弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     被告人を懲役三年六月および罰金五〇〇〇円に処する。
     原審における未決勾留日数中一五〇日を右懲役刑に算入する。
     右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した
期間被告人を労役場に留置する。
     原審における訴訟費用は、被告人と原審相被告人B、同Cとの連帯負担
とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人滝井朋子作成の控訴趣意書および控訴趣意補充書記載
のとおりであり、これに対する答弁は、大阪高等検察庁検察官検事服部卓作成の答
弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。
 控訴趣意中事実誤認ないし法令適用の誤の論旨について。
 所論は、まず、原判示第一の一の強盗強姦の事実について、
 (一) 本件財物取得行為は、いずれも被害者Dの不知の間になされたものであ
るから、右財物取得行為とDに対する暴行、脅迫との間には因果関係が存在しな
い。よつて、本件財物取得行為は強盗罪の構成要件を充足するものではない。
 (二) 原判決は、「Eホテル」においてDが入浴中、腕時計一個、指輪一個、
ネツクレス一個を対象として、被告人がB、Cと強盗を共謀した、との事実を認定
しているのであるが、被告人が右B、Cとそのような共謀をした事実は存在しな
い。
 (三) 原判決認定の事実によれば、強盗の共謀は、被告人が姦淫した後、Dが
入浴中になされた、というのであるが、強盗強姦はいうまでもなく強盗が強姦する
ことを予定した犯罪であるから、強姦終了後に強盗の犯意が生じた場合には、強姦
罪、強盗罪の二罪が成立するのであつて、強盗強姦罪は成立しない。しかるに、原
判決が被告人の所為を強盗強姦罪に該当するとしているのは、以上の点につき法令
の解釈適用の誤および事実誤認があることによるものである。
 つぎに、所論は、原判示第一の三の恐喝の事実について、原判決は、被告人が
B、Cと共謀のうえ、金員を喝取しようと企て、被害者Fから現金二万七〇〇〇円
を喝取した、との事実を認定しているが、被告人は右B、Cから助勢を求められ、
被害者が正当な対価さえも支払わないと誤解していたものであるから、被告人にお
いて不法の領得をなすべき意思はなかつたのであり、原判決はこの点において事実
を誤認している。
 というのである。
 よつて、記録を精査し、当審における事実取調の結果をも参酌して案ずるに、
 <要旨第一>強盗強姦の事実に関する所論(一)について、刑法二三六条一項にい
う強盗罪は、通常犯人が財物を奪取する意思で他人に暴行、脅迫を加え
てその反抗を抑圧したうえ、その財物を奪取することによつて成立するのである
が、犯人が他の目的で他人に暴行脅迫を加えてその反抗を抑圧した後、あらたに右
反抗抑圧の状態を利用して財物を奪取する意思を生じ、その財物を奪取した場合に
も同様に強盗罪が成立すると解するのが相当である。
 そして以上いずれの場合であつても、財物の奪取は、犯人自身が被害者から直接
財物を奪取することによつてなされるのが典型的な事例であるが、これと趣をこと
にして、すでに反抗を抑圧された被害者が交付する財物を、その情を知りながら受
領することによつて行なわれたり、あるいは反抗を抑圧された被害者がたまたま気
付かない間になされたものであつても差支えないものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、原判決挙示の関係証拠によれば被告人およびB、C
は原判示第一の一記載の如き経緯でDを「Eホテル」二階五号室に連れ込み、同女
に対し同室に付置された浴室に入ることを命じ、同女はその言いなりに洋服を脱ぎ
同室のテレビの上に置く際、原判示腕時計を右洋服の間に隠したこと、Bは同女が
入浴中に右腕時計を奪つたこと、その後C、Bの順で同女を強いて姦淫した後、B
は抗拒不能に陥つている同女に対し原判示指輪、ネツクレスの交付を要求し、同女
はやむなくこれらをBに交付し、同人において受領したこと、そのころ同女は洋服
を着ようとして右腕時計がなくなつていることに気付いたが、何時誰がとつたかに
ついては知つていないことが認められ、以上の事実によると、Bの右財物取得行為
がいずれも強盗罪に該当することは叙上説示に照して明らかであるといわなければ
ならない。
 つぎに、同所論(二)について、原判決挙示の関係証拠を総合すると、Bは原判
示第一の一記載の如く自動車内でDから一万円札一枚を強取し、「Eホテル」にお
いてホテル代を一万円で支払い、釣銭のうちから各三〇〇〇円を被告人およびCに
分前として分配したが、被告人は当日Bが所持金のないことを知つていたことか
