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裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告人らの上告理由について
民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法三一二条
一項又は二項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、違憲をいうが、その
実質は原判決に公職選挙法二七一条二項、一五条二項、八項の解釈の誤りがあるこ
とを主張するものであって、民訴法三一二条一項及び二項に規定する事由に該当し
ない。
なお、原審の適法に確定したところによれば、東京都議会は、平成九年七月六日
施行の東京都議会議員の選挙(以下「本件選挙」という。)に先立ち、同八年六月
二六日、最近の国勢調査である同七年一〇月実施の国勢調査による人口に基づき、
東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(
昭和四四年東京都条例第五五号。以下「本件条例」という。)の一部改正(以下「
本件改正」という。)をしたが、右国勢調査結果に基づく千代田区選挙区の人口を
議員一人当たりの人口で除して得た数(以下「配当基数」という。)は〇・三七五
であって、東京都議会は、本件改正に当たり、千代田区が我が国の政治的、経済的
中枢として担っている独自の意義、役割及び特別区制度における地域代表としての
議員の必要性等を考慮して、これを公職選挙法二七一条二項に基づくいわゆる特例
選挙区として存置することにしたというのである。千代田区選挙区の右配当基数は
いまだ特例選挙区の設置が許されない程度には至っておらず、他に、東京都議会が、
本件改正後の本件条例において千代田区選挙区を特例選挙区として存置したことが
社会通念上著しく不合理であることが明らかであると認めるべき事情もうかがわれ
ない。したがって、同議会が同選挙区を特例選挙区として存置したことは、同議会
に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができるから、本件改正後
の本件条例が千代田区選挙区を特例選挙区として存置したことは適法である。
そして、原審の適法に確定したところによれば、右国勢調査による人口に基づく
特例選挙区を除いたその他の選挙区間における議員一人当たりの人口の最大較差は
一対二・一五、特例選挙区とその他の選挙区間における右最大較差は一対三・九五
であって、いわゆる逆転現象は二〇通りあるが、定数二人の顕著な逆転現象は二通
りのみであり、右国勢調査による人口に基づく各選挙区の配当基数に応じて定数を
配分した人口比定数(公職選挙法一五条八項本文の人口比例原則に基づいて配分し
た定数)による議員一人当たりの人口の最大較差は、特例選挙区を除くその他の選
挙区間においても、特例選挙区とその他の選挙区間においても、本件条例の下にお
ける右の較差と同一の値となるというのである。公職選挙法が定める都道府県議会
の議員の選挙制度の下においては、本件選挙当時における右のような投票価値の不
平等は、東京都議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素を
しんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達し
ていたものとはいえず、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認する
ことができる。したがって、本件改正後の本件条例に係る定数配分規定は、公職選
挙法一五条八項に違反するものではなく、適法というべきある。
よって、裁判官福田博の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文の
とおり判決する。
裁判官福田博の反対意見は、次のとおりである。
一我が国憲法は、地方公共団体の組織に関する事項を法律で定めること及び議
会の議員は当該地方公共団体の住民が直接選挙すること等を定めている(憲法九二
条、九三条)が、ここに定める住民による直接選挙における投票の価値については、
憲法一四条に定める法の下の平等が国会議員の場合と同様に要請されるのであって、
有権者が当該地方公共団体の区域内のどこに住んでいるかによって投票価値に差異
を設けることは本来想定されておらず、この点については常に厳格に判断すること
が必要である。近代民主主義国家における代表民主制(我が国憲法の定める代表民
主制もその一つである。)にあっては、投票を通じて代表を選出する機会はそれぞ
れの有権者に平等に与えられなければならないのであって、この点こそが代表民主
制を機能させていく上で最も重要な原則である。
もちろん現実に一人一票の原則を貫徹することが困難であること(特に地方議会
については、公共の利益のためその例外を認めることが必要な場合があろう。)か
ら、選挙制度の決定に当たり地方議会にある程度の裁量の余地が与えられているの
