弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       (判決骨子)
1 原告らのうち六ヶ所村又は横浜町に居住する一四名は,本件施設に事故等が発
生した場合に直接的かつ重大な被害を受ける周辺住民と認められ,本件訴訟の原告
適格を有するが,その余の原告らは,本件施設の周辺住民には該当せず,本件訴訟
の原告適格を有しない。
2 ウラン濃縮は,原子炉等規制法が規制の対象とする「加工」に該当するから,
本件施設の設置許可処分は,同法における加工の事業にかかわる規制に関する規定
に基づくものといえる。
3 本件施設の設置許可処分の手続は原子炉等規制法その他の関係法規に基づいて
適法に行われている。また,申請者に所要の技術的能力があり,また本件施設につ
き核燃料物質による災害に対する安全対策が図られているとした原子力安全委員会
の審査及び判断の過程には,現在の科学技術水準に照らしても看過し難い過誤,欠
落はなく,この判断を基にして加工事業許可処分をした内閣総理大臣の判断に不合
理な点はない。
4 よって,原告らのうち提訴後死亡した一名については終了宣言をするととも
に,本件施設の周辺住民に該当する一四名以外の原告らの訴えを却下し,右一四名
の原告らの請求は理由がないから棄却する。
       (判決要旨)
第1 判決主文の要旨
1 本件訴訟のうち原告甲野太郎に関する部分は,同人の死亡により終了した。
2 原告乙野次郎外13名以外の原告ら(右甲野を除く。)の訴えをいずれも却下
する。
3 原告乙野次郎外13名の請求をいずれも棄却する。
第2 判決理由の要旨
1 原告らの本件訴訟における原告適格
 本件訴訟のうち,原告甲野太郎に関する部分は,同人が審理中に死亡したことに
より,当然に終了した。
 原告甲野太郎以外の原告らのうち,原告乙野次郎外13名(いずれも六ヶ所村及
び横浜町在住)は,本件施設に事故等が発生した場合に直接的かつ重大な被害を受
ける周辺住民と認められ,本件訴訟の原告適格を有する。これに対し,本件施設か
ら距離的に離れた地域に居住するその余の原告ら157名は,右の意味における周
辺住民には該当せず,本件訴訟の原告適格を有しない。
2 無効確認請求に対する判断
(1) 本件施設で行われるウラン濃縮は,核燃料物質である六フッ化ウランを,
原子炉である軽水炉で燃料として使用できるウラン235の高い組成の濃縮ウラン
とするために,遠心分離法という物理的方法により処理するものであるから,原子
炉等規制法2条6項にいう「加工」に該当する。
(2) 原子力基本法及び原子炉等規制法について,憲法13条,14条,25条
ないしは31条に反し違憲であるとすべき事由は認められない。
3 取消請求に対する判断
(1) 本件訴訟における審理,判断の対象,方法等
ア 原告らが取消事由として主張し得る違法は,原告らの生命,身体の安全等に関
するものに限られる。
イ 原子炉等規制法第3章所定の加工の事業に関する規制は,専ら加工事業の許可
等の同章所定の事項をその対象とするものであって,他の各章において規制するこ
ととされている事項までをその対象とするものでない。また,加工の事業の許可の
段階においては,専ら当該加工施設の基本設計のみが規制の対象となるのであっ
て,後続の設計及び工事の方法の認可手続や保安規定の認可手続等の段階で規制さ
れる事項は規制の対象とはならない。したがって,原告らの主張のうち,加工事業
許可の段階の安全審査の対象となる当該加工施設の基本設計の安全性にかかわらな
い事項についての主張は,それ自体失当である。
ウ 加工施設の安全性に関する判断の適否が争われる加工事業許可処分の取消訴訟
における裁判所の審理,判断は,原子力安全委員会等の専門技術的な調査審議及び
判断を基にしてされた内閣総理大臣の判断に,現在の科学技術水準に照らし,不合
理な点があるか否かという観点から行われるべきである。この場合,被告行政庁の
側において,まず,その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の
過程等,内閣総理大臣の判断に不合理な点のないことを相当の根拠,資料に基づき
主張,立証する必要がある。
(2) 本件処分の手続的適法性
 本件許可処分は,原子炉等規制法その他の関係法規に基づいて手続的に適法に行
われたものということができる。
(3) 技術的能力の審査の適法性
 申請者である原燃産業(当時)に加工事業を適確に遂行するに足りる技術的能力
があるとの内閣総理大臣の判断に,不合理な点があるとはいえない。
(4) 本件施設の安全性確保対策の審査の適法性
 原子力安全委員会は,本件施設ついて,大きな事故の誘因となる事象を避ける立
地が選定されているかどうかという基本的立地条件上の安全性,施設自体の事故防
止対策上の安全性,平常運転時における被曝低減対策上の安全性,仮に事故が発生
した場合にも一般公衆に対して過度の放射線被曝を及ぼさないという安全性,とい
う四つの観点から本件施設の安全性確保対策について審査を行ったが(本件安全審
査),いずれの観点からも本件施設の安全性は確保されるとした原子力安全委員会
の判断に看過し難い過誤,欠落はなく,この判断を基にした内閣総理大臣の判断
に,不合理な点があるとはいえない。
(5) 原告らが主張する主要な問題点について
ア 経理的基礎
 加工事業許可の要件のうち,加工事業の許可を受けようとする者に事業を適確に
遂行するに足りる経理的基礎を求める部分は,多額の資金を要する加工事業の円滑
な遂行を保障するに足りる財源的裏付けがあることを確保することを目的としてお
り,原告らの生命,身体の安全等に関する利益を直接に保護する趣旨ではない。し
たがって,右(1)のアで述べたところにより,原告らは,右要件に関する内閣総
理大臣の判断の適法性を争うことはできない。
イ 地盤・地震及び耐震性
 原子力安全委員会の,本件施設の敷地の地盤が本件施設の安全性を確保するに足
りるとした判断,本件施設の立地点で発生する最大の地震を震度5と想定し,これ
を前提として本件施設の耐震設計が本件施設の安全性を確保するに足りるとした判
断には,いずれも不合理な点はない。
 本件施設の立地点で発生すべき地震に関しては,過去のデータに基づき震度階を
想定すれば足り,周辺の活断層やプレート間地震ないしプレート内地震といった地
震学上の新しい知見等を考慮してより強い地震を想定していないことをもって,本
件安全審査が不合理ということはできない。また,本件施設について原子力発電所
と同等の高度な耐震設計は必要ではないし,阪神大震災で多くの建造物が倒壊した
事実を踏まえても本件施設の耐震設計が不十分であるとはいえない。
ウ 航空交通
 本件安全審査では,三沢基地,定期航空路及び三沢対地訓練区域(天ヶ森射爆撃
場)の存在が本件施設に及ぼす危険性は低く,特に三沢対地訓練区域で訓練を行う
航空機が1年の間に本件施設に墜落する可能性はおよそ百万分の1と判断されてい
るが,この審査結果に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。また,航空機の
墜落を想定して行われた墜落事故評価についても,実爆弾を搭載しないF16戦闘
機を想定し,誤射爆や落下物事故を対象としなかった点を含めてその条件設定につ
いて不合理とすべき点はなく,建屋の破壊の有無及び破壊がある場合の六フッ化ウ
ランの漏洩量と被曝線量についての本件安全審査の判断にも,看過し難い過誤,欠
落はない。
エ 臨界事故防止対策
 本件安全審査では,単一ユニットと複数ユニットの二つの観点から臨界安全に関
する安全設計につき検討が加えられ,核的制限値やユニット間に確保すべき間隔等
が妥当であると判断された。原告らは様々な異常事態を想定して臨界事故の危険性
を主張するが,いずれも本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過
誤,欠落があるとするには及ばない。
オ 平成6年2月7日に本件施設で発生したシーケンサ停止に伴う異常事象につい

 原告らは,本件施設にフェイル・セーフの設計思想が全く採用されていないこと
が右事象によって示されたと主張して,これを根拠に本件安全審査が違法であると
主張する。しかし,本件施設にはフェイル・セーフの考え方に基づいた機能や機構
が採用された箇所もあるから,原告らの主張は事実に反する。また,右事象の発生
後もカスケード設備が自動停止せず運転を継続したことは,確かに右設備にフェイ
ル・セーフの考え方が採用されていないことに起因するものではあるが,このこと
をもって直ちに本件安全審査に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。
カ JCO臨界事故
 JCO臨界事故は,作業員による意図的な作業工程の不遵守といった臨界管理を
殊更無視する態様で作業が行われたことが原因で発生したものであり,このような
技術的見地からは発生は想定されない作業従事者の杜撰な管理等に起因する事故の
可能性については,現行制度上,加工事業許可処分の段階でこれを審査する枠組み
にはなっておらず,臨界事故発生の事実をもってJCOの加工施設に関する安全審
査に過誤があると評価することはできない。本件安全審査も,これと同様に,技術
的にみて臨界を防止し得る対策を講じているか否かを判断したものであって,この
枠組みを前提とする以上,JCO臨界事故をもって本件安全審査の判断を不合理と
いうことはできない。
(判決全文(当事者目録は省略))
当事者の表示
原告 甲野太郎
   ほか171名
(詳細は別紙当事者目録(略)のとおり)
内閣総理大臣承継人
被告 経済産業大臣
       主   文
1 本件訴訟のうち原告甲野太郎に関する部分は,平成8年4月3日同原告の死亡
により終了した。
2 原告甲野太郎を除く原告らのうち,別紙当事者目録記載の番号52,53及び
63ないし74の原告らを除く者の訴えをいずれも却下する。
3 別紙当事者目録記載の番号52,53及び63ないし74の原告らの請求をい
ずれも棄却する。
4 訴訟費用は原告甲野太郎と被告との間で生じた分を除き原告らの負担とする。
 略語例
行訴法  行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)
設置法  原子力委員会及び原子力安全委員会設置法(昭和30年法律第188
号。ただし,平成11年法律第102号による改正前のものをいう。)
設置法施行令  原子力委員会及び原子力安全委員会設置法施行令(昭和31年政
令第4号。ただし,平成12年政令第140号による改正前のものをいう。)
規制法  核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法
律第166号。ただし,特に明記しないかぎり昭和63年法律第69号による改正
前のものをいう。)
規制法施行令  核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令
(昭和32年政令第324号。ただし,特に明記しないかぎり昭和63年政令第6
1号による改正前のものをいう。)
加工事業規則  核燃料物質の加工の事業に関する規則(昭和41年総理府令第3
7号。ただし,昭和63年総理府令第41号による改正前のものをいう。)
加工施設技術基準  加工施設の設計及び工事の方法の技術基準に関する総理府令
(昭和62年総理府令第10号。ただし,昭和63年総理府令第41号による改正
前のものをいう。)
線量当量限度等を定める件  試験研究の用に供する原子炉等の設置,運転等に関
する規則等の規定に基づき線量当量限度等を定める件(昭和63年科学技術庁告示
第20号)
許容被曝線量等を定める件  原子炉の設置,運転等に関する規則等の規定に基づ
き,許容被曝線量等を定める件(昭和35年科学技術庁告示第21号。ただし,昭
和63年科学技術庁告示第20号により廃止。)
核燃料施設基本指針  核燃料施設安全審査基本指針について(昭和55年2月7
日原子力安全委員会決定。ただし,平成元年3月27日原子力安全委員会決定によ
る改正前のものをいう。)
加工施設指針  ウラン加工施設安全審査指針について(昭和55年12月22日
原子力安全委員会決定。ただし,平成元年3月27日原子力安全委員会決定による
改正前のものをいう。)
本件許可申請  日本原燃産業株式会社が昭和62年5月26日付けで内閣総理大
臣に対してした六ケ所ウラン濃縮工場核燃料物質加工事業許可申請(ただし,昭和
62年12月8日付け,昭和63年5月16日付け及び同年6月27日付けをもっ
て1部補正がされたもの)
本件許可申請書  本件許可申請に当たり日本原燃産業株式会社が内閣総理大臣に
対して提出した六ケ所ウラン濃縮工場核燃料物質加工事業許可申請書(ただし,昭
和62年12月8日付け,昭和63年5月16日付け及び同年6月27日付けをも
って1部補正がされたもの)
本件許可処分  内閣総理大臣が昭和63年8月10日付けで日本原燃産業株式会
社に対してした六ケ所ウラン濃縮工場核燃料物質加工事業許可処分
本件施設  本件許可処分に係る加工事業のための加工設備及びその附属施設とし
て日本原燃産業株式会社六ヶ所事業所に設置される六ヶ所ウラン濃縮工場
本件安全審査  内閣総理大臣及び原子力安全委員会が本件許可申請について規制
法14条1項3号の要件の適合性についてした審査
安全審査書  内閣総理大臣が本件許可申請の規制法14条1項3号の要件適合性
について審査した結果を取りまとめた文書
原燃産業  日本原燃産業株式会社
日本原燃  日本原燃株式会社
動燃事業団  動力炉・核燃料開発事業団(現在は核燃料サイクル開発機構)
JCO  株式会社ジェー・シー・オー
JCO事故  JCO東海事業所転換試験棟で平成11年9月30日に起きた臨界
事故
ICRP  国際放射線防護委員会
もんじゅ最高裁判決  最高裁判所平成4年9月22日第3小法廷判決・民集46
巻6号571頁
伊方最高裁判決  最高裁判所平成4年10月29日第1小法廷判決・民集46巻
7号1174頁
       事実及び理由
第1部 前提事実等
第1 請求
1 原告ら
(1)主位的請求
 本件許可処分が無効であることを確認する。
(2)予備的請求
 本件許可処分を取り消す。
2 被告
(1)本案前の答弁
 本件訴えをいずれも却下する。
(2)本案の答弁
 原告らの請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
 本件は,原燃産業(現在の日本原燃)が青森県上北郡六ヶ所村における六ヶ所ウ
ラン濃縮工場の建設のため規制法13条に基づいてした核燃料物質の加工事業許可
申請に対し,内閣総理大臣が昭和63年8月10日に加工事業許可処分をしたこと
に関して,全国各地に居住する原告ら172名が,主位的に上記処分の無効確認を
求めるとともに,予備的にその取消しを求めている事案である。本件においては,
本案前の争点として,原告適格が主位的請求及び予備的請求でともに争われている
(第2部第1章)ほか,本案の争点としては,主位的請求では本件許可処分の憲法
上及び法律論上の問題点(同第2章)が,予備的請求では審理判断の枠組みに関す
る法律論(同第3章)及び本件許可処分の手続的,実体的適法性(同第4章,第5
章)が,それぞれ争われている。
第3 本件許可処分に至る経緯等(当事者間に争いがない。)
(1) 昭和62年5月26日  原燃産業は,内閣総理大臣に対して本件許可申
請をした。内閣総理大臣は,申請を受けた後直ちに,その指揮の下に所部の機関で
ある科学技術庁に上記申請に係る審査を行わせ,これを受けて科学技術庁は,審査
を開始し,本件許可申請の規制法14条1項3号の許可要件への適合性については
適宜加工・使用安全技術顧問会の意見を聴取しながら審査を進めた。
(2)     12月 8日  原燃産業は,申請の1部補正をした。
(3)     12月16日  科学技術庁は,本件許可申請が規制法14条1
項各号の許可要件に適合すると判断した。
 内閣総理大臣は,上記意見を付して,同項1号及び同項2号のうち経理的基礎に
係る部分の許可要件への適合性については原子力委員会に,同項2号のうち技術的
能力に係る部分及び同項3号の許可要件への適合性については原子力安全委員会
に,それぞれ諮問した。
(4)     12月17日  原子力安全委員会は,規制法14条1項2号の
うち技術的能力に係る部分について自ら審査を行う一方,同項3号の許可要件への
適合性については核燃料安全専門審査会に調査審議を指示した。
(5)     12月22日  第29回核燃料安全専門審査会が開催され,担
当部会として第23部会を設置した。
(6) 昭和63年5月16日  原燃産業は,本件許可申請の1部補正をした。
(7)      6月27日  上記同
(8)      7月13日  核燃料安全専門審査会第23部会は,11回に
わたる調査審議を経て結論を出し,部会報告を決定した。
 第32回核燃料安全専門審査会が開催され,上記報告を受けて調査審議の結果,
許可後の安全性は確保し得るものと判断し,その結論を原子力安全委員会に報告し
た。
(9)      7月21日  原子力安全委員会は,内閣総理大臣に対し,本
件許可申請に対する規制法14条1項2号のうち技術的能力に係る部分及び同項3
号所定の許可の基準の適用は妥当なものと認める旨答申した。
(10)     7月22日  原子力委員会は,内閣総理大臣に対し,本件許
可申請に対する規制法14条1項1号及び同項2号のうち経理的基礎に係る部分に
規定する基準の適用は妥当なものと認める旨答申した。
(11)     7月27日  内閣総理大臣は,この日から同年8月9日まで
の間,本件許可処分をするに当たりあらかじめ通商産業大臣に協議した。
(12)     8月10日  内閣総理大臣は,原燃産業に対し,本件許可処
分をした。
(13)    10月 7日  原告らは,内閣総理大臣に対し,本件許可処分
について異議申立てをした。
(14)平成元年 7月13日  原告らは,本訴を提起した。
第4 当事者等(当事者間に争いがない。)
1 原告ら
 原告らは,近くは本件施設がある青森県上北郡六ヶ所村,遠くは鹿児島県指宿市
と,全国各地に居住する者であり,本件施設からその居住地までの距離は,約1.
5キロメートルから1500キロメートル余りまでと様々である。
2 被告
 平成13年1月6日の中央省庁等改革関係法施行法(平成11年法律第160
号。)904条による改正により,規制法13条,14条に基づく加工事業許可は
被告の権限とされるとともに,上記施行法1301条1項により,同法が施行され
た平成13年1月6日の前に規制法の規定に基づき内閣総理大臣がした加工事業許
可は被告がしたものとみなされることとなった。これにより,内閣総理大臣が昭和
63年8月10日にした本件許可処分も,現在は被告がしたものとみなされ,被告
は,その無効確認訴訟及び取消訴訟につき被告適格を有している(行訴法38条1
項・11条1項)。
3 申請者
 本件許可申請をした原燃産業は,平成4年7月1日に日本原燃サービス株式会社
と合併し,日本原燃となった。
第5 本件事案の基礎となる事情(乙5,6,弁論の全趣旨)
1 原子力発電の仕組み
 ある種の質量数の大きい元素の原子核が二つの同程度の質量数を持つ原子核に分
裂する現象を核分裂といい,その際,大きなエネルギーが放出される。このような
核分裂を起こし得る原子核に中性子が当たると核分裂が極めて起こりやすくなり,
また,核分裂の際には原子核から中性子等が放出される。
 したがって,一定の条件の下で核分裂性(核分裂を起こしやすい性質)の物質に
中性子を照射すると,その物質中のいくつかの原子核が核分裂を起こし,その核分
裂により更に中性子が放出されて他の原子核の分裂を起こさせるというように連鎖
反応が続き,それに伴い莫大なエネルギーが生じる。これが現在実用化されている
原子力エネルギー利用の基本原理であり,上記のような連鎖反応を制御してエネル
ギーを取り出すための装置が原子炉である。
 原子炉で生じたエネルギーで蒸気を作り,この蒸気でタービンを回し,タービン
によって発電機を回して電気を起こすのが原子力発電の基本的な仕組みである。こ
の蒸気を電気に変える仕組みは,火力発電と同様である。
2 核燃料サイクルの仕組みと意義
 現在国内で実用化されている原子力発電所は,原子炉内でエネルギーを取り出す
ための核分裂性の物質,すなわち核燃料として,ウランを用いている。核燃料物質
であるウランは,ウラン鉱石の採鉱から始まり,製錬,転換,濃縮,再転換,成型
加工を経て核燃料となり,原子炉に装荷し発電に使用される。この利用後の使用済
核燃料には,高レベル放射性廃棄物である核分裂生成物のほか,核燃料として再度
利用が可能なウラン及びプルトニウムが含まれており,再処理という過程によりこ
れらの物質を取り出せば,これを核燃料として再び利用することが可能となる。こ
のような,核燃料を原子力発電所で使用した後に再処理を経て再び原子力発電所で
利用するという,核燃料の流れが循環する過程が,「核燃料サイクル」と呼ばれて
いるものである。
 現在国内で進められている一般的な核燃料サイクルの概略は,次のとおりであ
る。
(1) 「採鉱」
 ウラン鉱石(粗鉱)を鉱山から採掘することである。ウラン鉱石にはウランが通
常0.1ないし0.3パーセント程度しか含まれていない。
(2) 「製錬」
 ウラン鉱石からウランを取り出して精製を行い,ウラン鉱石をイエローケーキと
呼ばれる八酸化三ウランのウラン精鉱にする工程である。
(3) 「転換」
 ウラン濃縮のために,八酸化三ウラン等のウラン化合物を六フッ化ウランにする
工程である。
(4) 「濃縮」
 六フッ化ウラン中の,ウラン235と呼ばれるウランの同位体のウラン全体量中
に占める割合を高める工程である。
(5) 「再転換」
 濃縮された六フッ化ウランを成型加工のために粉末状の二酸化ウランにする工程
である。
(6) 「成型加工」
 粉末状の二酸化ウランを焼き固め,ペレットと呼ばれる状態にし,これを金属製
の被覆管に封じ込め,原子炉に装荷するために燃料集合体として組み立てる工程で
ある。
(7) 「再処理」
 使用済核燃料を燃え残りのウラン及び新たに生成された核分裂性の物質であるプ
ルトニウムと,高レベル放射性廃棄物であるその他の核分裂生成物とに分離する工
程である。再処理によって回収されたウラン及びプルトニウムは,転換や濃縮等の
工程を経ることによって再び核燃料として利用することができる。
3 ウラン濃縮
(1) ウラン
 ウランは原子番号92の元素であり,ラジウム,トリウム等と並んで天然に存在
する放射性元素の一つである。
 ウランには人工のものも含めれば10種類以上の同位体が存在するが,天然ウラ
ンは,ウラン238,ウラン235,ウラン234の3種類の同位体の混合物であ
り,その存在比はそれぞれ約99.27パーセント,約0.72パーセント,約
0.0056パーセント(約0.0054パーセントとする文献もある。)であ
る。
(2) 六フッ化ウラン
 六フッ化ウランは,ウランとフッ素との化合物の一つで,不燃性で爆発性もない
が,腐食性を有する放射性物質である。水と反応し,フッ化水素とフッ化ウラニル
という物質を生ずる。大気圧下では,常温で白色の固体であり,摂氏56.5度で
昇華(固体が液状になることなく直接に気体になること)するが,加圧して加熱す
ると液化する。ガス拡散法又は遠心分離法等によるウラン濃縮には,この六フッ化
ウランが用いられる。
(3) ウラン濃縮の意義と必要性
 質量数の大きい元素の原子核でも核分裂性のものは限られており,また,同じ元
素の同位体でもすべてが核分裂性であるわけではない。天然ウランを構成する三つ
のウランの同位体のうち,ウラン235は核分裂性が高く,ウランを核燃料物質と
して利用するに当たり重要な役割を果たしているが,天然ウラン中に約0.72パ
ーセントしか含まれていない。これに対し,天然ウラン中の約99.27パーセン
トを占めるウラン238は,ウラン235に比べて核分裂性が極めて小さい。
 原子炉においては,核燃料物質に対して外部から中性子が供給されなくても,核
燃料物質自体の核分裂反応によって生じた中性子により更に核分裂が生じる核分裂
の連鎖反応が一定の状態で持続される臨界状態が維持される必要がある。ところ
で,原子炉には種々の型があり,ウラン235を約0.72パーセントしか含んで
いない天然ウランを核燃料として利用することのできる型の原子炉もあるが,現在
国内の実用発電用原子炉の大勢を占める軽水型原子炉(軽水炉)では,核分裂の連
鎖反応を起こしやすくするための減速材(核分裂によって生じた高速の中性子の状
態では,次の核分裂を生じさせる確率が低く,核分裂の連鎖反応が続かないため,
中性子の速度を遅くする機能を果たすもの。)及び原子炉の冷却材として用いられ
る軽水(普通の水のこと。水素の同位体である重水素を含む重水と区別する意味で
軽水と呼ばれる。)の中性子を吸収する性質が強いため,ウラン235の含有率が
低い天然ウランのままでは,臨界状態を維持することはできない。そこで,ウラン
を核燃料とする軽水炉においては,全ウラン中のウラン235の存在比を,天然ウ
ランの状態の約0.72パーセントから,2ないし4パーセント程度に高めたウラ
ンを燃料として用いる必要がある。
 このように,ウランを軽水炉で使用するためには,ウラン中のウラン235の割
合を一定の濃度まで高める濃縮という工程が必要となる。この工程によってウラン
235の存在比を天然ウランより大きくしたウランを,濃縮ウランという。また,
この濃縮の結果,ウラン235の存在比が天然ウランより小さくなったウランも生
じるが,これを劣化ウランという。
(4) ウラン濃縮の方法
 現在,ウランの濃縮法としては,遠心分離法,ガス拡散法,レーザー法,化学交
換法等が知られているが,本件施設で用いられているのは,遠心分離法である。
 遠心分離法は,高速で回転している円筒の中に気体状にした六フッ化ウランを供
給したときに,ウラン235とウラン238とのわずかな質量の差から,質量の大
きいウラン238が遠心力で円筒の外側に多く集まり,中心に近いところではウラ
ン235の割合が増えてくる原理を用いたもので,このウラン235がわずかに増
えた部分を取り出し,同じことを多数回繰り返すことによって濃縮ウランを作り出
す方法である。
(5) 我が国におけるウラン濃縮技術と事業
 現在,我が国は,ウラン濃縮役務の大部分を,米国エネルギー省(DOE)や,
フランスを中心とした国々の共同出資により造られた濃縮企業体である欧州ウラン
濃縮機構(ユーロディフ)との契約により確保している。しかし,他方では,国内
でのウラン濃縮の事業化が進められてきている。
 国内における遠心分離法によるウラン濃縮については,昭和30年代から,動燃
事業団(当初はその前身である原子燃料公社)が中心となってその研究を進め,昭
和47年度からは国のプロジェクトとして開発が推進された。
 動燃事業団は,岡山県人形峠において,昭和54年9月にパイロットプラントの
一部運転を開始した後,昭和57年3月末には約50トンSWU/年(ウラン濃縮
の分離作業能力をいい,単位時間当たりの分離作業量(分離作業単位SWUを単位
とする。)で表され,工場等の規模を表すのに用いられる。)以上の能力で全面運
転を開始し,平成2年3月末まで各種の試験研究を行ってきた。
 さらに,動燃事業団は,遠心分離機の量産技術の確立,プラント設備の合理化等
により濃縮プラントの信頼性,経済性の向上を図るため,商業プラントに先立って
原型プラントの建設を進め,昭和63年4月にその第一期分が100トンSWU/
年の能力で操業を開始,翌平成元年5月にはその第二期分が操業を開始している。
 本件施設は,原燃産業が,これらの成果を踏まえて建設した商業プラントであ
る。
第6 本件施設の概要(甲558,乙75,弁論の全趣旨)
1 本件施設の位置
 本件施設を設置する日本原燃六ケ所事業所は,青森県北東部の下北半島南部の上
北郡六ヶ所村大石平に位置する。同事業所から近接集落の野附地区までの距離は,
約1.5キロメートルである。
2 本件施設の機能等
 本件施設は,発電用原子炉の燃料として供給する濃縮ウラン(最高濃縮度5パー
セント)を遠心分離法により製造するものである。
 本件施設は,昭和63年10月に建屋工事に着手され,平成4年3月に操業が開
始された。分離作業能力は,操業開始当時は150トンSWU/年であったが,そ
の後のカスケード設備(配管により接続された遠心分離機群)等の増設に伴う向上
により,平成10年10月以降は1050トンSWU/年となっている。
 また,本件施設におけるウランの貯蔵能力は,ウラン量に換算すると,その貯蔵
専用区域であるウラン貯蔵庫においては,濃縮ウラン85トン,天然ウラン510
トン,劣化ウラン1810トンであり,このほか加工工程内の保管区域においても
濃縮ウラン77トン(ウラン量換算)を貯蔵できる。
3 工程
 本件施設における工程は,以下のとおりである。
(1) 原料の貯蔵
 本件施設の原料は天然ウランであり,六フッ化ウランの形で鋼鉄製容器(以下
「原料シリンダ」という。)に入れられて,ウラン貯蔵庫で一時保管される。
(2) 脱気
 原料の入った原料シリンダを発生槽に装着し,シリンダ内の圧力及び発生槽内の
温度を測定して原料六フッ化ウランの純度を調べ,純度が低い場合は必要に応じて
シリンダ内の不純ガスを含む気体を排出する脱気を行い,原料六フッ化ウランの純
度を高める。
(3) 発生
 発生槽に装着した原料シリンダを温水で加熱することにより六フッ化ウランを気
化し,六フッ化ウランガスを発生させる。
(4) 濃縮
 発生工程で発生させた六フッ化ウランガスは,配管によりカスケード設備に供給
され,遠心分離機により製品六フッ化ウランガス(濃縮ウラン)と廃品六フッ化ウ
ランガス(劣化ウラン)に分離される。
(5) 製品六フッ化ウランの捕集・回収
 カスケード設備で分離された製品六フッ化ウランガスは,コールドトラップ(六
フッ化ウランを冷却し凝固させて捕集する設備)により捕集される。捕集された製
品六フッ化ウランは,コールドトラップを加熱することにより気化され,冷却した
鋼鉄製容器(以下「中間製品容器」という。)に移送し,回収される。この中間製
品容器は,あらかじめ製品回収槽に装着されている。
 また,コールドトラップで捕集されなかった微量の六フッ化ウランは,排気系統
においてケミカルトラップ(吸着剤の化学的性質を利用して特定の物質を捕集する
機器で,本件施設では六フッ化ウランの吸着を目的として吸着剤にフッ化ナトリウ
ムを用いるものとフッ化水素の吸着を目的として吸着剤にアルミナを用いるものの
2種類がある。)により捕集される。
(6) 廃品六フッ化ウランの回収
 カスケード設備で分離された廃品六フッ化ウランガスは,廃品コンプレッサで昇
圧された後,冷却した鋼鉄製容器(以下「廃品シリンダ」という。)に移送され,
回収される。この廃品シリンダは,あらかじめ廃品回収槽に装着されている。
(7) 均質処理及び濃縮度測定
 中間製品容器を均質槽に装着し,加熱することにより,容器内の六フッ化ウラン
を液化し,均質化(濃縮度のばらつきをなくすこと)する。その後,この液体状態
の六フッ化ウランの一部をサンプルシリンダに抜き出し,更にサンプルチューブに
小分けして,濃縮度及び純度の測定が行われる。これらの均質処理を終了した製品
六フッ化ウランは,間接冷却される。
 均質処理工程では,本件施設内で最も高温高圧の条件下で六フッ化ウランが取り
扱われ,最高使用温度は摂氏94度,その場合の六フッ化ウランの飽和蒸気圧は1
平方センチメートル当たり2.7キログラム重,すなわち約2.6気圧である。
(8) 濃縮度調整
 均質処理及び濃縮度測定を行った製品六フッ化ウランは,必要に応じ,濃縮度調
整が必要な製品六フッ化ウランと原料六フッ化ウラン又は濃度が既知の製品六フッ
化ウランとを混合する方法により濃縮度調整を行う。濃縮度調整を終えた中間製品
容器は,再度均質処理及び濃縮度測定を行う。
(9) 製品六フッ化ウランの充填
 均質処理及び濃縮度調整を終えた製品六フッ化ウランの入った中間製品容器を均
質槽に装着し,加熱することにより製品六フッ化ウランを気化し,冷却した鋼鉄製
容器(以下「製品シリンダ」という。)に移送し,充填する。この製品シリンダ
は,あらかじめ製品シリンダ槽に装着されている。
(10) 製品六フッ化ウラン及び廃品六フッ化ウランの貯蔵
 製品六フッ化ウランは製品シリンダに充填された状態で,また,廃品六フッ化ウ
ランは廃品シリンダに充填された状態で,それぞれウラン貯蔵庫に貯蔵される。
4 本件施設の設備等
 本件施設における主要な建屋としては,ウラン濃縮建屋,ウラン貯蔵建屋,ウラ
ン濃縮廃棄物建屋及び補助建屋があり,本件施設の主要な設備はウラン濃縮建屋に
設置されている。ウラン濃縮建屋は,中央操作棟,発回均質棟及びカスケード棟に
分かれており,中央操作棟には,中央制御室,常用電源室,非常用電源室,管理排
水処理室,分析室等が配置され,発回均質棟には発生回収室及び均質室が配置され
ている。また,カスケード棟にはカスケード室,中間室及び高周波電源室が,ウラ
ン貯蔵建屋にはウラン貯蔵庫及び搬出入棟が,それぞれ配置されている。
 本件施設の主要な設備としては,カスケード設備,六フッ化ウラン処理設備,均
質・ブレンディング設備及び高周波電源設備がある。このうち,カスケード設備は
遠心分離機で,高周波電源設備は高周波インバータ装置で構成され,それぞれカス
ケード室及び高周波電源室に配置されている。六フッ化ウラン処理設備は,発生
槽,製品回収槽,廃品回収槽,各種コールドトラップ,各種ケミカルトラップ,フ
ッ化ナトリウム処理槽及び廃品六フッ化ウラン用のコンプレッサで構成されてお
り,そのほとんどは発生回収室及び中間室に配置されているほか,一部のケミカル
トラップは均質室に配置されている。均質・ブレンディング設備は,均質槽,製品
シリンダ槽,原料シリンダ槽,減圧槽,コールドトラップ,各種ケミカルトラッ
プ,サンプル小分け装置,中間製品容器及び工程用モニタで構成され,いずれも均
質室に配置されている。
 本件施設における工程のうち,脱気,発生,製品六フッ化ウランの捕集・回収及
び廃品六フッ化ウランの回収(前記3の(2),(3),(5),(6))は六フ
ッ化ウラン処理設備で,濃縮(同じく(4))はカスケード設備で,均質処理,濃
縮度調整及び製品六フッ化ウランの充填(同じく(7),(8),(9))は均
質・ブレンディング設備でそれぞれ行われ,原料,製品六フッ化ウラン及び廃品六
フッ化ウランの貯蔵(同じく(1),(10))はウラン貯蔵庫で行われる。
第7 放射線及びウランの性状(甲2,499,乙7,8,弁論の全趣旨)
1 放射線,放射能及び放射性物質
 放射線とは,アルファ線,ベータ線,中性子線等の粒子線(原子,中性子,電子
等の粒子が細い幅でほぼ一定の方向に飛ぶ流れ)と,ガンマ線,エックス線等波長
の非常に短い電磁波との総称である。
 陽子数と中性子数の割合が不適当であったり,陽子数がある程度以上多いという
理由により安定に存在することができない原子核は,原子核内で変化が起こり,何
らかの粒子やエネルギーを放出する。このとき放出される粒子やエネルギーは放射
線であり,放射線の種類は,原子核の変化の仕方に応じて異なっている。
 そして,このように原子核の状態が変化して放射線を出す能力を放射能といい,
放射能を有する物質を放射性物質という。
2 放射線に関する量と単位
 放射線に関する量としては,放射線量,線量当量及び放射能量等があり,その単
位としては,グレイ,シーベルト,ベクレル等がある。
 物質が吸収した放射線量(吸収線量)は,ある物質が放射線の照射によりエネル
ギーを吸収したときのその物質の単位量当たりのエネルギー量であり,その物質1
キログラム当たり1ジュールのエネルギーを吸収したときにその吸収した放射線量
を1グレイ(Gy)という。グレイは国際単位系に属しており,このほかに吸収線
量を表す単位としてはラド(rad)があり,1ラドは1.0×10のマイナス2
乗グレイに相当する。
 放射線の人体に対する生物学的影響は,同じ吸収線量(グレイ値)の場合でも,
放射線を受ける組織の感受性が様々で,放射線の種類やエネルギーによっても影響
力が異なることから,放射線被曝の影響を計る共通の尺度として,人体に対する生
物学的影響を表す放射線量(線量当量)が用いられ,単位はシーベルト(Sv)で
ある。シーベルトはグレイと同じく国際単位系に属しており,このほかに線量当量
を表す単位としてレム(rem)があり,1レムは1.0×10のマイナス2乗シ
ーベルトに相当する。なお,線量当量に関しては,放射線の人体に与える影響が放
射線を受ける組織によって異なるため,各組織が受けた線量当量に組織ごとに定め
られた係数を乗じて補正したものの合計値として実効線量当量という概念が用いら
れるほか,ある特定の組織(例えば眼の水晶体)が受けた平均的な線量に線質係数
(放射線の人体に与える影響が放射線の種類及びエネルギーによって異なることか
ら,この違いを補正するための係数)を乗じたものとして組織線量当量という概念
もある(単位は同じ。)。
 放射能量は,単位時間当たりの原子核の崩壊数に着目して表される放射性物質の
量であり,原子核が1秒間当たり1個崩壊する放射性物質の量(放射能量)を1ベ
クレル(Bq)という。ベクレルは,国際単位系で定められた単位で,このほかに
放射能量を表す単位としてキュリー(Ci)があり,1キュリーは,3.7×10
の10乗ベクレルに相当する。
3 ウランの放射能
 ウランは,核分裂性の元素,すなわち一定の割合で原子核が自発的に放射線を発
しながらより小さな原子核に壊れていくという性質を有する元素であり,放射性元
素と呼ばれ,このように自発的に原子核が壊れる現象を放射性崩壊(又は放射性壊
変)という。また,同一の元素(原子番号,すなわち陽子数が同一の物質)の中で
質量数(陽子数と中性子数の合計)の違いに着目して原子の種類を区別する場合,
それぞれの原子種を核種と呼び,放射性崩壊を生じる性質を有する核種を放射性核
種と呼ぶ。
 放射性崩壊には,アルファ線を発しながら崩壊するアルファ崩壊,ベータ線を発
しながら崩壊するベータ崩壊等があるが,天然ウランに含まれるウラン238等の
崩壊は主としてアルファ崩壊で,放出される放射線はほとんどがアルファ線(ごく
一部であるが,ガンマ線も放出される。)であり,天然ウランの比放射能(単位質
量当たりの放射能量)は,1グラム当たり約2.5×10の4乗ベクレル(約0.
7マイクロキュリー)である。
 アルファ崩壊後のウラン238ないしウラン235は,やはり放射性核種である
トリウムの同位体となり,更に約1日(ウラン235の場合)又は約24日(ウラ
ン238の場合)の半減期(ある放射性核種の数が放射性壊変により半分になるま
での時間)でベータ崩壊を起こし,更に何回ものアルファ崩壊及びベータ崩壊を繰
り返して様々な種類の放射性核種に変化し,最終的には放射能を持たない鉛の安定
同位体となる。このようにウラン238やウラン235が放射性崩壊を繰り返す過
程で変化する様々な放射性核種を娘核種といい,これらの半減期は1秒未満から数
十万年であって,半減期がおよそ44億7000万年のウラン238やおよそ7億
400万年のウラン235と比較して,相対的に短い。
 また,ウランは,上記のように放射性崩壊によって自発的に放射線を発するほ
か,原子核に中性子等が衝突した場合には,核分裂反応を起こし,原子核が複数に
分裂するとともに,大きなエネルギーと2個又は3個の中性子(中性子線)とを放
出する性質を有している。この性質を利用するのが原子炉であることは前記のとお
りである。
第2部 当事者の主張
第1章 原告適格(主位的請求及び予備的請求に共通の争点)
(被告の主張)
 もんじゅ最高裁判決は,原子炉施設に係る設置許可処分を争う原告適格に関し
て,当該住民の居住する地域が,上記の放射能汚染事故により直接的かつ重大な被
害を受けるものと想定される地域であるか否かを判断するための手法として,「当
該原子炉の種類,構造,規模等の当該原子炉に関する具体的な諸条件を考慮に入れ
た上で,当該住民の居住する地域と原子炉の位置との距離関係を中心として,社会
通念に照らし,合理的に判断すべきものである」と判示している。そうすると,加
工事業許可に係る規制法14条1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3
号が,単に公衆の生命,身体の安全等を一般的公益として保護しようとするにとど
まらず,当該加工施設周辺に居住し,放射能汚染事故により直接的かつ重大な被害
を受けることが想定される範囲の住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益
としても保護すべきものとする趣旨を含むと解した場合,この判断手法は,原子炉
施設のみならず,加工事業許可処分を争う原告適格の有無を判断する場合について
も妥当するものといえる。
 ただし,それぞれの加工施設によりその潜在的危険性は異なるものであるから,
本件においても,本件施設の種類,構造,規模等の具体的な諸条件によって認めら
れるその潜在的な危険性の程度と,当該住民の居住する地域と施設との距離関係を
合わせ考慮して,社会通念に照らし,原告適格の有無を判断すべきことになる。具
体的には,次のとおりである。
1 原告らの訴状記載の住所地は,近くは本件施設の所在地である青森県六ケ所村
から,遠くは関東地方の東京都・横浜市等,関西地方の大阪市・京都市等,九州地
方の福岡市・鹿児島県指宿市等にまで及んでいる。
2 一方,本件施設は,発電用原子炉の燃料として供給する濃縮ウラン(最高濃縮
度5パーセント)を遠心分離法により製造するもので,当初の分離作業能力は毎年
600トンSWUである。
 そして,本件施設の濃縮工程においては,ウラン235の濃縮度は5パーセント
以下であり,また,本件施設にその最大貯蔵量のウランが貯蔵されるとしても,そ
の放射能量は2000キュリー程度であり,原子力施設としては放射能量が最も少
ない施設の一つとして位置づけられている。また,本件施設は,原子炉のようなエ
ネルギーの生産施設ではないので,熱の発生がなく,内包するエネルギーも小さ
い。
 さらに,原料及び製品である六フッ化ウランは,不燃性で,爆発性もない化合物
であり,その濃縮工程においては,常に未臨界の状態で取り扱われるのはもちろん
のこと,固体,液体及び気体の状態変化はあるが,化学変化はなく,最高使用温度
で摂氏94度と比較的低温で,ほとんどが大気圧以下で取り扱われるなど,その工
程は,単純でかつ本来的に安全性が高いものである。
3 以上の,種類,構造,規模等の本件施設に関する具体的な諸条件を考慮に入れ
た上で,原告らの居住する地域と本件施設の位置との距離関係を中心として,社会
通念に照らして検討すると,本件施設は,前記のように発電用原子炉の燃料として
供給する濃縮ウランを遠心分離法により製造するもので,原子力施設としては放射
能量が最も少ないものの一つであり,また,熱の発生がなく,内包するエネルギー
も小さいものである上,原料及び製品である六フッ化ウランは,不燃性で,爆発性
もない化合物であり,その濃縮工程では,常に未臨界の状態で,かつ,化学変化は
なく,比較的低温で,ほとんどが大気圧以下で取り扱われるなど,その工程は,単
純でかつ本来的に安全性の高いものである。したがって,本件施設の有する潜在的
な危険性は,もんじゅ最高裁判決で対象とされた原子炉施設と比較すれば,比べよ
うのないほど小さいものということができるから,社会通念に照らして合理的に判
断するならば,関東地方,関西地方,九州地方に居住する原告らについてはいうま
でもなく,本件施設のある六ケ所村に居住する原告らについても,その居住する地
域が本件施設の放射能汚染事故により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定さ
れる地域であるとはいえないことは明らかである。
4 上記のとおり,もんじゅ最高裁判決の趣旨に照らして検討してみても,原告ら
は,本件において,社会通念上,本件施設の放射能汚染事故により直接的かつ重大
な被害を受けるものと想定される地域であるとはいえない地域に居住するのである
から,本件許可処分の無効確認及び取消しを求める法律上の利益を有する者には該
当せず,原告適格を欠くものというべきである。
(原告らの主張)
1 もんじゅ最高裁判決の判断手法に従って本件を検討すると,本件施設で処理さ
れるウランは,人体に対し強度の放射性毒性及び化学的毒性を有するものであり,
しかも本件施設にはそれが最大2400トンを超えて使用貯蔵される。また,本件
施設には同様に人体に有害なウランの崩壊生成物も大量に存在する。したがって,
原告らは,日常的な放射能の放出により生命身体等に直接的かつ重大な被害を被る
危険性が存するほか,本件施設は地震,航空機事故,火災・爆発等による施設破壊
の危険性があり,ひとたび事故が発生すれば,次のとおりその影響は広範囲にわた
り,原告らが本件施設から大量に放出される放射性物質及び放射性降下物によって
その生命,身体を侵害されるおそれがあるのは明らかである。
 本件施設の破壊時に放出されるウランの量は,控えめに見積もって,施設全体の
ウランの貯蔵能力である2400トン余り(濃縮ウラン85トン,天然ウラン51
0トン,劣化ウラン1810トン)のうち5パーセント濃縮ウラン10トンと想定
して,以下検討することとする。また,本件施設で事故が発生した場合,ウラン
は,まずは六フッ化ウランの形で放出され,これがフッ化ウラニルに変化するが,
環境中では更に二酸化ウランないしは八酸化三ウランに変化すると考えられるの
で,以下では,酸化ウランの形態で計算を行う。また,環境中に放出された放射性
物質がどのようにして大気中に拡散され,人体に摂取されて被曝をもたらすかは,
いわゆる拡散式と摂取モデルによって推定される。拡散式とは,粒子の大きさや天
候状態,大気安定度により左右される拡散の状況を一定の仮定の下に計算するもの
で,ここでは「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針について」(昭和5
7年1月28日原子力安全委員会決定。以下「気象指針」という。)に従ってパス
キルの計算式を用い,大気安定度をF(大気に逆転層ができ,放射性物質が上空に
まで上がらず遠くにまで影響を与える場合)と仮定し,風速を毎秒2メートル,ウ
ランは地上0メートルからミスト状の小さな粒子となって放出拡散したとの条件で
試算を行う。その結果,年間100ミリレム(1ミリシーベルト。ただし,本件許
可処分当時は5ミリシーベルトと定められていたが,現時点において1ミリシーベ
ルトの限度を上回ることは許されない。)と定められている一般公衆の被曝限度を
超える範囲は,約700キロメートル風下の地域までに及ぶこととなり,実際の地
図上では,本件施設から600キロメートル程度離れた東京都を含むことになる。
しかも,地震,航空機,あるいは火災・爆発による施設破壊により本件施設に内蔵
されるウランが全量放出する潜在的危険性があり,約600トン相当分のウランが
全量放出した場合は,東京都での被爆線量は0.38ミリシーベルトであり,80
0キロメール離れた松本市,名古屋では0.06ミリシーベルトである。
 したがって,原告らは,本件許可処分の無効確認訴訟及び取消訴訟を提起するに
ついて「法律上の利益を有する者」に該当する。
2 規制法14条1項2号(経理的基礎に係る部分に限る。)所定の経理的基礎の
ない者に事業許可を与えれば,不完全なウラン濃縮工場を建設するおそれがあるこ
とは見やすい道理であり,災害防止のためにはこのようなことは防止しなければな
らない。上記経理的基礎の要件は,災害防止を資金面から担保し,もって周辺住民
個々人の利益をも保護する趣旨のものである。
(被告の反論)
 事故による影響評価に関する原告らの主張は,以下に述べるとおり現実離れした
恣意的なものであり,「被害を受ける蓋然性」を基礎づける主張としては失当であ
る。
1 原告らは,周辺住民への被害を評価するに当たり,想定される事故により濃縮
ウラン10トンが環境中に放出されると主張するが,いかなる状況の下に,どのよ
うな機序で濃縮ウランが漏洩し,どのような計算によってそれを10トンと見積も
ったのかについて,何らの根拠を示していない。
 なお,本件施設における最大想定事故により建屋外へ漏洩するウラン量は1.7
×10のマイナス2乗グラムにすぎないし,仮に航空機が本件施設のウラン貯蔵建
屋に墜落したとしても,建屋外へ漏洩するウラン量は0.3キュリー(5パーセン
ト濃縮ウランで約110キログラム相当)程度である。
2 本件施設ではウランは六フッ化ウランの形態で取り扱われており,これが空気
と接触すると空気中の水分と反応してフッ化ウラニルに変化するものの,フッ化ウ
ラニルは常温では安定した物質であり,通常の環境中では,二酸化ウランや八酸化
三ウランに変化しないことは,科学技術上の知見として明らかである。
 また,このように酸化ウランの形態をとる場合には,吸入摂取による単位ウラン
量当たりの被曝線量はフッ化ウラニルの場合の約50倍になるため,計算上の被曝
線量を大幅に引き上げることとなる。したがって,ウラン全量について酸化ウラン
の形態で被曝線量の計算を行っている原告らの計算は,恣意的なものであり,失当
である。
3 原告らが行った試算の方法は,その基づく気象指針にのっとったものではな
く,またその計算値も実態とかけ離れたものであり,失当である。
第2章 憲法上及び法律論上の主張(主位的請求の争点)
第1 規制法13条1項にいう「加工の事業」該当性
(原告らの主張)
 ウラン濃縮については,制定当初の規制法や規制法施行令には明文規定がなかっ
たところ,昭和59年6月18日,加工事業規則が改正され,加工施設の中に「濃
縮施設」が追加された。これによって,以後事業として行われるウラン濃縮は,規
制法3章の「加工」に該当するという政府解釈がとられることとなった。本件許可
処分も,このような政府解釈に従ってされたものである。
 しかし,上記の政府解釈は,以下の点から誤りであることが明らかであって,
「加工」は「濃縮」を含まないものと解釈するのが相当であり,したがって,我が
国の法体制においては,国内でウラン濃縮を行うことは禁止されており,何人もこ
れに対して許可処分をすることはできない。しかるに本件許可申請は,ウラン濃縮
事業をその内容とするものであることは明らかであるから,これに対してされた本
件許可処分は,法令の根拠に欠けるものであり,その違法性は重大かつ明白なもの
であるから,当然無効のものであるといわねばならない。
1 文理解釈
(1) 文理解釈上,濃縮が加工に含まれると解する余地はない。すなわち,規制
法においては,加工とは「核燃料物質を原子炉に燃料として使用できる形状又は組
成とするために,これを物理的又は化学的方法により処理することをいう」と定義
されている(2条6項(現在の同条7項))。
 これに対し,濃縮を定義するとすれば,核燃料物質に含まれる特定の同位体の比
率を変える操作ということができ,このような操作は,核燃料物質の形状や組成を
変えることには含まれないし,また,そもそも「処理」とは材料に加工を施して性
質を変えることをいうものであるが,濃縮は操作ではあっても処理とはいえない。
 また,濃縮の具体的方法であるガス拡散法や遠心分離法,化学交換法,レーザー
法などを物理的又は化学的方法と呼ぶことにも無理がある。
(2) 規制法の定義規定を文字どおりに読めば,ウラン燃料の場合,加工とは,
物理的に形状を変えるいわゆる成型加工と,酸化ウランと六フッ化ウランとの化学
的な転換・再転換の工程とを指していることが明らかである。
 この点に関し,資源エネルギー庁長官官房原子力産業課作成の核燃料サイクル関
係資料では,核燃料サイクルは,製錬・転換・濃縮・再転換・加工・発電・再処
理・転換とされ,加工は「粉末状態の濃縮ウランを焼き固め,ペレットと呼ばれる
状態に成型加工した後,ジルカロイ製の被覆管に封じ込める。こうしてできた燃料
棒を,原子炉に装荷するために燃料集合体として組立てること」と説明されてお
り,濃縮と加工は明らかに区別されている。諸外国の例をみても,英米においては
濃縮(Enrichment)と加工成型(Fabrication)は区別され
別個の規制がされている。
(3) ウラン濃縮技術は,核爆弾製造のための軍事技術の一環として,マンハッ
タン計画の中で開発されたものであり,現在でも軍事転用の危険性を内包する技術
である。このため,アメリカでは,ウラン濃縮事業は国の独占的所有とされてお
り,我が国でも,原子力基本法の基本方針である平和の目的に限り原子力利用がさ
れるべきことを受けて,規制法1条が,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利
用が平和の目的に限られる」と規定している。このため,規制法24条は原子炉設
置の許可基準として,44条の2は再処理事業者の指定基準として,いずれも「平
和の目的以外に利用されるおそれがないこと」を掲げている。これに対し,加工事
業の許可基準としては,規制法はこの平和利用の要件を要求していない。
 そうすると,濃縮は加工に含まれるという政府解釈の下では,軍事転用の危険性
の高い濃縮技術について,これを平和利用目的に限定させるための原子力委員会の
審査は行われないこととなってしまうという,法規制の実際上も極めて不都合な結
果とならざるを得ない(規制法14条2項)。このことは,当初加工は核燃料サイ
クルのさほど重要でない一段階であり,軍事転用の危険性もないと考えられていた
ことを裏付けるもので,このことからも加工が濃縮を含まないことは明らかであ
る。
 また,規制法は,製錬,加工,原子炉の設置及び運転,再処理,核燃料物質の使
用等について,許可ないしは指定の要件上,目的及び主体を限定して再処理を最も
厳しく規制し,次に目的を限定して原子炉の設置及び運転と使用を厳しく規制して
おり,製錬と加工については,これより緩やかな規制が行われている。しかして,
もし規制法制定当時に濃縮についての規定が設けられた場合,主体を公社に限定す
るような再処理と同程度の規制がされていたと考えるのが自然であり,このような
考え方は,昭和33年12月24日の原子力委員会の決定においても明らかにされ
ている。にもかかわらず,規制法は,加工事業を民間の事業者が自由に行うことが
できるとしており,このような内容の立法がされたということは,濃縮が加工に含
まれないことを示している。
2 立法者意思
 規制法制定当時,国内においてウラン濃縮を行う計画は全くなく,立法者の意思
は,国内での濃縮を想定していない。
 このことは,制定過程の昭和32年5月6日開催の第26回国会衆議院科学技術
振興対策特別委員会に説明員として出席した2名の原子力委員会委員が,国内で濃
縮を行うことは全く念頭になく,専ら外国又は国際機関より入手することを前提と
した説明をしていること,L原子力委員会委員(当時)が,電気新聞(昭和48年
11月27日付け)の「ウラン濃縮雑感」と題する文章中で,「歴史を振り返って
1956年わが国最初の長期計画をみると,(中略)ウラン濃縮については一言も
触れられていない。それは隔膜法の事しか伝え聞いていなかった当時,莫大な電力
を必要とする濃縮ウランによって発電を行うことは日本の国情に適わしくないと考
えられたからであった。」と述べていることから裏付けられる。
 また,原子力技術の重要な構成要素として,濃縮という段階があることは規制法
制定当時から明らかであったのであり,濃縮ウランの取得方法等についての国会論
議もされていたにもかかわらず,立法過程では,加工に濃縮が含まれるとの説明は
一切されていない。
3 政府解釈
 政府は,昭和59年8月2日衆議院科学技術委員会におけるM政府委員の答弁中
で,規制法の制定当時,衆参両院における委員会での提案理由中で濃縮は加工に含
まれるとの説明は一言もなされていないことを認めている。
 また,規制法の立法のための国会審議の冒頭における政府委員による提案理由の
説明では,当時,加工技術は実施段階を予想できる段階であったこと及び加工が原
子炉に使用する燃料要素の加工と説明されていることが示されており,このことか
ら,当時実施段階が全く予想できなかった濃縮は加工に含まれず,また,加工が燃
料要素ではない濃縮を含まないことが明らかである。
 このほか,昭和32年5月18日の参議院商工委員会における政府委員の答弁中
では,濃縮は当面基礎研究を始めようとする段階,加工は研究の成果を集大成して
精錬工場を作る段階にあるとそれぞれ説明されており,加工と濃縮が別個の段階と
して捉えられている。また,上記答弁中では,加工が金属加工と化学処理を指すこ
とも示されている。
 そして,政府は,自ら,一定の時期までは,ウラン濃縮技術の事業化の段階で法
改正を行う準備を進めていた。すなわち,昭和57年5月20日付けの原子力産業
新聞中の「ウラン濃縮事業化計画 法律的裏付け問題が浮上」との見出し記事は,
濃縮を加工事業規制で対処するには,立法時の経緯,核拡散上の問題点があること
を指摘した上,「新たにウラン濃縮事業に関する法改正を行う可能性もでてくる」
としている。このように,政府部内にもウラン濃縮事業を行うためには規制法の改
正が必要との見解が存在したのである。
4 学説
 塩野宏元東大教授は,「核燃料サイクルと法規制」(第1法規)の中で,濃縮と
いう核燃料サイクルの段階は我が国では自からは実施しないということを前提とし
て規制法は制定されているとみるのが素直であり,したがって,我が国でも転換,
濃縮の技術が実用化される段階にあっては,規制法自体を改正して,少なくとも再
処理と同等の規制を明文化する必要があると考えられる旨の見解を示している。
(被告の主張)
1 文理解釈について
 濃縮とは,ウランの同位体であるウラン235のウラン全体量中に占める割合を
高める工程である。本件施設においては,ウランの同位体であるウラン235とウ
ラン238の質量の違いに着目して,遠心分離法という「物理的方法」によって,
核燃料物質である六フッ化ウラン(ウラン235の割合は約0.7パーセント)中
のウラン235の割合を高め,「原子炉に燃料として使用できる」ような「組成」
(ウラン235の割合が5.0パーセント以下の範囲で濃縮された六フッ化ウラ
ン)とするものである。したがって,本件施設における濃縮は,正しく規制法2条
6項(現在の同条7項)の定義にいう加工に該当することは,文理解釈上明らかで
ある。
 原告らが文理解釈の裏付けとして援用する資源エネルギー庁長官官房原子力産業
課作成の「核燃料サイクル関係資料」は,核燃料サイクルの各工程及び内容を平易
に解説したものであって,規制法での規制の体系や同法上の用語の説明をしたもの
ではなく,同資料中の用語は必ずしも法令上の用語とは一致しないから,規制法上
の加工の解釈の根拠にはならない。また,原告らは,英米では濃縮と加工成型は区
別され別個の規制がされていると主張するが,各国の原子力に係る基本的な法体
系,規制の在り方はそれぞれの国で異なることは当然であり,諸外国の例により我
が国の規制法上の条文解釈を行うこと自体妥当でない。
 また,このほか,原告らは,規制法14条の加工事業許可の基準に原子炉の設置
の許可基準や再処理の事業の指定基準にあるような「平和の目的以外に利用される
おそれがないこと」という要件が定められていない点を指摘するが,これは,「原
子炉」や「再処理」の定義中にその利用目的が定められていないために(2条4
項,7項),その利用目的を平和利用に限定するためには許可基準や指定基準に目
的の要件が必要であるのに対し,加工の事業については,その定義中に「原子炉に
燃料として使用できる形状又は組成とするために(中略)処理すること」とあり,
原子炉の利用目的の規制と合わせれば利用目的が平和利用に限定されることが確保
されることになることから,加工の事業を許可するに当たり改めて利用目的を限定
する許可基準を設ける必要がないため,平和利用目的の要件が課されていないにす
ぎない。
 次に,規制法上の加工の事業の実施主体が再処理と同様に公社に限定されていな
いことも,濃縮が加工に含まれるとの解釈を否定すべき根拠となるものではない。
すなわち,原告らの援用する原子力委員会決定は,当然のことながら規制法の法解
釈について述べたものではなく,その時点における将来の原子力開発の構想を述べ
たものにすぎないのであるから,上記決定の記述から規制法上の加工に濃縮が含ま
れないとの結論が導かれるものではない。
2 立法者意思について
 規制法制定当時,我が国において将来的にウラン濃縮事業を行うとの考えが全く
なかったとする原告らの主張は,以下のとおり事実に反する。
 まず,原告らが指摘する2名の原子力委員会委員の説明は,海外からの濃縮ウラ
ンの入手についての当時の見通しを述べたにすぎず,これらの発言をもって,国内
においてウラン濃縮を行う計画が存在しなかったことを裏付けるものということは
できない。
 次に,規制法制定当時に,将来的にウラン濃縮事業を国内で行うことは想定され
ていた。このことは,例えば,昭和32年5月18日の参議院商工委員会における
N政府委員の答弁で,「それからもう一つは,濃縮ウランの問題でございますけれ
ども,これは御承知のように非常に多額の費用と電気を要する事業でございまし
て,日本ではなかなかすぐその段階に飛び込むにはむずかしいのでございますか
ら,昨年度,三十一年度からこれに対する基礎研究を始めようというので,東京の
工業大学に依頼いたしまして,その方面の研究をさしてございます。」として示さ
れている。また昭和33年12月24日原子力委員会決定「核燃料開発に対する考
え方」においても,「低濃縮ウラン燃料を使用する動力炉の将来性にかんがみ,わ
が国においてもウラン濃縮の技術を開発する必要がある。(中略)濃縮に有利な性
質をもった新ウラン化合物,新しい濃縮法等わが国に適した濃縮技術の研究を強力
に促進する。」との方針が決定されているのである。このように,規制法制定当
時,将来的にウラン濃縮事業を国内で行うことは想定されていたものということが
でき,当時国内においてウラン濃縮事業を行う計画は全くなかったとする原告らの
主張は明らかに事実とは異なる。
 なお,仮に,規制法制定当時に国内でウラン濃縮事業を行う具体的な計画がなか
ったとしても,そのことは,直ちに規制法上,ウラン濃縮事業が「加工の事業」に
含まれないと解すべき根拠となるものではない。
3 政府解釈について
 規制法制定当時には,濃縮業務はまだ日本国内において事業として行う程度には
成熟していなかった。したがって,実験レベルで行われていたウラン濃縮に関する
研究は,同法52条以下に定める使用として規制されてきた。その後,我が国にお
ける濃縮業務が動燃事業団の人形峠事業所ウラン濃縮原型プラントのように同法に
よって事業として規制すべき程度に発展し,具体的に規制対象とすべき事業が出現
するに至ったことを受け,成型加工等,当時の加工の事業の実態に即して定められ
ていた加工事業規則を一部改正し,加工事業許可申請書や設計及び工事の方法の認
可申請書の記載事項等に濃縮施設に関する規定を追加することとしたのであり,上
記加工事業規則改正の前後を通じて,濃縮事業についての政府の解釈は一貫してお
り,変更された事実はない。
 原告らの指摘するM政府委員の答弁は,規制法の制定当時に政府が濃縮は規制法
の加工に含まれるとの積極的な説明はしていないというにすぎず,ウラン濃縮事業
が同法の「加工の事業」に含まれないことを認めたものでもなければ,規制法制定
当時政府がそのような見解を採っていたことを表明したものでもない。すなわち,
M政府委員は,従来の政府解釈について,「私ども最近になって先ほど述べた解釈
を変えたわけではございませんで,事業の実態が出てきたので具体的な対象事業が
出てきたということで考えております。」と答弁しており,また,加工事業規則の
改正については,「これは,ウラン濃縮が加工の業に含まれるか否かという議論で
はなくて,我々の考えといたしましては,具体的に動燃における事業が加工の業と
して考えた方が適当であるという事態に進展してまいった,そういう規制する対象
の事業が具体的にあらわれてきたのでここに入れたのであるという考え方でござい
ます。」と答弁しており,これらの答弁によれば,上記加工事業規則改正の前後を
通じてウラン濃縮事業が加工事業に含まれるという政府の見解に変更がないことは
明らかである。
 原告らは,規制法制定当時の政府の提案理由説明及び国会答弁を援用してるる主
張する。しかしながら,これらは,いずれも規制法における加工の事業にウラン濃
縮事業が含まれない旨を述べたものでもなければ,ウラン濃縮を事業として実施す
る場合には法律の改正が必要であるとの考えを明らかにしたものでもない。したが
って,原告らの主張に係る上記各事実は,ウラン濃縮が規制法上の加工に該当する
との解釈を否定すべき根拠となるものではなく,原告らの主張は,いずれも失当で
ある。
 また,政府部内にも法改正が必要との見解が存したとの主張についても,原告ら
の援用する昭和57年5月20日付け原子力産業新聞中の記事は,原告らの上記主
張を裏付けるものではない。
4 学説について
 原告らは,規制法がウラン濃縮事業を予定していないことは学説からもうかがえ
るとして,塩野宏編著「核燃料サイクルと法規制」中の記述を援用する。
 しかしながら,塩野宏教授は,上記の中で,「「加工」の中に読みこむという解
釈もあるかもしれないが,論議の残るところであろう。」とも述べており,規制法
の解釈として,必ずしもウラン濃縮事業が「加工の事業」に含まれないと断定した
ものとはいえない。
 一方,学説上は,ウラン濃縮事業を「加工」の事業として規制することを認める
見解も存在しており(例えば,藤原淳一郎「原子力と立法」(ジュリスト805号
所収)),学説上の見解をもって条文解釈の決め手とすることは妥当でない。
第2 憲法13条,14条,25条違反
(原告らの主張)
 原子力発電の危険性の根源は,原子力発電所を運転することによって必然的に大
量に発生する死の灰やプルトニウムなどの放射性物質にある。100万キロワット
級の原発を1年間運転すると,原子炉の中には広島型原爆がばらまいた量の約千倍
分の死の灰と長崎型原爆を約50発も作ることができるプルトニウムがたまる。こ
の半減期2万4千年のプルトニウムこそは,人間が作りだした最悪の毒物だという
ことができる。そして,これらの放射性物質の安全な管理方法については,いずれ
の国も解決に苦しんでいて,安全管理方法を確立した国はいまだなく,今後もその
確立は技術的に疑わしいとするのが世界の技術的状況である。
 このような,人類がこれまで取り扱ったことがないほどに危険で,しかも安全管
理技術の確立されない超毒物である放射性物質を大量に作り出す原子力発電所,核
燃料サイクルの推進を許す原子力基本法及び規制法は,生命,自由及び幸福追求に
対する国民の権利を定める憲法13条,法の下の平等を定める憲法14条(原子力
施設周辺の住民を,そこに居住しているという社会的身分により放射線被曝線量の
点で差別している。),生存権を定める憲法25条に違反し,違憲である。
(被告の主張)
 原子力基本法及び規制法は,核燃料物質等は適正な規制をすることにより安全に
管理することができることを前提として,エネルギーの安定した供給を確保するこ
とによって人類社会の福祉と国民生活の水準向上に寄与するよう定め,あるいは原
子力の平和利用の計画的推進や前提となる安全性の確保のために必要な具体的規制
を行うのであるから,むしろ,幸福等を追求する国民の権利(憲法13条),国民
の平等(憲法14条),健康で文化的な生活や社会福祉(憲法25条)の憲法上の
権利は,いずれもこれらの法律を通じて具体化され,広く積極的に実現されるので
あり,これらの法律が憲法に違反するものでないことは明らかである。
 また,規制法は,原子力基本法の精神にのっとり,原子力の利用に関して各分野
ごとに,また,各段階ごとにそれぞれ規制を行うことによって安全性を確保する構
造となっており,これによって,公共の安全を確保する法体系が採られているので
あるから,これらの法規が,原子力施設周辺住民の憲法上の上記各権利を侵害する
ものであるとはいえない。
第3 憲法31条違反
(原告らの主張)
 憲法31条以下の適正手続条項は,直接には刑事手続を対象としているが,行政
手続にもその保護が及ぶことは今日の確立した判例といってよいし,核燃料加工事
業許可処分が,罪に該当する特定の行為に対する反動として及ぼされる刑罰と比較
して無条件に人権の制約を及ぼすものである点において,あるいは及ぼされる害悪
が生命や健康の侵害という刑罰に匹敵するものである点において,刑罰と同等かそ
れ以上の人権侵害に当たることを考えれば,上記処分には当然憲法31条の適正手
続保障が及ぼされなければならない。
 そして,憲法31条からは,加工事業許可処分手続における許可の基準は,行政
が政治的経済的な様々な要請を受けて行う恣意的な政策的判断から住民等の生命と
健康に対する憲法上の人権を保障する歯止めとなる必要上,原子力行政に関する政
策的裁量に委ねられる余地はなく,定量的かつ明白なように直接に法律でもって規
制されていなければならない(明確性の原則)。また,公正な処分を行う不可欠の
前提として,関係住民に対して告知聴聞の機会を与え,同時に許可処分に際して事
前に許可申請書,添付書類を始めとする安全審査資料を公開することが義務づけら
れているものと考えられる(民主,公開の原則・原子力基本法第2条)。
 ところが,規制法14条の許可基準は,定量的かつ一義的に明確とはいえないど
ころか,全くの白地規定といわざるを得ない。また,規制法には告知聴聞及び事前
資料公開に関する規定は存在しないし,原子力委員会や原子力安全委員会の審査を
もって核の危険性にさらされる住民に対する説明と同意に代置することもできな
い。したがって,規制法13条,14条は,憲法31条に違背する違憲無効なもの
であり,上記規定を根拠としてされた本件許可処分は違憲,違法である。
(被告の主張)
1 憲法31条の規定が,本来,刑事手続の保障に関するものであることは,その
文言自体からも同条が次条以下の刑事裁判手続上の人権保障の諸規定を率いる形で
置かれていることからも明らかである。
 もっとも,行政手続においても,憲法31条にいう適正手続の精神が尊重される
べきことを否定するものではない。しかしながら,すべての行政処分について,不
利益を被る関係者に対し告知,弁解,防禦の機会を与えなければならないわけでは
なく,憲法31条の精神に照らせば,行政手続のうち憲法31条の保障の対象とな
るものは,刑罰と実質的に同視し得る秩序罰や執行罰等についてであるというべき
である。
 これに対し,刑罰の性質を有しない行政手続において行政処分の手続的な適正公
平が必要とされる根拠は,当該処分の根拠とされた実定法の趣旨,すなわち,当該
処分について行政庁の処分要件を定める授権規定に内在する黙示の要請によるもの
であって,憲法上の要請ではなく,このような行政手続にあっては,当該処分の目
的,性格並びにそれによって制約を受ける国民の権利の内容及び制約の程度,態様
に照らして合理的かつ適正と認められる手続によれば足りる。
2 加工事業許可処分は,その許可の要件を定める規制法14条1項の規定の文言
に照らし,さらに許可権者である内閣総理大臣の検討すべき内容に照らし,広範か
つ高度な,原子力行政に関する政策的裁量と,加工施設の安全性に関する専門技術
的裁量とを伴う裁量処分であるというべきであり,特に,14条1項3号の要件に
関しては,同号が抽象的な要件を設定するにとどめているのは,加工事業許可の
際,加工施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性について問題とされる
事柄が複雑,高度の専門技術的事項にかかわるものであり,しかもそれについての
技術及び知見が不断に進歩,発展,変化しつつあることを考えるならば,上記の許
可要件について法律をもってあらかじめ具体的な定めをしておくことは実際上極め
て困難であるのみならず,かえって判断の硬直化を招き適切な審査を行い難くする
おそれがあり,相当でないとする趣旨によるものである。
 上記の趣旨において,立法機関が規制法14条の要件を定めたことはもとより合
理性のあることであり,仮に憲法31条の要請が行政手続にも及ぶとしても,規制
法14条1項が憲法31条に違反しないことは明らかである。
3 また,仮に憲法31条の要請が行政手続に及ぶとしても,告知聴聞,資料の事
前公開に関する規定のないことをもって,憲法31条に違反するということはでき
ない。すなわち,加工事業許可については,行政庁自らがその要件を審査するとと
もに,原子力委員会,原子力安全委員会(これらの委員会は,許可権者である内閣
総理大臣その他の行政機関から指揮命令を受けることなく,各委員会自体において
審議し,決定する機関であり,その各委員は,設置法5条1項及び22条により,
両議院の同意を得て内閣総理大臣により任命される。)の審査を経ることとされ,
許可権者である内閣総理大臣は,上記両委員会の意見を聴き,これを十分に尊重し
なければならない(規制法14条2項)とする等,法令による厳格な手続を踏まえ
た上でされるのであり,憲法31条にいう適正手続の内容を十分に具体化したもの
となっている。
第3章 審理判断の枠組みに関する法律論(予備的請求の争点)
第1 取消訴訟における処分の違法事由の主張制限
(被告の主張)
 主観訴訟たる取消訴訟の本質は,取消判決によって違法な行政作用を排除し公益
に資することを目的とするものではなく,行政庁の処分によって原告の被っている
具体的権利,法的利益の侵害の救済を目的とするものである。このことから,取消
訴訟の本案前の訴訟要件としての原告適格について,当該処分等の取消しを求める
につき「法律上の利益を有する者」(行訴法9条)に限定するとともに,これと別
個に本案審理についても,行訴法10条1項の規定が設けられたのである。したが
って,上記10条1項にいう「自己の法律上の利益に関係のない違法」とは,行政
庁の処分に存する違法のうち,原告の個人的権利,利益の保護を目的として行政権
の行使に制約を課するため設けられたのではない法規に違背したにすぎない違法を
いう。
 これを本件についてみると,原告ら主張の事由のうち以下の点については,行訴
法10条1項の適用により本件予備的請求の審理対象とはならない。
1 加工能力が著しく過大にならないこと
 加工事業許可の要件を定めた規制法14条1項各号のうち,その1号において
「その許可をすることによつて加工の能力が著しく過大にならないこと」として,
内閣総理大臣の許可権限の行使に制約を課した趣旨は,専ら核燃料物質の加工の能
力が著しく過大となることにより不当な競争を引き起こし,核燃料物質の需給状況
を混乱させて,原子炉燃料の計画的な供給を阻害することを防止し,原子力開発利
用の計画的遂行を図ることにあるのであって,加工施設の周辺住民等の個人的利益
の保護を目的とするものでないことは明らかである。
 したがって,本件許可処分の要件のうち,規制法14条1項1号に係る違法事由
については,原告らの法律上の利益に関係ない違法事由であるから,本件予備的請
求の審理の対象とはならない。
2 経理的基礎
 規制法14条1項2号のうち,経理的基礎の要件が定められている趣旨は,加工
事業には多額の資金を要することにかんがみ,主として加工事業による災害の防止
を加工事業者の資金的な面から担保し,もって公共の安全を図ろうとするものにほ
かならず,専ら公益の実現を目的とするものであって,これも加工施設の周辺住民
等の個人的利益の保護を目的とするものではないことは明らかである。
 したがって,本件許可処分の要件のうち,規制法14条1項2号の経理的基礎に
係る違法事由については,原告らの法律上の利益に関係がないから,本件予備的請
求の審理対象とはならない。
3 労働者被曝
 本件施設の従業員の安全性に関する事項は,規制法14条1項3号にかかわる事
項ではあるものの,原告らは本件施設で労働に従事する者ではないから,原告ら自
らの法律上の利益には関連を有しない事柄というほかなく,行訴法10条1項によ
りこれを本件予備的請求の審理の対象とすることはできない。
(原告らの主張)
 行訴法は,被告が主張するような厳格な主張制限を取消訴訟に加えるものではな
い。
 すなわち,行訴法10条1項の規定は,行政訴訟も国民の権利保護に仕える主観
訴訟であるとの理念を表すために,その効果を深く考えることなく,いわば不用意
に立法された規定であって,立法者も,取消訴訟での審理対象を純然たる私益保護
条項の違反だけに厳格に限定しようとする意図は有していなかったというべきであ
る。なぜなら,取消訴訟は主観訴訟ではあるけれども,同時に公権力の統制にも資
する客観訴訟性を併せ持っている以上,取消訴訟での審理対象は,純然たる私益保
護要件の定めだけでなく,処分に関連するすべての規定,さらには法の一般原則な
どの不文法も含めて広く包括的にあらゆる違法事由に及ぶというべきだからであ
る。したがって,行訴法10条1項の規定は,法治主義の原則の例外として,いか
なる意味でも原告の利益と関係のない,特異な違法事由の主張を排除しようとする
趣旨であると解するのが相当である。
 また,第三者の利益の主張についても,その制限に関する問題は,既に事件・争
訟が適正に成立している場合に,裁判所がどこまでを考慮に入れて判断できるかと
いう問題であるが,少なくとも第三者が自らその権利を主張し得ず又は主張するこ
とが極めて困難であるという事情がある場合には,訴訟当事者にその第三者の権利
を主張することを認めても,司法権との関係では問題はないというべきである。
 上記のことを具体的にみると,次のとおりである。
1 経理的基礎
 規制法14条1項2号のうち経理的基礎に関する部分の要件は,経理的基礎のな
い者に事業許可を与えれば不完全な加工施設を建設するおそれがあることから,災
害防止を資金面から担保して,もって周辺住民個々人の利益を保護するものとして
加工事業許可処分の要件とされたものであると解するべきである。
2 労働者被曝
 原子力施設において,労働者は事業者から強い圧力を受けており,自らの権利を
主張することは事実上困難である。その上,放射能による障害は,それが生じた後
にその原因が原子力施設から放出された人工放射線に起因するものであることを立
証することがほとんど不可能であり,その意味でも,本件施設の従業員が本件施設
について危険性を主張し権利主張することは極めて困難であり,したがって,原告
適格が認められた原告に対して行訴法10条1項を適用して本件施設の従業員の安
全性について主張制限をするべきではない。
 また,労働者の被曝による健康障害やそのおそれにより,これらの者の就業場所
や業務の転換,作業方法の変更等が必要となるが,このようなおそれ等が高ければ
高いほど労働者の健康保持のために就業場所や業務の転換等の措置は頻繁とならざ
るを得ない。そして,就業場所や業務の転換,作業方法の転換等の頻度が高まれ
ば,就業者の特定作業に対する熟練を妨げ,作業におけるチームワークの形成を阻
害する等,施設の操業運転上の安全管理が十分に保たれなくなるおそれがあり,こ
のことは,重大事故につながるヒューマンエラーを引き起こし,ひいては周辺住民
の安全が脅かされることになりかねない。このように,労働者被曝の問題は,単に
労働者自身の権利の問題であるのみならず,原告らの権利侵害のおそれとも関連し
ている。
(被告の反論)
 原告らの主張は,抗告訴訟を主観訴訟と位置づけている我が国の行政事件訴訟に
おいては,到底是認できず,単なる立法論にすぎないものである。行訴法10条1
項の主張制限は厳格に解すべきでないとの原告らの主張についても,上記規定が主
観訴訟たる抗告訴訟の本質によるものである以上,原告らの主張するような第三者
の権利についてまで漫然と審理の対象とすることができないことは当然のことであ
る。
第2 基本設計以外の事由の主張制限
(被告の主張)
1 規制法における安全規制の体系
 加工事業に関する規制法における安全規制の体系の特色は,加工施設の設計から
事業開始に至る過程を段階的に区分し,それぞれの段階に対応して加工事業許可,
加工施設の設計及び工事の方法の認可,施設検査,保安規定の認可等の規制手続を
介在せしめ,これら一連の規制手続を通じて加工事業に係る安全確保を図るという
方法に基づく段階的安全規制の体系が採られていることである。すなわち,加工事
業を行おうとする者は,まず,内閣総理大臣の加工事業許可(規制法13条1項)
を受けなければならず,この加工事業許可に際しての安全審査(規制法14条1項
3号要件適合性についての審査)の機能は,加工施設の詳細設計及び工事の前提と
なる基本的事項すなわち基本設計ないし基本的設計方針を確定し,これらに対し一
定の枠づけを与えることにある。
 次に,加工事業許可を受けた者は,加工施設の工事に着手する前に,上記の枠づ
けを前提として細部の設計を行い,その設計及び工事の方法について内閣総理大臣
の認可を受けねばならない(規制法16条の2第1項)。加工施設の工事はこの認
可に係る詳細設計に従って行われ,工事の各段階において,完成した部分の使用開
始前に,内閣総理大臣の施設検査が実施され,これに合格しなければならない(規
制法16条の3第1項)。なお,総理府令(加工事業規則3条の8)に定める加工
施設であって溶接をするものについては,その溶接の方法について内閣総理大臣の
認可を受け,かつ,その溶接について内閣総理大臣の検査を受け,これにも合格し
なければならない(規制法16条の4第1項)。
 さらに,事業の開始前に加工事業者及びその従業者が核燃料物質による災害を防
止するために守らなければならない事項を保安規定として定め,これにつき内閣総
理大臣の認可を受けなければならない(規制法22条1項)。
 以上要するに,規制法等による加工施設の安全確保に関する行政規制の体系は,
加工事業許可に際しての安全審査を土台として段階的に行われるのであり,それぞ
れの段階において,かつ,その全過程を通じて,所要の安全確保が図られているの
である。
2 本件予備的請求の審理の対象となる事項
 上記のとおり,加工事業に関する規制法における安全規制の体系は,加工施設の
設計から事業開始に至る過程を段階的に区分し,それぞれの段階に対応して,一連
の許認可等の規制手続を介在せしめ,これらを通じて加工事業に係る安全確保を図
るという方法に基づく段階的安全規制の体系が採られている。加工事業許可手続を
加工事業に関する段階的安全規制の体系の中に位置づけて,加工事業許可に際して
の安全審査の対象となる事項について考察すれば,それが加工施設自体の安全性に
直接関係する事項に限られ,かつ,加工施設の基本設計ないし基本的設計方針に係
る安全性に関する事項に限られるものであることは明らかである。したがって,加
工施設自体の安全性に関係する事項であっても,例えば,その詳細設計や具体的運
転管理に関する事項のごときは事業許可の際の上記安全審査の対象に含まれない。
 そして,本件取消訴訟の本案審理の対象は,本件許可処分の違法性の存否,すな
わち本件許可申請が規制法14条1項各号所定の許可要件に適合するとした内閣総
理大臣の判断における違法性の存否であるから,本件取消訴訟の本案審理の対象と
なる事項は,本件許可申請に対して内閣総理大臣がした規制法14条1項各号所定
の許可要件適合性審査の対象事項に限定され,加工施設自体の安全性に関係する事
項であっても,その詳細設計や具体的運転管理に関する事項のごときは本件取消訴
訟の審理の対象にはならない。
(原告らの主張)
 以下のとおり,被告の主張は,規制法に何ら根拠がなく,また規制法が原子力安
全委員会に安全審査を行わせている趣旨に反するものであり,被告の主張する基本
設計も被告自らその定義も範囲も明らかにできない恣意的な概念であり,規制法が
規定する基本的処分の申請書の記載事項を横断的に考察すればたちまち破綻する場
当り的な議論であって規制法の条文の解釈として到底採り得ない。また被告の主張
する詳細設計以降の手続はこれまでの原子力関係施設における事故の原因の大半を
含んでおり,そのような重要な手続に原子力安全委員会が何ら関与しないのは妥当
でなく,さらに住民の権利を侵害する結果になるなど実質的にも全く不当である。
よっていずれの点からも被告の主張する基本設計論が成り立つ余地はない。
1 原子力基本法は,「原子力の研究,開発及び利用に関する国の施策を計画的に
遂行し,原子力行政の民主的な運営を図るため,総理府に原子力委員会及び原子力
安全委員会を置く。」とし(同法4条),「原子力安全委員会は,原子力の研究,
開発及び利用に関する事項のうち,安全の確保に関する事項について企画し,審議
し,及び決定する。」としており(同法5条第2項),これを受けて規制法は加工
事業許可に際し,加工施設の位置,構造及び設備が核燃料物質による災害の防止上
支障がないものであること及びその事業を適確に遂行するに足りる技術的能力があ
ることの基準につき内閣総理大臣は原子力安全委員会の意見を聴き,これを十分に
尊重してしなければならないとしている(規制法14条)。他方,設計及び工事の
方法の認可以降の手続においては原子力安全委員会の意見は法律上も実際も求めら
れない。
 このような法体系からすれば,加工事業に伴う安全の確保については原子力安全
委員会がすべて審議・決定する必要があり,原子力安全委員会の関与が事業許可に
限られている以上,事業許可の際の安全審査において,加工施設の設計,建設,運
転,廃棄物処理等の全分野にわたって,後続する手続と実際の工事運転により加工
施設の安全が脅やかされることがないことを担保できる程度まで詳細に,安全に関
する事項を審査しなければならないと解さざるを得ない。
2 被告は,原発訴訟において昭和52年以降原子力施設をめぐるすべての行政訴
訟で基本設計論を主張しているが,いまだにいずれの訴訟においても基本設計の定
義と範囲を明らかにすることができていない。被告は基本設計論を維持するのであ
れば直ちにその主張する基本設計の定義,範囲,詳細設計との区別の判断基準を明
確にしなければならない。
3 被告の主張によれば,事業許可の際に基本設計についてのみ安全審査がなさ
れ,詳細設計以降については行政庁(本件加工事業の場合科学技術庁)の審査のみ
がなされ,その全過程を通じて所要の安全確保が図られるという。
 しかし,設計及び工事の方法の認可(被告主張の詳細設計の審査)はその基準も
漠然としたもので到底行政庁限りで適確な審査をなし得るものではなく,他方にお
いて原発訴訟における被告の主張によれば,スリーマイル島原発事故も含め現実に
発生した事故の大半は詳細設計以降の瑕疵によって生じたものであり,このような
事故防止,安全確保上の重要問題を行政庁のみで判断する手続に委ねることは到底
できない。
 すなわち,加工施設技術基準はわずか16箇条しかなく,いずれの規定も「~し
得る機能を有すること」といった類の定め方で具体的な数値等の具体的判断基準は
全くない。このような規定によって行政官がその技術基準適合性を判断することは
全く不可能であり,実態としては盲判にならざるを得ない。
 その上,これまで被告によって詳細設計以降の問題とされた事項は決して軽視し
得ないものである。まずスリーマイル島原発事故の原因はすべて詳細設計以降の問
題とされた。チェルノブイリ原発事故の原因も自己制御性と緊急停止系の問題以外
は詳細設計以降の問題と主張されている。さらには,被告は東海第2原発で発生し
た40件余の事故,故障について原因すら特定せず理由も述べずに「いずれも本件
原子炉の基本設計ないし基本的設計方針に係るものではない」としている。つまり
実際に発生した事故については大半が詳細設計以降の問題というのである。だとす
れば事故を防止し安全を確保するためには詳細設計以降をこそ重視して安全審査を
しなければならないはずである。そのような事故防止上重要な部分について原子力
安全委員会が関与せず行政庁だけの判断でなし得る手続のみに委ねるなど到底許さ
れない。
4 被告の主張に従えば,加工施設の周辺住民が加工施設による原子力災害を受け
る危険を行政訴訟上実質的に争うためには,事業許可処分につき異議を申し立てた
上取消訴訟を提起し,さらに設計及び工事の方法の認可処分につき異議を申し立て
た上取消訴訟を提起し,さらに施設検査合格処分につき異議を申し立てた上取消訴
訟を提起し,さらに溶接検査合格処分につき異議を申し立てた上取消訴訟を提起
し,さらに保安規定許可処分につき異議を申し立てた上取消訴訟を提起しなければ
ならないことになる。さらには設計及び工事の方法の認可は加工規則第3条の2第
3項で分割して認可申請を行い得ることとされるからその分割してなされた認可ご
とに各手続を行うことになる上,施設検査も各部分ごとに段階に分けてなされるの
でその合格処分ごとに各手続を行うことになるなど,被告の主張にあわせれば,住
民は一つの施設につき数百件に及ぶ訴訟を提起しなければならなくなる。しかもこ
れらの手続は事業許可以外はいつ行われたのかすら公表されず,住民は訴訟提起の
機会すら奪われている。
 被告の主張と,手続をひた隠しにする被告の態度は原子力施設の瑕疵により被害
を受ける可能性のある周辺住民が自らの生命健康を守るため訴訟提起する権利を著
しく侵害するものである。
5 憲法32条にかんがみ,加工施設の操業によって周辺住民に被害を与えないか
否かの判断は,最初の行政処分である加工事業許可の際に一括して行われる必要が
あり,また加工事業許可を争う訴訟において一括して審理されなければならない。
それは規制法上加工事業許可がなされれば後は簡単な手続で建設・操業に至り,ま
た裁判の実情からみて操業前に判決を出し得るためにも事業許可段階で争う必要が
あること,そして,他方,周辺住民に発生する危険は基本設計のみから生じるとは
限らずいくつかの手続の複合的なミスにより事故に至ることもあることからも明ら
かである。殊更に手続を区分し,一つの訴訟で争い得る範囲を限定することは憲法
32条の趣旨にも反することになる。
第3 本件予備的請求の司法審査の在り方
(被告の主張)
1 本件許可処分が行訴法30条にいう行政庁の裁量処分であることは疑う余地が
ない。本件許可処分の許可の要件を定める規制法14条1項の規定の文言に照ら
し,さらに,許可権者である内閣総理大臣の検討すべき内容に照らし,本件許可処
分が,広範かつ高度な,原子力行政に関する政策的裁量と,加工施設の安全性に関
する専門技術的裁量とを伴う裁量処分であることは明らかである。すなわち,規制
法14条1項各号所定の許可要件のうち,例えば1号の要件に関しては政策的裁量
が,3号の要件に関しては専門技術的裁量が伴うものであるが,以下,このうち上
記3号の専門技術的裁量の意義について司法審査との関係を含めて述べることとす
る。
 規制法14条1項3号要件に関する行政庁の専門技術的裁量については次の二つ
の段階において考えることができる。第1に,具体的審査基準の策定についての専
門技術的裁量である。規制法14条1項3号が抽象的な許可要件を設定するにとど
めているのは,加工事業許可の際,加工施設の基本設計ないし基本的設計方針に係
る安全性について問題とされる事柄が複雑,高度の専門技術的事項にかかわるもの
であり,しかもそれについての技術及び知見が不断に進歩,発展,変化しつつある
ことを考えるならば,上記の許可要件について法律をもってあらかじめ具体的な定
めをしておくことは実際上極めて困難であるのみならず,かえって判断の硬直化を
招き適切な審査を行い難くするおそれがあり相当でないとする趣旨によるものと解
される。したがって,上記のような趣旨からすれば,3号要件の審査基準の具体的
内容の策定については,合理的な範囲内において,行政庁の専門技術的裁量に委ね
られているということができるのである。第2は,3号要件適合性に係る判断に至
る審査過程についての裁量,すなわち,どのような知見等に基づき,どのような検
討を経て,上記要件適合性についての結論に到達するかについての専門技術的裁量
である。上記審査に係る加工施設は,高度な科学技術を用いた複雑な技術体系を有
するものであるから,それに関する安全性の判断は,特定の分野のみならず,関連
する広範な分野の専門技術的知見等を動員し,かつ将来の予測に係る事項を含めた
総合的判断として成り立つものである。上記のような判断過程の構造からすれば,
3号要件適合性に係る結論に到達する審査過程において,不可避的に行政庁の諸々
の専門技術的裁量的判断を伴うものであることは明らかである。
 以上のとおり,3号要件適合性の審査については,具体的審査基準の策定及び審
査過程の両面において専門技術的裁量が伴う。
2 本件許可処分の適法性についての司法審査の方法は,加工事業許可処分が上記
に述べたとおり高度な政策的,専門技術的裁量処分であり,かつ,取消訴訟におけ
る審理が,行政庁の権限行使の適法性に関する司法再審査をその本質とするもので
あることにかんがみれば,裁判所が当該許可申請の規制法14条1項2号及び3号
に係る許可要件適合性について改めて独自の審査を行い,その結果に基づく裁判所
自らの判断を行政庁たる内閣総理大臣の裁量判断と対比して直接その適否を決しよ
うとする方法(いわゆる司法判断代置方式)は妥当でなく,各要件適合性に関する
被告の裁量判断を前提とした上,それが行政庁としての立場における裁量判断とし
て著しく不合理なものでないかどうかを審理,判断しようとするものでなければな
らない。
 実際問題としても,裁判所が,広範な分野にわたる専門技術的知見等に基づかな
ければ的確な判断のできない加工施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全
性に関して,それぞれの分野の専門家を擁する行政庁(ないし原子力安全委員会)
の裁量判断を前提とせず,いわば白紙の状態から独自の判断をするということは事
実上困難であると考えられる。
 この点に関し,規制法14条2項が,内閣総理大臣は加工事業許可要件の適用に
ついて原子力委員会及び原子力安全委員会の意見を十分に尊重しなければならない
旨規定している趣旨は,上記の内閣総理大臣の判断の適法性についての司法審査の
場においても,十分参酌されるべきである。
 以上述べたところによれば,本件許可処分の適法性,特に3号要件適合性につい
ての裁判所の審理は,内閣総理大臣の専門技術的裁量判断を前提として,内閣総理
大臣の判断過程に応じ,それを総合的,全体的に考察して,その裁量判断に著しい
不合理がないか否かを再審査するという方法によりなされるべきであり,その結果
内閣総理大臣の裁量的判断に著しい不合理があるとの判断に達した場合に初めて本
件許可処分は行訴法30条にいう行政庁の裁量権の逸脱,濫用がある違法な処分と
してこれを取り消すことが許容されるというべきである。
 そして,行政庁の裁量処分にあっては,裁量を誤っても不当となるにとどまり違
法とならないのが原則であり,裁量権の逸脱又は濫用の場合のみ例外として違法と
なるのであるから,違法事由(裁量権の逸脱又は濫用)の存在は,その取消しを求
める者において,主張,立証することを要するのは明らかなところである(最高裁
判所昭和42年4月7日第2小法廷判決・民集21巻3号572頁参照)。
第4章 本件許可処分の手続的適法性(予備的請求の争点)
第1 本件許可申請書及び添付書類の不備
(原告らの主張)
1 本件許可申請書及び添付書類の記載内容
 本件許可申請書及び添付書類は,申請者が設置しようとする本件施設について,
その基本的な構造・仕様をほとんど記載しておらず,申請書としての体裁をなして
いない。
(1) 原子力施設の構造・設備を明らかにするには,建屋,機器の機能のほか,
その材質,形状寸法,肉厚を明記し,特に放射性物質を取り扱う機器については,
設計温度,使用温度,設計圧力,使用圧力,流体を取り扱う場合のその濃度及び流
量を明らかにすることが不可欠であるが,本件許可申請書及び添付書類は,これら
の数値をほとんど明らかにしていない。例えば,材質を記載してあるのは,建屋以
外ではコールドトラップ(ステンレス鋼)及び高性能エアフィルタ(HEPAフィ
ルタ)のみであり,施設の中枢であるカスケード部や事故想定上重要な均質槽につ
いては,その材質が明らかにされていない。肉厚に至っては,発回均質棟の建屋の
壁が厚さ約90センチメートルとされているだけで,設備・機器についてはどれ一
