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裁判例


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主文
1()原告Aの訴えに基づき,処分行政庁が平成17年5月19日付けでした1
原告Aの住民票の記載をしない処分を取り消す。
()原告Aの訴えに基づき,処分行政庁は,原告Aの住民票を作成せよ。2
()原告Aのその余の訴えに係る請求を棄却する。3
2()原告B及び同Cの訴えのうち,処分行政庁が平成17年5月19日付け1
で原告Aに対してした住民票の記載をしない処分の取消しを求める訴え及び
処分行政庁に原告Aの住民票を作成することの義務付けを求める訴えをいず
れも却下する。
()原告B及び同Cのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。2
3訴訟費用は,これを3分し,その1を被告の負担とし,その余は原告らの負
担とする。
事実及び理由
第1請求
1原告A
()主文第1項()及び()と同旨112
()被告は,原告Aに対し,20万円及びこれに対する平成17年5月192
日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2原告B及び同C
()処分行政庁が平成17年5月19日付けで原告Aに対してした住民票の1
記載をしない処分を取り消す。
()処分行政庁は,原告Aの住民票を作成せよ。2
()被告は,原告B及び同Cに対し,各10万円及びこれに対する平成173
年5月19日から各支払済みまで年5パーセントの割合による金員をそれぞ
れ支払え。
第2事案の概要
本件は,父が子の出生届出に当たり「嫡出でない子」という表記を強制さ,
れることを回避しようと試みたところ,当該出生届が不受理となって,これを
理由に住民票の記載をしない処分をされたとして,当該子とその両親である原
告らが,住民基本台帳法8条,憲法14条等違反の違法を理由に,上記処分の
取消しを求めるとともに,当該子の住民票の作成の義務付けを求め,さらに,
上記処分により被った精神的損害につき,国家賠償法1条1項に基づき慰謝料
及びこれに対する上記処分日を起算日として完済までの民法所定の割合による
遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。
1関係法令
()住民基本台帳法1
ア市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ)は,常に,住民基本台帳。
を整備し,住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに,住
民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努
めなければならない(3条1項。)
イ市町村長は,個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して,住民基本
台帳を作成しなければならない(6条1項。)
ウ住民票の記載,消除又は記載の修正は,30条の2第1項及び第2項,
30条の3第3項並びに30条の4の規定(住民票コードの記載)による
ほか,政令で定めるところにより,この法律の規定による届出に基づき,
又は職権で行うものとする(8条。)
エ市町村長は,定期に,7条(住民票の記載事項)に規定する事項につい
て調査をするものとする(34条1項。市町村長は,34条1項に定め)
る場合のほか,必要があると認めるときは,いつでも7条に規定する事項
について調査することができる(同条2項。市町村長は,34条1項,)
2項の調査に当たり,必要があると認めるときは,当該吏員をして,関係
人に対し,質問をさせ,又は文書の提示を求めさせることができる(同条
3項。)
()住民基本台帳法施行令2
ア市町村長は,新たに市町村の区域内に住所を定めた者その他新たにその
市町村の住民基本台帳に記録されるべき者があるときは,7条2項に定め
る場合を除き,その者の住民票を作成しなければならない(7条1項。)
イ市長村長は,法の規定による届出があったときは,当該届出の内容が真
実であるかどうかを審査して,7条から前条までの規定による住民票の記
