平成25年6月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(ワ)第27781号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成25年3月14日
中間判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
目次
主文..................................................5
事実及び理由..................................................5
第1請求..............................................................5
第2事案の概要........................................................5
1前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)........5
2争点...............................................................16
3争点に関する当事者の主張...........................................18
被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか。.........................18
ア「インストラクション」(構成要件F1~J1,G2~J2及びG3~J
3)の意義(争点1-1).............................................18
イ「電子ドキュメント」(構成要件F1,H1~J1及びH2~J2),「電
子ドキュメントの縁」「縁を越えるエリア」(構成要件I1・J1及びI2・J
2)及び「リストの末端」「末端を越えるエリア」(構成要件I3・J3)の意
義(争点1-2).....................................................19
ウ「到達するのに応答して…表示」(構成要件I1及びI2)の意義(争点1
-3)...............................................................25
エ構成要件F1~J1の充足性(争点1-4).........................27
オ構成要件G2~J2の充足性(争点1-5).........................33
カ構成要件G3~J3の充足性(争点1-6).........................35
被告製品が本件発明の従属項の技術的範囲に属するか。.................38
ア被告製品が請求項25の技術的範囲に属するか(争点2-1).........38
イ被告製品が請求項35,61及び74の技術的範囲に属するか(争点2-
2).................................................................38
ウ被告製品が請求項36及び75の技術的範囲に属するか(争点2-3).43
本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか。45
ア記載要件違反の有無(争点3-1).................................45
イ公然実施に基づく新規性の欠如(争点3-2).......................50
ウ乙11号証に基づく新規性・進歩性の欠如(争点3-3).............72
エ乙13号証に基づく新規性・進歩性の欠如(争点3-4).............94
オ乙25号証に基づく進歩性の欠如(争点3-5)....................113
カその他進歩性の欠如(争点3-6)................................128
本件発明の従属項に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものであ
るか。................................................................130
ア請求項25に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか
(争点4-1)......................................................130
イ請求項35,61及び74並びに請求項36及び75に係る特許が特許無効
審判により無効にされるべきものであるか(争点4-2)................131
損害賠償義務の有無及び損害額(争点5)............................152
第3当裁判所の判断..................................................154
1被告製品が本件発明の技術的範囲に属するかについて..................154
「インストラクション」(構成要件F1~J1,G2~J2及びG3~J
3)の意義(争点1-1)について....................................154
「電子ドキュメント」(構成要件F1,H1~J1及びH2~J2),「電
子ドキュメントの縁」「縁を越えるエリア」(構成要件I1・J1及びI2・J
2)及び「リストの末端」「末端を越えるエリア」(構成要件I3・J3)の意
義(争点1-2)について............................................157
「到達するのに応答して…表示」(構成要件I1及びI2)の意義(争点1
-3)について......................................................163
構成要件F1~J1の充足性(争点1-4)について................167
構成要件G2~J2の充足性(争点1-5)について................173
構成要件G3~J3の充足性(争点1-6)について................174
ソフトウェア変更後の被告製品3について..........................176
まとめ..........................................................177
2被告製品が本件発明の従属項の技術的範囲に属するかについて..........177
被告製品が請求項25の技術的範囲に属するか(争点2-1)について177
被告製品が請求項35,61及び74の技術的範囲に属するか(争点2-
2)について........................................................179
被告製品が請求項36及び75の技術的範囲に属するか(争点2-3)につ
いて................................................................185
3本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるかにつ
いて..................................................................190
記載要件違反の有無(争点3-1)について........................190
公然実施に基づく新規性の欠如(争点3-2)について..............191
乙11号証に基づく新規性・進歩性の欠如(争点3-3)について....196
乙13号証に基づく新規性・進歩性の欠如(争点3-4)について....211
乙25号証に基づく進歩性の欠如(争点3-5)について............219
その他進歩性の欠如(争点3-6)について........................229
まとめ..........................................................230
4本件発明の従属項に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものであ
るかについて..........................................................230
請求項25に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか
(争点4-1)について..............................................231
請求項35,61及び74並びに請求項36及び75に係る特許が特許無効
審判により無効にされるべきものであるか(争点4-2)について........231
まとめ..........................................................241
5検証の申出,検証物提示命令及び文書提出命令の申立てについて........241
6結論..............................................................242
主文
別紙被告製品目録記載の各製品(ただし,同目録記載3の製品については,
ソフトウェアの変更前の旧製品に限る。)は,特許第4743919号の特許
請求の範囲の請求項19,25,35,36,55,61,69,74及び7
5記載の特許発明の技術的範囲に属する。上記請求項19,25,35,36,
55,61,69,74及び75記載の特許発明に係る特許は特許無効審判に
より無効にされるべきものとは認められない。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告に対し,連帯して,金1億円及びこれに対する平成23年9
月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,その保有に係る発明の名称を「タッチスクリーンディスプ
レイにおけるリストのスクローリング,ドキュメントの並進移動,スケーリン
グ及び回転」とする特許権について,被告らが当該特許権を侵害する別紙被告
製品目録記載の各製品(以下,個別に特定する場合には同目録記載の符号に従
って「被告製品1」などといい,併せて「被告製品」という。)を輸入,販売
等しているなどと主張して,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償(特許
法102条2項による推定)の一部請求として1億円(附帯請求として訴状送
達の日の翌日である平成23年9月2日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金)の連帯支払を求めた事案である。
1前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1)原告
原告は,アメリカ合衆国カリフォルニア州法を準拠法として設立された法
人であり,コンピュータ,家庭用電子機器,オペレーティングシステム(O
S)及びアプリケーションソフトウェアの開発及びマーケティングの分野に
おける世界最大手の企業の一つである。
(2)被告ら
被告日本サムスン株式会社(以下「被告日本サムスン」という。)は,家
庭用及び産業用電気機械器具,通信機器並びにそれらの関連機器と部品,コ
ンピュータ及び同周辺機器製品,及びコンピュータプログラム等の売買,輸
出入等を業とする株式会社である。
被告サムスン電子ジャパン株式会社(以下「被告サムスン電子」とい
う。)は,電子応用通信機器,コンピュータ及び周辺機器・端末機器とその
部品,並びに有線,無線通信機器及び関連機器とその部品等の製作,輸出入
販売等を業とする株式会社である。
(3)原告の特許権
原告は,次の特許権の特許権者である(当該特許権を「本件特許権」とい
う。本件特許権に係る特許公報〔甲2〕を末尾に添付し,これを「本件明細
書」という。)。
特許番号第4743919号
発明の名称タッチスクリーンディスプレイにおけるリストのスクロ
ーリング,ドキュメントの並進移動,スケーリング及び回
転
出願日平成20年1月4日
出願番号特願2009-544996
登録日平成23年5月20日
優先日平成19年1月7日(優先権主張番号60/883,
80160/879,253),同月8日(優先権主張
番号60/879,469),同年6月22日(優先権
主張番号60/945,858),同月28日(優先権
主張番号60/946,971),同月29日(優先権
主張番号60/937,993),同年12月14日
(優先権主張番号11/956,969)
(4)本件に関する独立項である請求項
本件特許権の特許請求の範囲の請求項19,55及び69の記載は以下の
とおりである(以下,請求項19,55及び69記載の特許発明を,順に
「本件発明1」「本件発明2」「本件発明3」といい,併せて「本件発明」
という。)。
ア本件発明1
「タッチスクリーンディスプレイと,
1つ以上のプロセッサと,
メモリと,
1つ以上のプログラムと,
を備え,前記1つ以上のプログラムは,前記メモリに記憶されて,前記1
つ以上のプロセッサにより実行されるように構成され,前記プログラムは,
電子ドキュメントの第1部分を表示するためのインストラクションと,
前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近でオブジェクトの移
動を検出するためのインストラクションと,
前記移動を検出するのに応答して,前記タッチスクリーンディスプレイ
に表示された前記電子ドキュメントを第1方向に徐々に移動して,前記電
子ドキュメントの前記第1部分とは異なる第2部分を表示するためのイン
ストラクションと,
前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近でオブジェクトがま
だ検出されている間に前記電子ドキュメントを前記第1方向に移動する間
に前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して,前記電子ドキュメ
ントの縁を越えるエリアを表示し,且つ前記電子ドキュメントの前記第1
部分より小さい第3部分を表示するためのインストラクションと,
前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近にオブジェクトがも
はやないことを検出するのに応答して,前記電子ドキュメントの縁を越え
るエリアがもはや表示されなくなるまで前記電子ドキュメントを第2方向
に徐々に移動して,前記電子ドキュメントの第1部分とは異なる第4部分
を表示するためのインストラクションと,
を含む,装置。」
イ本件発明2
「タッチスクリーンディスプレイと,
1つ以上のプロセッサと,
メモリと,
1つ以上のプログラムと,
を備え,
前記1つ以上のプログラムは,前記メモリに記憶されて,前記1つ以上
のプロセッサにより実行されるように構成され,
前記プログラムは,
前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近におけるオブジェ
クトの移動を検出するためのインストラクションと,
前記移動の検出に応答して,前記タッチスクリーンディスプレイ上に
表示された電子ドキュメントを第1方向に徐々に移動するためのインスト
ラクションと,
前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近において前記オブ
ジェクトがまだ検出されている間に前記電子ドキュメントを第1方向に移
動する間に前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して,前記電子
ドキュメントの縁を越えるエリアを表示するためのインストラクションと,
前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近にオブジェクトが
もはやないことを検出するのに応答して,前記電子ドキュメントの縁を越
えるエリアがもはや表示されなくなるまで,前記ドキュメントを第2方向
に徐々に移動するためのインストラクションと,
を含む,装置。」
ウ本件発明3
「タッチスクリーンディスプレイと,
1つ以上のプロセッサと,
メモリと,
1つ以上のプログラムと,
を備え,
前記1つ以上のプログラムは,前記メモリに記憶されて,前記1つ以上
のプロセッサにより実行されるように構成され,
前記プログラムは,
前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近におけるオブジェ
クトの移動を検出するためのインストラクションと,
前記移動の検出に応答して,前記タッチスクリーンディスプレイ上に
表示されたアイテムのリストを第1方向にスクロールするためのインスト
ラクションと,
前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近においてオブジェ
クトがまだ検出されている間に前記リストを第1方向に移動する間に前記
リストの末端に到達した場合には前記リストの末端を越えるエリアを表示
するためのインストラクションと,
前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近にオブジェクトが
もはやないことを検出するのに応答して,前記リストの末端を越えるエリ
アがもはや表示されなくなるまで,前記第1方向とは逆の第2方向に前記
リストをスクロールするためのインストラクションと,
を含む,装置。」
(5)本件発明の構成要件
本件発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下「構成要件
A1」などという。)。
ア本件発明1
A1:タッチスクリーンディスプレイと,
B1:1つ以上のプロセッサと,
C1:メモリと,
D1:1つ以上のプログラムと,を備え,
E1:前記1つ以上のプログラムは,前記メモリに記憶されて,前記1つ
以上のプロセッサにより実行されるように構成され,前記プログラム
は,
F1:電子ドキュメントの第1部分を表示するためのインストラクション
と,
G1:前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近でオブジェクト
の移動を検出するためのインストラクションと,
H1:前記移動を検出するのに応答して,前記タッチスクリーンディスプ
レイに表示された前記電子ドキュメントを第1方向に徐々に移動して,
前記電子ドキュメントの前記第1部分とは異なる第2部分を表示する
ためのインストラクションと,
I1:前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近でオブジェクト
がまだ検出されている間に前記電子ドキュメントを前記第1方向に移
動する間に前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して,前記
電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示し,且つ前記電子ドキュ
メントの前記第1部分より小さい第3部分を表示するためのインスト
ラクションと,
J1:前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近にオブジェクト
がもはやないことを検出するのに応答して,前記電子ドキュメントの
縁を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで前記電子ドキュメン
トを第2方向に徐々に移動して,前記電子ドキュメントの第1部分と
は異なる第4部分を表示するためのインストラクションと,
K1:を含む,装置。
イ本件発明2
A2:タッチスクリーンディスプレイと,
B2:1つ以上のプロセッサと,
C2:メモリと,
D2:1つ以上のプログラムと,を備え,
E2:前記1つ以上のプログラムは,前記メモリに記憶されて,前記1つ
以上のプロセッサにより実行されるように構成され,前記プログラム
は,
G2:前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近におけるオブジ
ェクトの移動を検出するためのインストラクションと,
H2:前記移動の検出に応答して,前記タッチスクリーンディスプレイ上
に表示された電子ドキュメントを第1方向に徐々に移動するためのイ
ンストラクションと,
I2:前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近において前記オ
ブジェクトがまだ検出されている間に前記電子ドキュメントを第1方
向に移動する間に前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して,
前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示するためのインスト
ラクションと,
J2:前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近にオブジェクト
がもはやないことを検出するのに応答して,前記電子ドキュメントの
縁を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで,前記ドキュメント
を第2方向に徐々に移動するためのインストラクションと,
K2:を含む,装置。
ウ本件発明3
A3:タッチスクリーンディスプレイと,
B3:1つ以上のプロセッサと,
C3:メモリと,
D3:1つ以上のプログラムと,を備え,
E3:前記1つ以上のプログラムは,前記メモリに記憶されて,前記1つ
以上のプロセッサにより実行されるように構成され,前記プログラム
は,
G3:前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近におけるオブジ
ェクトの移動を検出するためのインストラクションと,
H3:前記移動の検出に応答して,前記タッチスクリーンディスプレイ上
に表示されたアイテムのリストを第1方向にスクロールするためのイ
ンストラクションと,
I3:前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近においてオブジ
ェクトがまだ検出されている間に前記リストを第1方向に移動する間
に前記リストの末端に到達した場合には前記リストの末端を越えるエ
リアを表示するためのインストラクションと,
J3:前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近にオブジェクト
がもはやないことを検出するのに応答して,前記リストの末端を越え
るエリアがもはや表示されなくなるまで,前記第1方向とは逆の第2
方向に前記リストをスクロールするためのインストラクションと,
K3:を含む,装置。
(6)本件発明の従属項(甲2)
ア本件発明1の従属項
本件に関する本件発明1の従属項である請求項25,35及び36の記
載は以下のとおりである。
(ア)請求項25
「前記電子ドキュメントは,デジタル映像である,請求項19に記載の
装置。」
(イ)請求項35
「前記電子ドキュメントが該電子ドキュメントの縁に到達するまで前記
第1方向に徐々に移動する場合,前記電子ドキュメントは,前記電子ド
キュメントの縁に到達するまでの前記オブジェクトの移動距離に対応す
る第1の関連移動距離を移動し,
更に,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示することは,
前記電子ドキュメントを前記第1方向に第2の関連移動距離について
徐々に移動することを含み,
当該第2の関連移動距離は,前記電子ドキュメントの縁に到達した後
の前記オブジェクトの移動距離に対応する関連移動距離より短い,請求
項19に記載の装置。」
(ウ)請求項36
「前記電子ドキュメントの縁に到達するまで前記第1方向に徐々に移動
することは,前記オブジェクトの移動スピードに対応する第1の関連移
動スピードを有し,
更に,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示することは,
前記電子ドキュメントを前記第1方向に第2の関連移動スピードで徐々
に移動することを含み,
当該第2の関連移動スピードは,前記第1の関連移動スピードより低
速である,請求項19に記載の装置。」
イ本件発明2の従属項
本件に関する本件発明2の従属項である請求項61の記載は以下のとお
りである。
「前記電子ドキュメントが該電子ドキュメントの縁に到達するまで前記第
1方向に徐々に移動する場合,前記電子ドキュメントは,前記電子ドキュ
メントの縁に到達するまでの前記オブジェクトの移動距離に対応する第1
の関連移動距離を移動し,
更に,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示することは,前
記電子ドキュメントを前記第1方向に第2の関連移動距離について徐々に
移動することを含み,
該第2の関連移動距離は,前記電子ドキュメントの縁に到達した後の前
記オブジェクトの移動距離に対応する関連移動距離より短い,請求項55
に記載の装置。」
ウ本件発明3の従属項
本件に関する本件発明3の従属項である請求項74及び75の記載は以
下のとおりである。
(ア)請求項74
「前記リストが該リストの末端に到達するまで前記第1方向にスクロー
ルする場合,前記リストは,前記リストの末端に到達するまでの前記オ
ブジェクトの移動距離に対応する第1の関連スクロール距離を移動し,
更に,前記リストの末端を越えるエリアを表示することは,前記リス
トを前記第1方向に第2の関連スクロール距離についてスクロールする
ことを含み,
該第2の関連スクロール距離は,前記リストの末端に到達した後の前
記オブジェクトの移動距離に対応する関連スクロール距離より短い,請
求項69に記載の装置。」
(イ)請求項75
「前記リストの末端に到達するまで前記第1方向にスクロールすること
は,前記オブジェクトの移動スピードに対応する第1の関連スクロール
スピードを有し,
更に,前記リストの末端を越えるエリアを表示することは,前記リス
トを前記第1方向に第2の関連スクロールスピードでスクロールするこ
とを含み,
該第2の関連スクロールスピードは,前記第1の関連スクロールスピ
ードよりも低速である,請求項69に記載の装置。」
(7)本件発明と被告製品との対比(甲3~8)
ア本件発明1と被告製品との対比
(ア)被告製品は,「ディスプレイ(タッチスクリーン)」を有し,当該
「タッチスクリーンは指で軽く触れるように設計されて」いる(甲3,
4,7)。被告製品のディスプレイはタッチスクリーンディスプレイで
あるから,被告製品は構成要件A1を充足する。
(イ)被告製品1及び2はCPUとして「S5PC110/1GHz」を,
被告製品3はCPUとして「S5PC210/1.2GHz」を有して
いる(甲5,6,8)。被告製品のCPUはプロセッサに相当するから,
被告製品は構成要件B1を充足する。
(ウ)被告製品1及び2はメモリとして「ROM512MB+16G,R
AM512MB」を,被告製品3はメモリとして「ROM16GB,R
AM1GB」を有しているから(甲3,4,7),被告製品は構成要件
C1を充足する。
(エ)被告製品はAndroidプラットフォームを搭載している(甲5,
6,8)。被告製品は,AndroidプラットフォームをCPUによ
って実行することで動作しており,Androidプラットフォームは,
構成要件D1及びE1の「プログラム」に相当する。
また,被告製品には,被告製品上で利用可能な多数のアプリケーショ
ンソフトウェアがインストールされており(甲3,4,7),これらの
アプリケーションソフトウェアもCPUによって実行されるから,これ
らのアプリケーションソフトウェアも,構成要件D1及びE1における
「プログラム」に相当する。
そして,被告製品において,プログラムは,メモリであるROMやR
AMに記憶されて,プロセッサであるCPUにより実行されるように構
成されていることは明らかであるから,被告製品は構成要件D1及びE
1を充足する。
(オ)被告製品は,携帯型の端末装置であるから,構成要件K1のうちの
「装置」であることを充足する。
イ本件発明2と被告製品との対比
本件発明2の構成要件A2~E2及びK2は,本件発明1の構成要件A
1~E1及びK1と同じであるから,被告製品は構成要件A2~E2及び
K2のうちの「装置」であることを充足する。
ウ本件発明3と被告製品との対比
本件発明3の構成要件A3~E3及びK3は,本件発明1の構成要件A
1~E1及びK1と同じであるから,被告製品は構成要件A3~E3及び
K3のうちの「装置」であることを充足する。
2争点
(1)被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか。
ア「インストラクション」(構成要件F1~J1,G2~J2及びG3~
J3)の意義(争点1-1)
イ「電子ドキュメント」(構成要件F1,H1~J1及びH2~J2),
「電子ドキュメントの縁」「縁を越えるエリア」(構成要件I1・J1及
びI2・J2)及び「リストの末端」「末端を越えるエリア」(構成要件
I3・J3)の意義(争点1-2)
ウ「到達するのに応答して…表示」(構成要件I1及びI2)の意義(争
点1-3)
エ構成要件F1~J1の充足性(争点1-4)
オ構成要件G2~J2の充足性(争点1-5)
カ構成要件G3~J3の充足性(争点1-6)
(2)被告製品が本件発明の従属項の技術的範囲に属するか。
ア被告製品が請求項25の技術的範囲に属するか(争点2-1)
イ被告製品が請求項35,61及び74の技術的範囲に属するか(争点2
-2)
ウ被告製品が請求項36及び75の技術的範囲に属するか(争点2-3)
(3)本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものである
か。
ア記載要件違反の有無(争点3-1)
イ公然実施に基づく新規性の欠如(争点3-2)
ウ乙11号証に基づく新規性・進歩性の欠如(争点3-3)
エ乙13号証に基づく新規性・進歩性の欠如(争点3-4)
オ乙25号証に基づく進歩性の欠如(争点3-5)
カその他進歩性の欠如(争点3-6)
(4)本件発明の従属項に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきも
のであるか。
ア請求項25に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものであ
るか(争点4-1)
イ請求項35,61及び74並びに請求項36及び75に係る特許が特許
無効審判により無効にされるべきものであるか(争点4-2)
(5)損害賠償義務の有無及び損害額(争点5)
3争点に関する当事者の主張
(1)被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか。
ア「インストラクション」(構成要件F1~J1,G2~J2及びG3~
J3)の意義(争点1-1)
(原告の主張)
(ア)本件発明における「インストラクション」に相当するのは,被告製
品の1つ又は複数のプロセッサにより実行されるプログラムに含まれる,
当該プロセッサを動作させるための命令,である。
(イ)本件特許権の各請求項は,クレーム文言上,バウンスバック効果を
生じさせるためのインストラクションがどのようにプログラムされるか
について,何ら限定を付していない。本件明細書についても同様である。
したがって,本件発明は,バウンスバック効果を生じさせるためのイン
トラクションがどのようにプログラムされるかについて,何らの限定や
制限も付していない。
(ウ)本件発明のクレーム文言における「インストラクション」とは,単
数,すなわちインストラクションが1つである場合に限らず,複数,す
なわちインストラクションが複数存在する場合も含むものである。
被告らは,辞典等を参照して,「『インストラクション』(『命
令』)とは,プロセッサの処理動作を規定する,動作指示の最小単位な
いし基本単位である」と明記されている旨述べ,それゆえに「インスト
ラクション」は単数のみを示すと主張する。しかし,被告らの参照する
乙15~19号証のいずれにおいても,「インストラクション」が単数
のみを示すという記載はない。
(被告らの主張)
(ア)本件発明における「インストラクション」は,構成要件F1~J1,
G2~J2及びG3~J3にそれぞれ規定されている,特定の処理を行
うためのインストラクションである。被告製品には,これら特定の処理
を行うためのインストラクションはない。
(イ)乙15~19号証には,「インストラクション」は「命令」と同義
であり,「インストラクション」(「命令」)とは,プロセッサの処理
動作を規定する,動作指示の最小単位ないし基本単位であることが明記
されている。
一般にインストラクションと命令とは同義語である。そして,本件明
細書には,インストラクションの用語に通常とは異なる意味を与える点
について何ら記載されていない。加えて,クレーム文言に照らしても,
本件発明の「インストラクション」が通常の意味(上述の意味)で用い
られていることは自明である。プログラムの構成要素の単位がインスト
ラクション(命令)であるところ(例えば,乙3,15,18),本件
発明は,前記「プログラム」が各「インストラクション」を「含む」と
規定しており,これら各「インストラクション」がプログラムの構成要
素,すなわち通常の意味のインストラクションとして含まれることが規
定されていることは明らかである。
以上のとおり,本件発明における「インストラクション」とは,プロ
セッサに動作をさせる指示の単位を意味することは明らかである。
(ウ)本件発明では,例えば,構成要件F1は,「電子ドキュメントの第
1部分を表示するためのインストラクション」と記載されているとおり,
「電子ドキュメントの第1部分を表示する」ことがインストラクション
の対象である。すなわち,これがプロセッサに動作させる指示の単位と
して存することが求められるのであり,これが構成要件F1のインスト
ラクションである。
イ「電子ドキュメント」(構成要件F1,H1~J1及びH2~J2),
「電子ドキュメントの縁」「縁を越えるエリア」(構成要件I1・J1及
びI2・J2)及び「リストの末端」「末端を越えるエリア」(構成要件
I3・J3)の意義(争点1-2)
(原告の主張)
(ア)「電子ドキュメント」とは,通常の慣用的な意味であり,例えば電
子的なドキュメントをいう。「縁」とは,通常の慣用的な意味であり,
例えば,電子ドキュメントの端を意味する。「末端」とは,通常の慣用
的な意味であり,例えば,一番端の部分を意味する。「リストの末端」
とは,例えば,リストの上端又は下端をいう。
(イ)被告らは,●(省略)●と述べ,●(省略)●は「電子ドキュメン
トの縁を越えるエリア」(構成要件I1及びI2)ではない旨主張し,
「構成要件I1について論じた内容は,・・・,同様の理由で,本件発明
3の構成要件Ⅰ3に妥当する」と主張している。
クレーム文言上も,本件明細書においても,縁を越えるエリアや末端
を越えるエリアにおいて何が表示されるかについては,何ら限定が付さ
れていない。そして,クレーム文言自体が縁を越えるエリアや末端を越
えるエリアから●(省略)●を除外する記載となっていない以上,かか
る●(省略)●がこれらのエリアに含まれることに疑いの余地はない。
逆に,本件明細書においては,●(省略)●が電子ドキュメントの縁を
越えるエリアにおいて表示されると記載されている箇所もある。例えば,
【0132】においても,「他の実施形態では,ピクチャー又はパター
ンのような壁紙映像が,電子ドキュメントの縁を越えるエリアに表示さ
れる。」と記載されている。また,【0116】【0125】において
も,リストの●(省略)●がリストの末端を越えて表示されるエリアに
おいて表示される実施形態が記載されている。
(ウ)被告らは,被告製品1及び3について,「黒色が現れている画素は
発光していない(駆動していない)」ことから,「原告が『縁を越える
エリア』と指示する部分においては,その全体において何も表示してお
らず,すなわち,『前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示』
することがない」と主張する。
しかし,「電子ドキュメントの縁を越えるエリア」(構成要件I1及
びI2)や「リストの末端を越えるエリア」(構成要件I3)に何が表
示されるかについては,クレーム文言上も,本件明細書上も,何ら限定
は付されていない。
また,被告らは,「発光していない(駆動していない)」ことから
「『表示』することがない」と主張する。しかし,「発光していない
(駆動していない)」ことと「表示していない」こととは同義ではない。
このことは,「表示」とのクレーム文言には,何ら格別の限定も付され
ておらず,表示の方法が発光(駆動)によらなければならないとの限定
はされていないことからも明らかである。一般に,「表示」とは,「外
部へあらわし示すこと」の意味(甲13)であり,その方法を問わず,
客観的に外部にあらわされていればよいのであるから,発光していない
(駆動していない)状態であっても,それによって黒色が外部へあらわ
し示されているのであれば,「表示」というに十分である。
被告らの上記主張が根拠を欠くことは,クレーム文言や,本件明細書
上,縁を越えるエリアが黒色であると示されている箇所が多数存するこ
とからも明らかである。例えば,請求項19は,「前記電子ドキュメン
トの縁を越えるエリアを表示し」と記載している。また,請求項31は,
「前記ドキュメントの縁を越えるエリアは,ブラック,グレー,ソリッ
ドカラー又はホワイトである,請求項19に記載の装置」と記載してい
る。仮に被告らの主張するように,「前記ドキュメントの縁を越えるエ
リアを表示する」との文言が,黒色を表示することを含まないと解する
ならば,請求項31はブラックの部分につき意味をなさなくなってしま
い,合理性を欠く。本件明細書においても,【0132】においては,
「ある実施形態では,電子ドキュメントの縁を越えるエリアは,ブラッ
ク…である」と記載されており,【0144】では,「ウェブページの
下縁及び右縁を越えるエリア3930(図8C)が表示され…図8Cに
おいて,エリア3930は,ブラックであり」と記載されている。また,
【0153】では,「ある実施形態では,電子ドキュメントの対向縁を
越えるエリアは,ブラック…である」と記載されている。
(エ)被告らは,設定(Setting)というアプリケーションに関し,「『電
子ドキュメントの縁』を観念することができない」と主張し,あたかも
電子ドキュメントとその縁との,又はリストとその末端との境界が視覚
的に明確であることが要求されるかのごとく主張する。
しかし,本件明細書上,そのような視覚的に明確な境界を要するとの
限定は付されていない。また,縁や末端を越えるエリアが,被告らの主
張するような境界がなくとも,電子ドキュメントやリストから区別され
ることは明らかである。このことは,本件明細書【0125】でも,
「ある実施形態では,リストの末端を越えて表示されるエリアは,…リ
ストの背景とは視覚上差がない」と記載されていることからも裏付けら
れる。このように,本件明細書上,電子ドキュメントと電子ドキュメン
トの縁を越える部分について,視覚上差がない場合も明確に記載されて
いる。
そもそも設定というアプリケーションにおいて,表示上,視覚的に明
確な境界が存在していることは明らかである。別紙写真目録記載の写真
15(再掲)(以下,同目録記載の写真を個別に特定する場合には同目
録記載の符号に従って「写真1」などという。)では,アイテムリスト
とその末端を越えるエリアとの境界には明確に視認できる白又は灰色の
線が引かれている。このとおり境界が明確に視認できる以上,設定のア
プリケーションにつき「縁」(構成要件I1及びI2)あるいは「末
端」(構成要件I3)を観念することができないとの被告らの主張は失
当である。
なお,被告らが(被告らの主張)(イ)で指摘する原告の主張は,後記
カ(原告の主張)のとおり,「設定」というアプリケーションが本件発
明3をも侵害しているという主張であり,本件発明3は「電子ドキュメ
ント」ではなく「アイテムのリスト」に関するものである。
(オ)●(省略)●と「電子ドキュメントの縁を越えるエリア」との関係
は,電子ドキュメントの縁を越えて現れる場合には,●(省略)●は電
子ドキュメントの縁を越えるエリアとなるため,その包含関係は明確で
ある。すなわち,●(省略)●が電子ドキュメントの縁を越えて現れる
場合には,●(省略)●は電子ドキュメントの縁を越えるエリアである。
一方,被告らが何をもって●(省略)●と定義しているかは不明であ
るが,電子ドキュメントの縁を越えて現れる表示は被告らのいう●(省
略)●であろうとなかろうと,電子ドキュメントの縁を越えるエリアに
含まれるのである。例えば,本件明細書【0132】では,「ピクチャ
ー又はパターンのような壁紙映像が,電子ドキュメントの縁を越えるエ
リアに表示される」及び「電子ドキュメントの縁を越えるエリアは,ブ
ラック…である」と示され,その他の段落においても同様である(【0
116】「アイテムのリストが背景を有し,そしてリストの末端を越え
るエリアは,背景と視覚上差がない」,【0125】「リストの末端を
