弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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 目次
  主文
  理由
    〔凡例〕
 第一 公訴事実
 第二 公訴棄却の主張について
  一、裁判権がないとの主張について
   1.弁護人らの主張
   2.判断
  二、本件告発は無効であるとの主張について
   1.弁護人らの主張
   2.判断
 第三 独禁法八九条一項二号が憲法に違反するとの主張について
 第四 事実認定
  第一節 公訴事実に対する被告人、弁護人の陳述
  第二節 各被告人について
   一、被告人A連盟
   二、被告人A2
   三、被告人A3
  第三節 背景事実
   一、通産省の石油需給調整に関する行政
    1.通産省の任務及び権限
    2.石油業法による石油の需給調整
    3.需給計画及び生産計画
   二、石油業界における競争
    1.石油製品の市場
    2.通産省による競争の制限
  第四節 石油業法下における生産調整の推移
   一、石油業法の制定
   二、供給計画実施に関する通産省の方針
   三、石油業法施行後昭和四一年度上期まで
    1.昭和三七年七―九月
    2.昭和三七年度下期
    3.昭和三八年度上期
    4.A22脱退問題
    5.通産省による生産調整
   四、昭和四一年度下期から昭和四三年度上期まで
    1.生産調整の廃止
    2.昭和四一年度下期
    3.昭和四二年度上期から昭和四三年度上期まで
   五、昭和四三年度下期から昭和四七年度上期まで
    1.昭和四三年度下期
    2.昭和四四年度上期
    3.昭和四四年度下期から昭和四六年度下期まで
    4.昭和四七年度上期の需給事情と生産調整
    5.配分基準とA4問題
    6.沖縄問題
    7.新増設設備の稼働制限
    8.需給、営業両委員長の会談
  第五節 本件生産調整
   一、本件生産調整の概要
    1.主体
    2.対象となる会社及びグループ
    3.対象となる原油処理量
    4.配分方式
   二、昭和四七年度下期の生産調整
    1.C8研究会
    2.通産省の供給計画見直し
    3.A連盟の適正需給バランス作成
    4.委員長案(原案)作成と各社の説得
    5.通産省の指導と委員長案(一次案)の作成
    6.A6案の提示
    7.暫定的な計画提出と見直し需給計画
    8.社長会
    9.C7の配分決定(公訴事実第一にあたる行為)
    10.生産計画変更の届出
    11.生産調整の実施
    12.生産調整の実績
   三、昭和四八年度上期の生産調整
    1.供給計画
    2.A連盟の適正需給計画
    3.C7の配分決定(公訴事実第二にあたる行為)
    4.生産計画の届出
    5.生産調整の実施
    6.生産調整の実績
   四、競争の実質的制限
    1.配分決定の拘束力
    2.製品販売競争の制限
 第五 証拠の標目(省略)
 第六 構成要件該当性
  一、総説
  二、本件罰則における行為主体
  三、数量の制限
  四、一定の取引分野
  五、競争の実質的制限
 第七 違法性
  一、総説
  二、通産省による石油需給調整と独占禁止法
   1.石油業法の性格
   2.供給計画の実施方法
   3.行政指導と独占禁止法
  三、本件各行為に対する評価
   1.通産省の関与の程度
   2.通産省に対する協力
   3.A連盟の自主性
   4.結論
 第八 被告人らの責任
  一、総説
  二、違法性の意識の存在を推認させるような事実
   1.「I1」等掲載のとりやめ
   2.資料の取扱い注意
  三、違法性の意識の不存在を推認させるような事実
   1.石油業法施行当初の事情
   2.生産調整廃止直後の事情
   3.生産調整再開時の事情
   4.被告人A3のC1委員長就任後の事情
   5.通産省の生産動向監視
  四、被告人らの供述の検討及び責任の判断
   1.被告人A3について
   2.被告人A2について
 第九 結論
         主    文
     被告人A連盟、被告人A2、被告人A3は、いずれも無罪。
         理    由
 〔凡例〕
 一、 次に掲げる略称を用いることがあるほか、日常使用される略称を用いるこ
とがある。
   略  称       正 式 名 称
 独占禁止法、独禁法  私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する 法律
 業法         石油業法
 供給計画       石油供給計画
 生産計画       石油製品生産計画
 業法計画       石油業法一〇条所定の石油製品生産計画
 通産大臣       通商産業大臣
 通産省        通商産業省
 A連盟         A連盟
 C7       C7委員会(第四第四節五1参照)
 C3        C3委員会
 C1委員長      C1委員会委員長
 二、 株式会社名については、初出のとき以外、名称中「株式会社」を省略す
る。また、初出のときに示す略称を用いることがある。
 三、 比率又は得率を示す数字ほ、百分比である。
 四、 証人及び被告人の当公判廷における供述のうち、第三四回公判までに行な
われたものについては、公判調書中のその供述の記載を証拠とし、第三五回公判以
降に行なわれたものについては、当公判廷におけるその供述を証拠とする。
 五、 証拠物の押収番号は、すべて東京高等裁判所昭和五〇年押第三二号であ
る。本文中にはその下の符番号のみを示す。
 六、 証拠の標目の記載例は、次のとおりである。被告人、証人等供述者の氏名
については、初出のとき以外、姓のみを記載する。
  記載例           上記の意味
 A2供述七五回       被告人A2の第七五回当公判廷における供述
 B1証言四七回       証人B1の四七回当公判廷における供述
 B2証言三回       第三回公判調書中の証人B2の供述記載
 A3四九・四・二三検七項  被告人A3の昭和四九年四月二三日付検察官に対
する供述調書第七項
 符三七中「四七年度下期需  昭和五〇年押第三二号符第三七号、「生産計画」
と題するフアイル中の同上
 給バランス四七年一一月二  
 日」
 七、 左記証人の当公判廷における供述を証拠として掲げたときは、その供述中
併合審理中の別件(昭和四九年(の)第二号)のみについての尋問に対する供述部
分を含まないものとする。
 B3三五回、三八回、B4 三五回、四三回、B5三六回、三九回、B6三七
回、四〇回、B7四一回、四四回、四五回
 第一 公訴事実
 本件公訴事実及び罰条は、次のとおりである。
 公訴事実
 被告人A連盟は、石油精製会社及び石油製品元売会社を会員とし、石油業の健全
な発達を図り、会員である事業者の共通の利益を増進することを主たる目的とし
て、昭和三〇年一一月一日設立された事業者団体であつて、その会員である石油精
製会社二四社及び会員であるA4株式会社の系列下にある石油精製会社で、原油処
理計画について同会社の事実上の統制に服しているA5株式会社の合計二五社の原
油処理量は、沖縄県を除くわが国における原油処理量の約九七パーセントを占めて
いるものであり、被告人A2は昭和四六年五月から同四八年五月まで右A連盟の会
長としてその業務全般を統轄掌理していたもの、被告人A3は、同四四年六月から
同四八年六月まで同連盟のC1委員会委員長として同委員会の所掌する石油製品の
需給計画等に関する業務を統括していたものであるが、被告人A2及び同A3は、
前記C1委員会の副委員長B8らと共謀のうえ、同連盟において右石油精製会社二
五社の原油処理量の調整を行うことを企て、被告人A連盟の業務に関し、
 第一 昭和四七年一〇月三一日東京都千代田区a町b丁目c番d号eビル内のA
連盟本部事務所において、同連盟のC1委員会を開催し、前記石油精製会社二五社
が沖縄県を除く国内で行う同年下期六箇月分(同年一〇月から翌四八年三月まで)
の一般内需用輸入原油の処理について、その処理総量を九二、四〇八、〇〇〇キロ
リツトルとしたうえ、これを販売実績、原油処理能力等を勘案して按分し、いずれ
も右連盟の会員であるA6株式会社、A7株式会社及びA8株式会社を構成員とす
るA6グループ、同様のA9株式会社、A10株式会社、A11株式会社、A12
株式会社及びA13株式会社並びに同連盟の会員でない前記A5株式会社を構成員
とするA4グループ、いずれも同連盟の会員であるA14株式会社及びA15株式
会社を構成員とするA14グループ、同様のA16株式会社、A17株式会社及び
A18株式会社を構成員とするA19グループ、同様のA20株式会社及びA21
株式会社を構成員とするA20グループの五グループ並びにいずれも同連盟の会員
であるA22株式会社、A23株式会社、A24株式会社、A25株式会社、A2
6株式会社、A27株式会社、A28株式会社、A29株式会社及びA30株式会
社の九社に対し、各グループないし各社が処理しうる原油量を、別紙割当一覧表の
「割当量昭和四七年下期分」欄記載のとおり割り当て、即時その効力を発生させ
 第二 昭和四八年四月九日前記A連盟本部事務所において、同連盟のC1委員会
を開催し、前記石油精製会社二五社が沖縄県を除く国内で行う同年上期六箇月分
(同年四月から同年九月まで)の一般内需用輸入原油の処理について、その処理総
量を八七、四三五、〇〇〇キロリツトルとしたうえ、これを前記同様の方法で按分
し、前記五グループ及び九社に対し、各グループないし各社が処理しうる原油量
を、別紙割当一覧表の「割当量昭和四八年上期分」欄記載のとおり割り当て、即時
その効力を発生させもつて、わが国の原油処理に関する取引分野における競争を実
質的に制限したものである。
 罰条
 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第八九条第一項第二号、第九五
条第二項、第八条第一項第一号
 被告人A2、同A3につきさらに刑法第六〇条
起訴状別紙
<記載内容は末尾1添付>
 第二 公訴棄却の主張について
 一、 裁判権がないとの主張について
 1、 弁護人らの主張
 弁護人らは、独占禁止法八五条三号は、同法八九条の罪に係る訴訟の第一審の裁
判権を東京高等裁判所に属するものと規定しているので、第二審としては最高裁判
所に対する上告のみが認められるに過ぎないことになるが、右規定は、日本国憲法
下において採用されている三審制を採用せず、特に二審制を採用したことについて
合理的な理由を欠いており、憲法一四条に違反し、ひいては、同法三一条、三二条
及び三七条に違反し、無効である。したがつて、本件公訴は違憲無効の規定に基づ
いて提起されたものであつて、東京高等裁判所は本件に対し裁判権を有しないか
ら、刑事訴訟法三三八条一号により公訴棄却の判決をすべきであると主張する。
 2、 判断
 そこで検討すると、刑事訴訟法三三八条一号にいう「被告人に対して裁判権を有
しないとき」とは、国家統治権の一作用としてのわが国の刑事裁判権が被告人に及
ばない場合を指すのであり、独占禁止法八五条三号の規定は、わが国の刑事裁判権
が及ぶ者に対し、いかなる裁判所においてその権限を行使するかを定める管轄権に
ついての特別規定であるに過ぎないから、かりに所論のように右規定が違憲無効で
あるとしても、そのために本件被告人らに対し、わが国の裁判権が及ばなくなる性
質のものではない。したがつて刑事訴訟法三三八条一号にあたるとの主張は前提を
欠くものである。
 <要旨第一>しかし、所論は管轄違いを主張するものとも解されるので、独占禁止
法八五条三号の規定の憲法適合性について検討すると、憲法三二条は、
「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」と規定し、すべての
者に対し憲法及び法律の定める裁判所において裁判を受ける権利を保障している
が、右規定はいわゆる三審制を保障したものではなく、裁判所の裁判権の分配、審
級その他の構成は法律の規定に委ねることとしたものと解すべきである(最高裁大
法廷昭和二三年三月一〇日判決、刑事判例集二巻三号一七五頁、同昭和二三年七月
八日判決、刑事判例集二巻八号八〇一頁、同昭和二三年七月一九日判決、刑事判例
集二巻八号九二二頁、同同日判決、刑事判例集二巻八号九五二頁、同昭和二九年一
〇月一三日判決、民事判例集八巻一〇号一八四六頁参照)。また、憲法三七条は、
「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける
権利を有する。」と規定し、被告人に公平な裁判所の裁判を受ける権利を保障して
いるが、ここに公平な裁判所とは、組織及び構成等において偏頗や不公平のおそれ
のない裁判所をいうのである(最高裁大法廷昭和二三年五月五日判決、刑事判例集
二巻五号四四七頁、同昭和二三年五月二六日判決、刑事判例集二巻五号五一一頁、
同昭和三六年六月二八日判決、刑事判例集一五巻六号一〇一五頁参照)。
 そして、独占禁止法八五条三号は、同号所定の罪が国民経済にもたらす影響の重
要性並びに右罪に係る訴訟についての迅速な審判及び専門的かつ統一的判断の必要
性にかんがみ、東京高等裁判所を第一審裁判所として、右訴訟事件を全部同裁判所
に集中することとし、同法八七条が同裁判所に右訴訟事件その他同条所定の事件の
みを取り扱う裁判官の合議体を設け、その合議体の裁判官の員数を五人としたこと
と相まつて、右の要請に応える適正迅速な審判を期することにしたものと解される
のであり、右の立法趣旨に照らすと、右八五条三号の規定は、同号所定の罪により
起訴された者に対する不合理な差別的取扱いを定めたものではない。また、右八五
条三号所定の訴訟事件について第一審の裁判を行なう東京高等裁判所の右合議体の
審理手続には、除斥及び忌避に関する規定を含む刑事訴訟法の第一審手続に関する
規定がすべて適用されるのであり、その判決に対しては最高裁判所における同法の
規定による上告審の手続が保障されているのであるから、右八五条三号の規定が前
記のような公平な裁判所の理念に反するものとはいえず、また憲法三一条による法
律の定める手続の保障に欠けるものともいえない。
 以上の次第で、独占禁止法八五条三号の規定は、憲法一四条、三一条、三二条及
び三七条に違反するものではない。したがつて、本件公訴が当裁判所に提起された
ことについて管轄違い等の違法はないから、弁護人らの主張は採用できない。
 二、本件告発は無効であるとの主張について
 1、 弁護人らの主張
 弁護人らは、独占禁止法九六条によれば、同法八九条の罪は公正取引委員会の文
書による告発をもつて論ずべきものとされているところ、
 イ、 本件には昭和四九年二月一五日付の「告発状」と題する書面が二通あり、
その一つは作成名義が公正取引委員会と表示され、他の一つは作成名義が告発人指
定代理人D1と表示されているものであるが、そのいずれが告発状であるのか不明
であり、もし前者とすれば、代表者の署名押印を欠き、独占禁止法三三条一項、刑
事訴訟規則五八条一項に違反し、後者とすれば指定代理人の署名押印を欠くうえ、
告発には代理が許されないと解すべきであるから、いずれの見地からみても右書面
による告発は無効である。
 ロ、 更に同年五月二五日付の被告人A2に関する「追加告発状」と題する書面
は、告発人指定代理人D1作成名義の文書であるが、その署名を欠いているうえ、
告発には代理が許されないと解すべきであるから、右文書は公正取引委員会の告発
としての効力を生じない。そして右追加告発状に記載された事実は、前記二月一五
日付告発状に記載された事実とは犯罪構成要件を異にするから、右追加告発状はさ
きの告発の単なる補充訂正ではなく、新たな告発を内容とするものであつて、その
追加告発は無効である。
 したがつて、本件公訴の提起は有効な告発を欠き、適式有効にされたものではな
いから、刑事訴訟法三三八条四号により公訴棄却の判決をすべきであると主張す
る。
 2、 判断
 <要旨第二>イ、 そこで検討すると、昭和四九年二月一五日付告発状の第一葉に
は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第七十三条第一
項、第九十六条の規定に基づき別添事件を告発する。」と記載され、「公正取引委
員会」との記名下に同委員会の庁印が押捺されており、第二葉以下には、あらため
て告発状と題し、告発人を公正取引委員会、被告発人をA連盟ほか四名(被告人A
2、同A3を含む。)とし、独占禁止法八条一項一号、八九条一項二号、九五条二
項(ただし、被告人A2については同法九五条の二第一項)に該当する事実を告発
事実とする同日付の告発人指定代理人D1の記名のある文書が添付され、右第一葉
と第二葉の間及び以下の各葉の間にはいずれも第一葉の公正取引委員会名下に押捺
されたのと同じ同委員会の庁印による契印が施されているものであり、その表示及
び形式にかんがみ、右文書は、全体として一個の公正取引委員会作成名義の告発状
と認められる。右告発状の末尾に公正取引委員会委員長高橋俊英の記名押印のある
告発代理人指定書と題する文書が添付されていることは、右認定の妨げとなるもの
ではない。
 ところで、独占禁止法九六条所定の告発は、刑事訴訟法二三九条、二四一条所定
の告発をその主体及び方法に関し限定し、これを訴訟条件としたもので、刑事訴訟
法上の告発にほかならないのであるから、その告発状には刑事訴訟規則五八条の適
用があり、また、公正取引委員会は合議制の行政官庁であつて、同委員会委員長が
同委員会を代表する(独占禁止法三三条)ものであるから、同委員会の作成すべき
告発状には代表者たる委員長の署名押印を要するものと解すべきものであること
は、いずれも所論のとおりである。したがつて、前記告発状は公正取引委員会委員
長の署名押印を欠く点において刑事訴訟規則五八条一項の定める方式に違反するも
のといわなければならないが、右規定の趣旨は、書類の真正を書類自体の表示によ
り明確ならしめることにより、書類の成立に関する調査を簡便ならしめ、書類の真
正に関する無用の争いを防止することにあると解されるから、本件告発状のよう
に、公正取引委員会の記名とその庁印が押捺されていることにより公正取引委員会
の作成に係ることが明らかな場合においては、右程度の方式違反があるからといつ
て直ちに告発状としての効力がないということはできず、右告発状の第一葉の文言
によれば同告発状が公正取引委員会の意思を表示したものであることが明らかであ
つて、同告発状に添付された同委員会委員長の記名押印のある告発代理人指定書中
に本件の告発が同委員会の決定に係るものであることを窺わせる内容が表示されて
いることに徴しても、本件につき右告発状による公正取引委員会の有効な告発があ
つたと認めるのに十分である。
 ロ、 次に追加告発状について検討すると、右文書は所論のとおり告発人指定代
理人D1作成名義の文書であるが、その内容を前記告発状のそれと比較すると、同
告発状における被告人A2に対する告発事実は、C1委員会委員長である被告人A
3がC1委員会副委員長B8らと共同して、A連盟の業務に関し、昭和四七年度下
期及び同四八年度上期における会員の原油処理量を定めて原油処理分野における競
争を実質的に制限したこと(独占禁止法八九条一項二号、九五条二項、八条一項一
号)について、A連盟の会長である被告人A2が右の違反計画及び違反行為を知り
ながらその防止及び是正に必要な措置を講じなかつたとする昭和五二年法律第六三
号による改正前の独占禁止法九五条の二第一項の罪を内容とするものであつたとこ
ろ、右追加告発状は、被告人A2が被告人A3らと共謀のうえ、A連盟の業務に関
し、前記告発状記載の被告人A3らの違反行為とされた行為を行なつた旨の事実を
右告発状における告発事実に択一的に追加するというものである。
 ところで、右追加告発状の趣旨は、さきの告発状において告発の対象とされてい
る被告人A3らの犯罪行為の共犯者として被告人A2を択一的に追加しようとする
ことにあると解されるところ、刑事訴訟法二三八条一項所定のいわゆる告訴の主観
的不可分の原則は告発についても準用される(同条二項)のであるから、前記告発
状による被告人A3に対する独占禁止法違反事件の告発の効力は、その罪の共犯者
にも及んでいるものというべく、したがつて、右追加告発状が所論のように公正取
引委員会の告発としての効力を有しないとしても、被告人A2に対し同被告人を右
の罪の共同正犯とする本件公訴事実により公訴を提起することに訴訟手続上の障害
はないのである。また、前記告発状における被告人A2に対する告発事実は前記の
とおり改正前の独占禁止法九五条の二第一項の罪であるところ、右の罪と同被告人
に対する本件起訴状記載の公訴事実とを比較すると、両者は同被告人が違反行為を
防止、是正しなかつたとするか、これを共謀したとするかの点を異にするだけで、
違反行為の日時、場所、内容等には異なる点がないから、公訴事実の同一性がある
ものと解される(最高裁第三小法廷昭和四三年四月一六日判決、刑事裁判集一六六
号六七五頁参照)。この点から考えても、前記追加告発状の効力を論ずるまでもな
く、同被告人に対する本件公訴の提起は有効であると解される。
 以上によれば、本件公訴の提起は、有効な告発に基づき適法にされたことが明ら
かであり、刑事訴訟法三三八条四号にはあたらないから、弁護人らの主張は採用で
きない。
 第三 独禁法八九条一項二号が憲法に違反するとの主張について
 弁護人らは、独占禁止法八九条一項二号、八条一項一号所定の「競争を実質的に
制限した」との構成要件は抽象的に過ぎて明確性を欠き、その解釈について恣意を
招来するものであるから、右処罰規定は罪刑法定主義に反し、憲法三一条に違反す
る無効の規定であり、被告人らはいずれも無罪であると主張する。
 <要旨第三>そこで検討すると、刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法三一条に
違反するかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、
具体的な場合に当該行為がその法規の適用を受けるかどうかの判断を可能にするよ
うな基準が読みとれるかどうかによつてこれを決定すべきである(最高裁大法廷昭
和五〇年九月一〇日判決、刑事判例集二九巻八号四八九頁参照)が、一般に法規
は、規定の文言の表現力に限界があるばかりでなく、その性質上多かれ少なかれ抽
象性を有するものであり、刑罰法規もその例外をなすものではないから、刑罰法規
のもつ意味内容について解釈による合理的な判断を必要とする場合があることは当
然である。
 独占禁止法八条一項一号所定の事業者団体が禁止される行為としての「競争を実
質的に制限すること」の意味内容は、行為の態様としては不当な取引制限の定義規
定である同法二条六項所定の行為をすべて含むものであることが同法の解釈上明ら
かであるから、同法八九条一項二号の罰則はその解釈を前提として右禁止規定と同
じ文言を用い、その違反を構成要件としたものと解するのが合理的であり、したが
つてその構成要件の予定する行為態様は明確である(第六の三参照)。このような
態様の行為の結果ないし効果としての競争の実質的制限とは、一定の取引分野にお
ける競争を全体として見て、その取引分野における有効な競争を期待することがほ
とんど不可能な状態をもたらすことをいうものと解される(第六の五参照)。
 そして、ここに実質的という用語が一種の価値概念であるため、一律に具体的基
準を示すことができないという意味で若干抽象的であるとはいえ、実質的という用
語は日常用いられており、その意味内容は通常の判断能力を有する一般人において
理解が可能であり、具体的な場合に当該行為が右条項の適用を受けるかどうかを判
断するにあたつては、例えば制限を受ける事業者の範囲、販売数量、価格等の制限
の方法、内容等の具体的事実に基づいて競争の制限が実質的であるかどうかを判断
するのに通常さほどの困難はないと思われる。
 したがつて、独占禁止法八九条一項二号の規定は、所論のように罪刑法定主義に
反し憲法三一条に違反するものではないから、右弁護人らの主張は採用できない。
 第四 事実認定
 第一節 公訴事実に対する被告人、弁護人の陳述
 各被告人及びその弁護人らは、本件公訴事実に対し要旨次のとおり陳述した。
 公訴事実中、被告人A連盟が石油精製会社及び石油製品元売会社を会員とし、昭
和三〇年一一月一日設立された事業者団体であること、公訴事実記載の石油精製会
社二五社の原油処理量は沖縄県を除くわが国における原油処理量の約九七パーセン
トを占めていること、被告人A2が公訴事実記載の期間右A連盟の会長をし、定款
上同連盟の業務全般を総理することとされていたこと、被告人A3が公訴事実記載
の期間同連盟のC1委員会委員長をしていたこと、右委員会が同連盟の規定上公訴
事実記載の業務を取り扱うことになつていたことは認めるが、被告人A2、同A3
がB8らと共謀の上、公訴事実第一及び第二のような行為をし、もつてわが国の原
油処理に関する取引分野における競争を実質的に制限したこと及びその余の公訴事
実記載の事実は否認する。
 ただし、公訴事実第一に関し、公訴事実記載の石油精製会社二五社における沖縄
県を除く国内で行なう昭和四七年度下期六か月分の一般内需用輸入原油の処理総量
が九二四〇万八千キロリツトルであり、これを公訴事実記載のように按分し、五グ
ループ九社が処理すべき原油処理量が配分されていたことがあること、公訴事実第
二に関し、前記二五社における沖縄県を除く国内で行なう昭和四八年度上期六か月
分の一般内需用輸入原油の処理総量が八七四三万五千キロリツトルであり、これが
前記記載のように五グループ九社に配分されていたことがあることは認めるが、右
の原油の処理総量及び配分をきめた主体及び時期に関する公訴事実記載の事実は否
認する。
 右のように原油の処理総量をきめ、これを各社に配分するということは、いわゆ
る「操短」の類と全くその根拠を異にする。即ち、石油業法下にあつては、原油処
理総量の決定とその配分は必要不可欠かつ必然的なものであり、それはまさに石油
業法とともに始まり、官民双方の協力のもと、石油業法の運用ないしその執行とし
てA連盟の非加盟会社の処理分も含めて行なわれてきたものである。
 そこで、公訴事実及びこれと関連する事実について審理した結果、当裁判所が認
定した事実を次に掲げる。
 ただし、被告人A2及び同A3の違法性の意識の点は、後記第八において判断す
るので、この事実認定ではこれに触れない。
 第二節 各被告人について
 一、 被告人A連盟
 被告人A連盟は、石油業の健全な発達を図ることを目的として昭和三〇年一一月
一日設立された法人でたい団体であつて、事務所を東京都千代田区a町b丁目c番
d号eビル内に置き、原油の精製施設を有して石油精製業を営み又は全国的に一般
石油製品の元売業を営む石油業者を会員とし、これによつて組織されている。同連
盟は、会員会社相互の連絡、融和及び親睦、石油に関する知識の啓発及び普及宣
伝、石油業に関する意見の発表及び建議並びに内外石油事情の調査研究及び統計に
関する事項その他同連盟の目的を達成するために必要な事項の業務を行ない、営利
事業を行なわないものとされている。したがつて、同連盟は、事業者としての共通
の利益を増進することを主たる目的とする二以上の事業者の結合体で、独占禁止法
にいう事業者団体であり、同月二六日公正取引委員会に同法八条二項による成立の
届出をしている。
 本件各行為当時、即ち昭和四七年一〇月ないし昭和四八年四月におけるA連盟の
会員は三一会社で、そのうち左記の二四会社が石油精製業者(うち○印を付けた八
会社は石油製品元売兼業者)であつた。(かっこ内はこの判決で用いる略称であ
る。)
 ○A22株式会社(A22)
  A30株式会社(A30)
  A9株式会社(A9)
 ○A6株式会社(A6)
  A7株式会社(A7)
  A26株式会社(A26)
  A21株式会社(A21)
  A27株式会社(A27)
  A10株式会社
  A15株式会社
  A11株式会社
 ○A24株式会社(A24)
 ○A23株式会社(A23)
 ○A14株式会社(A14)
  A12株式会社
  A8株式会社
  A13株式会社
  A28株式会社(A28)
 ○A29株式会社(A29)
 ○A20株式会社(A20)
  A17株式会社(A17)
 ○A16株式会社(A16)
  A18株式会社
  A25株式会社(A25)
 A連盟の組織機構は、「A連盟定款」並びに昭和四一年七月二一日に制定された
「A連盟の機構改正に伴う運営方針」その他同連盟の諸規定によつて定められてい
る。それらにより、役員として会長、副会長、理事、専務理事及び監事が置かれ
(定款八条、一〇条、一二条)、会議として総会、理事会、政策委員会及び各種の
委員会が設けられ(定款一六条、運営方針第二3(6)(7))、また定款には規
定がないが、常務会が設けられている(運営方針第二3(5))。理事は、総会に
おいて会員各社の代表者各一名及び会員会社外から若干名を選任するが、会員会社
外から選任された理事は議決に加わらないものとされている。会長は、理事会にお
いて選任され、A連盟を代表し、定款の定める事項を掌るほか、A連盟の業務を総
理する旨定められている(定款八条、一〇条、一一条、二五条、「役員、委員の選
任方法および員数について」1)。常設の委員会は、A連盟の業務の特定の事項に
つき審議し、常務会に上申するものとされ(定款二六条運営方針第二3(7))、
常設委員会として本件各行為当時、技術、財務、需給、営業、広報、運輸、硫黄、
石油税制対策、環境、原油の各委員会が置かれていた。C1委員会は、長期及び短
期の需給計画に関する事項並びに原油及び石油製品の輸入に関する事項の業務を取
り扱うものとされ(「委員会について」I3)、同委員会の委員には会員各社から
正副委員が各一名あたるが、委員会には正委員が出席することが原則とされていた
(「役員、委員の選任方法および員数について」6ハ)。委員長は会長が委嘱し、
副委員長は委員が互選する(同5)。委員会の下に必要に応じ常務会の承認を得て
専門委員会を置くことができるものとされている(運営方針第二3(9))。
 A連盟の事務を処理するため事務局が置かれており、事務局は総務部、調査部、
財務部、業務部、技術環境部及び広報室に分かれていた。C1委員会の取り扱う事
項に関する事務は、当初業務部需給課が担当していたが、昭和四八年八月需給部が
設けられ、同部の担当となつた。
 二、 被告人A2
 被告人A2は、昭和六年A6に入社し、昭和四五年五月同社代表取締役社長とな
り、昭和五三年六月同社会長となり、また右社長であつた期間A7の代表取締役
(昭和四六年五月までは同社社長)であつた者であるが、その間昭和四六年五月二
一日から昭和四八年五月二五日までA連盟の会長であつた。
 三、 被告人A3
 被告人A3は、昭和一二年四月A14に入社し、昭和四三年五月同社専務取締役
となり、昭和五二年六月同社取締役を退任し、同社顧問となつた者であるが、その
間昭和四四年六月一〇日から昭和四八年六月二八日までA連盟C1委員会委員長
(C1委員長)であつた。
 第三節 背景事実
 本節では、概ね本件各行為当時の情況について述べる。
 一、 通産省の石油需給調整に関する行政
 1. 通産省の任務及び権限
 通商産業省は、同省設置法により、石油(原油及び石油製品)の生産、流通及び
消費の増進、改善及び調整に関する国の行政事務を行なう任務を負い(当時の同法
三条二号)、この行政事務は主として石油業法に従つて行われる。通商産業大臣
は、右の任務を遂行するため、石油精製業及びその特定設備を許可する権限を有す
る(同省設置法四条一項三九号の二、石油業法四条、七条)。
 本件各行為当時、右の行政事務は、同省鉱山石炭局が分掌していた。同局には石
炭部を除き六課が置かれていたが、そのうち右の行政事務を担当するのは石油計画
課及び石油業務課であつて、石油計画課においては、石油及び石油製品に関する政
策及び計画を立案すること、石油製品の販売価格の標準額に関すること、石油業法
の施行に関する事務を総括すること、石油製品に係る事業の資金に関すること、C
2審議会に関することその他の事務を、石油業務課においては、石油精製業に関す
る許可及び認可に関すること、石油及び石油製品の需給の調整に関すること、石油
製品の生産技術及び生産施設に関すること、液化石油ガスの取引の適正化に関する
ことその他液化石油ガスの流通に関すること、潤滑油の流通に関することの事務を
つかさどる旨定められていた(当時の同省設置法一三条、通商産業省組織令八二
条、八六条、八六条の二)。同局には局長の下に石油関係行政を統括する参事官が
置かれていた。
 昭和四八年七月二五日通産省の外局として資源エネルギー庁が設置され、右石油
計画課、石油業務課の所掌事務は、概ね同庁石油部計画課、同部精製流通課がそれ
