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裁判例


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平成10年(行ケ)第304号 審決取消請求事件
平成11年11月2日口頭弁論終結
判決
原      告株式会社神戸珠数店
代表者代表取締役【A】
訴訟代理人弁理士【B】
同【C】
被      告有限会社ヤマダ
代表者取締役  【D】
訴訟代理人弁護士木内道祥
同谷池 洋
同弁理士【E】
主文
 特許庁が平成9年審判第20807号事件について平成10年8月19日にした
審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 主文と同旨
2 被告
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 被告は、意匠に係る物品を「根付け」とし、その形態を別紙のとおりとする、登
録第713926号意匠(昭和60年4月30日登録出願、昭和62年6月26日
設定登録。以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。
 原告は、平成9年12月8日、本件意匠の登録無効の審判を請求し、特許庁は、
平成9年審判第20807号事件として、これを審理した結果、平成10年8月1
9日に、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とす
る。」との審決をし、同月27日、その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
 審決の理由は、別添審決書の理由の写しのとおりである。要するに、本件意匠
は、仮に請求人(原告)提出の各証拠によって周知の形状が認められないとして
も、それに基づいて容易に創作をすることができたものではないから、意匠法3条
2項に規定する意匠に該当せず、また、請求人(原告)提出の本件意匠の登録出願
前に頒布された刊行物に記載された意匠に類似してもいないから、意匠法3条1項
3号にも該当せず、その登録を無効とすることはできない、とするものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 審決の理由中、第1(請求人の申立て及び理由)、第2(被請求人の答弁の趣旨
及び理由)は認め、第3(当審の判断)は、一部認める部分もあるが、全体として
は争う。
 審決は、本件意匠につき、創作の容易性の認定判断を誤り、また、新規性につい
ての認定判断を誤り、その結果、意匠法3条2項にも3条1項3号にも該当しない
と判断したものであり、違法であるから、取り消されるべきである。
1 取消事由1(意匠法3条2項該当性判断の誤り)
 本件意匠が、細紐の中央部に小さな輪を結び玉を介して形成し、その輪に丸玉
(浄明玉)を1個通し、結び玉の下部にもう一つの大きな輪を結び玉を介して形成
し、その大きな輪の左右にそれぞれ5個の丸玉(弟子玉)を通し、大きな輪の結び
玉の下部の左右の紐にそれぞれ5個の丸玉とその下に1個の瓶型玉を通し、その下
部に瓶型玉から頂部までよりやや短い長さの太紐を垂らし、その先端に、丸玉の約
2倍の径で結び紐状の大丸玉の態様の小田巻きを吊した構成態様のものであること
は、審決も認めるとおりである。
(1) 周知意匠の認定の誤り
 審決は、本件意匠のうちの先端の小田巻き部を除いた部分の形状及び先端の小田
巻き部の形状のいずれについても、その登録出願前に周知であったと認定しなかっ
たが、誤っている。
 甲第5号証(昭和59年8月20日株式会社井筒発行発行の「授与品 昭和59
年・カタログ」)の193頁に掲載されている(A)の数珠、194頁に掲載されて
いる(30)及び(33)の数珠、甲第6号証(平成2年6月15日東京美術発行の「東京
国立博物館図版目録 仏具篇」)の101頁に掲載されている(302)の数珠、甲第7
号証(昭和47年頃株式会社翠雲堂発行の「翠雲堂年報 昭和47年度 第19
号」)の45頁に掲載されている№134の数珠をよくみれば、本件意匠のうちの先端
の小田巻き部を除いた部分の形状が、本件意匠の登録出願前に周知であったことを
優に認定することができる。これらの証拠が不鮮明だとか、立証趣旨が不明だとか
を理由とし、これを確認せずに周知性を認めなかった審決は、不当である。
 甲第14号証(昭和57年1月1日株式会社安藤発行の「安藤商報 第436
号」103頁)、甲第22号証(大本山百萬遍知恩寺において昭和55年善導大師
