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平成21年3月11日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成20年(行ケ)第10312号審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日平成21年3月4日
判決
原告1X
原告2X
上記両名訴訟代理人弁護士森崎博之
小川聡
上記両名訴訟代理人弁理士塩谷英明
被告特許庁長官
同指定代理人八木誠
亀丸広司
小林和男
紀本孝
主文
1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための
付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2006−4785号事件について平成20年4月8日にした審決
を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告ら両名が,国際出願の方法により共同して特許出願をしたところ,
日本国特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,同
庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
争点は本願の請求項1に係る発明以下本願発明というが実願平4−,(「」。),
(〔〕)(「」65324号実開平6−15532号甲1のCD−ROM以下引用例1
という)に記載された発明(以下「引用発明1」という)及び実願平3−994。。
50号実開平5−28226号甲2のCD−ROMに記載された発明以下(〔〕)(
引用発明2というとの関係で進歩性特許法29条2項を有するかであ「」。)(),
る。
1特許庁における手続の経緯
,()(),原告らは平成10年1998年12月14日の優先権米国を主張して
平成11年12月7日,名称を「全面口腔ブラシ」とする発明につき国際出願(P
CT/US99/28998。日本国における出願番号は特願2000−5876
40号)をし,平成13年6月14日に日本国特許庁に翻訳文を提出し(国内公表
は平成14年10月2日甲3その後平成15年7月15日付け甲5及び。),,()
平成17年11月8日付け(甲4)で補正をしたが,特許庁は,同年12月13日
付けで拒絶査定をした。
,,。原告らは平成18年3月15日上記拒絶査定に対する不服の審判請求をした
特許庁は,上記審判請求を不服2006−4785号事件として審理し,平成2
0年4月8日「本件審判の請求は,成り立たない」との審決(出訴期間として9,。
0日附加)をし,その謄本は,同月18日原告らに送達された。
2本願発明の内容
本願発明は,平成17年11月8日付けの手続補正(甲4)により補正された明
細書の【特許請求の範囲【請求項1】に記載された次のとおりのものである。】
「使用者の口腔を清掃するための全面口腔ブラシであって,
a)対向する第1面及び第2面を有する第1端を含むハンドルと,
b)前記第1面から延在する剛毛と,
c)前記第2面に結合される代替清掃具と,
を具備し,前記剛毛が前記使用者の歯を磨くために用いられ,前記代替清掃具が舌及び前記口
腔の内側をこすり洗うことによって該使用者の該舌及び該口腔の内側を清掃するために用いら
れ,
d)前記代替清掃具が,前記使用者の前記舌及び前記口腔の内側をこすって滑らかにするた
めに,前記第1端の前記剛毛によって覆われていないすべての面から延在する複数の並行な隆
起を含む全面口腔ブラシ」。
3審決の内容
(1)審決は本願発明は引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をす,,
ることができたもので,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができ
ないとした。
(2)審決が認定する本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおり,
である。
ア一致点
「使用者の口腔を清掃するための全面口腔ブラシであって,
対向する第1面及び第2面を有する第1端を含むハンドルと,
前記第1面から延在する剛毛と,
前記第2面に結合される代替清掃具と,