ぞれ引き継いだ。
 2 石油業法による石油の需給調整
 石油業法は、石油精製業等の事業活動を調整することによつて、石油の安定的か
つ低廉な供給の確保を図り、もつて国民経済の発展と国民生活の向上に資すること
を目的とし(一条)、石油の需給調整を図る手段として、石油供給計画(三条)、
石油精製業の許可(四条)、特定設備の新増設等の許可(七条)、石油製品生産計
画の届出、同計画の変更の勧告(一〇条)、石油輸入業の届出、石油輸入計画の届
出、同計画の変更の勧告(一二条)、事業者の報告の徴収(二一条)等に関する規
定を設けている。
 石油供給計画は、通産大臣が毎年度当該年度以降の五年間について、需給事情そ
の他の経済事情を勘案して定めるもので、わが国全体の原油及び石油製品の生産数
量及び輸入数量、特定設備の処理能力等を内容とし、同大臣がC2審議会に諮問し
た上(石油業法一七条)、毎年度開始前に(同法施行規則四条)告示することにな
つており、通産省の設備新増設の許可、石油製品輸入の割当等の行政の基準となる
とともに、石油業者がこれを事業活動の指針とすることが法律上期待されているも
のである。石油精製業者は、供給計画告示後一か月以内に(同法施行規則一〇条)
石油製品生産計画を通産大臣に届け出ることを義務づけられているが、右計画の作
成については、供給計画の示す当該年度の生産数量が指針となるのである。そし
て、通産省が届出を受けた石油製品生産計画を調査して、右生産計画に従つて生産
が行なわれるときは、需給事情その他の事情により供給計画の実施に重大な支障が
生じ、又は生ずるおそれがあると認めるときは、通産大臣は、C2審議会に諮問し
た上(同法一七条)、石油精製業者に対し生産計画を変更すべきことを勧告するこ
とができることとされている(同法一〇条)。
 3 需給計画及び生産計画
 石油供給計画は、石油需給計画に基づいて策定される。(法律上の供給計画にそ
の基礎となる需給計画を併せて供給計画と呼ぶこともある。)需給計画の主要な基
礎となるのは、需要見通しである。通産省は、毎年一、二月A連盟のC3委員会に
協力を求めて需要予測作業を行ない、その結果を需給計画の資料とするのを例とし
ている。
 国内需要の見通しに輸出計画量及び期末在庫計画量を加え、期初在庫量を減じた
ものが必要供給量(生産量と輸入量との和)であり、需給計画は、各製品の必要生
産量及び必要輸入量並びに原油処理量を定め、需給の均衡をはかるものである。通
産省は、ガソリン(揮発油)及びナフサ(輸入計画量を除く。)の必要生産量に基
づき、その合計得率(昭和四七年度供給計画では二三・〇、昭和四八年度供給計画
では二三・一)を用いて原油処理量をきめ、これから燃料油合計生産量をその得率
(右各供給計画では九二・〇)を用いて算出していた。ただし、ナフサの輸入量を
加減することによつて右の原油処理数量を加減し、必要な中間留分(灯油、軽油、
E重油)が生産されるようにして、不足するE重油及びF重油は輸入を認めること
にしていた。
 石油製品生産計画は所定の様式によつて届け出ることとされているが、その様式
によると、燃料油の油種は揮発油(航空機揮発油、自動車揮発油高級、同なみ級、
その他)、ナフサ(石油化学用、その他用)、ジエツト燃料油、灯油、軽油、重油
(E重油、G重油、F重油)に区別され(かつこ内は細分)、燃料油以外の製品
(副製品)は石油ガスだけ記載するようになつている。以上の製品別に期初在庫、
生産、出荷、期末在庫の各数量を記載し、更に生産計画内訳として生産量を内需向
け、輸出向けに分け、それぞれについて自社分と受託分(他業者から委託を受けて
生産する分)とに区別して記載する。このほか原油需給計画を作成する。これらの
表を製油所別及び合計並びに上期(四月―九月)、下期(一〇月―三月)及び年度
間のそれぞれについて作成し、届け出ることとされている。
 生産計画は前述のとおり毎年度一回届け出ることとされているが、通産省は毎年
度下期を迎えるにあたり需要見直し、下期輸入計画の策定等を行ない、下期の需給
計画を作成するのが通例で(いわゆる供給計画の見直し)、これに伴つて精製業者
にあらたに生産計画を作成させ、生産計画変更の届出をさせていた。また、需要動
向に著しい変動が生じたときは、期中に需要見直しを行なうことがあつた。
 二、 石油業界における競争
 1 石油製品の市場
 A連盟の会員のうち石油精製業を営む前記二四会社は、沖縄県を除くわが国にお
ける石油精製業者の大部分を占めており、本件各行為当時非会員である石油精製業
者としては、A4グループ(五節一2)に属するA5株式会社、H1株式会社f火
力発電所へのF重油の供給を主とするA31株式会社(A31)、潤滑油の製造を
主とするA32株式会社(A32)及び国産原油のみを処理するA33があるだけ
であつた。前記二四の会員会社にA5を加えた二五会社の原油精製設備能力(常圧
蒸留装置の設計能力)の合計及び原油処理実績の合計は、いずれも沖縄県を除くわ
が国におけるそれらの全体の九七パーセント余りを占めていた。
 石油製品は、原油を精製して製造される連産品であり、その種類は数多く、その
種別に従つて用途、需要先、販売形態も多様である。そのうちの主要な製品である
燃料油の種類は前記生産計画の様式に定められているとおりであるが、法律によ
り、また商品として更に細分される場合もある。副製品としては、液化石油ガス、
各種の潤滑油、グリース、パラフィン、アスファルト、硫黄などがある。
 しかし、沖縄県を除くわが国で販売される石油製品、特に燃料油の大部分は、そ
の源においてわが国の石油元売業者が販売している。例外としては、精製業者が直
接他産業に石油製品を供給するコンビナートの場合などがある。元売業者としては
一四の会社があり、いずれもA連盟の会員で、そのうち八社は前記のとおり精製業
を兼ねている。精製専業者は特定の元売業者と提携し、それに製品を売り渡すのを
原則としている。たとえば、A27は、自社の製品全量をA34株式会社及びA3
5株式会社にほぼ半分ずつ売り渡している。元売業者のこのような地位については
法令に根拠はないが、通産省の行政指導もあつて、右のような業界体制が形成され
ているのである。
 元売業者は、通常その特約店を通じ、更に系列化の販売店等を通じて石油製品を
販売し、また大口需要家に直接これを販売する。その他、全国C4協同組合連合
会、全国C5協同組合連合会等に販売し、また商社に販売する場合もある。各元売
業者が販売する製品の種類、品質はほとんど同一であり、販売地域については制限
がなく、各元売業者ともほぼ全国的に販売している。したがつて、沖縄県を除く国
内のほとんどすべての需要者(販売業者を含む。)に対し二以上の元売業者が直接
に又は特約店を通じて同種の石油製品を供給することができる状態にあるので、元
売業者間には常に販売競争の可能性があり、各元売業者はより多く販売し、販路を
拡げ、収益を増大させようと努力している。したがつて、その競争の行なわれる市
場が形成されている。石油製品の市場は、製品の種類ごと又は需要者の種類ごと
に、また取引段階ごとにも大小の地域別にも存在するが、右のような流通機構の性
格上、沖縄県を除く国内の元売業者間の競争が行なわれる全体としての石油製品市
場もまた存在し、これをひとつの取引分野として把握することができる。
 2 通産省による競争の制限
 石油業界における精製設備建設並びに生産及び販売の競争は、石油業法による規
制及び通産省の行なう行政指導によつて、多くの面で制限されている。
 即ち、石油精製業を行ない、特定設備を新設、増設又は改造するには、いずれも
通産大臣の許可を要し、その許可については法定の許可基準があり、また許可には
条件を付することができる(業法四条、六条、七条、二〇条)。これらの規定によ
つて石油精製業の新規参入は厳しく制限され、精製業者の特定設備(常圧及び減圧
蒸留装置、石油改質装置、石油分解装置)は量的、質的に制限されている。
 また、通産省は、石油業者に対し、右の規定の運用として、又は右の権限を背景
として、次のような行政指導を行なつている。
 イ、 設備新設の際の特定元売業者との販売提携の指導
 ロ、 海外開発原油引取り量の割当、国産原油の引取り指示
 ハ、 自主選択権を拡大する原油購入計画の指導
 ニ、 ガソリンの生産設備規制(例えばA32、A31、A33にはガソリン生
産のための設備を認めていない。)
 ホ、 新増設設備の稼働制限及び稼働繰延べ(後述四節五7)
 へ、 石油製品輸入量の制限及び割当(重油は関税定率法による割当により、ナ
フサは行政指導による。)
 ト、 製油用重油の輸入制限
 チ、 輸入業者新規参入の制限
 リ、 沖縄県からの製品持込みの制限(後述四節五6)
 ヌ、 給油所設置の制限及び割当
 これらのほか、通産省は、前述の石油供給計画制度により需給調整を行なつてい
るが、その需給調整についても通産省は、後に述べるとおり前記の権限及び勧告制
度を背景として、生産活動を監視し、その時々の需給事情に応じ種々の方法による
行政指導を行なつている。
 したがつて、石油業界における競争は、これらの法的規制及び行政指導による制
限の枠内で行なわれているのである。
 第四節 石油業法下における生産調整の推移
 一、 石油業法の制定
 石油業法は昭和三七年五月一一日に公布され、同年七月一〇日から施行された
が、同法制定の契機となつたのは、同年一〇月から実施されることとなつた原油輸
入の自由化であつた。その当時まで、通産省による石油業の規制は、主として外貨
の割当制度を手段として行なわれてきた。即ち、通産省は、原油及び石油製品の輸
入に必要な外貨資金を業者に割り当てることによつて石油の需給調整を行なつてい
た。更に国内精製主義の推進、過剰設備投資の抑制、海外開発原油の引取り確保な
どの政策にもこの制度を利用してきた。ところが、政府の貿易自由化促進政策の一
環として、昭和三六年九月には昭和三七年一〇月から石油の輸入を自由化する方針
が決定されるに至つた。(その後、燃料油の輸入自由化は当分見送られることにな
つた。)そこで政府は、外貨割当制度に代り石油業の事業活動の調整を可能とする
何らかの立法の必要に迫られ、石油業法を立案することになつた。
 石油業法の立案に当つては、統制法的な色彩を避け、事業者の自主性を尊重しな
がらも、石油業を一定の程度国の政策の支配下に置くことが考慮された。当時わが
国では、石油の需要が急速に増大すると同時に、精製設備の増加もめざましく、原
油輸入の自由化を見越しての設備新増設も見られた。一方、海外では新油田の開発
などにより世界的な原油の供給過剰傾向が生じ、わが国に対する原油の売り込み競
争も盛んであつた。したがつて、原油の輸入が自由化されたときは、わが国におけ
る石油の精製設備及び生産、販売の過当競争が激化し、需給の混乱、特に生産過剰
に起因する乱売が生ずるおそれがあつたため、政府は設備建設の規制や石油製品の
供給量の調整を必要と考えた。また、原油輸入自由化の結果、長期的には大企業に
よる資本の集中が行なわれ、外国資本系の石油企業が一層強大となつて市場を支配
し、原油購入の自主性も失われることを懸念して、政府は、石油業法を利用してい
わゆる民族資本系企業を育成強化し、石油業を国が相当程度管理できるようにする
意図をもつていた。
 このような事情から、通産省は、「C6」を設けて石油政策の検討を求め、また
A連盟をはじめ関係各界の意見を求めてこれを参考とした上、一部大手石油業者に
反対はあつたものの、石油業法案を作成し、同法案は昭和三七年五月四日第四〇回
国会において可決成立した。
 石油業法の前述のような規定は、当然独占禁止法ないし独占禁止政策との関係に
ついて疑問を生ずるものであつた。しかし、同法の立案過程で、通産省と公正取引
委員会との間の法令調整は、昭和三七年一、二月ごろ事務当局段階で比較的簡単に
行なわれたにすぎなかつた。公正取引委員会は、同法案について、事業の許可制等
が自由競争の基盤たる自由企業体制に与える影響、販売価格の標準額の決定が競争
価格に及ぼす影響等について独占禁止政策上問題があると考えたが、石油業界の実
情から見てやむを得ないものと判断し、通産省又は国会に対し特に意見を述べなか
つた。
 二、 供給計画実施に関する通産省の方針
 石油供給計画の意義については前に述べたが、それは通産省が望ましいと考える
わが国全体の計画数量を示すだけであつて、個々の石油精製業者に対して生産数量
を指示するものではない。したがつて、石油業法制定当時におけるわが国の精製業
者の設備能力、競争志向などから見て、各精製業者が自由に生産計画を立てるなら
ば全精製業者の計画数量の合計が供給計画の数量を超過することが容易に予想され
た。このような事態に備えて生産計画の変更勧告の制度が設けられているのである
が、これも「勧告」にとどまるから、その内容を法律上強制する途はない。また、
この勧告には法律上要件と手続とが定められており、それの及ぼす影響も大きいと
考えられるから、安易に行なうことができるものではない。通産省は、始めから勧
告権は伝家の宝刀として軽々しく発動しないという方針をとつており、今日まで一
度も発動されたことがない。
 しかし、石油業法制定にあたり通産省は、その行政目的を達成するため生産計画
の合計を供給計画と一致させる必要があると考え、これを一致させる方策として業
界における自主的な話し合いによる生産量の調整を期待し、業界ないしA連盟に対
しそのように行政指導を行なう考えであつた。このことは、当時の通産省担当官の
次のような発言等にも現われている。
 石油業法案を審議した第四〇回国会衆議院商工委員会において、通産省鉱山局長
D2は、昭和三七年三月二三日D3委員の質問に対し「勧告をする前に自主的な話
し合いはどうかということでございますけれども、これは極力精製企業の自主性を
尊重したいという精神でこの業法を運用したいと考えております。従つて勧告は特
別の場合ということになるかと存じます。」と、また同年四月一〇日D4委員の質
問に対し「生産割当をしていくというような考えは持つていないわけでございま
す。企業の立場から見れば、政府がそういう見通しを持つておる、それに対してど
のくらい協力するかどうかという点は、これはまた別問題と申しますか、行政指導
の問題にもなるかと思いますが、政府としては、なるべくその点は業界ともよく話
し合いをした上で、その見通しを立てたいと思います。」と答弁した。通産大臣D
5は、同日同委員会において、同委員の「勧告に応じないでみな競争を続けていつ
た場合にはどういう措置を考えているのか」という趣旨の質問に対し「勧告が適正
に行なわれる場合には、必ず業界も納得してこれを聞くと思います。」「いわゆる
自主的な話し合い、これがまず第一でございましようが、その自主的な話し合いが
つかないものについて、政府は行政指導的な立場において協力を求める、こういう
実は考え方でございます。」と、またD6委員の質問に対し「まず業界の自主的な
調整あるいは自主的な協力、これを第一段階としては強く要望し、これによつて目
的を達すればもうそれでけつこうだ、かように実は考えておる次第でございま
す。」と答弁した。
 石油業法の施行に際し通産省鉱山局長は、A連盟にあてて「本法の適切な運用が
行われるためには、石油業界における自主的協力の果たす役割が極めて大きいこと
は言をまたないところである。貴連盟におかれては、この趣旨を十分に御了解のう
え、貴連盟傘下の各事業者にもこの趣旨を完全に徹底方図られるようお願いす
る。」旨を同年七月一二日付文書で要請した。
 しかし、以下に述べるように、実際には、業界の「自主的な話し合い」による
「自主的協力」を得るためには通産省の強力な指導ないし直接的介入が必要であつ
た。これらの行政指導は、通産省が背後に設備許可や生産計画変更勧告の機能を持
つていることによつて有効に機能した。
 三、 石油業法施行後昭和四一年度上期まで
 1. 昭和三七年七―九月
 昭和三七年七月一〇日の石油業法施行後も、同年九月末までは原油輸入資金の外
貨割当制度が存続していた。しかし、同年六月に石油精製業各社が通産省(鉱山
局)に提出した七―九月分の生産計画によると、原油処理量が通産省の需給計画を
大幅に上回つた。そこで通産省は、石油製品の供給過剰を防止するため輸入原油の
処理量を制限することとし、その算定方式についてA連盟に検討させた上、同年七
月三〇日各社の七―九月の輸入原油指示処理量の算定基準を指示した。これによる
と、各社合計の原油処理可能量は生産計画と対比して五・四パーセントの削減とな
つた。このように個々の精製業者の原油処理量ないし生産量を一定の基準に基づい
て制限することを通産省及び業界では「生産調整」と呼んでいた。
 2. 昭和三七年度下期
 石油業法に基づく最初の石油供給計画は、昭和三七年七月二五日に告示された。
通産省は、精製業者が同法による生産計画(業法計画と呼ばれることもある。)の
届出をする前に、業界の動向を打診するため、各業者からA連盟に昭和三七年度下
期の計画案を提出させたところ、その計画の合計は原油処理量において供給計画を
二五パーセントも上回るものとなつた。これは、水増し計画が含まれていたことに
もよるが、この状態を放置すると、過剰生産の結果過当販売競争による市況の混乱
が生ずるおそれのあることを示していた。通産省はC2審議会に諮つた上、A連盟
に生産調整を依頼したが調整の基準について業者間に意見の対立があり、容易にま
とまらなかつた。そこで通産省は、行政指導による自主調整という方法をとり、A
連盟の了解を得て一定の基準を示し、これに基づいて生産調整を行なわせることに
した。この通産省の行政指導により、A連盟は同年一〇月二日昭和三七年度下期の
生産調整を決定した。その生産調整は、供給計画を基礎とし、内需用輸入原油、即
ち原油総処理量から国産原油処理量のほか輸出用原油処理量(燃料油輸出計画量を
〇・九五で除した量)を控除したものを対象とするものであつた。これを精製業を
営む各会社又は関連会社のグループに配分したが、その配分の基準は、各社又はグ
ループの全体の中で占める燃料油販売実績比率、輸入原油内需用処理実績比率、当
期加重平均設備能力比率をそれぞれ三分の一ずつ取つて合成した比率(いわゆる三
本柱)を基本とするものであつた。各精製業者は、配分された処理量に基づいて生
産計画を作成し、届け出た。
 このような生産調整の方式は、その後本件各行為に至るまで、基本的には踏襲さ
れて行つた。
 昭和三七年一一月一〇日、低迷していた石油製品の市況を改善するため、通産省
は自動車用揮発油及びF重油の標準価格(業法一五条)を告示した。
 また、石油化学原料用ナフサ等の需要が増加したため、昭和三八年一月二二日通
産省の需給計画が改定され、原油処理枠が六パーセント増加したので、この増加分
も追加配分された。
 3. 昭和三八年度上期
 昭和三八年度上期にも、通産省の行政指導によりA連盟が生産調整を行なつた。
この期には、ガソリンの生産に多く向けられ易いナフサの供給を石油化学原料用に
低価格で確保することが重要な課題となり、A連盟は、通産省の行政指導によつて
C2審議会会長D7のあつせん案に従い、石油化学用にナフサを供給する会社に対
し、前年同期に対するナフサ供給増加分と同量の原油を特別対策分として外枠で配
分し、その合計量を一般の配分対象となる内需用処理量から控除した。配分量は、
前期の最終的配分量に一定の延び率を乗じてきめた。また、前期に配分量を超えて
処理を行なつた会社は、今期の配分量からその超過分を差し引くものとされた。
 4. A22脱退問題
 昭和三八年度下期にあたり、以前から生産調整に不満をもつていたA22及びA
23はこれを行なうことに反対したが、通産省の強い指導によりA連盟は昭和三八
年一〇月四日生産調整を決定した。その内容は、前期配分量に当期処理量増加分を
三本柱の比率で配分した数量を加算するというもので、当年度における新増設能力
は極めて僅かしか評価されていなかつた。なお、石油化学用ナフサ生産量と同量の
原油処理量が全部配分の外枠とされることになつた。
 A22は、昭和三八年中にg製油所が稼働を開始し、一日一〇万バーレルの精製
設備能力(常圧蒸留装置の一日当り設計能力BPSDで示す。以下同じ。一バーレ
ルは約一五八・九三リツトル)が増加したのに、その設備を十分稼働させることが
できないことを不満として、生産調整に従わず、独自の計画を立ててこれによる原
油処理を進め、A連盟の説得にも応ぜず、同年一一月一二日にはA連盟に脱会届を
提出するに至つた。通産省当局者及びC2審議会会長もA22に対し繰返し生産調
整に協力するよう説得したが、A22はこれに従わず、昭和三九年一月九日開かれ
た第一三回C2審議会の議に基づく同会会長のあつせんも不調に終つたが、通産省
が石油業法による勧告を行なう方針を示したためようやくA22も歩みより、同年
一月二五日通産大臣D8、C2審議会会長D7、A22社長D9の三者会談におい
て、将来過剰設備能力をなくするよう改善し、その時には生産調整は廃止する、昭
和三九年一―九月の生産調整は新基準によつて行なう(A22は増枠になる。)な
ど、ある程度A22の主張をとり入れたあつせん案を同社は受諾し、生産調整を厳
守することを約束した。ただし、同社は昭和四一年九月までA連盟に復帰しなかつ
た。A22は、この事件に関して、後に昭和四一年度の通産省の設備許可に際し制
裁的な意味合いの不利益な取扱いを受けた。
 これより先、昭和三八年七月八日開かれた第一一回C2審議会において、通産省
鉱山局長は、「昨年一〇月の原油自由化までは外貨割当の操作により需給調整を行
なつてきたが、自由化後は石油業法の下においていかにして需給調整を行なうかが
新たな課題となつている。その際、我々としては、業界の自主調整が最も妥当であ
ると考えている。石油業界でもこの線に沿いA連盟を中心にして生産調整の相談を
進めてきた。」「A22だけは、あくまでも販売実績でやるべきであるという立場
をとり、独自の案で生産計画を出して来ている。」「今はまだその段階には至つて
いないが、勧告をせざるをえないような事態があるいは起きるかもしれない。」と
述べた。また、同年一二月一七日開かれた第四五回国会衆議院商工委員会石油及び
天然ガスに関する小委員会で、通産省鉱山局長D10は、「国内での石油全体の供
給量はぴつたりと供給計画に合わせることが必要ではなかろうかということでござ
いまして、A連盟を場にいたしまして全体の生産計画を供給計画に合わせてほし
い、しかも、そのトータルを個々の精製業者に対してどういうふうに配分するかと
いうことにつきましては、ひとつ連盟の自主的な話し合いで基準を立ててやつてほ
しいということになつておるわけでございますが、この基準につきまして、連盟の
メンバーの中でそれぞれ意見の食い違いがあるわけでございます。」「最近新しい
設備の稼働が始まりました一、二社について相当文句が出ておるわけでございま
す。現在は一社でございますが、この基準について非常な御不満がございまして、
最近連盟を脱退するというふうなあまり好ましくない事態になつておりまして、私
ども非常に遺憾に存じておるわけでございます。」と述べた。
 昭和三九年一月九日の前記第一三回C2審議会において、D7会長は、「業界内
部の自主調整をというのが大方針であり、これが最もスムースな方法であるが、A
22がこれを脱退したので我々としては遺憾に考えている。D9氏の議論を伺つて
いると、生産調整不要論というような方向の議論もあり、そうなると相当根本的な
問題となつてくるが、現在の法律のある建前からいかがなものかと考えてよかろ
う。新設備が完成し、能力が急増した場合、この能力を既存のものと同様に扱い一
〇〇パーセント利かして配分の計算を行なうということについてはいかがなもので
あろうか。ややならして考慮してゆくべきではないかということも考えられる。」
と述べ、D11委員は、「石油の場合は鉄とは事情が異なり、石油業法があり、石
油供給計画の決定、生産計画の届出、供給計画実施のための勧告等法的な裏付けが
ある。その場合各社の生産計画をどう決めるかという点で自主調整という問題が出
てきているのであり、これは独禁法違反でもないし、生産調整が不必要だというこ
とにもならない。」と発言した。
 5. 通産省による生産調整
 A22脱退問題が妥結したので、A連盟の生産調整は昭和三八年一二月で打ち切
られ、以後通産省が新たな基準によつて直接生産調整を行なうことになり、同省は
昭和三九年一月二五日同年一―九月の生産調整の基準及び配分量を指示し、C2審
議会もこれを了承した。配分の対象は、従来どおり内需用輸入原油処理量から石油
化学用ナフサ生産量と同量の原油処理量を差し引いた処理量で、これは一般内需用
輸入原油処理量と呼ばれた。配分比率は従来どおり三本柱であつたが、そのうちの
設備能力比率は、昭和三九年一―九月「調整平均能力比率」が用いられ、石油業法
施行後の新増設設備の能力を稼働第一期目に五〇パーセント評価し、以後段階的に
その率を高めて行くこととされた。
 昭和三九年二月一四日A22問題などを審議した第四六回国会衆議院商工委員会
において、通産省鉱山局長D10は、石油業法の下で従前行なわれてきた生産調整
について「生産調整とはいいますが、私どもからいわせれば、これは供給計画に各
社の生産をトータルして合わせていただく、そういう計画生産的な考え方で各社の
原油処理をやつていただくということで、自主調整とはいつておりますが、実は相
当役所が中に介入をいたしまして、またその全体の枠の配分につきましても、ある
程度役所のほうからの意見も申し上げまして、いままでずつとやつてきたというの
が実態であるわけでございます。これは法律にはその規定がなくて、全く御指摘の
ように行政指導ということでやつておるわけでございますが、実はそういういきさ
つでやつてまいつておりますので、決して一般から誤解されるような、役所とは別
に、石油精製業者だけの場で、自分たちの利益を中心にして生産の調整をやつてい
るという性格のものではないということをひとつ御了承願いたいと思います。」と
述べた。
 業界は通産省の生産調整の下で自粛生産に努めたが、市況は悪化の一途をたどつ
た。通産大臣D8は、この事態にかんがみ、昭和三九年四月一日「最も遺憾なこと
は、例えば行政指導の下に石油業法運用の一環として行なつている生産調整につい
ても、各社間のかけひきや思惑が多く、石油業界全体の安定を希求する協力的態度
に乏しいことである。これが生産調整の遅延、違反を生じたり、あるいは所期の効
果を失わせたりしているものと考えられるので、この際業界各社におかれては、心
機一転、一致協力して過度のシエア意識に基づく過当競争を排除し、生産調整と標
準価格を遵守して、石油業の果すべき社会的責任の遂行に万全を期すべく決意を新
たにされるよう強く要望する。」旨の談話を発表した。
 昭和三九年度下期にも、通産省はC2審議会の了承を得て概ね前期と同様の方式
による生産調整を指示した。これは年度当初の供給計画を基礎とするものであつた
が、下期に入るとガソリンの需要の伸びの鈍化及びF重油の需要の大幅な増加傾向
が顕著となつた。そこで通産省は、C2審議会に諮つて昭和三九年一二月一八日供
給計画中昭和三九年度分の変更を告示した。その内容は、一般内需用輸入原油処理
量を五・八パーセント削減した上、ガソリンの生産量を減らし、F重油の輸入量を
増加するなどしたものだつた。これに伴い生産調整のための配分量も修正され、昭
和四〇年一―三月の各社の生産計画は生産の減少となり、需給は次第に正常化し
た。
 通産省による生産調整は、その後昭和四一年度上期に至るまで毎期ほぼ同様の方
式で行なわれた。昭和四一年度上期には、昭和四一年三月二四日のC2審議会の決
定により同審議会名義でこれが行なわれた。
 四、 昭和四一年度下期から昭和四三年度上期まで
 1. 生産調整の廃止
 昭和四一年になると、精製設備の稼働率がかなり向上し、石油製品の市況も回復
してきた。同年二月一五日には標準価格が廃止された。このころから、物価問題に
関する世論の高まりや鉄鋼業界に対する勧告操短の廃止に見られるような自由化の
情勢などを背景として、石油行政も生産調整について検討を迫られるようになつ
た。同年五月通産大臣D12は、事務当局に生産調整撤廃の時期を検討するよう指
示した。業界では、A22がかねてから生産調整の廃止を主張していたほか、A6
のような大手業者は概して廃止に賛成であつたが、反対意見もかなり強かつた。し
かし、通産大臣は生産調整の廃止をC2審議会の審議にかけるよう指示し、同年九
月二日同大臣及び通産省鉱山局長D13がこれに関する発言を行なつた。通産省
は、同月一六日C2審議会の了承を経て同年一〇月から生産調整を撤廃する旨を決
定した。これによつてA22はA連盟に復帰した。
 右鉱山局長の発言要旨は、次のとおりである。
 「一、昭和四一年度下期の生産調整については、昨年来石油製品価格動向も一応
安定しており、各社の経理状況もおおむね改善されつつある現状よりみて、生産調
整は、この際打ち切ることとしたい。
 二、 したがつて、下期からは各社が自主的判断に基づいて生産計画をたて、生
産を行なうことになるが、いたずらにシエア拡大のための増産競争を行ない市況混
乱をまねかないように、厳に慎しまれたい。
 三、 通産省としては、エネルギーの大宗をしめる石油製品の安定供給確保の見
地から、各社の生産計画が供給計画と著しく異なり供給計画の遂行上重大な支障が
あると考えられるときは、石油業法上の必要な措置をとることも当然ながら考えて
いる。
 しかし、こういうことにならぬよう業界としては、エネルギー供給者としての社
会責任を十分自覚して行動して欲しい。
 四 特に指導的立場にある大手メーカーは、この際大乗的見地にたつて、あらゆ
る面での協力を中小メーカーにすることを期待する。
 五、 なお、生産調整の廃止に当つて、規律ある生産を実現するため、
 (1) 石油業法上の設備許可の現行基準は、別途C2審議会に諮り、所要の修
正を加えること、また、既許可済設備の繰上げ稼働は認めないこと。
 (2) 地下カルテル的行為は認められないこと。
 (3) 各社の生産実績を徴収することにより、供給計画遂行のウオツチ体制を
とること。
 等を通産省としては考えていることを申し伝える。」
 また、前記通産大臣談話中には「かりに、各社がシエア拡大のための増産競争を
行ない、これにより三八年当時のような乱売事態がおこれば、石油業法上の措置も
当然考えなければならなくなる。しかし、業界もエネルギーの大宗をしめる石油の
供給者としての責任を十分自覚し、そういうことにはならないことを期待してい
る。」と述べられていた。
 右各発言自体からも明らかなように、通産省は、生産調整撤廃を決定したのであ
るが、この措置によつて事業者の自由な判断に基づく生産活動と自由な競争を促進
することを意図したのではなく、これまでと同様に、増産競争によつて市況の混乱
を招くことがないように「規律ある生産」が行なわれることを期待し、業界の社会
的責任に訴え、また事業者に対する生産動向の監視を強めることによつてこのこと
を実現しようと考えたのである。そこで通産省は、石油業法二一条により、各精製
業者から製油所別の原油処理、生産実績等を毎月報告させることとし、また従前か
らあつた生産調整委員会を改組し、実務者をその構成員として生産動向の早期把握
に努めることにした。しかし、それだけで「規律ある生産」を実現することはでき
なかつた。
 2. 昭和四一年度下期
 通産省は、昭和四一年九月、精製業各社が昭和四一年度下期の生産計画変更届を
提出する前に、各社から予備的に計画案を提出させたところ、その計画生産量の合
計が供給計画の数量を約一〇パーセント超過していた。そこで同省鉱山局石油計画
課長D14は、A連盟会長のA20社長D15及びA連盟C1委員長のA23常務
取締役D16に対し、各社の生産計画の合計が供給計画に合うように各社を説得し
てまとめてもらいたい旨依頼した。その結果、A20常務取締役D17、同社輸入
課長B9及び右D16は、従前の三本柱の基準を基本として各社又はグループに対
する原油処理量の配分量を定め、これに従つた生産計画を提出するように、手分け
して各社を回つて依頼した。通産省の生産調整廃止決定直後だつたため、各社はな
かなかこの依頼に応じなかつたが、同人らは通産省の依頼である旨を告げて説得
し、結局各社は同年一〇月にはいつてから、通産省の満足するような生産計画変更
届を提出した。
 3. 昭和四二年度上期から昭和四三年度上期まで
 昭和四二年度上期には、通産省の指示により業法計画提出前にA連盟が各社から
生産計画(業法に基づくものでないA連盟あての計画)を提出させた。これを集計
した結果は供給計画を僅かに上回るだけだつたので、同省はその数字で業法計画の
届出をすることを了承した。それで、この期には生産調整は行なわれなかつた。
 同様の経緯で、昭和四二年度下期及び昭和四三年度上期にも生産調整は行なわれ
なかつた。
 このように右の期間生産調整が行なわれなかつたのは、需要の増加が著しく、昭
和四二年度の需要の伸び率は前年度比二〇パーセントを超えるほどだつたこと、し
かも同年度に新規稼働する設備が少なかつたことによるのである。もとより通産省
は、生産動向を監視するとともに、重油輸入の割当及びナフサ輸入についてのいわ