越えて表示されるエリアは,…,リストの背景とは視覚上差がない」)。
以上のとおり,明細書の記載においても,●(省略)●と「電子ドキ
ュメントの縁を越えるエリア」又は「リストの末端を越えるエリア」と
は,相反するものではないことが明らかとなっている。
「電子ドキュメント」というクレーム文言は,電子的形態におけるド
キュメントという極めて単純な意味を持つものにすぎない。本件明細書
の記載においても,明確にデジタル映像が電子ドキュメントであること
を示している(図13A~13C及び【0159】「電子ドキュメント
がデジタル映像である(例えば,デジタル映像1302,図13A-1
3C)」)。
(被告らの主張)
(ア)本件発明の「電子ドキュメント」はその意味内容が明確でない。原
告は,「電子ドキュメント」の実質的な意味内容を示すことはせず,単
に被告製品を捉えて「電子ドキュメント」に該当すると主張することに
終始している。「電子ドキュメント」の意味内容が不明であるため,
「電子ドキュメントの縁を越えるエリア」の意味内容も不明である。
(イ)原告によれば,電子ドキュメントの「縁」とは,「通常の慣用的な
意味であり,例えば電子ドキュメントの端を意味する」。しかし,この
説明は,「縁」を「端」と言い換えるのみで実質的な説明になっていな
い。
被告製品の設定のアプリケーションでは,表示上,電子ドキュメント
の縁を判別できない。設定のアプリケーションまで本件発明1を侵害す
るとの原告の理解を前提とすれば,電子ドキュメントの縁を,表示状態
において観念されるものという理解をすることは不可能である。
以上より,本件発明1及び2における「電子ドキュメントの縁」を観
念することができない。したがって,被告製品が,「電子ドキュメント
の縁を越えるエリアを表示」することはあり得ない。本件発明3につい
ても同様である。
(ウ)原告の主張を前提とすると,本件発明において,電子ドキュメント
とその縁を越える部分の区分は,視覚上ではない基準によるはずである。
そうでなければ,本件発明が,「電子ドキュメントと電子ドキュメント
の縁を越える部分について,視覚上差がない場合」も含むことはあり得
ない。
この点,原告は,「電子ドキュメント」の意義について,「通常の慣
用的な意味であり,例えば電子的なドキュメントをいう。」と述べて,
その意義を明らかにすることをしない。しかしながら,視覚上,境界が
なくとも侵害の成否に影響しないとすれば,本件発明の「電子ドキュメ
ントの縁」を越える部分が表示されたか否かがいかにして判断されるの
か不明であり,本件発明の意味するところは全く不明確にならざるを得
ない。
ウ「到達するのに応答して…表示」(構成要件I1及びI2)の意義(争
点1-3)
(原告の主張)
(ア)構成要件I1は全体で,
「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近でオブジェクトが
まだ検出されている間に(①部分)
前記電子ドキュメントを前記第1方向に移動する間に(②部分)
前記電子ドキュメントの縁に到達する(③部分)
のに応答して,(④部分)
前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示し,(⑤部分)
かつ前記電子ドキュメントの前記第1部分より小さい第3部分を表示
する(⑥部分)
ためのインストラクションと,」
である。「①かつ②かつ③の全ての条件が整った場合に,④が起こり
(「応答して」),⑤及び⑥が起こる」という内容である。
上記から明らかであるが,①部分,②部分及び③部分は全て充足され
ることによって初めて④部分の「応答」が起こるというのが構成要件I
1の通常の解釈である。構成要件I2についても,原告の主張は上記と
同様である。
(イ)被告らは,「被告製品では,少なくとも(①+②+③)に加えて,
指等で画像をさらに移動させなければ」前記電子ドキュメントの縁を越
えるエリアを表示することはないと主張する。この主張は,その前提と
して,構成要件I1では,電子ドキュメントの縁に到達した後には,オ
ブジェクトが検出されないことを前提としている。しかし,構成要件I
1は,縁を越えるエリアを表示することの条件として,タッチスクリー
ンディスプレイ上又はその付近でオブジェクトがまだ検出されている間
であって,かつ,前記電子ドキュメントが第一方向に移動する間に「電
子ドキュメントの縁に到達」したことを明確に規定している。すなわち,
当該「電子ドキュメントの縁に到達」というタイミングの前後で,タッ
チスクリーンディスプレイ上又はその付近でオブジェクトがまだ検出さ
れており,かつ,前記電子ドキュメントが第一方向に移動していること
は明らかである。よって,被告らの主張する「指等で画像をさらに移動
させ」る操作は,①及び②に当然に包含される操作である。
(被告らの主張)
「応答」とは,「入力・刺激などに対する出力・反応」を意味する(乙
4)。
してみると,構成要件I1では,前記電子ドキュメントの縁に到達する
のに対する出力・反応として,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリア
を表示し,かつ前記電子ドキュメントの前記第1部分より小さい第3部分
を表示するためのインストラクションが要求されていることになる。
すなわち,①+②+③)に応答して(⑤+⑥)となるというのが,構成
要件I1である。「応答」とは,入力に対する出力であるところ(乙4),
構成要件I1の意味は,(①+②+③)により(⑤+⑥)となるというこ
とである。①+②+③に加えて,更に指等で画像を移動させることは含ま
れていない。
エ構成要件F1~J1の充足性(争点1-4)
(原告の主張)
(ア)構成要件F1の充足性
被告製品に搭載されているアプリケーションプログラムには「ギャラ
リー」があり,このアプリケーションにより「FOMA端末やmicroSD
カードに保存されている静止画や動画を閲覧したり,整理したりでき」
る(甲3・119頁,甲4・73頁,甲7・277頁)。被告製品のア
プリケーション一覧では,写真1のような画面が表示される。写真2
は,このうち「Gallery(ギャラリー)」のアイコン(赤い正方形で囲
った部分)を表示する領域を拡大したものである。
この「Gallery(ギャラリー)」を起動すると,写真3のような画面
が表示される。この状態で赤い長方形で囲った「Camera(カメラ)」を
選択すると,被告製品で撮影して得られたデジタル画像が,写真4に示
すようにタイル表示される。
写真4の状態で,いずれか1枚の画像を選択すると,当該選択画像が
タッチスクリーンディスプレイ上に表示される。以下,赤い四角形で囲
った画像が選択された場合を例として説明する。このとき表示される画
像が写真5のような画像である。
次に,写真5で表示された画像をズームアップすると,以下の写真6
に示すような表示状態となる。このようなズームアップ操作は,タッチ
スクリーンディスプレイに2本の指で触れて指の間隔を広げることで行
うことができる(甲3・46頁,甲4・27頁,甲7・65頁)。この
とき表示されるズームアップされたデジタル画像の表示部分を「第1部
分」と呼ぶことにする。
画面上に表示されているデジタル画像は,タッチスクリーンディスプ
レイ上に表示されている電子的な情報であるから「電子ドキュメント」
ということができる。この点につき,本件発明1に従属する請求項25
に「前記電子ドキュメントは,デジタル映像である,請求項19に記載
の装置。」と記載されていることも(甲2),デジタル画像が「電子ド
キュメント」であることの証左である。
以上によれば,被告製品のプログラムは,タッチスクリーンディスプ
レイ上にデジタル画像(写真)の第1部分を表示するためのインストラ
クションを含むことは明らかであり,当該インストラクションは,構成
要件F1の「電子ドキュメントの第1部分を表示するためのインストラ
クション」に相当するものである。
よって,被告製品は構成要件F1を充足する。
(イ)構成要件G1の充足性
被告製品は,タッチスクリーンディスプレイを利用することで,当該
タッチスクリーンディスプレイ上に表示されている表示内容や表示項目
を操作することができる。具体的な操作方法として,「タップする/ダ
ブルタップする」,「ロングタッチする」,「ドラッグ(スライド)す
る」,「スクロールする」,「フリックする」,「2本の指の間隔を広
げる/狭める」がある(甲3・45~46頁,甲4・26~27頁,甲
7・63~64頁)。このうち「スクロールする」とは,「表示内容を
指で押さえながら上下左右に動かしたり,表示を切り替えたり」するこ
とを意味する(甲3・46頁,甲4・27頁,甲7・64頁)。
この「スクロールする」操作方法において表示内容を指等で押さえな
がら上下左右に動かせるようにするためには,タッチスクリーンディス
プレイ上における指等の移動の検出が不可欠であって,そのためのイン
ストラクションとして,タッチスクリーンディスプレイ上における指等
の移動を検出するためのインストラクションをプログラムが有している
ことは明らかである。
構成要件G1では,「タッチスクリーンディスプレイ上またはその付
近でオブジェクトの移動」を検出することを要件としているが,移動を
検出される対象物であるオブジェクトに「指」が含まれることも明らか
である。この点につき,オブジェクトに関して本件発明1に請求項22
に,「前記オブジェクトは指である,請求項19に記載の装置。」と記
載されていることも(甲2),「指」が「オブジェクト」であることの
証左である。
よって,被告製品は構成要件G1を充足する。
(ウ)構成要件H1の充足性
被告製品の上記「Gallery(ギャラリー)」アプリケーションの起動
後,写真6のような表示状態においてタッチスクリーンディスプレイに
指を触れて左方向に移動させると,指の移動に応答して画面に表示され
ている「電子ドキュメント」であるデジタル画像が徐々に左方向に移動
する。その結果として,表示画面は写真7のように切り換わる。写真6
で示す第1部分と写真7とで表示する「第2部分」とは,デジタル画像
が移動した分だけ内容が異なっている。
以上によれば,被告製品のプログラムは,タッチスクリーンディスプ
レイ上での指等の移動の検出に応答して,タッチスクリーンディスプレ
イ上に表示されたデジタル画像(写真)の第1部分を第1方向としての
左方向に徐々に移動し,デジタル画像(写真)の上記の第1部分とは異
なる第2部分を表示するためのインストラクションを含むことは明らか
であり,このようなインストラクションは構成要件H1に相当するもの
である。
よって,被告製品は構成要件H1を充足する。
(エ)構成要件I1の充足性
被告製品の上記「Gallery(ギャラリー)」アプリケーションを起動
して,写真7のような画面状態から更に指を左方向に移動させると,デ
ジタル画像の縁が表示される。その状態で更に指を左方向に移動させ,
かつ,指をタッチスクリーンディスプレイに触れたままの状態で維持す
ると,写真8のようにデジタル画像の縁を越えるエリアが表示される。
写真8では,当該エリアを緑色の矩形領域として示している。このとき,
表示画面における緑の矩形領域を除いた部分がデジタル画像を表示する
部分であって,当該デジタル画像の表示部分を「第3部分」と呼ぶ。な
お,写真8における赤い矢印は,指及びデジタル画像の移動方向(左方
向)を示している。
当該第3部分に与えられる表示領域のサイズは,デジタル画像の縁を
越えるエリアが存在するために,写真6の第1部分に与えられる表示領
域のサイズに比べて小さくなるから,デジタル画像の第3部分のサイズ
はデジタル画像の第1部分よりも当然に小さくなる。
このような表示状態を実現するために,被告製品のプログラムはタッ
チスクリーンディスプレイ上において指等がまだ検出されている間にデ
ジタル画像(写真)を第1方向としての左方向に移動する間にデジタル
画像の縁に到達するのに応答して,当該デジタル画像の縁を越えるエリ
アを表示し,かつ,デジタル画像の上記第1部分よりも小さい第3部分
を表示するためのインストラクションを含むことは明らかである。そし
て,このようなインストラクションは,構成要件I1のインストラクシ
ョンに相当するものである。
よって,被告製品は構成要件I1を充足する。
(オ)構成要件J1の充足性
被告製品の上記「Gallery(ギャラリー)」アプリケーションを起動
して,写真8のような表示状態で指をタッチスクリーンディスプレイか
ら離すと,デジタル画像がそれまでの左方向の移動方向とは逆の右方向
に徐々に移動して,それまで表示されていたデジタル画像の縁を越える
エリアが徐々に画面上から消えていき,最終的にデジタル画像の縁を越
えるエリアが表示されなくなる。
その結果,表示画面は写真9のようになる。写真9では,参考のため
に写真8で「縁を越えるエリア」であった領域を点線の矩形領域で示し
ている。また,デジタル画像の移動方向を赤い矢印で示している。すな
わち,縁を越えるエリアがもはや表示されなくなるまでデジタル画像が
右方向に移動したことが分かる。この時に画面に表示されているデジタ
ル画像の部分を「第4部分」と呼ぶ。当該第4部分は,写真6における
第1部分とは異なる部分であることは明らかである。
このような表示状態を実現するために,被告製品のプログラムは,タ
ッチスクリーンディスプレイ上に指等がもはやないことを検出するのに
応答して,デジタル画像の縁を越えるエリアがもはや表示されなくなる
まで,第1方向としての左方向とは異なる第2方向としての右方向にデ
ジタル画像を徐々に移動し,デジタル画像の上記第1部分とは異なる第
4部分を表示するためのインストラクションを含むことは明らかである。
そして,このようなインストラクションは,構成要件J1のインストラ
クションに相当するものである。
よって,被告製品は構成要件J1を充足する。
(被告らの主張)
(ア)原告の主張はいずれも否認する。
(イ)原告は,本件発明1を分説するに際し,プログラムに含まれるイン
ストラクションを細分化しているが,適切でない。構成要件F1に記載
された「第1部分」を構成要件H1,I1,J1においても登場させ,
構成要件H1,I1,J1にて表示する部分と構成要件F1のインスト
ラクションにおける表示を対比させるなどしており,インストラクショ
ンの機能的関連性が見て取れることからも,構成要件F1~J1のイン
ストラクションは,前記プログラムを構成する一連のインストラクショ
ンのセットであると解される。本件明細書においても,「前記モジュー
ル又はプログラム(即ち,インストラクションのセット)(【018
8】)と記載されているとおり,プログラムはインストラクションのセ
ットにより構成されることが明示されている。原告の主張・立証方法は,
細分化された個々の構成要件の現象面からプログラムの存在を推定する
という方法であるが,これは,機能的な関連性を有する構成要件F1~
J1のインストラクションのセットからなるプログラムの存在を立証す
るものではない。
個々の構成要件に即して考えてみても,被告製品においては,構成要
件I1にいう「…まだ…されている間に…し,…を表示し,且つ,…を
表示せよ」という命令や,構成要件J1にいう「…がもはや…を検出す
るのに…して,…とは異なる…を…せよ」という命令は存在しない。
被告製品は,構成要件F1~J1を充足しない。
(ウ)被告製品では,「縁に到達」しただけでは表示がされず,その後に
指等で移動させると表示がされるのであるから,構成要件I1の「縁に
到達するのに応答して,…表示し」を充足しない。
(エ)被告製品は,そもそも本件発明1は全く異なる命令を行っているの
であり,「電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示」させるような
命令をしてはいない。これについて,模式的に表したのが別紙被告製品
模式図である。写真8(及び写真15)の場合について説明すると,被
告製品では,●(省略)●(写真8,写真15S及びS2では黒色,写
真15Tでは白色),●(省略)●「電子ドキュメントの縁を越えるエ
リアを表示」する命令を有しているものではない。
また,被告製品1及び3については,有機ELディスプレイを採用し
ており,黒色が現れている画素は発光していない(駆動していない)。
原告は,黒色が見えることと黒色を表示することを混同している点で誤
りである。何もしない・何も起きない場合に,外観が「表示」されてい
るとはいわないのであり,「表示」には,より能動的な動作が要求され
る。被告製品の写真8の状態では,原告が「縁を越えるエリア」と指示
する部分においては,その全体において何も表示しておらず,「前記電
子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示」することがない。このよう
に,被告製品1及び3には,「前記電子ドキュメントの縁を越えるエリ
アを表示」する命令さえも存在しない。
したがって,被告製品は構成要件I1を充足しない。
(オ)原告は,(原告の理解するところの)縁に到達する前である写真7
及び縁に到達した後である写真8を示すのみであり,「デジタル画像の
縁に到達」した時点(そして,その出力・反応)の写真を示していない。
被告製品では,写真7から写真8への状態に遷移する過程で,写真9の
ような状態になったとしても,さらに指等を(写真7の状態を前提とす
れば左に)動かさなければ,写真8の状態になることはなく,これは,
電子ドキュメントの縁に到達するのに対する出力・反応によるものでは
ない。
したがって,被告製品は構成要件I1を充足しない。
オ構成要件G2~J2の充足性(争点1-5)
(原告の主張)
(ア)構成要件G2の充足性
構成要件G2は,構成要件G1とほぼ同一である。構成要件G1にお
いて「その付近で」とある部分が構成要件G2において「その付近にお
いて」となっている点のみが異なるが,実質的な相違点ではない。
したがって,上記エ(原告の主張)(イ)と同様の理由により,被告製
品は,構成要件G2を充足する。
(イ)構成要件H2の充足性
上記エ(原告の主張)(ウ)に記載したように,被告製品のプログラム
は,タッチスクリーンディスプレイ上での指等の移動の検出に応答して,
タッチスクリーンディスプレイ上に表示されたデジタル画像(写真)の
第1部分を第1方向としての左方向に徐々に移動し,デジタル画像(写
真)の上記の第1部分とは異なる第2部分を表示するためのインストラ
クションを含み,このようなインストラクションは,構成要件H1に相
当するものである。
そして,構成要件H2は,構成要件H1における「前記電子ドキュメ
ントの前記第1部分とは異なる第2部分を表示する」との構成を省略し
たものにほかならないから,上記のインストラクションが構成要件H2
のインストラクションに相当することも明らかである。
よって,被告製品は構成要件H2を充足する。
(ウ)構成要件I2の充足性
上記エ(原告の主張)(エ)に記載したように,被告製品のプログラム
は,タッチスクリーンディスプレイ上において指等がまだ検出されてい
る間にデジタル画像(写真)を第1方向としての左方向に移動する間に
デジタル画像の縁に到達するのに応答して,当該デジタル画像の縁を越
えるエリアを表示し,かつ,デジタル画像の上記第1部分よりも小さい
第3部分を表示するためのインストラクションを含み,このようなイン
ストラクションは,構成要件I1のインストラクションに相当するもの
である。
そして,構成要件I2は,構成要件I1の「,且つ前記電子ドキュメ
ントの前記第1部分より小さい第3部分を表示する」の構成を省略した
ものにほかならないから,上記のインストラクションが構成要件I2の
インストラクションに相当することも明らかである。
よって,被告製品は構成要件I2を充足する。
(エ)構成要件J2の充足性
上記エ(原告の主張)(オ)に記載したように,被告製品のプログラム
は,タッチスクリーンディスプレイ上に指等がもはやないことを検出す
るのに応答して,デジタル画像の縁を越えるエリアがもはや表示されな
くなるまで,第1方向としての左方向とは異なる第2方向としての右方
向にデジタル画像を徐々に移動し,デジタル画像の上記第1部分とは異
なる第4部分を表示するためのインストラクションを含み,このような
インストラクションは,構成要件J1のインストラクションに相当する
ものである。
そして,構成要件J2は,構成要件J1の「前記電子ドキュメントの
第1部分とは異なる第4部分を表示する」の構成を省略したものにほか
ならないから,上記のインストラクションが構成要件J2のインストラ
クションに相当することも明らかである。
よって,被告製品は構成要件J2を充足する。
(被告らの主張)
(ア)原告の主張はいずれも否認する。
(イ)上記エ(被告らの主張)(イ)~(オ)と同じ(ただし,「本件発明
1」は「本件発明2」と読み替える。)。
カ構成要件G3~J3の充足性(争点1-6)
(原告の主張)
(ア)構成要件G3の充足性
構成要件G3は,構成要件G1とほぼ同一である。構成要件G1にお
いて「その付近で」とある部分が構成要件G3において「その付近にお
いて」となっている点のみが異なるが,実質的な相違点ではない。
したがって,上記エ(原告の主張)(イ)と同様の理由により,被告製
品は構成要件G3を充足する。
(イ)構成要件H3の充足性
被告製品のアプリケーション一覧では,写真11のような画面が表示
される。写真12は,このうち「Settings(設定)」アイコン(赤い正
方形で囲った部分)を表示する領域を拡大したものである。
この「Settings(設定)」アプリケーションを起動すると写真13の
ような画面が表示される。ここで表示されるのは,設定アプリケーショ
ンにおいて設定変更が可能な項目のリストである。当該画面を利用して
ユーザーは「FOMA端末の各種設定ができ」る(甲3・55頁,甲
4・32頁,甲7・87頁)。
このような表示状態においてタッチスクリーンディスプレイに指を触
れて上方向に移動させると,指の移動に応答して画面に表示されている
リストのアイテムが徐々に上方向に移動して,リストが全体としてスク
ロールする。その結果として,表示画面は写真14のように切り換わる。
写真13で示す「第1部分」と,写真14とで表示する「第2部分」と
は内容が異なっており,リストがスクロールしたことが分かる。
以上によれば,被告製品のプログラムは,タッチスクリーンディスプ
レイ上での指等の移動の検出に応答して,タッチスクリーンディスプレ
イ上に表示されたアイテムのリストを第1方向としての上方向にスクロ
ールするためのインストラクションを含むことは明らかであり,このよ
うなインストラクションは,構成要件H3のインストラクションに相当
するものである。
よって,被告製品は構成要件H3を充足する。
(ウ)構成要件I3の充足性
被告製品の上記「Settings(設定)」アプリケーションを起動して,
写真14のような画面状態から更に指を上方向に移動させると,リスト
の末端が表示される。その状態で更に指を上方向に移動させ,かつ,指
をタッチスクリーンディスプレイに触れたままの状態で維持すると,写
真15のようにリストの末端を越えるエリアが表示される。
このような表示状態を実現するために,被告製品のプログラムは,タ
ッチスクリーンディスプレイ上において指等がまだ検出されている間に
アイテムのリストを第1方向としての上方向に移動する間にリストの末
端に到達するのに応答して,当該リストの末端を越えるエリアを表示す
るためのインストラクションを含むことは明らかであり,このようなイ
ンストラクションは,構成要件I3に相当するものである。
よって,被告製品は構成要件I3を充足する。
(エ)構成要件J3の充足性
被告製品の上記「Settings(設定)」アプリケーションを起動して,
写真15のような表示状態で指をタッチスクリーンディスプレイから離
すと,リストがそれまでの上方向の移動方向とは逆の下方向にスクロー
ルして,それまで表示されていたリストの末端(縁)を越えるエリアが
徐々に画面上から消えていき,最終的にリストの末端を越えるエリアが
表示されなくなる。その結果,表示画面は写真16のようになる。
このような表示状態を実現するために,被告製品のプログラムは,タ
ッチスクリーンディスプレイ上に指等がもはやないことを検出するのに
応答して,リストの末端を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで,
第1方向としての上方向とは逆の第2方向としての下方向にリストをス
クロールするためのインストラクションを含むことは明らかであり,こ
のようなインストラクションは,構成要件J3に相当するものである。
よって,被告製品は構成要件J3を充足する。
(被告らの主張)
(ア)原告の主張はいずれも否認する。
(イ)上記エ(被告らの主張)(イ)~(オ)と同じ(ただし,「本件発明
1」は「本件発明3」,「電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表
示」は「リストの末端を越えるエリアを表示」と読み替える。また,
(エ)のうちの有機ディスプレイに関する主張部分を除く。)。
(2)被告製品が本件発明の従属項の技術的範囲に属するか。
ア被告製品が請求項25の技術的範囲に属するか(争点2-1)
(原告の主張)
デジタル画像も電子ドキュメントに当たるから,被告製品は請求項25
(本件発明1の従属項)を充足する。
(被告らの主張)
原告の主張は否認する。
イ被告製品が請求項35,61及び74の技術的範囲に属するか(争点2
-2)
(原告の主張)
(ア)被告製品は,電子ドキュメントが,電子ドキュメントの縁に到達す
るまで第1方向に徐々に移動する場合,電子ドキュメントの縁に到達す
るまでの指の移動距離と同じ距離を移動し,電子ドキュメントの縁に到
達すると,縁を越えて移動する距離は,指が移動する距離よりも短いか
ら,請求項35(本件発明1の従属項)及び請求項61(本件発明2の
従属項)を充足する。
(イ)被告製品は,リストを,当該リストの末端に到達するまで第1方向
にスクロールする場合,当該リストは,当該リストの末端に到達するま
での指等の移動距離に対応する距離を移動し,当該リストの末端に到達
した後は,当該リストの末端を越える部分へのスクロール距離は,指等
の移動距離より短いから,請求項74(本件発明3の従属項)を充足す
る。
(ウ)被告製品の「設定」アプリケーションを起動して,リスト上に指を
置き,指を上方向に移動させると,表示されているリストは指に追従し
て上方向にスクロールする。このとき指とリストとの対応関係は,リス
トのスクロール中において維持される。具体的には,例えばリストにお
ける「ユーザ補助」の項目の脇に指を置いてスクロールを行った場合,
リストのスクロール中における指とリストの項目との位置関係は維持さ
れる。このときの様子を以下の写真21及び22に示す。写真21,2
2では,リストの項目とその脇に位置する指の関係がリストの表示位置
が変わっても実質的に維持されている。すなわち,リストのスクロール
は指の移動に追従できている。なお,写真21,22では,リストの末
端はまだ表示されていない。
一方,リストの末端が表示された後は,指の移動に対してリストのス
クロールが追従できておらず,末端が表示される以前と比べると移動中
に指とリストとが大きくずれてしまっている。写真23はこのときの様
子を示している。写真22では,「ユーザ補助」の項目の脇にあった指
が,写真23では「言語と文字入力」の脇にある。項目「言語と文字入
力」は「ユーザ補助」よりも2つ上に位置しているので,指の移動距離
がリストのスクロール距離よりも大きいことは明らかである。以上の写
真は,甲39~41号証のビデオからキャプチャーした画像であって,
以上に説明した被告製品の動作は当該ビデオの内容からも明らかである。
(エ)以上の検証結果において,「電子ドキュメント」をリストと解釈し,
「移動」をスクロールと解釈し,「オブジェクト」を指と解釈し,「オ
ブジェクトの移動距離」を,タッチスクリーンディスプレイ上での指の
移動距離と解釈し,「第1の関連移動距離」を,タッチスクリーンディ
スプレイに表示されたリストの,リストの縁に到達するより前の移動距
離と解釈する。この場合,上記のように指とリストとの対応関係は,リ
ストの移動中において維持されているので,オブジェクトの移動距離と,
第1の関連移動距離とは対応していることは明らかである。
また,「第2の関連移動距離」を,タッチスクリーンディスプレイに
表示されたリストの,リストの縁を越えるエリアが表示されている状態
でのリストの移動距離と解釈する。この場合,リストのスクロールは指
の移動に追従できていない。仮に第1の関連移動距離のように,オブジ
ェクトの移動距離に対応する関連移動距離においてリストがスクロール
するのであれば,指の移動に追従し,指とリストとの対応関係は,移動
中において維持されていたはずである。しかしながら実際にはリストは
指に追従できず,ずれが生じてしまっているので,結果としてリストの
第2の関連移動距離は,「オブジェクトの移動距離に対応する関連移動
距離」よりも短くなっている。
以上のとおりであるから,被告製品は請求項35及び61を侵害する
ことは明らかである。
(オ)上記(ウ)の検証結果において,「オブジェクト」を指と解釈し,
「オブジェクトの移動距離」を,タッチスクリーンディスプレイ上での
指の移動距離と解釈し,「第1の関連スクロール距離」を,タッチスク
リーンディスプレイに表示されたリストの,リストの末端に到達するよ
り前のスクロール距離と解釈する。この場合,上記のように指とリスト
との対応関係は,リストのスクロール中において維持されているので,
オブジェクトの移動距離と,第1の関連スクロール距離とは対応してい
ることは明らかである。
また,「第2の関連スクロール距離」を,タッチスクリーンディスプ
レイに表示されたリストの,リストの末端を越えるエリアが表示されて
いる状態でのリストのスクロール距離と解釈する。この場合,リストの
スクロールは指の移動に追従できていない。仮に第1の関連スクロール
距離のように,オブジェクトの移動距離に対応する関連スクロール距離
においてリストがスクロールするのであれば,指の移動に追従し,指と
リストとの対応関係は,移動中において維持されていたはずである。し
かしながら実際にはリストは指に追従できず,ずれが生じてしまってい
るので,結果としてリストの第2の関連スクロール距離は,「オブジェ
クトの移動距離に対応する関連スクロール距離」よりも短くなっている。
以上のとおりであるから,被告製品は請求項74を侵害することは明
らかである。
(カ)請求項35における「関連移動距離」は電子ドキュメントの移動距
離を示している。「第1の関連移動距離」と「第2の関連移動距離」と
は,前者が「電子ドキュメントの縁に到達するまで」の移動距離である
のに対し,後者は「電子ドキュメントの縁に到達した後」の移動距離で
ある。両者は,ともに関連移動距離である点で共通するが,その長さと
オブジェクトの移動距離との関係につき異なっており,そのことは「関
連移動距離」が「対応する」という記載により,より明確になっている。
まず,「オブジェクトの移動距離」に対応する「関連移動距離」とは,
例えば,ユーザ―の指などの移動距離のような「オブジェクトの移動距
離」に対応した電子ドキュメントの移動距離である。また,「オブジェ
クトの移動距離」に対応する「第1の関連移動距離」は,例えば,ユー
ザーの指などの移動距離のような「オブジェクトの移動距離」に対応し
た,「電子ドキュメントの縁に到達するまでの」電子ドキュメントの移
動距離である。このとき,「関連移動距離」とは,単にオブジェクトの
移動距離と対応する電子ドキュメントの移動距離の意味を有するが,
「第1の関連移動距離」はオブジェクトの移動距離と対応する電子ドキ
ュメントの移動距離を意味するだけでなく,ドキュメントの縁に到達す
るまでの電子ドキュメントの移動距離の意味に限定される。
これに対して,第2の関連移動距離については,いずれかの距離に
「対応する」という明示がない代わりに,(ユーザーの指などの移動距
離のような)「オブジェクトの移動距離に対応する関連移動距離」より
も短くなると説明されている。
よって,被告製品における,電子ドキュメントの縁に到達した後の
「オブジェクトの移動距離に対応する関連移動距離」は,「Settings
(設定)」におけるリストの末端に到達した後のユーザーの指などの移
動距離であることはいずれも明白である。
なお,請求項61及び74についても,請求項35について上述した
ことがそのまま当てはまる。
(被告らの主張)
原告は,請求項35の「関連移動距離」とは電子ドキュメントの移動距
離を意味するとする。同時に,原告は,(電子ドキュメントの縁に到達し
た後の)「オブジェクトの移動距離に対応する関連移動距離」を,ユーザ
ーの指などの移動距離,すなわちオブジェクトの移動距離であるとする。
原告は,自らが「関連移動距離」は電子ドキュメントの移動距離であると
説明しながら,同時にオブジェクトの移動距離に対応する「関連移動距
離」を電子ドキュメントの移動距離ではなく,オブジェクトの移動距離で
あると述べており,原告の当該主張は明らかに矛盾している。
このように,原告の主張に従っても,請求項35の文言を整合的に理解
することはできない。また,原告の上記主張は明らかに請求項35の記載
とは異なる内容を有している(「関連移動距離」を「電子ドキュメント」
のではなく「オブジェクト」の移動距離としている。)ため,原告の主張
によっては,被告製品が請求項35の構成要件を充足することは何ら示さ
れていない。
また,そもそも仮に関連移動距離を電子ドキュメントの移動距離である
と理解するとしても,電子ドキュメントの移動距離はオブジェクトの移動
に依存し,第1と第2の関連移動距離の大小関係は定まらないことは自明
である(縁に到達した後の電子ドキュメントの移動距離は,縁に到達前の
電子ドキュメントの移動距離よりも大きくも,小さくもなる。それはオブ
ジェクトの移動の仕方次第である。)。したがって,被告製品では第2の
関連移動距離が第1の関連移動距離よりも小さいとはいえない。
なお,請求項61及び74についても,請求項35について上述したこ
とがそのまま当てはまる。
ウ被告製品が請求項36及び75の技術的範囲に属するか(争点2-3)
(原告の主張)
(ア)被告製品は,電子ドキュメントの縁に到達するまで第1方向に徐々
に移動することは,指の移動スピードに対応するスピードを有し,電子
ドキュメントの縁に到達すると,縁を越えて徐々に移動することは,前
記の指の移動スピードに対応するスピードよりも低速であるから,請求
項36(本件発明1の従属項)を充足する。
(イ)被告製品は,リストを,当該リストの末端に到達するまで第1方向
にスクロールすることは,指等の移動スピードに対応するスピードを有
し,当該リストの末端に到達した後は,当該リストの末端を越える部分
へのスクロールスピードは前記のスクロールスピードより低速であるか
ら,請求項75(本件発明3の従属項)を充足する。
(ウ)請求項35,61及び74と関連して説明したとおり,被告製品に
おいて,電子ドキュメントの縁(又はリストの末端)に到達するまでの
第1の関連移動距離(又は第1の関連スクロール距離)は,指の移動距
離に対応する一方,電子ドキュメントの縁(又はリストの末端)を越え
るエリアが表示された後の第2の関連移動距離(又は第2の関連スクロ
ール距離)は,指の移動距離よりも短い。
この場合,指の移動速度が同じであれば電子ドキュメントの移動速度
は,電子ドキュメントの縁に到達するまでの方が電子ドキュメントの縁
を越えるエリアが表示された後よりも速いことは明らかである。一般に
距離は速度と時間に基づき算出される値であり,時間が同じであれば距
離が長い方が速度が速く,距離が短い方が速度が遅いことは自明である。
すなわち,被告製品においてリストの縁に到達するまでの上方向の移動
の速度を,第1の関連移動スピード(又は第1の関連スクロール速度)
と解釈し,リストの縁を越えるエリアが表示されている場合の当該リス
トの上方向の移動の速度を第2の関連移動スピード(又は第2の関連ス
クロール速度)と解釈すると,第2の関連移動スピード(又は第2の関
連スクロール速度)は第1の関連移動スピード(又は第1の関連スクロ
ール速度)よりも低速である。
以上のとおりであるから,被告製品は請求項36及び75の,「第2
の関連移動スピードは,前記第1の関連移動スピードより低速である」
及び「第2の関連スクロールスピードは,前記第1の関連スクロールス
ピードより低速である」というクレーム文言を充足することは明らかで
ある。
(被告らの主張)
原告は,「指の移動速度が同じであれば」(第2の関連移動スピードは
第1の関連移動スピードよりも遅い)という前提を加えた上で構成要件該
当性を主張する。しかし,原告が上記仮定を置いていることからも分かる
とおり,(仮に「関連移動スピード」の意義について原告の主張を前提と
したとしても),被告製品では,一般に第2の関連移動スピードは第1の
関連移動スピードよりも遅いことにはならない。
そして,原告は「指の移動速度が同じであれば」という条件を課すが,
請求項にはそのような条件は一切記載されておらず,原告の当該主張は請
求項の記載に基づくものではないので,主張自体失当である。
なお,請求項75についても,請求項36について上述したことがその
まま当てはまる。
(3)本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものである
か。
ア記載要件違反の有無(争点3-1)
(被告らの主張)
(ア)実施可能要件・サポート要件違反
a本件発明は,請求項の末尾は「装置」であるものの,コンピュータ
が果たす機能を表すソフトウェアに関するものである。
本件明細書をみると,種々の機能に関する記載はあるものの,本件
発明を具体的にどのように実施するかについては,全く記載がない。
図1にはある実施形態を示すブロック図が,図5,図7ないし図9に
は,ある実施形態を示すフローチャートがあるが,これらブロック図
ないしフローチャートと明細書の記載を併せても,原告主張の“バウ
ンスバック効果”なる動作を実現するために,どのようにハードウェ
アあるいはソフトウェアが構成されているのか不明確であるから,本
件発明が実施できない。
また,本件発明における「インストラクション」(原告のいうとこ
ろの「命令」)について,原告は,被告らが主張した通常の技術用語
とは異なる意味である旨を主張しているようである。そうであれば,
本件発明においては,慣用されていない用語が定義されずに使用され
ているため,用語の意味が不明瞭である結果,本件発明が実施できな
い。
さらに,本件発明のようなソフトウェア関連発明において,明細書
における開示内容が抽象的な動作及び機能の記述にとどまる場合には,
当該発明の技術的範囲の画定が困難である一方で,権利範囲が拡張的
に解釈される危険性があることから,ソフトウェア関連発明について
はソースコード等を伴った実施例がない限り,実施可能要件(及びサ
ポート要件)に違反するというべきである。
b特許請求の範囲の記載が明細書等のサポート要件に適合するか否か
は,「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,
特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された
発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解
決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示
唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解
決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべ
き」とされる(知財高判平成17年11月11日[平成17年(行
ケ)10042号])。
この点,本件発明が解決しようとする課題は,「タッチスクリーン
ディスプレイを伴う装置に,アイテムのリストをスクロールしたり,
電子ドキュメントを並進移動,回転及びスケーリングしたりするため
の,使用,構成及び/又は適応が容易な,より透過的で且つ直感的な
ユーザインターフェースを設けること」(本件明細書【0006】)
にあるところ,本件明細書及び図面には,前記課題を解決するための
具体的なハードウェアあるいはソフトウェアは何ら開示されておらず,
単に抽象的な動作及び機能が記載されているにすぎないから,当業者
において,出願時の技術常識に照らし,前記課題を解決できると認識
できるものではない。
また,前述したとおり,本件明細書には,原告が言うところの“バ
ウンスバック効果”を実現するための具体的なソースコードないしソ
フトウェア構造が何ら開示されていない。
以上のとおり,本件明細書等には,本件発明の課題を解決できると
認識できる範囲の発明が記載されているとはいえないから,特許を受
けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえ
ない。
(イ)明確性要件違反
a本件発明は,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮
しても,請求項中の用語である「電子ドキュメント」及び「電子ドキ
ュメントの縁」の意味内容を理解できない結果,発明は不明確である。
b本件発明について,原告は,「本件明細書上,電子ドキュメントと
電子ドキュメントの縁を越える部分について視覚上差がない場合も明
らかに記載されている」,「境界の有無が侵害の成否の判断において
意味を有しない」と主張する。原告の主張を前提とすれば,本件発明
は,電子ドキュメントとその縁を越える部分に,視覚上の差がなく,
境界がなくとも,本件発明の技術的範囲に属する。