を具備し,前記剛毛が前記使用者の歯を磨くために用いられ,前記代替清掃具が舌及び前記口
腔の内側をこすり洗うことによって該使用者の該舌及び該口腔の内側を清掃するために用いら
れる全面口腔ブラシ(4頁5∼11行)。」
イ相違点(以下「本件相違点」という)。
「代替清掃具について,本願発明は,使用者の舌及び口腔の内側をこすって滑らかにするため
に,第1端の剛毛によって覆われていないすべての面から延在する複数の並行な隆起を含むの
に対し,引用発明は,そのような構成ではない点(4頁14∼17行)。」
第3原告ら主張の審決取消事由の要旨
,,,審決は次のとおり引用発明1及び2と本願発明との本件相違点の判断を誤り
その結果として,本願発明の進歩性の判断を誤った違法性を有するから,取り消さ
れるべきである。
1取消事由1(引用発明2の認定の誤り)
,「,,(),(1)審決は引用例2の図1∼3には舌口内上顎用ブラシ1において
隆起した形状の複数のブラシ(5)が平行に設けられ,各ブラシ(5)は,舌,口
内上顎用ブラシ(1)の一方の側面から頂点を通って反対側の他方の側面にわたる
曲線となる断面を有することが図示されている(3頁18∼21行)とする。。」
(2)しかしながら引用例2の図2の記載から明らかなようにブラシ5を,,()
構成する個々の隆起は,互いに間隙を空けて配置されているのであるから,ブラシ
(5)自体は,舌,口内上顎用ブラシ(1)の側面を形成するものではない。舌,
口内上顎用ブラシ(1)の側面とは,柄(2)の先端部分及び支持部(4)で構成
される側面をいうべきである。
ブラシ(5)自体は,舌,口内上顎用ブラシ(1)の側面を形成するものではな
いのであるからブラシ5隆起が舌口内上顎用ブラシ1の一方の側,()(),,()
面から他方の側面にわたる曲線となる断面を有するとする認定は誤っている。
2取消事由2(本願発明による効果の認定の誤り)
(1)審決は「本願発明による効果も,引用発明1,2から当業者が予測し得た,
程度のものであって,格別のものとはいえない(4頁34∼35行)とする。。」
(2)しかしながら引用発明1及び2はいずれもブラシヘッドの側面には何,,,
らの代替清掃具が設けられていないのであるから,使用者の口腔の清掃に際して歯
ブラシをあてがう都度,未ブラッシング領域が存在することになり,このために,
ブラシの角度をその都度持ち替えなければならない。
これに対し本願発明は前記代替清掃具が前記使用者の前記舌及び前記口腔,,「,
の内側をこすって滑らかにするために,前記第1端の前記剛毛によって覆われてい
ないすべての面から延在する複数の並行な隆起を含む請求項1(d)という発」(【】)
,,(),明特定事項を有することから例えば下顎上顎の歯及び歯茎の清掃に際して
ブラシの角度を持ち替えることなく,口腔内側面及び歯茎と側面との間の溝部分に
確実にフィットしてブラッシングできるという有利な効果を奏する。
以上のとおり,審決は,引用発明1及び2と比較した本願発明による有利な効果
を看過している。
3取消事由3(本件相違点の認定判断の誤り)
(1)審決は引用例2には隆起した形状の複数のブラシ5隆起が平行,「,()()
に設けられ各ブラシ5隆起は舌口内上顎用ブラシ1の一方の側面,()(),,()
から頂点を通って反対側の他方の側面にわたる曲線となる断面を有する舌,口内上
顎用ブラシ1という発明以下引用発明2というが記載されている4()(「」)」(
頁20∼24行「引用発明1において,口内用ブラシ(2)に置き換えて,引用),
発明2の上記ブラシ5隆起を設けることは当業者が容易になし得たことで()(),
ある(4頁26∼28行「その際,上記ブラシ(5(隆起)の側面をどの程度」),)
,」()にするかは必要に応じて適宜設定される設計事項にすぎない4頁28∼30行
とする。
(2)しかしながら,引用例2には「ブラシ(5)は,支持部(4)と一体成型,
の構造で同じくシリコンゴムを使用し,ひだ状で口内上顎の形状に合った階段状に
隆起した形状からなる(0006(ホ)との記載があり,また,図1∼3の記」【】)
載からみて,引用例2は,ブラシ(5)が,偏平な支持部(4)の一方の面から垂
直方向に延在したひだ状の隆起によって形成されていることを示しているにすぎ
ず,舌,口内上顎用ブラシ(1)の側面には,何らの隆起物も延在していない。
したがって,引用発明1において,口内用ブラシ(2)に置き換えて,引用発明
2のブラシ5隆起を設けたとしても当業者はブラシの部分1を支持()(),,()
