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平成26年1月23日判決言渡
平成25年(行コ)第279号事業計画変更認可申請却下処分取消等請求控訴事件
主文
11審被告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1)処分行政庁に対し,1審原告の平成23年6月30日
付け一般乗用旅客自動車運送事業の事業計画変更認可
申請に係る事業計画変更を認可することの義務付けを
求める訴えを却下する。
(2)1審原告のその余の請求をいずれも棄却する。
21審原告の本件控訴を棄却する。
3訴訟費用は第1,2審とも1審原告の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
11審原告
(1)原判決中,1審原告敗訴部分を取り消す。
(2)(主位的請求)処分行政庁は,1審原告の平成23年6月30日付け一般乗
用旅客自動車運送事業の事業計画変更認可申請に係る事業計画変更を認可
せよ。
(3)(予備的請求)1審原告と1審被告との間で,1審原告が,道路運送法15
条1項の認可を得ることなく,平成23年6月30日付けで処分行政庁に対
してした一般乗用旅客自動車運送事業の事業計画変更認可申請に係る30
台の増車をすることができる法的地位を有することを確認する。
21審被告
(1)原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。
(2)上記取消部分に係る1審原告の請求を棄却する。
第2事案の概要
1道路運送法15条3項によると,一般旅客自動車運送事業者が営業所ごとに
配置する事業用自動車の数を変更しようとするときは,あらかじめその旨を国
土交通大臣に届け出なければならないが,認可を受けることまでは必要とされ
ていない。しかし,「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化
及び活性化に関する特別措置法」(平成25年法律第83号による改正前のも
の。以下「特措法」という。)3条により指定された特定地域(以下「特定地
域」という。)において,一般乗用旅客自動車運送事業者が当該特定地域内の
営業所に配置する事業用自動車の合計数を増加させる事業計画の変更をしよ
うとするときは,特措法15条1項,道路運送法15条1項により,国土交通
大臣の認可を受けなければならない。その認可基準として,道路運送法15条
2項において準用する同法6条は,①当該事業の計画が輸送の安全を確保する
ため適切なものであること(同条1号),②前号に掲げるもののほか,当該事
業の遂行上適切な計画を有するものであること(同条2号),③当該事業を自
ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること(同条3号)と定めてい
る。そして,平成21年9月30日付け関東運輸局長及び管内各運輸支局長の
連名による公示「特定地域の指定及び特定地域における一般乗用旅客自動車運
送事業の適正化の推進のために監督上必要となる措置の実施について」は,上
記の認可基準を具体化した増車の認可に関する基準(行政手続法5条にいう審
査基準に当たる。以下「措置認可基準」という。)として,「提出された収支
計画上の増車車両分の営業収入が,申請する営業区域で当該増車実施後に新た
に発生する輸送需要によるものであることが明らかであること」という収支計
画に関する要件(以下「収支計画要件」という。)を定めている。
本件は,一般乗用旅客自動車運送事業であるタクシー事業を営む1審原告が,
特定地域に指定されている東京都特別区,武蔵野市及び三鷹市の区域(以下「特
別区・武三交通圏」という。)を営業区域として,営業所ごとに配置する事業
用自動車(一般車両タクシー)を50台から80台に30台増車するため,処
分行政庁に対し,特措法15条1項,道路運送法15条1項に基づき,平成2
3年6月30日付けで事業計画変更認可申請(以下「本件申請」という。)を
したところ,処分行政庁から,本件申請は収支計画要件に適合しないとして,
同年11月30日付けで本件申請を却下する旨の処分(以下「本件処分」とい
う。)を受けたため,処分行政庁の所属する国に対し,(ア)主位的に,①措置
認可基準自体又はその運用は違法であり,本件申請は道路運送法及び特措法の