が通例であるが、その裁量はあくまでも技術的なものの範囲にあることが原則であ
る。地方議会にあって、その地方内の一部地域特有の問題に対応するために、当該
一部地域の住民に代表を選出する権利を与えることが、その地方全体の公共の利益
に資すると認められる場合(ある地域に特有の又は利害が特に密接な問題について
議決を行うような場合が例として考えられよう。)にあっても、投票価値の平等が
憲法の要求する基本原則であることには何ら変わりがないのであって、具体的にど
のような例外が認められるかは、結局のところ個別の事例ごとに種々の要素を総合
的に考慮して判断することが必要であるとはいえ、例外を認めるべき裁量の幅は極
めて限られたものである。
公職選挙法は、都道府県の議会の議員の選挙区を、郡市の区域を単位とすること
を原則としつつも(一五条一項)、配当基数が○・五未満の選挙区については、こ
れを隣接する他の選挙区と合区すること(同条二項)、さらに、配当基数が○・五
以上であっても一に満たない選挙区についても、任意合区が認められること(同条
三項)を原則として規定している。これらの規定は、憲法の規定を受けて各選挙区
を通じて選挙人の投票価値の平等をできる限り実現することを目的としたものと考
えられるのであって、そもそも配当基数○・五を強制的な合区の基準とすることが
適切かどうかの点を別としても、選挙区を合区するかどうかを決するに当たっては、
当該選挙区の配当基数の数値が重要かつ基本的な要素となることを定めているとい
うことができよう。したがって、平成七年の国勢調査の結果によれば千代田区選挙
区の配当基数が○・三七五となったにもかかわらず、平成八年改正の本件条例が、
東京都議会議員の総定数については従前とほぼ同一の水準を保ちながら、公職選挙
法二七一条二項に基づき、千代田区に対し引き続き特例選挙区として一の議席を認
めたことが適法か否かは、同法の各規定及び憲法一四条に規定する投票価値の平等
を損なうものとならないかの観点から慎重に見極めることが必要となる。
二右原則に立てば、まず、地方議会議員の選挙にあって基本となる単一選挙区
に少なくとも一人の議員を選出することを認めるべき事情がある場合には、投票価
値の平等を確保するため、当該地方議会の議員の総定数を増加することにより他の
選挙区の投票価値の平等を確保することが考えられる。しかし、法律(地方自治法
九〇条二項)によれば、東京都議会の議員の総定数が既にほぼ限界に達しており、
このような方法で千代田区を特例選挙区として存続させることはできない。
次に、東京都の特別区部において昼間人口が夜間人口に比し最も多いのは千代田
区である(平成七年の国勢調査によれば常住人口の二七倍にあたる九五万人が昼間
人口である。)ことを根拠として千代田区を特例選挙区として議席を引き続き認め
ることが考えられる。千代田区における定住人口の減少は、国政の中心地であるこ
とや職住近接その他に基づく各種利便と公租公課等居住に係る経費、住民サービス
の内容等とを比較し、他の地域を住居地とすることを選好する者が増え、しかも、
職業上、昼間は都心に通勤しなければならない者が増えたことを示しており、その
こと自体は理解できない部分がないわけではないが、憲法に定める住民とはその選
挙区に住所を有する有権者であることはあまりに明らかである上、隣接する中央区
(平成七年の国勢調査によれば昼間人口は常住人口の約一一倍)、港区(同約五・
九倍)等も程度の差こそあれ同一の状況にあるのであり、右のような理由による裁
量が認められる余地は極めて小さいものというべきである。
さらに、千代田区が国政の中心地であることを特例選挙区として認める理由にし
ようとする向きもあるが、東京都の特別区制が設けられて以降、千代田区は常に国
政の中心地であったのであって、そのことで当初から特別扱いされてきたわけでは
なく、いずれにせよ、投票価値の平等という基本原則からの大幅なかい離を認める
根拠とはなりえない。
三次に、公職選挙法が、配当基数が○・五を下回るときは原則として合区をす
ることとしているのをどのように考えるべきか検討する。
都道府県議会の議員の定数、選挙区及び選挙区への定数配分に関する現行法の定
めからすれば、配当基数〇・五は、衆議院議員又は参議院議員選挙の際問題とされ
る選挙区間における議員一人当たりの人口の較差に換算すれば、現実に最大一対三
を超える較差の存在を認める数字に相当する。
投票価値の平等は憲法に定める代表民主制を担保する最も重要な原則であって、
実務上不可避に生ずる偏差以外には各有権者の投票の価値は可能な限り一対一に近
づけるべきであり、差異が認められるときでも国会ないし地方議会の裁量の余地は
極めて限られているというのが私の考えであるから、配当基数が○・五を下回ると
いう状態は、通常にあっては、もはや看過し難い程度にまで投票価値の平等が損な
われている場合に当たり、公職選挙法一五条二項に基づき当然に合区を行うべきも
のである。同法二七一条二項も基本的にこのような前提に立っているからこそ、右
の合区の義務を猶予するための特例を法文上明記したものであって、急激な人口異
動など過渡的状態に対応する必要な時間に限って緩和措置を認める趣旨の規定であ
