならない。
原告は、法の不知から広島国税不服審判所長に対し閲覧請求をすれば足りると考え
たのであり、その閲覧請求書が同不服審判所で受理された以上、同所は、部内的に
担当審判官に同書を回付し、後日この誤りを補正させれば、それですむことであ
る。
そうしてみると、被告の主張する理由は、被告が右閲覧請求を拒否したことを正当
づける理由にはならない。
(四) 次に、被告は、通則法九六条二項に基づく閲覧請求は担当審判官及び参加
審判官の合議体の議決前にしなければならないと主張しており、原告が右議決後に
閲覧請求をしたことは前記認定のとおりである。
しかし、審査請求人は、裁決書謄本が発送されるまでは通則法九六条二項に基づく
閲覧請求をすることができると解するのが相当である。その理由は、次のとおりで
ある。
(1) 閲覧請求をすることができる時期については通則法上の明文の定めがな
い。
(2) 審査請求人が右議決後であつても主張を追加又は変更すれば、担当審判官
としては、さらに調査及び審理をし、改めて議決をしなければならなくなる。した
がつて、右議決は、絶対的なものではない。
(3) 右合議体の議決がされたことを審査請求人に通知すべき旨を定めた規定は
なく、審査請求人が右議決がされたことを知る機会は法律上保障されていない。
(4) 審査請求手続には、訴訟手続における弁論終結のような手続はない。
(5) 審査請求手続は、裁決書謄本が審査請求人に対し発送された段階で対外的
に完結したものとみられる。
もつとも、通則法九六条二項では、閲覧請求の相手方は担当審判官である旨が定め
られているが、前記のとおり、担当審判官は、右議決後もさらに調査及び審理をす
ることがあるわけであるから、この規定を根拠に右議決前に閲覧請求をすべきであ
ると解することは無理である。
審査請求人の書類の閲覧請求権は、審査請求人にとつてもつとも重要な権利である
ことに想到したとき、担当審判官としては、可能な限り閲覧請求権を尊重するよう
事務処理をすべきことは、いうまでもない。
被告のとつた処置は、審査請求人の基本的な利益を、外部的に窺知できない内部的
議決のあつたことを持ち出して不当に奪うものであり、当裁判所は、到底賛成でき
ない。
原告は、本件裁決の裁決書謄本が発送された昭和五三年三月二〇日よりも前である
同月一四日閲覧請求をしたのであるから、同請求は、適法である。
(五) 被告は、原告は本件裁決成立後の送達の段階で新たな主張や資料の追加を
することもなく閲覧請求をしたもので、それまでの期間を慢然と徒過したのである
から、被告がこれを拒否したことには通則法九六条二項の「正当な理由」があると
主張している。
しかし、同項の「正当な理由」とは、第三者の個人的秘密又は行政上の機密を保持
する必要がある場合や審査請求人の閲覧請求が権利の濫用にわたるような場合をい
い、本件のような審査請求人が裁決成立後の送達の段階で閲覧請求をした場合を含
まないと解するのが相当である。そして、審査請求人がそれ以前に閲覧請求をした
ことがなかつたとしても、この結論に変わりはない。
被告は、審査請求人が送達の段階で単に閲覧請求だけをした場合、閲覧請求を許容
し、あるいは再審理を行なうべき必要性はないと主張しているが、審査請求人が閲
覧した資料をもとにして主張や資料を提出することもあり得るわけであるから、そ
の必要性がないなどとは到底いうことができない。
(六) まとめ
以上の次第で、被告が原告の閲覧請求に応じなかつたことは違法であり、この違法
な手続に基づいてされた本件裁決は違法であることに帰着するから、取消しを免れ
ないといわなければならない。
三 むすび
原告の本件請求は、理由があるから認容するごととし、行訴法七条、民訴法八九条
に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 古崎慶長 寺田逸郎 小佐田 潔)

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