定める認可基準に適合すること,②仮に措置認可基準及びその運用が適法であ
るとしても,本件申請は措置認可基準の定める収支計画要件に適合することか
ら,本件処分は違法であるとして,本件処分の取消しを求める(以下「本件取
消しの訴え」という。)とともに,行政事件訴訟法37条の3第1項2号に基
づき,本件申請に対し認可処分をすることの義務付けを求め(以下「本件義務
付けの訴え」という。),(イ)予備的に,特別区・武三交通圏を特定地域と指
定したこと(以下,この指定を「本件指定」という。)は違法無効であるとし
て,同法4条の当事者訴訟として,1審原告と1審被告の間で,1審原告が届
出のみで本件申請に係る30台の増車をすることができる法的地位を有する
ことの確認を求める(以下「本件確認の訴え」という。)事案である。
原審は,措置認可基準及びその運用は適法であるが,特別区・武三交通圏及
び1審原告にビジネスジェットの外国人乗客等の成田空港への送迎という新
規の輸送需要が発生することが社会通念上合理的にみて相当程度の蓋然性を
もって見込まれると認定し,本件申請が収支計画要件に適合しないと判断した
本件処分は違法であるとして,1審原告の本件取消しの訴えを認容し,他方,
本件申請に係る増車30台分の営業収入の全てが新たに発生する輸送需要に
よるものか否かについては処分行政庁による判断を経るべき点が残っている
として本件義務付けの訴えを棄却し,また,本件指定に違法はないと判断して
本件確認の訴えも棄却した。
そこで,当事者双方が,上記各敗訴部分をそれぞれ不服として控訴した。
2関連法令等の定め
原判決別紙記載のとおりであるから,これを引用する。
3前提となる事実
原判決の「第2事案の概要」2(4頁5行目から10頁17行目まで)記
載のとおりであるから,これを引用する。
4争点
原判決の「第2事案の概要」3(10頁18行目から11頁16行目まで)
記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,11頁5行目の「1」を
「3」に改める。
5当事者の主張
次のとおり当審における主張(収支計画要件への適合性の有無について)を
付加するほか,原判決の「第2事案の概要」4(11頁17行目から27頁
27行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(当審における主張)
(1)1審被告
本件申請は,以下のとおり,収支計画要件を満たしていない。
ア成田空港におけるビジネスジェットの発着回数
成田空港におけるビジネスジェットの発着回数の実績は,平成19年度
の1250回をピークに減少傾向に転じ,その後は約1150回から約1
180回で推移していたが,平成23年度は519回まで減少し,平成2
4年度は若干実績が回復したものの,それでも729回にとどまり,1日
当たりの発着回数はわずか約1.99回にすぎない。成田空港では,平成
23年10月にビジネスジェットの発着枠が22万回から23.5万回に
拡大し,駐機場を15から18スポットに増設し,平成24年3月31日
にビジネスジェット専用ターミナルの供用を開始したが,発着枠の増加は,
発着回数の増加に結び付いていないのが実情であり,新規の輸送需要の発
生が根拠付けられるものではない。なお,ビジネスジェット1機当たりの
1審原告のタクシーの需要は2台ないし3台である。
イ他のタクシー会社による既存の需給関係
1審原告が提供するという成田空港を目的地とした送迎,ワンボックス
カーの保有,外国語対応サービスは,大手事業者も含めて複数の既存事業
者も既に広く提供済みのサービスであり,1審原告の独自性や特殊性を示
すものではない。1審原告に30台の増車を要請したというAも,1審原
告が即時配車の依頼に応じられない場合には,1審原告以外のタクシー事
業者に配車依頼をしている。1審原告の主張する輸送需要は,既存の需給
関係において十分解消が可能であり,新規の輸送需要の発生が明らかであ
るとはいえない。
(2)1審原告
本件申請が収支計画要件を満たしていないとの1審被告の主張は,誤りで
ある。
ア成田空港等におけるビジネスジェットの発着回数
成田空港のビジネスジェットの発着回数は,羽田空港の国際化と東日本
大震災の影響で平成23年度は減ったが,平成23年6月の本件申請後,
回復基調にあって増加しており,国策としてのビジネスジェット利用の推
進,いわゆるアベノミクスによる景気回復,オリンピックの誘致成功,羽