するハンドルの第1端(以下「ブラシ側ハンドル端」という)の裏面に,ひだ状で
口内上顎の形状に合った階段状に隆起した形状からなるブラシ(5)が設けられた
歯ブラシを精々想到し得るにすぎず,ブラシ側ハンドル端の側面においてもブラシ
(5)が設けられた歯ブラシを想到することはできない。
(3)また,上記(1)のとおり,審決は「上記ブラシ(5(隆起)の側面をどの,)
程度にするかは,必要に応じて適宜設定される設計事項にすぎない」とする。
,,設計事項とは一定の課題を解決するために公知材料の中からの最適材料の選択
数値範囲の最適化又は好適化,均等物による置換,技術の具体的適用に伴う設計変
更等をいうものと解されるが,これを本件事案に照らせば,引用発明1に引用発明
2を組み合わせた結果の歯ブラシのブラシ側ハンドル端の側面に隆起を形成するこ
とが設計事項に該当するか否かを問題とすべきところ,審決は,ブラシ側ハンドル
端ではなくブラシ側ハンドル端に設けられたブラシ5隆起の側面をどの程,()()
度にするかについての設計事項の問題であると,すり替えてしまっている。
,(),,()前記1のとおり引用例2におけるブラシ5は舌口内上顎用ブラシ1
の側面を形成するものではないから,ブラシ(5)の側面をどの程度にするかは,
本願発明を容易に想到し得るか否かの論理付けには関係なく,ブラシ(5)の側面
についての設計事項の問題にすること自体,誤っている。
したがって,引用発明1は,ブラシ側ハンドル端の側面に代替清掃具を設けると
,,,,()いう技術的思想を有しておらずまた引用発明2も舌口内上顎用ブラシ1
の側面から隆起物を延在させるという技術的思想を有していないのであるから,引
用発明1において,口内用ブラシ(2)に代えて引用発明2のブラシ(5)を適用
するに当たっては,設計事項の範囲を,ブラシの部分(1)によって覆われていな
いすべての面に隆起が形成されるところまで及ぼすことはできない。
,(),,審決は設計事項の問題をブラシ5の側面に対して誤って適用しその結果
設計事項の範囲を誤った。
(4)以上のとおり引用発明1に引用発明2を組み合わせても当業者は本願,,,
発明の本件相違点に係る発明特定事項を容易に想到することができないにもかかわ
らず設計事項の範囲を逸脱した上で引用発明1において引用発明2を組み合,,「,
わせて,上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想
到し得たことである」と結論付けた審決の認定判断は,誤っている。
第4被告の反論
1取消事由1(引用発明2の認定の誤り)に対して
審決は,引用例2について「図1∼3には・・・各ブラシ(5)は,舌,口内,,
上顎用ブラシ(1)の一方の側面から頂点を通って反対側の他方の側面にわたる曲
線となる断面を有することが図示されている(3頁18∼21行)とする。。」
このうち一方の側面からとは一方の側面に接する箇所からということを表,「」,
しており他方の側面にわたるとは他方の側面と接する箇所までわたるという,「」,
ことを表している。
審決の上記認定は,上記曲線が側面とつながっていることを表しているのであっ
て,ブラシ(5)自体が,舌,口内上顎用ブラシ(1)の側面を形成することを表
しているものではないから,審決の上記認定が誤っているとの原告らの主張は,失
当である。
2取消事由2(本願発明による効果の認定の誤り)に対して
(1)原告らは本願発明はブラシの角度を持ち替えることなく口腔内側面及,,,
び歯茎と側面との間の溝部分に確実にフィットしてブラッシングできるという有利
な効果を奏すると主張をする。
しかしながら,上記効果は,本願明細書には,何ら記載されていないことから,
原告らの上記主張は,本願明細書の記載に基づかないものである。
(2)また本願発明の構成から原告らが主張するような効果を奏するといえる,,
と仮定しても,引用例2には,図1∼3に,各ブラシ(5)は,舌,口内上顎用ブ
ラシ(1)の一方の側面から頂点を通って反対側の他方の側面にわたる曲線となる
,「()(),()断面を有することが図示されていること・・・ホブラシ5は支持部4
と一体成型の構造で同じくシリコンゴムを使用し,ひだ状で口内上顎の形状に合っ
た階段状に隆起した形状からなる・・・(0006「・・・ブラシ(5)の。」【】),
表面に細かな凹凸を設け,全体をひだ状の口内上顎の形状に合った階段状に隆起し
た形状を設けることによって,舌,口内上顎の表面を傷つけることなく清掃するこ
