弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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  判 決 目 次
被告人の表示(省略)
主  文
理  由
 [凡 例]
第一 罪となるべき事実
  一 本件の背景事実
  (一)石油製品
  (ニ)石油業界
   1 石油製品元売り業者
   2 B2連盟
  (三)石油製品価格
   1原価
   2 原油価格
    (1)原油価格総説
    (2)原油価格の変動
   3 石油製品価格
    (1)石油製品価格形成の特徴
    (2)本件に至るまでの石油製品価格の変動
    (3)本件に至るまでの石油製品価格に対する行政の介入
  二 罪となるべき事実
 (一)被告会社ら
 (ニ)1被告人ら
 (三)共同行為
   1 事実第一の共同行為
    (1)共同行為に至る経緯
    (2)共同行為
   2 事実第二の共同行為
    (1)共同行為に至る経緯
    (2)共同行為
   3 事実第三の共同行為
    (1)第一次共同行為に至る経緯
     (2)第一次共同行為
     (3)第二次共同行為に至る経緯
     (4)第二次共同行為
   4 事実第四の共同行為
     (1)共同行為に至る経緯
     (2)共同行為
   5 事実第五の共同行為
     (1)共同行為に至る経緯
     (2)共同行為
 (四)その他の構成要件事実
第二 証拠の標目(省略)
第三 構成要件事実の認定についての説明
  一 本件の構成要件事実
  二 弁護人らの構成要件事実についての主張
   (一)共同行為についての主張
    1 共同行為の存否についての主張
    2 本件の主体についての主張
    3 共同行為における被告人らの意思の連絡についての主張
    4 「業務に関して」という構成要件についての主張
    5 被告会社A17(株)及び被告人A3についての主張
   (ニ) 「相互に事業活動を拘束し」という構成要件についての主張
   (三) 「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という構成要
件についての主張
   (四) 「公共の利益に反して」という構成要件についての主張
   (五)本件の既遂時期についての主張
  三 争点についての判断
   (一)基礎的事実の認定
    1 0PEC攻勢前の石油製品価格についての行政の介入
    2 昭和四六年頃から本件当時までの石油行政機構
    3 昭和四六年四月の石油製品の値上げ
   (1)値上げの概要
   (2)行政の介入
    4 昭和四六年一〇月、一一月の灯油価格指導
    5 昭和四六年一二月の為替差益還元問題についての行政の態度
    6 昭和四七年四月の石油製品の値上げ
   (1)値上げの概要
   (2)行政の介入
    7 昭和四八年一月の石油製品の値上げ(事実第一)
   (1)値上げ内容の合意に至るまでの経緯と行政の介入
   (2)値上げ内容の合意と行政の介入
    8 昭和四八年二月の石油製品の値上げ(事実第二)
   (1)値上げ内容の合意
   (2)行政の介入
    9 昭和四八年二月の為替差益還元問題についての行政の態度
   10 昭和四八年六月以降の値上げについての指導(いわゆるチヤラ論)
   11 昭和四八年七月(延期後八月)の石油製品の値上げ(事実第三)
   (1)値上げ内容の合意
   (2)行政の介入
   12 昭和四八年一〇月の家庭用灯油価格指導
   13 昭和四八年一〇月、一一月の石油製品の値上げ(事実第四)
   (1)値上げ内容の合意に至るまでの経緯と行政の介入
   (2)値上げ内容の合意と行政の介入
   14 昭和四八年一一月の石油製品の値上げ(事実第五)
   (1)値上げ内容の合意に至るまでの経緯と行政の介入
   (2)値上げ内容の合意と行政の介入
   15 被告人らの価格の会合の出席
   16 本件各値上げの実施
   (ニ)共同行為についての主張に対する判断
    1 共同行為の存否についての主張に対する判断
    2 本件の主体についての主張に対する判断
    3 共同行為における被告人らの意思の連絡についての主張に対する判断
    4 「業務に関して」という構成要件についての主張に対する判断
    5 被告会社A17(株)及び被告人A3についての主張に対する判断
   (三) 「相互に事業活動を拘束し」という構成要件についての主張に対す
る判断
   (四) 「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という構成要
件についての主張に対する判断
   (五) 「公共の利益に反して」という構成要件についての主張に対する判

   (六)本件の既遂時期についての主張に対する判断
第四 法令の適用
第五 弁護人らの構成要件事実以外の点についての主張に対する判断
  一 公訴棄却の申立に対する判断
  (一)独禁法第八五条第三号は違憲であるから、刑事訴訟法第三三八条第一号
または第四号により公訴を棄却すべきである旨の主張に対する判断
  (ニ)本件告発は無効であるから、刑事訴訟法第三三八条第四号により公訴を
棄却すべきである旨の主張に対する判断
  (三)被告会社A22(株)に対する告発は無効であるから、刑事訴訟法第三
三八条第四号により同被告会社に対する公訴を棄却すべきである等の主張に対する
判断
  (四)被告会社ら及び被告人らに適用すべき罰則はないから、刑事訴訟法第三
三九条第一項第二号により公訴を棄却すべきである旨の主張に対する判断
  二 本件の罰則は罪刑法定主義に違反し無効である旨の主張に対する判断
  三 違法性阻却事由がある旨の主張に対する判断
  四 故意が無い旨の主張に対する判断
第六 量刑理由
   別紙
        訴訟費用負担明細表(一)及び(ニ)
        被告会社支店一覧表
        被告人の地位等一覧表(一)及び(ニ)
        値上げ指示状況一覧表(一)ないし(七)
         主    文
     被告人A1及び同A2をいずれも懲役一〇月に、同A3、同A4、同A
5、同A6、同A7、同A8及び同A9をいずれも懲役四月に、同A10、同A1
1、同A12、同A13及び同A14をいずれも懲役六月にそれぞれ処する。
     被告会社A15株式会社及び同A16株式会社をいずれも罰金二五〇万
円に、同A17株式会社を罰金一五〇万円に、同A18株式会社、同A19株式会
社、同A20株式会社、同A21株式会社、同A22株式会社、同A23株式会
社、同A24株式会社、同A25株式会社及び同A26株式会社をいずれも罰金二
〇〇万円にそれぞれ処する。
     被告人全員に対し、この裁判確定の日からいずれも二年間右各懲役刑の
執行を猶予する。
     訴訟費用については、別紙訴訟費用負担明細表(一)及び(二)記載の
とおり被告人ら及び被告会社らにそれぞれ負担させる。
         理    由
 〔凡例〕
 一左に掲げる略称を用いることがあるほか、日常使用される略称を用いることが
ある。
   略 称     正式名称
  独 禁 法   私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
  業  法    石油業法
  通 産 省   通商産業省
  通産大臣    通商産業大臣
  石  連    B2連盟
  OPEC    石油輸出国機構
  OAPEC   アラブ石油輸出国機構
 二 左の上段の文言は下段の意味である。
  製   品   石油製品
  業   界   石油業界
  精製業者    石油精製業者
  元売り業者   石油製品元売り業者
 三 株式会社名については、名称中「株式会社」を単に(株)と表示し、またそ
の他の略称を用いることがある。
 四 証人、被告人、相被告人及び被告会社代表者の当公判廷における供述のう
ち、第三四回公判までに行なわれたものについては公判調書中のその供述部分を証
拠とし、第三五回公判以降に行なわれたものについては当公判廷におけるその供述
を証拠とする。
 五 証拠物の押収番号は、特に記載しない限り、東京高等裁判所昭和五〇年押第
一九五号である。本文中にはその下の符番号のみを示す。
 六 証拠の標目の記載例は左のとおりである。被告人、相被告人、被告会社代表
者及び証人の氏名については、初出のとき以外は原則として姓のみを記載する。
   記載例           上記の意味
  A1供述五八回       被告人A1の第五八回公判廷における供述
  A27供述七五回       相被告人A27の第七五回公判廷における供

  A28供述九四回     被告会社A15(株)代表者A28の第九四回公
判廷における供述
  C1証言三回        第三回公判調書中の証人C1の供述部分
  C2証言一〇五回      証人C2の第一〇五回公判廷における供述
  A2四九・三・一三検一項  被告人A2の昭和四九年三月一三日付検察官に
対する供述調書第一項
 七 別件昭和四九年(の)第一号と併合審理中尋問した証人の当公判廷における
供述を証拠として掲げたときは、右別件についてのみの尋問に対する供述部分は含
まないものとする。
 第一 罪となるべき事実
 一 本件の背景事実
 (一) 石油製品
 石油は、昭和四八年当時わが国におけるいわゆる第一次エネルギーの約七五パー
セントを占めていた重要な物資であり、また、石油化学原料となる重要な役割をも
有している。
 石油製品は、燃料油と潤滑油等の副製品とに大別される。燃料油は、揮発油(ガ
ソリン)ナフサ、ジエツト燃料油、灯油、軽油、E2重油、E3重油及びE4重油
の各油種に分類されるが、灯油には家庭の暖房等に用いられる白灯油と産業用の茶
灯油とがあつて、通産省では、白灯油を民生用灯油ということがあり、昭和四八年
一〇月以降は白灯油を家庭の暖房等に用いられる家庭用灯油と業務用灯油とに分け
ることにし、業界では、同年一月ころから、家庭用灯油を民生用灯油と呼び、灯油
を民生用灯油とその他の灯油とに分けるようになつた。
 石油製品は、その油種ごとに、用途がほぼ一定しており、需要者の種類も異なつ
ている。
 石油製品は、原油を蒸留するなどの精製工程を経て生産されるいわゆる連産品で
あつて、その品質もおおむね均一であるが、原油には、比重の重い重質油とその軽
い軽質油、あるいは硫黄含有量の多いものと少ないものとがあるなどその性状や品
質は多様であつて、特定の原油種から各石油製品の得られる比率、すなわちいわゆ
る得率はほぼ一定している。
 (二) 石油業界
 1 石油製品元売り業者
 わが国においては、石油製品の安定的かつ低廉な供給を確保するためいわゆる消
費地精製方式が採られており、国内で必要とする石油製品の大部分は国内で原油を
精製して生産され、ナフサ及び重油が若干輸入されているにすぎない。
 石油製品を生産、販売する業者は、原油を処理して石油製品を生産する石油精製
業者、主として、石油製品を特約店等に卸販売するほか、これを大口需要家に直接
販売(直売)する石油製品元売り業者及び石油製品を一般需要者に販売する特約店
等に大別されるが、精製、元売り業者には、その両者を兼業するものとそのそれぞ
れを専業とするものとがある。
 元売り業者は、昭和四八年当時においては被告会社一二社とD1(株)及びD2
(株)との合計一四社であつて、このうち被告会社A20(株)、同A21
(株)、同A25(株)及び同A26(株)、D3(株)及びD2(株)の六社が
元売り専業であり、その余の八社が精製、元売り兼業である。また、元売り業者に
は、外国系石油会社がその資本金全額を出資している例えば、被告会社A25
(株)(D4グループの全額出資)、資本金の一部を出資しているいわゆる外資提
携会社の同A24(株)(D4グループの五〇パーセント出資)及び同A23
(株)(D5会社の四八・七。パーセント出資)、外資提携会社に資本金の一部を
出資している同A16(株)(D6会社と資本提携してD7(株)を設立)及び同
A26(株)(D1(株)資本提携してD8(株)を設立)及び外資提携会社が資
本金の一部を出資している同A21(株)(外資提携会社であるD9(株)の五〇
パーセント出資)のようないわゆる外資系会社と外国系資本に関係のないいわゆる
民族系会社とがある。
 精製、販売の過程は系列化されており、元売り専業者も同系列の精製業者を持つ
ており、元売り業者は、自社製品のほか系列会社その他から仕入れた石油製品を販
売しており、精製専業者がその生産した石油製品の一部を需要家に直売するものが
ある(その数量は全販売数量に比して極く少ない。)ほかは、国内で生産される石
油製品のすべてを販売している。
 2 B2連盟
 B2連盟は、昭和三〇年一一月一日に石油業の健全な発達を図ることを目的とし
て設立されたもので、昭和四八年当時、前記元売り会社一四社を含めて精製、元売
り業者合計三一社がその会員であり、同連盟には、役員として、理事会を組織する
理事及び同連盟を代表とする会長等が置かれ、会議として、総会、同連盟の業務執
行に関し会長が必要と認めた重要事項等を審議決定する理事会、理事会から委任を
受けて同連盟の一般業務を処理する常務会及び各種委員会等が設けられていた。
 B2委員会は、同連盟の常設委員会として設けられたもので、原則として各元売
り会社及び同連盟事務局からそれぞれ推薦された正、副各一名の委員によつて構成
され、原則として正委員が出席して、石油製品の販売に係わる法規制に関する事
項、流通機構に関する事項、給油所に関する事項並びに全B1連及び全B3連に関
する事項を審議し、常務会に上申するものとされていた。
 B5委員会は、昭和四四年終りころ、B2委員会の下部機構として設けられたも
ので、被告会社A16(株)、同A15(株)、同A19(株)、同A23(株)
及び同A18(株)からそれぞれ選ばれた委員によつて構成され、原油の低硫黄
化、低硫黄重油の供給可能量と供給コスト等の調査、検討をしていたが、後記のテ
ヘラン協定直後ころから石油値上がり額等のコストアツプ及びその油種別展開等の
計算作業を行なうようになり、スタデイー・グループと呼ばれた。
 (三) 石油製品価格
 1 原価
 国内で生産される石油製品の原価は、原料である原油の購入費、原料の加工費で
ある精製費及び販売費から成り、その合計を精製販売原価という。
 わが国で必要とされる原油は、昭和四八年当時においてはその九九パーセント以
上を海外からの輸入に依存していたので、原油購入費は、いわば原油の輸入費であ
つて、わが国の石油会社が外国の供給先から原油を買入れるときの原則的価格であ
る原油FOB価格(産油国積出港渡し価格)とフレート及び保険料とを合計した原
油CIF価格に輸入費用(関税、輸入金融に伴う金利負担及び輸送途中で生じた原
油の減耗損等)を加えたものである。
 精製費は、主として、精製設備及びそれに関連する諸設備(公害対策設備及び蓄
油設備等)についての資本費負担(投資金利及び償却費)と精製工程で必要とされ
る自家燃料費等であり、販売費は主として石油製品の国内輸送費用等である。
 精製販売原価中、原油購入費、とりわけ原油FOB価格の占める割合が最も大き
く、それは原油FOB価格が上昇するとともに益々増大することになり、ついで資
本費負担の占める割合が大きく、それは石油製品需要の伸びが設備の増大に伴わな
いときは益々増大することになる。
 石油製品は連産品であるため、油種別の原価を理論的に確定することができない
ので、これを求めるのに全油種平均の原価を政策的に各油種に配分する総合原価計
算方法が採られる。そして、その配分方法としては、適当と考えられる石油製品の
或る価格体系を選び、全油種平均原価を右価格体系における油種別価格間の比率と
同一になるよう各油種に配分するいわゆる等価比率方式が用いられることがある
が、右の計算によつて得られた数値を手がかりとしながら、これにさらに政策的配
慮を加えた数値の設定が行なわれるのが通常である。
 (なお、右の手法は、元売り仕切り価格を決めるとき、あるいはコストアツプに
より元売り仕切り価格を引き上げるときにも用いられる。)
 2 原油価格
 (1) 原油価格総説
 わが国が輸入する原油は、中東地域からのものが大部分であり、ついで南方地域
からのものが多く、その他は僅少である。
 中東地域の原油はD10会社と総称される諸会社(以下単にD10会社とい
う。)によつて生産、販売されており、わが国石油会社は、昭和四八年当時におい
てはその殆んど全部をD10会社から購入していた。ところで、D10会社は、古
くから自ら各原油種ごとにバーレル当りドル建てで公表する公示価格を建値として
原油を販売して来たが、昭和二五年後半以降においては、原油生産量の増大に伴つ
て常に公示価格からの値引きが行なわれるようになつた結果、公示価格は建値とし
ての性格を失うに至つたけれども、D10会社の原油販売価格(実勢価格)は、生
産コストと産油国に支払う公示価格に対する一定比率の利権料及び所得税を合わせ
た原油原価(タツクス・ペイド・コスト)に自らの利益を加算した価額であるか
ら、公示価格の上昇に伴つて上昇することに変りはない。そして、中東地域の原油
は、種類が多く、超軽質、軽質、中質及び重質の四種類に大別されるが、その公示
価格は、軽質のものほど高く、重質のものほど安く設定されており、わが国では、
昭和四八年当時においては、軽質及び中質原油を主として輸入していたが、各石油
会社の購入価格は、一般的な長期契約に基づくものについては、原油種類ごとにみ
れば、原油供給者の違いにかかわらず、その間に殆んど差がなかつた。なお、右実
勢価格はドル建てで決められるから、円の対ドル交換レートの変動によりわが国石
油会社の円での購入価格もまた変動する。
 南方地域から輸入する原油は、大部分イントドシア産のミナス原油で、インドネ
シア国営のD11社からこれを購入しているが、含有硫黄量が極度に低いものであ
つて、中東原油に比べて割高であるが、わが国石油会社の購入価格は右D11社が
一律にこれを決定している。
 (2) 原油価格の変動
 イ 前記のように、D10会社の販売する原油の実勢価格が公示価格を下廻るよ
うになつたため、昭和三四年及び昭和三五年に右の実態に合わせることを目的とし
て公示価格の引下げが行なわれたけれども、その後も世界的な供述過剰傾向が続
き、昭和四四年まで公示価格は据え置かれたものの、実勢価格が公示価格より下廻
る情況が続いた。
 ロ ところが、昭和四五年九月以降OPEC(石油輸出国機構、昭和三五年九
月、いずれも産油国であるイラン、イラク、クウエート、サウジ・アラビア及びべ
ネズエラの五カ国により結成され、昭和四六年までの間にいずれも前回カタール、
インドネシア、リビア、アブ・ダビ、アルジエリア及びナイジエリアが順次これに
加盟し、昭和四八年当時の加盟国は一一カ国であつた。)が公示価格の引上げ等に
よる原油値上げ攻勢(以下OPEC攻勢という。)を開始してからは、原油FOB
価格及び同CIF価格の情勢は一変し、D10会社のドル建て原油実勢価格の引上
げが相次いで行なわれるに至つた。中東原油を中心とした原油価格の変動は、おお
むね左のとおりである。
 (イ) 昭和四五年九月にリビアが、トランス・アラビアン・パイプラインの破
損による送油停止と第三次中東戦争以来のスエズ運河閉鎖という情況の下で、生産
削減命令を出したのを背景に、同国内のD10会社と交渉してリビア原油の公示価
格の引上げに成功したのに端を発し、イラン等ぺルシヤ湾岸の産油国も産油会社と
交渉して、同年一一月に公示価格及び所得税率の引上げに相次いで成功した(いわ
ゆるOPEC第一次値上げ)。
 (ロ) OPEC加盟のぺルシヤ湾岸六カ国(イラン、イラク、クウエート、サ
ウジ・アラビア、カタール及びアブ・ダビ)は、昭和四六年二月一四日、D10会
社との間に、公示価格を即時一律引き上げるほか、同年六月一日及び昭和四八年か
ら昭和五〇年まで毎年一月一日にインフレーシヨン調整としてこれを一定額それぞ
れ引き上げること(以下インフレーシヨン条項という。)及び所得税率の改定を含
むテヘラン協定(昭和四六年二月一五日発効)を締結し、公示価格は、右協定によ
り同年二月一五日から一バーレル当り三五ないし四〇・五セント引き上げられ(い
わゆるOPEC第二次値上げ)、さらに、同年六月一日から右協定発効日の翌日の
公示価格に二・五パーセントを上乗せした額となり、これに加えて一バーレル当り
五セント引き上げられた(いわゆるOPEC第三次値上げ)。
 (ハ) 同年八月一五日、アメリカのニクソン大統領が、当時のアメリカの悪化
した国際収支を改善するため、金とドルとの交換の一時停止を含む新経済政策を発
表したことに端を発し、主要国間の通貨交換レートは従来の固定制から変動制に移
行したが、同年一二月一九日のIMF総会において多国間通貨調整に関して合意さ
れたいわゆるスミソニアン協定により同月二〇日から再び固定制に戻り、主要国通
貨の対ドル交換率が大巾に切り上げられることになつた。そこで、右ペルシヤ湾岸
六カ国は、昭和四七年一月一九日、D10会社との間に、右の通貨調整による原油
のドル減価分の産油国に対する補償のため、テヘラン協定の補足として、同月二〇
日から公示価格を八・四九パーセント引き上げるほか、今後毎年三月、六月、九月
及び一月のいずれも一日に再計算したわが国を含む主要九カ国の対ドル交換レート
の平均が上下二パーセントを超えて変動したときには公示価格を調整することなど
を内容とするジユネーブ協定(昭和四七年一月二〇日発効)を締結し、公示価格
は、右協定により右協定発効時点において一バーレル当り一七・五ないし二〇・三
セント引き上げられた(いわゆるOPEC第四次値上げ)。
 (ニ) D10会社は、市況上の判断から、わが国石油会社の一部に対して、中
東地域の軽質及び中質原油について一バーレル当り五セント程度の昭和四六年一〇
月からの値上げを通告し、また、インドネシア産ミナス原油も、同月から、ついで
昭和四七年四月からいずれも値上がりすることになつた。
 (ホ) 中東原油の公示価格は、テヘラン協定のインフレーシヨン条項により昭
和四八年一月一日から引き上げられた(いわゆるOPEC第五次値上げ)。
 (ヘ) OPEC加盟のサウジ・アラビア、アブ・ダビ、クウエート及びカター
ルの四カ国は、昭和四七年一二月二〇日から昭和四八年一月一一日にかけて、それ
ぞれの国内で経営するD10会社との間に、右各国が右D10会社に昭和四八年か
ら二五パーセントの比率で事業参加し、昭和五三年以後昭和五七年まで毎年一月一
日ごとに右比率を高め(最終参加比率は五一パーセントになる。)、産油国が右参
加比率分の採掘原油を取得し、その一部をつなぎ用原油及び過渡的引取り原油とし
てタツクス・ペイド・コストより高く、実勢価格に近い価格でD10会社に買い戻
させ、その余を産油国が直接市場で販売する(この対象となる原油をDD原油とい
う。)ことなどを内容とする事業参加協定(リヤド協定等の総称で、パーテイシペ
イシヨンとも略称される。いずれも昭和四八年一月一日発効)を締結したが、右協
定によつて、テヘラン協定による公示価格の値上がり分以上にD10会社の原油コ
ストが上昇し、その分だけ実勢価格も上昇することになり、昭和四八年一月以降、
D10会社からわが国石油会社に対し、テヘラン協定及び事業参加協定によるコス
ト上昇分に若干の市況調整値上げ分を上乗せして値上げを通告してきた。
 (ト) 国際通貨情勢は、ジユネーブ協定締結以降しばらくは同協定の公示価格
調整の公式が適用されるような変動が生ずることなく経過したが、昭和四八年二月
上旬に再び不安定になり、アメリカが同月一三日にドルの一〇パーセント切下げを
行なつたことなどから、わが国などが翌一四日に再び変動相場制に移行するなどし
て大きく変貌したため、同年四月一日には右協定による公示価格の引上げが行なわ
れた。
 また、同年二月以降、アブ・ダビ及びサウ・アラビア等のDD原油が高値で取引
きされ、D10会社は、同年五月上旬すぎころから、わが国石油会社に対し、右高
値のDD原油への市況さや寄せという形で市況調整値上げを通告して来るようにな
り、一方、当時の世界的な軽質原油の需要の増大と供給の逼迫の情勢を反映して、
D10会社の軽質原油を中心とする市況調整値上げもあり、さらに、ミナス原油も
同年四月一日から値上りした。
 (チ) 前記のペルシヤ湾岸六カ国等は、右の国際通貨変動がジユネーブ協定締
結当時の想定より大巾であつたため、右協定に基づく減価補償を不満とし、交渉団
を結成して、同年四月一三日以降、ドル切下げ分の完全補償を獲得するためD10
会社と右協定の改定交渉を進め、同年六月二日、D10会社との間に、同月一日か
ら昭和五〇年一二月三一日までの期間を対象として、右通貨調整による原油のドル
減価分の産油国に対する補償のため、ジユネーブ協定の改定として、同年六月一日
から同年一月一日現在の公示価格を引き上げるほか、毎月の通貨変動巾の計算を行
ない、その変動が一パーセントを超えたときは公示価格を一定率で調整することな
どを内容とする新ジユネーブ協定(昭和四八年六月一日発効)を締結し、公示価格
は、右協定により同年六月一日から同年一月一日の公示価格に対して一バーレル当
り二七・八ないし三二・〇セント、同年四月一日の公示価格に対して一バーレル当
り八・三ないし九・五セント引き上げられた。
 D10会社は、わが国石油会社に対し、右公示価格の値上がり分の原油値上げ通
告をするにあたつて、市況調整分の値上げを併せて通告する例が多かつた。
 (リ) 右の変動相場制への移行に伴い、昭和四八年一月一日現在で一ドル三〇
二円であつた円の対ドル交換レートは同年二月一四日には一ドル二六五円ぐらいと
なつて円高傾向で推移し、わが国石油会社の原油購入価格は、仕入差益の発生によ
つて実質的には大巾に値下がりすることとなつた。
 (ヌ) 中東原油につき、同年七月一日及び同年八月一日に新ジユネーブ協定に
より公示価格が引き上げられたほか、同年一〇月一日からD10会社の市況調整値
上げがあり、また、南方原油等も同日から値上がりした。
 (ル) 前記のペルシヤ湾岸六カ国は、同年一〇月六日の第四次中東戦争の勃発
を契機として、同月一六日、以後各油種ごとに自ら一方的に定める標準市場価格
(RPB)を基準として、それに対応する公示価格が一・四倍となる関係を維持す
る旨の公示価格の一方的引上げ(例えば、E1については、RPBは三・六五ドル
で、公示価格は、五・一一九ドルになり、同月一日のそれの七〇パーセント増しに
なる。)を宣言した。
 3 石油製品価格
 (1) 石油製品価格形成の特徴
 石油製品価格も経済原則一般に従つて形成されることはいうまでもないが、次の
ような特徴がある。すなわち、イ原料である原油の価格が産油国や原油供給者であ
るD10会社等によつて一方的、政治的に設定されることが多いので、そのため大
きな影響を受けること、ロ石油製品は、競合財、代替財が少なく、かつ必需品的な
性格が強いことなどから価格の需要に対する影響が概して小さいとともに、石油産
業が装置産業であること及び石油製品の性質から、短期的には、精製能力、各油種
間の生産比率及び貯蔵能力に限度があるなどその生産面及び物流面の制約があるの
