弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     原判決主文第一項中「畑一〇二一平方米」とあるを「畑一、〇二一・四
八平方米」と更正する。
     控訴費用中鑑定人Aに支給した分は被控訴人、その余は控訴人の負担と
する。
         事    実
 第一、 当事者の求めた裁判
 一、 控訴人
 (1) 原判決を取消す。
 (2) 被控訴人の請求を棄却する。
 (3) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
 二、 被控訴人
 (1) 本件控訴を棄却する。
 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
 第二、 双方の主張および立証は、次のとおり附加するほか、原判決事実摘示の
とおりである。
 一、 控訴人の主張
 申請人が控訴人と被控訴人との両名と記載されている「農地法第三条の規定によ
る許可申請書」
 (乙第三号証)は、控訴人の関知しないもので、控訴人不知の間に作成されたも
のである。
 二、 被控訴人の主張
 控訴人の右主張事実を否認する。
 三、 立証(省略)
         理    由
 一、 原審証人B(第一回)、C、D、Eの各証言を総合すれば、次のとおり認
定(一部争のない事実を含む)できる。
 当事者両名の父であるBは、被控訴人の住所に居住し、三男二女を有し、本件土
地を含めて農地約八反歩を被控訴人補助の下に耕作して、農業に従事していたが、
本件土地はBが昭和三一年頃長男である控訴人名義で買受け、管理、納税等はBが
していた。ところが、その長男である控訴人は昭和二九年頃以降京都市に転出し
て、ちりめん販売業を経営し、二男Dは他家に養子に行き、三男Eも大阪市に転出
して商売をしているので、Bは、その跡を二女である被控訴人に継がせるよりほか
なしと考え、その意向を表明するに至つた。そこでこれに反対する控訴人の提唱に
よつて昭和三五年一月一五日、B方において、同人およびその妻の弟C、当事者両
名、D、Eらが集合して、親族会議が開催された。その席上、Bは被控訴人に婿養
子を迎え、その跡を継がせたい旨提案した。これに対し、控訴人はEに跡を継がせ
るのがよいとの意見を出して、Bの提案に反対した。Bと控訴人とは、平素から仲
違いしていたこともあつて、最初はお互に昂奮して、かなりはげしく言い争つた
が、Eが、跡を継ぐ意思のないことを表明し、同人とDとが父Bの提案に賛成し、
Bより、右提案に不賛成なら控訴人において跡を継いでくれるかと言われて、控訴
人は、これを断り、結局当事者双方とBとの三者の間において、「(イ)被控訴人
は父Bとともに、引続き農業に従事し、婿養子を迎えて、父の老後もみる。(ロ)
控訴人は、本件土地を被控訴人に贈与する。(ヘ)父Bは控訴人に対する財産分け
の意味も含めて、当時の上田二反歩に相当する金四〇万円を交付し、控訴人は右に
つき農地法関係の書類にも後日捺印する。」旨の合意が成立し、Cの勧めによつて
Bは即時控訴人に対し、「これで機嫌よく畑を返してくれ」と言つてCの手を通じ
て金四〇万円を差出した。これに対し控訴人は最初はその受領をも拒んだが、弟達
にもすすめられて、これを受領した。
 以上のとおり認定することができ、右認定に反する原審証人Fの証言、原審およ
び当審における控訴人本人の供述は信用できない。
 二 控訴人は、右(ロ)の贈与は書面によらないものであるから、これを取消す
と主張するので検討する。
 本件において、Bと当事者両名との間に結ばれた前掲(イ)(ロ)(ハ)の各契
約は互に相関連しているので、講学上いわゆる混合贈与に属するものであるが、こ
の場合にも、その一部である(ロ)の贈与契約が書面によらないものである以上、
この部分に限つては、原則として、民法五五〇条の適用を受けることもちろんであ
る。尤もこの点につき、原判決は控訴人名義の京都府知事宛農地法による所有権移
転許可申請書(乙第三号証)の成立を認定して、これにより右法条の適用を排除す
べきものと判断したのであるが、当審における鑑定人Aの鑑定の結果その他本件口
頭弁論の全趣旨から見て、右書証そのものが控訴人によつて作成されたものとは認
定できないので、原審の右判断を支持することはできない。
 <要旨>しかしながら、本件のごとき三者間の混合贈与契約にあつては、三つの契
約が互に関連性を持ち、これを全く別個独立の契約として切り離すことはで
きないものであるから、これに対し民法五五〇条を適用するについても、通常の単
純贈与の場合に比し、相当の修正を要することは当然と謂わなければならない。
 すなわち、前認定のとおり控訴人は(ハ)の金四〇万円を提供され、不服ながら
もこれを受領したのであつて、(ハ)の契約はすでに履行を終つたものであるにも
拘わらず、その後において、控訴人が右(ハ)の契約と密接な関連を持つ(ロ)の
契約が書面によらないものであることを理由としてこれを取消すことは、著しく信
義に反し、到底許すべきではない。かくして当裁判所は、三当事者間の混合贈与契
約において、その内の一当事者が自己の権利に属する部分の履行を受け終つた以
上、その効果は、その者の義務に属する部分に及び、後者が書面によらない贈与で
あつても、もはやこれを取消すことはできないと解し、控訴人が右法条の適用を主
張するのは採用できない。
 なお、本件については、係争農地は、先きに認定したとおり買受けの当初以降、
父Bと被控訴人の占有の下に置かれていたのであるから、控訴人が右(ロ)の贈与
契約を結び、(ハ)の金四〇万円を受領した以上、あらためて農地引渡の意思表示
をするまでもなく、いわゆる簡易の引渡があつたものと解せられるので、(ロ)の
契約についても、すでにその履行を終つたものと見るべきであるが、本件の事実関
係にあつては、右引渡の有無に拘わらず、(ハ)の契約の履行を終つたことによ
り、右法条の適用が排除されるものと解するのが相当である。
 三 次に、成立に争いのない甲第一号証によれば、京都府知事は、昭和三五年五
月七日付をもつて本件土地所有権を控訴人から被控訴人に移転することを許可した
ことが認められ、右に関する許可申請書(乙第三号証)の印影が平素控訴人の使用
する印顆によつて顕出されたものではないことが前示鑑定の結果によつて認められ
るけれども、前記認定のとおり控訴人は被控訴人に対し本件土地を贈与したのであ
るから、右許可申請をなす義務を負い、しかも控訴人自身その許可申請書に捺印を
承諾したことも前認定のとおりであるから、たとい現実の申請が控訴人不知の間に
なされたとしても、その一事により、これについてなされた知事の許可の効力に対
し影響を及ぼすべきものではないと解する。
 四 そうすると、理由は異にするも、被控訴人の本件登記手続の請求を認容した
原判決は相当であるが、原判決の不動産の表示に明白な誤謬があるのでこれを更正
し、民訴法三八四条九〇条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 沢井種雄 裁判官 常安政夫 裁判官 潮久郎)

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