とができる・・・(0007)との記載によれば,引用発明2のブラシ(5)。」【】
は,上記曲面で表される部分,すなわち,頂点だけでなく,舌,口内上顎用ブラシ
(1)の側面に接する部分まで含む部分で,口内上顎を清掃するものであって,そ
のブラシ(5)自体の上部だけでなく,その側部も,口内を清掃する機能を有して
いるから,このような引用発明2のブラシ(5)を,引用発明1に適用すれば,原
告らが主張するような効果を奏することは,当業者が容易に予測できたといえる。
したがって,引用発明1及び2と比較した本願発明による有利な効果を看過して
いるとの原告らの上記主張は失当であって,本願発明による効果も,引用発明1及
び2から当業者が予測し得た程度のものであって格別のものとはいえないとした審
決の判断に誤りはない。
3取消事由3(本件相違点の認定判断の誤り)に対して
(1)引用発明2の各ブラシ(5(隆起)は,舌,口内上顎用ブラシ(1)の一)
方の側面から頂点を通って反対側の他方の側面にわたる曲線となる(曲線が側面と
つながっている)断面を有するものである。したがって,引用発明1において,口
内用ブラシ2に置き換えて引用発明2のブラシ5隆起を設ける場合に(),()()
はブラシ5隆起の断面は側面とつながった曲線となるすなわち隆起,()(),。,
が,側面から連続して延びた構成となるから,本件相違点に係る構成が得られるこ
とになる。
本件相違点に係る構成は代替清掃具が使用者の前記舌及び前記口腔の内側を,「,
こすって滑らかにするために,第1端の前記剛毛によって覆われていないすべての
面から延在する複数の並行な隆起を含むというものであるがすべての面から延」,「
在する複数の並行な隆起」との記載は,上記のとおりの側面から連続して延びた隆
起も含むと解される。
(2)原告らは本件相違点に係る上記構成について側面に隆起が形成される構,,
成を意味するかのように主張する。
,,(),,しかし本願発明の実施例に相当する図1甲3をみると第1端16には
清掃具26と第1面18との間に清掃具26が存在していない領域があり,隆起2
6は側面とつながっているとも解され,隆起26は側面に形成されているとも解さ
れるから,少なくとも,上記の本件相違点に係る構成は,側面に隆起が形成される
構成のみを含むとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は,実施例の記載に反するものであり,失当であ
る。
(3)なお,審決が「上記ブラシ(5(隆起)の側面をどの程度にするかは,必)
要に応じて適宜設定される設計事項にすぎない(4頁29,30行)としたこと。」
は,上記相違点に係る構成が,複数の並行な隆起が側面に形成されていると解した
場合であっても,本件相違点に係る本願発明の発明特定事項が,容易に想到し得る
ものであることを示すために加えられた記載といえる。
すなわち引用発明2のブラシ5隆起が支持部4と一体成型されてお,()()()
り,ブラシ(5(隆起)は,側面から連続して延びており,ブラシ(5(隆起)))
は側面に隣接する部分でも口腔内側を清掃できるのであることも考慮すれば,側面
()(),に隣接する部分のブラシ5隆起を側面上まで連続して延ばす程度のことは
必要に応じて適宜なし得ることであり,そのことによる効果は,引用発明2の効果
の延長上のものとして当業者が普通に予測できた程度のものである。そして,側面
に隣接する部分のブラシ5隆起を側面上まで連続して延ばせば側面にもブ()(),
ラシ(5(隆起)の一部が形成されることになる。)
,,,()したがって引用発明1に引用発明2を組み合わせる際側面までにブラシ5
(隆起)を形成することは,当業者が必要に応じて適宜設定される設計事項という
ことができる。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(引用発明2の認定の誤り)について
(1)引用例2(甲2)には,次の記載が認められる。
ア「実用新案登録請求の範囲【請求項1】舌,口内上顎用ブラシ(1)は,柄(2)【】
とブラシ部(3)からなり,ブラシ部(3)表面に細かな凹凸を設け,全体に弾力性のある階
段状に隆起した形状を設けた舌,口内上顎用ブラシ」。
イ考案の詳細な説明0001産業上の利用分野この考案は舌の表面ならび「【】【】【】,
口内上顎表面を清掃するため,ブラシ部(3)表面に細かな凹凸を設け,全体に弾力性のある