ると解される。したがって、同項は長期にわたり是正措置を講じないことを認めて
いるわけではなく、憲法の定める投票価値の平等に照らせば、強制合区の例外が認
められる極端な場合にも、過渡的な激変緩和措置として当該選挙区の存置を一回限
り認めるといった理由にしかなりえない(そもそも同項が昭和四一年現在の選挙区
についてそのような特例を例外として認める理由は明らかでない。)。
ちなみに、若干の外国の例を見れば、米国連邦最高裁は、連邦議会下院議員選挙
については、極めて厳格に一人一票の原則を追求するのに比して、地方議会につい
ては、その特殊性等を考慮してより柔軟に偏差の発生の余地を認めている。しかし、
いくつかの判例を通じて見れば、偏差が大体一〇パーセントを超えないことを基準
としているようであり(連邦最高裁ブラウン対トムソン事件一九八三年六月二二日
判決・判例集四六二号八三五頁等)、これを超える偏差を認める例はわずかで、か
つ、若干の幅にとどまっている。また、フランス憲法院は、従来から、選挙権の平
等を確保するためには議決機関の議席の配分は人口比例を基本として行わなければ
ならない旨判示しており、都市計画等に関する一定の事務を処理するため複数の市
町村を構成員として設立される特別地方公共団体における議決機関の議席の当該各
市町村への割当てについても、当該議席の配分は各市町村の人口に比例して割り当
てられなければならないとした上で、小さな市町村にも最低一人の議席を配分する
ものとした法律の規定の合憲性につき、そのような配分方法も一定限度で公益にか
なうものであるところ、立法者は併せて総議席数を増加の上その余の議席を大きな
市町村に配分するものとしているのであり、これを全体としてみれば、各市町村へ
の最低一議席配分という考慮は人口比例による議席配分の原則と対比して極めて限
定されたものとなっているなどとして、当該法律の規定を合憲と判断している(憲
法院一九九五年一月二六日判決九四―三五八DC四八節及び四九節)。
要するに、これらの諸国の例に徴しても、配当基数〇・五は、投票価値の平等の
観点からみて既に十分に緩やかな基準というべきであり、それを更に緩和する地方
議会の裁量の幅はほとんど無いというべきである。公職選挙法一五条三項は、一方
で配当基数○・五以上までは独立の選挙区の設定を否定しないという十分に緩やか
な基準を法律上定めつつ、同時に配当基数が〇・五以上一・○未満の場合には任意
合区が積極的に推進されることを予定し期待していたと解釈するのが妥当であり、
かくして憲法一四条の要請との調和を図ったものと考える。私は、配当基数〇・五
ないしそれを下回る選挙区を定めることは、ほとんどの場合、そもそも憲法で許さ
れる裁量の幅を既に超えているのではないかとの疑念を強く持つが、配当基数○・
五を下回る選挙区を定めることが許される場合があるとの立場を採る場合であって
も、それは特段の事情に基づく極めて例外的かつ暫定的な場合にのみその可否が検
討されるべきもので(さもなくば適用違憲の問題を生ずる。)、憲法一四条の要請
との抵触を避けるためには、公職選挙法二七一条二項による例外は、特に十分な必
要性及び合理性がある場合に限り認められるものと解すべきである。本件条例が、
千代田区について、その配当基数が〇・三七五であるにもかかわらず、十分な必要
性の証明がなく、また、存置の期限も定めずに、特例選挙区として一議席を認め、
その結果最大較差一対三・九五という大きな偏差を認めたことは、代表民主制で貫
徹されるべき投票価値の平等原則を大きく損うものであって、東京都議会に与えら
れた合理的裁量の限界を明らかに超えており、違法と断ずべきものである。
国政選挙であれ、地方選挙であれ、投票価値の平等原則からのかい離は、本来認
められる余地は小さく、裁量による例外もあくまで極めて限定的にかつ時限的に認
められるべきものである。さもなくば、結局のところ例外の積み重ね又は是正の遅
れを生じさせ、そのような選挙によって選ばれたものがその裁量によって選ぶもの
(有権者)の投票の価値の軽重を決定することになる。それはとりもなおさず現状
の固定化又は現職者優位の制度を維持することにつながるのであり、司法がそのよ
うな裁量を認めることは、我が国憲法の定める代表民主制の基礎を揺るがすと私は
考える。
四以上のとおり、本件改正後の本件条例に係る定数配分規定は違法であり、こ
れを適法であるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があって、右
違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。したがって、原判決は変更を免れ
ないが、いわゆる事情判決の法理により、本件請求を棄却した上で、足立区選挙区
における本件選挙が違法であることを主文において宣言するのが相当である。
最高裁判所第二小法廷
裁判官河合伸一
裁判官福田博
裁判官北川弘治
裁判長裁判官根岸重治は、退官のため署名押印することができない。
裁判官河合伸一

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