弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     被告人の控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 検事及び弁護人の控訴趣意は別紙のとおりである。
 検事の控訴趣意について、
 本件記録に徴すれば被告人が昭和二十一年四月十四日住居侵入窃盗罪により旭川
地方裁判所において懲役七年未決勾留通算五十八日の判決を受け、昭和二十四年八
月二十三日網走刑務所から釧路刑務所(当時釧路刑務支所)に移監同所において服
役中本件傷害致死事件を惹き起し同年十一月二十六日起訴され同日右被告事件につ
いて勾留状の執行を受けたが前刑である前記住居侵入窃盗罪の刑はそのまゝ執行中
の為身柄を拘禁され原審が昭和二十五年六月五日本被告事件につき懲役一年未決勾
留通算九十日の判決の言渡をしたことは所論のとおりである。しかして甲事件につ
き言渡された懲役刑の執行を受くる者に対し乙事件につき勾留状を発し之を執行す
る場合においても之が為其の刑の執行を停止すべき法定の理由は生じないから、右
の場合においては一面甲事件についての懲役刑の執行があると同時に他面乙事件に
ついての未決勾留が存するものと解すべきである。
 <要旨>(大正十五年八月二日大審院決定刑集五巻四〇三頁参照)しかし右の懲役
刑の執行と未決勾留とは観念上併存するに止まり事実上は只懲役刑の執行と
しての一個の拘禁のみが存在するのであるから、右と同様な本件の場合において原
判決の如く未決勾留の本刑通算をなすことは不当に被告人に利益を与える結果を生
じ、むしろ違法な措置と謂うべきである。従つて原判決は刑法第二十一条の適用を
誤つた違法があり右の違法は判決に影響を及ぼすことが明白であるから論旨は理由
があり、原判決は破棄を免がれない。
 弁護人の控訴趣意第一点について。
 原判示事実は原判決挙示の証拠によつて之を認定するに十分であつて記録を精査
するも原判決には事実誤認を認むべき資料がない。弁護人の所論は原審の専権に属
する証拠の取捨其の価値判断を其の独自の見解に基ずいて攻撃するに過ぎない。論
旨は理由がない。
 弁護人の控訴趣意第二点について。
 原判示事実の認定が相当であることは前説示のとおりであつて、原審が刑法第二
百五条第一項を適用したのは当然であり、法令の適用を誤つたとは見られない、論
旨は理由がない。
 弁護人の控訴趣意第三点について。
 本件記録に現われた諸般の事情を綜合すれば原審が被告人に対し懲役一年を科し
たのは量刑相当である。弁護人の論旨は独自の見解に基ずくもので採用に値しな
い。
 右の次第で被告人の控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条により之を
棄却すべく、検事の控訴は理由があるから同法第三百九十七条により原判決を破棄
し、同法第四百条但書により更に判決する。
 原判決の確定した事実を法律に照すと被告人の判示所為は刑法第二百五条第一項
に該当するところ被告人には原判示事実認定の前科があるから同法第五十六条第一
項第五十七条に則り累犯の加重をなし情状憫諒すべきものであるから、同法第六十
六条第七十一条第六十八条第三号により酌量減軽した刑期範囲内で被告人を懲役一
年に処し刑事訴訟法第百八十一条第一項に則り当審における訴訟費用は全部被告人
の負担とする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 黒田俊一 判事 猪股薫 判事 鈴木進)

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