で、価格の供給に対する影響も概して小さいために、全体として需給と価格の相互
影響による市場秩序の形成を困難にする面があること、ハ石油産業が装置産業であ
るため稼働率を上げて資本費負担を軽減しようとする結果、激しい拡販競争が起り
易く、また、石油製品の均一性のため価格競争という形をとり易いこと、ニ、石油
製品に対する政府の施策によつて影響を受けることが多いことなどである。
 (2) 本件に至るまでの石油製品価格の変動
 昭和二七年に戦前から引続き行なわれて来た石油製品の需給統制及び統制価格は
撤廃され、その後石油製品価格は、全般的に下向傾向を辿りながらも平静に推移し
たが、昭和三〇年代の後半から原油価格の継続的下落と石油製品の供給過剰を背景
とする業界内の競争激化により全般的に水準の低下が目立ち、OPEC攻勢開始に
至るまで低迷状態を続けた。
 OPEC攻勢開始後原油価格の上昇に伴つて石油製品価格も上昇を続けるに至つ
たが、昭和四六年四月にOPEC第一次ないし第三次値上げに伴う原油値上がり分
の転嫁のための値上げが行なわれ、ついで昭和四七年四月にも、OPEC第四次値
上げに伴う原油値上がり分、石油製品需要の鈍化に伴う固定費増加分及び昭和四六
年四月の値上げ未達成分の転嫁のための値上げが行なわれた。
 (3) 本件に至るまでの石油製品価格に対する行政の介入
 イ OPEC攻勢前
 昭和二七年の石油製品の統制撤廃後においても、エネルギー政策等の産業政策上
の見地から、外貨資金割当制度を背景として石油製品の需給及び価格に対する行政
の介入が行なわれ、石油製品の価格体系の形成や一時的な価格抑制等の指導が行な
われて来た
 昭和三七年度下期から原油の輸入自由化が予定されたが、当時の石油事情にかん
がみその後の事態に備える必要から、昭和三七年五月一一日に業法が制定され、同
年七月一〇日に施行された。業法は、石油企業の事業活動を調整することによつ
て、石油の安定的かつ低廉な供給の確保を図り、もつて国民経済の発展と国民生活
の向上に資することを目的とし、その目的達成のため、石油製品の需給につき、石
油供給計画制度並びに精製業及び精製設備等の許可制度をはじめとする規制ないし
行政指導の基準について定めているが、石油製品の価格については、元売り業者等
に対し、毎月石油製品の品種別及び販売先別の平均販売価格を通産大臣に報告すべ
き義務を課している(昭和三八年一月一七日から施行)ほかは、精製業者及び輸入
業者に対して、石油製品の価格が不当に高騰し又は下落するおそれがある場合にお
いて、石油の安定的かつ低廉な供給を確保するため特に必要があると認めるとき
は、通産大臣が石油製品の販売価格の標準額(以下標準価格という。)を定めるこ
とができる旨規定するにとどまる。従つて、業法上は、石油製品の価格の大勢は市
場において形成されることになつている。
 ところで、業法制定後OPEC攻勢に至るまでの間、通産省当局は、業法に基づ
き精製業者の販売する自動車用揮発油及びE4重油の標準価格(精製業者と石油製
品の専属的販売契約を締結する元売り業者の販売価格にも同様適用される。)の設
定、灯油、軽油、E2重油及びE3重油の価格指示(以下指示価格という。)、石
油業界と石油化学業界との間のナフサの取引基準価格の取決め、その他一部油種の
価格抑制の各指導のほか、市場基盤整備及び生産調整による需給関係改善の各指導
等専ら市況是正のための諸種の指導を行なつた。
 ロ OPEC攻勢後
 OPEC攻勢開始後、通産省当局は、主として産業政策的立場に立ちながらも、
物価対策及び民生対策上の配慮を加えて価格抑制的態度をとり、昭和四六年四月の
値上げにあたり、業界に対し、原油コストアツプのうち一バーレル当り一〇セント
分を業界で吸収負担すること(以下一〇セント負担という。)にした平均値上げ巾
を示すとともに、白灯油価格を同年二月から三月の価格水準に据置くことにして
(このような価格を以下指導上限価格という。)右平均値上げ巾を展開した油種別
値上げ巾を示して、それらの遵守を要請し、同年一〇月には民生用灯油の右の価格
据置きの行政指導を公表し、昭和四七年四月の値上げにあたつても価格抑制の方針
を示すなどし、他方、需給調整について業法に基づく規制ないし同法の運用にあた
つての行政指導等を行なつて価格の形成に影響を及ぼした。
 二 罪となるべき事実
 (一) 被告会社ら
 被告会社A15(株)は、昭和一五年設立され、資本金は一五億円であり、同A
16(株)は、明治二一年設立され、資本金は二二五億円であり、同A17(株)
は、昭和一六年設立され、資本金は四億円であり、同A18(株)は、昭和一四年
設立され、資本金は約六〇億円であり、同A19(株)は、昭和八年設立され、資
本金は約一六四億円であり、同A20(株)は、昭和四〇年設立され、資本金は一
八〇億円であり、同A21(株)は、昭和四六年設立され、資本金は一〇億円であ
り、同A22(株)は、昭和三五年設立され、資本金は三〇億円であり、同A23
(株)は、昭和六年設立され、資本金は一五〇億円であり、同A24(株)は、昭
和一七年設立され、資本金は四五億円であり、同A25(株)は、明治三三年設立
され、資本金は約六九億円であり、同A26(株)は、昭和二二年設立され、資本
金は約一七億円であつて、被告会社らは、概ね、本社に販売業務を統轄する部等
(以下販売部等という。)及び直売を担当する直売部等の部、課(以下直売部等と
いう。)を設け、また、特約店等への販売を担当する別紙被告会社支店一覧表記載
の支店及び営業所等(以下支店等という。)を設けている。
 被告会社らは、いずれも石油製品の元売り会社であつて、被告会社A17(株)
がガソリン及びジエツト燃料油を元売りしていないほかは、いずれも燃料油の全油
種をほぼ全国的に元売りしており、昭和四八年における被告会社らの燃料油元売り
数量の合計は、全元売り会社のそれに比し、燃料油全体としては八十数パーセント
であり、油種別にみると、ナフサは七十数パーセント、E3重油は九〇パーセント
前後、その余はいずれも八十数パーセントであつた。
 (二) 被告人ら
 被告人らの後に判示する各関係事実当時における被告会社らにおける地位及び担
当職務、その他の主要な経歴並びにB2委員会における役職は、別紙被告人の地位
一覧表(一)及び(二)記載のとおりである。
 (三) 共同行為
 1 事実第一の共同行為
 (1) 共同行為に至る経緯
 業界における石油製品の値上げの協議は、昭和四六年四月の値上げの際はB2委
員会において行なつたが、その協議について公正取引委員会の審査を受けたことに
かんがみ、昭和四七年四月の値上げのときからは、営業委員長主宰の下に、価格問
題の話合いに参加しないことになつたD1(株)及びD2(株)を除く全元売り会
社、すなわち被告会社らの営業委員ら各社の代表が集つて行なうことにした(B1
連事務局推薦の営業委員及び同局職員は出席せず、議事録も作成しない。以下この
ような会合を価格の会合という。)。
 価格の会合において、昭和四七年一〇月ころから、OPEC第五次値上げに伴う
原油値上がり分と昭和四七年四月以降の値上げ未達成分等を石油製品価格に転嫁し
て昭和四八年一月一日から値上げをするため協議を始め、同年一一月二七日には一
〇セント負担をやめる前提で値上げする方針をとることとしたが、同年一二月四
日、通産省担当官の意向に従つて一〇セント負担を前提として右の平均値上げ巾を
算出し、また、家庭用灯油の価格についての通産省の意向に従つて指導上限価格を
そのまま守る建前で平均値上げ巾の油種別展開を行なう方針を決定した。
 スタデイー・グループは、価格の会合における右の方針に従つて、いずれも一キ
ロリツトル当り、「1」昭和四五年度上期比の昭和四七年一二月三一日までの原油
FOBの値上がり分製品換算九二四円、「2」昭和四六年三月比の昭和四七年一〇
月価格水準(灯油及びE4重油については想定価格)での回収巾四八〇円、「3」
未回収巾(「1」から「2」を引く。)四四〇円、「4」昭和四八年一月からのO
PEC第五次値上げに伴う原油の値上がり巾製品換算一三五円、「5」一〇セント
負担分二四〇円との計算根拠(原油価格については一ドル三〇八円として計算)に
より、昭和四七年一〇月価格比での一〇セント負担後の燃料油平均一キロリツトル
当りの必要値上げ巾(「3」と「4」を足し「5」を引く。)を約三四〇円と算出
したうえ、これを油種別に展開した案を作成した。
 (2) 共同行為
 被告人A1、同A2、同A8、同A12、被告会社A24(株)常務取締役でB
2委員会委員であるA27及び被告人A13は、昭和四七年一二月七日、被告会社
A16(株)において、価格の会合を開き、スタデイー・グループが作成した右原
案に基づいて協議した結果、そのそれぞれ所属する被告会社の業務に関して、右会
合の出席者らが所属する被告会社六社が共同して、いずれも昭和四七年一〇月価格
比で一キロリツトル当り、ガソリン一、〇〇〇円、ナフサ三〇〇円、ジエツト燃料
油一、〇〇〇円、工業用灯油五〇〇円、軽油五〇〇円、E2重油五〇〇円、E3重
油四〇〇円及びE4重油一〇〇円の各巾(額)で、ガソリンについてのみ昭和四八
年一月一六日、その他の油種については同月一日からそれぞれ値上げすることを合
意し、
 さらに、被告人A3、同A4、同A6、同A10、同A11及び同A14並びに
前記の被告人A1、同A2、前記A27及び被告人A13は(ただし、被告人A3
は、ガソリン及びジエツト燃料油については当日の会合に出席した他の右被告人ら
及び右A27と共謀して)、昭和四七年一二月一八日、被告会社A16(株)にお
いて、価格の会合を開き、そのそれぞれ所属する被告会社の業務に関して、右会合
の出席者らが所属する被告会社一〇社が(ただし、ガソリン及びジエツト燃料油に
ついては被告会社A17(株)を除く。)共同して右同様の各値上げ巾(額)及び
実施時期で右各油種の値上げをすることを合意し、
 ここに、右被告人一一名及び前記A27は(ただし、被告人A3は、ガソリン及
びジエツト燃料油については他の被告人ら及び右A27と共謀して)、そのそれぞ
れ所属する被告会社の業務に関して、被告会社らが(ただし、ガソリン及びジエツ
ト燃料油については被告会社A17(株)を除く。)共同して石油製品の値上げを
する合意を遂げ、右それぞれの実施時期にその効力を発生させた。
 2 事実第二の共同行為
 (1) 共同行為に至る経緯
 価格の会合において、昭和四八年一月八日、事業参加協定に伴う原油の値上がり
等のコストアツプ分を石油製品価格に転嫁して値上げするため協議をはじめた。
 スタデイー・グループは、業界全体の全油種平均値上げ巾の計算について、昭和
四五年度以降の固定費負担の増加分を計算要素に含めるとともに、昭和四五年度の
平均コスト、石油製品価格及び利益巾を計算の起点とする新方式(この方式による
と、一〇セント負担を前提とする旧方式による計算結果と実質的に同じくなり、通
産省担当官の意向に沿うことになる。)により、かつ、原油値上がり巾については
中東・南方両原油の平均で算出する中東・南方プール方式で計算し、のちに昭和四
八年一月一八日ころにまとめた、いずれも一キロリツトル当り、「1」昭和四八年
一月一日からの原油値上がり分以外の昭和四八年一月以降の昭和四五年度比コスト
アツプ巾(原油コストアツプは製品換算)一、二三五円、「2」昭和四七年一〇月
価格水準(灯油及びE4重油については想定価格)での昭和四五年度比石油製品価
格の上昇巾九〇〇円、「3」この状態で昭和四八年度を経過する場合の昭和四五年
度比利益減少巾(「1」から「2」を引く。)三三五円、「4」昭和四八年一月一
日からの原油値上がり巾(製品換算)三五四円とする計算根拠(原油価格について
は一ドル三〇二円として計算)とほぼ同様の計算根拠により、昭和四七年一〇月価
格比での燃料油平均一キロリツトル当りの必要値上げ巾「3」と「4」を足す。)
を約六八〇円と算出したうえ、民生用灯油には転嫁しないことにして他の油種に右
金額を展開した案を作成した。
 (2) 共同行為
 被告人A1、同A2、同A4、同A6、同A8、同A10、同A11、同A1
2、前記A27及び被告人A13は、昭和四八年一月一〇日、被告会社A16
(株)において、価格の会合を開き、スタデイー・グループの作成した右原案に基
づいて協議した結果、そのそれぞれ所属する被告会社の業務に関して、右会合の出
席者らが所属する被告会社一〇社が共同して、いずれも昭和四七年一〇月価格比で
一キロリツトル当り、ガソリン三、〇〇〇円、ナフサ三〇〇円、ジエツト燃料油
一、〇〇〇円、工業用灯油一、〇〇〇円、軽油一、〇〇〇円、E2重油一、〇〇〇
円、E3重油五〇〇円及びE4重油二〇〇円の各巾(額)で、ガソリンについての
み昭和四八年二月一六日、その他の油種については同月一日からそれぞれ値上げす
ることを合意し、
 さらに、被告人A3及び同A14と意を通じた被告会社A26(株)直売部直売
二課長F1並びに前記の被告人A1、同A2、同A10、同A11、同A12及び
前記A27は(ただし、被告人A3は、ガソリン及びジエツト燃料油については当
日の会合に出席した他の右被告人ら、右A27及び右F1と共謀して)、同年一月
一八日、B1連において、価格の会合を開き、そのそれぞれ所属する被告会社の業
務に関して、右会合の出席者らが所属する被告会社八社が(ただし、ガソリン及び
ジエツト燃料油については被告会社A17(株)を除く。)共同して、右同様の各
値上げ巾(額)及び実施時期で右各油種の値上げをすることを合意し、右F1は翌
一九日ころ被告人A14に右結果を報告し、同被告人は自己の所属する被告会社の
業務に関してこれを了承し、
 ここに、右被告人一一名及び前記A27は(ただし、被告人A3は、ガソリン及
びジエツト燃料油については他の被告人ら及び右A27と共謀して)、そのそれぞ
れ所属する被告会社の業務に関して、被告会社らが(ただし、ガソリン及びジエツ
ト燃料油については被告会社A17(株)を除く。)共同して石油製品の値上げを
する合意を遂げ、右それぞれの実施時期にその効力を発生させた。
 3 事実第三の共同行為
 (1) 第一次共同行為に至る経緯
 前記のように、原油価格は、昭和四八年一月以降上昇し続け、同年四月ころに
は、当時交渉が進められていたジユネーブ協定の改定に伴う値上がりや市況調整に
よる値上がりによつて近く大巾なコストアツプが予想される情勢になつた。
 そして、前記の世界的な傾向と同様、わが国においても昭和四七年下期から軽質
製品に対する需要が増大したのに、原油の軽質化が遅れていたため、昭和四八年二
月から四月にかけて中間留分(灯油、軽油及びE2重油)の需給のタイト化がみら
れるようになり、昭和四八年度下期の中間留分の供給確保をはかるため原油の軽質
化を促進する必要があつたが、前記のように軽質原油の価格が上昇しはじめてお
り、また、同年四月以降農林水産用免税E2重油の輸入価格も値上がりする情況で
あつたのに、行政による民生用灯油の価格抑制指導が行なわれ、また、これと関連
して軽油及びE2重油の価格も低位にあつて、コストの高い軽質原油の輸入促進の
阻害要因になつていたので、業界においては、同年四月半ばころから、中間留分の
価格を軽質原油の輸入促進を刺激(インセンテイブ)しうる程度、すなわち、重質
原油から軽質原油に切り換えることによつてコスト高となる分だけ値上げする必要
があるという議論(インセンテイブ・コスト論)が高まり、価格の会合において中
間留分の値上げについて協議していた。
 スタデイー・グループは、同年五月上旬ころ、インセンテイブ・コスト論に基づ
いて、当時重質原油から軽質原油への切換えの実現可能なイラニアン・ヘビー原油
からイラニアン・ライト原油への切換えを想定して、その場合の右両者の価格差か
ら生ずるコストアツプ分を計算してこれを中間留分に転嫁することにすると、いず
れも一キロリツトル当り、中間留分の増産分だけに転嫁する計算で約二、〇〇〇
円、中間留分全体に均すと約七〇〇円になるという計算結果を出した。
 (2) 第一次共同行為
 被告人A1、同A2、同A3、同A4、同A7、同A8、同A10、同A11、
同A12と意を通じた被告会社A23(株)直売部長F2、前記A27と意を通じ
た被告会社A24(株)販売一部長C3、被告人A13及び同A14は、同年五月
一四日、被告会社A16(株)において、価格の会合を開き、前記のように為替差
益はあるにしても、前記のように当時予想されていたジユネーブ協定の改定に伴う
原油値上がり等のコストアツプを石油製品特に中間留分に転嫁して値上げする必要
があるとして協議したが、当時右コストアツプの額が確定できないため、スタデイ
ー・クループの出した右の計算結果を理由として中間留分の値上げをすることに
し、また、E3重油は、中間留分三〇パーセントとE4重油七〇パーセントを混合
して作るものであるから、中間留分との価格体系上のつり合いからいつてこれも値
上げするのが相当であるという理由でE3重油の値上げもすることにしそのそれぞ
れ所属する被告会社の業務に関して、右会合の出席者らが所属する被告会社一二社
が共同して、いずれも一キロリツトル当り、灯油一、〇〇〇円、軽油一、〇〇〇
円、E2重油一、〇〇〇円及びE3重油三〇〇円の各巾(額)で同年七月一日から
それぞれ値上げすることを合意した。
 (3) 第二次共同行為に至る経緯
 そして、前記のように、同年六月一日から新ジユネーブ協定に伴う原油の値上が
りがあつたが、通産省は、同年六月一八日のB2委員会において、右の原油値上が
りを含めて同月一日までのコストアツプ分を石油製品価格に転嫁して値上げしては
ならず、今後は同年六月比のコストアツプ巾をそのまま平均必要値上げ巾として計
算するのが相当である旨の見解を示したので、中間留分値上げの根拠づけの作業を
していたスタデイー・グループは、同月一八日ころから通産省の右見解に従つて本
格的に作業を進め、同月一日からの新ジユネーブ協定による値上げに伴う値上がり
分を超える市況調整による原油値上がり分と同年七月からの右協定による値上げに
伴う原油値上がり分を併せて計算したところ、同年六月比のコストアツプ巾、すな
わち必要値上げ巾が平均して一キロリツトル当り約二五〇円であり、これを前記の
灯油等四油種に展開するとほぼ右の合意の値上げ巾になるとして、右計算を右値上
げの根拠とし(ただし、家庭用灯油については、同年六月比ではなく、前記の指導
上限価格に対する値上げを意味するものとする。)、同月二五日の価格の会合にお
いて右のとおり説明した。
 ところが、同月二九日ころ、通産省担当官は被告会社らに対して右値上げの実施
を一カ月延期するよう要請し、被告会社A17(株)は同年七月から値上げを実施
したが、その他の被告会社らは右要請に従つて右値上げの実施を延期した。
 (4) 第二次共同行為
 被告人A1、同A2、同A4、同A7、同A9、同A10、同A11、同A12
と意を通じた前記F2、被告人A13及び同A14は、同年七月二日、被告会社A
15(株)において、また、被告人A3及び前記A27並びに前記の被告人A1、
同A2、同A9及び同A11は、同月二三日、右同所において、それぞれ価格の会
合を開き、そのそれぞれ所属する被告会社の業務に関して、右各会合の出席者らが
所属するそれぞれ被告会社一〇社及び六社が共同して、同年八月一日から(ただ
し、被告会社A17(株)は同年七月に引続き)同年五月一四日合意したとおりの
各値上げ巾(額)で前記の灯油等四油種の値上げをすることを改めて合意し、右F
2は、同年七月二日ころに被告人A12に右結果を報告し、同被告人は自己の所属
する被告会社の業務に関してこれを了承した。右第一次及び第二次共同行為によ
り、右被告人一二名及び前記A27は、そのそれぞれ所属する被告会社の業務に関
して、被告会社らが共同して石油製品の値上げをする合意を遂げ、右実施期日にそ
の効力を発生させた。
 4 事実第四の共同行為
 (1) 共同行為に至る経緯
 価格の会合においては、同年八月中旬及び同月二七日、前記のような同年八月の
原油値上がり分や同年一〇月以降予測される原油値上がり分を石油製品価格に転嫁
して同年一〇月以降値上げするため協議をし、値上げをする方針を決めたが、コス
トアツプの油種別展開については、民生用灯油の値上げはあきらめ、その分をガソ
リンへ転嫁することに傾いた。
 スタデイー・グループは、新ジユネーブ協定による同年七月一日及び同年八月一
日の原油値上げに伴う原油値上がり分、同年一〇月以降のD10会社の市況調整値
上げの予測額及び同月以降の南方原油等の値上がり額を合計した同年六月比の原油
コストアツプ額と同年一〇月における昭和四七年度比のフレートの上昇分を合算
し、それから国内経費の減少分を差引いてコストアツプ額を算出し、昭和四八年六
月比の平均必要値上げ巾は製品換算一キロリツトル当り九〇八円であるとしたう
え、通産省担当官の民生用灯油の値上げに反対の意向を忖度して右油種価格への転
嫁を前記の同年八月値上げ分にとどめ、また、通産省担当官の意向に従つてナフサ
価格への転嫁額を多くし、かつ、右価格の会合における大方の考え方に従つて民生
用灯油価格への転嫁分をガソリン価格に転嫁することにして右平均必要値上げ巾を
各油種に展開した案を作成した。
 (2) 共同行為
 被告人A1、同A2と意を通じた被告会社A16(株)販売部次長C1、被告人
A3、同A5、同A7、同A9、同A10、同A11、同A12と意を通じた前記
F2、前記A27と意を通じた前記C3、被告人A13及び同A14は(ただし、
被告人A3は、ガソリン及びジエツト燃料油については当日の会合に出席した他の
右被告人ら並びに右C1、右F2及び右C3と共謀して)、同年九月三日、被告会
社A15(株)において、価格の会合を開き、スタデイー・グループの作成した右
原案に基づいて協議した結果、そのそれぞれ所属する被告会社の業務に関して、右
会合の出席者らが所属する被告会社一二社が(ただし、ガソリン及びジエツト燃料
油については被告会社A17(株)を除く。)共同して、いずれも同年六月比で一
キロ当り、ガソリン三、〇〇〇円、ナフサ一、〇〇〇円、ジエツト燃料油一、〇〇
〇円、民生用灯油一、〇〇〇円、その他の灯油二、〇〇〇円、軽油二、〇〇〇円、
E2重油二、〇〇〇円、E3重油六〇〇円及びE4重油二〇〇円の各巾(額)で、
ガソリンについてのみ同年一一月一日から、その他の油種については同年一〇月一
日からそれぞれ値上げすることを合意し、そのころ、右C1は被告人A2に、右F
2は被告人A12に、右C3は右A27にそれぞれ右合意の結果を報告し、同被告
人ら及び右A27はそのそれぞれ所属する被告会社の業務に関してこれを了承し、
 さらに、被告人A1、同A2と意を通じた被告会社A16(株)販売部長C4、
被告人A3、同A5、同A7、同A9と意を通じた被告会社A20(株)販売部担
当部長C5、被告人A10、同A11、同A12と意を通じた前記F2、前記A2
7、被告人A13及び同A14は、同年一〇月八日、被告会社A15(株)におい
て、価格の会合を開き、同年九月三日の右の合意ののち、D10会社の市況調整値
上げ額が予測を上廻り、同年六月比の全油種平均コストアツプ額が一キロリツトル
当り一、〇九七円となることが判明したが、当時E4重油価格の安値が続いている
状態であつたので、右コストアツプの転嫁不足分の一部をE4重油に転嫁すること
にし、そのそれぞれ所属する被告会社の業務に関して、被告会社らが共同して同年
九月三日に合意したE4重油の右値上げ巾を一キロリツトル当り四〇〇円と修正す
ることを合意し、そのころ、右C4は被告人A2に、右C5は被告人A9に、右F
2は被告人A12にそれぞれ右合意の結果を報告し、同被告人らはそのそれぞれ所
属する被告会社の業務に関してこれを了承し、
 ここに、E4重油を除く右各油種につき同年九月三日ころ、E4重油につき同年
一〇月八日ころ、右被告人一一名及び右A27は(ただし、被告人A3は、ガソリ
ン及びジエツト燃料油については他の被告人ら及び右A27と共謀して)、そのそ
れぞれ所属する被告会社の業務に関して、被告会社らが(ただし、ガソリン及びジ
エツト燃料油については被告会社A17(株)を除く。)共同して石油製品の値上
げをする合意を遂げ、右各実施期日(E4重油につき同年一〇月八日ころ)にその
効力を発生させた。
 5 事実第五の共同行為
 (1) 共同行為に至る経緯
 前記のように、同年一〇月一六日から原油の値上がりがあつたうえ、翌一七日に
はOAPEC(アラブ石油輸出国機構、アラブ産油国計一〇カ国が加盟)諸国が、
原油の生産削減とイスラエルを支持するいわゆる非友交国に対する原油供給の削減
を宣言するなどしたため、当初非友交国とされたわが国においては、原油処理量の
減少による固定費的諸経費の増加のほか、原油積載の混乱、タンカー運航スケジユ
ールの乱れ及びタンカー用燃料費の増加を原因とするコストアツプも加わつて、さ
らに大巾なコストアツプに当面することが予測された。
 価格の会合においては、同月二九日、右の事態に対応するため協議をし、同年一
一月以降石油製品の値上げをすることを決めたが、緊急事態に当面して価格の会合
に被告会社らから出席すべき者が多忙となつたため、今回は従来のように全員で会
合を開いて協議することを止め、営業委員長の被告人A1並びに同副委員長の被告
人A7、同A9及び同A13の四名が協議をして値上げの内容を決め、その他の被
告会社らの代表に個別にこれを連絡して協議したうえ全員で合意する方法をとるこ
とにした。そして、被告人A1ら右四名は、同年一一月一日ころ、ガソリンの値上
げ巾を同年六月比で一キロリツトル当り一万円にすることを合意した。
 スタディー・グループは、原油FOB価格の計算につき、中東原油価格は、石油
関係誌ミドル・イースト・エコノミック・サベイに掲載された各原油のRPBをそ
のまま使用し、各原油の輸入構成比率は、中東原油に比して高値である南方原油の
輸入比率の増加が予想されるけれども、その点を考慮せずに昭和四七年度の実績値
を使用し、また、通産省担当官の意向に従つてFOB価格の上昇をその原油がわが
国に到着した時点において生じたものとみるいわゆる着ベース方式を採り、円レー
トは、昭和四八年一一月二日時点での同年一二月ころ決済の先物レートである一ド
ル二八一円を参考にすることにし、以上の方法によつて同年六月比の平均値上がり
額を算出し、これに供給削減率(原油処理量の供給計画比減)が一五パーセントに
なる場合と二〇パーセントになる場合を予測してそれぞれ計算した固定費負担、フ
レート及びユーザンス金利の上昇分を加え、結局同年六月比の平均コストアツプ額
を製品換算一キロリツトル当り、右一五パーセント減の場合で約四、〇〇〇円、右
二〇パーセント減の場合で約四、三〇〇円とそれぞれ算出したうえ、コストアツプ
の油種別展開については、これより先通産省の指導により家庭用灯油の元売り仕切
り価格が同年九月末価格で凍結されていたので、右油種価格への転嫁はしないこと
にし、また、被告人A1ら右四名の意向に従つてガソリン価格への転嫁額を同年六
月比一キロリツトル当り一万円として右約四、〇〇〇円のコストアツプを油種別に
展開し、いずれも同年六月比一キロリツトル当り、ガソリン一万円、ナフサ六、〇
〇〇円、ジエツト燃料油五、〇〇〇円、工業用灯油、軽油及びE2重油各六、〇〇
〇円、E3重油三、〇〇〇円及びE4重油二、〇〇〇円とした案を作成した。
 (2) 共同行為
 被告人A1、同A7、同A9及び同A13は、同年一一月六日、被告会社A15
(株)において、価格の会合を開き、スタデイー・グループが作成した右原案に基