してみると,本件発明においては,「電子ドキュメントの縁」(な
いし「リストの末端」)との用語があるところ,本件発明の技術的範
囲を判断する上で,視覚上の「電子ドキュメントの縁」は無関係であ
ることになる。
そうであれば,本件発明において,「電子ドキュメント」ないし
「電子ドキュメントの縁」の用語の意味内容は不明であり,何をもっ
て「電子ドキュメントの縁」に到達したか,「電子ドキュメントの
縁」を越える部分であるかを判断すればよいのか不明である(それは
視覚によらない)。
その一方で,原告は,訴状では被告製品の画面の写真を用いて視覚
的な説明を行い,また,「電子ドキュメントの縁が視認できるときに,
電子ドキュメントの縁に到達する。『縁に到達』とは,電子ドキュメ
ントの縁が視認できる状態をいう。」と述べる。原告は,前述のとお
り,本件発明では,電子ドキュメント(の縁)について,それは視覚
上問題でないとの立場に立ちながら,同時に視覚上の問題であるとも
述べているのである。してみると,なお一層,本件発明の「電子ドキ
ュメント」及び「電子ドキュメントの縁」の意味内容を理解できない。
明確性要件が要求されるのは,特許発明が明確に把握できないとき
には権利の及ぶ範囲が第三者に不明確となり不測の不利益を及ぼすこ
とになるからである。
そして,本件では,まさに本件発明が明確でないために,特許権者
から複数の相矛盾する主張を許し,その結果,権利の及ぶ範囲が第三
者に不明確となり不測の不利益を及ぼすこととなっており,正に明確
性要件違反が問われるべき状況にある。
なお,「アイテムのリスト」,「リストの末端」,「末端を越える
エリア」及び「末端に到達」についても同様である。
c以上のとおり,本件発明は,明細書及び図面の記載並びに出願時の
技術常識を考慮しても,請求項中の用語である「電子ドキュメント」
及び「電子ドキュメントの縁」の意味内容を理解できない結果,発明
は不明確である。
(原告の主張)
(ア)実施可能要件・サポート要件違反について
a本件明細書上では,ハードウェア,ソフトウェア及びその基本動作
については,【0041】~【0088】,図1及び図2において記
載され,本件発明に係る動作は,【0115】~【0127】,図5
及び図6A~図6D,並びに,【0128】~【0145】,図7及
び図8A~図8Dにおいて記載されている。このように,ハードウェ
ア,ソフトウェア及び本件発明にかかる動作については,本件明細書
上十分な記載がされている以上,当該発明の属する技術分野における
通常の知識を有する者(当業者)であれば,容易に,過度の実験など
を要せず,本件発明を実施することができることは明らかである。
したがって,本件明細書における発明の詳細な説明において,本件
発明が実施可能な程度に記載されていることは明らかである。
b上記に述べたとおり,本件発明は,本件明細書及び図面に明確に記
載されているものであって,サポート要件違反は存しない。被告らは,
本件発明の実施に使用されるハードウェアやソフトウェアの点を過度
に強調しているが,本件発明は,それを実施するために特別なハード
ウェアやソフトウェアを要するものではない。本件発明は,実施する
ハードウェアについて最小限の限定しか課しておらず,ソフトウェア
については何らの限定も課していない。被告らは,このように,本件
発明がハードウェアやソフトウェアについての限定をほとんど課して
いないなかで,本件発明の課題を解決する具体的な動作及び機能であ
る,外観上のバウンスバック効果を生じさせ,バウンスバック効果に
より本件発明の課題を解決するということについて,何ら主張を行っ
ていない。
(イ)明確性要件違反について
a被告らの視覚上の差がないという主張は,クレーム文言の意味が,
ある特定の実施形態において明確な視覚上の差異として認識できない
ために不明確であるというにすぎない。当然のことながら,「電子ド
キュメント」等のクレーム文言の意味は明確であり,ある実施形態に
おいて視覚的に差異を認識できるか否かはクレーム文言の意味の明確
性には何ら関係しない。さらに,本件発明におけるクレーム文言はそ
もそも「電子ドキュメント」と「その縁を越えるエリア」との間に境
界を要するとはしていない。よって,「電子ドキュメント」と「その
縁を越えるエリア」との間の差異が視認できるか否かという議論と,
「電子ドキュメント」と「その縁を越えるエリア」というクレーム文
言の明確性との間には,何らの論理的関連性がなく,かかる被告らの
主張は失当である。
b本件明細書【0125】において,「リストの末端を越えて表示さ
れるエリアは,…リストの背景とは視覚上差がない」と明記されてい
る。このような実施形態においても,ユーザーは,本件明細書の図6
Cに示されるとおり,いつでもリストの末端を視覚上認識することが
できる。
当業者であれば(又は当業者ではない一般のユーザーですら),仮
に視覚上の境界がないとしても,3536として示された部分が,リ
ストの末端を越えるエリアであることは容易に判別できる。特に,リ
ストにおける各欄のスペースが視覚的には等しいものの,空欄の欄に
到達したことをもって,3536として示された部分がリストの一部
というよりもリストの末端を越えるエリアであると容易に理解できる。
通常のユーザーであれば,例えば3534と示された部分に位置する
「AaronJones」からの電子メールを選択しようとして3536と示
される部分を押すことはないのである。これらのことから,リストの
末端(又は電子ドキュメントの縁)を,視覚的な境界を伴わずとも判
別することができることは明らかである。
イ公然実施に基づく新規性の欠如(争点3-2)
(被告らの主張)
(ア)LaunchTile
LaunchTileは,メリーランド大学の人間-コンピュータインタラクシ
ョン研究室(HCIL)の室長であったVが率いるチームにより,20
04年に作成されたソフトウェアであり,PDA(PersonalDigital
Assistants)であるiPAQなどのタッチスクリーンデバイス上で実行
可能である(乙6,7)。
この点,本無効理由の引例を構成するLaunchTileは,アップルインコ
ーポレイテッド社のサムスン社に対する米国訴訟(裁判所:米国地方裁
判所カリフォルニア州北部サン・ノゼ地区事件番号:11-cv-01846)
において,サムスン社が提出したVの供述書に証拠Fとして添付された
ものである。本LaunchTileがコンパイル(ソース-コードのオブジェク
ト-プログラムへの変換)された日時を確認すると2004年11月1
0日であった(乙7の図B)。
そして,2005年4月に開催されたCHI会議(ACMConference
onHumanFactorsinComputingSystem)において本LaunchTileと同一
ないし実質的に同じソフトウェアがビデオで実演され,その論文につい
て議論がされ,そして提示された(乙6,8)。同会議の参加者が見聞
した内容について守秘義務を負うものでないことは,2005年4月8
日にウェブサイト上にアップされた記事(乙8)において,LaunchTile
を実装したPDAが同会議の参加者が操作している写真,及び,
LaunchTileの操作フローの説明記事が記載されていることからも明らか
である。さらに,同年5月に開催されたHCILシンポジウムにおいて
もLaunchTileのライブデモが行なわれたりした(乙6)。なお,同会議
の参加者についてもその見聞した内容について守秘義務を負うものでは
ない(乙6)。
したがって,本LaunchTileは,本件発明に係る特許の優先日(平成1
9年(2007年)1月7日)に先立つ2005年4月ないし5月の時
点において,公然実施されていた。
なお,本無効理由を主張するにあたり,遅くとも2005年12月に
発売が開始されたPDAであるHPiPAQhx2490PocketPCに実装させる
ことにより本LaunchTileの動作確認を行った(乙7の資料1)。
(イ)LaunchTileのメールリスト表示に基づく新規性の欠如
aLaunchTileのメールリスト表示(以下「公然実施発明1」とい
う。)の構成は,以下のとおりである。
(a)構成1a
LaunchTileを実装したHPiPAQhx2490PocketPCは,タッチスク
リーンディスプレイを備えており(乙7の資料1),ペン(スタイ
ラス)ないし指でLaunchTileを操作することができる。
したがって,公然実施発明1はタッチスクリーンディスプレイを
備えている。
(b)構成1b
公然実施発明1は,プロセッサとして「インテルPXA270アプリ
ケーションプロセッサ520MHz」を備えている(乙7の資料1)。
したがって,公然実施発明1はプロセッサを備えている。
(c)構成1c
公然実施発明1は,メモリとして,128MBFlashROM,64MB
SDRAMを備え,また,SDIOカードスロットを備えており,SDカード
をメモリとしても使用することができる(乙7の資料1)。
したがって,公然実施発明1は,メモリを備えている。
(d)構成1d
公然実施発明1は,例えば,上記メモリにLaunchTileを備えてい
る(乙7)。
したがって,公然実施発明1は,プログラムを備えている。
(e)構成1e
公然実施発明1は,メモリに記憶されているLaunchTileを起動さ
せ上記プロセッサにより実行することができる。
したがって,公然実施発明1は,プログラムをメモリに記憶し,
これをプロセッサにより実行することができる構成を備えている。
(f)構成1f
公然実施発明1は,LaunchTileを起動させた後,メールのリスト
を表示しているTile(乙7の図Cにおける右上のTile)をタップす
ることによって,詳細なメールのリストを表示させることができる
(乙7の図1-1)。
したがって,公然実施発明1は,乙7号証の図1-1で示される
画面[詳細なメールのリストの第1の部分]を表示するための命令
を出すことのできる構成を備えている。
(g)構成1g
公然実施発明1は,[詳細なメールのリストの第1の部分]を表
示させた状態で,ペン(スタイラス)を画面に接触させたまま上方
向に移動させると詳細なメールのリストも上方向に徐々に移動(下
方向にスクロール)し,[詳細なメールのリストの第1の部分]と
は異なる画面[詳細なメールのリストの第2の部分]を表示する
(乙7の図1-2)。
したがって,公然実施発明1は,タッチスクリーンディスプレイ
上でペンの移動を検出するための命令を出すことのできる構成を備
えている。
(h)構成1h
公然実施発明1は,上記において述べたとおり,[詳細なメール
のリストの第1の部分]を表示させた状態で,ペンを画面に接触さ
せたまま上方向に移動させると詳細なメールのリストが上方向に
徐々に移動(下方向にスクロール)し,これと異なる[詳細なメー
ルのリストの第2の部分]を表示する。
したがって,公然実施発明1は,タッチスクリーンディスプレイ
上でのペンが上方向に移動するのを検出するのに応答して,詳細な
メールのリストを上方向に徐々に移動(下方向にスクロール)させ,
[詳細なメールのリストの第1の部分]とは異なる[詳細なメール
のリストの第2の部分]を表示するための命令を出すことのできる
構成を備えている。
(i)構成1i
公然実施発明1は,上記で述べたとおり,ペンをタッチスクリー
ンディスプレイに接触させたまま上方向に移動させると詳細なメー
ルのリストが上方向に徐々に移動(下方向にスクロール)する。ペ
ンをさらに上方向に移動させると,乙7号証の図1-3で示される
画面,すなわち,[詳細なメールのリストの第3の部分]と[詳細
なメールのリストの最下端を越えるエリア]からなる画面を表示す
る。なお,詳細なメールのリストの最下端は「Catherine
Tompson」「Thanks」である。そして,[詳細なメールのリストの
第3の部分]は,[詳細なメールのリストの第1の部分]より小さ
い。
したがって,公然実施発明1は,タッチスクリーンディスプレイ
上にペンが検出されている間に,詳細なメールのリストの最下端に
到達すると,これに応答して,[詳細なメールのリストの最下端を
越えるエリア]を表示し,かつ,[詳細なメールのリストの第1の
部分]より小さい[詳細なメールのリストの第3の部分]を表示す
るための命令を出すことのできる構成を備えている。
(j)構成1j
公然実施発明1は,乙7号証の図1-3で示される画面([詳細
なメールのリストの第3の部分]と[詳細なメールのリストの最下
端を越えるエリア])が表示された状態で,タッチスクリーンディ
スプレイに接触させているペンを離すと,下側に表示されている
[詳細なメールのリストの最下端を越えるエリア]が表示されなく
なるまで,詳細なメールのリストが自動的に下方向に徐々に移動
(上方向にスクロール)し,乙7号証の図1-4で示される画面
[詳細なメールのリストの第4の部分]を表示する。なお,[詳細
なメールのリストの第4の部分]は[詳細なメールのリストの第1
の部分]と異なる部分である。
したがって,公然実施発明1は,タッチスクリーンディスプレイ
上にペンがないことを検出するのに応答して,[詳細なメールのリ
ストの最下端を越えるエリア]がもはや表示されなくなるまで,同
リストを下方向に徐々に移動し,[詳細なメールのリストの第1の
部分]と異なる[詳細なメールのリストの第4の部分]を表示する
ための命令を出すことのできる構成を備えている。
(k)構成1k
公然実施発明1は,上記構成1a~1jを備える装置である。
b公然実施発明1と本件発明1との対比
(a)構成要件A1~E1
公然実施発明1は,構成1a~1eのとおり,タッチスクリーン
ディスプレイ,プロセッサ,メモリ及びプログラムを備えている。
したがって,本件発明1の構成要件A1~E1は,公然実施発明
1により開示されている。
(b)構成要件F1
公然実施発明1は,構成1fを備えているところ,これが表示す
る詳細なメールのリストは,電子的なドキュメントであることから
「電子ドキュメント」(構成要件F1)に該当する。
また,詳細なメールのリストの一部分である[詳細なメールのリ
ストの第1の部分](構成1f)は,「電子ドキュメントの第1部
分」(構成要件F1)に該当する。そして,[詳細なメールのリス
トの第1の部分]を表示するための命令(構成1f)は,
LaunchTileのプログラムに含まれプロセッサを動作させる命令であ
ることから「インストラクション」(構成要件F1)に該当する。
したがって,本件発明1の構成要件F1は,公然実施発明1によ
り開示されている。
(c)構成要件G1
公然実施発明1は,構成1gを備えていることから,本件発明1
の構成要件G1は,公然実施発明1により開示されている。
(d)構成要件H1
公然実施発明1は,構成1hを備えているところ,ペンの移動を
検出するのに応答して,詳細なメールのリストが徐々に移動する上
方向は「第1方向」(構成要件H1)に該当する。また,同移動に
より表示される[詳細なメールのリストの第2の部分]は「電子ド
キュメントの第2部分」(構成要件H1)に該当する。
したがって,本件発明1の構成要件H1は,公然実施発明1によ
り開示されている。
(e)構成要件I1
公然実施発明1は,構成1iを備えているところ,[詳細なメー
ルのリストの最下端を越えるエリア]は「電子ドキュメントの縁を
越えるエリア」に該当し,また,[詳細なメールのリストの第3の
部分]は(電子ドキュメントの)「第3部分」(構成要件I1)に
該当する。
したがって,本件発明1の構成要件I1は,公然実施発明1によ
り開示されている。
(f)構成要件J1
公然実施発明1は,構成1jを備えているところ,タッチスクリ
ーンディスプレイ上にペンがないことを検出するのに応答して,詳
細なメールのリストが徐々に移動する下方向は「第2方向」(構成
要件J1)に該当する。また,同移動により表示される[詳細なメ
ールのリストの第4の部分](乙7の図1-4)は(電子ドキュメ
ントの)「第4部分」(構成要件J1)に該当する。
したがって,本件発明1の構成要件J1は,公然実施発明1によ
り開示されている。
(g)小括
以上のとおり,公然実施発明1は,本件発明1の構成要件A1~
J1の構成要件を開示する装置(構成要件K1)であることから,
本件発明1は新規性が欠如する。
c公然実施発明1と本件発明2との対比
(a)構成要件A2~E2
公然実施発明1は,構成1a~1eのとおり,タッチスクリーン
ディスプレイ,プロセッサ,メモリ及びプログラムを備えている。
したがって,本件発明2の構成要件A2~E2は,公然実施発明
1により開示されている。
(b)構成要件G2
公然実施発明1は,構成1gを備えていることから,本件発明2
の構成要件G2は,公然実施発明1により開示されている。
(c)構成要件H2
公然実施発明1は,構成1fを備えているところ,表示される詳
細なメールのリストは,電子的なドキュメントであることから「電
子ドキュメント」に該当する。
そして,公然実施発明1は,構成1hを備えているところ,ペン
の移動を検出するのに応答して,詳細なメールのリストが徐々に移
動する上方向は「第1方向」(構成要件H1)に該当する。
したがって,本件発明2の構成要件H2は,公然実施発明1によ
り開示されている。
(d)構成要件I2
公然実施発明1は,構成1iを備えているところ,[詳細なメー
ルのリストの最下端を越えるエリア]は「電子ドキュメントの縁を
越えるエリア」に該当する。
したがって,本件発明2の構成要件I2は,公然実施発明1によ
り開示されている。
(e)構成要件J2
公然実施発明1は,構成1jを備えているところ,タッチスクリ
ーンディスプレイ上にペンがないことを検出するのに応答して,詳
細なメールのリストが徐々に移動する下方向は「第2方向」(構成
要件J2)に該当する。
したがって,本件発明2の構成要件J2は,公然実施発明1によ
り開示されている。
(f)小括
以上のとおり,公然実施発明1は,本件発明2の構成要件A2~
J2の構成要件を開示する装置(構成要件K2)であることから,
本件発明2は新規性が欠如する。
d公然実施発明1と本件発明3との対比
(a)構成要件A3~E3
公然実施発明1は,構成1a~1eのとおり,タッチスクリーン
ディスプレイ,プロセッサ,メモリ及びプログラムを備えている。
したがって,本件発明3の構成要件A3~E3は,公然実施発明
1により開示されている。
(b)構成要件G3
公然実施発明1は,構成1gを備えていることから,本件発明3
の構成要件G3は,公然実施発明1により開示されている。
(c)構成要件H3
公然実施発明1の詳細なメールのリストは,「アイテムのリス
ト」(構成要件H3)に該当することは明らかである。
そして,公然実施発明1は,構成1hを備えているところ,ペン
の上方向への移動を検出するのに応答して,詳細なメールのリスト
が徐々にスクロールする下方向は「第1方向」(構成要件H3)に
該当する。
したがって,本件発明3の構成要件H3は,公然実施発明1によ
り開示されている。
(d)構成要件I3
公然実施発明1は,構成1iを備えているところ,[詳細なメー
ルのリストの最下端を越えるエリア]は「リストの末端を越えるエ
リア」に該当する。
したがって,本件発明3の構成要件I3は,公然実施発明1によ
り開示されている。
(e)構成要件J3
公然実施発明1は,構成1jを備えているところ,タッチスクリ
ーンディスプレイ上にペンがないことを検出するのに応答して,詳
細なメールのリストがスクロールする上方向は「第2方向」(構成
要件J3)に該当する。
したがって,本件発明3の構成要件J3は,公然実施発明1によ
り開示されている。
(f)小括
以上のとおり,公然実施発明1は,本件発明3の構成要件A3~
J3の構成要件を開示する装置(構成要件K3)であることから,
本件発明3は新規性が欠如する。
(ウ)LaunchTileのZone表示に基づく新規性欠如
aLaunchTileのZone表示(以下「公然実施発明2」という。)の構成
は,以下のとおりである。
(a)構成2a~2e
公然実施発明2は,公然実施発明1の構成1a~1eと同一の構
成を備えている。
(b)構成2f
公然実施発明2は,LaunchTileを起動させると,4個のTileから
構成されるZone1を画面に表示する(乙7の図C)。この状態でタ
ッチスクリーンディスプレイ上にペンを接触させたまま左方向にペ
ンを移動させると,この移動の検出に応答して,左方向に移動した
Zone1の一部[Zone1の第1の部分]が表示される(乙7の図2-
1)。
したがって,公然実施発明2は,[Zone1の第1の部分]を表示
するための命令を出すことのできる構成を備えている。
(c)構成2g
公然実施発明2は,[Zone1の第1の部分]を表示させた状態で,
ペンを画面に接触させたまま右方向に移動させるとZone1の全体が
右方向に徐々に移動(左方向にスクロール)し,[Zone1の第1の
部分]とは異なる画面[Zone1の第2の部分]を表示する(乙7の
図2-2)。
したがって,公然実施発明2は,タッチスクリーンディスプレイ
上でペンの移動を検出するための命令を出すことのできる構成を備
えている。
(d)構成2h
公然実施発明2は,上記に述べたとおり,[Zone1の第1の部
分]を表示させた状態で,ペンを画面に接触させたまま右方向に移
動させるとZone1の全体が右方向に徐々に移動(左方向にスクロー
ル)し,これと異なる[Zone1の第2の部分]を表示する。
したがって,公然実施発明2は,タッチスクリーンディスプレイ
上でのペンが右方向に移動するのを検出するのに応答して,Zone1
の全体を右方向に徐々に移動(左方向にスクロール)させ,
[Zone1の第1の部分]とは異なる[Zone1の第2の部分]を表示
するための命令を出すことのできる構成を備えている。
(e)構成2i
公然実施発明2は,上記で述べたとおり,ペンをタッチスクリー
ンディスプレイに接触させたまま右方向に移動させるとZone1の全
体が右方向に徐々に移動(左方向にスクロール)する。ペンをさら
に右方向に移動させると,乙7号証の図2-3で示される画面,す
なわち,[Zone1の第3の部分]と[Zone1の左端を越えるエリア]
からなる画面を表示する。[Zone1の第3の部分]は[Zone1の第1
の部分]より小さい。
したがって,公然実施発明2は,タッチスクリーンディスプレイ
上にペンが検出されている間に,Zone1の左端に到達すると,これ
に応答して,[Zone1の左端を越えるエリア]を表示し,かつ,
[Zone1の第1の部分]より小さい[Zone1の第3の部分]を表示
するための命令を出すことのできる構成を備えている。
(f)構成2j
公然実施発明1は,乙7号証の図2-3で示される画面([Zone1
の第3の部分]と[Zone1の左端を越えるエリア]が表示)された
状態で,同ディスプレイに接触させているペンを離すと,左側に表
示されている[Zone1の左端を越えるエリア]が表示されなくなる
まで,Zone1の全体が自動的に左方向に徐々に移動(右方向にスク
ロール)し,乙7号証の図2-4で示される画面[Zone1の第4の
部分]を表示する。なお,[Zone1の第4の部分]は[Zone1の第1
の部分]と異なる部分である。
したがって,公然実施発明1は,タッチスクリーンディスプレイ
上にペンがないことを検出するのに応答して,[Zone1の左端を越
えるエリア]がもはや表示されなくなるまで,Zone1の全体を左方
向に徐々に移動し,[Zone1の第1の部分]と異なる[Zone1の第4
の部分]を表示するための命令を出すことのできる構成を備えてい
る。
(g)構成2k
公然実施発明2は,上記構成2a~2jを備える装置である。
b公然実施発明2と本件発明1との対比
(a)構成要件A1~E1
公然実施発明2は,構成2a~2eのとおり,タッチスクリーン
ディスプレイ,プロセッサ,メモリ及びプログラムを備えている。
したがって,本件発明1の構成要件A1~E1は,公然実施発明
2により開示されている。
(b)構成要件F1
公然実施発明2は,構成2fを備えているところ,これが表示す
るZone1は,電子的なドキュメントであることから「電子ドキュメ
ント」(構成要件F1)に該当する。
また,Zone1の一部分である[Zone1の第1の部分](構成2f)
は,「電子ドキュメントの第1部分」(構成要件F1)に該当する。
そして,[Zone1の第1の部分]を表示するための命令(構成2
f)は,LaunchTileのプログラムに含まれプロセッサを動作させる
命令であることから「インストラクション」(構成要件F1)に該
当する。
したがって,本件発明1の構成要件F1は,公然実施発明2によ
り開示されている。
(c)構成要件G1
公然実施発明2は,構成2gを備えていることから,本件発明1
の構成要件G1は,公然実施発明2により開示されている。
(d)構成要件H1
公然実施発明2は,構成2hを備えているところ,ペンの移動を
検出するのに応答して,Zone1の全体が徐々に移動する右方向は
「第1方向」(構成要件H1)に該当する。また,同移動により表
示される[Zone1の第2の部分]は「電子ドキュメントの第2部
分」(構成要件H1)に該当する。
したがって,本件発明1の構成要件H1は,公然実施発明2によ
り開示されている。
(e)構成要件I1
公然実施発明2は,構成2iを備えているところ,[Zone1の左
端を越えるエリア]は「電子ドキュメントの縁を越えるエリア」に
該当し,また,[Zone1の第3の部分]は(電子ドキュメントの)
「第3部分」(構成要件I1)に該当する。
したがって,本件発明1の構成要件I1は,公然実施発明2によ
り開示されている。
(f)構成要件J1
公然実施発明2は,構成2jを備えているところ,タッチスクリ
ーンディスプレイ上にペンがないことを検出するのに応答して,
Zone1の全体が徐々に移動する左方向は「第2方向」(構成要件J
1)に該当する。また,同移動により表示される[Zone1の第4の
部分](乙7の図2-4)は(電子ドキュメントの)「第4部分」
(構成要件J1)に該当する。
したがって,本件発明1の構成要件J1は,公然実施発明2によ
り開示されている。
(g)小括
以上のとおり,公然実施発明2は,本件発明1の構成要件A1~
J1の構成要件を開示する装置(構成要件K1)であることから,
本件発明1は新規性が欠如する。
c公然実施発明2と本件発明2との対比
(a)構成要件A2~E2
公然実施発明2は,構成2a~2eのとおり,タッチスクリーン
ディスプレイ,プロセッサ,メモリ及びプログラムを備えている。
したがって,本件発明2の構成要件A2~E2は,公然実施発明
2により開示されている。
(b)構成要件G2
公然実施発明2は,構成2gを備えていることから,本件発明2
の構成要件G2は,公然実施発明2により開示されている。
(c)構成要件H2
公然実施発明2は,構成2fを備えているところ,表示される
Zone1は,電子的なドキュメントであることから「電子ドキュメン
ト」に該当する。
そして,公然実施発明2は,構成2hを備えているところ,ペン
の移動を検出するのに応答して,Zone1の全体が徐々に移動する右
方向は「第1方向」(構成要件H2)に該当する。
したがって,本件発明2の構成要件H2は,公然実施発明2によ
り開示されている。
(d)構成要件I2
公然実施発明1は,構成2iを備えているところ,[Zone1の左
端を越えるエリア]は「電子ドキュメントの縁を越えるエリア」に
該当する。
したがって,本件発明2の構成要件I2は,公然実施発明2によ
り開示されている。
(e)構成要件J2
公然実施発明2は,構成2jを備えているところ,タッチスクリ
ーンディスプレイ上にペンがないことを検出するのに応答して,
Zone1の全体が徐々に移動する左方向は「第2方向」(構成要件J
2)に該当する。
したがって,本件発明2の構成要件J2は,公然実施発明2によ
り開示されている。
(f)小括
以上のとおり,公然実施発明2は,本件発明2の構成要件A2か
らJ2までの構成要件を開示する装置(構成要件K2)であること
から,本件発明2は新規性が欠如する。
d公然実施発明2と本件発明3との対比
(a)構成要件A3~E3
公然実施発明2は,構成2a~2eのとおり,タッチスクリーン
ディスプレイ,プロセッサ,メモリ及びプログラムを備えている。
したがって,本件発明3の構成要件A3~E3は,公然実施発明
2により開示されている。
(b)構成要件G3
公然実施発明2は,構成2gを備えていることから,本件発明3
の構成要件G3は,公然実施発明2により開示されている。
(c)構成要件H3
公然実施発明2は,Zone1は4つのTileを含んでおり,「アイテ
ムのリスト」(構成要件H3)に該当する。
そして,公然実施発明2は,構成2hを備えているところ,ペン
の右方向への移動を検出するのに応答して,Zone1の全体が徐々に
スクロールする左方向は「第1方向」(構成要件H3)に該当する。
したがって,本件発明3の構成要件H3は,公然実施発明2によ
り開示されている。
(d)構成要件I3
公然実施発明2は,構成2iを備えているところ,[Zone1の左
端を越えるエリア]は「リストの末端を越えるエリア」に該当する。
したがって,本件発明3の構成要件I3は,公然実施発明2によ
り開示されている。
(e)構成要件J3
公然実施発明2は,構成2jを備えているところ,タッチスクリ
ーンディスプレイ上にペンがないことを検出するのに応答して,
Zone1の全体がスクロールする右方向は「第2方向」(構成要件J
3)に該当する。
したがって,本件発明3の構成要件J3は,公然実施発明2によ
り開示されている。
(f)小括
以上のとおり,公然実施発明2は,本件発明3の構成要件A3~
J3の構成要件を開示する装置(構成要件K3)であることから,
本件発明3は新規性が欠如する。
(原告の主張)
(ア)公然実施について
公然実施発明1及び2を構成する構成1a~構成1k及び構成2a~
構成2kのうち,少なくとも構成1i及び構成1j並びに構成2i及び
構成2jが,2005年4月ないし5月の時点において,公然実施され
ていたという事実を証するに足る証拠は提出されていない。
(イ)公然実施発明1に基づく新規性の欠如について
a公然実施発明1は,電子ドキュメントの縁を越えるエリアがもはや
表示されなくなるまで電子ドキュメントを第2方向に移動させるとい
う点を開示していないため,構成要件J1及びJ2を開示しておらず,
また,前記リストの末端を越えるエリアがもはや表示されなくなるま
で前記第1方向とは逆の第2方向に前記リストをスクロールするとい
う点を開示していないため,構成要件J3を開示していない。また,
前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して前記電子ドキュメ
ントの縁を越えるエリアを表示しないため,構成要件I1及びI2も
開示していない。
bLaunchTileにおける電子メール「アプリケーション」(試作段階の
もの。甲24)においては,電子メールのリストを際限なく上下にス
クロールして,電子メールのリストの縁を越える白を表示するエリア
を表示することが可能である。そのような縁を越える白いエリアを表
示している際に,タッチペンや指をディスプレイから離しても,当該
リストにおいて縁を越えるエリアを表示させないための第2方向への
バウンスバックは生じない(甲23~25)。よって,公然実施発明
1は,構成要件J1,J2及びJ3を開示していない。
乙7号証の図1―3は,メールリスト上の最下段のメール(送信者
がCatherineThompsonのメール)に対し,青色でハイライト表示され
ているバーがわずかに重なって位置している状態を示している。青色
でハイライト表示されているバーは,そのうちの上部分がリスト最下
段のCatherineThompsonの欄に重なっていることが見て取れ,残りの
下部分は,CatherineThompsonと表示される電子メールのリストの下
段を越える部分に位置している。このように電子メールのリストが青
色でハイライト表示されるバーの表示位置からずれている場合,スタ
イラスをディスプレイから離すことで,当該リストが青色のハイライ
ト表示されているバーの位置に自動で位置合わせをすることが可能で
ある。青色でハイライト表示されるバーが一段の途中で止まっている
ような場合にしか,このようなリストの自動位置合わせは行われない。
そして,このような画面上の最小限の自動位置合わせは,青色でハイ
ライト表示されるバーがどの段の途中で止まったとしても(最上段や
最下段でなくとも)起こるものである(甲23)。一方で,青色でハ
イライト表示されるバーがリストの最下段に到達してなおその表示位
置が最下段を越える場合であっても,甲23号証の図6に示されると
おり,上記のような画面の自動位置合わせは動作しない。図6におい
ては,ユーザーはスクロールし続けることができ,図6の右図が示す
ようにリストが空欄のみを表示する状態となる。
青色でハイライト表示されているバーは,いわば自動的にいずれか
の段に位置合わせ(リストを構成する一つの段とバーとが重なり合う,
すなわち両者の中心が一致するとの意味で「センタリング」と呼ぶ)
するような機能を有しているというだけにすぎず,本件発明のような
バウンスバック効果をLaunchTileが有しているということを意味しな
い。
加えて,タッチスクリーンディスプレイに触れているタッチペンの
ペン先を離しても,公然実施発明1においては,自動的に電子メール
のリストの末端を越えるエリアを表示しなくなるまで第2方向に移動
するものではない。甲23号証の図6に示されるとおり,タッチスク
リーンディスプレイに触れているオブジェクトがディスプレイから離
れても,画面上何の動きも起こらず,CatherineThompsonのメールの
下にある空欄の電子メールのリストが続けて表示されるにすぎない。
c以上より,公然実施発明1は,本件発明の構成要件J1及びJ2を
開示しておらず,かつ,構成要件J3をも開示していない。さらに,
公然実施発明1において,電子メールのリストが最下段に到達してい
るか否かにかかわらず,青色のハイライト表示されているバーの表示
位置が当該電子メールのリストのいずれか又は空欄に収まっていない
場合は,電子メールのリストはいつでも自動的に位置を合わせるもの
であるから,「前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して」
に該当せず,当該リストにおける画面上の位置の自動位置合わせは構
成要件I1及びI2をも充足しない。
(ウ)公然実施発明2に基づく新規性の欠如について
a公然実施発明2は,本件発明1及び2の「電子ドキュメント」並び
に本件発明3の「アイテムのリスト」を充足しない。被告らは,縦2
個横2個のセットからなる「タイル」(「Zone」と呼ばれる。)及び
縦6個横6個の配列によるより大きなタイルのセットである
「World」と呼ばれるものを「電子ドキュメント」と主張しているよ
うであるが,通常一般人の感覚においては,これらのタイルのセット
(真ん中に青のボタンを有し,その回りに青のボタン用の移動経路を
配して,この経路によりタイルをそれぞれに起動できるように分離配
置しているもの)を「ドキュメント」と呼ぶことは想定されない。ま
た,被告らの主張するような任意のタイルのセットを「ドキュメン
ト」とする解釈を支持する本件明細書上の記載もない。
さらに,被告らは,これらのタイルのセットを「アイテムのリス
ト」とも主張しているが,リストは1方向にのみ展開するものであり,
タイルのセットのように2方向に展開し,かつ,青いボタンや上下左
右に伸びる経路を真ん中に有するものではあり得ない。ゆえに,公然
実施発明2は,「電子ドキュメント」又は「アイテムのリスト」を開
示しておらず,よって,本件発明1の構成要件F1,H1,Ⅰ1及び
J1,本件発明2の構成要件H2,Ⅰ2及びJ2,並びに本件発明3
の構成要件H3,Ⅰ3及びJ3を開示していないことは明らかである。
b加えて,ユーザーがLaunchTile上の「World」をスクロールしても,
配列されたタイルの越えるエリアを表示できるほどに配列されたタイ
ルの縁を越えるような「Overscroll」はできない(甲23,24,2
6)。すなわち,配列されたタイルの境界となる縁を越えるエリアは
表示されず,そのような配列されたタイルのセットは,ユーザーが指
やタッチペンをディスプレイから離したとしても,第2方向に移動し
ないのである。したがって,ユーザーが上下左右にスクロールしたと
しても,終にはそのようなスクロール指示に応答する移動がなくなる
のであり,ユーザーはその縦6個横6個のタイルのセットの縁に到達
したのか,単にタッチスクリーンディスプレイが反応しなくなっただ
けなのかが分からない状態となる。このことから,公然実施発明2も,
「Overscroll」を解決できない本件発明の先行技術を実施しているに
すぎない(甲23,26)。
被告らは,上記の公然実施発明2と本件発明との決定的な差異を,
タイルに取り囲まれる,青のボタン用の移動経路(すなわち,被告ら
の主張する「ドキュメント」の内側の線)を,電子ドキュメントの縁
を示す外部の境界線とみなすことによって回避しようと試みるが,そ
のような恣意的な取扱いが許容されないことは明らかである。乙7号
証の図2-3及び2-4は,あるZone(「Zone1」と示されてい
る。)とそれと隣り合うZoneとが共に画面に表示されている場合,ユ
ーザーが指やタッチペンをディスプレイから離すと,Zone1の真ん中
に青のボタンが位置するように(すなわち,Zone1の中心が画面の中
心に位置するように),Zone1が自動的にセンタリングされる様子を
示している(甲23)。しかし,この機能は,Worldを構成する碁盤
目の格子線上の内側をスクロールする場合にのみ動作するものであり,
「電子ドキュメントの縁」を示す代わりに,拡大鏡で碁盤目のうちの
いくつかの四角を拡大してみるかのごとく,図2-3及び2-4は縦
6個横6個の配列の内側の格子上の境界線の表示態様を示すにすぎな
い。拡大鏡を移動させながら,碁盤目のうちのいくつかの四角を移動
させながら拡大して見ることは,碁盤目の縁を越えるエリアを表示す
るものではなく,見る者を縁を越えたエリアから引き戻すものでもな
い。したがって,Zone1やその他,任意に抽出された縦2個横2個の
タイルのセットによって構成される如何なるZoneも,「電子ドキュメ
ント」や「アイテムのリスト」ではあり得ない。
仮にタイルのセットが「電子ドキュメント」や「アイテムのリス
ト」であるとしても,公然実施発明2は本件発明の構成要件Ⅰ1,Ⅰ
2,J1,J2,Ⅰ3,J3を充足しない。ユーザーは,縦2個横2
個のタイルのセットを越えてスクロールした場合に,縁を越えるエリ
アを見ることはできず,単に縦6個横6個というより大きなタイルの
セットであるWorldを構成するいずれかのタイルを目にするだけであ
る。
c以上により,公然実施発明2は,「電子ドキュメント」及び「縁を
越えるエリア」をどちらも開示しておらず,かつ,「リスト」及び
「末端を越えるエリア」も開示していないため,本件発明の構成要件
Ⅰ1,Ⅰ2及びⅠ3のいずれも開示していない。同様に,公然実施発
明2は,電子ドキュメントの縁を越えるエリア(又はリストの末端を
越えるエリア)を表示せず,かつ,電子ドキュメント(又はリスト)
が縁(又は末端)を越えるエリアが表示されなくなるまで第2方向に
移動するものではないので,本件発明の構成要件J1,J2及びJ3
も開示していない。
ウ乙11号証に基づく新規性・進歩性の欠如(争点3-3)
(被告らの主張)
(ア)乙11号証は,本件発明に係る特許の優先日前に頒布された刊行物
(特開2003-345491,公開日:平成15年12月5日)であ
る。
乙11号証に記載された発明(以下「引用発明1」という。)は,液
晶パネル上にタッチパネルを設けて形成される表示入力装置において,
小パネルでのスクロールの操作性を改善するものである(1頁の【課
題】)。
(イ)引用発明1は,以下の構成を有する。
aタッチパネルを有する。
「前記入力部5は,…前記タッチパネルとスタイラスとで構成される。
…」(【0030】)
bCPUを有する。
「前記制御部2は,該PDAのCPU(中央演算処理装置)であり,
各部の制御を行う。」(【0029】)
cメモリを有する。
「前記画像データ作成部3は,表示すべきデータ等を記憶するフラッ
シュROMやRAM等のメモリで実現される。」(【0029】)
dプログラムを有する。
「本発明の表示入力プログラムは,前記の表示入力方法をコンピュー
タに実行させる…」(【0024】)
eプログラムは,メモリに記憶されて,CPUにより実行される。
f図4(a)の参照符22の領域が画面に表示されている状態におい
て,ストローク操作(タッチパネルにスタイラスの先端を押付け,そ
のままタッチパネル上を移動させた後,タッチパネルからスタイラス
の先端を離す操作)により,図4(b)の参照符22の領域が画面に
表示される。
「ここで言うストロークとは,タッチパネルにスタイラス12の先端
を押付け,そのままタッチパネル上を移動させた後,タッチパネルか
らスタイラス12の先端を離す,という一連の操作を意味し,マウス
のドラッグ操作に対応するものである。」(【0034】)
「上述のように縮尺変更指示領域23の内部に位置する点を開始点と
して,参照符25で示すようにストローク操作を開始すると,図4
(b)で示すように縮尺変更が行われ,…」(【0036】)
「前記枠22は,実際の画面のサイズを表している。したがって,該
枠22の範囲内にある部分が実際の画面に表示されている画像の領域
となる。」(【0037】)
gタッチパネル上でのスタイラスの先端の移動を検出する。
「ここで言うストロークとは,タッチパネルにスタイラス12の先端
を押付け,そのままタッチパネル上を移動させた後,タッチパネルか
らスタイラス12の先端を離す,という一連の操作を意味し,マウス