階段状に隆起した形状を持たせた舌,口内上顎用ブラシに関するものである」。
「【】【】,(),()ウ0004課題を解決するための手段舌口内上顎用ブラシ1は柄2
とブラシ部(3)からなり,ブラシ部(3)は,柄(2)に対し舌,口内上顎の表面の清掃に
適した角度を設ける。/そして,ブラシ部(3)は,支持部(4)とブラシ(5)からな
り,全体の形状は,弾力性があり表面に細かな凹凸を持ち,口内上顎の形状に適した階段状の
隆起した形状のものである。/・・・」
エ「0005【作用】・・・そして,弾力性のある階段状に隆起した形状は,口内上【】
顎の形状に適したものなのでより一層傷つけることなく清掃することができる」。
オ「0006【実施例】以下,本案の実施例について説明する。/(イ)舌,口内【】
(),()()。()(),上顎用ブラシ1は柄2とブラシ部3からなる/ロブラシ部3は
柄(2)に対し口内上顎の清掃に適した角度を設け,全体の形状は階段状の隆起した形状を持
ち,口内上顎の形状に合ったものである。/(ハ)ブラシ部(3)は,支持部(4)とブ
ラシ(5)からなる。/(ニ)支持部(4)は,全体に弾力性を持たせるため哺乳びんな
どの飲み口に使用されているシリコンゴムを使用する。/(ホ)ブラシ(5)は,支持部
(4)と一体成型の構造で同じくシリコンゴムを使用し,ひだ状で口内上顎の形状に合った階
段状に隆起した形状からなる。/そして,表面に細かな凹凸を設けるためゴルフボールの
表面のような仕上りを設ける。/・・・」
カ0007考案の効果・・・ブラシ5の表面に細かな凹凸を設け全体をひだ「【】【】(),
状の口内上顎の形状に合った階段状に隆起した形状を設けることによって,舌,口内上顎の表
面を傷つけることなく清掃することができる(4頁24行∼5頁1行)。」
また図1∼3には舌口内上顎用ブラキ,,,
シ(1)において,隆起した形状の複数のブラ
シ(5)が並行に設けられていることが図示さ
,,,れこれらのうちその断面図である図3には
ブラシ部(3)が支持部(4)とブラシ(5)
からなり,ブラシ(5)が隆起した形状で曲線
の断面を形成していることが図示されている。
(2)以上の記載によれば引用例2においては隆起した形状の並行に設けられ,,
た複数のブラシ(5)が存在し,その隆起した各ブラシ(5)の断面外縁の曲線部
分の両端は,それぞれ,支持部(4)の両側面に接していることが認められ,各ブ
ラシ(5)は,舌,口内上顎用ブラシ(1)における支持部(4)の一方の側面か
ら頂点を通って反対側の他方の側面にわたる曲線となる断面を有し,口内上顎の形
状に合ったもので,このことが図1∼3に図示されていると認めることができる。
したがって審決が図1∼3には舌口内上顎用ブラシ1において隆,,「,,(),
起した形状の複数のブラシ(5)が平行に設けられ,各ブラシ(5)は,舌,口内
上顎用ブラシ(1)の一方の側面から頂点を通って反対側の他方の側面にわたる曲
線となる断面を有することが図示されている(3頁18∼21行)と認定したこ。」
とに誤りがあるとはいえない。
(3)これに対し,原告らは「ブラシ(5)を構成する個々の隆起は,互いに間,
隙を空けて配置されているのであるから,ブラシ(5)自体は,舌,口内上顎用ブ
ラシ(1)の側面を形成するものではない。舌,口内上顎用ブラシ(1)の側面と
は,柄(2)の先端部分及び支持部(4)で構成される側面をいうべきである。ブ
ラシ(5)自体は,舌,口内上顎用ブラシ(1)の側面を形成するものではないの
であるからブラシ5隆起が舌口内上顎用ブラシ1の一方の側面か,()(),,()
ら他方の側面にわたる曲線となる断面を有するとする認定は誤っていると主張す。」
る。
,,「,,(),しかしながら審決が図1∼3には舌口内上顎用ブラシ1において
隆起した形状の複数のブラシ(5)が平行に設けられ,各ブラシ(5)は,舌,口
内上顎用ブラシ(1)の一方の側面から頂点を通って反対側の他方の側面にわたる
曲線となる断面を有することが図示されているとするのはブラシ5がブ。」,(),
ラシ(1)における支持部(4)の一方の側面に接し,その外縁が曲線を描いてブ
ラシ(1)における支持部(4)の反対側の他方の側面までつながっていることを
認定したものと解され,ブラシ(5)自体がブラシ(1)の側面に形成されている
ことをいうものではないから,原告らの主張は,審決の説示を正解しないものとい
え,採用することができない。