づいて協議した結果、右供給削減率を二〇パーセントとみることにし、平均コスト
アツプ一キロリツトル当り約四、三〇〇円の油種別展開については、右原案のナフ
サの値上げ巾六、〇〇〇円を五、〇〇〇円に減額し、E4重油の値上げ巾二、〇〇
〇円を三、〇〇〇円に増額して右コストアツプ平均額に合わせ、結局、そのそれぞ
れ所属する被告会社の業務に関して、右会合の出席者らの所属する被告会社四社が
共同して、いずれも同年六月比で一キロリツトル当り、ガソリン一万円、ナフサ
五、〇〇〇円、ジエツト燃料油五、〇〇〇円、工業用灯油六、〇〇〇円、軽油六、
〇〇〇円、E2重油六、〇〇〇円、E3重油三、〇〇〇円及びE4重油三、〇〇〇
円の各巾(額)で、E4重油についてのみ同年一一月一日から、その他の油種につ
いては同月半ばころからそれぞれ値上げすることを合意したうえ、手分けしてその
内容を連絡して了承を得ることにし、直ちに、被告人A1は同A12に、同A7は
同A11及び同A14に、スタデイー・グループの被告会社A15(株)販売部営
業一課長C6は被告人A1の意を受けて同A5に、同A13は同A3、同A10及
び前記A27にいずれも右合意の内容をそれぞれ連絡し、また、スタデイー・グル
ープの被告会社A16(株)黒油課長C2は、その二日か三日後に被告人A1の意
を受けて同A2に報告し、右連絡又は報告を受けた右被告人ら及び右A27は(た
だし、被告人A3は、ガソリン及びジエツト燃料油については被告人A1、同A
7、同A9及び同A13と共謀して)、そのそれぞれ所属する被告会社の業務に関
して、右各被告会社が(ただし、ガソリン及びジエツト燃料油については被告会社
A17(株)を除く。)被告人A1、同A7、同A9及び同A13の所属する被告
会社四社と共同して右合意の内容どおり値上げすることを了承し、ここに、右被告
人一一名及び右A27は(ただし、被告人A3は、ガソリン及びジエツト燃料油に
ついては他の被告人ら及び右A27と共謀のうえ)、そのそれぞれ所属する被告会
社の業務に関して、被告会社らが(ただし、ガソリン及びジエツト燃料油について
は被告会社A17(株)を除く。)共同して石油製品の値上げをする合意を遂げ、
右それぞれの実施時期に(E4重油については同年一一月八日か九日ころまでに)
その効力を発生させた。
 (四) その他の構成要件事実
 被告人らの右各共同行為当時、元売り会社の新規参入は行政指導により抑制され
ており、石油製品の生産及び販売の数量並びに価格につき、業法に基づく規制ある
いは業法の運用として又は同法を背景として行なわれる行政指導等により競争制限
措置がとられてはいたけれども、なお、右各共同行為における値上げの対象である
石油製品の各油種ごとの、元売り段階における、わが国全域にわたる取引分野にお
いて、有効な競争が行なわれていたものであるが、被告人らは、事実第一ないし第
五の各共同行為により被告会社らの事業活動を相互に拘束し、公共の利益に反し
て、右の取引分野における有効な競争を期待することがほとんど不可能な状態をも
たらし、以て一定の取引分野における競争を実質的に制限したものである。
 第二 証拠の標目(省略)
 第三 構成要件事実の認定についての説明
 一 本件の構成要件事実
 本件訴因に適用すべき罰則は、後に判示するように、被告会社らについて昭和五
二年法律第六三号による改正前の独禁法第九五条第一項(法定刑は右改正前の同法
第八九条第一項第一号後段)であり、被告人らについては右改正前の同法第八九条
第一項第一号後段、第九五条第一項(構成要件補充)であつて、本件各訴因の構成
要件事実は、被告会社らのいずれか一つの従業者である被告人らが、その所属する
被告会社の業務に関して、その被告会社がその他の被告会社らと共同して対価を引
上げて相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反し
て、一定の取引分野における競争を実質的に制限することになる行為をすることで
ある。
 二 弁護人らの構成要件事実についての主張
 主張は多岐にわたるが、その主要なものを左に要約する。
 (一) 共同行為についての主張
 1 共同行為の存否についての主張
 右主張の要旨は、被告人らは、被告会社一二社が共同して石油製品の値上げをす
ることになるような合意(共同行為)をしたことはなく、通産省が業界に対して石
油製品価格につきガイドライン方式による行政指導を行なうにあたつて、ガイドラ
インの原案を作成してこれに協力したにすぎないというのである。
 2 本件の主体についての主張
 右主張の要旨は、本件の行為は、元売り業者の代表の集まりとして行なつたもの
ではなく、B2委員会として行なつていたものであるというのである。
 3 共同行為における被告人らの意思の連絡についての主張
 右主張の要旨は、事実第二ないし第四につき、被告人らのうち一部が価格の会合
に出席せず、その被告人らに代つて他の者が出席したことがあるが、この場合その
被告人らにつき共同行為の要件である意思の連絡があつたとはいえず、また、事実
第五については、被告人A1、同A7、同A9及び同A13を除くその余の被告人
らは、右の意思の連絡を欠き、いずれも共同行為をしたとはいえないというのであ
る。
 4 「業務に関して」という構成要件についての主張
 右主張の要旨は、被告人らの行為のうちにはそのそれぞれ所属する被告会社の業
務に関して行なつたものでないものがあるというのである。
 5 被告会社A17(株)及び被告人A3についての主張
 右主張の要旨は、右被告会社は、その石油製品の販売が元売りと流通段階を異に
するから、本件共同行為の主体となる事業者であるとの要件を欠き、また、ガソリ
ン及びジエツト燃料油を販売していないので、右両油種に関しては右の要件を欠く
というものと解される。
 (二) 「相互に事業活動を拘束し」という構成要件についての主張
 右主張の要旨は、共同行為が成立するとしても(この点は第三の二の(三)、
(四)及び(五)についても同じである。)、本件各共同行為は、被告会社らの事
業活動を相互に拘束するものではないというのである。
 (三) 「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という構成要件に
ついての主張
 右主張の要旨は、本件行為は、元売り価格の上限を設定したものであるから、独
禁法の目的から考えて右構成要件にあたらないというのである。
 (四) 「公共の利益に反して」という構成要件についての主張
 右主張の要旨は、本件は、適法な行政指導下における行政協力措置であるから右
構成要件にあたらないというのである。
 (五) 本件の既遂時期についての主張
 右主張の要旨は、不当な取引制限の罪は、共同行為に従つてその内容が実施され
たとき初めて既遂に達するものであるが、本件においては右実施についての立証が
なされていないから、右罪の既遂をもつて論ずることはできないというのである。
 なお、右(二)ないし(五)の所論中共同行為がないことを前提としてその他の
構成要件該当性を争うものがあるが、これらについては触れない。
 三 争点についての判断
 (一) 基礎的事実の認定
 弁護人らの右主張に対する判断のために必要と思われる基礎的事実を左に認定す
る。なお、争点となつている、訴因における販売価格の引上げの決定の有無及びそ
の主体あるいはそれが行なわれた場についての判断は後に譲り、右に対応する事実
につき、一応被告人らの価格の会合における値上げ内容の合意という表現を用いる
ことにする。
 1 0PEC攻勢前の石油製品価格についての行政の介入
 この時期において石油製品価格について行政介入が行なわれたことは前記認定の
とおりであるが、以下この点につき補充する。前掲各証拠、特に第一の一の(三)
の事実につき掲げた関係証拠によると、次の事実が認定できる。
 通産省は、昭和三〇年、石炭をエネルギー源の柱とする炭主油従政策を推進する
ため石油業界に対して重油価格の高値維持を指導し、業界はこれに従つた結果、ガ
ソリン安、重油高の価格体系が形成された。また、通産省は、昭和三一年秋の第一
次スエズ動乱に起因するタンカーフレート及びわが国が輸入する石油製品価格の上
昇に対処するため、昭和三二年二月から約四カ月間の短期間ではあつたけれども、
その不遵守に対しては外貨割当額を削減する等の制裁措置をとることを示しなが
ら、石油製品の価格上昇抑制等の緊急指導を行ない、業界はこれに従つた。つい
で、通産省は、昭和三五年、エネルギー政策を油主炭従へ転換したが、貿易の自由
化が必至となつた情勢の下に、国際競争力を強化するためエネルギー・コストの低
減化を希望する諸産業の要請に応えて、石油業界に対し、重油価格の引下げを強く
指導し、業界はこれに従つた。
 前記認定のように、昭和三七年七月一〇日に業法が施行されたが、その前、通産
省が石油輸入自由化を目前にして昭和三五年度下期の原油輸入に対して余裕のある
外貨割当をし、石油各社も業法によつて設備の新増設につき許可制がとられること
になるため設備の駆け込み的増設を行なつたので、石油各社の激しいシエア拡大競
争が行なわれるに至り、その結果市況は著しく低落して原価を割り込むまでになつ
た。そこで、通産大臣は、昭和三七年一一月一〇日、右の状態を放置するときは、
石油の長期的な安定的供給が困難となるとともに、石炭産業をはじめ関連産業に対
して重大な影響を与えることになるとして、前記のとおり、自動車用揮発油及びE
4重油の標準価格をいずれも一キロリツトル当りそれぞれ一万一、三〇〇円及び
六、八〇〇円とする旨告示し、対象業者に対し、その平均販売価格がこれを下廻つ
てはならない旨指示した。右標準価格は、石油製品の標準価格について諮問を受け
たB4審議会が、官民共同で作成した原案に基づき審議したうえ行なつた答申に従
い、原価ベースの全油種の平均価格を九、八五〇円とし、これを国内価格体系五〇
パーセント、海外価格体系五〇パーセントの割合で算出した価格体系を基準とし
て、基本的には等価比率方式により各油種に配分して求められた額である。
 ところで、通産省は、右告示に先立ち、精製、元売り各社社長から、右標準価格
を遵守すること及びこれに違反したときは制裁に服する旨の同月八日付鉱山局長宛
の誓約書を提出させ、ついで昭和三八年一月一七日、石油業法施行規則の一部改正
により業法第二一条に基づく第一六条を設け、精製、元売り業者に対し、自動車用
揮発油、灯油、軽油、E2重油、E3重油及びE4重油の前月分の品種別及び販売
先別の平均販売価格等を毎月二〇日までに通産大臣に報告すべき義務を課するとと
もに、B4審議会の右の答申の趣旨に則り、同年三月一日ころ、精製、元売り各社
社長に対し、灯油、軽油、E2重油及びE3重油の価格を示し、前記の標準価格が
右の全油種平均の精製販売原価の回収のため定められたことにかんがみ、右指示価
格を充分参考にしたうえ各社の油種別平均販売価格等を届け出るよう求めて事実上
右価格の遵守を要請するなどして、標準価格設定の目的達成のため積極的な行政指
導を行なつた。なお、ナフサについては、石油化学業界やその原局である通産省軽
工業局の反対があつて標準価格は設定されず、指示価格も示されなかつたが、通産
省の依頼によるB4審議会会長F3の斡旋によつて石油業界と石油化学業界との間
に取引基準価格が定められた。また、その他標準価格実施に伴う細部の指導も行な
われた。
 そして、市況は、右標準価格の設定後一時持ち直したものの、昭和三八年度に入
つてから需給バランスの崩れ等の諸般の事情によつて業界におけるシェア拡大競争
が激しくなつたため暴落したが、通産大臣及び通産省担当官は、昭和三九年四月か
ら同年七月にかけ相次いで、業界に対し、過当競争の排除及び標準価格の遵守を求
め、具体的方策まで示して市況是正に努力することを強く要請し、業界もこれに従
つて市況対策に努める一方、同年一月以降の通産省の生産調整の直接指導による需
給関係の改善が進められたこともあつて、同年末から市況は急速に回復し、右標準
価格は昭和四一年二月一五日限りで廃止された。
 通産省は、昭和四〇年以来業界の協力の下に市場基盤整備施策をとり、昭和四二
年から業界に対して販売秩序の維持を要請するなどして市場基盤の整備に努めた結
果、従来のような過当競争は起らなくなつたが、通産省は、昭和四二年一月に被告
会社A15(株)ほか数社のD12(株)への重油の不当安値応札に対する制裁措
置として重油輸入発券を一時留保したり、昭和四四年四月に業界に対して市況是正
のため過当競争を自粛するよう勧告したり、また、昭和四三年度以降問題となつた
石化向ナフサ及び低硫黄E4重油の供給確保のため必要と考えられる右両油種の価
格是正に関して石油業界と需要業界との話合いを指導し、E4重油については成果
を得られなかつたけれども、ナフサについては昭和四四年度下期からの値上げ実現
をみるなど必要の都度市況是正の指導を行なつた。
 2 昭和四六年ころから本件当時までの石油行政機構
 C7証言四二回、C8証言三五回、C9証言四一回、C10証言三五回、昭和四
七年四月一日より同四九年三月三一日までの石油開発課等の各担当者を記載した一
覧表、昭和四七年四月より同四九年三月三一日までの石油計画課等の各担当者を記
載した一覧表、昭和四六年五月一〇日付鉱山石炭局事務分掌規程抜萃(鉱山石炭局
長F4)、昭和四十七年七月一日付鉱山石炭局事務分掌規程の一部を改正する規程
案(鉱山石炭局長C8)及び昭和四八年七月二五日付資源エネルギー庁事務分掌規
程抜萃(資源エネルギー庁長官F5)を総合すると、昭和四六年ころ以降の石油行
政は、昭和四八年七月二四日までは通産省鉱山石炭局(局長は、当初F4、昭和四
六年七月からF6、昭和四七年七月からC8である。)が、昭和四八年七月二五日
以降は同省の外局である資源エネルギー庁(長官はF5である。)がそれぞれ所掌
し、鉱山石炭局に石油関係事務を分掌するため石油計画課(課長は、当初C11、
昭和四六年七月からC12である。)、石油業務課及び開発課が置かれ、昭和四七
年以降は右三課の事務を総括する参事官一名(C9)が置かれたが、同年三月まで
は右参事官と同様の職務を有する大臣官房審議官一名(当初はF7、昭和四六年六
月一五日から右C9)が置かれていたのであり、資源エネルギー庁に石油関係事務
を分掌するための石油部(部長はC10である。)、その下に計画課(課長は、当
初右C12、昭和四八年一〇月一九日からF8である。)、精製流通課及び開発課
が置かれていた。右石油計画課及び石油部計画課は石油に関する政策及び計画の立
案及び標準価格に関する事務を行ない、石油計画課には総括班(班長は、当初C1
3、昭和四七年九月一六日からC14である。)、計画調査班(班長は、当初F
9、昭和四七年七月からF10であり、同年七月以降の同班計画係長はF11であ
る。)及び企業班(昭和四七年四月から振興班となる。)が、石油部計画課には総
括班(班長は右C14である。)、企画振興班及び計画調査班(班長は右F10で
ある。)がそれぞれ置かれ、右各総括班は総括係において課の事務の総合調整に関
すること並びに原油及び石油製品に関する基本政策の立案(石油計画課時代のみ)
等の事務を、右各計画調査班は調査係において石油事情の調査等及び計画課におい
て石油製品の価格に関すること(昭和四七年七月から)等の事務を、企画振興班は
企画係において石油及び石油製品に関する基本政策の企画立案に関すること等の事
務をそれぞれ行ない、かつ、総括班長は重要な事項につき他の班の所掌事務の取り
まとめを行なつていたものであり、石油製品の価格に関する行政は、主として右石
油計画課、石油部計画課、就中右に挙げた各班がこれを掌つていたものである。
 3 昭和四六年四月の石油製品の値上げ
 前掲各証拠、特に第一の一の(三)の事実につき掲げた関係証拠によると、次の
事実が認定できる。
 (1) 値上げの概要
 前記認定のOPEC第一次ないし第三次値上げに伴う原油の値上がりに対応する
ため、業界ではB2委員会において石油製品の値上げについて協議することになつ
たが、値上げ額の計算作業をB5委員会の委員長である前記C1を座長とする前記
のスタデイー・グループに行なわせることにし、右スタデイー・グループがテヘラ
ン協定直後から右作業を始め、B2委員会は、昭和四六年二月二二日ころから右ス
タデイー・グループが作成した原案に基づき協議を進めた結果、同年四月ころ、業
界全体の昭和四五年度上期比の原油(金利負担分を含む。)のコストアツプ平均額
を製品換算一キロリツトル当り一、一〇〇円とし、そのうち一バーレル当り一〇セ
ント(一キロリツトル当り約二四〇円)分を業界で吸収負担することにし、その分
を差引いた約八六〇円につき、まず等価比率方式により各油種に展開したのち、白
灯油価格を同年二月から三月の価格水準に据置き、右油種価格に転嫁すべき分をナ
フサ及びE4重油価格に上乗せ転嫁することにして、いずれも同年三月の各社の販
売実績価格比で一キロリツトル当り、ガソリン二、〇〇〇円、ナフサ七〇〇円、ジ
エツト燃料油一、〇〇〇円、軽油一、〇〇〇円、E2重油一、〇〇〇円、E3重油
八〇〇円、E4重油六五〇円及び副製品一、五〇〇円の各巾で全元売り会社が値上
げすることにした。
 (2) 行政の介入
 イ 当初の抑制姿勢
 通産省は、昭和四六年一月からのOPEC諸国とD10会社との間の原油価格交
渉の推移からみてその値上げが大巾なものとなることが予想されるに至つた同年二
月初めころ、業界に対してD10会社との値上げ額を低くするための交渉に努力す
るよう要請するとともに、F4局長が、当時のB1連会長A28に対し、原油の値
上がりがあつても、その分の石油製品価格への転嫁は、油種別の負担が公平で、し
かも産業政策、物価対策及び民生対策を加味したものであるべきこと及び値上げす
る場合には、業界で勝手にこれを行なわず、通産省に事前に連絡することをそれぞ
れ指示し、また、F12通産大臣が同月ころの国会において原油値上がり分を安易
に製品価格に転嫁しないよう業界を指導している旨発言するなどして、業界に対す
る石油製品の値上げ抑制の姿勢を示した。
 業界においては、通産省の要請に応じ、A15B1連会長ら業界代表四名からな
るいわゆる四人委員会が窓口となり、同月下旬ころからD10会社と原油の値上げ
額を低くするための交渉に入つて努力したが、右交渉は同年三月一八日か一九日こ
ろ不首尾に終り、その後は各社の個別交渉を行なうほかなくなつた。
 口 一〇セント負担指導
 通産省は、同年三月五日ころから、B1連から提出させた昭和四五年度下期の石
油会社の決算見通しの集計資料である「(46・3・5現在)45/下決算見込
(営業報告書ベース)と題する書面」二枚(符二二七号)や石油計画課においてま
とめた昭和四五年度上期から同下期にかけての石油製品価格の値上がり状況につい
ての資料である「石油製品価格値上げ状況(通産省調)」二枚(符一三七号)等に
より業界のコスト負担能力の有無を調査し、当時の経済政策、物価対策及び民生対
策の観点からも検討したうえ、コストアツプ分の一部を業界に負担させるのが相当
であると判断し、C11課長が同月九日ころ当時の営業委員長F13に対し、ま
た、F4局長が同月中旬ころA15会長に対してそれぞれ右の意向を伝えてその実
現を要請した。
 一方業界においては、A15会長が、同年二月上旬ころ、コストアップ分をD1
0会社、わが国石油会社、国及び需要家の四者で、あるいは右四者のうちD10会
社を除く三者でそれぞれ分担せざるをえない旨のいわゆる四方一両損あるいは三方
一両損の考え方を提唱していたが、業界の一部負担に反対する意見も多く、同年三
月九日の時点において通産省に対し右の反対意見を表明したこともあつたが、結局
同月一五日ころにB1連常任理事会において通産省の右要請を受諾することになつ
た。
 ついで、通産省は、原油は値上がりしているけれども、石油製品が昭和四五年度
下期以降ある程度値上がりしていること、D10会社との交渉は悲観的であるけれ
ども、個別的にはなお多少の値引き要素が残つていること及び石油企業に合理化努
力を求めるべきであることなどを総合的に判断して、原油一バーレル当り約一〇セ
ント(製品換算一キロリツトル当り約二三五円)を業界に負担させるとの指導方針
を定め、F7審議官らが昭和四六月三月末ころA15会長に右方針を指示し、ま
た、通産大臣が、同年四月一六日、試算された原油値上がり巾製品換算一キロリツ
トル当り一、一〇〇円のうち原油一バーレル当り約一〇セント分を業界の負担と
し、その残りの一キロリツトル当り約八六〇円を石油製品価格に転嫁する旨の一〇
セント負担を柱とし、かつ、一般消費者向け灯油については価格上昇防止につき所
要の指導を行ない、その他の油種についても便乗値上げが行なわれないよう業界に
強く警告する旨を附記した指導方針を記者会見で発表し、さらに、C11課長が同
月二二日に業界の要望に応じてB2委員会で右方針について説明した。
 ハ 油種別値上げ巾の指導等
 通産省では、F9班長が中心となつて、昭和四六年初めころから原油値上がり巾
及びその油種別展開の計算を進め、また、業界では、同年二月初めころF4局長か
らA15会長に対する公平転嫁案の作成要請もあつて、スタデイー・グループが右
計算を進め、通産省担当官とスタデイー・グループとの間で資料や意見の交換が行
なわれたが、同年三月四日ころまでに、F9班長は、「46・3・4付原油FOB
値上がり額試算「秘」と題する書面」一枚(符一三六号)をまとめて、原油平均値
上がり巾を製品換算一キロリツトル当り一、〇五三円と算出し、B2委員会は、ス
タデイー・グループの作成した「46・2・16油種別年別コストアツプ分と題す
る書面等」一綴(九枚)(符二三三号)の原案に基づき検討したうえ、右の額を
一、一一三円と算出し、これを燃料油のみに展開した油種別値上げ巾を業界案とし
た。
 C11課長は、同年三月九日ころ、F13委員長に対し、通産省としては業界に
対して石油製品値上げにつき油種別価格を示して指導する方針である旨述べた。
 同月九日ころから同月中旬ころにかけて前記のようにコストアツプの業界一部負
担が決つたので、スタデイー・グループは、同月一八日ころ、通産省担当官の依頼
を受けたF13委員長の指示により業界の負担を一バーレル当り五セントとした場
合と一〇セントとした場合のそれぞれのコストアツプの油種別展開案である「4
6・3・18付原油値上がりに対する業界負担想定と題する書面等」一綴(四枚)
(符二三五号)をまとめ、F13委員長は、同月一九日ころ、F7審議官及びC1
1課長らに対して右資料(符二三五号、ただし同号の四を除く。)を提出してこれ
に基づき説明したうえ、同担当官らと協議したが、通産省側と業界側のそれぞれの
原油値上がり巾の計算値の間に若干の差があつたため、今後両者共同でコストアツ
プ計算及びその油種別展開の作業をすることになつた。
 そこで、F9班長、スタデイー・グループの一員である被告会社A16(株)販
売部黒油課調査係長C16及びB1連財務部税制課長心得F14が中心となつて同
月二二日及び二三日の両日にわたつて共同作業をした結果、「46・3・22付原
油FOB値上り額試算(通産・石連調整后)」一枚(符一三九号)をまとめ、原油
FOBの平均値上がり巾は一キロリツトル当り一、〇三三円で、これを当時C13
班長とC1座長との間で合意し
ていた製品換算率九六・五パーセントとして製品換算し、右同様合意していたユー
ザンス(為替手形の支払延長)金利の負担増加分をこれに加えると、コストアツプ
巾は最終的には一キロリツトル当り一、一〇〇円となることが確認され、また、右
コストアツプの油種別展開について種々の試算が行なわれた。
 F13委員長らは、同月二四日ころ、C11課長らに対し、C1座長が右の共同
作業をまとめた書面である「原油価格値上りに関する考え方と題する書面及び添付
資料」七枚(符一四一号)及びスタデイー・グループ作成の業界負担を原油一バー
レル当り五セント及び一〇セントとした場合のそれぞれの業界希望の油種別展開案
(右一〇セントの場合は、一キロリツトル当り、ガソリン二、〇〇〇円、ナフサニ
〇〇円、ジエツト燃料油、灯油、軽油及びE2重油各一、〇〇〇円、E3重油七五
〇円並びにE4重油六五〇円である。)を提出して、これらに基づき説明したが、
同課長らは、業界負担は原油一バーレル当り一〇セント程度になりそうである旨述
べるとともに、右業界案でのナフサ価格への転嫁巾は低すぎる旨指摘した。それ
で、スタデイー・グループは、業界負担を原油一バーレル当り一〇セントとして、
右業界案のナフサ価格への転嫁額を二〇〇円から五〇〇円に修正し、その分を他の
油糧の価格への転嫁巾で調整した修正案(いずれも一キロリツトル当り、平均九〇
六円、ナフサ五〇〇円、E3重油八〇〇円及びE4重油六〇〇円並びに副製品一、
五〇〇円)を作成し、B1連においても右案を了承した。F13委員長は同月二六
日ころに右案をC11課長らに提出して受理されたが、同月末ころ前記のように一
〇セント負担の指示があつたので、業界では同年四月一日から右修正案どおり値上
げを実施することにした。
 ところが、C11課長は、同年四月一三日ころ、A15会長不在のためその代理
として被告会社A15(株)取締役業務部長でB1連原油委員会委員であるC17
を呼び、同人に対し、右修正案をさらに修正して、灯油価格への転嫁額を零とし、
その分をいずれも一キロリツトル当り、ナフサ価格に二〇〇円及びE4重油価格に
五〇円それぞれ上乗せして転嫁するよう指示し、F13委員長がB2委員会副委員
長らとの協議に基づき右修正案どおりで値上げしたい旨申し入れたのに対し、工業
用灯油については右申し入れを了承したが、民生用灯油についてはこれを受け入れ
ず、ついで、F9班長は、同日、C1座長に対し、いずれも製品換算一キロリツト
ル当り、平均コストアツプ巾を原油値上がり巾一、〇七〇円及び金利負担増加分三
〇円の合計一、一〇〇円、一〇セント負担後の平均値上げ巾を八六〇円とし、これ
を油種別に展開して、ガソリン二、〇〇〇円、ナフサ七〇〇円、ジエツト燃料油、
軽油及びE2重油各一、〇〇〇円、E3重油八〇〇円、E4重油六五〇円並びに副
製品一、五〇〇円とする旨の通産省側の値上げ巾の数字を連絡したので、業界はこ
れに従つて前記認定のように値上げをすることにした。
 検察官は、右のように通産省担当官が油種別値上げ巾を示して業界を指導したこ
とはない旨主張するけれども、前掲証拠、特に、C1証言一〇一回、C17証言九
五回、F13供述一〇〇回及びC16証言九六回並びに「46・4・15付原油F
OB値上単価(45/11/14比)と題する書面」(符二三六号の一)及び「等
価比率による油種別ブレークダウン〔前提価格45/1~12日銀卸売物価価格数
量46年供給計画内需向生産量〕と題する書面」(符二三六号の二)を総合する
と、所論指摘の右事実を認定できる。検察官は、右主張の根拠として、C11証言
五〇回、五一回及びC13証言一一九回、一二〇回によれば、当初は油種別値上げ
巾まで示して指導するとの考え方もあつたが、ナフサについての原局てある通産省
化学工業局の了解を得ることができなかつたため、油種別価格を示して指導するこ
とについて省内の意思統一ができず、また、石油各社ごとに製品の油種構成に違い
があるため、油種別値上げ巾を設けることは各社の利害関係の調整上困難を伴うこ
とになるので、油種別値上げ巾までの指導はせず、ナフサ及び電力用E4重油につ
き需要業界の応分の負担による協力を期待するに止めたというのであり、右各証言