のドラッグ操作に対応するものである。」(【0034】)
hストローク操作が続くと,図4(b)の参照符22の領域が画面に
表示される状態から画像が移動して,図4(c)の参照符22の領域
が画面に表示される状態となる。
「スタイラス12の移動(ストローク操作)が続くと,縮尺がさらに
小さくなり,図4(c)では1/2に達している。」(【003
8】)
「前記枠22は,実際の画面のサイズを表している。したがって,該
枠22の範囲内にある部分が実際の画面に表示されている画像の領域
となる。」(【0037】)
iストローク操作が続くと,図4(c)の参照符22の領域が画面に
表示される状態から画像が移動して,図4(d)の参照符22の領域
が画面に表示される状態となる。
「スタイラス12がさらに移動されても,図4(d)で示すように,
縮尺は変化しない。」(【0038】)
「前記枠22は,実際の画面のサイズを表している。したがって,該
枠22の範囲内にある部分が実際の画面に表示されている画像の領域
となる。」(【0037】)
jストローク操作の終了(スタイラスの先端がタッチパネルから離さ
れたこと)を判定し,一定時間が経過すると,図4(d)の参照符2
2の領域が画面に表示される状態から,画像が移動して,図4(e)
の参照符22の領域(図4(d)の参照符24の領域に対応)が画面
に表示される状態となる。
「ステップS4では,ストローク操作が終了しているか否か,すなわ
ちスタイラス12の先端がタッチパネルから離されたか否かの判定を
行い,…ストローク操作が終了している場合にはステップ7に移
る。」(【0044】)
「ストローク操作を終了してから,予め定める時間が経過すると,そ
の入力点を中心として,自動的に元の倍率に復帰する。」(【006
0】)
「前記図4(d)で目的の表示領域が合わせられ,予め定める時間,
たとえば2秒が経過しても移動されない場合には,図4(e)で示す
ように縮尺が初期の状態に戻り,参照符24で示す領域の画像が画面
サイズ一杯に拡大表示される。」(【0038】)
k装置である。
(ウ)以上をまとめると,引用発明1は以下の構成を有する。
(1a)タッチパネルを有する。
(1b)CPUを有する。
(1c)メモリを有する。
(1d)プログラムを有する。
(1e)プログラムは,メモリに記憶されて,CPUにより実行される。
(1f)図4(a)の参照符22の領域が画面に表示されている状態にお
いて,ストローク操作(タッチパネルにスタイラスの先端を押付け,
そのままタッチパネル上を移動させた後,タッチパネルからスタイラ
スの先端を離す操作)により,図4(b)の参照符22の領域が画面
に表示される。
(1g)タッチパネル上でのスタイラスの先端の移動を検出する。
(1h)ストローク操作が続くと,図4(b)の参照符22の領域が画面
に表示される状態から画像が移動して,図4(c)の参照符22の領
域が画面に表示される状態となる。
(1i)ストローク操作が続くと,図4(c)の参照符22の領域が画面
に表示される状態から画像が移動して,図4(d)の参照符22の領
域が画面に表示される状態となる。
(1j)ストローク操作の終了(スタイラスの先端がタッチパネルから離
されたこと)を判定し,一定時間が経過すると,図4(d)の参照符
22の領域が画面に表示される状態から,画像が移動して,図4
(e)の参照符22の領域(図4(d)の参照符24の領域に対応)
が画面に表示される状態となる。
(1k)装置である。
(エ)本件発明1との対比
a構成要件A1~E1及びK1について
本件発明1の構成要件A1~E1及びK1が,それぞれ引用発明1
の構成1a~1e及び1kに相当することは明らかである。
本件発明1引用発明1
(A1)タッチスクリーンディス
プレイと,
(1a)タッチパネルを有する。
(B1)1つ以上のプロセッサ
と,
(1b)CPUを有する。
(C1)メモリと,(1c)メモリを有する。
(D1)1つ以上のプログラム
と,を備え,
(1d)プログラムを有する。
(E1)前記1つ以上のプログラ
ムは,前記メモリに記憶されて,
(1e)プログラムは,メモリに
記憶されて,CPUにより実行さ
前記1つ以上のプロセッサにより
実行されるように構成され,(前
記プログラムは,)
れる。
(K1)を含む,装置。(1k)装置である。
b構成要件F1について
本件発明1の構成要件F1は,「電子ドキュメントの第1部分を表
示するためのインストラクションと,」である。
引用発明1の構成1fは,「乙11図4(a)の参照符22の領域
が画面に表示されている状態において,ストローク操作(タッチパネ
ルにスタイラスの先端を押付け,そのままタッチパネル上を移動させ
た後,タッチパネルからスタイラスの先端を離す操作)により,乙1
1図4(b)の参照符22の領域が画面に表示される。」である。
ここで,引用発明1の構成(1f)において,図4(b)の参照符
22の領域を「電子ドキュメントの第1部分」と捉える。そうすると,
図4(b)の参照符22の領域が表示されることをもって,構成(1
f)は,図4(b)の参照符22の領域を「表示するためのインスト
ラクション」を有することになる。
以上より,引用発明1の構成(1f)は,本件発明1の構成要件F
1に相当する。
c構成要件G1について
本件発明1の構成要件G1は,「前記タッチスクリーンディスプレ
イ上又はその付近でオブジェクトの移動を検出するためのインストラ
クションと,」である。
引用発明1の構成(1g)は,「タッチパネル上でのスタイラスの
先端の移動を検出する。」である。
引用発明1の構成(1g)の「タッチパネル上でのスタイラスの先
端の移動を検出する。」が本件発明1の構成要件G1の「前記タッチ
スクリーンディスプレイ上又はその付近でオブジェクトの移動を検出
する」に相当する。また,引用発明1の構成(1g)の動作をするこ
とは,そのような動作をするためのインストラクションがあることを
併せて示している。
以上より,引用発明1の構成(1g)は,本件発明1の構成要件G
1に相当する。
d構成要件H1について
本件発明1の構成要件H1は,「前記移動を検出するのに応答して,
前記タッチスクリーンディスプレイに表示された前記電子ドキュメン
トを第1方向に徐々に移動して,前記電子ドキュメントの前記第1部
分とは異なる第2部分を表示するためのインストラクションと,」で
ある。
引用発明1の構成(1h)は,「ストローク操作が続くと,乙11
図4(b)の参照符22の領域が画面に表示される状態から画像が移
動して,乙11図4(c)の参照符22の領域が画面に表示される状
態となる。」である。
引用発明1の構成(1h)では,「ストローク操作が続くと」,ス
タイラスの先端の移動が検出するのに応答して,「画像が移動」する
ものである。それ故,引用発明1の構成(1h)では,「前記移動を
検出するのに応答して」,「電子ドキュメント」を「移動」する。
ここで,引用発明1においては,図4(a)から(e)においては,
電子ドキュメントが移動する方向を「第一方向」と捉える。また,引
用発明1の構成(1h)では,「スタイラス12の移動(ストローク
操作)が続くと,縮尺がさらに小さくなり,」(【0038】)との
記載から,「徐々に」移動するものであることがわかる(「前記縮尺
は,上述のようにストローク距離に応じて変化される」との【003
9】の記載も参照)。
そして,引用発明1の構成(1h)においては,図4(c)の参照
符22の領域を本件発明1の構成要件(H1)の「第2部分」と捉え
ることとする。
以上より,引用発明1の構成(1h)は,本件発明1の構成要件H
1に相当する。
e構成要件I1について
本件発明1の構成要件I1は,「前記タッチスクリーンディスプレ
イ上又はその付近でオブジェクトがまだ検出されている間に前記電子
ドキュメントを前記第1方向に移動する間に前記電子ドキュメントの
縁に到達するのに応答して,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリ
アを表示し,且つ前記電子ドキュメントの前記第1部分より小さい第
3部分を表示するためのインストラクションと,」である。
引用発明1の構成(1i)は,「ストローク操作が続くと,乙11
図4(c)の参照符22の領域が画面に表示される状態から画像が移
動して,乙11図4(d)の参照符22の領域が画面に表示される状
態となる。」である。
引用発明1の構成(1i)は,「ストローク操作が続く」と,図4
(c)の状態から,図4(d)の状態へと変化することを記述してい
る。すなわち,「ストローク操作が続く」ことから,タッチパネル上
でスタイラスの先端が検出されており,その間に電子ドキュメントは
第1方向に移動する。そして,図4(c)からわかるように,その間
に,電子ドキュメントの縁に到達し,その後,電子ドキュメントの縁
を越えるエリアを表示し,且つ前記電子ドキュメントの前記第1部分
より小さい第3部分を表示する。
したがって,引用発明1の構成(1i)は,本件発明1の構成要件
I1のうち,「前記タッチスクリーンディスプレイ上…且つ前記電子
ドキュメントの前記第1部分より小さい第3部分を表示する」を満た
し,そのような動作をするためのインストラクションがある。
以上より,引用発明1の構成(1i)は,本件発明1の構成要件I
1に相当する。
f構成要件J1について
本件発明1の構成要件J1は,「前記タッチスクリーンディスプレ
イ上又はその付近にオブジェクトがもはやないことを検出するのに応
答して,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアがもはや表示され
なくなるまで前記電子ドキュメントを第2方向に徐々に移動して,前
記電子ドキュメントの第1部分とは異なる第4部分を表示するための
インストラクションと,」である。
引用発明1の構成(1j)は,「ストローク操作の終了(スタイラ
スの先端がタッチパネルから離されたこと)を判定し,一定時間が経
過すると,乙11図4(d)の参照符22の領域が画面に表示される
状態から,画像が移動して,乙11図4(e)の参照符22の領域
(乙11図4(d)の参照符24の領域に対応)が画面に表示される
状態となる。」である。
引用発明1はストローク終了を検出し(図6のS4「ストローク終
了か?」を参照),その後「自動的に元の倍率に復帰する」(【00
60】)ものである。すなわち,引用発明1の構成(1j)では,ス
トローク操作の終了,すなわちタッチパネルからスタイラスの先端を
離すことを検出し,それに応答して,画像が移動する。
したがって,引用発明1の構成(1j)は,本件発明1の構成要件
J1の「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近にオブジ
ェクトがもはやないことを検出するのに応答して」画像を移動してい
る。
引用発明1の構成(1j)においては,図4(d)の状態から,図
4(e)の状態になる。ここで画像の移動は,入力点(スタイラスが
離れた点)を中心に拡大(元の倍率に復帰)する。
「ストローク操作を終了してから,予め定める時間が経過すると,そ
の入力点を中心として,自動的に元の倍率に復帰する。」(【006
0】)
図4(d)の場合,右下の方向に画像の縁が移動する。この方向を
第2の方向とする。
図4(d)の参照符22の領域が画面に表示される状態から,画像
が移動して,図4(e)の参照符22の領域が画面に表示される状態
となる。この縮尺を戻す場合は,徐々に戻すことができる。
「縮尺を元に戻す場合は,一度に戻しても,または徐々に戻してもよ
い。」(【0045】)
ここで,図4(e)の参照符22の領域を本件発明1の構成要件J
1の「第4部分」と捉えると,それは第1部分と異なる。また,この
とき,電子ドキュメントが「画面サイズ一杯に拡大表示」され(【0
038】),縁を越えるエリアは表示されなくなる。
したがって,引用発明1の構成(1j)は,「前記タッチスクリー
ンディスプレイ上…応答して,前記電子ドキュメントの縁を越えるエ
リアがもはや表示されなくなるまで前記電子ドキュメントを第2方向
に徐々に移動して,前記電子ドキュメントの第1部分とは異なる第4
部分を表示する」を満たし,そのような動作をするためのインストラ
クションがある。
以上より,引用発明1の構成(1j)は,本件発明1の構成要件J
1に相当する。
gまとめ
以上のとおり,本件発明1の各構成要件と引用発明1の構成は全て
一致する。
本件発明1は,乙11号証に記載された発明であるから,新規性
(又は,少なくとも進歩性)が欠如する。
(オ)本件発明2との対比
a構成要件A2~E2,G2及びK2について
原告の主張に従えば,本件発明2の構成要件A2~E2,G2及び
K2は,本件発明1の構成要件A1~E1,G1及びK1とほぼ同一
であって,それらの間に実質的な相違点はない。
そうであれば,これら構成要件については,上記(エ)の議論が妥当
する。
b構成要件H2,I2及びJ2について
原告の主張に従えば,これら構成要件は,それぞれ本件発明1の対
応する各構成要件の一部の構成を省略したものに他ならない。
そうであれば,これら構成要件については,上記(エ)の議論が妥当
する。
cまとめ
以上のとおり,本件発明2の構成要件の全てについて,上記(エ)の
議論が妥当するから,本件発明2は,新規性(又は,少なくとも進歩
性)が欠如する。
(カ)本件発明3との対比
a構成要件A3~E3,G3及びK3について
原告の主張に従えば,本件発明3の構成要件A3~E3,G3及び
K3は,本件発明1の構成要件A1~E1,G1及びK1とほぼ同一
であって,それらの間に実質的な相違点はない。
そうであれば,これら構成要件については,上記(エ)の議論が妥当
する。
b構成要件H3,I3及びJ3
本件発明3の構成要件H3は,「前記移動の検出に応答して,前記
タッチスクリーンディスプレイ上に表示されたアイテムのリストを第
1方向にスクロールするためのインストラクションと,」である。
本件発明3の構成要件I3は,「前記タッチスクリーンディスプレ
イ上又はその付近においてオブジェクトがまだ検出されている間に前
記リストを第1方向に移動する間に前記リストの末端に到達した場合
には前記リストの末端を越えるエリアを表示するためのインストラク
ションと,」である。
本件発明3の構成要件J3は,「前記タッチスクリーンディスプレ
イ上又はその付近にオブジェクトがもはやないことを検出するのに応
答して,前記リストの末端を越えるエリアがもはや表示されなくなる
まで,前記第1方向とは逆の第2方向に前記リストをスクロールする
ためのインストラクションと,」である。
上にみたように,本件発明3は,本件発明1ないし2における,①
「電子ドキュメント」が「リスト」に,②「電子ドキュメントの縁
(を越えるエリア)」が「リストの末端(を越えるエリア)」に,③
「移動」が「スクロール」に置き換わっている。
なお,②及び③の置き換えは①から導かれる当然の置き換え(用語
の言い換え)にすぎないので,本件発明3は,実質的には本件発明1
ないし2の「電子ドキュメント」が「リスト」に限定されたものであ
る。ここで,「リスト」の意義は「電子ドキュメント」と同様に定か
ではないが,「通常の慣用的な意味」に理解すれば,「目録」といっ
た意味である(乙12)。
c引用発明1の開示内容
引用発明1の電子ドキュメントは,例えば図3ないし図4にあると
おり,様々な形態の「電子ドキュメント」を想定しており,それは文
字から構成されるものに限定されない。
図3ないし図4の右下の部分(図4(e)の参照符22の内側)に
は表形式の文書が置かれており,これは通常の慣用的な意味において
目録,すなわちリストである。このように,引用発明1の電子ドキュ
メントには「リスト」も当然に予定され,かつ開示されていることが
わかる。
そうすると,引用発明1において,電子ドキュメントが「リスト」
である場合の本件発明3が開示されていることが帰結される。
d小括
以上より,本件発明3の各構成要件と引用発明1の構成は全て一致
する。また,仮に,構成要件J3が相違点であるとしても,上記(エ)
の議論が妥当するから,本件発明3は,新規性又は進歩性が欠如する。
e「リスト」について
引用発明1において,「リスト」が開示されているのは,上述のと
おりである。この点,乙11号証には,明示的に「リスト」といった
用語が用いられていないことをもって,乙11号証に「リスト」は記
載されていないとの反論がなされることがあり得ないではない。
しかしながら,乙11号証の電子ドキュメントが「リスト」を除外
するものでないことは明らかであり,しかも乙11号証の図3には,
「リスト」が明らかに記載されている。それゆえ,仮に上述のような
「反論」がなされたとしても,理由がない。
たとえ,「リスト」が乙11号証に記載されていないと仮定してみ
ても,電子ドキュメントを文章,写真,リスト等のいかなるコンテン
ツで構成するかは,単なる設計的事項にすぎない。
仮に,「リスト」が,本件発明3と引用発明1の相違点であるとし
ても,公然実施発明1は「リスト」を有しており,これを引用発明1
に適用して,①「電子ドキュメント」を「リスト」とすれば(これに
より,併せて,(②「電子ドキュメントの縁(を越えるエリア)」を
「リストの末端(を越えるエリア)」と,③「移動」を「スクロー
ル」として),本件発明3と引用発明1の相違点は解消する。
以上のとおり,仮に,「リスト」について,本件発明3と引用発明
1が相違するとしても,本件発明3は,引用発明1及び公然実施発明
1の技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。
fまとめ
以上のとおりであるから,いずれにしても,本件発明3は,新規性
を欠き,又は進歩性が欠如する。
(キ)原告は,構成(1j)における画像は拡大しているから,本件発明
における「移動」ないし,「第2の方向」への「移動」に該当せず,本
件発明の構成要件Jを充足しない旨主張する。
本件明細書においては,電子ドキュメントの移動について,並進移動,
回転,スケーリング(拡大及び縮小)を挙げられている。ここで並進移
動とは,移動のうちで特に,各点が同一の平行移動をする場合を意味す
る語である(乙23)。
原告の主張は,本件発明の移動は「並進移動」に限定されるという趣
旨である。しかしながら,本件明細書において,「移動」が「並進移
動」に限定される旨の記載はなく,逆にスケーリング(拡大及び縮小)
も含むことが明記されている。電子ドキュメントの各点の移動方向が電
子ドキュメントの移動方向であるのではなく,電子ドキュメントの移動
方向については,その総体としての移動方向を考えれば足りる。
「ここに開示する実施形態は,一般的にタッチスクリーンディスプレイ
を伴う装置に係り,より詳細には,タッチスクリーンディスプレイを伴
う装置におけるリストのスクローリング,電子ドキュメントの並進移動,
回転及びスケーリングに係る。」(【0001】)
「…,スケーリング(即ち,拡大又は縮小)したり…」(【000
4】)
「従って,タッチスクリーンディスプレイを伴う装置に,アイテムのリ
ストをスクロールしたり,電子ドキュメントを並進移動,回転及びスケ
ーリングしたりするための,使用,構成及び/又は適応が容易な,より
透過的で且つ直観的なユーザインターフェイスを設けることが要望され
る。」(【0006】)
加えて,【0026】には,倍率を縮小した後,縁を越えるエリアを
表示した後に倍率を拡大して縁を越えるエリアが表示されなくなるよう
にするという,スケーリング(拡大及び縮小)による実施例が記載され
ている。
また,原告主張の誤りは,特許請求項の範囲の記載に照らしても明ら
かである。すなわち,請求項19(本件発明1)の「移動」には何らの
限定もない。一方,請求項19(本件発明1)の従属項である請求項2
0においては,特に,電子ドキュメントの第1部分,第2部分,第3部
分および第4部分が同じ倍率で表示されるものが規定されている。
両者を比べれば,請求項19(本件発明1)においては,「移動」の
前後で表示される各第1部分,第2部分,第3部分および第4部分の倍
率が異なる場合,すなわち,「移動」がスケーリング(拡大及び縮小)
による場合を含むことが分かる。
以上のとおり,本件発明の「移動」には拡大は含まれないとの原告主
張に理由のないことは明らかである。
(ク)原告は,引用発明1に関して,「第1方向」への対比が適切でなく,
構成要件Hを充足しないと主張する。
しかしながら,引用発明1において,本件発明1の「第1部分」に相
当する図4(b)の参照符22の領域から「第2部分」に相当する図4
(c)に遷移するにおいて,「第1方向」に移動したと捉えればよいこ
とは自明である。
原告の主張の趣旨は,「第1部分」から「第2部分」への移動はズー
ムアウトとパニングから構成されるので,電子ドキュメントを第1方向
に徐々に移動して,前記電子ドキュメントの前記第1部分とは異なる第
2部分を表示には該当せず,構成要件H1及びH2を充足しないという
ものである。しかしながら,前述のとおり,本件発明における移動は並
進移動に限定されないのであるから,上記原告の主張には理由がない。
(ケ)原告は,図4(e)の内側にあるリストについて,このような小さ
い長方形がリストではないことは明らかであると主張し,リストへの非
該当の唯一の理由として,当該長方形が小さいことを挙げる。
しかしながら,リストとは,「目的に合わせて,多数の項目を一定の
形式に従って書きならべたもの。一覧表。目録。名簿。表。」であると
ころ(乙12),「小さい」ことがリストの該当性を否定することはな
い。
また,原告は,引用発明1にはリストのスクロールの開示がないとも
主張する。
しかしながら,乙11に記載された引用発明1には,次のとおり,
「スクロール」が明示的に開示されている。
「本発明では,…前記ストローク操作の開始点がこの縮尺変更指示領域
23内に存在する場合には,パニング(平行移動やスクロール)ととも
に,表示画像を縮小する」(【0035】)
「前記縮尺変更指示領域23に含まれない点を開始点としてストローク
操作を再開すると,そのままの縮尺を保ちつつ,通常のパニング操作を
行うことができる」(【0039】)
また,図4(e)の内側にあるリスト(長方形)は,図4(a)の段
階で画面に表示されていなかったところ(それは枠22の範囲内にな
い),移動を経て,図4(e)の段階で画面に表示されている(それは
枠22の範囲内にある)。【0035】【0039】の記載と併せれば,
乙11号証には当該リスト(長方形)のスクロールが開示されている。
(コ)原告は,引用発明1の電子ドキュメントをリストに置き換えること
の容易想到性を争う。
しかし,前記のとおり,乙11号証にはリストについて明示的に開示
されている。この点を措くとしても,引用発明1は,「PDA(Personal
DigitalAssistants)と称される携帯情報端末」を想定しており(【0
002】),PDAは元来多種多様なデータやアプリケーションソフト
を扱うことが想定されているのであるから,それが扱う電子ドキュメン
トにおいてリスト(「目的に合わせて,多数の項目を一定の形式に従っ
て書きならべたもの。一覧表。目録。名簿。表。」〔乙12〕)が含ま
れることが実質的に開示されていることは当然である。
以上のとおり,引用発明1には,電子ドキュメントとしてリストを含
むことが明示的に,または少なくとも実質的に開示されているという他
はない。
乙11号証に開示がないと仮定した上で検討したとしても,PDAは
多種多様なアプリケーションソフトを利用できることが想定されている
ところ,引用発明1を参照してPDAにおける電子ドキュメントとして
何を採用するか(リストとするか否か)は単なる設計事項にすぎず,リ
ストを採用することは容易想到である。
例えば,乙7号証記載のiPAQもPDAの一つである(乙7資料1
の2頁上部に「…モバイルビジネスの最先端PDAです。」と記載され
ている)。このiPAQは2005年には既に発売されている(乙7資
料1の4頁左下部に「記載事項は2005年12月現在のものです。」
と記載されている)。このiPAQは多様な電子ドキュメントを閲覧す
ることができ,それにはリストも含む(乙7資料1の3頁には,多様な
アプリケーションソフトが記載されている。一例として,同頁に中段左
上の「■ドキュメントの閲覧,作成,編集」の欄には,表計算ソフトで
ある「Excelブック」が記載されている)。
以上は,典型的なPDAを説明している。したがって,本件発明に係
る特許の優先日(2007年1月7日)時点で,乙11号証を参照した
当業者が電子ドキュメントとしてリストを採用することは単なる設計事
項にすぎず,容易想到であることは明らかである。
なお,原告は引用発明1における「ズームアップ‐パニング‐ズーム
アップという動作」がリストを選択することの阻害事由になる旨を主張
している。しかしながら,乙11号証において,電子ドキュメントがリ
ストであったとしても,乙11号証に記載された【発明が解決しようと
する課題】,すなわち画像のサイズに比して表示画面が小さい場合に画
面外に隠れる領域が広くなり,パニング操作の回数が多くなる等は等し
く当てはまる。
したがって,引用発明1の電子ドキュメントをリストとすることにつ
いて阻害事由は存しない。
(原告の主張)
(ア)引用発明1は,ユーザーが,①ドキュメントの第1部分をスタイラ
スを用いて選択,表示し(図4(a)),②ドキュメントからズームア
ウトすることによりドキュメントをより小さく表示させたうえ,スタイ
ラスを用いて縮小されたドキュメントを移動する(ズームの経過は,図
4(a)及び図4(d)),③スタイラスをディスプレイから離すこと
によってドキュメントのうち,選択した他の部分をズームアップする
(ズームの経過は,図4(d)及び図4(e),【0006】~【00
10】参照)ことを可能とするシステムを開示している。そして,当該
システムの目的は,ユーザーが,ドキュメントからズームアウトするこ
とによって,より早く,ドキュメントの一部分から同一ドキュメントの
別の部分に移動できるようにすることにある(【0006】~【000
9】参照)。また,ドキュメントがズームアウトされるため,パニング
のためのスタイラス操作がより少なくて済む(【0006】~【000
9】参照)。特に,引用発明1は,ズームインすることと移動すること
という2種類の行為を開示しているため,これらの行為につきそれぞれ
異なる表現,すなわち「ズームインする」と「スクロールする」との表
現が用いられている(【0011】)。
(イ)被告らは,図4(d)の場合,右下の方向に画像の縁が移動すると
し,この方向を第2の方向と主張する。
しかし,被告ら主張の方向にドキュメントは移動しないのである。む
しろ,図4(d)から(e)への移動は,表示されているドキュメント
の一定部分をズームアップする結果でしかない。この一定の部分という
のは,引用発明1における符号24で示される「枠」に含まれる部分
(拡大領域)を指す(【0036】,【0038】)。引用発明1にお
ける図4(d)では,「枠」を含むものであるにもかかわらず,被告ら
は,意図的に引用発明1の本来の記載内容を捨象し,「枠」を図4
(d)から削除している。このように「枠」を削除することにより,そ
もそも表示されていたドキュメントのサイズ及びその拡大を歪曲し,引
用発明1が,移動やスクロールの効果というよりもズームアップ効果を
開示しているものであるということが明らかにならないようにしている
のである。
次に,拡大領域の右下角が被告らの主張する「第2方向」に移動する
と同時に,当該拡大領域に左上角は当該第2方向とは180度逆方向に
移動する。これを被告らは「第1方向」と主張している。同時に,右上
角は第3方向(1時半の方向),左下角は第4方向(7時半の方向)に
移動し,当該拡大領域のいずれの部分もそれぞれ360度様々な方向に
移動する。異なる部分は異なる方向に移動する(移動しない中心を除
く。)。よって,ドキュメント自体が第2方向に移動するものでないこ
とは明らかである(そもそもドキュメントは拡大されるものの,元あっ
た場所から移動はしていない。)。
(ウ)被告らは,引用発明1の【0044】,【0060】,【003
8】並びに図4(d)及び図4(e)をもって,引用発明1が「前記タ
ッチスクリーンディスプレイ上又はその付近にオブジェクトがもはやな
いことを検出するのに応答して,前記電子ドキュメントの縁を越えるエ
リアがもはや表示されなくなるまで前記電子ドキュメントを第2方向に
徐々に移動」という構成要件J1及びJ2が開示されている旨主張する。
しかし,まず,当業者は,被告らのように,ドキュメントが徐々に移
動することとドキュメントをズームアップすることとを混同したりはし
ない。当業者であれば,ドキュメントの一部分を拡大するという行為で
あるズームアップ効果と構成要件J1及びJ2の要素である「移動」と
を間違えることはありえない。引用発明1それ自体からも明らかである
が,図4(d)から(e)への移行は拡大によるものであり,移動によ
るものではない(【0038】)。さらに,ズームアップの後,拡大さ
れディスプレイの全面に表示されることとなる拡大領域に含まれる内容
及び範囲は,ズームアップ前後で全く変わらず,単に拡大されるのみで
ある。したがって,ドキュメントが「移動」したとはいえないから,引
用発明1は構成要件J1及びJ2を開示していない。
次に,仮に引用発明1におけるズームアップ機能が,ドキュメントの
移動となると仮定したとしても,本件発明の「第2方向」への移動を開
示していない。被告らは,右下方向に合わせて拡大領域における右下角
が移動すると主張している。仮に当該角が「移動」するといえるとして
も,引用発明1においては,左上角は対極の方向(これを被告らは「第
1方向」と呼ぶ。)に移動するのである。そうすると,本件の場合,ド
キュメントは第1方向及び第2方向の両方に移動するため,結局「ドキ
ュメントが第2方向に移動する」という状態にならない。よって,引用
発明1は構成要件J1及びJ2を開示するとはいえない。
したがって,引用発明1におけるドキュメントは,拡大されることは
あっても移動することはない。よって,引用発明1は,構成要件J1及
びJ2を開示するものとはいえず,同様の理由によりJ3を開示するも
のともいえない。
(エ)被告らは,引用発明1におけるドキュメントの「第1部分」に関し,
「図4(b)の符号22の領域を『電子ドキュメントの第1部分』と捉
える」と定め,また,ドキュメントの「第2部分」に関し,「図4
(c)の参照符22の領域を本件発明1の構成要件(H1)の『第2部
分』と捉える」としている。その上で,被告らは,図4(a)から4
(e)に至る図で電子ドキュメントが移動する方向を「第1方向」と解
している。
仮に被告らの主張するとおり,図4(c)における符号22の領域が
「第2部分」を開示しているのであれば,「第1方向」の定義において,
図4(e)を指摘するのは,適当ではない。なぜならば,本件発明にお
ける構成要件H1及びH2のクレーム文言は,「第1方向」を,ドキュ
メントの「第1部分」から「第2部分」への移動に基づいて定義してい
るところ,この構成要件を充足するには,「電子ドキュメントを第1方
向に徐々に移動して」示される第2部分(前記電子ドキュメントの前記
第1部分とは異なるもの)である必要がある。引用発明1における電子
ドキュメントの「第2部分」が図4(c)において開示される符号22
の領域と主張するのであれば,引用発明1における「第1方向」は,被
告らが「第1部分」と主張する図4(b)符号22の領域と図4(c)
符号22の領域との関連において定義しなければならない(すなわち,
電子ドキュメントを第1方向に徐々に移動して,図4(b)符号22と
は異なる図4(c)符号22を表示する,となる。)にもかかわらず,
被告らは,構成要件H1の要件を無視して,図4(b)及び図4(c)
とは何ら動作において関連のない図4(a)から4(e)に至る図で電
子ドキュメントが移動する方向を,恣意的に「第1方向」と定義してい
る。
さらに,引用発明1における図4(b)及び図4(c)において示さ
れる符号24の表示の移動を確認すると,「第1部分」から「第2部
分」への移動はズームアウトとパニングから構成されるということが明
らかとなる。この動作は,「電子ドキュメントを第1方向に徐々に移動
して,前記電子ドキュメントの前記第1部分とは異なる第2部分を表
示」には該当せず,構成要件H1及びH2を充足しない。
したがって,引用発明1は構成要件H1,H2及びH3を開示してい
ないため,本件発明に係る特許の無効理由を構成するものではない。
(オ)本件発明3は,アイテムのリストに適用されるものであるところ,
引用発明1にはリストについての記載は一切ない。
被告らは,図3や図4の右下にて示される小さな長方形等のような引
用発明1における当該電子ドキュメントにおける一部分を曖昧に示し,
それをもってリストを表示していると主張しているようである。しかし,
このような小さな長方形等がリストでないことは明らかであり,さらに,
構成要件H3の要求する当該(リストと主張される)長方形のスクロー
ルの開示もされていない。リストの開示がないことから,同様に引用発
明1は,構成要件I3を開示しておらず,構成要件J3も開示していな
いこととなる。
被告らは,リストが電子ドキュメントを容易に代替するという点につ
き,何ら主張を行っていない。そもそも,引用発明1のズームアップ-
パニング-ズームアップという動作は,リストについては不要であり,
そのような代替を行うインセンティブもない。加えて,引用発明1は,
バウンスバック効果を開示しておらず,被告らはそのほかにバウンスバ
ック効果に関する先行技術を主張するものでもない。さらに,仮に当該
電子ドキュメントを引用発明1におけるアイテムのリストで代替できる
としても,上記(ウ)及び(エ)のとおり失当である。
エ乙13号証に基づく新規性・進歩性の欠如(争点3-4)
(被告らの主張)
(ア)乙13号証は,本件発明に係る特許の優先日前に頒布された刊行物
(国際公開公報WO03/081458,国際公開日:2003年1
0月2日)である。
乙13号証に記載された発明(以下「引用発明2」という。)は,表
示能力が限定的である電子機器に情報を表示するための表示及び指示の
補助手段に関するものである(1頁4~5行)。
(イ)引用発明2は,以下の構成を有する。
aタッチパネルを有する。
(訳)ディスプレイはタッチスクリーン…を含み得る…
「Thedisplaymayincludeatouchscreen…」(3頁10行)
bCPUを有する。
乙13号証には,ハンドヘルドコンピュータが開示されており,ハ
ンドヘルドコンピュータはCPUを有する。
(訳)小さいディスプレイ又はディスプレイウィンドウを持つデバイス,
例えば,PDA,電話,ハンドヘルドコンピュータ,又は電子書籍
…
「…adevicehavingasmalldisplayorasmalldisplay
window,suchas,forexample,aPDA,atelephone,ahandheld
computer,oranelectronicbook,…」(1頁16~18行)
cメモリを有する。
乙13号証には,ハンドヘルドコンピュータが開示されており,ハ
ンドヘルドコンピュータはメモリを有する。
dプログラムを有する。
乙13号証には,ハンドヘルドコンピュータが開示されており,ハ
ンドヘルドコンピュータはプログラムを有する。
eプログラムは,メモリに記憶されて,CPUにより実行される。
これは,当然である。
fディスプレイのウィンドウに電子ドキュメントを表示する。
(訳)ディスプレイのディスプレイウィンドウに電子ドキュメントを表
示する。
「…viewinganelectronicdocumentinadisplaywindowofa
display…」(21頁3~4行)
gディスプレイ上の入力手段の移動を追うことにより,ディスプレイ
上で指示を行う。
(訳)ディスプレイ上の指示は,ディスプレイ上の入力手段の動きを追
(うこと)を含む
「…navigatingonadisplayincludestrackingmotionofan
inputtoolonadisplay,…」(3頁1~2行)
hディスプレイ上の入力手段の移動により,ディスプレイ上の表示部
分を移動させて変える。
乙13号証には,ディスプレイ上の入力手段の移動により,ディス
プレイ上の表示部分を変えること,スタイラスを移動させてスクロー
ルすることが記載されており,上記の内容が開示されている。
(訳)ディスプレイ上の指示は,ディスプレイ上の入力手段の動きを追
い,そして,入力手段の動きとしきい値を比較し,動きがしきい値
を超えた場合はディスプレイ上の情報のページの見える部分の位置
を変えることを含む
「…navigatingonadisplayincludestrackingmotionofan
inputtoolonadisplay,comparingthemotionoftheinput
tooltoathreshold,changingthepositionofthevisible
portionofapageofinformationonthedisplayifthe
motionexceedsthethreshold,…」(3頁1~4行)
(訳)図6を参照すると,その他にPDAに共通する指示手段の特徴は,
ディスプレイウィンドウ605上にスタイラス600を置き,そし
てスタイラス600をドラッグすることによりディスプレイウィン
ドウをスクロールできることである。
「ReferringtoFig.6,anothercommonPDAnavigationfeature
isthecapabilitytoscrollthedisplaywindowbyplacinga
stylus600onthedisplaywindow605andthendraggingthe
stylus600.」(11頁27~29行)
i表示部分がコラムの境界を越えて移動するようにドラッグするとコ
ラムの境界を超えた部分を表示する。
jディスプレイからペンを持ちあげるとコラムがディスプレイウィン
ドウにはめ込まれるように位置が調整され,コラムの境界を超えた部
分が表示されないようになり,この移動の様子は表示される。
乙13の下記の記載及びFIG.14Bには上記i及びjの内容が開示さ
れている。
(訳)図14Bを参照すると,別の実施態様では,垂直整列コントロー
ルは,ユーザがディスプレイ1205からペン1200を持ち上げ
る時に有効にされる。これは,ユーザがスクロールを止める時に,
論理列1220をディスプレイウィンドウ1205と整列した状態
にはめ込ませる。ユーザは,たとえば,ユーザ定義のはめ込みしき
い値に基づいて最も近い論理列にはめ込むように整列コントロール
をセットすることによって,はめ込み感度を調整することができる。
ユーザのスクロールが,そのしきい値を超えない場合には,これは,
テキスト列1220を見続ける意図を示し,ディスプレイ1205
は,ペン1200がスクリーンから持ち上げられると論理列121
0をセンタリングする。ユーザのスクロールが,そのしきい値を超
える場合には,これは,論理列1220の境界を超えて移動する意
図を示し,ディスプレイは,隣接するまたは再位置決めされた列に
はめ込まれる。他の実施態様では,ユーザのスクロールがしきい値
を超える時に,はめ込みは行われない。列に対するはめ込み機能を
アニメートして,ディスプレイが列を表示する正しい位置までスク
ロールするときの移動の外見を提供することもできる。
同様の水平整列コントロールを提供することもできる。そのよう
なコントロールは,たとえばスプレッドシートアプリケーションで,
水平にスクロールする時に垂直移動を制限するのに使用することが
できる。
「ReferringtoFig.14B,inanotherimplementation,the
verticalalignmentcontrolisenabledwhentheuserlifts
thepen1200fromthedisplay1205.Thiscausesthelogical
column1220tosnapintoalignmentwiththedisplaywindow
1205astheuserstopsscrolling.Theusercanadjustthe
snapsensitivityby,forexample,settingthealignment
controltosnaptothenearestlogicalcolumnbasedona
user-definedsnapthreshold.Iftheuser'sscrollingdoes
notexceedthethreshold,whichindicatesanintentionto
continuetoviewthetextcolumn1220,thedisplay1205
centersthelogicalcolumn1210asthepen1200islifted
fromthescreen.Iftheuser'sscrollingexceedsthe
threshold,whichindicatesanintentiontomovebeyondthe
boundaryofthelogicalcolumn1220,thedisplayissnapped
totheadjacentorrepositionedcolumn.Inother
implementations,nosnappingoccurswhentheuser's
scrollingexceedsthethreshold.Thesnap-on-columnfeature
canalsobeanimatedtoprovideanappearanceofmovementas
thedisplayscrollstothecorrectcolumn-viewingposition.