載,消除又は記載の修正を行わなければならない(11条。)
ウ市町村長は,法の規定による届出に基づき住民票の記載等をすべき場合
において,当該届出がないことを知ったときは,当該記載等をすべき事実
を確認して,職権で,7条から10条までの規定による住民票の記載等を
しなければならない(12条1項。)
市町村長は,次に掲げる場合において,7条から10条までの規定によ
り住民票の記載等をすべき事由に該当するときは,職権で,これらの規定
による住民票の記載等をしなければならない(同条2項。)
一戸籍に関する届書,申請書その他の書類を受理し,若しくは職権で
戸籍の記載若しくは記録をしたとき,又は法9条2項の規定による通
知を受けたとき
二∼七(省略)
市町村長は,住民基本台帳に脱漏若しくは誤載があり,又は住民票に誤
記若しくは記載漏れがあることを知ったときは,当該事実を確認して,職
権で,住民票の記載等をしなければならない(同条3項。)
2前提事実(掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
()原告らの身上関係1
原告B(以下「原告母」という。)と原告C(以下「原告父」といい,原告母
と併せて「原告父母」という。)は,婚姻届出をしていない夫婦であり,両
名を父母とする第一子のE平成▲▲年▲月▲▲日生と第二子の原告A(平()
成▲▲年▲月▲▲日生。以下「原告子」という。)とともに,本判決肩書地にお
いて親子4人で共同生活をしている(甲11ないし14。)
()原告子の出生届受理を巡る動き2
ア原告父は,原告子が平成▲▲年▲月▲▲日出生したので,同年4月11
日,世田谷区長に対し,差別的とされる「嫡出でない子」という表記を強
制されることを回避しようと考えて,あえて「父母との続き柄」欄に何ら
記載しないまま,届出人として原告父の住所,氏名等を記載し,署名,押
印の上「届出人」欄の「父」欄にレ印を記載し,その他の必要な事項を,
記載した出生届を,出生証明書等を添付した上で提出しようとした。しか
し,世田谷区長は「父母の続き柄欄の記載」及び「届出人」欄は父では,
ないとして,同出生届の補正を求めたところ,原告父において,これに応
ずることなく,いわゆる付せん処理(父母との続き柄を記載しないままで
あっても,届出書のその余の記載事項から添付の出生証明書の本人と届出
書の本人が同一人であることができれば,その認定事項(例えば,父母と
の続き柄中,父母との続き柄を「嫡出でない子・女」と認める等)を記載
した付せんを届書に貼付するという内部処理をして受理する方法)による
,。(,,対応も拒否したため当該届出を受理しなかった以上につき甲12
15,乙8)
イ原告父は,平成17年6月9日,上記アの不受理処分の取消し及び原告
子の出生届の受理を求めて不服申立てをしたが,東京家庭裁判所は,同年
12月2日,上記不受理処分に違法性がないとして,原告の上記不服申立
てを却下する審判をした(甲17,18。)
,,,ウ原告父は平成17年12月19日上記審判を不服として抗告したが
東京高等裁判所は,平成18年1月30日,原告父の抗告を棄却する決定
をした(甲19,20。)
エ原告父は,平成18年2月5日付けで,最高裁判所に対し,上記抗告棄
,,,却決定には憲法違反最高裁判所判例違反があるとして特別抗告したが
最高裁判所は,同年9月8日,原決定の単なる法令違反をいうもの又はそ
,,の前提を欠くものであるとして特別抗告事由に該当しないことを理由に
原告父の抗告を棄却する決定をした(甲21から23まで。)
()原告子の住民票記載を巡る動き3
ア原告父は,平成17年5月19日,世田谷区β総合支所において,世田
谷区長に対し,原告子の住民票の記載をするよう申出をした。世田谷区長
は,同日,原告子の出生届が受理されていないことを理由に原告子の住民
票の記載をしないこととした(以下「本件処分」という。)(以上につき,。
甲3,4)
イ原告父母は,その後も,世田谷区長に対し,原告子の住民票の記載を行
うよう求めたが,受け入れられないので,平成17年7月11日,世田谷
区長に対して本件処分の異議申立てをした。しかし,世田谷区長は,同年
8月30日「本件においては,出生届が提出されていないことから,処,
分庁は,住民票への記載を行わなかったものである「出生届が受理さ。」,
れていない者の住民票の取扱については,行政実例(平成元12.28.