田空港のビジネスジェットの発着回数が最近5年間で増加傾向にあるこ
とを考えれば,羽田空港も含めたビジネスジェットの発着回数は,今後更
に増加するものと見込まれ,減少する理由はない。なお,Aが普通便のビ
ジネスクラス利用客なども多数扱っていることや,空港送迎利用者がその
まま1審原告のタクシーを利用して都内移動をするという需要があるこ
とも考慮する必要がある。
イ他のタクシー会社による既存の需給関係
1審原告が,現在の台数では顧客からの送迎依頼に応じられず,断って
いる状態にあり,また,Aから30台の増車を要望されているのは,自ら
新規需要を開拓しているためである。1審原告は,成田空港及び羽田空港
を利用する外国人を顧客とし,長時間でも快適にくつろげるワンボックス
カーと外国語対応の運転者から編成される特殊部隊によって,高品質サー
ビスを提供する計画であって,タクシー乗り場に並んで他のタクシー会社
から既存需要を奪う予定はない。1審被告が主張する他のタクシー会社は,
空港送迎から撤退又は事業を縮小した会社,空港送迎事業を開始したばか
りの会社,ハイヤーを活用している会社,安さを売りにする会社などであ
って,1審原告のような事業を展開する会社はない。ハイヤーは,利用料
が割高であり,タクシー料金で利用できる1審原告の競業者とはならない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
本件に関する事実関係は,当審において提出された証拠により認定すること
ができる事実等につき次のとおり付加するほか,原判決の「第3当裁判所の
判断」1(28頁2行目から56頁16行目まで)に認定のとおりであるから,
これを引用する。
(1)48頁2行目末尾に改行の上次のとおり加える。
「ウビジネスジェットの利用実績等
(ア)ビジネスジェットは,数人から数十人乗りの小型機で,個人の都
合に合わせて目的地まで飛ぶことができる飛行機であり,主な利用者
は,企業の経営層など時間的制約の厳しいユーザーである。Aは,ビ
ジネスジェット1機分の乗客及び乗務員の送迎を行うため,1審原告
に対し,2台から3台のタクシーの配車を依頼してきた。(乙36,
B証人調書5頁)
(イ)C株式会社の集計によると,成田空港におけるビジネスジェット
の発着回数(括弧内は1日当たり)は,平成17年度が1178回(3.
23回),平成18年度が1377回(3.77回),平成19年度
が1250回(3.42回),平成20年度が1156回(3.16
回),平成21年度が1184回(3.24回),平成22年度が1
167回(3.20回)であったが,平成23年度は519回(1.
42回),平成24年度は729回(1.99回)と減少した(出発
便及び到着便をそれぞれ1回として集計。給油のための寄航や回送便
など,旅客の乗降がない発着も含む。)。(乙39)
この間,成田空港では,国土交通省成長戦略を踏まえ,平成23年
10月にビジネスジェットの駐機場を15から18スポットに増設
し,同月30日,発着枠が22万回から23.5万回に拡大され,発
着枠が希少なため十分に対応できなかったビジネスジェットの乗り
入れ需要に対し,抜本的機能強化が図られ,これに伴って,同月3日
から,発着枠及び駐機場の空き状況がホームページで公開された。ま
た,国土交通省航空局は,平成24年2月,「国内外に対する情報発
信について」を出し,ビジネスジェット推進のため情報発信に取り組
んだ。さらに,同年3月31日,首都圏初のビジネスジェット専用タ
ーミナルがオープンし,プライバシーの確保,出入国手続のスピード
化等が図られ,ビジネスジェットの連続駐機可能日数が14日間から
30日間に延長された。(甲64,乙37,38)
(ウ)これとは別に,東京都知事作成の「国家戦略特区(仮称)につい
て」と題する資料(国土交通省の統計を引用したもの。)によると,
羽田空港におけるビジネスジェットの発着回数(括弧内は国際運航)
は,平成20年が1375回(310回),平成21年が931回(2
59回),平成22年が1069回(470回),平成23年が19
89回(1232回),平成24年が1792回(1171回)であ
り,羽田空港では,この間の平成22年10月31日には,国際ビジ
ネスジェットの昼間時間帯(6時台~22時台)の利用を可能とし,
この時間帯の発着回数(国内ビジネスジェットとの合計回数)を最大