つとして明らかにされていない。そして,放射性物質で,金属と反応しやすく,し
かも水と反応すると腐食性,毒性の強いフッ化水素を生成する六フッ化ウランを取
り扱う機器についても,材質,肉厚が明らかにされていない上,温度,圧力等もほ
とんど示されていない。
 また,使用温度が示されている場合でも極めて漠然としたもので,安全審査上無
意味に近い。例えば製品コールドトラップは,濃縮された六フッ化ウランガスを冷
凍機で冷却・固化し,その後電気ヒーター等で加熱して再度気化させる作業を繰り
返す機器であり,その健全性維持のためには,材質及び肉厚に加え,冷却時の温
度,加熱時の温度,冷却・加熱時の温度勾配,使用期間中の冷却・加熱回数が安全
審査上不可欠のデータとなる。しかし,本件許可申請書及び添付書類に記載されて
いるのは,その材質(ステンレス鋼)と耐用温度(摂氏マイナス190度)のみで
ある。
(2) 本件許可申請書には,施設の使用期間が記載されておらず,機器の防食に
ついても,ケミカルトラップに関し「容器の形状を維持するために耐食性及び強度
を考慮したものを使用する」としている以外,何らの記載もない。
(3) ウラン濃縮の中枢的設備であるカスケード部(遠心分離機及び配管等)に
至っては,六フッ化ウランの供給流量につき一定流量と,使用温度及び圧力につき
常温及び大気圧以下としているのみで,全く何も記載されていないといってよい。
 まず,加工事業規則2条1項1号ニ(ロ)は,許可申請書に「主要な設備及び機
器の種類及び個数」を記載することを求めているが,本件許可申請書及び添付書類
は,ウラン濃縮施設の中枢的機器である遠心分離機の種類及び個数を明記しておら
ず,同規則に明らかに違反している。
 次に,遠心分離機は,近時では向流型が主流であり(本件許可申請書には向流型
か否かすら書かれていないが),その中でも,向流を起こすためにバッフル板を用
いるもの(ジッペ型),加熱・冷却によるもの(グロス型),外部ポンプによるも
のなどがあり,その型により濃縮性能,保安の難易に差があるところ,本件許可申
請書では,この遠心分離機の型すら明らかにされていない。また,形状寸法等が明
らかにされていないのは前述のとおりであり,本件許可申請書では,遠心分離法に
よるということ以外どのようにしてウラン濃縮を行うのか全く不明である。さら
に,遠心分離機1台当たりの性能,濃縮能力も示されていない。
 さらに,遠心分離機の設計においては,最大周速(回転胴の材質に規定され,こ
れにより半径,回転速度の限界が定まる。)及び共鳴振動による破損の回避(回転
胴の材質,半径及び長さにより共鳴振動を起こす回転速度が規定される。)は最も
初歩的な考慮事項であるが,これらに関する記載は全くなく,検討の跡すらない。
(4) 本件許可申請書の数値等の不記載が,ウラン濃縮技術についての核拡散防
止上の特別の考慮によるものでないことは明らかである。というのは,本件許可申
請書上,申請者が核拡散防止に関わると主張する部分は,許可申請書に記載された
上で,公開の際に白紙で隠してコピーされているにすぎないし,旭化成工業株式会
社が日向市に設置したウラン濃縮研究所(化学交換法を採用)についての許可申請
書及び添付書類では,本件許可申請書では隠された数値の大半が明記されており,
化学交換法において遠心分離法の遠心分離機に相当する濃縮塔についても,材質,
形状寸法,肉厚等を明記し,構造図,配置図も添付されているからである。
(5) 本件許可申請書の記載中,「放射線管理の諸対策」の部分は,結局のとこ
ろ,管理方法の種別をあげて,「区分する」「明示する」「測定する」「採取す
る」「放射線管理を行う」「確認する」「漏洩することを防ぐ設計としている」
「排気用モニタにより連続的に監視する」「確認後,排水口から放出する」「測定
し,記録する」「十分小さい値である」などと結論だけを述べるものにすぎず,そ
こでは,具体的にどのような機種と技術により管理を行い,どのような目標値が設
定され,その安全管理が現実に適切に行われ得るかといった具体的な安全審査の資
料は何一つ明示されていない。それにもかかわらず内閣総理大臣は漫然と「基準に
適合する」との判断を行って,本件許可処分をしている。
 しかし,これでは,加工施設指針に記載された諸対策について,申請書で「対策
を講じる」と記載すれば,どのような申請も認められてしまうことになり,その対
策が十分なものか,その対策を行う能力があるのか,といった安全審査の基本的事
項は何ら審査されないままとなってしまう。
(6) 放射線遮へい対策について,本件許可申請書は,単に「濃縮ウラン,天然
ウラン及び劣化ウランからの放射線量率は低く,放射線遮へいは特に必要としな
い。」と述べているのみである。しかし,加工施設指針5は「核燃料施設において
は,従事者等の作業条件を考慮して,十分な放射線遮蔽がなされていること。」と
遮へい対策を義務づけているのであるから,最低限,放射線量率等放射線遮へいを
しないという判断の適正を検討するための資料を明らかにする必要がある。
(7) 以上述べたところから明らかなように,本件許可申請書及び添付書類に
は,施設の構造及び設備がほとんど記載されておらず,この程度の記載では,いか
なる専門家であっても,本件施設が核燃料物質による災害の防止上支障がないか否
かはもちろん,そもそも申請者にウラン濃縮を行える技術的能力があるか否かすら
判断できない。したがって,このような許可申請書に基づく許可処分は,本来不可
能であり,違法である。
2 被告の主張に対する反論
(1) 加工事業規則2条1項1号ニ(ロ)により必要な「主要な設備及び機器の
種類及び個数」の記載について,被告は,「機器の種類」としては「遠心分離
機」,「個数」としては遠心分離機自体ではなく遠心分離機群で構成される「カス
ケード設備」の個数で足りるとしている。しかし,「種類及び個数」といえば,同
一対象についての「種類及び個数」を指していると解するのが自然であるし,上記
規則が申請書に「主要な設備及び機器の種類及び個数」の記載を求めているのは,
いうまでもなく安全審査のためであって,遠心分離機の具体的機種(どのような機
種が設置されるのか)やカスケード内に近接して設置される遠心分離機の個数や設
置状況を知らなければ到底安全審査はできない。
(2) 被告は,本件施設が放射線遮へい対策を必要としないことについて,「ウ
ランを収納する設備・機器からの放射線の線量率は,設備・機器による遮へい効果
等によって低下し,上記放射線による影響が,放射線業務従事者の放射線被曝を管
理する上で問題となるものではない。」と判断したと述べるが,そのような事情は
何ら本件許可申請書に記載されていない。加えて,線量率がどの程度に低下するの
かが不明なままでは,到底適切な安全審査がなされたとはいえない。
(被告の主張)
 加工事業許可に係る安全審査においては,加工施設の基本設計ないし基本的設計
方針に係る安全性に関する事項を対象とするものであり,詳細設計や運転管理に関
する事項について審査を行うものではなく,原告らが指摘する項目は,仮に審査が
必要であるとしても詳細設計以降の審査において取り扱うべき事項である。そし
て,安全審査の対象となる事項を審査する上では,本件許可申請書及びその添付書
類の記載内容は必要にして十分である。
 なお,原告らは,加工事業規則2条1項1号ニ(ロ)は加工の事業の許可申請書
に「主要な設備及び機器の種類及び個数」を記載することを求めているのに,本件
許可申請書及びその添付書類においては遠心分離機の種類及び個数を明記していな
いから上記規定に違反する旨主張する。しかしながら,遠心分離法による濃縮設備
としての機能は,個々の遠心分離機によって果たされるのではなく,配管で接続さ
れた多段多数の遠心分離機群で構成されるカスケード設備により発揮されるもので
あるところ,本件許可申請書においては,「機器の種類」として遠心分離機とし,
「個数」としてカスケード設備が4組と各記載されているから,上記加工事業規則
の規定に違反するものではなく,原告らの主張は失当である。
第2 審査主体の問題点
(原告らの主張)
1 原子力委員会は,原子力の利用を推進する機関であり,実質審議を担うその専
門部会等は,電事連・電力会社・日本原子力産業会議を始め,原子力産業の関係者
が多数構成員となっている。とりわけ本件施設に関わりの深いウラン濃縮懇談会に
は,申請者である原燃産業のJ社長が名を連ねており,いわば自分で事業許可申請
を出しそれを審査するということが行われている。
2 安全性をチェックすべき原子力安全委員会には,この事業を推進する立場の専
門家が加わっており,今回の申請の実質審議を担当した核燃料安全専門審査会に
も,原子力の開発・利用の促進を目的とする日本原子力研究所及び動燃事業団の関
係者を始めとする推進派の名前が多数見受けられ,特に,核燃料安全専門審査会会
長のKは,原子力委員会やウラン濃縮懇談会にも属しており,このような馴れ合い
委員に厳正な審査を求めることは極めて困難である。
3 JCO東海事業所の施設の加工事業許可の安全審査は,Aが部会長を務める核
燃料安全専門審査会第8部会が担当し,誤った審査を行ったものである。この事実
からすれば,核燃料安全専門審査会及び上記Aには核燃料サイクル施設の安全審査
能力が欠落していると解するのが相当である。
 本件施設は,同じ核燃料安全専門審査会のA氏が部会長を務める核燃料安全専門
審査会第23部会が安全審査を担当したものであり,安全審査能力に欠ける者が審
査を行った点において,看過し難い過誤,欠落があるというべきである。
4 原子力安全委員会は,原子力行政における推進部門と安全審査部門とを組織的
に分離することで原子力施設の安全性のダブル・チェックを果たさせようとして昭
和53年の原子力基本法の改正によって設けられた機関であるが,その実態は,到
底他の機関がした判断を独立して審査できるようなものではない。すなわち,同委
員会は,独自の調査・研究スタッフを持っていないため,独自の調査・解析による
データを踏まえて審査をすることは能力的に不可能であり,通産省や科学技術庁等
の諮問を受けた際に電力会社や行政庁等が作成した書類・資料に基づいて審査を行
わざるを得ない。また,同委員会は,これまで,一度も許可申請につき要件不適合
との答申をしたこともなければ,原子力安全について根本的問題提起をしたことも
ない。
(被告の主張)
 原子力委員会の委員は両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命し(設置法5条1
項),その専門委員も学識経験がある者及び関係行政機関の職員のうちから内閣総
理大臣が任命することとされているのであり(設置法施行令3条2項),上記委員
及び専門委員の適格性は,十分に担保されている。
 原告らが指摘するウラン濃縮懇談会は,「我が国のウラン濃縮事業の具体化が進
展している状況に鑑み,21世紀初めを見通した今後のウラン濃縮の展開,技術開
発の方向付け等につき調査審議するため」(「ウラン濃縮懇談会の設置につい
て」,昭和60年12月17日原子力委員会決定)に設置されたものにすぎず,加
工の事業の許可に関し,規制法14条2項に基づいて原子力委員会が内閣総理大臣
から諮問を受けた際の審議,決定その他本件許可処分に係る審査に何ら関与する機
関ではない。
 原子力安全委員会の委員は,両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命し(設置法
22条・5条1項),また核燃料安全専門審査会の審査委員は学識経験のある者及
び関係行政機関の職員のうちから内閣総理大臣が任命する(設置法20条・17条
1項)こととされており,上記委員及び審査委員の適格性は十分に担保され,およ
そ推進派,反対派という観点から選ばれるものではない。
第3 審査の実態に関する問題点
(原告らの主張)
1 許可を前提とした審査
(1) 本件施設を含む核燃料施設の事業計画が,国策的事業との認識の下に推進
されていることは,ア昭和59年7月,総合エネルギー調査会原子力部会が「自主
的核燃料サイクルの確立に向けて」と題する報告で,商業濃縮プラントを国策とし
て位置づけ,同年4月20日電事連が青森県知事に核燃料サイクルの包括要請をし
たことを評価していること,イ青森県知事も,国策の確認ができたことを立地受入
れの理由とし,地元と事業者間の基本協定においてもそのことが確認されているこ
と,ウ昭和60年4月に核燃立地のため「むつ小川原開発第二次基本計画」が一部
修正されて閣議口頭了解がされたこと,エ昭和61年7月の前記原子力部会による
「原子力ビジョン・21世紀の原子力を考える」や原子力委員会の昭和62年6月
改定の「原子力開発利用長期計画」に六ケ所村立地を前提とした核燃料サイクルの
推進確立が謳われていること,オ昭和63年4月17日,伊藤科学技術庁長官が盛
岡市で「反対運動に対しては,不退転の決意で説得に当たり理解を深めていくつも
りだ」と発言したこと,等の事実に照らし明白である。
 このような位置づけがなされている「核燃計画」を,原子力利用を推進する立場
の原子力委員会が規制するはずがないし,国会の関与もなく内閣総理大臣によって
任命される核燃料安全専門審査会の審査委員の意見によって事実上の決定がなされ
る原子力安全委員会に,安全確保を国策に優先させる勇気と決断が備わっていると
は到底信じ難い。
(2) 本件安全審査の過程において,六ケ所村とそれ以外の候補地との立地条件
の対比がされた形跡はない。
 本件施設の立地は,核廃棄物処理の必要性に迫られた国や電気事業者の意図と,
むつ小川原開発の挫折を回復しようとする財界とその失政を糊塗しようとするH県
政の思惑が一致した結果にほかならず,六ケ所村が適地であるから立地されたもの
ではないことからすれば,本件安全審査において,候補地の対比検討がなされなか
ったことは理の当然といえる。
 しかして,核燃立地決定をするに際し,計画そのもの及び立地点等について各種
の代替案を検討し,予測と評価を行うこと(アセスメント)は必要不可欠であると
ころ,審査段階でこの点の議論が全くされていないことは,六ケ所村立地を前提と
した審査しかなされなかったことの証左である。
(3) 青森県は,昭和63年7月11日本件施設と低レベル放射性廃棄物貯蔵施
設に係る50億円に上る電源三法交付金の整備計画申請を国に行い,同年8月31
日正式に承認された。上記申請時点では,本件許可申請は原子力安全委員会の安全
審査中であったし,低レベル放射性廃棄物貯蔵施設は科学技術庁で審査中であっ
た。
 さらに問題なのは,これら2施設については,元々交付金の対象施設となってい
なかったものであるが,昭和62年11月27日の閣議により,急遽交付対象施設
とする政令改正がされた。その上,原発では地元自治体及びその隣接市町村にしか
交付されないものが,再処理工場を含む核燃サイクル施設を意識してか,その隣々
接市町村までも交付対象とする念の入れようである。つまり,審査の最中に許可を
前提とした交付金をバラまいているのである。建設が不確定なものに前倒金を交付
するはずがなく,そこには青森県で広がりつつある核燃料サイクル施設反対派の声
を封じ込めようとする意図が表れている。
(4) 昭和63年5月30日,国(科学技術庁・資源エネルギー庁),青森県,
電気事業連合会,日本原燃サービス株式会社及び原燃産業が一体となって「原子燃
料サイクル月例広報連絡会」なる広報組織を発足させ,新聞・ラジオ・テレビとい
ったマスコミを通じたPR活動を行い,また,立地反対の声が広がる酪農業・漁業
関係者を対象とした座談会を開催しようとしたが,いくつもの農協が安全性を一方
的にPRするこのやり方に反発して参加を拒否した。このような反対運動の盛り上
がりを抑えるために,国は再度金のバラまきを画策し,通産省の昭和64年度予算
概算要求に,核燃サイクル立地に絡み新たに原子力発電施設等周辺地域交付金と電
源地域産業育成支援補助金を盛り込み,核燃料サイクル関係広報対策等委託費も前
年度の約4倍に当たる4億円に増額している。
(5) 以上のように,本件許可申請についてされた審査は,極めて恣意的で,許
可を前提としたセレモニーにすぎないことは明白である。
2 審査の杜撰さ
 本件安全審査において,原子力安全委員会,原子力委員会その他の関係機関の構
成員は,定められた会議にほとんど出席せず,ごく限られた特定の委員らに審査を
任せていて,会議は著しく形骸化しており,その審査内容も,事後検証に不可欠な
議事録等の記録が存在しないか若しくは不整備で杜撰極まりない。なお,この点に
関して原告らがその議事内容を調査検討しようとしても,その議事録の内容の公表
はもちろん,議事録の存否さえ明らかにされていない。
(被告の主張)
1 許可を前提とした審査について
 原告らは,国策としての推進,他地域との立地条件の対比がなされていないこ
と,許可を前提とした交付金の交付等について主張するが,これらの事項が本件許
可処分における規制法14条1項各号所定の要件適合性の審査と何らの関係も有し
ないことは明らかであって,本件取消訴訟の審理の対象とはならない。
2 審査の杜撰さについて
 原告らの主張は,核燃料安全専門審査会第23部会に関する限り失当である。す
なわち,本件については,原子力安全委員会から核燃料安全専門審査会に調査審議
の指示がされ,同審査会内部では第23部会がこれを担当し,同部会で専門的かつ
詳細に調査審議した結果が,核燃料安全専門審査会で再度調査審議された上で最終
的に原子力安全委員会の審議及び決定に反映されている。
 また,審査の議事録は,原子力委員会議事運営規則及び原子力安全委員会議事運
営規則によりその作成が義務づけられ,これが遵守されており,その議事概要は原
子力委員会月報,原子力安全委員会月報に掲載されている。
第4 指針による審査の違法性
(原告らの主張)
1 加工施設指針の法律上の根拠
 本件許可処分は,核燃料施設基本指針と加工施設指針に基づく原子力安全委員会
の安全審査をクリアして初めて認められるものである。しかし,これらの指針は,
安全審査基準の最も重要な部分を占めているにもかかわらず,いずれも同委員会の
決定にすぎず法律上の根拠をもたないから,これらに基づいて安全審査を行うこと
は違法である。
2 加工施設指針の適用の違法
 加工施設指針は,昭和55年12月22日に原子力安全委員会で決定されたもの
で,「加工の事業の許可の申請に係る加工施設であって,濃縮度5%以下の未照射
ウランを転換・加工する施設に適用される」としているが,もしその適用対象が濃
縮施設を含むのであれば,「濃縮度5%以下の未照射ウランを転換・加工する」な
どという表現ではなく,端的に「濃縮度5%以内までウランを濃縮する」という表
現が用いられたはずであるから,この適用対象を素直に読む限り,濃縮施設は加工
施設指針の適用外と解さざるを得ない。
 このことは,指針の内容をみることで更に明らかとなる。すなわち,加工施設指
針10の「単一ユニットの臨界安全」では,「濃縮度の制限」による臨界管理が明
記されていない。本件施設のカスケード設備における唯一の臨界管理方法は濃縮度
制限であり,濃縮施設における臨界管理において濃縮度制限が極めて重要であるこ
とはいうまでもないことである。ところが,この点が明記されていないことは,加
工施設指針が取り扱うウランの濃縮度が一定値に固定されている転換施設及び加工
施設のみを念頭に置いていることを示している。
 また,加工事業規則が改正され濃縮に関する規定が付け加えられたのは昭和59
年6月のことであり,それ以前においては,規制法を改正して濃縮事業に関する規
定を新設するという方策が政府内部で検討されていたことは,前述のとおりであ
る。したがって,加工施設指針の制定当時には,濃縮を加工事業に含めるとの政府
解釈も確立していなかった。
 したがって,加工施設指針を濃縮施設である本件施設に適用することはできず,
これを適用して行われた本件安全審査は手続的に違法である。
(被告の主張)
1 加工施設指針の法律上の根拠について
 本件許可処分に際しての規制法14条1項3号要件適合性の審査のような優れて
専門技術的な事項については,一方において,科学技術の進歩や新しい研究の成果
を必要に応じて速やかに取り入れるとともに,他方において,その審査,判断の客
観性,確実性及び予測可能性を確保することが必要であり,そのためには,法令上
の審査基準である加工事業規則等のほか,原子力安全委員会がある程度一般的な基
準や審査の考え方等を指針として定め,このような指針を中心として,その他の技
術的知見をも参考にして審査を行うことこそが合目的的であり,機能的である。
 加工施設指針の法的性格は,原子力安全委員会の内規ともいうべきものであり,
原子力安全委員会が指針を定めるべきことを明示的に規定した条文は存しないが,
上記のとおりの規制法14条1項3号要件の審査の性格からすれば,審査に当たり
加工施設指針を用いることは,法の趣旨に照らして合目的的であり,かつ,機能的
である。したがって,指針定立を委任する旨の法律が存しないからといって加工施
設指針が当然に違法となるものではなく,要は,上記指針に基づいてされた本件許
可処分が法の規定に適合するか否かが問題となるのであるから,原告らの主張は,
それ自体失当である。
 なお,原子力安全委員会は実質的には行政委員会に近い性格を持つものであり,
またその任務は原子力基本法5条2項により「原子力の研究,開発及び利用に関す
る事項のうち,安全の確保に関する事項について企画し,審議し,及び決定する」
こととされており,加工施設指針は上記条項に基づいて策定されているものであ
る。
2 加工施設指針の適用の違法について
 加工施設指針が加工事業許可の申請に係る加工施設に対する安全審査上の指針と
して取りまとめられたものであること,及び加工施設指針の「濃縮度5%以下の未
照射ウランを転換,加工する施設」に本件施設のような濃縮度5パーセント以下の
範囲内で濃縮を行う施設も含まれることは明らかである。また,加工施設指針10
の「単一ユニットの臨界安全」の項には,「核的制限値を設定するに当たつては取
扱われるウランの…濃縮度…を考慮」すると明記されているのであって,これは濃
縮度制限にほかならない。
第5 その他の手続上の問題点
(原告らの主張)
1 告知聴聞の機会の欠落・安全審査資料公開の不実施
 規制法は,加工事業許可処分の手続要件として,関係住民に対する告知聴聞の機
会付与や安全審査資料の公開を明定していないが,これは法制の不備であって,
(ア)憲法31条の適正手続の要請は行政処分においても妥当し,法律に規定のな
い場合でも憲法上の要請から行政法規を合理的に解釈する必要があること,(イ)
原子力基本法2条は,原子力の開発利用は民主的な運営の下に行うものとし,ま
た,研究開発利用の成果は公開するものとしており,上記規定は単なる訓示規定に
とどまらず法規範性を有するものと考えられること,(ウ)憲法21条の表現の自
由の現代的形態である知る権利の確立に伴い,情報公開は大きな世論となってお
り,安全審査資料の公開も請求し得るものと考えられること,(エ)実質的にも,
本件施設のように環境に重大な影響を及ぼし科学的な争点を多く含んだ施設の許否
を判断する者は,公正で合理的な意思決定をする前提として,安全審査資料を事前
に公開し,その安全性に疑問を持つ関係住民及び専門科学者に十分な告知聴聞の機
会を与えることが,公平原則及び条理上強く要請されると考えられることなどの事
情を総合して規制法13条,14条を合憲的かつ合理的に解釈するならば,本来は
これらの手続が履践されなければならない。にもかかわらず,本件ではこれが履践
されていないから,本件許可処分は違法である。
2 審査の密室性・秘密主義と許可申請書等の非公開
(1) 本件のような国民の生命,健康,財産と環境に重大な影響を与え,高度の
科学的知識を要求される原子力施設の建設許否を判断する場合には,公正で合理的
な結論を担保するために,事業許可申請書,添付書類その他の安全審査資料を公開
し,その安全性に疑問を持つ関係住民や専門科学者に十分な告知聴聞の機会を与
え,その批判にさらすことが憲法21条や公平原則・条理に基づき強く要請され
る。また,公権力に対して情報の開示を求める積極的情報収集権は,少なくとも抽
象的請求権としては憲法21条により保障されると解するべきである。したがっ
て,法律の解釈においては,このような情報公開や積極的情報収集権の保護が要請
されるというべきところであるが,本件では,その保障は履践されていない。
(2) 本件施設に関しては,許可直前に青森県民の強い要請で,科学技術庁から
申請書と環境保全調査報告書が一般公開されたにすぎない。申請から許可に至る関
係機関の審議経過について,国民は,その結論部分をマスコミの報道で知り得るの
みで,内容を知ることは不可能な状況に置かれた。そして,公開された安全審査資
料は,本件施設の安全性,必要性を判断するのに不可欠な基本的データが企業秘密
や核不拡散情報に属することを理由に隠されていたり,審査の前提条件が不明確で
あったり,結論の根拠や理由づけが不十分であるなど,国民の側から施設の安全性
をチェックすることは全く不可能である。
(3) 本件許可申請書及び添付書類は,一部の図表に紙を貼ってコピーした状態
で開示されたが,その一部非公開の理由は,「企業秘密または核不拡散に係る情報
に属する」とのことであった。しかし,非公開部分は,工事に要する資金の額及び
その調達計画,加工事業開始後5年間の資金計画及び事業収支見積,カスケード
室,均質室の一部,ウラン貯蔵建屋,ウラン濃縮廃棄物建屋の各室内の配置図であ
るが,いずれも企業秘密又は核不拡散に係る情報に属するとはいい難い。すなわ
ち,資金関係については,各地の原発などの設置の際には明らかにされており(株
式非公開の日本原電の場合でも同じ)企業秘密とはいえないし,核不拡散に係る情
報でもない。配置図については,旭化成ウラン濃縮研究所の許可申請書及び添付書
類においては,カスケード部に該当する濃縮工程,均質室に該当する混合槽(回収
工程)についても配置図が添付され公開されており,企業秘密や核不拡散に係る情
報とは到底考えられない。
 むしろ,資金関係は,本件施設の採算が合わないことが明白であり,しかも安い
濃縮ウラン製造を掲げていても実は海外産のものより高価なものしか製造できない
ことを,国民の目から隠蔽することを目的として秘匿されたものと解されるし,配
置図関係は,本件施設の安全設計が極めて不備であり,また事故想定が全く非現実
的であることを隠蔽するために秘匿したものと解されるのである。とすれば,国側
のこの非公開の姿勢自体,本件施設の経理的基礎及び安全性を公正に審査する意思
のないことの表れである。このような立場に立って行われた本件許可処分は,それ
だけでも違法というべきである。
(被告の主張)
1 告知聴聞の機会の欠落・安全審査資料公開の不実施について
 規制法が加工の事業の許可処分の手続要件として,関係住民に対する告知聴聞の
機会の付与や安全審査資料の公開を規定していないことは認めるが,その余は争
う。
2 審査の密室性・秘密主義と許可申請書等の非公開について
(1) 憲法21条は,国家に対して情報の開示を義務づけた規定と解することは
できないし,国民に対し情報の入手について国家の干渉を受けないという消極的自
由を保障した規定と解することもできない。したがって,法律の規定をまたずに,
憲法21条から直ちに情報の開示に関し何らかの法的効果を生ずるということはな
い。そうすると,行政手続中にこのような公開制度が法律上設けられておらず,上
記手続の中でその申請書等が公開されなかったとしても,これらのことは,何ら憲
法21条等に違反するものということはできないし,そのゆえに行政手続の適法性
や妥当性が左右されるものでもないことは明らかである。
(2) 申請書等の公開は行われている。すなわち,本件許可申請書及びその添付
書類は,本件許可申請の直後(本件許可処分の13か月前)に公開されているし,
「ウラン濃縮施設及び低レベル放射性廃棄物貯蔵施設に係る環境保全調査報告書」
は本件許可処分の三か月前に公開されているのである。なお,上記環境保全調査報
告書は青森県により公開されたもので,本件許可処分とは関係がない。
 また,本件許可申請書,その添付書類及び申請の一部補正書並びに安全審査書
は,青森県庁及び国会図書館等で公開されている。このほか,原子力委員会,原子
力安全委員会の審議経過については,その議事概要がそれぞれ原子力委員会月報,
原子力安全委員会月報に掲載されており,これらの月報は何人でも自由に入手でき
る。
(3) 原告らは,本件許可申請書及びその添付書類の公開に当たり,各地の原子
力発電所設置の際には明らかにされていた資金関係についてあえて本件で非公開と
したのは本件施設の非経済性を隠ぺいするためであると主張するが,工事に要する
資金の額及びその調達計画等の資金関係情報は,事業者である原燃産業の企業機密
に属するものであるから非公開とすることには理由がある。
 また,本件許可申請書及びその添付書類中,文書公開に当たり非公開の対象とさ
れたのは,資金関係を除けばウラン濃縮建屋1階の機器名称の番号のみであり,原
告らが主張する各建屋の配置図は公開されている。上記機器名称の番号を非公開と
したのは,事業者である原燃産業から核不拡散上の機密事項に属するとの理由によ
り非公開としたいとの要請があり,内閣総理大臣も核不拡散上非公開とする必要が
あると判断したためである。そもそも,原子力の開発,利用に係る一定の技術につ
いては,国際慣行により核不拡散上の観点から情報管理が行われており,ウラン濃
縮に係る諸技術についても核不拡散上の観点から一定の情報管理が必要となること
は当然であり,上記非公開措置に何らの違法もない。
 もとより,核不拡散等を理由に本件許可申請書及びその添付書類が一部非公開と
されている場合でも,内閣総理大臣は,当該非公開箇所について当然審査を行って
いる。
第5章 規制法14条1項2号要件適合性(予備的請求の争点)
第1 2号要件のうち経理的基礎に係る部分の適合性
(原告らの主張)
1 原燃産業の経営状態
 原燃産業は事業活動を行っておらず,損失はあっても収入(営業収入)はない。
昭和61年3月31日の欠損金は,約1億1000万円である(申請書添付書類9
―14)。そして,アメリカ,ウレンコ社,旧ソ連ないしロシア,フランスなどの
ウラン濃縮事業によって濃縮ウランの世界的供給過剰が恒常化する中で,原燃産業
のウラン濃縮事業が採算ベースに乗ることは極めて困難であり,当面は国の補助金
だけが頼りと言われている。
 すなわち,本件許可処分当時の原燃産業の経理的基礎は論じる余地がないし,将
来的にもその基礎の充実を期待することは全くできない。恒常的な赤字企業が,住
民の生命,身体に甚大な被害をもたらす危険のある事業を営むことは,その損害賠
償能力を論じるまでもなく許されるべきではない。
 その後,原燃産業が日本原燃サービス株式会社と合併して発足した日本原燃にお
いても,累積未処理損失金は増加を続け,平成7年3月31日現在(第16期末)
における日本原燃の有価証券報告書上の累積未処理損失金は284億7900万円
に達した。また,その後平成8年3月31日時点(第17期末)では,上記額は2
27億4300万円に減少してはいるものの,これは,当期中の高レベル放射性廃
棄物のガラス固化体受入れによる収入103億1500万円によるものであり,こ
の収入を除外すると,第17期においては,上半期だけで約92億円もの営業損失
が生じている。これは,当期において生産能力600トンSWU/年の95.7パ
ーセントに当たるフル稼働に近い稼働率で運転をしたためであり,同期の下半期に
おいて,日本原燃は,このような赤字の増加を軽減するために,濃縮役務価格を国
際相場の3.3ないし4.4倍の高水準に引き上げている。
2 ウラン濃縮役務供給契約の実際
 我が国において,濃縮ウランは,少なくとも平成12年過ぎまでは海外との長期
契約によって確保されている。
 すなわち,我が国のウラン濃縮役務に関して,原子力委員会は,原子力白書(平
成2年版)において「米国から現在約3000tSWU/年の供給を受けており,
2000年(平成12年)頃には約4000tSWU/年,また国際合弁企業ユー
ロディフ社及びコジェマ社から,2000年まで合計約1600tSWU/年の供
給契約を有していること,世界の濃縮役務の需給バランスは緩和傾向にあり,米国
エネルギー省(DOE)と欧州の濃縮事業者は激しい価格競争を展開すると共に,
一層の低廉化を目指してレーザー法等の技術開発を進めている」と述べている。こ
の白書では,ウラン濃縮役務の供給量を最小値で表現しているが,実際はDOEか
ら年間約3000ないし6000トンSWUの輸入が可能とされている(平成元年
5月30日付日経産業新聞)。各国との既契約内容の詳細が明らかにされていない
ため,不明な点があるが,これだけの既契約分があること自体,本件施設の必要性
に重大な疑問を生じさせるのに十分である。すなわち,総出力3000万キロワッ
ト程度の原発を稼動するには,年間約3000ないし4000トンSWUで十分で
あり,DOEの供給量にフランスその他の分を加算すれば,平成12年過ぎまで何
ら支障を来すことはないはずである。
3 世界の濃縮役務需給
 原子力関係の専門誌による平成元年ないし平成2年ころにおける平成12年まで
のウラン濃縮役務に関する需給予測では,圧倒的な買手市場が予想されており,仮
に我が国が世界的な脱原発の流れに逆行して原発依存度を高め続けても,独自にウ
ラン濃縮を行う必要など全くないことを明瞭に示していた。
 そして,最近のウラン濃縮価格をめぐる日本及び世界情勢の推移は,自国の軍事
分野における需要が減少し,原発の閉鎖が相次いで需要の伸びも計画を大きく下回
っている旧ソ連ないしはロシアの濃縮ウランの叩き売り等の影響もあって極めてド
ラスティックであり,濃縮ウランの需給は,「緩和状態」どころではなく,国際的
な濃縮ウラン供給能力過剰現象が予測をも遥かに越えた水準で進行しつつあり,ま
た,近時の世界市場におけるウラン濃縮役務価格に関する今後の長期的見通しも,
価格の下落を示唆している。したがって,各電力会社は,必要とあれば,短期契約
と長期契約とを問わず,任意の量の濃縮ウランを任意の価格で調達可能な状況にあ
る。
4 遠心分離法によるウラン濃縮技術の破綻
 昭和63年8月1日付けの「原子力委員会ウラン濃縮懇談会新素材高性能遠心機
技術開発検討ワーキング・グループ中間報告書」は,当時から既に世界的なウラン
濃縮役務の供給能力の過剰及び当時の急激な円高の進行に対応した我が国のウラン
濃縮事業の経済性向上を訴える一方で,本件施設で採用された遠心分離機につい
て,将来的にこれ以上の飛躍的な技術的進歩やコストダウンは期待し難いとしてい
た。
 遠心分離法は,米国が条件の困難性から断念をしたいわくつきの技術であり,国
と動力炉・核燃料開発事業団の過去20年間にわたる遠心分離法の開発は,今や経
済的には全く意味を失っている。
5 ウラン濃縮新技術開発
 現在,レーザー法や化学交換法といった経済性において遠心分離法よりも格段に
優れたウラン濃縮技術について研究開発が進められており,これらの新技術が世界
の主流となるのは時間の問題である。
6 まとめ
 以上によれば,本件施設のような時代錯誤的な遠心分離法による濃縮施設は,経
済的に論外であり,本件施設に規制法14条1項2号にいう経理的基礎が欠けてい
ることは明らかである。
(被告の主張)
 本件許可申請が規制法14条1項2号に規定する事業を適確に遂行するに足りる
経理的基礎があるとの要件に適合しているかどうかについての審査は,主として本
件許可申請書の添付書類のうち「添付書類1 事業計画書」(加工事業規則2条2
項1号,特に「工事に要する資金の額及びその調達計画」(同号ハ),「加工の事
業の開始の日以後5年内の日を含む毎事業年度における資金計画及び事業の収支見
積り」(同号ニ))及び「添付書類9 法人にあっては,定款,役員の氏名及び履
歴,登記簿の抄本並びに最近の財産目録,貸借対照表及び損益計算書」(加工事業
規則2条2項9号)等に基づき,事業を遂行するために必要な設備資金,運転資金
等の見積りが適切なものであるかどうか,その調達能力があるかどうか等を判断す
る。
 原燃産業は,事業を遂行するために必要とされる資金を自己資金及び借入金によ
り充当する計画であり,その返済等についての計画も妥当なものであり,また,顧
客である電力会社の経営は安定しており,収入も確実であることから,内閣総理大
臣は,その計画の実現性についても問題がないものと判断した。このように,本件
許可申請は,規制法14条1項2号の許可要件のうち経理的基礎に係る部分に適合
するものである。
第2 2号要件のうち技術的能力に係る部分の適合性
(被告の主張)
 本件許可申請が規制法14条1項2号に規定する「事業を適確に遂行するに足り
る技術的能力」があるとの要件に適合しているかどうかについての審査は,主とし
て本件許可申請書の添付書類のうち「添付書類2 加工に関する技術的能力に関す
る説明書」(加工事業規則2条2項2号)等に基づき,原燃産業が当該事業を計
画,遂行していく上で必要な組織,要員を確保することになっているか等を中心
に,人的,組織的な面から加工事業者としての適格性の有無を判断する。
 原燃産業は,設立に当たって,従来から遠心分離法によるウラン濃縮について研
究開発を進め,岡山県人形峠で同法によるウラン濃縮のパイロットプラント及び原
型プラントの建設・運転の実績のある動燃事業団から同事業団の保有するウラン濃
縮技術を継承することとし,動燃事業団,電力会社等から主たる技術者の移籍を行
っていること,本件施設の建設,運転に当たって必要とする技術者については,定
期採用等により逐次増強を図るとともに,動燃事業団への派遣等による技術的能力
のかん養に努めることになっていること等から,内閣総理大臣は,原燃産業には本
件施設を設計,建設及び運転するために必要な技術的能力があるものと判断した。
(原告らの主張)
1 原燃産業の技術的能力
 原燃産業は,昭和60年3月に設立された会社であるが,これまでウラン濃縮事
業の実績は試験・研究を含めて全くないし,ほかにも一切収益活動を行ったことも
ない。したがって,原燃産業について,その技術的能力の有無を論じることはでき
ない。
 この点に関する原燃産業の説明(本件許可申請書添付書類2)は,動燃事業団が
技術的能力を有することの説明にはなっても,原燃産業自身の能力の説明にはなら
ない。現に原燃産業は,上記説明中で,申請当時においては本件施設の建設に必要
な技術者すら不足していることを自認している。しかし,本来,技術的能力の評価
は,当該企業の過去の事業実績に対してなし得るものであり,将来の事業活動に対
する見込みや期待が評価の基準となることはあり得ない。
 上記のように,事業実績も技術蓄積も一切なく,必要人員すら充足していない原
燃産業には,法定の技術的能力が欠如している。
2 本件施設における事故例と原燃産業の技術的能力
(1) 本件施設において平成6年2月7日に発生した,大半の機器について中央
制御室から監視も操作もできない状態が1時間45分以上も継続するという事故に
ついて,日本原燃は,事故原因の発端はプラグピンの品質管理ができず,腐食生成
物が生じたことにあると発表している。
 また,日本原燃の発表によれば,コネクタの締め付け確認作業,複数シーケンサ
の初期化作業,廃品第2段コンプレッサの停止後の起動作業について作業手順書を
作成していなかったことも,事故の原因とされている。
 これらの発表は,日本原燃が部品管理能力や適切な運転管理を行う能力を欠いて
いることを示している。
(2) 日本原燃の発表によれば,シーケンサの機能復旧作業において保修課長が
運転課長と協議した結果,誤った順序での作業を指示したとされているが,これは
素人目にも明らかな誤りであって,上記両名は本件施設の運転について素人並の知
識しか持っていないことになり,ひいては日本原燃が適確な運転を行う能力を欠い
ていることを示している。
(3) 上記の事故は,平成4年1月26日及び同年2月24日の高周波電源系統
での2回の事故,同年6月17日のバスダクトのショート・火花発生事故,同年1
0月25日の落雷事故に続く本件施設における5回目の事故である。このように,
事故が多発している事実からも,日本原燃の運転管理能力の欠落は明らかである。
3 JCO事故にみる技術的能力審査の過誤欠落
 JCO東海事業所の転換試験棟での作業に従事していた「スペシャルクルー」は
5名で構成されていたが,いずれも転換試験棟での作業経験は浅く,最も長い者で
も二,三か月の経験しかなかった。事故時に作業をしていた副長と作業員2名は,
副長が延べ二,三か月,作業員2名に至ってはこの製造が初めてで延べ一,二週間
の経験のみしかなかった。
 また,裏マニュアルの作成に当たっては核燃料取扱主任者の資格を持つ者2名が
その審査に関与していたほか,JCO事故のときも,バケツを使用する作業を核燃
料取扱主任者であるグループ長が指示書(プロセスパラメーターシート)で作業員
に指示していた。また,沈殿槽へのウラン溶液の複数バッチ投入について,核燃料
取扱主任者資格を持つ製造部計画グループ員が副長から「ウラン溶液均一化撹拌作
業に沈殿槽を使用して,ウラン溶液を投入しても問題ないか」と聞かれたのに対し
て「大丈夫だろう」と回答し,作業にゴーサインを出している。この者は,低濃縮
ウラン溶液を複数バッチ沈殿槽に入れても臨界にならないことから,高濃縮ウラン
を沈殿槽に複数バッチ入れても臨界にならないものと判断してしまったと言い訳し
ているようである。
 上記のように,今回の事故時に直接作業をしていた2名やその上司その他のメン
バーの実際の作業経験からすれば,書類上で技術者の経験年数を申請させても,現
場で現実に経験者がいることは保証されないというべきである。また,核燃料取扱
主任者資格を有する者が裏マニュアルの作成や違法作業の指示を行っていたことか
らすると,核燃料取扱主任者資格を持つ者がいても臨界規制を遵守させることにつ
いて役に立たず,むしろ違法作業をしても大丈夫であるという形でその知識を悪用
して違法作業を支援する危険性があり,また,核燃料取扱主任者資格を取得してい
ても臨界管理の初歩的な知識に欠け,臨界管理の能力が全くない者が存在すること
が明らかである。
 このような現状をみると,作業従事者の経験年数や核燃料取扱主任者有資格者の
有無は,臨界安全性を保障するものでないことはもちろんその存在がプラスになる
のかどうかさえ怪しく,その意味で,書類で出す技術者の経験年数や国家資格者の
数は実際の技術的能力とは無関係である。そして,事故により明らかになったJC
Oの操業の実情をみれば,JCOに加工事業を適確に遂行するに足りる技術的能力
がなかったことは明白であり,被告主張の安全審査の手法でJCOの技術的能力を
実際にチェックすることはできなかった。
 日本原燃の技術的能力についても,上記と全く同様の審査がなされているのみで
あるから,本件安全審査は到底合理的な審査とはいえず,技術的能力の審査判断に
おいて看過し難い過誤,欠落があるというべきである。
(被告の反論)
 本件施設において平成6年2月7日に発生した事象は,コネクタのプラグピン表
面に,電気的絶縁物である腐食生成物が生成したこと及び不適切なコネクタの締め
付けトルク確認作業を行ったことによって発生した接触不良並びにシーケンサの復
旧作業に当たって適切な操作ができなかったことによるものであるが,このような
具体的な運転管理上の個々の事態から直ちに日本原燃に技術的能力がないと断ずる
のは誤りである。
 すなわち,加工事業許可処分における技術的能力に関する審査は,事業許可後の
施設の建設及び運転という加工事業の全過程において,申請者が加工施設を取り扱
っていく上での適確な技術的能力を有するか否かを,申請者の人的,組織的な実態
を総合的に観察,検討することにより行うものであるところ,原燃産業は,遠心分
離法によるウラン濃縮についての実績を有する動燃事業団からウラン濃縮技術を継
承することとし,動燃事業団,電力会社等からの主たる技術者の移籍及び技術者の
定期採用等を行い必要な要員の充足を図るとともに,技術者の動燃事業団への派遣
等による技術的能力のかん養に努めることになっており,内閣総理大臣は,これら
の事項を総合して,原燃産業が本件施設を建設及び運転するために必要な技術的能
力を有しているものと判断したものであり,本件事象は上記判断の合理性を左右す
る性質のものではない。
第6章 規制法14条1項3号要件適合性(予備的請求の争点)
第1 総論的主張
1 ウランの人体への影響
(原告らの主張)
 以下のとおり,ウランは,それ自体人体及び環境に対して高度の危険性を有する
ものであり,このような危険な物質を大量に取り扱う本件施設の建設は許されるべ
きではない。 
(1) ウランの放射能毒性
 ウランの発するアルファ線は,物質に対する貫通力が小さいため,人体の外部か
らの被曝(外部被曝)による影響は少ない。しかし,一旦ウランが体内に入り込む
とアルファ線は強い破壊力をもって細胞を照射し,内部に著しい損傷を与える(内
部被曝)。生体内に吸収されない不溶性のウランは,とりわけ肺に沈着して容易に
排出されず,しかもウランの半減期が長いため,長期間にわたって肺を始めとする
体内組織を被曝させ,がんなどの晩発性の障害や遺伝障害の原因となる。
 国際原子力機関の「放射線事故等の評価」(1974年)によると,不溶性の天
然ウランが肺に年間5レムの被曝を与える放射能の量は,5.42×10の2乗マ
イクロキュリーとされている。そして,一般人の許容被曝線量は,許容被曝線量等
を定める件で年間0.5レムとされているので,同量の被曝を与える放射能の量
は,5.42×10の3乗マイクロキュリー,すなわち2.01×10の2乗ベク
レルであり,これを天然ウランの量に換算すると約8ミリグラムとなる。本件施設
には最大で510トンの天然ウラン及び85トンの濃縮ウランが貯蔵されるが,こ
れを上記数値にあてはめると,肺に対する一般人の許容被曝線量に対して,天然ウ
ランは637億5000人分の放射能量を本件施設は有しており,また,5パーセ
ント濃縮ウランについても同様の計算をすると,濃縮ウラン85トンは3230億
人分の年間摂取限度となる(現実にはこれに劣化ウランの放射能量が加わる)。
 また,本件施設で貯蔵及び使用されるウランの全体量は3000トン規模になる
が,天然ウランの一般人の年摂取限度は1.1ミリグラム,5パーセント濃縮ウラ
ンの一般人の年摂取限度は0.27ミリグラムであるから,本件施設では数兆人分
の年摂取限度のウランが貯蔵及び使用されることになり,その内蔵する放射能量は
莫大である。
(2) ウランの化学毒性
 ウランは上記の放射能毒性とともに,物質としての化学毒性を有する。昭和48
年発表のアメリカ国立職業安全衛生研究所による研究結果によれば,水溶性のウラ
ンはメチル水銀や青化カリなどの猛毒に匹敵する化学毒性を有しており,腎臓や神
経系を侵す重金属毒の一種に分類される。
 ウランは工業上,固体(酸化ウラン)又は気体(六フッ化ウラン)で取り扱われ
ることが多く(本件施設も同様),水溶性ウランの化学毒性に注目されることが少
ない。しかし,本件施設の事故により貯蔵していたウランが地下水に浸出した場合
などを想定すると,前記の放射能毒性とともにウランの化学毒性が周辺住民の生
命・身体に重大な危険をもたらすことは明らかである。
(3) 崩壊生成物の危険性
 本件施設に貯蔵されるウランには,製錬後の期間に応じた崩壊生成物(娘核種)
が含まれている。すなわち,ウラン鉱石の製錬によって,ウランは一旦純粋な形と
なるが,その後の期間の経過によって,ウランは放射線を発して崩壊し,ラジウ
ム,ラドンなどの崩壊生成物を生じさせる。
 このうち,ラジウムはウランの粉塵とともに体内に入り,腸で吸収されて骨に運
ばれ,白血病や骨癌の原因となる。また,ラドンはラジウムの崩壊によって発生す
る気体状の物質で,気体であるため容易に環境中に放出され,肺に取り込まれると
肺癌の原因となる。
(被告の主張)
 ウランが一定の潜在的危険性を有することは事実であるが,その潜在的危険性を
顕在化させないための努力を払うことにより,これを安全に利用することができる
のであり,潜在的危険性が存することのみを理由として,直ちにその利用が否定さ
れるべきものではない。そして,本件安全審査においては,種々の安全性確保対策
が講じられることにより本件施設の安全性は確保されると判断されたのであって,
適切な安全性確保対策が講じられているか否かを問うことなく,ウランの有する潜
在的危険性のみを理由として本件施設の建設が許されるべきではないとする原告ら
の主張は,それ自体失当である。
 また,本件施設において貯蔵及び使用されるウランの全体量3000トンが数兆
人分の一般人の年摂取限度のウランに相当するとの原告らの主張は,本件施設で貯
蔵及び使用するウランの全量が施設外に放出され,かつ,その全量を一般人が摂取
するとの仮定に基づくものであるが,原告らのこのような仮定自体合理的な根拠を
有しないものであり,その計算結果も実際上意味がない。そして,本件安全審査に
おいては,本件施設において適切な安全確保対策が講じられることはもとより,平
常時評価として平常時における一般公衆の被曝線量が実用可能な限り低いものであ
ること及び事故時評価として最大想定事故が発生するとした場合でも一般公衆に対
して過度の放射線被曝を及ぼさないことをそれぞれ確認しているのであるから,原
告らの仮定するような事態は起こり得ない。したがって,原告らの主張は,その前
提を欠き失当である。
 また,仮に,上記の点をおくとしても,原子力施設に係る安全審査において,安
全確保の観点から必要な対策が講じられているか否かを審査する際に,施設に内蔵
する放射能量等,それぞれの施設の有する潜在的危険性を考慮することには合理性
がある。
2 国内規制値の問題点
(原告らの主張)
 本件において被告が主張する,許容被曝線量を年間0.5レムとする放射線の規
制値は,ICRPの1948年(昭和23年)勧告に基づいている。しかし,IC
RPの勧告の背景にある考え方は,原子力産業に従事する労働者や原子力施設周辺
地域の住民の生命身体の安全よりも,原子力産業の経済的利益を優先させるもので
ある上,1960年(昭和35年)代以降には低線量・微量の放射線の生物体に与
える影響や広島長崎の被曝線量の再評価に関する研究成果が発表され,従前の放射
線の危険性評価には重大な誤りが指摘されるに至っている。また,ICRPは,そ
の前身である国際エックス線ラジウム防護委員会(IXRPC)の設立された19
28年(昭和3年)以降現在までの間に数度にわたり放射線防護のための線量制限
値を提示してきたが,その制限値は,提示の度に切り下げられている。このような
経緯に照らすと,今日では,ICRPの勧告値自体が人間の生命身体に対する被曝
の絶対的かつ最終的な安全基準として信頼するには足りず,むしろ今後の新たな知
見によって更に厳しい規制強化が必要となることが予測されるところであるから,
ICRP勧告に依拠する被告の立場は,前提において破綻しているというべきであ
る。
(被告の主張)
 ICRPは,1928年(昭和3年)に国際エックス線ラジウム防護委員会とし
て発足し,1950年(昭和25年)に現在の組織形態となったもので,放射線医
学,物理学,生物学,遺伝学等放射線防護に関する世界の最高権威者をもって構成
され,政治や行政の状況に左右されることなく,科学的な立場から放射線防護に関
する勧告を行っている機関である。ICRPは,放射線影響,放射線防護に関する
最新の知見及び技術に基づいて,放射線防護の基本的考え方,方策及び基準等につ
き検討し,その結果を勧告あるいは報告書の形で公刊しており,これらは,日本を
始め世界各国において,放射線防護関係法令の立案に際して,遵守あるいは尊重さ
れていて,我が国においても,ICRP勧告を尊重し,科学技術庁に設置された放
射線審議会(放射線障害防止の技術的基準に関する法律4条)においてされる審議
等を踏まえ,国内法令への取り入れを行っている。
 このうち,一般公衆の放射線被曝の線量制限については,本件許可処分の当時に
は,ICRPの一般公衆の許容被曝線量に関する勧告(1958年)を尊重し,放
射線審議会の答申を受けて,加工事業規則等の規定に基づき,許容被曝線量等を定
める件所定の周辺監視区域外の許容被曝線量,すなわち一般公衆の許容被曝線量
は,1年間につき0.5レムとされていた。また,ICRP1977年(昭和52
年)勧告及び1985年(昭和60)パリ声明に基づき,国内法令を改廃した結
果,現在は,加工施設における周辺監視区域外の線量当量限度は,実効線量当量に
ついて1年間につき1ミリシーベルト,皮膚及び眼の水晶体の組織線量当量につい
てそれぞれ1年間につき50ミリシーベルトとされている。さらに,ICRP19
90年(平成2年)勧告(ただし,一般公衆に対する実効線量当量限度は,同19
77年勧告及び1985年パリ声明におけるそれから変更されていない。)につい
ては,現在,放射線審議会においてその国内法令への取り入れについて審議されて
いるところである。
 ICRP勧告の線量制限値は,このように,最新の科学的・技術的知見に基づ
く,各界の最高権威者による専門的な検討を経て定められたものであり,これまで
のICRPによる線量制限値の見直しも,放射線利用の拡大に伴い,線量限度の目
的が,直接観察し得るような悪性でない影響(皮膚の紅斑等)の防止(急性影響の
防止)から,がんや遺伝的影響の発生の防止(晩発影響の防止)へと拡大,変化し
たことや,長年にわたるX線やラジウムその他の放射性物質の使用経験及び人間そ
の他の生物の放射線影響に関するデータ等に基づく新しい知見が得られたことなど
を背景とするものであり,これらにより被曝線量の安全基準としての信頼性をその
都度高めているものである。そして,この制限値は,将来的には新たな知見の獲得
等により変更されることがあり得るとしても,現在において最も信頼性の高い基準
であることに何ら変わりはないのであり,現在におけるその信頼性が否定されるべ
きものでないことは当然である。したがって,ICRP勧告を尊重して定められた
国内規制値に,原告らが主張するような問題はない。
3 加工施設指針の欠陥
(原告らの主張)
 加工施設指針は,指針の内容がいずれも極めて抽象的で具体性に欠け,放射線の
管理のために何をどのようにしてどの程度に管理すべきか,という点を何ら明らか
にしておらず,指針としての実効性に欠けている。放射線の安全管理を意味のある
ものにするためには,安全確保上必要とされる項目を定めるのみではなく,最低限
それをどのような施設と技術で,どの程度に行うべきかを明記して,申請に係る施
設が安全であるかどうかを具体的に判断する必要があり,放射線管理の基本的枠組
みを審査するだけでは,到底安全審査たりえない。
 また,事故は複数の故障(トラブル)が重なって発生するものであるにもかかわ
らず,加工施設指針は単一故障しか想定しておらず,この点においても安全審査上
内容が不十分である。
(被告の主張)
 加工施設指針は,加工施設に関する技術的事項の細部にわたってまで逐一具体的
な指示を与えるものである必要はなく,専門技術的知見を有する者が,審査におい
て,申請に係る加工施設の位置,構造及び設備が当該施設の基本設計ないし基本的
設計方針において災害防止上支障がないものとして設置されるものであるかどうか
を判断するための基本的枠組みを提供する内容を具備していれば足りるものである
ところ,加工施設指針はこの要請を完全に満たしているから,指針の内容が抽象的
であるとの原告らの批判は当たらない。
 また,複数の故障を想定していないとの点については,加工施設指針3の内容か
ら明らかなように,加工施設指針は,技術的合理性を有する範囲において発生が想
定される事故について考慮することとしており,技術的合理性の観点から発生する
可能性が極めて低いと考えられるもの,すなわち,例えば別個の原因に基づき同時
に複数の事故が発生すること等の事象については考慮する必要がないものとしてい
るのであり,このことは十分に合理的なものである。
4 加工施設指針の濃縮施設への妥当性
(原告らの主張)
 濃縮施設は,加工施設指針が予定するその他の加工施設(ウラン成型施設やいわ
ゆる加工施設)とは,取り扱うウランの状態,工程の複雑さが異なっており,その
危険性は高く,安全確保手段をより厳しく規制する必要がある。したがって,加工
施設指針は,濃縮施設の安全性を審査する基準としては不十分であって,その点に
おいて不合理である。
(被告の主張)
 加工施設指針は,ウラン濃縮施設の安全審査においても十分な合理性を有する審
査基準である。
5 規制法14条1項3号要件適合性の審理手法
(被告の主張)
 原子力施設における安全性の確保とは,当該原子力施設における核燃料物質等に
よる災害を防止するため,当該原子力施設の位置,構造及び設備について,核燃料
物質の有する潜在的危険性を顕在化させない対策をどのように講じるかということ
に尽きるものである。
 もっとも,加工施設は原子力施設ではあるが,原子炉のようなエネルギーの生産
施設ではないので,その内包するエネルギーは小さく,また,ウランが常に臨界未
満の状態で取り扱われるので,臨界状態での核分裂反応を制御する機能も必要な
い。しかも,加工施設である本件施設は,その内蔵する放射能量が原子力施設とし
ては最も少ないものの一つであるし,また,そこで取り扱われる六フッ化ウランは
不燃性でかつ爆発性もなく,その工程においては,化学変化がなく,比較的低温で
かつ大部分が大気圧以下で取り扱われる。したがって,本件施設は,その潜在的危
険性が極めて小さいものであるということができる。
 加工施設に係る安全性確保対策については,客観性の担保,確実性及び予測可能
性の確保等のために,その基準として原子力安全委員会により定められた核燃料施
設基本指針及び加工施設指針がある。これらの指針等に基づく安全審査を行うこと
により,当該加工施設の基本設計ないし基本的設計方針が適切なものであるか否
か,すなわち,核燃料物質による災害の防止上支障がないものであるか否かが判断
される。
 上記の安全性確保対策は,次の四つの柱に集約される。
 第1は,加工施設の基本的立地条件に係る安全性確保対策,すなわち,加工施設
を立地するに際して,立地地点及びその周辺における自然環境及び社会環境(基本
的立地条件)を検討して,当該施設の基本設計ないし基本的設計方針との関連にお
いて,加工施設に係る大きな事故の誘因となる事象が起こるとは考えられず,万一
事故が発生しても災害を拡大するような事象の少ない立地を選定することである。
 第2は,上記の基本的立地条件に起因する事象への対策のほか,加工施設自体の
安全性確保対策,すなわち,ウラン加工施設の耐震性,地震以外の自然現象に対す
る安全性,火災・爆発の防止,臨界管理,電源喪失に対する考慮,放射性物質の閉
込め等について,その基本設計ないし基本的設計方針において所要の安全性確保対
策を講ずることである。
 第3は,加工施設自体の安全性確保対策との関連において,公共の安全が確保さ
れていることであり,加工施設で最大想定事故(安全上重要な施設との関連におい
て,技術的にみて発生が想定される事故のうちで,一般公衆の被曝線量が最大とな
るもの)が発生した場合でも,一般公衆に対して過度の放射線被曝を及ぼさないこ
とである。
 第4は,加工施設の平常運転時における被曝低減に係る安全性確保対策,すなわ
ち,加工施設の平常運転時において環境に放出される放射線及び放射性物質につい
ても,これらによる一般公衆の被曝線量が許容被曝線量等を定める件に規定する周
辺監視区域外の許容被曝線量(年間0.5レム),あるいはこれに代わって発せら
れた線量当量限度等を定める件に定める周辺監視区域外の線量当量(実効線量当量
1ミリシーベルト)以下となるようにすることはもちろんのこと,これを実用可能
な限り低減させるように,その基本設計ないし基本的設計方針において所要の被曝
低減対策を講ずることである。
 本件施設の設置に当たっては,このような安全性確保対策の考え方にのっとり適
切な配慮がなされているので,その安全性は確保されるものと判断した。
第2 本件施設の基本的立地条件に係る安全性確保対策
1 地盤
(被告の主張)
 本件施設を設置する原燃産業六ケ所事業所は,青森県下北半島南部の上北郡六ヶ
所村大石平にある標高30ないし60メートルの丘陵地帯にあり,事業所南側は尾
駮沼に面している。事業所の敷地は約340万平方メートルである。
 本件施設の敷地(以下「本件敷地」という。)には,鷹架層と呼ばれる新生代第
3紀(古生物の進化の過程に基づく地質年代の分類の一つで,およそ6500万年
前から180万年前までを指す。)の砂岩・凝灰岩類(いずれも堆積岩(岩石の砕
屑物,火山噴出物,生物の遺骸等が,それらの生成場所又は他の場所に運搬・沈澱
堆積して固結した岩石)の一種で,砂岩は主に粒径16分の1ミリメートルないし
2ミリメートルの砂粒が堆積し固結した岩石,凝灰岩類は火山灰等の火山噴出物が
堆積し固結した岩石である。)が分布しており,さらにこれらを覆って第4紀(上
記地質年代の分類においておよそ180万年前から現在までを指す。)の段丘堆積
層や火山灰層が堆積している。この鷹架層は,上面の風化された部分を除くと,標
準貫入試験のN値が50以上の十分な地耐力(地盤が建築物等の荷重に対して耐え
得る強さ)を有する岩盤である。本件施設の建物は,この鷹架層に支持させる設計
となっている。
 上記の標準貫入試験とは,「土の標準貫入試験方法」(日本工業規格(JIS―
A―1219))に準拠して実施されるもので,地盤の堅さ,締まり具合の相対値
であるN値を求めるためのものであり,N値は63.5キログラムのハンマを75
センチメートルの高さから落下させ,試験用サンプラを30センチメートル打ち込
むのに要する打撃数である。そして,一般にN値は地耐力を表す一つの指標とされ
ており,N値からその地盤の地耐力の一つである許容支持力を推定することができ
る。そこで,上記鷹架層は,N値が50以上の岩盤であるから,本件施設の支持地
盤として十分な地耐力を有し,立地条件として安全上問題がないものと判断でき
る。
 また,本件敷地に関しては,公刊文献による調査及びボーリングコア観察等の現
地調査等により,過去に地滑り及び陥没の発生した例はないこと,及び,本件敷地
周辺は,なだらかな台地であって地滑りが発生するような地形ではなく,陥没を引
き起こすような地層もないことを確認した。
(原告らの主張)
1 支持地盤
(1) 安全審査書で本件施設の支持層とされている鷹架層は,本層は砂岩で,凝
灰岩は極く薄い層が挟在するにすぎず,土質工学的にいうと,土と岩石の中間の硬
さを有する「軟岩」に属する。
 そして,ある地(岩)盤が,ある建築物の支持層として適当であるか否かは,単
に当該地(岩)盤の許容支持力だけで決まるものではないことは今や常識となって
おり,例えば,仮に支持力は十分にあっても,その地(岩)盤が軟岩か硬岩かによ
って,地震時の揺れ方の強さにもかなり大きな差異が出てくることも想定される
し,軟岩と硬岩との間には諸物性値についての顕著な差異もあるから,軟岩か硬岩
かの問題を一切度外視してよいということにはならない。本件安全審査には,この
点に考慮を払っていない違法がある。
 上記のことは,昭和60年に本件敷地に近接する石油国家備蓄基地のオイルタン
ク6基が不同沈下した事実から明らかである。なお,この不同沈下を引き起こした
石油タンクの工区の基礎地盤が砂子又層及び火山灰(ローム)層であって鷹架層で
ないことは被告の説明のとおりであるにしても,上記の石油タンクは,不同沈下を
防止するために「危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示」の関係
諸条項を十分に満たしていることが確認されていたものであったはずである。しか
し,それにもかかわらず,石油タンクの一部が実際に不同沈下を引き起こしたので
あるから,本件施設の建物についても,加工施設指針に背反していない限り安全性
が十分確保されているとはいえないことになる。
(2) N値によって許容支持力を推定する方法には,精度の点からみて問題があ
ることを指摘する見解は少なくなく,また,一般論として,N値に余りにも依存し
すぎるという風潮に対して警告を発している学者もいるから,N値の調査結果のみ
をもって鷹架層が本件施設の支持地盤として十分な地耐力を有するとはいえない。
(3) N値に基づく地耐力の推定値がどの程度正しいのかを正確に判定するには
平板載荷試験などによって岩盤支持力を計算することが必要であるし,地盤の性質
を把握するためには,より深くボーリング調査を行うとともにコア採取率,最大コ
ア長及びRQD(岩盤良好度)の結果を示す必要があり,物理試験(単位体積重
量,含水比,比重,間隙率の調査)も必要である。にもかかわらず,これらの試験
は実施されておらず,この点を看過した本件安全審査は違法である。この点につい
ては,被告も,支持地盤としての適否は「支持力と当該建築物の荷重との関係など
から判断される」と主張し,N値から推定される許容支持力以外の諸性質も影響す
るものとしている。
(4) ある地盤の地耐力が十分であるとするためには,地耐力の平均値及びその
標準偏差並びに最低値及び最高値を明らかにするとともに,最低値の部分でも十分
な余裕があることを示す必要がある。にもかかわらず,安全審査書は,この数値を
明示しておらず,違法である。
2 サンドウィッチ地盤
 本件敷地の下には,硬い地層の間に軟弱な地層がサンドウィッチ状にはさまれ
た,いわゆる「サンドウィッチ地盤」が存在する。この地盤があると,仮に地盤の
支持力の点で特に問題はないとしても,気象庁震度階級(地震動の強さを表す指標
をいい,人間が感じる程度に応じて地震に階級をつけたもの。以下「震度階」とい
い,具体的な数値については「震度1」などという。)5以上の地震に襲われた場
合には,建物の倒壊等極めて危険な状態となる。
 近年,いわゆるサンドウィッチ地盤の問題が注目されるようになってきたのは,
この問題が耐震設計基準の中に取り入れられていないため,建築基準法関係諸法令
を遵守して適法に建築された建物が,震度5程度の地震に際して圧潰したり,傾斜
したりするなどの顕著な被害を被ったという例が,昭和43年十勝沖地震,昭和5
0年4月21日の「大分県中部の地震」や昭和53年宮城県沖地震などに際して数
多く見られたという冷厳な事実に基づいている。そして,この用語は,専門家とし
てこの用語を最初に使用した日本大学理工学部の守屋喜久夫教授(応用地質学)に
より,明確に定義されている。
 本件許可申請書に掲げられている地質断面図によれば,鷹架層のN値は,1メー
トルごとの測定値が3回連続して50以上を示した時点で測定が中止されており,
同層のN値について確認されている事項は,上部の風化部を除くと,N値が50以
上の部分が少なくとも2メートル連続して出現しているということだけということ
になる。したがって,それ以深の部分のN値も50以上あるということは,あくま
でも推測にすぎず確認はされていないから,それ以深にN値が小さい部分,すなわ
ちサンドウィッチ地盤がないことも確認されていないことになり,他にもサンドウ
ィッチ地盤の存否を確認する調査は行われていないが,本件安全審査には,この点
に考慮を払っていない違法がある。
 被告は,N値が50以上あれば,一般的に十分堅い地盤と判断できるため,通
常,N値が50以上に達した時点でN値の測定を終了するのが通常であると主張す
る。しかし,基礎地(岩)盤に求められる堅さは,その上に築造される構造物の性
質(どの程度の安全性が求められるのかというような点をも含む。)との関係で相
対的に決まるものであるから,N値の測定にしても,N値が50以上の部分がどの
くらいの層厚を有して連続的に発達しているかを調査・確認することが極めて重要
になる場合もある。ゆえに,多くの事業者は,N値が50以上の部分が2メートル
連続して出現した時点でN値の測定を終了するようなことは,一般に行わない。
 被告は,N値が50以上であるとことが確認された位置より更に深い所の地盤に
ついても,現地におけるボーリングコアの観察によって問題がないことを確認して
いると主張するが,ボーリングコアの観察にはどうしても観察者の主観が入るた
め,ボーリングコアの観察だけでN値が50以上あるか否かを推定することはでき
ても,確認することはできない。このため,この点を確認するためには,客観的な
標準貫入試験を相当程度の深さまで実施することが必要不可欠になる。
3 地滑り・陥没等の危険
 表層地盤や盛り土による造成部分では,地滑り,陥没が発生する危険が多分にあ
る上,本件敷地は同じ造成地でも均質性を欠いているので,危険性は一層高い。さ
らに,集中豪雨等により崩壊の危険があり,降雨で地盤がゆるんでいるところへ地
震が起こると大きい地震災害が発生する。造成地は,非造成地と比べて地盤が軟弱
なため,地滑り,陥没等のほかに液状化現象等も引き起こしやすいことは今日では
既に常識化しているところであるが,被告は,地滑り,陥没等の対策が排水工事,
法面工事等において施されるので地滑り,陥没等のおそれはないと主張し,工学万
能・技術万能の立場を露わにしている。しかし,かかる主張は,「壊れないように
作ったので,壊れることはない」というようなもので,およそ無意味・無内容なも
のでしかない。
 また,鷹架層が地滑り,陥没や崩壊を引き起こさない地層であることを証するに
足る地質学的資料は,全く存在していない。詳細な地質調査を実施すれば,上記の
ような諸現象を引き起こす可能性を示唆するような事実が明らかになるかも知れな
いのである。現に,本件施設の敷地よりははるかに詳細な地質調査が実施された使
用済み核燃料再処理工場の敷地内には,同工場の事業者である原燃サービスの内部
資料によって,急傾斜崩壊や重力性滑りなどが存在することが明らかにされてい
る。
4 断層調査の不備
 断層と節理との区別は極めて難しく,また断層の範囲の識別も困難なことが少な
くないのに,本件敷地における断層調査は,51孔のボーリング孔中7孔について
しか地質柱状図が作成されず,掘進長も短い極めて不十分なものにとどまってい
る。十分なボーリング調査やトレンチ調査,不連続面の分布状態や性質についての
詳細な調査をすれば,本件施設に影響を与えるような断層(活断層)の存在が確認
される可能性は極めて高い。また,本件施設に隣接する低レベル放射性廃棄物埋設
施設では,当初その申請書では断層は存在しないとされていたが,その後の補正書
でf―a,f―bの二つの断層が存在すると追加記載されるに至っており,上記各
断層の延長線として本件敷地内にも断層が存在する可能性がある。
 これに対し,被告は,ボーリング調査や地表地質調査,文献調査により施設の安
全性に影響を与えるような断層のないことを確認しているから,本件敷地に地震断
層の出現による地盤の変位が生ずるおそれはないと主張しているが,掘進長もさし
て長くないボーリング調査において,施設の安全性に影響を与えるような断層の有
無をどのようにして調べたのかについての説明は一切ない。また,本件敷地の大部
分は,第4紀層あるいは盛土層に覆われているため,地表地質調査によってすべて
の断層の性状を明らかにすることは不可能である。さらに,本件施設の立地が決定
される以前の段階で,施設の安全性に影響を与えるような断層の存在の有無を調べ
た学者・研究者がいたはずもないから,そのような断層は存在していないことを明
記した文献が存在しているわけもない。
 また,被告は,「日本で今までに認められた20前後に及ぶ地震断層のほとんど
すべては,活断層つまり第4紀に何度か動いた断層に沿ってあらわれている。」と
いう一般論を展開するのみで,(ア)明治29年8月31日の陸羽地震の際に出現
した川舟地震断層,大正14年5月23日の北但馬地震の際に出現した田結地震断
層,昭和18年9月10日の鳥取地震の際に出現した吉岡地震断層などのように,
活断層の存在が全く知られていない場所に出現した地震断層も存在していること,
(イ)今日知られている20前後の地震断層のうちの出現時期が最古のものは,1
847年5月8日の善光寺地震の際に出現したものであること,(ウ)それ以前の
年代の地震に伴って出現した地震断層も,当然,多数存在しているはずであるにも
かかわらず,それらは,出現後の地形の変化などによって,痕跡をとどめなくなっ
ているものと推定されること,などについては何ら言及していない。
5 地盤の隆起沈降等
 地震が起こると,地盤の隆起・沈降による地盤の変位が生じることが少なくな
い。
 この点に関し,本件安全審査では,「本件施設付近の地盤は,…過去に局所的な
隆起・沈降を生じたことを示す形跡がないことから,将来においても施設に影響を
与えるような地盤の隆起あるいは沈降を生じるおそれのないことを確認してい
る。」とされている。しかし,(ア)本件安全審査では過去に局所的な隆起あるい
は沈降を生じたことを示す形跡の有無をどのようにして調べたのかについて,全く
説明していないこと,(イ)過去に施設に影響を与えるような局所的な隆起あるい
は沈降を生じたことがあったとしても,それらの形跡が現在残っているとは限らな
いから,「形跡がない」ということは,この場合,隆起あるいは沈降が生じたこと
はなかったことの証左になるものではなく,それらが生じたかどうかは不明である
にすぎないこと,(ウ)何事についても「初めて」ということがある以上,施設に
影響を与えるような地盤の局所的な隆起あるいは沈降が過去に起こったことが仮に
なかったとしても将来にわたっても起こらないという保証はどこにも存在していな
いこと,などからすれば,本件安全審査は,科学的根拠を全く欠いているといえ
る。
(被告の反論)
 原告らは,本件許可申請及び本件安全審査には,本件施設の支持地盤の地耐力の
判断方法等に誤りがあると主張するが,上記主張は,以下に述べるとおりいずれも
理由がなく失当である。
1 支持地盤について
(1) 原告らの主張(1)について
 ある地盤が建築物の支持地盤として適当であるか否かは,当該地盤の有する支持
力と当該建築物の荷重との関係などから判断されるものであり,当該地盤が土質工
学上「軟岩」であるか「硬岩」であるかによって判断されるものではない。また,
建築基準法等関係法令は,建築物の耐震設計に用いる設計地震力の算定に関して,
地盤を3種に区分しているのであるが(昭和55年建設省告示第1793号),岩
盤については軟岩,硬岩を区別することなく同一に取り扱うよう定めているのであ
り,また,建築基準法施行令93条においても,岩盤の長期応力に対する許容応力
度としては,それが軟岩又は硬岩のいずれに分類されるものであるかに関係なく,
1平方メートル当たり100トンを採用することができるものとしている。
 また,石油備蓄基地のオイルタンクの沈下(発生年は昭和60年ではなく昭和5
8年ころである。)については,むつ小川原石油備蓄株式会社は,不同沈下したタ
ンクの工区の地盤は砂子又層及び火山灰(ローム)層であると説明しており,本件
施設の支持地盤である鷹架層とは異なるから,原告らの主張は失当である。
(2) 原告らの主張(2)について
 本件施設の支持地盤が十分な地耐力を有していると判断したのは,そのN値が5
0以上であることが確認されたことに加え,現地におけるボーリング調査,地表地
質調査及び文献調査により,支持地盤が新生代第3紀に形成された鷹架層の砂岩・
凝灰岩類からなる岩盤であることが確認されたことによるものである。したがっ
て,原告らの主張は,その前提において既に失当である。
(3) 原告らの主張(3)について
 ボーリング調査,地表地質調査及び文献調査の結果,鷹架層は,十分な安定性を
有する岩盤であり,また,前述のとおり,標準貫入試験によるN値が50以上の十
分な地耐力を有する岩盤であることから,このような地盤であれば,原告ら主張に
係るN値以外の各種試験を行わなくても,本件施設の支持地盤として安全上問題が
ないと判断することができる。
 なお,標準貫入試験によるN値とそれ以外の各種試験により求められる数値との
間では,例えば地盤の許容応力度とN値との関係については,一般に,土質の性質
に応じて一定の相関性が認められている。すなわち,例えば,「土質調査法」(土
質工学会編)によれば,N値50の地盤の許容応力度は,岩盤に比べて相対的に許
容応力度が小さいとされる砂地盤の場合においても,1平方メートル当たり45ト
ン以上とされている。また,地盤の種類と許容応力度の関係についても,建築基準
法施行令93条によれば,岩盤については長期応力に対する許容応力度として,1
平方メートル当たり100トンを採用することができるとされている。このよう
に,N値ないし地盤の種類と許容応力度との間には一定の相関性が認められてお
り,したがって,一般に,ある地盤について,標準貫入試験によるN値及び地盤の
種類が明らかであれば,標準貫入試験以外の各種試験が実施されていなくとも,許
容応力度を推定することは可能である。
 ちなみに,例えば,本件施設に比して高層で壁厚も大きい原子力発電所の原子炉
建屋においても,その常時接地圧は1平方メートル当たり70トン程度であり,こ
れに対し,岩盤である本件支持地盤が長期応力に対して,1平方メートル当たり1
00トンの許容応力度を採用することができることからしても,本件施設の支持地
盤が十分な地耐力を有することは,標準貫入試験以外の各種試験を行うまでもなく
明らかである。
(4) 原告らの主張(4)について
 本件施設の支持地盤である鷹架層は,前述のとおり,新生代第3紀のN値が50
以上の岩盤であって,そのような地盤であれば,本件施設の支持地盤として十分な
地耐力を有しているものと判断できる。したがって,原告らの主張は失当である。
なお,標準貫入試験においては,N値が50以上の地盤であれば,一般的に十分堅
い地盤と判断できるため,通常,打撃数が50を数えた時点(すなわち,N値50
以上を確認したこととなる。)で,試験の目的を達したものとしてこれを終了する
のが通例である。
2 サンドウィッチ地盤について
 標準貫入試験によるN値がハンマーの打撃数であることからも明らかなように,
一般に十分堅い地盤に対しては,打撃数が50を数えた時点でこれを終了するのが
通例である。この試験の趣旨について,「土質調査法」は,「土層が密な砂礫や固
結した粘土などの場合,30センチメートル未満の貫入量で打撃回数が50回を超
えることもしばしば起きる。このようなときに機械的に30センチメートル貫入に
要する打撃数を求めることは無意味であり,特に必要のない限り50回を限度とし
て打撃を打ち切ってよいことにした。」としており,打撃数が50回を数えた時点
でこれを終了することには何ら異とする点はない。
 そして,鷹架層については,本件安全審査において,N値が50以上であること
が確認された位置より更に深い所の地盤についても,現地におけるボーリングコア
の観察によって,N値が50以上である位置と同程度あるいはそれ以上に新鮮かつ
強固であって,柔らかい層が狭在していないことを確認している。専門的知見を有
する者であれば,ボーリングコアを観察することにより,N値が50以上であるこ
とが確認された位置より深いところの地盤がN値が50以上であることが確認され
た地盤のコアと同程度あるいはそれ以上の堅さを有していることを確認することが
できる。
3 地滑り,陥没等の危険について
 そもそも,本件施設の支持地盤は鷹架層の岩盤であって,表層部や造成した盛り
土部分ではないから,支持地盤の滑り,陥没,崩壊の可能性は考えられない。ま
た,敷地の造成部分についても,排水工事,法面工事等において地滑り,陥没等の
対策が施されることとなっており,地滑り,陥没等のおそれはない。
4 断層調査の不備について
 断層については,「日本の活断層―分布図と資料―」(活断層研究会編)によれ
ば,「日本で今までに認められた20前後におよぶ地震断層のほとんどすべては,
活断層つまり第4紀に何度か動いた断層に沿ってあらわれている。」とされている
ところ,本件安全審査においては,本件敷地全体において実施された51孔のボー
リング調査により敷地全体の地質構造が明らかにされており,本件安全審査では,
この調査結果のほか,地表地質調査の結果や文献調査等によって,本件施設の支持
地盤である鷹架層において施設の安全性に影響を与えるような断層が認められない
ことを確認しているから,本件敷地に地震断層の出現による地盤の変位が生ずるお
それはない。
 上記の各調査結果から施設の安全性に影響を与えるような断層の有無を判断する
ことは,専門的知見を有する者であれば,これを行うことに特段の困難はないもの
であり,本件安全審査においても,上記の各調査結果から施設の安全性に影響を与
えるような断層のないことが確認された。
 また,本件施設と近接するところに所在する低レベル放射性廃棄物埋設施設の事
業許可申請書中に断層が記載され,この断層が本件敷地内に断層がある可能性を指
摘する点については,確かに,上記廃棄物埋設事業の安全審査では,埋設設備群設
置位置及びその付近の鷹架層中にf―a断層,f―b断層と称する2本の断層が認
められるものの,両断層とも支持地盤の安定性に影響を与えるものではないと判断
されている。したがって,かかる知見は,施設の安全性に影響を及ぼすような断層
がないと判断した本件安全審査の妥当性に何ら影響を与えるものでない。
5 地盤の隆起・沈降等について
 本件安全審査においては,本件敷地に関し,ボーリング調査,地表地質調査及び
文献調査を実施することにより,造成前の地形状況,敷地直下の鷹架層とその上位
の第4紀層との地層境界及び第4紀層の分布状況を調査して,過去に局所的な隆
起,沈降等の形跡がないことを確認して,将来においても施設に影響を与えるよう
な地盤の隆起あるいは沈降を生じるおそれはないと判断している。
2 地震
(被告の主張)
 本件敷地周辺の被害地震については,本件許可申請書の添付書類3に,「宇佐美
カタログ(1979)」,「宇津カタログ(1982)」(被害等級1以上のもの
に限る。)及び「気象庁地震月報」(震度4又はマグニチュード5以上で被害報告
のあるものに限る。)に記載されている被害地震中,本件敷地からの震央距離が2
00キロメートル以内の地震が「敷地周辺の被害地震」として記載されている。
 本件安全審査においては,敷地の基本的立地条件として,事故の誘因を排除し,
災害の拡大を防止する観点から,信頼性が高いと考えられる上記各文献に加え,昭
和62年3月刊行の「新編日本被害地震総覧」,「理科年表(昭和62年版)」等
の新しいデータも含め,さらに震央距離が200キロメートルを超える地震につい
ても十分検討した結果,本件敷地周辺で記録された被害地震の本件敷地での影響度
は,最大でも震度5程度であることを確認した。
(原告らの主張)
1 地震リストの改ざん
(ア) 震源が200キロメートル以遠の地震
 本件許可申請書は,本件敷地周辺の被害地震のリスト作成に当たり,敷地から2
00キロメートル以内に震央位置がある55の地震だけを取り上げているが,これ
は,被害が震央距離とあまり関係ないという地震学の常識に照らし誤りである。本
件安全審査は,申請者のこのような「地震隠し」を前提としてされたものであり,
若しくは地震リストの改ざんを看過したものであって違法である。
 また,本件許可申請書では,本震と余震がある場合において,本震の震央位置が
敷地から200キロメートル以遠にあるとしても,余震の震央位置が敷地から20
0キロメートル以内にある地震は,独立の一地震として取り扱われない限り除外さ
れており,この点を不問にした点においても本件安全審査は違法である。
(イ) 新規データの参照の有無
 被告は,本件安全審査において,本件許可申請書で地震に関する文献として使用
された「宇佐美カタログ」や「宇津カタログ」等の諸文献に加え,更に昭和62年
3月刊行の「新編日本被害地震総覧」や「理科年表(昭和62年版)」等に示され
ている新しいデータをも含めて検討したと主張しているが,上記「理科年表(昭和
62年版)」の「日本付近の被害地震年代表」は古いデータに基づいて作成されて
おり(理科年表で新しいデータが初めて示されたのは,本件許可処分の後の昭和6
3年11月30日に刊行された昭和64年版の「日本付近のおもな被害地震年代
表」においてである。),内閣総理大臣が同書を実際に見たのであれば,それには
新しいデータはまだ取り入れられていないことに直ちに気付いたはずである。しか
し,被告は,同書には新しいデータが示されていた旨言明しており,真実内閣総理
大臣が同書を見たかどうかは極めて疑わしい。また,内閣総理大臣は,平成3年9
月に科学技術庁が公表した「六ヶ所ウラン濃縮工場とその安全審査について」と題
する文書(以下「安全審査について」という。)では,地震の項において,そのよ
うな文献に示されている新しいデータをも含めて検討したということを一言も述べ
ていない。
(ウ) 宇佐美カタログの改訂
 「新編日本被害地震総覧」の著者である宇佐美龍夫博士は,同書が刊行された昭
和62年3月10日の時点で旧著の「宇佐美カタログ(1979)」を事実上の廃
棄処分にしたわけであるが,原燃産業は,そのことを知らずに本件許可申請書を作
成したため(提出日は昭和62年5月27日),申請書に掲げた被害地震のリスト
を,宇佐美博士の新著「新編日本被害地震総覧」に基づかず,旧著に基づいてまと
めるという過ちを犯した。そして,内閣総理大臣も,宇佐美博士の新著が刊行され
たことを知らなかったため,本件許可申請書の地震のリストが古いデータに基づい
てまとめられていることを見逃してしまった。内閣総理大臣としては,本件安全審
査に際し,宇佐美博士の旧著に基づいて地震のリストをまとめた原燃産業に対し,
新著に基づいて地震のリストを作りなおすとともに,地震の項の説明を全面的に書
き替えることを要求すべきであった。
(エ) 震央位置不明の地震や余震の扱い
 本件敷地の周辺地域には,1656年4月16日の「八戸の地震」から1858
年5月11日の「八戸の地震」に至るまでの約200年間に,震央位置が不明の地
震が合計18個あったことが知られており,それらのうちの13個までが「八戸の
地震」あるいは「陸奥八戸の地震」とされているが,これらの各地震の震央位置が
不明なのは,被害地域が,多くの場合,1地点しか知られていないことに加えて,
被害記事も少ないことによるものである。しかし,当時,これらの地震の被害地域
は,日本の中でも文明の開化が非常に遅れた場所で,特に繁栄した町などもなかっ
たため,かなり強い地震に襲われた場合でも,それほど顕著な被害も発生しなかっ
たものと思われる。したがって,震央位置が不明のこれらの地震について,被害記
事が少ないのは,地震の強さの割合には被害規模が小さく,被害記録もわずかな古
文書等にとどめられているためであるにすぎないとみるのが相当と考えられる。そ
うすると,もし将来,「八戸の地震」あるいは「陸奥八戸の地震」と呼ばれている
地震とほぼ同一規模の地震が,ほぼ同一の震央位置で発生した場合には,被害地域
は単に八戸だけにとどまらず,青森県東部地方のかなり広い範囲にわたり,しかも
各地にかなり大規模な被害が発生するおそれが多分にあるといわざるを得ない。
 そうすると,被害記事が少ない地震は強い地震ではなかったとは必ずしも限らな
いのであるから,原燃産業が震央位置不明の地震をリストから除いたのは著しく妥
当性を欠くものとなり,この点を不問にした本件安全審査にも,当然のことながら
重大な過誤があることになる。
2 震度階のごまかし
(ア) 本件許可申請書の誤り
 本件許可申請書によると,本件敷地で震度階が最大になったものは,昭和53年
の「青森県東岸の地震」の「Ⅳに近いⅤ」で,それ以外はすべて4以下とされてい
る。
 しかし,1763年1月29日の「八戸の地震」では,八戸,田名部,青森が5
ないし6の地震に見舞われているし(本件許可申請書では5に近い4),1856
年8月23日の「日高の胆振・渡島・津軽・南部の地震」は5ないし5の強と推定
(申請書では6の中間)されている(前記「新編日本被害地震総覧」)。また,昭
和43年5月16日十勝沖地震の本震は,気象庁の発表では5,青森県の調査では
5(部分的に6)とされている(申請書では4)。
 ところで,気象庁による震度階ごとの揺れや被害程度の説明によれば,震度4
(中震)で死者や全壊家屋が出ることはほとんどない。しかし,前述の十勝沖地震
では,青森県だけで死者47名,負傷者188名,全壊家屋646戸に達している
ことを考えるならば,この地震の震度階を4とし,「過去の地震の記録から本件敷
地周辺では,大地震のおそれは極めて少ない」と結論づけた本件許可申請書の誤り
は明白である。したがって,これを受けて「震度階を最大Ⅴ」と断定した本件安全
審査は誤りである。
(イ) マグニチュード―震央距離図の問題点
 縦軸に地震のマグニチュード(M),横軸に地震の震央距離をそれぞれ書き,村
松・勝又ほかによる震度区分曲線を書き加えたマグニチュード―震央距離図は,既
往の文献において震度階が5,5+あるいは5ないし6とみなされている多くの地
震(1763年1月29日の「陸奥八戸の地震」,1856年8月23日の「日
高・胆振・渡島・津軽・南部の地震」,昭和43年5月16日の十勝沖地震)を震
度4と評価する結果となるし,そもそも,震度階などで表わされる地震動による揺
れの強さは地震の規模(マグニチュード)及び震央距離のほか,卓越周期・震源深
さや地盤の特性などによっても大きく左右されるものであるから,地震による本件
敷地への影響度を平均的に評価する上で有効なものとはいえない。
 また,マグニチュード-震央位置図に書き加えられている震度区分曲線は,地震
の規模(マグニチュード)及び震央距離,それに卓越周期から求めた最大加速度値
に基づいて描かれており,被害状況や揺れの強さによって決定されたものではな
い。このため,同図では,規模及び震央距離が同一の地震の敷地での影響は,卓越
周期を同一とみなす限り,全く同一の震度階で表わされることになる。しかし,最
大加速度値を用いた計算方法は,いかなる計算式を用いても,強震計による実測値
とは大きくかけ離れた数値が得られることが少なくなく,しかも多くの場合,計算
値は実測値と比べて著しく小さなものになる。
(ウ) 他の資料の参照の有無
 「安全審査について」は,原燃産業が示したマグニチュード―震央距離図に記入
されている各地震の本件敷地での推定震度階をそのまま肯認し,同図において,昭
和53年5月16日の「青森県東岸の地震」の本件敷地での推定震度階が4に近い
5になっていること,そして,この4に近い5という震度階が,本件敷地の周辺地
域で記録されたすべての地震の本件敷地での震度階の中で最高のものになっている
ことから,本件敷地周辺で記録された被害地震の本件敷地での影響度を最大でも震
度5程度と結論づけており,このことは,本件安全審査において,「新編日本被害
地震総覧」や「青森県大震災の記録」に示されているデータが全く検討されなかっ
たことを示唆するものといえる。
 被告は,本件安全審査においてはマグニチュード―震央距離図を参考にしなが
ら,公表された他の資料等をも参照して総合的にその震度階を判断した上で,本件
敷地周辺で記録された被害地震の本件敷地での影響度は最大でも震度5程度である
との結論に達したと主張しているが,原燃産業が本件許可申請書の中で示したマグ
ニチュード―震央距離図による敷地での震度階と,公表された他の資料等によるそ
れとの間に差異が存在し,前者が後者よりも低く評価されている例がいくつもある
ことが明らかにされた場合には,当然,そのことを前記「安全審査について」に明
記し,マグニチュード―震央距離図は地震の本件敷地への影響度を評価する上で必
ずしも有効とはいえない旨をも付言すべきであるのに,上記審査書はそれらの事柄
には全く言及しておらず,内閣総理大臣が真実,公表された他の資料等を実際に参
照したかどうかは疑わしい。
 また,本件安全審査において「公表された他の資料等」を実際に参照したのであ
れば,1763年1月29日の「陸奥八戸の地震」や昭和43年5月16日の十勝
沖地震のように本件敷地を含む青森県東部地方での震度階が5ないし6あるいは6
に達した地震もあることを指摘している文献もある以上,本件敷地周辺で記録され
た被害地震の本件敷地での影響度は,最大6程度としなくてはならないはずである
から,内閣総理大臣は,「公表された他の資料等」を実際には参照していないか,
あるいは震度階を殊更に実際よりも1ランク低く評価していることになる。
3 中小規模の地震
 震害は地震の規模だけでなく,震央距離,断層距離,震源距離,深さ,卓越周
期,地震の特性などによって左右される。実際,全国各地には,中小規模の内陸直
下型地震であったにもかかわらず,震源深さが浅くまた震央距離が近かったため
に,被害地震になった例も少なからず存在しているので,そのような地震が本件敷
地又はその周辺を襲った場合の本件敷地での影響度を検討することが是非とも必要
になる。
 この点,本件安全審査においては,地震の規模の大小にかかわらず本件敷地周辺
で記録された被害地震の本件敷地での影響度(震度階)が検討されてはいるもの
の,そこで用いられた震度階は例のマグニチュード―震央距離図に示されたもので
あり,それには,前述したように実際の震度階よりも低く評価されているものがあ
るから,本件敷地での影響をこのような方法のみによって検討することは,決して
相当とはいい難い。したがって,本件安全審査において,中小地震による影響につ
いて十分な検討が行われたとはいえない。
4 震度5を上回る地震発生の危険
 ある地点における最大震度階が近年において更新された例が全国各地に少なから
ず存在していることを考えるならば,過去において本件敷地周辺で記録された被害
地震の本件敷地での影響度が最大でも震度5程度であったとしても,震度5の地震
を想定すればその目的が達せられるというものではない。例えば,函館では,昭和
43年5月16日の十勝沖地震(マグニチュード7.9)で95年間の観測史上初
めて震度5を経験しており,このタイプの地震は,これまでにおおむね100年プ
ラスマイナス10年内外の周期をもって3回起こったことが知られているので,今
から数十年後の21世紀半ばころには,青森県東部地方の一部が震度6になるよう
な地震に襲われる蓋然性は極めて高いといわなくてはならない。
 また,青森県東方沖が地震の巣であることは地震学界の定説であり,将来,本件
敷地周辺で50年に1回の割合で十勝沖地震クラスの大地震もしくは巨大地震が発
生する可能性が学者によって指摘されている(昭和44年3月20日発刊青森県大
震災の記録,昭和43年十勝沖地震震害座談会(当時のH副知事と学者の座談
会))。
 したがって,前述した過去の地震経験に照らし,将来発生する地震が震度5を超
える地震でないとの保証はどこにもなく,加工施設指針13によっても,本件施設
の安全確保のためには,震度6の地震を想定する必要がある。
5 加工施設指針の問題点
 本件施設を含むウラン加工施設の敷地周辺の陸域及び海域に多数の活断層が存在
しているという事実などに照らしてみると,仮に建屋直下及び敷地内には施設の安
全性に影響を与えるような断層は存在していない場合でも,敷地周辺に存在する活
断層の再活動によって地震が発生し,その地震によって本件施設が設計地震力を超
える強い地震力を受け,施設の安全性が確保されないという事態になる蓋然性も,
決して皆無とはいえない。すなわち,地震時に本件施設の安全性を確保できるかど
うかは,建屋直下及び敷地内に存在する断層のみを対象とした安全性の検討によっ
ては到底明らかにできない。
 したがって,地震の原因としての活断層に関する評価を要求していない加工施設
指針13はそれ自体不備であり,これに基づいて行われた本件安全審査には重大な
違法がある。
6 活断層の存在
(ア) 本件許可申請書が引用する「日本の活断層―分布図と資料―」によると,
下北半島東方の海岸から約20キロメートル沖合の海底南北方向に,延長距離約1
00キロメートル,崖高200メートル以上に及ぶ確実度Ⅰ(活断層であることが
確実で,それが地形上にも表れているもの)の大活断層が存在し,そのほかに立地
点沖合には,崖高200メートル以上の活断層8本が走っている事実が認められる
が,本件許可申請書には4本しか記載されていない。そして,延長距離が100キ
ロメートル内外の活断層の全面的な再活動によって引き起こされる地震は,その延
長距離から考えて,関東大地震(マグニチュード7.9),十勝沖地震(同7.
