弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 上告趣意とみなされる上告受理申立の趣旨について。
 論旨は、原判決が、検察官及び被告入側の量刑不当の控訴趣意に対し何等新らた
な証拠の取調べを為すことなく、訴訟記録並びに第一審において取り調べた証拠の
みによつて、いわゆる破棄自判の判決をしたことを以つて、刑訴法第四〇〇条但書
の解釈を誤つた違法があると為すものである。しかし、右規定には、それに「及び」
の辞句を用いているからといつて、控訴裁判所が訴訟記録並びに第一審で取り調べ
た証拠のみによつて直ちに判決することができると認める場合でも、常に新らたな
証拠を取り調べた上でなければ、いわゆる破棄自判ができない旨を規定しているも
のと解すべきではなく、むしろ、同規定は、控訴裁判所が自ら新らたにかかる取調
べを為すことができ、又これを為した場合には、それをも判決の資料と為すことが
できる旨を規定したものと解すべきである。もとより、量刑不当又は事案誤認の控
訴趣意を容れて、いわゆる破棄自判する場合において、若し控訴裁判所が訴訟記録
並びに第一審において取り調べた証拠だけでは不十分であると認めるときは、更ら
に、独自の立場において、新らたな証拠の取調べを実施すべきは勿論であり、殊に
本件のごとく、第一審において、被告人に懲役刑の執行猶予を言渡したのに対し、
控訴審においては、被告人に実刑を科せんとするがごとき場合においては、特に刑
の執行猶予を言渡すべき諸般の事情の存否等について、控訴審において、更に直接
取調をすることは望ましいことではあるけれども、控訴裁判所が特にその必要なし
と思惟するときにも、常にこれをしなければならず、従つてこれをしなければ違法
であるとの所論には、にわかに賛同することはできない。よつて論旨は理由がない。
 弁護人日沖憲郎の上告趣意について。
 下級審の無罪又は有罪判決に対し、検察官が上訴を為し、有罪又はより重い刑の
判決を求めることが、憲法第三九条に違反しないことは当裁判所の判例とするとこ
ろであつて(昭和二四年新(れ)第二二号、同二五年九月二七日大法廷判決参照)
今尚これを変更するの要を認めないから、所論はこれを採用することができない。
 弁護人草野豹一郎の上告趣意について。
 刑訴法第四一一条は、上告申立の理由を定めたものではなく、同法第四〇五条各
号に規定する事由がない場合であつても、上告裁判所が、原判決を破棄しなければ、
著しく正義に反すると認める場合における職権に基づく破棄理由を定めたものであ
ることは当裁判所の判例とするところである(昭和二四年新(れ)第五五号、同年
七月二二日大法廷決定参照)そして、刑訴法第四一一条を右の様に解釈したからと
て、同条を以て、被告人の弁護権を保障する憲法第三七条に違反した規定であると
いうことができないことも、当裁判所のいくつかの判例によつて明らかである(昭
和二二年(れ)第四三号、同二三年三月
 一〇日大法廷判決、同二二年(れ)第五六号同二三年二月六日大法廷判決、同二
五年(あ)第一四一七号、同年九月一九日第三小法廷判決参照)なお、論旨が、刑
訴法第四一一条の縁由する規定だと為す刑訴応急措置法第一三条第二項は、旧刑訴
法第四一二条乃至第四一四条所定の事由をもつて、上告理由とすることを許さない
という趣旨の外に、上告審をして同法第四三四条第三項に基づく職権調査の手続を
省かせるという趣旨をも含んでいるものと解すべきことも、当裁判所の判例とする
ところである(昭和二四年(れ)第一五八一号、同二五年一一月二九日大海廷判決
参照)したがつて、所論はすべて採用することができない。
 その他、本件については、刑訴法等四一一条を適用すべき事由も認められない。
 よつて、刑訴法第四〇八条に則り、裁判官全員一致の意見を以つて、主文のよう
に判決する。
  昭和二六年一月一九日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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