弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。                    
       上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人鳥飼重和ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)
について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,平成7年1月から同9年1月まで,D株式会社(以下「D社」
という。)の代表取締役を務めていた。D社は,米国法人であるE・インク(以下
「E社」という。)の日本法人として設立されたものであり,E社は,D社の発行
済み株式の100%を有している。
 (2) E社は,同社及びその子会社(以下,併せて「H」という。)の一定の執
行役員及び主要な従業員に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して,これ
らの者にE社のストックオプション(株式をあらかじめ定められた権利行使価格で
取得することができる権利)を付与する制度(以下「本件ストックオプション制度」
という。)を有している。本件ストックオプション制度に基づき付与されたストッ
クオプションについては,被付与者の生存中は,その者のみがこれを行使すること
ができ,その権利を譲渡し,又は移転することはできないものとされている。上記
ストックオプションの権利行使期間は付与日から10年間とされているが,被付与
者とHとの雇用関係が終了した場合には,原則として,その終了の日から15日間
に限りこれを行使することができるものとされている。また,上記ストックオプシ
ョンの被付与者は,付与日から6か月間はその勤務を継続することに同意するもの
とされている。
 (3) 上告人は,D社在職中に,本件ストックオプション制度に基づき,E社と
の間で,ストックオプション付与契約(以下「本件付与契約」という。)を締結し
,ストックオプション(以下「本件ストックオプション」という。)を付与された。
その際,上告人は,E社との間で,本件ストックオプションについて,その付与日
から1年を経過した後に初めてその一部につき権利を行使することが可能となり,
その後も一定期間を経た後に順次追加的に権利を行使することが可能となる旨の合
意をした。
 (4) 上告人は,平成8年から同10年までに,本件ストックオプションを行使
し,それぞれの権利行使時点におけるE社の株価と所定の権利行使価格との差額に
相当する経済的利益として,同8年中に4059万4875円,同9年中に1億5
522万8062円,同10年中に1億6372万0875円の権利行使益(以下
,併せて「本件権利行使益」という。)を得た。
 (5) 上告人は,本件権利行使益が所得税法34条1項所定の一時所得に当たる
として,平成8年分から同10年分までの所得税について,それぞれその税額を計
算して確定申告書を提出したところ,被上告人は,本件権利行使益が同法28条1
項所定の給与所得に当たるなどとして,同12年2月29日付けで,上記各年分の
所得税につき増額更正をした。その後,被上告人は,同年7月28日付けの異議決
定により,同8年分の所得税に係る増額更正の一部を取り消した。
 2 本件は,上告人が,上記各増額更正(平成8年分の所得税に係る増額更正に
ついては,上記異議決定により一部取り消された後のもの。以下,併せて「本件各
更正」という。)は本件権利行使益の所得税法上の所得区分を誤るものであるとし
て,本件各更正のうち本件権利行使益を一時所得として計算した税額を超える部分
の取消しを求めている事案である。
 3 【要旨】前記事実関係によれば,本件ストックオプション制度に基づき付与
されたストックオプションについては,被付与者の生存中は,その者のみがこれを
行使することができ,その権利を譲渡し,又は移転することはできないものとされ
ているというのであり,被付与者は,これを行使することによって,初めて経済的
な利益を受けることができるものとされているということができる。そうであると
すれば,E社は,上告人に対し,本件付与契約により本件ストックオプションを付
与し,その約定に従って所定の権利行使価格で株式を取得させたことによって,本
件権利行使益を得させたものであるということができるから,本件権利行使益は,
E社から上告人に与えられた給付に当たるものというべきである。本件権利行使益
の発生及びその金額がE社の株価の動向と権利行使時期に関する上告人の判断に左
右されたものであるとしても,そのことを理由として,本件権利行使益がE社から
上告人に与えられた給付に当たることを否定することはできない。
 ところで,本件権利行使益は,上告人が代表取締役であったD社からではなく,
E社から与えられたものである。しかしながら,前記事実関係によれば,E社は,
D社の発行済み株式の100%を有している親会社であるというのであるから,E
社は,D社の役員の人事権等の実権を握ってこれを支配しているものとみることが
できるのであって,上告人は,E社の統括の下にD社の代表取締役としての職務を
遂行していたものということができる。そして,前記事実関係によれば,本件スト
ックオプション制度は,Hの一定の執行役員及び主要な従業員に対する精勤の動機
付けとすることなどを企図して設けられているものであり,E社は,上告人が上記
のとおり職務を遂行しているからこそ,本件ストックオプション制度に基づき上告
人との間で本件付与契約を締結して上告人に対して本件ストックオプションを付与
したものであって,本件権利行使益が上告人が上記のとおり職務を遂行したことに
対する対価としての性質を有する経済的利益であることは明らかというべきである。
そうであるとすれば,本件権利行使益は,雇用契約又はこれに類する原因に基づき
提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして,所得税法28条1
項所定の給与所得に当たるというべきである。所論引用の判例は本件に適切でない。
 そうすると,本件権利行使益が給与所得に当たるとしてされた本件各更正は,適
法というべきである。
 4 以上と同旨の原審の判断は,是認することができる。原判決に所論の違法は
なく,論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田
豊三)

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