4回から8回に拡大する(ただし,公用機等の枠であり,駐機場に余
裕がある場合の最大回数である。)等,ビジネスジェットの利便性向
上のための措置が実施された。
また,上記統計によると,成田空港におけるビジネスジェットの発
着回数(括弧内は国際運航)は,平成20年が1346回(1043
回),平成21年が1265回(991回),平成22年が1559
回(1265回),平成23年が578回(448回),平成24年
が686回(493回)であった。なお,これらの回数は,上記(イ)
のC株式会社の集計より総じて多いから,少なくとも同集計と同様給
油のための寄航等旅客の乗降がないものも含まれていると考えられ
る。(甲75,77,乙44)
エ他のタクシー会社の取組
1審原告は,現在,50台のタクシーを保有し,そのうち4台は6人
乗りのワンボックスカー(トヨタアルファード,ヴェルファイア)であ
り,英会話等外国語に対応可能な運転手もいる(甲13,51)が,他
のタクシー会社も同様の空港送迎サービスを提供している。すなわち,
他のタクシー会社は,平成25年8月22日又は同月23日現在,ホー
ムページ上で,次のような自社のサービスを紹介している。
(ア)D株式会社(東京都北区)
成田空港及び羽田空港への送迎を行う。ワンボックスタイプのハイ
ヤーを利用できる。平成19年から運転手の海外研修を実施し,英会
話可能な運転手が190人以上,韓国語,中国語,フランス語に対応
可能な運転手も在籍する。平成15年に英語対応専用のオペレーター
を配置し,乗車後の通訳も行っている。(乙43の1)
(イ)E株式会社(東京都港区)
成田空港及び羽田空港への空港定額タクシーがある。5人乗りと7
人乗りのワゴンタクシーがあり,セダンと同料金で利用できる。バイ
リンガルタクシーがあり,英語,中国語,韓国語に対応可能な運転手
がいる。(乙43の2)
(ウ)F株式会社(東京都文京区)
成田空港及び羽田空港の運賃が定額となる送迎サービスがある。ワ
ゴン指定料金1000円を払えばワゴンタクシーを利用できる。英語
及びそれ以外の外国語に対応できる語学堪能な運転手がいる。(乙4
3の3)
(エ)G(東京都足立区及び葛飾区)
成田空港及び羽田空港への送迎タクシーがある。6人乗りのジャン
ボハイヤーデラックス等を利用できる。英語での対応が可能な運転手
がいる。(乙43の4)
(オ)H株式会社(東京都港区)
成田空港及び羽田空港への定額運賃による送迎タクシーがある。ト
ヨタアルファードを66台保有している。かねてから英会話対応可能
な運転手を採用しており,平成25年3月に全車両で電話通訳サービ
スを開始し,英語,中国語,韓国語,ポルトガル語,スペイン語に2
4時間対応できる。(乙43の5)
(カ)I株式会社(東京都足立区)
定額運賃で成田空港及び羽田空港まで運行する。トヨタアルファー
ドを1台保有している。英語,中国語,その他に対応している。(乙
43の6の1,2)
(キ)J株式会社(東京都中野区)
定額運賃で成田空港までタクシーを利用できる。ジャンボハイヤー
を1台保有している。英語,北京語,台湾語に対応できる。(乙43
の7の1,2)
(ク)株式会社K(東京都江東区)
成田空港及び羽田空港への定額運賃による送迎タクシーがある。ワ
ンボックスタクシーは都内最多の保有台数である。英会話のできる運
転手が無料で利用できる。(乙43の8の1,29)
(ケ)L株式会社(東京都北区)
成田空港まで定額割引運賃で利用できる。英語,中国語,韓国語に
対応できる。(乙43の9の1,2)
(コ)M株式会社(東京都板橋区)
成田空港及び羽田空港への定額運賃による送迎タクシーがある。英
語,韓国語に対応できる。(乙43の10の1,2)」
(2)48頁5行目の「締結し」の次に「,同社は」を加え,23行目末尾に改
行の上次のとおり加える。
「カAは,成田空港及び羽田空港に営業所を有し,航空機への燃料給油事
業,ビジネスジェットの運航支援業務等を行うハンドリング会社である
が,他のハンドリング会社も,成田空港及び羽田空港にそれぞれ6社が
営業所を置いている。(甲64)」
2措置認可基準及びその運用の適法性について
当裁判所も措置認可基準及びその運用は適法であると判断する。その理由は,
原判決の「第3当裁判所の判断」2(56頁17行目から67頁2行目まで)
において説示のとおりであるから,これを引用する。ただし,60頁9行目,
24行目及び61頁1行目の「道路交通法」をそれぞれ「道路運送法」に改め