の内容は合理的で信用性が高いこと及び前掲の一〇セント負担指導文書である「4
6・4・16付原油値上げ問題の処理方針についてと題する書面」二枚(符七九
号)にも、またC18証言九九回によつて、C11課長が昭和四六年四月二二日B
1連において右指導方針を説明した際これに列席したC18B1連業務部長がその
場で説明内容をメモしたうえ、後日これを整理したものと認められる「営業委にお
けるC11石油計画課長の説明要旨(B1連事務局メモ)四六年四月二二日於B1
連第一会議室と題する書面」五枚(符二六〇号)にも、油種別値上げ巾は全く記載
されていないことを挙げる。しかし、C11証言五一回によれば、右指導文書は省
内の思想統一文書としてまとめられたものと認められ、C11証言五〇回によれ
ば、右のC11課長の説明も右文書に沿つてなされたものにすぎないものと認めら
れ、いずれも通産省全体としての表向きの指導方針を示すものではあつても、石油
行政担当者の指導の実態を示すものとは認めがたい。そしてC11証言及びC13
証言を仔細に検討すると、通産省内で右平均値上げ巾の油種別展開を行なつたかど
うかや灯油値上げ抑制指導を行なつたかどうかなどの重要な点についての両証言の
間に大きな矛盾があり、かつ、C13証言からはむしろ油種別値上げ巾の指導が行
なわれたことを僅かながら窺われさえするのであつて、所論指摘のC11及びC1
3各証言も右同様指導の実態をありのままに述べているものとは考えがたい。それ
で、所論の指摘するところはいずれも前記認定の反証とはならない。さらに、検察
官は、A2供述五八回あるいはA28供述九四回などの、通産省の右価格抑制指導
の効果を挙げるためには油種別値上げ巾を設けて指導する必要があつた旨の各供述
に対し、油種別値上げ巾を示す方がより具体的な指導方法ではあるけれども、平均
値上げ巾を示すだけでも値上げ抑制の効果をもたらすに十分であるから、右各供述
をもつて油種別値上げ巾の指導があつたことの証拠とはなしえないと反論するけれ
ども、油種別展開の方法が必ずしも確定したものではなく、石油会社の油種構成及
び価格水準がそれぞれ異なることをも考慮すると、右所論は採用することができな
い。
 4 昭和四六年一〇月、一一月の灯油価格指導
 前掲証拠、特に第一の一の(三)の事実につき掲げた関係証拠によると、次の事
実が認定できる。
 通産省は、B1連会長及び全国B5協同組合連合会等の団体の代表者に対し、い
ずれも鉱山石炭局長F6名義の灯油価格の安定化対策についてと題する46・1
0・28付(符七四号)あるいは46・11・18付(符七五号)の各書面によ
り、灯油が国民生活に密着した物資であり、その価格安定が国民生活の安定上重要
であるため、元売り各社の白灯油価格を昭和四六年冬は値上げせず、前需要期であ
る同年二月から三月までの各社それぞれの平均価格(したがつて、元売り会社の加
重平均価格一万二、〇八一円ではない。)以下にするよう元売り各社を指導する措
置を講ずる旨通知した。
 右は、同年四月値上げに際してすでに行なわれた灯油価格についての前記の指導
の事実と対比すると、右事実を公表したにすぎないものと認められる。
 5 昭和四六年一二月の為替差益還元問題についての行政の態度
 前掲証拠、特に第一の一の(三)の事実につき掲げた関係証拠によると、次の事
実が認定できる。
 前記認定のように昭和四六年八月以降の為替相場の変動に伴つて次第に円高とな
つたため、わが国石油会社の原油コストに差益を生じ、石油産業は差益産業である
とされ、同年一二月二〇日に固定相場制に戻つて円の対ドル交換レートが一ドル三
〇八円となつて円の切上げ(切上げ率は一四・四四パーセント)が確定すると、石
油会社に対する差益還元要求の世論が一段と強くなつた。
 通産省は、F9班長が中心となつて、スタデイー・グループ及びB1連事務局協
力の下に、業界に差益還元の余地があるかどうかを判断するため収支見通し計算を
度重ねて行なつた結果、石油製品価格は昭和四六年度下期以降国内経済の不況に基
づく需要伸び率の減退を反映して下落する傾向にあり、また、ドルの減価を理由と
する産油国の通貨調整値上げが予想されたため、昭和四六年度及び昭和四七年度の
業界利益は右差益があるのに拘わらず大巾に減少する見通しとなつたので、F6局
長らが、昭和四六年一二月二〇日ごろ、業界に差益還元の余地はない旨新聞発表し
た。
 6 昭和四七年四月の石油製品の値上げ
 前記各証拠、特に第一の一の(三)の事実につき掲げた関係証拠によると、次の
事実が認定できる。
 (1) 値上げの概要
 OPEC第四次値上げに伴う原油の値上がり及び当時の石油製品の需要の伸びの
鈍化に伴う固定費増加のコストアツプ分と昭和四六年四月の値上げの未達成部分を
石油製品価格に転嫁して値上げするため、業界では、前記認定の価格の会合におい
て、昭和四七年一月下旬ころから、スタデイー・グループが作成した原案に基づい
て協議した結果、同年二月半ばころ、一〇セント負担を継続するという前提で、業
界全体の昭和四五年度上期比の右コストアツプ等の平均額を一キロリツトル当り三
〇〇円とし、これを油種別に展開して、いずれも昭和四六年一二月の各社の販売実
績価格比で一キロリツトル当り、カソリン一、〇〇〇円、ナフサ二〇〇円、ジエツ
ト燃料油三〇〇円、軽油三〇〇円、E2重油三〇〇円、E3重油二〇〇円、E4重
油二〇〇円及び副製品四〇〇円の各巾で被告会社らが昭和四七年四月一日から値上
げすることを決定した。
 (2) 行政の介入
 昭和四六年五月営業委員長に就任した被告人A2は、昭和四七年一月二四日か二
五日ころ、C12課長に対して前記のように石油製品の値上げの必要があることを
説明した。C13班長は、C1座長の意見をも聞きつつ業界の収支見通しに関する
試算を進め、同月三一日ころ、昭和四六年一〇月から同年一二月までの平均市況水
準で昭和四七年も推移するとの前提に立てば、OPEC攻勢前の昭和四五年度上期
に比し、昭和四六年度て一三〇億円、昭和四七年度で四七〇億円の利益落込みとな
るとの試算「47・2・2付円切上げと石油価格と題する書面等」一綴(五枚)
(符二七一号)をまとめたが、なお昭和四五年度上期からのコスト上昇巾と製品価
格の上昇巾とを比較して価格はコストに見合つているとの計算結果を根拠にして、
元売り会社に対し、昭和四七年度上期における値上げは必要でない旨の判断を示し
た。
 右のC13班長の見解は一〇セント負担を継続することを前提とするものである
ので、価格の会合で相談の結果、A2委員長は、同年二月一日ころ、C12課長に
対して一〇セント負担の解除を求めたが、容れられなかつた。しかし、C12課長
は、その際、現実の市況悪化と固定費圧迫の増大とを理由とする値上げについて理
解を示した。
 ところが、C12課長は、同日、A2委員長に対して経済企画庁の強い反対を理
由として一転して値上げは認められない旨伝えたので、同委員長は、右の事態を打
開するため業界首脳と鉱山石炭局幹部との会談を準備し、同月三日右会談が開かれ
ることになつた。
 そこで、右会談に先立ち、C13班長、C1座長及び前記F14は、同月二日及
び三日、市況の見通し及び固定費圧迫について業界側作成の資料である「46F
Y・47FY回収水準と題する書面」一枚(符二四六号)、「諸経費の主な増加理
由と題する書面」一枚(符二四九号)、「諸経費の推定と題する書面」一枚(符二
五〇号)、「設備資金調達計画、支払金利と題する書面」一枚(符二五一号)及び
符二七一号を要約してその欄外にその問題点を記載した資料である「MITI試算
NETバランス(45・上対比)と題する書面」一枚(符二九二号)等に基づいて
協議した結果、固定費圧迫があることは認めるか、固定費負担の増加額は一〇セン
ト負担額とほぼ同額とみなしてそのいずれをも計算上表示しないことにし、市況の
値下がりした昭和四六年一二月の価格水準のまま昭和四七年以降も推移するとすれ
ば、昭和四七年度の業界収支見通しは、昭和四五年度における平均利益単価に昭和
四七年度の製品予測数量を乗じて計算した同年度の利益予測額に比し七五一億円
(一キロリツトル当り約三〇〇円)の減少となるという結論になり、「昭和四七年
二月三日付昭和46年度及び47年度円切上げとOPEC原油値上げに伴う石油関
係の差損益について(試算)と題する書面等」二枚(符九〇号)にまとめられた。
そして、スタデイー・グループは、右平均三〇〇円の油種別展開案を作成した。
 そこで、昭和四七年二月三日、F6局長はじめ鉱山石炭局幹部とF15A16
(株)会長はじめ元売り数社の社長ら業界首脳、ついで、同月五日、C9審議官は
じめ同局幹部と右業界首脳の各会談が開かれ、席上、C13班長が業界の収支見通
しについて説明し、A2委員長及び業界首脳が値上げの必要性とスタデイー・グル
ープの作成した業界の油種別展開案について説明した結果、通産省担当官は右平均
値上げ巾について了承した。
 A2委員長は、同月下旬ころ、前記のように価格の会合において合意した値上げ
内容をC12課長に説明し、同課長は、これを了承したが、その際、今後値上げの
必要が生じたときは、予め話しに来るようにと指示した。その後、C1座長は、C
13班長に対し、右合意した油種別展開について資料である「油種別転嫁方針と題
する書面」一枚(符二七二号)を提出してこれに基づいて説明した。
 検察官は、C12証言三九回、四九回及びC13証言一一九回によれば、同人ら
は、灯油以外の各油種の値上げについては業界の自主的判断に委ねることにし、業
界にその旨伝えたことが認められ、右C13証言及び「47・3・3発行G1新聞
夕刊三面(縮刷版)」一枚(符三四四号)によつて認められるように、B6協議会
が昭和四七年三月三日灯油以外の石油製品については今後の価格動向を監視する旨
の方針を発表した事実は右を裏付けるものである旨主張するけれども、右認定の首
脳会談に至る経過、首脳会談の内容、その後のA2委員長らと通産省担当官との折
衝などに徴すると、その意味、性質いかんはともかく、通産省担当官が業界希望の
とおりの値上げを了承する旨の意思を表示したことは認めることができ、右C12
及びC13各証言並びにB6協議会の発表の事実をもつて右認定を左右するに足り
ない。
 7 昭和四八年一月の石油製品の値上げ(事実第一)
 (1) 値上げ内容の合意に至るまでの経緯と行政の介入
 右の点につき前記認定を補足する。
 前掲各証拠、特に第一の二の(三)の1の事実につき掲げた関係証拠によると、
次の事実が認定できる。
 中東原佃について、OPEC第五次値上げに伴う昭和四八年一月からの値上がり
が確定しており、また、ペルシャ湾岸五カ国とD10会社との間の事業参加につい
ての包括的協定(いわゆるニユーヨーク協定)が昭和四七年一〇月五日成立したと
の報が伝えられて事業参加に伴う値上がりも予測されるようになり、そのうえ、昭
和四七年八月から九月にかけてのスタデイー・グループの調査によつて昭和四六年
度以降の石油製品需要の伸びの鈍化による固定費圧迫が増大しつつあることが判つ
たので、昭和四七年一〇月中の価格の会合において、右のコストアツプを一〇セン
ト負担をせず、全額必要値上げ巾に含め、しかもこれを灯油も含めた全油種に展開
して昭和四八年一月から石油製品の値上げをする意向を固めた。
 被告人A2は、昭和四七年一一月はじめころ、C12課長に対し、右値上げの意
向を話したところ、同課長は、事業参加に伴う原油値上がり分についてはその額が
確定するまで待つた方が良いと述べ、一〇セント負担については明確な意見を述べ
ず、また、灯油の値上げは差し控えた方が良い旨述べた。それで、スタデイー・グ
ループは、通産省担当官の右の意向に従い、一〇セント負担はしない前提で、OP
EC第五次値上げに伴う分を含めて昭和四五年度上期比の原油CIF価格の上昇
分、ポート・デユー及び昭和四六年度から昭和四七年度にかけての固定費負担の増
加分をコストアップ巾とし、製品価格の値上がり巾を昭和四六年三月比で計算する
いわゆる段違い計算方法により、昭和四七年八月価格比の要回収巾を一キロリツト
ル当り六二〇円と算出し、灯油についてはこれまでの指導上限価格横這いというこ
とにしてこれを油種別に展開した原案を作成し、被告会社全部の代表が出席した昭
和四七年一一月二七日の価格の会合において、右原案に基づき協議した結果、右出
席者らは右原案の内容を了承した。
 C1座長は、同年一二月はじめころ、C14班長に対して右値上げの内容を説明
したところ、同班長は、一〇セント負担の撤廃について反対である旨の意向を示し
た。それで、被告会社八社の代表が出席した同月四日の価格の会合において、一〇
セント負担の解除をあきらめることにし、スタデイー・グループは、右の方針に従
つて、前記認定のように必要値上げ巾の計算要素を前記のOPEC第五次値上げに
伴う原油値上がり分とこれまでの未回収分とし、一〇セント負担を前提とする修正
原案を作成した。
 (2) 値上げ内容の合意と行政の介入
 同年一二月七日及び同月一八日に値上げ内容の合意がなされたことは前記認定の
とおりであるが、前掲各証拠、特に第一の二の(三)の1の事実につき掲げた関係
証拠によると、次の事実が認定できる。
 右合意においてがソリンの値上げ実施時期を他の油種より遅くしたのは、末端ま
での侵透に時間がかかると考えられたからであり、その際、ガソリンの値上げの発
表にあたつては、右合意のあつたことを陰蔽するため打出日(発表内容での実施期
日)を各社ばらばらにすることを申し合わせ、同月一八日の価格の会合において、
被告会社A16(株)の打出日を昭和四八年一月四日とし、その後一週間ぐらいの
範囲内でその他の各被告会社の打出日をばらばらに決定した。
 被告人A2は、同月二〇日ころ、C12課長に対して右値上げの内容を説明した
ところ、同課長は、大筋において了承するが、細かい数字のつめは事務局同士で行
なうようにとの趣旨を述べ、ついで、C1座長は、同月二四日ころ、F10班長に
対して右値上げ内容の資料である「47・12・21付無題の表」(符八三号のう
ち)を提出してこれに基づいて説明したが、同班長は特に意見を述べなかつた。
 検察官は、C12証言三六回、C14証言四六回及びF10証言三七回によれ
ば、通産省担当官が右のように値上げの内容を了承したことは認められない旨主張
するけれども、右各証言は、前掲の右認定に沿う積極証拠及びこれらにより認めら
れる値上げ内容の合意の経緯等に徴して信用できないので、右主張は採用できな
い。
 8 昭和四八年二月の石油製品の値上げ(事実第二)
 (1) 値上げ内容の合意
 右の点につき前記認定を補足する。
 前記各証拠、特に第一の二の(三)の2の事実につき掲げた関係証拠によると、
次の事実が認定できる。
 必要値上げ巾の計算につき、まず、その計算要素として、昭和四八年一月の値上
げにあたつては事業参加に伴う原油値上がりに対応する値上げを行なうことを予定
してとりあえずは含めなかつた固定費負担の増加分を当然のこととして取り入れ
た。つぎに、前記認定のような新しい計算方式をとつたのは、被告人A2が昭和四
七年一二月二〇日ころC12課長に昭和四八年一月値上げの内容を説明した際、同
課長から、計算根拠中の未回収という表現には問題があるから今後の課題として右
表現を考え直すことを検討する必要がある旨指摘され、スタデイー・グループが新
しい計算方式を工夫していたところ、前記の昭和四七年四月値上げの際、C1座長
とC13班長との間で一〇セント負担後の想定利益がほぼ昭和四五年度の業界平均
のキロリツトル当り利益巾に見合うことが話し合われたことがあり、右の点からす
ると一〇セント負担の継続を前提とすると、前記の段違い方式で計算した平均必要
値上げ巾から一〇セント差引いた金額と昭和四五年度基準の新方式で算出した数字
とはほぼ一致することになり、新しい方式によつても未回収の表現を除くことには
ならないけれども、実質的には一〇セント負担を継続しながら計算上これが表示さ
れないことが通産省担当官の意向に沿うことになるとともに、コスト及び価格の起
算点にずれを生じない利点があると考えたためである。さらに、原油の平均値上が
り巾は、従来中東・南方両原油の平均として計算されて来たが、中東原油のみの平
均で計算するいわゆる中東ベースの考え方と中東・南方両原油の平均で計算するい
わゆる中東・南方プールの考え方のいずれもそれなりの妥当性があると認められる
ところから、その両方の考え方で計算したが、結局中東・南方プールの考え方によ
る数字をとることになつた。
 そして、値上げ内容の合意にあたつて、同年一月の値上げのときと同様の理由に
より、ガソリンにつき、実施時期を他の油種より遅らせ、また、打出日を各社ばら
ばらにすることを申し合わせた。
 (2) 行政の介入
 前掲証拠、特に第一の二の(三)の2の事実につき掲げた関係証拠によると、次
の事実が認定できる。
 被告人A2は、昭和四八年一月一〇日ころ、C12課長の求めに応じて同課長、
C14班長及びF10班長に対し、右値上げの内容を説明するとともに、被告会社
A16(株)取締役販売部長C19から同被告会社としての値上げの考え方につき
説明させたが、同課長は、同被告人に対し、事業参加協定に伴う原油値上がり額は
確定しているか、右値上げの内容で一〇セント負担の取扱いはどうなつているの
か、通産省企業局企業調査課から石油計画課宛の事業参加協定に伴う原油値上がり
に対応する同課の指導方針の問合せとこれに関する右企業調査課の要望事項を記載
した「48・1・10付原油値上り問題について企業調査課と題する書面」一枚
(符三〇八号)を示して、右要望事項にあるようにガソリンも灯油と同様家庭用あ
るいは大衆用物資となつて来ていることにかんがみ、ガソリン価格への転嫁分を他
の油種に振替え転嫁することができないか及び他の各社は実施期日に全額値上げす
る考えてあるかについて質問し、同被告人は、被告会社A16(株)に対しては既
にカルテツクスから右の分の値上げの通告が来ているが、他社の分については直接
聞いて欲しい、一〇セント負担の取扱いについては事務局から詳しく説明させる、
ガソリン値上げについての右要望には応じかねる、他社の値上げについての考え方
については直接聞いて欲しい旨答えた。そのうえで、同課長は、同被告人に対し、
右値上げの内容を大体了承するが、数字は事務局につめさせようという趣旨を述
べ、同被告人は、右の値上げの内容が了承されるものとの感触を得た。そして、同
被告人は同日C9参事官に対しても右原油値上げ通告について説明した。
 F10班長は、同日、スタデイー・グループの一員として計算作業を担当してい
たC2に対し、右の企業調査課の問合ぜと要望に関連して、右値上げの内容につい
て、一〇セント負担を継続する内容のものであることを明らかにし、その根拠であ
る事業参加協定に伴う原油値上がりと市況調整値上げの額を裏付け、また、ガソリ
ン価格への転嫁巾が大きく、ナフサ及びE4重油価格への転嫁巾が小さいことの数
字的根拠づけとなる資料を作成して提出するよう求めた。それで、右C2は、同月
一二日か一三百ころ、F10班長と右資料作成の方法について打ち合せ、前記の原
油値上がり巾を中東・南方プールで計算することを決めたのち、右資料をとりまと
め、C1座長及び右C2は、同月一六日ころから同月一八日ころまでの間、C14
班長に対し、右資料に基づき平均必要値上げ巾の根拠について実質的に一〇セント
負担を継続することになつている(厳密に言えば、業界が一〇セント負担より一キ
ロリツトル当り一三円多く負担することになつている。)ことを中心として説明
し、その説明途中右資料の内容を若干修正したり追加したりし、最終的な平均必要
値上げ巾の根拠資料として「48・1・18付テヘラン協定・パーテイシイペーツ
ヨンによる原油値上りに伴う石油業界収益予想と題する書面」一五枚(符六八号)
をまとめて提出した。また、ガソリン価格への転嫁巾等の点については、それまで
も右C2が油種別展開の理論的、数字的根拠つけは困難である旨説明していたが、
それでも何通りかの試算をして提出し、従来のような等価比率方式による配分では
昭和四七年から昭和四八年にかけて起つている石油製品の需要構造の変動に対応で
きないので右のような展開になつた旨説明した。
 右の経過を経て、同班長は、同月二〇日ころ、右C2に対して右値上げの内容を
了承した。
 検察官は、C12証言三六回、四九回、C14証言四六回、四七回、一二二回、
一二三回、F10証言三七回、四〇回、C9証言四一回、「48・1・14付石油
製品価格の引上げの動きについて(案)」七枚(符八三号のうち)、「48・1・
16付石油製品価格の引上げの動きについて(案)」七枚(上に同じ)、「最近の
石油製品の値上げについて1973・2・2」四枚(上に同じ)を総合すれば、通
産省担当官が右のように値上げの内容を了承したことは認められない旨主張するけ
れども、前掲の右認定に沿う積極証拠及びこれらにより認められる値上げ内容の合
意の経緯等に徴すると、右主張を採用するに足りない。
 9 昭和四八年二月の為替差益還元問題についての行政の態度
 前掲各証拠、特に第一の二の(三)の3の事実につき掲げた関係証拠(A2供述
五七回、C1証言一一回、C2証言一一二、一一三回、C14証言四七回、「円切
り上げの石油価格への影響(案)73・2・14」一枚(符八三号のうち)等)に
よると、次の事実が認定できる。
 前記のように、昭和四八年二月上旬からの国際通貨情勢の変動に伴つて円高ドル
安となつたが、C14班長は、同月中旬ころ、前記C2に依頼して同人から右円高
が石油製品価格に及ぼす影響についての資料である「48・2・11「R」48・
2・15付円レートと差益の関係1と題する書面等」三枚(符一二五号)の提出を
受け、ついで、C12課長は、同月一五日ころ、被告人A2に対し、円高による原
油の仕入差益還元の行政指導をする旨の対外的発表を行ないたい旨の意向を示した
ので、同被告人は、ジユネーブ協定によつて原油価格はドルの減価分を補填するた
め値上がりすることになつており、差益が何時まで続くか判らない情勢であるか
ら、原油価格の動向がはつきりするまで差益問題の結論を出すのを差し控えて欲し
いと要請し、この際の差益問題についての通産省の見解は発表されなかつた。
 10 昭和四八年六月以降の値上げについての指導(いわゆるチヤラ論)
 前掲各証拠、特に第一の二の(三)の3の事実につき掲げた関係証拠(A2供述
五五・五七回、C1証言六・八・一一・一二〇回、C2証言二一・二二・一一二・
一一三回、C9証言四一回、C12証言三六・四九回、C14証言四六・四七・一
二二回、F10証言四八回、「48・6・18付鉱山石炭局新ジユネーブ協定によ
る原油価格引上げに対する方針と題する書面」二枚(符八〇号)、「48・6・1
1付無題の書面」二枚(符一二八号)等)によると、次の事実が認定できる。
 前記C2は、C14班長からジユネーブ協定による昭和四八年四月一日からの原
油値上げに伴う原油値上がり後のコストと市況についての資料の作成を依頼され、
同年五月二一日ころ、同班長に対し、原油及び輸入製品値上がりがある一方で円高
による仕入差益があるが、同年三月の市況でみると同年二月値上げの浸透が十分で
ないため約三一円の転嫁不足になつていることを示す資料である「48・5・21
付無題の書面」二枚(符一二七号)を提出し、これに基づいて説明した。
 新ジユネーブ協定成立後、通産省はコスト動向と円レートとの関係を見直すこと
になり、F10班長が右C2に右の点に関する資料の作成を依頼したので、右C2
は、同年六月半ばころ、C14班長に対し、右資料である「48・6・11付無題
の書面」二枚(符一二八号)を提出し、これに基づき説明して協議した結果、同年
二月値上げの際想定した、中東原油がテヘラン協定及び事業参加協定に伴う値上が
り並びに若干の市況調整値上げによつて一バーレル当り約二〇セント値上がりした
後の同年一月一日時点における全原油平均FOB価格と新ジユネーブ協定に伴う値
上がり後の同年六月一日時点におけるそれとは、円高による仕入差益があるため大
体において同じであることが確認された。一方、C14班長の見方によると、石油
製品の価格水準については、同年三月から四月ころの実績からみて同年六月にはほ
ぼ前記の同年二月の値上げのときの平均値上げ巾六八〇円近いところまで値上げを
達成できるのではないかということであり、また、フレート及び国内経費は同年二
月の値上げの時に想定した数字と変わらないというのが通産省担当官の考え方であ
り、右のことを前提とすると、同年六月比で計算したコスト水準は、同年二月の値
上げの際昭和四五年度を基準として計算したそれとほぼ同じであるということにな
る(これを業界ではチヤラ論という。)。それで、C14班長は、そのころ、右C
2に対し、今後は従来の昭和四五年度基準のコスト計算を止め、昭和四八年六月比
のコストアツプ巾をそのまま同月比の平均必要値上げ巾とする計算方式を採るよう
伝えた。
 右の経過を経て、C14及びF10両班長は、同月一八日、B1連におけるB2
委員会の席上、鉱山石炭局作成の「48・6・18付新ジユネーブ協定による原油
価格引上げに対する方針と題する書面」二枚(符八〇号)を配布し、右文書に基づ
き、右協定による原油値上がり分は、円高による差益とほぼ相殺となるので、その
分の製品値上げをしてはならない、また、D10会社からの市況調整値上げ通告に
対しては、安易にこれを受け入れることのないように要望する旨の価格指導方針を
説明し、市況調整値上げ分の製品値上げは十分説明がつくもの以外は認めない旨附
言した。
 11 昭和四八年七月(延期後八月)の石油製品の値上げ(事実第三)
 (1) 値上げ内容の合意
 弁護人らは、昭和四八年五月一四日の価格の会合においては、C1座長が、イン
センテイブ・コスト論について説明し、中間三品の価格を一キロリツトル当り七〇
〇円から一、〇〇〇円引上げる必要があると述べ、中間三品の価格是正の必要があ
ることについては意見の一致をみたものの、その是正巾についてはアイデイア・プ
ライスとしては一、〇〇〇円位になるという意見が出ただけで、前記認定のような
値上げ内容の合意はされておらず、右の合意がされたのは同年六月二五日である旨
主張する。
 しかし、前掲証拠、特に斎藤四九・三・一二検五項、同四九・三・二七検九項、
同四九・四・三〇検五項、A2四九・三・一二検八項、同四九・三・三〇検(書証
記録四、一三一丁以下)二、三項、F10四九・三・一二検七項、同四九・四・一
三検七項、A4四九・三・一三検一三項、A7四九・四・一一検三、四項、A8四
九・三・三〇検六項、A10四九・四・四検三項、A11四九・三・一四検一項、
同四九・三・三〇検六項、A12四九・四・一検三項、同四九・四・二六検(一)
一項、A27四九・三・一八検六項、同四九・三・二四検二項、A13四九・四・
五検六項、A14四九・三・一二検七項、同四九・三・一六検五項、同四九・三・
三〇検、同四九・四・二六検、F4四九・三・一九検一項、C3四九・四・二七検
三項及び後に認定するように、弁護人らが値上げの内容の合意がなされたと主張す
る同年六月二五日前に既に支店等に対して右値上げ内容に基づく指示をしている被
告会社があることを総合すると、値上げの内容の合意が同年五月一四日になされた
ことを認めることができる。弁護人らは、被告人らの右各供述調書は、検察官が値
上げの内容を合意したのは同年五月一四日でしかありえないという見解で執拗に追
究したので、右値上げの内容が同年六月二五日以前からアイディア・プライスとし
て広く業界内に伝わつており、右アイディア・プライスが現実のコストアツプ巾と