9)を上回るマグニチュード8.0前後と推定される。
 上記の大活断層は,八戸沖あたりまで延びる長さ120キロメートル内外に達す
る可能性があるものであるところ,有史において被害地震を引き起こした記録を持
たないいわゆる地震空白地帯である上,昭和53年5月16日の「青森県東岸の地
震」の主震(マグニチュード5.8の主震が二つ)は,震央位置からみてこの海底
大活断層の一部の再活動によって引き起こされたものと考えられ,今後巨大地震が
発生する確率は極めて高い。
 また,それ以外にも,下北半島の東方沖合には,崖高200メートル以上の活断
層8本が走っている。
 このほか,陸域にも,確実度Ⅱ(活断層であると推定され,それが地形上にも表
れているもの)及び確実度Ⅲ(活断層の可能性があり,地形的にもその疑いがある
もの)の活断層が多数存在する。そのため,これらが直接の震源になったり,別の
震源の影響で,断層が動き施設損壊をもたらす危険が高い。
 このように,海域・陸域にわたり,くもの巣のように活断層が存在することは本
件許可申請書にも記載がある厳然たる事実であるにもかかわらず,安全審査書は,
これらの断層を故意に無視したり,施設に影響を与えないと断定するが,いかなる
根拠によるものか全く不明である。
(イ) 被告は,そもそも「地震空白地帯」という概念自体が曖昧である上,「地
震空白地帯」であることを理由に巨大地震発生の確率はきわめて高いとする科学的
根拠もないと主張する。
 しかし,「地震空白地帯」とは,地震学者だけでなく,原子力事業関係者によっ
ても広く認められている概念であって,地震が発生する蓋然性が存在する地帯であ
りながら,かなりの長期間にわたって大きな地震が発生していない地帯をいうもの
であり,東海地震の発生のおそれが指摘される科学的根拠の一つともされ,無地震
帯とは根本的に異なるものである。地震空白地帯は,歪みのエネルギーが蓄積され
つつある地帯であるため,近年においてすでに大きな地震が発生し,蓄積されてい
た歪みのエネルギーの相当量が開放された地帯と比べて,将来,大きな地震発生の
蓋然性がかなり高い。
 また,被告は,上記のような原告らの主張を裏付ける文献も存在していないとし
て,このような主張は科学的根拠のない推測ともいうべきものと批判している。
 しかし,地震学をも含む地球科学の諸分野では,物理学や化学などと異なって,
実験によって確認することが不可能な事柄が多く,したがって,地球科学上の諸学
説・諸見解には,推測によって成り立っているものが多い。現に,被告が「確認し
ている」と自称する事柄も,その大部分は,既に述べたように,単なる憶測あるい
は推測の類でしかない。
 そうすると,問題は,ある一つの事柄についての推測がどのような科学的根拠に
支えられているのかという点に尽きることになるが,「多くの地震は,活断層の再
活動によって起きる」という近年の地震学の定説に従うならば,震央位置の直下に
当該地震の震源断層となった活断層が存在するということに疑問の余地がなく,し
たがって,それを「推測」というのであれば,これを裏付ける文献の有無とは関わ
りなく原告らの主張には十分な科学的根拠があることになる。
(ウ) 被告は,活断層研究会編「日本の活断層―分布図と資料―」の所説を引用
して,本件施設の敷地を含む東北地方外帯(東北地方の太平洋側及びその沿岸)は
活断層の密度が極小の地域であることを指摘し,また,同文献に記載されている活
断層のうち確実度Ⅱ及び同Ⅲのものについてはそれらのすべてが活断層と確認され
たものではないとしているが,このような被告の説明には多くの問題点がある。
 まず,上記文献が東北地方外帯を日本列島の中で活断層の密度が極小の地域とし
ていることは事実であるが,本件敷地は,東北地方内帯陸上と東北地方外帯との境
界付近に位置するとみなすのが至当である。そして,東北地方内帯の東方は,東日
本太平洋斜面になっているが,活断層の密度は,東北地方内帯陸上は「中」,東日
本太平洋斜面は「大」となっていること,そして,活断層の再活動による地震によ
る影響は,その地震の規模によってははるか遠方にまで及ぶこと,などの諸点を考
えるならば,被告の主張は,本件敷地が「地震に安全な場所」であることを裏付け
るものとはいえない。現に,本件敷地を含む青森県東部地方が最大の被災地となっ
た昭和43年十勝沖地震(マグニチュード7.9)は,前述の東日本太平洋斜面に
震央を有するものである。
 また,東北地方外帯は,活断層の密度が極小の地域であるとはいえ,明治35年
1月30日の「三戸地方の地震」(マグニチュード7.0)の震央も存在している
ので,「地震に安全」といえる場所とは決していえない。
 なお,「日本の活断層―分布図と資料―」に活断層として図示されている断層の
うち,特に確実度がⅡないしⅢとされているもののすべてが実際に活断層と確認さ
れているわけでないことは被告の主張のとおりであるが,上記文献に図示されてい
ない活断層も多数存在していることも一般に肯認されている事柄である。また,確
実度がⅠの活断層でなければそれが内陸直下型地震の震源断層になるおそれが小さ
いというわけでもないことは,例えば,昭和23年6月28日の福井地震が確実度
Ⅱの活断層しか分布していない場所を震央として起こったものであることからも明
々白々な事柄といえる。
7 鳥取県西部地震が明らかにした本件安全審査の誤り
 平成12年10月6日午後1時30分,鳥取県西部において地震が発生し,気象
庁は,この地震のマグニチュードは7.3,境港市及び日野町において震度6強を
観測したと発表した。この地震に関して,科学技術庁防災科学技術研究所は日野の
観測点において,地表での最大加速度は1135ガル,計測震度は6.6を記録し
たと発表した。現在の気象庁の震度判定では計測震度6.5以上は震度7に相当す
る。
 本件安全審査で行われた方法で,科学技術庁防災科学研究所によれば震度7相
当,気象庁によっても震度6強と評価された日野での歴史地震による最大地震を評
価した結果は,本件敷地と同様,震度5にとどまった。したがって,本件安全審査
の基準により鳥取県西部地震が発生する前の段階で日野に本件施設と同様の加工事
業許可申請が出されていたら,最大想定地震による震度は5と評価され,震度5に
耐える設計であればよいとされたはずである。しかし,現実にはこの場所を震度7
ないし6強の非常に強い地震が襲った。
 このように,本件安全審査と同じ方法で最大震度が5と評価される日野で震度7
ないし6強の地震が現実に記録されたことは,本件敷地についても同様の事態が生
じ得ること,少なくとも本件安全審査の方法ではそのような事態が起こらないとい
うことを保証できないことを示している。本件安全審査で用いられた具体的審査基
準は,最大想定地震を現実に発生したものよりもかなり過小評価しており,したが
って,この基準は不合理であり,本件安全審査に重大な過誤と欠落があることは明
らかである。
8 プレート間地震及び海洋プレート(スラブ)内地震に関する安全審査の欠如
 (ア) 地震には,プレート間の大規模な地震,大陸プレート内地震及び海洋プ
レート(スラブ)内地震の3種類がある。このうち地震の根本原因であるプレート
の運動そのものによって,プレート境界にひずみ応力が蓄積し,この応力が一定の
限度に達したときに,一気にこの応力が開放するのがプレート間地震である。これ
に対し,プレートの運動によってプレート内に蓄積されたひずみ応力が一部開放さ
れ,既存の断層部分がずれたり,新たな断層を作ったりするのがプレート内地震で
ある。
(イ) 東北地方のプレート間地震としては,明治30年の宮城県沖地震(マグニ
チュード7.7),昭和13年の塩屋沖地震(マグニチュード7~7.5),昭和
33年の十勝沖地震(マグニチュード7.9),昭和43年の宮城県沖地震(マグ
ニチュード7.4)があるが最近では平成6年12月28日の三陸はるか沖地震
(マグニチュード7.6)も発生している。特に,十勝沖地震は,青森県全域の東
版部に震度5以上の被害をもたらした。また,三陸はるか沖地震の震源は,本件敷
地から約200キロメートルとかなり距離が離れていたにもかかわらず,八戸では
震度6を記録している。震源が海岸に近く,また相対的に六ヶ所村に近ければ,六
ヶ所村の震度階が6ないし7に達した可能性は否定できない。この点は,本件許可
処分後に判明した事実であるが,口頭弁論終結時までに発生した事実として,判決
の基礎とすべきである。
 プレート間地震は,通常は日本海溝付近で発生しているが,前記塩屋沖地震や昭
和43年の宮城県沖地震は比較的陸域に近いところで発生している。そして,下北
半島の沖合の近い海域で大規模なプレート間地震が発生する可能性がある。
 このように,本件施設付近では大規模なプレート間地震が繰り返し発生している
にもかかわらず,本件安全審査においては,この大規模なプレート間地震を検討の
対象から外しており,看過し難い過誤と欠落がある。
(ウ) 次に,大陸のプレートの下に沈み込んで地下に斜めに垂れ下がっている海
洋プレートをスラブと呼ぶが,海洋プレート(スラブ)内地震については,まだそ
の発生のメカニズムなどはよく分かっていないが,最近スラブ間の比較的浅い,深
さ20~40キロメートルないし100キロメートルくらいのところで,巨大地震
が立て続けに発生している。平成5年1月の釧路沖地震(マグニチュード7.8
(7.9),震源の深さ約100キロメートル)や平成6年の北海道東方沖地震
(マグニチュード8.1,震源の深さ数十キロメートル)などは,この海洋プレー
ト内地震である。
 本件施設のある地盤は,大陸プレート内に位置しているが,その直下にも太平洋
プレートの先端部分が潜り込んでいる。この海洋プレート内に地震活動が認められ
ることは明らかであり,大規模な海洋プレート(スラブ)内地震が発生する可能性
は否定できない。
 本件安全審査においては,このような地震の発生を想定した審査は全く行われて
おらず,審査の過誤というよりは明らかな欠落がある。
 (被告の反論)
1 地震リストの改ざんについて
(ア) 震源が200キロメートル以遠の地震
 本件許可申請書において,文献に記載されている被害地震のうち,本件施設から
震央までの距離が200キロメートル以内のものが添付書類3の表3―3「敷地周
辺の被害地震」として記載されているのは事実であるが,本件安全審査において
は,これに加えて,震央位置が200キロメートルを超えるものについても敷地へ
の影響度の審査をしている。
(イ) 新規データの参照の有無
 本件安全審査では,本件許可申請書に記載された地震以外に,昭和62年3月刊
行の「新編日本被害地震総覧」や昭和62年版「理科年表」といった最近の文献に
よる検討を行っている(ただし,このことは,昭和62年版の「理科年表」に「新
編日本被害地震総覧」に基づく新しいデータが掲載されており,本件安全審査にお
いて当該データに対する検討を行ったとの趣旨ではない。)ことは前記のとおりで
ある。
 原告らは,この点に関し,内閣総理大臣が新しいデータを含めて検討したことが
事実であるならば,「安全審査について」にその旨を付言すべきであるところ,上
記文書には,その旨の記載がないと主張するが,「安全審査について」は,そもそ
も,国民の理解に資するため本件施設の概要と本件安全審査内容の概要をとりまと
めて公表した冊子であり,「安全審査について」に「新編日本被害地震総覧」等の
最近の文献をも含めて検討した旨の記載がないからといって,そのことは本件安全
審査において上記事項の検討を行っていないことを意味するものではない。なお,
安全審査書は,原告らの主張に係る「安全審査について」とは別の文書であるが,
これもまた,本件安全審査内容の骨子をとりまとめたものであり,本件安全審査の
内容すべてを記載したものではないから,安全審査書に原告らの指摘に係る上記事
項の記載がないことも,本件安全審査において当該事項の検討を行っていないこと
を意味するものではないことは当然である。
(ウ) 宇佐美カタログの改訂
 原告らの主張に係る「新編日本被害地震総覧」と「宇佐美カタログ(197
9)」とでは,そこで収められている地震の諸元(マグニチュード,震央位置)に
一部差異があることから,本件安全審査においては,「宇佐美カタログ(197
9)」その他のデータに基づいて作成された本件許可申請書添付書類3の表3―3
「敷地周辺の被害地震」につき審査した上で,更に「新編日本被害地震総覧」の地
震のデータについても検討を行った結果,本件敷地周辺で記録された被害地震の敷
地での影響度が,最大でも震度5程度であるとの本件許可申請書添付書類3記載の
結論の妥当性を確認している。
 したがって,原告らの主張は,その前提を欠き失当である。
(エ) 震央位置不明の地震や余震の扱い
 震央位置が不明の被害地震については,被害記事も少なく,中には実際に地震が
あったかどうか疑わしいものもあるが,これらについても被害記事等を考慮し,敷
地周辺に多大な被害を及ぼしたものはないことを確認している。なお,原告らが指
摘するいわゆる「八戸の地震」や「陸奥八戸の地震」については,これらが記録さ
れた17世紀ないし19世紀には青森県内に既に八戸,田名部,青森等の城下町や
港町が形成されていたのであるから,仮に上記の地震が原告らのいうように青森県
東部地方のかなり広い範囲にわたって大規模な被害をもたらすものであったとすれ
ば,これらの地域の被害について何らかの記録が残されているはずであるところ,
被害記事等を検討してもそのような記録が存在しない以上,上記地震が原告らの主
張するような強い地震であったということはできない。また,本件安全審査では,
被害記事の内容を個々に検討したのであって,被害記事の多寡をもって被害地震の
状況を判断したものでもない。
 また,本震の震央距離が200キロメートルを超え,余震の震央距離が200キ
ロメートル以内となる地震についても,同様に被害記事等から敷地周辺に多大な被
害を及ぼしたものはないことを確認している。
2 震度階のごまかしについて
(ア) 本件許可申請書の誤り
 本件許可申請書の添付書類3の図3―7は,マグニチュード―震央距離図に,本
件敷地からの震央距離が200キロメートル以内の被害地震を記入し,これらの地
震の敷地における震度階を推定したものであり,地震による敷地への影響度を平均
的に評価する上で有効な手段であることから,本件許可申請書の添付書類に記載さ
れている。そして,上記図の中で,例えば,昭和43年の十勝沖地震については,
確かに震度4の領域に記入されてはいる。
 しかし,本件安全審査では,上記地震については,気象庁発表資料では本件敷地
を含む青森県東部地方の震度階が5とされているため,敷地での影響度は震度5と
評価しており,原告らの上記主張に係るその余の地震についても,上記と同様に震
度5と評価している。このように,本件安全審査においては,同図を参考にするほ
か,公表された他の資料等をも参照して総合的にその震度階を判断した上で,本件
敷地周辺で記録された被害地震の本件敷地での影響度は最大でも震度5程度である
との結論に達したものである。
(イ) マグニチュード―震央距離図の問題点
 マグニチュード―震央距離図中の震度区分曲線は,過去の観測地震のデータから
近似的に描かれたものであるから,個々の地震をこれに当てはめる場合には,観測
された震度階と区分曲線上の震度階に差が生じることもあり得るが,上記震度区分
曲線が常に震度階を低めに評価するといった傾向を有するものではない。
 また,震度区分曲線とは,地震の規模と震度4,5及び6の領域の大きさとの平
均的な関係を示す曲線であり,村松及び勝又,徳永により提案された経験式に基づ
くものであるところ,この経験式は,おおむね,(a)標本となる地震を選定し,
それぞれの地震ごとに,気象庁の震度観測データから震度階の範囲を確定し面積を
求める,(b)いくつかの地震についてこの作業を行うと,震度階ごとに,マグニ
チュードと上記の領域の面積との関係を示す近似式が得られる,(c)各領域を円
形とみなして,マグニチュードと円形とみなした各領域の半径との関係を示す近似
式を導く,という方法により求められたものである。マグニチュード―震央距離図
中の震度区分曲線は,このような方法により求められた近似式に従って描かれたも
のであり,そこでは最大加速度値は用いられていないのであるから,最大加速度値
に関する問題点をいう原告らの主張は,失当である。
 このほか,本件安全審査においては,マグニチュード―震央距離図を参考にし
て,公表された他の資料等をも参照して総合的にその震度階を判断したのであるか
ら,原告らの主張は,その前提において失当である。
(ウ) 他の資料の参照の有無
 本件許可申請書に引用されたマグニチュード―震央距離図による本件敷地での震
度階と内閣総理大臣が参照した他の資料との間に差異が存することや,マグニチュ
ード―震央距離図が地震による敷地への影響度を評価する上で必ずしも有効とはい
えないことが「安全審査について」ないし安全審査書に記載されていないことは,
内閣総理大臣が本件安全審査においてマグニチュード―震央距離図の性格を考慮し
なかったことを意味するものではないし,ましてや,本件安全審査において上記各
図書に記載されていない他の資料を参照しなかったことを示唆するものでもない。
 また,「青森県大震災の記録」中の震度分布図の中に,青森県東部地方の一部に
震度階が6とされている箇所があることは事実であるが,本件敷地付近は同図にお
いて震度5とされているのであるから,原告らの主張は,その前提を欠き,失当で
ある。なお,上記地震による実際の建物の被害状況は,六ヶ所村では,全壊棟数0
(家屋倒壊率0パーセント),半壊棟数6,一部破損棟数23であり(「青森県大
震災の記録」参照),被害の程度は小さいものであった。
3 中小規模の地震について
 本件安全審査においては,大地震発生のケースのみに着眼して検討を行ったもの
ではなく,地震の規模の大小にかかわらず本件敷地周辺で記録された被害地震につ
いてその影響度(震度階)を検討している。ちなみに,気象庁作成の「地震観測指
針(参考編)」によれば,マグニチュード7以上が大地震,同5以上7未満が中地
震,同3以上5未満が小地震と分類されており,この分類に従えば,本件許可申請
書の添付書類3の表3―3「敷地周辺の被害地震」に記載された各地震には大地震
だけでなく中,小地震も含まれていることは明らかである。
 また,震源深さが浅く,震央距離が近い場合の中小規模の「内陸直下型地震」に
ついては,マグニチュード―震央距離図を作成するに当たって基礎とされたデータ
に,昭和53年5月16日に発生した二つの地震(いずれもマグニチュード5.
8,震央距離10キロメートル,震源深さ10キロメートル)のように震源深さが
浅い中地震の例も含まれており,その意味で検討はされている。
4 震度5を上回る地震発生の危険について
 加工施設指針13は,本件施設を含むウラン加工施設につき,過去の地震記録を
検討すればその安全確保の目的を達するものとしているが,これは,過去の地震記
録にないような地震が将来において発生する蓋然性は極めて低いと考えられるた
め,ウラン加工施設の有する潜在的危険性の程度にかんがみ,過去の地震記録にな
いような地震までをも想定する必要はない旨を規定したものである。
 そして,本件安全審査においては,前述のとおり,過去において本件敷地周辺で
記録された被害地震の本件敷地での影響度は,最大でも震度5程度であることを確
認している。
5 加工施設指針の問題点について
 原子力施設の設置に当たり地震の原因としての活断層に対する評価を行う必要が
あるか否かは,当該施設の有する特質に応じて,その施設の安全確保の観点から合
目的的に決せられるべきものである。そして,本件施設を含むウラン加工施設は,
原子炉施設や再処理施設と異なり,その内蔵する放射能量が少ないなど潜在的危険
性が極めて小さいので,ウラン加工施設の耐震設計を定めた加工施設指針13にお
いては,設計用最強地震や設計用限界地震を想定することとはされておらず,ひい
ては地震の原因としての活断層に対する評価を行うことは要求されていない。
6 活断層の存在について
(1) 加工施設指針13によれば,ウラン加工施設については,原子炉施設や再
処理施設と異なり,地震の原因としての活断層に関する評価を行う必要がなく,基
本的立地条件としての地盤の安定性を評価するという観点から建屋直下及び敷地内
にある断層を対象とし,それが施設に不同沈下等の影響を及ぼすか否かの検討を行
えば足りることになる。
(2) 下北半島東方約20キロメートル沖合の海底に存在するという活断層に関
する原告らの主張は,次のとおりいずれも誤りである。
 原告らの主張に係る断層とは,本件許可申請書の添付書類3の表3―4「敷地周
辺の文献による活断層」に記載された海域―2の,敷地から北北東の方位にある断
層長さが84キロメートルの断層のことを指すものであろうが,まず,上記断層が
確実度Ⅰであるとする点については,同表のもととされた「日本の活断層―分布図
と資料―」では,海底の活断層については確実度の評価はされておらず,当然確実
度の記載はない。また,上記海域が「地震空白地帯」であるとの点についても,そ
もそも「地震空白地帯」という概念自体があいまいである上,「地震空白地帯」で
あることを理由に巨大地震発生の確率は極めて高いとする科学的根拠もない。さら
に,昭和53年の青森県東岸の地震の主震は,この活断層の一部の再活動によって
起こったものとみなされるとの点,及び,この断層が八戸沖辺りまで延びており長
さが120キロメートル内外に達するとの点についても,これを裏付ける文献はな
く,原告らの科学的根拠のない推測とでもいうべきものである。
(3) 「日本の活断層―分布図と資料―」によれば,本件敷地を含む東北地方外
帯(東北地方の太平洋側及びその沿岸)は活断層の密度が極小であるとされてい
る。また,例えば,同文献が確実度Ⅱについては「活断層であると推定されるも
の。」,確実度Ⅲについては「活断層の可能性があるが,変位の向きが不明であっ
たり,他の原因も考えられるもの。たとえば川や海の浸食,あるいは断層に沿う浸
食作用による地形の疑いの残るもの。」としていることから明らかなとおり,同文
献に記載された「活断層」のすべてが実際に活断層であると確認されたものでもな
い。
7 鳥取県西部地震が明らかにした本件安全審査の誤りについて
 原告らは,本件安全審査においては,本件許可処分以降に発生した地震をも考慮
すべきであると主張するが,本件安全審査では,本件敷地付近で過去において記録
された被害地震の敷地における影響度を審査すれば足り,上記地震の規模を超える
地震までをも想定する必要はない。また,本件許可処分の違法判断の基準時が処分
時であることからも,本件安全審査後に発生した地震を考慮することは許されな
い。
 したがって,原告らの主張は,その前提において失当である。
3 その他の自然的立地条件
(被告の主張)
1 気象
 本件安全審査においては,本件敷地近傍の観測所等の気象観測データにより,本
件許可申請の時点において,本件敷地周辺の年平均気温は摂氏約9度,最高気温は
摂氏33.9度,最低気温は摂氏マイナス14.6度,年間降水量は約1200ミ
リメートル,最大積雪深は190センチメートルであり,また,過去の台風等によ
る最大風速は毎秒26.2メートル,瞬間最大風速は毎秒35.9メートルであっ
て,これらの気象条件が本件施設の安全性に影響を与えるものでないことを確認し
た。
2 水理・水象
 本件施設に必要な工業用水は,本件敷地の西方を流れる二又川に設置する取水施
設から取水することとなっている。
 本件敷地周辺における河川として,二又川のほかに老部川があるが,地形の状況
からみて,洪水により本件施設が被害を受けることはない。また,本件施設は海岸
から約3キロメートル離れた標高約36メートルの丘陵地帯に位置していることか
ら,高潮又は津波により本件施設が被害を受けることはないと判断した。
(原告らの主張)
1 気象
(1) 積雪
 本件敷地周辺地域は,冬期の降水量は比較的少ないが,平地では豪雪地帯に属
し,施設の安全対策,放射性物質等の運搬の安全確保に支障となることは明らかで
ある。最大積雪深190センチメートルに十分耐える設計にすることは,極めて技
術的困難を伴うが,仮にそれが可能であっても,施設の稼働上多大の支障と危険を
避け難い。
 また,本件敷地周辺を含む東北地方北部の太平洋側は,東北地方の日本海側と比
べれば,積雪量が概して少ないとはいえ,ともに豪雪地帯対策特別措置法による豪
雪地帯に指定されており,敷地周辺において,いつなんどき最大積雪深が更新され
ないとも限らない。さらに,積雪深が短時間に急増し,敷地周辺が孤立状態になっ
た場合などには,除雪等が円滑にできないことも当然あり得ることになる。
(2) 強風
(ア) 本件敷地周辺は強風地帯に属し,ヤマセが吹けば風下の六ケ所村とその周
辺町村,青森市,弘前市などの津軽地方にまで気体放射性廃棄物が拡散,降下する
し,西風の場合には,六ケ所村の中心部である尾駮部落が放射能の被曝にさらされ
ることになる。本件安全審査は,これらの点の考慮を怠っている。
 これに対する被告の反論は,本件施設が最悪の事故を起こした場合のウランの異
常放出について考慮たものではないし,また,そこにいう,一般公衆の被曝線量を
確認するに当たり考慮したとする「十分な裕度のある拡散条件」の内容も明らかで
ない。さらに,チェルノブイリ原発の事故の例にも見られるように,被曝線量は,
事故を引き起こした施設からの距離が遠くなるほど小さくなるとは限らない。それ
に,強い風が吹いた場合,吹き方如何によっては,ある地点における被曝線量が急
増することも決して皆無とはいえない。
(イ) 本件安全審査で台風に対する安全設計の基礎とされた最大風速26.2メ
ートル/秒及び最大瞬間風速35.9メートル/秒は,本件施設の敷地から直線距
離で約50キロメートルも離れた青森市の数値で,敷地と青森との間には気象状況
にも大きな差異があることから,本件施設の強風に対する安全設計を青森の数値を
用いて行ったのは不適当である。
2 水理・水象
(1) 洪水・高潮等
 安全審査書によると,「敷地周辺における河川として,二又川のほかに老部川が
あるが,地形の状況からみて,洪水により本施設が被害を受けることはない」とさ
れているが,全く根拠を欠いている。
 そして,上記両河川において,大規模な洪水のために川床が一挙に急上昇し,そ
れに伴って河川水の水位も急上昇して河崖の侵蝕を早め,それがゆくゆくは本件施
設が位置する丘陵の下の崖の崩壊を促す結果になることもあり得るから,敷地と河
川との間の現地点における標高差だけに基づいて敷地における洪水の危険性はない
と即断することは必ずしも相当とはいえず,本件施設は洪水によって被害を被るお
それがあるというべきである。
(2) 津波
 八重山地震津波の波高は85.4メートル,明治三陸地震津波の波高は38.4
メートルといわれている。したがって,将来約36メートルを超える波高の津波
が,本件施設を襲わないという保証はなく,また,津波による老部川・二又川や尾
駮沼の沿岸における斜面崩壊などに起因する崩土の水域への流入があれば,津波の
規模が大きくなり,間接的にせよ,津波の影響を被る結果になる可能性があるが,
本件安全審査はこれを看過している。
 そして,リアス式の海岸地形になっている場所では津波の波高が高くなること
は,一般論としていえるにしても,リアス式の海岸地形になっていなければ波高の
高い津波に襲われないとは決していえないし,平坦な海岸地形の場所にも高い波高
の津波が押し寄せ多数の死者等が出たという例はこれまでにも各地で知られている
ように,津波の波高の高低を左右する要因は場所ごとに異なり,また,同一あるい
はほぼ同一の場所でも,津波ごとに異なる。ゆえに,本件敷地付近の海岸は,八重
山地震津波に襲われた石垣島等と地形的条件が大きく異なり,また,明治三陸地震
津波に襲われたリアス式海岸とも異なる地形的条件を備えているからといって,本
件敷地が高い波高の津波に襲われるおそれはないとは決していえない。
 さらに,本件敷地が存在する丘陵地帯の周辺に河川や湖沼がなければ,付近の海
岸に波高の高い津波が押し寄せた場合でも,その津波が海岸から約3キロメートル
離れている標高約36メートルの本件敷地にまで被害を及ぼすおそれはまずは存在
しないと考えてよいが,実際には,河川や湖沼が存在しているので,海岸に押し寄
せた津波が,これらの水域に浸入することによって,本件敷地にも影響を及ぼす可
能性は十分に考えられる。
(3) 地下水
(ア) 調査の不備
 本件施設の安全上の評価を行うに当たり,立地地点及びその周辺における地下水
等の自然環境を加工施設指針の定めるところに従って検討するためには,地下水位
の調査や帯水層の分布状態の調査などは何よりも先に手がけなければならないもの
である。特に,本件許可申請書添付の地質平面図や断面図によると,建屋の一部が
帯水層上に建設されることになり,このことによる危険性の検討が必要となる。し
かし,原燃産業は,本件許可申請書の中で,事故の誘因を排除し,災害の拡大を防
止する観点から,立地地点及びその周辺における地下水等の自然環境をどのように
検討したかを全く説明しておらず,本件安全審査においても,敷地の地下水位を検
討した結果安全確保上支障がないことを確認した形跡がない。
 また,被告は,本件施設の建物が鷹架層からなる岩盤を支持地盤としているため
液状化等の地下水を起因とする災害の発生の可能性は考えられず,したがって,本
件安全審査において,地下水あるいは帯水層の賦存状態について安全上の評価を行
う必要がないと主張する。しかし,液状化等の地下水を起因とする災害の発生の可
能性は,鷹架層については極めて小さいにしても,同層上部の風化部にはN値がわ
ずか10内外にすぎない部分も存在しているので,もしそのような部分が地下水に
よって飽和されていれば,液状化する可能性も皆無とはいえない。また,敷地のう
ち,表層地盤,とりわけ盛土からなる造成地盤については,液状化現象の発生は十
分に考えられ,表層地盤の一部が液状化しても本件施設の事故の誘因になり,災害
を拡大させる結果を招くおそれは多分にある。したがって,本件施設の支持地盤が
鷹架層であるからといって,地下水位や帯水層の分布状態等を調査する必要がない
ということにはならない。
 このほか,被告は,日本道路協会編「道路橋示方書・同解説(Ⅴ 耐震設計
編)」に基づいて,地震時に液状化現象が発生する可能性のある地層について説明
しているが,この説明には,今日の最新の知識に照らしてみると既に古くなってい
る点がある。すなわち,最新の知識によると,液状化現象は,砂質土層よりも更に
細粒のシルト層のほか砂礫層でも起こっていること,特に造成地では,震央距離が
かなり遠い地点でも液状化現象が起こっていることが明らかにされている。
(イ) 環境汚染の問題
 安全性の確保は,本件施設だけにではなく,周辺地域の環境についても要求され
るはずであるから,加工施設指針が,地下水等の自然環境の検討を,加工施設の立
地地点だけでなくその周辺においても行うように定めているのも,放射性物質が洩
れたときの環境に与える影響を考慮外におくことができないという趣旨によるもの
と解するのが相当である。したがって,水象調査のうち,放射能が環境に洩れたと
き,これが地表水,地下水に混入し,どこをどのように汚染するか,環境に与える
影響はどうかという事前調査は不可欠である。しかし,本件許可申請書でも本件安
全審査の過程でも,この点に対する考慮は全く払われていない。
 この点,被告は,本件施設においては,放射性物質の十分な漏洩防止対策を施す
とともに,廃液は適切な処理を行い,排水中に含まれる放射性物質の量が周辺監視
区域外での許容濃度以下であることを確認した後に放出することとされていると述
べているが,このような具体性のない説明は,安全上の評価についての論議を進め
るうえで全く無価値のものというほかはない。例えば,放射性物質の十分な漏洩防
止対策を施すから問題はないといった説明は,「放射性物質は洩れないようにして
あるので,洩れることはない。」という,およそ無意味で無内容なものでしかな
い。
(被告の反論)
1 気象について
(1) 積雪
 本件敷地付近の建築物は,建築基準法等関係法令及び青森県の指導に基づいて1
35センチメートルの積雪量に耐え得るよう設計することとされている。これに対
して,本件施設の建物は最大積雪深(垂直最深積雪量)である190センチメート
ルの積雪量に耐え得るように設計することとされているところ,本件安全審査にお
いては,上記程度の積雪量に耐え得るように本件施設の建物を設計することは,材
料の選定や柱・はり等の部材の数及び寸法の決定等を適切に行うことにより,何ら
技術的困難を伴うことなく可能なものであることを確認した。
(2) 強風
(ア) 本件安全審査においては,本件施設の平常時の排気に含まれて放出される
ウランの年間放出量から,十分な裕度のある拡散条件を考慮しても,一般公衆の被
曝線量は周辺監視区域境界においても十分小さいことを確認している。また,より
遠隔地(本件施設からの直線距離は青森市で30キロメートル以上,弘前市では約
80キロメートルにも達する。)や強い風の吹く場合には,より拡散されるので被
曝線量ははるかに小さくなる。
(イ) 内閣総理大臣が本件安全審査において確認した,過去の最大風速毎秒2
6.2メートル及び瞬間最大風速毎秒35.9メートルという数値は,原告らの指
摘するように青森市におけるものであるが,これらは本件安全審査に際してあくま
で参考とされたものにすぎない。
 そして,本件施設の強風に対する安全設計は,上記数値とは別に,建築基準法施
行令に定める風圧力(風速毎秒60メートル相当)に耐えるようにされたものであ
る。
2 水理・水象について
(1) 洪水・高潮等
 本件敷地は,標高約36メートルの丘陵地帯にあり,その付近にある老部川及び
二又川は標高20メートル以下である。このことを含め,本件敷地と老部川及び二
又川との位置関係等の地形の状況を総合的に考慮すれば,洪水により本件施設が被
害を受ける危険性のないことは明らかである。
(2) 津波
(ア) 原告らの挙げる津波の例のうち八重山地震津波は,沖縄県石垣島等という
地形的条件が本件敷地周辺と大きく異なる地域におけるものであり,また,明治三
陸地震津波については,この時津波の高さが最も高かったのは,「日本被害津波総
覧」によれば三陸町における24.4メートル,「理科年表」によれば同町におけ
る38.2メートルとされているところ,三陸町をこうした大きな津波が襲った原
因は,同町周辺の海岸がリアス式の地形であることによるものである。このほか,
平坦な海岸地形になっている場所の津波については,「日本被害津波総覧」によれ
ば,1498年の明応地震の際の津波の高さは最大で10メートル,また,170
3年の元禄地震の際の津波の高さは最大で10.5メートルとされている。
 そして,本件敷地は,単調な海岸線の海岸から約3キロメートル離れた標高約3
6メートルの丘陵地帯に位置しており,本件敷地と河川等との標高差,地形の状
況,海岸からの距離等からみて,本件施設が津波により影響を受けることがないこ
とは明らかであるし,上記のような地形状況からみて大規模な斜面崩壊が起こると
も考えられない。
(イ) 本件敷地と海岸との位置関係,また,標高が1ないし20メートルである
老部川及び二又川との位置関係等からして,津波の遡行により本件敷地に被害が及
ぶおそれのないことは明らかである。
(3) 地下水
(ア) 調査の不備
 一般に地震時に液状化の可能性のある地層は,地下水位面が現地盤面から10メ
ートル以内にある沖積層で,かつ現地盤面から20メートル以内の範囲における平
均粒径D50が0.02ミリメートル以上2.0ミリメートル以下である飽和砂質
土層であるとされている(「道路橋示方書・同解説(Ⅴ耐震設計編)」(日本道路
協会編))。これに対し,加工施設指針においては,事故の誘因を排除し,災害の
拡大を防止する観点から立地地点及びその周辺における地下水等の自然環境を検討
し,安全確保上支障がないことを確認することとされているところ,本件安全審査
においては,本件施設の建物は,新生代第3紀の砂岩・凝灰岩類からなる岩盤であ
る鷹架層に支持させる設計となっていることを確認している。したがって,液状化
等の地下水を起因とする災害の発生の可能性は考えられず,本件安全審査におい
て,このほかに地下水位や帯水層の賦存状態について安全上の評価を行う必要はな
い。
 また,本件施設の建物は,鷹架層の上部の風化された部分に支持させるものでは
なく,鷹架層のN値が50以上の部分に支持させるものであるから,原告らの主張
は,その前提を欠き失当である。
(イ) 環境汚染の問題
 加工施設指針1に地下水等の自然環境を検討すべき旨が定められているのは,上
記に述べたとおり,事故の誘因を排除し,災害の拡大を防止する観点から立地地点
及びその周辺における事象を検討し,安全確保上支障がないことを確認するためで
あり,原告らが主張するように,放射性物質が洩れたとき環境に与える影響を検討
するためではない。
 なお,本件施設においては,放射性物質の十分な漏洩防止対策を施すとともに,
廃液は適切な処理を行い,排水中に含まれる放射性物質の濃度が周辺監視区域外で
の許容濃度以下であることを確認した後,放出することとされている。
4 社会的立地条件
(被告の主張)
 本件安全審査においては,本件敷地周辺の社会環境に関し,本件施設周辺地域の
人口密度,総人口の推移状況,産業及び産業活動のほか,航空機が本件施設に墜落
する可能性について調査が行われ,次のとおり確認した。
(1) 周辺地域(六ヶ所村及び隣接6市町村)の人口密度は1平方キロメートル
当たり90.8人(昭和60年10月1日現在)であり,総人口の推移状況はここ
数年ほぼ横ばい傾向である。
(2) 周辺地域における主な産業は農業及び漁業であり,また,本件敷地の西
方,本件施設から約4キロメートル離れた位置に国家石油備蓄基地があるが,本件
施設から十分離れていることから,これらの産業活動によって本件施設の安全性が
損なわれることはないと判断した。
(3) 本件施設から南方向約28キロメートル離れた位置に三沢空港が,西方向
約10キロメートル離れた上空に「Ⅴ―11」と呼ばれる定期航空路が,南方向約
10キロメートル離れた位置に防衛庁等の航空機の訓練区域(三沢対地訓練区域)
が,それぞれあるが,本件施設からいずれも十分離れていること及び航空機は原則
として原子力施設上空を飛行しないように規制されることから,航空機が本件施設
に墜落する可能性は極めて小さいと判断した。
(4) また,本件安全審査では,社会的立地条件として敷地上空の飛行状況を検
討するほかに,訓練中の航空機が万一本件施設の安全上重要な施設に墜落したとし
ても,一般公衆に対する影響は小さいことを確認した。
(ア) 想定事故の評価条件
 訓練中の航空機の墜落の影響を評価する上で設定された条件は,以下のとおりで
ある。
(a) 墜落を想定する航空機の機種は,三沢対地訓練区域で射爆撃訓練を実施し
ている航空機のうち,三沢基地に最も多く配属されている防衛庁のF1及び米軍の
F16とする。
(b) 航空機の墜落の影響を評価する施設は,安全上重要な施設のうち取り扱う
ウランの性状及びウラン保有量を考慮して,ウラン濃縮建屋のうちの発回均質棟及
びカスケード棟並びにウラン貯蔵建屋のうちウラン貯蔵庫とする。
(c) 航空機は,東西12キロメートル,南北4.5キロメートルの訓練コース
上を飛行中,エンジン故障等によりコースを外れ本件施設まで滑空し衝突するもの
として,衝突速度を毎秒150メートル(毎時540キロメートル)とする。
(d) 墜落を想定する航空機の重量は,射爆撃訓練を行っているF1,F16の
通常想定される訓練時の重量に余裕をみて16トンとする。
(e) 航空機の墜落時には,燃料油による火災が発生するものとして評価する。
燃料油量は,F1に比べて機内燃料油量の多いF16の機内燃料油全量約4立方メ
ートルとする。燃料油量は離陸及び飛行により減少するが,ここでは安全側に機内
保有燃料油全量で評価する。なお,外部燃料タンク中の燃料及び翼中の燃料は施設
への衝突時に建屋外で飛散するものと考えられる。
(イ) 発回均質棟の安全性
 ウラン濃縮建屋のうち発回均質棟については,約90センチメートルの屋根・壁
厚を有する鉄筋コンクリート構造となっているため,次のような評価結果に基づ
き,仮に航空機が発回均質棟に衝突したとしても貫通せず,また,鉄筋コンクリー
ト板が破壊することもないので,その健全性は確保されるものと判断した。
(a) 鉄筋コンクリート構造部の貫通限界厚さ(飛来物が衝突対象となる構造物
に衝突した際の貫通しない限界の版厚)の評価では,機体に比べ剛性の高いエンジ
ンを対象とし,その評価式としてDegen式(Peter P.Degenが1
980年(昭和55)に提案した,鉄筋コンクリート板に剛飛来物が衝突した際の
貫通限界厚さの評価式)を用いる。
 上記評価式は剛飛来物(飛来物が衝突する構造物に比較して相対的に堅く変形し
にくい飛来物)に対する評価式であるため,エンジンの柔性を考慮した衝撃実験か
ら求めた柔飛来物(飛来物が衝突する構造物に比較して相対的に柔らかく変形しや
すい飛来物)の低減効果を考慮したところ,貫通限界厚さは約80センチメートル
となり,エンジンが貫通することはない。
(b) 鉄筋コンクリート構造である発回均質棟の屋根・壁厚を90センチメート
ルとした場合について,航空機墜落時の衝撃荷重に対する有限要素法(連続体を有
限個の要素の集合体に理想化して未知量を求める,構造解析等に使用される解析方
法)による応答解析を行った結果,衝突部のコンクリート圧縮破壊及び鉄筋破断に
よる鉄筋コンクリート板の破壊はない。
(ウ) ウランの漏洩量の評価条件
 ウラン貯蔵建屋のうちウラン貯蔵庫については,航空機が衝突した場合には建屋
を貫通し,その健全性は失われるものと判断されることから,安全審査上,進んで
事故の際の六フッ化ウランの漏洩量を検討する必要があるが,漏洩量の算定に当た
って前提とした条件は,おおむね次のとおりである。なお,ウラン濃縮建屋のうち
カスケード棟等については,ウラン保有量が少ないため六フッ化ウラン漏洩の問題
はない。
(a) ウラン貯蔵庫は鉄筋コンクリート構造のため,航空機が墜落した場合,機
体の翼部等は衝突面で飛散するものと考えられるので,胴体部が建屋を貫通するも
のとする。貫通した胴体部によりシリンダは損傷するが,シリンダは厚い鋼製であ
ることから大きな損傷はないと考えられる。シリンダの損傷本数は,衝突部周辺へ
の波及も考慮し,安全側に余裕をもたせるため,翼部等を含む機体の平面全投影面
積に安全余裕を見込んだ約90平方メートルの範囲の製品シリンダの全数である1
5本とする(なお,天然ウランや劣化ウランは,濃縮ウランに比べ比放射能が小さ
いので,原料シリンダや廃品シリンダの損傷時の評価は上記評価に包含され
る。)。
(b) 航空機は,ウラン貯蔵庫の屋根又は壁にある角度をもって衝突すると考え
られるが,安全側に余裕をもたせるため,屋根に直角に衝突するものとする。
(c) 航空機の墜落時に,燃料油は霧状に飛散し,建屋衝突面で瞬時に爆燃し,
火災は短時間で終了するが,安全余裕を見込んで,機内保有燃料油全量が建屋内の
傾斜した床面に流出し,燃焼するものとして火災の継続時間を評価する。
 火災継続時間は,燃料油の床面上の拡がりと燃料油の燃焼速度を考慮すると約3
分程度と評価されるが,余裕をみて約6分とする。
(e) 火災継続時間中の火炎からの放射熱は1平方メートル・時間当たり約25
000キロカロリーであり,安全余裕を見込んで,すべての放射熱を床面上の損傷
シリンダが全表面で受けるものとする。
(エ) 六フッ化ウランの漏洩量と被曝線量
 上記各条件に基づいて解析すると,シリンダ内の六フッ化ウランの温度が昇華温
度摂氏56.5度(大気圧)に至り,その後六フッ化ウランが昇華漏洩することと
なり,その結果,漏洩量は約3キュリーとなる。また,漏洩した六フッ化ウラン
は,空気中の水分と反応して,固体状のフッ化ウラニルとなるが,この大部分は重
力による沈降及び壁等への付着により建屋内に残留すると考えられること,及び建
屋の破損の程度は小さいことから,ウラン貯蔵庫の建屋外への漏洩量は,シリンダ
から漏洩した六フッ化ウランの10分の1の約0.3キュリーとなる。
 一般公衆に対する被曝線量の評価に当たっては,次のような方法を用いた。すな
わち,建屋外に漏洩したフッ化ウラニルは,本来,重力による沈降を伴いながら敷
地内に拡散するが,安全余裕を見込んでこの重力による沈降を考慮に入れないで,
気象指針に準拠し,本件許可申請書の添付書類3に記載された気象データを用いて
フッ化ウラニルの拡散を評価した。その結果,本件敷地の境界における最大相対濃
度は毎立方メートル5.72×10のマイナス8乗時となり,さらにこれを用いて
一般公衆に対する被曝線量を評価した結果,約0.06レムとなった。この一般公
衆に対する被曝線量を算定する際に必要な線量換算係数は,ウランの濃縮度を5パ
ーセントとして,ICRPのPub.30に基づき毎キュリー2.7×10の6乗
レムとし,また,標準人の呼吸率は,ICRPのPub.23に基づき毎時1.2
立方メートルとした。
 この約0.06レムという値は,本件許可処分時における一般公衆の一人当たり
の許容被曝線量である毎年0.5レム及び現在の一般公衆の線量当量限度である一
人当たりの被曝線量(線量当量)年間0.11レム(1.1ミリシーベルト)と比
べても小さい値であり,一般公衆への被曝による影響は小さく,健康に障害をもた
らすことはない。
(原告らの主張)
 以下のように,社会的基本的立地条件に関する安全審査結果には,重大な瑕疵,
遺漏が存し違法である。
(1) 国家石油備蓄基地
 本件敷地とむつ小川原国家石油備蓄基地との距離は,最短では2.3キロメート
ルしかない。
 上記石油備蓄基地の原油タンクの基数は51基,一基のタンク容量は約11万キ
ロリットル,全備蓄容量は570万キロリットルで,現在予定量のオイルインが完
了している。同石油備蓄基地の最大想定事故は原油流出とタンク火災であるが,昭
和58年12月24日,推定で49.5キロリットルの原油洩れ事故が発生してい
る。このような不測の事態は,基地の大火災の原因となり,ひいては本件施設を含
む核燃料サイクル施設の事故誘因となりかねない。安全審査書は「本施設の安全性
が損なわれることはない」というが,その根拠が全く示されていない。
(2) 人口分布状況
 六ケ所村は面積253.34平方キロメートル,昭和62年2月28日現在,人
口は1万2253人,世帯数3186,隣接する東北町(人口1万2447人)と
横浜町(人口6577人)は,六ケ所村と接する部分が広範囲にわたるため,本件
施設立地の影響が大きい。六ケ所村の政治,経済,教育の中心は尾駮部落であり,
世帯数は三百数十で立地点に最も近接している。
 事故時・平常時における放射能による被害を最小限にくいとめるためには,施設
と住民居住区域とに十分な離隔距離が保たれなければならないが,本件安全審査で
は,本件施設の周辺地域住民,とりわけ2.5キロメートルしか離れていない尾駮
地区の住民の生命,健康に対する考慮が全くされていない。
(3) 集中立地の危険性
 本件施設周辺には,他にも,大量の放射性物質を内蔵する再処理工場,高レベル
放射性廃棄物の貯蔵場,低レベル放射性廃棄物の埋設処分場などの,大規模な原子
力施設の立地計画が進行中であり,このような施設の集中化によって各施設の危険
性が相乗的に増大化することは避け難い。また,一つの原子力施設において放射性
物質の大量放出を伴うような大事故が発生した場合,近隣の他の原子力施設の運転
員も短時間のうちに運転を放棄して退避せざるを得ないこととなり,二次災害を生
じやすい状況が発生する。
 ところが,本件許可処分に当たっては,上記の施設の集中立地を想定した審査を
行っていない。
(4) 航空交通
(ア) 飛行規制
 三沢基地は,青森県三沢市を中心とする1582ヘクタールの敷地内に存する軍
事基地であり,現在,米軍の最新鋭戦闘機F16が五十数機,P3Cが9機,自衛
隊機F1が36機実戦配備されており,日夜射撃訓練やタッチアンドゴーのスクラ
ンブル発進の演習が繰り返されているほか,第7艦隊原子力空母が入港すると,艦
載機が飛来し,激しい飛行訓練が行われる。
 この訓練空域は,頻繁に航空機が往来交錯するため,その空域の安全を確保する
目的から,運輸大臣により特別管制空域(三沢特別管制区)に指定されており(航
空法(ただし,平成元年法律第67号による改正前のもの。以下同じ。)94条の
2,航空交通管制区又は航空交通管制圏のうち計器飛行方式により飛行しなければ
ならない空域を指定する告示(平成元年運輸省告示第639号による改正前のも
の)),本件施設の立地点を含む六ヶ所村全域の上空もこの特別管制空域に含ま
れ,この空域を飛行する場合,原則として管制官の許可(コンタクト)が必要とさ
れ計器飛行方式が義務づけられているが,本件安全審査では,途中までこの特別管
制空域の存在を航空機事故の要因として検討していたものの,原子力施設上空の飛
行規制の存在を理由に審査の対象外にしてしまっている。
 この点に関し,運輸省の「原子力関係施設上空の飛行規制について」と題する通
知では,「施設附近の上空飛行は,できる限り避けさせること」とされているもの
の,この表現は絶対的な飛行制限ではない。そして,米軍機は,航空法の適用を除
外されており,米軍機にも自衛隊機にも軍事訓練や有事の場合に本件施設上空をわ
ざわざ迂回して飛行するということは期待できない。そもそも,軍事目的を最優先
する米軍機にかかる期待を持つこと自体非現実的である。
 このほか,飛行制限に関する具体的合意については,目下のところ,米軍,防衛
庁,防衛施設庁,事業者との相互間において交渉すら持たれていない状況である。
(イ) 本件施設上空の飛行状況
 本件施設を含む核燃料サイクル施設の立地点は,前記の軍用機が配備されている
ほか日本エアシステムが乗り入れている三沢基地の北方約28キロメートルであ
る。また,施設から約10キロメートル離れたところには三沢対地訓練区域(いわ
ゆる天ヶ森射爆撃場)がある。原燃産業と日本原燃サービス株式会社が,アジア航
測株式会社に委託して行った調査によると,昭和61年12月1日より昭和62年
11月30日までの1年間,六ケ所建設準備事務所上空に飛来する航空機の飛行回
数は実に4万2846回の多数回に及んでいる。これほど多数回航空機が上空を飛
び交っているところに原子力施設を造るということ自体,非常識といわなければな
らない。
 上記訓練区域と本件施設とは10キロメートル離れているが,訓練区域を使用す
る航空機の飛行コースと立地点との最短距離は約五,六キロメートルしかない。こ
れは,最高速度がマッハ2(秒速680メートル)であるF16では僅か数秒間の
距離にすぎず,パイロットのわずかの油断で航空機が本件敷地上空へ到達しかねな
い。
 問題は空港等との距離が遠方であるかどうかではなく,本件施設上空を航空機が
通過するかどうかである。
 なお,茨城県東海村の動燃事業団の再処理工場の場合,立地要請がなされた時点
では,施設に隣接して,やはり米軍の対地射爆撃場(水戸対地射爆撃場)が存在し
たため,立地要請に対して,茨城県議会は,水戸対地射爆撃場返還のめどがついて
いないことを理由の一つに挙げ,再処理工場立地に対する反対決議をした。そし
て,結局同射爆撃場は昭和48年3月に米軍から返還され,その後に同再処理工場
が立地されている。このような先例に従えば,本件においても,当然三沢対地訓練
区域が移転・返還された後に本件施設等が立地されなければならない。逆にいえ
ば,上記訓練区域がある限り,本件施設をその近辺に立地すべきではない。
(ウ) 墜落事故発生の危険性
 上記のような状況の下,本件敷地周辺では,過去において50回以上に及ぶ軍用
機の墜落・不時着事故,80回以上の誤射爆・落下物事故が起きている。特に三沢
基地配属の軍用機については,昭和62年3月にF16が八戸沖に墜落して以来事
故が相次いでいる。
 ちなみに,日本原燃は,施設への航空機墜落の確率は100万分の1であると説
明しているところ,これに従い,前記飛行回数をもとに単純計算すると,墜落の時
期はさておき,約20年に1回は施設への墜落事故が発生することとなる。
 このように,航空機が本件施設を直撃するような事態は,想定事故の範疇を超
え,もはや現実の問題となっている。
(5) 墜落事故評価の問題点
(ア) 想定事故の評価条件
(a) 想定対象
 本件安全審査は,三沢対地訓練区域での飛行訓練を行う訓練機の墜落衝突事故の
みが検討対象であるかのごときであるが,これは想定される事故の一例にすぎな
い。安全審査では,申請書の記載事項を審査すれば足りるというものではなく,申
請書記載の事例も含め,自然条件及び社会条件上の事故要因事象及び災害拡大要因
がないかどうかをあらゆる側面から検討する必要がある。したがって,三沢対地訓
練区域での訓練機だけでなく,三沢基地から発着する軍用機や本件敷地周辺の上空
を飛行するすべての航空機について審査がされなければならない。
 また,安全審査書は,墜落事故を想定しての評価をしているが,航空機以外の誤
射爆・落下物事故を想定していない。
(b) 爆弾の搭載
 本件安全審査は,実爆弾不搭載機の墜落,衝突を想定している。
 ところが,平成3年11月には,F16が天ケ森射爆場の東方海上,高瀬川河口
から約6キロメートル,本件施設からは10キロメートルの地点に,2個の200
0ポンド(900キログラム)の実爆弾を投棄するという事件が勃発した。このよ
うに,本件施設上空を飛行する軍用機がいつも模擬爆弾だけを積んで飛んでいると
いう保証は全くなく,実弾等兵器を積んで飛行している可能性も極めて高い。
 爆弾が爆発したときの破壊力(威力)については,TNT爆薬量を基本にして,
爆薬のTNT当量及び爆心からの距離に基づいてスケール化距離を算出し(3乗根
則),スケール化距離の数値に対応する爆風圧(ピーク過圧)をグラフから求め,
割り出すことが可能である。F16が通常搭載している2000ポンド爆弾は,M
K84-2,000-LB GENERAL PURPOS BOMBと呼ばれる
通常タイプのものであると推認されるが,この爆弾に充填される火薬の種類や量に
ついては,文献によれば,爆弾1個当たり,945ポンドのマイノル2(注・TN
T火薬より50パーセント強力な爆薬),トリトナル(注・TNTとアルミニウム
からなる爆薬)あるいはH6火薬が充填された鋳型鋼ケース入り,総重量1970
ポンドと説明されている。したがって,2000ポンド爆弾には,945ポンド,
つまり428.65キログラムのマイノル2,TNT換算では642.97キログ
ラムの火薬が充填されていることになる。
 これに基づいて計算をすると,F16が2000ポンド爆弾を2個搭載して施設
から30メートル離れたところに墜落し,爆弾が爆発した場合には,施設は完全に
破壊されるし,爆心地が100メートル以内の距離であれば,コンクリート建物・
れんが壁は破損し,コンクリート・ブロックには剪断・たわみが生じ,建造物に重
被害発生などという極めて憂慮すべき事態となる。
(イ) 発回均質棟の安全性
(a) 飛来物形状係数
 貫通限界厚さを求めるに当たり用いられる飛来物形状係数は,0.72=平坦が
ほば完全な平面の場合であって,少しでも丸みをおびている場合は0.84=若干
丸いが使用される。そして,航空機のエンジンの場合,形状が円管で衝突する場合
には0.72=平坦でみるべきだとしても,航空機のエンジンが円管状で衝突する
のは,天井ないし璧に対して完全に垂直に衝突するという極めて特殊な場合だけで
あり(内閣総理大臣が想定したのは滑空状態での撃落であるから,天井に垂直に衝
突することは考え難い。),それ以外の角度で衝突すれば面ではなくほぼ点で衝突
することになり,若干丸いや球形になるはずであるから,むしろ飛来物形状係数は
0.84の方が現実的であるし,また,模擬弾の場合はその先端の形状からは1.
0=球形が妥当である。
 したがって,飛来物形状係数を0.72として,戦闘機が墜落しても発回均質棟
は局部破壊しないとし,航空機事故時の安全評価をしなかった本件安全審査は,そ
の安全審査に用いた具体的審査基準に不合理な点があり,調査審議及び判断の過程
に看過し難い過誤,欠落があるというべきである。
 なお,この点に関し,本件安全審査に提出された計算では,飛来物形状係数は明
記されず,F1及びF16について計算したこと,衝突速度を毎秒150メートル
としたこと,Degen式が用いられたこと,柔飛来物低減係数に0.75が用い
られたことが記載された上で,貫通限界厚さが約80センチメートルとされている
が,上記条件で飛来物形状係数を0.72としてDegen式によりF16の貫通
限界厚さを求めると74.32センチメートルとなり(なお,F1ではこれよりず
っと小さい値である。),約80センチメートルというには不自然な数値である。
これに対し,飛来物形状係数を0.84として同様の計算を行うと,貫通限界厚さ
は79.90センチメートルとなる。このことから,本件安全審査で用いられた飛
来物形状係数は,若干丸いことを表す0.84であったとも推認される。
(b) Adeli&Ain式
 本件安全審査では,F1及びF16戦闘機について,Degen式を用いて貫通
限界厚さを計算している。
 これに対し,内閣総理大臣が六ヶ所村の核燃料サイクル施設の安全審査の方法を
検討するために諮問した「外部事象検討分科会」報告書においては,「実験値との
近似が良いか,安全側の結果を与える評価式」あるいは「飛来物実験結果と比較的
一致度が良い式」の一つとしてAdeli&Ain式が挙げられているところ,原
告らがパソコンを用いて独自に計算した(ただし,飛来物形状係数については,上
記で主張したところにより,航空機については0.84,模擬弾については1.0
とする。)結果,この式によれば,F16を始めとする多くの戦闘機や模擬爆弾,
そして,すべての旅客機で,貫通限界厚さが90センチメートルを超えることとな
り,発回均質棟でも局部破壊が生じることが判明した。
 なお,飛来物形状係数にあえて不合理な0.72=平坦を用いても,Adeli
&Ain式では,F16についての貫通限界厚さは90センチメトルを超える。
(c) F4EJ改の衝突事故
 本件安全審査では,以後に三沢基地に配備されたF4EJ改について事故評価を
していない。しかし,原告らがパソコンで独自に計算した結果,内閣総理大臣が用
いたDegen式を用いても,F4EJ改の場合は貫通限界厚さが90センチメー
トルを超え,発回均質棟でも局部破壊が生じることが判明した。
(d) 最良滑空速度
 本件安全震災に当たって想定されたのは,要するにトラックパターンで訓練中の
航空機がエンジン推力を喪失し,グライダーのように滑空して本件施設に到達する
という場合であり,この場合最良滑空速度は14.7m/Sであるから,衝突秒速
は毎秒150メートルを超えないというのである。
 しかし,そもそも,航空機が地上の施設に衝突する場合の速度を算定するに際
し,最良滑空速度をもって衝突速度とするという見解自体決して確立した考えとは
いえないし,エンジン推力を維持したまま,パイロットが操縦不能となるケースは
十分考えられるから,エンジン停止の場合だけを想定する本件安全審査の過誤,欠
落は明らかである。
(e) まとめ
 上記に述べたとおり,本件安全審査は,飛来物形状係数の最も小さくなる場合を
採用した上,貫通限界厚さが90センチメートルを超えない組み合わせであるDe
gen式とF1ないしF16という組み合わせのみを選んでいるほか,衝突速度も
最良滑空速度をもって検討している。
 このことは,発回均質棟につき戦闘機が墜落しても局部破壊しないと判断してウ
ラン漏出に関する安全評価をしなかった本件安全審査に用いた具体的審査基準に不
合理な点があり,調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があることを示
すとともに,本件安全審査のやり方が,評価式の選定や墜落する戦闘機の機種及び
その衝突速度の選択において発回均質棟が局部破壊しないという結果を導くものを
選定したことが推認され,その点でも安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し
難い過誤,欠落があったことを示すものである。
(ウ) 中央操作棟の安全性
 内閣総理大臣の想定でも,中央操作棟については,「貫通する。また,航空機衝
突によっても鉄筋コンクリートスラブが破壊され,全体破壊が起こり得る。」とさ
れている(乙62)。にもかかわらず,このような場合でも,「大量のウランの放
出が起き,周辺の公衆に放射能被爆を与えるということはない。」とされている
(証人Bの証言)。
 しかし,この場合本件施設の制御が不能となるのであって,どういうことが発生
するか予想は不能であり,最大・最悪の事態を想定すべきである。
(エ) 六フッ化ウランの漏洩量と被曝線量
 ウラン貯蔵建屋に貯蔵可能なウラン全量が貯蔵されている場合,施設破壊時の放
射能の漏洩量は0.3キュリーにとどまらないことは明らかであり,安全審査書の
評価は誤りである。
 また,仮に一般公衆への被曝線量が0.06レムであったとしても,健康に重大
な障害をもたらすことは明らかであって,影響が小さいなどとは断じていえない。
 このほか,墜落事故では,火災が原因で有毒のフッ化水素が発生する危険がある
が,本件安全審査ではこの点に対する考慮がされていない。
(オ) 航空機墜落実験
 本件安全審査で実験は実施されていないが,机上計算で安全性を確保し得るとは
到底考えられない。
 なお,この点に関し,日本原燃サービス株式会社は,航空機の衝突事故を想定し
た実験(米国サンディア国立研究所における航空機衝突実験)を映したビデオを,
平成元年6月27日に青森県議会総務企画常任委員会の所属議員に公開し,さらに
同月30日には青森市の本社においてもこれを公開した。しかし,この実験につい
ては,地面に固定された建造物に爆弾や燃料を積載した戦闘機が高速で墜落ないし
衝突した場合の施設の安全性を調査したものではない等の様々な問題点がある。
 このほか,内閣総理大臣は,本件許可処分後に飛行機等の飛来物落下による周辺
環境への影響を確かめるための「確証試験」を実施しているが,本件許可処分後に
これを実施するということは,本件安全審査の中で安全性の確認がされていなかっ
たことにほかならない。
(被告の反論)
(1) 国家石油備蓄基地について
 本件施設は国家石油備蓄基地から約4キロメートルもの距離があるので,類焼の
影響はない。このことは,例えば,青森県石油コンビナート等防災本部が作成した
「青森県石油コンビナート等防災計画」(昭和52年3月)によると,仮に,上記
石油備蓄基地の最大容量タンクからの原油の流出・防油堤内全面火災を想定して
も,そのふく射熱による影響(木材等の有機物が有炎火の粉があるときの引火の限
界値)が及ぶ範囲は380メートルと予測されていることからも明らかである。
 本件敷地と石油備蓄基地との距離は最短で2.3キロメートルであるとの原告ら
の主張は,敷地境界と石油備蓄基地との最短距離を指しているものと思われるが,
基地での火災の影響を考える際に敷地境界との距離は意味がない。
(2) 人口分布状況について
 本件安全審査においては,加工施設指針3に従って,平常時はもとより,最大想
定事故の場合であっても,一般公衆の被曝線量は極めて小さく,立地条件を満たし
ていることを確認している。
(3) 集中立地の危険性について
 本件許可処分の時点において本件施設周辺に建設が計画されている再処理工場等
の他の原子力施設については,それぞれの施設について規制法に基づいた安全審査
が別個に行われ,当該施設の十分な事故防止対策が講じられていることが確認され
ることとなる。
 また,平常時の一般公衆の放射線被曝については,後続の原子力施設の安全審査
において本件施設との重畳をも考慮すれば足りるのであって,本件安全審査で計画
段階の他の原子力施設の影響を考慮する必要はない。
(4) 航空交通について
(ア) 飛行規制
 本件施設を含む原子力施設付近上空の航空機の飛行規制については,次のような
仕組みでその周知が図られ,飛行規制が遵守されることとなっており,本件安全審
査においては,これらの航空機の飛行に係る法的規制等を踏まえ,三沢空港等の本
件施設との距離も勘案して,航空機が本件施設に墜落する可能性は極めて小さいと
判断したのであり,この判断は合理性を有するものといえる。
(a) 自衛隊機を含む我が国の航空機
 自衛隊機を含む我が国の航空機については,航空法99条に基づき,運輸大臣よ
り航空機乗組員に対して提供される情報(航空情報)の一つとして,運輸省が発行
する「航空路誌」(AIP)に,「航空機による原子力施設に対する災害を防止す
るため,下記の施設付近の上空の飛行は,できる限り避けること。」との指導事項
及び原子力施設の位置等が掲載,公示されることにより,航空機乗組員に対して原
子力施設付近上空の飛行規制が周知される。そして,機長は,これら原子力施設付
近上空の飛行規制の情報を含む,航空法99条により運輸大臣が提供する情報(航
空情報)を確認した後でなければ,航空機を出発させてはならず(73条の2,航
空法施行規則164条の16第1項3号),また,機長が航空情報を確認せずに航
空機を出発させた場合は5万円以下の罰金に処せられることとされている(航空法
153条1項1号)。さらに,上記のほか,自衛隊機については防衛庁が発行する
「航空路図誌」により,重ねて原子力施設付近上空の飛行規制について自衛隊員に
対し周知徹底が図られることとなっている。
(b) 米軍機
 米軍機については上記の航空法等の規定は適用されないものの,一般国際法上,
ある国の軍隊は他国に駐留する場合において,駐留国における公共の安全に妥当な
考慮を払って活動すべきものであるとされている上,従来より政府から米軍に対し
て「航空路誌」に係る情報が事実上提供されるとともに(米軍が発行する「FLI
GHT INFORMATION PUBLICATION」に掲載される。),
原子力施設付近上空の飛行規制について徹底するよう要請してきている。そして,
この点について,昭和63年6月30日に開催された日米合同委員会において,米
国側代表より,「原子力施設付近の上空の飛行については在日米軍としては従来よ
り日本側の規則を遵守してきたが,…改めて在日米軍内に上記を徹底するよう措置
する」との回答を得ている。
 なお,本件許可処分後であるが,本件施設が平成3年2月25日付けの「航空路
誌」に掲載され,公示されたことを受けて,同年3月14日に開催された日米合同
委員会において,改めて政府から本件施設を含む核燃料サイクル施設に係る付近上
空の飛行規制について米軍において徹底を図るべき旨を申し入れている。また,F
16による実爆弾投棄事件(平成3年11月8日)の後の平成3年11月20日に
開催された日米合同委員会においても同様の申入れを行っており,これらの申入れ
に対しても,米国側は,今後とも在日米軍内に上記の飛行規制を徹底させる旨繰り
返し回答している。
 これらの飛行規制は飛行禁止等の絶対的な飛行規制ではないが,米軍機及び自衛
隊機を含めこれまで実際上遵守されてきている。
(c) その他
 上記に述べた原子力施設付近上空の飛行規制のほかにも,運輸省通達により,運
輸省令で定める最低安全高度以下の高度での飛行を許可する航空法81条ただし書
に定められた許可は原子力施設付近の上空については行わないこととされ,また,
航空機の姿勢を頻繁に変更する飛行等を許可する航空法92条1項3号ただし書に
定められた許可は本件施設を中心とする半径2海里の空域のうち対地2000フィ
ート以下の空域では行わないよう運用されているなど,航空機による原子力施設に
対する災害を防止するため各種の措置が講じられている。
(イ) 本件施設上空の飛行状況
 原告らの主張に係る調査は射爆撃訓練のために航空機が訓練コースを周回する回
数を観測した結果であって,同事務所ないし本件施設の真上に航空機が飛来した回
数を観測したものではない。また,墜落の確率が約20年に1回であるとの原告ら
の計算は何ら根拠のないものである。
(ウ) 墜落事故発生の危険性
 航空機が本件施設に墜落する可能性は極めて小さく,また三沢対地訓練区域で訓
練中の航空機が万一本件施設の安全上重要な施設に墜落したとしても,放射性物質
による一般公衆への被曝による影響は小さいため,本件施設の立地条件に問題はな
い。
(5) 墜落事故評価の問題点について
(ア) 想定事故の評価条件
(a) 想定対象
 本件安全審査において,航空機が本件施設に墜落する可能性は極めて小さいと判
断したことは,航空交通に関して既に述べたとおりであるが,さらに念のため,万
一航空機が本件施設へ墜落した場合の影響を確認したのは,本件施設の南方向約1
0キロメートル離れた場所に米軍及び防衛庁の航空機の訓練区域があり,同区域で
射爆撃訓練が実施されていたこと,及び同区域での射爆撃訓練のために航空機が訓
練コースを周回する回数が比較的多数回であったことによるものである。
 これに対して,三沢対地訓練区域で訓練を実施している航空機以外の航空機につ
いては,その飛行区域の本件施設との距離を含む位置関係及び三沢基地におけるそ
の離発着方向などからして,本件施設への万一の墜落という事態を想定するだけの
基礎事実が存しないと考えられることから,本件施設への万一の墜落を想定しなか
ったにすぎない。
 また,本件施設の付近上空は飛行規制がされていること,本件施設の上空は訓練
コースから離れていること,また模擬弾や外部燃料タンク等の落下物は推進力を持
たないことから,本件施設への模擬弾等の誤落下については想定する必要がない。
(b) 爆弾の搭載
 原告らの主張に係る事件とは,沖縄県の鳥島射爆撃場での実弾訓練を目的として
三沢基地を飛び立った米軍機が不調を来したため,付近海上に漁船等船舶がないこ
とを確認した上で,安全確保のため起爆装置が作動しない形で海上へ実爆弾を投棄
したというものである。そして,同機は三沢対地訓練区域での訓練を目的としたも
のではないため,本件施設への万一の墜落を想定する必要はないから,上記事実
は,三沢対地訓練区域で訓練を実施している航空機以外の航空機を考慮の対象外と
した本件安全審査の適法性を左右するものではない。
 また,本件安全審査で万一の墜落を想定した三沢対地訓練区域での訓練機のう
ち,自衛隊機については模擬弾を使用しており,米軍機についても,日米合同委員
会において三沢対地訓練区域での射爆撃訓練で使用される爆薬等の種類が決められ
ており,その中に実爆弾が含まれていないことが確認されている。したがって,本
件安全審査において万一の墜落を想定した訓練機につき,実爆弾を搭載していない
ものとしたことは十分合理的なものである。
(イ) 発回均質棟の安全性
 本件安全審査における航空機の墜落事故の評価においては,前記のとおり,技術
的合理性の観点を考慮し,可能性の高い条件を,また不確定なものについては安全
余裕を見込んだ条件を選択して評価している。
 また,約90センチメートルの屋根・壁厚を有する鉄筋コンクリート構造となっ
ている発回均質棟は,仮に航空機が衝突したとしてもその健全性が確保されること
も前記のとおりであって,その条件の設定は,十分な根拠を有する。
(ウ) 六フッ化ウランの漏洩量と被曝線量
 ウラン貯蔵庫への航空機墜落事故の際の貯蔵されている六フッ化ウランの漏洩量
の評価に当たって,技術的合理性を有する条件に安全余裕を見込んでウランの漏洩
量を評価し,0.3キュリーとしたこと,及び上記事故により想定される一般公衆
の被曝線量0.06レムが健康に障害をもたらすことはないことは,前記のとおり
である。
 また,フッ化水素は,原子力利用以外の分野でも広く使用されている非放射性の
物質であり,その影響の問題は原子力施設固有の問題ではないので,規制法に基づ
く本件安全審査の対象とはならない。
(エ) 航空機墜落実験
 航空機事故に係る本件安全審査においては,申請者である原燃産業が設定した航
空機墜落に係る評価条件及び評価結果が妥当なものであるかどうかを,原燃産業が
行った実験結果や公表されている研究成果等に基づいて審査するのであって,内閣
総理大臣が独自に実験を行わなければならないものではないから,実験を実施して
いないことが本件許可処分を違法とするものではない。そして,原告らが指摘する
航空機衝突実験は,本件安全審査においては用いていない。
 ちなみに,原燃産業は,万一の航空機墜落時における本件施設の安全性を評価す
るために,前述のとおり,航空機衝突時の鉄筋コンクリート構造部の貫通限界厚さ
の評価において,公表されている研究成果であるDegen式を用いる際に衝突実
験を実施し,その結果に基づき飛来物の特性から貫通限界厚さの低減効果を考慮し
ている。
 また,原告ら指摘の「確証試験」とは,平成2年度から行われている本件施設等
に関する安全性実証試験を指すものと思われるが,これは,本件安全審査において
本件施設の安全性を確認するために行われたものではなく,地元住民の理解を深め
るために,実際の試験により安全性を実証することを目的とするものであり,原子
力発電所等についても,これまで同様の趣旨から種々の安全性実証試験が行われて
きている。
第3 加工施設自体の安全性確保対策
1 地震に対する考慮
(被告の主張)
 ウラン加工施設における安全上重要な施設は,加工施設指針13において,その
重要度により耐震設計上の区分がされるとともに,敷地及びその周辺地域における
過去の記録,現地調査等を参照して最も適切と考えられる設計地震力に十分耐える
設計であることとされており,具体的には,(a)本件施設の建物・構築物及び設
備・機器がそれぞれの重要度に応じ適切に分類されているか,(b)加工施設指針
が示す耐震設計に関する基本的な方針を満足する設計を行うこととしているか,
(c)上記各分類のうちの設備・機器の第1類,第2類及び第3類並びに建物・構
築物の第1類及び第2類については,建築基準法施行令88条から定まる最小地震
力に安全のための割増係数を適切に乗じた設計地震力を用いることとしているか,
などが審査される。
 本件安全審査においては,この加工施設指針13に基づき,本件施設の耐震設計
に係る基本設計ないし基本的設計方針によって耐震安全性が確保できることを確認
した。
(1) 耐震設計上の重要度分類
 本件施設の安全上重要な設備・機器及び建物・構築物は,加工施設指針13に従
い,地震により発生する可能性のあるウランによる環境への影響の観点から,その
耐震設計上の重要度が,以下のとおりそれぞれ第1類,第2類及び第3類に分類さ
れ,所要の耐震設計を行うこととなっている。
ア 設備・機器
(ア) 第1類の設備・機器とは,「非密封ウランを取扱う設備・機器及び非密封
ウランを閉じ込めるための設備・機器並びに臨界安全上の核的制限値を有する設
備・機器及びその制限値を維持するための設備・機器であつて,その機能を失うこ
とによる影響,効果の大きいもの」であり,本件施設においては,六フッ化ウラン
処理設備のうち発生槽,製品回収槽,廃品回収槽及び製品コールドトラップ等,均
質・ブレンディング設備のうち均質槽,製品シリンダ槽及び原料シリンダ槽等並び
に貯蔵設備のうちシリンダ置台がこれに当たる。
(イ) 第2類の設備・機器とは,「非密封ウランを取扱う設備・機器及び非密封
ウランを閉じ込めるための設備・機器並びに臨界安全上の核的制限値を有する設
備・機器及びその制限値を維持するための設備・機器であつて,その機能を失うこ
とによる,影響,効果が小さいもの及び化学的制限値又は熱的制限値を有する設
備・機器」であり,本件施設においては,カスケード設備,六フッ化ウラン処理設
備のうち捕集排気系ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)(六フッ化ウランを吸
着する性質を有する吸着剤であるフッ化ナトリウムにより六フッ化ウランガスを補
修する機器)等,均質・ブレンディング設備のうち均質パージ系コールドトラップ
(均質ブレンディング設備のコールドトラップ)等,管理廃水処理設備,排気設備
並びに非常用設備のうちディーゼル発電機及び放射線監視設備がこれに当たる。
(ウ) 第3類の設備・機器とは,「第1類,第2類以外のもの」である。
イ 建物・構築物
(ア) 第1類の建物・構築物とは,「第1類の設備・機器を収納する建物・構築
物」であり,本件施設においては,発回均質棟及びウラン貯蔵庫がこれに当たる。
(イ) 第2類の建物・構築物とは,「第2類の設備・機器を収納する建物・構築
物」であり,本件施設においては,中央操作棟,カスケード棟,搬出入棟,ウラン
濃縮廃棄物建屋及び補助建屋がこれに当たる。
(ウ) 第3類の建物・構築物とは,「第1類,第2類以外のもの」である。
(2) 耐震設計に関する基本方針
 本件施設の建物・構築物及び設備・機器の耐震設計は,加工施設指針13に基づ
き,(a)耐震設計は,原則として静的設計法(地震時に作用する最大の力が常時
作用し続けるとした場合の外力である静的地震力に耐えるようにする耐震設計方
法)によること,(b)耐震設計上の重要度の分類において,上位の分類に属する
ものは,下位の分類に属するものの破損によって波及的破損が生じないこと,
(c)上位の分類の建物・構築物と構造的に一体に設計することが必要な場合に
は,上位分類の設計法によること,(d)設備・機器の設計に当たっては剛構造
(外力を受けた場合の変形の程度が小さい構築物を指す。)となることを基本と
し,それが困難な場合には動的解析(地震の際に構築物等そのものも地震動に応じ
て振動することを前提として振動状態の計算を行い,その構築物等に作用する地震
力を求める方法)等適切な方法により設計すること,という耐震設計の基本方針を
満足することになっている。
 また,隣接する各建物間は,エキスパンションジョイントを介して接続し,耐震
設計上独立した構造とすることとなっている。
(3) 本件施設の耐震設計法
本件施設の耐震設計法は,加工施設指針13に従い,次のような耐震設計法となっ
ている。
ア 建物・構築物の耐震設計法
 建物・構築物の耐震設計法については,各類とも原則として静的設計法を基本と
し,建築基準法等関係法令によることとなっている。
 第1類及び第2類の建物・構築物については,それぞれ耐震設計上の静的地震力
として,建築基準法施行令88条から定まる最小地震力に割増係数(本件施設で
は,第1類が1.3,第2類が1.1)を乗じたものを用いることとなっている。
イ 設備・機器の耐震設計法
 設備・機器の耐震設計法については,原則として静的設計法を基本とすることと
なっている。
 設備・機器については,まず,重要度分類の各類ともに一次設計を行い,更に第
1類の設備・機器については二次設計を行うこととなっている。
ウ その他
 このほか,本件施設は,敷地及びその周辺地域の自然環境の調査をもとに,台
風,積雪等予想される自然力に対して十分耐える設計となっている。
(原告らの主張)
(1) 本件許可申請書の内容
 加工施設指針13「地震に対する考慮」は,施設を重要度により耐震設計上の区
分を行うこと,敷地及びその周辺地域における過去の記録,現地調査などを参照し
て,最も適切と考えられる設計地震力に十分耐える設計であること,の2要件を示
している。ところが本件許可申請書は,設備・機器及び建物・構築物のそれぞれに
ついて耐震設計上の区分を行ってはいるが,各種建物図面,設備・機器の各種図面
など,設計地震力に十分耐えられる設計であることを示し,今回の計画の耐震設計
の内容を判断するのに必要な具体的な内容は何ら提示していない。
 本件許可申請書における「地震に対する考慮」は,総じていえば,本件事業内容
に則した具体的なものではなく,加工施設指針13の文面をそのまま引き写したと
いってよい内容であって,単に指針13に従って耐震性を確保するよう努力するこ
とを約するにすぎない。
(2) 割増係数の定め方
 加工施設指針13は,設備・機器及び建物・構築物それぞれに対して三つの分類
を行うことを定めた上,この各分類につき,「敷地及び周辺地域における過去の記
録,現地調査などを参照して最も適切と考えられる設計地震力」を定めることを求
めている。さらに,加工施設指針は,この設計地震力について,一般建築物に関す
る建築基準法施行令所定の設計地震力値に割増係数を乗じて算出することを求め,
同時に割増係数の下限値を示している。
 このように,指針13が割増係数の下限値のみを示しているのは,ウラン加工施
設が放射性物質を扱う特殊な施設であり,一般の建物とは比べものにならない高度
な安全性を要求されるものであるために,設計に用いる地震力の設定に当たって
は,建築基準法施行令に定める地震力をそのまま採用するのではなく,申請者に施
設敷地の固有の条件を精密に調査させ,それらの結果を十分に参照させた上で値を
決めさせることが必要であるという考えが基本にあるからといえる。殊に,ウラン
加工施設は,動的設計が義務づけられている原子力発電所や再処理施設の耐震設計
と異なり原則として静的設計が認められており,一般の建築物との相違は設計地震
力の算出に当たり割増係数を乗じる点のみであって,しかも一般の中規模建物に義
務づけられている大地震時を想定した二次の耐震設計は課せられていない。このよ
うな加工施設指針13の弱点を補う意味からも,割増係数を定めるに当たっては,
地震について精密な検討を行うことが一層大切である。したがって,申請者は,割
増係数を定めるに当たり,加工施設指針13に従い敷地及びその周辺地域における
過去の地震記録調査,現地の地盤調査などを精密に実施し,それらの結果を十分参
照する必要がある。
 ところが,本件許可申請書は,加工施設指針13で示された下限値を割増係数と
して採用しているものの,掲げられた関連資料から割増係数を算定するまでの判断
過程を一切示しておらず,建築物の振動特性を特定するための資料(例えば建築物
の各種図面,固有周期などの動特性値)や,敷地周辺は過去に最高どの程度の地震
動を受けたのか,どのような地盤被害が観察されたのかといった設計地震力を推定
するために必要不可欠な敷地固有の地震データも欠けている。これでは,申請者が
地盤条件をどのように考慮したのか,算定する地震力が適切かどうかは判断でき
ず,まして地震力に対して安全性が確保できるという結論は引き出せない。
(3) 建物内部の設備・器機に対する地震の影響
 安全審査書は,建屋自体の倒損壊による影響だけを評価し,建物内部の設備・機
器に対する地震の影響を考慮していない点においても不十分である。特に,ウラン
貯蔵庫内の3種類のシリンダーは,仕切壁もないまま密集して配置されており,地
震の振動で接触したり重なり合ったりして破損し,六フッ化ウランが漏洩する危険
性がある。
(4) 他の施設の耐震設計との比較
 発電用原子炉施設や使用済み核燃料再処理施設の耐震設計では,設計用地震とし
て設計用最強地震及び設計用限界地震という2種類の地震を考え,それぞれの地震
に対応した設計地震力の数値を定めることになっているが,本件施設の耐震設計で
は,そのような2種類の地震に対応した設計地震力が考慮されていない。
(5) 三陸はるか沖地震と阪神大震災が科学技術に与えた警鐘
ア 核燃の立地要請から約10年の間,青森県に影響を与えた地震の回数は,実
に,有感143回及び無感1222回の合計1365回と多数回に及ぶ。その中で
も最大のものは,前記のとおり平成6年12月28日の「三陸はるか沖地震」(マ
グニチュード7.5,震度6,震源は八戸沿岸から約200キロメートルの日本海
溝の内側)と,その最大余震(マグニチュード6.9,震度5,震源は八戸沿岸か
ら約80キロメートル沖合)で,人的被害は,死者3名及び負傷者283名,損害
家屋は266棟,被害総額は約677億円にのぼった。
 この地震で,むつ小川原港の放射性廃棄物荷揚岸壁のコンクリート舗装の路面が
長さ約50メートルにわたり数センチメートル陥没したことが判明しているが,操
業中の本件施設に対する影響は定かでない。しかし,「三陸はるか沖地震」が六ヶ
所村を直撃した場合には,本件施設の建造物と機器類に対しかなり大規模な被害が
発生したであろうことは想像に難くない。
イ そして,平成7年1月17日「兵庫県南部地震」(阪神大震災)が発生した。
活断層のずれによる直下型地震(マグニチュード7.2,震度6ないし7)であ
る。
 その被害実態は人知を超え,現代文明と科学技術に対する自然の警鐘ともいうべ
きもので,これによって,これまでの日本の建築技術における楽観主義は批判さ
れ,今では,耐震設計基準の見直しが声高く叫ばれ,科学万能主義と過信を戒める
反省が専門家の中から上がっている。
ウ 上記のような動きは,一般建築物に限らず,原子力発電所等の原子力施設に対
しても深刻な課題を投げ掛けているが,特に原告らが憂慮するのは,阪神大震災の
震源が活断層であったという点と,建築基準法に適合していた建造物がかくももろ
く倒壊したという冷厳な事実である。
 本件安全審査では,マグニチュード8.2までに耐えられるよう設計されている
とされるが,これはあくまで机上の計算にすぎず,その影響を正確に予測できない
ことは今回の地震が如実に証明している。今回の一連の地震は,専門家と称する人
たちが,これなら大丈夫と定めた指針をことごとく打ち砕いた。
 これらの地震は,はかり知れない人的,物的な犠牲をもたらしたが,その一方
で,我々に六ヶ所村核燃施設の稼働・建設の中止と,改めて安全審査をやり直す必
要性を教示してくれた。
(6) ロッキング現象への対策
 軟弱地盤の上に重量のある建物を建てると,しばしばロッキング現象(建物が上
下方向に回転する現象)が発生する。本件施設の建屋の屋根スラブや壁は厚く補強
されており,建物自体は重量が増え,重心も比較的上の方に上がることになる。こ
のような建物を,地下水を豊富に含み軟弱である地盤に建設すれば,地震時にロッ
キング現象を起こす可能性が高い。特に,製品貯蔵庫は間仕切壁もない広い空間な
ので,他の空間に比べて“柔(やわ)”で重心位置も高い。製品シリンダは,移動
可能なように簡単にしか固定していないので,地震時にロッキングのために転がり
だし,衝突して破損する危険性がある。
(7) 本件施設の耐震設計上の問題
 本件施設は,静的解析によって設計されているが,これは,今日予測される地震
の規模との関係で不十分な設計方法であり,本件施設の安全性を確保したことには
ならない。近時の耐震設計では,単純に地震の最大加速度を固定化し,その大小を
基礎として建物への影響を考える(静的設計)のではなく,建物や設備の固有周期
に近い領域の加速度による影響(共振)が大きいことから,建物や設備の固有周期
を踏まえ地震力を時刻歴に対応させて建物などの安全性を評価する(動的設計)必
要があるとされている。
 しかし,本件安全審査においては,想定した地震力に対して本件施設の建物や設
備の固有周期に応じた時刻歴の評価,解析を行っていない。
(8) 静的設計による結果に対する審査の不備
 前述のとおり,本件施設の耐震設計が静的設計によっていることは,近時の耐震
設計の考え方からは不十分というべきであるが,仮にこれを認めるとしても,本件
施設の耐震設計に対する安全審査においては,発回均質棟,ウラン貯蔵庫,カスケ
ード棟,第1類に分類される設備や機器(例えばシリンダ置台,遠心分離機)など
本件施設の主要な建物や設備の固有周期,建物の振動特性について,具体的な審査
を行っていない。
 したがって,本件安全審査には,静的設計の内容の審査,検討が行われなかった
不備がある。
(9) エキスパンションジョイント
 エキスパンションジョイントとは,各建物を物理的に分離しておくことよって,
地震により相互に影響を及ぼし合わないようにする接続方法の接続部分をいうとこ
ろ,本件施設の建物相互は,エキスパンションジョイントで接続されているものが
あるが,エキスパンションジョイントは固有周期を異にする建物の接続方法であ
り,これを誤れば地震時に建物の破損をもたらす危険があるのに,その妥当性を審
査しなかったのは,本件安全審査の重大な誤りである。
(被告の反論)
(1) 本件許可申請書の内容について
 本件許可申請書及びその添付書類には,本件施設の各設備・機器及び各建物・構
築物ごとに耐震設計上の重要度分類が定められているとともに,割増係数について
も数値が具体的に定められているなど,本件施設固有の耐震設計に係る基本設計な
いし基本的設計方針を審査する上で,必要にして十分な内容が記載されている。
 本件施設の耐震設計に係る安全審査においては,その基本設計ないし基本的設計
方針において安全性が確認されれば足りるのであるから,原告らの主張に係る建築
物の振動特性を表す値,具体的な設計地震力の値ないしそれらを求める計算過程な
どは,本件安全審査の対象とはならない。
 ちなみに,これらは,本件施設の耐震設計に係る詳細設計に属する事項であるた
め,本件施設の設計及び工事の方法の認可(規制法16条の2)の際に審査される
事項である。
(2) 割増係数の定め方について
 上記に述べたとおり,本件施設の耐震設計に係る安全審査においては,その基本
設計ないし基本的設計方針において安全性が確認されれば足りるのであるから,原
告らの主張に係る建築物の振動特性を表す値,具体的な設計地震力の値ないしそれ
らを求める計算過程などは,本件安全審査の対象とはならない。
 また,加工施設指針13によれば,「最も適切と考えられる設計地震力」の設定
に当たっては,敷地及びその周辺地域における過去の地震の記録等を参照すること
とされている。本件施設についても,加工施設指針に従い「最も適切と考えられる
設計地震力」を設定する際に,指針において乗じることが要求されている割増係数
の決定について,本件施設の敷地及びその周辺地域における過去の地震の記録を参
照した上で,どの程度の割増係数を乗じることが本件施設の安全確保のために必要
であるかが審査されることとなる。このような観点から,本件施設の敷地及びその
周辺地域における過去の地震の記録等をみると,前述のとおり,過去の地震による
敷地での影響度は最大でも震度5程度であり,これは,建築基準法施行令88条が
定める地震力を用いていわゆる一次設計を施すことにより建築物の機能が保持され
る程度の地震動であることから,本件施設の耐震設計について,同条によって定め
られる最小地震力に加工施設指針13で定める割増係数の下限値を乗じて設計地震
力とすることは,その基本設計ないし基本的設計方針において,安全確保の目的を
達する上で妥当なものであると判断した。
 このように,本件許可申請書及びその添付書類から施設の耐震設計の安全性を判
断することができ,また,上記判断過程及びその結論には何らの過誤も存しない。
 なお,建築物の振動特性を表す値,具体的な設計地震力の値ないしそれらを求め
る計算過程などが,本件施設の耐震設計に係る詳細設計に属する事項であることは
前記のとおりである。
(3) 建物内部の設備・器機に対する地震の影響について
 加工施設指針13は,設備・機器の耐震設計について,第1類ないし第3類のす
べての設備・機器に対し一次設計を施すこととしており,これに加えて,第1類に
分類される設備・機器については二次設計を行うこととしており,本件安全審査に
おいても,加工施設指針13に基づき,原告ら主張に係る建屋内部の設備・機器に
ついて,上記設計が行われることを確認することにより,地震の影響を考慮してい
る。
(4) 他の施設の耐震設計との比較について
 そもそも,原子力施設においてどのような耐震設計を施すべきであるかというこ
とは,当該施設の有する特質に応じて,その施設の安全確保の観点から合目的的に
決せられるべきものであって,原子炉施設の耐震設計においては,その内蔵するエ
ネルギー及び放射能量が大量であることにかんがみて,「発電用原子炉施設に関す
る耐震設計審査指針」において,耐震設計上の重要度分類Aクラスの施設について
は,設計用最強地震による地震力又は同指針で定める静的地震力のいずれか大きい
方の地震力に対しても耐えることとされ,さらに,Aクラスのうち特に重要と考え
られる施設をAsクラスとして,設計用限界地震による地震力に対しても安全機能
が保持できることとされている。これは,再処理施設についても同様である。
 これに対し,本件施設を含むウラン加工施設は,その内蔵するエネルギーが小さ
く,また,臨界状態での核分裂反応を制御する必要性もない。したがって,原子炉
施設ないし再処理施設と同等の耐震設計をウラン加工施設に求める必要はなく,加
工施設指針は,上記に述べた施設の特質を踏まえ,ウラン加工施設の安全確保のた
めに必要とする耐震設計について規定しているのであり,本件施設においても,加
工施設指針所定の耐震設計を採用することにより十分にその安全確保の目的を達す
ることができる。
(5) 兵庫県南部地震(阪神大震災)に係る主張について
 原告らは,兵庫県南部地震の発生を理由に本件施設の耐震設計を見直す必要があ
る旨主張する。
 しかしながら,本件施設の耐震設計においては,建築基準法に基づき静的設計方
法により設計を行っているところ,阪神大震災で倒壊した高速道路等とは異なった
設計手法が採用されている。このような設計方法及びその背景にある条件が大きく
異なることを無視して,両者を単純に比較することは耐震工学上全く無意味であ
り,原告らのいうところはそもそも前提において当を得ない。
 また,建設省の建設技術審査委員会の特別委員会である平成7年阪神・淡路大震
災建築震災調査委員会においても,兵庫県南部地震における建築物被害を踏まえた
設計用地震力の評価を検討しており,現行の設計用地震力のレベルを緊急に変更す
る必要性は低いと判断しているのである。
 したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。
2 火災・爆発等に対する考慮
(被告の主張)
 ウラン加工施設における火災・爆発に対する考慮に係る安全審査においては,加
工施設指針15に従い,(a)ウラン加工施設の建屋は,建築基準法等関係法令で
定める耐火構造又は不燃性材料で造られたものであるかどうか,設備・機器は実用
上可能な限り不燃性又は難燃性材料を使用する設計であるかどうか,(b)施設に
おいて可燃性,爆発性の物質を使用する場合において適切な対策が講じられている
かどうか,(c)万一火災・爆発が発生した場合にも適切な拡大防止対策が講じら
れているかどうかを審査するものである。
 本件安全審査では,本件施設において,上記の点につき,(a)建物は建築基準
法の耐火建築物又は簡易耐火建築物とされ,(b)設備・機器は,実用上可能な限
り不燃性又は難燃性材料を使用する設計とされ,(c)主工程においては,可燃性
の物質又は爆発性のガス等を使用しないこと,を確認しており,火災爆発のおそれ
はないことのほか,万一の場合を考慮して,防火区画を設定するとともに消火設
備,自動火災報知設備等を設置し,火災が拡大しないような対策が講じられている
ことを確認した。
(原告らの主張)
(1) 防火対策及び火災の拡大防止対策
 本件許可申請書は,加工施設指針15の記載内容をそのまま繰り返し,設備・機
器の材料について,不燃性又は難燃性材料を主として使用するとするのみであっ
て,具体的にどのような材料を用いるかを明らかにしておらず,本件施設が真に加
工施設指針15にそうものであるかどうかは確認できない。
 また,本件許可申請書は,本件施設内での火災の発生可能性を極めて少ない等と
した上,火災の拡大防止対策としては消防法や建築基準法に基づく機器(自動火災
報知設備,消火栓,消火器等)の設置と防火区画の設定を掲げているのみで,その
具体的な種類や個数,配置,設定場所等を全く記載せず,何らの考慮も払っていな
い。
(2) 可燃性・爆発性物質対策
 本件許可申請書は,施設内の爆発防止対策や施設外の爆発等の拡大防止対策を不
要とし,何らの考慮も払っていない。
 本件許可申請書では,可燃性・爆発性の物質に関する火災・爆発対策として,
「分析室等でアセトン等を使用するが,取扱量を制限するとともに,これらの保管
は本施設の倉庫内危険物貯蔵エリア等で行う」とのみ記載し,使用される可燃性・
爆発性物質の種類,使用場所,保管場所はいずれも特定されていない。
 加えて,例示されているアセトンは,消防法に定める危険物であり,その貯蔵,
取扱いが規制されている引火性液体(第1石油類)でもあって,条件次第では引火
爆発の危険がある。そして,その使用場所である分析室は,内閣総理大臣が本件施
設の最大想定事故の発生場所として想定した場所である均質室の隣に位置し,分析
室前の廊下には六フッ化ウランのシリンダを発生回収室等に運搬する運搬台車専用
レールが走っているという,本件施設内で可燃性・爆発性物質を使用する場合に最
も危険な部類に属する場所で使用することが明言されている。にもかかわらず,本
件許可申請書では,事故防止対策の内容を一切記載していない。また,アセトンの
爆発の発火源となりやすいのは静電気スパークと電気火花であるが,本件施設には
電気系統の設計・施工に重大な欠陥があり,現に平成4年6月17日には放電によ
る火花が発生する事故が発生しているのであり,通常の施設より発火源が容易に発
生するといわざるを得ない。
(3) 消火法
 六フッ化ウランを取り扱う設備・機器ないしその周辺で火災が発生した場合に
は,臨界やフッ化水素発生の危険を避けるため,化学的な消防法を採る必要があ
り,しかも,消火剤としては減速材となり得るものや六フッ化ウランとよく反応す
る薬品を避けて選択する必要がある。しかし,本件許可申請書及び添付書類におい
ては,消火設備として単に「消火栓,消火器等」とするだけで,上記の考慮をした
形跡がない。
(4) 航空機墜落時の消火対策
 ウラン貯蔵建屋に貯蔵される製品シリンダ(最大55本,ウラン量85トン),
原料シリンダ(最大60本,ウラン量510トン),廃品シリンダ(最大210
本,ウラン量1810トン)の間には,防火区画は設けられておらず,仕切壁もな
い状態で密集して配置されている。したがって,これらのシリンダは,航空機事故
により一部が直接破壊されると,その余のものも飛び散った機体本体や建屋の破片
により間接的に破損する危険がある。
 また,破損しなかったシリンダも燃料油火災により著しく加熱されることにな
り,その温度はシリンダの設計温度である摂氏121度をはるかに超えることが予
測され,その場合,シリンダ内の六フッ化ウランは気化し,その圧力でシリンダが
破裂し,六フッ化ウランが漏洩する。
 このような事態を防止するために,本件安全審査では,航空機墜落の場合に,い
かなる消火剤によりどれくらいの時間で消火可能なのか,その間シリンダの温度は
どう変化し何本破損するのか,消火剤はどれだけ備蓄されているのか,という点を
審査することが不可欠であるが,これらの点の審査がされた形跡はない。なお,こ
の点に関し,検証の結果では,火災発生時の消火対策に関し,貯蔵庫内に設置され
ている「大小合わせて合計53本の二酸化炭素消火器で対処することになってい
る」と説明されているが,小規模の火災ならいざ知らず,貯蔵庫全体が炎上した場
合には人力による対応は不可能である。
(5) 被告の主張について
 被告は,これらはすべて安全審査の対象となる事項ではないと主張するが,本件
許可申請書の記載のみでは,本件施設で採用された拡大防止対策の適否や爆発の拡
大防止対策が不要であるか否かを判断することは不可能である。また,被告は,本
訴においていまだ基本設計の定義と範囲の判断基準を明らかに主張しないまま,原
告らの主張に答えられなくなると,特段の法的根拠も客観的基準もなく,恣意的
に,原告らから指摘きれて回答できないところを「設計及び工事の方法の認可の際
の審査事項」としているにすぎない。
 また,被告は,本件訴訟の審理対象は基本設計に限定されると主張し,原告らの
主張のうち被告が「基本設計でない」と勝手に決めた部分については審理の対象外
として認否すらしていない。しかるに,被告の訴訟態度は,例えば消火器の種類に
ついて,これを基本設計に属さないとしながら,他方では「本件施設内の六フッ化
ウランを取り扱う箇所では二酸化炭素消火設備による消火をする」と主張している
ように,被告に不利な場合には基本設計以外の部分は審理対象外であるとしなが
ら,被告側で安全性を主張する場合はこれを持ち出して主張するという,恣意的な
ものである。
(被告の反論)
(1) 防火対策及び火災の拡大防止対策について
 本件許可申請書添付書類には,本件施設における火災・爆発に対する考慮に係る
上記基本設計ないし基本的設計方針を審査する上で十分な内容の事項が記載されて
おり,本件安全審査も,上記記載に基づいてされ,上記対策により火災・爆発に対
する安全性が確保されることを確認している。
 また,設計及び工事の方法の認可申請に当たっては,当該申請に係る設計及び工
事の方法が加工施設技術基準に適合していることを説明した書類を添付しなければ
ならないこととされており(加工事業規則3条の2第2項),消火設備等について
もそれが設置される場合には消火設備等に関する設計及び工事の方法が加工施設技
術基準に適合していることについての説明書を添付することを要するものであると
ころ,加工施設技術基準では,火災等による損傷の防止について,「加工施設が火
災の影響を受けることにより加工施設の安全に著しい支障が生じるおそれがある場
合は,必要に応じて消火設備及び警報設備(中略)を施設しなければならない。」
との基準が定められている(4条1項)。このことからも明らかなとおり,原告ら
が本件許可申請書に具体的に記載されていないとする設備・機器の材料,消火栓・
消火器の種類・個数・配置,防火区画の設定場所等の事項は,いずれも本件安全審
査の対象となる事項ではなく,規制法16条の2の設計及び工事の方法の認可の際
に審査されるものである。
(2) 可燃性・爆発性物質対策について
 危険物については,本件許可申請において,ウラン濃縮建屋などから離れた倉庫
等において保管されることとされており,分析室等でアセトン等を使用する場合に
もその取扱量を制限することとされているところ(本件許可申請書添付書類5―2
3参照),本件安全審査においては,上記申請内容は火災・爆発に対する考慮に係
る基本設計ないし基本的設計方針において妥当なものであると判断した。
(3) 消火法について
 本件安全審査においては,火災・爆発のおそれはないが,万一の場合を考慮して
適切に消火設備等を設けることとしていることを確認している。
 そして,具体的にどのような設備を設けるかは,上記に述べたように,設計及び
工事の方法の認可の際に審査されることになっている。
 なお,本件施設では,六フッ化ウランを取り扱う設備・機器は漏洩し難い構造と
されているが,念のため六フッ化ウランを取り扱う箇所においては,二酸化炭素消
火設備による消火をすることとしている。
(4) 航空機墜落時の消火対策について
 本件安全審査においては,前記のとおり,ウラン貯蔵庫への航空機墜落事故の際
の貯蔵されている六フッ化ウランの漏洩量の評価として,技術的合理性を有する条
件に,F16の機内燃料油全量が火災に寄与するなど安全余裕を見込んでウランの
漏洩量を評価しても,建屋外へのウランの漏洩量は0.3キュリー程度であると判
断している。
3 臨界に関する安全設計
(被告の主張)
 臨界になると,核分裂連鎖反応の結果として大量のエネルギー及び放射線が発生
する。ウラン加工施設においては,このような臨界に伴って生じる大量のエネルギ
ー及び放射線による危険を避けるため,臨界を防止するための安全設計(臨界安全
設計)が必要となる。
 本件施設においては,以下に述べるように,技術的にみて想定されるいかなる場
合でも臨界を防止する対策が講じられることとなっている。
(1) 単一ユニットの臨界安全
 ウラン加工施設における単一ユニット(核燃料施設基本指針及び加工施設指針に
おいて臨界管理を考える場合に対象となる核燃料物質取扱い上の単位)の臨界安全
については,技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界を防止する対策が講じ
られていなければならない。このため,単一ユニットは,技術的にみて想定される
いかなる場合でも,単一ユニットの形状寸法,質量,容積,溶液濃度の制限及び中
性子吸収材の使用等並びにこれらの組合せにより臨界を防止する対策が講じられて
いることが確認されなければならない(加工施設指針10)。
 本件施設においては,ウランの濃縮度を5パーセント以下に制限し,六フッ化ウ
ランを収納する設備・機器の形状寸法を制限し又は中性子の減速度(核分裂によっ
て生じた中性子の速度が減速材により減速される度合いを表す指標で,通常,代表
的な減速材である水の構成要素である水素とウラン235との原子数の比(H/U
―235)で表される。)を制限することにより,臨界を防止する設計となってい
る。このため,機器の設計及び通常時における運転条件は核的制限値(臨界安全を
確保するために設定される制限値)を超えず,異常時でも臨界安全値(異常時にお
いても臨界に至らないと判断される値)を超えないこととなっている。
 このうち,ウランの濃縮度は,カスケード設備へ供給する原料六フッ化ウランの
流量及びカスケード内の六フッ化ウランの圧力から定まることから,この流量及び
圧力を制御することにより濃縮度を管理するとともに,インターロックを設け濃縮
度が制限値(5パーセント)を超えないようにすることとなっている。
 次に,形状寸法制限については,ウランを収納する設備・機器のうち,その形状
寸法を制限して比較的小型にすることができるケミカルトラップ(フッ化ナトリウ
ム)及びケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)で使用された六フッ化ウランの吸