Asimilarhorizontalalignmentcontrolalsomaybe
provided.Suchacontrolmaybeusedtolimitvertical
movementwhenscrollinghorizontallyin,forexample,a
spreadsheetapplication.」(15頁18~16頁3行)
k装置である。
これは当然である。
(ウ)以上をまとめると,引用発明2は以下の構成を有する。
(2a)タッチパネルを有する。
(2b)CPUを有する。
(2c)メモリを有する。
(2d)プログラムを有する。
(2e)プログラムは,メモリに記憶されて,CPUにより実行される。
(2f)ディスプレイのウィンドウで電子ドキュメントを表示する。
(2g)ディスプレイ上の入力手段の移動を追うことにより,ディスプレ
イ上で指示を行う。
(2h)ディスプレイ上の入力手段の移動により,ディスプレイ上の表示
部分を移動させて変える。
(2i)表示部分がコラムの境界を越えて移動するようにドラッグすると
コラムの境界を超えた部分を表示する。
(2j)ディスプレイからペンを持ちあげるとコラムがディスプレイウィ
ンドウにはめ込まれるように位置が調整され,コラムの境界を超え
た部分が表示されないようになり,この移動の様子は表示される。
(2k)装置である。
(エ)本件発明1との対比
a構成要件A1~E1及びK1について
本件発明1の構成要件A1~E1及びK1が,それぞれ引用発明2
の構成2a~2e及び2kに相当することは明らかである。
本件発明1引用発明2
(A1)タッチスクリーンディスプレ
イと,
(2a)タッチパネルを有する。
(B1)1つ以上のプロセッサと,(2b)CPUを有する。
(C1)メモリと,(2c)メモリを有する。
(D1)1つ以上のプログラムと,を
備え,
(2d)プログラムを有する。
(E1)前記1つ以上のプログラム
は,前記メモリに記憶されて,前記1
つ以上のプロセッサにより実行される
ように構成され,(前記プログラム
は,)
(2e)プログラムは,メモリに記
憶されて,CPUにより実行され
る。
(K1)を含む,装置。(2k)装置である。
b構成要件F1について
本件発明1の構成要件F1は,「電子ドキュメントの第1部分を表
示するためのインストラクションと,」である。
引用発明2の構成(2f)「ディスプレイのウィンドウで電子ドキ
ュメントを表示する。」である。
したがって,引用発明2は,本件発明1の構成要件F1の「電子ド
キュメントの第1部分を表示する」を満たし,そのような動作をする
ためのインストラクションがある。
以上より,引用発明2の構成(2f)は,本件発明1の構成要件F
1に相当する。
c構成要件G1について
本件発明1の構成要件G1は,「前記タッチスクリーンディスプレ
イ上又はその付近でオブジェクトの移動を検出するためのインストラ
クションと,」である。
引用発明2の構成(2g)は,「ディスプレイ上の入力手段の移動
を追うことにより,ディスプレイ上で指示を行う。」である。
したがって,引用発明2の構成(2g)は,本件発明1の構成要件
F1の「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近でオブジ
ェクトの移動を検出する」を満たし,そのような動作をするためのイ
ンストラクションがある。
以上より,引用発明2の構成(2g)は,本件発明1の構成要件G
1に相当する。
d構成要件H1について
本件発明1の構成要件H1は,「前記移動を検出するのに応答して,
前記タッチスクリーンディスプレイに表示された前記電子ドキュメン
トを第1方向に徐々に移動して,前記電子ドキュメントの前記第1部
分とは異なる第2部分を表示するためのインストラクションと,」で
ある。
引用発明2の構成(2h)は,「ディスプレイ上の入力手段の移動
により,ディスプレイ上の表示部分を移動させて変える。」である。
したがって,引用発明2の構成(2h)においては,ディスプレイ
上の入力手段の移動を検出するのに応答して,ディスプレイ上の表示
部分を移動させて変えている。そして,その移動方向を「第1方向」,
移動後の「表示部分」を「第2部分」と捉えることとすると,引用発
明2の構成(2h)は,本件発明1の構成要件H1の「前記移動を検
出するのに応答して,…第2部分を表示する」を満たし,そのような
動作をするためのインストラクションがある。
以上より,引用発明2の構成(2h)は,本件発明1の構成要件H
1に相当する。
e構成要件I1について
本件発明1の構成要件I1は,「前記タッチスクリーンディスプレ
イ上又はその付近でオブジェクトがまだ検出されている間に前記電子
ドキュメントを前記第1方向に移動する間に前記電子ドキュメントの
縁に到達するのに応答して,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリ
アを表示し,且つ前記電子ドキュメントの前記第1部分より小さい第
3部分を表示するためのインストラクションと,」である。
引用発明2の構成(2i)は,「表示部分がコラムの境界を越えて
移動するようにドラッグするとコラムの境界を超えた部分を表示す
る。」である。
引用発明2の構成(2i)は,ペンをドラッグする間はタッチパネ
ル上でペンが検出されているので,「前記タッチスクリーンディスプ
レイ上又はその付近でオブジェクトがまだ検出されている間に」を満
たす。
また,引用発明2の構成(2i)は,コラムを「第1方向」に移動
した際に,コラムの縁に到達するとコラムの縁を越えるエリアを表示
する。このときディスプレイウィンドウに表示されるコラム(「第3
部分」)は,(縁を越えるエリアが表示されているので)「第1部
分」より小さい。
したがって,引用発明2の構成(2i)は,本件発明1の構成要件
I1の「前記タッチスクリーンディスプレイ上…第3部分を表示す
る」を満たし,そのような動作をするためのインストラクションがあ
る。
以上より,引用発明2の構成(2i)は,本件発明1の構成要件I
1に相当する。
f構成要件J1について
本件発明1の構成要件J1は,「前記タッチスクリーンディスプレ
イ上又はその付近にオブジェクトがもはやないことを検出するのに応
答して,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアがもはや表示され
なくなるまで前記電子ドキュメントを第2方向に徐々に移動して,前
記電子ドキュメントの第1部分とは異なる第4部分を表示するための
インストラクションと,」である。
引用発明2の構成(2j)は,「ディスプレイからペンを持ちあげ
るとコラムがディスプレイウィンドウにはめ込まれるように位置が調
整され,コラムの境界を超えた部分が表示されないようになり,この
移動の様子は表示される。」である。
引用発明2の構成(2j)では,「ディスプレイからペンを持ちあ
げると」位置が調整されており,「前記タッチスクリーンディスプレ
イ上又はその付近にオブジェクトがもはやないことを検出するのに応
答して」が満たされる。また,引用発明2の構成(2j)では,「コ
ラムがディスプレイウィンドウにはめ込まれるように位置が調整され,
コラムの境界を超えた部分が表示されないように」なっているので,
「前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアがもはや表示されなくな
るまで前記電子ドキュメントを」移動している。そして,このコラム
(乙13のFIG.14Bの1220)は電子的なドキュメントであり,「電子
ドキュメント」に該当する。ここで,コラムの移動の方向を「第2方
向」と捉える。
引用発明2の構成(2j)では,移動の様子を表示するので,この
移動は「徐々に」なされている。ここで表示されている部分を第4部
分とすると,これは第1部分とは異なる部分となっている。
したがって,本件発明1の構成要件J1は,「前記タッチスクリー
ンディスプレイ上…第4部分を表示する」を満たし,そのような動作
をするためのインストラクションがある。
以上より,引用発明2の構成(2j)は,本件発明1の構成要件J
1に相当する。
g構成要件K1について
本件発明1の構成要件K1は,「を含む,装置。」である。
引用発明1の構成(2k)は,「装置である。」である。
以上より,引用発明2の構成(2k)は,本件発明1の構成要件K
1に相当する。
h新規性の欠如
以上のとおり,本件発明1の各構成要件と引用発明2の構成は全て
一致するから,本件発明1は新規性が欠如する。
i進歩性の欠如
引用発明2において,「コラム」が「電子ドキュメント」であるこ
とは,上述のとおりである。
この点,乙13号証では,コラムの境界を超えた部分に別のコラム
があることをもって,「コラム」は電子ドキュメントでないといった
「反論」がなされることがあり得ないではない。
しかしながら,原告は,本件発明1において「電子ドキュメント」
が如何なる種類のものであるかについては,クレーム文言上も,本件
明細書上も,何らの限定も付されていないと主張しており,そうした
原告の立場を前提とすれば,「コラム」が「電子ドキュメント」に該
当することに疑いの余地はない。
また,原告は,「電子ドキュメントの縁を越えるエリア」に何が表
示されるかについては,クレーム文言上も,本件明細書上も,何らの
限定も付されていないと主張しており,そうした原告の立場を前提と
すれば,「コラム」の縁を越えた部分に何が表示されるかは問題とな
らないことに疑いの余地はない。そもそも,「コラム」の境界の外側
に別の電子ドキュメントがあったとしても,それは単なる付加にすぎ
ず,本件発明1との対比において,それは関係ない。
たとえ1個のコラムをもって「電子ドキュメント」に当たらないと
して,それが本件発明1と引用発明2の相違点であると仮定してみて
も,スタイラスの移動に伴い「電子ドキュメント」の境界を越える部
分を表示し,スタイラスがタッチパネルから離れると「電子ドキュメ
ント」が画面全体に表示され,「電子ドキュメント」の境界を越える
部分が表示されなくなる技術は,引用発明1に開示されている。
そこで,引用発明2に引用発明1を適用することによって,この相
違点は直ちに解消する。
なお,引用発明1及び引用発明2は,いずれも画像表示方法に関す
るものであり,技術分野を同じくしており,容易に組み合わせること
が可能であることは明らかである。
以上のとおり,仮に,引用発明2の「コラム」が「電子ドキュメン
ト」に当たらない点で,本件発明1と引用発明2が相違するとしても,
本件発明1は,引用発明2及び引用発明1に基づいて容易に発明をす
ることができたものである。
(オ)本件発明2との対比
a構成要件A2~E2,G2及びK2について
原告の主張に従えば,本件発明2の構成要件A2~E2,G2及び
K2は,本件発明1の構成要件A1~E1,G1及びK1とほぼ同一
であって,それらの間に実質的な相違点はない。
そうであれば,これら構成要件については,上記(エ)の議論が妥当
する。
b構成要件H2,I2及びJ2について
原告の主張に従えば,これら構成要件は,それぞれ本件発明1の対
応する各構成要件の一部の構成を省略したものに他ならない。
そうであれば,これら構成要件については,上記(エ)の議論が妥当
する。
cまとめ
以上のとおり,本件発明2の構成要件の全てについて,上記(エ)の
議論が妥当するから,本件発明2は,新規性又は進歩性が欠如する。
(カ)本件発明3との対比
a構成要件A3~E3,G3及びK3について
原告の主張に従えば,本件発明3の構成要件A3~E3,G3及び
K3は,本件発明1の構成要件A1~E1,G1及びK1とほぼ同一
であって,それらの間に実質的な相違点はない。
そうであれば,これら構成要件については,上記(エ)の議論が妥当
する。
b構成要件H3,I3及びJ3
本件発明3は,実質的には本件発明1ないし2の「電子ドキュメン
ト」が「リスト」に限定されたものである。
引用発明2の電子ドキュメントには限定がないので,リストを含め
て開示されていることは当然である。念のために述べれば,乙13号
証のFIG.14Bでは,例えば,左側のコラム1215は明らかにリスト
の形状をしている。なお,このコラムは縦方向に項目が並べられてい
るが,これが横方向に項目が並べられていても構わない。その場合,
コラムの右端が「リストの末端」に対応することになる。また,位置
の移動と調整は,縦方向でも横方向でもよいことは,乙13号証に明
記されているので,「リストの末端」に対する上述の位置調整が開示
されている。
(訳)同様の水平整列コントロールを提供することもできる。そのような
コントロールは,たとえばスプレッドシートアプリケーションで,水
平にスクロールする時に垂直移動を制限するのに使用することができ
る。
「Asimilarhorizontalalignmentcontrolalsomaybeprovided.
Suchacontrolmaybeusedtolimitverticalmovementwhen
scrollinghorizontallyin,forexample,aspreadsheet
application.」(16頁1~3行)
そうすると,引用発明2において,電子ドキュメントが「リスト」
である場合である本件発明3が開示されていることが帰結される。
cまとめ
以上のとおり,いずれにしても,本件発明3は,新規性が欠如する。
(キ)原告は,コラムがウェブページという電子ドキュメントの一部(一
構成要素)であり,一つのドキュメントの一部をもって,別個独立のド
キュメントと解釈することはできない旨主張する。
原告によれば,「電子ドキュメント」とは電子的形態のドキュメント
であり,クレーム文言上も明細書上も何らの限定はなく,如何なる種類
のものも含まれるのであり,コラムは電子的な形態のドキュメントであ
るから,本件発明の「電子ドキュメント」に該当することに疑義はない。
また,ウェブページには複数の電子的形態のドキュメント(原告のい
う「電子ドキュメント」)が埋め込まれてよいことは当然であり,コラ
ムがウェブページの一部であることをもって,それが「電子ドキュメン
ト」ではないとする原告主張に理由のないことは明らかである。
(ク)原告は,本件発明1の構成要件J1は,「第4部分」が「第1部
分」と異なることを要求しているが,被告らはそれを説明していないと
主張する。
しかしながら,乙13号証は,例えばFIG.14で示された(複数の)コ
ラムのあらゆる箇所を(そこにディスプレイウィンドウを持って行き)
表示させることができることを開示しており,「第1部分」を適宜選択
することによって「第4部分」と異なるようにできることは当然である。
(ケ)原告は,引用発明1及び2を組み合わせる動機付けについて主張が
ないと主張する。
しかしながら,引用発明1及び2は,①いずれもPDA(情報携帯端
末)等の表示方法に関するものであり,技術分野を同じくする,②いず
れも表示画面が狭いPDA(情報携帯端末)等において,画像が読みに
くく探しにくいという従来技術の問題点を解決することをその課題とす
るものであり,課題を同じくする,③スタイラス等を画面から離すと自
動的に表示画面を調整するという作用・機能を有し,作用・機能を同じ
くするのであり,技術分野,課題および作用・機能のすべてにおいて共
通するから,引用発明1及び2を組み合わせることの動機付けはある。
また,原告は,引用発明2に引用発明1を組み合わせても本件発明1
及び2に至らないと主張している。
しかし,引用発明1は,画像の移動に伴い,ある画像の縁を越えるエ
リアを表示し,スタイラスを離すと当該画像の縁を越えるエリアを表示
しなくなるように画像を移動する技術を開示している(構成(i)及び
(j))。当該技術を引用発明2に適用すると,(「電子ドキュメン
ト」及びその「縁」について,仮に原告の主張に従うとしても)当該電
子ドキュメントの縁を越えて表示し,スタイラスを離すと縁を越えるエ
リアを表示しなくなる構成を得ることは明らかである。
(コ)原告は,引用発明2には,「アイテムのリスト」が開示されていな
いと主張する。
原告が理由として挙げるのは,コラムがウェブページの一部分である
ということである。当該主張は,本件発明3の「リスト」は電子ドキュ
メントであることを前提として,当該コラムは電子ドキュメントの一部
であるから,本件発明の「電子ドキュメント」ではなく,本件発明3の
「リスト」にも該当しないという趣旨である。
しかしながら,コラムがウェブページの一部であることにより,コラ
ムが本件発明の「電子ドキュメント」に当たらないことにならないこと
は既述のとおりであり,原告の主張には理由がない。
また,原告は,リストが末端に到達したときに何が起こるか開示して
いない等と主張する。
しかしながら,コラム(コラム1215)についてもコラム1220
と同様の動作をすることは当然である(または,コラム1220がリス
トで構成されていると考えてもよい。リストとなり得るコラムはコラム
1215に限らない)。さらに,リストにおいて項目の配置は,縦・
横・二次元のいずれでも構わないので,リストの末端がコラム1215
ないし1220の右端だと考えれば,既に行った説明がそのまま本件発
明3に該当することは明らかである。
(原告の主張)
(ア)引用発明2は,本件発明1の構成要件F1,H1,I1及びJ1並
びに本件発明2の構成要件H2,I2及びJ2における「電子ドキュメ
ント」を開示していない。
被告らは,電子ドキュメントの内に含まれる再構成されて表示されて
いるコラムは,それぞれ個別の「電子ドキュメント」であるという主張
をしている。しかし,そのような主張は,引用発明2において明示され
ている内容に反する。
例えば,引用発明2は,「ドキュメントは…該ドキュメントの幅が複
数のコラムに分割されるように,リフォーマットすることができる」
(16行~19行),「電子ドキュメントは再構成され,少なくとも2
つのコラムとなる…」(2頁・1行~3行。)と示している。電子ドキ
ュメントをリフォーマットするとは,いわゆる書式の再設定にすぎない。
その意味で引用発明2の文脈においては,各コラムとはドキュメントの
一部,すなわち一構成要素に過ぎないことが明らかである。決して,コ
ラム自体が電子ドキュメントに転換されることはない。
さらに,引用発明2の明細書においては,以下に列挙するように,一
貫してウェブページの一部(電子ドキュメントの一部)をもってコラム
としており,被告らのように,コラム自体を電子ドキュメントとして扱
うことは,当該明細書の記載に整合しない。
例えば,「情報ページには複数の情報コラムが含まれている場合があ
る。」(6頁),「構成要件…は,それぞれ表示画面幅425の幅以内
に適合する…読み取り可能な情報コラムである。…このように,ページ
415が表示画面の表示部分を越える場合でも,ユーザーは,…ページ
415の各部分を閲覧することができ…」(10頁),「表示を動画に
する処理(ステップ1115)のなかに,表示部において1番目の表示
から2番目の表示に連続移動して当該情報ページの可視領域を表示する
ことが含まれる。」(14頁),「図9を参照すると,ユーザーは,…
最初のコラム905を選択し,画面920を表示させて,ページ900
を閲覧し始める可能性がある。」(13頁),「面積が狭い表示画面…
を有する電子デバイスにコンテンツが表示された場合,ウェブページの
ごく一部しか表示されない。」(1頁)である。
要するに,一つのドキュメントの一部をもって,別個独立のドキュメ
ントと解釈することはできないのであり,被告らの主張は,ドキュメン
トの一部をもってドキュメントであると主張しているのと何ら変わらず,
特段の意味を成さない。
以上より,引用発明2におけるコラムは,せいぜい電子ドキュメント
の一部ではあっても,電子ドキュメントではあり得ない。
したがって,引用発明2は「電子ドキュメント」を開示していないか
ら,本件発明の構成要件を全て開示しているとはいえない。
(イ)引用発明2は本件発明の構成要件J1及びJ2における「電子ドキ
ュメントの縁を越えるエリア」というクレーム文言を開示していない。
コラムとそれ以外を区分する境界は,電子ドキュメントの縁とは認め
られない。なぜならば,コラムにおける境界は,電子ドキュメントの実
際の端を示すものではないからである。
被告らは,コラムの「縁」を越えてディスプレイが移動すると「縁を
越えるエリア」が表示されるという結論を得るため,コラムの境界は電
子ドキュメントに含まれると指摘する。しかし,既に上記(ア)において
述べた理由により,引用発明2におけるコラムの境界は電子ドキュメン
トの端ではないことは明らかである。引用発明2は,ユーザーが電子ド
キュメントの縁に向けてスクロールした際に何が起こるかにつき,開示
していない。さらに,「電子ドキュメントの縁を越えるエリア」が表示
されるということを開示しているものでもない(甲23・22段落,3
4段落~37段落)。被告らの依拠する図(図14B)は,被告らが
「縁を越えるエリア」と主張する部分が,実際には一つの電子ドキュメ
ントの一部(当該図においては,ウェブページの一部)でしかないこと
を明らかにしている。
したがって,引用発明2は,電子ドキュメントの「縁」も,「縁を越
えるエリア」のいずれも開示しているものではない。
(ウ)本件発明の構成要件J1は,当該機器が「電子ドキュメントの第4
部分を表示し,当該第4部分は,第1部分とは異なるものである」点を
要求している。しかし,被告らは,「ここで表示されている部分を第4
部分とすると,これは第1部分とは異なる部分となっている」と示すの
みであり,引用発明2において,第1部分とは異なる電子ドキュメント
の「第4部分」を表示していることを開示していることの主張・立証を
欠いている。
(エ)被告らは,引用発明2におけるコラムと「電子ドキュメント」との
間にある相違点は,「引用発明2に引用発明1を適用することによって,
この相違点は直ちに解消する」と主張している。被告らは,引用発明2
がコラムを含むウェブページを既に利用しているという状況においてこ
れらの発明を組み合わせる動機付けについて,何ら合理的な主張を行っ
ていない。引用発明1の電子ドキュメントを引用発明2に適用させたと
ころで,引用発明2におけるコラムを全て排除することになり,それゆ
えに引用発明2において,被告らがバウンスバック効果と技術的に同等
と主張しているセンタリング効果をも排除する結果となるにすぎない。
さらに,本件発明は,引用発明1及び2において検討・提案すらされ
なかった課題を解決するものであり,ユーザーが電子ドキュメントを移
動している際に,その縁に到達したことを知らせるための方法という特
定の課題を解決するために創作されたものである。本件発明と異なり,
引用発明1及び2は当該課題に着目することも,その課題を解決するこ
ともしていない(甲23・22段落)。
よって,引用発明1及び2を組み合わせたとしても,本件発明1及び
2を発明するに至らない。したがって,被告らの進歩性欠如の主張は失
当である。
(オ)引用発明2は,本件発明の構成要件H3,I3及びJ3における
「アイテムのリスト」を開示しておらず,かつ,構成要件J3における
「前記リストの末端を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで前記
第1方向とは逆の第2方向に前記リストをスクロールする」という点を
開示していない。被告らは,「左側のコラム1215は明らかにリスト
の形状をしている。…コラムの右端が『リストの末端』に対応すること
になる」として,コラムをもってリストであると主張しているが,被告
らが「リストの形状」という図14Bについては,テキストと画像が含
まれているコラムの形式を有する単なるウェブページの一部分でしかな
く,リストではない。さらに,仮に当該コラムがリストと解釈できると
しても,引用発明2は当該リストが末端に到達したときに何が起きるか
という点及び末端を越えるエリアを表示するか否かという点につき開示
していない。
よって,引用発明2は本件発明の構成要件J3を開示していない。
オ乙25号証に基づく進歩性の欠如(争点3-5)
(被告らの主張)
(ア)乙25号証は,本件発明に係る優先日前に頒布された刊行物である
公開特許公報(平3-271976,公開:平成3年12月3日)であ
る。
乙25に記載された発明(以下「引用発明3」という。)は,電子辞
書に関し,表示画面上での編集等を効率的に行うためのものであり,例
えば,大画像を入力表示した場合の処理の負担を軽減するものである
(1頁「1.発明の名称」,4頁左下欄~右下欄参照)。
(イ)引用発明3は,以下の構成を有する。
a表示装置(ディスプレイ)を有する。
bプロセッサを有する。
cメモリを有する。
dプログラムを有する。
eプログラムは,メモリに記憶されて,プロセッサにより実行される。
f電子的な画像を表示する。
k装置である。
以上は,電子辞書であるから,当然である。
gマウスによる操作を検出する。
「…補助情報(マウスカーソルと…)等を表示する表示装置,…」
(5頁左上欄2~3行)
hマウスでのスクロールにより,画像を移動して表示することができ
る。
「…入力画像が上記画像表示領域3bを越えて大幅に大きいような場
合には,例えば…入力画像に対して画像表示領域3bをスクロール可
能とし,第3図(b)(c)に示すように画像表示領域3bからはみ
だす画像部分をスクロール操作によって適宜見ることができるように
しておけば良い。」(5頁左下欄2~8行)
なお,このスクロール操作は,次のように行われる。図8において,
3eはスクロール操作領域,図形Aは入力画像の概形,図形Bは表示
中の部分画像の範囲を示す。ここで,マウス操作により,図形Bを領
域3e内で自由に動かし,図形Bで指定された領域を画面に表示する。
「一方,上述したスクロール操作機能を次のように実現してもよい。
例えば第8図に示すように表示画面3a上にスクロール操作用領域3
eを表示する。そしてこのスクロール操作領域3eに入力画像の概形
を表示する。そして前記画像表示領域3bに現在表示中の部分画像の
範囲を示す図形Bを上記スクロール操作用領域3e内の概形Aに対応
付けて表示する。この図形Bを前述したマウスカーソルとして用い,
マウス操作により上記図形Bをスクロール操作用領域3e内で自由に
動かせるようにする。
しかしてこのような表示機能を用いれば,マウスカーソル(図形
B)を用いて概形Aに対する任意の領域を指定すれば,その指定され
た領域の入力画像を前記画像表示領域3bに表示することが可能とな
る。」(7頁右上欄10行~左下欄5行)
iスクロールにより,入力画像の境界に到達した場合は境界を越える
エリアを表示する。
関連する記載が,下記の記載および第5図においても示されている。
「更にこの実施例では指定方向にそれ以上のスクロールが不可能な場
合には,その方向へのスクロールが不可能であることを使用者に知ら
しめるような表示制御が行われる。この表示制御が行われる。この表
示制御は,例えば第5図に示すように,スクロールの限界を示す為の
境界線33や境界外領域34を表示することにより実現される。この
ように境界線33や境界外領域34を表示すれば,利用者に対してス
クロール不可能な方向を容易に知らしめることが可能となる。」(6
頁右上欄17行~左下欄5行)
k装置である。
引用発明3は電子辞書である。
(ウ)以上をまとめると,引用発明3は以下の構成を有する。
(3a)表示装置(ディスプレイ)を有する。
(3b)プロセッサを有する。
(3c)メモリを有する。
(3d)プログラムを有する。
(3e)プログラムは,メモリに記憶されて,プロセッサにより実行され
る。
(3f)電子的な画像を表示する。
(3g)マウスによる操作を検出する。
(3h)マウスでのスクロールにより,画像を移動して表示することがで
きる。
(3i)スクロールにより,入力画像の境界に到達して,越えると,境界
を越えるエリアを表示する。
(3k)装置である。
(エ)本件発明1との構成の対比
a構成要件A1について
本件発明1の構成要件A1は,「タッチスクリーンディスプレイ
と,」である。
引用発明3の構成(3a)は,「表示装置(ディスプレイ)を有す
る。」である。
以上より,引用発明3は,タッチスクリーンディスプレイを有しな
い点で,本件発明1と相違する。
b構成要件B1~E1及びK1について
本件発明1の構成要件B1~E1及びK1が,それぞれ引用発明3
の構成3b~3e及び3kに相当することは明らかである。
本件発明1引用発明1
(B1)1つ以上のプロセッサと,(3b)プロセッサを有する。
(C1)メモリと,(3c)メモリを有する。
(D1)1つ以上のプログラムと,を
備え,
(3d)プログラムを有する。
(E1)前記1つ以上のプログラム
は,前記メモリに記憶されて,前記1
つ以上のプロセッサにより実行される
ように構成され,(前記プログラム
は,)
(3e)プログラムは,メモリに
記憶されて,プロセッサにより実
行される。
(K1)を含む,装置。(3k)装置である。
c構成要件F1について
本件発明1の構成要件F1は,「電子ドキュメントの第1部分を表
示するためのインストラクションと,」である。
引用発明3の構成(3f)は,「電子的な画像を表示する。」であ
る。
引用発明3の構成(3h)にあるように,引用発明3は画像をスク
ロールして表示部分を適宜選択できるので,画像を移動させて適宜選
択した箇所を「第1部分」と捉える。
以上より,引用発明3の構成(3f)は,本件発明1の構成要件F
1に相当する。
d構成要件G1について
本件発明1の構成要件G1は,「前記タッチスクリーンディスプレ
イ上又はその付近でオブジェクトの移動を検出するためのインストラ
クションと,」である。
引用発明3の構成(3g)は,「マウスによる操作を検出する。」
である。
以上より,引用発明3は,タッチスクリーンディスプレイを有さず,
マウスにより指示を行う点で,本件発明1と相違する。
e構成要件H1について
本件発明1の構成要件H1は,「前記移動を検出するのに応答して,
前記タッチスクリーンディスプレイに表示された前記電子ドキュメン
トを第1方向に徐々に移動して,前記電子ドキュメントの前記第1部
分とは異なる第2部分を表示するためのインストラクションと,」で
ある。
引用発明3の構成(3h)は,「マウスでのスクロールにより,画
像を移動して表示することができる。」である。
引用発明3は,スクロールにより適宜移動して,「第1部分」とは
異なる「第2部分」を表示させることができる。その際の移動方向を
「第1方向」と捉える。
以上より,タッチスクリーンディスプレイにおけるオブジェクトの
移動の検出の点を除いて,引用発明3の構成(3f)は,本件発明1
の構成要件H1を満たし,タッチスクリーンディスプレイにおけるオ
ブジェクトの移動の検出の点で相違する。
f構成要件I1について
本件発明1の構成要件I1は,「前記タッチスクリーンディスプレ
イ上又はその付近でオブジェクトがまだ検出されている間に前記電子
ドキュメントを前記第1方向に移動する間に前記電子ドキュメントの
縁に到達するのに応答して,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリ
アを表示し,且つ前記電子ドキュメントの前記第1部分より小さい第
3部分を表示するためのインストラクションと,」である。
引用発明3の構成(31)は,「スクロールにより,入力画像の境
界に到達して,越えると,境界を越えるエリアを表示する。」である。
以上より,タッチスクリーンディスプレイにおけるオブジェクトの
移動の検出の点を除いて,引用発明3の構成(3i)は,本件発明1
の構成要件I1を満たし,タッチスクリーンディスプレイにおけるオ
ブジェクトの移動の検出の点で相違する。
gまとめ
以上のとおり,引用発明3は,以下の点で,本件発明1と相違する
(その他の点は一致する。)。
(相違点ア)
タッチスクリーンディスプレイを有すること(画像の移動がタッチ
スクリーンディスプレイによるオブジェクトの検出に基づくこと)
(相違点イ)
電子ドキュメントの縁を越えるエリアが表示されなくなるまで電子
ドキュメントを移動すること
(オ)本件発明2及び3との対比
a本件発明2について,上記(エ)がそのまま当てはまることは明らか
である。
b本件発明3について,「リスト」の開示があることについては問題
とならない。電子ドキュメントについてリストの形式のものが含まれ
得ることは当然であるが,引用発明3においては,表(リスト)の形
式による表示について複数明記されており,表示される電子ドキュメ
ントに表(リスト)が含まれることの開示がある点についておよそ問
題とならない。
例えば,第3図も表(リスト)であることは明らかである。
また,乙25号証の第18図は,「関連熟語リスト」である。
「この第18図に示す例は英単語[as]に関する熟語を検索して表
示した場合であり,…」(14頁右下欄11~12行)
c以上のとおり,引用発明3と本件発明2ないし3との関係において
も,相違点アおよびイの他に相違点はない。
(カ)組み合わせによる容易想到性
a相違点ア
引用発明3におけるマウスによる指示を,公然実施発明1(ないし
公然実施発明2,引用発明1又は2)に開示されたタッチスクリーン
ディスプレイに置き換えれば,相違点アは解消する。
ここで置換の容易想到性についてであるが,相違点アは,実質的に
は相違点でさえない。本件発明に係る特許の優先日の時点でタッチス
クリーンディスプレイによる入力指示は周知慣用の技術であり,実際,
公然実施発明1(ないし公然実施発明2,引用発明1又は2)はタッ
チスクリーンディスプレイを採用している。このような周知慣用技術
の採用は,設計事項というべきレベルの問題であり,容易想到である
ことはいうまでもない。
なお,引用発明3もマウスの機能を他の指示機能を有する装置で実
現してよいことを明記している。
「また,マウスの機能をライトペン・タブレット・デジタイザなど他
の指示機能を有する装置で実現しても良い。」(14頁左下欄4~6
行)
b相違点イ
相違点イは,公然実施発明1(ないし公然実施発明2,引用発明1
又は2)において開示されている位置合わせを適用することで直ちに
解消する。
位置合わせについては上記のいずれでもよいが,ここでは,便宜上,
引用発明2を例に説明する。引用発明3において,縁を越えるエリア
が表示された状態に引用発明2の位置合わせを適用すれば,縁を越え
るエリアが表示されなくなるまで電子ドキュメントが移動する。
よって,引用発明3に引用発明2の位置合わせを適用すれば,相違
点イは直ちに解消する。
また,引用発明3に引用発明2の位置合わせを組み合わせる動機付
けがあることは,①いずれも電子機器(電子辞書,PDA等)等の表
示方法に関するものであり,技術分野を同じくする,②いずれも表示
画面が狭い電子機器において,画像が読みにくく探しにくいという従
来技術の問題点を解決することをその課題とするものであり,課題を
同じくする,③スクロール等の方法により,画像を移動させて表示さ
せるという作用・機能を有し,作用・機能を同じくする,④引用発明
3を開示する乙25号証には,スクロール可能な限界までスクロール
した状態でスクロールを停止させるような機能を設けておくことが望
ましいとの記載があり,これは,スクロールが停止せず縁を越えたエ
リアが表示された状態では画像表示領域が無駄になることによるもの
であり,当該記載は,縁を越えたエリアが小さい方がよいことを示す
のであって,縁を越えるエリアを表示させなくすること,すなわち本
件発明を示唆するものであることから,明らかである。
以上のとおり,引用発明3と引用発明2とは,技術分野,課題およ
び作用・機能のすべてにおいて共通し,また,引用発明3を記載する
乙25号証には,本件発明に対する示唆がある。よって,引用発明3
と引用発明2を組み合わせることの動機付けがあることは当然である。
(原告の主張)
(ア)引用発明3におけるドキュメントのスクロールの方法は,本件発明
のそれと大きく異なる。引用発明3の第4図において,スクロールのた
め画像表示領域を分割した複数の小領域が表示されている。
引用発明3は,第4図を元に,次のようなスクロール方法を開示して
いる。
「スクロール指示は,例えば第4図に破線で示すように前記画像表示領
域3bを複数の小領域に分割しておき,画像表示領域3bの中心に位置
する実線で囲まれた小領域31から前記マウスカーソル3dを別の小領
域32に移動し,位置指定することにより行われる。この位置指定がな
されたとき,上記小領域32の画像を画像表示領域3bの中心(小領域
31の位置)に移動させるようにスクロール操作を起動する。」(45
7頁及び458頁)
引用発明3において開示されているスクロール方法は,2つの重要な
点において本件発明におけるスクロール方法と異なっている。1つ目は,
引用発明3が,タッチスクリーンディスプレイではなく,マウスやキー
ボードをドキュメントのスクロールに用いるという点(同457頁)で
ある。
「スクロール処理は前記マウスの操作によって起動されるものとして説
明するが,キーボードからの操作指示によりスクロール可能としても良
い。」(457頁)
2つ目は,引用発明3が,本件発明において記載される電子ドキュメ
ントが「徐々に移動」するという本件特許における構成要件を開示して
いないという点である。そのかわり,引用発明3は,ユーザーがカーソ
ルを操作し,画像の位置を指定することによって,指定位置に対応する
小領域の画像が当該画像表示領域の中心に移動するという動作に到る
(「マウスカーソル3dを別の小領域32に移動し,位置指定する…こ
の位置指定がなされたとき,上記小領域32の画像を画像表示領域3b