ほぼ見合うものであり、コスト計算も同年六月比の原油価格上昇のみについて行な
う甚だ簡単なものであつたため、同年六月二五日に初めて値上げ巾を具体的に検討
したものであつたのにその印象が薄く、それ以前に右の検討をしていたかのように
錯覚したこともあつて、検察官の右見解は正しくないと思いながらも検察官の右追
究に押し切られてしまつた結果作成されたものであつて信用できない旨主張するけ
れども、被告人A2の右各供述調書には、値上げの内容の合意がなされた経緯、特
に同年五月一四日の価格の会合の模様及び同日早目に右合意をした理由等について
の詳細で合理的な供述記載があり、その他の被告人らの右各供述調書中の所論指摘
の点についての各供述記載も、それぞれ相当の根拠をもつて供述されたものと認め
られるのであつて、右各供述調書は、いずれもその内容自体信用できるものである
うえ、被告人A2は同年六月二三日営業委員長を辞任し、同日同A1がその後任と
して同委員長に、また、同A7、同A9及び同A13はいずれも右と同時に同副委
員長にそれぞれ就任したものであるから、右被告人A2ら五名はもちろん、その他
の右合意に関与した右各供述調書の供述者らも、右合意が価格の会合の主宰者であ
る営業委員長の右交替の先後いずれになされたものかは明確に記憶している筈であ
ることに徴すると、右所論を考慮しても、右各供述調書の信用性に欠けるところは
ないと認められる。
 また、弁護人らは、右のアイディア・プライスがスタディー・グループの論議を
経て出て来たもめであるから、これを合意された値上げの内容と受けとる者のある
ことは無理からぬことであつて、これを早目に支店等に連絡した会社があるからと
いつて右認定の証拠とはなしえない旨主張するけれども、いやしくも価格の会合に
おける協議に加わつた者が右のような誤解をすることは考えられないことであるか
ら、右所論は採用できない。
 弁護人らは、C3証言一九回により同年五月一四日の右会合に出席した前記C3
が右会合の状況をメモしてこれを被告会社A24(株)内で報告した際、その内容
を同会社のF16燃料課課長補佐が記録したものと認められる「ダイヤリー,73
D13(株))」一冊(符二七号)の「5/14大井川」の書き出しで始まる頁の
「5/15以下」に、中間三品につき「七〇〇~一、〇〇〇円UP必要」と記載さ
れているのみで、各一、〇〇〇円という具体的値上げ巾の記載がなく、E3重油の
是正巾については全く記載がないことは、右会合において値上げ巾までは議論され
なかつたことを裏付ける旨主張するけれども、右のメモは値上げ巾は既に明らかな
こととしてその計算根拠の説明部分について記録したものとも考えられるのであつ
て、右認定を左右する反証とするには十分でない。
 (2) 行政の介入
 前掲証拠、特に第一の二の(三)の3の事実につき掲げた関係証拠によると、次
の事実が認定できる。
 C1座長及び前記C2は、値上げ内容の合意後の昭和四八年五月二一日ころ、C
14班長に対し、D10会社の市況調整値上げが軽質原油に集中して起つている国
際原油市場の動向につき説明し、インセンティブ・コスト論に基づき中間留分の価
格是正が必要であることを説明し、また、家庭用灯油の価格抑制によつて白灯油は
低価格の低硫黄燃料となつて産業用空調用の需要が増加するため、却つて家庭用灯
油の供給確保が阻害されることになるから、家庭用灯油についての価格是正も必要
である旨主張したが、同班長は、筋論としてはこれを認めたものの、政治的抵抗が
強いことなどを理由として価格是正の実施に難色を示した。
 前記C6は、いわゆるチヤラ論指導のあつた同年六月一八日の二日か三日後、被
告人A1の命によりC14班長及びF10班長に対し、被告会社A15(株)の社
内用資料に基づき右値上げの内容を説明して意向を打診したが、C14班長は、業
界全体としての資料による説明でなければ困るとして回答しなかつた。ついで、新
営業委員長である被告人A1並びに同副委員長である同A7、同A9及び同A13
は、同月二六日、C9参事官及びC12課長に対して右値上げの内容の概要を説明
した。
 C12課長は、同月二八日ころ、C1座長を呼んで同人から右値上げの内容につ
いて詳細な説明を聞いたうえ、これを了承したが、国会開会中であることなどを理
由にその実施を一ヵ月延期するよう要請し、C9参事官及びC12課長は翌二九日
ころ被告人A1に対し、また、C12課長は同日被告会社らの各営業担当の責任者
に対し、いずれも右同様値上げ実施の延期を要請し、被告人A1は、値上げ巾につ
いての了承を確認したうえ右要請を受諾した。
 C12課長は、右実施延期後の同年七月二六日か二七日ころ、被告人A1に対
し、同年八月一日を実施期日とする右同様の値上げ内容を了承する旨述べた。
 検察官は、C12証言三六回、四九回、C14証言四六回によれば、通産省担当
官が右のように値上げの内容を了承したことは認められないのであり、後記12の
ようにC10石油部長が家庭用灯油の価格抑制のため被告人A1らと折衝したこと
によつてもそれが裏付けられる旨主張するけれども、前掲の右認定に沿う積極証拠
並びにこれらにより認められる値上げ内容の合意及び値上げ実施時期の延期の経緯
等に徴すると、所論にかんがみ検討しても、右主張を採用するに足りない。
 12 昭和四八年一〇月の家庭用灯油価格指導
 前掲各証拠、特に第一の二の(三)の4及び5の事実につき掲げた関係証拠(A
1供述五九・六〇回、A7供述六六・六七回、A9供述六九・七〇回、C6証言五
〇回、C1証言一二一回、C2証言一一三回、C10証言三五回、「48・10・
9付資源エネルギー庁長官F5の昭和48年度需要期における灯油対策についてと
題する書面」二枚(符七七号)、「通商産業省罫紙2号用紙に記入された『2指導
方針』と題する書面(NO.9NO.10NO.11」三枚(符一三二号))によ
ると、次の事実が認定できる。
 F10班長は、昭和四八号七月末か八月初めころ、C1座長(前記C2同席)に
対し、「2指導方針(NO.9NO10NO.11)」三枚(符一三二号)を手渡
し、同年八月の値上げにおける家庭用灯油の値上げ巾の一部を削減するかも知れな
い事態になつているので、C12課長からC1座長の意見を聞いてくるよう言われ
た旨述べたが、同座長はA1委員長に話して欲しい旨答えた。ついで、C12課
長、当時の精製流通課長F17は、同年八月二日、被告人A1及びB1連需給委員
会事務局員らに対し、昭和四八年度下期の家庭用灯油の供給及び価格の安定化対策
についての業界の意見を文書にまとめて提出するよう要請した。被告人A1らは、
翌三日、これに応えてC12課長らに右の事項についての文書に民生用灯油の価格
を一、〇〇〇円程度引き上げることが必要であることなどを記載してこれを提出し
たところ、同課長は、同被告人に対し、右家庭用灯油の値上げ巾を七〇〇円か八〇
〇円に減らして欲しい旨述べ、同被告人が右要望に応じられない旨答えたのに対
し、上司と相談する旨述べた。C12課長は、その後同日中に、被告人A1に対し
て電話で、家庭用灯油一、〇〇〇円の値上げは止むをえないが、外部に対しては通
産省としては右の点につき検討中ということにして欲しい旨伝え、さらに翌四日、
右電話の内容を確かめた被告人A9に対し、右の点につき国会で質問を受けたとき
は業界から値上げの話は承つているということにする旨答えた。
 C12課長は、その後被告人A1に昭和四八年度上期下期別の収支見通しについ
ての資料の作成を依頼したので、スタデイー・グループは、同被告人の指示により
原油値上がり、フレート及び経費の動向並びにユーザンス差益についての予測計算
の資料である「48・8・(13)付48FY石油業界収益見通しと題する書面」
二七枚(符七一号)を作成し、同被告人及びC1座長らは同月一六日ころC12課
長に対して右資料を提出し、同座長がこれに基づいて説明した。(なお、その際、
C12課長は、電力向ナフサの仮価格七、〇〇〇円は低すぎると述べた。)
 C10部長は同年九月初めころ、被告人A1に対して右家庭用灯油の値上げを撤
回するよう要請したが、同被告人はこれを受け入れず、その後暫くの間右の点につ
いて両者間のやりとりが続いたのち、B1連のF18理事の斡旋により、同月二〇
日ころ、家庭用灯油の価格を同年九月末時点で凍結することで決着がつき、通産省
は、同年一〇月一日、F5長官名義の「48・10・9付昭和48年度需要期にお
ける灯油対策について」二枚(符七七号)により、石油業界に対し、同年八月以降
石油業界に石油製品の値上げの動きがあるが、家庭用灯油の元売り仕切り価格につ
いては、このまま放置すると国民生活に大きな影響を与える可能性があるので、こ
の際家庭用灯油価格の上昇をストツプし、需要期においても現状以上に引き上げな
いよう業界各社に協力を求める旨の方針を伝えて指導した。
 13 昭和四八年一〇月、一一月の石油製品の値上げ(事実第四)
 (1) 値上げ内容の合意に至るまでの経緯と行政の介入
 右の点につき補足する。
 前掲各証拠、特に第一の二の(三)の4の事実につき掲げた関係証拠によると、
次の事実が認定できる。
 スタデイー・クループは、昭和四八年八月中旬ころから、そのころ前記C2から
引継ぎを受けて計算作業を担当することになつた被告会社A16(株)黒油課調査
係長F19が中心となつて値上げ原案を作成することになつた。ところで、スタデ
イー・グループは、まず必要値上げ巾については、原油価格につき被告会社各社に
依頼して集めた情報を参考にしながら前記の同年八月一三日付の資料(符七一号)
の数字につき検討し、中東原油については概ね右の資料の予測値をとり、南方原油
については同月二三日ころに同年一〇月以降の価格がほぼ確定したとの情報に基づ
き右資料の予測値を右情報の値に減額修正し、ミナス原油に連動するアフリカ原油
についても同様修正して計算した。なお、スタデイー・グループの計算によると、
同年二月の値上げにおける平均必要値上げ巾一キロリツトル当り八六〇円に対する
未達成額が同年六月時点で一一〇円程度に上つていたので、右C2は、同年八月半
ばすぎころ、F10班長に対し、右未達成額をコスト計算の要素とすることの可否
を問い合せたところ、同班長は不可である旨答えたので、スタディー・グループは
これに従つた。つぎに、コストアツプの油種別展開については、スタディー・グル
ープとしては、ガソリンを値上げするよりも民生用灯油を含む中間留分の値上げを
すべきではないかと考えていたが、民生用灯油の値上げについては前記のような通
産省担当官の意向との関係で問題があつたので、結論がでないまま、価格の会合で
の判断材料に資するため、コストアツプ予測額の内輪の数字で、ガソリン転嫁額を
留保し、前記のように同月一六日ころC12課長がC1座長に対して昭和四七年度
下期以降の電力向ナフサの仮価格が低すぎる旨指摘したことを考慮し、民生用灯油
に転嫁するものとしないものとに分けて三種の展開案を準備した。
 ところが、同年八月二七日の価格の会合において、右原案に基づき検討した結
果、民生用灯油価格への転嫁はあきらめ、その分をガソリン価格に転嫁する考え方
に傾いたが、当時のガソリンの供給過剰の情況を考慮し、右の考え方をとるとして
もガソリンの値上げ時期は同年一一月とするということになつたので、右F19
は、前記認定のような値上げ巾及び価格の会合における右の考え方に従つた油種別
展開の原案を作成したものである。
 (2) 値上げ内容の合意と行政の介入
 値上げの合意がなされたことは前記認定のとおりであるが、前掲各証拠、特に第
一の二の(三)の4の事実につき掲げた関係証拠によると次の事実が認定できる。
 右合意に際し、ガソリン値上げの打出日を各被告会社別にするほか、一被告会社
においても支店別にばらばらにすることが合意された。
 また、同年九月三日の価格の会合の席上、被告人A1は、今回の値上げは非常に
大きいが、これを上げなければ各社大赤字になるはずなので、値上げするかしない
かは各社ご自由だが、赤字になればあんたたちのポストが替るだけだという趣旨の
話をした。
 被告人A1は、同月四日ころ、C12課長に対して前記認定の値上げの内容を説
明したのに対し、同課長は、異論を述べず、同月二〇日ころになつてこれを了承し
た。また、被告人A1は、同年一〇月八日のすぐ後ころ、C14班長に対して、前
記認定のE4重油の値上げ巾の修正について説明し、同班長はこれを了承した。
 検察官は、C12証言三六回、四九回、C14証言一二二回によれば、通産省担
当官が右のように値上げの内容を了承したことは認められない旨主張するけれど
も、前掲の右認定に沿う積極証拠及びこれらにより認められる値上げ内容の合意の
経緯等に徴すると、右主張を採用するに足りない。
 14 昭和四八年一一月の石油製品の値上げ(事実第五)
 (1) 値上げ内容の合意に至るまでの経緯と行政の介入
 右の点につき補足する。
 前掲各証拠、特に第一の二の(三)の5の事実につき掲げた関係証拠によると、
次の事実が認定できる。
 スタデイー・グループは、昭和四八年一〇月末日ころまで二回くらい会合を開い
て同月一六日以降の原油FOB価格の水準について検討したが、その後は前記F1
9が計算した結果について各グループ員と連絡をとりながら検討を進めることにし
た。
 被告人A1、同A7、同A9及び同A13は、前記認定の同月二九日の価格の会
合後の翌三〇日ころ、当時の計画課長F8に対して原油の価格動向及び供給事情な
どにつき説明したが、同課長は、製品の値上げは着べースにすべきである旨述べた
ので、右意見は直ちに右F19に伝えられた。
 C14班長は、同年一一月一日ごろ、右被告人四名を含む主な営業委員の質問に
対し、製品値上げは仕方がないが、その時期が問題である旨答えた。
 右被告人四名は、右同日、今回の値上げの油種別展開の仕方について意見を交換
していたが、そのときD1(株)のF20部長から被告人A13に電話があり、同
社では既にガソリンの値上げ巾は同年一〇月値上げした価格にさらに七、〇〇〇円
見当ということで特約店に連絡している旨伝えて来たこともあつて、ガソリン値上
げ巾を同社と同様同年六月比で一キロリツトル当り一万円とすることになつた。
 スタデイー・グループの計算作業については前記認定のとおりであるが、右F1
9は、同年一一月二日ころ、原油価格につき「48・11・2付FOBの推移(積
ベース)と題する書面等」一綴(二枚)(符三〇六号)を作成し、昭和四八年度下
期の原油処理量を供給計画比一〇パーセント及び一五パーセント減とする二つの場
合におけるそれぞれの固定費増加等のコストアツプ計算をしていたところ、同月五
日ころOAPEC側の原油供給削減強化の厳しい声明が出されたので、今後の原油
供給事情及び原油・製品在庫状況などを勘案して右原油削減の影響度を試算し、供
給削減率が二〇パーセントになる場合のコストアップの計算もしたが、前記認定の
同月六日の会合までにその油種別展開案を準備することができなかつたので、右会
合には右の一五パーセント削減の場合のコストアツプ及びその油種別展開案と右二
〇パーセント削減の場合のコストアツプ案を提出した。
 (2) 値上げ内容の合意と行政の介入
 値上げ内容の合意が成立したことは前記認定のとおりであるが、前掲証拠、特に
第一の二の(三)の5の事実につき掲げた関係証拠によると、次の事実が認定でき
る。
 右合意においてナフサ及びE4重油につきスタデイー・グループの原案の値上げ
巾を修正したのは、ナフサについては当時被告会社A15(株)がD14(株)に
五、〇〇〇円くらいになるのではないかと話していたことがあり、E4重油につい
ては等価比率からみて修正巾の方が妥当であるという理由からであつた。
 被告人A1らは、右合意後の同年一一月八日ころ、C14班長及びF10班長ら
に対し、値上げの内容を、まだこの時点ではスタデイー・グループの資料ができて
いなかつたので、被告会社A15(株)の資料を参考としながら説明したが、C1
4班長は、業界全体としての資料を要求した。ついで、同班長は、同月一二日こ
ろ、被告人A1らに対し、前同様値上げの時期が問題である旨述べたが、C1座長
から値上げ内容の説明を聞いた後、この値上げは止むをえないと思う、また、時期
についても着ベースなら良いと思う旨述べ、コスト根拠につき詳細な資料を早く出
して欲しいと要請した。
 前記C2及びF19は、同月一四日、F8課長、当時の松村精製流通課長及びC
14班長に対し、同月二日作成した前記の資料(符三〇六号)の円換算の部分を計
算し直した「48・11・14付FOBの推移(積ベース)と題する書面等」三枚
(符一二九号)に基づいてコストアツプ計算及びその油種別展開につき説明し、C
14班長がこれを了承する旨述べ、実施期日につき同班長と右C2との間で、原油
値上がり前の在庫があるうちは値上げしないという先入先出法的な在庫評価の方法
が世間的に判り易く、同月半ばころからの値上げは誤解され易いということにつき
やりとりがあつたのち、同班長は、F8課長らの暗黙の了承の下に実施期日を同月
半ばとすることを了承し、また、そのころ、被告人A1に対しても値上げの内容を
了承する旨述べた。
 検察官は、C14証言四六回、四七回、一二二回、一二三回、F10証言三七
回、四八回によると、通産省担当官が右のように値上げ内容を了承したことは認め
られない旨主張するけれども、前掲の右認定に沿う積極証拠及びこれらにより認め
られる値上げ内容の合意の経緯等に徴すると、右主張を採用するに足りない。
 15 被告人らの価格の会合の出席
 弁護人らは、前記認定の価格の会合のうち、昭和四七年一二月一八日の会合に被
告人F10、昭和四八年一月一〇日の会合に被告人A11、同月一八日の会合に被
告人F10及び同A11、同年五月一四日の会合に被告人F10、同A11及び同
A14、同年七月二日の会合に被告人A11、同年九月三日の会合に被告人A5、
同年一〇月八日の会合に被告人A11はいずれも出席していない旨主張する。
 そこで、検討すると、昭和四七年一二月一八日の会合に被告人F10が出席した
ことはF10供述六一回及びF10四九・四・一三検一項を総合して、昭和四八年
一月一〇日の会合に被告人A11が出席したことはA11四九・三・三〇検五項に
より、同月一八日の会合に被告人F10が出席したことはF10四九・四・一三検
三項により、被告人A11が出席したことはA11四九・三・三〇検五項により、
同年五月一四日の会合に被告人F10が出席したことはF10四九・四・一三検七
項により、被告人A11が出席したことはA11四九・三・三〇検六項により、被
告人A14が出席したことはA14四九・三・三〇検一項により、同年七月二日の
会合に被告人A11が出席したことはA11四九・三・三〇検六項により、同年九
月三日の会合に被告人A5が出席したことはA5四九・三・二三検八項により、同
年一〇月八日の会合に被告人A11が出席したことはA11四九・四・一九検六項
によりいずれも認めることができ、所論にかんがみ検討しても、右認定を左右する
に足る証拠はない。
 16 本件各値上げの実施
 A1供述五九回、同四九・三一四検(書証記録一、七一四丁以下)七項、同四
九・四・三〇検一ないし三・五六・八項、C20証言二二回、同四九・四・四検三
項、C21証言二二回、C22証言二三回、同四九・四・三検二・三・六項、C2
3四九・四・一五検一三項、「48・1・17付販売店主宛石油製品仕切価格通知
の件と題する文書」一枚(符一七七号)、「48・6・5付販売店店主宛石油製品
価格改訂の件と題する文書」一枚(符一七八号)、「48・9・20付販売店店主
宛石油製品仕切価格改訂の件と題する文書」一枚(符一七九号)、「48・11・
13付販売店店主宛仕切価格改訂の件と題する文書」一枚(符一八〇号)、「4
8・1・8付販売店店主宛仕切価格改訂御通知の件と題する文書」一枚(符三七九
号)、「48・1・29付販売店店主宛仕切価格改訂御通知の件と題する文書」一
枚(符三八〇号)、「48・6・13付販売店店主宛仕切価格改訂御通知の件と題
する文書」一枚(符三八一号)、「48・7・27付販売店店主宛仕切価格改訂御
通知の件と題する文書」一枚(符三八二号)、「48・9・20付販売店店主宛燃
料油仕切価格改訂御通知の件と題する文書」一枚(符三八三号)、「48・10・
13付販売店店主宛揮発油仕切価格改訂御通知の件と題する文書」一枚(符三八四
号)、A2供述五五・五六回、同四九・三・二八検三・四項、C4証書一四回、同
四九・四・一検二項、同四九・四・五検四項、同四九・五・四検三・四項、C19
証言八一・八二回、同四九・四・一三検一二・一三項、C1証言三回、同四九・
三・一九検二・六項、C2四九・四・四検一一項、「支店長会議48・9・26と
題するフアイル」一綴(符二号)(9/26支店長会議と題するメモ四枚を除
く。)、「a支店長殿48・1・22と題するフアイル」一綴(符四号)、C24
証言五三・五四回、C25証言八二回、「S48ネンドカミキホンシヤシキリカカ
クと題するテレツクス」一通(符九二号)、「48・1・22付48年2月~3月
製品値上げ単価」一枚(符一〇三号のうち)、「48・6・25付48年7月1日
製品価格改定について」二枚(符一〇四号のうち)、「48・7・25付48年8
月1日以降製品(本社商品含)単価改定について」一枚(符一〇四号のうち)、
「48・8・23付48年9月分製品(本社商品含)単価について」一枚(符一〇
四号のうち)、「48・10・25付昭和48年下期製品(本社商品含)単価につ
いて」一枚(符一〇四号のうち)、「48・11・27付昭和48年12月製品
(本社商品含)単価について」一枚(符一〇四号のうち)、A4供述六三・六八
回、同四九・三・一三検九・一五項、同四九・三・二六検一一項、同四九・三・三
〇検六項、A5供述六四・六五回、同四九・三・一九検二項、同四九・三・二三検
一三項、C26証言二四回、同四九・三・二六検一二・一四項、同四九・三・二七
検五項、同四九・四・一〇検二・三項、C27証言八三回、同四九・四・一七検一
八・二一項、C28証言九一回、「値上げ方針(案)NO.12」一枚(符二九号
のうち)、「支店計平均価格試算NO.7」一枚(符三二号のうち)、「<記載内
容は末尾1-(1)添付>」一冊(符一八九号)、「48・1・17付D14
(株)D15営業所長F21宛一月価格再値上げ御依頼についてと題する文書」二
枚(符三九二号)、「48・7・27付D14(株)D15営業所長F21宛八月
価格値上げ御依頼の件と題する文書」一枚(符三九三号)、A7供述六六回、C2
9証言二六回、同四九・四・二六検九ないし一二項、C30証言八四回、同四九・
四・一二検三・四項、同四九・四・一三検三・四項、C31証言一〇四回、C32
証言二五回、同四九・四・二二検四・五項、「48・6・15付A19(株)D1
6支店長C30灯油・軽油・E5重油の仕切価格の改訂についてと題する文書」三
枚(符三六号)、「48・10・2付九月度販売会議々事録」四枚(符一九〇号の
うち)、A8供述六八回、同四九・三・三〇検四ないし六項、A9供述六九回、同
四九・三・二七検二・四・五項、同四九・三・二八検二・三・五項、同四九・四・
二三検六項、同四九・五・一五検二項、C5証言一五回、同四九・四・八検四・
五・八項、C33証言一一〇回、C34証言八五回、同四九・四・一六検六項、
「47・12・14付一月以降の値上げ方針についてと題する書類」一綴(符五
号)、「48・1・17付各油種の一月追加値上げについて」二枚(符六号のう
ち)、「48・9・4付48/下値上げ方針についてと題する書類」一綴(符八
号)、「47・12・20付D17株式会社宛ガソリン仕切価格改訂についてと題
する文書」一枚(符一九六号)、「47・12・20付軽油・E2重油・E3重
油・E4重油仕切価格改訂についてと題する文書」一枚(符一九七号)、「48・
1・18付(株)D18宛ガソリン仕切価格改訂についてと題する文書」一枚(符
一九八号)、「48・1・18付(株)D18宛軽油・E2重油・E3重油仕切価
格改訂についてと題する文書」一枚(符一九九号)、A10供述七〇・七一回、同
四九・四・三検三・四項、同四九・四・四検三ないし六項、C35証言二七回、同
四九・四・三検七項、C36証言八八回、C37証言一一〇回、「48・1・16
付テレツクス起案書(製品値上げの件と題するもの)」一綴(符三八号)、「4
7・12・27付起案書(48/1~3月の販売について)」四枚(符三九号のう
ち)、「48・5・29付テレツクス起案書(7~9値上げについてと題するも
の)」一綴(符四〇号)、「48・9・14付10月値上げについてと題する書
類」一綴(符四一号)、「48・11・16付11/16日以降値上げ万針につい
て」三枚(符四二号のうち)、「48・5・29付中間溜分7~9月値上げについ
てと題する書類」一綴(符一五五号)、「売上価格表(潤滑油・燃料油)と題する
フアイル」一冊(符二〇三号)、「47・12・21付株式会社D19宛値上げに
つきお願の件と題する文書」一枚(符三九四号)、「48・1・18付株式会社D
19宛各油追加値上の件と題する文書」一枚(符三九五号)、「48・9・22付
株式会社ユァサ宛一〇月仕切価格改訂についてと題する文書」一枚(符三九六
号)、A11供述七二回、同四九・三・一三検一・三項、同四九・三・一四検三・
四項、同四九・三・三〇検二・三・五・六・八・一〇項、同四九・四・一九検六
項、B38証言二八回、同四九・三・一八検四・五項、同四九・三・一九検二・四
項、同四九・三・二八検三項、B39証言八六・八七回、B40証言一一〇回、
「値上げ文書綴」一綴(符四四号)、「製品仕切UPと題する資料」一枚(符四六
号)、「ノート(,72D20(株))」一冊(符二八一号)、A12供述七三・
七四回、同四九・三・二一検六項、同四九・四・一検八項、F4証言一七・一八
回、C41証言二九回、同四九・三・三〇検一項、同四九・四・二五検二ないし五
項、C42証言八九回、同四九・四・一〇検八項、「47・12・19付A・E3
重油仕切価格の改訂について」一枚(符二二六号のうち)、「48・1・27付
A・E3重油仕切価格の改訂について」一枚(符二二六号のうち)、「48・6・
6付A・E3重油仕切価格の改訂につて」一枚(符二二六号のうち)、「48・
5・30付値上げについてと題する文書」一枚(符二二七号)、A27供述七五
回、同四九・三・二四検七項、C3証言一九回、C43証言八六回、C44証言一
二八回、「7月指示価格指針」一枚(符二一〇号のうち)、「48・9・20付4
8年10月の指示価格決定基準」一枚(符二一〇号のうち)、「48・1・18付
48年2月指示価格策定方法」一枚(符二一一号のうち)、A13供述七六・七
七・七八回、同四九・三・一六検五項、同四九・四・五検二・三・五ないし七・九
項、同四九・四・一〇検一項、同四九・四・二五検二項、C45証言三〇回、同四
九・四・九検六項、C46四九・四・一三検七項、「’72・12・29付JA
N.SALES PLAN」五枚(符四九号のうち)、「’73・1・31付 P
RICE POLICY(FEB)」三枚(符四九号のうち)、「’73・7・3
1付 SALES POLICY(AUG)」四枚(符五〇号のうち)、「’7
3・9・28付 OCTOBER:SALES POLICY」五枚(符五〇号の
うち)、「’73・11・9付セイヒンカカクネアゲニツイテと題するテレツクス
NO.9381」 一通(符五三号)、「’73・11・12付製品価格値上げに