ゆるヒヤリング(事情聴取)を経ての行政指導によつて輸入量を加減し、需給調整
を図つていた。
 五、 昭和四三年度下期から昭和四七年度上期まで
 1. 昭和四三年度下期
 イ、 昭和四三年度下期には、A15、A12、A28の新規精製業三社の設備
合計一日一九万バーレルを含む新増設設備合計一日四一万三千バーレルが稼働を開
始した。需要は引き続き増加していたが、その伸び率は鈍化することが供給計画で
予測されていた。
 A連盟は、通産省(鉱山石炭局)の依頼により昭和四三年七月末ごろ精製業各社
から下期のA連盟あて生産計画を提出させ、同年八月五日付でこれを集計したとこ
ろ、燃料油生産量が供給計画を大幅に上回つていた。
 A連盟のC3委員会が通産省の指示により同年八月に行なつた需要見直し作業に
よる下期の内需を前提としても、右八月五日の計画では下期末燃料油在庫が一四〇
三万七千キロリツトルとなり、供給計画の予定する下期末在庫七七八万四千キロリ
ツトルと比べて過大だつた。そこで通産省は、同年九月A連盟に条件を示して下期
の需給実勢見通し及び適正需給計画の作成を依頼し、同連盟事務局業務部需給課は
同年一〇月二日これらを作成して通産省に提出した。このうちの「適正計画」では
製品輸入量を大幅に減らしてあつたが、それでも燃料油計画生産量を二〇〇万キロ
リツトル以上削減する必要を示していた。
 このような情勢を見て通産省は行政指導に乗り出すこととし、同年一〇月八日開
催されたA連盟C1委員会に同省鉱山石炭局石油業務課長D18、同課需給班長D
19らが出席し、各社に対し生産量を削減した業法計画変更の届出を要請した。そ
の際特に数量は示さなかつたが、合計数量が前記適正計画に合致する計画を提出せ
よという趣旨であつた。そこでA連盟C1委員会委員長D20は、かつて通産省が
行なつていた生産調整とほぼ同様の方式で、右適正計画に示された原油処理量のう
ち一般内需用輸入原油処理量を一定の基準により各社又はグループに配分すること
とした。そして配分基準につき各社の意見を求めたが、各社の利害が異なるため意
見が一致しなかつたので、これらの意見を総合していわゆる四本柱の基準を考案し
た。それは、各社又はグループについて全体に対する販売実績比率(構成比)を五
〇パーセント取り、更に右販売実績比率、ガソリンの販売実績比率、原油処理実績
比率、設備能力比率の四つのうち各自が選択する二つをそれぞれ二五パーセント取
り、これらを合成して作つた比率によるものである。同委員長は、C1委員会の審
議を経て右比率で一般内需用輸入原油処理量を配分し、各社が配分を受けた処理量
に基づいて業法による生産計画変更届を作成提出するよう指示した。しかし、A2
7がこれに従わなかつたことなどのため、適正計画と一致する計画は得られず、同
年一〇月二九日付で集計された各社の変更生産計画では、燃料油生産量合計は八月
五日付計画比六七万キロリツトルの減にとどまつた。しかし、これに基づく需給見
通しでは、通産省が製品輸入量を約二八〇万キロリツトル削減したことのほか、期
初在庫の減少、内需の増加もあつて、期末在庫は八七二万キロリツトルにとどまつ
た。同年一〇月二九日前記D18課長、D19班長らは再びC1委員会に出席して
右の需給見通しを説明し、全体として需給は安定化の方向にあると述べて各社の変
更計画を了承した。
 ロ、 右に述べた原油処理量の配分は、D20委員長主宰の下にC1委員会にお
いて審議、決定されたのであるが、その委員会の会議は、C1委員全員は出席せ
ず、各精製会社又は各グループを代表する会社のC1委員だけが出席することを原
則とするものであつた。このような形態の会議は昭和三九年ごろから開かれてお
り、関係者の間で「C7委員会」又は単に「C7」と呼ばれていた。これは定款そ
の他の規定に明記された会議ではないけれども、正規のC1委員会の会議の一形態
であり、昭和四三年度下期以降、原油処理量に関する生産調整はC7において審
議、決定するようになり、その決定は更に理事会等にかけられることなく、そのま
ま石油業界においてA連盟の決定として通用していた。
 2. 昭和四四年度上期
 昭和四四年度上期にあたつても、A連盟は通産省の依頼によりあらかじめ精製業
各社からA連盟あての生産計画を提出させたが、これを集計した結果はやはり供給
計画を大幅に上回つていた。そこでA連盟はC7において供給計画に基づき前期と
同様に四本柱の比率で一般内需用輸入原油処理量の配分を行なつた。しかし、昭和
四四年四月下旬通産省に届け出られた生産計画の集計結果は供給計画と一致せず、
燃料油生産量合計がこれを約三五四万キロリツトル上回つていた。それでも通産省
が製品輸入量を約一八〇万キロリツトル削減し、また輸出計画が供給計画を約一七
〇万キロリツトル上回つたことにより、通産省の需給見通しでは期末在庫が供給計
画を下回つた。同月三〇日同省鉱山石炭局石油業務課の需給班長D19及びD21
は、A連盟のC1委員会に出席し、各社に計画を守つてもらうよう今後チエツクし
て行く旨を述べた。
 このようにして、A連盟は、昭和四三年度下期以降、精製業各社の届け出る業法
計画又は変更計画の合計を供給計画又はその見直し計画に合致させるために、原油
処理量に関し再び生産調整を行なうようになり、それは前述のC7で審議、決定さ
れ、そのことが次第に慣行化して行つた。通産省鉱山石炭局の担当官は、この生産
調整を利用して石油の需給調整の任務を遂行していたのであり、そのことは年を経
るに従い次第に日常事務化して行つた。
 3. 昭和四四年度下期から昭和四六年度下期まで
 昭和四四年六月一〇日被告人A3がD20に代つてA連盟C1委員会委員長に就
任し、昭和四四年度下期分から生産調整の業務を引き継いで担当することになつ
た。以後昭和四八年度上期に至るまで、同被告人の主宰の下で、前記C7(即ちA
連盟)は、毎年度半期ごとに国内の石油精製業者に対し生産調整を行なつてきた。
 昭和四四年度下期には需要が伸びたため、A連盟は需要見直しにより増加した内
需量を用いて適正需給バランス(A連盟の需給計画)を作り、これに基づく所要一
般内需用輸入原油処理量を上期の方式を踏襲して配分した。
 昭和四五年度も需要の伸びが予測を上回つたので、上期下期ともA連盟は供給計
画より多い数量を用いて生産調整を行なつた。もつとも、同年度には全社に対する
配分は行なわず、A連盟があらかじめ提出させた生産計画による一般内需用輸入原
油処理量の合計が適正需給バランスを超えた分について、被告人A3及び需給副委
員長B8らが大手数社を回り、計画の削減を依頼して調整を行ない、被告人A3は
これをC7に報告してその了承を得た。
 昭和四六年度上期には、A連盟は供給計画の数量を用いて一般内需用輸入原油処
理量の配分を行なつた。
 昭和四六年八月に米国政府がとつた一連のドル防衛措置の影響、いわゆるドルシ
ヨツクによりわが国の経済活動は停滞し、石油製品需要の伸び率も減退した。そこ
でA連盟は同年度上期の配分量を削減し、同年度下期には需要見直しの際相当多量
の削減が行なわれ、A連盟が適正需給バランスを作り、一般内需用輸入原油処理量
の配分を行なつた。この期には、通産省の了承の下にA連盟があらかじめ生産計画
を提出させることをせず、始めから原油処理量を配分して、これに基づき業法によ
る生産計画変更届を通産省に提出させた。
 被告人A3がC1委員長に在職中の上記期間中、通産省鉱山石炭局石油業務課長
D22及び同課需給班長D19は、需要の動向、輸入、在庫、適正需給バランスの
作成等、需給調整に関する諸問題についてしばしば同被告人をはじめA連盟事務局
業務部長、同部需給課長らから意見を聞くとともに、その協力を求めて職務を行な
つてきた。D19班長は、同被告人らに対し日ごろ精製業各社が供給計画又はその
見直しに適合する生産計画を届け出るよう要請していたが、このことがA連盟のC
7委員会で行なわれる原油処理量の配分、調整によつて実現されていることを知つ
ていた。
 4. 昭和四七年度上期の需給事情と生産調整
 ドルシヨツクによる石油製品の需要の伸びの減退は著しく、政府の昭和四六年末
の経済見通しでは昭和四六年度の実質国民総生産(GNP)の対前年度伸び率は
四・三パーセントに落ちた(実績は五・七パーセント)。
 このような情勢の下で昭和四七年一月中旬から始まつた通産省鉱山石炭局石油計
画課の指示によるA連盟C3委員会の需要予測作業は困難に遭遇した。C3は政府
見通しの昭和四七年度GNP対前年度伸び率七・二パーセント及び昭和四六年一二
月までの実績等を用いて内需予測を行ない、通産省はその見通しなどを用いた需給
計画に基づいて昭和四七年度の供給計画を策定し、昭和四七年三月一〇日のC2審
議会の議を経て同月下旬にこれを告示した。右供給計画の基礎となつた需給計画の
昭和四七年度分燃料油合計の需給は次のとおりである。なお、これは昭和四七年五
月一五日からわが国の施政下に復帰することになつた沖縄県の分を含んでいる。
         上  期      下  期     計
  期初在庫   九、七四二   一五、二九三
  生  産 一〇一、一五二  一一三、六九六  二一四、八四八
  輸  入   八、一一一   一〇、七一二   一八、八二三
  内  需  九五、二一五  一一八、七三六  二一三、九五一
  輸  出   八、四九七    八、七七二   一七、二六九
  期末在庫  一五、二九三   一二、一九三
  原油処理 一〇九、九四八  一二三、五八三  二三三、五三一
              (単位 千キロリツトル)
 右の昭和四七年度内需見通し二億一三九五万一千キロリツトルは、昭和四六年度
供給計画の基礎となつた昭和四七年度内需見通し二億三一八七万六千キロリツトル
(原油生だき分一七一〇万を除く。)を一七九二万五千キロリツトル即ち約七・七
パーセント下回るものであつた。しかし、C3が更に新しい資料に基づいて予測し
たところでは、上期における需要の減退は右見通しにとどまらないことがわかつ
た。
 また、沖縄県の復帰に伴い、後述するように沖縄県で生産された製品が本土に持
ち込まれることによつて供給が過剰となることが懸念された。そこで石油計画課総
括班長D23は、昭和四七年三月二四日A連盟から被告人A3、需給副委員長B
8、需給課長B10らを呼び、沖縄問題について打合せを行なつたが、その際岡松
は、沖縄復帰後同県にある精製会社が石油業法の適用を受けることや、本土への製
品持込み制限の方針などについて説明した上、昭和四七年度上期の需要動向につい
ては業界の意見を尊重する、生産の実行べースは供給計画と別のものであつても差
支えない、沖縄からの持込みの取扱いについても業界内の合意が得られれば通産省
の指示と違つてもよい、沖縄問題及び生産問題については業界の意見を聞かせても
らいたい旨述べた。
 そこで被告人A3らは、通産省の了承を得て上期の内需を前記需給計画より二〇
〇万キロリツトル少なく見積り、これに見合う業法計画を各社から通産省に届け出
させることとし、C7において、前記上期の内需九五二一万五千キロリツトルから
沖縄県の上期内需見通し四四万キロリツトル及び右二〇〇万キロリツトルを控除し
た九二七七万五千キロリツトルを本土分内需とし、これに基づいて算出した所要の
一般内需用輸入原油処理量を各社又はグループに配分した。各社はその配分量に従
つて業法計画を作成し、これを届け出た。通産省はその集計結果を参照して上期本
土分の「実行計画」を作り、同年六月一九日これを発表したが、それによる燃料油
合計の需給は次のとおりであつて、内需を右のA連盟の見通しどおりとし、供給計
画の生産量、期末在庫を削減している。
          供給計画      実行計画      増  減
  三月末在庫    九、七四二    一一、四八二     一、七四〇
  生   産   九八、七九八    九三、五八六    △五、二一二
  輸   入    八、一一一     八、五八五       四七四
  内   需   九四、七七五    九二、七七五    △二、〇〇〇
  輸   出    六、八七二     七、〇〇七       一三五
  九月末在庫   一五、〇〇四    一三、三一二    △一、六九二
  原油処理   一〇七、三八九   一〇二、一九〇    △五、一九九
      (単位 千キロリツトル。△印は減。なお、供給計画というのは前記
需給計画から沖縄県分を控除したものである。)
 5. 配分基準とA4問題
 一般内需用輸入原油処理量を各社又はグループに配分する基準としては、前記の
とおり昭和四三年度下期に四本柱の比率が採用され、昭和四四年度上期にもこれが
踏襲され、以後昭和四七年度上期に至るまでこの基準が若干の修正を施した上で用
いられてきた。もつとも、昭和四五年度には前期の実績に一定の伸び率を乗じた数
量で調整したが、基本的には四本柱が続いてきた。
 四本柱は、前述の構成要素から明らかなように、販売実績に極めて高い重みを置
いているため、販売能力の大きい業者にとつて有利な基準であり、設備能力が大き
いのに販売能力がこれに伴わないA4グループのような業者にとつては不利な基準
であつた。
 A4株式会社は、昭和四〇年八月にA9、A13、A10の三社が出資し、これ
らの販売部門を集約して設立された石油元売業者であり、これらがA4グループを
形成し、その後設立されたA12、A11及びA5も同グループに参加した。A4
は昭和四三年七月A連盟に加盟し、同連盟による原油処理量の配分は、A4グルー
プに対し一括して行なわれることになつたので、C7にはA4のC1委員がグルー
プ代表として出席していた。
 A4グループは、民族系企業育成という政策に基づいて通産省から優遇措置を受
けて成長してきた。即ち、通産省は同グループに多くの精製設備の許可を与え、H
2銀行の融資を認めるなどして同グループを助成した。同グループの拡大によつて
その設備能力は、昭和四〇年度当時の一日二一万四三五〇バーレルから昭和四六年
度下期には一日七五万四三五〇バーレルに達してA6グループを追い越し、昭和四
七年度下期には更にA5の一日六万バーレルが稼働を開始する予定だつた。設備の
全社合計に対する比率で見ると、昭和四〇年度下期の約一〇・四パーセントから昭
和四六年度下期には約一八・〇パーセントに上昇した。しかし、A4の販売能力の
向上は精製能力の増大に伴わず、昭和四六年度における同社の石油製品販売量の全
社に対する比率は約一二・三パーセント、A12の販売量を合わせて約一三・二パ
ーセントであり、同グループの精製能力と販売実績との間には大きな開き、いわゆ
る精販ギヤップが生じていた。もちろん、この販売実績比率の低さは、販売能力の
不足によるばかりでなく、生産調整方式の影響による面もある。即ち、前述のよう
に原油処理量の配分は昭和四三年度下期以降四本柱の比率で行われていたので、主
として販売実績を反映する配分比率が次第に固定し、設備の大きいことやその伸び
は僅かしか配分比率に反映しないのである。その結果、A4グループは積年低稼働
率に苦しんでおり、配分方式に強い不満を持つていた。そこでA4グループは昭和
四七年度上期の生産調整にあたり、被告人A3に対し設備能力を重視するように配
分方式を改定することを申し入れたが、他社の反対が強いため、そのような改定は
極めて困難だつた。
 しかし、昭和四七年度下期には前記A5の新設設備のほか、小規模の会社である
A29、A28もその新増設設備が稼働を開始するなど、配分方式の改定を考慮せ
ざるを得ない情勢にあつたので、被告人A3は、上期の生産調整を決定するC7に
おいて、下期には配分方式の改定を検討する旨を約束した。
 6. 沖縄問題
 沖縄県は昭和四七年五月一五日からわが国の施政下に復帰したが、同地にはそれ
まで石油業法による規制が及んでいなかつたため、需要の割に過大な精製設備が建
設されていた。即ち、復帰当時の沖縄県における精製業者とその設備能力は、次の
とおりであつた。
  A36株式会社    一日八方バーレル
  A37精製株式会社  一日二万八千バーレル
  A38精製株式会社  一日一〇万バーレル
  合 計         一日二〇万八千バーレル
 この設備は、年間優に九〇〇万キロリツトルの燃料油を生産する能力がある。と
ころが沖縄県内の需要は当時年間約一〇〇万キロリツトル、輸出は約四〇〇万キロ
リツトルの見通しであつたから、余剰の製品が自由に本土に持ち込まれることにな
ると、本土の供給が過剰になるおそれがあつた。
 このような事情にかんがみ、通産省は、沖縄復帰前から沖縄三社について、本土
の親会社を通じ、株主構成を民族資本が五〇パーセント以上を占めるようにするこ
と、本土では本土の元売業者を通じて製品を販売することなどを指導してきた。ま
た、復帰に際し、昭和四八年度末までに本土に持ち込むことができる製品を、A3
4株式会社及びゼネラル石油株式会社はそれぞれA36から重油一日一万バーレル
(年間約五八万キロリツトル)及びナフサ若干、A6はA37精製からナフサ及び
重油合計一日一万バーレルと制限し、また通産省の承認を受けてこれ以上持ち込む
場合には同量の重油輸入の関税割当を辞退すること、またA22はA38精製から
重油を持ち込むことができるが、持込み量と同量の関税割当を辞退することとする
行政樹導措置をとつた。
 なお、重油の輸入については昭和四七年度から輸入割当制が廃止されて、関税割
当が行なわれることになつた。
 7. 新増設設備の稼働制限
 昭和四七年度下期に完成予定の新増設設備は、A7二万、A29七万、A17八
万、A18六万、A14四万、A5六万、A27五万、A28四万、A22四万、
A32三万、合計四九万、昭和四八年度上期に完成予定の新増設設備は、A9四
万、A17三万、A20五万、A21三万、A26四万三千、A30三万、合計二
二万三千(単位はいずれも一日当りバーレル)であつた。また、昭和四八年度下期
以降も次々と新増設設備が完成の予定であつた。
 前述のように需要の伸びが低下した情況の下で、通産省は、右の新増設設備が全
面稼働するに至ると供給過剰を来たすものと予測し、昭和四七年五月二九日第四三
回C2審議会に諮つて、第三八回C2審議会が許可の答申をした右昭和四八年度上
期完成予定の一日二二万三千バーレル及び同下期完成予定の三社合計一日二七万バ
ーレルの設備について、稼働開始後一年間稼働率を五〇パーセントとし、第四一回
C2審議会が許可の答申をした昭和四八年度下期ないし昭和四九年度下期完成予定
の一二社合計一日六五万バーレルの設備について、完成時期を一年間延期する措置
をとつた。ただし、これらの措置は、昭和四八年七月に解除された。
 通産省は、昭和四七年度下期完成予定の前記設備についても、当該会社から、昭
和四八年三月末日までの稼働率は当局の指定に従う旨の念書を差し出させたが、通
産省の指示は出されることなく終つた。
 8. 需給、営業両委員長の会談
 昭和四六年八月のドルシヨツク後から、A連盟のC1委員会正副委員長は、営業
委員会正副委員長と需給問題等について定期的に会談を行なうようになり、昭和四
七年度には毎月一回位これが行なわれた。当時の営業委員長はA6常務取締役D2
4であつた。右会談では灯油への転換需要その他需要動向等について意見の交換が
行なわれたが、営業委員長側からガンリンその他の製品の生産過剰の情況が見られ
るので生産量、在庫量を削減してもらいたいとの要望が出されることがあつた。昭
和四七年度下期の生産調整に際しても需要見通し、必要在庫量等について話し合い
が行なわれ、D24から右趣旨の意向が述ベられた。被告人A3は、このような営
業委員長の要望を考慮に入れながらも、C1委員長として自主的に生産調整に関す
る事項を決定していた。
 第五節 本件生産調整
 一、 本件生産調整の概要
 本件公訴は、昭和四七年度下期分及び昭和四八年度上期分の一般内需用輸入原油
処理量を五グループ九社に割り当てた各行為をその対象としているが、右各行為は
いわゆる生産調整の決定として行なわれたものであり、本節において右生産調整の
経緯を認定するが、最初に昭和四七年度下期と昭和四八年度上期とに共通な本件生
産調整の概要を説明する。
 1. 主 体
 イ、 既に述べたとおり(四節五1、2)、A連盟は昭和四三年度下期以降「C
7委員会(C7)」において原油処理量に関する生産調整を審議、決定するように
なり、それが慣行化していたのであるが、本件生産調整もこの慣行に従い、C7に
おいて行なわれた。C7は、原油処理量に関する生産調整について審議、決定を行
なうために開催されることが慣行となつていたA連盟C1委員会の会議の一形態で
あり、それの決定は石油業界においてA連盟の決定として通用していた。したがつ
て、本件生産調整に関する業務は、被告人A連盟の業務である。
 C7は、C1委員会委員長が主宰し、これに出席していたのは、原則として後述
の石油精製業五グループの各代表会社及び右グループに属しないA連盟会員である
石油精製業九会社のC1委員であつた。C7は、これら委員全員の一致で生産調整
に関する決定を行なうことにしていたから、その決定のA連盟の決定としての効力
について会員会社が異議を述べることはなかつた。
 C7は、原則としてA連盟の会議室で開催されたが、時にはC1委員長の所属会
社で開催された。その会議にはA連盟事務局業務部(昭和四八年八月から需給部)
の担当職員も列席し、メモを取つていた。C7の審議その他生産調整のために必要
な資料の収集、書類の作成などの準備作業、会議招集のための連絡などの事務は、
C1委員長の指示に従い、同部需給課の職員が行なつていた。
 ロ、 右の組織の中における主な人の役割を概括的に述べると、次のとおりであ
る。
 被告人A3は、C1委員会委員長として、その在任期間中、被告人A連盟の業務
に関し、被告人A2らと意思を共同して、本件生産調整(原油処理量の配分による
制限)を企画、準備し、C7を主宰してこれを審議、決定、実施させた。その行為
のうち、昭和四七年一〇月三一日と昭和四八年四月九日との二回にわたり配分を決
定させた行為が起訴にかかる「本件各行為」である。
 被告人A2は、被告人A連盟の会長として、その在任期間中、同連盟の業務に関
し、右生産調整について被告人A3、C1委員会副委員長B8らから随時報告等を
聞いてその決定に至る経緯の概要を知り、右生産調整を決定、実施することについ
て被告人A3と意思を共同し、また昭和四七年度下期においては、後述(本節二
8)のとおり社長会に出席し、生産調整の方法に関する各社の意見を調整するにつ
いて重要な役割を果した。
 B8は、C1委員会副委員長として、本件各原油処理量の配分を決定したC7に
出席し、他の委員らと共に被告人A3と意思を共同し、同被告人の提出した配分案
に賛同して本件各行為を行なつたほか、本件生産調整の準備に際し、その方法等に
関し被告人A2及び被告人A3と協議し、意見を述べた。
 B2は、昭和四七年八月からA連盟事務局業務部長代理兼需給課長、昭和四八年
八月から同事務局需給部長兼需給課長の職にあり、本件生産調整に関し、被告人A
3からの相談にあずかり、また同被告人の指示を受け、部下の需給課職員B11、
D25らを指揮して、前記生産調整関係の事務を行なつて同被告人の前記行為を補
佐した。
 原油処理量に関する生産調整は、前述のとおり本件以前から長く行なわれてきた
のであり、本件生産調整もこれを引き継いで行なわれたものである。したがつて生
産調整の対象や方式は当時までに概ね慣行化していたので、被告人A3らは、後述
の配分基準の改定などこの時期における特殊な事項を除いては、従前の生産調整の
方法を踏襲した。このようにして採用された昭和四七年度下期及び昭和四八年度上
期における生産調整の方法の概要は、次の2、3、4のとおりである。
 2. 対象となる会社及びグループ
 生産調整の対象となる事業者は、A連盟の会員会社のうち石油精製業を営む前記
二四社並びに非会員で輸入原油の精製を営むA5、A32及びA31の合計二七社
である。これは、沖縄県を除くわが国内で輸入原油の精製を営む事業者の全部とい
つて差支えない。このうち、A5は、昭和四七年度下期から操業を開始したので、
A4グループの一員として生産調整の対象に加えられることになつた会社である。
 A32及びA31については、起訴状記載の公訴事実は触れていないが、両社に
対する原油処理量の配分は右公訴事実と密接に関連するので、公訴事実の審理に必
要な限度で事実認定に含める。
 右二七社のうち一六社は、親子関係、業務提携関係等の関連のある会社が集まつ
て五つのグループを形成しているので、これらの会社に対しては原油処理量の配分
はグループを単位として行なわれ、グループ内の配分は各グループに委ねられる。
したがつて、配分は五グループ一一社を単位として行なわれる。各グループには、
C7においてグループを代表する会社があり、原則としてその会社のC1委員がこ
れに出席していた。
 生産調整の対象となつた会社及びグループ別を列挙すると、次のとおりである。
○印を付けた会社はグループ代表である。このうちA4及びA19株式会社は石油
精製業を営んでいないので、かつこで包んだ。
  A6グループ   〇A6
             A7
             A8
  A4グループ   ○(A4)
             A9
             A10
             A11
             A12
             A13
             A5
  A14グループ   ○A14
             A15
  A19グループ  ○(A19)
             A16
             A17
             A18
  A20グループ   ○A20
             A21
             A22
             A23
             A24
             A25
             A26
             A27
             A28
             A29
             A30
             A31
             A32
 3. 対象となる原油処理量
 生産調整は、石油精製業者の原油処理量、即ち精製装置にかけて処理する原油の
量を右各グループ又は会社ごとに制限するものであるが、その原油処理量は各社に
ついていわゆる所有権ベースで計測されたものである。即ち、自社の原油を自社で
精製する分のほか、他社に委託して精製する分を含み、他社の原油を委託を受けて
精製する分を含まない。
 また、生産調整の対象となるのは原油の総処理量ではなく、そのうちのいわゆる
一般内需用輸入原油処理量である。それは、一定期間における総処理量から、その
期間中の外枠とされる国産原油の処理量、輸出用製品生産相当量(製品輸出数量を
〇・九五で除した数量)並びに石油化学、肥料及び液化石油ガス原料用ナフサ供給
相当量(同ナフサ数量を〇・九二で除した数量)を控除した処理量である。ただ
し、昭和四七年度下期の当初(一〇月三一日)配分においては、規模の小さいA3
0の石油化学等用ナフサは外枠とされていなかつた。右配分の比率に一部寄与して
いるA6案(委員長二次案)では、A18も同様であつた。また、A31、A32
については、本件各生産調整において外枠のナフサは認められていなかつた。
 前記各社、グループに配分された原油処理量合計の総原油処理量(A連盟計画)
に占める割合は、昭和四七年度下期の当初配分において約八〇・五パーセント、昭
和四八年度上期の当初配分において約七八・六パーセントであつた。
 4. 配分方式
 C7は、当該期における全社合計の一般内需用輸入原油処理量(配分総枠)を定
め、これを一定の基準により前記五グループ及び一一社に配分する。各グループ又
は会社に対する配分量は制限量(配分枠)であり、各グループ各社は、当該期中に
おける一般内需用輸入原油処理量についてその配分量を遵守しなければならないも
のとされる。この配分量は需給事情により期中に追加されることがある(追加配
分)。配分量を超えて原油処理を行なつたグループ又は会社は、次の期において配
分量から右超過量を差し引いた量に前記処理量を制限され、前記処理量が配分量に
達しなかつたグループ又は会社は、次の期において配分量に加え右不足量の処理が
評される(過不足調整)。
 二、 昭和四七年度下期の生産調整
 1. C8研究会
 前述(四節五5)のように、原油処理量の配分基準についてはかねてからA4グ
ループ等に強い不満があつたため、昭和四七年度上期の生産調整にあたつて被告人
A3は、下期の生産調整に際しては配分方式の改定を検討すると約束していた。し
かし、前述のように下期に稼働開始予定の新増設設備は合計一日四九万バーレルも
あり、特に新規業者であるA5の一日六万バーレルの稼働開始、小規模会社である
A29の一日七万バーレル、A28の一日四万バーレルの能力増加が予定されてい
たので、各社の了承を得られるような配分基準を作ることには多大の困難が予想さ
れた。
 そこで被告人A3は、C1委員長として、昭和四七年度下期を控え、「C8研究
会」という会合を設け、生産調整方式改定の検討を行なうことにした。この会合
は、同被告人又はC1委員会副委員長B9(A20取締役輸入部長)が主宰し、主
要精製業者のC1委員が出席し、昭和四七年六月七日から同年八月八日まで七回に
わたつて開催された。その会合では生産調整の目的に始まる論議がかわされ、その
目的が市況対策にあるとする主張が多く、生産調整を行なうこと自体には異議がな
かつたが、配分方式については、設備能力の割に販売能力の大きいA6グループな
どは販売実績を基準とすることを主張し、設備能力の割に販売能力ないし販売実績
の少ないA4グループなどは設備能力を重視した基準によるべきことを主張するな
ど、各社の意見が対立し、結論を見るに至らなかつた。結局、配分案の作成は被告
人A3に一任されることになつた。
 2. 通産省の供給計画見直し
 通産省鉱山石炭局は、昭和四七年度下期にあたり、例年どおり供給計画の見直し
を行なうこととし、同局石油計画課計画調査班長B6らが昭和四七年七月二四日A
連盟C3委員会に指示して需要見直し作業を行なわせた。B6は、その際経済見通
しについて、通産大臣官房調査課の予測した実質国民総生産(GNP)の対前年度
伸ひ率八・三パーセントを使用するよう指示した。C3はその指示に従つて作業を
進め、同年八月一七日作業を終えてその結果を通産省に報告したが、それによる
と、昭和四七年度下期の燃料油の本土分(沖縄県を除くわが国内)内需見通しは合
計一億一六五一万三千キロリツトルであつた。これは年度当初の供給計画における
下期見通しを約二七五万キロリツトル下回つていた。
 C3は、下期の需要の伸びが右に達しないという見方もあるところから、右作業
の際、供給計画策定について用いられた実質国民総生産の対前年度比伸び率七・二
パーセントを用いた内需見直しをも併せて行なつたが、それによると同内需見通し
は合計一億一四八一万二千キロリツトルであつた。
 なお、供給計画の基礎となる需給計画では内需をいわゆるリターンベース(石油
化学原料用ナフサの需要量を、その供給量から製油所に還流するガソリン基材の量
を差し引いたものとする。)で示しているが、見直しの場合には通常チャージベー
ス(右の差引きを行なわない。)で示している。右の内需見通しもチヤーシベース
である。
 通産省鉱山石炭局石油業務課は、C3の報告した前記伸び率八・三パーセントを
用いた内需見通しを採用して供給計画の見直しを行ない、昭和四七年九月五日付で
沖縄含みの「四七年度下期需給見通し」を作成し、これに基づいて大蔵省と重油の
関税割当量について交渉し、輸入枠を決定した。右見通しでは、沖縄含みの下期燃
料油内需は合計一億一七〇九万キロリツトル(本土分のみでは一億一六五一万三千
キロリツトルとなる。)であつた。
 この需給見通しは、その後灯油需要を三五万キロリツトル積み増すなどして同年
一〇月二八日付の「四七年度下期需給バランス」(本土分の内需は一億一六八六万
三千キロリツトルとなる。)に改定され、業界に示された(後述本節二7ロ)。
 3. A連盟の適正需給バランス作成
 被告人A3は、昭和四七年八月下旬A連盟C1委員会副委員長B8(A6、A7
嘱託)、同B9、A連盟事務局業務部長代理兼需給課長B2とともに下期の需給に
ついて検討した。その結果、A連盟の本土分内需見通しは、前記二通りのC3予測
のほぼ中間の数値とするのが適当であるという見地から、通産省が採用した前記伸
び率八・三パーセントを用いた内需見通し燃料油合計一億一六五一万三千キロリツ
トルから一〇〇万キロリツトルを減じた同一億一五五一万三千キロリツトルとする
ことにした。また、期末在庫(必要量)は、業界で従来から用いている方式で計算
した数量とした。この業界の方式は、半製品在庫やコンビナート供給の増加などを
考慮して、ナフサや重油の在庫日数等の点において通産省の需給計画より少なくな
つている。これらに基づいて、A連盟事務局業務部需給課は同年八月二九日付で
「四七年度下期適正需給バランス試算」等の資料を作つた。右適正需給バランス等