1300年御遠忌記念に製作された「百萬遍数珠」の写真及び同数珠の由来の説明
文)から、房の先端を小田巻きとする数珠が存在したことが認められ、甲第3号証
の1ないし12(株式会社やまぐちの「56年度下半期製造指図書」等)、甲第1
2号証(昭和58年9月20日発行の意匠公報)、甲第20号証(1999年2月
10日日本放送出版協会発行の「NHK婦人百科 やさしい飾り結び」)によれ
ば、従前から、小田巻きを先端にした根付けが存在していたことが認められるの
で、本件意匠の先端の小田巻き部の形状は、数珠のものとしても根付けのものとし
ても、本件意匠の登録出願前に周知であったことが明らかである。
(2) 創作性についての判断の誤り
 審決は、創作性についての判断において、数珠の房部を根付けとすることの容易
性と、数珠の房型の根付けの先端部を小田巻きにすることの容易性に区分して、前
者については、請求人(原告)が、本件意匠の登録出願前に、数珠の房部を根付け
に応用したような例があったことを立証しておらず、また、職権調査によっても数
珠の房部を根付けとした例を発見することができなかったとして、これを根拠に、
数珠の房部を根付けとした着想は、いわば「コロンブスの卵」とも考えられるか
ら、一定の創作力を要するものであって、当業者において容易な創作ではないと判
断し、後者については、本件意匠が数珠の房部の形状を応用していることに関し
て、数珠の房部の形状は伝統的にかなり様式化され、その改変には宗教的制約もあ
ろうと考えられることからすれば、その房部に係る創作は比較的自由度が少なく、
房部の先端を元来の普通の房や鉱物製の玉のもの等しかなかったところにおいて、
小田巻きにした着想は、単なる交換や組み合わせとはいい切れず、たとい兼業者で
あっても一定の創作力を要するものであると認められると判断し、本件意匠が容易
に創作し得たことを否定した。しかし、これらの審決の判断は、次のとおり、すべ
て誤っている。
(イ) 数珠と装身具とをともに業の対象とする者にとって、周知の小田巻きの根付
けを出発点として、これに数珠の房部に見られるような形状を適宜組み合わせるこ
とによって本件意匠に至ることは、日常的になしている商業的変形にすぎず、何の
創作性をも必要としない。
 審決は、数珠の房部を根付けとした着想は、いわば「コロンブスの卵」であると
しているが、本件意匠は、根付けに係るものであるから、数珠の房部を創作性判断
の出発点とすべき必然性は全くない。審決が、数珠の房に関連づけて本件意匠の創
作性を判断したのは、不当である。
(ロ) 審決は、請求人(原告)が、本件意匠の登録出願前に、数珠の房部を根付け
に応用したような例があったことを立証しておらず、また、職権調査によっても数
珠の房部を根付けとした例を発見することができなかったとして、これを根拠に、
数珠の房部を根付けとした着想に創作性があると判断している。
 しかし、数珠の房部を根付けとした例が見当たらないとしても、そのことが直ち
にそのような根付けの意匠の創作困難性に結び付くものではない。なぜなら、数珠
の房部に用いられるものは、宗教界の影響が強かった時代の名残で、荘厳性に反す
るような用途に転用することを憚り、近年に至るまで、装身具的用途に転用するこ
とを差し控えてきたという事情があり、また、各宗派用の数珠は、種々ある房部と
組み合わせて、日常的変形によって、多数の形状の製品が作られてきたものの、そ
のうちで、現実に流通するのは需要者の趣向に合致したわずかな製品のみであり、
その他の多くは、カタログ等に掲載されることもなく、市場から姿を消していくの
が業界の実情であるという事情もあるからである。
(ハ) ひも状の物体において、その末端をほつれないように止めることは、日常的
になされることであり、装飾性を加味するため、組み紐、飾り結び又は数珠の房の
ように金具、撚り房様、切房様又は梵天、小田巻き様の飾りを付する方法で止める
ことも業者の技術的常識の範囲であって、これら公知のいずれの形態のものを使用
するかは、需要供給の関係に支配される日常的商業的変形の一種である。本件意匠
において、小田巻きを先端部とすることは、前述のとおり、数珠又は根付けによっ
て周知のものの転用にすぎず、なんらの創意工夫はなく、業者の日常的な技術的活
動の範囲内の事柄である。
2 取消事由2(意匠法3条1項3号該当性判断の誤り)
 本件意匠及び類似意匠をみると、いずれも輪、結び、弟子玉の数及び配列、瓶型
玉、先端部は、ほぼ同一の構成で、その先端部が小田巻きとなっている形状である
が、瓶型玉、弟子玉、紐の形状又は色彩を異にしている。意匠の要部とは、全体形
状として共通し、かつ、一見して特徴を示す部分であるから、本件意匠の要部は、