の中心(小領域31の位置)に移動させる」458頁)。さらに,引用
発明3はカーソルによるドキュメント操作指示に依拠するものであり,
引用発明3がカーソルを有しないタッチスクリーンディスプレイに適用
できないことは明らかである。
(イ)引用発明3におけるドキュメントの縁の取扱いは,本件発明のそれ
と大きく異なる。引用発明3において,境界外領域は,スクロールの限
界を示す細い固定の枠であり,ユーザーに対し,縁に到達した際に示さ
れるものである(「指定方向にそれ以上のスクロールが不可能である」
458頁及び第5図)。その結果として,引用発明3における境界外領
域は当該ドキュメントの縁の内側に表示され,その縁を越えるものでは
ない。この点は本件発明との明らかな相違点であり,本件発明は,ユー
ザーに,電子ドキュメントの縁を越えるエリアを自由にスクロールし,
当該範囲に存する画像やパターンを閲覧することをも可能とする(本件
明細書【0132】参照)。さらに重要なのは,引用発明3は,縁を越
えるエリアが表示されないようにするバウンスバック効果を開示してい
ないということである。逆に,引用発明3は,ユーザーに特定方向への
スクロールが不可能であることを示すため,境界外エリアの表示は残し
ておくように開示されている。
「境界線33や境界外領域34を表示すれば,利用者に対してスクロー
ル不可能な方向を容易に知らしめることが可能」(同頁)
このように,引用発明3は,バウンスバック効果を有しないのみなら
ず,バウンスバック効果に関する開示はもちろんのこと,示唆すらして
いないことが明らかである。
以上より,本件発明が,ドキュメントの縁を越えてユーザーが自由に
スクロールできるようにし,当該ドキュメントはユーザーがスクロール
を終えた際に縁を越えるエリアが表示されないようにするためバウンス
バックするのに対し,引用発明3は,ユーザーはスクロール限界を越え
てスクロールできないものとされており,ユーザーがスクロールできな
い方向を示すために境界外領域を表示するという内容を開示するもので
あるから,両者は全くその開示内容が異なるものである。
(ウ)以下のとおり,引用発明3は,本件発明の構成要件の開示がない。
a被告らは,引用発明3においては構成要件A1,A2及びA3が開
示されていないことを認めている。これらの構成要件は「タッチスク
リーンディスプレイ」に関するものであるところ,引用発明3はマウ
スやキーボードを使用するものなのであって,タッチスクリーンの使
用についての開示はない。
b引用発明3は構成要件G1,G2及びG3を開示していない。これ
らの構成要件は「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近
でオブジェクトの移動を検出するためのインストラクション」に関す
るものであるが,被告らの認めるとおり,引用発明3はタッチスクリ
ーンディスプレイを有していないため,本要件も開示していないこと
は明らかである。
c引用発明3は構成要件H1及びH2を開示していない。これらの構
成要件は「前記移動の検出に応答して,前記タッチスクリーンディス
プレイ上に表示された電子ドキュメントを第1方向に徐々に移動する
ためのインストラクション」に関するものであるが,引用発明3は複
数の点においてかかる構成要件を開示していない。
まず,引用発明3は,電子ドキュメントが徐々に移動するという点
を開示していない。むしろ,上述したとおり,引用発明3では,ユー
ザーによるいずれの領域を中心とするかの選択に応答して,表示画像
における選択された領域に属する部分が中心位置まで移動することを
示している。
次に,引用発明3は,電子ドキュメントがオブジェクトの移動の検
出に応答して移動するためのインストラクションを開示しておらず,
むしろ,ユーザーが領域においてマウスをクリックすることに応答し
て,(すなわちユーザーによるマウスの移動に応答してではなく)画
像がセンタリングされるということを開示しているにすぎない。
また,被告らも認めるとおり,引用発明3は,タッチスクリーンデ
ィスプレイ上に表示された電子ドキュメントを開示していない。
以上のとおり,引用発明3が構成要件H1及びH2を開示していな
いことは明らかである。
d引用発明3は構成要件H3を開示していない。構成要件は「前記移
動の検出に応答して,前記タッチスクリーンディスプレイ上に表示さ
れたアイテムのリストを第1方向にスクロールするためのインストラ
クションと」であるが,引用発明3は下記のとおり複数の点において
開示していない。
まず,引用発明3は,アイテムのリストのスクロールにつき開示し
ていない。被告らは,引用発明3における第3図を用いて,乙25の
第3図も表(リスト)であることは明らかであると主張するが,引用
発明3は,同じく第3図をもって「画像表示」(477頁)としてい
るのであって,画像がリストとは異なるものであることは明らかであ
る。さらに,仮にリストの画像とリスト自体が外観上同一のものであ
るとしても,引用発明3における第3図の画像はリストを表現してお
らず,仮名の二次元の羅列にすぎない。
また,引用発明3は,オブジェクトの移動の検出に応答して移動す
るというインストラクション,及びタッチスクリーンディスプレイを
開示しておらず,この点は上記cにおいて述べたとおりである。
以上のとおり,引用発明3が構成要件H3を開示していないことは
明らかである。
e引用発明3は構成要件I1及びI2を開示していない。これらの構
成要件は「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近におい
て前記オブジェクトがまだ検出されている間に前記電子ドキュメント
を第1方向に移動する間に前記電子ドキュメントの縁に到達するのに
応答して,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示するため
のインストラクション」であるが,引用発明3は,下記のとおり少な
くとも3つの点において本件特許の内容を開示していない。
まず,引用発明3は,電子ドキュメントが第一方向に徐々に移動す
る間に前記電子ドキュメントの縁に到達するという点につき開示して
いない。むしろ,上述のとおり,引用発明3では,ユーザーによるど
の領域を中心とするかの選択に応答して,表示画像における選択され
た領域に属する部分が中心位置まで移動することを示している。
次に,引用発明3は,電子ドキュメントが徐々に移動することに応
答して前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示することにつ
き開示していない。引用発明3では,「マウスカーソル3dを別の小
領域32に移動し,位置指定する…この位置指定がなされたとき,上
記小領域32の画像を画像表示領域3bの中心(小領域31の位置)
に移動させる」ことが行われており,ドキュメントが徐々に移動する
ことに応じて境界外領域が表示されるわけではない。
加えて,引用発明3は,タッチスクリーンディスプレイ上又はその
付近でオブジェクトがまだ検出されている間に応答して,電子ドキュ
メントの縁を越えるエリアを表示するという点を開示していない。引
用発明3は,タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近でのオブ
ジェクトの検出ができない。仮に,被告らが,マウスの移動をもって
タッチスクリーンディスプレイ上での指の動きと同一視させようとし
ても,上述のとおり,引用発明3はマウスの移動に応答して電子ドキ
ュメントの縁を越えるエリアを表示するものでもないため(マウスの
クリックによることが必要である),かかる主張は意味をなさない。
f引用発明3は構成要件I3を開示していない。この構成要件は「前
記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近においてオブジェク
トがまだ検出されている間に前記リストを第1方向に移動する間に前
記リストの末端に到達した場合には前記リストの末端を越えるエリア
を表示するためのインストラクション」であるが,上記構成要件H3
について述べたことと同様,引用発明3はリストのスクロールを開示
していない。さらに,仮に引用発明3における第3図が被告らの主張
するとおりリストとみなすことができるとしても,構成要件I1及び
I2について述べたことと同様の理由で,構成要件I3の開示があっ
たとはいえないことは明らかである。
g引用発明3は構成要件J1,J2及びJ3を開示していない。これ
らの構成要件は「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近
にオブジェクトがもはやないことを検出するのに応答して,前記電子
ドキュメントの縁を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで,前
記ドキュメントを第2方向に徐々に移動するためのインストラクショ
ン」であり,構成要件I3については,「前記タッチスクリーンディ
スプレイ上又はその付近においてオブジェクトがまだ検出されている
間に前記リストを第1方向に移動する間に前記リストの末端に到達し
た場合には前記リストの末端を越えるエリアを表示するためのインス
トラクション」である。
構成要件J1,J2及びJ3はバウンスバック効果における最も重
要な部分であり,電子ドキュメントやリストがバウンスバックして縁
を越えるエリアが表示されなくなるという点を示している。一方,引
用発明3においては,「境界外領域」は,ユーザーに当該方向にはス
クロールできないということを知らせるため,表示されたままの状態
にすることを開示している。
(エ)被告らは,引用発明3と他の公然実施発明等を組み合わせることに
より,本件発明を容易に想到することができると主張している。
しかし,被告らは,引用発明3がタッチスクリーンディスプレイとい
う構成要件を充足していない点を過度に軽視している。タッチスクリー
ンディスプレイにおけるスクロールの方法は,マウスやキーボードによ
るスクロールの方法とは根本的に異なるものである。特に,引用発明3
におけるスクロール方法は,カーソルを画像領域から動かして当該画像
領域を中心に据えることを含むものであるが,タッチスクリーンディス
プレイにおいてはカーソルが使用できないのであるから,タッチスクリ
ーンディスプレイには適用できないものである。したがって,引用発明
3におけるマウスやキーボードを用いた画像のスクロールは,タッチス
クリーンディスプレイをスクロールに用いる他の引用発明等と組み合わ
せることはできないものである。また,被告らは,マウスやキーボード
によるスクロールの方法を,タッチスクリーンディスプレイを用いたス
クロールの方法と組み合わせる理由も動機付けも提示できていない。
加えて,引用発明3の開示する内容は,他の引用発明等が開示してい
るとする内容,すなわち客体(例えば,引用発明2におけるウェブペー
ジのコラムやLaunchTileにおけるZone表示)を移動させ,客体の縁を越
えるエリアが表示されなくなるように客体を移動させるという内容とは
大きく異なっており,このように大きく異なる引用発明等と引用発明3
を組み合わせるという被告らの主張には全く合理性がない。もし境界外
領域が表示されないとすれば,ユーザーはスクロールを禁止された方向
を知ることができず,引用発明3における境界外領域の目的が達成され
ないこととなる。当業者であれば,被告らの主張するように引用発明3
をもって境界外領域を表示させなくする理由がない。
また,被告らは,引用発明3がスクロールを停止せず縁を越えたエリ
アが表示された状態では画像表示領域が無駄になることによるものであ
り,当該記載は,縁を越えたエリアが小さいほうがよいことを示すから,
縁を越えるエリアを表示させなくすること,すなわち本件発明を示唆す
る等と主張する。しかし,引用発明3は何らそのようなことを示してい
ないのであって,引用発明3においては,特定の方向へのスクロールが
禁じられるべきものであるところ,引用発明3は当該画像の縁を越える
エリアを示すことをもって,ユーザーに当該方向へのスクロールの禁止
を知らせるものである。引用発明3は縁を越えるエリアを表示すべきこ
とをクレーム文言上要求するものであり,縁を越えるエリアを小さくす
べきことを開示するものではない。
以上の理由から,引用発明3は,被告らの指摘する他の先行技術等と
の組み合わせによって,容易に相違点を克服し得るものではなく,本件
発明に想到することが容易ではないことは明白である。
カその他進歩性の欠如(争点3-6)
(被告らの主張)
(ア)公然実施発明2又は引用発明2を主引例として,それに引用発明3
を適用することにより,本件発明に容易に想到することは明らかである。
公然実施発明2及び引用発明2に関する原告の反論は,最も外側のタ
イル又はコラムの外側に電子ドキュメントの縁を越えるエリアが表示さ
れないというものである。
仮に,この点が本件発明との相違点であるとの原告主張を前提として
も,公然実施発明2又は引用発明2に引用発明3が開示する縁を越える
エリアを表示する技術を適用することにより,縁を越えるエリアがない
という当該相違点は解消される。また,公然実施発明2及び引用発明2
が有する位置合わせ技術により,Zone又はコラムが画面に収まるように
位置合わせされて,縁を越えるエリアが表示されなくなることも当然で
ある。
以上のように,公然実施発明2又は引用発明2に引用発明3を適用す
ることにより,本件発明を得ることは自明である。
(イ)公然実施発明2及び引用発明2と引用発明3とは,画像表示方法に
関するものであり,技術分野を同じくする。また,表示画面が狭い電子
機器において画像が読みにくく探しにくいという従来技術の問題点を解
決することを課題とするものであり,課題を同じくする。そして,スク
ロール等の方法により画像を移動させて表示させるという作用・機能を
有する点で,作用・機能を同じくする。
そして,公然実施発明2及び引用発明2では,最も外側のタイル及び
コラムの外側に縁を越えるエリアが表示されないことから,外側に向か
う方向にそれ以上のスクロールが不可能なことが当然に理解される。そ
うすると,公然実施発明2又は引用発明2に接した当業者が,引用発明
3の「指定方向にそれ以上のスクロールが不可能な場合には,その方向
へのスクロールが不可能であることを使用者に知らしめるような表示制
御が行われる」(乙25の6頁右上欄17~20行)に接したならば,
前者に後者を適用することに着想することは必然であり,組合せの動機
付けがあることは明らかである。
このように,公然実施発明2又は引用発明2に引用発明3を組み合わ
せる動機付けがあり,それら発明から本件発明に容易に想到することは
明白である。
(ウ)以上のとおり,本件発明は,公然実施発明2又は引用発明2及び引
用発明3から容易にすることのできた発明であるので,進歩性が欠如す
る。
(原告の主張)
被告らの主張は,時機に後れた攻撃防御方法であり,また,審理を不当
に遅延させる目的として提出されたものである。
(4)本件発明の従属項に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきも
のであるか。
ア請求項25に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものであ
るか(争点4-1)
(被告らの主張)
公然実施発明1及び2では,デジタル形式のデータを有する画像がタッ
チスクリーンディスプレイ上に表示されており(乙7,9,10),「前
記電子ドキュメントは,デジタル映像である」ことが開示されている。ま
た,「記電子ドキュメントは,デジタル映像である」ことは周知技術であ
る(乙33,34,36,38)。
よって,請求項25に係る発明は,公然実施発明1及び2に基づいて新
規性ないし進歩性が欠如する。
(原告の主張)
請求項25が従属する請求項19に記載の本件発明1は,乙7,9,1
0号証に基づく公然実施発明1及び2に対して進歩性を有する発明である
から,請求項19に従属する請求項25の発明は,本件発明1と同様に,
進歩性を有することは明らかである。
イ請求項35,61及び74並びに請求項36及び75に係る特許が特許
無効審判により無効にされるべきものであるか(争点4-2)
(被告らの主張)
(ア)請求項35,61及び74についての記載要件違反(明確性要件違
反)
請求項35及び61では,「前記電子ドキュメントの縁に到達するま
での前記オブジェクトの移動距離に対応する第1の関連移動距離」,
「前記電子ドキュメントの縁に到達した後の前記オブジェクトの移動距
離に対応する関連移動距離」と規定されているが,「関連移動距離」が
何に関連付けられているのか,当該「関連移動距離」がオブジェクトの
移動距離とどのように対応付けられるのか,明確に理解することはでき
ない。
請求項74では,「前記リストの末端に到達するまでの前記オブジェ
クトの移動距離に対応する第1の関連スクロール距離」,「前記リスト
の末端に到達した後の前記オブジェクトの移動距離に対応する関連スク
ロール距離」と規定されているが,「関連スクロール距離」が何に関連
付けられているのか,当該「関連スクロール距離」がオブジェクトの移
動距離とどのように対応付けられるのか,明確に理解することはできな
い。
よって,当業者において請求項35,61及び74に係る発明の意味
内容を理解することができない結果,当該発明は不明確である。
(イ)請求項36及び75についての記載要件違反(明確性要件違反)
請求項36では,「前記オブジェクトの移動スピードに対応する第1
の関連移動スピード」と規定されているが,「関連移動スピード」が何
に関連付けられているのか,当該「関連移動スピード」がオブジェクト
の移動スピードとどのように対応付けられるのか,明確に理解すること
はできない。
請求項75では,「前記オブジェクトの移動スピードに対応する第1
の関連スクロールスピード」と規定されているが,「関連スクロールス
ピード」が何に関連付けられているのか,当該「関連スクロールスピー
ド」がオブジェクトの移動スピードとどのように対応付けられるのか,
明確に理解することはできない。
よって,当業者において請求項36,75に係る発明の意味内容を理
解することができない結果,当該発明は不明確である。
(ウ)乙56号証に基づく新規性・進歩性の欠如
a乙56号証は,請求項35,61及び74並びに請求項36及び7
5に係る発明の優先日(2007年6月28日)前に頒布された刊行
物(米国特許公開公報:US2007/0132789,公開日:
同年6月14日)である。
乙56号証に記載された発明(以下「引用発明4」という。)は,
以下の構成を有する。
(a)タッチパネルを有する。
(b)プロセッサを有する。
(c)メモリを有する。
(d)プログラムを有する。
(e)プログラムは,メモリに格納されて,プロセッサにより実行さ
れる。
「【0016】前記方法は,タッチ感知式ディスプレイ,プロセッ
サ,メモリ及びこれら方法を実行するためにメモリに格納された一
つ又はそれ以上のプログラム又はインストラクションのセットを有
するポータブル電子装置により実行することができる。」(【00
16】の訳)
「[0016]Theaforementionedmethodsmaybeperformedbya
portableelectronicdevicehavingatouch-sensitivedisplay,
aprocessor,memoryandoneormoreprogramsorsetsof
instructionsstoredinthememoryforperformingthese
methods.Insomeembodiments,theportableelectronicdevice
providesapluralityoffunctions,includingwireless
communication.」
(f)乙56号証の図6の状態からリストを上方向に移動した状態
(状態A)表示を行う。
乙56号証の図6において,画面のスクロールは上下に行うこと
ができることが開示されている(ScrollSpeed1122〔図11A
等〕)。よって,上に移動することもできる。その状態を状態Aと
いう。
(g)タッチパネル上のオブジェクトの移動を検出する。
乙56号証は,タッチ感知式パネルを有し(【0016】),パ
ネル上のオブジェクトの移動を感知する。
(h)オブジェクトの移動により,状態Aからリストを下方向に移動
した状態(状態B)の表示を行う。
乙56号証の図6において,画面のスクロールは上下に行うこと
ができることが開示されている(ScrollSpeed1122)。よって,
状態Aから下に移動することもできる。その状態を状態Bという。
(i)オブジェクトの移動により,状態Bからリストを下方向に移動
した状態(乙56の図7Aないし図7Bのような状態)の表示を行
う(状態C)。
(j)リストが最初のアイテムまでスクロールした状態で,オブジェ
クトをディスプレイから離すとリストの移動が止まり,リストが逆
向きに移動する(乙56の図7Cのような状態。状態D)。そして,
最初のアイテムが見えるように止まり,縁を越えるエリアが表示さ
れなくなる(状態E)。
乙56号証には,オブジェクトをディスプレイから離してリスト
の移動を止めること,リストが最初までスクロールされるとリスト
が逆向きに移動すること,リストの最初のアイテムが見えるように
止まることのそれぞれが開示されている。また,乙56号証には,
それらの複数を適宜組み合わせること,操作の順番を変更できるこ
とが開示されている。
「【0056】タッチ感知式ディスプレイ上のアイテムのリストは
動き(112)に応じてスクロールされる。次の動作の一つ又は複数
を行うことができる。…例えば,リストがその最初又は最後までス
クロールされると,境界で跳ね返り,向きを変える。跳ね返り,又
はスクロール方向が反転した後,リストのスクロールは最初又は最
後のアイテムがタッチ感知式ディスプレイ上に見えるように,自動
的に止まる。ユーザが接触点をなくし(例えば,ディスプレイから
指を離す),少なくとも所定の時間,実質的に静止した接触点を作
ると,スクロールは停止する(120)。他の実施例では,方法100は
より少ない操作又は付加した操作を含むことができる。さらに,二
つ又はそれより多くの操作を組み合わせ,かつ/又は操作の順番を
変更することができる。」(【0056】の訳)
「[0056]Alistofitemsonthetouch-sensitivedisplayis
scrolledinresponsetothemovement(112).Oneormoreof
thefollowingoperationsmayoccur.…Forexample,whenthe
listisscrolledtoitsbeginningorend,thescrollinglist
mayappeartobounceagainataboundaryandreverse
direction.Afterthebounceorscrollingdirectionreversal,
thescrollingmayautomaticallystopsoastoleavethe
firstorlastitemofthelistinviewonthetouch-
sensitivedisplay.Thescrollingmaystopwhentheuser
breaksthepointofcontact(e.g.,byliftinghis/herfinger
offthedisplay)andthenestablishingasubstantially
stationarypointofcontactforatleastapre-determined
periodoftime(120).Inotherembodiments,themethod100
mayincludefeweroperationsoradditionaloperations.In
addition,twoormoreoperationsmaybecombinedand/oran
orderoftheoperationsmaybechanged.」
そして,上記の操作の組み合わせにより,リストが最初のアイテ
ムまでスクロールした状態で,オブジェクトをディスプレイから離
すとリストの移動が止まり,リストが逆向きに移動する(乙56の
図7Cのような状態)。すると,リストの最初のアイテムが反対側
の縁を超えないようにして止まる(状態E)という操作が得られる。
このとき,リストの表示としてディスプレイに表示されなくなる部
分が縁を越えるエリアである。
(k)装置である。
乙56号証には,ポータブル電子装置が開示されている(【00
16】)。
(l)電子ドキュメントが縁に到達するまで,オブジェクトを移動さ
せると,電子ドキュメントは,ある距離を移動する。
これは,自明である。
(m)電子ドキュメントが縁に到達した後に,オブジェクトを移動さ
せると,電子ドキュメントは,ある距離を移動する。この移動は,
減衰運動とすることができる。
乙56号証には,次のとおり記載されている。
「【0041】…実施形態において,スクロールとスクロールの
加速は摩擦を有する物理デバイスのシミュレーション,すなわち,
減衰運動に従うことができる。例えば,スクロールは,質量又は慣
性項並びに散逸項を有する力の法則又は運動方程式のシミュレーシ
ョンに対応させることができる。…」(【0041】の訳)
「【0045】…シミュレーションにおいて,摩擦項に対応する
パラメータは調節可能にすることができる。これによってボールは,
壁,すなわち仮想境界と接触して均衡するか,又は壁から変異して
均衡することができる。」(【0045】の訳)
「[0041]…Insomeembodiments,thescrollingand
accelerationofthescrollingmaybeinaccordancewitha
simulationofaphysicaldevicehavingfriction,i.e.,
dampedmotion.Forexample,thescrollingmaycorrespondto
asimulationofaforcelaworequationofmotionhavinga
massorinertialterm,aswellasadissipativeterm.…」
「[0045]…Aparametercorrespondingtothefrictionterm
inthesimulationmaybeadjustable,allowingtheballto
reachequilibriumincontactwiththewall,i.e.,the
virtualboundary,ordisplacedfromthewall.」
したがって,パラメータを調節して,電子ドキュメントが縁に到
達した後に,移動は,減衰運動とすることができる。
b以上をまとめると,引用発明4は,次の構成を有する。
(a)タッチパネルを有する。
(b)プロセッサを有する。
(c)メモリを有する。
(d)プログラムを有する。
(e)プログラムは,メモリに格納されて,プロセッサにより実行さ
れる。
(f)乙56号証の図6の状態からリストを上方向に移動した状態
(状態A)の表示を行う。
(g)タッチパネル上のオブジェクトの移動を検出する。
(h)オブジェクトの移動により,状態Aからリストを下方向に移動
した状態(状態B)の表示を行う。
(i)オブジェクトの移動により,状態Bからリストを下方向に移動
した状態(乙56の図7Aないし図7Bのような状態)の表示を行
う(状態C)。
(j)リストが最初のアイテムまでスクロールした状態で,オブジェ
クトをディスプレイから離すとリストの移動が止まり,リストが逆
向きに移動する(乙56の図7Cのような状態。状態D)。そして,
最初のアイテムが見えるように止まり,縁を越えるエリアが表示さ
れなくなる(状態E)。
(k)装置である。
(l)電子ドキュメントが縁に到達するまで,オブジェクトを移動さ
せると,電子ドキュメントは,ある距離を移動する。
(m)電子ドキュメントが縁に到達した後に,オブジェクトを移動さ
せると,電子ドキュメントは,ある距離を移動する。この移動は,
減衰運動とすることができる。
c請求項35と引用発明4の対比
(a)構成要件A1~E1及びK1について
本件発明1の構成要件A1~E1及びK1が,それぞれ引用発明
1の構成1a~1e及び1kに相当することは明らかである。
本件発明1引用発明1
(A1)タッチスクリーンディスプレ
イと,
(a)タッチパネルを有する。
(B1)1つ以上のプロセッサと,(b)プロセッサを有する。
(C1)メモリと,(c)メモリを有する。
(D1)1つ以上のプログラムと,を
備え,
(d)プログラムを有する。
(E1)前記1つ以上のプログラム
は,前記メモリに記憶されて,前記1
つ以上のプロセッサにより実行される
ように構成され,(前記プログラム
は,)
(e)プログラムは,メモリに
格納されて,プロセッサにより
実行される。
(K1)を含む,装置。(k)装置である。
(b)構成要件F1について
本件発明1の構成要件F1は,「電子ドキュメントの第1部分を
表示するためのインストラクションと,」である。
引用発明4の構成fは,「乙56号証の図6の状態からリストを
上方向に移動した状態(状態A)の表示を行う。」である。
ここで,状態Aにおいてディスプレイに表示されている領域を
「電子ドキュメントの第1部分」と捉える。
以上より,引用発明4の構成fは,本件発明1の構成要件F1に
相当する。
(c)構成要件G1について
本件発明1の構成要件G1は,「前記タッチスクリーンディスプ
レイ上又はその付近でオブジェクトの移動を検出するためのインス
トラクションと,」である。
引用発明4の構成gは,「タッチパネル上のオブジェクトの移動
を検出する。」である。
以上より,引用発明4の構成gは,本件発明1の構成要件G1に
相当する。
(d)構成要件H1について
本件発明1の構成要件H1は,「前記移動を検出するのに応答し
て,前記タッチスクリーンディスプレイに表示された前記電子ドキ
ュメントを第1方向に徐々に移動して,前記電子ドキュメントの前
記第1部分とは異なる第2部分を表示するためのインストラクショ
ンと,」である。
引用発明4の構成hは,「オブジェクトの移動により,状態Aか
らリストを下方向に移動した状態(状態B)の表示を行う。」であ
る。
ここで,状態Bにおいてディスプレイに表示されている領域を電
子ドキュメントの「第2部分」,下方向を第2方向と捉える。
以上より,引用発明4の構成hは,本件発明1の構成要件H1に
相当する。
(e)構成要件I1について
本件発明1の構成要件I1は,「前記タッチスクリーンディスプ
レイ上又はその付近でオブジェクトがまだ検出されている間に前記
電子ドキュメントを前記第1方向に移動する間に前記電子ドキュメ
ントの縁に到達するのに応答して,前記電子ドキュメントの縁を越
えるエリアを表示し,且つ前記電子ドキュメントの前記第1部分よ
り小さい第3部分を表示するためのインストラクションと,」であ
る。
引用発明4の構成iは,「オブジェクトの移動により,状態Bか
らリストを下方向に移動した状態(乙56の図7Aないし図7Bの
ような状態)の表示を行う(状態C)。」である。
状態Cでは,リストの最初のアイテムの上部にアイテムが表示さ
れていない広い領域があり,ここに「電子ドキュメントの縁を越え
るエリア」が表示されている。リストが表示されている部分を「第
3部分」と捉えると,これは「第1部分」より小さい。
以上より,引用発明4の構成iは,本件発明1の構成要件I1に
相当する。
(f)構成要件J1について
本件発明1の構成要件J1は,「前記タッチスクリーンディスプ
レイ上又はその付近にオブジェクトがもはやないことを検出するの
に応答して,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアがもはや表
示されなくなるまで前記電子ドキュメントを第2方向に徐々に移動
して,前記電子ドキュメントの第1部分とは異なる第4部分を表示
するためのインストラクションと,」である。
引用発明4の構成jは,「リストが最初のアイテムまでスクロー
ルした状態で,オブジェクトをディスプレイから離すとリストの移
動が止まり,リストが逆向きに移動する(乙56の図7Cのような
状態。状態D)。そして,最初のアイテムが見えるように止まり,
縁を越えるエリアが表示されなくなる(状態E)。」である。
逆向きに移動した後に,リストの最初のアイテムが見えるように
して止まるのは,逆向きに行き過ぎてリストの最初の項目が見えな
くならないようにすることを意味する。すなわち,リストの最初の
アイテムがディスプレイの下端から上方向に動くにつれて,縁を越
えるエリアが表示される部分が減少していき,リストの最初のアイ
テムが見えなくならないように止まるとき,縁を越えるエリアがも
はや表示されなくなる。
以上より,引用発明4の構成jは,本件発明1の構成要件J1に
相当する。
(g)小括
以上より,引用発明4は,本件発明1の構成要件の全てを開示し
ている。
(h)請求項35前段について
請求項35前段は,「前記電子ドキュメントが該電子ドキュメン
トの縁に到達するまで前記第1方向に徐々に移動する場合,前記電
子ドキュメントは,前記電子ドキュメントの縁に到達するまでの前
記オブジェクトの移動距離に対応する第1の関連移動距離を移動
し,」である。
引用発明4の構成lは,「電子ドキュメントが縁に到達するまで,
オブジェクトを移動させると,電子ドキュメントは,ある距離を移
動する。」である。
原告の解釈を前提として,引用発明4の電子ドキュメントが縁に
到達するまでの「ある距離」を請求項35の「第1の関連移動距
離」と捉える。
以上より,引用発明4の構成lは,請求項35前段に相当する。
(i)請求項35後段について
請求項35後段は,「更に,前記電子ドキュメントの縁を越える
エリアを表示することは,前記電子ドキュメントの前記第1方向に
第2の関連移動距離について徐々に移動することを含み,当該第2
の関連移動距離は,前記電子ドキュメントの縁に到達した後の前記
オブジェクトの移動距離に対応する関連移動距離より短い,請求項
19に記載の装置。」である。
引用発明4の構成mは,「電子ドキュメントが縁に到達した後に,
オブジェクトを移動させると,電子ドキュメントは,ある距離を移
動する。この移動は,減衰運動とすることができる。」である。
原告の解釈を前提として,引用発明4の電子ドキュメントが縁に
到達した後の「ある距離」を従属項35発明の「第1の関連移動距
離」と捉える。
ここで,距離を比較するために一定の同じ時間で考えると,電子
ドキュメントが縁に到達した後は,減衰運動によるので,そこでの
移動距離は,電子ドキュメントが縁に到達する前の移動距離より短
い。
そして,引用発明4が請求項19を満たすことは上述のとおりで
ある。
以上より,引用発明4の構成lは,請求項35後段に相当する。
(j)まとめ
以上のとおり,請求項35と引用発明4の構成は全て一致する。
d請求項61と引用発明4の対比
請求項61については,請求項35について述べた議論と同様の議
論が妥当する。
よって,請求項61と引用発明4の構成は全て一致する。
e請求項74と引用発明4の対比
引用発明4がリストのスクロールを開示するものであるから,請求
項74についても,請求項35について述べた議論と同様の議論が妥
当する。
よって,請求項74と引用発明4の構成は全て一致する。
f請求項36及び75と引用発明4の対比
原告は,指の移動速度が同じという前提の下,移動速度の大小と移
動距離の大小が一致するとした上で,請求項35,74を充足すれば,
請求項36,75をそれぞれ充足するとしている。
これを前提とすると,引用発明4が請求項35,74を開示してい
ることは上述のとおりであるので,引用発明4は請求項36,75を
それぞれ開示している。
よって,請求項36,75と引用発明4の構成は全て一致する。
g進歩性の欠如
他の公知技術(公然実施発明1及び2,引用発明1~3)に引用発
明4を組み合わせることで,電子ドキュメントが縁に到達する前と後
では,後での移動距離(速度)が小さくなるので,請求項35,61
及び74並びに請求項36及び75に係る発明が得られる。
そして,①引用発明4は,電子機器の表示方法に関するものであり
(【0016】等),他の公知技術と技術分野を同じくする,②引用
発明4は,ユーザインターフェースの改善を課題とするものであり
(【0007】等),他の公知技術と課題を同じくする,③引用発明
4は,スクロール等の方法により,画像を移動させて表示させるとい
う作用・機能を有し(【0056】等),他の公知技術と作用・機能
を同じくする,④他の公知技術はいずれも,電子ドキュメントを移動
させるために,その移動距離(速度)を制御する必要があるところ,
引用発明4はその制御方法を開示しており(【0041】,【004
5】等),引用発明4を採用して制御を行う動機付けがある。
以上のとおり,他の公知技術と引用発明4から,請求項35,61
及び74並びに請求項36及び75に係る発明を得ることは容易であ
る。
(エ)マックワールド等における公然実施
a従属項(請求項35,61及び74並びに請求項36及び75)に
係る発明は,以下のとおり,その優先日(2007年6月28日)の
前に公然実施されていた。
b原告の製品であるiPhoneは,2007年1月9日のマックワールド