る。
3本件処分の適否について
当裁判所は,本件処分時において,1審原告の「収支計画上の増車車両分の
営業収入が,申請する営業区域で当該増車実施後に新たに発生する輸送需要に
よるものであること」が社会通念上合理的にみて相当程度の蓋然性をもって見
込まれていたと認めることはできず,また,措置認可基準にいう「特別な事情」
があるとも認められないから,本件処分に違法はないと判断する。その理由は,
次のとおりである。
なお,収支計画要件への適合性の有無の判断は処分行政庁に裁量権があるこ
と(原判決67頁4行目から25行目まで),成田空港においてビジネスジェ
ットの発着枠の増加が見込まれていたこと(原判決68頁1行目から22行目
まで)及び訪日外国人3000万人計画や中国人旅行客に対する査証発給要件
の緩和が特別区・武三交通圏における新規の輸送需要発生の根拠とは認められ
ないこと(原判決69頁20行目から70頁4行目まで)は,原判決説示のと
おりであるから,これらを引用する。
(1)1審原告の本件申請
1審原告は,政府のビジネスジェット推進策を背景にしてAから30台の
増車要請を受けたことを契機に,ビジネスジェットを利用する外国人の乗客
及び乗務員の空港と首都圏との間の送迎の輸送需要が発生すると考え,大型
車を購入し,かつ,外国語に対応することができる運転手を採用して特殊部
隊を創設する計画を立てて,30台を増車するとの本件申請をしたものであ
る。
そこで,本件処分時において,近い将来,特別区・武三交通圏にビジネス
ジェットに係る新規の輸送需要が発生する見込みがあったかどうか等につ
き検討した上,本件処分の適否について判断する。
(2)成田空港におけるビジネスジェット
成田空港では,予定どおり,平成23年10月30日から,ビジネスジェ
ットの発着枠が22万回から23.5万回に拡大された。
しかしながら,ビジネスジェットの各種推進策にもかかわらず,前記認
定のとおり,成田空港におけるビジネスジェットの実際の発着回数(括弧内
は1日当たり)は,平成18年度の1377回(3.77回)をピークに平
成22年度の1167回(3.20回)まで減少傾向をたどった後,平成2
3年度には519回(1.42回)と大きく下落したものであり(これらの
発着回数は,給油のための寄航等乗客の乗降がないものを含み,また,国際
便は8割弱であるから,外国人の乗客及び乗務員が乗降する便数はもっと少
ない。),このような発着回数の推移を考えると,本件処分時(平成23年
11月30日)において,近い将来,成田空港におけるビジネスジェットの
発着回数が現実に増加することが社会通念上合理的にみて相当程度の蓋然性
をもって見込まれていたと認めることはできない。このことは,平成23年
10月30日,成田空港におけるビジネスジェットの発着枠が22万回か
ら23.5万回に拡大され,平成24年3月31日,ビジネスジェット専用
ターミナルがオープンして利便性が向上したにもかかわらず,平成24年度
の発着回数が729回(同1.99回)にとどまり,平成22年度以前の水
準にはるかに及ばなかったことからも裏付けられる。
なお,平成23年度に発着回数が大きく減少した要因としては,平成23
年3月11日に発生した東日本大震災及び福島第一原発の事故の影響がうか
がえるが,そもそも東日本大震災以前の発着回数がさほど多くなかった上,
東日本大震災が社会や経済に広範囲の損失と混乱を与えたことに照らせば,
東日本大震災に起因する発着回数の減少がごく短期で回復すると予測するこ
とは困難で,実際にも平成24年度に発着回数の目立った増加は見られなか
ったものであり,上記認定判断を妨げるものではない。
(3)羽田空港におけるビジネスジェット
次に,羽田空港についてみると,国土交通省成長戦略において,着実に容
量拡大を進めることにより,旺盛な首都圏の国際航空需要に対応するととも
に,同空港の充実した国内線ネットワークを活用した国内・国際ハブ機能を
強化することとし,アジア長距離線や欧米路線を含め,高需要のビジネス路
線が羽田空港からも発着することができるようにルールを変更し,国際線に
ついて発着枠を増加させる基本方針が示されている。そして,前記の東京都
知事作成の「国家戦略特区(仮称)について」と題する資料によると,羽田
空港におけるビジネスジェットの発着回数は,平成20年が1375回,平
成21年が931回,平成22年が1069回,平成23年が1989回,