先端の小田巻き部である。
 そうすると、本件意匠の要部は、公知の刊行物である第3号証の1ないし12又
は甲第12号証の根付けの小田巻き状をなす部分と類似しているから、本件意匠に
は新規牲がなく、意匠としての創作性はないものである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(意匠法3条2項該当性判断の誤り)について
(1) 周知意匠の認定の誤りについて
 原告は、甲第6号証、甲第7号証に掲載の数珠から、本件意匠のうちの先端の小
田巻き部を除いた部分の形状の周知性を認定できると主張するが、これらの書証
は、いずれも不鮮明であり、審決の認定を覆すに足りない。
(2) 創作性についての判断の誤りについて
(イ) 原告は、数珠と装身具とをともに業の対象とする者にとっては、周知の小田
巻き根付けを出発点として、これに数珠の房部に見られるような形状を適宜組み合
わせることによって本件意匠に至ることは、日常的になしている商業的変更の範囲
に属するものにすぎず、何らの創作性をも必要としない旨主張する。
 しかし、原告は、公知の小田巻き根付けから本件意匠の根付けに想到し得るとす
る根拠を何ら示していない。従来、根付けを製造販売する当業者は、同様に数珠の
製造販売をする者であっても、根付けに数珠の房部に見られる編目、結び等を適宜
組み入れるようなことは行っていなかったのであり、そうであれば、公知の小田巻
き根付けから本件意匠の根付けに想到することも容易ではないはずである。したが
って、本件意匠は、数珠又は根付けの単なる商業的変形によるものではなく、審決
で示されたとおり、数珠の房部を根付けとした着想や先端を小田巻きとした着想に
創作力が認められ、容易に創作できたものでないことは明らかである。
 原告は、本件意匠は、根付けであるから、数珠の房部を創作性判断の出発点とす
べき必然性は全くない旨主張する。しかし、原告は、根付けを出発点として本件意
匠に想到する可能性について、全く根拠を示していないから、本件意匠が容易に創
作できたということはできない。
(ロ) 原告は、数珠の房部を模した根付けがなかったのは、宗教上の理由であって
創作の容易性とは関係がないなどと主張する。しかし、いかなる理由があるにせ
よ、数珠の房部を根付けとしたものが存在しなかったことは事実であり、それ自体
が、数珠の房部を根付けとすることの非容易性を示している。原告は単に数珠や根
付けの例を示すのみで、数珠の房部を根付けとすることが容易であることを証明す
る証拠を全く示していない。
(ハ) 原告は、紐を使用する物品において、その末端部がほつれないように止める
ことは、日常的になされることであるとし、本件意匠において、小田巻きを根付け
の先端部としたことは、単に紐部分の先端を止める手段としてごくありふれた小田
巻きを付けたにすぎず、なんらの創意工夫に値しないと主張する。しかし、原告の
主張は、紐の末端部を止める方法として小田巻きを付することが公知であり、創意
工夫を要しないといっているにすきず、数珠の房型の根付けの先端部を小田巻きに
することの非容易性に対する反論とはなっていない。
2 取消事由2(意匠法3条1項3号該当性判断の誤り)について
 原告は、意匠の要部とは、全体形状として類似意匠と共通し、かつ、一見して特
徴を示す部分であるから、本件意匠の要部は、先端の小田巻き部であって、公知の
刊行物である第3号証の1ないし12又は甲第12号証の根付けの小田巻き状をな
す部分と類似するから新規性はない旨主張する。しかし、意匠の類否判断は、全体
観察をもってすべきものであり、しかも、本件意匠と類似意匠とは、先端の小田巻
き以外にも、紐や玉の形態が共通していることが明らかであるから、先端の小田巻
きのみを要部として類否判断を行い、本件意匠が、公知の刊行物である第3号証の
1ないし12又は甲第12号証の根付けの小田巻き状をなす部分に類似するという
主張は、全く不当である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(意匠法3条2項該当性判断の誤り)について
(1) 本件意匠が、細紐の中央部に小さな輪を結び玉を介して形成し、その輪に丸玉
(浄明玉)を1個通し、結び玉の下部にもう1つの大きな輪を結び玉を介して形成
し、その大きな輪の左右にそれぞれ5個の丸玉(弟子玉)を通し、大きな輪の結び
玉の下部の左右の紐にそれぞれ5個の丸玉とその下に1個の瓶型玉を通し、その下
部に瓶型玉から頂部までよりやや短い長さの太紐を垂らし、その先端に、丸玉の約
2倍の径で結び紐状の大丸玉の態様の小田巻きを吊した構成態様のものであること