着剤であるフッ化ナトリウムの処理槽は,公表されている信頼し得る文献に基づ
き,設計上の余裕を考慮して,その直径を核的制限値57.55センチメートル以
下に制限することにより臨界を防止することとなっている。
 さらに,ウランの質量,容積及び形状寸法のいずれをも制限することが困難な設
備・機器(コールドトラップ,製品シリンダ,中間製品容器及び減圧槽)は,中性
子の減速度を制限することにより臨界を防止することとなっている。これらの設
備・機器は,公表されている信頼し得る文献に基づき,通常使用条件における減速
度に対して,余裕を考慮し,H/U―235原子数比1.7を核的制限値として設
定することとなっており,六フッ化ウランの純度を99.5パーセント以上に保つ
ことにより,H/U―235原子数比が1.7以下となり,公表されている信頼し
得る文献に基づく臨界安全値である10を上回ることがないような設計となってい
て,これによって臨界は防止されるほか,万一水分を含んだ空気が流入した場合に
ついても,コールドトラップ,中間製品容器,製品シリンダのH/U―235原子
数比の値を計算することにより臨界安全の確認計算がされている。このほか,カス
ケード設備については,本件許可申請書添付書類掲記の諸条件を設定し,内外で十
分な使用実績を積んだ信頼性の高い臨界計算コードであるKENO―Ⅳ/Sコード
(臨界計算コードの一つ)を用いて,中性子の無限増倍率を算出することにより臨
界安全設計の確認計算がされており,その結果,いかなる場合でも臨界に達するこ
とはないことが確認されている。
 本件安全審査においては,上記に述べた本件許可申請に係る単一ユニットの臨界
安全設計につき審査した結果,上記の中性子の減速度(H/U―235原子数比)
の値又は中性子の実効増倍率の値を踏まえ,技術的にみて想定されるいかなる場合
でも臨界に達することはなく,単一ユニットにおける臨界安全が確保されるものと
判断した。
(2) 複数ユニットの臨界安全
 ウラン加工施設の複数ユニットは,ユニット相互間の中性子相互干渉(各単一ユ
ニット内で発生した中性子のうち外に漏れ出たものが他の単一ユニットに相互に作
用して核分裂反応に寄与する現象)を考慮し,技術的にみて想定されるいかなる場
合でも臨界を防止する対策が講じられていなければならない。このため,ユニット
の配列については,技術的にみて想定されるいかなる場合でもユニット相互間にお
ける間隔の維持又はユニット相互間における中性子遮へいの使用等により臨界を防
止する対策が講じられていることが確認されなければならない(加工施設指針1
1)。
 本件施設の複数ユニットは,信頼性の高い臨界計算コードにより,十分安全裕度
のある条件で臨界計算を行い,安全な配置とすることとなっている。
 具体的には,臨界計算として,製品コールドトラップについては30センチメー
トル間隔で,ケミカルトラップについては1メートル間隔で,それぞれ無限配列さ
れたモデルが設定され,KENO―Ⅳ/Sコードを用いて,機器相互又は機器群相
互の配列を考慮した中性子の実効増倍率が計算されているほか,均質室内で中間製
品容器相互が万一接触した場合及びウラン貯蔵庫で製品シリンダ相互が万一接触し
た場合を考慮し,内外で十分な使用実績を積んだ信頼性の高い臨界計算コードであ
るKENO―Ⅴ・aコード(臨界計算コードの一つ)を用いて中性子の実効増倍率
が計算されている。この結果,本件施設では,コールドトラップ,六フッ化ウラン
シリンダ,中間製品容器及び減圧槽は,それぞれ他のユニットと相互の間隔が30
センチメートル以上,また,ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)及びフッ化ナ
トリウムの処理槽は,それぞれ他のユニットと相互の間隔が1メートル以上とし,
いずれも十分な間隔を有する配置とすることとなっている。
 本件安全審査では,複数ユニットの臨界安全設計の確認計算で上記の各モデルに
おいて中性子の実効増倍率がいずれも0.95以下となったことを確認し,上記の
ユニット配置の下では,複数ユニットにおいても,技術的にみて想定されるいかな
る場合でも臨界に達することはないと判断した。
(原告らの主張)
(1) 加工施設指針の問題点
 加工施設指針10は,単一ユニットにおける臨界安全に関して,「核燃料施設に
おける単一ユニットは,技術的にみて想定されるいかなる場合でも,臨界を防止す
る対策が講じられていること」と定めた上,「核的制限値の維持,管理について
は,起こるとは考えられない独立した二つ以上の異常が同時に起こらない限り臨界
に達しないものであること」との単一故障指針を定め,本件安全審査もこの方針に
従って行われている。
 しかし,加工施設指針は,実際の臨界事故が様々な要因の複合によって発生して
いる事実を無視する不当なものであり,単一故障のみを想定すれば足りるとする指
針の違法性は明らかである。
(2) 臨界事故を想定した災害評価の欠如
 加工施設指針12(臨界事故に対する考慮)は,「ウラン加工施設においては,
指針10及び指針11を満足するかぎり,臨界事故に対する考慮は要しない」とし
ている。本件許可申請書も,「いかなる場合でも安全であるよう十分な設計と管理
が行われるので臨界事故が起こることはない。」として,臨界事故を想定した災害
評価を行っていない。
 しかし,本件施設と同様に加工事業許可(変更)申請書では臨界事故は起こり得
ないとされていたJCO東海事業所でも現実に臨界事故が発生した事実にかんがみ
ると,同様の臨界事故は本件施設においても発生する危険があるから,本件施設に
おいても当然に臨界事故を想定して事故評価をすべきである。したがって,これを
行わなかった本件安全審査には看過し難い過誤,欠落があるというべきである。
(3) 本件安全審査の問題点
 本件許可申請書と安全審査書では,臨界安全設計の確認過程で必要となる施設機
器の正確な配置,形状,寸法,機器ごとのウラン使用量等の基礎的データーが全く
示されておらず,その審査結果を科学的に検証することは不可能である。
 結局のところ,本件許可申請書は結論を示したにすぎず,その前提となるべき想
定条件の記載及びその根拠を欠いており,このような申請に基づいてされた本件許
可処分もまた違法である。
(4) 水との接触による臨界事故の危険性
 本件施設で取り扱っている中間製品容器には,ウラン量で3050キログラム,
水が十分にある環境の場合の最小臨界量の80倍余りの量のウランが内蔵されてい
る。この中間製品容器に六フッ化ウランが入ったままで水を注ぎ込むと大規模な臨
界事故になる。そして,これと同時に大量のフッ化水素が発生してフィルタの機能
を喪失させ,放射能が大量に漏洩して臨界を停止する作業が困難となる結果,臨界
状態が長時間続くことにもなりかねない。
 本件施設では,この中間製品容器を水で洗っているが,その際に中間製品容器に
六フッ化ウランが入っていないことを確保する手段は,事前に重量を測定すること
だけである。
 JCO東海事業所では,沈殿槽にウランを送るに当たり事前に重量を測定し規定
量以上送らないことになっていたが,実際には規定量の7倍が投入されて臨界事故
に至っており,本件施設でも,中間製品容器を水で洗う際に,六フッ化ウランが充
填されていないことの確認を誤りあるいは怠り,ないしは意図的に確認手順を省い
た結果,六フッ化ウランが充填されている中間製品容器に水が注ぎ込まれ,臨界事
故が発生する危険があるというべきである。
 また,本件許可申請書と安全審査書では,臨界安全設計の確認過程で必要となる
施設機器の正確な配置,形状,寸法,機器ごとのウラン使用量,水の使用工程とそ
の場所など等の基礎的データーが全く示されておらず,また,中間製品容器を間接
冷却するための低温水と容器との位置関係も明らかではないため,爆発事故や地
震,航空機の墜落事故などによる施設の破壊時に,この水と濃縮ウランが接する可
能性も否定できない。
(5) 容器破裂による臨界事故の危険性
 均質槽あるいは製品シリンダ槽において中間製品容器ないし製品シリンダを加熱
する際に,加熱温度が高くなり過ぎるか,過充填状態で加熱すると,六フッ化ウラ
ンの液化膨張により内圧が急上昇して中間製品容器ないし製品シリンダが液圧破壊
する危険がある。1986年(昭和61年)1月4日アメリカ合衆国オクラホマ州
のセコイヤ燃料会社ウラン転換工場における爆発事故はまさにそのような事故であ
った。
 本件施設の設計との関係でいえば,これらの容器を加熱する際,圧力が異常上昇
した場合に,加熱を停止するインターロックがあるが,圧力は容器自体ではなく容
器に接続する配管部で測定している。したがって,これらの容器について,均質槽
等に装着する際に配管への接続を忘れて加熱を行うと,加熱された六フッ化ウラン
の逃げ場がなく容器内の圧力は上昇するが,圧力計部分では圧力が全く上昇しない
のでインターロックは働かず,加熱過剰により均質槽内で中間製品容器が破裂する
危険がある。なお,均質槽については,インターロックではないものの温度により
加熱用熱水コイルの熱水流量を調整する仕組みがあることがうかがわれるが,この
温度測定器は多重化されておらず,温度測定器自体の故障等があれば加熱過剰を防
止することはできない(例えば,動燃事業団でもアスファルト固化処理施設のエク
ストルーダーの温度測定器が故障したのを知りながら長年放置して運転し,火災爆
発事故に至っている。)。
 また,本件施設においては,製品シリンダ槽は本来最終工程の槽であり,そこか
ら他の槽への六フッ化ウランの移送は予定されていないから,本来であればこの槽
に加熱の機能は全く必要ないはずであるが,本件許可申請書においては,製品シリ
ンダ槽の一つには加熱機能を持たせるとされており,製品シリンダに過充填をした
場合には加熱して六フッ化ウランを気化させ移送することを予定しているといわざ
るを得ない。そうすると,製品シリンダ槽においても,製品シリンダと配管の接続
を忘れたまま加熱が行われた場合,製品シリンダが破裂する危険がある。
 そして,上記のように中間製品容器や製品シリンダが破裂した場合,熱水コイル
が破損する可能性は十分に考えられ,破損した部分から水が大量に噴出し,容器内
の六フッ化ウランに水が接触して臨界事故となる危険がある。
(6) 臨界安全性評価の不合理性
 本件安全審査においては,5パーセント濃縮ウランについては減速比(水素/ウ
ラン235)が10以下では臨界に達しないという基準を用いて容器類(コールド
トラップ,中間製品容器,製品シリンダ,減圧槽)の臨界安全性を判断している。
そして,この手法を用いる場合の事故想定としては,いずれについてもウラン量が
最少臨界量のときに湿った空気(摂氏40度,相対湿度100パーセント)が流入
して容器の空間を満たし場合を想定している。
 容器類の臨界安全性評価に当たっては,湿った空気ではなく水の流入を想定すべ
きであるが,仮に空気の流入のみを考慮するとした場合でも,少なくともコールド
トラップについては,この評価は不合理である。すなわち,コールドトラップが六
フッ化ウラン捕集中に,コールドトラップにつながる配管が破断するなどして空気
が流入した場合,流入した空気はそのままの状態でコールドトラップの空間を満た
して大気圧に達したときに流入が止まるわけではない。コールドトラップは,ロー
タリーポンプで吸引を続けており,かつ零下数十度で冷却(冷凍)しているのであ
るから,空気中の水分だけが凍り付いてコールドトラップ内に残り,乾燥空気がロ
ータリーポンプに吸引されて出ていき,流入口がふさがれない限り,極論すれば容
器の容量いっぱいまで水が氷の状態で入り得るのである。
 本件安全審査においては,「万一,水分を含んだ空気がコールドトラップに流入
した場合でも,内部の圧力上昇を検出し,コールドトラップの出入口弁を閉止する
ので,さらに水分の流入が続くことはない。」とされているが,出入口弁の閉止は
「自動的に」と記載されていない以上手動であるから,その閉止が遅れれば容器の
容積を上回る大量の湿った空気が流入し得るのである。コールドトラップの内圧が
大気圧に至るまで水分の流入が続いたとしてもという仮定が理論上の最大想定にな
るのは,空気が吸引も冷却(冷凍)もされていない場合の話であり,コールドトラ
ップには全く当てはまらない。
 したがって,本件安全審査のコールドトラップの臨界安全性に関する判断は,理
論的にコールドトラップの臨界安全性を保証するものではなく,不合理である。
(7) 臨界管理方法の不合理性
 本件施設においては,臨界管理の方法として通常最も信頼性が高いとされる形状
寸法管理は,わずかにケミカルトラップとNaF処理槽に採用されているのみで,
他の機器には全く採用されていない。本件施設の臨界管理は,そのほとんどを人為
的な要素に左右される濃縮度管理と減速度管理に依存している。すなわち,本件施
設においてケミカルトラップとNaF処理槽について採用された形状寸法管理も,
取り扱う六フッ化ウランの濃縮度が5パーセントに制限されることを前提にしたも
のであり,濃縮度管理に依存しているのである。形状寸法管理が特定のウラン濃縮
度を前提とするのは他の施設では当然ともいえるが,それはウラン濃縮工場以外の
施設では取り扱うウランの濃縮度が変化することはないからである。
 しかし,本件施設のようなウラン濃縮工場は,その工程内でウランの濃縮度自体
を変化させるのであるから,濃縮度管理の制限値である5パーセントそのものを他
の臨界管理の前提とすることには疑問がある。濃縮度管理が破られたときに備えて
濃縮度管理の制限値を超えたところを前提とする形状寸法管理が採用されるべきで
ある。
 そして,実際,本件施設においては,濃縮度管理の信頼性はかなり低いといわざ
るを得ない。まず,濃縮度の測定は,1日1回質量分析装置で行っているにすぎな
いのであるから,濃縮度はリアルタイムでは把握されていない。そして,濃縮度管
理の最後の頼りの過濃縮防止インターロックがハードワイヤーにつながれておら
ず,伝送ラインがダウンすると機能喪失する設計となっている。
 また,本件施設においては,濃縮ウランを充填した容器(中間製品容器,製品シ
リンダ)を誤って発生槽に装着した場合には,当然に濃縮度は5パーセントを超え
るが,過濃縮防止インターロックは濃縮度そのものでかかるのではない(原料供給
流量と廃品圧力の関数)ので,このような場合,インターロックによっては過濃縮
を防止できない。
 このように,本件施設の濃縮度管理の信頼性がかなり低いこと,またその信頼性
が安全審査で保証されていないことが明らかになっているのであるから,濃縮度管
理以外の臨界管理は,濃縮度が5パーセントを超えた場合でも対応できるような対
策でなければならない。にもかかわらず,そのような臨界管理対策がなされていな
い。
(8) 火災時の消火方法を制限しないことの不合理性
 本件安全審査において,六フッ化ウランを取り扱う容器・機器の火災の際に水を
かけて消火するか否かについて全く検討されていない。六フッ化ウランを充填した
容器に水を注入すれば臨界事故に至る危険があることは明らかである。
 したがって,火災時の臨界安全性の基本方針,最低限でも六フッ化ウランを取り
扱う容器・機器に火災の際に水をかけずに消火する方策を安全審査において確認す
べきであることは明白であり,これすら行わなかった本件安全審査には看過し難い
過誤,欠落があることは明らかである。
(9) 臨界事故時の事故拡大防止対策が全く採られていないことの不合理性
 JCOの施設においては,加工事業(変更)許可申請書上,「いかなる場合でも
安全であるよう十分な設計がなされているので臨界事故は起こり得ない。」と明記
されていたが,現実に臨界事故が発生した。そして,JCOの施設においては,取
り扱うウランが臨界に至ったときに未臨界状態にするための装置(中性子吸収材の
注入等)はもちろん,臨界に至ったことを検知する装置も警報もなかった。
 本件安全審査においても,JCOの施設と同様,「いかなる場合でも安全である
よう十分な設計と管理が行われるので臨界事故が起こることはない。」として,臨
界事故を全く想定せず事故評価しない申請を承認,許可している。そして,JCO
の施設と同様に,臨界に至った場合に未臨界状態にするための装置はもちろん,臨
界に至ったことを検知する装置も警報も全く設けられていない。しかし,本件施設
においても,臨界事故の危険があり,また,全く同様の申請がなされていたJCO
の施設で現実に臨界事故が発生した事実にかんがみれば,本件施設においても当然
に臨界事故を想定し,臨界に至ったときに事故の拡大を防止するための対策を採る
べきである。にもかかわらず,これを行わなかった本件安全審査には,看過し難い
過誤,欠落があるというべきである。
(被告の反論)
(1) 加工施設指針の問題点について
 原告らの主張に係る「単一の故障」が何を意味するかは必ずしも明らかではない
が,いずれにせよ,加工施設指針10は,通常想定される事象に対してはもちろん
のこと,通常は起こるとは考えられない事象が発生したとしても,それのみでは臨
界に達しないように安全を見込んで核的制限値を維持・管理すべき旨を定めたもの
であり,これによって臨界安全は確保されるとし,核的制限値の維持・管理に当た
り,起こるとは考えられない独立した二つ以上の異常が同時に起こることまでをも
考慮する必要はないとしたものである。
(2) 臨界事故を想定した災害評価の欠如について
 そもそも,加工施設指針の適用対象であるウラン加工施設が濃縮度5パーセント
以下のウランを転換,加工する施設であり,その潜在的危険性の程度が小さいこと
にかんがみれば,加工施設指針10及び11を満足する限り,当該ウラン加工施設
においては,技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界に達することはなく,
ウラン加工施設における臨界に関する安全設計の目的を達するので,これに重ねて
臨界事故の発生を想定する必要はないことになる。このように,加工施設指針12
の内容は,合理的な根拠を有する。
(3) 本件安全審査の問題点について
 原告らの主張に係る機器の配置,形状,寸法,機器ごとのウラン使用量等は,設
備・機器の詳細設計に係るものであり,これらの条件を用いて実際に臨界が防止さ
れる設計になっているかどうかは,規制法16条の2の設計及び工事の方法の認可
の際に審査されるべき事項であって,本件安全審査における審査対象事項にはなら
ない。
(4) 水との接触による臨界事故の危険性について
 原告らは,中間製品容器の水洗いによる臨界事故の発生を主張するが,中間製品
容器等の水洗いは,当該中間製品容器等の具体的な運用上の管理に当たるものであ
り,保安規定の認可の際に審査されるもので,後続の規制に属するものである。し
たがって,当該水洗いに関する事項は,本件安全審査の対象外であって,本件訴訟
の審理の対象とならない。そもそも,洗缶架台に載せられる容器は六フッ化ウラン
が充填されていない容器であって,このようなウランの存在を前提としない容器は
臨界防止対策の考慮を要しないものである。ちなみに,中間製品容器等の水洗いに
おける臨界管理については,科学技術庁が平成11年10月7日に行った緊急総点
検においても,許認可上の違反がないこと,基本的な安全性の確保がされているこ
とを確認している。
 次に,原告らは,爆発事故や地震,航空機の墜落事故などによる施設の破壊時
に,水と濃縮ウランが接する可能性が否定できないと主張する。しかし,そもそ
も,本件施設において,爆発事故や地震による六フッ化ウランの漏洩は考えられ
ず,航空機事故発生の可能性も極めて低いことは,いずれも本件安全審査において
確認されている。
 また,本件許可申請においては,本件施設の各設備・機器の臨界安全の確認計算
を行う際に,設備・機器外の雰囲気が最適減速状態(核分裂によって生じた中性子
の速度が核分裂の連鎖反応が最も起こりやすい速度に減速されている状態)となる
ものとして安全側に条件を設定して計算されているところ,本件安全審査において
は,上記計算が妥当なものであり,これによれば,臨界安全が確保されるとの結論
を得たのである。したがって,仮に何らかの理由により水の配管に破断が生じて,
水が各設備・機器に接触し,当該設備・機器外において,上記の最適減速状態に至
るようなことがあったとしても,臨界に達することはないことは本件安全審査にお
いて確認されている。
 更に,本件施設においては,六フッ化ウランを取り扱う設備・機器は漏洩のない
構造とされている上,これらの設備・機器のうち,温水による直接加熱又は低温水
による直接冷却がされる原料シリンダと廃品シリンダでは,六フッ化ウランは0.
95パーセント以下の濃縮度で取り扱われるため,仮に水と接触するようなことが
あっても臨界には至らないし,その他の設備・機器では,冷却に水を使用する場合
はいずれも間接冷却(低温水により冷却された空気で冷却すること)の方法が採用
されており,設備・機器内の六フッ化ウランが水と接触することはない。したがっ
て,万一,六フッ化ウランが漏洩する事態を想定した場合でも,臨界に達すること
はない。
(5) 容器破裂による臨界事故の危険性について
 原告らは,配管を接続せずに容器を加熱する一方,温度測定器が故障して加熱過
剰が生じると,これにより容器が破裂し,その破裂により熱水コイルが破損し,そ
の破損部から水が大量に噴出するなどして,均質槽,製品シリンダ槽での容器破壊
による臨界事故が発生する可能性があると主張する。
 しかしながら,原告らの主張は,その前提とする事柄が発生する点について,何
らの根拠も示しておらず,仮定に仮定を重ねた上での議論であって,主張自体失当
である。
(6) 臨界安全性評価の不合理性について
 原告らは,本件許可申請書には,「コールドトラップの出入口弁を閉止する」と
記載されているだけで,弁の閉止が「自動的に」行われるとは記載されていないの
であるから,これは手動を意味すると理解されるので,弁の閉止遅れの可能性があ
るところ,コールドトラップ捕集中に配管が破断する等の事象により空気が流入し
続けると,コールドトラップ内に水が氷の状態で入り得ることになるから,コール
ドトラップについての臨界安全性評価は不合理であると主張する。
 しかし,本件許可申請書の「内部の圧力上昇を検出し,コールドトラップの出入
口弁を閉止する」との記載部分は,圧力上昇の検出から弁の閉止に至るすべての過
程が人の操作の関与を予定しておらず,自動であることを意味している。したがっ
て,原告らの上記主張は,この点の誤解に基づく立論であって,失当である。
(7) 臨界管理方法の不合理性について
 本件安全審査では,本件施設の濃縮工程における濃縮度は,カスケード設備へ供
給する原料六フッ化ウランの流量及びカスケードの圧力によって定まることから,
その流量及び圧力を監視することによって濃縮度を管理するとともに,これらに対
しインターロックを設けて,濃縮度が制限値を超えないようにすることとしてい
る。このように,濃縮度は,その数値を質量分析装置により測定しなくても,流量
及び圧力を監視することにより,常時把握し,管理することができるものである。
したがって,濃縮度の数値そのものをリアルタイムで知る必要があるかのようにい
う原告らの主張は,前提において当を得ない。なお,質量分析装置による濃縮度の
測定は,上記の流量及び圧力の監視による濃縮度の管理が適切に行われていること
の確認のために行っているものであるから,1日1回上記測定を行うことは,適宜
かつ合理的である。
 また,原告らのいう伝送ラインがダウンした場合でも,本件施設においては,伝
送ラインとは独立な専用の配線を介して,中央制御室において流量及び圧力を監視
し,操作することが可能であるから,濃縮度を常に把握し,管理することができ
る。加えて,この場合にも,コントローラーは制御を継続するので,カスケードの
流量及び圧力は正常に制御され,これにより濃縮度も正常な値を維持することにな
る。したがって,上記の場合を想定して濃縮度管理の信頼度が低いとする原告らの
主張は理由がない。
(8) 火災時の消火方法を制限しないことの不合理性について
 本件安全審査では,万が一の火災・爆発を考慮して適切に消火設備等を設けるこ
ととしていることを確認している。これに対し,その具体的な設備や消火の具体的
方法については,設計及び工事の方法の認可の際に審査される事項であって,本件
安全審査の対象ではない。したがって,原告らの主張は失当である。
 なお,本件安全審査では,申請者が,本件施設の各設備・機器の臨界安全につ
き,設備・機器外の雰囲気が最適減速状態となるものとして安全側に条件を設定し
て行った確認計算の結果,臨界安全が確保されると判断したことが妥当であること
を確認している。このように,本件安全審査では,何らかの理由により水が各設
備・機器に接触するような場合を想定しても,臨界に達することがないことを確認
しているのであり,臨界安全性についての審査も十分に行われたものである。した
がって,原告らの主張は,この点からも失当である。
4 六フッ化ウランの閉込めに係る安全設計
(被告の主張)
(1) 加工事業規則及び加工施設指針の規定
 加工事業規則は,外部放射線の放射線量,空気中もしくは水中の放射性物質の濃
度が法令に定める基準を超えるか又は放射性物質によって汚染された物の表面の放
射性物質の密度が法令に定める基準を超えるおそれがある場合には管理区域を設定
し,壁,さく等によって区画するほか,標識で明示する等の措置を講ずることとし
ている(加工事業規則1条3号,7条の2第1号,許容被曝線量等を定める件1条
の2)。また,加工施設指針4は,ウラン加工施設の管理区域のうち,ウランを密
封して取り扱い又は貯蔵し,汚染の発生するおそれのない区域を第2種管理区域,
そうでない区域を第1種管理区域として,区分して管理するものとしている。
(2) 本件安全審査の内容
 本件安全審査においては,上記の点に関し,次のとおり本件施設がウランを限定
した区域に閉じ込める十分な機能を有することを確認した。
ア 本件施設においては,加工事業規則等に従って,施設内に適切に管理区域が設
けられ,第1種管理区域の気圧は,第2種管理区域,非管理区域及び大気圧より負
圧に維持することとし,この区域の排気の処理は高性能エアフィルタを通して行う
こととなっている。
イ 六フッ化ウランを取り扱う設備・機器は漏洩し難い構造とし,万一漏洩した場
合でも,漏洩を最小限にとどめ,施設外への拡大を防止できる設計となっている。
ウ 六フッ化ウランを大気圧以上で取り扱う場合,中間製品容器は閉じ込めの機能
を有する均質槽に収納することとなっている。また,六フッ化ウランを大気圧以上
で取り扱う均質槽の配管等には,配管カバー等を設けることとなっている。これら
の排気系統には,工程用モニタ及び局所排気設備を設け,万一配管等から六フッ化
ウランの漏洩が発生した場合には,工程用モニタにより早期に検知し,警報を発す
るとともに,自動的に緊急遮断弁(均質槽元弁)を閉じ,局所排気設備を経由して
排気する系統に自動的に切り替える設計となっている。
エ カスケード設備,六フッ化ウラン処理設備等からの排気に含まれる六フッ化ウ
ランは,コールドトラップ又はケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)及び高性能
エアフィルタにより捕集することにより,施設外へのウランの放出を少なくする設
計となっている。
(原告らの主張)
(1) 加工施設指針の問題点
 加工施設指針4は,放射線管理について,「放射性物質を限定区域に閉じ込める
十分な機能」とするのみで,内容が抽象的で指針としての実効性に欠けており,放
射線の管理のために,何を,どのようにして,どの程度に管理すべきか,という点
を何ら明らかにしていない。
 これに対し被告は,「加工施設指針は,ウラン加工施設に関する技術的事項の細
部にわたってまで,逐一具体的な指示を与えるものである必要はなく,(中略)当
該施設の基本設計ないし基本的設計方針において災害防止上支障がないものとして
設置されるものであるかどうかを判断するための基本的枠組みを提供するものであ
れば足りる」とするが,放射線管理の「基本的枠組み」を審査するだけでは,到底
安全審査たり得ないことは明らかである。すなわち,放射線の安全管理を意味のあ
るものにするためには,安全確保上必要とされる項目を定めるのみではなく,最低
限それをどのような施設と技術で,どの程度に行うべきかが明記されなければ,申
請に係る施設が安全であるかどうかの判断はできない。そして,本件許可申請以外
には,原燃産業が放射線管理のために採っている施策や内容を公に把握する術はな
いのであるから,その安全性のチェックはほとんど不可能である。
(2) 本件安全審査の問題点
 被告が「具体的な設備の設置及び管理方法が明記されている」と強弁する本件許
可申請書の「放射線管理の諸対策」とは,結局のところ管理方法の種別を挙げて,
「区分する」「明示する」などと結論だけを述べるものにすぎず,そこには具体的
にどのような機種と技術により管理を行い,どのような目標値が設定され,その安
全管理が現実に適切になされ得るかといった具体的な安全審査の資料は何一つ明示
されていない。それにもかかわらず内閣総理大臣は漫然「基準に適合する」との判
断を行って,本件許可処分をしている。
 しかし,これでは,指針に記載された諸対策について,申請書で「対策を講じ
る」と記載すれば,どのような申請も認められてしまうことになり,その対策が十
分なものか,その対策を行う能力があるのか,といった安全審査の基本的事項は,
何ら審査されないままとなってしまう。
(3) 事故拡大防止対策の不備
 原子力施設においては,施設の建屋・機器からの排気を排風機で引き,高性能エ
アフィルタを通して放射性物質の粒子を除去して外部に放出しており,本件施設も
同様である。高性能エアフィルタの健全性が保たれる限りは,このやり方により放
射性物質の外部への放出を抑制することができる。
 しかし,本件施設のように,六フッ化ウランを扱う施設の場合,六フッ化ウラン
の漏洩に必然的に伴うフッ化水素の発生が困難を生じさせる。すなわち,フッ化水
素が高性能エアフィルタのガラスウールを溶かしてしまうので,放射性物質の大量
漏洩を避けるためには,フッ化水素を高性能エアフィルタに到達する前に除去する
必要性がある。この点について,本件施設においては,捕集排気系,カスケード排
気系,一般パージ系,均質パージ系の四つの排気系に,ロータリーポンプに至る前
にNaFトラップを置き,事故時に備えて均質槽配管カバー,均質槽,サンプル小
分け装置フードからの排気については事故時に工程用モニタでフッ化水素を検出し
た時点で切り替える局所排気装置を設けている。しかし,この設計は,次のとお
り,容器・シリンダの破裂事故の際に,フッ化水素を除去して高性能エアフィルタ
の健全性を確保するのに十分とは到底いえない。
 第1に,事故時の排気をフッ化水素吸着器のある局所排気装置へ送るのが,事故
になってからの切替えという点は驚くべき手抜きである。JCOの転換試験棟です
ら塔槽類からの排気は平常時からフッ化水素除去機能のある湿式スクラバを経由し
ていたが,本件施設の設計は,排気系の安全性においてJCOの転換試験棟以下で
ある。
 第2に,その切替弁は「ダンパ」とされており,ダンパとは「漏洩許容型バタフ
ライ弁」のことであるから,均質槽・均質槽配管カバーでの事故の際にも事故発生
後も局所排気装置を経由しないで高性能エアフィルタに到達する排気(フッ化水
素)が相当程度あると考えざるを得ない。このダンパの漏洩率は定かでないが,事
故発生後も排風機で引き続けるのであるから,吸引しない場合の漏洩率が低くて
も,本件施設のように排風機で吸引している場合には,相当な漏洩率となると考え
られる。この漏洩について,本件安全審査では全く検討していないのであるから,
本件安全審査に看過し難い過誤,欠落があることは明らかというべきである。
 第3に,局所排気装置につながれているのは均質槽等のみであり,製品シリンダ
槽等は局所排気装置には全くつながれていないし,中間製品容器置場ももちろん同
様である。
 第4に,均質槽内の配管破断や中間製品容器の破裂の際に,局所排気装置に意味
があるのは,均質槽そのものが健全な場合だけである。容器の破裂時の衝撃圧力や
臨界事故に伴う爆発で均質槽自体が破裂してしまった場合は,発生したフッ化水素
と六フッ化ウラン・放射性物質は,フッ化水素除去装置を経ることなく,建屋の排
気系を通じて高性能エアフィルタを直撃する。そして,セコイヤ工場で発生した事
故では,シリンダの破裂により均質槽に該当するスティームチェスト自体が破裂し
ている。
(4) コールドトラップ機能喪失事故
 ウラン捕集中のコールドトラップがその冷却機能を喪失した場合,六フッ化ウラ
ンガスを吸引しているロータリーポンプが停止しなければ,大量の六フッ化ウラン
ガスがコールドトラップを素通りしてロータリーポンプを経由して排気系統へと流
出する。その流出量がケミカルトラップの容量を超え,発生したフッ化水素の量が
高性能エアフィルタのガラスウールを溶かして機能喪失させる量に達すれば,大量
の六フッ化ウランが漏洩するに至る。
 本件施設においては,電源喪失の場合にロータリーポンプが停止するようにイン
ターロックが設けられているが,電源喪失によらずに,例えばコールドトラップに
至る電源ケーブルの断線等によりコールドトラップのみ機能喪失した場合には,ロ
ータリーポンプは停止しないのである。
(5) 遠心分離機破損事故
 本件安全審査においては,遠心分離機は,その構造について断面図さえみること
なく,本件施設で実際に使用される遠心分離機の破壊実験もなく,ただ動燃の人形
峠の施設で用いられた遠心分離機の仕様での模擬実験のデータが提出され,これと
同様の方法でこれから試験をして設計するというだけで真空気密性能が維持される
と判断された。
 そして,安全審査の際に審査担当者に配布された模擬実験の資料は,わずか10
のデータしかなく,しかも,この実験は動燃が行ったものであり,データの分布か
ら考えて動燃技報80号掲載の実験と同じものであるところ,安全審査担当者に配
布された資料では,この動燃の実験結果のうち外筒肉厚の8割程度まで食い込んだ
部分(最も食い込んだ部分)のデータははずされていた。
 このように,本件安全審査の判断は,本件施設で使用される遠心分離機について
のデータも知らされず,動燃の施設の遠心分離機の仕様を前提にした模擬実験につ
いてさえデータの一部,それも重要な一部を隠された状態でなされたものであっ
て,明らかに不十分なものであり,また,調査審議及び判断の過程に看過し難い過
誤,欠落があるというべきである。
(被告の反論)
(1) 加工施設指針の問題点について
 加工施設指針は,ウラン加工施設に関する技術的事項の細部にわたってまで,逐
一具体的な指示を与えるものである必要はなく,むしろ核燃料安全専門審査会の審
査委員等の専門技術的知見を有する者が,審査において,申請に係るウラン加工施
設の位置,構造及び設備が当該施設の基本設計ないし基本的設計方針において災害
防止上支障がないものとして設置されるものであるかどうかを判断するための基本
的枠組みを提供するものであれば足りる。
 そして,加工施設指針4は,放射性物質の閉込めの機能に関し,作業環境の汚染
防止に対する考慮として,管理区域の区分管理,ウランの飛散・漏洩防止構造の採
用,ウラン除去機能を持つ排気系統の設置などを,周辺環境の汚染防止に対する考
慮として,高性能エアフィルタ等の適切なウラン除去設備の設置などを,それぞれ
安全確保上必要とされる事項として定めており,放射性物質の閉込めの機能につ
き,上記の要請を満たす内容を備えている。
(2) 本件安全審査の問題点について
 本件許可申請書添付書類6には,本件施設における放射線管理に係る基本設計な
いし基本的設計方針を審査する上で十分な内容が記載されている。原告らの主張す
る測定・管理の方法等は,規制法16条の2の設計及び工事の方法の認可並びに同
法22条の保安規定の認可の際に審査されるべき事項である。
(3) 遠心分離機破損事故について
 本件安全審査では,六フッ化ウランを取り扱う設備・機器は,漏洩し難い構造と
し,万一漏洩した場合でも,漏洩を最小限にとどめ,施設外への拡大を防止できる
設計としていることを確認しており,具体的に,本件施設の遠心分離機について
は,回転体が破損しても外筒(ケーシング)の真空気密性能が十分保たれるよう
に,破損試験により裏付けられた強度設計を行い,かつ,破損試験により安全が確
認された回転数以下となるように高周波電源設備の周波数を制限することを確認し
ている。したがって,原告らの主張は失当である。
 しかも,原告らの指摘する実験データは,定格周速に対し1.2倍以上の周速で
のデータであり,仮にこの実験データを本件安全審査の際に採用していたとして
も,これを考慮する必要がないものであって,原告らの主張は,この点からも失当
である。
5 外部電源喪失に対する考慮
(被告の主張)
 本件施設においては,外部電源系(一般の送電線から送られる電気)の機能喪失
対策として,ディーゼル発電機,直流電源設備及び無停電電源装置を設置し,第1
種管理区域の排気設備,放射線監視設備,自動火災報知設備,非常用通報設備,安
全上必要な計測制御設備等に電力を供給することとされている。また,外部電源が
喪失した場合は,工程中に六フッ化ウランを閉じ込めるための弁が自動的に閉じる
設計とされている上,外部電源の喪失によりコールドトラップ,製品回収槽,廃品
回収槽等の冷却能力が喪失することとなるが,たとえ室温が摂氏40度としても,
六フッ化ウランの飽和蒸気圧(ある物質の気相と液相又は固相とが一定の温度にお
いて平衡に共存するときの当該物質の蒸気の圧力)は大気圧未満(約0.4気圧)
であり,工程内の圧力が大気圧を超えることはなく,六フッ化ウランが漏洩するこ
とはない。
 本件安全審査では,上記のことを確認している。
(原告らの主張)
 本件安全審査においては,災害評価において「本施設においては,…外部電源喪
失に対する対策を行うので,災害が起こることはない」とする本件許可申請書及び
添付書類を追認しているのみで,以下のように,本件許可申請書の記載の不備を看
過している上,様々な事故の可能性について検討した形跡もなく,外部電源喪失に
係る事故防止対策についての安全審査は全く不十分である。したがって,本件許可
処分は違法である。
(1) 本件許可申請書の内容
 安全審査書は,「外部電源系の機能喪失対策としてのディーゼル発電機,直流電
源設備及び無停電電源装置の設置」を確認したとするが,本件許可申請書及び添付
書類中には,ディーゼル発電機,直流電源設備の容量すら記載されておらず,直流
電源設備及び無停電電源装置がどれくらいの時間の電源喪失に対応し得るのか(デ
ィーゼル発電機による給電可能時までの約20秒間のみか,それ以上か)も明らか
でない。したがって,ディーゼル発電機から母線に至る回路が,コイルの焼損,ネ
ジのゆるみその他の原因により切断された場合に,全く給電されなくなるのか,直
流電源設備のみで一定時間給電できるのかも不明である。しかも,直流電源設備及
び無停電電源装置に直接つながれている「安全上必要な計測制御設備等」に何が含
まれるかも全く不明である。これでは外部電源喪失時に,機器・設備の安全性が保
たれるか判断のしようがない。
(2) 圧力上昇の危険
 本件施設では,外部電源喪失時に,次のように工程内部の圧力が上昇する危険が
あるが,この場合に,コールドトラップないしそれに接続された配管や弁が健全性
を維持できるかについては何ら検討されていない。
ア コールドトラップ等
 本件施設においては,六フッ化ウラン(原料シリンダ)を温水加熱して気化さ
せ,カスケード部(常温,大気圧以下)で濃縮し,コールドトラップで急冷して固
化捕集する。コールドトラップで固化捕集されなかった六フッ化ウラン(0.1パ
ーセント以下とされる)は,捕集排気系に送られ,ケミカルトラップ,高性能エア
フィルターで更に捕集され,残りは外界に放出される。外部電源喪失の場合,捕集
排気系のロータリーポンプ入口弁が自動閉となり,他方コールドトラップは冷却能
力を喪失する。このときコールドトラップでは,気体状の六フッ化ウランが電源喪
失前の吸引の慣性で流入し続け,他方冷却能力を喪失し,六フッ化ウランの固化が
止まり,気体状のままとなるので圧力が上昇する。
イ ケミカルトラップ
 平成4年1月ないし2月の本件施設における事故のように遠心分離機の電源のみ
が失われた場合,工程の温度はヒーターの故障がなければ維持されるとされている
が,異常発生により製品回収槽に至る弁が閉鎖される結果,カスケード部の六フッ
化ウランガスはカスケード排気系へと押しやられることになり,カスケード排気系
のケミカルトラップに吸着されることになる。
 しかし,原料シリンダの容量(ウラン量で8.5トン)に対してカスケード排気
系の2基のケミカルトラップの容量(それぞれ同じく70キログラム)は極めて小
さいから,カスケード排気系から外に至る弁が閉鎖されていれば六フッ化ウランガ
スの排出先がなくなり圧力が上昇することになる。
(3) 六フツ化ウラン固化の危険
 本件施設では,次のとおり外部電源喪失により工程内部で六フッ化ウランが固化
して配管等の閉塞を発生させる可能性がある。この場合,流入する六フッ化ウラン
(一部起動している場合や電源回復による再起動時)により局部的に圧力が上昇
し,配管等が破損する危険がある。
ア 加熱機能の喪失 
 六フッ化ウランは,大気圧下では摂氏56.5度以下では固化凝固するので,気
体状に保つためには加熱する必要があるが,外部電源喪失によりこの加熱機能が失
われ,六フッ化ウランがいたるところで固化し,小口径の配管,弁では固化した六
フッ化ウランによる流路閉塞も発生しかねない。そのような場合,流入する六フッ
化ウラン(一部起動している場合や電源回復による再起動時)により局部的に圧力
が上昇し,更に六フッ化ウランが固化することを繰り返す危険がある。
イ 減圧機能の喪失
 カスケード設備は通常大気圧以下に減圧され,常温でも六フッ化ウランが気体状
であるとされるが,外部電源喪失時にはこの減圧を維持できず,その結果,カスケ
ード部の遠心分離機及び配管内で六フッ化ウランが固化する可能性がある。
 その場合,電源回復後においても,六フッ化ウランの固化を検知することも,固
化した部分を直接加熱することも不可能で,六フッ化ウラン固化による流路閉塞に
気付かずに再起動し,局所的な圧力上昇を招く危険がある。
ウ 温度低下
 本件許可申請書添付書類には一定の配管にヒーターを巻いて加熱を維持する旨の
記載があるが,公開された写真をみる限り,目詰まりの危険の大きいカスケード部
の細い配管にはヒーターが巻かれておらず,固化を防止し難い上,一旦固化凝固し
た場合その復旧(気化)が極めて困難である。
 特に,平成4年の事故時に明らかになったように六フッ化ウランガスの回収に5
時間もの時間を要するというのであるからその間の温度低下は大きいことを考慮し
なければならない。
(4) 遠心分離機の共振による破損の危険
 遠心分離機の設計に当たっては,その材質,寸法(特に回転胴の半径,長さ)に
より共鳴振動を起こす回転速度が規定されるが,このことは最も初歩的な考慮事項
であるのに本件許可申請書には全く記載がなく,本件安全審査でも検討されていな
い。
 しかるに,平成4年の事故の際の原燃産業の発表によれば,本件施設では,遠心
分離機への給電が5分以上ストップすると回転速度の減少により共振が発生すると
されている上,遠心分離機については,経済的理由から,外部電源喪失時のバック
アップは一切ないとされている。さらに,遠心分離機には制動装置はなく,電源停
止時には回転が停止するまで約12時間を要する。したがって,遠心分離機への給
電のストップが5分以上継続すれば,遠心分離機の共振は防止し得ず,共振により
遠心分離機には強度の繰り返し応力が働き,激しい金属疲労が蓄積する。
 そして,このような共振動の影響は,回転胴が固定されたモーターの軸受けを介
して,モーターが固定された外筒や配管にも及ぶこととなる。このように,通常運
転時の速度以下に共振点があるという設計上の欠陥と,度々遠心分離機への給電を
ストップさせる電源系統の欠陥のある本件施設では,運転を継続すれば,早晩共振
により遠心分離機ないし配管が破損して六フッ化ウランが大量に漏洩する事故に至
ることは避けられない。
 上記のような点を一切審査することなくなされた本件許可処分は明らかに違法で
ある。
(被告の反論)
(1) 本件許可申請書の内容について
 ウラン加工施設における電源喪失に対する考慮に係る安全審査においては,加工
施設指針16に従い,停電等の外部電源系の機能喪失時に,第1種管理区域の排気
設備,放射線監視設備,火災等の警報設備等の安全上必要な設備・機器を作動し得
るのに十分な容量及び信頼性のある非常用電源系を有するものであるかどうかを審
査するものであるところ,本件許可申請書の記載内容は,十分な容量のディーゼル
発電機(2台),直流電源設備及び無停電電源装置を設置し,第1種管理区域の排
気設備,放射線監視設備,自動火災報知設備,非常用通報設備,安全上必要な計測
制御設備等に電力を供給することとされている。そして,上記記載内容は,本件施
設における電源喪失に対する考慮に係る安全性を審査する上で十分な内容のもので
あるところ,本件安全審査においては,上記記載内容により,電源喪失時の安全性
が確保できることを確認している。
 なお,原告らの主張に係るディーゼル発電機,直流電源設備の容量及び直流電源
設備,無停電電源装置に接続される計測制御設備等については,規制法16条の2
の設計及び工事の方法の認可の際に審査されることとされている。
(2) 圧力上昇の危険について
 本件施設においては,六フッ化ウランの処理工程(発生,供給,濃縮,捕集及び
回収の各工程)内の六フッ化ウランガスは大気圧未満で取り扱われ,また,六フッ
化ウランの飽和蒸気圧は,摂氏40度でも約0.4気圧程度である。そして,外部
電源喪失時には,各排気系のロータリーポンプの入口弁がインターロックにより自
動的に閉じるので,六フッ化ウランは工程中に閉じ込められる。
 したがって,たとえ室温が摂氏40度であっても,本件施設の六フッ化ウラン処
理工程において,運転時ないし外部電源喪失時に,工程内の六フッ化ウランガスの
圧力が大気圧を超えることは物理的にあり得ず,かかる低圧の六フッ化ウランガス
が配管・弁の健全性を損なうことはあり得ない。
(3) 六フッ化ウラン固化の危険について
 原告らは,外部電源喪失の場合には,配管内で六フッ化ウランが固化し,それに
伴う圧力の上昇,上記圧力上昇に起因する配管の破断,ひいては六フッ化ウランの
漏洩が生ずる旨主張するが,既に述べたとおり,運転時ないし外部電源喪失時に,
六フッ化ウランの固化によって工程内の六フッ化ウランガスの圧力が大気圧を超え
ることはそもそもあり得ないし,カスケード設備では,もともと常温で運転される
ので温度低下により六フッ化ウランが固化することもない。
(4) 遠心分離機の共振による破損の危険について
 本件安全審査においては,本件施設で万一遠心分離機の回転体が破損しても外筒
(ケーシング)の真空気密性能が十分に保たれるように,破損試験により裏付けら
れた強度設計が行われることを確認している。したがって,仮に原告らの主張する
ように共振により遠心分離機に破損が生じたとしても,外筒の気密性能は維持さ
れ,六フッ化ウランは漏洩しない。
6 従事者の放射線被曝低減に係る安全性確保対策
(被告の主張)
 本件施設においては,電離放射線障害防止規則,加工事業規則等に従って,放射
線業務従事者に対する万全の放射線管理が実施されることとされ,具体的には,管
理区域に立ち入る者については,フィルムバッジ等の個人被曝線量測定器等により
各人別に被曝線量を測定評価し通知することとするほか,管理区域内で作業を行う
場合には,作業による被曝線量及び作業場の放射線環境に応じた作業方法を必要に
応じ立案し,作業者の受ける被曝線量を低くするよう努めるなど,十分な被曝管理
対策が採られることになっている。本件安全審査においては,これらの事項を確認
した。
(原告らの主張)
(1) 加工施設指針の問題点
 加工施設指針は,ウラン加工施設について,放射線管理のために,従事者等の作
業条件を考慮した十分な放射線遮蔽(加工施設指針5)及び従事者等の放射線被曝
の十分な監視及び管理対策(加工施設指針6)を要求しているが,これらの指針は
具体性に欠け,放射線の管理のために,何を,どのようにして,どの程度に管理す
べきか,という点は何ら明らかにされていない。
 しかし,放射線の安全管理を意味のあるものにするためには,安全確保上必要と
される項目を定めるのみではなく,最低限それをどのような施設と技術で,どの程
度に行うべきかが明記されなければ,申請に係る施設が安全であるかどうかの判断
はできない。そして,本件許可申請書以外には,原燃産業が放射線管理のために採
っている施策や内容を公に把握する術はないのであるから,その安全性のチェック
はほとんど不可能となるのである。
(2) 本件安全審査の問題点
ア 放射線管理の諸対策
 本件許可申請書は,個人被曝管理,施設放射線管理のいずれにおいても,管理目
標,保安教育・健康診断・測定・記録等の実施を述べるだけで,その実施のための
施設機能及び放射線遮断対策について,具体的にどのような機種と技術により管理
を行い,どのような目標値が設定され,その安全管理が現実に適切になされ得るか
といった具体的な安全審査の資料を何一つ明示していない。それ故,申請書がいく
ら諸管理の実施を述べていても,それは内容のない空疎なものでしかない。
 これに対し,安全審査書は,単に申請書が述べる管理対策を列挙し,それに対す
る十分な検討を加えることもなく,漫然と指針に適合するとの結論を下している。
しかし,これでは,指針に記載された諸対策について,申請書で「対策を講じる」
と記載すれば,どのような申請も認められてしまうことになり,その対策が十分な
ものか,その対策を行う能力があるのか,といった安全審査の基本的事項は,何ら
審査されない結果となる。このような本件安全審査には,重大な違法性が存すると
いうべきである。
イ 放射線遮へい対策
 本件許可申請書は,放射線遮へい対策について,単に「濃縮ウラン,天然ウラン
及び劣化ウランからの放射線量率は低く,放射線遮へいは特に必要としない。」と
述べているのみである。
 しかし,加工施設指針5は遮へい対策を義務づけているのであるから,最低限,
放射線量率がどの程度のものであり,放射線遮へいをしないという判断が適正なも
のかどうかという資料が明らかにされる必要がある。これがないままに漫然と申請
書の結論のみの記載を信用して,加工施設指針に記載された対策を不要とする内閣
総理大臣の態度は,およそ安全審査を放棄するものといわざるを得ない。
 被告は,「本件施設においては,ウランを収納する設備・機器からの放射線の線
量率は,設備・機器による遮へい効果等によって低下し,上記放射線による影響
が,放射線業務従事者の放射線被曝を管理する上で問題となるものではない。」と
判断したと述べるが,そのような事情は何ら本件許可申請書に記載されておらず,
加えて線量率がどの程度に低下するのかが不明なもとでは,到底適切な安全審査が
なされたとはいえない。
(被告の反論)
(1) 加工施設指針の問題点について
 加工施設指針は,核燃料安全専門審査会の審査委員等の専門技術的知見を有する
者に対し,申請に係るウラン加工施設の位置,構造及び設備が当該施設の基本設計
ないし基本的設計方針において災害防止上支障がないものとして設置されるもので
あるかどうかを審査において判断するための基本的枠組みを提供するものであれば
足り,ウラン加工施設に関する技術的事項の細部にわたってまで,逐一具体的な指
示を与えるものである必要はない。
 この点,加工施設指針5では,放射線遮へいに関し,必要な箇所に放射線遮へい
を施すことが定められている。さらに,加工施設指針6では,放射線被曝管理に関
し,作業環境における放射線被曝管理としてはサーベイメータ,ダストモニタ等の
監視設備・機器の備付け,防塵マスク等適切な呼吸保護具の備付けなどを,放射線
業務従事者等の個人被曝管理としては必要な線量計の機器の備付けを,それぞれ行
うことが定められている。このように,加工施設指針は,放射線遮へい及び放射線
被曝管理につき,上記の要請を満たす内容を備えている。
(2) 本件安全審査の問題点について
ア 放射線管理の諸対策
 本件許可申請書の添付書類6においては,例えば,施設放射線管理については,
管理区域の放射線管理として,管理区域を設定・区分し,外部放射線量をサーベイ
メータ等によって定期的に測定すること,表面汚染密度をスミヤ法等により定期的
に測定すること,ダストサンプラで試料を採取し空気中の放射性物質濃度を放射能
測定装置で定期的に測定すること,退出モニタ等により第1種管理区域退出時の表
面汚染を測定すること,排気中の放射性物質濃度を排気用モニタにより連続的に監
視すること,及び放射能測定装置により排水中の放射性物質濃度を測定すること,
並びに周辺監視区域の管理として,周辺監視区域を設定し,外部放射線量をモニタ
リングポイントで定期的に測定すること等,具体的な設備の設置及び管理方法が記
載されており,また,個人被曝管理についても,具体的な設備の設置及び管理方法
が明記されている。
 本件安全審査では,上記の点を確認の上,本件施設における放射線管理方法は妥
当であると判断したものである。
イ 放射線遮へい対策
 加工施設指針5において定められた放射線遮へい対策は,放射線業務従事者の被
曝を低減する目的でなされるものであり,例えば,ウランの内在する設備・機器に
対し近距離で,長時間にわたり作業が行われるような場合には,この対策を講じる
必要が生じる。
 ところで,本件施設においては,ウランを収納する設備・機器からの放射線の線
量率は,設備・機器による遮へい効果等によって低下し,上記放射線による影響
が,放射線業務従事者の放射線被曝を管理する上で問題となるほどのものではな
い。そこで,本件安全審査においては,放射線遮へい対策を特に講じる必要はない
と判断した。
7 その他の安全性確保対策
(被告の主張)
(1) 熱的安全設計
 六フッ化ウランを取り扱う原料シリンダ,製品シリンダ及び中間製品容器につい
ては,その使用温度が設計温度である摂氏121度を超えないようにインターロッ
ク等を設けることとなっている。
(2) 過充填に対する考慮
 六フッ化ウランをシリンダ類に充填する際に万一過充填となった場合,その過充
填となったシリンダ類を均質化のために加熱すると破損のおそれがある。このた
め,過充填防止対策として,シリンダ類の重量を測定し,一定量以上の六フッ化ウ
ランは充填できないようなインターロック等を設けることとなっている。
(3) 増設に対する考慮
 カスケード設備等の増設時の考慮として,運転区域に支障を及ぼさないよう運転
区域と増設区域の間には間仕切り壁を設けることとなっている。また,六フッ化ウ
ランを取り扱う配管等のつなぎ込みは,特定のつなぎ込みエリアに集中して管理す
る等,施設の安全性が損なわれないよう適切な対策を講じることとなっている。
(4) その他の安全対策
 緊急時には,必要箇所との連絡を円滑に行うため,非常用通報設備等を設けるこ
ととなっている。
 六フッ化ウランシリンダ類,ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)等の移動に
際しては,漏洩検査を行い漏洩のないことを確認した後移動する等,適切な対策を
講じることとなっている。
 また,安全上重要な施設は,日本工業規格(JIS)等安全上適切と認められる
規格,基準等に準拠するとともに,安全機能を確認するための検査及び試験並びに
安全機能を維持するための保守及び修理ができる設計となっている。
8 検証の結果と本件施設の安全性確保対策の問題点
(原告らの主張)
(1) 中央制御室内の操作機器
 本件施設の中央制御室には,主要な設備の運転中の監視及び操作を行う主盤と,
熱水・低温水の管理を行う補助系統に係るプラント関連盤が設置されている。
 このうち,主盤においては,運転員一人当りが監視・操作しなければならない計
器の数や領域が多岐広範囲にわたっており,誤操作・運転ミスを招来しかねない。
殊に緊急時における正確な操作を確保する措置,なかんずくフェイルセーフの設計
思想に基づく制御機構がどのように工夫されているか定かでない。また,均質槽の
インターロックをバイパスするスイッチや,製品コールドトラップからの移送の弁
操作のためのスイッチなど,極めて重要なスイッチが,安易に誤操作されやすい構
造・配置となっている。
 また,プラント関連盤は,主盤による主要設備の運転・操作と密接不可分な系統
であるにもかかわらず,中央制御室において上記主盤から離隔した位置に設置され
ており,運転員の指揮連携関係も明らかでない。
(2) 非常用電源室及びディーゼル発電機室
ア 直流電源設備及び無停電電源装置
 本件施設の非常用電源室に設置された,直流電源設備及び無停電電源装置は,外
部電源喪失時に本件施設の正常かつ安全な稼働(ないし停止)を確保するために必
要不可欠な設備である。このうち,直流電源設備は,バッテリー(蓄電池)で構成
され,外部電源喪失時に,ディーゼル発電機が起動するまでに要する20秒間の補
助電源として,非常用通報設備,自動火災通報知設備,非常用照明及び無停電電源
装置を機能させる唯一の電力源である。また,無停電電源装置は,定常時は外部電
源を受電し,外部電源喪失時は第1時的に(少なくとも20秒間は)直流電源設備
から受電して本件施設の安全上必要不可欠な計測制御系に電力を供給する装置であ
り,それ自体が電力源ではなく,外部電源が喪失しかつ直流電源設備が機能しない
場合には,この装置も作動しない。
 しかし,これらの設備は,それぞれ1ユニットずつしか設けられておらず,これ
らに対する予備的なバックアップ態勢は設けられていない。このため,仮にこれら
の設備に不具合が生じた場合には,外部電源喪失時に非常用のディーゼル発電機が
所定どおりに起動したとしても,本件施設は一時的に無電源状態に陥る。また,同
様のことは,切替機能が不良の場合にも起こり得る。
 また,直流電源設備のバッテリーの電気容量は約30分間とされているが,これ
は実証されておらず,さらにその有効使用期限や取替期間も不明だから,上記電源
設備の不具合や電気容量の費消によって本件施設は文字どおり無電源状態となり得
る。
 さらに,非常用電源室中央部の天井付近にあるケーブルトレイ上のケーブルは,
すべて非常用電源系ケーブルであるところ,それらの一部は直流電源設備や無停電
電源装置から各設備に電力を供給するためのケーブルであるが,これらはいずれも
金属パイプ等で防護されておらずゴム製のカバーのみのむき出しの状態で,いずれ
も上記の同一のトレイ上を通っている。このような状態では,火災の発生等の一つ
の事故により,安全上重要なすべての機器の電源が同時に完全に失われる危険があ
る。
イ ディーゼル発電機
 本件施設では,ディーゼル発電機は2台設置され,停電信号で自動起動し,約2
0秒で電圧確立した後,電力併給を開始するとされている。
 しかし,自動起動の条件ないし保証は明らかでなく,電圧確立に要する時間も本
件許可申請書では「約20秒」とされるなど確実な根拠がない。
 なお,本件施設では,2台のディーゼル発電機が隣接した部屋にそれぞれ設置さ
れて,法令に基づき月1回の機能試験のほか別個に検査を実施しているとされてい
るが,そのような定期の機能試験ないし検査の各結果は公表されておらず,実証性
を欠いている。ディーゼル発電機は非常用(通常電源喪失時)の唯一の電気供給源
であり,その機能が客観的に検証,実証されない限り本件施設の安全性が立証され
たとはいえない。
(3) 高周波電源室
ア 高周波インバータ装置
 高周波インバータ装置は,遠心分離機に駆動電源を供給するに当たり,周波数を
制御することによって遠心分離機の回転胴の回転数(回転速度)を破損限界以下に
制御することとされている。したがって,この機器が故障しあるいは変調をきたし
た場合,遠心分離機の回転胴の回転数が異常に上昇し,回転胴及び外筒が破損する
危険がある。
 他方,この機器は,遠心分離機に電気を供給しているが,遠心分離機にはバック
アップ電源がないため,この機器の異常により遠心分離機への電気供給が停止する
と,遠心分離機が停止するに至る。この場合,本件施設の遠心分離機は,定格運転
状態から停電が5分間続いた状態で共振点に達するという設計上の欠陥があるた
め,すべての遠心分離機でほぼ同時に共振を生じることになり,振動による金属疲
労を蓄積し,いずれ破損する。
 このように,この機器は,回転数の上昇,停電,いずれの方向ヘの異常も遠心分
離機の破損につながりかねないものであり,高い信頼性が要求されている。
 ところが,この機器は,平成4年の本件施設の慣らし運転中に起こった2度の試
験で2度とも異常を生じて遠心分離機への電気の供給を停止させ,遠心分離機の共
振を引き起こしている。日本原燃の発表によれば,これらの事故は,過電流による
ブレーカーの作動,誤警報によるとされるが,被告は,いまだにこの機器の仕様を
明らかにしない上,核不拡散上の機微情報がないにも拘らず日本原燃の商業秘密と
称して事故原因となる箇所についての検証及び説明を拒否し,「室内入口からの検
証」に固執して高周波インバータ装置を外側からよく見ることすらさせなかった。
このような被告の姿勢からも,高周波インバータ装置が欠陥を抱えており,その欠
陥は裁判結果に影響を及ぼしかねない重大なものであることが推認される。
イ バスダクトないしケーブルダクト
 バスダクトないしケーブルダクトは,高周波インバータ装置から遠心分離機に電
気を供給しているケーブルの一部であり,この機器の故障は,高周波インバータ装
置の故障と同様に,遠心分離機の破損につながりかねない。平成5年6月17日に
本件施設で発生した事故も,このバスダクトにおける絶縁体の損傷と火花の発生が
原因で遠心分離機の手動停止に至るというものであった。日本原燃は,この事故の
原因を施工ミスと説明しているが,設計ミスである可能性が強い。いずれにしても
電気ケーブル類から容易に火花が発生することは,アセトン等の爆発性の薬品類を
使用するにもかかわらず爆発対策の全くない本件施設にとって致命的な欠陥であ
る。
 ところが,内閣総理大臣はやはり,このバスダクトにも核不拡散上の機微情報が
ないにもかかわらず,現に事故が発生したバスダクトを検証目的物とすることに抵
抗し,下から眺めさせるだけで現物を見せなかった。このような内閣総理大臣の姿
勢からも,このバスダクト及びケーブルに深刻な欠陥が存在することが推認され
る。
(4) 中間室
ア ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)
 ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)等については,核的制限値(形状寸法)
が円筒直径で57.55センチメートルとされているが,本件施設はこれを超過し
ているおそれがある。そして本件の検証でこれを計測したところ,外径は約18
3.5センチメートル(直径58.41センチメートル)であった。この事実によ
り,本件施設の臨界管理には重大な疑問が存在する。
 またフッ化ナトリウムの容量によって定まるウラン捕集能力は一基当たり70キ
ログラムとされているが,これによる捕集能力の科学的裏付けはない。また,9
9.99パーセント以上という捕集効率もこれを裏付ける資料がなく,臨界管理上
問題が残る。
イ ケミカルトラップ(アルミナ)
 ケミカルトラップ(アルミナ)は,容量がそもそも不明であり,フッ化水素の除
去効率が99.99パーセント以上というのも根拠がない。また,捕集対象物であ
るフッ化水素の含有量が不明であり,このケミカルトラップ(アルミナ)の能力に
は,多大の疑問がある。
 しかるに,内閣総理大臣は,上記の点について,本件の検証においても,「カス
ケード排気系ケミカルトラップ(アルミナ)のフッ化水素の吸着能力について,本
件施設を数十年運転してもアルミナを交換しなくてもよい程度のアルミナが充てん
されていますが,その捕集絶対量は,日本原燃の企業秘密であり答えられませ
ん」。「カスケード排気系ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)については,こ
の機器に至るまでの配管等に気密性があることから,仮定として,ケミカルトラッ
プ(フッ化ナトリウム)に大量の水分が混入した場合の捕集能力の劣化について
は,仮定上のことですので答えられません」として釈明を拒否した。
 ケミカルトラップは,放射性物質の漏洩防止及び臨界管理という原子力関係施設
の安全確保上最重要の設備であり,この安全性について被告が具体的な釈明(主
張,反証)をなし得ない以上,少なくともこの点で,本件施設の危険性が推認され
たものというべきである。
(5) 発生回収室
ア 発生槽
 発生槽では,原料六フッ化ウランを充填した原料シリンダを温熱水をシャワー状
に浴びせて加熱し,六フッ化ウランを気化させているが,六フッ化ウランのカスケ
ード設備への移送工程に目詰まりなどが生じると,工程の圧力が大気圧を超え,配
管の溶接部,弁,継ぎ手のパッキングなどから六フッ化ウランが漏出する可能性が
ある。
 この設備においては,温熱水とシリンダが直接に接するため,シリンダのバルブ
などから原料六フッ化ウランが漏出すると,水と六フッ化ウランが急激な発熱反応
を引き起こし,フッ化ウラニルとフッ化水素が発生する。フッ化ウラニルとフッ化
水素には生物的急性毒性があり,吸い込むと喉頭,気管支,肺などを損傷し,肺水
腫を引き起こし,死亡例も報告されている。また,フッ化水素は強い腐食性があ
り,大規模な漏洩につながる。
 臨界管理上も,六フッ化ウランと水が直接に接するため,臨界に達しやすい。
イ 製品コールドトラップ
 カスケード設備から製品コールドトラップに六フッ化ウランガスを供給するライ
ンと,製品コールドトラップから製品回収槽へ製品六フッ化ウランガスを移送する
ラインは,一つの配管が兼ねることとなっていることが検証で確認されたが,この
二つの機能の切換操作については,弁の開閉を手動操作で行うものと説明されてい
るが,この手動操作を誤れば製品六フッ化ウランガスがカスケード設備に逆流する
ような事故が発生する可能性がある。
 そして,製品コールドトラップには,六フッ化ウランの漏洩検出装置は設置され
ていない。被告は,六フッ化ウランの漏洩検出装置を設置しない理由を,「六フッ
化ウランは大気圧以下で取り扱われる」ためとしているが,定格運転時には六フッ
化ウランが大気圧以下で取り扱うこととなっていても,事故時に六フッ化ウランの
固化や,排気系の停電による機能喪失などの原因によって,同機器内の六フッ化ウ
ランが大気圧を超えることは十分考えられるところであって,漏洩検出装置を設置
しない設計は正当化できない。
ウ 製品回収槽
 製品回収槽では,製品コールドトラップから再加熱されて送られてくる製品六フ
ッ化ウランガスを冷気によって間接冷却された中間製品容器に充填していく工程が
実施されている。
 この工程においては,中間製品容器の過充填の危険がある。空気冷却の能力が不
十分だったり,重量測定機の故障,インターロック回路の故障によりインターロッ
クが働かないときは,この機器内の六フッ化ウランが大気圧以上となり,ついには
配管の溶接部,弁,継ぎ手のパッキング部分などから漏洩する可能性がある。
 にもかかわらず,この工程にも六フッ化ウランの漏洩検出装置は設置されておら
ず,製品コールドトラップと同様の問題がある。
エ 廃品回収槽
 この設備は,カスケード設備から送られてきた廃品六フッ化ウランガスを低温の
水で直接冷却された廃品シリンダーに充填していく工程が実施されている。ここで
は,シリンダと水が接することから,発生槽と同様の危険性がある。
 また,廃品系には,この廃品回収槽の前段に2段のコンプレッサが設置されてお
り,このコンプレッサにより六フッ化ウランガスが加圧されている。冷却能力が十
分でないと,コンプレッサによる過剰な加圧が加わり,配管の溶接部,弁,継ぎ手
のパッキング部などから六フッ化ウランが漏洩する可能性がある。
 にもかかわらず,この工程にも六フッ化ウランの漏洩検出装置は設置されていな
い。
(6) 均質室
 均質槽は,濃縮六フッ化ウランを密閉状態で加熱して液化するため,当然に六フ
ッ化ウランが大気圧以上に加圧された状態で扱われる。そのために機器・配管の破
損があれば,その中の六フツ化ウランの大半が外部に漏洩する。この点についての
安全対策としては,密閉する弁までの配管について配管カバーを設け,その内側で
配管が破断した場合には,工程用モニタでフッ化水素を検出して,配管カバーから
の排気をフッ化水素吸着器を経由する局所排気設備に切り替えることとされてい
る。本件施設では,機器・配管の破損による六フッ化ウラン漏洩時の対策は,実に
これのみである。
 しかし,まず局所排気設備への切替えは二つの弁を信号により同時に開閉するこ
とで行うが,これが失敗すれば六フッ化ウランガスが一般の排気系に流出し,その
場合フッ化水素によりエアフィルタが機能を喪失し,六フッ化ウランの大半が施設
外に漏洩することになる。本件許可申請書及び安全審査書では,この切替え失敗を
全く想定しておらず,局所排気設備でフッ化水素吸着器を経由した場合についての
みエアファルタの健全性を論じている。
 本件許可申請書によれば,エアフィルタの性能は69グラムのフッ化水素で劣化
するところ,六フッ化ウランガスが一般の排気系に流出した場合,1.1キログラ
ムのフッ化水素がエアフィルタに到着するので,エアフィルタによる捕集はほとん
ど期待できない。この切替え失敗は工程用モニターの故障,切替えの信号系の故
障,弁の故障等の原因から発生し得る。これらの機器の信頼性や工程用モニタの設
定値については,本件許可申請書においても,被告の主張立証においても全く明ら
かにされていない。
 その上,検証において,工程用モニタは,均質槽及び配管カバーから十数メート
ル離れた位置にあり,配管カバーとはゴム製ホースによって連絡され,フッ化水素
がそのゴム製のホースを通って工程用モニタに達して初めて検出されることが判明
した。したがって,このゴム製のホースが破断ないし閉塞した場合は,大量の六フ
ッ化ウラン漏洩があっても工程用モニタはフッ化水素を検出できず,「局所排気設
備」ヘの切替えは行われず,六フッ化ウランが大量に施設外に漏洩することにな
る。
 さらに,配管カバー外での配管の破損については対策がなされていない。例え
ば,内閣総理大臣の指示説明にある濃縮度調整工程では,均質槽二つと原料シリン
ダ槽を結んで中間製品容器と原料シリンダを加熱する。このとき,正しい手順では
均質槽のうち一つには空の中間製品容器を装着することになっているが,この際
に,六フッ化ウランの充填された中間製品容器を装着した場合,配管カバー外の配
管部分も加圧され,六フッ化ウランが大気圧以上で取り扱われることになる。この
場合の配管破断は,本件安全審査で想定しているよりも更に大きな漏洩(およそ2
倍の量)につながるが,この場合について特段の対策はなく,本件施設内に漏洩し
た六フッ化ウランのほぼ全量が施設外に漏洩することになる。
 なお,均質槽,製品シリンダ槽には,過充填を防ぐために重量測定によるインタ
ーロックが設けられているとされているが,重量計はシリンダの置き方により測定
ミスを生じ得るし,インターロックもバイパスされ得る。その場合,セコイヤ工場
で発生したようなシリンダの破損による六フッ化ウラン漏洩事故が生じ得る。
(7) 管理廃水処理室
 液体廃棄物は,廃水口から尾駮沼ヘ放出されるが,ここでは六ヶ所村民が現に漁
業を営んでおり,漁獲物は六ヶ所村と周辺市町村で消費されている。しかし,放射
能濃度が線量当量限度等を定める件で定める濃度限度以下であることが正しく確認
される保証がないばかりか,微量でも放射能は生体濃縮するので,人体,環境にと
って危険かつ有害である。
(8) 排気室
 核廃棄設備のプレフィルタや高性能エアフィルタなどの構成機器の具体的性能に
ついては,本件許可申請書や安全審査書に何らの記載や説明もない。
 また,排気用モニタは,すべての放射性物質とその濃度を測定できる性能を有し
ない上,本件の検証では,このモニタが排気中の放射性物質の濃度限度以下になっ
た場合に警報を発するのみで,自動排気停止装置を備えていないことが判明した。
したがって,電源喪失事故が発生したが警報が作動しなかった場合,放射能の無制
限な外部放出の危険を招来しかねない。
(9) ウラン貯蔵庫
 本件許可申請書によると,シリンダは,「落下試験により安全性が確認されてい
る範囲内に吊り上げ高さを制限するので…運搬中に落下したとしてもUF6の漏洩
が発生することはない」とされている。
 この点,衝撃に対する強度は,製品六フッ化ウラン用の30Bシリンダの場合,
重量は約3トンで,試験条件は高さ1.2メートルからの落下となる。検証時に内
閣総理大臣が「各シリンダーの吊り上げ高さは,床面から1.2メートルまでに制
限されています」と説明しているのはこのことを意味する。これに対し,原料六フ
ッ化ウラン用の48Yシリンダは,L型(1991年からはLSA―I型)に分類
され,法令上の試験条件はない。仮に一般の試験条件を適用したとしても,総重量
15トンにもなるこの容器の条件は,何と0.3メートルからの落下に耐え得る程
度でしかない。
 また,核分裂性物質である濃縮六フッ化ウランには,特別の試験条件として高さ
9メートルからの落下試験が適用される。しかし,輸送中の事故を考えると,この
落下に耐えることが容器の強度の基準になったとしても,まだ不足である。
 このように,シリンダの強度は,極めて脆弱なものである。
9 本件施設における事故例と本件施設の安全性確保対策の問題点
(原告らの主張)
(1) 平成4年1月26日及び同年2月24日の事故
 これらの事故は,わずか一か月のうちに2度,それも,連続運転中ではなく停電
再起動試験を行った2度の機会のいずれにも事故が起こったというものであり,本
件施設の電源系統に深刻な欠陥があることを示すもので,外部電源そのものの喪失
ではないものの,遠心分離機に関して外部電源喪失の場合に類する危険を内包して
いる。
(2) 平成4年6月17日の事故
ア 施工の杜撰さ
 バスダクトの支持取付けに当たり熱膨張を考慮しないということは,極めて初歩
的な施工ミスであってそれ自体論外であるし,他の箇所についても到底まともに施
工されているとは思えない。
イ 電気系統の事故の頻発
 上記事故で示されたような電気系統の施工ないし設計における欠陥のある本件施
設においては,同じように,電気火花が生じたり,電気系統の故障から停電事故が
頻発することが予測される。
(3) 平成6年2月7日の事故
ア 共用に対する考慮
 本件安全審査において用いられた加工施設指針は,19「共用に対する考慮」と
して,「核燃料施設における安全上重要な施設は共用によってその安全機能を失う
おそれのある場合には共用しない設計であること」とし,その解説においては,
「安全上重要な施設のうち当該加工施設以外の原子力施設との間,又は当該加工施
設内で共用するものについては,その機能,構造等から判断して共用によって当該
加工施設の安全性に支障をきたさないことを確認すること」とされている。ここで
は,他の原子力施設との共用だけでなく,当該加工施設内の共用も問題とされてい
る。
 そして,本件安全審査では,本件許可申請書の添付書類5に「共用に対する考
慮」「本施設において安全上重要な施設で他の原子力施設等と共用するものはな
い」とあるだけで,安全審査書ではこの点について全く言及されていない。すなわ
ち,本件安全審査においては共用に対する考慮について具体的な審査は行われず,
特に施設内の共用については何ら審査されなかった。その結果,本件施設では,施
設内の共用について全く設計上の配慮がされず,多くの施設,機器が,その機器喪
失により安全性が著しく損なわれるおそれがある伝送ラインとシーケンサを共用す
るに至り,そのため上記のような事故が発生拡大したものである。
 このように,上記事故により明らかになった伝送ラインとシーケンサ共用の実態
は,加工施設指針19に違反しており,その審査を行わなかった本件安全審査は違
法である。
イ フェイル・セーフの不採用
 原子力施設において重要な機器につきフェイル・セーフの設計を採用するか否か
は,正しく基本的な設計方針の問題である。加工施設指針は,それ自体時代遅れの
不合理なものであるから,その中にはフェイル・セーフの採否に言及した部分はな
いが,原子力発電所に係る安全審査では必ず触れられている点である。
 ところが,本件安全審査においては,インターロックの採用は数箇所で言及され
ているが,フェイル・セーフの採否については本件許可申請書にも安全審査書にも
一言の言及もない。その結果,本件施設ではフェイル・セーフの設計思想は全く採
用されず,上記事故も,シーケンサにフェイル・セーフの設計思想が採用されてい
なかったために発生拡大したものである。
 したがって,この事故により明らかになった本件施設でのフェイル・セーフの不
採用は,本件安全審査の違法性を示すというべきである。
ウ 事故解析条件の誤り
 本件安全審査では,加工施設指針が時代遅れの不合理なもので,事故の解析にお
いて事故発生防止・拡大防止機能についての故障を想定すべきことすら規定されて
いないこともあり,最大想定事故とした均質槽の配管カバー内配管破損事故の解析
に当たり,安全保護のための機器が一つの故障もなく作動するという前提で事故解
析を行っている。
 しかし,上記事故では,それらの事故拡大防止機能が一切働かない状態が現に発
生しているのであり,そのような安易な事故解析条件の設定は,正しく不合理なも
のというべきである。
 したがって,上記事故は,本件安全審査の事故解析条件の設定,ひいては事故解
析そのものの不合理性を明らかにしたものである。
(被告の反論)
(1) 平成4年1月26日及び同年2月24日の停電再起動試験について
 原告らは,上記事象により,本件施設の電源系統には深刻な欠陥があることが露
呈されたと主張する。
 しかしながら,停電再起動試験とは,そもそも施設の安全機能の実証を目的とす
るものではなく,慣らし運転の一環として,短時間の停電が発生しても運転の継続
への影響がないことを確認するという専ら営業上の観点から,原燃産業が自主的に
行ったものである。すなわち,遠心分離機の電源が何らかの理由により失われた場
合には,その回転速度は次第に低下するところ,停電が短時間にとどまり回転速度
が一定の範囲内にあれば,電源が復旧した際に,その状態で遠心分離機に電気を供
給し,通常運転時の回転速度に短時間で復帰させることが可能であり,本試験は,
この点を検証するための試験であり,したがって,そもそも施設の安全機能の実証
を目的とするものではない。したがって,上記各事象は,いずれも施設の安全性を
左右するものではなく,この点に係る原告らの主張は,本件訴訟の審理の対象とは
ならないものである。
 また,上記事象の原因については,既に高周波電源設備の電流の変動を抑える回
路の調整,電源を切った時のサージ抑制,接地方法の改善などの適切な対応策が講
じられた結果,正常な作動が現に確認されているものであるから,原告らの上記主
張は何ら根拠がなく,失当である。
(2) 平成4年6月17日の運転停止について
 上記運転停止は,バスダクトの施工上の不具合に起因するものであり,本件安全
審査の対象である本件施設の基本設計ないし基本的設計方針に起因して発生したも
のではないから,上記事象は,本件安全審査とは無関係であり,したがって本件訴
訟の審理の対象とはならない。
(3) 平成6年2月7日の計測制御設備異常発生に伴う運転停止について
 この事象は,本件安全審査の対象である本件施設の基本設計ないし基本的設計方
針に起因して発生したものではなく,したがって,上記事象の発生が何ら本件安全
審査の合理性を左右するものではないが,念のため,原告らの主張に対し必要な反
論をすることとする。
ア 共用に対する考慮
 機器の制御を行うシーケンサと機器自体は当然接続されるべきものであり,か
つ,伝送ラインを介してコントローラ,他のシーケンサ等との間で信号の送受信を
行い機器を制御するシーケンサは,伝送ラインとは当然接続されるものである。し
たがって,上記接続は共用というべきものではない。
イ フェイル・セーフの不採用
 本件安全審査においては,自動弁(空気作動弁)を作動させるための空気及び電
源の喪失時の対策として,万一,空気又は電源が喪失した場合は,自動弁がその弁
特性により自動閉となり六フッ化ウランを工程内に閉じ込める設計とするというよ
うに,フェイル・セーフの設計思想に立ち本件施設にとって必要な対策が講じられ
ていることを確認している。
 なお,何らかの異常事態に際しては,その事態の規模や形態に応じて適切な措置
が執られれば良いのであって,例えば,シーケンサについては,その機能が停止し
た場合には,直ちに運転状態を確認し,必要に応じて機器の操作を行う等の手段が
用意されていれば足りるのであり,必ずしもそれらのすべての監視・操作が中央制
御室で実施できなければならないものではない。現に,上記事象に際しては,ホッ
ト定格モードであった1B及び1Dカスケード並びに全還流モードであった1Aカ
スケードに,いずれも安全上の問題は生じなかったので,これらを直ちに全還流モ
ードにする必要性は認められなかった。また,加熱の停止についても,六フッ化ウ
ランの温度等に関しては,上記事象の継続中も安全に監視・制御がされていたので
あるから,過加熱に至る危険性はなく,自動的に加熱を停止する必要性は認められ
なかった。したがって,どのような事態であっても全還流モードへの移行や,加熱
の停止等が行われなければならないとする原告らの主張は,失当である。
ウ 事故解析条件の誤り
 本件安全審査においては,緊急しゃ断弁及び局所排気設備の系統を切り替えるダ
ンパ(弁)が多重化され,十分な信頼性を有する設計とすることを確認しており,
最大想定事故が発生した際にこれらの機器が作動しないということは技術的に考え
られないから,原告ら主張のような想定をしないことに不合理はない。
 なお,本件施設においては,これらの機器は,伝送ラインとは別系統のハードワ
イヤーを介して制御されており,本件事象による影響は受けていない。
10 他の原子力施設における事故例と本件施設の安全性確保対策の問題点
(原告らの主張)
 被告は,本件安全審査について,諸設備が申請書どおりに稼働することを前提と
するのみで,それ以外に安全性の論拠を何ら挙げていないが,本件許可申請書の予
想するとおりに諸設備が稼働するのか,事故が起こっても申請書どおりに防護され
るのかについては,本件許可申請書から独立した批判的検討が必要である。
 にもかかわらず,本件安全審査は,本件施設と同種の施設で現に生じた以下の事
故についてさえ,これが起こり得ないという根拠を示していない。これでは,十分
な安全審査が行われたとは到底いい得ず,むしろ,本件安全審査は事業者の申請内
容を鵜呑みにした杜撰なものであるというべきである。
(1) 動燃事業団人形峠事業所ウラン濃縮試験工場における爆発事故
 この事故は,昭和58年2月3日,上記工場の排水のウラン濃度をチェックする
化学分析室で,廃液の加熱処理中にガラス製ビーカーが爆発したもので,首などに
ガラス破片が刺さった職員が出血多量で死亡した。
 被告は,この事故は六フッ化ウランを取り扱うことに起因するものではなく,濃
縮施設固有の技術的欠陥あるいは濃縮の作業工程が内包する固有の危険ではないか
ら本件施設の危険性を裏付けるものではないと主張する。しかし,この事故は廃液
処理の際に起きた事故であり,廃液処理も工程の一部であって,廃液処理の過程で
起きる事故を,本件施設の持つ危険性から排除することはできない。しかるに,そ
もそも本件許可申請書は,廃液処理としてどのような化学反応が行われるのか等の
具体的工程を何ら明らかにしておらず,本件施設と同種の施設で現に生じたこのよ
うな事故についてさえ,それが起こり得ないという根拠を示していない。これでは
十分な安全審査が行われたとは到底いい得ない。
(2) セコイヤ燃料会社転換工場におけるシリンダ破裂事故
 この事故は,1986年(昭和61年)1月4日,アメリカ合衆国オクラホマ州
ゴアのセコイヤ燃料会社転換工場で天然ウランのイエローケーキ(八酸化三ウラ
ン)を六フッ化ウランに変える転換作業中,製品六フッ化ウランを輸送用容器(シ
リンダ)に詰める工程において,計量ミスのために最大充填量である約12.5ト
ンを超えて六フッ化ウランが充填されているのに気づいた作業員が,過剰分の約9
百キログラムを気化してプラントに戻そうと蒸気加熱したところ,シリンダが破裂
したというものである。
 この事故により,約30分ないし40分の間に,容器内のおよそ13.4トンの
六フッ化ウランがすべて放出され,空気中の水分と反応してフッ化水素及びフッ化
ウラニルとなり,工場内の労働者と周辺住民を襲った。これにより,作業員一人が
フッ化水素を吸い込んで肺が焼けただれ呼吸困難となったのが原因で死亡したほ
か,作業員17人と住民11人が病院に収容され,百人以上が病院で手当てを受け
た。また,入院者は,その後退院できたものの,呼吸障害の重い人,尿中のウラン
量がかなり多い人もいるといわれている。このほか,重い粒子であるフッ化ウラニ
ルは,大部分が工場内と近くのハイウェイに落ち,周辺の環境を広く汚染し,汚染
による長期的影響が懸念されている。
 この工場においては,操作マニュアルでは過充填された六フッ化ウランは加熱せ
ず移送することになっており,作業員らは当初そのように移送しようとしたのであ
るが,六フッ化ウランが冷えて固化してきたため移送がうまくいかず,当直責任者
の不在もあって,現場の人為ミスによりシリンダを建屋外に運び出して加熱してお
り,規定どおりであれば起こらないはずのことが起こっている。このようにマニュ
アルどおりに事が進まなかった場合に現場の判断で処置がされて起こり得る人為ミ
スの可能性は本件施設にも存在し,このような事故は本件施設においても起こり得
る。この点について被告は何ら反論をしていない。
(3) ポーツマスウラン濃縮工場における六フッ化ウラン漏洩事故
 この事故は,1986年(昭和61年)1月10日,アメリカ合衆国オハイオ州
パイクトンの政府(エネルギー省)所有のポーツマスウラン濃縮工場で監視システ
ムのデータの見直しをしたところ,1985年(昭和60年)12月27日から一
週間の間に約21キログラムの六フッ化ウランガスが空気中に漏れていたことが判
明したというものである。
 被告は,ポーツマス濃縮工場は,ガス拡散法を用いており,遠心分離法を採用し
ている本件施設と同一に論じられないとするが,いずれの方法もウランを気体の六
フッ化ウランにして扱うのであり,気体の六フッ化ウランが排気中に流入した場合
の危険性において同様である。
 また,被告は,本件許可申請書ではケミカルトラップ(アルミナ)のほかにケミ
カルトラップ(フッ化ナトリウム)と高性能エアフィルタが設置され,モニタで監
視することとされているから環境に悪影響はあり得ないとするが,地震や爆発事故
によってこれらの機能に支障が生じないのか等について,事故解析はされていな
い。
(4) JCO東海事業所転換試験棟での臨界事故
ア 臨界事故を想定しない誤り
 JCO東海事業所においては,加工事業許可(変更)申請書上,「いかなる場合
でも安全であるよう十分な設計がなされているので臨界事故は起こり得ない。」と
明記されていたが,現実には臨界事故が発生した。
 本件施設の安全審査においては,上記と同様に「いかなる場合でも安全であるよ
う十分な設計と管理が行われるので臨界事故が起こることはない。」として,臨界
事故を全く想定せず事故評価をしない申請を承認,許可している。
 しかし,本件施設においても臨界事故の危険はあるし,また,全く同様の申請が
なされていたJCO東海事業所で現実に臨界事故が発生した事実にかんがみれば,
本件施設においても当然に臨界事故を想定すべきである。したがって,事故想定及
び事故評価を行わなかった本件安全審査には看過し難い過誤,欠落があるというべ
きである。
イ 最大想定事故の非現実性
 JCO東海事業所の加工事業許可申請書では,転換試験棟における最大想定事故
について,臨界事故は想定せずに六フッ化ウランの漏洩事故を想定し,事故による
周辺監視区域外の一般公衆の最大被曝量を9ナノシーベルト(ナノは10億分の
1)であるとしている。
 しかし,上記事故で科学技術庁が事故調査委員会に報告した被曝量評価では,敷
地境界における被曝量は160ミリシーベルトとされている。この評価は様々な仮
定を前提としたものであり,しかもその根拠となるデータが極めて少ないもので,
原告らはなお過小評価であるという疑義を持っているものであるが,この科学技術
庁の評価を前提としても,実際に起こった事故は安全審査での最大想定事故の17
78万倍の規模となっている。この事実は,従前から原告らが安全審査における最
大想定事故の想定が余りにも過小であり,非現実的であると主張してきたことを裏
付けるものである。
 この点からも本件安全審査には看過し難い過誤,欠落があるというべきである。
(被告の反論)
(1) 動燃事業団人形峠事業所における事故について
 原告らの主張に係るガラス製ビーカーの破裂事故は,上記事業所ウラン濃縮試験
工場内の化学分析室で,廃液中の有機物を除去するために硝酸と過塩素酸を加えて
分離処理を行っていたところ,上記有機物と過塩素酸とが急激に反応したことによ
りビーカーが破裂したもので,たまたま破裂したビーカーのあるフード内を覗き込
んでいた作業者1名が,ビーカーの破片で頸動脈を切り出血多量で死亡するに至っ
たものである。
 しかしながら,上記事故は,廃液中の有機物と過塩素酸とが急激に反応すること
により発生したものであり,六フッ化ウランを取り扱うことに起因するものではな
く,また,濃縮施設固有の技術的欠陥あるいは濃縮の作業工程が内包する固有の危
険性に起因して発生したものでもないのであるから,原告らの主張は,六フッ化ウ
ランや本件施設の危険性を何ら裏付けるものではない。
 また,そもそも本件施設において施設外への放射性物質の放出につながるような
火災・爆発を発生させるおそれのある危険物の取り扱いに関しては,本件安全審査
において,火災・爆発に対する考慮に係る基本設計及び基本的設計方針において妥
当なものであることを確認しているところ,上記事故は,およそ施設外への放射性
物質の放出につながるようなものではなく,上記事故に係る危険性に対する考慮
は,本件安全審査の対象となる事項ではない。
(2) セコイヤ燃料会社転換工場におけるシリンダ破裂事故について
 この事故の原因は,(a)従業員の操作ミスにより,シリンダを乗せた台車が重
量計の上に正しく置かれなかったために,制限充填量を超える六フッ化ウランが充
填されてしまったこと,(b)米国の取扱基準及びセコイヤ社の運転要領が禁止し
ているにもかかわらず,過充填されたシリンダを加熱処理したこと,(c)加熱が
行われた場所が屋外であり,密閉構造とはなっておらず,かつ,排気処理設備も設
置されていなかったため,漏洩した六フッ化ウランが直接大気中に放出されたこ
と,の3点であると考えられている。しかし,本件施設においては,上記事故例の
ような六フッ化ウランの放出はあり得ない。
 まず,上記(a)の点については,本件施設では,誤操作を排除すべくシリンダ
の最大充填量を超えないように重量測定によるインターロック等が設けられること
とされているなど,過充填に対する適切な対策が講じられていることを本件安全審
査において確認している。また,上記(b)の点については,万一過充填された場
合には,シリンダを加熱せずに,最大充填量以下になるまで六フッ化ウランを移送
することとされている。さらに,上記(c)の点については,上記の処理が行われ
る発生回収室を含む第1種管理区域は,排気設備により負圧に維持されるととも
に,第1種管理区域からの排気は,高性能エアフィルタ等により処理した後,排気
口を通じて屋外へ排出する構造とされている。
 本件安全審査においては,上記各対策が採られることとされていることを確認し
ており,本件施設においては,上記セコイヤ燃料会社転換工場の事故のような六フ
ッ化ウランの大気中への大量放出は起こり得ない。
(3) ポーツマス濃縮工場における六フッ化ウラン漏洩事故について
 そもそも,上記工場はガス拡散法によるウラン濃縮を行っているものであって,
遠心分離法を採用している本件施設と同一に論じることはできない。
 また,本件安全審査においては,本件施設の排気系設備について,(a)本件施
設の排気系は,ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)及び高性能エアフィルタに
より放射性物質の除去等の処理を行った後,排気口から排出されることとされてい
ること,(b)排気口から排出する排気中の放射性物質の濃度は排気用モニタによ
り連続的に監視することとされており,万一にも周辺の環境に悪影響を及ぼさない
こととされていること,(c)本件施設のケミカルトラップ,高性能エアフィルタ
等の設備・機器については適切な耐震設計がされること,(d)本件施設の主工程
においては,可燃性又は爆発性の物質を使用しないこと等火災・爆発に対する適切
な考慮が払われており,本件施設において爆発が発生することは考えられないこ
と,以上の点を確認しており,本件施設で,ポーツマス濃縮工場で発生したような
六フッ化ウランの漏洩が起こることはないし,ケミカルトラップや高性能エアフィ
ルタ等の諸設備について,地震や爆発事故によってその機能に支障が生じることを
想定して事故解析をする必要もない。
(4) JCO東海事業所の事故について
 原告らはJCOのウラン加工工場が,申請書上では「いかなる場合でも安全であ
るような十分な設計がなされているので臨界事故は起こり得ない。」としていたの
に,平成11年9月30日臨界事故が発生したことを指摘して,本件安全審査にお
いて臨界事故を想定しなかったことは看過し難い過誤,欠落に当たると主張する。
 しかしながら,JCOウラン加工工場と本件施設とは,同じく加工の事業許可に
係る施設であるとはいえ,工場が担う目的や作業内容が異なり,取り扱うウランの
性状や設置される機器・設備等が全く違うのであり,両者を直接比較することはで
きない。したがって,JCO事故をもって,本件施設においても臨界事故の発生を
想定すべきであるとするのは,いかにも短絡的である。
 JCOウラン加工工場転換試験棟では,ウラン粉末に硝酸を加えて溶解し,濃縮
度18.8パーセントの硝酸ウラニル溶液を製造し,濃度を均一化する作業をして
いた。一方,本件施設においては,取り扱うウランは六フッ化ウランであり,濃縮
度は5パーセント以下である。すなわち,濃縮度18.8パーセントのウランを取
り扱うこともなければ,硝酸ウラニル溶液を製造する作業自体存在しないのである
から,JCO事故は,本件施設では発生し得ない。
 しかも,JCO事故の原因は,許可申請書上の装置や社内で作成された手順書を
も無視して,認可された保安規定上の核的制限値を超えるウラン溶液を注入する作
業が行われたことにある。したがって,上記事故原因が許認可上の事項とは全く異
なるものであることは明らかである。
 以上のとおり,JCO事故を取り上げて,本件安全審査において臨界事故を想定
しなかったことに看過し難い過誤,欠落があるとする原告らの主張は失当である。
第4 公共の安全性確保
(被告の主張)
1 加工施設指針の規定
 加工施設指針は,念のため,安全上重要な施設との関連において,最悪の場合,
技術的にみて発生が想定される事故のうちで,一般公衆の被曝線量が最大となるも
のを最大想定事故として,これが発生するとした場合でも一般公衆に対して過度の
放射線被曝を及ぼさないことを確認することとしている。
 事故時の評価に当たっては,まず,事故の選定が妥当なものであるかどうかにつ
いて判断する。すなわち,ウラン加工施設の設計に即し,(a)有機溶媒等の火
災・爆発,(b)六フッ化ウラン等の飛散,漏洩,(c)自然災害等の事故の発生
の可能性を技術的観点から十分に検討し,最悪の場合,技術的にみて発生が想定さ
れる事故であって,一般公衆の放射線被曝の観点からみて重要と考えられる事故を
選定していることを確認する。次に,ウラン総放出量の計算が妥当なものであるか
どうかについて判断する。すなわち,選定した事故について,(a)ウランの形
態・性状及び存在量,(b)事故時の閉込め機能(高性能エアフィルタ等の除去系
の機能を除く。)の健全性,(c)排気系への移行率,(d)高性能エアフィルタ
等除去系の捕集効率について十分に検討し,安全裕度のある条件を設定してウラン
の総放出量を計算するが,その想定した条件が妥当なものであることを確認する。
最後に,選定した事故のうち最大のウラン総放出量を与える事故を最大想定事故と
して設定し,この最大想定事故により一般公衆に対して過度の放射線被曝を及ぼさ
ないかどうかについて判断する。すなわち,最大想定事故時のウランの総放出量に
基づき,十分な安全裕度のある拡散条件等を設定して一般公衆の被曝線量を計算
し,一般公衆に対して過度の放射線被曝を及ぼさないことを確認する。ただし,加
工施設指針は,十分な安全裕度のある拡散条件を考慮しても一般公衆の被曝線量が
極めて小さくなることが明らかな場合には,被曝線量の評価を要しないものとして
いる。
2 本件安全審査の内容
(1) 最大想定事故選定の妥当性
 本件許可申請においては,以下のとおり,種々の事故の発生を想定し,その事故
の程度や影響について検討した上で,最大想定事故として均質・ブレンディング設
備の均質槽の中間製品容器へ続く配管の破損を想定している。本件安全審査におい
ては,これらの各事故評価につき審査した結果,均質・ブレンディング設備の均質
槽の中間製品容器へ続く配管の破損事故を最大想定事故として選定した申請者の判
断を妥当と判断した。
ア 本件許可申請書添付書類7においては,六フッ化ウランの漏洩による事故の程
度及び影響として,六フッ化ウラン処理設備,均質・ブレンディング設備,貯蔵設
備,カスケード設備,気体廃棄物の廃棄設備及び液体廃棄物の廃棄設備の各設備ご
とに,圧力条件,設備・機器の構造等の観点を踏まえて,六フッ化ウランの漏洩の
可能性が検討されたその結果が示されているほか,自然現象等による事故,火災・
爆発等による事故,外部電源喪失による事故,臨界による事故についても,事故の
影響や程度の評価結果が示されている。
イ 各設備における六フッ化ウラン漏洩の可能性を検討したところでは,六フッ化
ウラン処理設備については,六フッ化ウランを大気圧以下で取り扱うので設備・機
器の故障等により六フッ化ウランが設備外へ漏洩することはないとされ,貯蔵設備
については,六フッ化ウランシリンダ類は落下試験により安全性が確認されている
範囲内に吊り上げ高さを制限するので万1六フッ化ウランシリンダ類が運搬中に落
下したとしても六フッ化ウランの漏洩が発生することはないとされている。また,
カスケード設備については,遠心分離機の回転体の破損が想定された上で,遠心機
の回転体が破損しても外筒(ケーシング)の真空気密性能が十分に保たれるように
強度設計を行い破損試験により強度は確認しているので六フッ化ウランの漏洩が発
生することはないとされ,気体廃棄物の廃棄設備については,高性能エアフィルタ
が破損した場合及び排風機が故障により停止した場合が想定され,いずれの場合に
おいても安全上問題がないとされている。さらに,液体廃棄物の廃棄設備について
も,本件許可申請書添付書類に記載された漏洩対策が行われることにより,許容濃
度以上の放射性液体廃棄物が周辺環境へ漏れ出ることはないとされている。
ウ 自然現象のうち,地震による事故の評価については,本件施設の建物・構築物
及び設備・機器の耐震設計は,本件許可申請書添付書類の記載のとおりに行われる
ので,地震が起こった場合でも六フッ化ウランは配管等に閉じ込められ,災害が起
こることはないとされ,また,過去の地震の記録から本件敷地周辺では,大地震の
おそれは極めて小さいとされている。
 その他の自然現象等による事故の評価については,台風及び積雪に対する安全設
計は,本件許可申請書添付書類の記載のとおりに行われるので,台風及び積雪によ
る事故のおそれはなく,また,適切な接地設計等が行われるので,雷により本件施
設の安全性が損なわれるおそれはなく,さらに,支持地盤は,十分な地耐力を有す
る鷹架層の砂岩・凝灰岩類であり,過去に地滑り,陥没の発生した例もないこと等
から,地盤を原因とする事故のおそれもないとされている。
エ 火災・爆発等による事故の評価については,本件施設では火災が拡大するおそ
れがなく,六フッ化ウランが設備の外に漏洩する事故には至らないとされ,また,
外部電源喪失による事故についても,本件許可申請書添付書類記載の対策が講じら
れるので,事故が起こることはないとされ,さらに,臨界による事故の評価につい
ては,適切な設計と管理が行われることから臨界事故が起こることはないとされて
いる。
オ 一方,均質・ブレンディング設備については,上記設備が六フッ化ウランを大
気圧以上の圧力条件で取り扱うものであるところ,大気圧以上の圧力条件の下で六
フッ化ウランを取り扱う系は,大気圧未満で六フッ化ウランを取り扱う系よりも,
破損が起こった場合の六フッ化ウランの漏洩量が大きくなるとして,一般公衆の被
曝線量が最大となる事故,すなわち外部環境へのウラン放出量が最大となる事故の
評価結果が示されている。
 まず,同設備の均質処理工程(均質槽に装着された中間製品容器内の六フッ化ウ
ランの均質処理を行う工程)で取り扱われる中間製品容器については,高圧ガス取
締法(昭和26年法律第204号)に基づき,1平方センチメートル当たり14キ
ログラム重(ゲージ圧力)の設計圧力及び摂氏121度の設計温度で設計,製作及
び試験を行ったものが,1平方センチメートル当たり約2.7キログラム重(ゲー
ジ圧力)以下の使用圧力及び摂氏94度以下の使用温度との各条件で使用されるた
め,中間製品容器の安全性は確保できるとされている。また,同工程においては,
均質槽は密封状態で使用され,しかも均質槽自体が均質操作時の最高使用温度摂氏
94度における六フッ化ウランの飽和蒸気圧に対して余裕のある強度設計が行われ
るため,たとえ均質槽内で配管の破損が発生しても,六フッ化ウランは槽内に閉じ
込められるとされている。
カ 以上の理由により,本件許可申請においては,本件施設における最大想定事故
として,均質槽内に設置されている中間製品容器が均質化のため加熱状態にある時
に,均質処理工程における均質槽の外の緊急遮断弁に接続している配管が破損する
場合が想定されている。
(2) 最大想定事故評価条件設定の妥当性
 上記の最大想定事故が仮に発生した場合,六フッ化ウランは,配管部の周囲を覆
っている配管カバーの内部に漏洩し,空気中の水分と反応してフッ化ウラニルとフ
ッ化水素が発生する。このフッ化水素が工程用モニタにより検出され,緊急遮断弁
が閉止して六フッ化ウランの漏洩が止まる一方,配管カバー内からの排気はフッ化
水素吸着器,高性能エアフィルタ等からなる局所排気設備を経由して行われること
となっている。したがって,最大想定事故時の被曝線量の評価に当たっては,配管
破損時から緊急遮断弁の閉止に至るまでの間に漏洩する六フッ化ウランから生じる
フッ化ウラニルのうち施設外に放出されることとなる部分が対象となる。
 次に,本件許可申請においては,最大想定事故の災害評価条件として,次の各条
件を設定している。すなわち,(a)中間製品容器内の六フッ化ウランの温度は摂
氏94度,(b)配管破断部の内径は7.8ミリメートル,(c)漏洩部からの放
出速度は,(a)及び(b)の条件の下に,通常用いられる計算式から,六フッ化
ウラン毎秒114グラムが続くものとし,(d)漏洩継続時間は,工程用モニタに
より漏洩を検知し緊急遮断弁を閉止するまでの30秒とする。これらの条件下で
は,漏洩量は,六フッ化ウラン毎秒114グラム×30秒=六フッ化ウラン3.4
2キログラムであるが,安全側に余裕をみて六フッ化ウラン5キログラムとする。
 漏洩した六フッ化ウランは,全量が空気中の水分と反応して,4.38キログラ
ムのフッ化ウラニル(ウラン元素量3.38×10の3乗グラム)となる。フッ化
ウラニルの発生量の50パーセントがダクト内壁面に付着し,残量が局所排気設備
の高性能エアフィルタで処理され,局所排気設備で処理された排気が通常運転時の
排気ラインに導かれて放出されるとし,総合的な捕集効率は,高性能エアフィルタ
2段で99.999パーセントとすると,この想定事故による施設外へのウランの
総放出量は,ウラン元素量で1.7×10のマイナス2乗グラム(3.38×10
の3乗グラム×(1―0.5)×(1―0.99999)),その放射能量は,5
パーセントの濃縮ウランの比放射能がグラム当たり2.7マイクロキュリーである
から,4.6×10のマイナス2乗マイクロキュリー(約1700ベクレル)とな
る。
 以上についてその妥当性を検討すると,まず,漏洩部からのガスの放出速度は,
本来放出とともに小さくなるところ,安全側にみて一定量としている。また,漏洩
継続時間も工程用モニタにより漏洩を検知し緊急遮断弁を閉止するまでの時間に余
裕をみて30秒としている。さらに漏洩量全体も,六フッ化ウラン3.42キログ
ラムのところを安全側にみて5キログラムとして計算している。フッ化ウラニルは