(原告の製品の発表・展示が行われるイベント)において,発表され
た(乙58)。そこでは,従属項に係る発明を実施する当該製品につ
いて,プレゼンターが,多数の参加者の前で,公然と使用し,発表し
ている。このように,従属項発明について,不特定多数が知り得る状
況で実施されている。このことを示すために,当該使用・発表の様子
を記録した動画を提出する(乙59。例えば,動画の6分30~40
秒のあたりに,リストのスクロール動作が行われている)。
上記iPhoneについては,その優先日に先立って,従属項に係る発明
を実施する当該製品について,マスメディアを含めて複数の者が使用
し,テストをし,それに関する記事を公表するなどしていた。すなわ
ち,従属項に係る発明について,不特定多数が知り得る状況で実施さ
れている。このことを示すために,優先日の前に,当該製品を使用し
た上で,製品レビューを公表した記事を提出する(乙62)。
c以上のとおり,従属項に係る発明の内容に関する原告の主張を前提
とすれば,従属項に係る発明は,公然実施された発明と同一であるの
で,新規性が欠如する。
(オ)iPhoneguidedtourによる公然実施
従属項(請求項35,61及び74並びに請求項36及び75)に係
る発明は,以下のとおり,その優先日(2007年6月28日)の前に
公然実施されていた。
原告の製品であるiPhoneは,2007年6月22日以前に原告ウェブ
サイトに掲載された「iPhoneguidedtour」(原告の製品の動作を説明
するためのプレゼンテーション)において用いられ(同日に当該動画が
YouTubeにアップロードされている。乙64[YouTubeの画面をキャプチ
ャしたもの]),そこでは,縁に到達後の(縁を越えるエリアが表示さ
れている状態での)電子ドキュメント(画像及びリスト)の移動距離
(移動速度)が縁に到達前のそれよりも小さくなっている。このことを
示すために,当該プレゼンテーションの様子を記録した動画を提出する
(乙65[GuidedTour2]。例えば,動画の55秒~1分のあたりに,
画像のスクロール動作が行われている)。
以上のとおり,従属項に係る発明の内容に関する原告の主張を前提と
すれば,従属項に係る発明は原告によって公然実施された発明と同一で
あるので,新規性が欠如する。
(カ)その他進歩性の欠如
a従属項(請求項35,61及び74並びに請求項36及び75)に
係る発明に特有の構成とは,請求項35,61及び74については,
縁を越える前後の移動距離を比較した場合に,縁を越えた後の移動距
離が縁を越える前の移動距離よりも小さいことを規定する。また,請
求項36及び75については,縁を越える前後の移動速度を比較した
場合に,縁を越えた後の移動速度が縁を越える前の移動速度よりも小
さいことを規定する。
そして,原告が,移動時間が同じであれば,移動速度の大小と移動
距離の大小は一致するとして,請求項35,61及び74及び請求項
36及び75を論じていることから分かるように,従属項に係る発明
に特有の構成は実質的に同一であり,それは,縁を越える前後の移動
速度(単位時間当たりの移動距離)を比較した場合に,縁を越えた後
の移動速度が縁を越える前の移動速度よりも小さいというものである。
以上より,他の公知技術(公然実施発明1及び2,引用発明1~
3)と従属項に係る発明とは,他の公知技術には,縁を越えた後の移
動速度が縁を越える前の移動速度よりも小さいことが必ずしも明示さ
れていない点においてのみ相違し,その他においては一致する。
b他の公知技術の第1方向への移動に,設計的事項又は周知慣用技術
(乙36,41,乙42及び乙70~乙73)であるところの,移動
速度が減少する制御を適用すれば,縁を越えた後の移動速度が縁を越
える前の移動速度よりも小さいこととなるので,前記相違点は解消し,
従属項に係る発明を得る。
そして,速度の制御については,減速する,加速する又は減速も加
速もしない,のいずれかから適宜選択して行うほかなく,その中から
減速が選択され得ることは,特段の動機付けを問題とするまでもなく,
当然の事理である。
c前記の設計的事項又は周知慣用技術を他の公知技術に適用するにつ
いて,以下のとおり動機付けがある。
①前記の設計的事項又は周知慣用技術は,電子機器の表示方法に関
するものであり,他の公知技術と技術分野を同じくする。②前記の設
計的事項又は周知慣用技術は,ユーザインターフェースの改善を課題
とするものであり,他の公知技術と課題を同じくする。③前記の設計
的事項又は周知慣用技術は,スクロール等の方法により,画像を移動
させて表示させるという作用効果を有し,他の公知技術と課題を同じ
くする。④他の公知技術はいずれも,電子ドキュメントを移動させる
ために,その移動距離(速度)を制御する必要があるところ,前記の
設計的事項又は周知慣用技術はその制御方法であり,前記の設計的事
項又は周知慣用技術を採用して制御を行うことの動機付けがある。
(原告の主張)
(ア)請求項35,61及び74についての記載要件違反(明確性要件違
反)について
請求項35及び61の「関連移動距離」とは,タッチスクリーンディ
スプレイに表示された電子ドキュメントが,オブジェクトの移動距離に
関連して,画面上で移動した距離を意味する語である。また,「前記電
子ドキュメントの縁に到達した後の前記オブジェクトの移動距離に対応
する関連移動距離」については,ここでの「関連移動距離」が「第1の
関連移動距離」を意味することは,「前記オブジェクトの移動距離に対
応する第1の関連移動距離」という文言から明らかである。そして,
「対応」の記載については,オブジェクトの移動距離と関連移動距離と
の間に何らかの対応があることで十分であり,発明の明確性の観点から
も,当該記載で十分である。よって,請求項35及び61に記載の発明
は明確である。
請求項74の「関連スクロール距離」とは,タッチスクリーンディス
プレイに表示されたリストが,オブジェクトの移動距離に関連して,画
面上で移動した距離を意味する語である。また,「前記リストの末端に
到達した後の前記オブジェクトの移動距離に対応する関連スクロール距
離」については,ここでの「関連スクロール距離」が「第1の関連スク
ロール距離」を意味することは,「前記リストの末端に到達した後の前
記オブジェクトの移動距離に対応する第1の関連スクロール距離」とい
う文言から明らかである。そして,「対応」の記載については,オブジ
ェクトの移動距離と関連スクロール距離との間に何らかの対応があるこ
とで十分であり,発明の明確性の観点からも,当該記載で十分である。
よって,請求項74に記載の発明は明確である。
以上のとおり,請求項35,61及び74に係る発明の意味内容は,
当業者が容易に理解できる内容であるから,当該発明は明確である。
(イ)請求項36及び75についての記載要件違反(明確性要件違反)に
ついて
請求項36の「関連移動スピード」とは,タッチスクリーンディスプ
レイに表示された電子ドキュメントが,オブジェクトの移動スピードに
関連して,画面上で移動するスピードを意味する語である。また,「当
該『関連移動スピード』がオブジェクトの移動スピードとどのように対
応付けられるのか」についても,電子ドキュメントは,オブジェクトの
移動に合わせて移動するのであるから,これにより,電子ドキュメント
の移動スピードが,オブジェクトの移動スピードと対応関係を有するの
は明らかである。よって,請求項36に記載の発明は明確である。
請求項75の「関連スクロールスピード」とは,タッチスクリーンデ
ィスプレイに表示されたリストが,オブジェクトの移動スピードに関連
して,画面上でスクロールするスピードを意味する語である。また,
「『関連スクロールスピード』がオブジェクトの移動スピードとどのよ
うに対応付けられるのか」についても,リストは,オブジェクトの移動
に合わせて移動するのであるから,これにより,リストの移動スピード
が,オブジェクトの移動スピードと対応関係を有するのは明らかである。
よって,請求項75に記載の発明は明確である。
(ウ)乙56号証に基づく新規性・進歩性の欠如について
a被告らの優先日の主張は争う。従属項(請求項35,61及び74
並びに請求項36及び75)の優先日は米国‘801発明の優先日で
ある2007年1月7日である。引用発明4は,同日より後の事象で
あるため,先行技術となり得ない。
b引用発明4発明は,電子ドキュメントの「縁を越えるエリア」,
「末端を越えるエリア」(構成要件I1~I3)及び電子ドキュメン
トの「第3部分」(構成要件I1)を開示していない。
被告らは,引用発明4の図7A及び図7Bが構成要件I1を開示し
ていると主張し,具体的には,図7Bが被告らの「状態C」を開示し,
当該「状態C」では「リストの最初のアイテムの上部にアイテムが表
示されていない広い領域があり,ここに『電子ドキュメントの縁を越
えるエリア』が表示されている」と主張する。
しかし,引用発明4における図7Bは「リストの最初のアイテムの
上部にアイテムが表示されていない広い領域」や「縁を越えるエリ
ア」など存在しない。
「【0065】図7A及び7Bはアイテムのリストをリストの末端に
向かってスクロールすることを示している。そこでは,一以上の表示
されたアイテムがリストの終わりまでスクロールされるとなめらかに
境界で跳ね返り,向きを変え,任意に止まる。図7Bに示されるよう
に,一以上の表示されたオブジェクトは,例えばオブジェクト612
-1であるが,末端714に到達又は越えると,スクロールに対応す
る移動は止まり,すなわち,スクロールスピードはその時ゼロにする
ことができる。図7Cに示されるとおり,一以上の表示されたオブジ
ェクトは,例えばオブジェクト612-1であるが,その後跳ね返る
ことができる。」(【0065】の訳文)
「[0065]FIGS.7A-7Billustratethescrollingofalistof
itemstoaterminusofthelist,atwhichpointoneormore
displayeditemsattheendofthelistsmoothlybounceoffthe
endofthedisplay,reversedirection,andthenoptionally
cometoastop....AsillustratedinFIG.7B,whentheone
ormoredisplayedobjects,suchastheinformationobject612-
1,reachorintersectwiththeterminus714,themovement
correspondingtothescrollingmaystop,i.e.,thescrolling
velocitymaybezeroataninstantintime.Asillustratedin
FIG.7C,theoneormoredisplayedobjects,suchasthe
information612-1,maysubsequentlyreversedirection.」
上記【0065】によれば,引用発明4は,いったんリストの末端
に到達するとリストのスクロールは「止まる」か「向きを変え」ると
開示されているのであって,「縁を越えるエリア」を開示しておらず,
ましてや「前記電子ドキュメントの前記第1部分より小さい第3部
分」を開示していないことは明らかである。
c被告らは,他の公知技術と引用発明4との組み合わせについて容易
想到性を主張するが,引用発明4と従属項に係る発明との相違点を明
示していないなど主張が欠けている。
(エ)マックワールド等における公然実施について
aまず,乙59号証のビデオについては,被告らは単に「動画(中
略)に,リストのスクロール動作が行われている」と述べるのみであ
るが,従属項(請求項35,61及び74並びに請求項36及び7
5)に係る発明が単なるリストのスクロール動作のみを要するわけで
はないことは明らかである。当該ビデオでは,第1及び第2の関連移
動距離/スピードを開示していない。
また,被告らが指摘するビデオの箇所は,A氏がタッチスクリーン
ディスプレイにおいてフリック操作(指で表示を弾くような操作)に
よってリストを移動させる様子を示すものである。したがって,当該
ビデオは構成要件I1~I3における縁/末端を越えるエリアを「オ
ブジェクトがまだ検出されている間に」表示すること及び構成要件J
1~J3における「タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近に
オブジェクトがもはやないことを検出するのに応答して」電子ドキュ
メント又はリストが第2方向に徐々に移動することを開示していない。
b加えて,iPhoneのレビュー記事は一定のiPhoneモデルが特定の記者
にレビュー作成のために渡されたことを示すにすぎず,本件発明はお
ろか,従属項に係る発明の第1及び第2関連移動距離/スピードにつ
いて何ら開示するものではない。
c以上より,マックワールド等における公然実施はないから,新規性
欠如の主張は失当である。
(オ)iPhoneguidedtourによる公然実施について
a被告らは,「iPhoneguidedtour」の動画が2007年6月22日
にYouTubeにアップロードされたことを示すために,YouTubeの画面の
キャプチャ(乙64)を,当該動画(乙65)と合わせて提出するも
のの,「例えば,動画の55秒~1分のあたりに,画像のスクロール
動作が行われている」と示すのみで,当該動画が示す発明の構成や当
該構成と従属項に係る発明との対比を何ら示しておらず,およそ無効
の主張立証とはなり得ない。
加えて,被告らの指摘する「動画の55秒~1分のあたり」の動画
は,例えば,第2の関連移動スピードが,第1の関連移動スピードよ
り低速であることなど,従属項に係る発明の構成要件を開示していな
いことも明らかである。
bまた,従属項発明の優先日は2007年1月7日であるため,これ
より後の事象である当該動画の公開は従属項に係る発明の新規性欠如
の理由となり得ない。
c被告らの主張及び乙64,65号証は,時機に後れた攻撃防御方法
として,また,審理を不当に遅延させることを目的として提出された
ものである。
(カ)その他進歩性の欠如について
被告らの主張は,時機に後れた攻撃防御方法であり,また,審理を不
当に遅延させる目的として提出されたものである。
(5)損害賠償義務の有無及び損害額(争点5)
(原告の主張)
ア被告らは,いずれも業として被告製品の輸入,販売等をしている。
イ被告らは,被告製品を株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ(以下「NT
Tドコモ」という。)等に販売している。NTTドコモは,平成22年1
0月28日被告製品1,同年11月26日被告製品2,平成23年6月2
3日被告製品3の販売をそれぞれ開始した。このため,被告らは,共同し
て,被告製品1については遅くとも平成22年10月28日から,被告製
品2については遅くとも同年11月26日から,被告製品3については遅
くとも平成23年6月23日から,輸入,販売等している。
被告製品のNTTドコモにおける1台当たりの店頭販売価格は,被告製
品1は4万5990円,被告製品2は5万1408円,被告製品3は6万
2748円である(平成23年7月28日現在,ドコモショップ丸の内
店)。被告らがNTTドコモに販売する際の1台当たりの販売価格は,被
告製品1については,少なくとも3万5000円,被告製品2については,
少なくとも4万5000円,被告製品3については少なくとも5万500
0円であると考えられる。
また,被告製品1の平成22年10月28日から平成23年1月23日
頃までのNTTドコモでの販売台数は30万台超である(甲9)。これは,
NTTドコモにおいて,被告製品1が1か月あたり約10万台販売された
計算である。このため,被告らによる被告製品1の輸入・販売数は,平成
22年10月28日から本件訴訟提起までに,少なくとも90万台である
と考えられる。
被告製品2については,被告らにおいて,少なくとも被告製品1の輸
入・販売台数の3分の1程度は輸入・販売していると考えられる。そこで,
被告による輸入・販売数は,1か月当たり少なくとも3万台程度であると
推測されることから,同年11月26日から本件訴訟提起までに,少なく
とも24万台であると考えられる。
被告製品3については,平成23年6月23日から同年7月5日までの
NTTドコモでの販売台数は約20万台である(甲10)。これは,NT
Tドコモにおいて,被告製品3が1週間あたり約10万台販売された計算
である。このため,被告らによる被告製品3の輸入・販売数は,平成22
年10月28日から本件訴訟提起までに,少なくとも60万台であると考
えられる。
したがって,被告製品の輸入・販売開始時点から本件訴訟提起までの売
上高は,少なくとも,以下のとおりであると考えられる。
被告製品1の売上高(平成22年10月28日から平成23年8月23
日)3万5000円×90万台=315億円
被告製品2の売上高(平成22年11月26日から平成23年8月23
日)4万5000円×24万台=108億円
被告製品3の売上高(平成23年6月23日から同年8月23日)
5万5000円×60万台=330億円
被告製品の売上高(合計)753億円
ウ被告らは,本件特許権に対する侵害行為によって利益を受けているため,
原告は,特許法102条2項に基づき算定される損害額について,被告ら
に対して損害賠償を請求するものである。被告らが受ける利益が1億円を
下回ることは考え難いため,原告は,被告らの共同不法行為に基づく損害
賠償請求につき,一部請求として1億円を請求する。
(被告らの主張)
ア原告の主張アのうち,被告サムスン電子が被告製品を輸入,販売等をし
ていることは認め,その余は否認する。原告の主張イ及びウは否認ないし
争う。
イ被告日本サムスンは被告製品を輸入,販売等をしていない。
第3当裁判所の判断
1被告製品が本件発明の技術的範囲に属するかについて
以下,被告製品3については,特記のない限り,ソフトウェア変更前の旧製
品を指す。
(1)「インストラクション」(構成要件F1~J1,G2~J2及びG3~
J3)の意義(争点1-1)について
ア被告らは,本件発明における「インストラクション」は,構成要件F1
~J1,G2~J2及びG3~J3にそれぞれ規定されている,特定の処
理を行うためのインストラクションであり,プロセッサに動作をさせる指
示の単位を意味することは明らかであるなどと主張する。その主張の趣旨
は,インストラクションは,各構成要件のそれぞれについて,その構成要
件全体の動作を指示するひとまとまりの命令でなければならないとするも
のであると解される。
本件発明の特許請求の範囲には,インストラクションの意義あるいはそ
の単位について,これを明確にする記載はない。
そこで,本件明細書の記載について検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明では,「プログラム又はインストラクシ
ョンセット」(【0007】)と記載されているとおり,インストラクシ
ョンのセットは,プログラムと同じ性質のものと捉えられている。また,
「1つ以上のプログラムは,…オブジェクトの移動を検出するためのイン
ストラクションと,…タッチスクリーンディスプレイに表示された電子ド
キュメントを第1方向に並進移動するためのインストラクションとを含
む。」(【0010】),あるいは「1つ以上のプログラムは,…オブジ
ェクトの移動を検出するためのインストラクションと,…タッチスクリー
ンディスプレイに表示されたアイテムのリストを第1方向にスクロールす
るためのインストラクションとを含む。」(【0015】)等と記載され
ているから,インストラクションは,プログラムを構成するディスプレイ
上のオブジェクトの移動を検知し,あるいはディスプレイの作動を指示す
る命令と解することができる。
イそして,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の実施形態とし
て,以下の記載がある。
「【0044】
周辺インターフェイス118は,装置の入力及び出力周辺機器をCPU
120及びメモリ102に結合する。1つ以上のプロセッサ120は,メ
モリ102に記憶された種々のソフトウェアプログラム及び/又はインス
トラクションセットを走らせ或いは実行して,装置100の種々のファン
クションを遂行し,データを処理する。」(下線は裁判所が付したもので
ある。以下同じ。)
「【0050】
ディスプレイシステム112のタッチスクリーンは,触覚及び/又は触
感接触に基づくユーザからの入力を受け容れるタッチ感知面である。ディ
スプレイシステム112及びディスプレイコントローラ156は(メモリ
102における関連したモジュール及び/又はインストラクションセット
と共に),ディスプレイシステム112上の接触(及び接触の移動又は遮
断)を検出し,そしてその検出された接触を,タッチスクリーンに表示さ
れるユーザインターフェイスオブジェクト(例えば,1つ以上のソフトキ
ー,アイコン,ウェブページ又は映像)との対話へと変換する。ここに例
示する実施形態では,ディスプレイシステム112のタッチスクリーンと
ユーザとの間の接触点は,ユーザの指に対応する。」
「【0082】
上述したモジュール及びアプリケーションの各々は,上述した1つ以上
のファンクションを遂行するためのインストラクションのセットに対応し
ている。これらのモジュール(即ち,インストラクションのセット)は,
個別のソフトウェアプログラム,手順又はモジュールとして実施される必
要はなく,従って,種々の実施形態では,これらモジュールの種々のサブ
セットを組み合わせるか,さもなければ,アレンジし直すことができる。
ある実施形態では,メモリ102は,上述したモジュール及びデータ構造
体のサブセットを記憶することができる。更に,メモリ102は,上述さ
れない付加的なモジュール及びデータ構造体を記憶することもできる。」
「【0188】
図17の前記要素の各々は,上述したメモリ装置の1つ以上に記憶され
てもよい。前記モジュールの各々は,上述したファンクションを遂行する
ためのインストラクションのセットに対応する。前記モジュール又はプロ
グラム(即ち,インストラクションのセット)は,個別のソフトウェアプ
ログラム,手順又はモジュールとして実施される必要はなく,従って,こ
れらモジュールの種々のサブセットを種々の実施形態において結合し,さ
もなければ,アレンジし直すことができる。ある実施形態では,メモリ1
770は,前記モジュール及びデータ構造体のサブセットを記憶してもよ
い。更に,メモリ1770は,上述しなかった付加的なモジュール及びデ
ータ構造体を記憶してもよい。」
以上の記載によると,インストラクションは,「セット」として所定の
機能(ディスプレイの作動等)を実現するものであり,必ずしも1つのイ
ンストラクションによって所定の機能(被告らの主張する1つの構成要件
全体の機能又は機能的な関連性を有する全体の機能)を実現する必要はな
いと解される。
ウ以上のとおり,本件発明の「インストラクション」は,各構成要件に規
定される特定の処理を行うインストラクションが必要とされるものではな
く,複数の「インストラクション」によって,所定の機能(ディスプレイ
の作動等)を実現するものであれば足りると解するのが相当である。
(2)「電子ドキュメント」(構成要件F1,H1~J1及びH2~J2),
「電子ドキュメントの縁」「縁を越えるエリア」(構成要件I1・J1及び
I2・J2)及び「リストの末端」「末端を越えるエリア」(構成要件I
3・J3)の意義(争点1-2)について
アまず,「電子ドキュメント」(構成要件F1,H1~J1及びH2~J
2)について検討するに,本件発明の特許請求の範囲には,電子ドキュメ
ントの意義について,これを明確にする記載はない。
本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「【0004】
ポータブル電子装置におけるディスプレイスクリーンのサイズが小さく
且つ電子ファイルのサイズが潜在的に大きい結果として,所与の時間にス
クリーン上ではユーザに対して当該電子ドキュメント又はリストの一部分
しか表示できないことがしばしばある。従って,ユーザは,表示されたリ
ストをスクロールしたり,又は表示された電子ドキュメントを並進移動し
たりすることがしばしば必要となる。…」
また,本件発明の実施形態として,次の記載がある。
「【0130】
移動を検出するのに応答して,タッチスクリーンディスプレイに表示さ
れた電子ドキュメントが第1方向に並進移動される(704)。ある実施
形態では,電子ドキュメントは,図8A-8Dに示すようにウェブページ
である。ある実施形態では,電子ドキュメントは,デジタル映像である。
ある実施形態では,電子ドキュメントは,ワード処理,スプレッドシート,
e-メール又はプレゼンテーションドキュメントである。ある実施形態で
は,第1方向は,垂直方向,水平方向,又は対角方向である。ある実施形
態では,第1方向は,ディスプレイ又はその付近で検出されたオブジェク
トの移動方向に対応するが,オブジェクトの移動方向と必ずしも同一でな
くてもよい。」
以上の記載に照らすと,「電子ドキュメント」は,電子ファイル化され
たデータがディスプレイ上に表示されたものであり,表示される内容は,
文章,メールのほか,静止画,動画,その他のデジタル画像等のコンテン
ツであると解される。
被告らは「電子ドキュメント」の意味内容が明らかでないと主張するが,
「電子ドキュメント」については,上記のとおり当業者において理解可能
であり,被告らの主張は採用できない。
イ続いて,「電子ドキュメントの縁」「縁を越えるエリア」(構成要件I
1・J1及びI2・J2)及び「リストの末端」「末端を越えるエリア」
(構成要件I3・J3)について検討する。
これらの意義も,本件発明の特許請求の範囲から直ちに明らかになるも
のではないため,本件明細書の記載について検討する。
(ア)本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「【0005】
更に,表示されたリストをスクロールしたり,電子ドキュメントを並
進移動したりすることは,タッチスクリーンディスプレイを伴うポータ
ブル及び非ポータブルの両電子装置において厄介である。スクロール又
は並進移動がユーザの意図を反映しない場合には,ユーザにフラストレ
ーションを招く。…」
「【0007】
ポータブル装置及びタッチ感知ディスプレイを伴う装置のためのユー
ザインターフェースに関連した前記欠点及び他の問題は,ここに開示す
る装置により軽減され又は排除される。…」
「【0008】
ある実施形態によれば,タッチスクリーンディスプレイを伴う装置に
関連して使用するためのコンピュータ実施方法が開示される。…タッチ
スクリーンディスプレイ上又はその付近においてオブジェクトがまだ検
出されている間に電子ドキュメントを第1方向に移動する間に電子ドキ
ュメントの縁に到達した場合には,ドキュメントの縁を越えるエリアが
表示される。…」
「【0016】
ある実施形態によれば,コンピュータ読み取り可能な記憶媒体と,そ
こに埋め込まれたコンピュータプログラムメカニズムとを備えたコンピ
ュータプログラム製品が開示される。コンピュータプログラムメカニズ
ムは,…インストラクションを含む。又,これらインストラクションは,
タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近においてオブジェクトが
まだ検出されている間にリストを第1方向に移動する間にリストの末端
に到達した場合には,リストの末端を越えるエリアを装置が表示するよ
うにさせる。…」
「【0032】
ここに開示する実施形態は,タッチスクリーンディスプレイを伴う装
置においてリストを容易に且つ直感的にスクロールし及び電子ドキュメ
ントを並進移動できるようにする…」
本件発明の実施形態として,次の記載がある。
「【0100】
スクロール又は並進移動の方向は,リストの末端又は電子ドキュメン
トの縁に対応するバーチャル境界に交差するのに応答して逆転すること
ができる。スクロールの逆転或いは並進移動の逆転は,減衰運動に対応
する。例えば,スクロール中に,アイテムのリストの表示部分は,アイ
テムのリストの始め又は終わりに到達したときに,タッチ感知ディスプ
レイのウインドウの境界で跳ね返るように見える。同様に,並進移動中
に,電子ドキュメントの表示部分は,ドキュメントの縁に到達したとき
に,タッチ感知ディスプレイのウインドウの境界で跳ね返るように見え
る。この見掛け上の跳ね返りは,第1方向にモーメントを有する粘着性
又は弾力性のボールが不動の及び/又は非弾力性の物体,例えば,壁に
当たることのシミュレーションに対応する。ドキュメントのその後の運
動(その運動は,前記類似におけるボールに対応する)は,例えば,そ
のシミュレーションに摩擦又は消散項を含ませることにより,減衰させ
ることができる。シミュレーションにおける摩擦項に対応するパラメー
タは,ドキュメントをバーチャル境界と接触して平衡状態に到達させる
か又はバーチャル境界から変位させるように,調整することができ
る。」
「【0116】
タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近でオブジェクトがまだ
検出されている間にリストを第1方向にスクロールする間にリストの末
端に到達した場合には(例えば,リストの末端に到達すると),リスト
の末端を越えるエリアが表示される(510-イエス,514)。ある
実施形態では,リストは最初のアイテム及び最後のアイテムを有し,そ
して末端は,最初のアイテム又は最後のアイテムのいずれかである。例
えば,図6Bにおいて,AaronJonesからのe-メール35
34は,最初のアイテムであり,従って,e-メールの対応リストの末
端である。ある実施形態では,リストの末端を越えるエリアはホワイト
である(516)。ある実施形態では,アイテムのリストが背景を有し,
そしてリストの末端を越えるエリアは,背景と視覚上差がない(51
8)。例えば,図6Cにおいて,リストされたe-メールの背景及びエ
リア3536の両方がホワイトである。」
(イ)以上のとおり,「電子ドキュメントの縁」は,ユーザのフラストレ
ーションを招かないように,電子ドキュメントの始端又は終端に到達し,
それ以上,同一方向にスクロールする意味がないことを知らせるための
「縁を越えるエリア」を表示するに当たって,電子ドキュメントの始端
又は終端として想定されるものであると解される。しかし,実施例にお
いて縁を越えるエリアが背景と視覚上差がないものでもよいとされてい
るように(【0116】),装置が仮想的に縁と理解できるものであれ
ば足りるのであって,必ずしも装置を操作する人間の視覚的なものに完
全に一致させる必要はないと解される。そして,「縁を越えるエリア」
は,仮想的な縁の外のエリアであると解される。
もっとも,本件発明は,「更に,表示されたリストをスクロールした
り,電子ドキュメントを並進移動したりすることは,タッチスクリーン
ディスプレイを伴うポータブル及び非ポータブルの両電子装置において
厄介である。スクロール又は並進移動がユーザの意図を反映しない場合
には,ユーザにフラストレーションを招く。…」(【0005】)との
課題を解決するための発明であるから,仮想的な縁の位置の決定は装置
を操作する人間の感覚に違和感のない範囲で調整される必要があるもの
と解される。
上記【0005】において「並進移動がユーザの意図を反映しない場
合」とは,ユーザが並進移動をするように操作したにもかかわらず,画
面に表示されている電子ドキュメントが並進移動しないことを意味する
ことは明らかである。したがって,電子ドキュメントの縁を越えるエリ
アは,ユーザが並進移動をする操作を長い時間にわたって続ける必要が
ないように,電子ドキュメントの始端又は終端に近接した範囲で設定さ
れる必要がある。
そして,ユーザがフラストレーションを抱かないようにするためには,
たとえ縁を越えるエリアが背景と視覚上差がないとしても,それが電子
ドキュメントの縁を越えるエリアであると観念できることが必要である。
ユーザがそれを観念でき,スクロール動作を止める理由は,電子ドキュ
メントの縁を越えるエリアには,電子ドキュメントを表示するためのデ
ータが存在せず,データの表示がないからである。したがって,「縁を
越えるエリア」には,電子ドキュメントを表示するためのデータは存在
せず,データの表示がないものと解するのが相当である。
したがって,「縁を越えるエリア」とは,仮想的に設定された「電子
ドキュメントの縁」の外のエリアであって,電子ドキュメントを表示す
るためのデータが存在せず,データの表示がない領域と解するのが相当
である。
(ウ)以上は,「リストの末端」「リストの末端を越えるエリア」につい
ても同様である。「リストの末端」は,装置が仮想的に末端と理解でき
るものであれば足り,「末端を越えるエリア」は,仮想的な末端の外の
エリアであって,リストを表示するためのデータが存在せず,データの
表示がない領域であると解される。
ウ被告らは,「電子ドキュメント」「電子ドキュメントの縁」,「縁を越
えるエリア」,「リストの末端」及び「末端を越えるエリア」が不明確で
あると主張するが,これらは,上記のとおりの意味として当業者に理解可
能と解されるのであって,被告らの主張は採用できない。
(3)「到達するのに応答して…表示」(構成要件I1及びI2)の意義(争
点1-3)について
ア原告は,構成要件I1について,①(前記タッチスクリーンディスプレ
イ上又はその付近でオブジェクトがまだ検出されている間に),かつ,②
(前記電子ドキュメントを前記第1方向に移動する間に),かつ,③(前
記電子ドキュメントの縁に到達する)の全ての条件が整った場合に,④
(のに応答して)が起こり,⑤(前記電子ドキュメントの縁を越えるエリ
アを表示し)及び⑥(かつ前記電子ドキュメントの前記第1部分より小さ
い第3部分を表示する)が起こるという内容であり,構成要件I2も同様
である旨主張する。
そこで,検討するに,本件明細書の【0005】には次の記載がある。
「更に,表示されたリストをスクロールしたり,電子ドキュメントを並進
移動したりすることは,タッチスクリーンディスプレイを伴うポータブル
及び非ポータブルの両電子装置において厄介である。スクロール又は並進
移動がユーザの意図を反映しない場合には,ユーザにフラストレーション
を招く。」
この記載は,ユーザがスクロール又は並進移動をするように操作したに
もかかわらず,画面に表示されている電子ドキュメントがスクロール又は
並進移動しないことがユーザにフラストレーションを招くことを従来技術
の問題点として指摘しているものと解される。
この課題の解決として,本件発明1及び2においては,電子ドキュメン
トの縁に到達すると,それより外の領域にはデータが存在しないにもかか
わらず,「縁を越えるエリア」を表示し,それによって,ユーザにそれ以
上,同一方向に進めてもデータが存在しないことを知らせることとしたも
のと解される。
そして,このような縁を越えるエリアを表示するためには,電子ドキュ
メントの縁に到達したときに,電子ドキュメントとは別の,縁を越えるエ
リアを表示する必要があり,そのためには,その前提として,電子ドキュ
メントの縁に到達したことを判定し,その上で縁を越えるエリアを表示す
る指示をすることが必要になると解される(本件明細書の実施例に関する
【0132】【0136】及び図7の記載はこのことを示しているものと
考えられる。)。
そうすると,構成要件I1及びI2の「電子ドキュメントの縁に到達す
るのに応答して」とは,電子ドキュメントの縁に到達すると,到達したこ
との判定が行われ,その判定に基づいて電子ドキュメントの縁を越えるエ
リアを表示する指示が出されることを示すものと解するのが相当である。
イ被告らは,構成要件I1の意味について,(①+②+③)により(⑤+
⑥)となるということであり,①+②+③に加えて,更に指等で画像を移
動させることは含まれていないと主張する。
そこで検討するに,被告らの主張は,「①+②+③に加えて,更に指等
で画像を移動することは含まれていない」と主張するとおり,構成要件I
1では,縁に到達するまではオブジェクトで操作されているが,縁に到達
した後にはオブジェクトで操作することが記載されていないことを主張す
るものである。
しかしながら,構成要件J1には,「前記タッチスクリーンディスプレ
イ又はその付近にオブジェクトがもはやないことを検出するのに応答して,
前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで
前記電子ドキュメントを第2の方向に徐々に移動して,前記電子ドキュメ
ントの第1部分とは異なる第4部分を表示するためのインストラクション
と,」との記載があり,この構成要件J1の記載は,縁を越えるエリアが
表示された後にも,オブジェクトが検出されており,その後オブジェクト
がないことが検出されると第2方向への移動が開始される態様を含むこと
を記載しているものと解される。
本件明細書【0008】には,「ある態様によれば,…オブジェクトが
まだ検出されている間に電子ドキュメントを第1方向に移動する間に電子
ドキュメントの縁に到達した場合には,ドキュメントの縁を越えるエリア
が表示される。タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近においてオ