自治振第98号兵庫県総務部長あて回答)があり,婚姻中に婚姻外の男。
との間に出生した子の出生届が受理に至らない件について,施行令第12
条第2項第1号の規定に従い,出生届を受理した後に職権で子に係る住民
票の記載を行う扱いを相当とするとされている」として,原告の上記異。
議申立てを棄却する決定をした(以上につき,甲1から4まで)。
ウ原告父母は,平成17年9月30日,東京都知事に対し,本件処分の取
消し,原告子の住民票の記載及び上記イの決定の取消しを求めて審査請求
したが,東京都知事は,同年12月27日,上記審査請求のうち,原告子
の住民票の記載及び上記イの決定の取消しを求めた部分を却下し,その余
の審査請求を棄却する裁決をした(甲5,8。)
エ原告らは,平成18年6月26日,本件訴えを提起した。
オなお,世田谷区においては,住民票の世帯主との続柄欄は,世帯主の子
であれば,嫡出性の有無にかかわらず,すべて「子」と記載されることに
なる。
3争点
本件の主要な争点は次のとおりであり,これらについて摘示すべき当事者の
主張は,後記第3の「争点に対する判断」記載のとおりである。
()取消訴訟関係1
ア原告父母の原告適格
イ本件処分の適法性
()義務付け訴訟関係2
ア原告父母の原告適格
イ「重大な損害を生ずるおそれ(行政事件訴訟法37条の2第1項)の」
有無
ウ実体要件の存否
()国家賠償請求の可否3
第3争点に対する判断
1争点()ア(取消訴訟関係−原告父母の原告適格の有無)について1
原告らは,住民基本台帳法1条が「住民の利便を増進する」と規定している
,,ことから本件処分の相手方である原告子以外の者である原告父母であっても
,,親権者あるいは父として原告子に関する行政上の手続を行う義務があったり
現に多くの手続を行っていることから,原告子の住民票の記載がされていない
ことにより不利益を被っているとして,本件処分の取消しを求める利益を有す
ると主張する。
しかしながら,原告父母の主張は,詰まるところ,住民票が住民の居住関係
に関して公証力を有するという,それ自体によって新たに国民の権利義務を形
成し,又はその範囲を確定する法的効果を有するものではないことを利益とと
らえ,原告子の親権者又は父であること自体を根拠とするにとどまり,実際に
,,法定代理人等として原告子のために各種行政上の手続を行っているとしても
原告父母においては,本件処分を争うについて,親であることに由来する事実
上の利益を超えた固有の利益があるわけではない。また,住民基本台帳法又は
その関係法令が,本件処分の名あて人たる原告子を離れて原告父母固有の利益
を保護すべきものとする趣旨を含むということもできない。
したがって,原告父母は,原告子の住民票を記載しない処分の取消しを求め
る法律上の利益(行政事件訴訟法9条1項)を有しているとはいえず,本件処
分の取消訴訟における原告適格を有しないといわざるを得ない。
2争点()イ(本件処分の適法性)について1
()ア被告は,住民基本台帳法8条が住民票の記載を届出又は職権による旨1
定め,前者の届出については住民基本台帳法施行令11条が,後者の職権
については同施行令12条がそれぞれ定めるところ,同条2項1号が,戸
籍に関する届書を受理した場合等に職権記載する旨規定していることか
ら,出生届が受理された場合には同号に該当し,職権で住民票を記載しな
ければならないが,住民基本台帳法においては,戸籍に関する事項につい
ては,戸籍に関する届出に基づいて職権記載を行うという仕組みになって
いることから,戸籍に関する届出がない者について職権記載を行うことは
制度上想定されておらず,実際上も戸籍に関する届出がなされなければ,
住民票の記載事項が確定しないので,原告子の出生届が受理されていない
以上,同号による住民票の記載を行わなかったものであり,本件処分は適
法であると主張する。
なお,被告は,行政実例(昭和35年6月15日,16日第13回栃木
県連合戸籍事務協議会決議・民事局変更指示(乙7,平成元年12月2)
8日自治振第98号自治省行政局振興課長から兵庫県総務部長あて回答
(要旨(甲6の資料3)も出生届の受理がない場合に住民票の記載を))
してはならないことを裏付けるものであるとする。
イ確かに,住民基本台帳法施行令12条2項1号は,戸籍に関する事項に
ついては,戸籍に関する届出の受理等がされた場合に市町村長が職権によ
って住民票の記載をしなければならない旨定め,その趣旨は,住民の届出
義務の軽減を図るとともに,住民票の記載を戸籍の届出に基づき記載する
ことによって,戸籍の記載と住民票の記載とを一致させ,もって,住民基
。,本台帳の記載の正確性を確保することを目的としたものと解されるまた
住民基本台帳は,住民の居住関係の事実と合致した正確な記録をすること
によって,住民の居住関係の公証,選挙人名簿の登録その他住民に関する
事務の処理の基礎となるものであり,その記載の正確性は住民基本台帳の
管理をゆだねられた市町村長がその責任において確保すべきものである。
出生届が受理されておらず,戸籍が作成されていない者については,戸籍
による身分事項に対する公証力も得られていないことから,当該住民が身
分事項を変更した住民票の記載を求めた場合に戸籍により確認することが
できない点や,名の変更に家庭裁判所の許可(戸籍法107条の2)が必
要ではないという点などにおいて,浮動的な側面があるといわざるを得な