2取消事由2(本願発明による効果の認定の誤り)について
(1)原告らは本願発明につき例えば下顎上顎の歯及び歯茎の清掃に際,,,()
して,ブラシの角度を持ち替えることなく,口腔内側面及び歯茎と側面との間の溝
部分に確実にフィットしてブラッシングできるという有利な効果を奏するのに対
し,引用発明1及び2には,このような効果が認められず,審決は,この点を看過
していると主張するので,以下,検討する。
(2)引用発明1について
ア引用例1(甲1)には,次の記載がある。
「【】【】,()(ア)0001産業上の利用分野この考案は従来の歯ブラシのブラシの部分1
の裏側の部分に,短めの口内用ブラシ(2)を付け,歯を磨くと同時に口内,舌等も磨ける様
にした両面歯ブラシである」。
(イ)0003考案が解決しようとする課題しかし従来の方法では下記のよう「【】【】,,
な欠点があった。/従来の歯ブラシでも歯,歯茎,舌などを簡単に磨く事が出来るが歯以
外の頬の裏側はブラシの部分が大きすぎて磨ぎ難くかった。また,磨く際に何度も歯ブラシも
。,。」持ち変える必要があった/本考案はこれらの欠点を除くためになされたものである
(ウ)0004課題を解決するための手段従来の歯ブラシの部分1の裏側の部「【】【】()
分に,短めの口内用ブラシ(2)を付けた両面歯ブラシ」。
(エ)0005作用この考案によって歯の外側を磨く際には同時に頬の裏側が磨「【】【】,
け,下顎の歯の裏側を磨く際には持ち変えずに上顎の口内を,また上顎の歯の裏側を磨く際に
は持ち変えずに下顎の口内,舌が磨けるようになった」。
(オ)「0006【実施例】以下,本考案の実施例について説明する。/(イ)従来の【】
歯ブラシのブラシの部分(1)の裏側の部分に,短めの口内用ブラシ(2)を付けた」。
(カ)0007考案の効果この両面歯ブラシを使用することにより下記の効果があ「【】【】
る。/(イ)これによって歯の外側を磨く際には同時に頬の裏側が磨ける。/(ロ)下顎の
歯の裏側を磨く際には持ち変えずに上顎の口内を磨く事ができる/(ハ)上顎の歯の裏側を。
磨く際には持ち変えずに下顎の口内,舌を磨く事ができる・・・」。
イ以上の記載によれば,引用発明1は,従来の歯ブラシのブラシの部分(1)
の裏側の部分に短めの口内用ブラシ(2)を付けることにより,歯を磨く際に,持
ち変えずに,上顎の口内,下顎の口内及び舌を磨くことができるようにするもので
あると認めることができる。
なお,未ブラッシング領域が生じないように口内の清掃を行おうとする際,清掃
時に多少の角度調整が必要となるが持ち変えずに・・・磨くとは持ち変え,「,」,「
ることなく,未ブラッシング領域が生じないように口内を磨くことができる」こと
を意味すると解することができる。
(3)引用発明2について
前記1(1)のとおり,引用例2において「ブラシ部(3)は,支持部(4)とブ,
ラシ(5)からなり,全体の形状は,弾力性があり表面に細かな凹凸を持ち,口内
上顎の形状に適した階段状の隆起した形状のもので0004弾力性のある」(【】),「
階段状に隆起した形状は,口内上顎の形状に適したものなのでより一層傷つけるこ
となく清掃することができ0005ブラシ部3は柄2に対し口」(【】),「(),()
内上顎の清掃に適した角度を設け,全体の形状は階段状の隆起した形状を持ち,口
内上顎の形状に合ったもので・・・ブラシ(5)は,支持部(4)と一体成型の構
造で同じくシリコンゴムを使用し,ひだ状で口内上顎の形状に合った階段状に隆起
した形状からなる0006ブラシ5の表面に細かな凹凸を設け全体」(【】),「(),
をひだ状の口内上顎の形状に合った階段状に隆起した形状を設けることによって,
,」(【】),舌口内上顎の表面を傷つけることなく清掃することができる0007こと
図1∼3には,舌,口内上顎用ブラシ(1)において,隆起した形状の複数のブラ
シ(5)が並行に設けられていることが図示され,これらのうち,その断面図であ
,()()(),()る図3にはブラシ部3が支持部4とブラシ5からなりブラシ5
が隆起した形状で曲線の断面を形成していることが図示されている。
上記記載によれば,引用例2のブラシ(5)は,支持部(4)と一体成型のシリ
コンゴムで構成され,支持部(4)の側面に連続して設けられた形状で,口内上顎
の形状に合ったものとされており,ブラシ(5)の側面にも口腔内を清掃する機能
を有し,舌,上顎の表面を傷つけることなく,効率的に清掃できるものであると認
めることができる。