は、甲第1号証及び弁論の全趣旨で明らかであり、審決も認めるところである。
(2) 周知意匠の認定の誤りについて
(イ) 本件意匠のうちの先端の小田巻き部を除いた部分の形状の周知性
 甲第5号証(昭和59年株式会社井筒発行の「授与品昭和59年・カタログ」)
及び弁論の全趣旨によれば、「授与品 昭和59年・カタログ」の193頁の(A)
の数珠は、多数個の小玉と2個の親玉とを、中通し紐を使用して環状に連結して数
珠を形成し、この数珠の親玉のうちの1個には、その下部に1つの大きな輪を結び
玉を介して形成し、その大きな輪の左右にそれぞれ5個の丸玉(弟子玉)を通し、
大きな輪の結び玉の下部の左右の紐にそれぞれ5個の丸玉とその下に1個の瓶型玉
を通し、その下部に瓶型玉から頂部までと同程度の長さの太紐を垂らし、その先端
に、丸玉の約3倍の径で丸玉の態様の梵天房を吊した構成態様のものであることが
認められる。
 上記事実に、甲第6号証(平成2年6月15日東京美術発行の「東京国立博物館
図版目録 仏具篇」101頁)に掲載されている明治時代に製作された(302)の数珠
の形状をも考慮すると、本件意匠のうちの先端の小田巻き部を除いた部分の形状
は、その登録出願前に周知となっていたものと認められる。
(ロ) 先端小田巻き部の形状の周知性
 甲第3号証の1ないし12(株式会社やまぐちの「56年度下半期製造指図書」
等)、甲第12号証(昭和58年9月20日発行の意匠公報)によれば、遅くとも
本件意匠の登録出願当時には、根付けの先端を小田巻きとした形状が広く知られて
いたことが認められる。
 また、甲第22号証(大本山百萬遍知恩寺において昭和55年善導大師1300
年御遠忌記念に製作された数珠の写真及び数珠の由来の説明文)及び弁論の全趣旨
によれば、知恩寺では、昭和20年と同55年に巨大な数珠を製作し、これらをい
ずれも堂内の天井から吊り下げて参拝者が見ることができるようにしていること、
これらの房部の先端は小田巻きとなっていることが認められ、甲第14号証(昭和
57年1月1日株式会社安藤発行の「安藤商報 第436号」103頁)によれ
ば、昭和57年ころには、房部の先端が小田巻き状となった数珠がカタログに掲載
され、かつ、販売されていたことが認められ、これらの事実によれば、遅くとも本
件意匠の登録出願当時には、数珠の房部の先端を小田巻きとした形状が広く知られ
ていたことが認められ、したがって、小田巻き使用することは、根付けについても
数珠の房部の先端についても、本件意匠の登録出願前に周知の事実であったものと
いうことができる。
(3) 創作性についての判断の誤り
(イ) 前記認定のとおり、本件意匠の四つ目ひも房部の形状は、数珠のものとして
は、その登録出願前に周知となっていたものであり、また、小田巻きを根付けにも
数珠の房部の先端にも使用することも、本件意匠の登録出願前に周知の事実となっ
ていたものであるから、根付けと数珠の房部はともに飾りとしての共通の性質を有
することをも併せ考えるときは、これらを組み合わせて、本件意匠の形状に想到す
ることは、それを妨げる特別な事情が認められない限り、当業者にとって容易であ
ったことが明らかなものと判断すべきである。
(ロ) この点について、審決は、原告が、本件意匠の出願前に、数珠の房部を根付
けに応用したような例があったことを立証しておらず、また、職権調査によっても
数珠の房部を根付けとした例を発見することができなかったとして、これを根拠
に、数珠の房部を根付けとした着想は、いわば「コロンブスの卵」とも考えられる
から、一定の創作力を要するものであって、当業者において容易な創作ではないと
判断している。
 確かに、数珠の房部を根付けにした例が現実に見当たらないとの事実は、それ自
体、数珠の房部を根付けとする意匠的発想自体の非容易性を認定するための一つの
相当に有力な根拠になり得るものである。しかしながら、その例が現実に見当たら
ないことの原因としては、それに至る意匠的発想の非容易性しかあり得ないわけで
はなく、それ以外に、社会的、経済的要因なども考えられるところであるから、例
が見当たらないとの事実を決定的なものとして過大視することは許されないものと
いうべきである。
 他方、弁論の全趣旨によれば、本件意匠の登録出願当時、数珠と根付けをともに
業として扱う者は、被告を含めて数多く存在していたことが明らかであり、このこ
と自体、数珠と根付けとの間に商品としての密接な関連が存在することを物語るも
のであり、このような業者は、根付けにせよ数珠にせよ、その形状を細部にわたっ
て熟知していたものと認められる。そのことは、さらに、純粋に意匠的観点からみ