ついてのテレツクスNO.9404」 一通(符五四号)、「’73・1・13付
 KEROSINE PRICE と題するテレツクス写」一枚(符一六九号)、
A14四九・三・一二検九項、同四九・三・一四検一項、同四九・三・一五検一
項、同四九・三・一六検五項、同四九・三・一七検一・二項、同四九・四・二五
検、同四九・四・二六検、C47証言三二回、同四九・三・二一検四・五項、同四
九・三・二二検二・五ないし七項、同四九・四・二七検二・五項、C48証言一二
五回、同四九・四・二四検一項、「47年度第4回支店長会議資料47・12・2
1 22」 一綴(符五八号)、「48・1・24付2月販売方針と題するテレタ
イプ」三枚(符六〇号)、「48・6・11付7~9月販売方針の事」七枚(符六
二号のうち)、「48・6・30付7月価格方針」二枚(符六二号のうち)、「4
8・7・24付8月販売方針」一枚(符六二号のうち)、「48・11・14付※
12月販売方針と今后の販売に就而」一枚(符六二号のうち)、48・9・20付
の誤記と認められる(C47証言三二回参照)「49・9・20付10月以降の仕
切UP」一枚(符六三号のうち)、「48/下販売方針と題するフアイル」一綴
(符六四号)、「48・1・20付各特約店店主宛仕切価格再値上げお願いの事と
題する文書」二枚(符三一三号)、「’73・G2手帳」一冊(符三一六号)、
「47・12・25付特約店店主宛仕切価格値上げお願いのことと題する文書」二
枚(符四〇三号)、「48・1・20付D21株式会社宛仕切価格再値上げお願い
の事と題する文書」二枚(符四〇四号)を総合すると、被告会社らにおいては、概
ね、販売部等が製品の販売価格についての方針を樹て、支店長会議を開催し、ある
いは文書、電話等により支店等及び直売部等に右方針を指示してこれに基づく販売
に当らぜていたものであり、本件の五回にわたる前記の値上げ内容の合意がされる
と、右の指示系統により、別紙値上げ指示一覧表(一)ないし(七)記載のとお
り、概ね右合意の内容に対応する値上げの指示がされていたことが認められる。
 そして、C23証言八〇・八一回、A2供述五六回、同四九・三・二八検四項、
C4四九・五・四検四項、C19証言八一回、C1証言九回、C24証言五三回、
C25証言八二・八四回、A5供述六四回、同四九・四・九検四項、C27証言八
三回、C30証言八三回、同四九・四・一三検三・四項、C32証言二五回、同四
九・四・二七検二・三項、C5証言一五回、C34証言八五回、C33証言一一〇
回、「48・1・18付ガソリン他の追加値上げ通知について」一枚(符七号のう
ち)、C36証言八五・八八・九〇回、同四九・四・一五検五・七項、C37証言
一一〇回、「47・12・28付D22株式会社所長F22宛1月分仕切価格及び
割当量御通知の件と題する文書」二枚(符二〇五号)、「48・1・17付D22
株式会社宛自揮仕切価格改訂お願いの件と題する文書」一枚(符二〇六号)、「4
8・6・13付D22株式会社宛価格改訂の件と題する文書」一枚(符二〇七
号)、「48・10・17付D22株式会社宛ガソリン他石油製品値上げについて
お願いと題する文書」一枚(符二〇八号)、「48・11・28付D22株式会社
宛12月度販売価格及び販売数量についてお願いと題する文書」二枚(符二〇九
号)、B38証言二八回、B39証言八六・八七回、「47・12・19付D23
(株)宛各油種仕切価格変更についてのお願いの件」二枚(符四三号のうち)、
「燃料油仕切価格表47・4~48・9と題するフアイル」一綴(符二一三号)、
「燃料油仕切価格表48・10~と題するフアイル」一綴(符二一四号)、C41
証言二九回、C42証言八九回、C43証言八六回、C45証言三〇回、C46証
言八八回、同四九・四・一三検七項、C49証言一二七回、「47・12・26付
価格調整の件」二枚(符四八号のうち)、C50証言八九回、同四九・四・一九検
三・四・六・八項、C48証言一二三・一二五回、同四九・四・一三検三項、C5
1証言一二三回、同四九・三・二五検三ないし五項、「47・12・25付特約店
店主宛仕切価格値上げ御願いのことと題する文書」二枚(符三一二号)、「48・
1・20付各特約店店主宛仕切価格再値上げ御願いの事と題する文書」二枚(符三
一三号)、「48・9・29付各特約店MP宛仕切価格値上げお願いの事と題する
文書」一枚(符三一四号)、「47・12・25付D24株式会社取締役社長F2
3宛仕切価格値上げお願いのことと題する文書」二枚(符四〇一号)、「47・1
2・26付D25株式会社支店長F24宛仕切価格値上げお願いのことと題する文
書」一枚(符四〇二号)、「47・12・25付特約店店主宛仕切価格値上げお願
いのことと題する文書」二枚(符四〇三号)、「48・1・20付D21株式会社
宛仕切価格再値上げお願いの事と題する文書」二枚(符四〇四号)、「48・1・
20付D24株式会社取締役社長F23宛仕切価格再値上げお願いの事と題する文
書」二枚(符四〇五号)、「48・1・20付D25株式会社支店長F24宛仕切
価格再値上げお願いの事と題する文書」二枚(符四〇六号)、「48・6・21付
御得意様各位宛中間溜分の仕切価格改訂お願いの事と題する文書」一枚(符四〇七
号)、「48・10・11付D25株式会社石油課長F25宛仕切価格値上げおお
いの事と題する文書」三枚(符四〇八号)を総合すると、被告会社らの各支店等に
おいては、特約店等に対して本社の右指示どおりの値上げ巾及び値上げ時期で値上
げの通告をしている例も多いが、実際の仕切り価格は、取引上の種々の事情により
多様であつて、元売り会社別に全油種平均及び油種別価格に水準の差があり、一つ
の元売り会社についても、支店別に、また、一支店においても特約店別に、一つの
特約店に対してその特約店が自ら小売りする場合と販売店に卸売りする場合別に、
あるいは特約店の販売する需要家別に、それぞれ別の価格が設定されていることが
認められる。
 また、C52証言九〇回、C31証言一〇四回、B40証言二〇回、同四九・
四・二検三項、同四九・四・二六検二項を総合すると、直売については、ある油種
につき大手の元売り会社が主要需要業界の大手の会社とまず取引価格を取り決めた
のち、他の取引もこれに追随することが多かつたことが認められる。
 A1供述五九回、A2供述五六回、A10供述七一回、A27供述七五回、C2
証言一一三・一一五回、C41証言二九回、「48・4業法価格での回収水準」一
枚(符一号のうち)を総合すると、本件五回の値上げは、右一、二月値上げについ
ては、やや明確を欠くけれども、昭和四八年四月ころに平均値上げ巾一キロリツト
ル当り六八〇円のうち五五〇円程度まで達成されたものと窺われ、右一一月値上げ
は、右七月(延期後八月)値上げ及び一〇、一一月値上げ分も併せて早期に達成さ
れたことが認められる。
 (二) 共同行為についての主張に対する判断
 1 共同行為の存否についての主張(前記第三の二の(一)の1)に対する判断
 (1) 弁護人らの主張(補足)
 弁護人らの主張を敷衍すると、石油製品は戦前から引続き国家の統制ないし管理
の下に置かれており、昭和三七年の業法制度後は、通産省は同法の運用ないし同法
に基づく行政指導等により石油会社の事業活動を調整し、石油製品価格も基本的に
は通産省の指導の下に形成されて来た。通産省は、昭和四六年四月、前年のOPE
C攻勢の開始に対応するため、業界に対し、一〇セント負担により石油製品の平均
値上げ巾の上限を抑制するとともに、右の平均値上げ巾を油種別に展開した各油種
の値上げ巾の上限をもガイドラインとして示してこれを遵守するよう要請し、いわ
ゆるガイドライン方式による価格についての行政指導をしたのに始まり、昭和四七
年四月にも右同様の方式による行政指導をし、かつ、その際、今後原油値上がり等
のコストアツプ要因が生じてガイドラインを上廻る石油製品の値上げが必要になつ
たときは必ず事前に通産省に申し出るよう指示し、ここに右のガイドライン行政指
導方式が定着し、以後ガイドラインの改定がされなければ石油製品の値上げをする
ことができないことになつた。被告人らは、昭和四七年から昭和四八年にかけて、
B2委員会において、本件各訴因に対応する昭和四八年中の五回にわたる石油製品
の値上げについて話合いをしたことがあるが、これは、右のガイドライン指導方式
に従い、業界が通産省に原油値上がり等の新たなコストアツプの発生に対応する右
ガイドラインの改定を求めるため、業界全体の平均コストアツプ額を計算し、これ
を油種別に展開して各油種の値上げ巾を算出し、これに布望の実施期日を付した業
界としてのガイドラインの原案を取りまとめたものにすぎない。そして、営業委員
長から通産省担当官に右原案の了承を求め、その了承が得られると、ガイドライン
が設定されたことになり、被告会社らを含む全元売り会社は、右ガイドラインの範
囲内で了承のあつた実施期日以降各自の販売方針に基づいて値上げ(場合によつて
は据置きあるいは値下げ)をして来たものである。それで、被告人らは、そのそれ
ぞれの所属する会社の業務に関して、訴因のように被告会社らが共同して値上げす
ることを協議し、決定したものではなく、通産省の右行政指導に協力したにすぎな
いというのである。
 (2) 判断
 そこで考えると、証拠の標目に掲げた関係証拠によれば、前記認定のように、関
係被告人らがそのそれぞれ所属する被告会社の業務に関して、被告会社らが共同し
て石油製品の値上げをすることになる行為をしたことを認めることができるが、所
論にかんがみ補足して説明する(なお、若干の点については後の2ないし5におい
て説明する。)。
 イ 右証拠のうち関係被告人らを含め本件価格の会合に被告会社らを代表して出
席した者らの検察官に対する各供述調書中の右認定に沿う各供述記載につき、弁護
人らは、右供述者らは、右供述当時通産省の行政指導により石油製品価格が凍結さ
れており、これを早期に解除して貰うべく陳情していた情況にあつたため、通産省
担当官に迷惑を及ぼすことは右事態の解決に不利になることを慮つたなどの理由で
本件値上げに関する通産省担当官の介入につき供述することを殊更避けたので、止
むなく事実に反する共同行為の存在を認めざるをえなくなつたものである旨主張す
るけれども、なるほど、C2証言一一四・一一五回、C52証言一一六回、C14
証言四六・一二二・一二三回、A1供述六〇回によると、昭和四八年一〇月一六日
の原油の大巾値上がりののちも昭和四九年一月以降のさらに一段と大巾な値上がり
が憂慮されたので、その値上がりに対応する石油製品の値上げについて慎重に検討
するため、通産省は、昭和四八年一二月二四日F26通産大臣談話の形で元売り仕
切り価格凍結の指導をするとともに、昭和四九年一月以降の原油値上がりに対応す
る製品値上げ巾及び値上げ時期について主体的に検討を進めていたものであること
が認められるけれども、右証拠及び「昭和四九年三月一六日付通商産業省石油製品
価格の指導方針と題する書面」五枚(符八二号)によると、同省は、同年三月一六
日か一七日ころ、同月一八日から右凍結指導を解除し、新しい価格体系に移行して
差支えないとしてその指導方針を示し、個別企業に対する個別指導をしたことが認
められるのであつて、右各供述調書は、その大半が右の通産省の凍結解除措置のの
ち作成されたものであるから、右主張のような配慮は不要であつたものといわざる
をえず、その他自己や被告会社らの不利益になることを承知のうえ所論のように虚
偽の陳述をする特段の事情は認めることができないばかりでなく、右のような態度
で供述したとしても、必然的に共同行為まで認めざるをえない訳ではないと考えら
れるから、右主張は理由がない。
 ロ 前記の各供述調書によれば、被告人らは、石油業界は前記認定のように激し
い拡販競争、価格競争が行なわれる体質をもつているため、本件のような石油製品
の大巾な値上げを各社独自で行なうことは、他社との競争関係において、また、需
要者の抵抗があることからも困難であるから、各社が話し合つて値上げ巾及び値上
げ時期を決め足並みを揃えて一斉に値上げすることが最も効果的であると考えてい
たことが認められる。
 ハ A2四九・三・二九検七項、A10四九・四・三検二項及びA7四九・四・
九検六項によれば、被告人A2が価格の会合を主宰していた当時は、その席上での
話合いを信頼できるものとし、また、その秘密を保持するため被告人らのような被
告会社における責任ある地位にある者以外原則として右会合に出席することができ
ないことになつていたことが認められる。
 ニ 被告人らは、事実第一、第二及び第四につき、公正取引委員会の摘発をおそ
れて右合意を隠蔽するため、前記のように、ガソリン値上げについて実際の値取り
をする実取日のほかに打出日を各社別、あるいは各社の支店別に設けることを合意
した。
 ホ 事実第四につき、A9供述六九回により、昭和四八年九月四日ころ、被告会
社A20(株)本社から各支店長に対し、「48/下値上げ方針について48・
9・4」(符八号のうち)に記載されているように、「48/下業界方針が下記の
とおり決定されましたので、ご連絡いたします。(中略)当社といたしましても業
界レベルの値上げは是非とも達成する必要がありますので、当社方針も業界同様と
いたします、」と示達したことが認められ、C51証言一二四回及び同四九・三・
二六検三項により、被告会社A26(株)本社の販売部販売調整プランナーC51
が、同年九月二六、二八両日開催の支店長会議の席上、「業界の動向」(符六四号
のうち)に記載されているように「値上げ時期の発表については一斉値上げの事実
をつかまれぬ様充分注意が必要です(一〇月は各社個々にさみだれ値上げを行い、
一一月に揃える)」という趣旨の説明をしたことが認められ、C1証言によると、
被告会社A16(株)の同年九月二六日開催の支店長会議の際、右会議資料とし
て、同会社販売部作成の「ガソリン値上げに関する取り決め事項」として「各社は
支店別に10/15~10/25の間のいずれかの日を決めその決めた日より三、
〇〇〇円/K1仕切りUPする旨を9/22までに全特約店に通知徹底する」と記
載してある「<記載内容は末尾1-(2)添付>」(符二号のうち)を各支店長に
配布したことが認められる。
 へ A7供述六六回、A7四九・四・九検六項、A14供述七八回及びC1証言
五回によると、価格の会合においてC1座長が説明用に配布した資料はその場で回
収され、被告人A1がメモをとることをやめるべきであると提言してそのとおり行
なわれていたことが認められ、また、被告会社A16(株)の事実第二及び第四の
事実に関するものと認められる支店長会議資料の表紙(符二号、四号のうち)に小
鳥のマークを描き、「厳密取扱注意」と記載してあり、C1証言三回及びC2証言
二一回によると、右記載は公正取引委員会に注意せよとの趣旨で記載されたものと
認められ、被告会社A20(株)の前記示達文書(符八号のうち)に「読後必破棄
願います」と注意書きがされ、また、被告会社A26(株)の前記支店長会議資料
(符六四号のうち)に、前記の文言に続いて「この点については、当社としても、
他社に迷惑をかけぬ様値上げに関する文書の保管連絡等従来以上に取扱いに注意致
したいと思いますので、販売課員等を御指導願います」という趣旨の記載がある。
 ト A2四九・三、一三検四項、同四九・三・一四検四項、A27四九・三・一
四検七項、C3証言一九回、B40証言一一〇回、被告会社A16(株)の昭和四
八年一月二二日の支店長会議の配布資料である「ガソリン(Ⅱ)活動方針9」(符
四号のうち)の「摘発主義」として「値上げ阻害要因は細大もらさず支部で摘発す
ること。問題によつては中央へ上げて早期解決をはかること。」という記載及び同
資料である「軽油部会(Ⅱ)活動方針13」(符四号のうち)中の「支部における
活動」「摘発主義」として「値上げ時期における他社の安値売込その他値上阻害要
因等は支部で摘発し、問題の早期解決をはかること。支部でつぶせない場合は中央
に持ち上げること」という記載によると、被告会社らは、それぞれの販売担当者を
部会員として、油種別に、また重油については需要家の産業別にそれぞれ中央(セ
ントラル)と地方(ローカル)とに部会を設け、ガソリン部会、鉄鋼部会及び電力
部会などと称していたが、右部会は、価格の会合において合意された値上げ内容を
有効に実施するため、その実施方法の協議、各社共同しての需要家との交渉、右値
上げ額以下での販売の是正等を行なうことを目的としていたことが認められる。
 チ 昭和四八年九月三日の価格の会合において、被告人A1から前記第三の三の
(一)の13の(2)記載のような発言がされた。
 リ A1四九・三・二七検一八項、A2四九・四・一検三項、A11四九・三・
二四検五項及びA27四九・三・一八検九項等によれば、被告人A1は、昭和四八
年一〇月ころの価格の会合において、被告人らが手分けして地方を廻り、被告会社
らの支店長らを集め、同年一〇月、二月の値上げの合意の内容を説明し、その実施
の徹底をはかることを提案し、その旨の取り決めがなされ、同月二一日から福岡、
広島、大阪及び名古屋で右の趣旨の会合が開かれたことが認められる。
 ヌ A9四九・三・二八検五項、A27供述七五回及びA14四九・三・一三検
二項によれば、昭和四八年一一月八日の新聞に被告会社A20(株)が価格を据置
く旨の記事が掲載され、被告人A9は、被告会社A15(株)の担当者から、被告
人A1が新聞を見てびつくりしているが真相はどうなのかとの問合わせを受け、事
実でない旨釈明し、合意どおり値上げする旨答えたが、その後その他のほぼ全部の
被告会社にも右趣旨の電話連絡をしたことが認められる。
 ル 前記第三の三の(一)の16記載のように、前記の被告人らの合意の内容に
ついて通産省担当官の了承を得る前に、本社から支店等に対してその内容に対応す
る値上げ指示が行なわれている場合がある。
 オ 右ロないしル記載の各事実は、被告会社らにおいて、本件共同行為をすべき
動機があり、それぞれの会社において、あるいは共同して、値上げの合意を隠蔽す
る措置や右合意の内容実現の措置を講じたことを示すものであつて、本件各共同行
為の存在を推認させ、右イの証拠の信用性を裏付けるものである。
 ワ そこで、弁護人らの前記の主張について考えると、石油製品価格に関する所
論のガイドライン指導があつても、当然に被告人らの共同行為が認められなくなる
訳ではないことは言うまでもないが、前記認定の石油製品価格に関する行政介入の
事実と昭和四六年ころから本件値上げ当時までの石油行政担当者である通産省事務
次官証人C7、証人C8、同C9、同C10、同C11、同C12、同C13、同
C14、同F9及び同F10の当公判廷における各供述を総合して、本件行政指導
等の実態が、右共同行為の存在を疑わせるに足るものであるかについて検討する。
 前記認定による石油製品価格に関する行政の介入は要約すると左のとおりであ
る。すなわち、石油製品価格は、OPEC攻勢前においても主として産業政策的立
場からある程度国家管理の下に置かれ、業法施行後は、主として市況是正を目的と
して、業法による標準価格の設定をはじめ、指示価格による指導あるいは過当競争
の排除措置等必要の都度行政指導等による行政の介入が行なわれて来たものである
が、OPEC攻勢後は、産業政策的立場に立ちながらも、物価対策、民生対策上の
配慮をも加えて、行政指導等による価格抑制的色彩の濃い行政の介入が行なわれ
た。まず、昭和四六年四月の値上げの際の一〇セント負担指導、同年一〇月の民生
用灯油の価格抑制指導、同年一二月の差益還元をしない旨の意見発表、昭和四八年
六月のいわゆるチヤラ論指導、同月の中間三品等の値上げの実施期日の延期指導及
び同年一〇月の家庭用灯油の価格抑制指導などは、その指導等が行なわれる過程に
おいて、業界から資料の提出を受けるなど業界が関与することはあつたけれども、
通産省が自発的、主体的に、そして公式に行なつた介入であつた。そして、昭和四
六年四月の値上げにおいては、業界においても自発的な値上げの動きがあつたけれ
ども、通産省担当官は、当初から値上げ抑制の方針で主体的、積極的に業界に臨
み、業界に対し、一〇セント負担指導により平均値上げ巾を示すとともに、自ら油
種別値上げ巾の上限を示すなどしてその遵守を要請し、右指導の過程においては業
界から資料を徴し、その説明を聞くなどしたことはあつたにせよ、業界としてはそ
の指導に従うはかなかつたものであつて、所論のいうガイトライン指導というにふ
さわしいものであつた。しかし、昭和四七年四月の値上げの際には、業界において
も自発的に値上げを図つてその内容を決定し、その過程においては、価格抑制方針
に立つ通産省担当官との間に意見の対立があつて、その事態打開のため業界首脳と
鉱山石炭局幹部との会談が開かれて協議が行なわれたり、業界から通産省担当官に
対して資料を提出して説明したり、通産省担当官と業界との共同計算作業が行なわ
れたり、また、業界の値上げの合意内容について通産省担当官が了承した事実は認
められるけれども、右値上げは業界の主体的な値上げということができ、通産省が
所論のいうガイドライン方式による価格指導をしたと認めることはできない。
 <要旨第一>そして、本件の五回の値上げについては、いずれも、関係被告人らが
自発的に値上げを図つて値上げの内容を合意し、その後通産省担当官に
より右合意の内容が了承されたものであつて、通産省担当官が、右合意の前後に
(ただし、同年二月及び七月(延期後八月)値上げについては合意の後のみ)自ら
業界に依頼し、あるいは業界の意思によつて業界から資料の提出を受けてその説明
を聞いたり、一〇セント負担の継続等の平均値上げ巾、灯油その他若干の油種につ
いての個別の値上げ巾、あるいは値上げの時期について若干の価格抑制指導をし、
被告人らも右の指導、あるいは通産省(通産省担当官)の従来の態度から付度され
る意見を尊重して右値上げの合意の内容に組み入れたりしたことがあつたにすぎな
い。
 右の経緯と前記の通産省担当官らの各証言とを併せて考えると、通産省担当官
は、昭和四六年四月の値上げに際しては、原油事情の急激で大きな変化に対応して
前記のような主体的、積極的な指導をしたが、その後は、価格動向に注意を払い、
調査して実態把握に努め、業界に対し価格抑制方針に立つて便乗値上げ等好ましく
ない値上げをしないよう一般的警告を与えるほか、平均値上げ巾についてとつた従
来の措置、方針の継続を求めるとともに、民生対策上の配慮から灯油等一部油種に
ついての価格指導等をするに止め、油種別価格一般については市場における形成に
委ねることにして、油種別値上げ巾の上限を示してその遵守を要請するなどの主体
的、積極的な介入をしない態度であつたと認められる。そして、本件において、前
記認定から推認できるように、被告人らが通産省担当官の行政指導等に従順な習慣
があつたこと、昭和四六年四月の値上げの際の強い行政指導や昭和四七年四月の値
上げの際の値上げについて予め通産省担当官に相談することの要請などが被告人ら
の記憶に残つていたと考えられること及び過去の通産省担当官の意見や態度等から
みて、被告人らの値上げの合意の内容につきその了承を得なければ、その内容如何
によつては価格抑制指導を受けることもありうると予測したことは推認できること
を考慮しても、所論のように、ガイドライン方式による指導が慣行として定着し、
通産省担当官の了承を得なければ値上げができないという認、許可類似の仕方が存
在していたものとは認められないのであり、右了承というのも、通産省担当官とし
て被告会社らが右合意の範囲で値上げする限り改めて抑制指導には出ないという消
極的な意思表示にすぎず、被告人らとしても通産省担当官の抑制指導を避け、値上
げを実現するためにはむしろ了承を受ける方が有利であると考えて進んで了承を受
けたものであると認めるのが相当である。そうすると、本件値上げの過程におい
て、通産省担当官の行政介入が行なわれ、被告人らの行為に一部行政協力的なもの
があつたことは認められるものの、そのため被告人らの前記共同行為があつたとす
る認定を左右するに足るものと認めることはできない。
 2 本件の主体についての主張(前記第三の二の(一)の2)に対する判断
 弁護人らは、右主張の根拠として、B2委員会は通産省の価格指導の窓口として
機能していたものであつて、本件各値上げにおいても、通産省と業界との連絡など
はすべて右委員会を通じてなされたこと及び本件の価格の会合に自発的に出席しな
かつたD1(株)やD2(株)も本件値上げ巾に拘束されるものであつて、本件に
ついて価格の会合の行なつたことは、右両者からの出席者がなくても実質的には昭
和四六年四月の値上げの際の右委員会の場合と異なるところはないことなどを挙げ
るが、前記認定のように、本件値上げの合意自体は通産省の行政指導に従つてなさ
れたものではないから、右前者は所論主張の根拠として十分でなく、また、価格の
会合は、前記認定のように、エツソ・スタンダート石油(株)及びD2(株)から
の出席者がないばかりでなく、その構成員や手続などの面において右委員会と大き
な違いがあることに徴すると、被告会社らからの出席者が殆んど営業委員であつ
て、その中にはその所属する被告会社において営業を担当していない者もあること
やその他右所論主張を考慮しても、右会合か右委員会と無縁のものとまではいえな
いまでも、右両者が同一であつて、本件の主体が右委員会であると認めることはで
きない。
 3 共同行為における被告人らの意思の連絡についての主張(前記第三の二の
(一)の3)に対する判断
 弁護人らは、まず、共同行為における意思の連絡は代理人によつてなされること
ができないから、被告人らのうち価格の会合に出席せず、代理人が出席した場合に
おいては、その被告人が共同行為をしたものとはいえない旨主張する。
 そこで、検討すると、被告人A2は、事実第四に関する昭和四八年九月三日(同
被告人に代つて前記C1が出席)及び同年一〇月八日(同被告人に代つて前記C4
が出席)の各会合に、同A9は、事実第四のE4重油の値上げ巾修正に関する同年
一〇月八日の会合(同被告人に代つて前記C5が出席)に、同A12は、事実第三
に関する同年五月一四日(同被告人に代つて前記F4が出席)、同年七月二日(上
記に同じ。)及び同月二三日、事実第四に関する同年九月三日(同被告人に代つて
前記F4が出席)及び同年一〇月八日(上記に同じ。)の各会合に、前記A27
は、事実第三の第一次共同行為に関する同年五月一四日(同人に代つて前記C3が
出席)、事実第四の基本的な共同行為に関する同年九月三日(上記に同じ。)の各
会合に、被告人A14は、事実第二に関する同年一月一〇日及び同月一八日(同被
告人に代つて前記F1が出席)の各会合に、それぞれ出席しておらず、右各会合当
日、右各関係事実の共同行為(又はその一部)につき直接には他の被告人らと意思
の連絡をしていないことが認められるけれども、被告人A9は、事実第四の基本的
な共同行為に関する価格の会合に出席して直接他の被告人らと意思の連絡をしてお
り、前記A27は、事実第三の第二次共同行為に関する価格の会合に出席している
から、そのとき同事実の共同行為につき直接他の被告人らと意思の連絡をしている
ものと認められ、また、事実第四のE4重油の値上げ巾修正に関する価格の会合に
出席しているから、そのとき同事実の基本である共同行為についても他の被告人ら
と暗黙の裡に意思の連絡をしたものと認められるばかりでなく、A2供述五六回、
A2四九・四・一検一・三・五ないし七項、C4証言五回、C1証言七回、A9供