は、同日開かれたC7で承認された。
 被告人A3は、同月末ごろ通産省鉱山石炭局石油業務課長D26を訪れ、右の需
給バランスについて説明し、意見を交換した。しかし、前記の内需見通しを一〇〇
万キロリツトル減ずることについては了承を得るに至らなかつた。
 同被告人は、その後需給課に指示して、通産省の決定した重油輸入枠の数量を用
いて前記需給バランスを修正した同年九月八日付の「四七年度下期適正需給バラン
ス」等の資料を作成させた。これによると、下期の燃料油生産量は合計一億〇七四
七万キロリツトル、原油処理量は一億一五五六万九千キロリツトルとなり、これか
ら算出した一般内需用輸入原油処理量即ち配分の総枠は九四〇一万二千キロリツト
ルとなつた。なお、A5の新規コンビナート用として慣例に従いA4グループに割
り当てる予定の三七万四千キロリツトルが別枠とされた。
 同被告人は、同年九月八日正副委員長の打合せを行ない、更にC7を開いて右適
正需給バランス及び配分総枠について説明し、承認を受けた。
 4. 委員長案(原案)作成と各社の説得
 イ、 被告人A3は、前記昭和四七年九月八日に引き続き同月一三日及び同月二
一日に正副委員長の打合せを行ない、配分方式等について協議した。同被告人は、
A4グループ等の要望を考慮し、設備能力を従来よりは多く配分比率に反映させよ
うという見地から、前年度販売実績比率を五〇パーセント、前年度処理実績比率及
び昭和四七年一〇月一日現在の設備能力比率を各二五パーセントとする配分基準を
提案した。これに対し副委員長B9は賛成したが、A6グループの代表でもある副
委員長B8は反対し、シェアを固定すべきだとの立場から前期と同比率で配分する
ことを主張した。
 また同被告人はこれと平行して副委員長らと共に、配分基準について特に問題の
多い前記A4グループ、A29、A28のいわゆる特別三社から事情や意見を聞く
ため、同年九月八日、一一日、二〇日にわたり各社二回ずつヒヤリングを行なつた
が、B8の主張する前期横ばい案で三社を説得することはできなかつた。
 ロ、 そこで同被告人は、同月二一日副委員長らと打合せを行なつた上、C1委
員長としての配分案に基づきヒヤリングを行ない、各社を説得することにした。同
被告人の指示により同月二二日付で需給課が作成した委員長案(原案)は、前記五
〇、二五、二五の比率を基本として前記総枠九四〇一万二千キロリツトルを配分
し、対前年度同期比伸び率の著しく高いA23の配分量を一部削るなどして、配分
量が前年度同期に達しない中小会社に前年度同期の配分量を保障したものであつ
た。同被告人は、このほかにA29に二五万キロリツトル、A28に一五万キロリ
ツトルの「特別対策」を施す考えであつた。
 同被告人は、そのころ通産省に赴いて、D26課長に対し右委員長作成の経緯、
配分基準の問題点等について説明した。また、B2は石油業務課需給班長B1に対
して同様の説明をした。D26は、石油行政担当の鉱山石炭局参事官B7に対し右
の事項を詳細報告説明した。B7は、委員長案が従来の四本柱よりも設備能力を重
視している点を評価した。
 ハ、 被告人A2は、B8から報告を受けて前記委員長案作成の経緯やB8がこ
れに反対していることを知つていた。同年九月二五日被告人A3はA6本社に被告
人A2を訪ね、委員長案に基づいてヒヤリングを行なう旨報告し、了承を得るとと
もに、A6としても右案に賛成してもらいたいと頼んだが、被告人A2はこれに応
じなかつた。
 ニ、 こうして、被告人A3は、同年九月二五日、二六日にわたり、副委員長ら
とともに、A14、A20及びA32を除く全社(グループについては主として代
表会社)の需給担当者を呼んで、個別にヒヤリングを行ない、委員長案(原案)に
基づいて説得した。次いで同年一〇月二日、三日、四日にわたつて、A32のほ
か、なお配分案に不満の多いA4、A23、A19、A25、A30、A26、A
29、A28に対するヒヤリングを精力的に続けた。この過程で、委員長案に基本
的に反対するところは、A6グループ、A19グループ、A25にしぼられてき
た。
 5. 通産省の指導と委員長案(一次案)の作成
 イ、 通産省担当官は、昭和四七年度下期を迎え、すみやかにA連盟の生産調整
がまとまり、下期の生産計画変更届が提出されることを望んでいた。
 これより先、A29業務部長D27(C1委員)は、昭和四七年八月中から九月
下旬までの間数回にわたり、時には同社副社長D28と共に、通産省にB7参事
官、D26石油業務課長、同課の需給班長B1、精製班長D29らを訪れ、増設分
を含む自社の設備の稼働率をある程度上げられるようにするため、配分基準に設備
能力をもつと多く考慮すること、あるいは自社の配分量をもつと多くすることを被
告人A3に働きかけてほしい旨陳情した。同じころA4取締役仕入部長B12(C
1委員)及びA28石油のD30も数回通産省を訪れ、同じような陳情や苦情を繰
り返した。
 ロ、 同年九月末ごろ被告人A3が通産省へ報告に行つた際、B7参事官は同被
告人に対し「一〇月七日までに配分をきめてほしい。配分基準に設備能力をもつと
考慮すべきだ。A4の配分量はまあまあだが、A29には三五万キロリツトル、A
28には二〇万キロリツトル位を増量すべきだ。」との旨の指示を与え、その際
「業界で配分ができなければ役所で引き取つてもよい。」旨発言した。同被告人は
同年一〇月二日の打合せの際、副委員長らやB2に右指示を報告し、同日から四日
までのヒヤリングで配分をまとめるように努めた。A29、A28に対しては特別
対策の増加を持ち出して辛うじて納得させた。
 しかし会長の会社であるA6が反対を続けていたので、被告人A3は同年一〇月
六日ごろ再びA6本社に被告人A2を訪ね、委員長案に同調してほしいと頼んだ
が、被告人A2は、シェアが急に変動するのは好ましくないのでA6としては賛成
できないと答えた。被告人A3は、A6の立場としてではなくA連盟会長の立場で
きめてもらいたいと頼んだが、被告人A2はこれに応じないで、各社が納得するよ
うな別案を考えるよう指示した。
 更に被告人A3は、委員長案に反対しているA19グループのA16の社長D3
1をそのころ訪れて賛成してくれるよう頼んだが、D31は配分基準に問題がある
として賛成しなかつた。
 そこで被告人A3は、同月一一日ごろ通産省に行つて、B7参事官及びD26課
長に対し経過を報告するとともに、委員長案に反対しているA16やA25を説得
することを依頼した。B7は、A16のD31社長は先輩だから話をしてみると述
べた。その後B7はD31に電話して委員長案に賛成したらどうかとすすめたが、
D31はこれに応じなかつた。
 また、B7参事官は、同月中旬A6のC1委員であるB8を呼んで、「A6は反
対しているそちだが、早く委員長案に同調したらどうか。まとまらなければ通産省
で引き取るが、その場合には設備をもつと重視する。」と警告した。
 ハ、 被告人A3は、このように通産省の支持の下に各社の説得を続ける過程
で、ヒヤリングの結果等にかんがみ原案を若干修正して委員長案(一次案)の内容
を確定し、事務局需給課をして同年一〇月一一日付で「四七年度下期一般内需処理
配分枠」という配分量、配分基準、伸び率等の詳細を示した表を作成させた。この
一次案が原案と変つた主な点は、A30、A25、A26、A24の四社に前年度
同期比一〇二パーセントの配分量を認めたこと及びA29に三五万キロリツトル、
A28に一八万キロリツトルの特別対策を施したことである。その結果、配分量の
合計は原案の総枠の中に納まらなくなり、一次案の総枠は九四七〇万二千キロリツ
トル(この外にA4グループの新規コンビナート用三七万四千キロリツトル)に増
加することになった。
 6. A6案の提示
 B8は、前記のようにB7参事官から説得されたため、A7がh製油所の設備許
可を申請している関係もあつて、何とか配分をまとめなければならないと考えるよ
うになり、同年一〇月中旬A6本社で被告人A2及びA6取締役(A7のC1委
員)D32と相談し、同被告人の指示を受けてA6の主張をとり入れた別案(A6
案)を作成した。このA6案は、基本配分として昭和四七年度上期における配分比
率を用いて委員長原案の総枠九四〇一万二千キロリツトルを配分するが、A4グル
ープ、A29及びA28に対して今期限りとして委員長一次案と同じ配分量を認め
るというものであつた。その結果、総枠は九五〇四万八千キロリツトルに増加する
ことになつていた。
 D32とB8は、同年一〇月二〇日A14に被告人A3を訪ねて右のA6案を提
示し、その採用を申し入れた。同被告人は、この案を利用して壁に突き当つている
配分問題を解決する方途があると考え、D32らの申し入れを了承した。
 同被告人は、関係会社の社長に集まつてもらつて社長会を開き、その席上でA6
案と委員長一次案との折衷案で実質的に妥結を図る意図てあつた。そこで、同被告
人は、被告人A2に、その意図を告げないで、社長会を開催してそこでまとめたい
旨を話して了承を得た。また、そのころA20常務取締役D33に依頼して社長会
でその折衷案を提出することを引き受けてもらつた。
 被告人A3は、同月二三日ごろ通産省に行つて、D26課長に右の経緯と社長会
で妥結を図る計画を報告し、了承を得た。
 7. 暫定的な計画提出と見直し需給計画
 イ、 右のように被告人A3が同年一〇月二三日ごろ通産省を訪れたころ、石油
需給担当官らは、同月二七日に国会が開会され、灯油等の需給事情に関する質問の
あることも予想されるので、早急に下期の生産計画を提出させ、需給見通しを立て
る必要に迫られていた。そこでD26課長は、訪れた被告人A3に対し「国会もあ
るので、生産計画がまだ提出されていないのは何か起つたときにまずい。あとで正
式の届出と差し換えてもよいから、とりあえず各社から生産計画の総括表だけでも
提出するように連絡してもらいたい。」旨要請した。
 また、B1需給班長は、D26課長の意向を受け、同月二三日夕刻精製又はグル
ープ代表各社の需給担当者を通産省の会議室に集め、同月二七日までに生産計画を
提出するよう要請した。その際、B1は独自の判断で「灯油の需要が増加してお
り、景気の回復も早まつているので、前提とする本土分内需はGNP八・三パーセ
ントによる需要見直しに一四〇万キロリツトル上積みする。様式はA連盟フオーム
(A連盟が用いている製油所別数量を記載しない略式の生産計画の様式)により、
輸入計画は不要である。内需処理規模は各社の任意とする。業法に基づく正式届出
は後日これと差し換えることとする。」などの指示を与えた。
 B1班長は、当時までにD26課長やA連盟のB2、A6のB8、A14のD3
4らからA連盟の行なつている生産調整の経過、内容を聞いていたので、その生産
調整の前提とする内需量が通産省の需給見通しより少ないことを知つていたが、国
会や新聞に対する対策上前記のように内需量を積み増した需給計画を立てる必要が
あると考えたのである。また、各社に対する配分量が決定されていないこの段階で
各社が任意に内需用の処理計画を立てる以上、その合計がA連盟の適正需給バラン
スを超過することは当然予想されるところであつた。
 翌一〇月二四日B1班長は、下期のナフサ輸入量を割り当てるため各社に対する
ナフサヒヤリングを行なつた。その際、大部分の会社の出席者は、原油処理は「委
員長案」又は「業界べース」で行なう旨説明したが、B1はこれに対して何の注意
も与えなかつた。
 同月二七日に各社から通産省に提出された前記の暫定的な生産計画を集計した結
果では、原油処理量合計(国産原油だけを処理する帝石トツピツグの一一万九千を
含む。)が一億二五三九万七千キロリツトルとなり、A連盟の適正需給バランス上
の数量を超えるばかりか、通産省の当時の計画量と比べても過大であつた。しかも
内需用製品生産量のうち軽油、G重油などは通産省の計画量と比べて不足してお
り、右計画は通産省が実行計画とすることができるものではなかつた。
 ロ、 そこでB1班長は、同月二八日急いで国会答弁、新聞発表等の資料とする
ための見直し需給計画を作り上げ、これをA連盟に交付した。昭和四七年一〇月二
八日付の「四七年度下期需給バランス(本土分のみ)最終案」「同(沖縄含み)」
がこれであつて、それの燃料油合計の需給は次のとおりである。
              本土分     沖縄含み
  四七年九月末在庫    一三、四四五    一三、四四五
  生      産   一一一、〇八〇   一一一、六五七
  (得率)        (九三・〇)    (九三・〇)
  輸      入    一一、九八〇    一一、九八〇
  内      需   一一六、八六三   一一七、四四〇
  輸      出     八、一〇〇     八、一〇〇
  四八年三月末在庫    一一、五四二    一一、五四二
  原油処理       一一九、四四一   一二〇、〇六一
              (単位千キロリツトル)
 これを通産省の前記九月五日付需給見通しと比べると、灯油需要を三五万キロリ
ツトル積み増している。また輸出量は、各社の一〇月二七日付計画に従つたもので
ある。
 なお、A連盟需給課では、同年一〇月三一日付で右各需給バランスのうち期初在
庫だけを新しい統計速報等に基づき一三、四七一と修正して組みかえた需給バラン
ス表を作り、これを通産省計画として取り扱つており、通産省でも同年一一月二日
付で右のうち沖縄含みと同内容の「四七年度下期需給バランス」を作成し、これを
新聞発表用にも用い、最終的な通産省の見直し需給計画とした。
 ところで、通産省の右各需給バランスにおいて、基礎になつているのは本土分の
表であり、「沖縄含み」は本土分の内需に沖縄県内の需要五七万七千キロリツトル
を上乗せし、これに見合つた生産量及び原油処理量を本土分のそれにつけ加えたも
のにすぎない。しかし、沖縄県から本土への製品持込み量(関税割当を返上しない
分が約一〇〇万キロリツトル)を考慮するならば、その分だけ本土の生産量を削減
しなければならないはずである。また、沖縄県内の輸出量が考慮されていないが、
その分を沖縄含みの表の輸出量及び生産量に加えなければならないはずである。そ
うしなければ沖縄県の前記一日二〇万八千バーレルの設備は稼働できないことにな
る。
 8. 社長会
 前記のように社長会の開催を決定した被告人A3は、B2と相談して昭和四七年
一〇月二六日先ずC7を開催し、その席上従来の委員長案(一次案)を撤回し、A
6案を委員長新案(二次案)として提出して説明し、社長会を開備してこれに諮る
旨を告げ、各委員に二次案の内容を社長によく説明しておくよう依頼した。
 社長会(第一回)は、同月二七日東京都内のC9ビルにおいて開催された。この
社長会はA連盟の正規の機関ではないが、関係のある会員会社の社長の会合であ
り、そこでA連盟の業務である生産調整の方法につき討議し、実質的解決を図るこ
とを目的とするものであつた。同社長会にはA6社長である被告人A2をはじめ、
A22、A4、A23、昭和、A19、A29、A20、A27、A28、A2
6、A25、A24、A30各社の社長又はその代理者が出席し、A連盟のC1委
員会から被告人A3及び副委員長B8が、事務局から業務部長代理B2が出席し
た。副委員長B9は海外出張中だつた。
 被告人A3が先ず従来の経過を説明し、被告人A2が座長的な立場で討議を進め
たが、A4社長D35、A23社長D36、A22社長D37らは二次案(新案)
に強く反対し、二次案でとりまとめようとした被告人A2の説得は奏功しなかつ
た。終りごろA20常務D33が折衷案を持ち出したが、被告人A2はこれに乗つ
てこなかつたので、結論が出なかつた。
 そこで同月三〇日東京都内のH3ホテルで第二回の社長会が開催された。出席者
の顔触れは前回とほぼ同じだつた。討議は再び紛糾し、D35、D36があくまで
二次案に反対したので、被告人A2も妥協案で収拾を図らざるを得なくなり、D3
3の提案した「一次案と二次案とを足して二で割る」という折衷案で行こうと述
べ、これに対しD35が回答を保留すると述べたが、被告人A2は「皆さんひとつ
これでやりましょう」と言つて会議を終えた。大勢はこの折衷案を承認する雰囲気
だつたので、被告人A3は配分問題が実質的に決着したと認めた。
 通産省の指示により、第一回の社長会についてはB2が、第二回の社長会につい
ては被告人A3が、即日通産省へ行つてD26課長らにその経過、結果を報告し
た。
 翌一〇月三一日、被告人A3及びB2は、A4社長D35から折衷案に対する態
度決定を一任された同社C1委員B12に対し折衷案に賛成するよう説得した。A
4グループ内には反対の空気が強かつたが、B12はどうにかグループ内各社の一
任をとりつけ、数日後被告人A3に対し「できるだけ協力しましよう」と返事し
た。
 9. C7の配分決定(公訴事実第一にあたる行為)
 イ、 被告人A3は、社長会で折衷案に回答を保留したA4も何とか説得できる
と考え、B8を介してA連盟会長としての被告人A2の了承を得た上、慣行に従い
C7においてA連盟の業務として、折衷案で原油処理量の配分を行なうことをき
め、A連盟事務局業務部需給課に折衷案による配分量、配分比率等の計算作業及び
C1委員の招集等の準備を行なわせ、昭和四七年一〇月三一日午後三時ごろからA
連盟事務所会議室においてC7を開催した。出催者及びその所属は次のとおりであ
つた。
  委員長    A14グループ   A14      被告人 A3
  副委員長   A6グループ   A6      B8
  委 員    A4グループ   A4      B12
  副委員    同        同         D38
  副委員    A19グループ  A19     B13
  同      同        A16      D39
  同      同        A18      B14
  副委員    A20グループ   A20      B15
  委 員             A22      D40
  委 員             A23      D41
  委 員             A24      B16
  副委員             A25  B17
  委  員            A26    D42
  副委員             A27    B18
                  A28    D30
  委 員             A29      D27
  副委員             A30     B19
  事務局業務部長代理                 B2
 右C7において被告人A3は、社長会の結果を報告し、回答保留中の一社も説得
できる見込みであるから今期は折衷案(三次案)で決定したい旨述べたところ、出
席委員、副委員らに異議がなかつた。なお、同被告人は、A19グループのA18
の要望を入れ同社の生産する石油化学等用ナフサを生産調整の外枠とする方針だつ
たので、右事由により配分比率及び配分量が今後僅かばかり修正されることがある
旨述べたところ、この点も異議がなかつた。続いて同被告人の指示によりB2が三
次案について具体的に説明し、それによる各グループ又は会社の配分量及び配分比
率を告知し、ここに右案による配分が決定された。その内容は次のとおりである。
            配分量(単位千キロリツトル)  配分比率
  A6グループ    一五、三一九       一六・一四六
  A4グループ    一三、一三五       一三・八四四
  A14グループ     七、七五八        八・一七七
  A19グループ   一一、一六一       一一・七六三
  A20グループ     七、二四一        七・六三二
  A22        一二、六四三       一三・三二五
  A23         三、八七六        四・〇八五
  A24         一、四三七        一・五一五
  A25       四、二九四        四・五二六
  A26         一、六八〇        一・七七一
  A27         八、六二五        九・〇九〇
  A28         一、六一二        一・六九九
  A29         二、七四三        二・八九一
  A30          八八四        〇・九三二
  (以上合計)   (九二、四〇八)     (九七・三九六)
  A31           九七二        一・〇四二
  A32        一、四九九        一・五八〇
  合計        九四、八七九      一〇〇・〇〇〇
 他にA4グループに対し新規コンビナート分三七万四千キロリツトルを配分す
る。
 なお、右表のA6グループからA30までの配分量は、起訴状別紙割当一覧表中
「昭和四七年下期分」と同一である。
 更にB2は、通産省の指示により同年一一月七日までに業法に基づく生産計画変
更届出書を提出すべき旨を伝え、同届出計画の基礎とすベき一般内需用輸入原油処
理量として各社又はグループ別の「通産省用」の数字を告知した。これは、前記の
ように同年一〇月二八日付の通産省の需給バランスの期初在庫だけを修正した同月
三一日付の需給バランス(通産省計画)本土分の原油処理量一億一九四一万三千キ
ロリツトルから算出した一般内需用輸入原油処理量九六三〇万八千キロリツトルを
右三次案の配分比率で配分した数量であつて、右原油処理量は三次案の配分量合計
を一四二万九千キロリツトル上回つている。もつとも、前記のように通産省の需給
計画が考慮していない沖縄県からの製品持ち込み量を考慮に入れるならば、両者の
差異は取るに足りないものとする。
 B2がこのように通産省用の数字を告げたのは、B1需給班長が自己の作成した
需給バランスに合致する業法計画を提出するよう指示していたので、形式上それに
従うためであるが、被告人A3やB2は、通産省とA連盟とで当初の需要見通しに
一〇〇万キロリツトルの差異があることは通産省担当官らが前から知つているので
あるから、三次案の配分量についても担当官に説明すれば当然了承を得られるもの
と考えていた。
 ロ、 A連盟需給課は、同月三一日付で前記配分の一覧表やその配分量合計に基
づいて作つた需給バランス(業界計画)と前記通産省計画とを対比した表などの資
料を作成した。被告人A3は、同年一一月初めこれらの資料を通産省に持参してD
26課長に説明したところ、D26はA連盟の計画が通産省の計画と比べて原油処
理量において大した差がないことを知り、配分の点を含めて、これを了承した。
 需給課が作成した右の比較表(「四七年度下期需給バランス比較四七・一〇三
一」)から燃料油合計の需要等を摘記すると、次のとおりである。
         通産省計画(本土分)    業界計画     増 減
  期初在庫     一三、四七一     一三、四七一        〇
  生  産    一一一、〇五四    一〇九、五二三   △一、五三一
  (得率)     (九三・〇)     (九三・〇)
  輸  入     一一、九八〇     一一、九八〇        〇
  内  需    一一六、八六三    一一五、五一三   △一、三五〇
  輸  出      八、一〇〇      八、一〇〇        〇
  期末在庫     一一、五四二     一一、三六一   △  一八一
  原油処理    一一九、四一三    一一七、七六七   △一、六四六
 (一般内需用)(九六、三〇八)(九四、八七九)(△一、四二九)
       (単位千キロリツトル)
 右の「業界計画」は、C7で決定した配分量に基づいて総原油処理量及び生産量
を算出し、内需はA連盟の見通しによつたもので、結果的に期末在庫量は従前のA
連盟計画より増加した。これが昭和四七年度下期における業界全体の実際の生産計
画の出発点となつた。
 10. 生産計画変更の届出
 精製業各社は、B2の要請に従い昭和四七年一一月七日業法による生産計画変更
届出書を通産省に提出した。B1需給班長及び同班職員は、この計画の集計作業を
A20の会議室において、今期の生産調整に協力的だつた同社の従業員B15ら及
びA14の従業員D34らに手伝わせて行なつた。
 各社の計画の集計結果は、原油処理量合計が一億二一一六万四千キロリツトル、
燃料油生産量合計が一億〇九一四万二千キロリツトルで、原油処理量は通産省の計
画本土分を上回るが、全体の得率は九〇・一パーセントという低いものであつた。
また、各社の計画から一般内需用輸入原油処理量を算出した結果によると、各社は
概ねB2の示した通産省用の数量に従つて計画を立てていたが、一部会社はこれよ
りも少なく、また、A4、A19各グループ及びA22はこれよりも相当多い計画
を立てており、その合計は九八二六万六千キロリツトルで、通産省用数量を上回る
ものであつた。
 しかし、B1需給班長はこの集計結果を見て、期末在庫九一〇万四千キロリツト
ルは通産省の需給計画の一一五四万二千キロリツトルに二四三万八千キロリツトル
足りないとし、B2に対しその不足分の生産量をふやすよう指示した。その連絡を
受けた被告人A3は、同年一一月二一日のC7に諮つて生産計画上の得率を上げる
方法で対処することとし、B2が需給課員B11をしてB1と打合せの上得率向上
による増産修正案を作成させ、これをA6ほか関係数社に連絡した。右数社は同月
末までにこれに従つて一一月七日の計画を修正して改めて生産計画変更届出書を通
産省に提出した。これによつて業法計画の集計結果による期末在庫は、通産省の計
画とほとんど一致することになつた。
 11. 生産調整の実施
 イ、 A連盟需給課員B11は、昭和四七年一一月九日被告人A3の意向により
C7の決定した配分総枠に基づいて昭和四七年度下期の「需給見通し」を作り、B
2が通産省のB1需給班長のもとにこれを持参して説明した。これは、前記一〇月
三一日の業界計画に上期の超過処理量や沖縄県からの持込み量等の考慮を加えた実
行計画であつて、業法計画とは別個のものである。この後、通産省は、A連盟需給
課の作成した「需給見通し」に従つて生産の指導をしていた。
 ロ、 同年一一月二一日のC7において、被告人A3は、同年一〇月三一日のC
7で予め承認を得ていたとおり、A18の石油化学等用のナフサを配分の外枠にし
たことによる配分の修正案を提示し、承認された。これによつて配分量及び配分比
率が僅かばかり変更され、配分量合計は九四八七万四千キロリツトルとなつた。
 また、同被告人は右一一月二一日のC7において、昭和四七年度上期の生産調整
の実績表を提示し、一般内需用輸入原油の配分枠を超過した処理量が合計一三三万
七千キロリツトルあつたので、過不足調整を行なう旨告げたが、そのうちA4グル
ープの超過処理量が八三万八千キロリツトルもあり、調整困難と認められるので、
そのうち五八万八千キロリツトルを棚上げしたらどうかと提案したところ、A22
の委員が反対したため決定に至らなかつた。同年一二月一二日のC7に至つてA4
の委員が今後は配分量を守る旨約束し、各社が右棚上げを承認して、右調整問題は
結着した。
 ハ、 C1委員会と営業委員会との各正副委員長の間では前述(第四節五8)の
とおり毎月一回位会談が行なわれていたが、同年一二月初旬ごろ行なわれた会談に
おいて、営業委員長D24から、オペツクが原油値上げを予告しており、価格を是
正しなければならない情勢にあるという話や、ガソリンと灯油の在庫が九月八日の
計画より多いので生産を削減してほしいという要望があつた。
 ニ、 被告人A3は、前記一一月二一日のC7において同月三〇日までに各社か
らA連盟あての下期の生産計画を提出するよう指示してこれを提出させ、更に前記
一二月一二日のC7において同月一九日までに右計画を修正して再提出するよう指
示してこれを提出させ、その後昭和四八年二月六日各社からA連盟に同年一―三月
の月別生産計画を提出させ、そのつど計画の集計結果等の表をC7において各社に
配布し、各社の生産動向を把握した。そして、昭和四七年一二月五日及び同月二六
日のC7において同被告人は、右生産計画によると一般内需用輸入原油の処理計画
量が配分量を特に多く超過しているA4グループ及びA22の委員に対し、処理量
を配分量の枠内に納めるよう注意を与えた。
 ホ、 A連盟需給課員B11らは、右生産計画集計結果等に基づき昭和四七年一
二月四日付、昭和四八年二月九日付及び同月二八日付で「需給見通し」を作成し、
B2がこれらを通産省のB1需給班長らに差し出して需給事情を説明した。
 昭和四八年二月初旬B2が同月九日付右「需給見通し」をB1に説明した際、B
1は右見通しによる灯油の三月末在庫が一〇〇万五千キロリツトルとなつているの
は通産省の計画一二六万キロリツトルと比較して足りないとして、B2に対し灯油
の増産を要請した。B2はこのことを被告人A3に伝え、同被告人は同月九日のC
7に諮り、灯油の得率を上げることによつて灯油の増産を図ることにした。
 同年三月初めごろ、B1からB2にE重油を二〇万キロリツトル増産するよう要
請があり、被告人A3は同月二日のC7において前同様得率を上げてE重油の増産
を図るよう依頼し、各グループ又は会社に対する増産量の割当表を配布し、承認さ
れた。B2は、これを通産省に報告した。
 同年三月下旬通産省のD26石油業務課長は、北海道、東北地方において灯油が
不足している情況にかんがみ、灯油を更に増産するよう被告人A3に要請した。そ
こで同被告人は、同月二八日のC7において業界の原油処理量を三〇万キロリツト
ル増加して灯油を中心に増産を図ることを提案して承認を得、同年四月九日のC7
において右三〇万キロリツトルは昭和四七年度下期の配分量に追加することとさ
れ、昭和四七年一一月二一日決定の配分比率により各グループ又は会社に対しその
追加配分が行なわれた。
 以上のとおり昭和四七年度下期中に行なわれた配分量の修正、前期過不足量の調
整及び追加配分によつて、同期の生産調整の対象となる原油の最終的な処理可能量
合計は九四七七万八千キロリツトル(他にA5の新規コンビナート分三七万四千キ
ロリツトル)となつた。
 12. 生産調整の実績
 イ、 昭和四七年度下期の燃料油国内需要は、昭和四七年一〇月から一二月まで
の間は、A連盟の適正需給バランスにおける内需見通し(合計一億一五五一万三千
キロリツトル)にほぼ一致する度合で推移した。しかし、昭和四八年にはいると、
需要がやや増加し、昭和四七年度下期の本土分内需実績はA連盟が把握した数値が
合計一億一七四二万七千キロリツトル(チヤージベース)となつた。これは、通産
省の昭和四七年一〇月二八日付見直し需給計画(本土分)における内需合計一億一
六八六万三千キロリツトルを約五六万キロリツトル上回つている。しかし、灯油の
内需実績はかえつて約六八万キロリツトル下回つている。
 製品在庫(本土分)を見ると、昭和四七年九月末の一三四七万一千キロリツトル
が昭和四八年三月末には一〇二〇万一千キロリツトルと減少し、特に中間三品(灯
油、軽油、E重油)の減少が著しい。これは、下期の後半に、景気の回復、公害対
策のための燃料の転換などの影響で中間三品の需要の伸びが大きくなつたためであ
るが、生産調整の効果もあつたと考えられる。
 ロ、 A連盟の需給課では、各社が統計法により通産省に提出する石油製品月報
に基づいて作られる統計速報によつて各社の月別原油処理実績等を把握し、これか
ら一般内需用輸入原油の処理実績を算出し、これを各グループ又は会社の配分枠と
比較して翌朝に過不足調整を行なう資料として使用していた。このようにしてA連
盟が把握した昭和四七年度下期における各社の生産調整の対象となる原油処理実績
合計(A5新規コンビナート用を含む。)は九六七七万二千キロリツトルで、最終
処理可能量を一六二万キロリツトル超過していた。
 しかし、各社の統計報告の中には過少又は過大な申告もあつたので、A連盟の把
握した右処理実績は正確なものではなかつた。検察官は、本件の捜査の過程で関係
各社に原油処理実績を調査報告させ、その報告書類等を本件の証拠として提出した
ので、これらに基づき当裁判所が認定した各グループ又は会社の生産調整の対象と
なる昭和四七年度下期の原油処理実績並びにこれと最終的処理可能量との比較を示
すと、次のとおりである。
               処理可能量        処理実績    過
不足量
  A6グループ      一五、三五一       一五、三六二    
  一一
  A4グループ      一二、九八四       一七、〇八一   
四、〇九七
 (同新規コンビナート用)   (三七四)       (三四五)    
(△二九)
  A14グループ       七、七八七        七、八四八   
   六一
  A19グループ     一一、一九七       一一、九四六    
 七四九
  A20グループ       七、二三〇        七、二六一   
   三一
  A22      一二、五七七       一二、七一五     一三