固体であるから,ほとんどダクト内壁面に付着すると考えられるのに対し,残量を
50パーセントと安全側に設定し,1段で99.9パーセントの捕集効率の高性能
エアフィルタ2段の捕集効率を99.999パーセントと低く設定している等,全
体として十分な安全裕度を見込んだものであるので妥当であると判断した。
(3) 事故時評価の結果
 以上のとおり,技術的にみて発生が想定される事故のうち最大のウラン放出量を
与える事故として,均質・ブレンディング設備の均質槽の中間製品容器へ続く配管
の破損を想定し,この最大想定事故において六フッ化ウランの放出速度,漏洩継続
時間,高性能エアフィルタの捕集効率等を考慮して算出した結果,ウランの総放出
量はウラン元素量で1.7×10のマイナス2乗グラム,放射能量にして0.04
6マイクロキュリーと極めて少ない。本件安全審査では,このウラン放出量からす
れば,改めて定量的な被曝評価を行うまでもなく,一般公衆の被曝線量は極めて小
さく,一般公衆に対する過度の放射線被曝を及ぼすものではないことは明らかであ
ると判断した。
 ちなみに,被告の試算によれば,最大想定事故に起因する一般公衆の線量当量
は,線量当量限度等を定める件に定める周辺監視区域外の線量当量限度である1年
間につき1ミリシーベルトの百万分の1以下にすぎず,原告らの各居住地において
は更に小さい値となる。
 なお,一般公衆の被曝線量は,放出される放射能量に,大気拡散による希釈率
(相対濃度),呼吸率及び線量換算係数を乗じて算出されるものであるところ,大
気拡散による希釈率及び線量換算係数については本件許可申請書に,呼吸率につい
ては公開文献であるICRPのPub.2に,それぞれ記載されており,これらの
数値を基に被曝線量の計算を行うことが可能であるが,本件安全審査においては,
上記に述べた理由により,上記数値を用いての被曝線量計算を改めて行う必要はな
いものと判断した。
(原告らの主張)
1 加工施設指針の問題点
 加工施設指針3は,「核燃料施設に最大想定事故が発生するとした場合,一般公
衆に対し,過度の放射線被曝を及ぼさないこと」としている。しかし,最大想定事
故時のウラン総放出量の算定については,複合事故の可能性を想定していないのみ
ならず,「一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には」被曝
線量そのものの評価を要しないとして,被曝線量による安全規制を放棄している。
それ故,このような指針によって,実際に発生する事故に十分対応できるかは甚だ
疑問である。
2 最大想定事故選定の妥当性
 本件許可申請書は,六フッ化ウラン漏洩の可能性について,均質・ブレンディン
グ設備の均質槽以外の設備の事故(六フッ化ウラン処理設備,貯蔵設備,カスケー
ド設備,気体廃棄物の廃棄設備,液体廃棄物の廃棄設備など)によっても漏洩の可
能性はない,自然現象等(浸水,地震,台風,積雪)による事故のおそれはない
か,一般公衆への被曝による影響は少ない,火災・爆発等によっては漏洩事故に至
らない,外部電源事故や臨界事故は起こらない,などと十分な根拠を示さない全く
安易な想定によって,均質・ブレンディング設備の均質槽の中間製品容器へ続く配
管破損事故のみを想定し,本件施設で発生するおそれがある地震や航空機事故が原
因となって施設自体が破壊されてしまい遮断弁やフィルターの機能も役に立たない
ような事態における事故時被曝の危険性を無視している。
 にもかかわらず,杜撰な申請に基づき,漫然,均質・ブレンディング設備の均質
槽の中間製品容器へ続く配管破損事故のみを取り上げた本件安全審査には,重大な
違法性が存する。
3 最大想定事故評価条件設定の妥当性
 原告らが想定した,施設全体が破壊され,遮断弁やフィルターの機能も役に立た
ないような事故では,本件施設に貯蔵されている最大で2400トンに及ぶウラン
の大部分が環境中に放出されることは避け難い。
4 事故評価結果の妥当性
 原告らが想定する施設全体が破壊される場合におけるウラン放出量の推定とし
て,控えめに見積もって,濃縮ウランのうち10トンが環境中に放出されたものと
して周辺住民への被害を評価してみると,施設から遠く600キロメートル離れた
東京でも被曝線量は0.13レムとなり,100ミリレム(1ミリシーベルト)の
一般公衆の被曝限度を超える被曝を受けることとなる。これに対し,本件許可申請
書は,その想定した最大想定事故について,これが発生した場合でもウラン放出量
は極めて小さいとして,一般公衆の被曝線量計算すら行っていない。
 このような杜撰な申請に基づき,その場合ウラン放出量は極めて小さいとして一
般公衆への被曝線量は極めて低いことを確認したとする安全審査結果には,重大な
違法性が存する。
(被告の反論)
1 加工施設指針の問題点について
 加工施設指針3は,その定め方からも明らかなとおり,技術的合理性を有する範
囲において発生が想定される事故を考慮することとしているのであり,技術的合理
性の観点から発生する可能性が極めて低いと考えられるもの,すなわち,例えば別
個の原因に基づき同時に複数の事故が発生すること等の事象については考慮する必
要のないものとしているのであって,このことは,十分な合理性を有する。したが
って,原告らの主張は失当である。
 また,加工施設指針3が,「当該最大想定事故時のウランの総放出量からみて,
十分な安全裕度をみた事故時の拡散条件を考慮しても,一般公衆の被曝線量が極め
て小さくなることが明らかな場合には,被曝線量の評価は要しないものとする。」
としているのは,そのような場合においては,改めて定量的な被曝評価を行うまで
もなく,最大想定事故を想定する目的,すなわち,「最大想定事故が発生するとし
た場合,一般公衆に対し,過度の放射線被曝を及ぼさないこと」を確認するとの目
的を達しているからなのであり,このことも十分な合理性を有する。
2 最大想定事故選定の妥当性について
 本件安全審査において,航空機事故を最大想定事故の検討の際に考慮しなかった
のは,航空機が本件施設に墜落する可能性は極めて小さいことから,上記航空機事
故は,加工施設指針3でいう「技術的にみて発生が想定される事故」とはいえず,
したがって,加工施設指針3に定める最大想定事故として考慮すべき事故ではない
からである。
3 最大想定事故評価条件設定の妥当性について
 本件安全審査においては,本件施設の最大想定事故時のウラン放出量が極めて小
さいことを確認しており,そのウラン放出量からすれば改めて定量的な被曝評価を
行うまでもなく一般公衆の被曝線量が極めて小さく,一般公衆に対する過度の放射
線被曝を及ぼさないことが明らかであるので,申請者の判断を妥当としたものであ
る。
 原告らは,周辺住民への被害を評価するに当たり,想定される事故により濃縮ウ
ラン10トンが環境中に放出されると主張するが,いかなる状況の下に,どのよう
な機序で濃縮ウランが漏洩し,どのような計算によってそれを10トンと見積もっ
たのかについて,何らの根拠を示していない。
4 事故評価結果の妥当性について
 事故による影響評価に関する原告らの主張は,以下に述べるとおり現実離れした
恣意的なものである。
(1) 本件施設ではウランは六フッ化ウランの形態で取扱われており,これが空
気と接触すると空気中の水分と反応してフッ化ウラニルに変化するものの,フッ化
ウラニルは常温では安定した物質であり,通常の環境中では,二酸化ウランや八酸
化三ウランに変化しないことは,科学技術上の知見として明らかである。また,こ
のように酸化ウランの形態をとる場合には,吸入摂取による単位ウラン量当たりの
被曝線量はフッ化ウラニルの場合の約50倍になるため,計算上の被曝線量を大幅
に引き上げることとなる。したがって,ウラン全量について酸化ウランの形態で被
曝線量の計算を行っている原告らの計算は,恣意的なものである。
(2) 原告らは,10トンのウランが環境中へ放出された場合について,気象指
針に従って,パスキルの計算式を用いて,大気安定度Fの場合について試算したと
して,六ヶ所村から東京都までの各地域の被曝線量を示している。
 しかしながら,原告らの上記拡散計算は気象指針にのっとったものではなく,ま
たその計算値も実態とかけ離れたものであり,失当である。
 すなわち,まず,原告らは,気象指針にのっとって拡散計算を行ったかのように
主張するが,原告らの計算は,気象指針による想定事故時の大気拡散の解析方法と
は異なっている。すなわち,気象指針では,想定事故時の被曝線量の計算に用いる
放射性物質の濃度については,敷地における風向,風速,大気安定度等の気象観測
データ及び放出継続時間を考慮して方位別に求め,年間累積出現頻度が97パーセ
ントに相当するものの最大値を採用することとされている(気象指針Ⅵ)が,原告
らのなした計算は,その主張自体から明らかなように,気象指針の解析方法を用い
たものではない。
 また,原告らの示した被曝線量は,特に遠距離において著しく過大となり,実態
とかけ離れたものとなっている。すなわち,原告らはパスキルの基本計算式(気象
指針Ⅳの基本拡散式)を用いて計算したと主張するが,この基本拡散式は,風向,
風速,その他の気象条件がすべて一様に定常であって,放射性物質が放出源から定
常的に放出されると仮定した場合の基本的な計算式である。しかしながら,現実に
は長距離,長時間にわたって風向・風速が一定であることはあり得ないため,距離
を長くとればとるほど,計算値が実際の拡散状況からかい離していくことは理の当
然である。原告らは,例えば,風下1000キロメートルの距離についても上記計
算式を用いて計算を行い,0.06レムの被曝線量となると主張するが,これは同
一方向の風が同一の大気安定度の下で140時間も継続して吹き続けるという気象
条件を前提としているに等しいものである(風速毎秒2メートルの風が放出物質を
1000キロメートル先に運ぶには約140時間を要する。)。しかし,現実には
同一方向の風が同一の大気安定度の下で140時間も吹き続けることなどはあり得
ないから,1000キロメートル先の被曝線量が0.06レムもの値を示すことは
ない。
第5 平常運転時の被曝低減に係る安全性確保対策
(被告の主張)
1 加工施設指針の規定
 ウラン加工施設の設置に当たっては,その核燃料物質の有する潜在的危険性が顕
在化することのないように,当該ウラン加工施設の平常運転時における被曝低減に
係る安全対策,すなわち,ウラン加工施設の平常運転時において環境に放出される
放射線及び放射性物質による一般公衆の被曝線量が許容被曝線量等を定める件に定
める周辺監視区域外の許容被曝線量(あるいは,これに代わって発せられた線量当
量限度等を定める件に定める周辺監視区域外の線量当量)以下となるようにするこ
とはもちろんのこと,実用可能な限り,これを許容被曝線量より低減させるための
対策が講じられていなければならない。
 このため,ウラン加工施設の平常運転時における被曝低減対策に係る安全性につ
いての安全審査においては,ウラン加工施設の運転に伴い発生する放射性廃棄物
(核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物で,廃棄しようとするもの)を
適切に処理する等によって,周辺環境へ放出する放射性物質の濃度等を実用可能な
限り低くできるようになっているかどうか(加工施設指針7,放射性廃棄物の放出
管理),放射性物質の貯蔵等による敷地周辺の放射線量を実用可能な限り低くでき
るようになっているかどうか(加工施設指針8,貯蔵等に対する考慮),放射性廃
棄物の放出の経路における放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じ
られ,また,放射性物質の放出の可能性に応じ,周辺環境における放射線量,放射
性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられているかどうか(加工施設
指針9,放射線監視)等について審査し,ウラン加工施設の平常時における一般公
衆の被曝線量が実用可能な限り低いものであることを確認することとなっている。
2 本件安全審査の内容
(1) 放射性廃棄物の管理
ア 気体廃棄物
 放射性物質を含む可能性のある排気は,高性能エアフィルタ,排風機等からなる
排気設備で処理後,排気口を通じて屋外へ排出される。排気設備は,第1種管理区
域を負圧に維持する能力を有し,かつ屋外へのウランの放出を実用可能な限り少な
くするように高性能エアフィルタ等を設けることとなっている。
 ケミカルトラップ等により処理された各工程からの排気は,各種ケミカルトラッ
プ等で処理後,その他の第1種管理区域からの排気とともに,排気ダクトを通じ排
出することとなっている。
 また,均質室の均質槽,均質槽配管カバー等からの排気は,六フッ化ウランの漏
洩が発生した場合には,フッ化水素吸着器,高性能エアフィルタ等からなる局所排
気設備を経由して排出することとなっている。
 これらの処理の結果,排気中に含まれて放出されることになるウランの年間放出
量は,各工程ごとの年間ウラン取扱量,排気系への移行率,高性能フィルタの除去
効率等を安全側に設定して算出しても,ウラン量にして0.15グラム(放射能量
で0.18マイクロキュリー)にすぎない。
イ 液体廃棄物
 分析廃水,洗缶廃水,手洗い水等において発生する放射性物質を含む可能性のあ
る液体廃棄物は,凝集沈澱槽,砂ろ過塔,ウラン吸着塔等からなる管理廃水処理設
備において必要に応じて凝集沈澱,ろ過等の処理を行った後,排水中の放射性物質
濃度が周辺監視区域外での許容濃度(加工事業規則7条の8第7号,許容被曝線量
等を定める件10条)以下であることを確認した後,他の一般排水とともに(すな
わち,更に希釈されて)排水口から事業所外へ放出することとなっている。管理廃
水処理設備の処理能力は一年当たり約3000立方メートルであり,管理区域での
年間発生予想量約850立方メートルに対し,十分な処理能力を有する設計となっ
ている。
ウ 固体廃棄物
 固体廃棄物は,ウエス(ぼろ布),ゴム手袋等の可燃性の固体廃棄物及び器材,
スラジ(汚泥)等の不燃性の固体廃棄物に区分し,ドラム缶等に収納してウラン濃
縮廃棄物建屋に保管廃棄することとなっている。
 ウラン濃縮廃棄物建屋の保管能力は約4700本(200リットルドラム缶換
算)であり,固体廃棄物の年間発生予想量約700本(200リットルドラム缶換
算)に対し,十分な保管廃棄能力を有する設計となっている。
(2) 貯蔵等に対する考慮
 本件施設のウラン及び放射性廃棄物の貯蔵等に起因する被曝線量は,ウラン及び
放射性廃棄物の最大貯蔵量並びに工程中のウラン保有量を考慮し安全裕度を見込ん
だ計算を行った結果,最も近い周辺監視区域境界外においても十分小さい値であ
る。
(3) 平常時の公衆に対する被曝線量の評価の結果
 本件安全審査における排気・排水中の放射性物質による周辺環境への影響評価の
概略は,次のとおりである。
ア 排気による周辺環境への影響評価
 本件許可申請における排気による周辺環境への影響評価については,本件施設の
ウランの年間放出量は,各工程ごとに,ウランの年間取扱い量,排気系への移行
率,捕集効率等を勘案して算定した結果,合計で年間0.18マイクロキュリーと
されている。
 排気中のウランによる一般公衆の被曝線量は,ウランの上記年間放出量0.18
マイクロキュリーに,評価対象地点における希釈率(相対濃度),呼吸率,線量換
算係数を乗ずることによって求められるが,そもそも,上記計算を行うまでもな
く,一般公衆の被曝線量は十分小さいとされている。
 本件安全審査においては,本件許可申請に係る上記影響評価を妥当なものと判断
した。
イ 排水による周辺環境への影響評価
 本件施設においては,主工程からの放射性液体廃棄物の発生はなく,放射性物質
を含む可能性のある廃水は,主に分析廃水,洗缶廃水,手洗い水等の付随的廃水
で,最大年間約850立方メートルであるが,これらの廃水は,管理廃水処理設備
において必要に応じ凝集沈殿,ろ過等の処理が行われた後,放射性物質濃度が許容
被曝線量等を定める件所定の周辺監視区域外の許容濃度以下であることを確認した
後に,他の一般排水とともに,排水口から事業所外へ放出することとされている。
そこで,本件許可申請においては,排水中に含まれて放出されるウランの年間放出
量は極めて少なく,改めて定量的な被曝評価を行うまでもなく,一般公衆の被曝線
量が極めて小さくなるとされている。
 本件安全審査においては,本件許可申請に係る上記影響評価を妥当なものと判断
した。
 ちなみに,被告の試算によると,排気及び排水中の放射性物質に起因する一般公
衆の線量当量は,これを合計しても線量当量限度等を定める件所定の周辺監視区域
外の線量当量限度である1年間につき1ミリシーベルトの1万分の1以下にすぎな
い。
ウ ウラン貯蔵等による周辺環境への影響評価
 ウラン貯蔵等に起因する一般公衆の被曝線量は,人の居住の可能性のある本件施
設の敷地境界外において,十分な安全裕度のある条件を考慮しても十分低いものと
なっている。
(4) 放射性物質の放出量等の監視
 本件施設からの排気中の放射性物質濃度は,周辺監視区域外での許容濃度以下で
あることを排気用モニタにより連続的に監視することとなっており,排水中の放射
性物質濃度は,排水の事業所外への放出に当たり,放射能測定装置により周辺監視
区域外での許容濃度以下であることを確認することとなっている。
 本件施設の管理区域周辺には周辺監視区域を設定することとなっており,周辺監
視区域内の空気中の放射性物質濃度及び外部放射線量を定期的に測定することとな
っている。
 また,本件施設外における環境モニタリングとして,外部放射線量及び土壌や陸
水等に含まれる放射性物質濃度を定期的に測定することとなっている。
(5) 本件安全審査の結論
 以上のとおり,本件施設の平常運転時における被曝線量低減対策に係る安全性は
確保されるものと判断した。
(原告らの主張)
1 加工施設指針2の問題点
 加工施設指針2は,「核燃料施設の平常時における一般公衆の被曝線量が,実用
可能な限り低いものであること」とし,排気,排水中のウランによる被曝について
絶対的な条件を定めていない上,「一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが
明らかな場合には」被曝線量そのものの評価を要しないとして,被曝線量による安
全規制を放棄している。さらに,加工施設指針は,いわゆる娘核種による被曝につ
いては何らの考慮も加えていない。このような指針によって,平常時被曝の危険性
を防止することは不可能である。
2 加工施設指針7ないし9の問題点
 加工施設指針7ないし9は,ウラン加工施設について,環境安全のために,放射
性廃棄物の放出管理,貯蔵等に対する考慮及び放射線監視を要求している。しか
し,ここで安全の指標とされる放射性物質の濃度,放射線量は,「実用可能な限り
低くでき」れば足り,監視対策も「適切」なもので足りるものとされており,環境
安全のために最低限どのような目標が必要かという視点は皆無である。さらに,こ
こで安全管理の対象とされているのはウラン等に限られ,フッ化水素などの他の有
害物質については全く考慮の対象とされていない。
3 平常運転時の一般公衆の被曝線量評価
 本件許可申請書では,排気中のウランによる被曝線量については年間放出量がウ
ラン量で0.15グラム(0.18マイクロキュリー)で一般公衆への被曝線量は
十分小さいとし,排水中のウランによる被曝線量については,ウランの年間放出量
又は年間平均濃度を明らかにすることもなく,一般公衆への被曝線量は極めて小さ
いとして,いずれにおいても一般公衆への被曝線量評価をしていない。すなわち,
本件許可申請書においては,平常運転時,一般公衆が本件施設によってどの程度の
被曝を受けるかについて全く明らかにされていない。また,放射性廃棄物の貯蔵等
に起因する被曝線量についても,十分小さい値であるとのみ述べ,被曝線量の評価
及びそれに対する対策には触れていない。
 このような申請に基づき,漫然,一般公衆への被曝線量は十分低いことを確認し
たと報告する安全審査結果には,重大な違法性が存する。
4 環境安全上の問題点
(1) 本件許可申請書では,周辺環境管理については放射性物質濃度を定期的に
測定するとのみ述べ,測定方法,測定結果に対する対処については触れていない。
 このような申請に基づき,漫然,適切な配慮があり安全性は確保されるとする安
全審査結果には,重大な違法性が存する。
(2) 本件施設と低レベル放射性廃棄物貯蔵センターを合わせた340万平方メ
ートルの敷地内には,ダストサンプラが1箇所,モニタリングポイントが10箇所
設定されているのみである。しかし,空気中のちりに付着した放射性物質の浮遊は
必ずしも均質ではなく,風向き等の気象条件により分布に偏頗を生じるし,気流に
よっては監視区域を超えて遠方に浮遊することもあり得るから,たった1箇所のダ
ストサンプラでは,空気中の放射性物質の浮遊データを正確に収集することはでき
ない。
 また,四つの核燃料サイクル施設が集中立地する本件施設立地区域においては,
当該ダストサンプラやモニタリングポイントで捕捉された放射性物質の発生源を正
確に区別することはできない。
 さらに,このダストサンプラによって捕捉されるのは,フィルターに付着し捕集
されるちりのみであって,気体状の放射性物質を計測することは不可能である。
(被告の反論)
1 加工施設指針2の問題点について
(1) 「絶対的な条件を定めていない」との主張
 この主張は,そもそも加工施設指針についての誤った解釈を前提とするものであ
る。
 すなわち,加工事業者は,加工事業規則1条3号並びに7条の8第4号及び第7
号により,周辺監視区域外の空気中及び水中の放射性物質の濃度が許容被曝線量等
を定める件10条1項所定の許容濃度を超えず,また,周辺監視区域外の許容被曝
線量が上記告示2条所定の値,すなわち1年間につき0.5レムを超えないように
する法令上の義務を負っている。加工施設指針2は,上記法令が定める周辺監視区
域外における上記許容被曝線量値を超えないことを当然の前提とした上で,これよ
りも更に一般公衆の許容被曝線量を実用可能な限り低くする対策を講ずることをウ
ラン加工事業者に要求しているものである。このように,加工施設指針2は,法令
上の許容被曝線量の値を前提とした上で定められたものであるから,原告らの主張
は失当である。
(2) 「安全規制を放棄している」との主張
 加工施設指針2が,排気中及び排水中のウランによる一般公衆の被曝について,
ウランの年間放出量又は年間平均濃度からみて,十分な安全裕度のある拡散条件を
考慮しても一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には,被曝
線量の評価は要しないものとするとしている理由は,そのような場合においては,
改めて定量的な被曝評価を行うまでもなく,被曝評価の目的,すなわち「核燃料施
設の平常時における一般公衆の被曝線量が,実用可能な限り低いものであるこ
と。」を確認するとの目的を既に達していることが明らかであるということによる
ものであって,このことには十分な合理性がある。
(3) 娘核種の考慮
 上記に述べたように,加工施設指針2は,許容被曝線量等を定める件所定の許容
被曝線量値を前提として,更に一般公衆の被曝線量を実用可能な限り低くすること
を求めるものである。そして,この許容被曝線量等を定める件は,「周辺監視区域
外の許容被曝線量は,1年間につき0.5レムとする」(2条)と定めており,特
定の核種のみに限定することなく,0.5レムとの許容被曝線量値を超えないこと
を求めている。したがって,上記告示によれば,一般公衆の被曝線量評価において
娘核種の考慮が必要な場合には,当然これも考慮した上で許容被曝線量値を下回る
ことを要するものであり,また,同告示においては,放射性物質の種類が明らか
で,かつ,空気中又は水中にそれぞれ2種類以上の放射性物質がある場合にあって
は,放射性物質が1種類である場合の許容濃度に対する各放射性物質の濃度の割合
の和が1になるような濃度が,各放射性物質の許容濃度とされる(10条1項,6
条2号)として,一般公衆の被曝線量の計算に当たっては,放射性物質の種類をも
考慮に入れることとしている。
 このように,安全審査の基本的枠組みを提供することを目的に定められている加
工施設指針は,加工事業規則及び許容被曝線量等を定める件を前提とし,ウランの
娘核種の考慮が必要となる場合には,当然これをも考慮して一般公衆の被曝線量を
実用可能な限り低くすることを求めるものであるから,原告らの主張は失当であ
る。
2 加工施設指針7ないし9の問題点について
 周辺監視区域外における一般公衆の被曝線量については,許容被曝線量等を定め
る件において定められているところ,加工施設指針7及び8では,上記告示の規定
を踏まえ,一般公衆の被曝線量が上記告示で定める許容被曝線量を超えないことを
当然の前提とした上で,更に実用可能な限り低くできるようになっていることを要
求しているものである。また,放射線監視について定めた加工施設指針9の規定に
ついては,そもそも加工施設指針は安全審査の基本的枠組みを提供する内容を具備
していれば足りるものであるところ,加工施設指針9においては,ウラン加工施設
の放射線監視対策につき,放出口等及び周辺環境においてウランの濃度等の適切な
監視対策が講じられているか否かを確認すべき旨定めているのであり,上記の点を
確認することにより,ウラン加工施設の放射線監視対策に係る安全性確保の目的を
達するものとされているのであるから,加工施設指針の上記規定は,安全審査の基
本的枠組みとして十分な内容を具備している。
 このほか,原告らは,加工施設指針7ないし9においては,安全管理の対象がウ
ラン等に限られ,フッ化水素などの他の有害物質は全く考慮されていないと主張す
るが,フッ化水素は,原子力利用に限らず他の分野でも広く使用されている非放射
性の物質であり,その影響の問題は原子力施設固有の問題ではないので,規制法に
基づく本件安全審査の対象とならない。したがって,規制法14条1項3号の要件
適合性を審査するに当たり判断の基本的枠組みを提供することを目的とする加工施
設指針においても,フッ化水素等の安全管理は,その対象とされていない。なお,
本件施設においては,工程内で仮にフッ化水素が発生したとしても,捕集排気系の
ケミカルトラップ(アルミナ)で吸着,除去される設計とされている。
3 平常運転時の一般公衆の被曝線量評価について
 加工施設指針2が,排気中及び排水中のウランによる一般公衆の被曝について,
ウランの年間放出量又は年間平均濃度からみて,十分な安全裕度のある拡散条件を
考慮しても一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には被曝線
量の評価は要しないものとするとしていることには前記のとおり十分な合理性があ
り,本件安全審査では,年間の放射性気体廃棄物中のウラン量及び放射性液体廃棄
物の濃度を考慮して,被曝線量の評価は要しないと判断したのである。
 また,ウラン及び放射性廃棄物の貯蔵等に起因する被曝線量についても,本件施
設においては,ウランを取り扱う設備・機器の放射線量率が低いこと及び本件施設
における施設の配置等の諸事情から,本件安全審査においては,本件施設における
ウラン及び放射性廃棄物の貯蔵等に起因する被曝線量が周辺監視区域外において十
分低いものであることは被曝線量の具体的な数値について計算を行うまでもなく明
らかであると判断した。
4 環境安全上の問題点について
 原告らは,本件許可申請書は周辺環境管理については放射性物質濃度を定期的に
測定するとのみ述べ,測定方法,測定結果に対する対処について触れておらず,こ
れを是認した本件安全審査は違法であると主張する。
 しかしながら,本件施設においては,そこから放出される気体廃棄物及び液体廃
棄物中に含まれる放射性物質の量を極力減少させるとともに,これらの放射性物質
を事業所外へ放出するまでには,所要の箇所において厳重な監視をすることとして
いる上,周辺監視区域外においても,環境放射線のモニタリングを行うこととし,
外部放射線量,土壌や陸水に含まれる放射性物質濃度を定期的に測定することとし
ている。本件安全審査においては,本件施設におけるウラン放出量が十分小さいこ
となどを踏まえ,周辺環境監視対策に係る上記申請内容を妥当なものと判断した。
したがって,原告らの上記主張は失当である。
 なお,放射性物質濃度の測定方法,測定結果に対する対処等は,規制法22条に
よる保安規定の認可の際に審査される事項である。
 ちなみに,原燃産業は,本件施設周辺地域において,放射性物質の濃度等につい
てのモニタリングを実施している。例えば,原燃産業は,本件施設周辺の各所にモ
ニタリングステーションを設置し,ガンマ線の線量率や放射性物質の濃度を測定
し,また,周辺地域のモニタリングポイントでガンマ線の積算線量の測定を行って
いる。さらに,周辺の各地において大気浮遊塵,河川水,湖沼水,飲料水,河底
土,湖底土,土壌,農畜産物,淡水産食品等の採取を行い,放射性物質の濃度を測
定している。
第6 その他の違法事由(本件施設の軍事転用の危険性)
(原告らの主張)
1 ウラン濃縮技術は,アメリカのマンハッタン計画の中で,濃縮ウランを原料と
する広島型原爆を製造するための技術として開発されたものである。ウラン濃縮技
術を実施する事業者は,これが軍事目的に転用されたりすることのないよに,厳格
に法的及び技術的な防護措置を講ずる義務がある。
2 法的な防護措置としては,原子炉の設置や再処理事業にみられるように,規制
法において,「平和目的利用への限定」を規定し,このような条項に基づいて,事
業の実態を規制行政庁と原子力委員会が厳格に審査する必要がある。ところが,わ
が国の規制法上はウラン濃縮事業の実施に当たって「平和目的利用への限定」の規
定がなく,法的には軍事技術への転用に規制上の歯止めがかからなくなっている。
3 次に,技術的な防護措置とは,高濃縮ウランの製造が不可能ないしは著しく困
難な技術原理を採用することである。一定以上の濃縮がなされれば,臨界に達して
それ以上の濃縮が不可能な技術などが,技術的な防護措置に沿う技術と評価でき
る。 本件施設で採用される遠心分離法という技術は,アメリカでガス拡散法に次
いで開発された技術であり,イギリス,ドイツ,オランダの三国が共同出資したウ
ラン濃縮会社であるウレンコ社が現に採用しているが,いずれも軍事目的そのも
の,あるいはこれに即時転用可能な技術として開発されたものであり,技術的な防
護措置は存在していないといわざるを得ない。
4 劣化ウランは,ウラン濃縮工程から生み出される濃縮ウランの対極となる物資
であり,比重が重いため,最近の湾岸戦争やボスニア紛争などでミサイルの弾頭に
多用されている。今後,本件施設で製造された劣化ウランが,アメリカなどのいず
れかの国における劣化ウラン弾頭に使用される可能性があり,これを防止するため
の法規制は存在しない。
 このように,本件施設におけるウラン濃縮には,軍事転用を防止する法的及び技
術的な防護措置が欠如しており,したがって,本件施設には軍事転用のおそれがあ
り,原子力利用を平和目的に限定している原子力基本法に違反するものである。こ
の点を看過した本件安全審査には,重大な過誤がある。
(被告の反論)
 原子力基本法は,原子力の研究,開発及び利用の全般にわたる包括的な法規範で
はあるものの,それぞれの法規制の具体的な内容のほとんどすべてを他の法律にゆ
だねている。したがって,同法が直接国民の権利義務に影響を及ぼしたり,国民と
国家との間の具体的な法律関係を形成したりすることはない。そして,同法2条に
規定する原子力の研究,開発及び利用に関する平和の目的は,同法の法的性格,平
和利用の目的の内容自体から明らかなとおり,原子力の研究,開発及び利用にかか
わりを有するすべての者がそのよりどころとすべき基本的精神ないし基本方針を宣
言したものであって,個々の原子力の利用に係る許可手続を直接規制するものでは
ない。したがって,原子力基本法が本件許可処分の要件であることを前提にする原
告らの主張は,その前提において失当である。
第3部 主位的請求に対する判断
 まず,記録によると,原告甲野太郎は,本件訴訟係属後の平成8年4月3日死亡
したことが明らかである。しかして,本件訴訟である本件許可処分の無効確認及び
取消訴訟は,いずれも本件施設周辺に居住している同原告が規制法13条,14条
に基づく本件許可処分により本件施設の事故等により自己の生命,身体の安全等に
対し直接的かつ重大な被害を受けるおそれがあるとして提起したものである。後述
のとおり,規制法14条の規定は,単に公衆の生命,身体の安全,環境上の利益を
一般的公益として保護しようとするにとどまらず,加工施設周辺に居住し,上記事
故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の
住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣
旨を含むと解するのが相当である。しかしながら,ここでいう生命,身体の安全等
の利益の中に財産が含まれるとしても,加工施設周辺に居住していることが原告適
格を基礎づける要件であり,したがって,規制法の前記規定が加工施設周辺に居住
せず財産だけを有するにすぎない者の利益をも個別具体的に保護しているとまでは
解することができないから,上記のような利益は一身専属的なものであって,相続
の対象とはならないというべきである。
 そうすると,本件訴訟のうち同原告に関する部分は,その死亡により終了したも
のといわざるを得ない。
第1章 原告適格
第1 当裁判所の判断
1 行訴法9条は,処分取消訴訟の原告適格を,当該処分の取消しを求めるにつき
「法律上の利益を有する者」に限定しているところ,その意義は,当該処分により
自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるお
それのある者をいい,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を
専ら一般的公益の中に吸収させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益
としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,かかる利益
も上記にいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は
必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有
するものというべきである(最高裁判所昭和53年3月14日第3小法廷判決・民
集32巻2号211頁,最高裁判所昭和57年9月9日第1小法廷判決・民集36
巻9号1679頁,最高裁判所平成元年2月17日第2小法廷判決・民集43巻2
号56頁)。そして,当該行政法規が,不特定多数者の具体的利益をそれが帰属す
る個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨か否かは,当該行政法規
の趣旨・目的,当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内
容・性質等を考慮して判断すべきである(もんじゅ最高裁判決)。
 しかして,行訴法36条は,無効等確認の訴えの原告適格につき規定している
が,同条にいう当該処分等の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する
者」の意義についても,上記の取消訴訟の原告適格の場合と同義に解するべきであ
る(もんじゅ最高裁判決)。
2 そこで,このような観点から,規制法13条,14条に基づく加工事業許可処
分につき,加工施設の周辺に居住する者が,その無効確認訴訟を提起することがで
きる法律上の利益を有するか否かについて検討する。
(1) 規制法は,原子力基本法の精神にのっとり,核原料物質,核燃料物質及び
原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計画的に行われること
を確保するとともに,これらによる災害を防止して公共の安全を図るために,製
錬,加工,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規
制等を行うことなどを目的として制定されたものである(1条)。規制法13条1
項に基づく加工事業の許可申請に対する許可権者である内閣総理大臣は,許可申請
が同法14条1項各号に適合していると認めるときでなければ許可をしてはなら
ず,また,上記許可をする場合においては,あらかじめ,同項1号及び2号(経理
的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準の適用については原子力委員会,同項
2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号に規定する基準の適用について
は,核燃料物質及び原子炉に関する安全の確保のための規制等を所管事項とする原
子力安全委員会の意見を聴き,これを十分に尊重してしなければならないものとさ
れている(14条)。同法14条1項各号所定の許可基準のうち,2号(技術的能
力に係る部分に限る。)は,当該申請者が加工事業を適確に遂行するに足りる技術
的能力を有するか否かにつき,また,3号は,当該申請に係る加工施設の位置,構
造及び設備が核燃料物質による災害の防止上支障がないものであるか否かにつき,
審査を行うベきものと定めている。加工事業許可の基準として,上記の2号(技術
的能力に係る部分に限る。)及び3号が設けられた趣旨は,加工施設が,原子核分
裂の過程において高エネルギーを放出するウラン等の核燃料物質を多量に内部に保
有して取り扱い,これを原子炉に燃料として使用できる形状又は組成とするために
物理的又は化学的方法により処理する施設であって,加工事業を行おうとする者が
その事業を適確に遂行するに足りる技術的能力を欠くとき又は加工施設の安全性が
確保されないときは,当該加工施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大
な危害を及ぼし,周辺の環境を放射性物質によって汚染するなど,深刻な災害を引
き起こすおそれがあることにかんがみ,このような災害が起こらないようにするた
め,加工事業許可の段階で,加工事業を行おうとする者の上記技術的能力の有無並
びに申請に係る加工施設の位置,構造及び設備の安全性につき十分な審査をし,上
記の者において所定の技術的能力があり,かつ,加工施設の位置,構造及び設備が
上記災害の防止上支障がないものであると認められる場合でない限り,内閣総理大
臣は加工事業許可処分をしてはならないとした点にある。
 そして,同法14条1項2号所定の技術的能力の有無及び3号所定の安全性に関
する各審査に過誤,欠落があった場合には重大な臨界事故ないしは核燃料物質の漏
出事故等が起こる可能性があり,そのような事故等が起こったときは,加工施設に
近い住民ほど甚大な被害を受ける蓋然性が高く,しかも,その被害の程度はより直
接的かつ重大なものとなるのであって,特に,加工施設の近くに居住する者はその
生命,身体等に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定されるのであり,上記各
号は,このような加工施設の事故等がもたらす災害による被害の性質を考慮した上
で,技術的能力及び安全性に関する基準を定めているものと解される。上記の2号
(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号の設けられた趣旨,上記各号が考慮し
ている被害の性質等にかんがみると,上記各号は,単に公衆の生命,身体の安全,
環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず,加工施設周辺に
居住し,上記事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想
定される範囲の住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべ
きものとする趣旨を含むと解するのが相当である(もんじゅ最高裁判決参照)。
(2) 上記に対し,規制法14条1項1号及び2号(経理的基礎に係る部分に限
る。)の規定については,同法13条1項に基づく加工事業の許可申請に対する許
可権者である内閣総理大臣は,許可申請が同法14条1項各号に適合していると認
めるときでなければ許可をしてはならず,また,上記許可をする場合においては,
あらかじめ,同項1号及び2号(経理的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準
の適用については核燃料物質及び原子力に関する規制のうち安全確保のためのもの
以外の事項等を所管事項とする原子力委員会の意見を聴くこととされている。そし
て,同条1項1号は,当該申請に対し許可をすることによって加工の能力が著しく
過大にならないか否かについて,2号(経理的基礎に係る部分に限る。)は,当該
申請につき加工事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎を有するか否かにつき,
審査を行うベきものと定めている。
 加工事業許可の基準として,上記の1号が設けられた趣旨は,専ら加工事業が原
子力利用に関する国家的かつ長期的視野に立った一定の計画に適合する範囲内で行
われることを確保し,もって,将来におけるエネルギー資源の確保を図り,人類の
福祉と国民生活の水準向上とに寄与することにあると解される。また,上記の2号
(経理的基礎に係る部分に限る。)が設けられた趣旨は,加工事業者につき事業を
適確に遂行するに足りる経理的基礎を要求することによって,多額の資金を要する
加工事業の円滑な遂行を保障するに足りる財源的裏付けがあることを確保すること
にあると解される。このような1号及び2号(経理的基礎に係る部分に限る。)の
設けられた趣旨に照らすと,1号が加工施設周辺の住民の個別的利益を保護する趣
旨を含まないことはもちろん,2号(経理的基礎に係る部分に限る。)について
も,加工事業の円滑な遂行という一般的公益を保護しようとするにとどまり,それ
以上に,加工施設周辺の個々の住民の生命,身体の安全その他の利益を個々人の個
別的利益として直接的に併せ保護する趣旨の規定ではないと解するのが相当であ
る。
 したがって,加工施設の周辺に居住する住民について,規制法14条1項1号及
び2号(経理的基礎に係る部分に限る。)の規定を根拠に規制法13条,14条に
基づく加工事業許可処分につきその無効確認訴訟又は取消訴訟を提起することがで
きる法律上保護された利益を有すると解することはできない。
(3) このほか,規制法13条,14条に基づく加工事業許可処分につき,加工
施設の周辺に居住する者が,その無効確認訴訟又は取消訴訟を提起することができ
る法律上の利益を有するものと解すべき根拠は見当たらない。
3 次に,原告らが前記の加工施設の事故等により直接的かつ重大な被害を受ける
か否か,すなわち,原告らの居住する地域が上記事故等による災害により直接的か
つ重大な被害を受けるものと想定される地域であるか否かが問題となるが,この点
は,当該加工施設の種類,構造,規模等の当該加工施設に関する具体的な諸条件を
考慮に入れた上で,当該原告の居住する地域と加工施設の位置との距離関係を中心
として,社会通念に照らし,合理的に判断すべきものである(もんじゅ最高裁判決
参照)。
 上記の見地から本件についてみると,前記前提事実等によれば,(a)原告らの
居住地と本件施設との距離は,約1.5キロメートルから約1500キロメートル
余りまでと様々であること,(b)本件施設で扱う六フッ化ウランは,大気圧下で
は常温で白色の不燃性の固体であるが,それ自体から放射線を発する放射性物質で
あること,(c)本件施設には最大でウラン量にして2482トンのウランが貯蔵
され,このうち濃縮ウランは162トンであること,(d)本件施設で製造貯蔵さ
れる濃縮ウランは,天然ウランと比較して核分裂性の高いウラン235の含有比率
が高いものの,その濃縮度は5パーセント以下であること,(e)本件施設は,原
子力エネルギーを発生利用する施設ではなく,構造設備はむしろ一般の工業プラン
トに類するもので,六フッ化ウランを未臨界の状態のまま加熱,遠心分離,冷却固
化,圧縮及び液化するのみの,さほど複雑とはいえない工程のものであること,
(f)遠心分離法によるウラン濃縮技術は,各種の試験研究や技術開発を経て実用
化されており,本件施設はそれらの研究開発の成果を踏まえて建設された商業プラ
ントであること,以上の事実が認められる。
 これらの事実を踏まえ,本件施設の立地場所との距離関係を中心として,地形や
地勢を考慮しながら社会通念に照らし勘案すると,本件施設の設置許可の際に行わ
れる規制法14条1項2号所定の技術的能力の有無及び3号所定の安全性に関する
各審査に過誤,欠落がある場合に起こり得る事故等による災害により直接的かつ重
大な被害を受けるものと想定される範囲の住民に属する原告としては,原告甲野太
郎を除く原告らのうち別紙当事者目録記載の番号52,53,63ないし74の合
計14名がこれに該当するというべきであり,これらの原告のみが,本件許可処分
の無効確認を求める本件主位的請求において,行訴法36条所定の「法律上の利益
を有する者」に該当するものと認められる。
4 上記に説示したところによれば,原告甲野太郎を除く原告らのうち上記の範囲
の者は,本件の主位的請求である無効確認訴訟において原告適格を有するといえる
が,その余の原告らは,主位的請求における原告適格を欠く者といわざるを得ず,
その訴えはいずれも不適法なものとして却下を免れない。
第2 被告の主張に対する判断
 被告は,規制法14条1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号の保
護利益に関し,本件施設の周辺住民の居住する地域が加工施設の事故等による災害
により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるか否かについ
て,本件施設の潜在的危険性は原子炉施設と比較すると比べようのないほど小さい
として,六ヶ所村も含め原告らの居住する地域はいずれも本件施設の放射能汚染事
故により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定されるとはいえないと主張す
る。
 しかしながら,前記(第1の3)で掲げた諸事情を踏まえて検討すると,本件施
設において加工事業を行おうとする者が所定の技術的能力を欠き又は本件施設の安
全性が確保されない場合にも,前記14名の原告ら(その居住地で本件施設から最
も近いものの本件施設との距離は1.5キロメートルである。)にさえ,本件施設
の事故等による災害により直接的かつ重大な被害が及ばないとする被告の主張は,
被告が主張する本件施設の潜在的危険性が相対的に小さいことを前提としても,な
お社会通念に照らした合理的判断として容認できないというべきである。したがっ
て,被告の主張は理由がない。
第3 原告らの主張に対する判断
 原告らは,規制法14条1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号の
保護利益に関し,本件施設の事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受け
るものと想定される地域の範囲として,放射性物質の大気中への拡散と摂取モデル
により算出した被曝量を根拠に,東京都を含む本件施設から半径600キロメート
ル以上の範囲であると主張している。
 しかしながら,上記の算定及びその妥当性の裏付けとなる的確な証拠はなく(も
っとも,原告らは,その根拠として甲第660号証を提出するけれども,同号証で
も,本件施設での臨界事故が起きたときの一般公衆に対する被爆線量の評価は,臨
界の規模(核分裂するウランの量と継続時間),放出核種の想定,放射能放出のタ
イミング,放出の経路など非常に複雑,かつ,想定による評価幅(誤差)が大きく
不確実性を伴うことが指摘されているし,そもそも建屋内から外部へのウラン漏洩
量の算出について何ら根拠を示していないから,同号証の被爆線量の評価結果を直
ちに採用することはできない。),その上,上記の主張における被害は,本件施設
から放出された放射性物質が,周辺環境を介して広範囲に拡散する中で人体へ摂取
されることにより生じるものであって,本件施設の事故により直接もたらされるも
のとはいい難く,このような遠隔地に居住する住民について想定される被害は,も
はや加工施設周辺に居住している住民について認められる個別具体的な被害の域を
超えて,広く一般公衆について等しく考えられる抽象的,一般的な被害という性質
を有するにすぎないというべきであるから,そのような被害を受けるにとどまる住
民の生命,身体の安全等は,規制法14条1項2号(技術的能力に係る部分に限
る。)及び3号の保護法益との関係では,個々人の個別的利益として保護されるも
のではないと解するのが相当である。したがって,原告らの主張する被曝被害の可
能性を理由に,上記の範囲に居住する原告らの生命,身体の安全等が規制法14条
1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号の規定により保護された利益
であると認めることはできない。
 また,原告らは,規制法14条1項2号(経理的基礎に係る部分に限る。)が,
加工施設の災害防止を資金面から担保し,もって周辺住民個々人の利益をも保護す
る趣旨のものであると主張するが,上記規定の目的は,先にみたとおり(第1の2
2),多額の資金を要する加工事業の円滑な遂行を保障するに足りる財源的裏付け
があることを確保することにあるのであって,この加工事業の円滑な遂行の一環と
して加工施設の安全性は抽象的に確保され,これを通じて公衆の生命身体の安全等
の個々的な利益の保護も間接的には図られるものの,そのような具体的な利益は,
上記規定との関係における限りは,加工事業の円滑な遂行という一般的公益の中に
吸収解消されており,当該公益の実現を通じて反射的に保護される利益にすぎない
ものと解するのが相当である。したがって,上記主張もまた理由がない。
第2章 本案の争点に対する判断
第1 はじめに
 行政処分が当然無効であるというためには,処分に重大かつ明白な瑕疵がなけれ
ばならないから,行政処分の無効確認訴訟において原告が主張すべき無効事由も,
処分の重大かつ明白な瑕疵に限られる(最高裁判所昭和36年3月7日第3小法廷
判決・民集15巻3号381頁参照)。
第2 本件許可処分の法律上の根拠の有無
 規制法2条6項(現在の同条7項)は,同法において「加工」とは,「核燃料物
質を原子炉に燃料として使用できる形状又は組成とするために,これを物理的又は
化学的方法により処理することをいう。」と定義している。そして,同条2項は,
核燃料物質につき,原子力基本法3条2号に規定する核燃料物質,すなわち「ウラ
ン,トリウム等原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する物質であって,
政令で定めるもの」と定義し,上記政令の定めである核燃料物質,核原料物質,原
子炉及び放射線の定義に関する政令(昭和32年政令第325号)1条は,1号と
して「ウラン235のウラン238に対する比率が天然の混合率であるウラン及び
その化合物」を掲げている。
 そして,前記前提事実等によれば,本件施設は,ウラン235のウラン238に
対する比率が天然の混合率であるウランの化合物である六フッ化ウランという核燃
料物質を取り扱う施設で,その事業目的は,軽水炉の燃料として使用できるように
ウラン中のウラン235の存在比率を天然ウランより高めた濃縮ウランを製造する
ことにあり,そこで用いられる濃縮方法は,高速で回転する円筒中に働く遠心力と
いう物理作用を利用してウラン238と質量数の異なるウラン235を円筒の内側
に多く集め取り出す遠心分離法である。そうすると,本件施設で行われるウラン濃
縮は,核燃料物質である六フッ化ウランを,原子炉である軽水炉で燃料として使用
できるウラン235の高い組成の濃縮ウランとするために,遠心分離法という物理
的方法により処理するものということになるから,規制法2条6項にいう「加工」
に該当するというべきである。
 これに対し,原告らは,ウラン濃縮は一般に規制法2条6項にいう「加工」に該
当しないと主張するところ,その理由として縷々主張する点は,いずれも上記の法
文の解釈を妨げるには至らない。
第3 憲法13条,14条,25条違反
 原子力基本法は,1条で,「この法律は,原子力の研究,開発及び利用を推進す
ることによつて,将来におけるエネルギー資源を確保し,学術の進歩と産業の振興
とを図り,もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上に寄与することを目的とす
る。」と定め,2条において,基本方針として,「原子力の研究,開発及び利用
は,平和の目的に限り,安全の確保を旨として,民主的な運営の下に自主的にこれ
を行うものとし,その成果を公開し,進んで国際協力に資するものとする。」と定
めている。また,同法の規定を受けて制定された規制法は,1条で,その目的につ
き,「この法律は,原子力基本法(中略)の精神にのつとり,核原料物資,核燃料
物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計画的に行わ
れることを確保し,あわせてこれらによる災害を防止して公共の安全を図るため
に,製錬,加工,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関して必
要な規制等を行う(中略)ことを目的とする。」と規定するとともに,2章ないし
5章の2において,製錬,加工,再処理及び廃棄の各事業並びに原子炉の設置,運
転等に関する規制に関する諸規定を設けている。このように,原子力基本法及び規
制法は,原子力利用の内包する危険性を踏まえ,原子力発電や核燃料サイクルの各
過程において原子力利用の安全性を確保し,上記の危険性が現実化しないようにす
るために法規制を行っているのであるから,これらの法律について,憲法13条,
14条ないしは25条に反し違憲であるとすべき事由は認められない。
 原告らの主張は,いわゆる死の灰やプルトニウムの危険性を根拠に上記各法律が
原子力発電や核燃料サイクル自体の存在を禁止していない点を違憲とするものであ
るが,憲法13条,14条ないしは25条がそのような趣旨を含むと解することは
できないから,上記主張は理由がない。
第4 憲法31条違反
1 行政手続は,憲法31条による保障が及ぶと解すべき場合であっても,刑事手
続とその性質においておのずから差異があり,また,行政目的に応じて多種多様で
あるから,常に必ず行政処分の相手方等に事前の告知,弁解,防御の機会を与える
などの一定の手続を設けることを必要とするものではないと解するのが相当である
(伊方最高裁判決)。
 そして,加工事業許可の申請が規制法14条1項各号所定の基準に適合するかど
うかの審査は,当該申請者の技術的能力や加工施設の安全性に関する極めて高度な
専門技術的判断を伴うものであり,同条2項は,上記許可をする場合に,各専門分
野の学識経験者等を擁する原子力委員会ないしは原子力安全委員会の意見を聴き,
これを十分に尊重してしなければならないと定めている。このことからすれば,規
制法が,許可手続の審査資料の公開や加工施設設置予定地の周辺住民に対する説明
会の開催,告知聴聞の手続又は同意取得につき規定を設けていないことをもって,
規制法が憲法31条の趣旨に反するということはできない。したがって,上記の点
をもって憲法31条違反をいう原告らの主張は理由がない。
 また,本件許可申請書,添付書類その他の安全審査資料が公開されず,原子力安
全委員会の審査も公開されなかったし,公開ヒヤリングも開催されずに行われ本件
安全審査には,憲法31条,21条等に違反する看過し得ない違法があるとする原
告らの主張も,規制法等の関係法規に照らし,規制法14条1項3号に基づく安全
審査において,事前の資料公開や公開ヒヤリングの開催を義務づける規定がないこ
とは明らかであり,これら憲法の規定が上記のような資料公開等を義務づける根拠
とはならないから,その前提において失当であるといわざるを得ない。
2 規制法14条1項各号は,加工事業許可の基準につき定めているところ,同項
3号は,加工施設の安全性に関し,加工施設の位置,構造及び設備が核燃料物質に
よる災害の防止上支障がないものであることを掲げているが,それは,加工施設の
安全性に関する審査が,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知
見に基づいてされる必要がある上,科学技術は不断に進歩,発展していることか
ら,加工施設の安全性に関する基準を具体的かつ詳細に法律で定めることは困難で
あるのみならず,最新の科学技術水準への即応性の観点からみて適当ではないとの
見解に基づくものと考えられ,上記見解は十分合理性を有するものといえる。しか
も,加工事業許可に当たっては,申請に係る加工施設の位置,構造及び設備の安全
性に関する審査の適正を確保するため,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力
安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を聴きこれを十分に尊重すると
いう慎重な手続が定められていることを考慮すると,上記規定が定量的でない又は
不明確であるとの非難は当たらないというべきである。したがって,上記規定が定
量的でなく,あるいは一義的に明確とはいえないことを前提とする原告らの憲法3
1条違反の主張は,その前提を欠いており理由がない。
第5 まとめ
 上記のとおり,本件許可処分に重大かつ明白な瑕疵があるとはいえないから,1
4名の原告らの本件許可処分の無効確認を求める主位的請求はいずれも理由がな
い。
第3章 結論
 以上によれば,本件訴訟のうち原告甲野太郎に関する部分については,死亡によ
る終了宣言をすることとし,同原告を除く原告らのうち,別紙当事者目録記載の番
号52,53及び63ないし74の合計14名以外の原告らの本件許可処分の無効
確認を求める主位的請求に係る訴えは,いずれも原告適格を欠き不適法であるから
これを却下すべきものであり,その余の上記14名の原告らの主位的請求は,いず
れも理由がないから棄却を免れない。
第4部 予備的請求に対する判断
第1章 原告適格
   本件の主位的請求である本件許可処分の無効確認訴訟における原告適格につ
き前に説示したところ(第3部第1章第1)は,予備的請求である本件許可処分の
取消訴訟にも妥当する。したがって,原告甲野太郎を除く原告らのうち,別紙当事
者目録の番号52,53及び63ないし74の合計14名の原告らは本件予備的請
求における原告適格を有するものの,その余の原告らは,予備的請求における原告
適格を欠いており,その訴えはいずれも不適法なものとして却下を免れない。
第2章 審査判断の枠組みに関する法律論
第1 取消訴訟における処分の違法事由の主張制限
 原告らは,取消訴訟である本件予備的請求において,自己の法律上の利益に関係
のない違法を取消事由として主張することはできない(行訴法10条1項)。
 そして,行訴法10条1項にいう法律上の利益は,行訴法9条の原告適格の基礎
となる法律上の利益と同義であると解されるところ,前記(第3部第1章第1の
2,第4部第1章)のとおり,原告らの本件取消訴訟における原告適格を基礎づけ
る法律上の利益は,規制法14条1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び
3号が保護の対象としている原告らの生命,身体の安全等である。したがって,原
告らが本件取消訴訟において取消事由として主張できる実体法上の事由は,規制法
14条1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号の要件にかかわる違法
事由のうち,原告らの生命,身体の安全等に関するものに限られる。
 そうすると,原告らの主張のうち,規制法14条1項2号(経理的基礎に係る部
分に限る。)要件適合性や同項3号要件適合性のうち労働者被曝に関する事項等
は,本件予備的請求においては主張することが許されず,その主張はそれ自体失当
といわざるを得ない。
第2 加工事業許可における審査の対象
1 規制法は,その規制の対象を,製錬事業(第2章),加工事業(第3章),原
子炉の設置,運転等(第4章),再処理事業(第5章),廃棄事業(第5章の
2),核燃料物質等の使用等(第6章),国際規制物質の使用(第6章の2)に分
け,それぞれにつき内閣総理大臣の指定,許可,認可等を受けるべきものとしてい
るのであるから,第3章所定の加工の事業に関する規制は,専ら加工事業の許可等
の同章所定の事項をその対象とするものであって,他の各章において規制すること
とされている事項までをその対象とするものでないと解すべきである。
 また,規制法第3章の加工の事業に関する規制の内容をみると,加工事業の許
可,変更の許可(13条ないし16条)のほかに,設計及び工事の方法の認可(1
6条の2),溶接の検査(16条の4),使用前検査(16条の3),保安規定の
認可(22条)等の各規制が定められており,これらの規制が段階的に行われるこ
ととされている。したがって,加工の事業の許可の段階においては,専ら当該加工
施設の基本設計のみが規制の対象となるのであって,後続の設計及び工事の方法の
認可手続や保安規定の認可手続等の段階で規制の対象とされる当該加工施設の具体
的な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とはならないものと解すべきである。
 上記にみた規制法の構造に照らすと,加工の事業の許可の段階の安全審査におい
ては,当該加工施設の安全性にかかわる事項のすべてをその対象とするものではな
く,その基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するのが
相当である(伊方最高裁判決参照)。
2 上記によれば,後に詳しくみるように,原告らの主張のうち,加工事業許可の
段階の安全審査の対象となる当該加工施設の基本設計の安全性にかかわらない事項
についての主張は,それ自体失当というべきである。
 そのほか,原告らは軍事転用の危険性を指摘して本件施設が原子力の平和目的利
用を定める原子力基本法2条に違反する旨主張するけれども,この規定が個々の原
子力の利用に係る許可手続を直接規制するものとは解されないから,原子力の平和
目的利用が本件許可処分の要件であることを前提にする原告らの主張は,その前提
において失当というべきである。
3 原告らは,上記の基本設計の範囲については客観的基準がなく,その範囲は恣
意的に定められている旨主張しており,弁論の全趣旨によれば,基本設計の範囲を
客観的に明らかにする基準は存在しないことが認められる。
 しかしながら,規制法16条1項,加工事業規則3条の2第1項の規定に照らす
と,加工施設の基本設計は,加工事業許可に当たり審査確認されたそれ自体は抽象
的,概括的な概念にすぎない規制法14条1項3号所定の安全性と加工施設の具体
的な設計及び工事の方法とを架橋し,上記安全性を具体化しながら,具体的な設計
及び工事の方法が加工事業許可を受けた基本設計によるものであることが確認され
ることを通じて上記安全性が実現されるという機能を有するものであるということ
ができ,したがって,加工施設の基本設計に求められる内容も,もとより加工施設
の建物及び施設の具体的な設計である必要はなく,設計及び工事の方法の認可手続
における具体的な設計及び工事の方法につき安全性を審査するための規範ないしは
枠組みとして機能するに足りる内容である必要があるとともに,かつそれで足りる
というべきである。そしてまた,後に第3の1でみるように,規制法14条1項2
号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号所定の基準の適合性が各専門分野の
学識経験者等を擁する原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を
尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断に委ねられていることからすれば,上記
判断に必要な加工施設の基本設計の具体性の程度や判断の対象となる事項の取捨選
択も,同様に上記の内閣総理大臣の合理的な判断に委ねられているものと解される
から,安全審査の対象である基本設計の具体性の欠如や範囲の問題は,これに関す
る安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落がある場合に限り,
これに基づく内閣総理大臣の判断を不合理なものとして加工事業許可処分の取消事
由となるものというべきである。
第3 司法審査の在り方
1 審理,判断の方法
 前記(第3部第1章第1)のとおり,加工事業許可の基準として,規制法14条
1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号が設けられた趣旨は,加工施
設が,原子核分裂の過程において高エネルギーを放出するウラン等の核燃料物質を
多量に内部に保有して取り扱い,これを原子炉に燃料として使用できる形状又は組
成とするために物理的又は化学的方法により処理する施設であって,加工事業を行
おうとする者がその事業を適確に遂行するに足りる技術的能力を欠くとき,又は加
工施設の安全性が確保されないときは,当該加工施設の従業員やその周辺住民の生
命,身体等に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射性物質によって汚染するな
ど,深刻な災害を引き起こすことがあることにかんがみ,このような災害が起こら
ないようにするため,加工事業許可の段階で,加工事業を行おうとする者の技術的
能力の有無並びに申請に係る加工施設の位置,構造及び設備の安全性につき科学
的,専門技術的見地から,十分な審査を行わせることにあるものと解される。
 上記の技術的能力を含めた加工施設の安全性に関する審査は,当該加工施設その
ものの工学的安全性,平常運転時における従業員,周辺住民及び周辺環境への放射
線の影響,事故時における周辺地域への影響等を,加工施設予定地の地形,地質,
気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及び当該加工事業者の上記技術的能
力との関連において,多角的,総合的見地から検討するものであり,しかも,上記
審査の対象には,将来の予測に係る事項も含まれているのであって,上記審査にお
いては,原子力工学はもとより,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門
技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。そ
して,規制法14条2項が,内閣総理大臣は,加工事業の許可をする場合において
は,同条1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号所定の基準の適用に
ついて,あらかじめ原子力委員会の意見を聴き,これを十分に尊重してしなければ
ならないと定め,さらに,原子力安全委員会には下部組織として学識経験のある者
及び関係行政機関の職員から任命される審査委員で組織される核燃料安全専門審査
会が置かれ,原子力安全委員会委員長の指示に基づき核燃料物質に係る安全性に関
する事項を調査審議することとされているところ(設置法19条,20条・17
条),規制法が加工事業許可処分に当たり上記のような手続を設けているのは,加
工施設の安全性に関する審査の特質を考慮し,上記各号所定の基準の適合性につい
ては,各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会の科学的,専門技術的
知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断に委ねる趣旨と解す
るのが相当である。
 以上の点を考慮すると,上記の加工施設の安全性に関する判断の適否が争われる
加工事業許可処分の取消訴訟における裁判所の審理,判断は,原子力安全委員会若
しくは核燃料安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた内
閣総理大臣の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであっ
て,現在の科学技術水準に照らし,上記調査審議において用いられた具体的審査基
準に不合理な点があり,あるいは当該加工施設が上記の具体的審査基準に適合する
とした原子力安全委員会若しくは核燃料安全専門審査会の調査審議及び判断の過程
に看過し難い過誤,欠落があり,内閣総理大臣の判断がこれに依拠してされたと認
められる場合には,内閣総理大臣の上記判断に不合理な点があるものとして,上記
判断に基づく加工施設設置許可処分は違法と解すべきである(伊方最高裁判決参
照)。
2 立証責任
 加工事業許可処分についての取消訴訟においては,前記の処分の性質にかんがみ
ると,内閣総理大臣がした判断に不合理な点があることの主張,立証責任は,本
来,原告が負うべきものと解されるが,当該加工施設の安全審査に関する資料を,
すべて平成13年1月6日の中央省庁等改革関係法施行法による規制法の改正に伴
い上記処分の権限を承継した被告の側が保持していることなどの点を考慮すると,
被告の側において,まず,その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び
判断の過程等,内閣総理大臣の判断に不合理な点のないことを相当の根拠,資料に
基づき主張,立証する必要があり,被告が上記主張,立証を尽くさない場合には,
内閣総理大臣がした上記判断に不合理な点があることが事実上推認されるものとい
うべきである(伊方最高裁判決参照)。
3 判断基準時
 取消訴訟は,行政庁の処分に関する判断の適否を審査する抗告訴訟であり,その
適否判断の前提とすべき事情も,当該処分当時に存在していたものに限られるとい
うべきである(最高裁判所昭和27年1月25日第2小法廷判決・民集6巻1号2
2頁参照)。
 これに対し,原子力安全委員会若しくは核燃料安全専門審査会の調査審議におい
て用いられた具体的審査基準の合理性の有無や上記調査審議及び判断の過程におけ
る過誤,欠落の有無を判断するに当たり用いられるべき科学技術水準は,法適用の
前提となる事実そのものではなく,事実認定の際に適用される経験則のうち科学
性・技術性・専門性があるものにすぎないから,前記のとおり,現在の科学技術水
準を用いるのが相当である。
第3章 本件許可処分の手続的適法性
第1 当裁判所の判断
 前記前提事実等で認定した本件許可申請がされてから本件許可処分に至るまでの
手続経過は,規制法等所定の手続に適合した適法なものと認められる。
 また,規制法13条2項は,加工事業を行おうとする者が提出すべき申請書の記
載事項として,(a)氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては,その代表者の
氏名,(b)加工設備及びその付属施設を設置する工場又は事業所の名称及び所在
地,(c)加工施設の位置,構造及び設備並びに加工の方法,(d)加工施設の工
事計画を挙げている。また,同条1項は,加工の事業を行おうとする者は政令で定
めるところにより内閣総理大臣の許可を受けなければならないと定め,これを受け
て,加工事業規則2条1項は,上記申請書の記載について細目を定めている。この
ほか,規制法施行令3条2項は,規制法13条1項を受けて,上記許可を受けよう
とする者は,事業計画書その他総理府令で定める書類を添えて申請しなければなら
ないと規定し,当該総理府令の定めである加工事業規則3条2項は添付すべき各種
書類を掲げている。そして,乙第75号証により認められる本件許可申請書の記載
内容は,上記各法規の定める記載事項を満たすものということができる。
 上記によれば,本件許可処分は,規制法その他の関係法規に基づいて手続的に適
法に行われたものということができる。
第2 原告らの主張に対する判断
1 本件許可申請書及び添付書類の不備
(1) 原告らは,加工事業規則2条1項1号ニ(ロ)所定の記載事項である「主
要な設備及び機器の種類及び個数」に関し,本件許可申請書において遠心分離機の
具体的な機種及び個数が明記されていないと主張する。
 乙第75号証によれば,本件許可申請書の別添書類「加工施設の位置,構造及び
設備並びに加工の方法」6頁においては,上記事項につき,設備としてカスケード
設備,主要な機器として遠心分離機,個数として4組等と記載されていることが認
められ,確かに,本件許可申請書には遠心分離機の具体的な機種や個数が記載され
てはいないけれども,本件施設の遠心分離装置については,複数の遠心分離機群で
構成されるカスケード設備自体を主要な設備として捉えた上でその種類及び個数に
ついて記載されているのであり,加工事業規則2条1項1号ニ(ロ)の要請を満た
しているといえる。これ以上に,個々の遠心分離機の具体的な種類及び個数の記載
を求めることは,加工事業規則が本来予定していないカスケード設備の具体的な仕
様の記載を求めることになるが,加工事業規則からそのような趣旨を読みとること
はできない(なお,加工事業規則は,その制定当初,各種の加工施設について,主
要な設備及び機器の種類,仕様及び個数を申請書に記載するよう求めていたが,こ
のうち,仕様の記載を求める部分は,昭和43年総理府令43号による改正により
削除された。)。したがって,原告らの主張は,理由がない。
(2) このほか,原告らが本件許可申請書又はその添付書類の不備として主張す
る事由のうち,本件施設の基本設計の安全性にかかわる事由は,いずれも,規制
法,規制法施行令又は加工事業規則に定められた所要の記載事項に関するものでは
ないから,本件許可処分の手続的適法性を左右するものとはいえず,主張自体失当
である。
2 審査主体の問題点
(1) 原告らは,原子力委員会の構成員に,原子力産業の関係者が多数構成員と
なっていると主張する。
 しかしながら,原子力委員会は,本件許可処分との関係では,規制法14条1項
1号及び2号(経理的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準の適用について内
閣総理大臣から意見を求められるにすぎず,その構成の問題は,規制法14条1項
2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号の要件の審査に影響をもたらす可
能性のない事由である。したがって,上記主張は,原告らの法律上の利益に関係が
ない違法を理由とするものであり,それ自体失当である。
(2) 原告らは,原子力安全委員会には本件許可処分に係る加工事業を推進する
立場の専門家が加わっているほか,同委員会に設置される核燃料安全専門審査会に
も,同様に会長のKを始め原子力利用の推進派の人物が多数含まれており,委員の
構成上原子力委員会に厳正な審査を求めることは極めて困難である旨主張する。
 しかし,上記の主張は,Kを除くほか,原子力安全委員会の委員ないし核燃料安
全専門審査会の審査委員のうちいずれの人物をもって原告らのいう推進派であるか
につき具体的な主張立証を欠いている上,その推進派である人物が多数委員となっ
ていることにより直ちに原子力委員会が厳正な審査をすることができなくなるとも
いえないから,理由がなく採用できない。そして,上記主張のうちKなる人物に関
する部分も,証拠(乙22,証人A)によれば,同人が昭和60年12月17日当
時埼玉大学教授の身分にあった濃縮ウランの遠心分離技術に関する専門家であり,
ウラン濃縮懇談会の設置当時の構成員であったとは認められるものの,この事実を
もって同人を原告らのいう推進派の人物であるとか,同人の審査委員としての参加
によって核燃料安全専門審査会の厳正な審査が困難になった等の事実を認めること
はできないから,やはり理由がない。
(3) 原告らは,JCOに対して加工事業許可がされた際に核燃料安全専門審査
会第8部会が担当して行った安全審査は,臨界事故を想定していない点及び非現実
で過小な最大想定事故評価を容認した点において誤りであったとして,核燃料安全
専門審査会及びその第8部会の部会長であり本件安全審査を担当した同審査会第2
3部会の部会長をも務めていたAにはいずれも核燃料サイクル施設の安全審査をす
る能力が欠落しており,本件安全審査には看過し難い過誤,欠落があると主張す
る。
 しかしながら,仮にJCOに対する加工事業許可処分のための核燃料安全専門審
査会第8部会の安全審査に誤りがあったとしても,その事実をもって直ちに核燃料
安全専門審査会全体や上記Aの安全審査担当者としての資質に問題があるとするの
は論理に飛躍があるし,他に核燃料安全専門審査会や上記Aにおいて本件安全審査
を適切かつ公平に行う上で審査体制の不備ないし資質上の問題があることをうかが
わせる資料はない。したがって,原告らの主張は理由がない。
(4) 原告らは,原子力安全委員会について,独自の調査研究能力がない点及び
これまで一度も許可申請につき要件不適合との答申をしたり原子力安全に関する根
本的問題提起をしたことがないことを根拠に,安全審査をすることが能力的に不可
能であると主張する。
 しかしながら,原子力安全委員会の委員は,両議院の同意を得て内閣総理大臣が
任命する者である(設置法22条・5条1項)上,同委員会には,委員長の指示が
あった場合に核燃料物質に係る安全性に関する事項を調査審議する常設の機関とし
て40名以内の審査委員で組織される核燃料安全専門審査会が置かれ,上記審査委
員は,学識経験のある者及び関係行政機関の職員のうちから内閣総理大臣が任命す
ることとされている(設置法19条,20条・17条1項,設置法施行令6条2
項)。さらに,原子力安全委員会には,専門の事項を調査審議させるために専門委
員を置くことができ,専門委員もまた学識経験がある者及び関係行政機関の職員の
うちから内閣総理大臣により任命されることとされている(設置法施行令8条・3
条)ほか,原子力安全委員会は,その所掌事務を行うため必要があると認めるとき
は,関係行政機関の長に対し,報告,資料の提出,意見の開陳,説明その他必要な
協力を求めることができることとされている(設置法25条)。これらの事実に照
らすと,原子力安全委員会は,安全審査のために質的にも量的にも十分な人的体制
及び調査権限を有しているといえ,同委員会に独自の調査研究能力がないとする原
告らの主張は当たらない。また,同委員会がこれまで要件不適合との答申や根本的
問題提起をしたことがないとする点は,そのような事情は同委員会の安全審査に必
要な資質の有無を左右するものとはいえないから,主張自体失当である。
3 審査の実態に関する問題点
(1) 原告らは,本件許可申請についてされた審査は許可を前提とした恣意的か
つ不公正なものであると主張し,その根拠として縷々主張する。
 しかし,このうち,本件安全審査の過程において六ヶ所村とそれ以外の候補地と
の立地条件の比較検討がされていないことをいう点は,加工事業許可申請に対する
安全審査が,申請に係る特定の場所に設置される加工施設の安全性を審査するため
の制度であって,加工施設の設置のために適切な立地を広く検討して選定する手続
ではない以上,主張として失当というほかない。また,その余の点は,いずれも国
等が本件施設を含む核燃料サイクル関係施設の六ヶ所村への設置計画の推進に関与
していることをいうものであるが,原子力安全委員会の委員に一定の身分保障があ
ること(設置法22条,6条,7条),内閣総理大臣は同委員会の安全審査に関す
る決定の報告を受けたときはこれを十分に尊重しなければならないとされているこ
と(設置法23条)及び実際にも内閣総理大臣が原子力安全委員会の答申に沿った
内容のものとして本件許可処分をしていること(前提事実等)に照らすと,原告ら
が主張する事由を前提としても本件安全審査が恣意的ないしは不公正であるとはい
えない。
(2) また,原告らは,審査の杜撰さとして,原子力安全委員会や核燃料安全専
門審査会の構成員が会議にほとんど出席せず一部の者に審査を任せており,審査は
著しく形骸化して内容も杜撰であると主張するが,これに沿う事実を認定するに足
りる的確な証拠はないから,上記主張は理由がない。
4 指針による審査の違法性
(1) 原告らは,本件安全審査において重要な役割を果たす核燃料施設基本指針
及び加工施設指針が,いずれも単なる原子力安全委員会の決定にすぎず,法律上の
根拠を持たないとして,これらの指針に基づいた本件安全審査に手続的違法がある
と主張する。
 しかしながら,本件安全審査は,その合理性を十分首肯し得る規制法14条1項
3号の規定に基づき,所定の手続にのっとり行われたものであるから,仮に審査で
用いられた基準が法律に根拠がないものであるとしても,そのような事情が安全審
査及び加工事業許可処分の手続的違法をもたらす事由に当たるとは解されない。し
たがって,上記主張は理由がない。
(2) また,原告らは,規制法における「加工」の解釈や加工施設指針の文言を
理由として,濃縮施設は加工施設指針の適用対象ではないと主張する。しかし,規
制法にいう加工施設は濃縮施設を含むものと解すべきことは前記のとおりである
し,乙第15号証により認められる加工施設指針の文言によっても,加工施設指針
がウラン加工施設の中で濃縮施設を適用対象外としているとは解されないから,原
告らの主張は,理由がなく採用できない。
5 その他の手続上の問題点
 原告らが本件許可処分の手続的違法事由として主張するその余の事情は,いずれ
も規制法等で履践が求められている手続にかかわるものではないから,本件許可処
分の手続的適法性を左右するものではない。したがって,これらの主張は,いずれ
も理由がない。
第4章 規制法14条1項2号要件適合性
第1 はじめに
 原告らは,規制法14条1項2号のうち経理的基礎に係る部分の要件にかかわる
違法事由を本件予備的請求において主張することはできず,その主張はそれ自体失
当であることは,前記第2章第1で説示したとおりである。したがって,本章で
は,同号の要件のうち技術的能力に係る部分に関する主張のみを争点として取り上
げ,判断することとする。
 前記前提事実等における手続経過によれば,内閣総理大臣は,規制法14条2項
の規定に基づき,同条1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)の許可基準の適
用につき原子力安全委員会に諮問し,これを妥当とする旨の同委員会の答申を受
け,これに依拠して本件許可処分を行ったものと認められる。
 そこで,以下,前記第2章第3の1で説示したところに従い,内閣総理大臣の上
記判断に不合理な点があるか否かにつき,現在の科学技術水準に照らし,上記判断
が依拠した原子力安全委員会の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合
理な点があり,あるいは当該加工施設が上記の具体的審査基準に適合するとした原
子力安全委員会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否かと
いう観点から検討を加えることとする。そして,具体的な判断順序としては,前記
第2章第3の2で説示したところにより,まず,被告の主張立証に基づき上記の具
体的審査基準における不合理な点の有無並びに調査審議及び判断の過程における看
過し難い過誤,欠落の有無につき判断検討し,上記不合理な点又は過誤,欠落があ
るものとは認められない場合に,すすんで,上記不合理な点又は過誤,欠落がある
とする原告らの主張について判断することとする。
第2 技術的能力に関する調査審議及び判断の過程
 証拠(乙1ないし4,13,69の1,2,12,13,75,証人B)及び前
記前提事実等を総合すると,次の事実が認められる。
1 科学技術庁は,本件許可申請が昭和62年5月26日に受理された後,規制法
14条2項所定の諮問に先立つ一次審査として,同条1項各号の要件充足性に関す
る審査を行った。科学技術庁は,同年12月までに一次審査を終え,原燃産業の技
術的能力については,(a)原燃産業が,遠心分離法によるウラン濃縮プラントの
建設,運転に当たって,動燃事業団が保有するウラン濃縮技術を継承するととも
に,先行プラントへの出向及び研修機関への派遣を通じて技術者の養成に努めてお
り,今後とも定期採用等により逐次増強を図り,事業開始までに約120名の技術
者を確保することとしていること,(b)当時原燃産業は73名(核燃料取扱主任
者免状を有する者2名を含む。)の技術者が施設の設計等の業務に従事しており,
このうち原子力関係業務に10年以上従事した者が約4割を占めていること,
(c)運転開始後の運転管理に当たって,運転課,補修課,技術課,安全管理課等
からなる組織を設けることとしていること,を理由に,原燃産業に加工の事業を適
確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める旨判断した。
 そして,内閣総理大臣は,同年12月16日,原子力安全委員会に対し,規制法
14条2項に基づき,同条1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)及び3号に
規定する基準の適用について書面により意見を求め,その別紙において技術的能力
に関する科学技術庁の上記判断内容を提示した。
2 原子力安全委員会は,昭和63年7月21日の第29回定例会議で,原燃産業
の技術的能力に関する審査を他の議題の審議とともに約20分間にわたり実施し,
原子力安全委員会事務局から配布資料「日本原燃産業株式会社六ヶ所事業所におけ
る核燃料物質の加工の事業の許可に係る技術的能力について(案)」(乙69の1
3)に基づく説明を受けた後,審議を行った。
 上記配布資料は,重点的に確認すべき事項として,(ア)事業を適確に遂行する
に必要な各部門が確立されることとなっており,また各部門に実務経験,知識等を
有する管理者が確保される見通しがあること及び事業を適確に遂行するに必要な技
術者が確保されているか又は確実な養成計画を有すること,(イ)法律上必要な核
燃料取扱主任者等の有資格者が確保されること,(ウ)建設・運転の各段階におけ
る品質保証活動を体系的に実施できること,(エ)その他,が掲げられ,それぞれ
の事項に関する本件許可申請の適合性については,次のとおりの内容であった。
(1) 上記(ア)について
 事業を適確に遂行するに必要な各部門としては,本社にウラン濃縮部,ウラン濃
縮技術開発部,土木建築部,安全管理部等が,六ヶ所事業所に技術課,安全管理
課,運転課,保修課等が設けられる。
 これらの各部門に必要な技術者(管理者を含む。)は,本社約40名,六ヶ所事
業所約120名であり,現在,約100名の技術者が施設の設計等の業務に従事し
ている。これらの技術者は,電気,機械,原子力,化学,土木,建築等の技術者で
あり,このうち管理職員の原子力関係業務平均従事年数は約14年,一般職の上記
年数は約3年,全体では約8年である。このため事業遂行に必要な技術者の確保に
ついては,今後の定期採用等により増強を図ることとしている。
 また,採用した技術者に対しては,動燃事業団への派遣によるウラン濃縮工場の
設計,建設及び運転に関する実務の修得,研修機関等への参加による関連知識の修
得等による技術的能力の涵養及び養成のほか,必要に応じ動燃事業団等の技術的協
力を受けることとしている。
 以上のことから本事業を適確に遂行するに必要な管理者及び技術者は確保し得る
ものと判断する。
(2) 上記(イ)について
 申請者は昭和63年6月現在で核燃料取扱主任者有資格者3名,第1種放射線取
扱主任者有資格者7名を有しており,また,技術者の確実な養成計画により,必要
な有資格者を確保し得るものと判断する。
(3) 上記(ウ)について
 建設・運転の各段階における品質保証活動のため,本社に品質保証計画の基本的
事項を定める品質保証委員会を,本社及び事業所間に品質保証に関する指導,調
整,審議等を行う品質保証連絡会議を設けることとしており,所要の品質保証活動
を体系的に実施できるものと判断する。
(4) 上記(エ)について
 遠心分離法によるウラン濃縮技術については,動燃事業団によって昭和54年よ
りパイロットプラントが運転され,さらに,現在同事業団によって原型プラントの
建設が進められている。
 このため原燃産業は,動燃事業団との間に「ウラン濃縮施設の建設,運転等に関
する技術協力基本協定」及び「技術協力の実施に関する協定」を結び,同事業団の
保有するウラン濃縮技術を継承することとしていることは,事業を適確に遂行する
上に適切なことと判断する。
3 原子力安全委員会は,審議の中で,上記資料の記載内容のほか,原燃産業が擁
するウラン濃縮関係の技術者約100名(正確には96名)のうち31名が原子力
関係業務への平均従事年数が10年以上の者であること及び原燃産業が本社及び六
ヶ所建設準備事務所に既に必要な組織を有していることも併せ考慮し,その結果,
内閣総理大臣による規制法14条1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)の基
準の適用は妥当なものと認めるとの結論に達し,その旨答申することを決定した。
4 原子力安全委員会は,昭和63年7月13日,内閣総理大臣に対し,規制法1
4条1項に規定する許可基準の適用について答申し,その中で,同項2号(技術的
能力に係る部分に限る。)に関して,審査した結果妥当なものと認めるとの判断を
示した。
第3 被告の主張に対する判断
 上記で認定した原子力安全委員会の調査審議において審査基準として用いられた
重点的確認事項は,原燃産業の技術的能力を質的及び量的な人的側面で確保すると
ともに,組織的な側面から品質保証の裏付けを保障しようとするものであり,その
内容が不合理とは認められない。そして,本件許可申請を上記確認事項に照らして
検討した結果,原燃産業に所定の技術的能力があるとの内閣総理大臣の判断を妥当
なものとした原子力安全委員会の調査審議及び判断の過程も,確認事項に沿って必
要な事項が本件許可申請書の記載により確認された結果のものといえ,これに看過
し難い過誤,欠落があるとは認められない。
第4 原告らの主張に対する判断
1 原告らは,技術的能力の評価は申請者の過去の事業実績に対してするもので,
将来の事業活動に対する見込み等は評価の対象とならないことを前提に,本件許可
処分以前にウラン濃縮の試験研究や事業実績のない原燃産業には所定の技術的能力
が欠けると主張する。
 しかしながら,規制法第3章の加工の事業に関する規制は,加工事業の許可,変
更の許可(13条ないし16条)のほかに,設計及び工事の方法の認可(16条の
2),溶接の検査(16条の4),使用前検査(16条の3),保安規定の認可
(22条)等の各規制が定められ,これらの規制が段階的に行われることとなって
いることに照らすと,規制法が,加工事業許可処分の段階で,申請者において実際
の加工事業の適確な遂行に必要な人的,組織的あるいは技術的体制をあらかじめ現
に具備していることまで要求しているものとは解されず,加工事業許可手続におい
ては,将来必要な人員や組織等が整備されることが相当の具体性と実現可能性を備
えた計画によって示されていれば,それで足りるというべきである。
 したがって,これと異なる前提に立つ原告らの主張は,理由がない。
2 また,原告らは,本件施設の稼働開始後に事故ないし不具合が発生した事実を
もって,原燃産業の運転管理能力の欠陥は明らかであると主張する。
 しかし,原告らが指摘する事故ないし不具合(その内容は,後に第5章第3の5
7でみるとおりである。)は,いずれも原燃産業において加工事業を適確に遂行す
るに足りる技術能力があるとした本件安全審査の前記判断の合理性を左右するに足
りる事象であるとまでは認められない。したがって,原告らの主張は理由がない。
3 このほか,原告らは,JCO事故の原因や背景を根拠に,作業従事者の経験年
数や核燃料取扱主任者の有資格者の有無ないし数は実際の技術的能力の有無とは無
関係であるとして,JCOに対する加工事業許可処分と同様の審査がされたのみの
技術的能力に関する本件安全審査には看過し難い過誤,欠落があると主張する。
 しかしながら,核燃料取扱主任者免状は,科学技術庁長官が行う核燃料取扱主任
者試験に合格する等した者に対して交付され,これを有する者は,加工事業又は再
処理事業における核燃料取扱主任者又は廃棄事業における廃棄物取扱主任者に選任
される資格があり,科学技術庁長官は,核燃料取扱主任者免状の交付を受けた者が
規制法又は規制法に基づく命令の規定に違反したときはその免状の返納を命ずるこ
とができる(規制法22条の2,22条の3,51条,51条の20)。そして,
核燃料取扱主任者試験は,核燃料物質取扱主任者の職務を行うに必要な専門的知識
及び経験を有するかどうかを目的として行われる筆記試験で,試験事項は原則とし
て(a)核燃料物質の化学的性質及び物理的性質,(b)核燃料物質の取扱いに関
する技術,(c)放射線の測定及び放射線障害の防止に関する技術,(d)核燃料
物質に関する法令の4項目である(加工事業規則8条の3)。さらに,加工事業者
は,核燃料物質の取扱いに関して保安の監督を行わせるために核燃料取扱主任者を
選任しなければならないとされている(22条の2)。このように,核燃料取扱主
任者免状の交付手続やその保有者の資格等につき一定の規制がされていることに照
らすと,同免状の保有者は,核燃料物質の取扱いや放射線障害の防止の技術等加工
事業の適確な遂行に有益な一定の知識と技術を有していることは否定できない。ま
た,原子力関係業務の経験年数も,加工事業の適確な遂行に有益な人的資源に求め
られる資質の一つであることは否定できないところである。そうすると,上記免状
の保有者や原子力関係業務経験年数の長い者が,規範意識の鈍磨や作業上の慣れ,
安全性への過信などが原因となって加工施設の安全を損なう行為に出る危険性があ
るとしても,あるいは原告らが主張するようにJCO事故の発生に核燃料取扱主任
者免状を有する者の行為が何らかの寄与をしていたとしても,そのような危険は加
工施設の作業従事者に対する継続的な研修や教育,啓発で防止されるべき性質のも
のであって,免状保有者の有無や人数,原子力関係業務の経験年数といった資質を
有する人的資源が,加工事業者の所定の技術的能力の確保に全く資するところがな
いとまではいえない。
 そして,先にみたとおり,技術的能力に関する本件安全審査は,原燃産業の従業
員の上記免状保有者数と原子力関係業務の経験年数のみに着目してされたものでは
なく,他にも原燃産業の組織体制や動燃事業団その他外部における実習研修による
人的資源の質的向上や動燃事業団からの技術的協力あるいは技術移転の計画といっ
た事情を考慮してされたものであるから,原告らの主張によっても,なお,技術的
能力に関する本件安全審査に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。
第5 まとめ
 以上検討したところによれば,本件許可申請について規制法14条1項2号(技
術的能力に係る部分に限る。)要件適合性を認めた内閣総理大臣の判断には,不合
理な点はないものということができる。
第5章 規制法14条1項3号要件適合性
第1 はじめに
 前記前提事実等で認定した手続経過によれば,内閣総理大臣は,規制法14条2
項の規定に基づき,本件許可申請の同条1項3号の許可基準への適合性につき原子
力安全委員会に諮問し,これを肯定する旨の同委員会の答申を受け,これに依拠し
て本件許可処分を行ったものと認められる。
 そこで,本章では,前記(第2章第3の1,2)で説示したところに従い,内閣
総理大臣の上記判断に不合理な点があるか否かにつき,本項においては上記判断が
依拠した具体的審査基準に不合理な点があるか否かという点を,第2項以下におい
ては本件施設が上記の具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会の調査審
議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるか否かという点をそれぞれ検討す
るほか,本項では,上記具体的審査基準の合理性と併せて,本章の判断の前提とな
る基本的な考え方等についても裁判所の判断を示すこととする。
1 判断基準
 規制法14条1項3号が加工施設の位置,構造及び設備の安全性を確保して防止
しようとしている災害は,その文言上,申請に係る加工施設が取り扱う核燃料物質
に起因する災害を指すことは明らかである。そこで,本件施設が取り扱う核燃料物
質である六フッ化ウランがいかなる潜在的危険性を有する物質であるかについてみ
た上で,本件許可処分の規制法14条1項3号要件適合性を判断するに当たり,こ
の六フッ化ウランのいかなる危険性に着目し,どのような基準を用いるべきかにつ
いて検討する。
(1) 事実認定
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 放射線の種類とその性質(証人F,弁論の全趣旨)
 放射線は,その種類ごとに,物質との相互作用及びその透過力,必要な遮へい方
法等が異なっている。
 アルファ線は,原子核のアルファ崩壊により放出される放射線で,陽子と中性子
各2個で構成されるアルファ粒子の流れである。アルファ粒子は,正の2価の電荷
を持ち,質量数は4で,その電荷や質量数が大きいことから物質との相互作用が大
きく,このため透過力は極めて小さく,空気中でも数センチメートル程度しか透過
できず,薄い紙1枚で完全に遮へいすることができる。ただし,このように短い距
離で停止する間に他の物質と相互作用を行いその有するエネルギーを与えるため,
同じ距離の中で他の物質を電離するような作用は,他の放射線に比べてはるかに大
きい。
 ベータ線は,原子核のベータ崩壊により放出される放射線で,ベータ粒子と呼ば
れる電子又は陽電子の流れである。ベータ粒子の質量はアルファ粒子の約7000
分の1とアルファ線と比べるとはるかに小さいため,物質との相互作用は小さく,
したがって透過力はアルファ線よりもかなり大きいが,空気中でも数十センチメー
トルないし数メートル程度しか透過できず,数ミリメートルないし1センチメート
ル程度の厚さのアルミニウムやプラスチックの板で完全に遮へいすることができ
る。
 中性子線は,陽子とほぼ同じ質量を持ち電荷のない粒子である中性子の流れであ
る。物質との相互作用の起こり方はその速度により異なり,したがって,透過力に
ついても,低速度のものは透過力が小さいものの,高速度のものは透過力がかなり
大きく,減速ないし遮へいされない限りは数キロメートル程度の距離にまで達する
こともある。中性子線は,水のように水素を大量に含む物質中を通し,質量のほぼ
等しい水素の原子核と衝突させて減速させることができ,ホウ素やカドミウム等中
性子を吸収する性質の強い物質により容易に遮へいすることができるようになる。
中性子が他の元素の原子核に吸収されると,その原子核はもとの元素と質量数が異
なる同位元素となるが,これは不安定なもの,すなわち放射性核種であることが少
なくない。
 これに対し,放射線のうち,電磁波であるガンマ線は,質量も電荷もないために
物質との相互作用はベータ線と比べてもはるかに小さく,透過力が非常に大きい。
これを遮へいするには厚い鉛板やコンクリート壁が必要である。
イ ウラン等による放射線被曝の危険性(乙7,弁論の全趣旨)
 放射線による被曝の形態は,体外に存在する放射性物質が発する放射線を被曝す
る外部被曝と,飲食物の摂取又は空気の吸入に伴って体内に取り込まれた放射性物
質が発する放射線を被曝する内部被曝の2種類に大別される。
 このうち,ウランが放射性崩壊に伴って発するアルファ線又はベータ線は,上記
のとおり透過力が弱く,人体でも皮膚の部分でほとんどエネルギーが吸収されてし
まうために,外部被曝ではさほど重要な問題にはならない。
 これに対し,体内にウランが取り込まれた場合,体内におけるウランの代謝はウ
ランの化学的形態(可溶性のウランか不溶性のウランかによる区別)及びウランの
摂取経路(飲食物摂取によるか空気吸入によるか)等に依存し,体内に取り込まれ
たウランの一部は,排泄物,呼気等に混じって体外に排出され,一部が骨,腎臓等
に蓄積されるが,このようにして体内に存するウランは,その発するアルファ線等
が周囲の人体組織にエネルギーを与え,体内器官に大きな影響を及ぼすおそれがあ
る。
 このほか,ウランが核分裂反応を起こした場合には,放出された中性子のうち高
速のものは時には数キロメートルの距離にまで達することがあり,人体組織を直接
被曝させる外部被曝をもたらすほか,中性子を吸収した原子を放射性核種とする放
射化現象を引き起こし,これにより生じた放射性物質が体内に取り込まれることに
より生じる内部被曝を間接的にもたらすおそれがある。
ウ 環境中の放射線(弁論の全趣旨)
 自然界には,宇宙線と呼ばれる宇宙から降り注ぐ放射線があるほか,地殻を構成
している花崗岩,石灰岩,粘土等の物質,あるいは飲食物中にも含まれている放射
性物質から放出される放射線も存在している。放射線や放射性物質は,このように
天然に存在するもののほか,人工的に作り出されるものもある。
 自然放射線の被曝による一人当たりの線量当量は,居住地域や生活様式等によっ
てかなりの差異を生じるが,平均して年間1.1ミリシーベルト程度であるとされ
ており,その内訳は,宇宙線によるものが0.35ミリシーベルト程度,大地から
の放射線によるものが0.4ミリシーベルト程度,摂取された飲食物等からの放射
線によるものが0.35ミリシーベルト程度とされている。さらに,土壌・建材等
から発生し空気中に含まれるラドン(ラジウムの崩壊により生ずる放射性の気体)
等により,平均して年間1ミリシーベルト程度を受けている。この自然放射線によ
る一人当たりの線量当量は地域によってかなりの差異があり,国内においても最大
の地域と最小の地域との間には年間0.4ミリシーベルト程度の差異が認められ
る。ただし,局所的にはもっと高線量の場所も存在し,海外では約7ミリシーベル
トを記録している地域もある。また,コンクリート造りの家屋の中で受ける線量当
量は,コンクリートの中に含まれる天然の放射性物質からの放射線が加わって,木
造の家屋の中で受ける線量当量の約1.5倍になる場合も決して珍しくないほか,
高空では宇宙線を遮へいする効果のある空気の層が薄いため,高空を飛行する飛行
機の中では地上よりも多く被曝することになり,例えば,パリ・ニューヨーク間を
ジェット機で1往復すると約0.05ミリシーベルト多く被曝する。一方,大洋を
航海する船舶の上では,大地からの放射線の影響がないので,受ける自然放射線量
は少ない。
 また,人工放射線の被曝による線量当量としては,例えば,胸部レントゲン間接
撮影の場合には一回当たり0.3ミリシーベルト程度,胃の集団検診の場合には一
検査当たり4ミリシーベルト程度を被曝することになる。
 自然放射線と人工放射線の性質やこれによる影響に区別はなく,放射線によって
人体が受ける影響は,いずれも同一尺度である線量当量(単位はシーベルト)によ
り表される。
エ 放射線の人体への影響(甲2,3,477,乙7,8,弁論の全趣旨)
(ア) 高線量の放射線被曝による影響
 高線量の放射線被曝による影響としては,放射線を被曝した個人に現れる身体的
障害と,その個人の子孫に現れる遺伝的障害とに分けられる。また,放射線の人へ
の影響は,確率的影響と非確率的影響とに分けて考えるのが便利な場合もある。前
者は線量当量に応じて放射線の影響が確率的に現れるもので,がんや遺伝的障害の
発生がその例である。後者は影響の強さ(重篤度)が線量とともに変わるもので,
そのためにその線量以下では影響が現れないといった「しきい値」があり得るよう
な影響で,白内障,皮膚障害等がその例である。
(a) 身体的障害
 身体的障害は,放射線被曝後数週間以内に現れる急性障害と,かなり長い潜伏期
間を経て現れる晩発性障害とに分けられる。
 このうち,急性障害は,短期間にあるレベル以上の線量の放射線に被曝した場合
に初めて生じるものであって,線量当量,被曝部位等によってその障害の状況は異
なるが,その症状としては,白血球の減少,皮膚の発赤(紅斑),脱毛等があり,
線量当量が高くなると造血組織の障害等により死に至ることもある。例えば,全身
の線量当量が0.5ないし1シーベルト程度の場合,白血球の一時的な減少が生
じ,2.5ないし5シーベルト程度では,主として造血組織の障害のため被曝した
人の半数が60日以内に死亡し,7ないし10シーベルト以上では,造血組織の障
害により被曝した人の全員が死亡するといわれている。しかしながら,全身に0.