述六九回、同四九・五・一五検一・三項、C5証言一五回、A12供述七四回、同
四九・四・二六検(一)一項、F4証言一七・一八回、同四九・三・一九検一項、
C41証言二九回、A27供述七五回、同四九・三・一八検六項、同四九・四・四
検八項、C3証言一九回、A14供述七九回、A14四九・三・三〇検、F1証言
二〇回及び前記認定のような価格の会合の性格を総合すると、右被告人らに代つて
価格の会合に出席した右の者らは、そのそれぞれ所属する被告会社を代表して出席
して右会社の業務に関して共同行為を行つたものであること及び本来当該会合に出
席すべき右被告人ら及び前記A27(以下被告人らという。)は、予め右出席者と
意を通じ、また、事後においてこれらの者から会合の結果の報告を受け、そのそれ
ぞれ所属する被告会社の業務に関して、これを了承したことが認められ、右認定と
抵触する証拠は信用できない。そうすると、右被告人らに代つて出席した右の者ら
は、当該共同行為の共犯者であると認められ、右被告人らは、これらの者を通じて
他の被告人らと順次意思を連絡したものといわざるをえない。
 つぎに、弁護人らは、事実第五につき、被告人A1ら四名が本件犯行を企図し、
これをその他の関係被告人らに伝えて賛同を得たにすぎないものであつて、右連絡
を受けた被告人らに共同行為における意思の連絡があつたというに足りない旨主張
する。
 そこで、検討すると、右事実認定の証拠として前に掲げた関係証拠によれば、被
告人A1ら四名が昭和四八年一一月六日に合意した結果につき連絡ないし報告を受
けた前記認定の被告人らは、そのそれぞれの所属会社が他の被告会社と共同して右
共同行為の内容に従つて値上げする意思を以て了承したものと認めることができる
のであるから、右共同行為についての意思の連絡に欠くるところはない。
 4 「業務に関して」という構成要件についての主張(前記第三の二の(一)の
4)に対する判断
 弁護人らは、当該被告人の関与した本件各共同行為を行なうことについてその所
属する被告会社から事前に権限を与えられておらず、営業委員として価格の会合に
出席していたものであること、当該被告人がその所属する被告会社内において本件
各共同行為において値上げの対象となつた各油種あるいはその一部について、販売
価格を決定する権限がなく、あるいは実際上関与しなかつたこと、また、実際の販
売価格を本件各共同行為に従つて決定するような被告会社内の仕組みになつておら
ず、右のように決定する意思がなく、あるいは事実上右のように決定することがで
きないことなどを理由として、被告人らのうちにはそのそれぞれの所属する被告会
社の業務に関して本件各共同行為を行なつたものでないものがある旨主張するもの
と解されるが、本件各共同行為についての認定の証拠として前に掲げた被告人らの
検察官に対する各供述調書中のこの点に関する前記認定に沿う各供述記載、前記認
定の価格の会合がB2委員会ではなく、事業者が値上げの合意を行なうためのもの
であつたこと及び右各会合における合意の内容に徴すると、右所論を考慮しても、
被告人らの行為が右構成要件に該当することを優に認めうる。
 5 被告会社A17(株)及び被告人F10についての主張(前記第三の二の
(一)の5)に対する判断
 弁護人らは、まず、被告会社A17(株)は、その販売する石油製品の総量(ガ
ソリンは精製業者として販売しているものであるから除く。)の約六四パーセント
を本社においてD13(株)、D26(株)、D27商事(株)及びD28(株)
の四商社に同社らと継続的販売契約を結んで販売し(そのうち右総量の約一八パー
セントをD28(株)を除く右三社に販売し、右三社はこれをさらにA25(株)
に販売していた。)、その残りの約三六パーセントを支店等で特約店及び大口需要
家に販売していたが、右四商社は実質的には元売り業者にあたるものであつて、右
被告会社が右四商社に対して販売する価格も、両当事者が取り決める特殊な方法に
より決定されていたのであり、右の四商社の業態や右取引形態及び取引価格に徴す
ると、右被告会社と右四商社間の取引は、元売り業者と特約店間のそれとは態様が
異なつており、また、その余の支店の行なう販売価格も右四商社に対する販売価格
を基礎として決定されるものであることを併せ考えると、右被告会社は元売り会社
でなく、その行なう取引は元売りと流通段階を異にするものというべきであるか
ら、右被告会社は、本件共同行為をなしうる事業者とはいえない旨主張する。
 そこで、考えると、右被告会社の販売態様は所論のとおりであつて、右四商社と
の取引が元売り会社と特約店との通常の取引と趣を異にするところがあるとはいえ
るけれども、右被告会社は、精製業を兼ね、自社生産の商品を販売するという石油
製品の流通段階の最も源に位置する販売業者である点から考えると、やはり元売り
業者であり、その行なう取引は元売り段階における取引であると認めざるをえない
ので、所論主張は前提を欠く。
 つぎに、弁護人らは、右被告会社が元売りしていないガソリン及びジエツト燃料
油に関しては右被告会社は本件共同行為をなしうる事業者ではないから、右被告会
社及び被告人F10につき右両油種に関する本件不当な取引制限の罪は成立しない
旨主張するものとも解される。
 そこで、考えると、右被告会社自体が右両油種についての事実第三を除く本件各
共同行為をなしうる事業者でないことは所論のとおりであるが、本件においては、
前記認定のように、全油種平均値上げ巾を計算したうえ、これを各油種に展開して
各油種の値上げ巾を決定したものであり、ガソリン及びジエツト燃料油の各値上げ
巾が右被告会社の取扱う各油種の値上げ巾に影響することから、被告人F10は、
右被告会社の業務に関して、他の被告人らと共謀して、右被告会社を除く他の被告
会社らの共同行為となる右の両油種に関する本件値上げの合意に加わつたものであ
ると認められるから、右両油種に関する本件各不当な取引制限の罪についても共同
正犯たることを免れないものであり、右被告会社も両罰規定によつて処罰を免れな
い。
 (三) 「相互に事業活動を拘束し」という構成要件についての主張(前記第三
の二の(二))に対する判断
 弁護人らは、その主張の根拠として、本件価格の会合への参加、不参加あるいは
脱退は自由であり、本件各共同行為の内容を遵守させるため、被告会社ら間におい
てこれを遵守する旨の誓約書の交換やこれに反した行為に対する違約金等の反則罰
の定めはなく、また、本件各共同行為の内容は実現されていないことを挙げる。
 <要旨第二>しかし、前記の事実第一ないし第五の証拠として掲げた被告人らの検
察官に対する各供述調書及び前記第三の三の(二)の1の(2)のロな
いしル摘示の各間接事実並びに前記第三の三の(一)の16認定の被告会社らにお
ける値上げ指示の情況を総合すると、被告人らが、本件関係各共同行為をし、これ
に従つて事業活動をすることがそのそれぞれ所属する被告会社に有利であると考
え、その内容の実施に向けて努力する意思をもち、かつ他の被告会社らにおいても
これに従うものと考えて本件各共同行為をしたことが明らかに認められるのである
から、本件各共同行為が被告会社らの事業活動を相互に拘束するものであることは
明らかであつて、被告人らの行為は右構成要件に該当する。そして、右拘束力は当
該共同行為についてその有無を考えるべきことであるから、共同行為に参加するか
しないかが自由であることは右判断の資料とはならず、また、不当な取引制限は独
禁法上違法行為であるから、その実効性を期待することが本来無理なものであり、
従つて右構成要件は被告会社らに共同行為の内容を遵守する義務を負わせることま
で要するとする趣旨ではないと解するのが相当であるから、本件において、被告会
社ら間において本件各共同行為の遵守確保のための所論主張のような手段が講ぜら
れておらず(前記認定のように共同行為に反する行為を排除するための方法は考え
られていた。)、右共同行為からの脱退が自由であり、さらに、右共同行為の内容
がすべての場合直ちに十分に実現されたことが認められないとしても、被告人らの
本件行為が右構成要件該当性を欠くと認めることはできない。
 (四) 「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という構成要件に
ついての主張(前記第三の二の(三))に対する判断
 しかし、前記認定のように、本件各共同行為は、石油製品の必要値上げ巾、すな
わち値上げ額を合意したものであつて、単に値上げ巾の上限を合意したものではな
いから、所論は前提を欠く。
 (五) 「公共の利益に反して」という構成要件についての主張(前記第三の二
の(四))に対する判断
 弁護人らは、要するに、不当な取引制限についての罰則中の「公共の利益に反し
て」とは、独禁法の目的が「一般消費者の利益を確保する」とともに「国民経済の
民主的で健全な発達を促進すること」であること、昭和二八年法律第二五九号によ
る同法改正の沿革及び刑罰法規の解釈上文理を離れることが許されないことから考
えると、犯罪構成要件であり、その意味は生産者、消費者の双方を含めた国民経済
全般の利益に反することをいうものであつて、競争の実質的制限があつても、公共
の利益に反しないとして不当な取引制限にあたらない場合があると解すべきであ
り、同法の目的を消費者の利益の確保のみとみ、公共の利益は自由競争を基盤とす
る経済秩序そのものを指すとして、競争の実質的制限が直ちに公共の利益に反する
と解し、「公共の利益に反して」は宣言的文言であるとすることはできない。そし
て、業法の目的規定及び標準価格に関する規定の趣旨からみて、石油の安定供給等
のため合法的に競争制限をなしうる余地があり、右標準価格に関する規定に基づく
措置に準ずる行政指導による価格の設定等を考えることができるから、本件のよう
に適法な行政指導下における行政協力措置は公共の利益に反しない行為というべき
である旨主張する。
 <要旨第三>そこで、考えると、本件不当な取引制限についての罰則は、競争の実
質的制限が「公共の利益に反して」なされることを構成要件としている
ことが明らかである。そして、右構成要件のもつ意味、それが設けられた趣旨は、
独禁法の目的及び同法の構造全体に照らして解しなければならない。
 独禁法は、同法第一条によると、同法第二条に定義されている私的独占、不当な
取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止すること
により、直接には「公正且つ自由な競争を促進する」こと、すなわち自由競争経済
秩序を維持すること(独占禁止政策)を目的とし、独占禁止政策の実現は、それが
「一般消費者の利益を確保する」と同時に「国民経済の民主的で健全な発達を促進
すること」になるとの理解の下にこれを窮極の目的としているものと解される。そ
して、右国民経済の民主的で健全な発達の促進の内容として、消費者一般の利益と
対立するような単なる事業経営上の利益を守るというようなものを含むものではな
いことは明らかである。
 ところで、独禁法は、当初、第三条において、事業者の共同行為によつて、公共
の利益に反して、一定の取引分野における競争の実質的制限をするととを不当な取
引制限として禁止するとともに、第四条において、対価の決定等の特定の共同行為
自体を一定の取引分野における競争に与える影響が問題とする程度に至らない場合
を除いて禁止していたが、昭和二八年法律第二五九号による同法の改正により、同
法第四条が削除されるとともに、不当な取引制限もその要件である共同行為の内容
が限定された。また、同法制定の当初から適用除外規定(第二一条ないし第二四
条)が設けられていたが、右は右規定を俟つまでもなく同法違反にあたらない行為
についてのものが多かつたところ、昭和二八年の右改正により、新たに第二四条の
二の再販売価格維持契約、第二四条の三の不況カルテル及び第二四条の四の合理化
カルテルの各規定が設けられ、また、そのころから同法第二二条により制定された
独占禁止法の適用除外等に関する法律に基づき本来同法第二二条にいう特定の事業
に該当しないものまでが適用除外を受け、さらに、右適用除外法によらないでそれ
ぞれの法律中に適用除外を定める事業法が現われるに至つている。
 右のような独禁法の改正等の経緯にかんがみ、同法を整合的に解すると、同法
は、共同行為により一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為であつて
も、その行為の実質において同法の趣旨、目的に反しないものがありうることを予
定しているものと解されるが、前記の同法の目的をも考慮すると、「公共の利益に
反して」とは、同法の趣旨、目的に反することをいい、原則としては同法の直接の
法益である自由競争経済秩序に反することであるが、形式的に右に該当する場合で
あつても、右法益と当該行為によつて守られる利益とを比較衡量して、全体的にみ
た前記の同法の趣旨、目的に実質的に反しないと認められるような例外的なものを
公共の利益に反しないものとして独禁法の適用から除く趣旨で右構成要件が設けら
れたものであると解するのが相当である。
 右の観点から本件をみると、被告人らの本件関係各行為は、わが国における最も
重要な物資の一である石油製品の値上げの共同行為による競争の制限であつて、国
民経済に及ぼす影響は甚大であり、また、前記のように、それ自体は行政指導に従
つてなされたものでないことはもちろん、行政協力行為ともいうことができず、ま
た、被告会社らは前記のような原油の値上がり等のコストアップに対応するため製
品を値上げする必要に迫られていたものではあるが、本件のような共同行為まです
るのでなければ被告会社らの企業維持ができず、あるいは著しく困難になり、ひい
てわが国における石油製品の安定的かつ低廉な供給確保に著しい支障を生ずるよう
な事情があつたことは証拠上これを認めることができず、被告人らは、被告会社ら
の殊更大巾な利益獲得を目論んだものではないにせよ、値上げを有利にするため本
件関係各行為に及んだものであるから、これが公共の利益に反するものであること
は明らかである。
 (六) 本件の既遂時期についての主張(前記第三の三の(五))に対する判断
 弁護人らは、要するに、不当な取引制限の罪は、共同行為に従つてその内容が実
施されたとき初めて既遂に達する旨主張し、明確な主張はないけれども、右の見解
に立って、本件においては共同行為の内容である対価の引上げの実施の事実が立証
されていないから、本件につき既遂をもつて論ずることはできないと主張するもの
と解される。
 <要旨第四>しかし、独禁法第二条第六項所定の拘束力ある共同行為は本来競争制
限的効果をもつものであるところ、同規定は、不当な取引制限の成立要
件としての共同行為を「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」内容の
ものに限定したものであり、換言すれば、公共の利益に反して、一定の取引分野に
おける競争を実質的に制限する内容の拘束力ある共同行為が行なわれれば、直ちに
不当な取引制限が成立することを規定しているものであつて、不当な取引制限の罪
は、共同行為によつてもたらされる競争の実質的制限の外部的表現である共同行為
の内容の実施をその成立要件とするものではないと解するのを相当とする。従つ
て、所論は前提を欠く。
 第四 法令の適用
 被告人A1、同A2、同F10、同A10、同A11、同A12、前記A27、
被告人A13及び同A14の判示の事実第一ないし第五、同A4及び同A8の判示
の事実第一ないし第三、同A5の判示の事実第四及び第五、同A6の判示の事実第
一及び第二並びに同A7及び同A9の判示の事実第三ないし第五の各所為は、いず
れも右各事実における共同行為の対象となつた各油種ごとに昭和五二年法律第六三
号附則第九条により同法による改正前の独禁法第八九条第一項第一号後段、第九五
条第一項(第三条後段)(なお、判示の事実第一、第二、第四及び第五の被告人F
10のガソリン及びジエツト燃料油についての各所為につき刑法第六〇条をも適
用)に該当し(判示の事実第三の被告人ら及び右A27の各油種ごとの各所為及び
同事実第四の被告人ら及び右A27のE4重油についての各所為はいずれも一罪で
ある。)、被告会社らに対しては、判示の各事実につきいずれも前記改正前の独禁
法第九五条第一項(第八九条第一項第一号後段、第三条後段)により同同法第八九
条第一項第一号の罰金刑を科すこととなるが、被告人ら及び右A27の右各所為
は、各事実ごとにいずれも一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、被告
人ら及び被告会社らに対し、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により一罪とし
て、判示の事実第一、第二、第四及び第五につきいずれも犯情の最も重いガソリン
についての各罪の刑及び同事実第三につき犯情の最も重い灯油についての罪の刑で
それぞれ処断することとし、被告人らに対し、右各罪の所定刑中いずれも懲役刑を
選択し、以上は被告人ら及び被告会社らにつき、いずれも同法第四五条前段の併合
罪であるから、被告人らに対しては同法第四七条本文、第一〇条により、被告人A
1、同A2、同F10、同A10、同A11、同A12、同A13及び同A14に
つき犯情最も重い判示の事実第五の罪、同A4及び同A8につき犯情最も重い判示
の事実第二の罪、同A5につき犯情の重い判示の事実第五の罪、同A6につき犯情
の重い判示の事実第二の罪並びに同A7及び同A9につき犯情の最も重い判示の事
実第五の罪のそれぞれの刑に法定の加重をし、被告会社らに対しては同法第四八条
第二項により各罪所定の罰金額を合算し、右刑期又は罰金額の範囲内で、被告人A
1及び同A2をいずれも懲役一〇月に、同F10、同A4、同A5、同A6、同A
7、同A8及び同A9をいずれも懲役四月に、同A10、同A11、同A12、同
A13及び同A14をいずれも懲役六月に、被告会社A15(株)及び同A16
(株)をいずれも罰金二五〇万円に、同A17(株)を罰金一五〇万円に、同太協
石油(株)、同A19(株)、同A20(株)、同A21(株)、同A22
(株)、同A23(株)、同A24(株)、同A25(株)及び同A26(株)を
いずれも罰金二〇〇万円にそれぞれ処し、情状により同法第二五条第一項を適用し
て被告人全員に対し、この裁判確定の日からいずれも二年間右各懲役刑の執行を猶
予し、訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文により別紙訴訟費用
負担明細表(一)及び(二)記載のとおり被告人及び被告会社らに負担させること
とする。
 第五 弁護人らの構成要件事実以外の点についての主張に対する判断
 一 公訴棄却の申立に対する判断
 (一) 独禁法第八五条第三号は違憲であるから、刑事訴訟法第三三八条第一号
または第四号により公訴を棄却すべきである旨の主張に対する判断
 1 弁護人らの主張
 弁護人らは、独禁法第八九条第三号は、同法第八九条違反事件の第一審裁判権が
東京高等裁判所に属するものと規定しており、現憲法下において一般的に採用され
ている三審制を採用せず、特に二審制を採用するものであるが、右事件の重要性及
び特殊性、右事件につき要求される迅速裁判及び法令の統一解釈並びに右事件にお
ける準司法機関である公正取引委員会の審判手続の先行等の諸点を考慮しても、右
事件につき二審制を採用すべき合理的な理由はないから、右規定は、同法第八九条
違反事件の被告人を他の刑事被告人と比べてその社会的身分により不合理に差別的
に取り扱つているものであつて憲法第一四条に違反し、また、同法第三一条、第三
二条及び第三七条にも違反して無効である。また、独禁法において、特定の犯罪に
係る被告事件について二審制をとり、その第一審裁判権を高等裁判所の管轄に属さ
せることが憲法上許されるとしても、その事件をどの高等裁判所において処理させ
るべきであるかの問題は、裁判所内部における事務処理上の便宜の問題であり、憲
法第七七条第一項所定の最高裁判所の制定する規則の専属的所管事項と解すべきて
あるから、独禁法の前記規定は、憲法第七七条第一項に違反して無効である。従つ
て、東京高等裁判所は本件につき裁判権を有しないから刑事訴訟法第三三八条第一
号に該当し、あるいは本件各公訴は違憲無効の規定に基づいて起訴されたものであ
るから同条第四号に該当し、いずれにせよ公訴棄却の判決をすべきものである旨主
張する。
 2 判断
 そこで、検討すると、刑事訴訟法第三三八条第一号にいう「被告人に対して裁判
権を有しないとき」とは、国家統治権の一作用としてのわが国の刑事裁判権が被告
人に及ばない場合を指すところ、独禁法第八五条第三号はわが国の刑事裁判権が及
ぶ者に対していかなる裁判所がその権限を行使するかという管轄権についての特別
規定であるにすぎないのであるから、仮に所論のように右規定が違憲無効であると
しても、そのため本件被告人らに対してわが国の裁判権が及ばなくなる筋合いでは
ないから、本件が刑事訴訟法第三三八条第一号にあたるとの主張は理由がない。
 <要旨第五>そこで進んで、所論にかんがみ独禁法第八五条第三号の憲法適合性に
ついて検討すると、右規定は、同号所定の罪が国民経済にもたらす影響
の重要性並びに右罪に係る訴訟についての迅速な審判及び専門的かつ統一的判断の
必要性にかんがみ、東京高等裁判所を第一審裁判所として右訴訟事件を全部同裁判
所に集中することを定めたものであり、同法第八七条が同裁判所に右訴訟事件その
他同条所定の事件のみを取り扱う裁判官の合議体を設け、しかもその合議体の裁判
官の員数を五人とすることを定めたのと相俟つて、右の要請に応えることにしたも
のと解されるのである。また、同法第八五条第三号所定の訴訟事件について第一審
の裁判を行なう東京高等裁判所の右合議体の審理手続には除斥及び忌避に関する規
定を含む刑事訴訟法の第一審手続に関する規定がすべて適用されるのであり、その
判決に対しては最高裁判所における同法の規定による上告審の手続が保障されてい
る。そして、憲法第三二条は、すべての者に対して憲法及び法律の定める裁判所に
おいて裁判を受ける権利を保障しているが、右規定は、三審制を保障したものでは
なく、裁判所の裁判権の分配、審級その他の構成を法律の規定に委ねることにした
ものであると解すべきであり(最高裁大法廷昭和二三年三月一〇日判決、刑事判例
集二巻三号一七五頁、同昭和二三年七月八日判決、刑事判例集二巻八号八〇一頁、
同昭和二三年七月一九日判決、刑事判例集二巻八号九二二頁、同同日判決、刑事判
例集二巻八号九五二頁、同昭和二九年一〇月一三日判決、民事判例集八巻一〇号
一、八四六頁参照)、同法第三七条は、被告人に公平な裁判所の裁判を受ける権利
を保障しているが、右規定にいう公平な裁判所とは組織及び構成等において偏頗や
不公平のおそれのない裁判所をいうものと解される(最高裁大法廷昭和二三年五月
五日判決、刑事判例集二巻五号四四七頁、同昭和二三年五月二六日判決、刑事判例
集二巻五号五一一頁、同昭和三六年六月二八日判決、刑事判例集一五巻六号一、〇
一五頁参照)。
 以上によると、独禁法第八五条第三号は、同法第八九条違反被告事件の被告人に
ついて不合理な差別を定めたものとは認められないから、憲法第一四条に違反する
ものではなく、同法第三二条に違反するものでもなく、右事件についての第一審裁
判所である東京高等裁判所の前記の合議体が公平な裁判所の理念に反するものとは
認められないから、同法第三七条にも違反せず、また、右裁判所による裁判が法律
の定める手続の保障に欠けるものであるとは認められないから、同法第三一条にも
違反しないと認められる。
 また、憲法第七七条第一項は、同法が、国会を唯一の立法機関と定め、同時に司
法権行使の分野についても規則ではなく法律によつて定める場合を多く予想してい
ることに照らすと、所論のように右規定の定める事項を最高裁判所規則の専属的所
管事項と定めたものではなく、右事項については法律の委任を要せず、直接右規定
に基づいて最高裁判所が規則を制定する権限があることを認めたものであるから、
右事項に関し法律による定めをすることを禁ずる趣旨ではないと解される(最高裁
第二小法廷昭和三〇年四月二二日判決、刑事判例集九巻五号九一一頁参照)ので、
独禁法第八五条第三号は憲法第七七条第一項に違反するものではない。
 従つて、独禁法第八五条第三号は違憲ではないから、本件が刑事訴訟法第三三八
条第四号にあたるとの主張は前提を欠く。
 (二) 本件告発は無効であるから、刑事訴訟法第三三八条第四号により公訴を
棄却すべきである旨の主張に対する判断
 1 弁護人らの主張
 弁護人らは、独占禁止法第九六条によれば、同法第八九条の罪は公正取引委員会
の文書による告発をもつて論ずべきものとされているところ、本件につき昭和四九
年二月一五日付の「告発状」と題する書面が二通あり、その一つは作成名義が公正
取引委員会と表示され、他の一つは作成名義が告発人指定代理人C53と表示され
ているが、そのいずれが本件の告発状であるのか不明であり、前者であるとすれ
ば、代表者の署名押印を欠いているから独禁法第三三条第一項、刑事訴訟規則第五
八条第一項に違反し、後者であるとすれば、指定代理人の署名押印を欠き右規則の
規定に違反するうえ、告発には代理が許されないと解すべきであるから、いずれの
点からみても右書面による告発は無効であり、また、同年五月二五日付の被告発人
A8及び同A6に関する「告発状の追加及び補充訂正」と題する文書は、告発人指
定代理人C53作成名義の文書であるが、その署名を欠き前記規則の規定に違反す
るうえ、告発には代理が許されないと解すべきてあるから、右文書は公正取引委員
会の右A8らに対する告発としての効力を有しない。従つて、本件各公訴は有効な
告発を欠くもので適式有効に起訴されたものではないから、刑事訴訟法第三三八条
第四号により公訴棄却の判決をすべきものである旨主張する。
 2 判断
 <要旨第六>そこで、検討すると、昭和四九年二月一五日付の文書の第一葉には、
告発状と題し、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第七
十三条第一項、第九十六条の規定に基づき別添事件を告発する。」と記載され、
「公正取引委員会」との記名及び同委員会の庁印が押捺されており、同第二葉以下
には、あらためて告発状と題し、告発人を公正取引委員会、被告発人をA15
(株)ほか二四名とし、独禁法第三条後段、第八九条第一項第一号、第九五条第一
項に該当する事実を告発事実とする同日付の告発人指定代理人C53の記名のある
文書が添付され、右第一葉と第二葉の間及び以下各葉の間にはいずれも右第一葉の
公正取引委員会名下に押捺されたのと同じ同委員会の庁印による契印が施されてい
る。右文書の表示及び形式にかんがみると、右文書は全体として公正取引委員会作
成名義の一個の告発状と認められるのであつて、その末尾に公正取引委員会委員長
F27の記名押捺のある告発代理人指定書と題する書面が添付されていることは右
認定の妨げとなるものではない。
 ところで、独禁法第九六条所定の告発は、刑事訴訟法第二三九条、第二四一条所
定の告発をその主体及び方法につき限定し、これを訴訟条件としたもので、同法上
の告発にほかならないのであるから、その告発状には刑事訴訟規則第五八条の適用