い。したがって,市町村長が,出生届が受理されなかった住民について,
常に,その身分事項を職権調査し,その住民票を記載しなければならない
とすべきではなく,原則として,出生届の受理を待って住民票の記載をす
れば足りるものである。
ウ(ア)しかしながら,住民基本台帳は,住民に関する各種行政の基本とな
る重要な公簿であり,また,住民の個人情報を記録するものであること
から,市町村長に住民基本台帳の整備及びその記録の正確性の確保並び
に住民記録の適正な管理をゆだね(住民基本台帳法3条,法定の届出)
による場合のほか,職権による住民票の記載等を行う権限を与え(同法
8条その記載の正確性を担保するために調査権を与えていること同),(
法34)に加え,住民基本台帳法施行令12条各項の文言にかんがみる
と,これらは,市町村長が職権で住民票を記載しなければならない場合
を列挙しているにとどまり,同条各項以外の場合に職権記載することを
禁止する趣旨まで含むものではないというべきである。
なお,被告が挙げる前記各行政実例については,出生届が受理されな
ければ,どのような場合であっても住民票を記載してはならないという
ことについてまでも言及しているとはいえない。他の実例である昭和4
9年4月16日沖縄県地方課あて電話回答(甲6の資料5)では「出,
生届がなされていない者についても,住民票の記載を戸籍の届出を行わ
せるのと同時に行うこととしてもさしつかえないものと解される」と。
し,不受理となった場合には「職権により抹消すれば足りる」と留保が
あるものの,住民票の記載自体を認めていたりもする。
(イ)また,出生した子の住民票記載がされないことから生じる不利益に
ついても勘案する必要がある。この点につき,被告は,後記4の「重大
な損害を生ずるおそれ」に関してではあるが,区立幼稚園の就園におい
ては,住民票の記載がないことにより就園ができなくなるとはいえない
こと等,行政手続においては,別途居住関係を証明する手続を経る等の
方法によって,住民票に記載された者と同じく取り扱われることを指摘
し,証拠(乙1から6まで,9,10,13から20まで)及び弁論の
全趣旨によれば,原告子の世田谷区立幼稚園の入園や将来の区立小学校
への就学,仮に私立幼稚園に入学した場合の保護者に対する補助金の支
給,区営住宅への入居については,住民票の記載がない者であっても,
その実現自体が妨げられるものではないことが認められる。しかし,現
実的には,上記世田谷区の例においても,別途申立書や申出を必要とし
たり(区立幼稚園への入園承認(乙5,区立小学校への入学(弁論の)
全趣旨,世田谷区に「住民票の記載がないことにつきやむを得ない))
理由があると認め」てもらう必要があったり(私立幼稚園児の保護者に
対する補助金等。乙16,他の方法で区内在住の事実や使用者との家)
族関係を確認する必要がある(区営住宅の入居。乙20)など,差し当
たり問題となり得る行政手続において,原告子のように出生した子の住
民票の記載が行われないならば,代替手段として,その手続の都度必要
な申出を行い,また,要求に応じて居住関係を証明する必要な手段を講
じなければならないことになる。その他,転出証明書の発行,健康保険
や,年金の各手続,さらには,都営住宅への入居手続のほか,民間の賃
貸借契約における添付など,およそ,その居住関係の証明を必要とする
手続においては,住民票の提出等を求められることは容易に想定できる
,,ところこうした日常の社会生活の様々な場面における不利益の累積は
市民生活上看過できない負担ということができ,被告による上記主張は
このような負担の問題には何ら応えていない。さらに,将来的なことで
はあるが,出生した子が選挙権を行使し得る年齢に近くなれば,重要な
基本的な人権である選挙権の行使の前提としての選挙人名簿に登録され
るため,住民票が作成されるべき必要性は極めて高くなり(住民基本台
帳法15条1項,公職選挙法21条1項,42条1項参照,この点は)
住民票不作成の状態が継続すれば,いずれ回避できない重大な問題にな
るといわざるを得ない。
エそうであるとすれば,市町村長は,出生届が受理されておらず,その戸
籍が作成されていないときであっても,当該出生届出をする者が同届出に
係る住民の住民票の記載をあえて望み,前記イでみた住民基本台帳法施行
令12条2項1号の趣旨に反しないよう,市町村長に対して,住民票記載
事項については充足している出生届の提出行為があり,当該出生届出に係
る住民の住民票に記載すべき事項の正確性を添付資料等によって容易に確
認できる状況にあって,当該事項のうち身分事項につき前記イで指摘した
ような弊害が認められない場合には,当該出生届出に係る住民の住民票を
作成することができ,また,これを行う必要があるというべきである。そ
して,当該住民票作成の判断については,上記の要素に関して諸般の事情
を総合考慮した上で,個別・具体的な事案ごとに行われるべきものであっ
て,住民基本台帳を管理し,また,その記載事項について調査権を有する
市町村長の合理的な裁量にゆだねられていると解すべきである。
()そこで,上記()エの考え方を踏まえ,本件処分における世田谷区長の判21
断に裁量の逸脱又は濫用があるといえるか(行政事件訴訟法30条)につい
て検討する。
ア前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,この検討に