  A23       三、八六六        三、七五三    △一一

  A24       一、四四一        一、四五一      一

  A25         四、二六一        四、二七九     
 一八
  A26       一、六八四        一、七六二      七

  A27       八、六五三        八、七三五      八

  A28       一、六〇四        一、五五五     △四

  A29       二、六六二        二、六三九     △二

  A30          八六八          八一九     △
四九
  (以上合計)    (九二、一六五)      (九七、二〇六)  
(五〇四一)
  A31         九七五          九八三       

  A32        一、六三八        二、三四二     七
〇四
    合計        九四、七七八      一〇〇、五三一   
五、七五三
            (単位千キロリツトル)
 A4グループの超過処理量は、A連盟が把握したところでは、五二万五千キロリ
ツトルだつたが、実際には右のように四〇〇万キロリツトル以上もあつたのであ
る。A19グループも約七五万キロリツトルという相当多量の超過処理をしてい
た。
 三、 昭和四八年度上期の生産調整
 1. 供給計画
 通産省鉱山石炭局石油計画課計画調査班長B6らは、昭和四八年一月下旬ごろか
らA連盟C3委員会に指示して昭和四八年度の需要予測作業を行なわせ、同作業は
同年二月末ごろ終了した。右の需要予測に使用した経済指標は経済企画庁が発表し
た実質国民総生産対前年度比伸び率一〇・七パーセント等であつた。
 右作業結果によると、昭和四八年度上期の本土分燃料油内需見通しは合計一億〇
四二四万キロリツトル(リターンベース)だつたが、石油計画課は例年のとおり右
内需見通しのうちナフサ及びF重油の数量をいわゆる需要原局である同省化学工業
局及び公益事業局の予測値で置き換え、通産省の上期本土分燃料油内需見通しを合
計一億〇三〇〇万キロリツトル(リターンべース)とした。通産省は、右内需見通
し等による需給計画等に基づいて昭和四八―五二年度石油供給計画を策定し、昭和
四八年三月一四日開かれたC2審議会に諮問して同月下旬これを告示した。
 右供給計画の基礎となつた昭和四八年度上期需給計画中の燃料油合計の需給並び
に沖縄三社の計画等に基づく同期の沖縄県の需給見通し及びこれを用いて右需給計
画を本土分に引き直したものは、次のとおりである。
              供給計画      沖縄県需給      本土