(4)以上によれば引用発明1及び2はともに口腔内を磨くことが可能なブラ,,
シに関するものであるところ,従来の歯ブラシのブラシの部分(1)の裏側の部分
に短めの口内用ブラシ(2)を付けることにより,歯を磨く際に,持ち変えずに,
上顎の口内,下顎の口内及び舌を磨くことができるようにするものである引用発明
1に,ブラシ(5)の側面にも口腔内を清掃する機能を有するものであって,より
広範囲に口腔内を清掃することができるようになる引用発明2を適用すれば,原告
らが主張する本願発明の効果である「下顎(上顎)の歯及び歯茎の清掃に際して,
ブラシの角度を持ち替えることなく,口腔内側面及び歯茎と側面との間の溝部分に
確実にフィットしてブラッシングできるという効果」と同等の効果を奏するものと
認められ,この点につき,本願発明に格別の効果があるとの原告らの主張は,採用
できない。
3取消事由3(本件相違点の認定判断の誤り)について
(1)原告らは引用例2はブラシ5が偏平な支持部4の一方の面から,,()()
垂直方向に延在したひだ状の隆起によって形成されていることを示しているにすぎ
ず,舌,口内上顎用ブラシ(1)の側面には,何らの隆起物も延在しないから,こ
れを引用例1に適用しても,側面において隆起が設けられた本願発明の歯ブラシを
想到することはできないと主張するので,以下,検討する。
(2)本願発明について
ア本願明細書(甲4,5)には,次の記載がある。
(ア)「特許請求の範囲【請求項1・・・・・・d)前記代替清掃具が,前記使用者の前【】】
記舌及び前記口腔の内側をこすって滑らかにするために,前記第1端の前記剛毛によって覆わ
れていないすべての面から延在する複数の並行な隆起を含む全面口腔ブラシ(甲4・1頁2。」
2∼32行。下線は,当裁判所が付した。。)
「【】【】,,(イ)発明の詳細な説明0001技術分野/本発明は概して歯ブラシに関し
特に一方の側に従来の剛毛を有し反対側に代替alternate清掃具が配置され複数の交換,(),
可能な剛毛タイプ又は剛構造がその代替清掃具上に連結されるよう適応される口腔ブラシに関
する」。
(ウ)「0002】背景技術/本発明は,使用者の口腔を清掃するための全面口腔ブラ【
シからなる。本全面口腔ブラシは,第1面及び第2面を有する第1端を含むハンドルと,第1
,,,,面から延在する剛毛と第2面に結合された代替清掃具とを含み剛毛は使用者の歯を磨き
代替清掃具は使用者の舌及び口腔の内側を清掃する。代替清掃具は,舌及び口腔の内側をこす
(),,。って滑らかにするscrapeための1つ又は複数の平行な隆起・・・の形状であってもよい
・・・」
(エ)「0003】好適な実施態様の詳細な説明/ここで図面を記述的に参照すると,【
そこではいくつかの図を通して同じ参照文字が同じ要素を示しており,図1乃至図12は,概
して数字10で示される本発明の全面口腔ブラシを示す」。
(オ)0004図1には使用者が握時するための第2端判決注:第1端との記載「【】,(「」
は「第2端」の誤記と解した)14と使用者の口腔に挿入する第1端(判決注:第2端」と。「
の記載は第1端の誤記と解した以下同じ16とを有するハンドル12を含む全面口「」。。),
腔ブラシが示されている。第1端16の第1面18からは,使用者の歯をブラッシングする際
に使用される剛毛20が延在している。剛毛20は,従来からの歯ブラシに見られる剛毛と同
様である。第1端16の剛毛20と反対側の第2面22には,使用者の歯及び口腔の内側をこ
すって滑らかにし,こすり洗い(scrub,ブラッシングし及び/又はマッサージするために使)
用される清掃具24がある。清掃具24は,第1端16の剛毛20に覆われていない面に亙っ
て延在することにより,使用者の舌を清掃するよう全面に形成される。図1に示す清掃具24
は,一続きの平行な隆起26である」。
(カ)また図1甲3には全面口腔ブ,(),
ラシの第1端の第2面に清掃具24が設けら
れているが,清掃具24の隆起26は,第1
端の第1面の剛毛20に近接する側面の一部
には形成されていない様子が記載されてい
る。
イ以上によれば第1端の剛毛によって覆われていないすべての面から延在す,「
る並行な隆起を含む全面口腔ブラシ」との構成を有するものであるとされる本願発
明は,第1面から延在する剛毛と第2面に結合された一続きの隆起からなる代替清
掃具を有する全面口腔ブラシであって,第1面の剛毛により使用者の歯を通常の方
