弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。                    
       上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,平成8年6月1日から同9年5月31日までの事業年度(以下
「本件事業年度」という。)の法人税について,被上告人に対し,青色の申告書に
より確定申告書を提出した。また,上告人は,同8年6月1日から同9年5月31
日までの課税期間及び同年6月1日から同10年5月31日までの課税期間(以下
「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税について,被上告人に対し
,それぞれ確定申告書を提出した。
 (2) 被上告人の職員は,平成10年2月3日,上告人の税務調査のため,事前
に通知することなく上告人のA支店事務所(以下「上告人事務所」という。)に臨
場し,調査に協力するよう要請した。これに対し,上告人の代表者は,税務に関す
る事務を委任していた税理士が調査に立ち会えないことを理由に調査を延期するよ
う申し入れて,上記要請に応じなかった。そこで,上記職員は,上記税理士と日程
を調整して改めて臨場することとした。
 被上告人の職員は,上記税理士と調整した日程に従い,同年4月22日に上告人
事務所に臨場し,同事務所に隣接する建物の2階の会議室に案内された。室内には
,帳簿書類等が段ボール箱に入れて積み重ねてあったものの,上告人関係者からは
その提示や提示の申出はなかった。上告人関係者は,上記職員が調査を開始すると
,あらかじめ室内に設置していたビデオカメラによる撮影を開始し,上記税理士は
,調査理由の開示等を求めた。これに対し,上記職員は,調査理由を所得金額の確
認のためであると説明し,撮影の停止を要求したが,上告人関係者は,これに応じ
なかった。そこで,上記職員は,上告人が調査を拒否したものと判断して,上告人
事務所を辞去した。
 その後,被上告人の職員は,同年6月から同11年4月までの間に,上告人の代
表者や上記税理士に繰り返し電話して調査に協力するよう求めたほか,7回にわた
り上告人事務所を訪ね,少なくとも同10年9月9日,同11年1月13日及び同
年4月12日に上告人事務所を訪ねた際には,帳簿書類等の提示を求めた。しかし
,上告人関係者は,調査理由の開示がなく,最初の臨場調査の際に上記税理士の代
理権を侵害する発言がされたなどと主張して,調査に協力せず,被上告人の職員は
,帳簿書類等の内容を確認することができなかった。
 (3) そこで,被上告人は,平成11年7月2日付けをもって,青色申告に係る
帳簿書類の備付け,記録及び保存が法人税法(平成12年法律第97号による改正
前のもの。以下同じ。)126条1項に定めるところに従って行われておらず,同
法127条1項1号の規定に該当するとの理由で,上告人の本件事業年度以降の法
人税に係る青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)をす
るとともに,上告人の本件各課税期間に係る消費税及び地方消費税について,消費
税法(平成9年3月31日以前の課税期間については平成6年法律第109号によ
る改正前のもの,平成9年4月1日以降の課税期間については平成12年法律第2
6号による改正前のもの。以下同じ。)30条1項の定める課税仕入れに係る消費
税額の控除につき,同条7項に規定する帳簿又は請求書等(同日以降の課税期間に
ついては帳簿及び請求書等。以下「帳簿等」という。)を保存しない場合に該当す
るとして,これをしないで税額を算出し,第1審判決別紙1の「更正処分等」欄記
載のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び各過少申告加算
税賦課決定(以下,本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をし
た。
 (4) その後,本件に関する上告人の異議申立てに係る調査において,上告人が
本件各課税期間に係る帳簿等及び本件事業年度に係る法人税法126条1項に規定
する帳簿書類を保管していることが確認されている。また,本件に関する審査請求
が審理されている際にも,上告人が上記帳簿書類等を保管していることが確認され
ている。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,① 本件青色取消処分,② 上告人の
平成8年6月1日から同9年5月31日までの課税期間に係る消費税の更正処分の
うち納付すべき税額147万3600円を超える部分及び地方消費税の更正処分並
びにこれらに係る過少申告加算税の賦課決定,③ 上告人の平成9年6月1日から
同10年5月31日までの課税期間に係る消費税の更正処分のうち納付すべき税額
346万4000円を超える部分及び地方消費税の更正処分のうち納付すべき税額
73万3100円を超える部分並びにこれらに係る過少申告加算税の賦課決定の各
取消しを請求する事案である。
 3 上告代理人内田光也の上告受理申立て理由第1,第5について
 事業者が消費税法30条1項の適用を受けるには,消費税法施行令(平成9年3
月31日以前の課税期間については平成7年政令第341号による改正前のもの,
平成9年4月1日以降の課税期間については平成12年政令第307号による改正
前のもの)50条1項の定めるとおり,同法30条7項に規定する帳簿等を整理し
,これらを所定の期間及び場所において,同法62条に基づく国税庁,国税局又は
税務署の職員(以下「税務職員」という。)による検査に当たって適時に提示する
ことが可能なように態勢を整えて保存することを要し,事業者がこれを行っていな
かった場合には,同法30条7項により,事業者が災害その他やむを得ない事情に
よりこれをすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書),同条
1項の規定は適用されないものというべきである(最高裁平成13年(行ヒ)第1