当たって必要となる事実として,次のような事実が認められる。
(ア)原告子は,平成▲▲年▲月▲▲日に原告父母の子として出生し,出
生後,本判決肩書地である原告父母の住所地に,原告父母及び姉のEと
居住している(前記前提事実()。1)
(イ)原告父は,原告子の住民票の記載だけでも行ってほしい旨要請した
が,世田谷区長は,戸籍に関する事項についての住民票の記載について
は,出生届が受理に至らない場合には記載することができないという解
釈を前提に,原告子の出生届が受理されていないことだけを理由に住民
票を記載しないと判断した(甲2,4,6,10。)
(ウ)原告父は,出生証明書を添付した出生届を提出していたが,同出生
届には「父母との続き柄」欄を記載しておらず「届出人」欄に父と,,
記載した不備があり,さらに,原告父が職員による付せん処理を断った
ことから,同出生届は受理されなかった(前記前提事実()ア,イ,甲2
12。同出生届には,上記不備以外に不備はなく(甲12,原告父))
は「届出人」欄の不備の訂正には応じる意向を有していたが「父母,,
との続き柄」欄の記載は,嫡出子と非嫡出子との区別をした記載をしな
,,ければならない点で出生による差別になるとの意見を有しておりまた
同欄を記載しない場合に職員により行われる付せん処理を是認すると,
,「」,「」第一子の出生届を提出した際の経験から同欄に嫡出でない子女
と記載することに等しいと考えていたため,その補正に応じなかったも
のである(甲37。)
イ上記アの事実からすれば,原告子の出生届出をした原告父は,その出生
届が受理されず,戸籍が作成されなくとも,原告子の住民票の記載は行っ
てほしい旨要請し,原告父母は,出生届の提出時に嫡出子であるか非嫡出
子であるかの申告を強制されるべきではないとの確固たる意見を有するこ
,「」「」とから原告父の提出に係る出生届には父母との続き柄欄と届出人
欄に不備があるものの,それ以外の原告子の身分事項の記載については,
何ら不備のない出生届を有効な出生証明書を添付した上で提出している。
また,出生間もない原告子が原告父母と居住し,その住所が間違いないか
どうかは,既に作成されている住民票からすれば容易に判明するものであ
ったことからすれば,住民票に記載すべき事項については,処分行政庁に
おいて,その正確性につき明らかであったといえる。また,上記出生届出
が不受理に至っ
た経緯や不受理となった出生届の記載内容からすれば,原告子の住民票の記
載が行われた場合に,原告子の身分事項が変動する蓋然性は極めて低いと
みることができる。
これらの事情を総合すれば,世田谷区長は,本件処分時において,例外
,,的な場合として原告子の住民票の記載をすべきであったにもかかわらず
世田谷区長が上記事情を基礎にした裁量判断を何らせず,形式的に,出生
届が受理されていないことを根拠として住民票に記載しない処分に至った
ことは,その裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものであって違法である。
したがって,原告のその余の主張(本件処分が,嫡出でない子の記載を拒
む者とそうではない者とを不当に差別するものであり,憲法14条,国際
条約(経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約,市民)
的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)及び児童の権利に関する条
約,世界人権宣言及び世田谷区子ども条例に違反すること)について判)
断するまでもなく,本件処分は取消しを免れない。
3争点()ア(義務付け訴訟関係−原告父母の原告適格の有無)について2
原告らの義務付けの訴えは,一定の処分を求める法令に基づく申請がされた
場合ではないことから,いわゆる非申請型の義務付け訴訟である(行政事件訴
訟法3条6項1号。非申請型の義務付け訴訟においては,行政庁が一定の処)
分をすべき旨を命ずることにつき法律上の利益を有する者が提起できるところ
(同法37条の2第3項,その法律上の利益の有無の判断については,取消)
訴訟における原告適格の判断に係る規定が準用されることからすれば(同条の
2第4項,前記1で本件処分の取消訴訟について判断したのと同様,原告父)
母には,原告子の住民票の作成の義務付けを求める法律上の利益がなく,当該
義務付け訴訟における原告適格がないといわざるを得ない。
4争点()イ(重大な損害を生ずるおそれ(行政事件訴訟法37条の2第12「」
項)の有無)
()本件の義務付け訴訟は,非申請型の義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条1
6項1号)であるところ,同訴訟は「処分がされないことにより重大な損,
害を生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるために他に適当な方法が
ないときに限り」訴えを提起することができ(同法37条の2第1項,そ)
の判断に当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮しつつ,損害の性質及
び程度並びに処分の内容及び性質を勘案すべきものとされている(同条の2
第2項。)