平成24年が1792回であり,本件処分がされた平成23年当時は,前年
より増加したが,それでも1日当たり5.45回にとどまっていた。
なお,実際に羽田空港の国際線が増便されるのは,羽田新国際線旅客ター
ミナルの拡充後とされていることからすると,羽田空港のいわゆる再国際化
の方針が決定されているとしても,本件処分当時,羽田空港における国際線
が具体的に増便される時期は不明であったというほかない。
(4)両空港におけるビジネスジェット
前記の東京都知事作成の資料によれば,成田空港及び羽田空港におけるビ
ジネスジェットの発着回数の合計(括弧内は国際運航)は,平成20年が2
721回(1353回),平成21年が2196回(1250回),平成2
2年が2628回(1735回),平成23年が2567回(1680回),
平成24年が2478回(1664回)であり,本件処分がされた平成23
年当時に増加傾向を示していたとは認められない。また,平成23年当時の
1日当たりの発着回数は,両空港合計でも7.03回(国際運航は4.60
回)にとどまり,しかも,この回数は,給油による寄航等乗客の乗降がない
ものも含んでいるから,空港と首都圏との間を移動する者の乗降があるビジ
ネスジェットの本数は,更に少なくなる。そして,空港と首都圏との間の移
動手段は,タクシー以外にも,リムジンバス,電車(甲1の17,乙1の2
によれば,平成22年7月に成田新高速鉄道が整備された。),首都圏にお
ける用務先の社用車,レンタカー等もあるから,ビジネスジェット利用者の
うちタクシーを利用する者は一部であると考えられる。
(5)特別区・武三交通圏における新規の輸送需要発生の見込み
以上の諸点を総合すると,羽田空港の実績を含めて検討しても,本件処分
時において,近い将来,ビジネスジェットの発着回数が増加しこれに伴いタ
クシー利用者が増加するとは見込めず,ビジネスジェット推進策により,特
定地域である特別区・武三交通圏において新規のタクシー輸送需要が発生す
ることが社会通念上合理的にみて相当程度の蓋然性をもって見込まれていた
とは認められない。
なお,1審原告は,アベノミクスによる景気回復,オリンピックの誘致成
功も主張するが,これらによる新規の輸送需要発生の有無,程度を認めるに
足りる証拠はなく,そもそもこれらは,主として平成25年に生じたもので,
本件処分後の事情であり,本件処分の適否を判断するに当たって考慮するこ
とは相当とはいえない。
(6)1審原告にとっての新規の輸送需要の有無
1審原告は,高品質のサービスを提供する計画であると主張するが,特別
区・武三交通圏において,近い将来,ビジネスジェットに係る新規のタクシ
ー輸送需要が発生するとの現実的な見込みがあったと認めることができない
ことは,前記認定のとおりである。
そして,1審原告と同様,空港への定額料金による送迎,大型車であるワ
ンボックスカーの利用,外国語による対応といったサービスは,首都圏の
他の複数のタクシー会社においても,広く提供されており,その時期や内容
が会社により様々であることを考慮しても,本件処分時において,1審原
告でなければ提供できないサービスであったとは認められないこと,1審
原告と専属委託契約を締結しているAは,1審原告が即時配車の依頼に応
じられないときは,他のタクシー会社に配車依頼をしていること(B証人
調書11,20頁),Aのように成田空港及び羽田空港において航空機支
援業務を行っているハンドリング会社は他にも複数社存在していることを
考えると,客観的にみて,ビジネスジェット推進策により,1審原告に新
規のタクシー輸送需要が発生すると見込まれていたとも認め難い。仮に1
審原告が増車すればある程度の営業収入の増加が見込まれるとしても,前
記認定のとおり,それが特別区・武三交通圏における新規の輸送需要によ
るものとは認められない。
なお,1審原告は,空港送迎利用者はそのまま同じタクシーで都内を移動
すると主張するが,ビジネスジェット客によるタクシー利用の増加が見込ま
れないことは前記のとおりである。1審原告は,Aは普通便のビジネスクラ
ス利用客なども多数扱っているし,また,多数の配車依頼を断らざるを得な
い状況にある(その証拠として甲11,69,78,88を提出している。)
とも主張するが,これらは特別区・武三交通圏における新規の輸送需要によ
るものとは認め難い。
(7)以上のとおりであるから,政府のビジネスジェット推進策,観光立国に