16号同16年12月16日第一小法廷判決・民集58巻9号登載予定,最高裁平
成16年(行ヒ)第37号同年12月20日第二小法廷判決・裁判集民事215号
登載予定参照)。
 前記事実関係によれば,上告人は,被上告人の職員から上告人に対する税務調査
において適法に帳簿等の提示を求められ,これに応じ難いとする理由も格別なかっ
たにもかかわらず,帳簿等の提示を拒み続けたということができる。そうすると,
上告人が,上記調査が行われた時点で帳簿等を保管していたとしても,同法62条
に基づく税務職員による帳簿等の検査に当たって適時にこれを提示することが可能
なように態勢を整えて帳簿等を保存していたということはできず,本件は同法30
条7項にいう帳簿等を保存しない場合に当たり,上告人に同項ただし書に該当する
事情も認められないから,被上告人が上告人に対して同条1項の適用がないとして
した本件各更正処分等に違法はないというべきである。
 これと同旨の原審の判断は是認することができる。論旨は採用することができな
い。
 4 上告代理人内田光也の上告受理申立て理由第6について
 (1) 法人税法が採用する申告納税制度が適正に機能するためには,納税義務者
たる法人等が帳簿書類を備え付け,これにすべての取引を正確に記帳し,これを基
礎として申告を行うことが必要である。そこで,同法は,法人等に対し,帳簿書類
の備付け等を義務付け(同法150条の2第1項),申告の正確性を担保する手段
として,税務職員に対し,法人の帳簿書類を検査する権限を付与し(同法153条)
,この検査を拒み,妨げ,若しくは忌避し,又はこの検査に関し偽りの記載をした
帳簿書類を提示した者に対する罰則を定めている(同法162条2号及び3号)。
そして,同法は,帳簿書類を基礎とした正確な申告を奨励する趣旨で,一定の帳簿
書類を備え付けている者に限って,税務署長の承認を受けて青色申告をすることを
認め,上記の者に対し課税手続や税額計算等に関する各種の特典を与えている。青
色申告の承認を受けている法人は,同法150条の2第1項とは別に,同法126
条1項によって帳簿書類の備付け等が義務付けられているが,その帳簿書類が上記
の検査の対象となることは当然のことである。
 税務署長は,青色申告の承認を行うに当たって,青色申告の承認を申請した法人
の帳簿書類の備付け,記録及び保存が大蔵省令で定めるところに従って行われてい
ることを確認し(同法123条),青色申告の承認を受けている法人に対しても,
帳簿書類について必要な指示をすることができ(同法126条2項),この指示に
従わなかった法人や,帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載
した法人に対しては,青色申告の承認を取り消すことができるとされている(同法
127条1項2号及び3号)。また,税務署長は,青色申告に係る法人税の課税標
準又は欠損金額の更正をする場合には,その法人の帳簿書類を調査し,その調査に
より当該課税標準又は欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合に限り,更正
をすることができるとされている(同法130条1項本文)。さらに,同法の委任
を受けた法人税法施行規則(平成16年財務省令第27号による改正前のもの)5
9条1項は,青色申告の承認を受けている法人は,帳簿書類を7年間保存しなけれ
ばならないと規定しているが,この保存期間は,国税通則法(平成16年法律第1
4号による改正前のもの)70条5項所定の更正の制限期間に符合するものである。
これらの各規定は,すべて,税務職員が,青色申告の承認を受けた法人の帳簿書類
を適時に検査することができるように,その備付け,記録及び保存がされるべきこ
とを当然の前提としているものということができ,そのようにして上記検査の円滑
な実施が確保されることは,青色申告制度の維持に不可欠なものということができ
る。
 (2) そうすると,法人税法126条1項は,青色申告の承認を受けた法人に対
し,大蔵省令で定めるところにより,帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録
すべきことはもとより,これらが行われていたとしても,さらに,税務職員が必要
と判断したときにその帳簿書類を検査してその内容の真実性を確認することができ
るような態勢の下に,帳簿書類を保存しなければならないこととしているというべ
きであり,【要旨】法人が税務職員の同法153条の規定に基づく検査に適時にこ
れを提示することが可能なように態勢を整えて当該帳簿書類を保存していなかった
場合は,同法126条1項の規定に違反し,同法127条1項1号に該当するもの
というべきである。
 (3) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,上告人は,被上告人
の職員から上告人に対する税務調査において適法に帳簿書類の提示を求められ,こ
れに応じ難いとする理由も格別なかったにもかかわらず,帳簿書類の提示を拒み続
けたということができる。そうすると,上告人は,上記調査が行われた時点で所定
の帳簿書類を保管していたとしても,法人税法153条に基づく税務職員による帳
簿書類の検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保
存することをしていなかったというべきであり,本件は同法127条1項1号に該
当する事実がある場合に当たるから,被上告人が上告人に対してした本件青色取消
処分に違法はないというべきである。
 これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用するこ
とができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 徳治 裁判官 島
田仁郎 裁判官 才口千晴)

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