()前記2()ウ(イ)で検討したとおり,原告子は,各種の不利益を受けるも21
のであって,他方,求められている住民票を作成する処分は,住民票記載事
項が実態を正確に反映さえしていれば,当該処分をすること自体に特段の支
障もないことに加え,当該義務付け訴訟と実質的には裏腹の関係にある取消
訴訟が認容されるべきことにかんがみると,原告子においては,上記「重大
な損害を生ずるおそれ」の要件を満たすというべきである。
また,住民基本台帳法においては,住民が,出生届とは別個に住民票の記
載のみを市町村長に対して求める申請手続を法定しておらず,その点からす
ると,原告子の住民票の記載をしない処分の取消しを求める判決がされるこ
とによっても,必ずしも原告子の上記損害が回復されるとは限らないので,
「その損害を避けるために他に適当な方法がない」ということもできる。
5争点()ウ(実体要件の存否)2
行政事件訴訟法37条の2第5項は,裁判所が行政庁に処分をすべき旨を命
ずる判決をする場合につき「行政庁がその処分をすべきであることがその処,
分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分
をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる
とき」と規定する。
そして,前記2()イのとおり,本件においては,処分行政庁が,原告子の2
住民票の記載(作成)をすべきであったということができ,処分行政庁がこれ
をしないことは,裁量権の逸脱又は濫用であるといえる。
したがって,行政事件訴訟法37条の2第5項の規定に基づき,処分行政庁
に対し,原告子の住民票を作成すべき旨を命ずる判決をするのが相当である。
6争点()(国家賠償請求の可否)3
前記2()イのとおり,本件処分は違法であり,原告子の訴えに基づき,取2
消しを免れない。
しかしながら,国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当
たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に
損害を加えたときは,国又は公共団体がこれを賠償する責任がある旨規定して
いるところ,世田谷区長は,原告子の出生届が受理されていないことから,職
権で原告子の住民票の記載ができないことを理由に本件処分をしたものであ
り,出生届が受理されていない者の住民票の記載については,戸籍と出生届の
不一致を回避し,もって住民基本台帳の記載の正確性を確保するため,出生届
の受理を待って住民票の記載を行うことを原則的な対応とすべきであることは
前記2()イのとおりであって,原告父母の信条に基づく出生届の未提出との1
狭間で,次善策としていわゆる付せん処理による解決を提示したものの,これ
にも応じてもらえなかったことから,結局は,住民票の記載を拒むことになっ
て本件処分に至ったという経過(前記前提事実)にも照らすと,当該世田谷区
長がその職務上尽くすべき注意義務を尽くさず漫然と本件処分を行ったものと
は認め難いというべきであって,国家賠償法上の違法があるということはでき
ない。
第4結論
よって,原告子の訴えのうち,本件処分の取消しを求める訴え及び世田谷区
長に住民票作成の義務付けを求める訴えに係る請求は,いずれも理由があるか
ら,これらを認容し,その余の訴えに係る請求については,理由がないから,
これを棄却することとし,原告父母の訴えのうち,本件処分の取消しを求める
訴え及び世田谷区長に住民票作成の義務付けを求める訴えは,いずれも不適法
であるから,これらを却下し,原告父母のその余の訴えに係る請求は,いずれ
も理由がないから,これらを棄却することとして,訴訟費用の負担について,
行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条本文,61条,65条1項本文を適用
して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
大門匡裁判長裁判官
田徹裁判官吉
小島清二裁判官

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弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
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答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
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学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

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条件は以下のとおりです。
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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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