るときは、数珠を根付けに、あるいは、根付けを数珠に応用することを極めて容易
にするものというべきである。特に根付けに限っていえば、根付けが、数珠と異な
り、宗教的儀式に用いられるものではなく、煙草入れ、巾着などの紐の先端に付
け、これらを帯に挟んだ際の滑り止めなどとするものであることは、当裁判所に顕
著であり、したがって、その形状の選択に当たって、数珠のような宗教的制約を受
けにくいことは自明である。
 しかも、前記認定のとおり、先端小田巻きの形状が数珠にも根付けにも応用さ
れ、また、外形的にみると、数珠の房部も根付けも下げ飾りとしての機能を併せ持
っているといい得るものであるから、本件意匠のうちの先端の小田巻き部を除いた
部分について、数珠の房部の形状を根付けに利用するという意匠的着想を困難なら
しめる事情は見出せない。
 特に、甲第1号証及び乙第1号証ないし第3号証によれば、①被告は、平成6年
3月8日に本件意匠の類似意匠の登録出願をするに際し、当該意匠に係る物品を
「装飾用下げ飾り」とし、その説明において、「この物品は、ネックレス、ペンダ
ント、数珠、その他装身具に取り付けて用いるさげ飾りである。」と記載している
こと、②被告は、平成8年、意匠に係る物品を「根付け」あるいは「根付け」及び
「装身用下げ飾り」とする本件意匠を含む三つの意匠権(出願日はいずれも昭和6
0年4月30日)を根拠として、原告に対し、各登録意匠に類似する形状の下げ飾
りを取り付けた数珠の製造、販売の中止などを求める訴訟を提起し、確定勝訴判決
を得ていることが認められ、これらの事実によれば、被告は、平成6年当時、本件
意匠に係る物品の「根付け」が数珠の下げ飾り(すなわち、房部)にも用いられる
ものであると考えていたと思われ、しかも、意匠に係る物品として上記説明の加え
られた意匠を本件意匠の類似意匠として登録出願している以上、本件意匠の登録出
願当時においても、同様に考えていたものと思われ、このことも、数珠の房部の形
状を根付けに利用するという着想が困難なものとはいえないという事実を裏付ける
ものということができる。
 そうすると、たとい数珠の房部を根付けとした資料が見当たらないとしても、そ
の原因は、意匠としての着想の困難さ以外の社会的、経済的要因に求めるべきであ
り、数珠の房部を根付けとする着想が困難であったとの認定に結び付けることはで
きないものというべきである。以上のとおりであるから、審決の前記判断が誤って
いることは明らかである。
 また、審決は、本件意匠が数珠の房部の形状を応用していることに関して、数珠
の房部の形状は伝統的にかなり様式化され、その改変には宗教的制約もあろうと考
えられることからすれば、その房部に係る創作は比較的自由度が少なく、房部の先
端を、元来の普通の房や鉱物製の玉のもの等しかなかったところにおいて、小田巻
きにした着想は、単なる組合せや交換とはいい切れず、たとい兼業者であっても一
定の創作力を要するものであると判断している。
 しかしながら、本件意匠に係る商品は「根付け」であるから、本件意匠のうちの
先端の小田巻き部を除いた部分の形状に、先端の小田巻き部を組み合わせる発想が
生じ得るかどうかを検討すればよいのであって、数珠の房部の先端を小田巻きにす
るという着想の難易を論ずること自体、無意味なことというべきである。また、前
記認定のとおり、数珠の房部の先端を小田巻きにした形状が周知であったのである
から、「房部の先端を、元来の普通の房や鉱物製の玉のもの等しかなかった」との
前提も誤りである。
 そうすると、上記審決の判断も、誤っていることが明らかである。
(ハ) 以上、検討したところによれば、数珠のものとして周知となっていた、本件
意匠のうちの先端の小田巻き部を除いた部分の形状と、根付けのものとしても数珠
のものとしても周知となっていた、先端小田巻きの形状とを組み合わせ、これを根
付けとして、本件意匠に想到することは、当業者が容易になし得たものというべき
である。
2 そうすると、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理
由があることが明らかである。そこで、これを認容して審決を取り消すこととし、
訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文
のとおり判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官山 下 和 明
   裁判官山 田 知 司
   裁判官 宍 戸   充

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