法で磨き,その後,舌及び口腔の内側を代替清掃具でこすり洗うものであるが,図
1のとおり,第1端の剛毛20に近接する側面の一部に,隆起26が形成されてい
ない部分が存在する場合を含むものである。
また,本願発明が対象とするブラシは,閉空間である口腔内を清掃するためのも
のであるから,たとえ一部に清掃手段の形成がない透き間があったとしても,全面
に清掃具が存在すれば,舌及び口腔の内側をこすって滑らかにでき,効率的な清掃
ができるという本願発明の目的を達成することが可能であると認められる。
そうすると,本願発明における,隆起が「剛毛によって覆われていないすべての
面から延在するとの意味は結局のところ第1端のうちの剛毛に覆われていな」,,「
い上面と両側面のすべての面から,透き間なく全面にわたって隆起が生じるように
構成されているという意味に限定されるものではなく第1端のうちの剛毛に覆」,「
われていない上面と両側面のすべての面に隆起が生じていない透き間が存在しない
ものではないとしても,そのすべての面に隆起が延在するように構成されている」
というものであると解することができる。
(3)一方前記1(2)及び2(3)のとおり引用例2には隆起した形状の並行に,,,
設けられた複数のブラシ(5)が存在し,その隆起した各ブラシ(5)の断面外縁
の曲線部分の両端は,それぞれ,ブラシ(1)における支持部(4)の両側面に接
し,各ブラシ(5)は,支持部(4)と一体成型のシリコンゴムで構成され,舌,
口内上顎用ブラシ(1)の一方の側面から頂点を通って反対側の他方の側面にわた
る曲線となる断面を有し,口内上顎の形状に合ったもので,ブラシ(5)の側面に
おいて口腔内を清掃する機能を有しているものであること,また,これによって,
舌,上顎の表面を傷つけることなく,効率的な清掃をできるようにしようとするも
のであることが認められる。また,清掃部を広範囲にすれば,それだけ同時に清掃
できる範囲が広がることになる。
さらに,引用発明2は,ブラシ(5)隆起が,側面から立ち上がり,頂点を通っ
て反対側の側面まで延びる形状によって効率的な清掃ができるというものであっ
て,この点については,本願発明における構成によって実現される目的と同一のも
のと認めることができる。
そうすると,引用発明2には,ブラシ(1)における支持部(4)の側面という
隆起のない部分が存在するが,一体成型のシリコンゴムで構成されているブラシ
(5)と支持部(4)との間の領域及び形状は,適宜変更されるものといえ,具体
的な製造において,ブラシ(5)を支持部(4)の側面にまで延長する形状とする
ことによって,清掃範囲を広げることは,当業者にとって自明な事項であると認め
ることができるそしてこのような構成は上記(2)イのとおりの本願発明にお。,,,
ける,隆起が「すべての面から延在する」との構成と同一である。
(4)以上によれば引用発明2のブラシ5を引用発明1における口内用ブ,(),
ラシ(2)に置き換えることにより,ブラシ(隆起)が「剛毛によって覆われてい
ないすべての面から延在する」ことになるから,引用発明2を引用発明1に適用す
,。,れば本願発明の歯ブラシを想到することができるものと認められるしたがって
原告らの上記主張は,採用できない。
,「()(),(5)原告らは審決が上記ブラシ5隆起の側面をどの程度にするかは
必要に応じて適宜設定される設計事項にすぎない4頁2930行と説示する」(,)
ことにつき,引用発明1に引用発明2を組み合わせた結果の歯ブラシのブラシ側ハ
ンドル端の側面に隆起を形成することが設計事項に該当するか否かを問題とすべき
ところ,審決は,ブラシ側ハンドル端ではなく,ブラシ側ハンドル端に設けられた
ブラシ5隆起の側面をどの程度にするかについての設計事項の問題であると()()
すり替えてしまっていると主張する。
しかしながら審決の上記説示は上記(3)の趣旨をいうものといえこの審決の,,,
判断に誤りがあるとはいえない。
4結論
以上によれば,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願発明が進歩性
を有しないとした審決の判断に誤りはない。
よって,原告らの請求は理由がないから,棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
本多知成
裁判官
田中孝一

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