  四八年三月末在庫     一〇、六七八     五七七    一〇、一
〇一
  生      産    一〇九、五九六   四、六四六   一〇四、九
五〇
  (得    率)    (九二・〇〇)  (九二・〇〇)  (九二・〇
〇)
  輸      入      九、六八〇       〇     九、六
八〇
  沖縄から本土へ               二、九七四     二、九
七四
  本土から沖縄へ                  二一        
二一
  内      需    一〇三、六五四     六五四   一〇三、〇
〇〇
  輸      出     一〇、〇七八   一、〇三九     九、〇
三九
  四八年九月末在庫     一六、二二二     五七七    一五、六
五四
  原油処理        一一九、一二六   五、〇五〇   一一四、〇
七六
           (単位千キロリツトル)
 2. A連盟の適正需給計画
 イ、 被告人A3は、昭和四八年二月二二日C7を開備し、昭和四八年上期にも
前期に決定した配分比率を用いて生産調整を行ないたい旨提案し、次回までに各社
の回答を求めたが、A4の委員B12は、生産過剰を来たしている高硫黄分のF重
油については問題が残るが、需給情勢から見てこれまでのような生産調整はやめた
らどうかと述べた。しかし、次回の三月二日のC7では、同被告人の提案どおり前
記比率で生産調整を行なうべきであるというのが多数の委員の意見であつた。
 A連盟には、昭和四一年七月二一日の「A連盟の機構改正に伴う運営方針」によ
り会長の諮問に答える少数の常任理事が置かれたが、昭和四六年ごろこれが廃止さ
れ、これに代つてC10会という会合が設けられ、当初はA連盟会長の経験者が、
その数か月後からはA22、A6、A23、A14、A4、A20、A16などの
大手の会員会社の社長が会員となつて定例的に集まり、会長が会員の意見を開き、
相談する機関としての役割を果していた。被告人A3は、昭和四八年三月七日開か
れたC10会に出席、前記のように昭和四八年度上期にも前期比率により生産調整
を行ないたいという方針を説明して了承を得、この旨を需給副委員長B8、事務局
業務部長代理B2らに伝えた。
 ロ、 B2及び業務部需給課員B11らは、同被告人の意向に従い、前記C3委
員会の内需見通し等に基づいて同年三月二二日付の「四八年度上期需給見通し」を
作成した。右見通しの燃料油合計の需給は次のとおりである。
  四八年三月末在庫        一〇、二五一
  生   産          一〇五、〇一九
  (得 率)          (九二・〇〇)
  輸   入           一〇、二三〇
  沖縄から持込み            四三五
  内   需(リターンベース) 一〇二、八一四
  (同チヤージベース)    (一〇四、〇一四)
  輸   出            九、一一七
  四八年九月末在庫        一四、〇〇四
  原油処理           一一四、一五一
                (単位千キロリツトル)
 右見通しにおいて、F重油の需要については、電力会社の原油生だきの見込みを
考慮して、C3の見通しのうち一二〇万キロリツトルを上期から下期に移した。ま
た期末在庫についてはA連盟の判断した「適正在庫」を採用し、灯油の期末在庫は
下期の需要を考慮に入れて通産省の需給計画が必要としている四五日分(三七三万
一千キロリツトル)を超える五七日分(四七三万キロリツトル)を確保することに
したが、ナフサ及びF重油の期末在庫は従来の方式により、通産省の需給計画より
少なかつた。
 この需給見通しを前記供給計画を本土分に引き直したものと比較すると、内需及
び期末在庫は供給計画より若干少ないが、沖縄からの持込み量等の関係で、生産量
及び原油処理量は逆に若干多くなつている。全体として見ると、両者には大差がな
いということができる。被告人A3及びB2は、同年四月初めごろ、通産省鉱山石
炭局石油業務課を訪れ、右のA連盟の需給見通しについて同課長D26に説明し、
その了承を得た。
 需給課では、右需給見通しに基づき同年四月二日付で「四八年度上期月別適正需
給計画」を作成した。それによると、前記原油処理量から算出した一般内需用輸入
原油処理量(配分総枠)は八九七六万七千キロリツトルであつた。被告人A3は、
同年四月二日A14でC7を開催して右需給計画を配布し、右総枠に基づき生産調
整を行なう方針を説明して承認を受けた。
 3. C7の配分決定(公訴事実第二にあたる行為)
 被告人A3は、昭和四八年四月初めごろB8を介してA連盟会長たる被告人A2
に前期の比率で生産調整を行なうことについて了承を得た上、前期同様C7におい
てA連盟の業務として、前記上期の一般内需用輸入原油処理量を総枠として配分を
行なうことにした。
 そこで被告人A3は、需給課に前記総枠に基づく配分案を作成させたが、その
際、昭和四八年度上期中に設備能力の増加するA30の要望を容れ同社の生産する
石油化学等用ナフサを他社同様生産調整の外枠とすることにしたので、需給課では
昭和四七年一一月二一日決定の前期配分比率を計算し直し、各社の配分比率には前
期比率と僅かな差が生じた。
 同被告人は、昭和四八年四月九日A連盟事務所会議室においてC7を開催した。
出席者及びその所属は次のとおりであつた。
 委員長   A14グループ  A14     被告人 A3
 副委員長  A6グループ  A6     B8
 委員    A4グループ  A4     B12
 副委員   同       同        D38
 副委員   A19グループ A19    B13
       同       A16     D39
 副委員   A20グループ  A20     B15
 副委員           A22     D43
 委員            A23     D41
 委 員           A24     B16
 副委員           A25 B17
 委員            A26   D42
 副委員           A27   D44
 委 員           A28   D45
 委 員           A29     D27
 副委員           A30    B19
 事務局業務部長代理              B2
 右C7において昭和四八年度上期の前記配分案は出席委員、副委員に異議がな
く、決定された。その内容は次のとおりである。
            配分量(単位千キロリツトル) 配分比率
  A6グループ    一四、四六〇       一六・一〇八
  A4グループ    一二、七四九       一四・二〇二
  A14グループ     七、三二三        八・一五八
  A19グループ   一〇、五一六       一一・七一五
  A20グループ     六、八三四        七・六一三
  A22    一一、九三四       一三・二九五
  A23     三、六五八        四・〇七五
  A24     一、三五六        一・五一一
  A25       四、〇五三        四・五一五
  A26     一、五八五        一・七六六
  A27     八、一四一        九・〇六九
  A28     一、五二二        一・六九五
  A29     二、五八九        二・八八四
  A30        七一五        〇・七九六
  (以上合計)   (八七、四三五)     (九七・四〇二)
  A31       九一七        一・〇二二
  A32      一、四一五        一・五七六
    合 計     八九、七六七      一〇〇・〇〇〇
 右表のA6グループからA30までの配分量は、起訴状別紙割当一覧表中「昭和
四八年上期分」と同一である。
 なお、右C7では前記(本節二11ホ)のように昭和四七年度下期分の追加配分
も行なわれたのである。
 また、右C7においてB2は、通産省の指示に基づき、業法計画を届け出る前に
昭和四八年四月一六日までにA連盟に上期の生産計画を提出するよう要請した。
 4. 生産計画の届出
 イ、 右要請により昭和四八年四月一六日A連盟に提出された昭和四八年度上期
の生産計画は、各社が一般内需用輸入原油処理量については前記配分量に従い、こ
れに製品輸出量及び石油化学等用ナフサ生産量相当量並びに国産原油処理量を加え
たものを原油処理量として作成したもので、需給課が集計した結果では総原油処理
量が一億一四五九万九千キロリツトルとなり、前記供給計画(本土分換算)、適正
需給計画のいずれをも上回つていたが、得率が九〇・三一と低く、燃料油の生産量
は合計一億〇三四九万五千キロリツトルでこれらより少なかつた。そこで被告人A
3は、通産省の意向により、B2らと相談して、右原油処理量に従い、得率を供給
計画のとおり九二・〇〇として計算し、生産量を一億〇五四三万一千キロリツトル
とした同年四月一八日付の「昭和四八年度上期需給見通し」を需給課に作成させ、
同月一八日B8、B9各副委員長及びB2と共に通産省を訪れ、石油業務課長D2
6及び石油計画課総括班長D46に対し右見通しを示して説明したところ、D26
は「供給計画が出来てすぐではあるが、中間留分の需要が供給計画以上に伸びそう
なので、もつと増産してもらいたい。とりあえず四月から六月までを見たいから、
計画を出し直してもらいたい。増産体制(各社への配分を意味する。)については
お任せする。」旨要請し、今後毎月需給動向を見て生産目標につき協議することを
同被告人と合意した。
 そこで同被告人は同年四月二三日C7を開催し、通産省の要請を伝え、四―六月
の生産計画提出を指示した。各社は中間留分の生産量をふやした四―六月の生産計
画を作成して同年四月二六日A連盟に提出し、同連盟需給課ではこれを集計して同
日付の「四八年四月―六月需給見通し」を作つた。
 各社の業法による生産計画も、右の計画数量に基づいて同年四月二六日までに通
産省に提出された。その集計結果では、本土分の総原油処理量が一億一六九七万七
千キロリツトル、燃料油生産量が合計一億〇六四五万キロリツトルとなつた。
 被告人A3は、同年五月一〇日ごろ前記各副委員長及びB2と共に通産省を訪
れ、D26課長らに前記四―六月需給見通しを説明し、その了承を得た。
 ロ、 D26課長は、被告人A3に対する要請とは別に、同年四月下旬ごろA4
取締役仕入部長B12(C1委員)に対し増産の要請をした。B12はA4グルー
プにおいて中間三品三〇万キロリツトルを増産する旨回答して了承を得たので、A
4グループは同年四月二六日の前記四-六月計画において一般内需用原油処理量が
同年四月一六日の計画と比べ一三五万キロリツトル多い計画数量を提出した。
 5. 生産調整の実施
 イ、 各社の前記昭和四八年四月二六日付四―六月生産計画の集計によると、一
般内需用輸入原油処理量合計が同年四月一六日付計画の四―六月分と比べ一八五万
キロリツトル超過していた。
 そこで被告人A3は、B8、B9と協議して生産調整の総枠を一八〇万キロリツ
トル増加し、これを当初配分の比率で追加配分することとし、B2に指示して資料
を作成させた上、昭和四八年五月一一日C7を開催した。
 右C7には通産省鉱山石炭局石油業務課需給班商務係長B20が出席し、沖縄か
らの持込みに伴う関税割当返上分を再使用して各精製業者に重油の輸入を認める方
針について説明した。そのあとで被告人A3は、一八〇万キロリツトルの追加配分
についてC7の承認を得、更に前記のとおり一三五万キロリツトルの増処理を計画
しているA4グループに対し、同日の追加配分量を超える一一〇万キロリツトルを
七―九月で調整するように指示したが、A4グループから出席していたD47は、
通産省の指示による増処理であるから調整できないと返答した。これに対し二、三
の他社の委員は、A4グループだけが枠外の処理を認められてフル生産するのはお
かしいと主張した。結局次回にA4のC1委員B12に出席してもらうことになつ
た。また、このC7では昭和四七年度下期分の過不足調整を行なうことがきまつ
た。提示された超過処理量合計は一六二万一千キロリツトルであつた(後に一六二
万キロリツトルと訂正)。
 ロ、 次回の昭和四八年五月一四日のC7にはB12が出席し、通産省から直接
命令を受けて増産しているのだからA4グループの増処理分一三五万キロリツトル
は生産調整と別枠にしてもらいたいと主張して、論議が行なわれたが、前回同様他
社の反撥が強かつたので、B12も七―九月で調整することを一応了承し、内部で
相談すると述べた。しかし、同月一六日B12は被告人A3に対し、グループ各社
が通産省の指示を受けて既に増処理しているのでグループ内の調整がつかないと回
答した。
 このようにA4グループの増処理問題が紛糾したので、被告人A3は通産省を交
えた三者会談で話し合つて解決しようと考え、同年六月一日都内のH4ホテルで通
産省のD26課長、A連盟の被告人A3、B8、A4のB12らが会合した。被告
人A3は、D26に対し、一部の会社に増産を命じて業界の秩序を乱すのは困ると
苦情を言つた。D26は、A3とB12との板ばさみになつて具合の悪い立場に立
たされたが、「通産省としては増産指導はしたが、各社間の問題にはかかわりたく
ない。A4も業界と協調して超過分の調整に努力し、できない分はまた委員長に頼
んでみたらどうか。通産省は業界内の生産調整には表面上ノータツチである。」旨
述べ、B12も超過処理の調整に努力すると述べて、一応円満に会談を終つた。
 ハ、 一方、通産省石油計画課では、計画調査班長B6が需要増加の情勢にかん
がみ、同年五月中からA連盟需給課のB11と連絡し、C3委員会の数名の委員に
依頼して簡便な方法による期中の需要見直し作業を行なわせた。六月中旬に出た右
見直しの結果によると、本土分の上期内需は一億〇八三六万六千(リターンベース
では一億〇七三〇万三千)キロリツトルで、当初のC3予測と比べ三一五万二千キ
ロリツトルの増加となつた。
 A連盟需給課は、右需要見直しに基づいて同年六月二〇日新たな需給見通し及び
「修正適正計画(六月二一日付)」を作つたが、右計画によると一般内需用輸入原
油処理量は九四九九万五千キロリツトルとなり、四月二日付の適正計画と比べて五
二二万八千(五月一一日の追加配分量を差し引くと三四二万八千)キロリツトルの
増加となつた。被告人A3は、右一般内需用輸入原油処理量に各社の前期超過処理
量合計一六二万一千キロリツトルを加えたものを新たな総枠とし、増加分合計五〇
四万九千キロリツトルの追加配分を行なうこととし、同年六月二一日C7を開催
し、右追加配分について承認を得、これに基づいて同月二五日までに月別生産計画
をA連盟及び通産省に提出するよう指示した。
 ニ、 被告人A3は同年六月二八日C1委員会委員長の職を退き、代つてA20
常務取締役D48が同委員長に就任した。またそのころ、同委員会副委員長にはB
8、B9に代つてA6取締役D32が就任し、またC1委員には原則として各社の
専務又は常務取締役をあてる方針がきまり、各社のC1委員の交代が行なわれた。
更にD48委員長の方針により、同年七月五日のC7を最後として、C1委員会は
従来のC7という形態の会議を廃止し、C1委員全員を招集する会議で生産調整に
関する事項をも審議、決定することとされた。
 ホ、 同年六月二五日A連盟に提出された生産計画によると、上期の一般内需用
輸入原油処理量において、A4グループが一五〇万七千、A19グループが八〇万
三千キロリツトル配分枠を超過していたので、D48委員長は同年七月五日分C7
で処理量を枠内にとどめるよう指示した。
 D48委員長は、就任後直ちにA20のB15を座長とし、各社の若手社員から
成るスタデイチームを発足させて需給事情の調査、適正需給バランス策定等に当ら
せた。
 これより先、通産省石油業務課のB1需給班長は、中間留分を中心とする需要の
伸びは前記C3の予測を上回るとの独自の判断に基づき同年六月二三日付で「四八
年度上期需給バランス(試案)」を作り、A連盟に検討させた。同試案は、C3門
見直しに基づく石油計画課の供給計画見直し案と比べ、上期内需において二〇九万
七千キロリツトルも差のあるものだつた。スタデイチームは両者を比較検討し、種
々の調査をして同年七月四日付で上期及び下期の需給見通しを作成した。D48、
D32、B15らは同年七月五日これらの資料を持つて通産省を訪れ、D26、B
1B6と協議した。その際、D26はB1の前記試案の需要を約七〇万キロリツト
ル少なく修正した需給バランスを口頭で説明したが、更に実績を見た上で協議する
ことになつた。
 D48は同月九日C1委員会を開催して需給問題を協議した。この日にも前記A
4グループの超過処理問題が論議されたが、結論は出なかつた。
 スタデイチームは、D48の指示によりその後更に内需の見直しをして、同年七
月二〇日付で「四八年度上期需給バランス(本土分)」を作つた。これによると内
需は一億〇九七四万七千キロリツトルに増加し、一般内需用輸入原油処理量は九七
三三万四千キロリツトルとなり、六月二一日付の修正適正計画を二三三万八千キロ
リツトル上回つた。そこでD48は同月二三日C1委員会を開催し、同委員会は右
二三三万八千キロリツトルを追加配分した。この追加配分によつてA4クループの
同年七月一二日付一般内需用処理計画による下期の超過量は七四万一千キロリツト
ルに減少したが、七月三〇日のC1委員会てその半分を棚上げすることか承認され
た。
 D48は、更に同年八月一三日各社から八、九月の生産計画を提出させて生産動
向を把握した。
 同年八月一六日のC1委員会には資源エネルギー庁石油部精製流通課長となつた
D26が出席し、「このまま増産を続けるとガソリン、ナフサ、F重油が過剰にな
る。需給、営業両委員長にもお願いしているが、業界各位もガソリン、ナフサの生
産の灯油への移行を極力進められたい。」旨要請した。
 6. 生産調整の実績
 イ、 昭和四八年度上期の燃料油内需は上昇を続け、その内需実績は合計一億〇
八二〇万六千キロリツトルとなり、供給計画の基礎となつた内需見通しを約四五五
万キロリツトル上回つた。ほとんど各油種とも供給計画を上回つたが、特に灯油、
軽油の増加が大きかつた。生産量もそれを超えて上昇し、燃料油の生産実績は合計
一億一六三九万九千キロリツトルとなつて供給計画を約六八〇万キロリツトル上回
り、特に灯油、軽油の増加が著しく、その得率も上昇した。製品在庫を見ると、昭
和四八年三月末の合計一〇六一万五千キロリツトルが同年九月末には一七四〇万六
千キロリツトルと増加し、灯油の期末在庫は五五〇万九千キロリツトルで供給計画
を約一七五万キロリツトルも上回つた。(以上の数量は、資料の関係で沖縄含み、
内需リターンベースである。)
 通産省の増産指導の効果は顕著であつたということができる。
 ロ、 生産調整の対象となる原油処理の実績及びこれと最終的処理可能量(当初
配分量に前期過不足調整及び三回の追加配分を施したもの。ただし、A4グループ
の棚上げ分三七万一千キロリツトルは含まない。)との比較は、次のとおりであ
る。実績は、前期同様A連盟の把握したものではなく、検察官が本件捜査の過程で
収集し、証拠として提出した資料に基づき当裁判所が認定したものである。
             処理可能量      処理実積      過不足

  A6グループ    一五、七一六    一五、六九四       △二

  A4グループ    一三、三四三    一六、四〇六     三、〇六

  A14グループ     七、九四四     七、五五三      △三
九一
  A19グループ   一一、二〇〇    一二、一三四       九三

  A20グループ     七、四三八     七、四二〇       △
一八
  A22    一二、七七二    一三、〇八一       三〇九
  A23     三、九五〇     三、六〇七      △三四三
  A24     一、五〇四     一、三三七      △一六七
  A25       四、四四五     四、〇四八      △三九七
  A26     一、六八二     一、七〇六        二四
  A27     八、七八〇     八、九七三       一九三
  A28     一、七〇四     一、七三〇        二六
  A29     二、八四〇     二、八二四       △一六
  A30        七八〇       七七九        △一
  (以上合計)   (九四、〇九八)  (九七、二九二)   (三、一九
四)
  A31     一、〇三〇     一、〇二四        △六
  A32      二、二〇六     二、二六七        六一
   合  計     九七、三三四   一〇〇、五八三     三、二四