があり、また、公正取引委員会は、合議制の行政官庁であつて、同委員会委員長が
同委員会を代表する(独禁法第三三条)ものであるから、同委員会の作成すべき告
発状には代表者である同委員長の署名押印を要するものと解すべきものであること
は所論のとおりである。従つて、前記の告発状は公正取引委員会委員長の署名押印
を欠く点において刑事訴訟規則第五八条第一項の定める方式に違反するものといわ
なければならないが、右規定の趣旨は、官吏その他の公務員が作るべき書類の真正
を書類自体の表示により明確にさせることにより、書類の成立に関する調査を簡便
にし、書類の真正に関する争いの生ずることを防止することにあると解されるか
ら、本件告発状のように公正取引委員会の記名と庁印が押捺されていることにより
同委員会の作成に係ることが明らかな場合においては、右程度の方式違反があるか
らといつて直ちに告発状としての効力がないと断ずることはできず、右告発状の第
一葉の文言によれば同告発状が公正取引委員会の意思を表示したものであることが
明らかであること、同告発状に添付された同委員会委員長の記名押印のある告発代
理人指定書中に本件の告発が同委員会の決定に係るものであることを窺わせる内容
が表示されていること及びC53証言一二六回をも併せ考えると、本件につき右告
発状による公正取引委員会の有効な告発があつたと認めるに充分である。
 つぎに、「告発状の追加及び補充訂正」と題する文書(以下追加文書という。)
について検討すると、右追加文書は、所論のとおり告発代理人C53作成名義であ
つて、右告発状記載の告発事実の一部について被告発人A8及び同A6の二名を共
犯者として追加すること並びに右告発状記載の告発事実四の共犯者に被告発人A2
7及び同A14の二名を追加することを内容とするものであるが、刑事訴訟法第二
三八条第一項所定のいわゆる告訴の主観的不可分の原則が告発についても準用され
ている(同条第二項)から、右告発状によつてした告発の効力はその罪の共犯者に
も及んでいるものというべきであり、従つて、右追加文書が所論のように独立の告
発状として効力を有しないものであるとしても、右追加文書に共犯者として新に表
示された前記A8らに対して本件公訴事実により公訴を提起することに訴訟手続上
の障害はないものといわなければならない。
 それで、本件公訴は、有効な告発に基づき適式に提起されたものであつて、刑事
訴訟法第三三八条第四号にあたるとの主張は前提を欠く。
 (三) 被告会社A22(株)に対する告発は無効であるから、刑事訴訟法第三
三八条第四号により同被告会社に対する公訴を棄却すべきである等の主張に対する
判断
 1 弁護人らの主張
 被告会社A22(株)の弁護人らは、本件公訴事実記載の犯罪の主体であるA2
2(株)は公正取引委員会の告発前の昭和四八年一二月一日東京都江東区bc丁目
d番e号に本店を置いていたD29株式会社に吸収合併されて解散し存在しなくな
つたものであるから、本件公正取引委員会の告発は本件犯罪に関係のない会社に対
してなされたもので無効であり、本件公訴は右無効な告発を前提として提起された
ものであつて訴訟条件を欠くから、刑事訴訟法第三三八条第四号により本件公訴を
棄却すべきであり、あるいは被告会社A22(株)は本件犯罪と関係がないので無
罪である旨主張する。
 2 判断
 そこで、検討すると、
 (1) 本件告発状によれば、被告発人は本店を東京都千代田区fg丁目h番i
号に置くA22株式会社と表示されているが、東京法務局登記官作成の同社に関す
る登記簿謄本によれば、同会社が現存することは明らかであり、右告発が現存する
右会社に対してされ、また、本件公訴も右会社に対して提起されたことが明らかで
ある。そして、右告発状によれば右A22(株)が本件犯罪の主体であるというの
であるから、仮に本件犯罪の主体が右告発の対象であるA22(株)でないとして
も、それは右A22(株)に右告発の内容である犯罪が認められないというだけの
ことであつて、右告発そのものが無効となる筋合いのものではない。従つて、右告
発に基づく本件公訴提起が無効である旨の主張は理由がない。
 (2) そして、
 <要旨第七>イ 東京法務局登記官作成の閉鎖登記簿謄本五通及び登記簿謄本一通
(書証記録一、三三〇丁ないし一、三五二丁)、F28五〇・一・九
検、F29五〇・一・七検、同五〇・一・八検、F30五〇・一・八検、同五〇・
一・一四検、F31五〇・一・一〇検、F32・五〇・一・一七検、F33ことF
33四九・一二・二七検、同四九・一二・二八検、同五〇・一・八検、同五〇・
一・一三検、F34五〇・一・一三検、F35五〇・一・一三検、F36四九・一
二・二六検、F37・四九・一二・二六検、F38四九・一二・二九検、同五〇・
一・一六検、F39五〇・一・七検(二通)、F40作成の捜査関係事項(回答)
と題する書面、検察事務官F41及び同関宏作成の各捜査報告書、「役員会議事録
第四五六回~」一綴(符九号)、「第六八回取締役会議事進行要領」一綴(符一〇
号)、「第二五回定時株主総会招集ご通知」一綴(符一一号)、「稟議書」一四枚
(符一二号)、「石油精製業合併認可申請書」一綴(符一三号)、「石油精製業合
併認可について」一枚(符一四号)、「合併と題するファイル」一綴(符一五
号)、「ファイル(事業開始等申告書等写綴)」一綴(符一六号)、「D29株券
(第一―第五号)」五枚(符一七号)、「念書昭和三七年九月六日付(F42名
義)」一通(符一八号)、「証(F42よりF43宛)」一通(符一九号)、「念
書昭和四六年一月二六日付(F33、F44名義)」一通(符二〇号)、「株主名
簿昭和四六年一月一四日付(F33作成)」一通(符二一号)、「貸借対照表昭和
四六年一月一四日付(F44作成)」一通(符二二号)、「取締役会議事録昭和四
六年一月一四付(F33外二名作成)」一通(符二三号)、臨時株主総会議事録昭
和四六年一月一四日付(F42外三名作成)」一通(符二四号)並びにD29株式
会社定款一通(符二五号)を総合すれば、次の事実が認められる。
 昭和三五年一二月二〇日、商号をA22株式会社とし、本店を東京都千代田区f
j丁目k番地(昭和四二年四月住居表示の変更により同都同区fg丁目h番i号と
なる。)に置き、資本金を三〇億円とする株式会社(以下千代田区のA22と略称
する。)が設立され、同会社は、大分に製油所、福岡に支店をそれぞれ設け、石油
精製及び石油製品元売り業等を営んでいたが、同社では昭和四五年末ころから、そ
の発行する株式を証券取引所に上場することを計画し、同社総務部総務課長代理F
38らがD30(株)株式引受部のF36らと相談したところ、千代田区のA22
は昭和二五年の商法改正後の設立に係るためその発行する額面株式一株の金額は五
〇〇円であつたが、株式に市場流通性を持たせるためには額面株式一株の金額を五
〇円に変更することが望ましく、その方法として、右商法改正前に設立され一株の
額面金額を五〇円とする株式会社であつて、会社としての実態がなく登記簿上存在
するにすぎないいわゆる休眠会社の名義を利用し、これを存続会社として千代田区
のA22を形式的にこれに吸収合併することにすれば、右A22の実態に変更を加
えることなくその目的が達せられることを知つたので、右F36らに休眠会社の斡
旋を依頼した。そこで、右F36は、休眠会社の売買を行なつていたF33ことF
33に相談したところ、同人は、これを承諾し、かねて買い取つてあつたD31
(株)の名義を利用することにした。
 ところで、D31(株)は、昭和一六年六月二日、資本金を九万一、五〇〇円と
し、自動車運送等を目的として設立された会社であるが、昭和一九年七月二七日こ
ろ、株主総会において、あらたに設立されるD32(株)にD31所有の資産及び
営業を現物出資して同会社を解散することを決議し、同年一〇月一九日、F42を
清算人として解散登記する一方、右D32(株)の株式一、七一二株をD31
(株)の株主に対し出資額に応じて分配し、同社に残つていた現金及び自転車等も
分配して残余財産の分配を終え、清算手続を結了したが、登記簿上は清算結了の登
記が未了のまま放置されていた。右F33は、昭和三七年ころ、右F42からD3
1(株)を一万二、〇〇〇円で買取り、同年九月ころ、右金員を右会社の全株式の
譲渡代金として受領した旨の右F42名義の領収書の交付を受けて株式譲渡の体裁
を整えてはいるが、D31(株)の実態は右のようなものであつたから、右売買の
実質はD31(株)の登記簿の名義を自由に利用することに対する謝礼の趣旨であ
つた。
 右F33は、前記のように前記F36の依頼を受けたことから、昭和四六年一月
一四日、すでに死亡していた右F42を議長とするD31(株)の臨時株主総会及
び取締役会の各議事録を作成したうえ、同月二六日、同会社につき会社継続及び取
締役就任を内容とする株式会社継続登記並びに商号をD29株式会社、目的を電子
計算機の販売等及び本店を東京都江東区bc丁目d番e号にそれぞれ変更すること
を内容とする株式会社変更登記を申請して即日その旨の登記を完了し、千代田区の
A22との間で同会社にD29(株)を売り渡す旨の契約書を作成し、D29
(株)が千代田区のA22を吸収合併することにするための準備として、同年六月
三〇日、D29(株)の商号をA22株式会社(以下江東区のA22と略称す
る。)及び目的を石油精製及び石油製品の販売等にそれぞれ変更し、D29(株)
の全取締役及び監査役が辞任し、代つて千代田区のA22の社員がこれに就任した
ことを内容とする株式会社変更登記を申請してその旨の登記を完了したうえ、同年
七月一三日千代田区のA22から売買代金として八〇万円及び右変更登記の手数料
として三万五、七二〇円を受け取つた。
 その後、千代田区のA22は、株式上場の準備を進め、昭和四八年五月一〇日、
株式の額面金額の変更のみを目的として、江東区のA22との間に江東区のA22
が千代田区のA22を吸収合併することを内容とする合併契約書を作成したうえ、
所要の手続を経て同年一二月一日右株式会社合併登記を完了し、同年一二月一七日
には千代田区のA22の解散登記及び江東区のA22の本店を千代田区のA22の
本店所在地に移転する旨の変更登記をそれぞれ完了した。なお、右合併手続きを進
めるにあたり、同年八月七日右両A22の連名で公正取引委員会に対して合併届出
書を提出して同月一四日右届出書が受理されたが、右届出書には合併の目的が株式
の額面金額の変更にあり、江東区のA22は実質上資産を有しない会社で合併と同
時にその資本金に該当する九万一、五〇〇円を消却の方法で減資するので、合併後
存続する会社の実体は千代田区のA22である旨明記されており、また、同年九月
一八日石油業法の規定に従い右両A22の連名で通産大臣に対して石油精製業合併
認可申請書を提出して同年一〇月一二日同大臣の認可を得たが、右申請書にも合併
の理由等として、江東区のA22は登記簿上のみ存在する会社で事業活動は一切行
なつておらず、本件合併は千代田区のA22の発行する株式の額面金額を変更する
ために行なうものである旨明記されている。
 口 右の認定事実に基づいて考察すると、江東区のA22の前身であるD31
(株)は、前記のとおり昭和一九年ころ実質的な清算手続を終了した段階で消滅
し、以後不存在になつたものと認められる。
 弁護人らは、D31(株)の株主の一人であるF31がD32(株)の株券以外
には何らの財産の分配も受けなかつたものであることが前記の証拠上認められるか
ら、同会社の残余財産の分配は完了していなかつたというべきであると主張するけ
れども、残余財産の分配が完了したことは前記認定のとおりであつて、その後二〇
年も経過しているのに右F31から特段不服申立てがないことをも考慮すると、右
主張は採用できない。そして、右事実によると、D31(株)の清算に関する決算
報告書の作成及び株主総会の承認手続(商法第四二七条第一項)がなされていない
とはいえ、清算手続は現務の結了、債権の取立及び債務の弁済並びに残余財産の分
配という会社の事業の実体に関するものがその内容をなすものであつて(商法第一
二四条第一項)、決算報告書の承認手続は清算人の責任を解除する効果を持たせる
手続であると解すべきである(商法第四二七条第二項)から、右承認手続を経てい
ないことは清算手続が結了したことの妨げとなるものではない。また、本件におい
て清算結了の登記が未了であることも右のように会社が不存在となるとの認定の妨
げとなるものではないと解される。さらに、本件において、前記F33が前記F4
2からD31(株)の株式を譲り受けたとして右会社の継続登記等をしたからとい
つて、これが創設的効力を有しないことは一般の商業登記と同様であることはもち
ろんであるから、一旦不存在となつた会社がそのため復活するものとは到底解され
ない。
 以上のように江東区のA22の前身であるD31(株)は消滅して不存在となつ
たものであり、従つて右A22も登記簿上のみ存在する不存在の会社であるから、
これとの合併は成立しないというべきであり、前記のように両A22の合併に関す
る書類が作成され、これに基づき合併の登記がなされても、それは合併を仮装した
にすぎないものであり、これによつて千代田区のA22が江東区のA22に吸収さ
れて存在しなくなるといういわれはない。また、前記のように公正取引委員会によ
る合併届出の受理や業法に基づく通産大臣の認可があつたからといつて、それらが
商法上不成立の合併の効力を左右するものでないことは明らかであるから、右認定
の妨げとなるものではない。従つて、千代田区のA22が合併に基づく解散により
消滅した旨の登記は実体関係を欠く無効なものであり、同会社は引続き存在するも
のと解するのが相当である。
 所論引用の判例(最高裁第三小法廷昭和四〇年二月二五日決定、刑事判例集一九
巻四号三五七頁)は、F45作成の上申書によれば、被告会社であるD33株式会
社(昭和三六年五月商号をD34株式会社と変更)は、昭和三七年五月二八日名古
屋高等裁判所において言い渡された有罪判決に対し上告中の昭和三九年四月二日D
35株式会社に吸収合併され、同日その登記を了したが、両社は、いずれもD36
(株)の全額出資により設立された子会社であつて自動車の輸入販売等の事業を行
なつており、昭和四〇年秋の貿易の自由化に備え、資本の充実と販売機構の強化を
目的として合併したものであるという事案に関するものであると認められ、本件と
は異なり実体を伴う合併の場合についてのものであつて、本件に適切でない。
 以上の理由により、本件起訴にかかる被告会社A22(株)は本件犯罪の主体で
あると認められるから、所論は前提を欠く。
 (四) 被告会社ら及び被告人らに適用すべき罰則はないから、刑事訴訟法第三
三九条第一項第二号により公訴を棄却すべきである旨の主張に対する判断
 1 弁護人らの主張
 弁護人らは、独禁法第三条は、「事業者は、(中略)不当な取引制限をしてはな
らない。」と規定し、同法第八九条第一項第一号は、「独禁法第三条の規定に違反
して(中略)不当な取引制限をした者」に該当するものを処罰する旨規定している
から、同号は同法第二条第一項に定義する事業者のみを処罰の対象とするものであ
つて、被告人らを同法第八九条第一項第一号によつて処罰することはできず、ま
た、同法第九五条第一項が、「法人の(中略)従業者が、その法人(中略)の業務
(中略)に関して、(中略)第八九条(中略)の違反行為をしたときは、行為者を
罰するほか(後略)」と規定していることのみを理由として、同法第八九条第一項
第一号により被告人らを処罰できるとすることは刑罰法規の厳格解釈の原則上許さ
れない拡大解釈であり、このことは、事業者団体の違反行為について役員等の自然
人を処罰する昭和五二年法律第六三号による改正前の同法第九五条の二の規定の仕
方とを対比すれば一層明らかである。そして、同法第八九条第一項第一号は不当な
取引制限をした「者」に該当するものを処罰する旨規定しており、同項第二号が競
争を実質的に制限した「もの」に該当するものを処罰する旨規定しているのとその
文言を比較すると、右第一号は自然人のみを処罰する規定であると解すべきであ
り、また、同法第九五条第一項が法人処罰の要件として規定している、事業者であ
る法人の従業者等の自然人か「(前略)第八九条の違反行為(後略)」をすること
がありえないことは前記のとおりであるから、同項によつて被告会社らを処罰する
ことはできない。従つて、被告会社ら及び被告人らを処罰すべき罰則がないから、
本件起訴状記載の事実が真実であつても何等の罪となるべき事実を包含していない
ので、刑事訴訟法第三三九条第一項第二号により公訴を棄却すべきであるというの
である。
 2 判断
 <要旨第八>そこで、考えると、被告人らは事業者ではないから、独禁法第八九条
第一項第一号のみによつては直ちに処罰されえない。また、同法第八九
条第一項第二号は、同法第九五条第二項により法人でない事業者団体に適用される
場合があるため、同条項第一号が自然人及び法人を含めて「者」という表現を用い
たのと異なり「もの」という表現を用いたものと解せられるので、この点について
の所論に賛同することはできないけれども、法人の行為はいわゆる両罰規定等によ
り処罰される場合を除いては処罰されないと解されるので、同法第八九条第一項第
一号のみによつて被告会社らを処罰することはできないと解される。
 ところで、同法第三条の趣旨から考えると、事業者が法人である場合、自然人と
いえどもその事業者が同条に違反したことになるような行為をすることは、同条に
よつて禁止されていると解され、従つて、このような場合、同法第八九条第一項第
一号は、右のような行為をする自然人を処罰する趣旨であるといわなければなら
ず、同法第九五条第一項において前記の文言を設けて、右の趣旨を明らかにすると
ともに、同法第八九条第一項第一号により処罰される自然人の人的範囲及び要件に
ついての構成要件を補充したものと解するのが相当であり、右のように解しても所
論のように許されない拡大解釈であるとはいえないし、また所論の指摘する同法第
九五条の二は、行為者でない役員等違反行為に関与する態様が本件罰則の場合とは
全く異なる者に関する規定であるから、所論のような理由で所論の根拠とすること
はできない。従つて、前記認定のように、事業者である被告会社らのそれぞれの従
業者である被告人らは、そのそれぞれ所属する被告会社の業務に関して、同被告会
社が同法第三条に違反することになるような行為をしたのであるから、同法第九五
条第一項により補充された同法第八九条第一項第一号の構成要件に該当するものと
して同号により処罰される。
 そして、被告会社らは、同法第九五条第一項の「(前略)法人に対しても、各本
条の罰金刑を科する。」との規定により、被告会社らのそれぞれの機関が被告会社
らのそれぞれの従業者である被告人らが右のような違反行為をしないよう注意監督
すべき義務を懈怠したことにつき、被告会社らにも責任を負わせることができると
いう理由から、同法第八九条第一項第一号所定の罰金刑に処せられることになると
解するのが相当である。
 それで、右主張はいずれも前提を欠く。
 二 本件の罰則は罪刑法定主義に違反し無効である旨の主張に対する判断
 (一) 弁護人らの主張
 弁護人らは、本件罰則は、「公共の利益に反して」及び「競争を実質的に制限す
る」という不確定な要素から成る構成要件を含んでいるから、憲法第三一条に定め
る罪刑法定主義に反して無効である旨主張するものと解される(なお、所論が、右
の前提に立つて、本件につき刑事訴訟法第三三九条第一項第二号に該当するものと
して公訴を棄却すべきであるというのか、無罪であるというのかは明らかでな
い。)
 (二) 判断
 <要旨第九>そこで、考えると、本件罰則における「公共の利益に反して」という
構成要件の意味内容は前記のとおりであり、同「競争を実質的に制限す
る」とは、一定の取引分野における競争を全体としてみて、その取引分野における
有効な競争を期待することがほとんど不可能な状態をもたらすことをいうものと解
されるところ、右各用語は若干抽象的で、具体的な場合に当該共同行為が右に該当
するかどうかを判断するにはその意味内容についての合理的な解釈をする必要があ
ることはいうまでもないが、右共同行為をする事業者の範囲及び業態並びに右共同
行為の内容等の具体的事実に基づいて右該当、不該当を判断することは、通常の判
断力を有する一般人にとつてさほど困難ではないと考えられるので、本件罰則が罪
刑法定主義に違反するものではなく、所論は理由がない。
 三 違法性阻却事由がある旨の主張に対する判断
 (一) 弁護人らの主張
 弁護人らは、被告人らの行為が本件罰則の構成要件に該当するとしても、違法性
阻却事由がある旨主張し、その理由として、要するに、通産省担当官は、通商産業
省設置法や業法に基づいて、その職務権限内にあると認められる行政指導を適法に
なしうるものであるところ、本件においては、業法に基づいて石油製品の安定的か
つ低廉な供給を確保するという公益的立場から石油業者の事業活動を調整するため
価格に関する行政指導を行なつたものであつて、右行政指導は、たとえ外形的には
独禁法第三条の構成要件に該当するものであつても、刑法第三五条にいう法令に因
る行為、あるいはこれに準ずる正当行為であり、被告人らは、右行政指導に従つて
行為し、通産省担当官の右行政行為に協力したものであるから、被告人らの行為も
亦正当行為であるというものであると解される。
 (二) 判断
 しかし、前に第三の二の(一)の1及び第三の二の(四)において詳細に判示し
たように、所論主張の前提事実が認められないのであつて、所論は前提を欠く。も
つとも、本件各値上げに当つて、通産省担当官が業界の実情調査のため常に業界に
対して業界全体としての計算資料の提出や説明を求め、値上げの合意後値上げ内容
につき了承し、また、右のような業界との接触は、常に業界を代表する立場にある
と解される営業委員長やこれを補佐する立場にあると見られる者との間で行なつた
ことなどのため、被告人らの本件共同行為を行なうことが容易になつたことが認め
られるけれども、右の事実を理由に本件の違法性が阻却されるといえないことは明
らかである。
 四 故意がない旨の主張に対する判断
 (一) 弁護人らの主張
 弁護人らは、被告人らの行為が本件罰則の構成要件に該当し、かつ、違法性があ
るとしても、故意がない旨主張し、その理由として、被告人らは公共の利益に反し
てという構成要件事実についての認識がなく、かつ、相互に事業活動を拘束し、一
定の取引分野における競争を実質的に制限したという構成要件事実を認識したこと
についての立証がなく、被告人らは、本件行為が、通産省担当官の適法な行政指導
に従い、その行政行為を分担するものであつて、法令による行為等正当行為である
と認識していたものであるから、違法性阻却事由となる事実について錯誤があり、
また、右の理由によつて被告人らには違法の意識がなく、かつ、そのことにつき無
理からぬ事情があつたことを挙げる。
 (二) 判断
 そこで考えると、所論指摘の構成要件の前記の意味内容に照らすと、被告人らが
右構成要事実を認識していたことはその行為の内容自体から明らかに推認できる。
そして、前記認定の本件における行政の介入の実態に徴すると、所論主張のような
違法性阻却事由となる事実についての錯誤があつたことを認めることはできない。
さらに、本件各共同行為の内容、前記認定の第三の三の(二)の1の諸事実、本件
とやや事情を異にするけれども、前記の昭和四六年四月値上げの過程における被告
人らの値上げ内容の合意が独禁法違反として公正取引委員会の審判に付され、本件
当時審判中であつたため被告人らが本件についても同委員会の摘発を受けることを
警戒していたこと並びにA2四九・三・一二検四項、同四九・三・一三検四項、同
四九・三・一五検一項(被告人A2のみに対する証拠)、A1四九・三・一二検
二・一三項、同四九・三・二七検三・七項、F10四九・四・一三検一項、A6四
九・四・三検一一項、A7四九・四・九検六項、A8四九・三・三〇検三項、A9
四九・三・一五検四項、A10四九・四・二七検一項、A11四九・四・一九検二
項、A14四九・三・一五検一項及び同四九・三・一・七検二項を総合すると、被
告人らに違法の意識があつたことが認められ、右認定と抵触する証拠は信用できな
い。そして、通産省と公正取引委員会との間に独禁法の解釈や競争制限的行政介入
の法的評価につき若干の意見の相違があると被告人らが考えていたとしても、右判
断に何らの影響を及ぼすものではない。
 第六 量刑理由
 独禁法がわが国における自由経済を支えるための基本法であり、不当な取引制限
の禁止が同法の目的達成のため欠くべからざる規制の一つであることはいうまでも
ない。本件は、いずれも対価の引上げの共同行為による不当な取引制限である。そ
の犯情は前に判示したところにより既に明らかであるが、特に、本件値上げの対象
である石油製品は、わが国におけるエネルギーの大宗として、また、石油化学原料
として最も重要な物資の一つであり、被告会社らは石油製品のわが国における元売
りシエアの大部分を占めており、本件は昭和四八年中に五回にもわたるものである
ことに徴して、本件犯行が同法の法益を侵害した程度は甚大であるといわなければ
ならない。また、本件当時、本件のようなカルテル行為までしなければ、被告会社
らの企業維持ができなくなり、あるいは著しく困難になり、ひいてはわが国におけ
る石油製品の安定的かつ低廉な供給確保に支障を生ずるような事情があつたのでも
ないのに、被告人らは、被告会社らの値上げを有利にするため、しかも事実第三な
いし第五については確たる計算資料もなく安易に本件に及んだものであることをも
併せ考えると、本件の犯情は軽視することができない。しかし、反面、石油企業は
低収益であつて体質が弱く、本件は、産油国の一方的な原油値上げに伴う原油値上
がり等によるコストアツプがあり、必要に迫られてこれを石油製品価格に転嫁した
もので、特に大巾な利益獲得を目論んだものではなく、また、通産省担当官が、右
値上げに際して業界の代表者を通じ、業界全体としてのコストアツプの計算資料等
を要求したり、事後にではあるが油種別の値上げ巾についての了承を与えるなどの
介入をしたことがあつたため、本件犯行が容易になつたことなど被告人ら及び被告
会社らに有利に斟酌すべき点もある。そこで、これらの事情を総合判断し、被告人
らの本件各犯行における役割及び犯行の回数並びに被告人らの責任に対応する被告
会社らの責任及び被告会社らの規模、業態等からみたそれぞれの本件犯行により国
民経済に与えた影響度を勘案して、主文のとおり量刑した。
 それで、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 勝俣利夫 裁判官 環直彌 裁判官 小野慶二 裁判官 斎藤
昭 裁判官 小泉祐康)
別紙訴訟費用負担明細表(一)
<記載内容は末尾2添付>
別紙訴訟費用負担明細表(二)
<記載内容は末尾3添付>
別紙被告会社支店一覧表
<記載内容は末尾4添付>
別紙被告人の地位等一覧表(一)
<記載内容は末尾5添付>
別紙被告人の地位等一覧表(二)
<記載内容は末尾6添付><記載内容は末尾7添付><記載内容は末尾8添付><
記載内容は末尾9添付><記載内容は末尾10添付><記載内容は末尾11添付>
<記載内容は末尾12添付><記載内容は末尾13添付>

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