5シーベルト以下の放射線を被曝したときは臨床症状はほとんど発生しないといわ
れている。
 また,晩発性障害は,放射線被曝により急性障害が生じ,それが回復した後に,
又は放射線被曝時には何らの障害も現れないまま数年ないし数十年が経過した後
に,被曝した人の一部に発生することがあり得ると考えられているが,その症状と
しては,白血病やその他のがん,白内障等がある。晩発性障害のうち白血病やその
他のがんのような確率的影響については,それらの発生と線量当量との関係につい
て,比較的高線量領域ではほぼ直線関係が成立することが認められている。
(b) 遺伝的障害
 遺伝的障害は,放射線の被曝により生殖細胞中にある遺伝子に変化(突然変異)
が生じ,それが子孫に伝えられて障害として現れるものである。放射線の線量当量
と遺伝的障害の発生との関係については,人間以外のいくつかの動物の場合に,比
較的高線量領域ではほぼ直線関係が成立することが認められている。
(イ) 低線量の放射線被曝による影響
 低線量放射線の生物への影響は,身体的障害については,急性障害は上記のよう
に全身に0.5シーベルト以下の放射線を被曝したときは臨床症状はほとんど発生
しないといわれており,問題となるのは,晩発性障害及び遺伝的障害である。そし
て,晩発性障害の中でも,白内障のような非確率的影響については,低線量の放射
線被曝によっては発生しないことがはっきりしており,しきい値があるとされてい
る。
 これに対し,晩発性障害のうち白血病やその他のがんのような確率的影響,ある
いは遺伝的障害における障害の発生と線量当量との関係については,低線量の場合
は自然放射線による影響との区別が困難であること,低線量の放射線の効果が線量
に応じて小さくなることから影響の実験的証明に困難が伴うこと,生物には細胞や
組織が持つ損傷回復力があり低線量の放射線の影響の現れ方が不分明であること,
晩発性障害の潜伏期が長いこと,といった様々な理由から,その有無を明らかにす
る決定的な研究成果は得られていない。この点に関する研究としては,広島や長崎
の原爆被害に関する経験的データや医療・原子力開発の従事者,原子力施設周辺住
民等の被曝データに基づいた研究のほか,動植物に関する実験や観察による研究が
行われているが,人的被害に基づいた研究は結果の評価が分かれており,動植物に
関する研究も,その成果自体に対する評価のほかに研究結果の人間への応用の可否
についても議論が分かれている。ただ,ショウジョウバエ,カイコやハツカネズミ
を用いて比較的低線量の放射線と遺伝子突然変異の間の直線関係を明らかにした研
究については,その結果を直接人間に当てはめることはできないとしても,そのメ
カニズムを考えるとある程度までは人間にも当てはめてよいと考えられている。
オ 規制値(当事者間に争いがない。)
(ア) 環境上の規制値
 本件許可処分当時,我が国においては,ウランによる内部被曝について,身体的
障害及び遺伝的障害の発生の頻度を無視し得るほど小さいものとするため,周辺監
視区域(人の居住を禁止し,かつ,業務上立ち入る者以外の者の立入りを制限する
措置を講ずる区域)外につき,空気中と水中とに分けて,その許容濃度を,例えば
天然ウランの場合はそれぞれ1立方センチメートル当たり2×10のマイナス12
乗マイクロキュリー及び6×10のマイナス7乗マイクロキュリーと定めていた
(許容被曝線量等を定める件10条1項,6条1号,別表第3,加工事業規則1条
4号)。これは,ICRPの体内放射線量に関する専門委員会Ⅱの1959年(昭
和34年)報告及び同報告に対する1962年(昭和37年)補遺を尊重し,放射
線審議会の答申を受けて,同報告書中の天然ウランに係る最も厳しい値に基づき定
められた数値であった。
 しかし,上記の許容被曝線量等を定める件は,本件許可処分の直前の昭和63年
7月26日に科学技術庁の告示が出された線量当量限度等を定める件により平成元
年3月31日限りで廃止となり,同年4月1日以降は,線量当量限度等を定める件
が,1977年(昭和52年)のICRPの勧告及び1985年(昭和60年)の
パリ声明に基づき,内部被曝については線量当量限度を基準としたより直接的な管
理が可能なように,周辺監視区域外における空気中及び水中の放射性物質の濃度限
度を,周辺監視区域外の公衆の個人が1年間呼吸し,又は水を1年間飲み続けた場
合の内部被曝により1ミリシーベルトの実効線量当量となるような空気中及び水中
の三か月の平均の放射性物質の濃度と定め,さらに,外部放射線,空気の吸入摂取
及び水の経口摂取により併せて被曝する場合にあっては,これらによる線量当量を
合計しても,公衆の個人の線量当量限度は実効線量当量で1年間につき1ミリシー
ベルトとすることを定めている(線量当量限度等を定める件9条1項,加工事業規
則1条3号,7条の8第4号及び7号)。
(イ) 公衆被曝の規制値
 本件許可処分の当時,核燃料物質の加工施設における周辺監視区域外の許容被曝
線量,すなわち公衆の許容被曝線量は,1年間につき0.5レム(5ミリシーベル
ト)とされていた(許容被曝線量等を定める件2条,加工事業規則1条4号)。こ
れは,1958年(昭和33年)のICRPの公衆に対する許容被曝線量に関する
勧告を尊重し,総理府に設置された放射線審議会の答申を受けて,加工事業規則等
の規定に基づき定められた数値であり,アメリカ,カナダ,ソ連等の諸外国におい
ても採用されていた数値である。
 ところで,ICRPは,上記公衆に対する許容被曝線量を勧告するに当たって
は,放射線被曝による障害については,しきい値が存在するかも知れないことを認
めながらも,これを積極的に肯定するまでの知見は得られていないので,いかに低
い被曝線量でも障害が生じるかも知れない,換言すれば,低線量放射線被曝と障害
発生との間に直線関係が成り立つかも知れないという慎重な仮定の下に,長年にわ
たるエックス線やラジウムその他の放射性物質の使用経験,人間その他の生物の放
射線障害に関する知見に照らして,身体的障害及び遺伝的障害の発生する確率が無
視し得るほど小さい線量を社会的に容認できる許容線量として,このような数値を
勧告したものである。
 現在では,核燃料物質の加工施設における周辺監視区域外の線量当量限度,すな
わち公衆の線量当量限度は,実効線量当量について1年間1ミリシーベルト,皮膚
及び眼の水晶体の組織線量当量についてそれぞれ1年間につき50ミリシーベルト
とされている(線量当量限度等を定める件3条,現行の加工事業規則1条3号)。
これは,1977年(昭和52年)のICRPの勧告及び1985年(昭和60
年)パリ声明に基づき,先の関係法令を改廃したものである。この法令の改廃で
は,旧法令の「被曝放射線量」及び「許容被曝線量」を,それぞれ「線量当量」及
び「線量当量限度」と改めるとともに,実効線量当量及び組織線量当量の二元管理
を行うことにより,放射線防護基準を体系的に整理している。すなわち,実効線量
当量を用いることによって放射線の確率的影響を総合的に評価し,一般公衆が放射
線から受けるリスクを社会的に容認できるレベル,すなわち公共輸送機関の事故等
により受けるリスクと同程度のレベルに制限するとともに,組織線量当量を用いる
ことによって,皮膚及び眼の水晶体の組織の線量当量をしきい値以下にすること
で,非確率的影響の発生を防止するものである。
(カ) 六フッ化ウランの化学的危険性(甲500,証人G)
 六フッ化ウランは,反応性・腐食性の強い劇物で,皮膚に触れた場合には熱傷を
引き起こし,吸入した場合には呼吸器系組織を激しく損傷して致命的となるおそれ
があり,可燃物を着火させることもある。そして,六フッ化ウランは,前記前提事
実等のとおり,大気圧下では常温で固体であるが,昇華点は摂氏56.5度で,常
温でも揮発性は高く,気体の状態では分子量が大きいため地表近くを漂う傾向が強
い。
 また,六フッ化ウランは,水(空気中の水蒸気を含む。)と反応してフッ化ウラ
ニル及びフッ化水素を生じる性質があるが,フッ化水素は,常温では液体であるも
のの,揮発性が高く常温でも気化しやすい性質を有しており,腐食性や人体の組織
への侵襲性が強いほか,気体やその水溶液の毒性も極めて強く,許容濃度は3pp
mと極めて低い。
(キ) 放射性廃棄物の危険性(乙75,弁論の全趣旨)
 放射性廃棄物は,放射性気体廃棄物,放射性液体廃棄物及び放射性固体廃棄物に
分類され,本件施設では,放射性気体廃棄物としては施設から放出される排気が,
放射性液体廃棄物としては分析排水や洗缶排水等の排水及び使用済みの洗浄用溶剤
等が,放射性固体廃棄物としてはシリンダ類の交換作業等の非定常的な作業の際に
発生するウェス,ゴム手袋等が,それぞれ発生する。これらが不相当な方法で処分
された場合,これらの廃棄物に接し又は摂取した本件施設内外の者が外部被曝ない
しは内部被曝を受ける危険がある。
(2) 本件施設において問題となる災害
 上記認定事実によれば,本件施設が取り扱う核燃料物質である六フッ化ウランに
起因する災害としては,六フッ化ウランが放射性崩壊に伴って発するアルファ線及
びベータ線による内部被曝(透過力が小さいために外部被曝は問題にならな
い。),六フッ化ウランが核分裂反応に伴って発する中性子線に起因する外部被曝
及び内部被曝,本件施設で生じた放射性廃棄物が施設外で引き起こす外部被曝及び
内部被曝並びに六フッ化ウランないしはこれから生成したフッ化水素の化学的な劇
物性ないしは毒物性に起因するものを挙げることができる。
 しかしながら,一般に核燃料物質が化学的に毒物性又は劇物性を有していること
により生じるおそれのある災害については,毒物及び劇物取締法が上記の性質に着
目して必要な規制を設けているところであり,規制法が同じ視点から核燃料物質で
ある毒物及び劇物についてより厳重な規制を加えているとは解されない。したがっ
て,本件施設について規制法14条1項3号要件適合性を検討するに当たっても,
同号にいう「核燃料物質による災害」としては,六フッ化ウラン及びフッ化水素の
化学的な性質に起因するものを念頭に置く必要はないというべきである。
(3) 本件施設に求められる安全性の意義
 六フッ化ウランが放射性崩壊により発するアルファ線及びベータ線による内部被
曝は,六フッ化ウランが本件施設から外部環境に漏出する等して人体に摂取される
ことで生じるものであるから,本件施設について規制法14条1項3号要件適合性
を検討するに当たっては,六フッ化ウランが平常時に本件施設内に閉じ込められて
いることはもちろん,様々な事故が原因で本件施設外へ大量に漏出等することのな
いような事故防止対策が講じられていることが必要となる。また,六フッ化ウラン
が核分裂反応により発する中性子線に起因する外部被曝及び内部被曝については,
核分裂反応を連鎖的に引き起こす臨界状態をいかにして生じさせないかという臨界
管理が重要となる。
 そうすると,結局,加工施設の位置,構造及び設備が上記のような災害の防止上
支障がないものであることという規制法14条1項3号要件適合性については,具
体的には,六フッ化ウランが平常時はもちろんのこと,事故によっても本件施設外
へ大量に漏出等することのないよう,ウランの閉込め機能の確保対策及び諸般の事
故防止対策が講じられているか否か,臨界管理が適切に行われているか否か,放射
性廃棄物管理が適切に行われているか否か,という観点から判断されるべき事柄で
あるということができる。
(4) 求められる安全性の内容と程度
 本件施設において問題となる六フッ化ウランに起因する災害の防止対策の適否を
審査するに当たっては,放射線の人体に対する影響において,一定の線量以下では
障害が発生しないような限界値(しきい値)があるか否かが問題となるが,(a)
放射線の人体への影響のうち急性障害や一部の晩発性障害にはしきい値はないとさ
れているのに対し,がんや白血病等の晩発性障害や遺伝的障害の発生については,
しきい値の有無に関する決定的な研究成果はないものの,遺伝的障害の発生と比較
的低線量の放射線との間には直線関係があると考えてもよいと考えられているこ
と,(b)本件許可処分当時の国内の許容被曝線量の規制値や現在の線量当量限度
の規制値,あるいはその基礎となったICRPの勧告値は,低線量放射線被曝と障
害発生との間に直線関係が成り立つかもしれないという仮定に基づいていること,
といった前記認定事実のほか,(c)規制法14条1項3号要件適合性の判断にお
いては,人体への障害発生との関係の有無が確認されていない放射線の影響につい
ては,これを存在するとの前提に立たない限り加工施設について核燃料物質による
災害の防止上支障がないことにはならないことも併せ考慮すると,上記3号要件適
合性に関する裁判所の審理判断は,しきい値の存在を前提として行うのが相当であ
るというべきである。
 ところで,加工施設に求められる安全性の程度,すなわち核燃料物質が有する潜
在的危険の顕在化を防止すべき程度については,上記のように放射線の人体に対す
る影響のうち一定のものにしきい値がないものとした場合,そのような非確率的影
響をいかなる程度においても防止しようとするならば,六フッ化ウランの漏洩や放
射性廃棄物の排出を皆無とし,臨界事故その他の事故発生の可能性も絶対的に零と
しなければならないことになる。しかし,証人Fの証言によれば,およそ人工の設
備ないし機器は,万全の手当を講じたとしても,何らかの破綻ないし事故が発生す
る可能性を必然的に有しており,これを絶対的に零にすることは不可能であること
が認められる。そうすると,核燃料物質が有する潜在的危険の顕在化を完全に防止
し得るような加工施設は存在し得ないということになり,したがって,上記のよう
な意味における安全性を有する加工施設はおよそ存在せず,あらゆる加工事業許可
申請は安全審査を通過し得ないために不許可とならざるを得ない。
 しかしながら,原子力基本法が,原子力の研究,開発及び利用の推進は将来にお
けるエネルギー資源の確保や学術の進歩と産業の振興をもたらし,人類社会の福祉
と国民生活の水準向上とに寄与するものであるとの考え方(1条)や,原子力の研
究,開発及び利用が平和の目的や安全確保と共存し得るものであるとの考え方(2
条)を示していること,また,規制法が核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用
とこれらによる災害を防止して公共の安全を図ることが両立し得ることを前提とし
ていること(1条)等に照らし,上記のような事態が規制法の予定するところでな
いことはいうまでもなく,規制法が予定している加工施設の安全性も,上記の意味
のものであるとは解されない。
 しかして,およそあらゆる人工の設備ないし機器は程度の差こそあれ常に何らか
の危険を伴うことは避け難いところであり,しかもその中には加工施設と同様にひ
とたび破綻ないし事故が生じれば人の生命身体に危害を及ぼすようなものが少なく
ないにもかかわらず,そのような絶対的安全性を欠く設備機器の存在を国内外の法
規や社会通念が許容し,その利用が現代における人々の生活や経済活動に深く浸透
してこれを支える不可欠の要素となっているのは,設備機器の本質的危険性の程度
とその利用によって得られる社会的な効用や利便の大きさとを比較衡量したときに
前者に後者が優越しているときはその設備機器を一応有益なものと評価してその存
在可能性を認めた上,当該設備機器の具体的危険性が社会通念上容認し得る一定水
準以下に保たれる場合には,これが「安全性」を備えているものとして利用するこ
とが許されるとの考え方に基づくものであるといえる。そして,原子力基本法や規
制法が原子力等の利用と安全確保等の両立をうたいつつ,安全性を審査した上で加
工施設を設置して加工事業を行うことを許容しているのも,基本的には人工の設備
機器の利用に関する上記の考え方に立脚し,加工施設の利用によって得られる社会
的な効用等の大きさが加工施設の本質的危険性の程度に優越しているとの価値判断
の下に,加工施設一般について加工事業許可を与える余地を認めた上で,個別の加
工施設の具体的危険性が社会通念上容認し得る一定水準以下に保たれているか否か
を確認し,これが認められるときには必要とされる安全性を備えているものとして
加工事業の遂行を許可する趣旨であると解される。したがって,規制法14条1項
3号が予定する加工施設の安全性の程度は,その危険性が社会通念上容認し得る一
定水準以下に保たれていることを要すると解するのが相当である。
 もっとも,上記の社会通念上容認し得る一定水準の具体的内容を各設備・機器の
安全性や立地条件等の諸条件について個別具体的に示すことは,甚だ困難といわざ
るを得ない。とはいえ,各設備・機器につき発生が想定される事故が施設外にもた
らす環境や人体への影響については定量的な評価が可能であり,政府の放射線被曝
に関する規制が環境中の放射性物質の濃度や公衆の被曝線量等について規制値を定
める方法で行われているのも同じ趣旨であるといえる。しかしながら,これらの規
制値は,その放射性物質や放射線の由来を問うことなく空気中又は水中の放射性物
質の濃度や公衆の被曝量を定めているものであって,環境中にはもともと本件施設
に由来する放射性物質ないし放射線以外にも人工の放射性物質や放射線が存在して
いる以上,本件施設から放出される放射性物質や放射線による被曝量それ自体が上
記の規制値を満足していれば足りるという性質のものでないことは当然である。し
たがって,本件における裁判所の判断も,本件許可処分当時の政府の規制値である
許容被曝線量等を定める件所定の環境中の許容濃度及び許容被曝線量や,本件許可
処分当時ICRPの勧告を受けて既に科学技術庁の告示が出されていた線量当量限
度等を定める件(ただし,その適用は平成元年4月1日からである。)における規
制値を単に下回っていれば足りるとするものではなく,本件施設から放出される危
険性のある放射性物質又は放射線による公衆の被曝線量が,上記の規制値を下回る
ことは当然のこととして,さらに環境中に自然に存在する放射性物質及び自然放射
線による一般公衆の線量当量並びに診療を受けるための被曝による線量当量を参考
にしながら,社会通念上許容し得る一定水準以下に保たれているか否かを基準にし
て行うこととする。
2 本件安全審査の基本的な考え方と具体的審査基準
(1) 事実認定
 証拠(乙14,15,70の11,証人A,証人B)及び弁論の全趣旨によれ
ば,次の事実が認められる。
ア 原子力安全委員会は,規制法の規制対象となる核燃料施設のうち,加工施設,
再処理施設及び使用施設等について,各工程を通じて核燃料物質が臨界に達しない
ための対策及び放射性物質を閉じ込めるための対策等が必要となるとの考えの下
に,その安全審査に際し統一的視点からの評価が可能となるように,これらの核燃
料施設に共通した安全審査の基本的考え方を取りまとめたものとして,昭和55年
2月7日付け決定により核燃料施設基本指針を定めた。また,同委員会は,この決
定が当該指針に基づき各種核燃料施設についてその特質に応じた個別の安全審査指
針を整備するものとしていることを受けて,加工事業許可の申請に係るウラン加工
施設の安全審査を客観的かつ合理的に行うため,ウラン加工施設に対する安全審査
上の指針として加工施設指針をとりまとめ,同年12月22日付けで決定した。こ
の加工施設指針は,核燃料施設基本指針の各指針について,ウラン加工施設の特質
に即して詳細な基準を定め,あるいは具体化する内容になっている。
 核燃料施設基本指針の内容は,次のとおりである。
(ア) 基本的条件
 核燃料施設の立地地点及びその周辺においては,大きな事故の誘因となる事象が
起こるとは考えられないこと。また,万一事故が発生した場合において,災害を拡
大するような事象も少ないこと。
(イ) 平常時条件
 核燃料施設の平常時における一般公衆の被曝線量が,実用可能な限り低いもので
あること。
(ウ) 事故時条件
 核燃料施設に最大想定事故(安全上重要な施設との関連において,技術的にみて
発生が想定される事故のうちで,一般公衆の被爆線量が最大となるもの)が発生す
るとした場合,一般公衆に対して,過度の放射線被曝を及ぼさないこと。
(エ) 閉じ込めの機能
 核燃料施設は,放射性物質を限定された区域に閉じ込める十分な機能を有するこ
と。
(オ) 放射線遮へい
 核燃料施設においては,従事者等の作業条件を考慮して,十分な放射線遮へいが
なされていること。
(カ) 放射線被曝管理
 核燃料施設においては,従事者等の放射線被曝を十分に監視し,管理するための
対策が講じられていること。
(キ) 放射性廃棄物の放出管理
 核燃料施設においては,その運転に伴い発生する放射性廃棄物を適切に処理する
等により,周辺環境へ放出する放射性物質の濃度等を実用可能な限り低くできるよ
うになっていること。
(ク) 貯蔵に対する考慮
 核燃料施設においては,放射性物質の貯蔵等による敷地周辺の放射線量を実用可
能な限り低くできるようになっていること。
(ケ) 放射線監視
 核燃料施設においては,放射性廃棄物の放出の経路における放射性物質の濃度等
を適切に監視するための対策が講じられていること。
 また,放射性物質の放出の可能性に応じ,周辺環境における放射線量,放射性物
質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていること。
(コ) 単一ユニットの臨界安全
 核燃料施設における単一ユニットは,技術的にみて想定されるいかなる場合でも
臨界を防止する対策が講じられていること。
(サ) 複数ユニットの臨界安全
 核燃料施設内に単一ユニットが二つ以上存在する場合には,ユニット相互間の中
性子相互干渉を考慮し,技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界を防止する
対策が講じられていること。
(シ) 臨界事故に対する考慮
 誤操作等により臨界事故の発生するおそれのある核燃料施設においては,万一の
臨界事故に対する適切な対策が講じられていること。
(ス) 地震に対する考慮
 核燃料施設における安全上重要な施設は,その重要度により耐震設計上の区分が
なされるとともに,敷地及びその周辺地域における過去の記録,現地調査等を参照
して,最も適切と考えられる設計地震力に十分耐える設計であること。
(セ) 地震以外の自然現象に対する考慮
 核燃料施設における安全上重要な施設は,敷地及びその周辺地域における過去の
記録,現地調査等を参照して,予想される地震以外の自然現象のうち最も過酷と考
えられる自然力を考慮した設計であること。
(ソ) 火災・爆発に対する考慮
 火災・爆発のおそれのある核燃料施設においては,その発生を防止し,かつ,万
一の火災・爆発時には,その拡大を防止するとともに,施設外への放射性物質の放
出が過大とならないための適切な対策が講じられていること。
(タ) 電源喪失に対する考慮
 核燃料施設においては,外部電源系の機能喪失に対応した適切な対策が講じられ
ていること。
(チ) 放射性物質の移動に対する考慮
 核燃料施設においては,核燃料施設内における放射性物質の移動に際し,閉込め
の機能,放射線遮へい等について適切な対策が講じられていること。
(ツ) 事故時に対する考慮
 核燃料施設においては,事故に対応した警報,通信連絡,従事者の退避等のため
の適切な対策が講じられていること。
(テ) 共用に対する考慮
 核燃料施設における安全上重要な施設は,共用によってその安全機能を失うおそ
れのある場合には,共用しない設計であること。
(ト) 準拠規格及び基準
 核燃料施設における安全上重要な施設の設計,工事及び検査については,適切と
認められる規格及び基準によるものであること。
(ナ) 検査,修理等に対する考慮
 核燃料施設における安全上重要な施設は,その重要度に応じ,適切な方法により
検査,試験,保守及び修理ができるようになっていること。
イ 原子力安全委員会は,本件安全審査における調査審議に当たり,上記各指針に
基づいて検討を行ったほか,米国国立標準協会(American nation
al standard institute,略称ANSI)が定める規格,国
内の様々な技術基準をも参考とし,さらに先行のウラン濃縮施設の設計や運転実
績,試験研究の結果等,様々な分野の技術的な知見の蓄積も活用した。
ウ 本件安全審査では,ウラン濃縮施設の特質を考慮して,ウランの潜在的危険性
の顕在化を防止するためには,ウランを特定の区域に閉じ込め,極力外部環境へ出
さないようにすることに尽きるとの考えから,ウラン濃縮施設における安全性確保
対策は次の四つの審査事項に集約されるとの基本的な考え方に立って,これらが満
たされているか否かを検討した。
(ア) 加工施設の基本的立地条件に係る安全性確保対策
 加工施設の立地地点及びその周辺における自然環境及び社会的環境を検討して,
当該施設の基本設計ないし基本的設計方針との関連において,加工施設に係る大き
な事故の誘因となる事象が起こるとは考えられないこと,また,万一事故が発生し
ても災害を拡大するような事象の少ない立地を選定していること。
(イ) 加工施設自体の安全性確保対策
 加工施設自体につき,放射性物質の閉込め機能,臨界安全管理,火災爆発の防
止,電源喪失に対する考慮等の点において,安全性確保対策を講じていること。
(ウ) 公共の安全性確保
 加工施設中の安全上重要な施設との関連において,最大想定事故,すなわち技術
的に見て発生が想定される事故のうちで一般公衆の被曝線量が最大となるものが発
生した場合でも,一般公衆に対して過度の放射線被曝を及ぼさないこと。
(エ) 平常運転時の被曝低減に係る安全性確保対策
 加工施設の平常運転時において環境に放出される放射線及び放射性物質につい
て,これらによる一般公衆の被曝線量が許容被曝線量等を定める件に規定する周辺
監視区域外の許容被曝線量(年間0.5レム)ないしはこれに代わって発せられた
線量当量限度等を定める件所定の周辺監視区域外の線量当量である実効線量当量1
ミリシーベルト以下となるのみならず,これを実用可能な限り低減させるように,
基本設計ないし基本的設計方針において所要の被曝低減対策を講じていること。
(2) 被告の主張に対する判断
 上記認定のとおり,本件安全審査においては,基本的立地条件として大きな事故
の誘因となる事象を避ける立地が選定されているかどうかを審査するとともに,加
工施設自体において事故を防止するための安全性確保対策が図られているか,ま
た,平常運転時においても被曝低減対策を講じているかどうかを審査し,さらに事
故が発生した場合にも一般公衆に対して過度の放射線被曝を及ぼさないことを確認
することとしており,このような四つの観点から安全性確保対策を検討するとの考
え方は,本件施設における六フッ化ウランの潜在的危険性の顕在化を防止するため
に必要な前記検討事項(六フッ化ウランが平常時はもちろんのこと,様々な事故に
よっても本件施設外へ漏出等することのないよう,ウランの閉込め機能の確保対策
及び諸般の事故防止対策が講じられているか否か,臨界管理が適切に行われている
か否か及び放射性廃棄物管理が適切に行われているか否か)に照らし,不合理とは
いえない。
 そして,具体的審査基準として用いられた核燃料施設基本指針及び加工施設指針
も,上記審査事項に対応した内容となっており,現在の科学技術水準に照らして
も,各審査事項を審査するにつき不合理な内容とは認められないほか,原子力安全
委員会がその他の技術基準を参考とし,あるいは既存の技術的知見の蓄積を活用し
たことについても,その技術基準や知見に不合理な点は認められない。
3 原告らの主張に対する判断
(1) 原告らは,ウランの放射能毒性,化学毒性及びウランの崩壊生成物の危険
性を指摘し,ウランのような危険な物質を大量に取り扱うことを理由として本件施
設の建設は許されないと主張する。
 しかしながら,前記のとおり,規制法は,原告らが指摘するような危険性を前提
としながら,一定の安全性を備える加工施設については加工事業を許可し得るとの
考えの下,加工施設の安全性につき必要な規制を行っているものであるから,本件
施設の具体的な危険性を指摘することなく本件施設がウランを大量に取り扱うこと
のみを理由とする原告らの上記主張は,失当である。
(2) 原告らは,ICRPの勧告値が信頼に足りず,これに依拠した被告の立場
は破綻している旨主張するが,本件安全審査がICRPの勧告に基づいて定められ
た政府の規制値(本件許可処分当時は許容被曝線量等を定める件)を下回っている
ことをもって直ちに本件施設の安全性を肯定したものでないことは後にみるとおり
であるから,原告らの主張は,前提を欠いており理由がない。
(3) 原告らは,加工施設指針の内容が具体性を欠いており実効性に欠ける旨主
張する。
 しかしながら,加工施設に要求される安全性の内容及び程度は加工施設の種類に
応じて様々である上,その安全性を確保する方法も多種多様で,技術性専門性も極
めて高いものであるから,これに関する基準を事前に一義的に定めるのはかえって
不合理というべきであること,前記(第2章第2)のとおり,規制法13条の加工
事業の許可手続は,専ら当該加工施設の基本設計のみが規制の対象となるのであっ
て,後続の設計及び工事の方法の認可(16条の2)の段階で規制の対象とされる
当該加工施設の具体的な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とはならないから,
加工事業許可に当たって行われる安全審査の審査基準においてもこれら具体的な詳
細設計や工事方法にかかわる事項を定める必要まではないこと,加工施設指針を用
いて安全審査を行う主体は,核燃料物質及び原子炉に関する安全の確保のための規
制等を所管事項とする原子力安全委員会と,学識経験者及び関係行政機関の職員か
ら任命される審査委員により組織され核燃料物質に係る安全性に関する事項の調査
審議を任務とする核燃料安全専門審査会であること,加工施設指針が設けられた趣
旨が前記認定のとおり安全審査の客観性及び合理性を確保するために統一的視点を
提供することにあること,以上の点を総合すれば,安全審査において用いられる審
査基準は,原子力安全委員会及び核燃料安全専門審査会が申請に係る加工施設につ
いて当該施設の基本設計ないし基本的設計方針において安全性を有するか否かを判
断するための基本的枠組みを提供する内容を具備していれば足りるというべきであ
る。そして,加工施設指針は,本件施設における核燃料物質の潜在的危険性の顕在
化を防止するという安全性の確保上必要な内容を備えていることは前記のとおりで
あるから,上記基本的枠組みとしての機能を十分に果たし得るものといえ,これが
具体性ないし実効性に欠けるとの批判は当たらないというべきである。
 また,原告らは,事故は複数の故障(トラブル)が重なって発生するものである
にもかかわらず,加工施設指針は単一故障しか想定しておらず内容が不十分である
と主張する。そして,この点に関しては,証人Eの証言中には,事故例の分析をし
たところでは,一つ一つは大事故に直接つながらないような小さな人為ミスや故障
が,他の人為ミスや故障を誘うというように,人間と機械のインターラクションの
中で将棋倒し式にことが発展して大きな事故が起こるというのが実際の事故のパタ
ーンであるとする部分がある。また,証人Fの証言中には,全体のシステムの安全
性については,個々の機器の故障や作業者のミスのみで議論されるべきではなく,
ある事象がシステムの中で次にどのような影響を及ぼすかを考慮して総合的に検討
する必要があるとする部分がある。
 しかしながら,加工施設指針は,技術的にみて発生が想定される範囲の事故につ
いて考慮することとしているところ(乙15),ある事象から連鎖的に他の事象が
発生して事故が拡大するという場合については,そのような連鎖が技術的にみて想
定される因果関係を有する限り加工施設指針はそのような事態をも含めて事故の想
定をしていると解されるから,上記の批判は当たらないというべきである。また,
相互に関連性のない複数の独立の事象が同時に発生するという事態については,加
工施設指針も想定していないものと認められるものの,そのような事態の発生する
確率は各個の事象の発生する確率の積として算出される極めて小さいものであるか
ら,そのような事態を想定していないからといって,加工施設指針をそれ自体不合
理と評することはできない。したがって,原告らの主張は理由がない。
(4) 原告らは,ウラン濃縮施設では安全性確保手段において他のウラン加工施
設より厳格な規制が必要であることを理由として,加工施設指針はウラン濃縮施設
の安全性を審査する基準としては不十分であると主張する。
 しかしながら,加工施設指針がウラン濃縮施設における安全の確保上必要な内容
を備えていることは前記のとおりであるから,上記主張は採用できない。
4 次項以下の判断について
 本件安全審査では,前記2の(1)のウのとおり,加工施設の基本的立地条件に
係る安全性確保対策,加工施設自体の安全性確保対策,公共の安全性確保及び平常
運転時の被曝低減に係る安全性確保対策の四つの観点から本件許可申請を検討して
おり,そのような判断の方法は,六フッ化ウランを取り扱う本件施設の安全性の判
断手法として適切であるということができるから,本件安全審査の調査審議及び判
断の過程における過誤,欠落の有無に関する次項以下の当裁判所の判断も,それぞ
れの観点ごとに,原子力安全委員会若しくは核燃料安全専門審査会の調査審議及び
判断の過程を検討することとする。
第2 加工施設の基本的立地条件に係る安全性確保対策
1 はじめに
 本件施設に求められる前記の意味における安全性は,本件施設の基本的立地条件
との関係では,本件施設の各種の立地条件において,本件施設の一部又は全部の損
傷によって六フッ化ウランの漏洩をもたらすような事故を引き起こす危険性が社会
通念上容認し得る一定水準以下に保たれているか否かという観点から検討されるべ
きこととなる。
2 指針の内容(乙14,15)
 核燃料施設基本指針1は,立地条件の基本的条件について,核燃料施設の立地地
点及びその周辺においては,大きな事故の誘因となる事象が起こるとは考えられな
いこと,また,万一事故が発生した場合において災害を拡大するような事象も少な
いことを定めている。そして,加工施設指針1は,この点に関し,事故の誘因を排
除し,災害の拡大を防止する観点からウラン加工施設の立地地点及びその周辺にお
ける次の事象を検討し,安全確保上支障がないことを確認することとしている。
(1) 自然環境
ア 地震,洪水,台風,豪雪,高潮,津波,地滑り,陥没等の自然現象
イ 風向,風速,降雨量等の気象
ウ 河川,地下水等の水象及び水理
エ 地盤,地耐力,断層等の地質及び地形等
(2) 社会環境
ア 近接工場等における火災,爆発
イ 農業,畜産業,漁業等食物に関する土地利用及び人口分布等
3 本件安全審査の内容
 証拠(乙9,24,36ないし40,62,69の11,75,証人B,同C)
及び弁論の全趣旨によれば,本件安全審査では,本件施設の基本的立地条件につい
て,以下のとおり,敷地,地盤,地震,気象,水理・水象及び社会環境の各側面か
ら検討が行われ,立地地点及びその周辺においては大きな事故の誘因となる事象が
起こるとは考えられず,また,万一事故が発生した場合において災害を拡大するよ
うな事象も少ないことを確認したことが認められる。
(1) 敷地
 本件安全審査では,本件施設を設置する原燃産業の六ヶ所事業所は,青森県下北
半島南部の上北郡六ヶ所村大石平にある標高30ないし60メートルの丘陵地帯に
あり,事業所南側は尾駮沼に面していて,事業所の面積は約340平方メートル,
本件施設の標高は約36メートルであることを確認した。
(2) 地盤
 地盤に関しては,施設が設置される場所が十分な地耐力を持っているかどうかと
いう観点のほか,地滑り又は陥没は,これが発生した場合,本件施設の建物の傾斜
や倒壊を招く危険があることから,敷地に地滑り又は陥没の危険性があるかどうか
が検討され,さらに,仮に本件施設の敷地内に断層が存在した場合,近い将来にお
いて地震を発生させ,本件施設の安全性を損なう要因となり得ることが問題になる
ほか,断層の変動によって本件施設の安全性が直接に損なわれることも考えられる
ため,敷地に施設に影響を与えるような断層があるかという観点からも検討が行わ
れた。
ア 地耐力について
(ア) 本件安全審査では,次の事項を確認した。
(a) 本件敷地内では,原燃産業により50本余りのボーリング調査が行われて
おり,その結果,鷹架層と呼ばれる新生代第3紀層の岩盤が敷地全体に広がってい
ることが確認されている。また,青森県発行の土地分類基本調査を参照したところ
でも,鷹架層が本件敷地に十分な広がりを持っていることが確認されている。
(b) 新生代第3紀の岩盤層は,上部境界に近い部分では風化が進んでいる可能
性があるものの,それ以外の部分は,十分な安定性と地耐力がある地盤であって,
通常の構造物の支持層として十分な能力を持っていると理解されている。
(c) 地盤の地耐力を調査する代表的な方法としては,重さ63.5キログラム
重のハンマーを75センチメートルの高さから落下させて30センチメートル打ち
込むのに要する回数を調べ,そのN値と呼ばれる回数をもって地盤の固さの指標と
する標準貫入試験があり,世界各地で用いられているほか,JIS規格でも試験方
法が定められている。また,N値と地耐力の相関関係については実績のある経験式
が認められており,日本建築学会が定める建築基礎構造設計指針及び同解説では,
N値とこれから期待できる地耐力との関係が示されていて,N値が50以上の岩盤
については1平方メートル当たり50トンの地耐力を期待してよいこととされてい
る。本件敷地については,建物建設予定地周辺の7箇所で標準貫入試験が実施され
ており,そのいずれにおいても,鷹架層のうち本件施設の建物の支持層として設定
されている位置ではN値が50以上との調査結果が得られた。
(d) ボーリング調査で得られたコアの観察及びボーリング柱状図によれば,本
件施設の支持地盤として問題になるような軟らかい層は含まれていない。
(イ) 本件安全審査では,上記の事項を検討した結果,地耐力については,本件
施設の建物が鉄骨の2階建て程度のものであることを踏まえ,新生代第3紀の岩盤
である鷹架層で,しかもN値50以上の層を支持地盤とすることから,十分な地耐
力を有する地盤を支持地盤としていると判断した。
イ 地滑り・陥没の危険性について
 本件安全審査では,現地調査によって現地の地形や地質のほかボーリング調査で
得られたコアの観察が行われたほか,文献調査によっても本件敷地やその周辺で地
滑り又は陥没が発生したことは認められないことを確認し,敷地において地滑り又
は陥没が起こる可能性はないと判断した。
ウ 断層について
(ア) 本件安全審査では,次の点を確認した。
(a) 青森県発行の土地分類基本調査に基づいた文献調査及び現地調査の際に行
われたボーリングコアの観察結果上は,本件敷地内に断層は見つからなかった。
(b) ボーリング調査でサンプルが採取される範囲より深い範囲には,昔に動い
た断層がある可能性はあり,そのような断層についてはボーリング調査で調査する
ことはできないものの,仮にそのような古い断層が存在したとしても,本件施設に
影響を与える断層ではないと考えられた。
(c) 本件敷地内でも,ボーリング孔と他のボーリング孔との間にあってボーリ
ング調査では発見されなかった断層がある可能性はあるが,そのような規模の断層
は大きな地震を引き起こすような断層であるとは考えられない。
(d) 現地調査では,敷地造成の際に作られた法面において砂岩の地層と凝灰岩
類の地層とが垂直に接していることが観察されているところ,これが断層であるか
否かは明らかではないものの,その境界面が完全に固着していること及びこれらの
境界がその上部にある第4紀の段丘堆積層にずれの影響を与えていないことから,
仮に断層であったとしても本件施設に影響を及ぼすものではないと判断される。
(イ) 本件安全審査では,上記の確認事項を考慮した結果,本件敷地内に本件施
設の安全性に影響するような断層はないものと判断した。
エ 結論
 本件安全審査では,以上の検討の結果,地盤の面では,敷地の選定に問題はない
との判断を下した。
(3) 地震
ア 本件安全審査では,地震について,自然現象として繰り返し起こるという性質
を持っており,有史以来の記録調査によってどの程度の地震がどのような間隔で発
生し,どの程度の影響があったかどうかを知ることができるという知見に基づき,
本件敷地周辺での過去の被害地震について,揺れや被害の程度が具体的に判明して
いる地震については直接に本件敷地における震度階を調査したほか,文献調査によ
り過去の被害地震の規模及び震央の距離を調べ,任意の地点における地震のマグニ
チュード及び震央距離と当該地点での震度階との相関関係を示す相関図に当ては
め,本件敷地における震度階を推定するという検討を行った。まず,本件許可申請
書では,「資料日本被害地震総覧」(いわゆる宇佐美カタログ),いわゆる宇津カ
タログ(1982)及び気象庁地震月報の各資料に掲載された地震中,震央が本件
敷地から半径200キロメートル以内にありかつ一定規模以上のものを列挙し,こ
れらを上記の相関図に当てはめたものが記載され,その結果としては上記の地震が
本件敷地に及ぼした影響は震度Ⅴ程度のものであることが示されており,本件安全
審査では,上記の内容を相当なものと認めた。また,本件安全審査では,本件許可
申請書が参照していない新しい資料である昭和62年3月刊行の「新編日本被害地
震総覧」(いわゆる宇佐美カタログの新版)や昭和62年版の理科年表に記載され
た地震についても同様の検討を加えた。
 このほか,本件安全審査では,本件敷地から震央が200キロメートル以上離れ
た地震についても独自に調査を行い,実際に揺れの程度が判明している地震につい
ては,実際の揺れや被害の程度に関する資料をも検討した。
イ 本件安全審査では,上記の検討の結果,過去の地震の本件敷地への影響は最大
で震度Ⅴ程度であると認めた上,地盤条件を併せて総合的に評価した結果,本件敷
地では震度Ⅴの地震を考えれば十分であり,建物等の耐震設計においても震度Ⅴの
地震を想定すれば足りると判断した。
(4) 気象
 本件安全審査では,本件施設近傍の観測所等の気象観測データによると,年平均
気温摂氏約9度,最高気温摂氏33.9度,最低気温摂氏マイナス14.6度,年
間降水量約1200ミリメートル,最大積雪深190センチメートル,最大風速毎
秒26.2メートル,瞬間最大風速毎秒35.9メートルであることを確認した。
(5) 水理・水象
 本件安全審査では,本件敷地周辺の水理・水象に関する事実を確認し,その結
果,本件敷地周辺における河川としては,二又川のほか老部川があるが,地形の状
況からみて,洪水により本件施設が被害を受けることはなく,また,本件敷地は海
岸から約3キロメートル離れた標高約36メートルの丘陵地帯に位置していること
から,高潮や津波により本件施設が被害を受けることはないと判断した。
(6) 社会環境
ア 本件安全審査では,本件敷地周辺の社会環境に関し,人口,産業,交通等につ
いて調査が行われ,人口については,本件敷地周辺地域である六ヶ所村及び隣接の
6市町村の人口密度は昭和60年10月1日現在で1平方キロメートル当たり9
0.8人であり,総人口の推移状況は数年来ほぼ横ばい傾向であることが確認さ
れ,また,産業については,周辺地域における主な産業は農業及び漁業であるほ
か,本件敷地から約4キロメートルの位置に国家石油備蓄基地があることが確認さ
れた。
 本件安全審査では,これらの活動場所等と本件敷地との距離が十分離れているこ
とから,これらの産業活動等によって本件施設の安全性が損なわれることはないと
判断した。
イ 本件安全審査では,交通に関しては専ら航空機の関係が問題になるとの考えか
ら,本件敷地の南方約28キロメートルの位置に三沢空港があるほか,西方約10
キロメートルの位置に「V―11」と呼ばれる定期航空路があり,南方約10キロ
メートルの位置に防衛庁及び在日米軍の航空機が使用する訓練空域(三沢対地訓練
区域)があることが検討対象とされた。
 このうち,三沢空港については,本件敷地との距離に照らし,ここを離発着する
航空機が離発着時に事故を起こして墜落した場合でも本件施設に影響を与えること
はないと判断された。
 また,定期航空路については,その中心線が本件敷地から約10キロメートル離
れていること,安定した水平飛行を行っている巡航中の航空機が異常を起こすこと
はまれであること及び航空法に従って飛行する航空機の機長が確認を義務づけられ
ている航空路誌には原子力施設付近の上空はできる限り飛行を避ける旨記載される
ことになっていることを考慮し,この航空路を飛行中の航空機が本件施設に墜落す
る可能性は無視できると判断された。
 さらに,訓練空域については,本件敷地からの距離が約10キロメートルである
こと及び訓練空域を使用する航空機のうち自衛隊機については航空路誌に基づく上
記の飛行規制が適用されていることのほか,この飛行規制の適用のない米軍機につ
いても,米軍が航空路誌の情報の提供を受けて,その発行するフライトインフォメ
ーションパブリケーションに掲載して周知する形で上記の規制が尊重されているこ
とを考慮し,当該訓練空域を使用する訓練中の航空機が本件施設に墜落する可能性
は極めて小さいと判断された。
ウ このほか,航空機の関係では,訓練中の航空機が仮に本件施設の安全上重要な
施設に墜落した場合の一般公衆に対する影響についての評価を行った。具体的に
は,三沢対地訓練区域で射爆撃訓練を実施している航空機のうち三沢基地に最も多
く配備されている防衛庁のF1と米軍のF16がエンジン故障等により訓練コース
を外れて本件施設付近まで滑空して施設に衝突するものと仮定し,衝突速度毎秒1
50メートル,墜落時に発生する火災に寄与する燃料量を4立方メートルとした条
件の下で,衝突対象としては,取り扱うウランの性状や量を考慮してウラン濃縮建
屋のうち発回均質棟及びカスケード棟並びにウラン貯蔵建屋のうちウラン貯蔵庫を
選定した。その結果,発回均質棟については,屋根及び壁が厚さ約90センチメー
トルの鉄筋コンクリート造りであることから,機体全体の衝撃荷重によるコンクリ
ート板の全体破壊も,機体のうちで貫通限界厚さが大きいエンジン部分の貫通も起
こらず,ウラン貯蔵庫については,胴体部が建屋を貫通して内部のシリンダの損傷
をもたらすものの,その場合に燃料油により発生する火災の熱でシリンダ内の固体
の六フッ化ウランが気化してその10パーセントが建屋外に漏洩したとしてもその
放射能量は0.3キュリーであって,気象データと拡散条件等を考慮して敷地境界
における一般人の内部被曝による線量当量を求めると0.06レム(0.6ミリシ
ーベルト)となることから,一般公衆への被曝による影響は小さいと判断された。
また,カスケード棟については,保有するウランの量が少ないため,その全量が衝
突事故によって建屋外に漏洩した場合でも,漏洩量はウラン貯蔵庫を下回ることか
ら,やはり一般公衆への被曝による影響は小さいと判断された。
4 被告の主張に対する判断
 上記2及び3で認定した事実によれば,基本的立地条件に関する本件安全審査で
用いられた具体的審査基準に不合理な点は見当たらないし,本件安全審査の調査審
議及び判断の過程にも看過し難い過誤,欠落は認められない。
5 原告らの主張に対する判断
(1) 地盤
ア 支持地盤
(ア) 原告らは,鷹架層の本件施設の支持層としての適否は,当該地盤の許容支
持力のみでは決まらず,地盤が軟岩か硬岩かの問題を考慮する必要があり,軟岩に
属する鷹架層は支持層としては不適当であるのに,本件安全審査ではこの点に考慮
を払っていないと主張する。
 しかしながら,証拠(証人C,原告乙野次郎本人)によれば,鷹架層が軟岩に属
するとの事実を認めることができるものの,それ以上に,鷹架層の本件施設の支持
層としての適否を判断するために当該事実を考慮する必要があるとの知見について
は,これを認めるに足りる証拠はなく,かえって,証拠(甲382,405,原告
乙野次郎本人)及び弁論の全趣旨によれば,建築物を建てる場合の支持地盤の適否
を判断するに当たっては,許容支持力が重要な指標であり,それ以外に考慮される
指標としては,ダムや堰堤を建設する場合における透水性や一軸圧縮強度があるも
のの,当該地盤が土質工学上軟岩か硬岩かはその判断要素に該当しないことが認め
られる。したがって,上記主張は理由がない。
 また,この点に関し,原告らは,上記主張の根拠として,本件敷地に近接する石
油国家備蓄基地のオイルタンク6基が不同沈下した事実を指摘するが,上記沈下の
原因が,そのオイルタンクの支持層が軟岩であることを看過したことにあることを
認めるべき証拠はないから,当該事実をもって上記主張の理由とすることはできな
い。
(イ) 原告らは,N値によって許容支持力を推定する方法について,測定精度や
方法としての有用性の問題点を指摘した上で,N値の調査結果のみをもって鷹架層
の支持地盤としての適否を判断することはできないと主張する。
 しかしながら,前記認定のとおり,本件安全審査の過程では,標準貫入試験のほ
か,文献調査,ボーリング調査及びこれで得られたコアの観察等が実施され,これ
らを踏まえて判断が下されているのであるから,支持地盤の適否をN値のみをもっ
て判断したことを前提とする上記主張は,失当というほかない。
(ウ) また,原告らは,次のとおり本件敷地については様々な試験が実施されて
おらず,この点を看過した本件安全審査は不合理であると主張する。
(a) 平板載荷試験に基づく岩盤支持力の計算について
 原告らは,N値に基づく地耐力の推定値の正確性の判定には平板載荷試験などに
よって岩盤支持力を計算することが必要であるにもかかわらず,これが実施されて
いないと主張する。
 しかしながら,証拠(甲434,乙71の1)によれば,本件敷地については平
板載荷試験が実施され,その結果図が核燃料安全専門審査会第23部会の第1回会
合に資料として提示され審査の対象となっていることが認められるから,上記主張
は失当である。
 (b) ボーリング調査の深度及び調査事項について
 原告らは,地盤の性質を把握するためには,より深くボーリング調査を行う必要
があるとともに,調査結果としてコア採取率,最大コア長及びRQD(岩盤良好
度)を示す必要があると主張する。
 この点については,証拠(甲382,383,乙75,原告乙野次郎本人)によ
れば,コア採取率,最大コア長及びRQD(岩盤良好度)は,いずれも岩盤のボー
リング調査で得られる地質情報であり,最大コア長は1メートルのボーリングによ
って得られた試料中の最長のコアの長さを,RQDは上記試料に占める10センチ
メートル以上のコアの合計の長さの割合の1メートルに対する百分率を,コア採取
率は上記試料に占めるコアの長さの合計の1メートルに対する百分率をそれぞれ示
すものであること,ボーリング及びコアの観察結果は一定の様式に従いボーリング
柱状図にまとめられるものであるところ,上記の3種類の指標は岩盤のボーリング
柱状図には必ず記載されるべきものであること,本件許可申請書及びその添付書類
では,ボーリング調査の結果としてはN値の調査結果と土質のみが記載された地質
断面図が示されたにとどまり,本件安全審査でも上記の各数値は確認されなかった
ことが認められる。
 しかしながら,ボーリングの割れ目の状態はボーリングのコアを見ればすぐ分か
ること(原告乙野次郎本人)及び本件安全審査では耐震工学を専門とする科学技術
庁の原子力安全技術顧問のCによる現地でのコアの観察が実施されていること(証
人C)からすると,本件安全審査においては,ボーリング調査で得られたコアの状
況は,数値化してボーリング柱状図に示されるまでもなくコア観察によって直接に
把握されていたものと考えられるから,審査の客観性の担保という観点からはボー
リング柱状図に直接コアの状況が示されていない点には問題があることは否定でき
ないけれども,このことをもって,本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過
し難い過誤,欠落があるとまではいえない。
 また,ボーリング調査の深度については,本件安全審査で結果が確認されたボー
リング調査が本件施設の支持層として予定されている鷹架層の広がりを確認する深
さまで行われたことは前記認定のとおりであるところ,乙第86号証によれば,ボ
ーリング調査は事前調査で想定した支持層を確認できる深さまで実施すれば足りる
とされていることが認められるから,それ以上の深度までボーリング調査が行われ
なかったからといって,これを問題としなかった本件安全審査の調査審議及び判断
の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。
(c) 物理試験(単位体積重量,含水比,比重,間隙率の調査)について
 上記の各調査事項については,鷹架層の支持地盤としての適否に関して調査を実
施すべき必要性を認めるに足りる証拠はなく,原告らの主張は理由がない。
(d) 透水試験について
 透水試験については,本件施設に関する調査の必要性を認めるべき証拠はなく,
かえって,証拠(甲405,原告乙野次郎本人)によれば,上記試験はダムや堰堤
を建設する場合に透水性を調べるために必要となる試験であるにすぎず,本件施設
では透水性は問題にならないことが認められる。したがって,この点に関する原告
らの主張は理由がない。
(エ) このほか,原告らは,地耐力を十分と評価するためには地耐力の平均値,
標準偏差,最高値及び最低値を明らかにした上,最低値の部分でも十分な余裕があ
ることを示す必要があると主張し,甲第362号証中には上記主張と同旨の部分が
あるけれども,上記書証の該当箇所は原告乙野次郎本人が作成したものであって,
他に上記主張を客観的に裏付ける証拠はない以上,上記書証のみをもって本件安全
審査の調査審議の過程に看過し難い過誤,欠落があるとまでは認めるに足りない。
イ サンドウィッチ地盤
 原告らは,本件敷地の地盤の標準貫入試験がN値を3回連続して記録した時点で
中止されていることをもって,その下にN値が低い部分があることは確認されてお
らず,本件敷地の下に硬い地層の間に軟弱な地層がサンドウィッチ状に挟まれたい
わゆるサンドウィッチ地盤が存在する可能性があると主張する。
 しかし,証拠(甲8の1,原告乙野次郎本人)によれば,サンドウィッチ地盤の
概念を提唱する理学博士守屋喜久夫によると,サンドウィッチ地盤は第4紀層に属
する洪積層又は沖積層にみられるものであるのに対し,第3紀層は,古生層及び中
生層に比べ固結度は低いものの一部を除いて構造物の信頼できる地盤となるとされ
ており,この見解によれば,第3紀層である鷹架層についてサンドウィッチ地盤が
問題になる余地はなく,本件安全審査がこの点を考慮していないことをもって看過
し難い過誤,欠落があるとはいえない。また,原告乙野次郎本人の供述中には,第
3紀層の岩盤の内部においても,硬質の層と破砕帯による軟弱な層が重なっている
場合には上記のサンドウィッチ地盤と同様の危険性があると述べる部分があるけれ
ども,同原告がその尋問中で挙げたサンドウィッチ地盤による被害例の中にも岩盤
における被害であることが確認された例はない上,上記のとおり守屋博士によって
も第3紀層は基本的に構造物の基礎地盤として信頼し得るとされており,証人Cも
サンドウィッチ地盤により地震波が増幅される現象は第4紀層である沖積層ないし
は洪積層の上層部で考えられるものであって,第3紀層については考慮の必要がな
いとも証言していることからすると,本件安全審査において第3紀層である鷹架層
につきサンドウィッチ地盤の可能性を念頭に置かなかったからといって,これを看
過し難い過誤,欠落であるとはいえない。
 このほか,原告らは,基礎地盤に求められる性質はその上の構造物との関係で相
対的に定まることから,十分なN値を持つ層がどの程度連続しているかを調査確認
することが必要となる場合もあると主張し,その例として,原子力船「むつ」の新
定係港に関する立地調査におけるボーリング調査でも,N値が50以上となった部
分より更に深い標尺100メートルの地点まで調査が行われている事実(甲7,3
53)を指摘するが,原告らの主張によっても,N値の連続性を調査確認する必要
性は建築しようとする構造物との関係で相対的に定まるとしながら,本件施設との
関係でそのような必要性があることの主張立証はないから,上記主張は前提を欠き
失当である。また,原告らが援用する上記の調査事例についても,その深度まで調
査が行われた理由がサンドウィッチ地盤の可能性を考慮したためであるとは証拠上
明らかでない以上,原告らの主張を認めるべき根拠とはならない。
ウ 地滑り・陥没等の危険
 原告らは,本件敷地の表層地盤又は盛土による造成部分における地滑り及び陥没
の危険性を主張する。
 しかしながら,地滑り又は陥没の危険が問題となるのは,本件施設の建物の傾斜
や倒壊を招く危険があるからであり,また,本件施設の建物の支持地盤は盛土ない
しは表層地盤ではなく第3紀層である鷹架層であることは前記認定のとおりである
ところ,証人Cの証言によれば,上記のように岩盤である鷹架層を支持地盤とする
場合には敷地造成のための盛土部分について地滑り又は陥没の危険性を問題にする
必要はないことが認められる。したがって,上記主張は,それ自体失当というべき
である。
 また,原告らは,鷹架層が地滑り又は陥没の危険性のない地層であることは証明
されておらず,詳細な調査を行えば上記の危険性を示唆する事実が明らかになるか
も知れない旨主張する。
 しかしながら,鷹架層に関する地滑り及び陥没の危険性については,現地の地形
や地質の観察,ボーリングコアの観察及び文献調査が行われ,これらの結果に基づ
いて本件安全審査の調査審議及び判断がされたことは前記認定のとおりであるとこ
ろ,これに対して,何ら具体的な調査方法も示すことなく調査次第で危険性が判明
するといった抽象的可能性を指摘するにとどまる上記の主張は,本件安全審査の調
査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があることの主張としては不十分で
あって,それ自体失当というべきである。
 なお,原告らは,上記の主張に関して,本件敷地に近接する使用済核燃料再処理
工場の敷地内で急傾斜崩壊ないしは重力性滑りが生じているとの点を指摘するので
あるが,証拠(甲9,362,乙75)によれば,上記の滑り面は鷹架層の上部表
面の風化部分とその上の同じく第3紀層に属する砂子又層の下部層との間で生じた
ものであるのに対して,本件敷地では鷹架層の上には第4紀の段丘堆積層や火山灰
層が堆積していることが認められるから,上記指摘事実によって本件敷地における
調査が不十分であるとはいえない。
エ 断層調査の不備
 原告らは,本件敷地におけるボーリング調査は掘進長が不十分で,ボーリング柱
状図の作成も少ない点において十分でなく,十分なボーリング調査やトレンチ調査
等をすれば本件施設に影響を与えるような断層が確認される可能性が極めて高い
旨,また,本件施設に隣接する低レベル放射性廃棄物埋設施設では,当初その申請
書では断層は存在しないとされていたが,その後の補正書でf―a,f―bの二つ
の断層が存在すると追加記載されるに至っており,上記各断層の延長線として本件
敷地内にも断層が存在する可能性があると主張する。
 このうち,ボーリング柱状図については,証拠(甲434,乙2)によれば,確
かに,本件敷地について実施された合計51孔のボーリング調査中,申請書で示さ
れ本件安全審査上でも資料とされたボーリング柱状図は二点にすぎなかったことが
認められるものの,他方,本件安全審査ではボーリングによる地質調査の結果に基
づいて作成された敷地全体にわたる地質平面図及び地質断面図合計5枚が資料とし
て検討対象となったことが認められるから,ボーリング柱状図の作成が不十分であ
ることをもって本件安全審査の基礎となったボーリング調査が不十分であるとまで
はいえない。
 また,ボーリングの掘進長については,証拠(乙75,証人C)によれば,本件
敷地で行われたボーリング調査における掘進長はおよそ20メートルから最大で5
0メートル前後で,これ以上の深度にある断層までは確認できないものであること
が認められる。しかしながら,証拠(乙26,75,証人C,原告乙野次郎本人)
によれば,活断層とは一般に最近の地質時代に繰り返し活動し将来も活動すること
が推定される断層であるところ,活断層であるか否かの判断は第1に近い過去に活
動したかどうかであるとされており,この近い過去の範囲は研究者によって多少の
相違があって,約50万年前以降あるいは約100万年前以降との意見もあるもの
の,日本全体の活断層に関する文献としては日本で最も権威のある文献とされてい
る「日本の活断層―分布図と資料―」(現在は新編が出されている。)ではこれを
広めにとって地質年代における第4紀(約200万年前から現在までの間)に動い
たとみなされる断層を活断層としていること,本件敷地は造成後の標高約36メー
トルの地盤からでも0メートルないし数メートル以深は第3紀層である鷹架層が分
布していること,断層活動の痕跡は第4紀層では不明確な場合もあるものの第3紀
層では明確に現れること,以上の事実が認められ,これらを総合すると,上記の程
度の掘進長のボーリング調査を行えば,本件敷地の下に分布する第3紀層である鷹
架層における地層のずれの有無を確認することにより,本件敷地内における活断層
の有無は十分に判断可能ということができる。したがって,掘進長を不十分とする
原告らの主張は理由がない。
 そして,トレンチ調査その他の調査の要否については,原告乙野次郎本人の供述
によれば,ボーリング調査は位置及び深度が適正であれば得られたコアを調べるこ
とにより断層の有無は確認できるものと認められるところ,本件敷地では,全体に
わたり約100メートル間隔のボーリング調査が格子状に行われた上に建造物立地
予定場所では更に数十メートル間隔でボーリング調査が実施されており(乙2),
東京の地下鉄でもボーリング調査は100メートル間隔で実施されているにすぎな
いこと(原告乙野次郎本人)等に照らすと,ボーリング孔の数及び位置は適正であ
るといえるし,ボーリングの掘進長が活断層の有無を確認するに足りるものである
ことは上記で述べたとおりであるから,その余の調査を実施すべき必要性はないも
のということができる。
 このほか,原告らは,文献調査の実効性について疑問を投げかけているけれど
も,本件安全審査で文献調査の対象となった「日本の活断層―分布図と資料―」
は,日本全体を網羅する活断層の資料として最も権威があると考えられている資料
であるから(証人C),原告らの主張は当を得たものとはいえない。
 さらに,f―a断層,f―b断層の各断層の延長線として本件敷地内にも断層が
存在する可能性があるとする点については,これら二つの断層が本件敷地に近接す
る低レベル放射性廃棄物埋設施設敷地の埋設設備群設置位置及びその付近の鷹架層
中に存在することは当事者間に争いがないけれども,上記の各断層の延長線として
本件敷地内にも断層が存在することを認めるに足りる確たる証拠はない(原告乙野
次郎本人の本件敷地内に断層がある旨の供述も憶測を述べるにすぎない。)から,
原告らの主張は採用できない。
オ 地盤の隆起・沈降等
 原告らは,地震が起きた場合には一般的に地盤の隆起・沈降による地盤の変位が
生じることが少なくないにもかかわらず,本件安全審査は,将来においても施設に
影響を与えるような地盤の隆起あるいは沈降を生じるおそれがないとの結論を導い
ているのは,(a)過去の隆起沈降の有無の調査方法が不明であること,(b)調
査によっても隆起沈降の形跡がないことが示されるにとどまり隆起沈降のなかった
ことの証明にはならないこと,(c)過去に隆起沈降がないからといって将来これ
が生じない保証はないこと,の点において科学的根拠を欠いていると主張する。
 しかし,本件安全審査において,文献調査及びボーリング調査の結果により過去
に地盤の局所的な隆起沈降が生じた形跡がないことを確認したことは前記認定のと
おりであるから,上記(a)は理由がない。また,過去における隆起沈降の有無に
ついて合理的な調査手法により調査が行われている限り,過去の隆起沈降の形跡の
有無をもって将来の隆起沈降の可能性を判断することにも一定の合理性はあるとい
うべきであるところ,証人Cの証言によれば,本件敷地が属する台地ないしは丘陵
のすそ野の土地については,建物建築のための地盤調査としては,文献調査によっ
て地盤の広がりを確認するとともに現地でボーリング調査を行うことが重要である
こと,及び急傾斜の台地や丘陵地における地盤調査では地盤の隆起・沈降を念頭に
置いた注意深い調査が必要であるのに対して,本件敷地のように台地ないしは丘陵
地のすそ野に位置するなだらかな地形の場所においては,建築物の設計においてそ
のような配慮は不要と考えられていることが認められるから,過去の隆起沈降の形
跡を上記のように文献調査及びボーリング調査によって確認する方法は十分に合理
的であるということができ,その結果として過去に隆起沈降の形跡がないことをも
って将来においても隆起沈降のおそれがないと判断した本件安全審査もまた一定の
合理性を有しているものというべきであり,上記(b)(c)も採用できない。し
たがって,原告らの主張は理由がない。
(2) 地震
ア 地震リストの改ざん
 原告らは,本件許可申請書が本件敷地から震央までの距離が200キロメートル
以上ある地震を取り上げておらず,かつ旧いデータに基づいているにもかかわら
ず,これを前提とし,あるいはこのことを看過している点において本件安全審査は
違法であると主張するが,本件安全審査において,本件許可申請書が参照していな
い新しい資料である昭和62年3月刊行の「新編日本被害地震総覧」(いわゆる宇
佐美カタログの新版)や昭和62年版の理科年表に記載された地震についても検討
が加えられたこと及び本件敷地から震央が200キロメートル以上離れた地震につ
いても本件許可申請書の記載とは別に検討が加えられたことは前記認定のとおりで
あるから,上記主張は理由がない。なお,原告らは,この点に関し,科学技術庁発
表の文書の記載を問題としているけれども,上記文書の記載内容についてはこれを
認めるべき証拠はない。また,原告らは,本件許可申請書では震央位置が本件敷地
から200キロメートル以遠の地震については余震が200キロメートル以内にあ
っても除外されており,本件安全審査ではこの点を不問にしている旨主張するが,
本件安全審査において本件許可申請書に掲記の地震のほか震央距離が200キロメ
ートル以上の地震も検討対象としたことは上記のとおりであるから,この主張も理
由がない。
 次に,原告らは,本件許可申請書の添付書類における本件敷地周辺の被害地震の
表が宇佐美カタログの旧版を基に作成されていることをもって,内閣総理大臣が原
燃産業に対し上記の表及び本件許可申請書の差替えを要求すべきであったと主張す
るが,本件安全審査において宇佐美カタログの新版に基づいた検討が行われたこと
は前記認定のとおりである以上,内閣総理大臣が原燃産業に対して本件許可申請書
等の差替えを求めなかったからといって,本件安全審査の調査審議及び判断の過程
に看過し難い過誤,欠落があるということはできない。したがって,上記主張は理
由がない。
 このほか,原告らは,本件許可申請書が震央位置が不明である地震を考慮対象外
としていることを不問とした点において本件安全審査に重大な過誤があると主張す
る。しかしながら,証人Cの証言によれば,本件安全審査では,検討対象となった
資料に記載された地震のうち,本件許可申請書が考慮対象外とした震央不明の地震
についても検討を加え,本件敷地において考慮すべき最大の震度階についての判断
に影響を与えるような地震はないと判断されたことが認められるから,上記主張は
理由がない。なお,この点に関し,原告らは,震央位置の不明な地震は被害記事が
少ないとしても弱い地震とは限らないとも主張するが,震央位置が不明でかつ被害
記事も少ない地震については,その規模等を調査する手段がないこと及びそのよう
な地震が被害の既知である地震より大規模な被害を本件敷地にもたらす蓋然性を認
めることもできないことからすると,上記主張をもって本件安全審査が不合理であ
るとはいえない。
イ 震度階のごまかし
(ア) 原告らは,昭和43年5月16日の十勝沖地震の本震は,青森県の調査に
おいて震度Ⅴ,一部では震度Ⅵであり,死傷者や全壊家屋が多数に上っているにも
かかわらず,これを震度Ⅳに位置づけた本件許可申請書の誤りは明白であり,本件
許可申請書を受けて本件敷地での最大の震度階をⅤと結論した本件安全審査の誤り
は明白であると主張する。しかしながら,証拠(甲362,乙56,82)によれ
ば,十勝沖地震の際の本件敷地周辺地域における震度階はⅤであったことが認めら
れるから,上記主張は理由がない。
(イ) 原告らは,マグニチュード―震央距離図上に過去の地震の数値をあてはめ
て震度階を検討する手法について,震度階は上記の地震規模(マグニチュード)及
び震央距離以外の諸要素によっても大きく左右されるとして,地震による敷地への
影響を評価する方法としての有効性に欠ける旨主張する。
 この点については,証拠(甲354,証人C,原告乙野次郎本人)によれば,マ
グニチュード―震央距離図は,過去の地震のデータに基づき地震規模とある震度階
を記録した地域の面積との関係を図式化して相関関係を見出し両者の関係を表す近
似式を導いた研究成果を応用して,上記地域が震央を中心とする円であると仮定し
た場合の半径を計算し,地震規模とこの半径距離との関係を示したものであるこ
と,しかしながら,地震規模と一定の震度階の地域の面積とは実際には厳密な等式
関係にはなく,また,震度階は地盤条件や発震機構等の要因に左右され同一震度階
の分布も必ずしも円形にならないといった理由から,上記のマグニチュード―震央
距離図は,平均的・モデル的な両者の相関関係を示すにとどまるものであること,
したがって,ある地震における現実の震度階と,マグニチュード―震央距離図に当
てはめて求めた震度階とは必ずしも一致するものではないこと,以上の事実が認め
られ,これらの事実によれば,マグニチュード―震央距離図から求めた震度階は,
ある地震による震度階を検討する上では,平均的な震度階を示す一応の機能を有し
ているということはできるものの,実際の地震との関係では,上記図から求めた震
度階と実際の震度階が異なることは十分あり得ることであって,その意味で上記図
に基づく推測を絶対視することはできないというべきであり,マグニチュード―震
央距離図と実際の地震による各地の震度階とを比較した結果(甲402)に照らし
ても,原告らの上記主張は一面において正しい指摘を含んでいるということができ
る。
 しかしながら,他方,上記の認定事実によれば,マグニチュード―震央距離図
は,震度不明の地震の震度階を推測する一応の機能を有しており,また,実際の震
度階と齟齬を生じる場合があるにしても,実際の震度階を過小の方向に偏って評価
する性質のものではないことが認められる。そして,証拠(甲378の1,証人
C)及び弁論の全趣旨によれば,実際の地震の震度階の範囲を円形で推定すること
はできないにしても,発震機構等が不明である過去の地震について同一震度階の範
囲を円で近似することには一定の妥当性が認められること,昭和44年に論文で発
表された前記近似式は基礎となった地震データのその後の補正によってもなお妥当
性を維持していると考えられ,また,この式の不当性を指摘する議論もされていな
いこと及び他に実際の震度階が不明である過去の地震について本件敷地における震
度階を推定する方法は見当たらないことが認められ,これらの事実をも併せ考える
と,上記図によって過去の被害程度が不明である地震の震度階を推測する手法は,
なお一定の合理性及び有効性を有しているというべきであって,これを不合理とし
て排斥するまでの理由はない。加えて,本件安全審査においては,マグニチュード
―震央距離図に基づく推測結果以外に,揺れや被害の程度が具体的に判明している
地震についてはその震度階を直接調査しており,これらを総合して検討した結果,
本件敷地で考慮すべき地震を震度Ⅴであると判断したものであることは前記認定の
とおりであるから,本件安全審査の調査審議及び判断がマグニチュード―震央距離
図を偏重し,専らこれに依拠しているというわけでもない。以上の点を踏まえる
と,原告らの上記主張によっても,本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過
し難い過誤,欠落があるとまではいえない。
 なお,原告らは,地震の最大加速度と震度階との関係を根拠にマグニチュード―
震央距離図に描かれている震度区分曲線の根拠における問題点をも主張するが,そ
の裏付けとなる証拠は見当たらない。
(ウ) このほか,原告らは,科学技術庁作成の「安全審査について」の記載を根
拠にして,内閣総理大臣が真実,本件許可申請書が基礎とした以外の資料を参照し
たかどうかは疑わしいと主張するが,上記文書の記載内容については何らの立証も
ない。
 また,原告らは,過去の地震には青森県東部地方で震度階がⅤないしⅥあるいは
Ⅵに達した地震もあるとして,本件安全審査で真実他の資料を参照したのであれば
本件敷地周辺で記録された被害地震の影響度を最大Ⅵとするはずであると主張す
る。しかしながら,原告らが指摘する二つの地震(1763年1月29日の「陸奥
八戸の地震」及び昭和43年5月16日の十勝沖地震)が本件敷地に震度Ⅵの揺れ
を生じさせた事実を認めるに足りる証拠はない。もっとも,甲第378号証中に
は,上記十勝沖地震で六ヶ所村に震度Ⅵの場所もありそうであるとするかのごとき
記載部分があるけれども,上記記載は,その前後関係及び添付文書を総合すれば,
六ヶ所村以外の地点における震度階について言及したにすぎないと解される。した
がって,原告らの主張は採用できない。
ウ 中小規模の地震
 原告らは,本件安全審査では中小規模の地震,すなわちマグニチュード7未満の
地震についての検討が必要であるのに,マグニチュード―震央距離図によってしか
検討がされておらず相当でない旨主張するが,本件安全審査では実際の震度階が資
料で明らかになっている地震についてはそれに基づく検討が行われていること及び
震度階不明の地震についてマグニチュード―震央距離図により震度階を推測する手
法が不合理とはいえないことはいずれも前記のとおりであるから,上記主張は理由
がない。
エ 震度Ⅴを上回る地震発生の危険
 原告らは,将来本件敷地において震度Ⅴを超える地震が発生しないとの保証はな
いとして,本件安全審査の判断の不合理性を主張する。
 下記キで認定するとおり,本件施設を含む日本中のあらゆる場所の原発,核燃料
施設が想定外の大地震に襲われ,それぞれの基準地震動を上回る激しい地震動に襲
われる可能性があると指摘する地震学者がいることは確かであり,将来本件敷地に
おいて震度Ⅴを超える地震が絶対発生しないと断定することはできないけども,本
件安全審査においては,歴史地震を検討して過去に発生した地震の本件敷地への影
響は最大で震度Ⅴ程度であると認めた上,地盤条件を併せて総合的に評価した結
果,本件敷地では震度Ⅴの地震を考えれば十分であると判断したことは前記認定の
とおりであり,このことは過去に発生した地震の規模を超える地震が今後発生する
蓋然性が低いとの判断に基づくものといえ,将来震度Ⅴを超える地震が発生しない
との保証がないからといって,本件安全審査の判断が格別不合理であるとまではい
えない。
オ 加工施設指針の問題点
 原告らは,敷地の直下に断層が存在していなくても敷地周辺の断層の再活動によ
り発生する地震でウラン加工施設が設計地震力を超える強い地震力を受けてその安
全性が損なわれる可能性があるとして,地震の原因としての活断層に関する評価を
要求していない加工施設指針は不備である旨主張する。
 しかしながら,ある建造物について,これに被害を及ぼし得る地震の調査をいか
なる範囲で行うべきかは当該建物の特質に応じて定められるべきものであるとこ
ろ,地震が自然現象として繰り返し発生するという性質を持っており,有史以来の
記録調査によって将来ある地域で発生し得る地震の規模や発生間隔,影響の程度を
知ることができるという知見(証人C)に照らすと,加工施設指針が,ウラン加工
施設について敷地及びその周辺地域における過去の記録及び現地調査によって最も
適切と考えられる地震力を判断するという方法を定めていることにも,一定の合理
性があるということができる。これに対して,ウラン加工施設との関係において,
上記の調査以上に,地震に関して敷地周辺地域の活断層を調査すべき必要性がある
と解すべき的確な根拠は見当たらない。したがって,原告らの主張は理由がない。
カ 活断層の存在
 原告らは,下北半島の東方沖合の海底や陸域に多数の活断層があるにもかかわら
ず,安全審査書が根拠もなくその存在を故意に無視し,あるいは施設に影響を与え
ないと断定している旨主張する。
 しかしながら,加工施設指針は,ウラン加工施設における最も適切と考えられる
設計地震の検討を,敷地及びその周辺地域における過去の記録,現地調査等を参照
して行えば足りることとしており,活断層は,地質及び地形の観点から考慮される
のみで,地震の原因としては検討対象として位置づけられていない。したがって,
基本的立地条件の審査としては,断層については施設に不同沈下等の影響を及ぼす
か否か等の観点から敷地内の断層を対象とした検討がされていれば足り,それ以上
に,敷地外の断層について,地震の原因として検討対象とすることまでは必要がな
いというべきである。したがって,原告らの主張は理由がない。
キ プレート間地震及び海洋プレート(スラブ)内地震に関する安全審査の欠如
 原告らは,本件施設付近では大規模なプレート間地震が繰り返し発生しているに
もかかわらず,本件安全審査においては,この大規模なプレート間地震を検討の対
象から外しており,また,海洋プレート(スラブ)内に地震活動が認められ,大規
模な海洋プレート(スラブ)内地震が発生する可能性は否定できないのに,本件安
全審査においては,このような地震の発生を想定した審査は全く行われておらず,
明らかな欠落があると主張する。
 証拠(甲356,359,641,642,669,証人C)によると,日本列
島の太平洋沿岸及び沖合に起こるマグニチュード7以上の主なプレート境界ないし
プレート間地震の発生場所として青森県東方沖が挙げられ,昭和43年5月16日
に発生した十勝沖地震及び平成6年12月28日に発生した三陸はるか沖地震は,
いずれもこのプレート間地震によるものであるとされていること,また,平成5年
1月15日に発生した釧路沖地震及び平成6年10月4日に発生した北海道東方沖
地震がいずれも太平洋プレート内の深さ3,40から100キロメートルでマグニ
チュード7.8以上の海洋プレート(スラブ)内地震であるとし,現状では,本件
施設を含む日本中のあらゆる場所の原発,核燃料施設が想定外の大地震に襲われ,
それぞれの基準地震動を上回る激しい地震動に襲われる可能性があると指摘する地
震学者がいることが認められる。
 しかし,本件施設のようなウラン加工施設を設置するに当たっては,その立地条
件や耐震設計上想定される地震として最大規模のものを想定するのが望ましいこと
ではあるが,それには自ずと限度があるのであって,本件施設のようなウラン加工
施設は,取り扱う核燃料物質の性質や加工施設の内容等からして,他の原子炉施設
と比べ,内蔵するエネルギー及び放射能量が少なく,しかも臨界状態での核分裂反
応を制御する必要性もないこと等核燃料物質による災害の潜在的危険性が相対的に
小さいこと,また,日本中のあらゆる場所の原発,核燃料施設がそれぞれの基準地
震動を上回る激しい地震動に襲われる可能性があると指摘する上記地震学者も,ス
ラブ内地震の発生条件はまだ学問的に解明されていないとしていること等の事情に
かんがみると,本件安全審査において,プレート間地震,殊に海洋プレート(スラ
ブ)内地震といった地震学上の新たな知見を考慮しその発生を想定していないとし
ても,この点に看過し難い欠落があるとまではいえない。したがって,原告らの主
張は理由がない。
ク 鳥取県西部地震が明らかにした本件安全審査の誤り
 原告らは,平成12年10月6日に発生した鳥取県西部地震について,本件安全
審査と同じ方法で最大震度が5と評価される日野で震度7ないし6強の地震が記録
されたことは,本件敷地においても同様の事態が生じ得るとし,本件安全審査で用
いられた具体的審査基準は最大想定地震を現実に発生したものよりもかなり過小評
価しており,この基準は不合理であると主張する。
 確かに,証拠(甲560,561)によると,平成12年10月6日鳥取県西部
においてマグニチュード7.3の規模の地震があり,境港市及び日野町で震度6強
を観測していることが認められる。しかし,鳥取県西部地震については,地震学者
等の専門家による科学的な調査,研究がいまだ十分されたとはいい難い状況にある
ことがうかがわれ,この地震に関する科学的知見により本件安全審査で用いられた
審査基準が不合理なものであると評価するには十分でないから,鳥取県西部地震の
際に上記のような観測値が得られたとの一事をもって,本件安全審査で用いられた
審査基準が直ちに合理性を欠くものであるとまではいえない。したがって,原告ら
の主張は採用できない。
  (3) その他の自然的立地条件
ア 気象
(ア) 積雪
 原告らは,本件敷地周辺が豪雪地帯であり,本件施設を190センチメートルの
最大積雪深に耐える設計とすることは困難であり,仮に設計が可能であるとしても
施設の稼働上多大な支障と危険が避け難いと主張するが,この点の裏付けとなる証
拠はない。
 また,原告らは,本件敷地周辺でこれまでの最大積雪深を超える積雪がある可能
性を指摘するものの,上記主張は,そのような事態が生じる抽象的危険性を指摘す
るにとどまり,これをもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い
過誤,欠落があるとはいえない。
 よって,原告らの主張は,いずれも理由がない。
(イ) 強風
 原告らは,本件敷地周辺が強風地帯に属することをもって,本件施設で事故があ
った場合には風下の周辺住民が放射線被曝を受けるとし,本件安全審査がこの点の
考慮を怠っていると主張する。
 しかしながら,本件安全審査では,後にみるように,技術的に発生が想定し得る
事故のうち一般公衆の放射線被曝の観点からみて重要と考えられる事故(最大想定
事故)の検討の中で,本件施設から六フッ化ウランが漏洩した場合の一般公衆の被
曝線量については十分な安全裕度のある拡散条件を考慮しても極めて小さいと判断
しているものであるから,上記の主張は理由がない,
 また,原告らは,本件安全審査で検討の対象となった過去の最大風速及び瞬間最
大風速が本件敷地から約50キロメートル離れた青森市で観測された数値であるこ
と(当事者間に争いがない。)をもって,本件安全審査は不適当であると主張す
る。
 この点については,確かに,加工施設指針1が加工施設の立地地点における風向
や風速を検討することを定めていることに照らすと,青森市における観測データが
検討されたにとどまる本件安全審査が必ずしも相当であるとはいい難いものの,上
記の観測データも本件敷地における風速の程度を見積もる最低限の参考資料として
の意味合いはあること及び本件施設が建築基準法施行令所定の風速毎秒60メート
ル相当の風圧力に耐えるように設計されるものであること(乙1)を踏まえると,
このことをもって,本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠
落があるとまではいえない。
イ 水理・水象
(ア) 洪水・高潮等
 この点に関する原告らの主張は,洪水による侵蝕作用によって将来的には本件敷
地の存する丘陵が崩壊するというものにすぎず,前記認定の本件安全審査における
調査審議及び判断の過程の看過し難い過誤,欠落の主張としては不十分であり,主
張自体失当である。
(イ) 津波
 この点に関する原告らの主張は,本件敷地の約36メートルという標高を上回る
波高の津波が過去にあったこと等を根拠として,本件敷地が津波に襲われる危険性
を抽象的に指摘するにとどまり,本件敷地の具体的な諸要素(標高,海岸からの距
離,地形等)に基づいて本件敷地に津波の危険性がないとした本件安全審査の調査
審議及び判断の過程における看過し難い過誤,欠落の主張としては足りないという
べきであって,それ自体失当である。
(ウ) 地下水
 原告らは,鷹架層上部の風化部分中のN値が10程度の部分は,これが地下水に
よって飽和されている場合には液状化現象を起こす危険性があると主張するが,本
件施設の建物については,支持層を鷹架層のうちN値が50以上の部分に設定する
ことは前記認定のとおりであるから,上記主張は,本件施設の安全性とは関係のな
い地盤について液状化の危険を指摘するものにすぎず,主張自体失当である。ま
た,原告らは,本件敷地の表層地盤,とりわけ造成地盤については液状化現象の可
能性が十分にあり,加工施設の事故の誘因になると主張するが,支持地盤より上の
表層の地盤の液状化によって本件施設にいかなる危険が及ぶかについては具体的な
主張がなく,主張自体失当というべきである。
 このほか,原告らは,環境汚染との関係で地下水の検討の必要性を主張するが,
このような環境への影響それ自体は,本件施設に求められる安全性の問題には含ま
れないから,上記主張は理由がない。
(4) 社会環境
ア 国家石油備蓄基地
 原告らは,むつ小川原国家石油備蓄基地での大火災が本件施設の事故誘因となり
かねない旨主張する。
 しかし,本件安全審査においては,本件敷地との距離関係を理由として上記国家
石油備蓄基地の存在によっても本件施設の安全性が損なわれることはないと判断さ
れたことは前記認定のとおりであり,そこでの大火災を抽象的な事故誘因として指
摘するにとどまる原告らの主張は,本件安全審査の調査審議又は判断の過程におけ
る看過し難い過誤,欠落の主張とはいえず,それ自体失当である。
イ 人口分布状況
 原告らは,本件安全審査において,六ヶ所村の尾駮地区の住民の生命等に対する
考慮が全くされていない旨主張するが,前記のとおり,規制法14条1項3号の規
定は,加工施設周辺に居住し,加工施設における臨界事故ないしは核燃料物質の漏
出事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範
囲の住民の生命,身体の安全等をも保護する趣旨を含んでいるものであるから,本
件安全審査は,本件施設の3号要件適合性を審査することを通じて上記地区を含む
周辺地域の住民の生命等の保護を図っているということができ,したがって,上記
主張は理由がない。
 ウ 集中立地の危険性
 原告らは,本件許可処分当時,本件敷地周辺には他の原子力関連施設の立地計画
が進行中であり,施設の集中化によって各施設の危険性が相乗的に増大するとし
て,本件安全審査においてこのような施設の集中立地を想定した審査が行われてい
ない旨主張する。
 しかしながら,原告らが問題とする原子力関連施設については,本件許可処分当
時はいまだ規制法上の指定や許可がされておらず,計画段階にあったにすぎないも
のであるから(弁論の全趣旨),本件安全審査においてそれらの危険性を評価しな
かったからといって,本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,
欠落があるとはいえない。
エ 航空交通
(ア) まず,原告らは,本件敷地上空が米軍三沢基地所属の航空機等の訓練空域
での頻繁な往来における安全確保の目的で特別管制空域に指定されているところ,
本件安全審査では,途中まで特別管制区の存在を航空機事故の要因として検討して
いたものの,原子力施設上空の飛行規制の存在を理由に審査の対象外にしてしまっ
たが,上記飛行規制は努力目標であり絶対的制限でないから,本件安全審査には重
大な過誤があると主張する。
 航空法94条の2第1項及び航空交通管制区又は航空交通管制圏のうち計器飛行
方式により飛行しなければならない空域を指定する告示(昭和38年運輸省告示第
338号。ただし,平成元年運輸省告示第639号による改正前のもの)並びに証
拠(甲314,347)によれば,三沢市,野辺地町,東北町,六ヶ所村等及びそ
の沖合にわたる面積約500平方キロメートルの区域の直上空域のうち高度600
メートル以上7000メートル以下の空域は,高度6100メートルを超え700
0メートル以下の三沢第一特別管制区と高度600メートル以上6100メートル
以下の三沢第2特別管制区(以下この両特別管制区を併せて「本件特別管制空域」
という。)に指定されており,その範囲は,三沢対地訓練区域に係る飛行制限空域
の大部分を含みながらその北西方向から南西方向等にかけて下北半島の基部を横断
する区域の上空に及び,本件敷地もその直下に位置していることが認められる。
 そして,特別管制空域に関しては,甲第313号証及び航空関係法規によると,
(a)航空機の飛行方式は,経路その他の飛行の方法について常に運輸大臣の指示
等(実際には航空交通管制の指示等)に従って飛行する計器飛行方式(IFR)
と,パイロットが目視によって地上の障害物,地表及び空中の他の飛行機などとの
間に間隔を設定しながら航空機を操縦しそれらとの衝突を回避について常にパイロ
ットが責任を負う有視界飛行方式(VFR)とがあること,(b)航空法に基づく
管制空域としては航空交通管制区,航空交通管制圏等があり,これらの管制空域内
を計器飛行方式で飛行する航空機は管制機関から飛行計画の承認を受け,飛行中は
常時管制機関の周波数を聴取しその指示に従うことが義務づけられていること,
(c)航空交通管制区とは,地表等からの高度が200メートル以上の空域で航空
交通の安全のために運輸大臣が告示で指定するものをいい,航空路のほか,飛行機
が計器飛行方式で出発上昇又は降下進入するための経路に必要な区域等が指定の対
象で,このうち計器飛行方式による出発機及び到着機の多い区域については,進入
管制業務又はターミナルレーダー管制業務を行う必要上進入管制区(ACA)とし
て別途運輸大臣から告示されていること,(d)航空交通管制圏とは飛行場及びそ
の上空における航空交通の安全のために運輸大臣が告示で指定するものをいい,通