             (単位千キロリットル)
 三次にわたり合計九一八万七千キロリットルに及ぶ追加配分が行なわれた関係も
あつて、右のように処理実績が処理可能量に達しない会社もかなりあつた。しか
し、A4グループは約三〇六万、A19グループは約九三万キロリットルという多
量の超過処理をしていた。なお、A連盟の把握した右各グループの超過処理量は、
前者が五九万一千、後者が五二万六千キロリットルであつた。
 四、 競争の実質的制限
 1 配分決定の拘束力
 前記の昭和四七年一〇月三一日及び昭和四八年四月九日における本件配分決定
は、その対象となる石油精製業者各グループ又は会社に対し当該期間中に処理する
原油量のうち一般内需用輸入原油処理量を配分量に制限するものであり、実際上は
右原油処理量が配分量を超えてはならないという抑制的な面にその意義があつた。
 そして、右配分決定は、A連盟の決定として、その会員から成る前記五グループ
九社(A31、A32を含まない。)に対し、これに従わなければならないという
事実上の拘束力をもつていた。
 精製業者は、石油業法により通産省に対する生産計画及びその変更の届出を義務
づけられており、そのほかにも通産省及びA連盟から月別生産計画等の提出を求め
られていたことは前述のとおりであるから、前記原油処理量の制限は、さしあたり
生産計画上の数量の制限として作用した。もつとも、昭和四七年一一月七日の生産
計画変更届は、前述のとおり配分量そのものに基づくものではないが、それと同じ
比率で割り当てられた、これより若干多い「通産省用」の一般内需用輸入原油処理
量に基づくものであつた(本節二9イ、10)。
 昭和四七年度下期及び昭和四八年度上期は、各精製業者が右のような制限を受け
ることなく生産計画を立てたならば、その計画による一般内需用輸入原油処理量の
合計が当初配分量の合計(配分総枠)を相当上回り、ひいては総原油処理量がA連
盟の需給計画を超過する情勢にあつた。このことは、次のような事実から推説する
ことができる。
 即ち、沖縄県を除くわが国内の石油精製設備設計能力(帝石トッピングを含
む。)は、昭和四七年度下期には一日四六八万九三六〇バーレル、昭和四八年度上
期には前記行政指導(四節五7)に従い新増設設備能力を五〇パーセントとして一
日四八〇万〇八六〇バーレルであつたところ、右各期の当初配分総枠の根拠となる
A連盟の需給計画(本節二9ロの昭和四七年一〇月三一日付業界計画、同三2ロの
昭和四八年四月二日付適正需給計画)における総原油処理量は、昭和四七年度下期
の当初配分において一億一七七六万七千キロリットル(前記設計能力に対する稼働
率約八六・八)、昭和四八年度上期の当初配分において一億一四一五万一千キロリ
ットル(同稼働率約八二・二)であつたから、全体として見れば設備に余裕のある
数量であり、会社によつては稼働率がこれよりかなり低くなるのである。他方、通
産省のB1需給班長が昭和四七年一〇月二三日内需処理規模は各社の任意として提
出を指示した同月二七日付の昭和四七年度下期分の暫定的な生産計画(本節二7
イ)を集計した結果では、総原油処理量は一億二五三九万七千キロリットル(前回
稼働率約九二・四となる。)で、前記同月三一日付A連盟計画を七六三万キロリッ
トル、約六・五パーセントも上回つていた。また、これを通産省の同年一〇月二八
日付需給計画(本土分)(本節二7ロ)の一億一九四四万一千キロリットル(前同
稼働率八八・〇)と比較しても、これを五九五万六千キロリットル、約五・〇パー
セント上回つていた。もつとも、右暫定的計画における内需用燃料油生産量合計
は、通産省の計画を二二一万八千キロリットル、約二・二パーセント上回るにすぎ
なかつたのであるから、右計画の前記総原佃処理量には若干水増し分が含まれてい
ることも考えられるが、各社が自由に生産計画を立てた場合A連盟の計画を相当上
回つたであろうことは確かである。
 したがつて、本件各配分決定は、まず期初において各社が業法計画を作成するに
ついて抑制作用を及ぼしたのであるが、期中においても、C1委員長は、各社から
A連盟あてに提出させた月別等の生産計画に基づき、配分量を著しく超える原油処
理計画を立てているグループ又は会社に対し、C7において配分量を守るよう注意
していた。また、特に多量の処理計画を提出した会社に対しては、他社の委員が非
難することもあつた。
 他面、通産省も各社が生産計画に従つた生産を行なうことを要望していた。通産
省は、各社から業法計画の届出を受けるほか、A連盟フオームによる月別等の生産
計画を提出させ、また前月の原油処理、生産実績及び在庫量等を報告させ、生産調
査委員会において生産動向を調査、監視し、超過処理を注意するなどして、個別
に、又はA連盟を介し生産指導を行なつていた。もつとも、昭和四七年度下期及び
昭和四八年度上期には中間留分増産の指導が多かつたことは、前述のとおりであ
る。したがつて、精製業者の原油処理量は、通産省及びA連盟の両面から制限を受
けていた。
 更に、A連盟では、需給課が各社の一般内需用輸入原油処理実績を調査し、これ
を配分量(正確に言えば処理可能量)と比較して過不足量を算出し(本節二12
ロ)、前述のとおり昭和四七年度下期、昭和四八年度上期とも前期の過不足量に基
づいてC1委員長がC7において過不足調整(本節一4)を行なうことを指示し、
承認させていた。
 右のようなC7におけるC1委員長の注意や過不足調整の措置によつて本件各配
分決定は拘束力を保障されていたが、生産調整の実績(本節二12ロ、三5ロ)を
見ると、本件各配分決定は必ずしも十分に守られていなかつた。もちろん、かなり
正確にこれを守つたグループ、会社や、処理実績が処理可能量に達しなかつたグル
ープ、会社もあつたが、前記のようにA4グループの超過処理量はすこぶる多量で
あつたし、A19グループの超過処理量も少なくなかつた。A31、A32を除く
全体の超過処理量を見ても、昭和四七年度下期には五〇四万一千キロリットル、昭
和四八年度上期には三一九万四千キロリットルで、それぞれ処理可能量の五・五パ
ーセント、三・四パーセントにあたる。これはA連盟が当時把握した数量よりもは
るかに大きい。それは各社の統計報告の中に過少申告があつたためである。
 A4グループも、建前としては配分決定を遵守すべきものとして受け取り、その
代表C1委員は、これを守るよう努力すると言明していた。同グループが配分量を
右のように大幅に超過したのは、設備能力の割に配分量が低く抑えられていたこ
と、グループ内の統制をとることが困難だつたこと、昭和四八年度上期には通産省
が同クループに対し個別的に増産を要請したこと(本節三4ロ)などの事情による
ものであるが、それにしても同グループは、結果的には配分決定を守つたとはいえ
ない。
 右のような事実から見て、本件各配分決定の拘束力は、さして強いものではなか
つた。
 2 製品販売競争の制限
 前述のとおり、本件各行為は、沖縄県を除くわが国内の精製設備能力の九七パー
セント余りを占める設備を保有する石油精製業者から成る五グループ九社に対し、
各自の、したがつてまたその合計の一般内需用輸入原油処理量を制限したものであ
り、その制限の対象となつた原油処理量(配分総枠)の総原油処理量(A連盟計
画)に占める割合は、昭和四七年度下期には約七八・五パーセント、昭和四八年度
上期には約七六・六パーセントであつた(A31、A32を含めた場合については
本節一3)。このような原油処理量が前述のようにある程度の拘束力をもつて制限
されたことにより、右五グループ九社における一般内需用の石油製品の生産量も相
当程度抑制された。
 もちろん、原佃処理量の増減は、それと全く同じ比率で各石油製品の生産量の増
減をもたらすとは限らない。原油の種類及びその組合せを変更することにより各留
分の得率を変動させることが可能であるし、精製工程においてナフサと灯油、灯油
と軽油の間などである程度得率を変動させることもできるから、精製業者は需要構
造に応じ適切な得率を得るように努めるからである。しかし、得率の変更には限界
があり、全体の得率が急激に変化するものではないから、本件における原油処理量
の制限は、全体としてはもちろん、会社別にも概ね、一般内需用の各製品の生産量
及びその合計をある程度減少させるものであつた。もつとも、ガソリンについて
は、技術的には石油改質装置の能力の及ぶ限りナフサからこれを生産することが可
能であり、石油分解装置を備えている業者はこれによつてガソリンの生産量を増加
させることができるから、原油処理量の制限だけでその生産を計画に適合するよう
に抑制するのは困難である。そのため、ガソリンの生産、販売については別段の調
整措置がとられていた。しかし、精製業者は、燃料油油種別生産量等について業法
計画、月別生産計画、毎月の生産実績等を提出しなければならず、これに基づいて
通産省及びA連盟から各油種の生産量についても指示を受けていたのであるから、
このことと結び付いて、本件原油処理量の制限は、基本的にはガソリン生産量の抑
制にも役立つものであつた。
 このような石油製品の生産量の抑制は、元売業者間の販売競争を減少させる効果
をもつものである。燃料油はその性質上在庫量に一定の限度があるから、生産が需
要に比して比較的僅かでも過剰になると、元売業者は売り急ぐ必要に迫られ、いわ
ゆる業転(業者間転売)物が多く出回ることにもなり、競争が激化する。各精製業
者の生産量を抑制することは、この状態を緩和し、競争を減少させる方向に作用す
る。
 このように、本件各行為は、沖縄県を除くわが国における全体としての石油製品
市場において、元売業者間の一般内需用各石油製品の販売競争を全体として見て、
その競争機能を減退させ、有効な競争を期待することがほとんど不可能な状態をも
たらす効果をもつものであつた。このようにして、被告人A2、同A3は、B8ら
と意思を共同して本件各行為を行なうことによつて、右取引分野における競争を実
質的に制限した。
 第五 証拠の標目(省略)
 第六 構成要件該当性
 <要旨第四>一、 総説
 被告人A2、同A3が前記のとおりB8らと意思を共同して、被告人A連盟の業
務に関し、昭和四七年一〇月三一日及び昭和四八年四月九日の二回にわたりC7委
員会において、石油精製業者五グループ及び九社に対し一般内需用輸入原油処理量
を配分してそれぞれの右原油処理量を制限し、これによつて一定の取引分野におけ
る競争を実質的に制限した各所為は、いずれも昭和五二年法律第六三号による改正
前の(同法附則九条により改正前の規定が適用される。)私的独占の禁止及び公正
取引の確保に関する法律八九条一項二号、九五条二項、八条一項一号、刑法六〇条
に該当する。以下、右所為の構成要件該当性に関する主な問題点について説明す
る。
 二、 本件罰則における行為主体
 独占禁止法八条一項本文は「事業者団体は、左の各号の一に該当する行為をして
はならない。」と定めている。したがつて、これは、法人であると否とを問わず
「事業者団体」に対する禁止規定であり、同法が本来事業者団体を右規定の定める
違反行為の主体と見ていることは明らかである。しかし、団体の行為とされるもの
は実際には自然人の行為によつて行なわれるのであるから、前記行為をしてはなら
ないという法規範が一定の自然人にも課せられていることはいうまでもない。そう
して、同法の罰則については刑法の一般原則が適用され、いわゆる両罰規定等、自
然人が違反行為をしたときに法人その他の団体に刑を科する旨の明文の規定がある
場合を除き、犯罪となるのは自然人の行為だけであると解すベきである。したがつ
て、同法八九条一項二号にいう「第八条第一項第一号の規定に違反して一定の取引
分野における競争を実質的に制限したもの」とは、事業者団体自体ではなく、前記
法規範に反し、事業者団体が同法八条一項一号に違反したことになるような行為を
した自然人を指すものと解しなければならない。そして、事業者団体が法人でない
場合については同法九五条二項が「法人でない団体の代表者、管理人、代理人、使
用人その他の従業者がその団体の業務又は財産に関して、第八十九条(中略)の違
反行為をしたときは、行為者を罰するほか(以下略)」と定めているのは、右の趣
旨を明らかにするとともに、自然人を処罰する範囲及び要件を定めて構成要件を補
充したものと解することができる。A連盟のC1委員会委員長である被告人A3が
C7を主宰しC1委員らと共に実行した前記各配分行為即ちいわゆる生産調整が従
前から反復継続されてきたA連盟の業務に属することは前認定のとおりであるか
ら、同被告人は事業者団体であるA連盟の業務に関して本件各違反行為を行なつた
ものであり、A連盟の会長である被告人A2も右業務に関して被告人A3らと意思
を共同してこれを行なつたものというべきである。
 三、 数量の制限
 独占禁止法八九条一項二号は「第八条第一項第一号の規定に違反して一定の取引
分野における競争を実質的に制限したもの」と定め、その行為の具体的態様につい
て直接規定していないが、同法八条一項一号は、複数の事業者が共同行為により不
当な取引制限を行なうことについての同法三条の禁止規定を補充して、事業者団体
が事業者に右共同行為を行なわせ、又は事業者と共同してこれを推進するなどこれ
に関与し、あるいは団体の支配力をもつて個々の事業者の事業活動を拘束すること
によつて不当な取引制限を行なうことを禁止するための規定であるから、同法八九
条一項二号の行為は、不当な取引制限の定義規定である同法二条六項の掲げる各種
の行為と同様の行為態様を予定しているもの、即ち「対価を決定し、維持し、若し
くは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等」
事業活動を拘束するという行為態様によつて行なわれるものと解するのが相当であ
る。
 本件で問題になるのは右のうち数量の制限であるが、右「数量」は販売数量だけ
でなく、生産数量又は原料使用数量を含むと解すべきである。なぜなら、右規定中
の「技術、製品、設備」が販売に関するものだけでなく、生産過程に関するものを
含むことは事柄の性質上明らかであるから、「数量」について別異に解すべき理由
はなく、また、原料の数量の制限が生産数量の制限を、生産数量の制限が販売数量
の制限をもたらすことは経験上明らかだからである。このことは、また、同法一条
が「生産、販売、価格、技術等の不当な制限」を排除する意図を明示していること
からも明らかである。したがつて、本件の一般内需用輸入原油処理量の配分、即ち
五グループ九社に対する右処理量の制限行為は、数量の制限に該当する。
 弁護人らは、配分の対象となる原油処理総量は国が告示する石油供給計画に基づ
き通産省とC1委員長らが共同して策定するのであり、配分行為は石油業法上の制
度の運用として国の付託によりC1委員長らが行なつているのであるから、本件生
産調整はA連盟の意思で原油処理量を左右しているものではないと主張する。
 しかし、前記認定のとおり本件原油処理量の各配分総枠及びその配分は、被告人
A3らがA連盟の業務に関しC7において決定したものである。もつとも、その基
礎となる需給計画は事後的にせよ通産省が了承したものであるから、このような手
続で供給計画を実質的に変更することが適法であるかどうかは別として、通産省が
行なつた供給計画の見直しと同視することができる。しかしながら、供給計画は、
国が望ましいと考えるわが国全体の生産数量等を示すだけであつて、各精製業者が
指針とすることを業法が期待しているものではあるが、個々の業者に対し一定の生
産数量ないし原油処理量を指示するものではなく、もちろん何らかの割当数量に従
うべき法律上の義務を課するものではない。本件各配分行為は、一般内需用輸入原
油の処理について各業者又はそのグループに一定の制限量を指示し、その制限に従
うようその生産活動を拘束したものであるから、供給計画の制度が本来備えている
ある程度の制限作用を一段と強化する独自の数量制限を行なつたものというべく、
それが被告人A3らのA連盟の業務としての行為であることは前認定のとおりであ
る。
 四、 一定の取引分野
 検察官は、起訴状において、被告人らは「わが国の原油処理に関する取引分野」
における競争を実質的に制限したと主張し、論告において、石油業界においては原
油処理量の拡大をめぐり激しい競争が行なわれていたのであつて、競争の行なわれ
ている一つの場として原油処理の分野が存在したから、右分野が「一定の取引分
野」即ち競争の行なわれている市場にあたると述べている。これに対し、弁護人
は、原油処理とは石油製品製造過程における一工程にすぎず、取引市場を形成する
ようなものではないから、「原油処理の取引分野」なるものは存在せず、石油業界
に存在する取引分野は、各製品ごとに、地域別に、各取引段階で形成されている市
場だけであり、石油製品全体としての取引市場も形成されていないと主張する。
 そこで考えるに、なるほど原油処理とは原油を精製するため蒸留装置にかけるこ
とであるから、原油処理そのものの取引分野というものを考えることは困難であ
る。精製業者間に原油処理量の競争が行なわれていたことは前記認定から明らかで
あるが、それ自体は取引分野における競争とはいえない。しかし、原油の処理は商
品たる石油製品の生産を目的として行なわれるのであり、前記認定のとおり、生産
された石油製品は大部分、精製業を兼ねているか又はこれと提携している元売業者
によつて販売されるのであつて、元売業者間には販売競争が行なわれ、その競争の
行なわれる市場が形成されている。この市場は石油製品の種類ごとなどに細分され
ているが、沖縄県を除く国内の元売業者間の販売競争が行なわれる全体としての石
油製品市場もまた存在し、これをひとつの取引分野として把握することができる
(第四第三節二1)。
 本件各行為は、それが沖縄県を除くわが国のほとんどすべての精製業者に対し原
油処理量を制限したものであること、その他既に認定したその規模、態様及び効果
にかんがみると、右のような全体としての石油製品市場における競争を実質的に制
限したものと認められるので、右の市場が「一定の取引分野」に該当すると解する
のが相当てある。本件公訴事実を合理的に解釈すれば右の趣旨を含むものと解する
ことができるから、右認定は訴因を逸脱したものではない。
 五、 競争の実質的制限
 前記罰則は「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ことを構成要件
としているが、この行為は、具体的態様としては前述のとおり事業活動を拘束する
行為(本件では原油処理量の制限行為)によつて行なわれる。したがつて、一定の
取引分野における競争の実質的制限は、右具体的行為との関係においては結果であ
るが、その結果は、いわば右具体的行為自体に包蔵され、その拘束力の発生により
直ちに生ずる性質のものである。その意味で、これを効果ということもできる。
 このように事業活動を拘束する行為のもつ効果としての競争の実質的制限とは、
一定の取引分野における競争を全体として見て、その取引分野における有効な競争
を期待することがほとんど不可能な状態をもたらすことをいうものと解するのが相
当である。
 石油製品の市場においては、石油業法による規制及び同法の運用として又は同法
を背景として行なわれる行政指導等により既に広汎な競争制限措置がとられていた
ことは前記認定(第四第三節)のとおりであるが、その制限の下でなお有効な競争
が行なわれていたものと認められる。本件各行為が、このような状態にある前記取
引分野において、元売業者間における一般内需用各石油製品の販売競争の競争機能
を減退させ、右の意味においてその競争を実質的に制限したものであることは、既
に認定した(第四第五節四)とおりである。
 <要旨第五>第七 違法性
 一、 総説
 弁護人らは、被告人A3は、石油業法の運用の一環として、特に同法の定める石
油供給計画制度の実施として、通産省から原油処理量配分の実務遂行の一端を任さ
れて、いわば通産省の代行者として本件配分の作業に携わつてきたのであるから、
この行為は、通産省の行なう石油業法執行の一環に位置づけられるものであつて、
その目的において正当性を有し、石油製品の安定的かつ低廉な供給の確保に資する
という点において社会的妥当性を有し、法規範の具現行為であり法秩序の一部をな
すものであつて社会観念からの逸脱性は全くなく、法律秩序全体の見地から見て社
会的相当行為であつて、刑法三五条により違法性が阻却されると主張する。
 そこで考えるに、先ず、前記のとおり構成要件該当性が認められる本件各行為に
ついて、独占禁止法の規定の適用を除外する明文の規定が存在しないことは明らか
である。即ち、独占禁止法自体にも、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関す
る法律の適用除外等に関する法律」にも、また石油業法にも、石油精製業者の原油
処理量の制限行為について独占禁止法の規定を適用しない旨の規定も、またA連盟
に対し同法八条を適用しない旨の規定も存在しない。しかしながら、石油業法は、
いうまでもなく独占禁止法の施行後に、石油精製業等特定の事業について特別に制
定された法律であつて、独占禁止法の基礎とする競争促進政策の制限となりうる
「事業活動を調整すること」に関する規定を内容とするものであるから、もし本件
原油処理量の配分行為が、石油業法の定める供給計画制度を実施するため通産省の
指示又は委任に基づいて行なわれた措置で、同法がその運用として許容していると
解されるものであるならば、その行為は法令による行為又は正当な業務による行為
であり、刑法三五条により違法性が阻却されるといわなければならないし、そうで
ないとしても、右配分行為が通産省の任務に属する石油需給調整を実施するために
必要とされ、同省の指導ないし容認の下に行なわれた協力措置であるならば、事情
の如何によつては、正当な行為として刑法三五条の趣旨により違法性が阻却される
余地もないではないと考えられる。そこで、このような観点から、本件各行為の違
法性について検討する。
 二、 通産省による石油需給調整と独占禁止法
 1. 石油業法の性格
 石油業法制定の事情については既に述べたが、要するに同法は、原油の輸入自由
化に伴い、外貨割当制度に代つて、石油業の事業活動を調整する必要から制定され
た。当時の石油の需給事情から見て、放置すれば石油精製設備拡大及び石油製品生
産、販売の過当競争が激化するおそれがあつた。石油業法は、この事態に対処する
ため通産省が必要と考えた政策に基づいて立案された。
 石油業法一条は「この法律は、石油精製業等の事業活動を調整することによつ
て、石油の安定的かつ低廉な供給の確保を図り、もつて国民経済の発展と国民生活
の向上に資することを目的とする。」と定めているが、石油が国民生活及びあらゆ
る事業活動に必須の主要なエネルギー源かつ工業用原料であることにかんがみれ
ば、その安定的かつ低廉な供給の確保が国民全体の利益にかかわる極めて重要な要
請であることは言うをまたないところである。
 そこで右の目的を達成するために同法が定めた方策を概観すると、同法は、石油
精製業を行なうこと及び特定設備についてのみ許可制をとり(四条、七条)、これ
によつて長期的に安定した企業体制を整えることに最重点をおき、その大枠の中で
は業者の創意発揮及び原則として自主的な判断による生産を期待する建前のようで
ある。しかし、同法は、その大枠の中での需給調整ももちろん重視しているのであ
つて、そのため通産大臣が毎年度五年間の石油供給計画を定め(三条)、石油精製
業者に毎年度生産計画を作成して届け出させ(一〇条一項)、更に「石油の需給事
情その他の事情により、石油供給計画の実施に重大な支障が生じ、又は生ずるおそ
れがあると認めるとき」は、生産計画の変更を勧告する(一〇条二項)という制度
を設け、最終的には行政介入が行なわれることがあることを定めて、その背景の下
で業者が供給計画を指針として生産を自主的に調整するように仕向けているのであ
る。そうしてみると、同法は、長期的にも短期的にも、国による需給調整によつて
石油の安定的な供給を図ろうとする方針で一貫しているということができる。その
需給調整の主要な内容が、前記のような立法当時の情況から見て生産の抑制にあつ
たことも明らかである。
 また、石油業法は、安定的であるのみならず低廉な価格による石油の供給を目的
としているのであるが、同法一五条が、石油製品の価格が不当に下落するおそれの
ある場合を標準価格設定の一要件としていることからもうかがわれるように、同法
は、石油業者が企業努力だけでは事業を継続することが困難になるような価格の下
落や乱売の横行は安定的供給の確保の上から好ましくないという見地に立つている
と解される(B5証言三九回)。通産省が行なつてきた需給調整には、この見地に
基づく市況対策としての意義が多分に含まれていた。
 右のような性格をもつ石油業法上の制度は、独占禁止法の基礎とする公正かつ自
由な競争を促進する政策とは相容れない場面を招来することがありうるが、石油業
法は、前記目的を達成するために、その設けた規定の許容する限度で競争原理の機
能を制限したものと解すべきである。
 2. 供給計画の実施方法
 石油供給計画は、告示当初の年度以降五年間にわたるわが国全体の需要予測の上
に立ち、その需要を満たすに足りる供給量を示すものであるが、設備過剰の状態の
下においてそれのもつ実際上の意義は、短期的には石油製品の生産及び輸入の制限
量、長期的には設備許可枠の基準を示すことにあつた。供給計画のもつ生産制限と
しての役割はその時の需給事情により強弱の変化があるが、それが強いときほど各
精製業者の届け出る生産計画の合計が供給計画と一致することが強く望まれるの
に、その一致を期待することが困難になる。既に述べたとおり、供給計画は各業者
に対し一定の生産量を指示するものではない。各業者としては、自己の設備能力比
率又は市場占拠率あるいは供給計画の対前年度比伸び率などにより供給計画が自己
に期待するおおよその数量の目安をつけることはできるはずであるが、それに従う
義務はない。石油業法の明示する短期的な需給調整のための行政介入手段は前記の
通産大臣の勧告制度だけであり、その発動は前記要件がある場合に限られる。
 しかし、勧告の規定の適用だけで円滑な需給調整が行なわれると考えるのは現実
に即しない。同法の定める制度を合目的的かつ円滑に実施するには一定限度におけ
る通産省によるいわゆる行政指導か必要であることは、本件の審理に現われた行政
の実際から理解されるところである。
 通産省は、前記(第四第三節一)のとおり石油業法等に従い石油関係の行政を行
なう任務を有するのであるから、その行政目的を達成するため必要な限度において
行政指導を行なうこと、即ち石油業者等に対し特定の事項につき任意の協力、履行
を求めて働きかけることは、その指導の内容が法令に違反しない限り、また実質上
強制に等しいような不当な手段によるのでない限り、許容されると解すべきであ
り、石油業法もこのような行政指導による運用を予定していると解することができ
る。たとえば、通産省が生産計画の届出を受理するにあたり、その計画量が著しく
過大又は過小であると認める場合、個別的に修正を要請するような方法がそれであ
る。また、石油業法による勧告の要件が存在する場合にも、これを発動する前に行
政指導を行ない、相手方の同意を得て勧告と同様の目的を達成する方法が考えられ
る。同法による勧告そのものも、一種の行政指導にほかならず、強制力をもたない
ので、相手方がこれに応ずるとは限らないのであるから、その前段階として相手方
に勧告内容を示し、これに応ずるよう要請、説得することは、勧告制度の運用とし
て、許容されるところであると解される。
 3. 行政指導と独占禁止法
 右のような行政指導は、石油精製業者の事業活動を拘束するもので、独占禁止法
の基礎とする政策とは相容れないが、石油業法の解釈上許容される同法の運用と認
められる限り、これを違法ということはできない。また、通産省が個々の事業者に
対し個別に指導を行なう限り、共同行為等独占禁止法の禁止規定に形式的に違反す
る行為ではありえない。
 問題となるのは、通産省が多数の精製業者に対し、一律に石油処理量(製品生産
量でも同じである。)を制限する基準を定め、又は個々の業者の原油処理量を指示
した割当表を示してこれに従うよう指導する方法である。この方法は、個別的指導
を一括して行なつたものと見る余地はあるが、各業者は他の業者もこれに従うこと
を前提としてのみ従おうとする場合が多いであろうから、業者間の共同行為を招く
危険がある。これが行なわれた場合、業者の行為のみが違法であるとは言い難いで
あろう。また、このような方法は、国家統制的な色彩が強く、営業の自由の侵害と
なる疑いを生ずる。したがつて、それは、供給計画の実施に重大な支障を生ずるお
それが顕著で、その適正な実施のためやむを得ず行なう場合に限られるべきであろ
う。たとえば、業者の生産計画の集計結果が供給計画を著しく超過し、個別的に勧
告を行なつてもなお適正な計画変更が行なわれないことが明らかに予測される事情
があるような場合がこれである。
 更に、右の方法の統制的な色彩を避け、円滑に需給調整を行なう目的で、事業者
団体を指導して各業者に対する石油処理量の制限を行なわせる方法も用いられたこ
とがある。この方法は、行政指導による自主調整とも呼ばれるが、指導のしかたに
よつては実質的に前記の方法とあまり異ならないし、いずれにしても行政介入にな
る。しかもそれは、ほとんど常に共同行為を招くことになる上、事業者団体に対し
独占禁止法八条一項一号に形式的に違反する行為を指示することにほかならず、石
油業法がその運用として本来そこまで予定しているものとは解し難い。石油業につ
いても、独占禁止法の定める不況カルテルの要件を満たすに至り、共同行為を必要
とするときは、正規の手続をふみ公正取引委員会の認可を受けてこれを行なうべき
であるというのが法の趣旨であると解される。したがつて、右のような行政指導
は、一般に許容されないものといわなければならない。
 もつとも、刑法上の行為の違法性は、単に個々の法規の解釈によるだけでなく、
諸般の具体的事情を考慮し、法秩序全体の見地から判断されるべきものである。
 三、 本件各行為に対する評価
 1. 通産省の関与の程度
 前記認定のとおり、通産省は、昭和三七年度下期から昭和三八年度下期までA連
盟に対する行政指導により生産調整を行なわせ、昭和三九年一月からは自ら全精製
業者に対する行政指導(原油処理量の配分)により生産調整を行なつた。同省は、
昭和四一年九月一六日生産調整の撤廃を決定し、その後通産省の直接配分による公
然たる生産調整は行なわれなくなつたが、昭和四一年度下期にも前記(第四第四節
四2)の経緯で業界において生産調整が行なわれたのであり、右事実によれば、右
生産調整は通産省のA連盟に対する要請に基づいて行なわれ、通産省が容認してい
たものと認められる。昭和四三年度下期には前記(第四第四節五1)の経緯で生産
調整が再開されたが、右事実及び後記第八の三3の事実によれば、右生産調整も通
産省のA連盟に対する要請に基づいて行なわれ、通産省が容認していたものと認め
られる。このとき以来、A連盟は毎年度半期ごとにC7委員会において生産調整を
行なうようになり、それが慣行化した。通産省は、そのつど生産調整を要請するこ
とはしなかつたが、前記事実(第四第四節五1ないし4)によれば、これを容認
し、需給調整の行政に利用していたことが認められる。なお、以上述べた生産調整
は、前述のとおりいずれも原油処理量の制限を内容とするもので、基本的には同様
のものである。前記生産調整廃止に関する鉱山局長発言(第四第四節四1)には
「地下カルテル的行為は認められないこと」という一項もあつたが、右の事実によ
れば、通産省は右のような生産調整は地下カルテル的行為に該当しないものと解し
ていたと認めざるを得ない。
 本件生産調整は、A連盟が右慣行に従いC7において従前とほぼ同様の方法によ
り行なつたもので、通産省が当初から指示、要請したものではない。しかし、前記
認定に現われているとおり、同省鉱山石炭局の石油担当参事官、石油業務課長、同
課需給班長、石油計画課長(B5証言三六回、三九回)、同課計画調査班長(B6
証言四〇回)らは、A連盟が原油処理量を配分して生産調整を行なつていること、
各精製業者の業法計画は右生産調整による配分量に基づいて作成されていることを
知つており、担当官が生産調整の早期とりまとめを要請、援助し、また部分的には
配分基準、配分量等に介入した。これらの事実によれば、通産省は本件各行為を容
認し、これを需給調整の行政に利用したいということができる。
 2 通産省に対する協力
 昭和四七年度下期及び昭和四八年度上期に各精製業者が通産省に届け出た業法計
画の集計結果は、概ね通産省の需給計画に合致していた(第四第五節二10、三4
イ)。本件生産調整が行なわれず、各業者が自由な判断に基づいて生産計画を立て
たならば、その原油処理量及び生産量の合計はこれを上回つたであろう(第四第五
節四1)。その意味で、本件各行為は一応通産省の行政に役立つたといえる。もつ
とも、右各期とも内需の伸びが予想を上回り、ことに昭和四八年度上期にはそれが
著しかつたため、業法計画は過少となり、通産省は業法計画受理にあたりその修正
を要請したり、何回も増産を要請した。このような要請はすべてA連盟に対して行
なわれ、A連盟が所要の措置をとつた。右要請に応ずるため、C7は、昭和四七年
度下期には一回、昭和四八年度上期には三回、原油処理量を追加配分したが、この
配分も期初の配分と同じ比率によつて行なわれた(第四第五節二10、11、三
4、5)。このような生産調整の実施面を併せて見ると、本件生産調整は、通産省
が需給調整を合目的的かつ円滑に行なうことに寄与し、協力措置としての役割を果
したということができる。
 しかし、右各期の実績から見ると、内需実績がA連盟の見通しを大きく上回つて
いるので、当初の配分総枠が過少であつたことは明らかである(第四第五節二12
イ、三6イ)。このような結果論は別としても、右各期当初の需給事情にかんがみ
ると、本件のような生産調整を行なわなければ、通産省の供給計画ないしその見直
しの需給計画の実施に重大な支障を生ずるほどの生産過剰のおそれがあり、したが
つて本件各行為がやむを得ない措置であつたとまでは認められない(A3四九・
三・二四、二五検四項)。
 3. A連盟の自主性
 本件生産調整は、右のように通産省の行政に対する協力措置としての役割を果し
てはいたが、A連盟が通産省の意向に全面的に従つて、その代行者又は手足として
供給計画制度の実施にあたつたものとは認められない。たしかに、通産省は、石油
に関する行政事務を行なうにあたり、その作業の一部をA連盟の専門委員会、事務
局あるいは石油業者の従業員に指示、依嘱して行なわせていた。需要予測作業、供
給計画策定のための資料作成、生産計画の集計作業などはそれで、これらの場合に
はその作業はまさに行政事務の一部の補助にほかならなかつた。しかし、本件生産
調整はこれらと異なり、A連盟が全体として通産省の容認の下に行動しつつも、概
ねその自主的判断により内容、方法を決定し、これを通産省に承認してもらうとい
う形態で推進されており、その過程においてはA連盟の判断が通産省の意向と異な
ることもあり、かなり自主性を帯びたものであつた。
 たとえば、昭和四七年度下期には、A連盟は、通産省の指示によるC3の需要見
直しを参考としながらも、独自の判断により右見直しによる本土分内需を一〇〇万
キロリットル少なくした数量に基づいて需給計画(「適正需給計画」、「適正需給
バランス」、「業界計画」などと呼ばれている。)を作り、これに基づいて原油処
理量の配分総枠を算出した。その後通産省では右C3の内需見通しに灯油需要を三
五万キロリットル増量したため、昭和四七年一〇月三一日の段階では通産省とA連
盟との各需給計画における内需量の差は一三五万キロリットルとなつた。同日付の
A連盟の需給計画は結局通産省によつて了承されており、また沖縄県からの製品持
込み量等を考慮すると、通産省の需給計画のほうが合理的であるとは必ずしもいえ
ないのであるが、概してA連盟に需給計画の生産量及び原油処理量を通産省のそれ
より減らそうとする傾向があつたことは否定できない(第四第五節二2、3、7、
9、)。
 昭和四八年度上期には、A連盟が期初に作成した需給計画は全体として見て供給