ら、同人がDから奪つたものであることを知りながらこれを受取つていること、同
判示の如くDを入浴させている間、Cが同室のテレビの上に置いてあつたD所有の
腕時計一個を探し、Bおよび被告人に「ええ時計や、貰ろとこか」と言つたのに対
し、被告人が「そんなことをすると強盗になるぞ」と嫌味を言つたが結局、右腕時
計はBにおいて処分することになり、被告人もBが処分すれば分前を貰えるので、
それ以上反対もせず黙つていたこと、そのころCがBに対し、指輪もネツクレスも
あるからとつて処分することを告げ、Bもこれを了承したが、被告人は前同様の理
由で黙つていたこと、その後Bは、Cが部屋を出た際、被告人に対し「兄ちやん、
Cが時計を二万五〇〇〇円で買うたると言つているが、Cは信用できないから儂が
捌いておくわ」と話し、被告人はこれに対し「まかしとくわ」と答えたこと、右犯
行当日の夜被告人、C、Bの三名がいつも溜り場にしている「G」の前に集つた
際、Bは右腕時計、指輪、ネツクレスを捌いた分の分前であると言つて、被告人、
Cに対し各一万円を渡し、被告人はこれを受領していることが認められ、以上の事
実を総合すると、被告人は、C、Bが前記腕時計、指輪、ネツクレスをDから奪取
することを相談しているのを傍らで聞いており、右の犯行を認容し、暗黙裡にこれ
に同調したものと認めるのが相当であり、その際、被告人とC、Bとの間に右財物
を強取することの共謀が成立したものということができるのである。
 <要旨第二>さらに、同所論(三)について、原判決の認定する事実は、被告人は
C、BとDを強いて順次姦淫することを共謀のうえ、まず、被告人にお
いて、すでに行なわれた暴行、脅迫によつて抗拒不能の状態に陥つている同女を強
いて姦淫し、同女が入浴している間に、被告人はC、Bと同女の所有する腕時計等
を強取しようと共謀のうえ、Bにおいて右腕時計を同女の知らない間に強取し、つ
いでC、Bの順で前同様抗拒不能の状態にある同女を強いて姦淫し、さらにBが同
女から同女所有の指輪およびネツクレスを強取したというものであるところ、Bが
右腕時計を強取した段階では、未だ被告人ら三名の全員の輪姦の実行行為は終了し
ておらず、右三名共謀による右腕時計の強取の後に、なおC、Bにおいて強姦の実
行行為に及んでいるのであるから、その時点においてはじめて、被告人ら三名はい
ずれも「強盗婦女を強姦したるとき」に該当し、強盗強姦罪の刑責を免れえないも
のであり、これと被告人の前顕姦淫行為とは被害者が同一であることおよびこれら
の所為が同一機会に引き続いてなされた一連のものであることから右両者は併合罪
ではなく包括して強盗強姦罪の一罪が成立するものと解するのが相当である。(な
おBについては、それらの所為に先立つて行なわれた現金一万円の強盗の所為も同
様の理由により包括して強盗強姦罪一罪が成立することとなる。)
 所論は、専ら被告人の姦淫行為とBによる強取行為の先後の関係のみに着目して
強姦罪と強盗罪の併合罪であると主張するのであるが、被告人ら三名の強姦終了後
に強盗の犯意を生じた場合には右の結論は正しいけれども、本件はその輪姦行為中
に強盗の犯意を生じたものであるから、叙上説示の如く結論を異にするのであつて
その間に何等矛盾は存在しない。
 つぎに、恐喝の事実に関する所論について、原判決挙示の関係証拠を総合する
と、被告人は、原判示第一の二記載のようなFの態度に立腹して同人をCの白タク
に乗せたまま引き返してきたBおよびCから「三人連れの客を料金一〇〇〇円とい
う約束で八尾まで乗せて行つたところ、相手がごんたくを言つて金を払わんので、
つれて来たから一緒に来てくれ」と聞かされ、それ迄の経緯の概略を知つたこと、
そして被告人、CおよびBは意思相通じ共謀のうえ、原判示第一の二記載の如くF
に対し暴行を加えたこと、そうしているうち被告人はB、Cが白タク料金の請求に
藉口してFから金員を取ろうとしているものと考え、Fに対し「何故金を払わんの
や」「一〇〇〇円位ですむと思うのか」と申し向け、Bにおいて原判示第一の三記
載の如くFのポケツトから金員を取り出して取得し、これを被告人に渡し、被告人
においてこれを受領したこと、そして約一時間位後に食堂「H」において、右取得
金を一人宛約六六〇〇円として被告人、BおよびCにおいて分配したことが認めら
れ、以上の事実によると、被告人がFから白タク料金あるいはそれを上回る金員の
支払を請求する意思を有し、BおよびCと暗黙裡に意思相通じ共謀したものである
ことは明らかであり、そのために行使した手段が権利の行使として社会通念上一般
に是認される程度を越えるものであることをあわせ考えると、被告人に原判示第一
の三の金員の取得につき不法領得の意思があつたものと認めるのが相当であり、被
告人の所為が恐喝罪を構成するものであることは明らかである。
 してみると、前記認定にかかる各事実と同一の事実を認定し、被告人の原判示第