向けた取組,中国人旅行者に対する査証の発給要件の緩和等を考慮しても,
本件処分時において,特定地域である特別区・武三交通圏に新規の輸送需要
が発生することが社会通念上合理的にみて相当程度の蓋然性をもって見込
まれていたとは認められない。
また,措置認可基準は,収支計画要件を満たさない場合でも,「特別な事
情」があるときは,増車申請を認可する旨の審査基準を定めているが,特定
地域における供給過剰の抑制により地域公共交通機関としての機能を十分に
発揮できるようにするとの特措法の趣旨に照らすと,「特別な事情」がある
といえるためには,少なくとも,増車しても特定地域における供給過剰状態
の更なる悪化にはつながらないと認められる必要がある。しかし,本件申請
に係る増車が特別区・武三交通圏における供給過剰状態の更なる悪化につな
がらないとの主張立証はないから,本件申請について措置認可基準にいう「特
別な事情」があるとは認められない。
したがって,処分行政庁が本件申請を収支計画要件に適合しないと判断し
て却下した本件処分に裁量権を逸脱し又はこれを濫用した違法があるとは
認められないから,本件取消しの訴えは理由がない。
なお,1審原告は処分行政庁による複数回の監査によるも違反が皆無の優
良事業者である(甲13,28)が,特措法は,タクシーの供給過剰による
弊害(運転手の労働条件の悪化,安全性や利用者の利便性の低下,交通事故
の発生,タクシー事業の収益基盤の悪化や違法・不適切な事業運営の横行)
に鑑み,その地域公共交通機関としての機能を十分に発揮できるようにする
ため,供給過剰の状況にある特定地域においては,事業者の自主的取組を促
すとともに,増車により更に供給過剰の事態が進行することを抑制しようと
するものであり,不合理なものとはいえない。そして,これは,特定の事業
者に着目したものではなく,特定地域の全体における供給過剰状態に着目し
て地域公共交通機関としての現状以上の機能低下を防止しようというもので
あるから,優良事業者であってもその増車により特定地域の供給過剰状態の
更なる悪化につながる場合には,認可されないことも特措法の予定している
ところである。収支計画要件は,このような観点から,増車には新規の輸送
需要の発生が見込まれることを必要としているものと解することができる。
これは,輸送需要を考慮しての増車の制限ではあるが,既存の輸送需要を所
与のものとしてこれに見合う供給台数しか認めていなかった従前の需給調整
とは異なり,新規の輸送需要が見込まれて供給過剰状態の更なる悪化のおそ
れがない場合には既存の輸送需要を超える供給台数も容認するものであって,
一律に増車を禁止しているものではなく,特措法の趣旨及び同法が特定地域
における事業者の自主的取組だけではなく道路運送法の特例として増車には
国土交通大臣の認可を必要とすると定めていることに鑑み,同法が上記のよ
うな措置を許容していないと解することはできない。
4本件義務付けの訴えについて
前記3によれば,本件処分に違法はなく,本件取消しの訴えは理由がないか
ら,本件処分が取り消されるべきものであることを訴訟要件とする本件義務
付けの訴えは,訴訟要件を欠く不適法なものであり,却下を免れない。
5本件確認の訴えについて
当裁判所も,特別区・武三交通圏を特定地域に指定した本件指定は適法であ
るから,1審原告が特別区・武三交通圏内の営業所に配置する事業用自動車を
増車するには国土交通大臣の認可を受けなければならないので,本件確認の訴
えは理由がないと判断する。その理由は,原判決の「3当裁判所の判断」5
及び6(75頁18行目から79頁1行目まで)において説示するとおりであ
るから,これを引用する。
6以上によれば,1審原告の本件取消しの訴え及び本件確認の訴えはいずれも
理由がなく,本件義務付けの訴えは不適法であるところ,法律上,本件取消し
の訴えと本件義務付けの訴えの審理・判断は一体として扱われているから(行
政事件訴訟法37条の3第3項,4項),1審被告の控訴に基づき,上記の趣
旨に沿って原判決を変更するとともに,1審原告の本件控訴を棄却することと
する。
よって,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第7民事部
裁判長裁判官菊池洋一
裁判官齊木利夫
裁判官濱口浩

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