常は飛行場の標点から半径9キロメートルの円で囲まれた地域の上空について定め
られること,(e)特別管制空域(PCA)は,航空交通の輻輳する空域のうち主
として特定の飛行場の周辺について公示された空域で,この空域においては運輸大
臣の許可を受けた場合以外は計器飛行方式によらなければ飛行してはならないこ
と,(f)三沢第2特別管制区は三沢空港の進入管制区につき定められ,三沢第一
特別管制区は三沢空港の進入管制区にかかわらない航空交通管制区につき定められ
ていること,(g)本件特別管制空域は,三沢対地訓練区域で訓練を行う自衛隊機
及び米軍機が飛行する空域の安全確保のために設定されたもので,これら軍用機等
の飛行が優先され,原則的には民間の航空機の進入は許可されない運用がされてお
り,訓練中の軍用機等は有視界飛行方式で飛行するものとされていること,以上の
事実が認められる。
 ところで,証拠(乙40,41,証人B)及び弁論の全趣旨によると,自衛隊機
を含む我が国の航空機については,航空法99条に基づき,運輸大臣より航空機乗
組員に対して提供される航空情報の一つとして運輸省が発行する「航空路誌」(A
IP)に「航空機による原子力施設に対する災害を防止するため,下記の施設付近
の上空の飛行は,できる限り避けること。」との指導事項及び原子力施設の位置等
が掲載,公示されることにより,航空機乗組員に対して原子力施設付近上空の飛行
規制が周知されること,もっとも,米軍機には航空法の規定は適用されないが,従
前より政府から米軍に対し「航空路誌」に係る情報が事実上提供されるとともに,
原子力施設付近上空の飛行規制について徹底するよう要請してきており,実際,昭
和63年6月30日に開催された日米合同委員会において,米国側代表が「原子力
施設付近の上空の飛行については在日米軍としては従来より日本側の規則を遵守し
てきたが,(中略)改めて在日米軍内に上記を徹底するよう措置する」と回答して
いること,そして,これらの飛行規制は飛行禁止等の絶対的な飛行規制ではないけ
れども,実際自衛隊機及び米軍機を含めこれまで遵守されてきていることが認めら
れる(甲第319号証の1,2は,この認定を左右するに足りない。)。
 このように,本件特別管制空域においては,その指定の有無にかかわらず,航空
機は,原則として原子力施設及びその付近の上空を飛行しないよう規制され,自衛
隊機はもとより米軍機についても実際上遵守されてきており,三沢特別管制区の存
在については,本件許可申請書及び核燃料安全専門審査会第23部会の審査メモ
(甲100,102)において一旦言及されはしたが,上記のとおりの規制がされ
ていることを理由に本件施設の安全性に影響を及ぼすことはないと判断された。
 以上検討したところによれば,原子力施設上空の飛行規制は絶対的な飛行規制で
はないが,その実効性までも否定することは当を得たものとはいえないから,これ
が絶対的制限でないことを理由に本件安全審査に重大な過誤があるとする原告らの
主張は採用できない。
(イ) 次に,原告らは,本件敷地上空の飛行状況として,敷地南方約28キロメ
ートルのところに三沢基地があり,敷地から南方約10キロメートル離れたところ
に三沢対地訓練区域があり,敷地近辺で測定した航空機の飛行回数が4万回を上回
ると主張し,このように多数回航空機が上空を飛行しているところに本件施設を造
ることは非常識であると主張する。
 しかし,前記3の(6)のイで認定したとおり,原子力施設付近の上空における
飛行をできる限り避けるこという飛行規制が敷かれ,またこの規制が及ばない米軍
機においてもこの規制内容を遵守することとされていることからすれば,三沢基地
や三沢対地訓練区域の存在をもって,直ちに本件敷地上空を航空機が多数飛行する
と認めことはできないし,原告ら主張の飛行回数の測定値も,本件敷地で測定され
たものとは認められない上,本件安全審査では,当該測定値を前提として算出した
三沢対地訓練区域で訓練を行う航空機の本件施設への墜落確率についても検討を加
えているから(甲101,109,乙62),当該測定値をもって直ちに本件安全
審査に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。
 このほか,原告らは,パイロットのわずかの油断で航空機が本件敷地上空に到達
する可能性を指摘するところ,そのような事態が発生する余地のあることは否定で
きないものの,そのようにして本件敷地上空を航空機が通過することがあり得るこ
とのみをもって,本件安全審査に看過し難い過誤,欠落があるということはできな
い。
(ウ) また,原告らは,航空機が墜落する事故が相次いでおり,本件施設へ墜落
する頻度は20年に1回であると主張し,甲第409号証及び第476号証中に
は,施設への墜落の頻度を20年ないし25年に1回であるとする記載部分があ
る。しかし,上記の主張及び記載部分はいずれも,本件安全審査で検討対象となっ
た日本原燃による墜落確率の試算値である1.6の10のマイナス6乗倍等の数値
(甲101,109,乙62)に基づいて,100万回に1回余り墜落することと
施設周辺の航空機の年間飛行回数の計測値の概数である4万回ないし5万回という
数値(甲9)とから算出したものと推測されるけれども,証拠(甲109,乙6
2)によれば,上記試算値は,年間6万回ないし6万5000回という飛行回数を
前提とした上で1年間に航空機が墜落する確率を求めたものであると認められるか
ら,甲第409号証及び第476号証の記載に基づく原告らの主張は,これを1回
の飛行当たりの墜落確率であると誤解したことに基づくものというべきであり,採
用できない。
(5) 墜落事故評価の問題点
ア 想定事故の評価条件
 原告らは,事故評価の対象としては,三沢対地訓練区域を使用する航空機のみな
らず,三沢基地を発着する軍用機その他本件敷地周辺上空を飛行するすべての航空
機を想定した審査が必要であると主張する。しかしながら,前記のとおり,本件安
全審査において本件施設の安全性に影響を及ぼし得る航空交通として考慮の対象と
なった三つの要素のうち,本件施設への墜落の可能性が問題となるのは三沢対地訓
練区域を使用する航空機のみであって,三沢空港を発着する航空機の離発着時の事
故の場合にも本件施設への影響はなく,また,定期航空路を飛行中の航空機が本件
施設に墜落する可能性は無視できると判断されたのであって,この判断が妥当性を
欠くとまではいえなから墜落事故の事故評価において三沢対地訓練区域を使用する
主たる航空機を想定対象としたことをもって当該事故評価に看過し難い過誤,欠落
があるとはいえない。
 また,原告らは,誤射爆や落下物事故が想定対象となっていない点をも指摘する
が,証拠(甲184,199,200,204)によれば,六ヶ所村内におけるこ
れらの事故はこれまでいずれも三沢対地訓練区域のための飛行コース近傍の地点で
発生していることが認められるから,上記コースから10キロメートル離れている
本件施設の事故評価において上記事故を想定対象としなかったことをもって,本件
安全審査の調査審議及び判断の過程における過誤,欠落ということはできない。
 さらに,原告らは,平成3年11月に米軍のF16が三沢対地訓練区域の東方海
上に2個の実爆弾を投棄したとの事実をもって,本件敷地上空を飛行する軍用機が
実爆弾を搭載している可能性が高い旨主張する。しかしながら,証拠(乙42,4
3)によれば,上記の事件は,三沢基地を離陸後鳥島の射爆撃場に向かう予定で実
爆弾を搭載していた米軍機が離陸直後にトラブルを起こしたために三沢対地訓練区
域の沖合に爆弾を投棄したという事件であるのに対し,三沢対地訓練区域における
訓練は模擬弾を用いて行われているものであることが認められ,このことからする
と,三沢対地訓練区域を使用する航空機による事故を想定する場合において実爆弾
の搭載を想定する必要性があるとはいえないし,また,三沢対地訓練区域を使用す
る主たる航空機を想定対象とし,それ以外の航空機について事故評価を行わなかっ
たことに看過し難い過誤,欠落があるといえないことは上記で説示したとおりであ
るから,原告らの主張は理由がない。
イ 発回均質棟の安全性
 原告らは,航空機等が墜落した場合の貫通限界厚さを求めるに当たって用いる飛
来物形状係数は,航空機の場合には若干丸い場合の0.84を,模擬弾の場合には
球形の場合の1.0を用いるべきであると主張する。
 この点については,証人Bの証言によれば,本件安全審査では飛来物形状係数を
平坦の場合の0.72を用いて計算しているものと認められるところ,具体的にい
かなる形状の場合にいかなる飛来物形状係数を用いるべきかという点及び本件安全
審査における事故想定で前提とされたF16のエンジンの具体的な形状については
いずれも原告らの主張に沿う事実を認めるに足りる証拠はないから,本件安全審査
で0.72という飛来物形状係数が用いられたことを看過し難い過誤と評価するこ
とはできない。また,模擬弾の飛来物形状係数については,本件安全審査ではそも
そも模擬弾を想定した事故評価を行っておらず,この点を看過し難い過誤,欠落と
いうことができないことは上記のとおりであるから,原告らの主張は前提を欠き失
当である。
 次に,原告らは,貫通限界厚さを求めるに当たり用いる評価式として,本件安全
審査で用いられたDegen式ではなく,Adeli&Amin式を用いると,F
16やその他の戦闘機,模擬爆弾,旅客機について限界貫通厚さが90センチメー
トルを超え,発回均質棟でも局部破壊が生じることになると主張する。しかし,本
件安全審査においてDegen式を用いたことそれ自体が看過し難いほどの過誤で
あることを認めるに足りる立証はないから,上記主張によっても,Degen式を
用いて行われた本件安全審査における墜落の影響評価の過程に看過し難い過誤,欠
落があるとはいえない。
 また,原告らは,本件安全審査において本件許可処分後に三沢基地に配備された
航空機であるF4EJ改について事故評価をしていない点を主張する。しかし,本
件安全審査における事故評価は前記のとおり三沢対地訓練区域を使用する航空機の
うち本件許可処分当時三沢基地に最も多く配備されていた航空機として航空自衛隊
のF1及び米軍のF16を想定対象としたものであって,本件許可処分当時に三沢
基地に配備されていなかったF4EJ改を想定して事故評価を行わなかったとして
も,このことをもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程における看過し難い
ほどの過誤,欠落とはいえない。
 さらに,原告らは,本件安全審査に当たって想定されたのは,トラックパターン
で訓練中の航空機がエンジン推力を喪失し,グライダーのように滑空して本件施設
に到達するという場合であるが,そもそも航空機が地上の施設に衝突する場合の速
度を算定するに際し,最良滑空速度をもって衝突速度とする見解自体確立した考え
とはいえないし,エンジン推力を維持したまま,パイロットが操縦不能となるケー
スは十分考えられるから,エンジン停止の場合だけを想定する本件安全審査の過
誤,欠落は明らかであると主張する。しかしながら,前記認定のとおり,本件安全
審査においては,三沢対地訓練区域を使用する訓練中の航空機が本件施設に墜落す
る可能性は極めて小さいと判断されたこと,そして,この判断は原告らが主張する
パイロットが操縦不能となるような事例の可能性を考慮したとしても必ずしも妥当
性を欠くものであるとはいえないこと等からすると,当該訓練中の航空機が本件施
設に墜落することを想定し,防衛庁のF1と米軍のF16がエンジン故障等により
訓練コースを外れて本件施設付近まで滑空して施設に衝突する,すなわち原告らが
指摘する最良滑空速度で衝突するものと仮定し,エンジン推力を維持したままの状
態で施設に衝突するような場合を想定せずに,施設に墜落した場合の一般公衆に対
する影響についての評価を行ったとしても,そのことをもって,直ちに本件安全審
査が行った事故評価に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。
 このほか,原告らは,本件安全審査が,想定条件,飛来物形状係数や評価式につ
いて,貫通限界厚さが90センチメートルを超えず発回均質棟が局部破壊しないと
の結果を導く組合せを殊更に選定している旨主張するが,衝突速度を含め想定条件
その他事故評価を行うに当たって採用された要素の選択は,個別的にはそれ自体に
看過し難い過誤があるとは評価できず,またそこに恣意的な選択判断が働いたこと
を認めるに足りる証拠もない以上,上記主張は採用できない。
ウ 中央操作棟の安全性
 原告らは,内閣総理大臣の想定でも,中央操作棟については「貫通する。また,
航空機衝突によっても鉄筋コンクリートスラブが破壊され,全体破壊が起こり得
る。」とされており(乙62),この場合本件施設の制御が不能となるのであっ
て,どういうことが発生するか予想は不能であり,最大・最悪の事態を想定すべき
であると主張する。
 しかし,そもそも乙第62号証中には原告らが指摘するような記載部分は存在し
ないし,全体破壊によってウラン濃縮建屋内の中央操作棟が破壊され,施設の制御
が不能となる事態が発生するとしても,そもそも原告らにおいて,そのことにより
いかなる事態が発生するのか予想は不能であるとしているのであって,果たしてい
かなる事態が発生し,どのような結果がもたらされるのか等について何らの主張も
ない。もっとも,この点について,証人Fは,フェイル・セーフの考え方で作られ
てあれば問題はないが,そうでない限りは暴走することも考えなければいけないと
証言し,また,証人Eも,中央操作棟が破壊されるということは制御ができなくな
るということであるから,そのような状況の中では,誰も現場に入れなくなり,ほ
とんど現場が野放しになり,素早く進むかゆっくり進むか多少評価に違いがある
が,大規模なウランの放出が進んでいき,想定される数トンの量のウラン以上のウ
ラン災害になる可能性が十分ある旨証言する。
 確かに,上記証言からうかがわれる中央操作棟の破壊によってもたらされる事態
の内容に照らすと,航空機が本件施設に墜落した場合に想定される事故評価におい
て,その衝突対象として中央操作棟を含むウラン濃縮建屋のうち発回均質棟とカス
ケード棟のみを選定したことは必ずしも十分なものとはいえない。しかしながら,
前記認定のとおり,本件安全審査においては,三沢対地訓練空域を使用する訓練中
の航空機が本件施設に墜落する可能性は極めて小さいと判断されたのであって,仮
にそのような航空機が本件施設に墜落する事故を想定した場合に,取り扱うウラン
の性状や量を考慮し,その衝突対象として発回均質棟等を選定し,中央操作棟を選
定しなかったとしても,そのことをもって,本件安全審査の調査審議及び判断の過
程に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。
エ 六フッ化ウランの漏洩量と被曝線量
 原告らは,ウラン貯蔵建屋に貯蔵可能な最大量のウランが貯蔵されている場合に
は施設破壊時の放射能の漏洩量は0.3キュリーにとどまらない旨主張し,証人F
及び同Eの各証言中にはこれに沿う趣旨を述べる部分がある。
 この点については,証拠(乙62,証人B)によれば,ウラン貯蔵庫における施
設破壊時の放射能漏洩量の算定根拠としては,(a)建物に航空機が墜落した場合
には機体の翼部等は飛散して胴体部のみが建屋内に貫通すると評価されたこと,
(b)貫通した導体によって損傷を受けるシリンダの数は,衝突部周辺への波及も
考慮して翼部等を含む機体の平面的な全投影面積である約90平方メートルの範囲
で,しかも放射能内蔵量の多い製品シリンダを想定し,製品シリンダ15本と想定
したこと,(c)航空機墜落時に発生する火災は,機体の保有燃料油全量が傾斜床
面に流出して燃焼すると仮定し,傾斜路における流体の流速に関するマニングの式
と燃料油の燃焼速度を考慮すると約3分間継続すると評価されるところを,安全側
に裕度をみて約6分間と想定すること,(d)火災により生じる放射熱である2万
5000キロカロリー毎平方メートル時間のエネルギーは安全側にすべてが損傷シ
リンダの全面で受熱されるものと仮定すること,(e)シリンダ内の六フッ化ウラ
ンの温度が760トール(1気圧)の下における昇華温度である摂氏56度に至っ
て昇華するものとしてシリンダから漏洩する量を計算すると,その放射能量は約3
キュリーとなること,(f)シリンダから漏洩した六フッ化ウランの建屋外への漏
洩率については,六フッ化ウランが漏洩後空気中の水分と反応してフッ化ウラニル
(ウラン原子1個,酸素原子2個及びフッ素原子2個からなる分子)となり,大部
分は重力沈降及び壁等への付着により建屋内に残留すると考えられること及び建屋
の破損の程度から10パーセントと想定したこと,以上の事実が認められる。これ
に対し,前記の証言のうち,証人Fの証言は破損するシリンダの本数(上記(b)
の点)に関し,建屋内のシリンダの全部の破損を想定すべきであるとするものであ
るが,その考え方と上記(b)の想定の優劣はともかくとしても,上記証言のみを
もっては,上記(b)の想定に看過し難い過誤があると認めるには足りないという
べきである。また,証人Eの証言は,六フッ化ウランのシリンダから建屋内への漏
洩量及び建屋の外への漏洩率(上記(e)及び(f)の点)に関し,単にその結論
のみを取り上げて過小であると指摘するものにすぎず,この証言をもって本件安全
審査における墜落事故評価の調査審議及び判断の過程に過誤があると認めることは
できない。
 また,原告らは,ウラン貯蔵建屋からのウランの漏洩量が0.3キュリーである
場合に一般公衆への被曝線量当量が0.06レムであるとしても,これが健康に重
大な障害をもたらすことは明らかであると主張する。しかしながら,この0.06
レム,すなわち0.6ミリシーベルトという線量当量については,甲第103号証
によれば,核種摂取後50年間にわたり全身が受ける実効線量当量であると認めら
れるところ,これは一般の自然放射線の被曝による平均の一人当たりの線量当量年
間1.1ミリシーベルト程度や,胃の集団検診の場合の一検査当たり4ミリシーベ
ルト程度といった値と比較した場合に格段に小さい数値ということができ,これが
いかなる意味において健康に重大な影響をもたらすのか明確でない以上,上記主張
は失当というべきである。
 このほか,原告らは,墜落事故に伴う火災に起因するフッ化水素の発生について
本件安全審査において考慮がされていない旨主張するが,甲第103号証及び第1
04号証の1によれば,フッ化水素については,建屋外への漏洩量を50パーセン
トと想定した場合の敷地境界濃度について検討が行われたことが認められるから,
上記主張は前提を欠き失当である。
オ 航空機墜落実験
 原告らは,本件安全審査において航空機の衝突を想定した実験を実施していない
点をもって,本件安全審査の違法を主張するけれども,本件安全審査においていか
なる実験を行う必要性があるかについては何ら具体的な主張はないから,上記主張
はそれ自体失当である。
(6) まとめ
 以上によれば,本件施設の基本的立地条件に係る安全性に関する原告らの主張
は,いずれも理由がなく,したがって,この点において本件許可処分における内閣
総理大臣の判断に不合理な点があるとはいえない。
第3 加工施設自体の安全性確保対策
1 はじめに
 規制法14条1項3号の要件のうち,本件施設自体の安全性確保対策に係るもの
は,前記(第1の1の(3))のとおり,想定される各種の事故防止対策,事故に
よっても六フッ化ウランが大量に漏出等することのないようなウランの閉込め機能
の確保対策及び臨界管理がそれぞれ適切に行われているかという問題であり,これ
らによって六フッ化ウランの潜在的危険が顕在化する危険性が社会通念上容認し得
る一定水準以下となっているか否かという観点から検討されるべきこととなる。
 なお,加工施設自体の安全性確保対策に係る本件安全審査のうち,労働者被曝に
関する放射線遮へい及び放射線被曝管理並びに放射性物質閉込めの機能のうち作業
環境の汚染防止に対する考慮については,前記(第2章第1)の説示のとおり本件
において原告らはその違法を主張することができないから,被告の主張立証に基づ
くものも含め,この点に関する認定判断はしない。
2 加工施設指針等の内容(乙14,15)
(1) 地震に対する考慮
 核燃料施設基本指針13は,地震に対する考慮として,核燃料施設における安全
上重要な施設は,その重要度による耐震設計上の区分がなされるとともに,敷地及
びその周辺地域における過去の記録,現地調査等を参照して,最も適切と考えられ
る設計地震力に十分耐える設計であることを定めている。また,加工施設指針13
は,耐震設計上の重要度分類としては,設備・機器(配管,ダクト等を含む。)と
建物・構築物とに分けて,それぞれについて,地震により発生する可能性のあるウ
ランによる環境への影響の観点から,ウラン加工施設の耐震設計上の重要度の分類
を第1類から第3類まで定めるとともに,耐震設計評価法として,4点の耐震設計
上の基本的な方針を掲げた上で,建物・構築物の耐震設計法,設備・機器の耐震設
計法について,静的設計法を基本とすること,耐震設計上の静的地震力として建築
基準法施行令(昭和63年政令第322号による改正前のもの。以下同じ。)88
条所定の最小地震力に割増係数を乗じたものを用いること等を定めている。
(2) 地震以外の自然現象に対する考慮
 核燃料施設基本指針14は,地震以外の自然現象に対する考慮として,核燃料施
設における安全上重要な施設は敷地及びその周辺地域における過去の記録,現地調
査等を参照して,予想される地震以外の自然現象のうち最も過酷と考えられる自然
力を考慮した設計であることを定めている。そして,加工施設指針14は,上記に
いう自然力につき,敷地及びその周辺地域の自然環境をもとに洪水,津波,台風,
積雪等のうち予想されるものに対応して,過去の記録の信頼性を十分考慮の上,少
なくともこれを下回らない過酷なものであって妥当とみなされるものを選定し,こ
れを設計基礎とすることを定めるとともに,過去の記録や現地調査の結果等を参考
にして必要な場合には異種の自然現象を重畳して設計基礎とすることを求めてい
る。
(3) 火災・爆発に対する考慮
 核燃料施設基本指針15は,火災・爆発のおそれのある核燃料施設においては,
その発生を防止し,かつ,火災・爆発時には,その拡大を防止するとともに施設外
への放射性物質の放出が過大とならないための適切な対策が講じられていることを
定め,この点につき,加工施設指針15は次のように定めている。
ア 不燃性材料の使用等
 ウラン加工施設の建屋は,建築基準法等関係法令で定める耐火構造又は不燃性材
料で造られたものであること。また,設備・機器は実用上可能な限り不燃性又は難
燃性材料を使用する設計であること。
イ 可燃性物質の使用対策
 施設において有機溶媒など可燃性の物質又は水素ガスなど爆発性の物質を使用す
る設備・機器は,火災・爆発の発生を防止するため,発火・温度上昇の防止対策,
水素ガス漏洩,空気の混入防止対策等適切な対策が講じられていること。
ウ 火災・爆発の拡大防止対策
 万一火災・爆発が発生した場合にも,その拡大を防止するための適切な検知,警
報設備及び消火設備等が設けられているとともに,汚染が発生した部屋以外に著し
く拡大しないよう適切な対策が講じられていること。
(4) 臨界安全に対する考慮
ア 核燃料施設基本指針10は,ウラン加工施設における単一ユニットの臨界安全
について,技術的に想定されるいかなる場合でも,単一ユニットの形状寸法,質
量,溶液濃度の制限及び中性子吸収材の使用等並びにこれらの組合せによって核的
に制限することにより臨界を防止する対策が講じられていることを定めている。そ
して,加工施設指針10は,この点につき,次の6点を定めている。
(ア) ウランを収納する設備・機器のうち,その寸法又は容積を制限し得るもの
については,その寸法又は容積について核的に安全な制限値が設定されているこ
と。
(イ) 上記(ア)の規定を適用することが困難な場合には,取り扱うウラン自体
の質量,寸法,容積又は溶液の濃度等について核的に安全な制限値が設定されてい
ること。また,この場合,誤操作等を考慮しても工程中のウランがこの制限値を超
えないよう,十分な対策が講じられていること。
(ウ) ウランの収納を考慮していない設備・機器のうち,ウランが流入するおそ
れのある設備・機器についても上記(ア),(イ)の条件が満たされていること。
(エ) 核的制限値を設定するに当たっては取り扱われるウランの化学的組成,濃
縮度,密度,溶液の濃度,幾何学的形状,減速条件,中性子吸収材等を考慮し,特
に立証されない限り最も効率のよい中性子の減速,吸収及び反射の各条件を仮定
し,かつ,測定又は計算による誤差及び誤操作等を考慮して十分な裕度を見込むこ
と。
(オ) 核的制限値を定めるに当たって参考とする手引書,文献等は,公表された
信頼度の十分高いものであり,また,使用する臨界計算コード等は,実験値等との
対比がされ信頼度の十分高いことが立証されたものであること。
(カ) 核的制限値の維持・管理については,起こるとは考えられない独立した二
つ以上の異常が同時に起こらない限り臨界に達しないものであること。
イ 核燃料施設基本指針11は,核燃料施設内に単一ユニットが複数存在する場合
のユニット相互間の中性子相互干渉を考慮して,複数ユニットの配列について,技
術的にみて想定されるいかなる場合でもユニット相互間における間隔の維持又はユ
ニット相互間における中性子遮へいの使用等により臨界を防止する対策が講じられ
ていることを定め,この点につき加工施設指針11は次の4点を定めている。
(ア) ユニット相互間は核的に安全な配置であることを確認すること。
(イ) 核的に安全な配置を定めるに当たっては,特に立証されない限り,最も効
率のよい中性子の減速,吸収及び反射の各条件を仮定し,かつ,測定又は計算によ
る誤差及び誤操作等を考慮して十分な裕度を見込むこと。
(ウ) 核的に安全な配置を定めるに当たって参考とする手引書,文献等は,公表
された信頼度の十分高いものであり,また,使用する臨界計算コード等は,実験値
等との対比がされ信頼度の十分高いことが立証されたものであること。
(エ) 核的に安全な配置の維持については,起こるとは考えられない独立した二
つ以上の異常が同時に起こらない限り臨界に達しないものであること。
ウ 核燃料施設基本指針12は,臨界事故に対する考慮として,誤操作等により臨
界事故の発生するおそれのある核燃料施設においては万一の臨界事故に対する適切
な対策が講じられていることを定めているところ,加工施設指針12は,ウラン加
工施設においては加工施設指針10及び11を満足する限りは臨界事故に対する考
慮は要しないと定めている。
(5) 六フッ化ウラン閉込めの機能に関する安全設計
ア 核燃料施設基本指針4は,核燃料施設は放射性物質を限定された区域に閉じ込
める十分な機能を有することを定めている。そして,加工施設指針4は,これに関
して作業環境の汚染防止に対する考慮及び周辺環境の汚染防止に対する考慮に分け
て規定をし,前者に関して,ウラン加工施設の管理区域をウランを密封して取り扱
い又は貯蔵し,汚染の発生するおそれのない区域(第2種管理区域)とそうでない
区域(第1種管理区域)とに区分して管理することを求めた上,後者の周辺環境の
汚染防止に対する考慮として,次のとおり定めている。
(ア) 第1種管理区域は,漏洩の少ない構造とするとともに,当該区域の外から
当該区域に向かって空気が流れるように給排気のバランスをとること。
(イ) 第1種管理区域において,汚染のおそれのある空気を排気する系統には,
周辺環境の汚染を実用可能な限り少なくするため,高性能エアフィルタ等適切なウ
ラン除去設備を設けるとともに,それらの機能が十分であること。
(ウ) 事故時においてウランの飛散するおそれのある部屋は漏洩の少ない構造で
あること。
イ 核燃料施設基本指針17は,放射性物質の移動に対する考慮として,核燃料施
設においては施設内における放射性物質の移動に際し,閉込めの機能,放射線遮へ
い等について適切な対策が講じられていることを定め,この点につき加工施設指針
17は,ウランの工程間又は工程内移動に際し,移動するウランの形態,形状に応
じて漏洩防止について適切な対策が講じられていることを求めている。
(6) 外部電源喪失に対する考慮
 核燃料施設基本指針16は,電源喪失に対する考慮として,核燃料施設において
は外部電源系の機能喪失に対応した適切な対策が講じられていることを定めてお
り,加工施設指針16は,ウラン加工施設につき,停電等の外部電源系の機能喪失
時に,第1種管理区域の排気設備,放射線監視設備及び火災等の警報設備,緊急通
信・連絡設備,非常用照明灯等安全上必要な設備機器を作動し得るのに十分な容量
及び信頼性のある非常用電源系を有することを定めている。
(7) その他の考慮
ア 核燃料施設基本指針19は,核燃料施設における安全上重要な施設が共用によ
ってその安全機能を失うおそれのある場合には,共用しない設計であることを求
め,この点につき加工施設指針19は,安全上重要な施設のうち当該加工施設以外
の原子力施設との間,又は当該加工施設内で共用するものについては,その機能,
構造等から判断して,共用によって当該加工施設の安全性に支障を来さないことを
確認することを定めている。
イ 核燃料施設基本指針20は,核燃料施設における安全上重要な施設の設計,工
事及び検査については,適切と認められる規格及び基準によるものであることを求
め,加工施設指針20は,上記の規格及び基準として,加工事業規則,許容被曝線
量等を定める件に定める規格及び基準を挙げるとともに,建築基準法や日本工業規
格に定める規格及び基準に原則として準拠することを求め,さらに国内において規
定されていないものについては,必要に応じて,十分使用実績があり信用性の十分
高い国外の規格及び基準に準拠することを求めている。
ウ 核燃料施設基本指針21及び加工施設指針21は,核燃料施設における安全上
重要な施設につき,その重要度に応じて,適切な方法により安全機能を確認するた
めの検査及び試験並びに安全機能を健全に維持するための保守及び修理ができるよ
うになっていることを求めている。
3 本件安全審査の内容
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件安全審査では,本件施設自体の安全性確保
対策について,以下のとおり,地震に対する考慮,その他の自然現象に対する考
慮,火災・爆発に対する考慮,臨界に対する安全設計,六フッ化ウランの閉込めの
機能に関する安全設計,外部電源喪失に対する考慮等の各側面から,調査審議及び
判断が行われたことが認められる。
(1) 地震に対する考慮(乙9,75,証人C)
ア 本件安全審査では,次の事項が確認された。
(ア) 本件施設においては,加工施設指針13が定める耐震設計上の重要度分類
に従い,設備・機器と建物・構築物は,次のとおりに分類されている。
a 設備・機器
(a) 第1類(機器本体,隔離用の自働遮断弁及びこれらの間の配管類を含
む。)
(六フッ化ウラン処理設備)
発生槽,製品回収槽,廃品回収槽,製品コールドトラップ,一般パージ系コールド
トラップ
(均質・ブレンディング設備)
均質槽,製品シリンダ槽,減圧槽,原料シリンダ槽,中間製品容器置台
(貯蔵設備)
シリンダ置台
(b) 第2類(六フッ化ウラン配管類,弁等を含む。)
(カスケード設備)
遠心分離機
(六フッ化ウラン処理設備)
捕集廃棄系ケミカルトラップ(アルミナ),一般パージ系ケミカルトラップ(アル
ミナ),カスケード廃棄系ケミカルトラップ(アルミナ),アルミナ処理槽,廃品
第1段コンプレッサ,廃品第2段コンプレッサ
(均質ブレンディング設備)
均質パージ系コールドトラップ,均質パージ系ケミカルトラップ(アルミナ)
(管理廃水処理設備)
(排気設備)
(非常用設備)
ディーゼル発電機
(放射線監視設備)
排気用モニタ
(c) 第3類
(サンプル小分け装置)
(分析設備)
b 建物・構築物
(a) 第1類
ウラン濃縮建屋のうち発回均質棟 ウラン貯蔵建屋のうちウラン貯蔵庫
(b) 第2類
ウラン濃縮建屋のうち中央操作棟,カスケード棟
ウラン貯蔵建屋のうち搬出入棟
補助建屋
(c) 第3類 その他の建物・構築物
(イ) 本件施設の建物・構築物については,静的設計法により耐震設計を行うと
ともに,耐震設計上の静的地震力については,建築基準法施行令88条所定の最小
地震力に,第1類のものについては1.3,第2類のものについては1.1の割増
係数を乗じたものを用いることとされている。また,本件施設の設備・機器につい
ては,静的設計法によるとともに剛構造とすることを基本とし,これによることが
困難な場合には,その他適切な方法により耐震設計を行うとともに,建築基準法施
行令88条所定の最小地震力及び第1類の設備・機器については1.5,第2類の
設備・機器については1.4,第3類の設備・機器については1.2の各割増係数
とから算出した一次地震力と,当該設備又は機器に常時作用している荷重とを組み
合わせ,その結果発生する応力に対して許容応力度を許容限界とする,いわゆる一
次設計を行うこととされている。さらに,第1類の設備・機器については,第二次
設計として,一次地震力に上記の機器等についての割増係数を乗じて算出した二次
地震力と常時作用している荷重とを組み合わせ,その結果発生する応力に対して,
設備・機器の相当部分が降伏し,塑性変形する場合でも過大な変形,亀裂又は破損
等が生じて施設の安全機能に重大な影響がないような設計を施すこととされてい
る。
(ウ) このほか,本件施設では,重要度分類において上位の分類に属するものに
ついては下位の分類に属するものの破損によって波及的破損が生じないように設計
することとされているとともに,隣接する各建物間はエキスパンションジョイント
を介して接続して耐震設計上独立した構造とすることとされている。
イ 本件安全審査では,上記の重要度分類や耐震設計上の方針,割増係数の定め方
等が加工施設指針にのっとり,かつ適切であることを確認するとともに,建物及び
構築物と設備及び機器の各一次設計における建築基準法施行令88条所定の最小地
震力が震度Ⅴ程度の地震を対象として想定していることも,基本的立地条件に関し
て過去の地震の記録等を評価した結果に照らし妥当であり,本件施設は,耐震設計
に関する限り,規制法14条1項3号の基準に適合していると判断した。
(2) 地震以外の自然現象に対する考慮(乙9,75)
 本件安全審査においては,本件施設が,基本的立地条件において検討された気象
条件のうち,強風及び積雪により生じる自然力に対して本件施設が十分耐える設計
とされていることが確認され,核燃料施設の核燃料物質による災害の防止上支障が
ないものであると判断された。
(3) 火災・爆発等に対する考慮(乙9,75,証人A)
ア 本件安全審査では,次の事項を確認した。
(ア) 本件施設では,火災発生防止のため,建物は建築基準法上の耐火建築物又
は簡易耐火建築物とすることとされ,また,設備・機器は不燃性又は難燃性の材料
を主として使用することとされている。また,本件施設の主工程では,可燃性の物
質及び爆発性の物質を使用せず,分析室等で使用されるアセトン等は,取扱量を制
限するとともにその保管は倉庫内の危険物貯蔵エリア等で行うこととなっている。
(イ) 本件施設では,火災が発生した場合の拡大防止のために,消防法及び建築
基準法に基づき,自働火災報知設備,消火栓,消火器等を設置するとともに,防火
壁,防火ダンパ,防火扉等により防火区画を設定することとされている。
イ 本件安全審査では,上記のような火災発生防止及び火災拡大防止のための対策
を,火災及び爆発に対する考慮として妥当なものであると判断した。
(4) 臨界に関する安全設計(甲96,乙9,75,証人A,弁論の全趣旨)
ア 加工施設指針では,臨界安全管理の対象となるウランを取り扱う個々のシリン
ダ等を単一ユニットと位置づけ,加工施設の臨界安全について,単一ユニットの臨
界管理と複数ユニットの臨界管理との観点からそれぞれ検討することとしており,
本件安全審査における臨界安全に関する安全設計の審査も,この考え方にのっとっ
て行われた。
 また,臨界管理の方法としては,一般に,核分裂性物質の量を制限する質量管
理,濃縮度を一定以下とする濃縮度管理,工程で用いる装置・機器・容器類の形状
や寸法,配列を制限する形状寸法管理,溶液中の核分裂性物質の濃度ないしは濃縮
度を制限する濃度(濃縮度)管理,中性子の減速度を制限する減速度管理等がある
ところ,本件安全審査では,単一ユニットの臨界安全性については,臨界管理の対
象となる単一ユニットの選別の適否,臨界管理を行う単一ユニットにおける各制限
方法上の制限値(核的制限値)の設定の妥当性,臨界発生の有無を計算するに当た
って用いた臨界計算コードの信頼性及び計算の前提条件における十分な安全裕度の
有無,計算結果と制限値との関係等の観点から審査が行われた。
イ 本件安全審査では,単一ユニットの安全性に関し,次の事項が確認された。
a 本件施設では,ウラン235の割合が0.95パーセント以下のウランは他の
いかなる条件下でも臨界にならないとの知見に基づき,濃縮度がこの割合以下の六
フッ化ウランである天然ウラン及び劣化ウランのみを扱う,カスケード設備より前
の工程及び廃品系の工程に属する単一ユニットについては,臨界管理は不要とし,
臨界安全上管理が必要となるユニットを,カスケード設備,製品捕集回収,均質・
ブレンディング,製品シリンダ貯蔵,一般パージ及びフッ化ナトリウム処理の各工
程としている。
b 本件施設において,濃縮度管理は,ウラン濃縮を行うカスケード設備で実施さ
れ,核的制限値は5パーセントと設定されている。具体的な管理方法としては,六
フッ化ウランの濃縮度がカスケード設備へ供給する原料六フッ化ウランの流量及び
カスケードから廃品系へ移行する廃品六フッ化ウランの圧力を監視することにより
これらの値から定まる濃縮ウランの濃縮度を監視するとともに,インターロックを
設け,濃縮度が制限値を超えないように管理し,また,六フッ化ウランの濃縮度を
質量分析装置により適宜測定することとしている。
 次に,5パーセントという核的制限値については,複数の遠心分離機から構成さ
れるカスケード設備全体を単一ユニットとして扱い,モデル計算の条件としては,
(a)容器(遠心分離機)を正方格子上に密着して無限に配列し,(b)容器内の
六フッ化ウランの濃縮度を5パーセントとし,(c)六フッ化ウランの圧力を摂氏
56度の下で最も高い1気圧,容器内で減速材として作用するフッ化水素は最適減
速状態(最も臨界になりやすい状態)の濃度とし,(d)容器の内径及び肉厚を5
0ミリメートルと0.3ミリメートル,500ミリメートルと3.03ミリメート
ル,5000ミリメートルと30.3ミリメートルの3とおりの組合せで検討し,
(e)容器外は最適減速状態にあるものとそれぞれ仮定し,臨界計算コードとして
はKENO-Ⅳ/Sを用いて計算したところでは,無限増倍率(中性子が漏洩しな
い系内においてある時間内に発生する全中性子数と同じ時間内における吸収による
全損失中性子数の比で,この値が1未満の場合は理論上は核分裂反応の連鎖が維持
されず臨界とならない。)は0.95以下となった。
c 形状寸法管理は,カスケード設備での濃縮度管理を前提として,少量の濃縮六
フッ化ウランを捕集するケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)で採用されてお
り,文献上,濃縮度5パーセント,無限長円筒等の条件下で実効増倍率(中性子が
体系から洩れることを考慮した場合の増倍率で,やはり1.0未満のときが未臨界
状態を意味する。)が0.9となる円筒の直径が58.8センチメートルとされて
いることから,設計上の余裕を考慮して核的制限値は57.55センチメートルと
されている。
d 減速度管理は,ウランの質量,容積及び寸法形状のいずれも制限が困難であ
る,コールドトラップ,製品シリンダ,中間製品容器及び減圧槽において採用され
ている。
 本件施設では,水素原子が中性子の減速効果を有する主要な物質であることか
ら,空間の中に存在する水素原子の数とウラン235原子の数との比(H/U―2
35)を中性子の減速度の指標として用いることとし,その数値が10のときは濃
縮度5パーセントの六フッ化ウランは質量にかかわらず未臨界である,すなわち濃
縮度5パーセントの六フッ化ウランの臨界安全値が10であるという文献による知
見に基づき,核的制限値を1.7と定めることとしている。そして,核的制限値を
1.7以下とする具体的方策としては,本件施設における工程内の水素原子として
想定されるのが処理される六フッ化ウラン中のフッ化水素を主体とする不純物であ
ることから,六フッ化ウランの純度を高めるために,発生槽で原料シリンダを加熱
して六フッ化ウランを気化させるに当たり温度と圧力を測定して純度を調べ,必要
に応じ不純物を脱気する方法によることとしている。
 このほか,コールドトラップについては,水分を最大限に含む空気が流入した場
合を想定し,温度摂氏40度,相対湿度100パーセント,1気圧の空気と最小臨
界安全質量のウランという中性子の減速度が最大となる条件を仮定して減速度を計
算したところでも,減速度は5.1となり,臨界安全値を下回る結果となってい
る。
(ウ) 本件安全審査では,複数ユニットの臨界安全に関し,次の事項が確認され
た。
a 本件施設では,複数ユニットの臨界安全については単一ユニット相互間の距離
間隔をとる方法によることとしており,発生回収室については製品コールドトラッ
プ,中間製品容器及びケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)並びにこれらの機器
群の相互配列を,均質室については均質パージ系コールドトラップ,減圧槽,中間
製品容器及びケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)並びにこれらの機器群の相互
配列を,ウラン貯蔵庫については製品シリンダを,ウラン濃縮建屋では使用済のフ
ッ化ナトリウム及び排出スラジ(汚泥)を,それぞれ対象としている。
b 上記の各対象について,それぞれ前提条件を定め,臨界計算コードとしてKE
NO―Ⅳ/SないしはKENO―Ⅴ.aを用いて臨界計算を行った結果,実効増倍
率はいずれも0.95以下となった。
c 上記の前提条件から,本件施設では,コールドトラップ,シリンダ類,中間製
品容器及び減圧槽はそれぞれ他のユニットと相互の間隔が30センチメートル以
上,ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)及びフッ化ナトリウム処理槽はそれぞ
れ他のユニットとの相互間隔が1メートル以上となる配置をすることとしている。
(エ) 本件安全審査では,単一ユニットの臨界安全に関し,確認された事項を踏
まえ,臨界管理の対象となる単一ユニットの選別は適切で,定められた核的制限値
がいずれも妥当なものであると判断するとともに,臨界計算に用いられたコードは
信頼性が高く,その前提となる計算条件は十分に安全裕度を含んでおり,計算結果
も臨界安全値を下回ることを確認した。
 また,本件安全審査では,複数ユニットの臨界安全に関して,本件施設につき行
われた前記臨界計算が,安全裕度の十分ある計算条件の下,信頼性の高いコードで
行われており,その結果,複数ユニットを計算条件上の距離以上に相互に離してお
けば臨界安全管理は達成できると判断した。
 さらに,本件安全審査では,このほかに,ユニットの移動時及び異種ユニット群
の相互干渉についても検討を加え,いずれも中性子実効増倍率が0.95となって
いることを確認した。
(5) 六フッ化ウランの閉込めの機能に関する安全設計(甲97,乙9,75,
証人A)
ア 本件安全審査では,次の事項を確認した。
(ア) 本件施設では,六フッ化ウランを貯蔵するシリンダ類については,ANS
Iの規格又は米国DOEのシリンダ基準を準用して製作し,あるいは高圧ガス取締
法(平成3年法律第107号による改正前のもの)及び特定設備検査規則(平成2
年通商産業省令第12号による改正前のもの)にのっとって設計製作し,検査をす
ることになっている。また,これらのシリンダ類については,落下試験によって一
定の安全性が確認されており,シリンダ類の運搬中にはこの安全性が確認された高
さより高くは吊り上げられないこととされているほか,シリンダ類やケミカルトラ
ップ(フッ化ナトリウム)等の運搬前には漏洩検査により漏洩がないことを確認す
ることとされている。
(イ) 本件施設では,加工事業規則に基づき設定すべき管理区域を,六フッ化ウ
ランを取り扱わず放射能汚染の発生するおそれのない第2種管理区域とそれ以外の
第1種管理区域とに区分し,発生回収室,均質室,管理排水処理室,分析室,除染
室等を第1種管理区域に,カスケード室及びウラン貯蔵建屋を第2種管理区域に,
それぞれ区分することとしている。
 このうち,第1種管理区域については,排気設備により気圧を第2種管理区域及
び非管理区域並びに大気圧より負圧に維持するとともに,内部の空気が排気設備を
通らずに外部へ漏洩することを防ぐ設計とすることとしている。この排気設備は,
概ね各室ごとの排気系統に分かれており,起動時には排風機が送風機より先に起動
し,停止時には送風機が排風機より先に停止する設計とされるとともに,いずれの
排気系統も1台の予備の排風機を備え,1台の排風機が運転中に故障した場合には
自動的に予備機が起動して排気機能を維持する仕組みになっている。各排気系統
は,排風機の直前にプレフィルタ及び高性能エアフィルタを備えており,第1種管
理区域からの排気中に放射性物質が含まれている場合でも,これを99.9パーセ
ントの割合で捕集してから外部へ排気する仕組みとなっている。
 さらに,排気設備の末端の排気塔の直前には,排気中の放射性物質の濃度を監視
するための排気用モニタが設置されている。
(ウ) 本件施設で六フッ化ウランを取り扱う機器についての六フッ化ウランの閉
込め機能は,次のとおりである。
 すなわち,まず,発生回収室,中間室及び均質室に配置される,六フッ化ウラン
の発生,供給,捕集及び回収の各工程を行う六フッ化ウラン処理設備については,
各工程に用いる機器及び配管を溶接等により漏洩のない構造として気密性を確保す
るとともに,内部の気体六フッ化ウランを大気圧以下で取り扱うこととしている。
次に,カスケード室に配置されるカスケード設備を構成する遠心分離機について
は,高速で回転する内部の回転体が破損しても外筒(ケーシング)の真空気密性能
が十分保たれるように,破損試験で確認された強度設計を行うとともに,回転体の
回転速度が破損試験で安全性が確認された範囲を超えないように回転体を駆動する
高周波電源の周波数を制限することとされている。
 また,均質室に配置される均質処理及び濃縮度調整工程を行う均質・ブレンディ
ング設備については,この工程が本件施設で唯一六フッ化ウランを高温高圧の条件
(最高使用温度は摂氏94度,その場合の気体六フッ化ウランの圧力は約2.6気
圧)で取り扱う機器であることから,この工程で六フッ化ウランを収容する中間製
品容器及びサンプルシリンダは常に均質槽の中で操作を行うこととした上,この均
質槽に閉込め機能を持たせ,容器等から六フッ化ウランが漏洩した場合に備えるこ
ととしている。さらに,均質槽から外部につながっている配管やバルブについて
も,これらを覆う配管カバーを設け,配管等から六フッ化ウランが漏洩した場合に
も配管カバー内に漏洩を限定することとするとともに,配管カバーに取り付けられ
た排気設備により配管カバー内は外部の大気圧に対して常に負圧になることとされ
ている。そして,仮に配管や均質槽内部で六フッ化ウランが漏洩した場合には,洩
れ出した六フッ化ウランが空気中の水分と反応して生じるフッ化水素を上記排気設
備の途中に設置された工程用モニタが検知し,信号により均質槽と外部の配管との
間に設置されている均質槽元弁(緊急遮断弁)が自動的に閉じて漏洩を止めるとと
もに,排気設備に設置されたダンパも自動的に作動して漏洩した六フッ化ウランを
含む配管カバー内の気体が局所排気装置を経由するように切り替え,プレフィルタ
及び高性能エアフィルタを一段多く通すとともに,ケミカルトラップ(アルミナ)
によってフッ化水素を除去する仕組みとなっている。これらの緊急遮断弁,工程用
モニタ,ダンパ及び排風機はいずれも複数取り付けられ,多重化が図られている。
(エ) 本件施設の各工程を構成する機器,すなわちカスケード設備,六フッ化ウ
ラン処理設備及び均質・ブレンディング設備から排出される排気については,微量
に六フッ化ウランを含むものであることから,発生槽からの排気を処理する一般パ
ージ系,カスケードからの排気を処理するカスケード排気系,均質ブレンディング
設備からの排気を処理する均質パージ系及び製品六フッ化ウラン回収設備からの排
気を処理する捕集排気系の四つの系統ごとに六フッ化ウランを除去する仕組みが設
けられており,これはケミカルトラップ(フッ化ナトリウム),ケミカルトラップ
(アルミナ),空気作動弁及びロータリポンプで構成されているほか,一般パージ
系及び均質パージ系では,さらにこれに先立ちコールドトラップが設置されてい
る。六フッ化ウランの除去に関しては,コールドトラップが99.9パーセント,
続くケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)が99.99パーセントの捕集効率を
それぞれ有している。そして,上記の排気処理設備で処理された気体は,第1種管
理区域内の負圧を維持するための前記の排気設備を経由し,プレフィルタ及び高性
能エアフィルタを通して外部に排気されることになっている。
イ 本件安全審査では,上記の確認事項により,本件施設では六フッ化ウラン閉込
めのための適切な対策が採られており,閉込め機能が十分確保できるものと判断し
た。
(6) 外部電源喪失に対する考慮(乙9,75,証人A)
ア 本件安全審査では,次の事項が確認された。
(ア) 本件施設では,十分な容量のディーゼル発電機2台,直流電源設備及び無
停電電源装置が設置されることとなっており,外部電源が失われた場合には,第1
種管理区域の排気設備,放射線監視設備,自働火災報知設備,非常用通報設備等に
電力が供給され,第1種管理区域の負圧が維持されるとともに,各種の監視警報機
能が維持される仕組みとなっている。
(イ) 本件施設の各工程を構成する各設備の内部からの排気を処理する四つの排
気系では,外部電源が失われた場合,空気作動弁が自動的に閉まる構造となってお
り,工程内の気体が外部へ流出しない仕組みとなっている。このとき,工程内で
は,コールドトラップ,製品回収槽,廃品回収槽等の冷却機能は喪失されるが,室
温が摂氏40度の場合でも六フッ化ウランの飽和蒸気圧が約300トール,すなわ
ち約0.4気圧程度であることから,工程内の圧力が大気圧を超えることはない。
イ 本件安全審査では,上記の事項を踏まえ,本件施設において,外部電源が喪失
した場合にも本件施設の安全機能が十分維持できるような適切な対策が講じられて
いると判断した。
(7) その他の災害防止対策(乙9,75,証人A,弁論の全趣旨)
 本件安全審査では,次の事項を確認し,上記1ないし6以外の観点からも本件施
設が六フッ化ウランによる災害防止上支障がないことを確認した。
ア 本件施設において六フッ化ウランを取り扱う原料シリンダ,製品シリンダ及び
中間製品容器については,一定の温度及び圧力に耐えるよう設計がされており,原
料シリンダを加熱する発生工程においては,インターロックを設けて設計温度であ
る121度を超えないこととされる。また,コールドトラップの加熱においても,
内部圧力の異常に対してはインターロックが設けられる。
イ 本件施設では,六フッ化ウランをシリンダ類に充填する際に過充填を防止する
対策として,重量測定により一定量以上の六フッ化ウランは充填できないようなイ
ンターロックが設けられることとなっている。
ウ 本件施設では,カスケード設備の増設時に対する考慮として,既存の運転区域
に支障を及ぼさないよう,工事管理を行うとともに運転区域と増設区域との間に間
仕切り壁を設けることとしている。また,六フッ化ウランを取り扱う配管等のつな
ぎ込みは,特定のつなぎ込みエリアに集中して管理し,施設の安全性が損なわれな
いようにしている。このほかにも,建物の主要構造部について増設部分の荷重等を
考慮した設計を施し,計測制御設備は増設を考慮した回路構成とするなどの配慮が
されている。
エ 本件施設では,緊急時に必要箇所との連絡を円滑に行うため,非常用通報設備
等を設けることとなっている。
オ 本件施設における安全上重要な設備である第1種管理区域の排気設備や放射線
監視設備等については,安全機能を確認するための検査及び試験並びに安全機能を
維持するための保守及び修理ができる構造とすることとなっている。
カ 本件施設においては,安全上重要な施設で他の原子力施設と共用するものはな
い。
キ 本件施設における安全上重要な施設の設計,工事及び検査については,規制
法,加工事業規則,加工施設技術基準,加工施設,再処理施設及び使用施設等の溶
接の技術基準に関する総理府令,許容被曝線量等を定める件等の法令に基づくとと
もに,必要に応じ,建築基準法,労働安全衛生法,消防法,公害防止関係法令,高
圧ガス取締法,電気事業法,工場立地法,日本工業規格,日本電機工業会規格,電
気設備に関する技術基準を定める省令,鋼構造設計規準,鉄筋コンクリート構造計
算規準及び同解説,鉄骨鉄筋コンクリート構造計算規準及び同解説,建築基礎構造
設計規準及び同解説,建築工事標準仕様書,建築設備耐震設計・施工指針に準拠す
ることとしている。
4 被告の主張に対する判断
 上記2及び3で認定した事実によれば,加工施設自体の安全性確保対策に関する
本件安全審査において用いられた具体的審査基準である加工施設指針は,想定され
る各種の事故防止対策,事故によっても六フッ化ウランが大量に漏出等することの
ないようなウランの閉込め機能の確保対策及び臨界管理を含む内容となっており,
その内容に不合理な点は見当たらない。また,この点に関する本件安全審査の調査
審議及び判断の過程も,上記にみたとおり,地震に対する考慮,地震以外の自然現
象に対する考慮,火災・爆発等に対する考慮,臨界に関する安全設計,六フッ化ウ
ランの閉込めの機能に関する安全設計,外部電源喪失に対する考慮,その他の災害
防止対策という視点からそれぞれ本件施設について検討が加えられ,加工施設指針
に適合していると判断したものと認められ,この調査審議及び判断の過程それ自体
に,看過し難い過誤,欠落があるとは認められない。
 なお,加工施設指針20は,準拠すべき規格及び基準の一つとして許容被曝線量
等を定める件を挙げ,また,本件施設は,安全上重要な施設の設計,工事及び検査
について基づくべき法令のうち,一般公衆の被曝等に関する規制値としては,周辺
監視区域外の許容被曝線量を1年間につき0.5レムと定める許容被曝線量等を定
める件によることとし,本件安全審査でもこのことを確認しているものであるとこ
ろ,本件許可処分当時,許容被曝線量等を定める件を平成元年3月31日限り廃止
し,代わって同年4月1日から適用される周辺監視区域外の線量当量限度を実効線
量当量について1年間につき1ミリシーベルトと定める内容の線量当量限度等を定
める件の科学技術庁告示が昭和63年7月26日に出されていたことから,本件許
可処分時においても,許容被曝線量等を定める件は基準としての合理性を失ってい
たとみるべき余地がないわけではない。しかしながら,本件安全審査では,先にみ
たとおり(第1の2の(1)のウ),公衆の被曝量が具体的に問題となる場面にお
いては,許容被曝線量等を定める件のみならず線量当量限度等を定める件が規定す
る周辺監視区域外の線量当量限度をも下回り,さらに,一般公衆の線量当量が実現
可能な限り低減するような対策が採られているかという視点から審査を行ってお
り,実際にも,本件施設について公衆の被曝が量的に問題となる場面では,いずれ
も線量当量限度等を定める件の規制値である1年間につき1ミリシーベルトを適用
した場合でも結論は異ならないから,準拠法令に関する本件施設の基本的設計方針
を看過し難いほどの過誤,欠落と評することはできないというべきである。また,
上記に指摘した加工施設指針20の基準としての合理性の欠如といった点について
も,上記のとおり本件安全審査が線量当量限度等を定める件の規制値をも念頭に置
いて審査を行っている以上,本件安全審査の判断に依拠してされた内閣総理大臣の
判断を不合理とするまでのものではないというべきである。
5 原告らの主張に対する判断
(1) 地震に対する考慮
ア 原告らは,本件許可申請書が,設備・機器と建物・構築物のそれぞれについて
耐震設計上の区分を行っている以外は設計地震力に十分耐えられる設計であること
を示す具体的内容を示しておらず,単に加工施設指針13に沿って耐震設計を行う
旨約束する内容のものにすぎないと主張する。
 しかし,上記のような具体的な耐震設計は加工事業許可手続における安全審査の
対象とならないというべきであるから,原告らの主張は理由がない。なお,耐震設
計に関する本件許可申請書の記載の一部が加工施設指針13とほぼ同内容であるこ
とは原告らの指摘するとおりであるものの,ウラン加工施設の安全審査を客観的か
つ合理的に行うために安全審査上重要と考えられる基本事項を取りまとめるという
加工施設指針の趣旨目的(乙15)が加工施設の基本設計の機能と類似しているこ
と,耐震設計に関する加工施設指針13の規定内容が既に相当程度に具体的である
こと,耐震設計上の具体的な安全性は具体的かつ詳細な設計を行わない限り示すこ
とが困難であること及び加工施設指針が規制法16条の2の設計及び工事の方法の
認可手続における具体的審査基準ではないこと等を考えれば,基本設計と加工施設
指針の内容が一部共通していることにも相当な理由があるということができ,この
ことをもって,本件許可申請書の内容やこれに沿って審査を行った本件安全審査の
内容が不当であるということはできない。
イ 原告らは,一次地震力及び二次地震力を算出する過程で用いられる割増係数に
ついて,本件許可申請書が加工施設指針13が示した割増係数の下限値を採用する
に当たってその根拠となる資料や判断過程を示していない旨主張する。
 しかしながら,本件許可申請書上用いることとされた割増係数は安全審査上の具
体的基準である加工施設指針13の定める値の範囲である上,証人Cの証言によれ
ば,本件安全審査では,本件施設の支持地盤が鷹架層であること及び本件施設の建
物が2階建て程度のものであることを考慮して,加工施設指針13における割増係
数の最低値を用いて設計を行っても十分な安全性が確保できると判断していること
が認められるから,本件許可申請書が割増係数を定めるにつき根拠資料や判断過程
を示していないからといって,本件安全審査の調査審議及び判断の過程に過誤,欠
落があるとはいえない。
ウ 原告らは,本件安全審査において建物内部の機器・設備に対する地震の影響が
考慮されていない旨主張するが,本件安全審査において,本件施設の設備・機器に
ついても耐震設計上の重要分類がされた上で,静的設計方法によること及び剛構造
とすることを基本とするなどし,さらに一次設計及び二次設計を施すこととされて
いることが確認されたのは前記のとおりであるから,上記主張は失当である。ま
た,原告らは,ウラン貯蔵庫内の各種シリンダが密集して配置されているために地
震の震動で接触するなどして破損する危険があると主張するが,前記認定によれ
ば,ウラン貯蔵設備に属するシリンダ置台については施設及び設備の耐震設計の分
類上最重要である第1類に分類され,この分類に応じて上記のように耐震設計が施
されることになっており,本件安全審査ではこの点が確認されているのであって,
上記主張は,この耐震設計にもかかわらず何故にウラン貯蔵庫内のシリンダが破損
するのか具体的に主張することなく,単に抽象的な危険性をいうにすぎないもので
あるから,それ自体失当である。
エ 原告らは,本件施設の耐震設計において,原子炉施設や再処理施設において要
求されているような設計用最強地震及び設計用限界地震という2種類の地震を想定
した厳重な耐震設計が採用されていない旨主張する。しかし,そのような設計手法
を本件施設を含む加工施設において採用すべき必要性については何らの主張もされ
ていないが,本件施設を含むウラン加工施設は,その内蔵するエネルギーが小さ
く,また,臨界状態での核分裂反応を制御する必要性もないことから,原子炉施設
ないし再処理施設と同等の耐震設計をウラン加工施設に求める必要はないと考えら
れたのであって,加工施設指針13は,上記に述べた施設の特質を踏まえ,ウラン
加工施設の安全確保のために必要とする耐震設計について規定しているというべき
であり,本件施設においても,加工施設指針所定の耐震設計を採用することにより
十分にその安全確保の目的を達することができるといえるから,原告らの主張は理
由がない。
オ 原告らは,平成6年12月28日発生の三陸はるか沖地震及び平成7年1月1
7日発生の兵庫県南部地震において建築基準法に適合していた建造物が倒壊したこ
とを根拠に,建築基準法等における耐震設計基準が相当ではないかのごとく主張
し,原告乙野次郎本人の供述中にはこれに沿う部分がある。しかし,証拠(乙8
8,89の1,2)によれば,兵庫県南部地震においては昭和56年の改正以前の
建築物に被害が大きく,特に鉄筋コンクリート造りの建物では昭和46年以前の建
築物で倒壊等の甚大な被害が大きいのに対し,現行の耐震基準に基づいて建築され
たものは,バランスの悪い建築物や設計施工の不備によるもの等を除くと,大破又
は倒壊といった大きな被害を受けていないこと,兵庫県南部地震後に建設省が設置
した調査委員会が兵庫県南部地震を踏まえて検討したところでも,建築基準法施行
令88条に基づく当時の建築物の耐震設計用の設計地震力(その算定方法は,本件
許可処分当時と同じで,現行の規定もほぼ同内容である。)は妥当であるとされた
こと,兵庫県南部地震後に原子力安全委員会の設置した検討会が調査検討したとこ
ろでも,加工施設指針は兵庫県南部地震を踏まえてもその妥当性が損なわれるもの
ではないと確認されていることが認められ,これらの事実によれば,前記原告乙野
次郎本人の供述によっても,建築基準法施行令所定の耐震設計用の地震力が妥当性
を欠いているとまでは認めることはできない。したがって,上記主張は理由がな
い。
カ 原告らは,本件施設が地震時にロッキング現象を起こす可能性が高い旨主張す
るが,この可能性についての具体的な主張立証はないから,この点につき本件安全
審査の調査審議及び判断の過程に過誤,欠落があるとはいえない。
キ 原告らは,近時の耐震設計では,単純に地震の最大加速度を固定化し,その大
小を基礎として建物への影響を考える(静的設計)のではなく,建物や設備の固有
周期に近い領域の加速度による影響(共振)が大きいことから,建物や設備の固有
周期を踏まえ地震力を時刻歴に対応させて建物などの安全性を評価する(動的設
計)必要があるとされているのに,本件安全審査においては,想定した地震力に対
して本件施設の建物や設備の固有周期に応じた時刻歴の評価,解析を行っていない
と主張する。
 しかし,本件施設の建物・構築物については,静的設計法により耐震設計を行っ
ていることは前記認定のとおりであるが,原告らの主張する動的設計の発想も,結
局は前記エで主張する本件施設の耐震設計において原子炉施設や再処理施設におい
て要求されているような設計用最強地震及び設計用限界地震という2種類の地震を
想定した厳重な耐震設計が採用されていないこと,すなわち加工施設指針13が他
の原子炉施設や再処理施設に比べ施設の安全設計思想が極めて低いものであるとい
うことに集約されるのであって,前記エで説示したとおりの理由により,そのよう
な動的設計の考えに基づいた評価,解析を行っていないからといって,そのことを
もって加工施設指針の耐震設計が不十分であるとはいえない。したがって,本件安
全審査において,原告らが主張するような動的設計に基づく評価・解析を行ってい
ないとしても本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。
ク また,原告らは,本件施設の耐震設計が静的設計によっていることを認めると
しても,本件施設の耐震設計に対する安全審査においては,発回均質棟,ウラン貯
蔵庫,カスケード棟,第1類に分類される設備や機器(例えばシリンダ置台,遠心
分離機)など本件施設の主要な建物や設備の固有周期,建物の振動特性について,
具体的な審査を行っておらず,本件安全審査には,静的設計の内容の審査,検討が
行われなかった不備があると主張する。
 しかしながら,本件安全審査において本件施設の主要な建物や設備の固有周期等
について審査,検討がされなかったとしても,そのことにより本件施設の建物や設
備の耐震設計にいかなる影響を及ぼすのかについての主張は何らされていないので
あるから,上記主張は具体性を欠くものといわざるを得ない。
ケ 原告らは,本件施設の建物相互はエキスパンションジョイントで接続されてい
るものがあるが,エキスパンションジョイントは固有周期を異にする建物の接続方
法であり,これを誤れば地震時に建物の破損をもたらす危険があるのに,その妥当
性を審査しなかったのは,本件安全審査の重大な誤りであると主張する。
 前記認定のとおり,確かに本件施設では隣接する各建物間はエキスパンションジ
ョイントを介して接続して耐震設計上独立した構造とすることとされているけれど
も,エキスパンションジョイントによる施工の適否については規制法16条の2の
設計及び工事の方法の認可手続において具体的に審査検討される事柄であって,そ
もそも加工事業許可手続における安全審査の対象とはならないから,その内容の適
否を審査しなかったとしても,本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難
い過誤,欠落があるとはいえない。
(2) 火災・爆発等に対する考慮
ア 原告らは,本件許可申請書ではいかなる不燃性材料や難燃性材料の種類,消火
設備や防火区画の種類や個数,配置等を全く記載しておらず,この点に関する本件
安全審査が不十分である旨主張する。しかし,前記(第2章第2)のとおり,加工
施設の基本設計は,加工施設の建物及び施設の具体的な設計を内容とする必要はな
く,規制法16条の2の設計及び工事の方法の認可手続における具体的な設計及び
工事の方法の安全性の側面における適否を審査するための規範ないしは枠組みとし
て機能するに足りる内容であれば足り,この観点からみると,前記認定の本件安全
審査の内容が,設計及び工事の方法の認可手続で審査される具体的設計の安全性を
判断するために必要な内容を欠いているとまではいえず,この点において本件安全
審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。
イ 原告らは,本件安全審査が施設内の爆発防止対策や施設外の爆発等の拡大防止
対策を不要とし,何らの考慮も払っていないと主張する。しかし,本件安全審査で
は,前記認定のとおり,本件施設の設備・機器が水素ガスなどの爆発性の物質を使
用しないことが確認されているほか,条件次第では爆発性を有するアセトンについ
ても取扱量の制限及び倉庫内の危険物貯蔵エリア等における保管が行われることが
確認されており,爆発防止対策に対する検討が行われているし,施設外の爆発の影
響については,前記のとおり基本的立地条件に関する審査において本件施設の安全
性を損なうような社会的条件のないことが確認されている。そして,上記のような
爆発防止対策を前提とすれば,外部の爆発の拡大防止対策について考慮を払ってい
ないとしても,これを調査審議及び判断の過程における看過し難い過誤,欠落と評
することはできない。また,原告らは,この点に関し,アセトンの使用場所の問題
点や発火源となる火花が発生する危険性を指摘するが,本件安全審査においては,
主工程ではアセトンを含め爆発物を使用せず,アセトンは取扱量と保管場所が制限
されることを確認しており,上記の指摘をもって調査審議及び判断の過程における
看過し難い過誤,欠落があるとまではいえない。
ウ 原告らは,本件施設のうち六フッ化ウランを取り扱う設備・機器周辺で火災が
発生した場合には,臨界やフッ化水素の発生を避けるため特別な消火方法が必要と
なるにもかかわらず,本件安全審査では考慮されていない旨主張する。しかし,本
件安全審査において,消防法及び建築基準法に基づき自働火災報知設備,消火栓,
消火器等を設置することが確認されたことは前記認定のとおりである上,具体的な
消火設備の設置状況については,設備及び工事の方法の認可手続において必要に応
じた消火設備を施設していることが認められた場合に初めて認可がされること(規
制法16条の2第3項,加工施設技術基準4条1項)からすれば,これを基本設計
の内容として安全審査の対象としなかったとしても,これをもって看過し難いほど
の過誤,欠落ということはできない。
エ 原告らは,航空機墜落時の消火対策について審査が行われていない旨主張す
る。しかし,甲第103号証によれば,前記認定の航空機墜落時の事故評価におい
ては,墜落した航空機の燃料油による火災について,消火活動を考慮せずに燃焼が
継続した場合について検討を行い,その結果でも一般公衆への被曝による影響は小
さいと判断されていることが認められるから,航空機墜落事故時の消火対策につい
て審査が行われていないとしても,このことが本件安全審査の調査審議及び判断の
過程における看過し難い過誤,欠落に当たるとはいえない。
(3) 臨界に関する安全設計
ア 原告らは,事故は複数の故障(トラブル)が重なって発生するものであるにも
かかわらず,加工施設指針10が核的制限値の維持管理において単一の故障のみを
想定すれば足りるとしている点を不当であると主張する。
 しかしながら,前記認定によれば,加工施設指針10は技術的に想定されるいか
なる場合でも核的制限が維持されることを定めており,単一の異常を想定している
のは,これがそもそも起こるとは考えられない独立した異常であることを理由とし
ているものであるから,これが同時に,かつ独立に発生するという事態を想定して
いないからといって,加工施設指針10が不当であるとまではいえない。したがっ
て,上記主張は理由がない。
イ 原告らは,本件安全審査が臨界事故を想定した災害評価を行っていない点が看
過し難い過誤,欠落に当たると主張する。しかし,ウラン加工施設が核分裂反応を
発生利用することを予定しておらず,その意味において潜在的危険の程度が相対的
に小さい施設であることからすれば,加工施設指針12が加工施設指針10及び1
1を満足して臨界安全が図られている限り当該ウラン加工施設においては臨界事故
に対する考慮を要しないとしていることにも一定の合理性があるということがで
き,加工施設指針12それ自体が不合理であるとまでは認められない。したがっ
て,本件安全審査において,本件施設が加工施設指針10及び11に適合し,臨界
安全が図られていることを確認している以上,臨界事故に対する考慮をしていない
からといって,その調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはい
えない。
ウ 原告らは,本件許可申請書や安全審査書では臨界計算で必要な施設機器の正確
な配置,形状等のデータが示されておらず,本件許可申請は結論を示したにすぎず
根拠を欠くものであり,この申請に基づいてされた本件許可処分は違法であると主
張するが,本件安全審査においては,前記認定のとおり必要な諸条件を十分な安全
裕度を見込んで設定した上で臨界計算が行われていることが確認されているから,
原告らの主張は失当である。
エ 原告らは,本件施設において,中間製品容器を水洗いする際に誤って六フッ化
ウランが充填されているものに水が注ぎ込まれた場合に臨界事故が発生する危険が
あると主張する。
 証人Fの証言によれば,原告らが指摘する六フッ化ウランが充填されている中間
製品容器に水を注ぎ込まれた場合には,臨界事故が発生しあるいは発生する危険性
があることが認められる。しかして,加工施設指針は,技術的に想定されるあらゆ
る場合における臨界防止対策を要請しているものの,六フッ化ウランが充填されて
いる中間製品容器に水を注ぎ込むという事態は,原告らが主張するように中間製品
容器を水で洗う際に,六フッ化ウランが充填されていないことの確認を誤り,ある
いは確認を怠るなどの場合に想定し得るが,実際,科学技術庁が平成11年10月
7日に本件施設に対して行った緊急総点検においても,本件施設の工程内で唯一水
を使用する中間製品容器の洗缶は,缶内のウラン量を重量測定により空であること
を確認してから実施しており,洗缶前の十分なパージ(排気)と2回の重量測定に
より容器内にウランが多量に残ったまま洗缶することはないと確認されている(甲
464)。
 そうすると,証人Fが証言するように,フール・プルーフの考え方(設備機器や
装置の誤操作をしたときに,それ以上機器等の機能を進行させないシステムとする
考え方)を取り入れるなどして,原告が主張するような事象が発生しないよう臨界
防止のための安全設計がされることが望ましいことは確かであるが,そのような考
え方に基づいて設備機器等を作製することには困難な面があることは安全工学を専
門とするF証人自身認めるところである上,そもそも中間製品容器に六フッ化ウラ
ンが充填されていないことの確認手段として2回行うこととされている重量測定を
怠り,あるいはこれを誤って,中間製品容器内に六フッ化ウランが充填されたまま
容器の洗缶を行うなどといった事態は,加工施設指針が臨界防止対策の前提とする
技術的に発生が想定されるような事故であると解することはできない。したがっ
て,本件安全審査で臨界に関する安全設計を検討するに当たり,上記のような事象
を前提とした臨界事故の危険性について審査が行われていないとしても,これをも
って本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはい
えない。
 また,原告らは,爆発事故,地震,航空機の墜落事故による施設破壊があった場
合の臨界事故の可能性が否定できないと主張するが,本件安全審査においては,耐
震設計における安全性が確認され,あるいは爆発事故や航空機墜落事故の発生可能
性が低いことが確認されていることはここまでに説示したとおりであるから,この
主張も理由がない。
オ 原告らは,均質槽において中間製品容器を加熱しあるいは製品シリンダ槽にお
いて製品シリンダを加熱する際に配管との接続が失念された場合は,これらの容器
ないしはシリンダが破裂し,容器内の六フッ化ウランが加熱用の熱水と接触して臨
界事故となる危険があると主張する。
 しかして,中間製品容器や製品シリンダを加熱する際にこれらと配管との接続が
失念されて生じる事態として原告らが主張するのは,これらの容器について,均質
槽等に中間製品容器などを装着する際に配管への接続を忘れて加熱を行うと,加熱
された六フッ化ウランの逃げ場がなく容器内の圧力は上昇し,圧力計部分では圧力
が全く上昇しないのでインターロックは働かず,加熱過剰により均質槽内で中間製
品容器が破裂する危険があり,また,均質槽については,温度により加熱用熱水コ
イルの熱水流量を調整する仕組みがあることがうかがわれるが,この温度測定器は
多重化されておらず,温度測定器自体の故障等があれば加熱過剰を防止することは
できず,したがって,上記のように中間製品容器や製品シリンダが破裂した場合,
熱水コイルが破損する可能性は十分に考えられ,破損した部分から水が大量に噴出
し,容器内の六フッ化ウランに水が接触して臨界事故に至ることである。
 しかしながら,ここでも,フール・プルーフの考え方を取り入れるなどして上記
のような事象が発生しないよう臨界防止のための安全設計がされることが望ましい
ことは確かであるが,そのような考え方に基づいて設備機器等を作製することには
困難な面があることは前記のとおりである上,そもそも,均質槽等に中間製品容器
などを装着する際に配管への接続を忘れて加熱を行った結果,容器やシリンダが破
裂し,その結果更に熱水コイルが破損し,破損した部分から水が大量に噴出し,容
器内の六フッ化ウランに水が接触して臨界事故に至るといった多重連鎖の事象は,
加工施設指針が臨界防止対策の前提とする技術的に発生が想定されるような事故で
あると解することはできない。
 したがって,本件安全審査で臨界に関する安全設計を検討するに当たり,上記の
ような事象を前提とした臨界事故の危険性について審査が行われていないとして
も,これをもって本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落
があるとはいえない。
カ 原告らは,本件安全審査においては,「万一,水分を含んだ空気がコールドト
ラップに流入した場合でも,内部の圧力上昇を検出し,コールドトラップの出入口
弁を閉止するので,さらに水分の流入が続くことはない。」とされているが,出入
口弁の閉止は「自動的に」と記載されていない以上手動であるから,その閉止が遅
れれば容器の容積より大量の湿った空気が流入し得ると主張する。
 しかし,本件許可申請書添付書類5の「内部の圧力上昇を検出し,コールドトラ
ップの出入口弁を閉止する」との記載部分(5―5)は,それが設備の臨界安全性
について言及されたものであることに照らせば,圧力上昇の検出から弁の閉止に至
るすべての過程が人による操作の関与を予定しておらず,自動であることを意味し
ているものといえるから,原告らの主張は理由がない。
キ 原告らは,本件施設のようなウラン濃縮工場は,その工程内でウランの濃縮度
自体を変化させるものであるにもかかわらず,本件施設の濃縮度管理の信頼性がか
なり低く本件安全審査でも保証されていないとして,濃縮度管理の制限値である5
パーセントそのものを他の臨界管理の前提とすることには疑問があり,濃縮度管理
が破られたときに備えて濃縮度管理の制限値を超えたところを前提とする形状寸法
管理が採用されるべきであると主張する。
 しかしながら,加工施設指針10は,単一ユニットの臨界安全に関し,技術的に
みて想定されるいかなる場合でも臨界を防止する対策が講じられていることを求め
ているところ,原告らが本件施設における濃縮度管理の問題点として指摘するとこ
ろがいずれも当を得ないものであることは次に見るとおりであるから,本件施設に
おいて形状寸法管理が採用されているケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)にお
いて,濃縮度が5パーセントを超える六フッ化ウランが流入するという事態が,技
術的にみて想定される場合に該当するとはいえない。したがって,ケミカルトラッ
プ(フッ化ナトリウム)に関する形状寸法管理が,濃縮度が5パーセントを超える
六フッ化ウランを前提としていないからといって,これをもって本件安全審査の調
査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
 また,原告らは,本件施設における濃縮度の測定は,1日1回質量分析装置で行
っているにすぎないのであるから,濃縮度はリアルタイムでは把握されていないと
主張する。
 しかし,本件施設の濃縮度管理は,ウラン濃縮を行うカスケード設備で実施さ
れ,核的制限値は5パーセントと設定されており,その具体的な管理方法として
は,六フッ化ウランの濃縮度がカスケード設備へ供給する原料六フッ化ウランの流
量及びカスケードから廃品系へ移行する廃品六フッ化ウランの圧力を監視すること
によりこれらの値から定まる濃縮ウランの濃縮度を監視するとともに,インターロ
ックを設け,濃縮度が制限値を超えないように管理していることは前記認定のとお
りであり,濃縮度は,その数値を質量分析装置により測定しなくとも,流量及び圧
力を監視することにより常時把握し,管理することができるものであるから,濃縮
度の数値をリアルタイムで把握する必要がある旨の原告らの主張は,その前提にお
いて当を得たものとはいえない。
 さらに,原告らは,濃縮度管理の最後の頼りの過濃縮防止インターロックがハー
ドワイヤーにつながれておらず,伝送ラインがダウンすると機能喪失する設計とな
っている上,本件施設においては,濃縮ウランを充填した容器(中間製品容器,製
品シリンダ)を誤って発生槽に装着した場合には,当然に濃縮度は5パーセントを
超えるが,過濃縮防止インターロックは濃縮度そのものでかかるのではないので,
インターロックによっては過濃縮を防止できず,このように濃縮度が5パーセント
を超えた臨界管理対策がされていないと主張する。
 しかし,原告らのいう伝送ラインがダウンした場合でも,本件施設には,上記伝
送ラインから独立した計測制御設備として,ハードワイヤー(電圧・電流信号を,
特定の装置間で,他の電路とは独立して送信又は受信する電路)で構成される六フ
ッ化ウラン等の圧力及び温度等の制御機能を有する設備及び専用の配線(デジタル
化した信号を特定の装置間で,他の電路とは独立して,送信及び受信する電路)で
構成されるカスケードの流量,圧力の監視・操作機能を有する設備がある(後記
(7)ウのとおり当事者間に争いがない。)から,濃縮度を常に把握し,管理する
ことができる仕組みになっている。そして,この場合にも,コントローラーは制御
を継続するので,カスケードの流量及び圧力は正常に制御され,これにより濃縮度
も正常な値を維持することになる(乙67)から,上記の場合を想定して濃縮度管
理の信頼度が低いとする原告らの主張は理由がない。また,中間製品容器ないしは
製品シリンダを誤って発生槽に装着した場合に濃縮度管理が破られるとの主張につ
いては,発生槽に装着されるべき原料シリンダの仕様や容量が中間製品容器や製品
シリンダのそれとは全く異なっていること(乙75)に照らすと,そもそも原告ら
が主張するような事態が実際に発生する余地があるとは考え難いから(原料シリン
ダと規格が共通するのは廃品シリンダのみである。),そのような事態を想定して
過濃縮防止対策に不備があるということはできない。
ク 原告らは,本件安全審査において,六フッ化ウランを取り扱う容器・機器の火
災の際に水をかけて消火するか否かについて全く検討されておらず,したがって,
火災時の臨界安全性の基本方針,最低限でも六フッ化ウランを取り扱う容器・機器
に火災の際に水をかけずに消火する方策を安全審査において確認すべきであること
は明白であり,これすら行わなかった本件安全審査には看過し難い過誤,欠落があ
ることは明らかであると主張する。
 しかしながら,本件安全審査においては,消防法及び建築基準法に基づき自働火
災報知設備,消火栓,消火器等を設置することが確認されたことは前記認定のとお
りであり,その具体的な設備や消火方法については,設計及び工事の方法の認可手
続において審査検討される事柄であり,これを基本設計の内容として安全審査の対
象としなかったことをもって看過し難い過誤,欠落があるとはいえないことも先に
説示したとおりであるから,原告らの主張は理由がない。
ケ 原告らは,本件施設は,JCOの施設と同様に,臨界に至った場合に未臨界状
態にするための装置はもちろん,臨界に至ったことを検知する装置も臨界警報も全
く設けられていないが,全く同様の申請がなされていたJCOの施設で現実に臨界
事故が発生した事実にかんがみれば,本件施設においても当然に臨界事故を想定
し,臨界に至ったときに事故の拡大を防止するための対策を採るべきであったにも
かかわらず,これを行わなかった本件安全審査には看過し難い過誤,欠落があると
主張する。
 しかしながら,後記認定説示のとおり((8)エ),JCO事故は,その加工施
設において講じられた技術上は適正な臨界管理を殊更無視する態様で作業が行われ
たために発生したものであって,基本的にはウラン加工施設設置許可の段階の安全
審査の対象とはならない加工施設の作業員による意図的な作業工程の不遵守といっ
た事態が原因となったものであり,そのような事態をいかに防止するかは,設備の
操作や従業員の保安教育といういずれも保安規定の内容の問題に帰着するというべ
きであるし,前記イで説示したとおり,ウラン加工施設は核分裂反応を発生利用す
ることを予定しておらず,潜在的危険の程度が相対的に小さい施設であることか
ら,加工施設指針12が加工施設指針10及び11を満足して臨界安全が図られて
いる限り当該ウラン加工施設においては臨界事故に対する考慮を要しないとしてい
ることにも一定の合理性があること等の事情を考慮すると,本件安全審査におい
て,臨界に至った場合に未臨界状態にするための装置や臨界に至ったことを検知す
る装置ないし臨界警報を設けるなど事故の拡大を防止するための対策を講じなかっ
たことに看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。
(4) 六フッ化ウランの閉込めに係る安全設計
ア 原告らは,加工施設指針4は内容が抽象的で指針としての実効性に欠けている
旨主張する。しかし,加工施設指針は,ウラン加工施設の設計内容に関しては,規
制法16条の2の設計及び工事の方法の認可手続において具体的な設計及び工事の
方法の安全性の側面における適否を審査するための規範ないしは枠組みであるウラ
ン加工施設の基本設計について,更にこれが災害防止上支障がないものであるか否
かを判断するために定められた判断基準であるから,その内容が抽象的であるから
といって,直ちにこれを不合理ということはできない。そして,加工施設指針4
は,作業環境の汚染防止に対する考慮と周辺環境の汚染防止に対する考慮とに分け
て,前者について5項目,後者について3項目の基準を挙げており,その内容も相
当程度に具体的であるから,これをウラン加工施設の基本設計が災害防止上支障が
ないかどうかを審査する上で不合理というべきほどに抽象的であるとはいえない。
したがって,上記主張は理由がない。
イ 原告らは,本件安全審査で審査された本件施設における放射線管理の諸対策が
放射線管理に供する機器の機種や技術,目標値などの具体的な資料を明示しないま
ま結論を述べるものにすぎない旨主張する。
 しかしながら,前記認定によれば,六フッ化ウランの閉込め機能に関して本件安
全審査で確認された,管理区域の区分,管理区域の排気系統の設定や仕組み,機器
の六フッ化ウラン閉込め機能確保のための設備,排気からの六フッ化ウラン除去の
仕組み等についての基本設計は,規制法16条の2の設計及び工事の方法の認可手
続における具体的な設計及び工事の方法の安全上の適否を審査するために必要な具
体性を備えたものと認められ,これ以上に,原告らが主張するような具体的内容が
基本設計に含まれていないからといって,このことをもって基本設計に必要な具体
性の程度につき本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落が
あるとはいえない。したがって,原告らの主張は理由がない。
ウ 原告らは,原子力施設においては,施設の建屋・機器からの排気を排風機で引
き,高性能エアフィルタを通して放射性物質の粒子を除去して外部に放出してお
り,本件施設も同様であるところ,高性能エアフィルタの健全性が保たれる限り
は,このやり方により放射性物質の外部への放出を抑制することができるが,本件
施設のように六フッ化ウランを扱う施設の場合,六フッ化ウランの漏洩に必然的に
伴うフッ化水素の発生により高性能エアフィルタのガラスウールを溶かしてしまう
ので,放射性物質の大量漏洩を避けるためには,フッ化水素を高性能エアフィルタ
に到達する前に除去する必要性があるのに,本件施設においては,捕集排気系,カ
スケード排気系,一般パージ系,均質パージ系の四つの排気系に,ロータリーポン
プに至る前にNaFトラップを置き,事故時に備えては,均質槽配管カバー,均質
槽,サンプル小分け装置フードからの排気については事故時に工程用モニタでフッ
化水素を検出した時点で切り替える局所排気装置を設けているものの,この設計
は,容器・シリンダの破裂事故の際に,フッ化水素を除去して高性能エアフィルタ
の健全性を確保するのに十分とは到底いえないと主張する。
 しかし,まず,高性能エアフィルタの健全性を確保するのに十分でないと原告ら
が指摘する根拠のうち事故時の排気をフッ化水素吸着器のある局所排気装置へ送る
のが事故になってからの切替えとするのは手抜きであるとする点については,証拠
(甲442,証人F)によると,JCO東海事業所の転換試験棟では,塔槽類から
の排気は常時フッ化水素除去機能のある湿式スクラバと高性能エアフィルタを通す
仕組みになっていて,六フッ化ウラン漏洩事故が発生してからの切替えによる本件
施設の排気設備と比べ,設計上より安全であると認めることができるけれども,事
故発生の前か後かの相違があるだけであって,それが手抜きであるとまでは評価す
ることができないし,この設備設計がフッ化水素を除去して高性能エアフィルタの
健全性を確保するのに不十分であるともいえない。
 また,その切替弁は「ダンパ」とされており,ダンパとは「漏洩許容型バタフラ
イ弁」のことであるから,均質槽・均質槽配管カバーでの事故の際にも事故発生後
も局所排気装置を経由しないで高性能エアフィルタに到達する排気(フッ化水素)
が相当程度あると考えざるを得ないとする点については,証拠(乙80,証人A)
及び弁論の全趣旨によれば,本件施設の内容,その排気装置の機能及び構造等に照
らし,本件施設の局所排気装置に使用されるダンパは無漏洩型のものであると考え
られ,原告らが指摘するようにダンパが一般に「漏洩許容型バタフライ弁」を指す
ものである(甲99)としても,そのことから直ちに本件施設の局所排気装置に使
用されるダンパが漏洩許容型のものであるとまでは認めることができない。
 次に,局所排気装置につながれているのは均質槽等のみであり,製品シリンダ槽
等は局所排気装置に全くつながれていないなどとする点については,乙第75号証
によると,製品シリンダ槽や中間製品容器置場は,いずれも均質室に設置されるこ
とになっているところ,確かにこれらは局所排気装置につながれていないことが認
められる。そうすると,局所排気装置につながれている均質槽等と比較し,これに