一の一の所為を強盗強姦罪に、原判示第一の三の所為を恐喝罪に問擬した原判決の
事実認定および法令の適用は正当であつて、その他所論にかんがみ記録を精査して
も、原判決に所論のような事実誤認あるいは法令の解釈適用の誤があるとは認めら
れない。論旨は理由がない。
 控訴趣意中量刑不当の論旨について。
 よつて、所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調の結果をも参酌し
て案ずるに、本件各犯行にいたつた経緯、動機、各犯行の罪質、態様および各被害
結果に徴すると、被告人に対する原判決の刑も一応首肯できないことはない。しか
しながら、被告人が原判示第一の一ないし三の各犯行において果した役割、被告人
は犯行後原判示第一の一の被害者Dに一五万円を、原判示第一の二および三の被害
者Fに二万円を弁償金として支払い、右被害者両名は被告人を宥恕し嘆願書を提出
するに至つていること、被告人には道交法違反で罰金刑に処せられたことが四回あ
るほか、前科のないこと、被告人の犯行後の生活状況および家庭の事情など所論の
被告人に有利な事由を考慮し、あわせて共犯者との刑の権衡という観点から考える
と、被告人に対する原判決の刑はいささか重きに過ぎるものと認められ、原判決を
維持することは相当でない。論旨は理由がある。
 よつて、刑事訴訟法第三九七条一項、三八一条により原判決を破棄したうえ、同
法四〇〇条但書により当裁判所において直ちに判決することとし、原判決の確定し
た事実に原判決の摘示する各法条のほか、当審費用につき刑事訴訟法一八一条一項
但書を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 杉田亮造 裁判官 矢島好信 裁判官 松井薫)
(参考)(罪となるべき事実)
 被告人Aは徳島県阿波郡a町で出生し、同地の中学校を卒業した後上阪して、米
穀店、製材所、工芸品店、食用油店、パチンコ店、自動車によるホツトドツグ移動
販売業を営む会社等を転々とした後、独立して自動車によるホツトドツグ移動販売
業を営んでいたもの、被告人Bは本籍地で出生し、同地の中学校を卒業後電気関係
の会社、看板屋、運送会社等を転々とし、その間窃盗罪等を犯し、少年鑑別所に収
容されたこともあり、暴力団I組に出入りしていたもの、被告人Cは和歌山県那賀
郡b町で出生し、同地の中学校を卒業した後、尼ケ崎市内所在の文具店に就職した
が半年位で退職し、その後は大阪市内の運送店、自動車教習所等を転々とする間窃
盗罪で少年院に送致され、その後再び窃盗罪を犯して懲役一年六月、四年間保護観
察付執行猶予に処せられているものであるが、いずれも大阪市c区d付近でたむろ
し、適当な客を見つけてはいわゆる白タクをやつていたところ、
 第一、一、被告人三名は昭和四三年九月一八日午前五時三〇分ごろ、大阪市e区
f町g番地先路上を乗用自動車に乗車して走行中、たまたま同所でタクシーを拾う
ため佇立していたDことD(当時二二年)を認めるや、右自動庫を運転していた被
告人Cにおいて、同女を同乗させてその目的地まで送つてやろうと考え、同女の傍
に同車を停車させたところ、被告人Bにおいて、同女に対し強いて猥せつ行為をし
ようと企て、同車を降りて素早く同女を右自動車後部座席に押し込むや、被告人C
が直ちに同車を発車させ、疾走中の同車後部座席において被告人Bが同女を同座席
床上に押し倒して押えつけ、「じつとしておれ。じたばたすると目の玉をくり抜く
ぞ。」などと申し向け、被告人Aもこれに助勢し、同車助手席から手を伸ばして同
女を押さえるなどの暴行および脅迫を加えて同女の抵抗を抑圧し、被告人Bは同女
が右暴行および脅迫により抵抗不能の状態に陥つているのに乗じ、同女所有の紙袋
の中にあつたハンドバック在中の財布の中から現金一万円を強取し、さらに、被告
人Cが同市h区i町j丁目k番地のlEホテルに至るまでの間同車を一旦停車させ
た際、同車内において被告人三名は共謀のうえ、同女を強いて姦淫しようと企て、
同日午前六時ごろ同女を同ホテル二階五号室に連れ込み、その頃同室において被告
人Aが前記暴行および脅迫により畏怖し抵抗不能の状態に陥つている同女を強いて
姦淫し、姦淫後同女を同室付置の浴室に入らせている間、被告人三名は共謀のう
え、同女所有の腕時計一個(時価八万二、五〇〇円相当)、指輪一個(時価五万
八、〇〇〇円相当)、およびネツクレス一個(時価一万二、〇〇〇円相当)を強取
しようと企て、被告人Bにおいて、同室テレビの上に置いてあつた右腕時計一個を
強取し、ついで被告人Cが前記浴室において、被告人Bが同室ベツドの上で、前記
暴行および脅迫により畏怖し反抗不能に陥つている同女を順次強いて姦淫し、さら
に同被告人が右同様の状態にある同女から前記指輪およびネツクレス各一個を強取
したものである。
第一、二、以下省略

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