計画と概ね一致していたから、この点においてA連盟の自主的判断は僅かしか働い
ていないのであるが、同期には、当初から中間留分を中心とする需要の増勢が顕著
だつたので、供給計画に基づいて配分すること自体がかなり生産抑制的な効果を生
ずることになつたのである。そこで通産省は再々A連盟に増産を要請し、A連盟も
これに協力して各業者の生産計画を増量させ、また三回にわたり多量の追加配分を
行なつたが、C1委員長は、その配分量についてはこれを厳守するよう要請し、前
記A4グループの増処理問題についても通産省に対し業界の自主性を主張したので
ある(第四第五節三1ないし5)。同期の生産量は需要を超え、在庫量が著しく増
加しているので(第四第五節三6イ)、通産省の増産要請はいささか性急に過ぎた
のではないかとも思われるが、このことは別問題である。
 そうして、A連盟のこのような自主的判断の裏には市況対策、即ち市場価格の維
持ないし引上げの目的が存在したことも否定できない(A2供述七四回、A2四
九・三・三検一、二項、同月二六検三項、A3四九・三・二四、二五検二項、B8
四九・四・二六検一項、B9証言一三回、B2証言四回、B21証言二二回、B2
2証言五二回、B14証言五二回、符四一「社長会議事録(一)」)。しかし、石
油の安定的供給を期するため価格の不当な下落を防止し、市況の安定を図ること
は、通産省の政策でもあつた。業界がそれ以上に市況対策に熱心だつたのはむしろ
当然のことであり、そのことが直ちに後述の生産調整についての違法の意識につな
がるものではない。
 4. 結論
 本件各行為は、前述のとおり独占禁止法罰則の構成要件に該当し、同法の適用を
除外する規定は存在しないのであるから、違法性阻却事由の存在しない限り違法で
あると認めるべきである。右各行為は石油業法の定める供給計画制度を実施するた
めに同法が許容する運用措置とは認められないので、法令による行為又は正当な業
務による行為にはあたらない。右各行為が通産省の容認の下に行なわれ、同省の行
政に対する協力措置としての役割を果していたことは認められるが、そのことから
直ちにこれを社会的に相当として正当な行為と認めることはできず、むしろ右各行
為が通産省の供給計画ないし需給計画の実施に重大な支障を生ずるおそれがあるた
めやむを得ないでした行為とは認められないこと、その内容、方法にA連盟の市況
対策としての配慮をした自主的判断が加わつていることなどの事情を考慮に入れ、
法秩序全体の見地から考察すると、右各行為は許容されるべきものとは認められな
い。したがつて、違法性阻却事由は存在しない。弁護人らの前記主張は採用できな
い。
 <要旨第六>第八 被告人らの責任
 一、 総説
 被告人A3及び同A2が本件各行為に際し前記構成要件(第六)に該当する事実
を認識していたことは、前記認定の事実(第四第五節)自体から推認することがで
きる。したがつて、特段の責任阻却事由がない限り、右被告人両名には故意があ
り、故意をもつて右各行為に出た責任があると認めるべきことになる。
 しかし、弁護人らは、右被告人らには違法性の意識及びその可能性がなかつたと
主張している。そこで、右主張にかかる事実の存否について判断することにする。
 もつとも、この点については、「犯意があるとするためには犯罪構成要件に該当
する具体的事実を認識すれば足り、その行為の違法を認識することを要しない」と
する法律判断が最高裁判所の判例として定着しているから、犯罪の成否の問題とし
ては右事実について判断する必要がないという見解もありうる。しかしながら右の
趣旨の判例は、違法であることを知らなかつたとの被告人の主張は通常顧慮するこ
とを要しないという一般原則を示したものであるか、あるいは当該事件においては
その主張に理由がないとするものであつて、行為者が行為の違法性を意識せず、し
かもそのことについて相当の理由があつて行為者を非難することができないような
特殊な場合についてまで言及したものではないと解する余地もないではない。そう
して、右の特殊な場合には行為者は故意を欠き、責任が阻却されると解するのが、
責任を重視する刑法の精神に沿い、「罪ヲ犯ス意ナキ行為ハ之ヲ罰セス」という刑
法三八条一項本文の文言にも合致する至当な解釈であると考える。
 昭和五一年六月一日の東京高等裁判所判決(高裁刑事判例集二九巻二号三〇一
頁)は「無許可の集団示威運動の指導者が、右集団示威運動に対し公安委員会の許
可が与えられていないことを知つている場合でも、その集団示威運動が法律上許さ
れないものであるとは考えなかつた場合に、かく考えなかつたことについて相当の
理由があるときは、右指導者の意識に非難すべき点はないのであるから、右相当の
理由に基づく違法性の錯誤は犯罪の成立を阻却する。」という前記と同趣旨の見解
の下に一被告人に無罪の言渡しをしたのであるが、右判決に対する上告審において
最高裁判所は「原判決の前示法律判断は被告人に違法性の意識が欠けていたことを
前提とするものであるところ、職権により調査すると、原判決には右の前提事実に
つき事実の誤認があると認められるから、所論について判断するまでもなく、原判
決中被告人に関する部分は、刑訴法四一一条三号により破棄を免れない。」旨判示
し(第一小法廷昭和五三年六月二九日判決、刑事判例集三二巻四号九六七頁)、事
実判断に基づき重大な事実誤認を理由として破棄差戻しの判決をしているのであ
る。右の職権調査が行なわれたことは、最高裁の判例に対する前記理解に支持を与
えるものと考えることができる。
 そこで、右被告人らにおける違法性の意識の存否につき、まず諸般の情況証拠
を、次いで右被告人らの供述を検討する。
 二、 違法性の意識の存在を推認させるような事実
 被告人A2、同A3らが意思を共同して本件の違法な各行為に及んだという事実
自体が、一般論としては、同被告人らに違法性の意識があつたことを推定させると
いうことができるであろう。しかし、後記三に示すような具体的事情の下では、右
の推定は働かないというべきである。右の一般論とは別に、右被告人らの違法性の
意識を推認させるように見える具体的事実として、検察官が指摘する次の二点につ
いて検討する。
 1. 「I1」等掲載のとりやめ
 A連盟が毎年発行している「I1」は、昭和三七年度から昭和四一年度上期まで
の生産調整については詳細な記事を掲載していたのに、通産省が生産調整撤廃を決
定した昭和四一年度下期以降の生産調整については触れていないこと(符一四の一
ないし一〇、符一四五、符一四六)、通産省鉱山局石油計画課、石油業務課編集に
かかる昭和四一年三月発行の「I2」(記録書証部分一四九一丁)にも生産調整に
ついての解説が掲載されているが、同省鉱山石炭局右各課編集にかかる昭和四五年
一一月発行の「I2」(符一五九)にはこれが掲載されていないことが認められ
る。
 しかし、被告人A3か右二種の刊行物の編集に携わつたこと、又は右のような編
集方針を左右しうる地位にあつたことは認められない。それどころか同被告人は、
右各刊行物が掲載していた前記記事を読んでいなかつたと認められる(A3供述七
二回)。また、被告人A2が前記各編集方針に関与したことも認められない。「I
1」が生産調整に関する記事を掲載しなくなつたのは、通産省が公式に生産調整の
廃止を声明した後に、なお行なわれている生産調整に関する記事を掲載するのは妥
当でないというA連盟事務局職員の判断によるものであつて、右被告人らの関知す
るところではなかつたと認められる(B10証言六三回)。したがつて、前記事実
は、右被告人らが違法性を意識していたことの証左とはならない。
 2. 資料の取扱い注意
 被告人A3は、昭和四七年一〇月一三日の前記C7において「社長会のことがI
3新聞に掲載されたので公取が動き始めるかもしれない。資料の取扱いに注意され
たい。」旨述べ、当日は資料を配付しなかつたこと、昭和四八年四月二日の前記C
7においても、公正取引委員会に対する配慮から資料の取扱いに注意するよう述べ
たことが認められる(A3供述七二回、B2証言四回、五回、B8証言一一回、B
12証言一七回、B13証言一七回、B16証言二〇回、B21証言二二回、B1
8証言二二回、B19証言五一回B14証言五二回、五三回)。
 しかし、この点について被告人A3は当公判廷(七一回、七二回)で、「生産調
整に関する資料が外部に流れた場合、それが通産省と無関係になされているように
誤解され易く、その場合には独禁法に違反するという疑いをかけられるおそれがあ
ると懸念していた。」「業界独自に勝手に生産調整をやつているのだととられて何
かお調べでもあつたら、それだけでも非常に業界としては損失が出てくる。当然新
聞に載るし、そういうことを配慮して皆さんに注意しなさいと申し上げた。その前
に通産から、多分D26さんからだつたと記憶するが、こうたびたび新聞に出たの
ではいかんではないかと注意を受けた。」「新聞に各社とのやりとりが興味本位に
書かれるのは、私として甚だ迷惑だつた。」「通産省の課長から昭和四七年度下期
の生産調整の時期に新聞記事の出所を調べろと言われたことがあり、また昭和四八
年三月ごろ供給計画の内容を業界が新聞にもらしたのではないかと厳重な注意があ
つた。」旨供述している。
 右供述にもあるように、通産省は需給計画等について、公表前にその内容が業界
から洩れ、新聞紙等に報道されることのないよう同被告人らを指導し、業界で行な
う生産調整に関しても同様の態度で臨んでいたことがうかがわれる(B8証言一三
回)。それでも業界紙等に右のような報道が載ることもあり、たとえば「I4」昭
和四七年九月一〇日号(符一〇四)は、「低迷続く下期石油製品需要」と題し昭和
四七年度下期の内需見直しについて詳細報道しているが、「仄聞するところによる
と」とか「一部憶測によつて補ないデッチ上げた」などと断わつている。またI3
新聞社発行の雑誌「I5」昭和四七年一〇月号(符九七)(同年一〇月一日発行)
には「ニュース展望」という欄に「下期の生産調整で対立、調整基準をめぐるA
4、A29、A28の反発」と題し、この問題につき相当詳細に事実を示した記事
が掲載されている。右各事実は、同被告人の前記供述を裏づける一資料となる。
 右の事実及び後記三の諸事実を併せて考えると、被告人A3の前記供述は概ね首
肯することができ、以上を総合すれば同被告人がC7で資料の取扱いに注意したの
は通産省の注意に基づくものであり、また公正取引委員会から誤解されて取調べを
受けることがないよう配慮したものであると認められる。したがつて、右の事実は
必ずしも同被告人に違法性の意識があつたことを推認させるものではない。
 三、 違法性の意識の不存在を推認させるような事実
 次に、前記被告人両名又はその一方が本件各行為に際しその行為の違法性を意識
していなかつたことを推認させる方向の事実として、次のような事実が認められ
る。
 1. 石油業法施行当初の事情
 イ、 原油処理量に関する生産調整は、昭和三七年七月一〇日の石油業法施行の
時から昭和四一年度上期に至るまで連続して、通産省又はその指示を受けたA連盟
が公然と行なつてきた。その経緯及びこれに関する通産省の政策については既に詳
述した(第四第四節一ないし三)。
 右の生産調整及びこれに関する通産省の積極的な政策については、当時の通産大
臣、通産省鉱山局長らが国会の委員会等において詳細に説明しており、昭和三九年
四月一日には生産調整を遵守すべき旨の通産大臣談話も発表されている。それらの
発言等の一部は既に引用したところであるが、これらによれば、通産省は、石油業
法施行当初から業界の自主的話し合いによる生産調整の重要性を強調して、基本的
にはこれに期待し、話し合いのつかない場合には行政指導を行なう方針を示し、現
にA連盟に対する強い行政指導により生産調整を行なわせ、A22の脱退によりA
連盟だけでは収拾がつかなくなつた後は、行政指導による生産調整は「石油業法運
用の一環」(前記大臣談話)であるとの見解の下に直接配分量を示して生産調整を
行なつたものであることが明らかである。
 ロ、 前掲同省鉱山局石油計画課、石油業務課編集にかかる昭和四一年発行の
「I2」には、石油業法下における昭和三九年度下期までの前記生産調整の推移に
ついて解説が掲載されている。また、A連盟が刊行している前掲「I1」の昭和三
七年分から昭和四一年版まで(符一四の一ないし五)には、前記生産調整を指示す
る文書等及びその生産調整の経緯に関する詳細な解説が掲載されている(B10証
言六二回、六三回)。
 ハ、 昭和三六年一一月から昭和三八年七月まで通産省鉱山局石油課長として石
油業法の制定、実施の任にあたつたB23は、同課編集にかかる昭和三七年版「I
2」(符一四八)のあとがきのなかで、石油業法について「業界の自主調整との関
連において政府の行政が遂行され、又業界の自主調整が円滑に行なわれるように行
政が誘導するという新しい政府と業界との協調体制を内容とする新しい形の法律で
ある。この理想は業法の運用により、政府と業界の協調体制が促進されて、必ずや
円滑に達成されるものと思われるとともに、A連盟等業界の中心となる人々の活躍
と協力とに期待するところが大きい。」と述べている(B23証言七六回)。
 ニ、 昭和三九年一月九日、A22脱退問題を審議した第一三回C2審議会で
は、前記のように会長や委員から、A連盟の生産調整に従わないA22を非難する
趣旨や、生産調整は独禁法に違反しないという趣旨の意見が述べられた(第四第四
節三4)。
 ホ、 前記期間中、公正取引委員会は右生産調整について何らの措置もとらなか
つたし、これに対する明確な態度も表明しなかつた(B23証言七七回)。昭和四
一年三月四日第五一回国会衆議院商工委員会において公正取引委員会委員長D49
は、D50委員の質問に対し、通産省と公正取引委員会はいろいろ話し合つて窮極
的には意見が一致している、行政指導による勧告操短はカルテルの隠れみのになり
やすいので、粗鋼の勧告操短は独禁法上の不況カルテルによるべきだと主張してい
るが、通産省の責任、権限もあるので推移を見守つている旨述べた後、「石油等の
問題につきましては、これは石油業法という問題もございますので、単純な粗鋼の
ような行政指導ということでもないようにも思います。いわゆる単純に権限と責任
による行政指導、特定の法律に基づかない行政指導、それによる減産、これはでき
るだけ独禁法上の不況カルテルに乗せてまいりたい、こう絶えず前から主張してお
りまして、かようにだんだんなつてきている実情でございます。」と、通産省の行
政指導による石油の生産調整を石油業法に基づくものと位置づけ、これを容認する
ように受け取られる答弁をしている(符一八三同委員会議録一一号写)。
 へ、 本件の生産調整は、前記認定のとおり、その方式、対象等において前記昭
和四一年度上期までの生産調整とほぼ同様のものであつた。
 2. 生産調整廃止直後の事情
 前記認定のとおり、昭和四一年九月通産省は生産調整を撤廃する旨を決定した
が、同省は、その理由として製品価格動向の安定及び各社の経理状況の改善されて
きたことを挙げたに過ぎず、この措置によつて石油業者の自由な生産活動及び競争
を促進しようと意図したのではなく、従来どおり業界に「規律ある生産」を期待
し、生産動向の監視を強めることによつてこれを実現しようと考えたのである。し
かも、同月、各社の昭和四一年度下期の生産計画案の合計が供給計画を約一〇パー
セント超過することが判明すると、同省鉱山局石油計画課長はA連盟に対し、各社
の計画合計を供給計画に合わせるよう説得することを依頼し、A連盟会長会社の役
員ら及びC1委員長が各社の配分量をきめ、業界には自由な生産を欲する会社も多
かつたのに、通産省の依頼である旨を告げて右配分量に従うよう各社を説得し、生
産調整が行なわれた(第四第四節四1、2)。
 右の事実は、業界の関係者をして、生産調整の廃止は単なる外見上のもので、通
産省担当官の真意ではないと思わせるに十分なものであつた。また、実際上も、そ
の後の事実が示すように、通産省の右決定は、同省の直接割当による生産調整は行
なわないという以上のものではなく、行政上の一大転換をもたらしたものではなか
つた。
 右昭和四一年度下期の生産調整に関し、昭和四一年九月二八日付「I6新聞」
(符一二五)は、A連盟の政策委員会が中心となつて各社の生産計画の事前調整を
急ぎ、独走増産を押えようとしている旨を、同年一〇月一一日付「I7新聞」(符
一二七)は、会長会社の努力により各社とも大体健全な方向で生産計画がまとまつ
ているのは結構なことだとの鉱山局長談話を掲載しているが、公正取引委員会は石
油業界に対し何らの措置もとらなかつた。
 3. 生産調整再開時の事情
 前記認定のとおり、昭和四二年度及び昭和四三年度上期には需給事情が好転した
ため生産調整が行なわれなかつたが、昭和四三年度下期にはA連盟が通産省の依頼
で各社から生産計画を提出させたところ、供給計画を大幅に上回つていたため、通
産省鉱山石炭局石油業務課長D18らがA連盟C1委員会に出席し、生産量を削減
した生産計画変更の届出を要請したので、A連盟ではC7委員会で原油処理量を配
分し生産調整に努めた(第四第四節四3、五1)。
 なお、当時のD20C1委員長、B8需給副委員長、B10需給課長らは、D1
8課長が右の要請をする以前から何回も通産省を訪れ、同課長らと接触して通産省
の意向を聞き、生産調整の必要性や方法についても意見を述べていたのであるか
ら、D18課長らはA連盟が生産調整を行なうことを知つて容認していたのであ
り、C1委員長らもそのように理解していたものと認められる(B8証言一一回、
一三回、B10証言六三回)。
 昭和四三年八月二六日付「I6新聞」(符六九)、同年九月三〇日付「I8新
聞」(符一六八)、同年一〇月二二日付同新聞(符一六九)等の業界紙には、通産
省が減産指導を行なう模様である旨又は業界の自主調整努力が成果を挙げていない
旨を含む報道記事が掲載されている。
 昭和四四年度上期にもA連盟の提出させた生産計画が供給計画を大幅に上回つて
いたので、C7が生産調整を行ない、それが慣行化し、通産省担当官がこれを容認
し、利用して石油の需給調整を行なつていたことは、前記認定のとおりである(第
四第五節五2、第七の三1)。
 昭和四四年四月二四日付「I9新聞」(符一五五)には、通産省が石油製品市況
立て直しのため石油業界に過当競争の自粛を求め、供給計画を守らせるなどの行政
指導を強める方針を明らかにした旨の報道記事が掲載されている。
 しかし、右期間にも公正取引委員会は何らの措置もとらなかつた(A3供述七一
回)。
 4. 被告人A3のC1委員長就任後の事情
 被告人A3が昭和四四年六月C1委員長に就任以来、D20委員長時代の生産調
整を引き継ぎ、しばしば通産省担当官に報告し、その指示を受け、あるいは了承を
得て、A連盟の生産調整に携わつてきたこと、通産省担当官が右生産調整を容認
し、これを利用して石油需給調整の任務を遂行していたことは既に述べたとおりで
あり、特に本件生産調整についてはその経緯を詳細に認定したところである(第四
第四節五2ないし7、第五節全部、第七の三1、2、3)。その過程において、次
のような事実があつた。
 イ、 A連盟は、昭和四六年度下期から、従前のように各社の業法計画提出前に
A連盟あての生産計画を提出させることなく生産調整を行なつているが、これは、
生産計画をあらかじめ提出させても超過するにきまつているから提出させないでよ
いという通産省の了承に基づくものである(第四第四節3、B8証言一一回、一二
回)。
 ロ、 昭和四七年度上期に際して通産省は、供給過剰の事態を懸念して業界の意
見を尊重する方針を示し、内需量を供給計画より二〇〇万キロリットル少なくした
見通しに基づいて生産調整を行なうことを了承し、これに基づく業法計画を参照し
て実行計画を作成した。また、沖縄県からの製品持込みの制限措置をとり、業界内
のこれと異なる合意をも認める意向を示した。更に昭和四八年度以降完成予定の設
備の稼働を制限し、昭和四七年度下期完成予定の設備についても稼働率は当局の指
示に従う旨の念書を差し出させた(第四第四節五4、6、7)。
 ハ、 昭和四七年度下期の生産調整にあたり、被告人A3、B2らは、昭和四七
年八月末から何回も通産省を訪れ、D26石油業務課長、B1同課需給班長らに対
し、通産省の需給見通しより一〇〇万キロリットル少なくしたA連盟の需給計画の
内需量や配分基準の改定問題を含め、生産調整の進捗情況について報告し、同年一
〇月三一日付の業界計画及び配分量等を示す表を提出し、D26課長に説明して了
承を得た(第四第五節二3ないし9)。
 ニ、 右期の生産調整に際し、配分基準をめぐつて業者間に意見の対立が生じ、
被告人A3がその調整に手間取つていた際、通産省鉱山石炭局の担当官らは、下期
の需給見通しを立てる必要上、生産調整がすみやかに決定されることを希望し、被
告人A3らに対し早期とりまとめを要請した。同局のB7参事官は、配分方式につ
いて委員長案を支持し、またA29、A28の陳情にかんがみ両社に対する配分量
の増加を数量を示して指示し、更に委員長案に反対するA6及びA16に対して自
ら説得を行なつた。同参事官は、業界における配分を違法とは感じていなかつた
(B7証言四四回)。昭和四七年一〇月二七日及び同月三〇日配分問題の実質的解
決を図るために開かれた社長会についてD26課長は強い関心を示し、その結果を
即日報告させた(本項につき第四第五節二4ないし8)。
 ホ、 右の社長会は、C9ビル及びH3ホテルで、被告人A2、同A3のほか、
一三会社の社長級の人々が集まつて開催されたが(第四第五節二8)、右社長会の
各議事録(符四一、四二)の記載に徴しても、右参会老中に自己の行為を違法であ
ると思つている者があつたとは考え難い。
 へ、 前述(第八の二2)のとおり難誌「I5」昭和四七年一〇月号(符九七)
には生産調整の内幕に関する相当詳細な記事が掲載された。この雑誌の同年七月号
(符九八)には海外開発原油の持込みに関して前記B7参事官や被告人A2のイン
タビユー記事などが掲載されており、このような点から見て右雑誌は石油業界、経
済官庁等にかなり流布されていたと考えられるが、石油業界はその当時公正取引委
員会から生産調整について何らの注意をも受けなかつた。
 ト、 公正取引委員会は、昭和四六年七月A連盟に対し、同連盟が同年二月石油
製品の価格引上げの決定をしたとして勧告を行なつているので(符一四の一〇「昭
和四六年版I1」)、同連盟の独禁法違反行為について関心を抱いていたと推認さ
れるが、同連盟の生産調整については本件各行為当時に至るまで何ら注意、警告、
調査等の措置をとらなかつた(A3供述七二回)。
 チ、 被告人A3は、本件各配分決定後数次にわたり通産省から中間留分の増産
要請を受けたが、そのつどこれに応じ、業法計画の修正や得率上昇の指示、原油処
理量追加配分等の措置をとつている。通産省は、増産量の各社配分についてはA連
盟に委ねた。昭和四八年度上期には、三次にわたる合計九一八万七千キロリットル
もの追加配分によつて、当初の配分はほとんど意味をなさないものとなつた(第四
第五節二10、11、三4、5)。このことと相まつて、生産調整は通産省の行政
に奉仕する協力措置としての役割を果していた。
 リ、 被告人A3は、昭和四八年四月下旬D26課長がA4グループに対し個別
に増産要請をし、そのため同グループが多量の超過処理計画を提出して生産調整と
は別枠にしてもらいたいと主張したことに不満をもち、D26に対し個別要請の真
意をただし、同年六月一日の前記三者会談では、通産省が業界の秩序を乱すのは困
ると同人をかなり強く難詰した(第四第五節三5イ、ロ、B2証言三回)。同被告
人が生産調整を違法と考えていたとすれば、監督官庁の担当官に対しこのような強
い発言をすることは考え難い。
 ヌ、 右三者会談においてD26課長は「通産省は業界内の生産調整には表面上
ノータッチである。」と述べているが、この言葉は通産省の本件生産調整に対する
態度をよく示している。被告人A3にもその意味はよくわかつていたと思われる。
 ル、 本件生産調整に関する書類は編綴されてA連盟事務局に保存されており、
その中にはA連盟の需給計画、配分案等の資料はもちろん、C7、正副委員長の打
合せ、生産調整のためのヒヤリング、C8研究会のメモも含まれている(符二「四
七/下No.1(資料)綴」、符八「四七/下No.2(資料)綴」、符三「四八
/上No.1(資料)綴」、符一〇「四八上二(資料)綴」、符一六「C8研究会
綴」)。また、昭和四八年六月被告人A3がC1委員長を退任するに際し、同被告
人はB2をして次期委員長D48に対する引継ぎ事項及び昭和四八年度上期の生産
調整の経緯(七月九日分まで)を日誌風に記載したものを作成させ、D48に交付
させたが、これらも保存されている(符一一「C1委員長引継ぎ事項」、符一三
「四八年度上期生産調整の経緯」)。これらの書類は本件生産調整の内容、経緯を
詳細に示すものであるが、被告人A3が事務局職員に対しその秘匿などを命じたこ
とはなく、事務局もこれを秘密扱いにしていなかつた(B2証言三回ないし六回、
B10証言一四回、B11証言一五回)。
 ヲ、 公正取引委員会による本件告発の直後ごろ、B2は事務局職員をして昭和
四七年度下期の生産調整の経緯を日誌風に記載したものを作成させ(符一二「四七
年度生産調整の経緯」)、また前記「四八年度上期生産調整の経緯」を補充させ、
これらを当時のA連盟会長D36に差し出した(B2証言六回)。右ル、ヲの事実
及びB2の証言(四回)を総合すれば、B2ら事務局職員は本件生産調整を違法と
は思つていなかつたものと認められる。
 ワ、 被告人A3は、本件生産調整の過程においてA4グループの超過処理に対
し繰返し注意を促してはいたが、昭和四七年度下期には同グループの前期超過量の
大半を棚上げしてやり、昭和四八年度上期には結局同グループの配分枠を超過した
生産計画を事実上容認したに等しい(第四第五節二11、三5、6)。このような
点から見て、同被告人は、A連盟としての建前上配分決定の遵守を強調しつつも、
その実際上の拘束力は弱いものであることを自覚していたと認められる。
 5. 通産省の生産動向監視
 前記認定のとおり、通産省は昭和四一年度下期以降生産動向の監視体制を強め、
毎月生産実績等を報告させ、これを生産計画(A連盟フオームによるものを含
む。)と対比して生産調査委員会等において生産指導を行なつてきた(第四第四節
四1、第五節四1)。本件各行為当時にも次のような生産制限的な指導が行なわれ
ていたことが認められる。
 イ、 昭和四七年一〇月一二日の生産調査委員会において、B1需給班長は、各
社委員から同年九月分原油処理実績の対計画比増減の理由等を説明させた後、A1
1、A12、A20等が大量の超過処理をしたことを叱責し、今後五ハーセント以
上の処理超過をする場合には事前に変更計画を提出しなければならないと述べた
(D51証言六三回、符八六「昭和四七年九月分原油処理および石油製品生産状
況」中二頁)。
 ロ、 昭和四八年九月ごろの生産調査委員会において、B1班長は、ある会社の
生産実績が計画を相当超過したことについて、その理由を厳しく追究した(B15
証言一八回)。
 ハ、 A11は、昭和四七年度下期に生産計画を超過する原油処理を行なつたこ
とについて昭和四八年三月二七日付で通産省鉱山石炭局石油業務課課長D26あて
に書面を差し出したが、右書面には次のように記載されている。「日頃、特段のご
配慮を賜わり厚く御礼申し上げます。(中略)弊社の四七年下期における生産実勢
は、昨年一〇月二七日付でご提出致しました生産計画に比較し、原油処理量で九万
六千キロリットル程度増加する見通しと相成り、誠に恐縮に存じますが、何卒、よ
ろしくご高配賜わりますよう伏してお願い申し上げます。」(B20証言五〇回、
符三八中「四七年度下期生産実勢について」)。右の一〇月二七日付計画は通産省
の指示により提出された暫定計画で、配分決定に基づくものではないが、精製業者
にとつては、通産省の指導によるものでもC7の配分決定によるものでも生産制限
であることに変りはなかつた。
 右のように通産省が以前から生産制限的な指導をしてきたことなどのため、精製
業者の間にはA連盟の生産調整も通産省の指導により、あるいは通産省に協力して
行なつているものであるという観念があり、大多数の者にはそれが違法であるとい
う意識はなかつたと認められる(B12証言一六回、一七回、B15証言一八回、
B17証言二一回、B21証言二二回)。業界のこのような意識は、被告人A2、
同A3らにも概ね共通していたと考えるのが自然である。
 四、 被告人らの供述の検討及び責任の判断
 1. 被告人A3について
 被告人A3の検察官に対する供述調書中には「四七年度下期の原油処理量の割当
をしたC1委員会の決定はA連盟の常務会とか理事会にかけていない。何故かけな
いかについては、同委員会の決定を常務会や理事会にかけずにA連盟の決定とする
慣行があつたことのほか、ざつくばらんに申して独禁法に触れる感じを持つていた
ことから正式に理事会等にかけたくないという気持があつたからである。」旨(四
九・三・一四検六項)、また「右のように石油精製業者の原油処理量を割当によつ
て制限し相互の自由競争の場を放棄させてその決定に従うような取決めをすること
は独禁法に違反するカルテル行為であると思つていた。」旨(四九・三・一六検二
項)の供述記載がある。
 この点について同被告人は、当公判廷において、専門家の検察官がこうなんだと
話すので、そういうものかなという気にもなつてきた旨弁解しているのであるが
(七二回)、右各供述記載を検討すると、検察官の質問内容をそのまま承認したも
のであるような節も感じられるのみならず、前者は行為当時既に存在していた慣行
に従つた理由を合理的に説明しようとしたものであり、後者は抽象的な法解釈に近
いものであつて、左記のように公判供述が信用できることに徴しても、同被告人の
具体的な違法性の意識の証拠としての証明力に乏しいものと認められる。
 そうして、同被告人は、当公判廷において「私共が実施してきました生産調整
は、石油業法の精神に沿い、通産省と密接な連携をとりながら行なつておりました
ので、常識的に考えて、これが独禁法に違反するとは思つてもおりませんでし
た。」と述べている。ただし、前掲(第八の二2)のとおり、生産調整が通産省と
無関係になされているように誤解されると、独禁法違反の疑いをかけられるおそれ
があると懸念していたというのである(七一回)。
 同被告人は、前記三に列挙した諸事実のうち自己が直接体験していないものを全
部具体的に知つていたとは認められないが、その経歴、ことに昭和四四年六月以来
C1委員長として通産省担当官としばしば接触しつつ生産調整の業務に携わつてき
たこと及び同被告人の部下であつたA14渉外部職員B24の証言(七〇回)に徴
すると、生産調整の行なわれてきた経緯、通産省担当官の意向、業界の関係者の意
識等に精通し、前記三の諸事実の大部分を大綱において知得していたと認められる
のであつて、このようにして同被告人が体験、認識した前記三の各事実を併せて検
討すると、前記「私共が実施してきた生産調整が独禁法に違反するとは思つてもい
なかつた」旨の同被告人の供述は信用することができる。即ち、同被告人の当公判
廷における供述及び前記三の各事実を総合すると、同被告人は、本件のような生産
調整は、業界が通産省に無断で行なう場合には独占禁止法違反になるが、同被告人
らは通産省に報告し、その意向に沿つてこれを行なつており、通産省の行政に協力
しているのであるから、この場合には同法に違反しないと思つていたことが認めら
れる。これを法律的に言えば、同被告人は、自己らの行為については違法性が阻却
されると誤信していたため、違法性の意識を欠いていたものと認められる。
 そうして、前記三の諸事実を検討すると、同被告人が右のように信じたのも無理
からぬことであると思わせる事実が多く存在するのであるから、同被告人が違法性
を意識しなかつたことには相当の理由があるというべきである。
 前記全事実によれば、同被告人は、石油業法の下で、あるいは通産省の直接指導
により、あるいは通産省の指導、要請に基づくA連盟の協力措置として実施されて
きた生産調整の歴史の流れの中で、C1委員長に選任され、生産調整を正当な職務
と信じ、何ら違法感をもたずに、誠実にその職務を遂行してきたものと認められる
のであつて、その違法性を意識しなかつたことには右のとおり相当の理由があるの
であるから、同被告人が本件各行為に及んだことを刑法上非難し、同被告人にその
責任を帰することはできない。したがつて、同被告人にはこの点において故意即ち
「罪ヲ犯ス意」がなかつたと認められる。
 2. 被告人A2について
 被告人A2についても、被告人A3について右に述べたところと概ね同様のこと
が認められる。
 被告人A2の検察官に対する各供述調書は、全体として石油業界における生産調
整の必要性を強調する趣旨のもので、その中で同被告人は「A連盟の需給委が原油
処理量の枠を決めたり各社の配分率を決めたりしていた。しかし、それは私が会長
になる前から続いていたことで、私はそれを踏襲したまでである。それなのに、こ
のたび公正取引委員会から、そのような生産調整はいけないと言われ、驚いてい
る。」旨述べている(四九三・一二検八項。被告人A2に対してのみ証拠とす
る。)。
 同被告人は、当公判廷では、本件は原油処理量を通産省のきめる供給計画の総枠
に合致させるための業界の自主調整である旨を強調し、「自由化の時代に勧告権で
強制的に業界を抑制するようなことは通産省としても好まないから、なるたけ業界
だけでそういうことをやつてもらつて、自分のほうは行政指導でそれをやはり強く
強制するようなことが世間にわからないようにして、自分の政策に従わせようとい
う意図で、自主調整というもののほうが通産省としては具合がよかつたのではない
かと私は思います。」旨述べている(七五回)。また、公正取引委員会や検察官の
取調べについて「私はこの問題について、政府の業法を施行するのに我々が協力を
してやつたことだということが頭にありまして、むしろ犯罪とみなされるなどとい
うことを私としては考えたこともないのです。ですから公取に調べられたときに
も、我々はそれほど深刻には考えてないです。」旨述べている(七五回)。
 同被告人は、その経歴に徴し、生産調整の行なわれてきた事情、通産省担当官の
意向、業界の関係者の意識等について被告人A3以上に精通し、前記三の諸事実の
大部分を大綱において知得していたと認められるのであるから、右各事実を併せて
検討すると、右の「犯罪とみなされるなどとは考えたこともなかつた」旨の供述は
信用することができる。即ち、被告人A2の当公判廷における供述及び右各事実を
総合すると、同被告人も、被告人A3と同様に、自己らの行為について違法性が阻
却されると誤信していたため、違法性の意識を欠いていたものと認められ、また、
その違法性を意識しなかつたことには相当の理由があるというべきである。そうで
ある以上、被告人A2が前記のとおりA連盟会長として、同会長に就任前から同連
盟で行なわれていた生産調整を違法とは思わず、本件の各場合にもこれを行なうこ
とに賛同、関与し、これをやめさせなかつたからといつて、それを刑法上非難し、
同被告人にその責任を帰することはできない。したがつて、同被告人にはこの点に
おいて故意がなかつたと認められる。
 第九 結 論
 被告人A連盟は、独占禁止法九五条二項に基づき刑事責任を追求されているので
あるが、右の規定は、団体の代表者等が同法八九条等の「違反行為をしたとき」に
適用されるものであるところ、右の違反行為とは、所定の罰則の構成要件を充足
し、違法かつ有責な犯罪行為をいうものと解すべきである。ところが行為者たる被
告人A2及び同A3には前記認定のとおり故意が認められないのであるから、右被
告人両名が違反行為をしたことの証明がないことになる。
 被告人A2及び同A3については、前記認定のとおり起訴にかかる本件各所為は
認められるが、いずれも故意が認められない。
 結局、各被告人の被告事件について犯罪の証明がないから、刑事訴訟法三三六条
により各被告人に対して無罪の言渡しをする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 勝俣利夫 裁判官 環直彌 裁判官 小野慶二 裁判官 齋藤
昭 裁判官 小泉祐康)

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