つながれていない製品シリンダ槽等は,原告らが主張するように,その原因はとも
かく製品シリンダや中間製品容器が破裂したような場合にはフッ化水素を除去して
高性能エアフィルタの健全性を確保するのに必ずしも十分であるとはいえない。し
かしながら,他方,前記認定のとおり均質室に配置される均質処理及び濃縮度調整
工程を行う均質・ブレンディング設備は,この工程が本件施設で唯一六フッ化ウラ
ンを高温高圧の条件で取り扱う機器であって,均質槽は均質処理及び濃縮度測定を
終えた中間製品容器を加熱するのに対し,製品シリンダ槽は基本的には均質槽から
製品シリンダに移送された気化状態にある六フッ化ウラン等を冷却する設備である
から(乙75),その六フッ化ウランの処理方法上設備に対する安全設計に差異を
設けることには一定の合理性があることも否定し難いところであり,しかも,構造
上製品シリンダ槽や中間製品容器置場のシリンダないし容器自体が破裂するような
事象の発生確率は,均質槽内の中間製品容器が破裂する事象に比べ,相対的に小さ
いものと考えられるから,製品シリンダ槽や中間製品容器置場が局所排気装置につ
ながっていないとしても,その一事をもって,そのような安全設計が不十分であ
り,その点を審査しなかった本件安全審査に看過し難いほどの過誤,欠落があると
はいえない。
 さらに,均質槽内の容器の破裂時の衝撃圧力や臨界事故による爆発により均質槽
自体が破裂した場合は,発生したフッ化水素と六フッ化ウラン・放射性物質は建屋
の排気系を通じてフッ化水素除去装置を経ることなく,高性能エアフィルタを直撃
するとする点については,まず,その前提として原告らが指摘する均質槽自体が破
裂する原因となる容器の破裂に関しては,原告らの主張を忖度すれば,均質槽に中
間製品容器を装着する際に配管への接続を忘れて加熱を行った結果,容器が破裂す
るという事態を想定することとなるところ,配管への接続を忘れて中間製品容器の
加熱を行い,その結果容器が破裂し,その衝撃圧力で更に均質槽自体が破裂すると
いった事象は加工施設指針が臨界防止対策の前提とする技術的に発生が想定される
ような事故であると解することは困難である。また,臨界事故に伴う爆発で均質槽
が破裂する事象に関しては,その臨界事故に伴う爆発がいかなる事象によって招来
されるものであるかについての具体的な主張はないのであるが,本件安全審査にお
いて,本件施設が加工施設指針10及び11に適合し,臨界安全が図られているこ
とを確認している以上,加工施設指針12により臨界事故に対する考慮を要しない
とされていることに一定の合理性があることは前記説示のとおりであり,少なくと
もこの合理性の判断を左右するに足りるだけの臨界安全が確保されていないことに
より想定される臨界事故の内容等につき具体的に主張しない以上,そのような主張
は単に抽象的に臨界事故に伴う爆発で均質槽が破裂するような事象を想定して排気
設備の安全設計の不備を指摘するにとどまるものであって,臨界事故として考慮を
要しないとされた事象を想定するものにすぎないといわれても致し方ないというべ
きである。したがって,原告らが主張するような臨界事故に伴う爆発で均質槽自体
が破裂するといった事象による高性能エアフィルタの健全性の有無について審査し
ていないとしても本件安全審査の結果を左右するものとはいえない。そして,原告
らが指摘するアメリカ合衆国オクラホマ州のセコイヤ燃料会社ウラン転換工場の事
故も,後記認定のとおり((8)イ),その主たる原因は運転規則に違反したシリ
ンダ加熱が行われたことにあると考えられるから,そのような原因による事故の発
生までも想定して排気設備の安全設計を審査するまでの必要性はないといわざるを
得ない。
 したがって,原告らの主張は理由がない。
エ 原告らは,本件施設においては,電源喪失の場合にロータリーポンプが停止す
るようにインターロックが設けられているが,電源喪失によらずに,例えばコール
ドトラップに至る電源ケーブルの断線等によりコールドトラップのみ機能喪失した
場合には,ロータリーポンプは停止しないので,その機能喪失による事故が想定さ
れる旨主張するが,原告らが主張する電源ケーブルの断線等がいかなる事象により
発生するかについて具体的な主張はないから,そのような抽象的に想定される事象
による事故の発生を想定していないからといって,本件安全審査の調査審議及び判
断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはいえず,上記主張は採用できない。
オ 原告らは,本件安全審査においては,遠心分離機は,その構造について断面図
さえみることなく,本件施設で実際に使用される遠心分離機の破壊実験もなく,た
だ動燃の人形峠の施設で用いられた遠心分離機の仕様での模擬実験のデータが提出
され,これと同様の方法でこれから試験をして設計するというだけで真空気密性能
が維持されると判断されたが,この判断は,本件施設で使用される遠心分離機につ
いてのデータも知らされず,動燃の施設の遠心分離機の仕様を前提にした模擬実験
についてさえデータの一部,それも重要な一部を隠された状態でなされたものであ
って,明らかに不十分なものであると主張する。
 しかしながら,前記認定のとおり,本件施設のカスケード室に配置されるカスケ
ード設備を構成する遠心分離機については,高速で回転する内部の回転体が破損し
ても外筒(ケーシング)の真空気密性能が十分保たれるように,破損試験で確認さ
れた強度設計を行うとともに,回転体の回転速度が破損試験で安全性が確認された
範囲を超えないように回転体を駆動する高周波電源の周波数を制限することが確認
されているのであるから,原告らの主張は理由がない。
(5) 外部電源喪失に対する考慮
ア 原告らは,本件安全審査で設置が確認された外部電源系の機能喪失対策のため
の機器について,その仕様や性能等が明らかではなく,外部電源喪失時に機器・設
備の安全性が保たれるか否かの判断が不可能である旨主張する。
 しかし,本件安全審査で確認された前記認定の事項は,設備及び工事の方法の認
可手続において具体的な設計及び工事の方法の安全上の適否を審査する基本設計と
して十分な具体性を備えているものと認められ,それ以上に,それ自体から外部電
源喪失時の機器設備の安全性が確保されるか否かが確認できるほどに具体的な仕様
や性能を内容的に含んでいないからといって,上記確認事項を本件施設の基本設計
として相当と認めることについて,本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過
し難い過誤,欠落があるとはいえない。したがって,原告らの主張は理由がない。
イ 原告らは,外部電源喪失時に様々な機序によってコールドトラップやケミカル
トラップあるいはこれらに連なる配管における工程内部の圧力が上昇し,配管や弁
等の健全性が損なわれる危険がある旨主張するが,工程内の気密性及び六フッ化ウ
ランガスの純度が維持されている限り,常温下ではいかなる場合でも工程内部の圧
力が六フッ化ウランの飽和蒸気圧を超えることはないところ,前記認定のとおり,
六フッ化ウランの飽和蒸気圧は摂氏40度の下でも約0.4気圧程度であり,ま
た,外部電源喪失時には工程内の六フッ化ウランの温度は常温程度になるものと考
えられるから(弁論の全趣旨),原告らの主張する配管等の健全性を損なうような
圧力上昇という事象はそもそも起こり得ないものというほかない。したがって,原
告らの主張は理由がない。
ウ 原告らは,大気圧下では六フッ化ウランが摂氏56.5度以下で固化凝固する
ことから,外部電源喪失時には,本件施設の工程内の加熱機能ないしは減圧機能が
維持できず,工程内で六フッ化ウランが随所で固化し,配管等の目詰まりによって
配管内部の圧力が上昇して配管の破断が生じる旨主張する。
 しかし,仮に外部電源の喪失により本件施設の工程内で六フッ化ウランが固化す
る事態が生じたとしても,工程内の気密性及び六フッ化ウランガスの純度が維持さ
れている限り工程内の圧力が六フッ化ウランの飽和蒸気圧を上回ることはないとこ
ろ,原告らが想定する摂氏56.5度以下の状況においては,六フッ化ウランの飽
和蒸気圧は760トール,すなわち1気圧以下にとどまるから,原告らが主張する
配管等の破断をもたらすような圧力の上昇が工程内で生じることはないというべき
である。したがって,原告らの主張は理由がない。
エ 原告らは,外部電源の喪失により遠心分離機の回転速度が減少すると,遠心分
離機は共振現象により強度の応力が繰り返し加わり金属疲労が蓄積し,ひいては遠
心分離機や配管が破損する危険がある旨主張する。
 しかしながら,前記認定のとおり,本件安全審査では本件施設の遠心分離機につ
いて,内部の回転体が破損しても外筒の真空気密性能が十分保たれるように設計さ
れるとともに,回転体の回転速度も破損試験で安全性が確認された範囲を超えない
ように制限されることが確認されているのであるから,仮に原告らの主張するよう
な共振現象により遠心分離機の回転体が破損することがあっても,その破損箇所か
ら六フッ化ウランが工程外に漏洩しないよう配慮されていることが確認されている
ということができる。また,共振現象によって遠心分離機の回転体以外の外筒やそ
の外側の配管が破損するとの点については,そのような可能性を認めるに足りる証
拠はない以上,そのような危険性について審査していないからといって,本件安全
審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできな
い。したがって,原告らの主張は理由がない。
(6) 検証結果等と本件施設の安全性確保対策の問題点
 内閣総理大臣が本件許可処分をするに当たってした本件許可申請の規制法14条
1項3号要件適合性の判断のうち,加工施設自体の安全性確保対策に係る部分の合
理性については,上記(5)までにおいて,本件安全審査の検討内容に沿って,そ
の具体的審査基準に不合理な点は見当たらず,また,その調査審議及び判断の過程
にも看過し難い過誤,欠落があるとは認められず,さらに,上記不合理ないしは看
過し難い過誤,欠落があるとする原告らの主張につき判断をしてきたところである
が,原告らは,このほか,本件訴訟手続中に行われた検証の結果,あるいは本件施
設や他の原子力施設においてこれまで発生した事故ないしは事象に基づいて,本件
施設自体の安全性確保対策に関する本件安全審査を不合理であるかのごとく主張す
るので,以下,(6)ないし(8)において,これらの点についての裁判所の判断
を示すこととする。
ア 原告らは,中央制御室に関し,運転員一人当たりの受持範囲,設備の監視操作
を行う主盤の制御器工場の工夫,スイッチの配置や運転員の指揮連絡関係について
問題点を主張するが,これらの事項が加工事業許可手続における安全審査の対象と
なる基本設計の内容に含まれるとは解されないから,原告らの主張は失当である。
イ 原告らは,非常用電源室及びディーゼル発電機室に関し,非常用電源設備が1
ユニットずつしかないこと,約30分間とされる直流電源設備のバッテリーの電気
容量が実証されておらずその有効使用期限や取替期間も不明であることを主張する
が,このような事実をもって,本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難
い過誤,欠落があるとはいえないから,上記主張は失当である。また,原告らは,
非常用電源室の天井付近にあるケーブルが同一のトレイ上を通っていることをもっ
て,火災等の事故により安全上重要なすべての電源が同時に失われる危険があると
主張するが,ケーブルの配線の具体的な態様が加工施設の基本設計の内容として安
全審査の対象になるとは解されないから,上記主張も失当である。
 このほか,原告らは,ディーゼル発電機の起動時間や性能が実証されていない旨
主張するが,加工事業施設の安全審査において,実際に用いられる発電機の性能等
を実証する必要があるとは解されないから,上記主張も失当である。
ウ 原告らは,高周波電源室に関し,高周波インバータ装置が故障しあるいは変調
を来した場合に遠心分離機の回転数が異常に上昇し遠心分離機が破損する危険があ
る旨主張するが,上記装置が故障により遠心分離機の破損をもたらすほどに異常な
高周波数を生じる危険性の存在については,何らの立証もないから,上記主張は理
由がない。また,原告らは,上記機器の故障により遠心分離機への電力供給が停止
した場合の共振現象による金属疲労がもたらす遠心分離機の破損の危険性を主張す
るが,遠心分離機について,共振現象により遠心分離機の回転体が破損した場合で
も外筒の気密性が保たれ,六フッ化ウランの閉込め機能に影響を及ぼさないことが
確認されていることは前記のとおりであるから,上記主張も理由がない。このほ
か,原告らは,高周波インバータ装置に重大な欠陥がある旨主張するが,そのよう
な事実を認めるべき証拠はない。
 次に,原告らは,高周波電源室のバスダクトないしケーブルダクトについて設計
ミスの可能性がある旨主張するが,そのような個々の機器の具体的な設計が安全審
査における審査対象である基本設計の内容に含まれるとは解されないから,上記主
張は理由がない。
エ 原告らは,中間室に設置される機器のうち,ケミカルトラップ(フッ化ナトリ
ウム)及びケミカルトラップ(アルミナ)について,実際の寸法が核的制限値を超
えている可能性がある旨主張するが,そのような実際に作製された機器の寸法形状
が安全審査の審査対象でないことはいうまでもなく,上記主張は失当である。ま
た,原告らは,ケミカルトラップについて捕集能力や捕集効率の裏付けがない旨主
張するが,基本設計において示されたケミカルトラップの捕集能力や捕集効率が実
際の機器において達成できるか否かは,ケミカルトラップの具体的設計内容に係る
事項であって,これが基本設計の段階で裏付けをもって確認されていないからとい
って,本件安全審査の調査審議の過程に過誤,欠落があるとはいえない。
オ 原告らは,発生回収室に関し,発生槽からカスケード設備に至る配管で目詰ま
りが生じると工程内の圧力が大気圧を超え,六フッ化ウランが漏洩する可能性があ
ると主張するが,上記の目詰まりが発生する可能性を認めるに足りる証拠はないか
ら,上記主張は前提を欠き失当である。
 次に,原告らは,発生回収室内の製品コールドトラップにおいて,カスケード設
備からの配管と製品回収槽への配管の切替えが手動で行われており,切替えを誤る
と製品六フッ化ウランガスがカスケード設備に逆流する事故が発生する旨主張する
が,そのような事態が仮に生じ得るとしても,これをいかにして防止すべきかは,
切替作業をいかにして適切に行うかの問題として,加工事業規則8条1項1号「加
工施設の操作及び管理を行う者の職務及び組織に関すること。」に関して規制法2
2条に基づく後続の保安規定の認可手続において審査される事柄であるから,上記
主張は,本件安全審査の対象外のことを問題視するにすぎず,理由がない。
 このほか,原告らは,発生回収室内の製品コールドトラップ,製品回収槽及び廃
品回収槽において,それぞれ内部の六フッ化ウランの圧力が大気圧を超えて六フッ
化ウランが漏洩する可能性があるとして縷々主張するが,原告らが指摘するような
事態においても工程内の六フッ化ウランの圧力が大気圧を超えないことは前記
(5)イ,ウで説示したとおりであるから,原告らのこれらの主張は,いずれも前
提を欠き失当である。
カ 原告らは,均質室の均質槽ないしはこれに接続する配管から六フッ化ウランが
漏洩した場合の配管カバー内の排気について,工程用モニタでフッ化水素を検知し
た際の排気系統の切替えが失敗した場合,あるいは工程用モニタの検知機能が失わ
れた場合には漏洩した六フッ化ウランの大半が施設外に流出する旨主張するが,本
件安全審査では,前記認定のとおり,この工程用モニタが多重化され,原告らの主
張するような事態に備えていることが確認されているから,この点について本件安
全審査の調査審議及び判断の過程に過誤,欠落があるとはいえない。
 次に,原告らは,均質槽での濃縮度調整の作業に当たり誤って空の中間製品容器
ではなく六フッ化ウランが充填されたものを装着した場合には,配管カバーのない
配管部分でも六フッ化ウランが大気圧になり配管の破断が生じる可能性があると主
張するが,そのような事態をいかにして防止するかは,加工事業規則8条1項1号
「加工施設の操作及び管理を行う者の職務及び組織に関すること。」として規制法
22条に基づく後続の保安規定の認可手続において審査される事柄であるというべ
きであるから,上記主張は,本件安全審査の対象外のことを問題視するにすぎず,
理由がない。
 また,原告らは,均質槽及び製品シリンダ槽では六フッ化ウランの過充填のおそ
れがあり,その場合にはアメリカ合衆国オクラホマ州のセコイヤ燃料会社ウラン転
換工場のような容器加熱によるシリンダの破損事故が生じ得る旨主張するが,シリ
ンダ類の破損が単にシリンダ類に対して過充填がされたというだけで,直ちに上記
事故と同様の因果を辿ってシリンダ破裂事故が発生するというものではないから,
上記主張は論理に飛躍があるというべきで,それ自体失当である。
キ 原告らは,本件施設から排出される液体廃棄物について,放射能濃度が線量当
量限度等を定める件所定の濃度限度以下であることが確認される保証がない旨主張
するが,後記のとおり,本件安全審査においては,本件施設の排気及び排水に含ま
れるウランの年間放出量が十分少なく,一般公衆の被曝線量は十分な安全裕度のあ
る拡散条件を考慮しても極めて小さいことを確認しており,この点に関して本件安
全審査の調査審議及び判断の過程に過誤,欠落があるとはいえない。
 また,原告らは,生体濃縮を考えれば微量であっても放射性物質は危険であると
主張するが,線量当量限度等を定める件が生体濃縮を考慮しないで定められたもの
と解すべき根拠は見当たらないから,原告らの主張は理由がない。
ク 原告らは,本件施設の排気系統に備えられた排気用モニタがすべての放射性物
質とその濃度を測定できる機能を有していないと主張するが,本件施設で扱われる
放射性物質であるウランの半減期が7億400万年(ウラン235)あるいは44
億7000万年(ウラン238)と極めて長期であることを考えると,排気用モニ
タがあらゆる放射性物質に対応していないからといって,これを問題視しなかった
本件安全審査に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。
 また,原告らは,この排気用モニタが異常を検知した場合でも警報を発するのみ
で,自動排気停止装置を備えておらず,警報が作動しなかった場合には放射性物質
の無制限な外部放出の危険があると主張する。しかし,排気用モニタが異常を検知
した場合にいかなる方法で対策を講じるかは,排気モニタの詳細設計として設備及
び工事の方法の認可手続で審査されるか,あるいは少なくとも「非常の場合に採る
べき処置に関すること」として保安規定の認可手続の際に審査されるべき事項と解
されるから(加工事業規則8条1項9号),これを本件安全審査において審査の対
象としなかったとしても,このことをもって本件安全審査の調査審議及び判断の過
程に看過し難い過誤,欠落があるとはいえない。
ケ 原告らは,原料シリンダの衝撃に対する強度がせいぜい0.3メートルの高さ
からの落下に耐え得る程度であると主張するが,本件安全審査では,前記のとお
り,シリンダ類は落下の安全性が確認された高さより高くは吊り上げられないこと
とされていることを確認しているから,上記の主張によっても,本件安全審査の調
査審議及び判断の過程に過誤,欠落があるとはいえない。
 このほか,原告らは,本件施設外での輸送中の事故を考えると,濃縮六フッ化ウ
ランについてのシリンダが9メートルの高さからの落下に耐えるとしても強度が不
足している旨主張するが,本件施設外の輸送における安全性は本件安全審査の対象
となる事項ではないから,上記主張は失当である。
(7) 本件施設における事故例と本件施設の安全性確保対策の問題点
ア 平成4年1月26日及び同年2月24日に発生した各事象について
(ア) 事実関係
 上記各事象の具体的内容や原因等は,次のとおりである(当事者間に争いがな
い。)。
a 本件施設が本格操業を開始する前の平成4年1月26日,本件施設において遠
心分離機の停電再起動試験として,カスケード設備へのウランの出入りを止めた状
態にした上で,停電を模擬するため遠心分離機の駆動源である高周波電源設備の電
源を切り,4分後に電源を入れたところ,高周波電源設備に大きな電流が流れるこ
とを防止し保護するための過電流リレーが作動した。これにより遠心分離機の電源
が切れ,ウランがカスケード設備から自動的に回収系へ排気され,上記ウラン全量
がケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)に回収された。
 原燃産業による調査の結果,この過電流リレーが働いた原因は,高周波電源設備
における電流の変動を抑える回路の調整が適切でなかったため,遠心分離機の回転
数が若干下がった状態で一度に電源を入れたことにより,電流に変動が生じて過電
流リレーが作動したことによるものと判明した。このため,同回路を調整した上
で,再び停電再起動試験を行い,電流が変動しないことが確認された。
b 本件施設において,上記と同様に平成4年2月24日に行われた停電再起動試
験において,高周波電源設備の電源を切った直後に,1台の高周波電源設備の異常
を知らせる表示が出され,カスケード設備内のウランが自動的に回収系へ排気さ
れ,上記ウラン全量がケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)に回収された。
 原燃産業による調査の結果,異常報知装置が作動した原因は,電源を切った際に
発生するサージ(電流,電圧の瞬間的な変動)が高周波電源設備の入力変圧器から
接地線を介して高周波電源設備の直流短絡検出回路にノイズとして入り,これが同
回路の電流信号に相乗して,直流短絡検出回路を作動させ,高周波電源設備の異常
警報を発報させたものであることが判明した。このため,従来から設置されている
サージ防止回路に加えて,高周波電源設備に悪影響を及ぼすようなサージの発生を
抑制する回路を追加し,さらに,入力変圧器と高周波電源設備の接地線を分離し
て,停電再起動試験を行い,直流短絡検出回路がノイズにより作動しないことが確
認された。
(イ) 原告らの主張について
 原告らは,上記各事象が本件施設の電源系等に深刻な欠陥があることを示すもの
である旨主張するが,そのような個々の機器の具体的な調整や実際の作動が加工施
設の基本設計として安全審査の判断事項に含まれるとは解されないし,そもそも原
告らのいう欠陥がいかなる意味において本件安全審査の調査審議及び判断の過程の
過誤,欠落と関係するかという点についての主張はないから,いずれにせよ上記主
張はそれ自体失当である。
イ 平成4年6月17日に発生した事象について
(ア) 事実関係
 上記事象の具体的内容や原因等は,次のとおりである(当事者間に争いがな
い)。
a 本件施設において,平成4年6月17日,所内電源設備の定期点検を実施した
後,高周波電源系統を高圧母線系統につなぎ定格運転状態で運転を続けていたとこ
ろ,高周波電源系統に軽故障発生を知らせる警報が作動し,高周波インバータのう
ち1台が停止した。この際,高周波電源室の煙感知器が作動したため,ウランをカ
スケード設備内の六フッ化ウランガスを回収系へ排気し,カスケードを停止した。
遠心分離機はその後も慣性による回転を続け,これが停止したのは翌18日午前中
のことであった。
 その後の現場における点検により,入力変圧器と高周波インバータの間のバスダ
クトの2箇所にすす状の痕跡が確認された。
b 調査の結果,上記の原因は,バスダクトのダクトカバーが高周波電源室天井部
の支持構造物に堅固に固定されていたため,熱による伸びが抑えられたことに対
し,バスダクト内部の導体が伸びたため,導体を覆っている絶縁体がダクトカバー
に押し付けられて損傷し,導体からダクトカバーを経由して大地に電気が流れる地
絡が生じたことによるものと判明した。
c 原燃産業の発表によれば,高周波電源系統のケーブルダクトの損傷原因は,次
のとおりである。
(a) バスダクトのダクトカバーは高周波電源室天井部の支持構造物に堅固に固
定されていたため,熱による伸びが抑えられたことに対し,バスダクト内部の導体
が伸びたため,導体を覆っている絶縁材がダクトカバーに押し付けられて損傷し,
地絡に至った。
(b) さらにバスダクトの温度とバスダクト周辺の温度は,設計で許容された温
度以下であったものの,許容温度に近かったため,上記の事象を助長した。
d 上記調査結果を踏まえて,日本原燃においては,バスダクトの施工上の不具合
が故障の原因とならないよう,バスダクトの支持方法をダクトカバーの伸びを抑え
ない方法に変更するとともに,念のため,バスダクトの温度上昇を低減するため,
定格電流の高い規格品に変更し,また,ダクトカバーの材質を鉄からアルミニウム
に変更し,さらに,バスダクト付近の温度を下げるため,高周波電源室の天井部に
空気の流れを生ずるように換気ダクトを一部改良したとしている。
(イ) 原告らの主張について
 原告らは,上記事象の原因が施工の杜撰さにあるとし,他の箇所の施工の質につ
いて問題がある旨主張するが,本件施設の設備・機器の具体的設計内容や施工状態
の良し悪しは安全審査の調査審議及び判断における過誤,欠落の有無を左右する問
題には当たらないから,上記主張は失当である。
ウ 平成6年2月7日に発生した事象について
(ア) 事実関係
 上記事象の具体的内容や原因等は,次のとおりである(当事者間に争いがな
い。)。
a 本件施設の中央制御室には,計測制御信号の入出力によって運転に必要な監
視・操作を行う中央制御盤(主盤,起動補助盤,プロセス補助盤,プラント関連
盤,所内電気盤)及び運転指令台が設置されている。また,発生回収室,中間室,
均質室及びリレー室にはそれぞれ計装盤が設置されている。
 上記各計装盤内には,それぞれ分散形制御装置(六フッ化ウラン等の圧力,流
量,温度の値をあらかじめ定められた値になるよう調節弁の弁開度等を自動的に制
御する制御装置。以下「コントローラ」という。)及びシーケンス制御装置(ポン
プ,弁等をあらかじめ定められた条件及び作動順序に従って動作させる制御装置。
以下「シーケンサ」という。)が設置されている。このうち,(a)発生回収室の
計装盤内のコントローラは製品コールドトラップ関係の調節弁等の弁開度を調節す
る機能を,シーケンサは廃品第2段コンプレッサ等の動作を制限する機能を,
(b)各中間室の計装盤内のコントローラはカスケード設備の調節弁等の弁開度を
調節する機能を,シーケンサはカスケード設備のON―OFF弁(全開又は全閉の
いずれかの状態をとる弁)及び廃品第1段コンプレッサ等の動作を制御する機能
を,(c)均質室の計装盤内のコントローラは均質槽関係の調節弁等の弁開度を調
節する機能を,シーケンサは均質槽関係のON―OFF弁等の動作を制御する機能
を,(d)リレー室の計装盤内のコントローラは空調関係の調節弁(全開,全閉の
間で開閉度合いを制御し得る弁)の弁開度を調節する等の機能を,シーケンサは排
風機等の動作並びに中央制御盤のモード表示灯,スイッチ灯及び警報表示灯の点
灯・消灯を制御する機能を,それぞれ持っている。また,コントローラ及びシーケ
ンサは,六フッ化ウランの流れる配管に設置された検出器等からの圧力等の信号を
受け,同一の機能を有するA系及びB系の伝送ライン(デジタル化した信号を複数
の装置間で送信及び受信する電路)により当該信号を中央制御盤及び運転指令台へ
伝送する。
 一方,中央制御室からの機器の操作に関する信号は,中央制御盤からA系及びB
系伝送ラインにより各計装盤へ伝送されて,コントローラ又はシーケンサにより処
理され,機器の制御がされる。
 本件施設には,上記伝送ラインから独立した計測制御設備として,ハードワイヤ
ー(電圧・電流信号を,特定の装置間で,他の電路とは独立して送信又は受信する
電路)で構成される六フッ化ウラン等の圧力及び温度等の制御機能を有する設備及
び専用の配線(デジタル化した信号を特定の装置間で,他の電路とは独立して,送
信及び受信する電路)で構成されるカスケードの流量,圧力の監視・操作機能を有
する設備等がある。
b 当時,本件施設は,1A,1B及び1Dカスケードについてはホット定格モー
ド(カスケードに原料六フッ化ウランを供給し,製品六フッ化ウランと廃品六フッ
化ウランを回収する運転モード),1Cカスケードについてはコールド定格モード
(遠心分離機は運転しているが,カスケードに原料六フッ化ウランを供給していな
い運転モード)で運転されていた。
 平成6年2月7日午前10時27分,1C中間室に設置されている1Cカスケー
ド系計装盤内のコントローラの二重化された通信制御基板のうち1枚が同一仕様の
新しい基板と交換された後,1Cカスケード系計装盤内のコネクタが規定どおりの
トルクで締め付けられていることの確認作業が行われた。
 上記確認作業中の午前10時41分,中央制御室において,リレー室,1A中間
室,1B中間室,1D中間室,1号発生回収室及び1号均質室の各計装盤の異常を
示す警報が鳴った。中央制御室の監視用画面で警報の原因を確認したところ,A系
伝送ラインの異常発生が表示され,その23秒後にB系伝送ラインの異常発生が表
示された。また,同じころ,中央制御室からの機器の手動操作を行うスイッチのス
イッチ灯も消え,手動操作も不可能となった。このうち,A系伝送ラインは,B系
伝送ラインの異常発生の8秒後に異常状態が解消され正常に復帰し,これ伴って,
各計装盤内のコントローラは信号の伝送を再開し,これにより中央制御室の監視用
画面において圧力,流量,温度及び調節弁の弁開度の監視・操作が可能となった。
 これに対し,各計装盤内にあるシーケンサは,伝送ライン両系異常時に停止する
設計のため停止したままの状態であり,中央制御室の監視用画面では,シーケンサ
が制御する機器に関する情報についてはシーケンサ停止前の状態しか把握できなく
なって,シーケンサが制御する機器の運転状態を中央制御室において監視・操作
し,またシーケンサによって制御することができない状態が継続した。
そこで,直ちに現場においてシーケンサが制御する機器の運転状態が確認された結
果,1A,1B及び1Dカスケードは中央制御室の監視用画面の表示ではホット定
格モードであったが,現場の確認では,1Aカスケードは全還流モード(原料六フ
ッ化ウランの供給を停止し,カスケード内で六フッ化ウランを循環させる運転モー
ド)で本来「開」となるべき供給系と廃品系を連絡する連絡弁が「閉」となってい
る状態であること,1B及び1Dカスケードはホット定格モードを維持しているこ
と,並びに六フッ化ウラン処理設備,均質・ブレンディング設備及び気体廃棄物の
廃棄設備は正常に運転していることが確認された。
 一方,中央制御室において,全還流モードである1Aカスケードで,通常の全還
流モードを若干上回る圧力の上昇とこれに続く圧力の低下という現象が発生してい
ることが確認されたため,午前11時19分,現場における手動操作にて1Aカス
ケードの六フッ化ウランの排気回収を実施し,この操作によって1Aカスケードの
圧力が更に低下したことが中央制御室において確認された後,午前11時30分,
現場における手動操作にて1Aカスケードが正常な全還流モードに戻された。
c B系伝送ラインの異常発生の原因は,1Cカスケード系計装盤内のコネクタと
タップの接触部の接触不良と想定されたので,当該コネクタを取り外して点検し,
締め直したところ,午前11時58分に中央制御室の監視用画面においてB系伝送
ラインが正常 に復帰したことが確認された。
 B系伝送ラインの復帰後,停止したシーケンサの機能を回復させるためにはイニ
シャライズ操作(シーケンサ内部に記憶されている停止前に設定した条件を消去す
る操作)が必要であるため,中央制御室から,各計装盤内のシーケンサのイニシャ
ライズ操作を,リレー室シーケンサ,1号発生回収室シーケンサ,中間室シーケン
サの順に順次実施した。
 1号発生回収室のシーケンサのイニシャライズ操作に伴い,午後零時26分,運
転中の廃品第2段コンプレッサ(往復動式)が設計どおり停止した。しかし,停止
後直ちに予期した起動操作を行うことができず,中央制御室において「廃品第2段
コンプレッサ入口ヘッダ圧力高高」警報が鳴った。通常であれば「廃品第2段コン
プレッサ入口ヘッダ圧力高高」の信号によって,この圧力の上昇を抑えるためにホ
ット定格モードのカスケードはすべて全還流モードへ移行されるとともに,廃品第
1段コンプレッサ(遠心式)内の六フッ化ウランは排気回収されることになるが,
本件事象においては,このような制御を実施する1A,1B及び1Dの各中間室の
シーケンサがまだイニシャライズ操作未了で停止していたため,これらの動作はな
されなかった。
 そこで,午後零時31分に1A中間室のシーケンサのイニシャライズ操作を行う
ことにより,1A廃品第1段コンプレッサが停止に向けて回転速度を落とし始める
とともに,「廃品第2段コンプレッサ入口ヘッダ圧力高高」の信号によって,1A
廃品第1段コンプレッサ内の六フッ化ウランが排気回収された。引き続き午後零時
32分に1B中間室,午後零時33分に1D中間室の各シーケンサのイニシャライ
ズ操作を行うことにより,1B及び1Dの廃品第1段コンプレッサが停止に向けて
回転速度を落とし始めるとともに「廃品第2段コンプレッサ入口ヘッダ圧力高高」
の信号によって,1B及び1Dカスケードはホット定格モードから全還流モードに
移行し,1B及び1D廃品第1段コンプレッサ内の六フッ化ウランが排気回収され
た。
 また,1B及び1D中間室のシーケンサのイニシャライズ操作後に中央制御室に
おいて「1B廃品第1段コンプレッサ故障」及び「1D廃品第1段コンプレッサ故
障」警報が鳴った。このため,直ちに中央制御室の監視用画面において確認したと
ころ,1B廃品第1段コンプレッサが19台中6台,1D廃品第1段コンプレッサ
が19台中1台故障表示していることが確認された。なお,1B及び1Dの廃品第
1段コンプレッサには,回転停止までの時間が通常より短いものがあった。
 午後零時35分に廃品第2段コンプレッサの入口圧力を低下させるため,廃品第
2段コンプレッサ(3台)を運転し,入口圧力の低下を確認した後,午後零時50
分に廃品第2段コンプレッサを停止した。
d 事象の原因
 上記事象の発生原因は次のとおりである。
(a) 伝送ラインの異常
 伝送ラインの異常は,1C計装盤内のコネクタを構成するプラグピンにA系B系
いずれについてもニッケル,銅等の酸化物及び塩化物を主体とする腐食生成物(サ
ビ)が生成しており,打振試験等からコネクタの締め付けトルク確認作業により外
力がプラグピンに伝わり,タップ側接続端子の接点部で腐食生成物と接触し,接触
不良が発生したものと推定され,また,腐食生成物の生成原因としては,プラグピ
ンの金メッキ処理において所定のメッキ厚が得られずピンホールが多く発生したこ
とに加え,メッキ処理工程以降の人汗の付着,保管方法の問題により,腐食が進行
したものであることが確認された。
 また,A系B系に同時に異常が発生したのは,A系伝送ラインのコネクタの締め
付け確認を行った後,A系伝送ラインの健全性を確認することなくB系伝送ライン
の締め付け確認作業が行われたためである。
(b) A系伝送ライン復帰後もシーケンサが停止し,大半の弁及び機器の運転状
態の監視,操作ができない状態となったことについて
 この原因は,A系及びB系伝送ラインの異常が同時に発生すると,シーケンサの
機能が停止して制御を中止し,機器はシーケンサ停止時の運転状態を保持する設計
となっており,シーケンサの機能復旧はイニシャライズ操作により行う設計となっ
ていることにある。
(c) 1Aカスケードが自動的に全還流モードになり,他方1Bカスケード及び
1Dカスケードが通常運転を続けたことについて
 この原因は,カスケードの弁の開閉等を制御する中間室シーケンサは,1号発生
回収室シーケンサが停止すると六フッ化ウラン処理設備が使用不能と判断してカス
ケードを全還流モードヘ移行させる設計となっているところ,1Aカスケードで
は,1A中間室シーケンサより先に1号発生回収室シーケンサが停止したために全
還流モードへと移行したが,他方,1Bカスケード及び1Dカスケードでは,1B
中間室シーケンサ及び1D中間室シーケンサがカスケードの全還流モードへの移行
を行う前に1号発生回収室シーケンサより先に停止し,シーケンサ停止時の通常運
転であるホット定格モードを維持したことにある(シーケンサが停止した場合,シ
ーケンサによって制御される機器はシーケンサ停止前の状態を保持する設計となっ
ている。)。
(d) 1Aカスケードの圧力異常について
 カスケード内の圧力変化のシミュレーション計算をした結果により,全還流モー
ド移行時に開となる連絡弁が短時間閉じていたことによるものと推定される。
(e) 「廃品第2段コンプレッサ入口ヘッダ圧力高高」警報について
 シーケンサの復旧作業に当たり,本来は先に中間室シーケンサを復帰させてカス
ケードを全還流モードに移行させ,六フッ化ウランが廃品第2段コンプレッサに供
給されない状態にするべきところを,中間室シーケンサより先に発生回収室シーケ
ンサをイニシャライズしたことにより,カスケードが運転を継続し,六フッ化ウラ
ンガスを廃品系に供給し続けた。他方,発生回収室シーケンサが復帰すれば当然停
止する設計となっていた廃品第2段コンプレッサは,機能を停止し,かつ,直ちに
起動されなかった(その手順書がなかったため)。このため,機能を停止した廃品
第2コンプレッサに六フッ化ウランガスが供給され続け,入口圧力が上昇した。
(f) 1B,1D「廃品第1段コンプレッサ故障」警報について
 六フッ化ウランガスが供給されている状態で廃品第2段コンプレッサが停止した
ため圧力が上昇し,その前工程である廃品第1段コンプレッサ内の六フッ化ウラン
ガスの圧力が上昇し,コンプレッサ内の回転体の回転抵抗が大きくなり,回転数の
低下等の異常を生じて廃品第1段コンプレッサが故障した。
 これは,中間室,1号発生回収室いずれの計装盤内のシーケンサからイニシャラ
イズ操作を実施しても,すべてのシーケンサのイニシャライズ操作を完了すること
が可能であるところ,本事象においては,イニシャライズ操作を1号発生回収室か
ら先に実施し,次いで必要となる複数の廃品第2段コンプレッサを同時に起動させ
るための操作を適切に行うことができなかったことから,廃品第1段コンプレッサ
の故障が発生したものである。
(イ) 原告らの主張について
a 原告らは,本件施設においては多くの機器が伝送ラインとシーケンサを共用し
ており,この点を審査しなかった本件安全審査は加工施設指針19に違反している
と主張する。
 しかしながら,本件施設においては,伝送ラインを介さなくとも本件施設におけ
る設備・機器は各室ごとに設置された計装盤において操作制御できる設計とされて
いるのであるから(証人D),伝送ラインをもって加工施設指針19にいう共用に
対する考慮が必要な「安全上重要な施設」,すなわち加工施設指針の用語の定義に
おける(a)ウランを非密封で大量に取り扱う設備・機器,(b)ウランを限定さ
れた区域に閉じ込めるための設備・機器であって,その機能喪失により作業環境又
は周辺環境に著しい放射能汚染の発生のおそれのあるもの,(c)臨界安全上核的
制限値のある設備・機器及び当該制限値を維持するために必要な設備・機器,
(d)火災・爆発の防止上,熱的制限値又は化学的制限値のある設備・機器及び当
該制限値を維持するために必要な設備・機器,(e)非常用電源等で,その機能喪
失によりウラン加工施設の安全性が著しく損なわれるおそれのある系統及び設備・
機器,(f)これら(a)ないし(e)の設備・機器が設置されている建物・構築
物,のいずれにも該当しないということができる(乙15)。したがって,本件安
全審査において伝送ラインに関し共用に対する考慮につき検討しなかったからとい
って,加工施設指針19に違反するものということはできない。また,シーケンサ
は,前記のとおり複数の設備・機器を一定の条件及び作動順序によって動作制御す
るための装置であるから,各シーケンサがその制御対象とする複数の機器と接続さ
れていることは,そもそも施設の共用には当たらないというほかない。したがっ
て,原告らの主張はいずれも理由がない。
b 原告らは,本事象の発生拡大がシーケンサにフェイル・セーフ(何らかの不具
合が生じた場合に最終的には安全な構造を持たせること(証人F))の設計思想が
採用されていないことによるもので,これにより本件施設においては上記思想が全
く採用されていないことが明らかになったとし,このことが本件安全審査の違法性
を示していると主張する。
 しかしながら,本件施設においては,少なくとも,各設備からの排気系統に設置
されたロータリポンプが電源喪失により停止した場合にその直前に設置されたロー
タリポンプ入口弁が自動的に閉じる機構においてフェイル・セーフの考え方が採用
されているほか(乙75,証人A),本件施設で採用されている各種のインターロ
ックもフェイル・セーフの機能を持たせるための方法の一つであるから(証人
F),本件施設においてこの考え方が全く採用されていないという原告らの主張は
事実に反し,前提を欠くというべきである。また,本事象のうち,シーケンサの機
能停止後もカスケード設備の一部がホット定格モードを維持したことは,シーケン
サの機能停止との関係でカスケード設備がフェイル・セーフの考え方により自動的
に運転を停止するよう設計されていなかったことに起因することは認められるもの
の(証人A),フェイル・セーフの考え方とフェイル・アズイズ(何らかの不具合
が生じた場合にそれまでの動作等を維持すること)の考え方との間で,そのいずれ
が個々の機器において安全であるかは上記の場合も含めて一概にはいえないこと
(証人A)及びカスケード設備の一部がホット定格モードを維持したことが本事象
の発生拡大に何ら寄与していないことを考えると,やはり本事象をもって本件安全
審査の調査審議及び判断の過程に過誤,欠落があるとはいえない。したがって,原
告らの主張は理由がない。
c 原告らは,本件安全審査が最大想定事故の解析を安全保護の機器が正常に作動
するとの前提で行っていることについて,本事象が施設の事故拡大防止機能が一切
働かない状態であって,そのような状況が現に発生しているとして,上記の事故解
析条件及びその解析結果は不合理であると主張する。
 しかしながら,加工施設指針3によれば,最大想定事故の事故選定は,技術的に
みて発生が想定される範囲で行われれば足りるとされているところ,本事象と本件
安全審査で選定した最大想定事故の想定した均質・ブレンディング設備における配
管の破損という事象とはそれぞれ独立した事故原因であって,これが同時に発生す
る確率は極めて小さく,これらが複合的に寄与する事故が技術的にみて発生が想定
される事故であるとまではいえないというべきである。したがって,本事象の発生
を踏まえても,本件安全審査における最大想定事故の事故想定及び事故解析に看過
し難い過誤,欠落があるとはいえない。したがって,上記主張は理由がない。
d 以上のとおりであるから,本事象について原告らが指摘するところによって
も,本件安全審査の調査審議及び判断の過程に過誤,欠落があるということはでき
ない。
(8) 他の原子力施設における事故例と本件施設の安全性確保対策の問題点
ア 動燃事業団人形峠事業所ウラン濃縮試験工場での爆発事故について
(ア) 弁論の全趣旨によれば,上記事故は,昭和58年2月3日,動燃事業団人
形峠事業所ウラン濃縮試験工場内の化学分析室で,廃液中の有機物を除去するため
に硝酸と過塩素酸を加えて分離処理を行っていたところ,上記有機物と過塩素酸と
が急激に反応したことによりビーカーが破裂し,破裂したビーカーのあるフード内
を覗き込んでいた作業者1名がビーカーの破片で頸動脈を切り,出血多量で死亡す
るに至ったというものであることが認められる。
(イ) 原告らは,上記事故をもって,本件施設においても廃液処理の過程で同様
の事故が起こる危険がある旨主張する。しかし,本件安全審査においては,火災爆
発等に対する考慮として,前記認定のとおり,本件施設の主工程では可燃性の物質
及び爆発性の物質を使用せず,分析室等で使用されるアセトン等についても取扱量
を制限するとともにその保管は倉庫内の危険物貯蔵エリア等で行うこととなってい
ることを確認し,本件施設の事故防止対策上妥当なものと判断しているところ,本
件施設において上記と同種の事故が発生する可能性を認めるべき証拠はないから,
上記事故の存在をもって本件安全審査の上記判断を不合理であるということはでき
ない。
イ セコイヤ燃料会社ウラン転換工場における六フッ化ウラン容器破裂事故
(ア) 証拠(甲19,95)及び弁論の全趣旨によれば,上記事故は,次のよう
にして発生したものと認められる。
a イエローケーキ(ウラン鉱石から製錬された八酸化三ウランの粉末)から六フ
ッ化ウランを製造するアメリカ合衆国オクラホマ州ゴアのセコイヤ燃料会社ウラン
転換工場において,1986年(昭和61年)1月4日,シリンダへの液化六フッ
化ウランの充填作業中,シリンダを載せた台車の車輪が重量計の上に充分乗ってい
なかったために正しく重量が測定されず,シリンダに六フッ化ウランが過充填され
てしまった。
b 過充填された六フッ化ウランの一部は,所定の運転手順に従って,コールドト
ラップを利用した抜き出しが実施されたものの,作業の途中で,六フッ化ウランの
抜き出しが困難となった。この原因は,六フッ化ウランの固化にあると考えられ
る。
c 上記シリンダは建屋外の蒸気加熱装置に運ばれ,六フッ化ウランを液化させる
ために弁を閉じた状態で加熱された。この過充填となったシリンダを加熱する措置
は,運転手順に違反するものであった。
d 加熱開始から約2時間後,シリンダが破裂し,漏出した六フッ化ウランは大気
中の水分等と反応し,固体粒子であるフッ化ウラニルと気体のフッ化水素となっ
て,折からの風によって拡散し,事故現場から約20メートル離れた建物にいた従
業員1名がフッ化水素により肺等に損傷を受けて死亡したほか,100名近くが病
院で診察を受けた。
e 米国原子力規制委員会は,調査の結果,事故の原因として,(a)シリンダが
重量計の上に正しく置かれなかったこと,(b)充填が長時間に及び六フッ化ウラ
ンがシリンダ内で固化したこと,(c)重量計が過充填となったシリンダの重量を
測定できなかったこと,(d)シリンダ重量の計測が多重化されていなかったこ
と,(e)運転手順に明確に反した過充填のシリンダの加熱が行われたこと,を挙
げている。
(イ) 原告らは,上記事故の例を引きながら,マニュアルどおりに事が進まなか
った場合に現場の判断で処置がされて起こり得る人為ミスの可能性が本件施設にも
存在すると主張する。しかし,そもそも上記事故の主たる原因は,運転規則に違反
したシリンダ加熱が行われたことにあると考えられるところ,そのような事態をい
かに防止するかは,設備の操作や従業員の保安教育といういずれも保安規定の内容
の問題というべきであるから,上記事故は本件安全審査の結果を左右するものとは
いえない。
ウ ポーツマスウラン濃縮工場における六フッ化ウラン漏洩事故
(ア) 甲第27号証及び弁論の全趣旨によれば,上記事故は,ガス拡散法による
ウラン濃縮を行っているアメリカ合衆国オハイオ州パイクトンの政府ポーツマスウ
ラン濃縮工場において,1985年(昭和60年)12月27日から約1週間の間
に,ウラン濃縮設備内の空気除去系設備に六フッ化ウランが流入し,同設備に設置
された六フッ化ウラン除去のためのケミカルトラップの処理容量を超えた六フッ化
ウラン約21キログラムが工場外に漏出したというものであることが認められる。
(イ) 原告らは,本件施設においても六フッ化ウランガスが排気中に流入して施
設外に漏洩した場合上記事故と同様の危険性があると主張する。しかし,前記のと
おり,本件安全審査では,各設備からの排気は,四つの系統ごとにケミカルトラッ
プ(フッ化ナトリウム)で六フッ化ウランを除去するほか,一般パージ系及び均質
パージ系の排気系ではコールドトラップによっても六フッ化ウランの除去が行われ
る仕組みとなっている上,さらに,これらの排気は本件施設の排気設備において,
プレフィルタ及び高性能エアフィルタを経由してから排出され,排出口には排気中
の放射性物質の濃度を監視するモニタが設置されることを確認した上で,本件施設
では六フッ化ウラン閉込めのための適切な対策が採られており,閉込め機能が十分
確保できるものと判断した。このように,本件安全審査では,排気中の放射性物質
の除去設備及び排気中の放射性物質濃度の監視モニタが本件施設に備えられること
を確認しているところ,上記事故のように長期間に大量の六フッ化ウランが漏出し
続ける事態も上記の確認事項で十分防止し得るものと考えられるから,上記事故を
もって,本件安全審査が不合理であるということはできない。
 なお,原告らは,本件施設のフィルタ類やケミカルトラップ等が地震や爆発事故
によって機能に支障を生じる可能性について本件安全審査では事故解析がされてい
ない旨主張するが,そのような地震ないしは爆発事故と上記事故類似の六フッ化ウ
ラン漏洩事故とが独立して同時的に発生する事象は,技術的にみて想定し得るもの
とは必ずしもいえないから,上記主張は,本件安全審査の結果を左右するものとは
いえない。
エ JCO東海事業所転換試験棟における臨界事故
(ア) 証拠(甲445の3,4,6,7,467の2,証人F)及び弁論の全趣
旨によれば,上記事故は,次のようにして発生したものと認められる。
a 平成11年9月30日午前10時35分ころ,JCO東海事業所の転換試験棟
で,硝酸ウラニル溶液を製造する目的で,作業員が八酸化三ウランを硝酸に溶解し
た溶液約40リットルを沈殿槽に漏斗で流し込んだところ,沈殿槽内部のウラン溶
液が臨界状態となり,遅くとも翌日午前6時30分ころまで臨界状態が継続した。
b 臨界状態のウランから発せられた中性子線及びガンマ線は,施設外にまで達
し,これにより,臨界状態発生時に近傍で作業を行っていた作業員3名のほか,消
防署職員3名,JCO東海事業所の関係者56人及び事業所周辺の一般公衆7名,
さらに施設内で臨界収束のための作業に携わった14名が被曝し,うち作業員2名
が放射線障害により死亡したほか,数百メートルないし数キロメートルの範囲で周
辺環境の物質が放射化された。これに対し,臨界事故による施設自体の破壊はな
く,施設内のウランが施設外に漏洩することはなかった。
c 地方自治体では,地域住民に対し,施設から350メートル圏内においては避
難,10キロメートル圏内においては屋内退避措置をそれぞれ勧告した。
d 上記臨界事故の直接の原因は,転換試験棟の工程における臨界安全が,全工程
を通じての1バッチ(濃縮度18.8パーセント,2.4キログラム)の質量制
限,一部の工程に入る前の秤量による質量制限及び沈殿槽以外の工程における形状
制限で管理されていたところを,質量制限を大きく上回る量の濃縮度18.8パー
セントの硝酸ウラニル溶液を形状制限がされていない沈殿槽に投入したことにあ
る。このような作業工程は,それ自体許認可を受けていないのみならず,JCOが
独自に作成した作業手順書(ただし,その内容も許認可を受けていない。)にも反
する内容であった。
(イ) 原告らは,JCOが加工事業許可を受けるに当たって行われた安全審査で
もいかなる場合でも臨界事故は起こり得ないと判断され,臨界事故評価は行われな
いままになっていながら現実には臨界事故が発生したことをもって,同様の判断が
された本件施設についても,事故評価をしていない安全審査には看過し難い過誤,
欠落があると主張する。
 しかし,JCOの加工事業変更許可申請の内容(甲445の16の1,16の
2,484)と上記臨界事故の発生経過とを対比すると,上記臨界事故は,JCO
の加工施設において講じられた技術上は適正な臨界管理を殊更無視する態様で作業
が行われたために発生したものであって,基本的にはウラン加工施設設置許可の段
階の安全審査の対象とはならない加工施設の作業員による意図的な作業工程の不遵
守といった事態が原因となったものであり,上記臨界管理は,悪意の逸脱による臨
界事故発生の危険までは防止できない恨みはあるものの,それ自体は技術的にみて
臨界事故を防止するに足りる内容のものであったということができ,加工施設指針
10が技術的にみて想定されるあらゆる場合の限度において臨界防止対策を求めて
いる以上,上記臨界事故の事実をもってしても,上記臨界管理をもって適切な臨界
防止対策が採られていると判断した安全審査に過誤があると評価することはできな
い。そして,本件安全審査も,上記同様に技術的にみて臨界を防止し得る対策を講
じているか否かを判断したものであって,その判断が不合理といえないことは前に
みたとおりである。そうすると,加工施設指針12が,技術的にみて発生が想定さ
れるあらゆる場合に対する臨界防止対策が図られている限りは臨界事故の事故評価
を不要としている以上,本件安全審査において上記判断の下に臨界事故評価をして
いないことは,格別看過し難い過誤,欠落には当たらないといわざるを得ない。要
するに,上記臨界事故のような技術的見地からは発生は想定されないが作業従事者
の杜撰な管理等によって起こり得る事故については,現行の制度設計上,加工事業
許可処分の段階でこれを審査する枠組みにはなっていないのであって,現実に起こ
り得る各種事故の影響の大きさにかんがみるときはその事の当否は制度論として十
分な検討に値するものの,この枠組みの存在を前提とする以上,技術的見地からは
発生が想定されないが現実には発生し得る事故を防止し得ないことの不合理を安全
審査の判断の当否に帰することはできない筋合いというほかない。もとより,この
ような悲惨な事故が再び発生することがないよう万全な臨界事故防止対策を講じる
必要のあることは当然のことであり,そのためには今回のJCO事故の教訓を生か
し,作業従事者の意図的な作業工程の不遵守といった杜撰な管理等によって起こり
得る事故についても,加工事業許可申請の許否を審査する段階でその発生を想定し
た臨界事故評価が行われる仕組みになるよう制度の抜本的な見直しが検討され,上
記のような現行制度上技術的見地から発生が予想されない臨界事故についても事前
に審査する新たな制度の実現が望まれるところである。
 このほか,原告らは,上記臨界事故を引き合いにして,本件安全審査が最大想定
事故として妥当とした事故想定が過小で非現実的であると主張するが,これについ
ても,本件安全審査における最大想定事故の事故選定及び事故評価に関する判断
が,技術的にみて発生が想定される事故のうちで一般公衆の被曝線量が最大となる
ものの選定及び評価としては合理的に行われていることは後記のとおりであって,
技術的見地からは発生が想定されない上記臨界事故をもって上記判断を不合理とい
うことはできない。
 したがって,JCO臨界事故に関する原告らの主張は,いずれも理由がない。
第4 公共の安全性確保
1 はじめに
 本件施設に求められる前記の意味における安全性のうち,公共の安全確保に係る
ものは,本件施設において発生し得る事故を想定しても,本件施設から直接外部に
放出される放射線や本件施設から外部に排出される放射性物質及び放射性廃棄物に
より引き起こされる一般公衆の被曝が,事故時のものとして社会通念上許容し得る
一定水準の範囲内であるかどうかの問題であるといえる。
2 加工施設指針等の内容(乙14,15)
 核燃料施設基本指針3は,事故時条件として,核燃料施設に最大想定事故が発生
するとした場合に一般公衆に対し過度の放射線被曝を及ぼさないことを求めてい
る。そして,この点につき,加工施設指針3は次のように定めている。
(1) 事故の選定
 ウラン加工施設の設計に即し,(a)有機溶媒,水素ガス等の火災・爆発,
(b)六フッ化ウラン,二酸化ウラン粉末等の飛散,漏洩,(c)自然災害等の事
故の発生の可能性を技術的観点から十分に検討し,最悪の場合技術的にみて発生が
想定される事故であって一般公衆の放射線被曝の観点からみて重要と考えられる事
故を選定すること。
(2) ウラン総放出量の計算
 上記で選定した事故のそれぞれについて,次の事項に関し十分に検討し,安全裕
度のある妥当な条件を設定して,ウランの総放出量を計算すること。
ア ウランの形態・性状及び存在量
イ 事故時の閉込め機能(高性能エアフィルタ等の除去系の機能を除く。)の健全

ウ 排気系への移行率
エ 高性能エアフィルタ等除去系の捕集効率
(3) 被曝線量の評価
 上記(1)で選定した事故のうち,(2)の計算により最大のウラン総放出量を
与える事故を最大想定事故として設定し,当該最大想定事故時のウランの総放出量
からみて,十分な安全裕度をみた事故時の拡散条件を考慮しても一般公衆の被曝線
量が極めて小さくなることが明らかな場合には,被曝線量の評価は要しないものと
する。これ以外の場合には,十分な安全裕度のある拡散条件等を設定して一般公衆
の被曝線量を計算し,一般公衆に対し,過度の放射線被曝を及ぼさないことを確認
すること。
3 本件安全審査の内容
 証拠(乙9,75,証人A)によれば,本件安全審査では,本件施設における最
大想定事故の際の公共の安全確保について,次のとおり,事故の選定,ウラン放出
量及び一般公衆への影響についてそれぞれ検討を行ったものと認められる。
(1) 事故の選定
ア 本件許可申請書では,次のとおり,種々の事故の発生について検討を行った上
で,本件施設において最悪の場合技術的にみて発生が想定される事故であって一般
公衆の放射線被曝の観点からみて重要と考えられる事故として,均質・ブレンディ
ング設備において中間製品容器が均質槽内に設置され加熱状態にあるときに均質槽
外部の緊急遮断弁に接続している配管が破損した場合を想定することとしている。
(ア) 本件施設の各設備のうち,六フッ化ウラン処理設備では,六フッ化ウラン
を大気圧以下で取り扱うので,設備・機器の故障等により六フッ化ウランが設備外
へ漏洩することはない。
(イ) 均質・ブレンディング設備は,工程内部で六フッ化ウランを大気圧以上の
圧力で扱っており,設備・機器が故障した場合,六フッ化ウランが漏洩することが
ある。
(ウ) ウラン貯蔵庫では,落下試験によってシリンダの強度上の安全性が確認さ
れている範囲内に吊り上げの高さを制限するので,六フッ化ウランシリンダ類が運
搬中に落下したとしても六フッ化ウランの漏洩が発生することはない。
(エ) カスケード設備は,工程内部の六フッ化ウランの圧力が大気圧以下である
上,気密性能に係る故障として考えられる遠心分離機の回転体の破損の場合におい
ても外筒の真空気密性が維持される設計とされ,破損試験により強度が確認されて
いるので,六フッ化ウランの漏洩が発生することはない。
(オ) 気体放射性廃棄物の排気設備では,排気用モニタにより排気中の放射性物
質濃度を測定しており,異常時には自動的に警報を発するようにしてあり,また,
高性能エアフィルタの異常を防止するために,差圧計によりその前後の差圧を測定
する。高性能エアフィルタが破損した場合には,その排気フィルタユニットの使用
を停止するが,通常時に使用する排気フィルタユニットの数は余裕を含んでいるの
で,一部を停止しても排気性能上の問題はない。
 排風機が故障により停止した場合は,予備機が自動起動して正常な運転を継続す
るので,室内の空気が排気設備を通らずに周辺環境へ漏れることはない。
 排気設備の起動時には排風機が送風機より先に起動し,停止時には送風機が排風
機より先に停止するインターロックを設けるので,第1種管理区域の負圧は維持さ
れる。
(カ) 本件施設の液体廃棄物は,管理廃水処理設備における,排水の漏洩防止対
策及び漏洩拡大防止対策により,許容濃度以上の放射性液体廃棄物が周辺環境へ漏
れ出ることはない。
(キ) 自然現象等による事故については,本件施設の位置及び標高から洪水,高
潮及び津波による影響はなく,また,本件施設で採られる建物・構築物及び設備・
機器の耐震設計によれば,地震が起こった場合でも六フッ化ウランは配管等に閉じ
込められており災害が起こることはない。なお,過去の地震の記録から本件敷地周
辺では大地震のおそれは極めて小さく,また,仮に大地震により配管等の破損が生
じたとしても一般公衆への被曝による影響は小さい。
 このほか,台風及び積雪については,これに十分耐える設計とするので台風及び
積雪による事故のおそれはなく,雷についても,適切な接地設計等により本件施設
の安全性を損なうおそれはない。
 本件施設の建物の支持地盤は,十分な地耐力を有する鷹架層の砂岩・凝灰岩類で
あり,過去に地滑り,陥没の発生した例もなく施設に影響を与えるような断層も認
められない。また,本件敷地の造成工事は,排水工事,法面工事等において地滑
り,陥没等の対策を十分施すので地盤を原因とする事故のおそれはない。
(ク) 本件施設の建物は,耐火建築物又は簡易耐火建築物とし,設備・機器は不
燃性又は難燃性材料を主として使用する。加熱する設備は,発火源とならないよう
過熱防止装置等を設け,危険物等はウラン濃縮建屋及びウラン貯蔵建屋から離れた
倉庫等に保管する。施設内で火災が発生した場合でも,施設内では引火性又は可燃
性の物品の持込み量を常時制限し,また,自動火災報知設備及び消火設備を設置し
て,初期消火活動により直ちに消火可能であるから,火災が拡大するおそれはな
く,六フッ化ウランが設備の外へ漏洩する事故には至らない。
 なお,本件施設は,民家及び他の施設から1キロメートル以上の距離をおいて独
立して位置し,事業所敷地西側の石油備蓄基地からも約4キロメートル離れている
ので,類焼のおそれはない。
(ケ) 本件施設においては,外部電源喪失による事故への防止対策を行うので,
外部電源喪失による事故によって災害が起こることはない。
(コ) 本件施設において,誤操作により臨界管理の制限条件を超える可能性があ
るのは濃縮度条件のみであるが,誤操作により流量又は圧力が規定値を超えた場合
には,インターロックにより濃縮ウランの生産を停止するので,誤操作により臨界
に達することはない。また,仮にインターロックの故障によるすべてのカスケード
の濃縮度が制限値である5パーセントを超え,10パーセントの濃縮状態が製品コ
ールドトラップへの充填期間中続いたとしても,コールドトラップ等の配列モデル
における実効増倍率は0.95以下であり,また,この間に異常の検知は十分可能
である。したがって,万一の場合を想定しても臨界に達することはない。そのほ
か,本件施設では,臨界事故防止対策によりいかなる場合でも安全であるような十
分な設計と管理が行われるので,臨界事故が起こることはない。
イ 本件安全審査では,本件許可申請書における上記の検討内容を確認し,その内
容が相当であって,本件施設において技術的にみて発生が想定される事故のうち最
大のウラン放出量を与える事故として,均質・ブレンディング設備において,中間
製品容器が均質槽内に設置され加熱状態にあるときに均質槽外部の緊急遮断弁に接
続している配管が破損した場合を想定することは妥当であると判断した。
(2) ウラン放出量
ア 本件許可申請書では,次のとおり,上記の最大想定事故が発生した場合のウラ
ンの放出量について検討を行っている。
(ア) 均質・ブレンディング設備の均質槽の中間製品容器へ続く配管が破損した
場合,六フッ化ウランは,配管部の周囲を覆っている配管カバーの内部に漏洩し,
空気中の水分により加水分解してフッ化ウラニルとフッ化水素となる。六フッ化ウ
ランの漏洩は,配管カバー内のフッ化水素が工程用モニタにより検知され緊急遮断
弁が閉止するまで継続する。
 配管カバー内からの排気は,第1種管理区域を負圧に維持するための排気設備に
より施設外へ放出されるが,上記の工程用モニタがフッ化水素を検知した場合,排
気設備内で局所排気設備による処理が追加されるようラインが自動的に切り替わ
り,プレフィルタ1段,フッ化水素吸着器及び高性能エアフィルタ1段をそれぞれ
経由してから通常の排気処理(プレフィルタ及び高性能エアフィルタ各1段)が行
われることとなる。
(イ) 漏洩する六フッ化ウランの量の算出条件及び算出過程は次のとおりであ
る。
a 中間製品容器内の六フッ化ウランの温度は摂氏94度とする。
b 配管内径は7.8ミリメートルとする。
c 漏洩部からのガス状六フッ化ウランの放出速度は,圧縮性流体のノズルの式に
より毎秒約114グラムとなり,この速度は放出とともに減少するが,同じ速度で
放出し続けるものとする。
d 漏洩継続時間は,工程用モニタにより漏洩を検知し緊急遮断弁を閉止するまで
の時間として,30秒とする。
e 上記の条件の下で六フッ化ウランの漏洩量を算出すると,3.42キログラム
となるが,これを安全側にみて5キログラムとすると,漏洩した六フッ化ウランは
全量加水分解して4.38キログラムのフッ化ウラニルとなり,ウラン量にして
3.38キログラムとなる。
f フッ化ウラニルの発生量の50パーセントは排気設備のダクト内壁面に付着
し,残量が局所排気設備の高性能エアフィルタで処理され,さらに通常運転時の排
気ラインから放出されるが,このときの捕集効率を,高性能エアフィルタ2段で9
9.999パーセントとみる。その結果,施設外に放出される総ウラン量は0.0
17グラムとなり,その放射能量は,0.046マイクロキュリーとなる。
(ウ) このほか,漏洩した六フッ化ウランから生じるフッ化水素が高性能エアフ
ィルタのガラスウールを腐食してその捕集効率を低下させるおそれについては,局
所排気設備のフッ化水素吸着器の除去効率が99.99パーセントであることか
ら,5キログラムの六フッ化ウランから生成する1.1キログラムのフッ化水素の
うち,高性能エアフィルタを通過するフッ化水素は,0.11グラムであり,高性
能エアフィルタ1枚の効率の低下をもたらすフッ化水素の量が69グラム以上であ
るとの知見からすると,高性能エアフィルタの効率が低下することはない。
イ 本件安全審査では,本件許可申請書における上記の算定条件が放出速度,六フ
ッ化ウランの漏洩量及び高性能エアフィルタの捕集効率の点において安全裕度をと
っており,ウランの施設外への放出量の計算結果は妥当であると判断した。
(3) 一般公衆への影響
 本件安全審査では,上記の0.017グラムというウラン放出量は極めて少な
く,一般公衆の被曝線量は十分な安全裕度のある事故時の拡散条件を考慮しても極
めて小さいと判断した。
4 被告の主張に対する判断
 上記2及び3で認定した事実によれば,公共の安全確保対策に関する本件安全審
査で用いられた具体的な審査基準である加工施設指針3は,当該ウラン加工施設に
ついてその設計に即し各種の事故要因を技術的観点から十分に検討し,最悪の場合
技術的にみて発生が想定される事故であって一般公衆の放射線被曝の観点からみて
重要と考えられる事故を選定するよう求め,その事故を想定した場合のウランの総
放出量からみて十分裕度のある事故時の拡散条件を考慮しながら一般公衆の被曝線
量について検討することとしており,この内容それ自体に不合理な点は見当たらな
い。また,この点に関する本件安全審査の調査審議及び判断の過程も,上記指針の
定めに沿って,各種の事故要因を検討した上で事故の選定を行い,当該事故時に想
定されるウラン放出量を求めた結果,その量は極めて少なく,一般公衆の被曝線量
は十分な安全裕度のある事故時の拡散条件を考慮しても極めて小さいと判断したも
のであり,それ自体に看過し難い過誤,欠落があるとは認められない。
5 原告らの主張に対する判断
(1) 原告らは,加工施設指針3について,最大想定事故として複合事故の可能
性を想定していないことを問題点として指摘する。
 しかし,原告らのいう複合事故が,全く独立の複数の原因が同時に生じることに
より発生する事故を指すのであれば,そのような事故が生じる確率は極めて小さい
というべきであるから,加工施設指針3が独立の複数の原因による事故想定を求め
ていないからといって,格別不合理ということはできない。また,ある一つの事故
原因が連鎖的に他の事故要因を招来して事故を拡大させるような事象については,
これが技術的にみて発生が想定されるような事故であれば,加工施設指針3は,そ
れを事故選定の対象に含めているということができる。
 このほか,原告らは,一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場
合に被曝線量の評価を不要としていることをもって,被曝線量による規制を放棄し
ている旨主張するが,加工施設指針3が被曝線量の評価を不要としているのは,一
般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合においてのことであっ
て,この場合にも一般公衆の被曝線量は極めて小さい限度に規制されているという
ことができるから,原告らの主張は当たらないというべきである。
(2) 次に,原告らは,本件安全審査が妥当であるとした最大想定事故の選定は
安易であり,ほかにも地震や航空機事故が原因となって施設自体が破壊されるおそ
れがあるとして,本件安全審査に重大な違法があると主張する。しかし,前記認定
のとおり,本件安全審査において最大想定事故を選定する過程においては,他の様
々な要因による事故の可能性について検討が加えられているから,これをたやすく
安易と評価することはできない。また,原告らが主張する事故のうち地震を原因と
するものについては前記のとおり検討が加えられ,本件施設における各種の耐震設
計に照らし地震が起こった場合でも災害が起こることはなく,また,大地震により
配管等の破損が生じたとしても一般公衆への被曝による影響は小さいことが確認さ
れており,この点における本件安全審査の判断に過誤,欠落があるとは認められな
い。このほか,航空機事故による施設自体の破壊のおそれについては,そのような
事故の発生確率が十分に低いことが本件安全審査において確認されていることは前
記のとおりであるから,これを技術的にみて発生が想定される事故として扱わなか
った本件安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるとはい
えない。
(3) 原告らは,原告らが想定した施設全体が破壊されて遮断弁やフィルタの機
能が喪失される事故では,本件施設に貯蔵されているウランの大部分が環境中に放
出されることが避け難く,その場合には施設から600キロメートル離れた東京で
も一般公衆の被曝線量は0.13レムとなると主張するが,そのような事態をもた
らす原因として原告らが主張する航空機事故等は,本件安全審査において最大想定
事故として選定の対象となっておらず,その選定過程における本件安全審査の判断
に看過し難い過誤,欠落がないことは上記にみたとおりであるから,上記主張は,
最大想定事故として選定されない事故に関する点をいうものにすぎず,前提を欠き
失当というべきである。
第5 平常運転時の被曝低減に係る安全性確保対策
1 はじめに
 本件施設に求められる前記の意味における安全性のうち,平常時の被曝低減に係
るものは,本件施設から直接外部に放出される放射線による被曝のほか,本件施設
から外部に排出される放射性物質及び放射性廃棄物により引き起こされる被曝が,
社会通念上許容し得る一定水準以下にまで低減される対策が施されているかどうか
の問題であるといえる。
2 加工施設指針等の内容(乙14,15)
(1) 核燃料施設基本指針2は,平常時条件として,核燃料施設の平常時におけ
る一般公衆の被曝線量が実用可能な限り低いものであることを求めている。加工施
設指針2は,この点について,排気中のウランと排水中のウランとに分けて,一般
公衆の被曝について次のとおり定めている。
ア 排気中のウランによる一般公衆の被曝
(ア) ウラン加工施設で取り扱うウランの形態,性状及び取扱量,工程から排気
系への移行率並びに高性能エアフィルタ等除去系の捕集効率を考慮して排気に含ま
れて放出されるウランの年間放出量を算定すること。
(イ) 上記(ア)で求めたウランの年間放出量からみて,十分な安全裕度のある
拡散条件を考慮しても,一般公衆の被曝線量が極めて小さくなることが明らかな場
合には,被曝線量の評価は要しないものとする。
(ウ) 上記(イ)以外の場合には,適切な方法により一般公衆の被曝線量を計算
し,実用可能な限り低いものであることを確認すること。
イ 排水中のウランによる一般公衆の被曝
(ア) ウラン加工施設から排水に含まれて放出されるウランの年間放出量又は年
間平均濃度からみて,十分な安全裕度のある拡散条件を考慮しても,一般公衆の被
曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には,被曝線量の評価は要しないも
のとする。
(イ) 上記(ア)以外の場合には,適切な方法により一般公衆の被曝線量を計算
し,実用可能な限り低いものであることを確認すること。
(2) 核燃料施設基本指針7は,放射性廃棄物の放出管理について,核燃料施設
においては,その運転に伴い発生する放射性廃棄物を適切に処理する等により周辺
環境へ放出する放射性物質の濃度等を実用可能な限り低くできるようになっている
ことを求め,加工施設指針7は,この点について次のように定めている。
ア 放射性気体廃棄物の放出管理
 排気に含まれて周辺環境へ放出されるウランを実用可能な限り少なくするため,
高性能エアフィルタ,エアウォッシャ等の適切な除去設備を設けること。特に,粉
末ウラン処理工程等ウランの排気系への移行率が高いと考えられる工程からの排気
系には,2段以上の高性能エアフィルタを設けること。
イ 放射性液体廃棄物の放出管理
 排水に含まれて敷地境界外へ放出されるウランを実用可能な限り少なくするた
め,凝集沈殿設備,ろ過設備,蒸発濃縮設備,希釈設備,イオン交換設備等の適切
な廃液処理設備を設けること。
(3) 核燃料施設基本指針8は,貯蔵等に対する考慮として,核燃料施設におい
ては放射性物質の貯蔵等による敷地周辺の放射線量を実用可能な限り低くできるよ
うになっていることを求めている。この点につき,加工施設指針8は,六フッ化ウ
ラン,二酸化ウラン,燃料集合体等の加工原料若しくは加工製品の貯蔵又は放射性
廃棄物の保管廃棄に起因する放射線量をウラン加工施設敷地境界外における人の居
住する可能性のある地点において,十分な安全裕度のある条件を設定して計算する
こととし,その値が実用可能な限り低いものであることを確認することとしてい
る。
(4) 核燃料施設基本指針9は,放射線監視につき,核燃料施設においては放射
性廃棄物の放出の経路における放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が
講じられていること及び放射性物質の放出の可能性に応じ周辺環境における放射線
量,放射性物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていることを求め
ている。この点につき,加工施設指針9は,次のように定めている。
ア 放出口等における監視対策
 気体廃棄物及び液体廃棄物の放出口又はその他の適切な箇所において,それぞれ
ウランの濃度等を適切に監視するための対策が講じられていること。
イ 周辺環境における監視対策
 ウランの放出の可能性に応じ,周辺環境における放射線量,ウランの濃度等を適
切に監視するための対策が講じられていること。
3 本件安全審査の内容
 証拠(乙9,75,証人A)によれば,本件安全審査では,本件施設の平常運転
時の被曝低減に係る安全性について,次のとおり,放射性廃棄物の管理,貯蔵等に
対する考慮及び平常時の公衆に対する被曝線量の評価の各側面から検討が行われた
ものと認められる。
(1) 本件安全審査では,次の事項を確認した。
ア 放射性廃棄物の管理
(ア) 本件施設の第1種管理区域からの排気は,排気設備により排気ダクトを通
じてプレフィルタ及び高性能エアフィルタで処理をした上で排気塔から排出される
とともに,排気塔の直前に設置された排気用モニタで排気中の放射性廃棄物の濃度
を連続的に監視する仕組みとなっている。また,均質室の均質槽及び均質槽配管カ
バーの内部からの排気については,平常時は上記の排気設備で処理されるほか,工
程用モニタにより六フッ化ウランの漏洩が検知された場合には,プレフィルタ,フ
ッ化水素吸着器及び高性能エアフィルタから構成される局所排気装置を経由した上
で上記の排気設備で処理されることとなっている。
 次に,本件施設の各工程からの排気は,四つの排気系統ごとに,ケミカルトラッ
プ(フッ化ナトリウム)により,あるいはケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)
とコールドトラップにより六フッ化ウランの除去が行われた上,さらに上記の排気
設備による処理を経て排出されることとされている。
 このほか,本件施設では,フィルタの目詰まりへの対策として,プレフィルタ及
び高性能エアフィルタの前後の差圧を測定することにより目詰まりを監視すること
とされているほか,高性能エアフィルタについては,交換後に捕集効率の測定を行
うこととされている。また,ケミカルトラップ(フッ化ナトリウム)については,
出口にウラン検出器を取り付けて,性能に異常がないことを確認することとされて
いる。
(イ) 本件施設から排出される放射性液体廃棄物としては,管理区域で付随的に
発生する分析廃水,洗缶廃水及び手洗水等の廃水があるほか,使用済の洗浄用溶剤
などがある。このうち,廃水の発生量は年間で約850立方メートルであり,本件
施設では,年間の処理能力が約3000立方メートルの管理廃水処理設備を設置す
ることとしている。
 上記の管理廃水処理設備は,凝集沈殿槽,砂ろ過塔,ウラン吸着塔等から構成さ
れており,上記の管理区域からの廃水は,ここで必要に応じて凝集沈殿,ろ過等の
処理を行った後,放射性物質濃度が許容被曝線量等を定める件所定の周辺監視区域
外の許容濃度以下であることを確認した上,他の一般排水とともに排水口から事業
所外へ放出することとされている。
 また,使用済洗浄用溶剤は,ドラム缶等に収納して密封し,ウラン濃縮廃棄物建
屋に保管廃棄することとされている。
(ウ) 本件施設で発生する放射性固体廃棄物としては,非定常的な作業の際に発
生するウエス,ゴム手袋,ビニールシート,使用済フッ化ナトリウム,スラジ(汚
泥)等がある。これらは,可燃性のものと不燃性のものに区分され,それぞれドラ
ム缶等の容器に収納してウラン濃縮廃棄物建屋に保管廃棄することとされている。
本件施設における固体放射性廃棄物の年間発生予想量は200リットルのドラム缶
換算で約700本であるのに対し,上記建屋の保管能力は約4700本である。
 このほか,ドラム缶等の容器に収容不可能な大型の個体放射性廃棄物は,プラス
チックシート等で密封し,さらに二重包装をして上記建屋に保管廃棄することとさ
れている。
イ 貯蔵等に対する考慮
 本件施設のウラン及び放射性廃棄物の貯蔵等に起因する被曝線量は,これらの最
大貯蔵量及び工程中のウラン保有量を考慮して安全裕度を見込んだ計算を行った結
果でも,最も近い周辺監視区域境界外の場所でも十分小さい値である。
ウ 平常時の公衆に対する被曝線量の評価
 本件施設からの排気による周辺環境への影響については,ウランの年間取扱量,
排気系への移行率,捕集効率等につき安全裕度をみた条件を設定して算定したとこ
ろでも,排出されるウランはウラン量にして年間0.15グラム,放射能量にして
0.18キュリーであるとの結果となっており,十分な裕度のある拡散条件を考慮
しても,一般公衆への被曝線量は十分小さい。
 また,本件施設の管理廃水処理設備からの排水は,放射性物質濃度が許容被曝線
量等を定める件所定の周辺監視区域外の許容濃度以下であることを確認した上で本
件施設外へ排出されることとなっており,一般公衆の被曝線量は定量的な被曝評価
を行うまでもなく極めて小さい。
エ 放射性物質の放出量の監視
 本件施設では,加工事業規則に基づいて周辺監視区域を設定し,その範囲を標識
等により明示するとともに,当該周辺監視区域において空気中の放射性物質濃度及
び外部放射線量を定期的に測定することとしている。このほか,本件施設では,施
設外環境のモニタリングとして,外部放射線量及び土壌や陸水に含まれる放射性物
質濃度を定期的に測定することとしている。
(2) 本件安全審査では,上記の確認事項のほか,排気及び排水中の放射性物質
に起因する一般公衆の線量当量を試算したところでも線量当量限度等を定める件所
定の周辺監視区域外の線量当量限度である1年間につき1ミリシーベルトの1万分
の1以下であることを確認し,本件施設では,放射性廃棄物の放出管理,貯蔵に対
する考慮,放射線の監視のいずれの側面においても適切な対策が採られていると判
断した。
4 被告の主張に対する判断
 上記(2)で認定した事実によれば,平常運転時の被曝低減対策に係る安全性に
関する本件安全審査において用いられた具体的審査基準である加工施設指針2及び
7ないし9は,ウラン加工施設から排出されるウランによる一般公衆の被曝につい
て,排気中のウランと排水中のウランとに分けて,これらに含まれて環境中へ放出
されるウラン及びこれによる一般公衆の被曝線量を実用可能な限り少なくすること
を求めるとともに,ウラン加工施設におけるウランの貯蔵による敷地周辺の放射線
量の低減を求め,さらに,放射性物質の経路における放射性物質の濃度及び周辺環
境における放射線量等を監視すべきことも定めており,本件施設から外部に排出さ
れる放射性物質及び放射性廃棄物により引き起こされる被曝を社会通念上許容し得
る一定水準以下にまで低減するための対策に関する基準としては,特に不合理な点
は認められない。また,上記3で認定した事実によれば,平常運転時の被曝低減に
係る安全性確保対策に関する本件安全審査の調査審議及び判断の過程も,上記加工
施設指針の内容に沿ったものといえ,これに看過し難い過誤,欠落があるとは認め
られない。
5 原告らの主張に対する判断
(1) 原告らは,加工施設指針2について,一般公衆の被曝線量について絶対的
な条件を定めていない旨主張するが,同指針は,加工施設の平常時における一般公
衆の被曝線量が法令等による一般公衆の被曝線量等の規制値以下であることを当然
に含意した上で,さらに,その中でも実用可能な限り被曝線量が低いことを求めて
いるものと解され,この実用可能な限り低い被曝線量の値がウラン加工施設ごとに
異なり得るものであることを踏まえると,同指針が一般公衆の被曝線量につき定量
的な値を定めていないからといって,これを不合理ということはできない。
 また,原告らは,加工施設指針2が一般公衆の被曝線量が極めて小さくなること
が明らかな場合に被曝線量の評価を不要としていることをもって,被曝線量による
安全規制を放棄している旨主張するが,そもそも,一般公衆の被曝線量が極めて小
さくなることが明らかである以上,一般公衆の被曝低減対策は被曝線量を計算する
までもなくその目的を達しているといえるから,原告らの主張は当を得ていないと
いうべきである。
 このほか,原告らは,加工施設指針2が娘核種による被曝線量を考慮していない
旨主張する。この点,確かに,加工施設指針2は,本件施設からの排気又は排水中
の放射性物質としてはウランのみを想定した内容となっているのは事実であるもの
の,ウランの半減期の長さ(7億400万年(ウラン235)ないしは44億70
00万年(ウラン238))に照らすと,加工施設指針2がウラン加工施設の排気
中の放射性物質による被曝の影響の低減を求めるに当たり,放射性物質の年間放出
量の算定をウランのみに着目して行うこととしていることを格別不合理と評するこ
とはできない。したがって,上記主張も理由がない。
(2) 原告らは,加工施設指針7及び8が,放射性物質の濃度や放射線量につき
具体的な目標を定めることなく,実用可能な限り低減できれば足りるとし,また,
加工施設指針9が周辺環境等の放射性物質の濃度や放射線量の監視対策が適切なも
ので足りるとしており,環境安全のために最低限どのような目標が必要かという視
点は皆無である旨主張する。しかしながら,ウラン加工施設から放出される放射能
の量や放射性物質の濃度を実用可能な限り低く押さえた場合,その放射能量や濃度
は,施設の種類や規模,用いられる技術等により多様であることは避けられず,ま
た,放射性物質の濃度や放射線量を監視するための方策も多種多様というべきであ
ることや加工施設指針がウラン加工施設の基本設計の安全性を審査するための基準
として原子力安全委員会ないしは核燃料安全専門審査会で用いられるものであるこ
と等からすると,加工施設指針7ないし9が環境安全のために最低限の目標値を定
めていないからといって,これを格別不合理ということはできない。
 また,原告らは,加工施設指針7ないし9が,安全管理の対象としてウランのみ
を念頭に置き,フッ化水素など他の有害物質について考慮対象外としていると主張
するが,これらの指針は,もとより放射性廃棄物の放出管理,放射性物質の貯蔵に
対する考慮,放射線監視といったウランの放射性物質としての性質に着目して設け
られている基準であるから,これらの基準がフッ化水素など他の物質の化学的毒性
や劇物性に着目した内容となっていないからといって,当該指針を不合理というこ
とはできない。そして,環境との関係で,原告らが指摘するような放射性物質以外
の有害物質の排出等をいかに低減させるかの問題は,他に当該物質の排出規制等を
定める法令があればその場面で検討されれば足りるし,特に規制のない物質につい
て殊更規制法等の原子力関連法令が規制を加えているとも解されないから,加工施
設指針において他にもフッ化水素等の排出規制を内容とした指針がないことをもっ
てしても,加工施設指針を不合理という余地はない。
 よって,原告らの主張は失当である。
(3) 原告らは,本件許可申請書が排気及び排水中の放射性物質並びに本件施設
に貯蔵されている放射性廃棄物からの放射線による一般公衆の被曝線量の評価やこ
れに対する対策に触れておらず,これを是認した本件安全審査は違法であると主張
する。
 しかし,上記(1)でみたとおり,本件施設の排気又は排水中に含まれるウラン
の年間放出量等からみて十分な安全裕度のある拡散条件を考慮しても一般公衆の被
曝線量が極めて小さくなることが明らかな場合には被曝線量の評価を不要とする加
工施設指針2の内容が不合理であるとはいえないから,本件安全審査において,本
件施設の年間の排気中のウラン放出量を試算し,十分な裕度のある拡散条件を考慮
しても,一般公衆への被曝線量は十分小さいと判断し,また,本件施設の管理廃水
処理設備からの排水の放射性物質濃度が許容被曝線量等を定める件所定の周辺監視
区域外の許容濃度以下であることを確認した以上,一般公衆の被曝線量につき定量
的評価を行わなかったからといって,これを不合理ということはできない。
 また,本件安全審査では,本件施設のウラン及び放射性廃棄物の貯蔵等に起因す
る被曝線量がこれらの最大貯蔵量及び工程中のウラン保有量を考慮して安全裕度を
見込んだ計算を行った結果でも最も近い周辺監視区域境界外の場所でも十分小さい
値であることを確認したことは前記認定のとおりであるから,原告らの主張のうち
本件施設内に貯蔵された放射性廃棄物による被曝に関する部分は,前提を欠き失当
である。
(4) 原告らは,本件許可申請書が周辺環境の放射性物質濃度について,測定方
法及び測定結果に対する対処について触れておらず,この点を看過して安全性が確
保されるとした本件安全審査に重大な違法性が存すると主張するが,本件許可処分
の直前に行われた昭和63年7月26日総理府令第41号による改正(平成元年4
月1日施行)により加工事業規則上放射性物質の濃度監視に関することが保安規定
で必要的に定めるべき事項として追加されていたことに照らすと,本件施設につい
ては,放射性物質の濃度の監視に関する事項はこの改正による改正後の加工事業規
則に基づき後続の保安規定の認可手続で審査対象となることが予定されていたとい
うことができるから,本件安全審査が上記事項を加工施設の基本設計の範囲内のも
のとして検討を加えなかったとしても,これを格別不合理ということはできない。
したがって,上記主張は理由がない。
 また,日本原燃六ヶ所事業所敷地内に設置されるダストサンプラやモニタリング
ポイントに関する原告らの主張も,そもそも加工施設指針9によれば周辺環境にお
ける放射性物質の濃度等の監視のための対策は,放射性物質の放出の可能性に応じ
たもので足りることとされているところ,本件施設においては,前記(3)で認定
したとおり,本件施設からの排気に含まれるウランの量は年間で0.15グラムで
あることを確認しており,この量との関係でみると,ダストサンプラ及びモニタリ
ングポイントに関して原告らが指摘する点は,いずれも,これをもって本件安全審
査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるというには及ばないと
いうことができる。
第6 まとめ
 以上本章において検討したところによれば,本件許可申請について規制法14条
1項3号要件適合性を認めた内閣総理大臣の判断には,不合理な点はないものとい
うことができる。
第6章 結論
 以上に認定説示したところによれば,本件許可処分は手続的に適法であり,ま
た,その実体的適法性についても,本件における審理対象となる範囲内において
は,規制法14条1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)要件適合性及び3号
要件適合性を認めて本件許可処分をすることとした内閣総理大臣の判断に不合理な
点はない。
 そうすると,原告甲野太郎を除く原告らのうち,別紙当事者目録記載の番号5
2,53及び63ないし74の合計14名以外の原告らの本件許可処分の取消しを
求める予備的請求に係る訴えは,いずれも原告適格を欠き不適法であるからこれを
却下すべきものであり,その余の上記14名の原告らの予備的請求は,いずれも理
由がなく棄却を免れない。
 よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山﨑勉
裁判官 髙木勝己
裁判官 宮﨑謙

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