ブジェクトがもはや検出されなくなった後に,ドキュメントは,そのドキ
ュメントの縁を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで,第2方向に
並進移動される。」と記載されており,ここでも,オブジェクトが縁を越
えるエリアが表示された後も検出されていることを前提として,オブジェ
クトが検出されなくなった後に,表示されていた縁を越えるエリアが第2
方向に並進移動することを示しているものと解される。このように,本件
明細書のこの態様においては,縁に到達するまで,縁に到達したとき,縁
に到達した前後を通じて,オブジェクト(後記のとおり指等である。【請
求項22】参照)での操作が継続されていることが示されている。
以上を踏まえて,特許請求の範囲の記載全体を見てみると,特許請求の
範囲のうちの独立項である請求項(本件発明を含む。)では,「オブジェ
クトがまだ検出されている間に前記電子ドキュメントを前記第1方向に移
動する間に前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して,前記ドキ
ュメントの縁を越えるエリアを表示し」(【請求項1】),「オブジェク
トがまだ検出されている間に前記電子ドキュメントを前記第1方向に移動
する間に前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して,前記電子ド
キュメントの縁を越えるエリアを表示し」(【請求項19】),「オブジ
ェクトがまだ検出されている間に前記電子ドキュメントを前記第1方向に
移動する間に前記電子ドキュメントの縁に到達した場合には,前記電子ド
キュメントの縁を越えるエリアを表示し」(【請求項37】),「前記オ
ブジェクトがまだ検出されている間に前記電子ドキュメントを第1方向に
移動する間に前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して,前記電
子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示する」(【請求項55】),
「オブジェクトがまだ検出されている間に電子ドキュメントを前記第1方
向に移動する間に電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して,前記ド
キュメントの縁を越えるエリアを表示する」(【請求項62】),「オブ
ジェクトがまだ検出されている間に前記電子ドキュメントを第1方向に移
動する間に前記電子ドキュメントの縁に到達した場合には,前記電子ドキ
ュメントの縁を越えるエリアを表示し」(【請求項66】),「オブジェ
クトがまだ検出されている間に前記リストを第1方向に移動する間に前記
リストの末端に到達した場合には前記リストの末端を越えるエリアを表示
する」(【請求項69】),「オブジェクトがまだ検出されている間に前
記リストを第1方向にスクロールする間に前記リストの末端に到達した場
合には,前記リストの末端を越えるエリアを表示する」(【請求項7
6】),「オブジェクトがまだ検出されている間に前記リストを第1方向
にスクロールする間に前記リストの末端に到達した場合には前記リストの
末端を越えるエリアを装置が表示し」(【請求項81】)と記載されてい
る。上記各請求項は,いずれも「オブジェクトがまだ検出されている間に
前記電子ドキュメント(又は前記リスト)を前記第1方向に移動(又はス
クロール)する間に前記電子ドキュメントの縁に到達した場合(前記リス
トの末端に到達した場合)には,前記ドキュメントの縁を越えるエリアを
表示する」という点で構成要件I1と共通するとともに,構成要件J1と
も同様の記載がある。
そうすると,上記の本件明細書のある態様における記載は,本件発明1
(請求項19)のみならず,全ての請求項について共通する記載であり,
本件発明の基本的構成を示すものであると解するのが相当である。したが
って,上記各請求項のうちには,電子ドキュメントではなく,リストにつ
いての請求項もあり,形式的には【0008】の記載が当てはまらないも
のの,電子ドキュメントとリストで,この点についての実質的な差異はな
く,リストについての請求項についても同様に解するのが相当である。
ウ以上のとおり,「到達するのに応答して…表示」は,オブジェクトを電
子ドキュメントの縁を越えるエリアが表示された後も検出している態様を
含むものと解するのが相当であり,また,「到達するのに応答して…表
示」とは,電子ドキュメントの縁に到達することにより,電子ドキュメン
トの縁を越えるエリアには電子ドキュメントを表示するためのデータは存
在しないから,それに応じた処理をするため,電子ドキュメントの縁に到
達したことを判定し,縁を越えるエリアを表示する指示をすることを意味
すると解するのが相当である。
以上を前提に,以下,争点に係る被告製品の構成要件充足性について判
断する。
(4)構成要件F1~J1の充足性(争点1-4)について
ア構成要件F1の充足性について
(ア)証拠(甲3,4,7)及び弁論の全趣旨によれば,①被告製品搭載
のアプリケーションプログラム「ギャラリー」は,FOMA端末や
microSDカードに保存されている静止画や動画を閲覧・整理できること,
②「Gallery(ギャラリー)」(写真2参照)を起動すると,写真3の
画面が表示され,この中から「Camera(カメラ)」を選択すると,被告
製品で撮影して得られたデジタル画像が写真4のようにタイル表示され
ること,③この中から1枚の画像を選択すると,タッチスクリーンディ
スプレイ上に写真5のデジタル画像が表示され,当該画像をズームアッ
プすると,写真6のように表示されることが認められる(ズームアップ
操作は,タッチスクリーンディスプレイに2本の指で触れて指の間隔を
広げることで行うことができる。)。
(イ)以上に基づいて検討するに,上記(2)アのとおり,「電子ドキュメ
ント」は,電子データの形式で表示可能な文章,メールのほか,静止画,
動画,その他のデジタル画像等のコンテンツであると解されるから,写
真5のデジタル画像は「電子ドキュメント」ということができる。
また,構成要件G1~J1の記載に照らすと,構成要件F1の「第1
部分」は,オブジェクトの移動がある前のディスプレイ上に表示された
電子ドキュメントの部分をいうと解されるから,写真6のデジタル画像
の表示は「電子ドキュメントの第1部分」ということができる。
そして,被告製品は,写真6のようにデジタル画像を表示するための
命令を含むプログラムを有すると認められるから,構成要件F1の「電
子ドキュメントの第1部分を表示するためのインストラクション」があ
ると認められる。
(ウ)したがって,被告製品は,構成要件F1を充足する。
イ構成要件G1の充足性について
(ア)証拠(甲3,4,7)によれば,被告製品は,「タップする/ダブ
ルタップする」,「ロングタッチする」,「ドラッグ(スライド)す
る」,「スクロールする」,「フリックする」,「2本の指の間隔を広
げる/狭める」といった操作方法により,タッチスクリーンディスプレ
イ上に表示されている表示内容や表示項目を操作することができること,
このうち「スクロールする」は「表示内容を指で押さえながら上下左右
に動かしたり,表示を切り替えたり」することであることが認められる。
(イ)以上に基づいて検討するに,本件明細書の【請求項22】には「前
記オブジェクトは指である,請求項19に記載の装置。」と記載されて
いるから,構成要件G1の「オブジェクト」に指が含まれることは明ら
かである。
そして,被告製品の「スクロールする」は,表示内容を指で押さえな
がら上下左右に動かすことなどを指すのであるから,被告製品は,タッ
チスクリーンディスプレイ上における指の移動の検出が不可欠であり,
そのようにディスプレイを作動させる命令を含むプログラムを有すると
認められる。
そうすると,被告製品は,構成要件G1の「タッチスクリーンディス
プレイ上またはその付近でオブジェクトの移動を検出するためのインス
トラクション」があると認められる。
(ウ)したがって,被告製品は,構成要件G1を充足する。
ウ構成要件H1の充足性について
(ア)弁論の全趣旨によれば,被告製品は,写真6のデジタル画像が表示
されている状態において,タッチスクリーンディスプレイに指を触れて
左方向に移動させると,デジタル画像が左方向に移動し,写真7のデジ
タル画像の表示になることが認められる。
(イ)以上に基づいて検討するに,被告製品は,タッチスクリーンディス
プレイに触れた指に反応して,指の移動方向にデジタル画像を移動させ
ているから,「前記移動を検出するのに応答して,前記タッチスクリー
ンディスプレイに表示された前記電子ドキュメントを第1方向に徐々に
移動して」いると認められる(なお,「徐々に」は,瞬間的な移動を排
除する趣旨であって,本件明細書によっても,それ以上の技術的な特徴
を表す用語ではないと解される。)。
また,構成要件H1の「電子ドキュメント」の「第2部分」とは,
「前記第1部分とは異なる第2部分」とされているから,電子ドキュメ
ントのうち,オブジェクトの移動がある前にディスプレイに表示された
部分とは異なる部分と解される。写真7のデジタル画像の表示は,写真
6のデジタル画像の表示とは異なるから,被告製品は,「前記電子ドキ
ュメントの前記第1部分とは異なる第2部分を表示する」と認められる。
そして,被告製品は,以上のようにディスプレイを作動させる命令を
含むプログラムを有すると認められるから,構成要件H1の「インスト
ラクション」を有する。
(ウ)したがって,被告製品は,構成要件H1を充足する。
エ構成要件I1の充足性について
(ア)弁論の全趣旨によれば,被告製品は,写真7のデジタル画像が表示
された状態において,更に指を左方向に移動させると,写真8のように
デジタル画像とは異なる黒色のエリアが表示されることが認められる。
(イ)以上に基づいて検討するに,上記(2)イのとおり,構成要件I1の
「電子ドキュメントの縁」は,装置が仮想的に縁と理解できるものであ
れば足りるが,視覚的に感得できる縁を排斥しているものではないから
(本件明細書【0132】【0144】【図7】【図8C】),写真8
のデジタル画像と黒色のエリアの境界が「電子ドキュメントの縁」であ
ると認めるのが相当であって,黒色のエリアが構成要件I1の「縁を越
えるエリア」であると認められる。
これに対し,被告らは,写真8(及び写真15)の場合について説明
すると,被告製品では,●(省略)●(写真8,写真15S及びS2で
は黒色,写真15Tでは白色),●(省略)●旨,すなわち「縁を越え
るエリア」は存在しない旨,主張する(別紙被告製品模式図参照)。
しかしながら,上記(2)イのとおり,「縁を越えるエリア」は仮想的
に設定された縁の外のエリア,「末端を越えるエリア」は仮想的に設定
された末端の外のエリアであると解される。そうすると,たとえ被告製
品が被告らの主張のとおりであったとしても,被告ら主張の像の始端又
は終端が「電子ドキュメントの縁」であり,●(省略)●が「縁を越え
るエリア」「末端を越えるエリア」に該当することは明らかである。
また,構成要件I1の文言に照らすと,「前記電子ドキュメントの前
記第1部分より小さい第3部分」の「第3部分」は,「電子ドキュメン
ト」の部分をいうのであって,「縁を越えるエリア」が表示される結果,
「電子ドキュメント」の「第1部分」より小さい部分が表示されること
を意味すると解される(本件明細書【0144】【図8B】【図8C】
も参照)。そして,写真8のとおり,黒色のエリアである「縁を越える
エリア」が表示される結果,デジタル画像は写真7と比較して小さく表
示されているから,被告製品は,「電子ドキュメント」の「第3部分」
を表示していると認められる。
以上に加え,上記(ア)の認定事実に照らすと,被告製品は,タッチス
クリーンディスプレイ上でオブジェクト(指)が検出されている間に,
かつ,電子ドキュメント(デジタル画像)が第1の方向(左方向)に
徐々に移動する間に,電子ドキュメントの縁に到達すると,電子ドキュ
メントの縁を越えるエリア(黒色のエリア)を表示し,かつ電子ドキュ
メントの第1部分よりも小さい第3部分を表示するといえる。
(ウ)そこで,更に構成要件I1の「到達するのに応答して…表示」を充
足するかについて検討する。
上記(3)アのとおり,「応答して」とは,電子ドキュメントの縁に到
達すると,その到達をプログラムが判定し,その判定に基づいて,縁を
越えるエリアを表示する命令がされることをいうものと解される。
この点,被告らは,被告製品は,そもそも本件発明1とは全く異なる
命令を行っているのであり,「電子ドキュメントの縁を越えるエリアを
表示」させるような命令をしてはいないのであって,●(省略)●にす
ぎないなどと主張する。
しかしながら,被告らの主張するように,被告製品において「縁を越
えるエリア」には●(省略)●を表示するだけであったとしても,電子
ドキュメントの縁に到達したことの判定がなければ,従来技術のように
電子ドキュメントの移動を止めて●(省略)●が表示されないようにす
るか,あるいは電子ドキュメントの移動を続けて●(省略)●を表示さ
せるかの決定ができないものと解されるから,●(省略)●の表示も上
記の判定に基づいた命令によるものと認めるのが相当である。
以上のとおり,被告製品は,構成要件I1の「到達するのに応答して
…表示」を充足し,上記(イ)のようにディスプレイを作動させる命令を
含むプログラムを有すると認められるから,構成要件I1の「インスト
ラクション」を有する。
(エ)したがって,被告製品は,構成要件I1を充足する。
オ構成要件J1の充足性について
(ア)弁論の全趣旨によれば,被告製品は,写真8の表示状態において,
指をタッチスクリーンディスプレイから離すと,デジタル画像が逆の右
方向に移動して,黒色のエリアが画面上から消えていき,最終的に黒色
のエリアが表示されなくなって,写真9のようにデジタル画像だけが表
示されることが認められる。
(イ)以上に基づいて検討するに,構成要件J1の「電子ドキュメント」
の「第4部分」とは,第1部分と異なるとされているから,写真9と写
真5のデジタル画像を比較すると,両者が異なることは明らかであり,
被告製品は「第4部分」を表示することが認められる。
これに加え,上記(ア)の認定事実によれば,被告製品は,タッチスク
リーンディスプレイ上にオブジェクト(指)がないことを検出するのに
応答して,電子ドキュメント(デジタル画像)の縁を越えるエリア(黒
色のエリア)が表示されなくなるまで,電子ドキュメントを第2方向
(右方向)に徐々に移動して,電子ドキュメントの第1部分と異なる第
4部分を表示しているといえる。
そして,被告製品は,以上のようにディスプレイを作動させる命令を
含むプログラムを有すると認められるから,構成要件J1の「インスト
ラクション」を有する。
(ウ)したがって,被告製品は,構成要件J1を充足する。
カ小括
以上のとおり,被告製品は,構成要件F1~J1を充足し,構成要件A
1~E1及びK1を充足するから(前提事実(7)ア。構成要件A1~J1
を充足することにより構成要件K1の「を含む」の部分も充足する。),
本件発明1の技術的範囲に属する。
(5)構成要件G2~J2の充足性(争点1-5)について
ア構成要件G2の充足性について
構成要件G2は,構成要件G1の「その付近で」が構成要件G2では
「その付近における」である点を除いて,構成要件G1と同じであり,上
記相違点も実質的な相違点ではない。
そうすると,被告製品は,構成要件G1を充足するから(上記(4)イ),
構成要件G2も充足する。
イ構成要件H2の充足性について
構成要件H2は,構成要件H1の「前記電子ドキュメントの前記第1部
分とは異なる第2部分を表示する」との構成が省略されたものであり,そ
の余は構成要件H1と同じである。
そうすると,被告製品は,構成要件H1を充足するから(上記(4)ウ),
構成要件H2も充足する。
ウ構成要件I2の充足性について
構成要件I2は,構成要件I1の「,且つ前記電子ドキュメントの前記
第1部分より小さい第3部分を表示する」の構成が省略されたものであり,
その余は構成要件I2と同じである。
そうすると,被告製品は,構成要件I1を充足するから(上記(4)エ),
構成要件I2も充足する。
エ構成要件J2の充足性について
構成要件J2は,構成要件J1の「前記電子ドキュメントの第1部分と
は異なる第4部分を表示する」の構成が省略されたものであり,その余は
構成要件J1と同じである。
そうすると,被告製品は,構成要件J1を充足するから(上記(4)オ),
構成要件J2も充足する。
オ小括
以上のとおり,被告製品は,構成要件G2~J2を充足し,構成要件A
2~E2及びK2を充足するから(前提事実(7)イ。構成要件A2~E2,
G2~J2を充足することにより構成要件K2の「を含む」の部分も充足
する。),本件発明2の技術的範囲に属する。
(6)構成要件G3~J3の充足性(争点1-6)について
ア構成要件G3について
構成要件G3は,構成要件G1の「その付近で」が構成要件G3では
「その付近における」である点を除いて,構成要件G3と同じであり,上
記相違点も実質的な相違点ではない。
そうすると,被告製品は,構成要件G1を充足するから(上記(4)イ),
構成要件G3も充足する。
イ構成要件H3の充足性について
(ア)弁論の全趣旨によれば,被告製品搭載の「Settings(設定)」アプ
リケーションを起動すると,写真13のアイテムのリストが表示され,
この表示の状態において,タッチスクリーンディスプレイに指を触れて
上方向に移動させると,アイテムのリストが上方向に移動し,写真14
の表示画面になることが認められる。
(イ)以上に基づいて検討するに,被告製品は,タッチスクリーンディス
プレイ上に触れた指に反応して,指の移動方向にアイテムのリストを移
動させているから,「前記移動の検出に応答して,前記タッチスクリー
ンディスプレイ上に表示されたアイテムのリストを第1方向にスクロー
ルする」と認められ,そのようにディスプレイを作動させる命令を含む
プログラムを有すると認められる。
(ウ)したがって,被告製品は,構成要件H3を充足する。
ウ構成要件I3の充足性について
(ア)弁論の全趣旨によれば,被告製品は,写真14の表示画面から指を
上方向に移動させるとリストの末端が表示され,更に指を上方向に移動
させると,写真15のリストのないエリアが表示されることが認められ
る(写真21~23も参照)。
(イ)以上に基づいて検討するに,上記(2)イで「電子ドキュメントの
縁」について判断したのと同様に,構成要件I3の「リストの末端」は,
装置が仮想的に末端と理解できるものであれば足り,写真15のリスト
とリストのないエリアの境界が「リストの末端」であると認めるのが相
当であって,リストのないエリアが構成要件I3の「末端を越えるエリ
ア」であると認められる。
以上に加え,上記(ア)の認定事実に照らすと,被告製品は,タッチス
クリーンディスプレイ上でオブジェクト(指)が検出されている間に,
かつ,リストを第1方向(上方向)に移動する間に,リストの末端に到
達すると,リストの末端を越えるエリア(リストのないエリア)を表示
するといえるのであって,そのようにディスプレイを作動させる命令を
含むプログラムを有すると認められる。
(ウ)したがって,被告製品は,構成要件I3を充足する。
エ構成要件J3の充足性
(ア)弁論の全趣旨によれば,被告製品は,写真15の表示状態において,
指をタッチスクリーンディスプレイから離すと,リストが逆の下方向に
移動して,リストのないエリアが画面上から消えていき,最終的にリス
トのないエリアが表示されなくなって,写真16のようにリストだけが
表示されることが認められる(写真21~23も参照)。
(イ)以上に基づいて検討するに,被告製品は,タッチスクリーンディス
プレイ上でオブジェクト(指)がないことを検出するのに応答して,リ
ストの末端を越えるエリア(リストのないエリア)が表示されなくなる
まで,第1方向(上方向)とは逆の第2方向(下方向)にリストをスク
ロールしていると認められ,そのようなディスプレイを作動させる命令
を含むプログラムを有すると認められる。
(ウ)したがって,被告製品は,構成要件J3を充足する。
オ小括
以上のとおり,被告製品は,構成要件G3~J3を充足し,構成要件A
3~E3及びK3を充足するから(前提事実(7)ウ。構成要件A3~E3,
G3~J3を充足することにより構成要件K3の「を含む」の部分も充足
する。),本件発明3の技術的範囲に属する。
(7)ソフトウェア変更後の被告製品3について
証拠(乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,①被告製品3は,平成23
年10月ころソフトウェアが変更されたこと,②ソフトウェア変更後の被告
製品3では,「ギャラリー」を起動した後,「カメラ」を選択して写真を表
示し,拡大表示した写真をタッチディスプレイの左方向に写真を移動させ,
写真の右端に到達すると,ディスプレイの右端が青く光り,それ以上写真を
左方向に移動できないこと,③ソフトウェア変更後の被告製品3では,「設
定」を起動し,表示されたアイテムのリストを上方向に移動させ,リストの
末端に到達すると,ディスプレイの下端が青く光り,それ以上リストを下方
向に移動できないことが認められる。
以上のとおり,ソフトウェア変更後の被告製品3については,構成要件I
1・J1及び構成要件I2・J2の「縁を越えるエリア」,構成要件I3・
J3の「末端を越えるエリア」が表示されないから,これらの構成要件を充
足しない。
したがって,ソフトウェア変更後の被告製品3は,本件発明の技術的範囲
に属しないから,その余について判断するまでもなく,ソフトウェア変更後
の被告製品3に係る損害賠償請求は理由がない。
(8)まとめ
以上のとおり,被告製品(ただし,被告製品3は,ソフトウェア変更前の
旧製品に限る。)は,本件発明(請求項19,55及び69)の技術的範囲
に属する。
2被告製品が本件発明の従属項の技術的範囲に属するかについて
(1)被告製品が請求項25の技術的範囲に属するか(争点2-1)について
ア請求項25は,「前記電子ドキュメントは,デジタル映像である,請求
項19に記載の装置。」というものである。
そこで,請求項25の「デジタル映像」の意義について検討するに,本
件明細書には,以下の記載がある。
「【0062】
グラフィックモジュール132は,表示されるグラフィックの強度を変
化させるコンポーネントを含めて,ディスプレイシステム112上にグラ
フィックをレンダリングし表示するための種々の既知のソフトウェアコン
ポーネントを備えている。ここで使用する「グラフィック」という語は,
これに限定されないが,テキスト,ウェブページ,アイコン(ソフトキー
を含むユーザインターフェイスオブジェクトのような),デジタル映像,
ビデオ,アニメーション,等を含めて,ユーザに表示できるいかなるオブ
ジェクトも含む。」
「【0070】
RF回路108,ディスプレイシステム112,ディスプレイコントロ
ーラ156,接触モジュール130,グラフィックモジュール132,及
びテキスト入力モジュール134に関連して,e-メールクライアントモ
ジュール140は,e-メールを生成し,送信し,受信し,そして管理す
るために使用することができる。映像管理モジュール144に関連して,
e-メールモジュール140は,カメラモジュール143で撮影された静
止映像又はビデオ映像と共にe-メールを生成し送信するのを非常に容易
にする。」
「【0130】
移動を検出するのに応答して,タッチスクリーンディスプレイに表示さ
れた電子ドキュメントが第1方向に並進移動される(704)。ある実施
形態では,電子ドキュメントは,図8A-8Dに示すようにウェブページ
である。ある実施形態では,電子ドキュメントは,デジタル映像である。
ある実施形態では,電子ドキュメントは,ワード処理,スプレッドシート,
e-メール又はプレゼンテーションドキュメントである。ある実施形態で
は,第1方向は,垂直方向,水平方向,又は対角方向である。ある実施形
態では,第1方向は,ディスプレイ又はその付近で検出されたオブジェク
トの移動方向に対応するが,オブジェクトの移動方向と必ずしも同一でな
くてもよい。」
「【0159】
プロセス1100は,タッチスクリーンディスプレイを伴う装置で遂行
される。ある実施形態では,装置がポータブルマルチファンクション装置
である。ある実施形態では,電子ドキュメントがウェブページ(例えば,
ウェブページ3912,図12A-12C)である。又,ある実施形態で
は,電子ドキュメントがデジタル映像である(例えば,デジタル映像13
02,図13A-13C)。更に,ある実施形態では,電子ドキュメント
が,ワード処理,スプレッドシート,e-メール,又はプレゼンテーショ
ンドキュメントである。」
イ以上の記載を検討するに,【0062】では,「デジタル映像」と「ビ
デオ」が並列されているから,「デジタル映像」と「ビデオ」は異なる概
念であると解される。また,【0070】では,「静止映像」,「ビデオ
映像」と記載されているから,「映像」を動画に限定して解釈することは
できない。さらに,【0130】には,ある実施例では,電子ドキュメン
トはデジタル映像であること,ある実施例では,電子ドキュメントはワー
ド処理,スプレッドシート,e-メール又はプレゼンテーションドキュメ
ントであることが記載されているから,「デジタル映像」は,デジタル静
止画像を含む概念であると解するのが相当である。
ウ以上のとおり,「デジタル映像」は,デジタル静止画像を含むと解する
のが相当であり,前記1(4)のとおり,被告製品は,「電子ドキュメン
ト」がデジタル画像である場合において,本件発明1の技術的範囲に属す
ることが認められるから,請求項25の技術的範囲にも属する。
(2)被告製品が請求項35,61及び74の技術的範囲に属するか(争点2
-2)について
ア請求項35について
(ア)請求項35は,以下のとおりである。
「前記電子ドキュメントが該電子ドキュメントの縁に到達するまで前記
第1方向に徐々に移動する場合,前記電子ドキュメントは,前記電子ド
キュメントの縁に到達するまでの前記オブジェクトの移動距離に対応す
る第1の関連移動距離を移動し,
更に,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示することは,
前記電子ドキュメントを前記第1方向に第2の関連移動距離について
徐々に移動することを含み,
当該第2の関連移動距離は,前記電子ドキュメントの縁に到達した後
の前記オブジェクトの移動距離に対応する関連移動距離より短い,請求
項19に記載の装置。」
上記の請求項の記載に照らすと,第1の関連移動距離とは,「電子ド
キュメントが該電子ドキュメントの縁に到達するまで前記第1方向に
徐々に移動する場合」であって,「前記電子ドキュメントの縁に到達す
るまでの前記オブジェクトの移動距離」に対応する電子ドキュメントの
移動距離である。また,第2の関連移動距離とは,「前記電子ドキュメ
ントの縁を越えるエリアを表示することは,前記電子ドキュメントを前
記第1方向に第2の関連移動距離について徐々に移動することを含み,
当該第2の関連移動距離は,前記電子ドキュメントの縁に到達した後の
前記オブジェクトの移動距離に対応する関連移動距離より短い」と記載
されているから,電子ドキュメントを第1方向に移動する場合であって,
電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示するときの電子ドキュメン
トの移動距離であり,このときの移動距離は対応するオブジェクトの移
動距離よりも短いことを意味すると解することができる。
以上の解釈は,本件明細書の以下の記載によっても裏付けられる。
「【0134】
ある実施形態では,電子ドキュメントの縁に到達するまで第1方向に
並進移動することは,電子ドキュメントの縁に到達するまでのオブジェ
クトの移動距離に対応する第1の関連並進移動距離を有する。例えば,
ドキュメントの縁に到達するまでの図8A-8Dに示すウェブページ3
912の並進移動距離は,縁に到達するまでにスワイプジェスチャー3
925によりタッチスクリーンディスプレイ上を横断する距離に対応す
る。ある実施形態では,電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示す
ることは,電子ドキュメントを第1方向に第2の関連並進移動距離に対
して並進移動することを含み,ここで,第2の関連並進移動距離は,電
子ドキュメントの縁に到達した後のオブジェクトの移動距離に対応する
関連並進移動距離より短い。例えば,図8Cにおいて,縁に到達した後
に,ウェブ3912は,対向する矢印3928-1及び3928-2で
指示された距離だけ並進移動され,この距離は,末端に到達した後にス
ワイプジェスチャー3925によってタッチスクリーンディスプレイ上
を横断する距離より短い。」
(イ)以上に基づいて,被告製品が請求項35の特許請求の範囲を充足す
るかについて検討する。
そこで,写真7及び8をみるに,被告製品の電子ドキュメント(デジ
タル画像)の移動距離は,縁を越えるエリアが表示されていないときに
はオブジェクト(指)の移動距離とほぼ同じである。この点について,
被告らの積極的な反論はない。したがって,被告製品は,「前記電子ド
キュメントが該電子ドキュメントの縁に到達するまで前記第1方向に
徐々に移動する場合,前記電子ドキュメントは,前記電子ドキュメント
の縁に到達するまでの前記オブジェクトの移動距離に対応する第1の関
連移動距離を移動し」といえる。
次に,電子ドキュメントを左方向へ移動させると,徐々に縁を越える
エリアが表示され,電子ドキュメント(デジタル画像)の移動距離は,
縁を越えるエリアが表示されているときには,オブジェト(指)の移動
距離よりも短い。この点についても,被告らの積極的な反論はない。そ
うすると,被告製品は,「更に,前記電子ドキュメントの縁を越えるエ
リアを表示することは,前記電子ドキュメントを前記第1方向に第2の
関連移動距離について徐々に移動することを含み,当該第2の関連移動
距離は,前記電子ドキュメントの縁に到達した後の前記オブジェクトの
移動距離に対応する関連移動距離より短い」といえる。
そして,前記1(4)のとおり,被告製品は,本件発明1の技術的範囲
に属する。
(ウ)したがって,被告製品は,請求項35の技術的範囲に属する。
イ請求項61について
請求項61は,以下のとおりである。
「前記電子ドキュメントが該電子ドキュメントの縁に到達するまで前記第
1方向に徐々に移動する場合,前記電子ドキュメントは,前記電子ドキュ
メントの縁に到達するまでの前記オブジェクトの移動距離に対応する第1
の関連移動距離を移動し,
更に,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示することは,前
記電子ドキュメントを前記第1方向に第2の関連移動距離について徐々に
移動することを含み,
該第2の関連移動距離は,前記電子ドキュメントの縁に到達した後の前
記オブジェクトの移動距離に対応する関連移動距離より短い,請求項55
に記載の装置。」
請求項61は,請求項35と比較して,請求項35が「当該第2の関連
移動距離」と記載されているのに対して「該第2の関連移動距離」と記載
されている点と,本件発明2の従属項である点が異なるにすぎない。
そうすると,上記アと同様に,被告製品は,請求項61の特許請求の範
囲のうち,本件発明2(請求項55)を引用する部分を除いた部分を充足
し,かつ,前記1(5)のとおり,本件発明2の技術的範囲に属する。
したがって,被告製品は,請求項61の技術的範囲に属する。
ウ請求項74について
(ア)請求項74は,以下のとおりである。
「前記リストが該リストの末端に到達するまで前記第1方向にスクロー
ルする場合,前記リストは,前記リストの末端に到達するまでの前記オ
ブジェクトの移動距離に対応する第1の関連スクロール距離を移動し,
更に,前記リストの末端を越えるエリアを表示することは,前記リス
トを前記第1方向に第2の関連スクロール距離についてスクロールする
ことを含み,
該第2の関連スクロール距離は,前記リストの末端に到達した後の前
記オブジェクトの移動距離に対応する関連スクロール距離より短い,請
求項69に記載の装置。」
上記請求項の記載に照らすと,第1の関連スクロール距離とは,「リ
ストが該リストの末端に到達するまで前記第1方向にスクロールする場
合」であって,「前記リストの末端に到達するまでの前記オブジェクト
の移動距離」に対応するリストの移動距離である。また,第2の関連ス
クロール距離とは,「前記リストの末端を越えるエリアを表示すること
は,前記リストを前記第1方向に第2の関連スクロール距離についてス
クロールすることを含み,該第2の関連スクロール距離は,前記リスト
の末端に到達した後の前記オブジェクトの移動距離に対応する関連スク
ロール距離より短い」と記載されているから,リストを第1方向に移動
する場合であって,リストの末端を越えるエリアを表示するときのリス
トの移動距離であり,このときのスクロール距離は対応するオブジェク
トの移動距離よりも短いことを意味すると解することができる。
以上の解釈は,本件明細書の以下の記載によっても裏付けられる。
「【0118】
ある実施形態では,リストの末端に到達するまでの第1方向のスクロ
ールは,リストの末端に到達するまでのオブジェクトの移動距離に対応
する第1の関連スクロール距離を有する。例えば,図6A-6Dに示す
リストの末端に到達するまでのスクロール距離は,末端に到達するまで
にスワイプジェスチャー3514によりタッチスクリーンディスプレイ
上を横断した距離に対応する。リストの末端を越えるエリアを表示する
ことは,末端に到達した後にオブジェクトの移動距離に対応する関連ス
クロール距離より短い第2の関連スクロール距離だけリストを第1方向
にスクロールすることを含む。例えば,図6Cにおいて,末端に到達し
た後に,リストは,距離3538に対してスクロールされ,この距離は,
末端に到達した後にスワイプジェスチャー3514によりタッチスクリ
ーンディスプレイ上を横断する距離よりも短い。」
(イ)以上に基づいて検討するに,証拠(甲39~41)及び弁論の全趣
旨によれば,①被告製品の「設定」アプリケーションを起動して,アイ
テムのリストの「ユーザー補助」付近に指を置き,指を上方向に移動さ
せると,「端末情報」が現れるまで,「ユーザー補助」と指の位置関係
がほぼ同じであること,②「端末情報」が現れた後,更に指を上方向に
移動させると,指の移動に遅れて「ユーザー補助」が上方向に移動し,
リストのないエリアが表示されることが認められる(写真21~23参
照)。
また,前記1(6)ウのとおり,リストとリストのないエリアの境界が
「リストの末端」であり,リストのないエリアが「末端を越えるエリ
ア」であるから,写真23の「端末情報」の下部付近が「リストの末
端」であり,リストのないエリアが「末端を越えるエリア」であると解
される。そうすると,上記①は,「前記リストが該リストの末端に到達
するまで前記第1方向にスクロールする場合,前記リストは,前記リス
トの末端に到達するまでの前記オブジェクトの移動距離に対応する第1
の関連スクロール距離を移動し」を充足し,上記②は,「更に,前記リ
ストの末端を越えるエリアを表示することは,前記リストを前記第1方
向に第2の関連スクロール距離についてスクロールすることを含み」
「該第2の関連スクロール距離は,前記リストの末端に到達した後の前
記オブジェクトの移動距離に対応する関連スクロール距離より短い」こ
とを充足する。
そして,前記1(6)のとおり,被告製品は,本件発明3の技術的範囲
に属する。
(ウ)したがって,被告製品は,請求項74の技術的範囲に属する。
エまとめ
以上のとおり,被告製品は,請求項35及び61及び請求項74の技術
的範囲に属する。
(3)被告製品が請求項36及び75の技術的範囲に属するか(争点2-3)
について
ア請求項36について
(ア)請求項36は,以下のとおりである。
「前記電子ドキュメントの縁に到達するまで前記第1方向に徐々に移動
することは,前記オブジェクトの移動スピードに対応する第1の関連移
動スピードを有し,
更に,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示することは,
前記電子ドキュメントを前記第1方向に第2の関連移動スピードで徐々
に移動することを含み,
当該第2の関連移動スピードは,前記第1の関連移動スピードより低
速である,請求項19に記載の装置。」
上記請求項の記載に照らすと,第1の関連移動スピードとは,「電子
ドキュメントの縁に到達するまで前記第1方向に徐々に移動する」場合
であって,「前記オブジェクトの移動スピード」に対応する電子ドキュ
メントのスピードである。また,第2の関連移動スピードとは,「前記
電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示することは,前記電子ドキ
ュメントを前記第1方向に第2の関連移動スピードで徐々に移動するこ
とを含み,当該第2の関連移動スピードは,前記第1の関連移動スピー
ドより低速である」と記載されているから,電子ドキュメントを第1方
向に移動する場合であって,電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表
示するときの電子ドキュメントの移動スピードであり,このときの移動
スピードは第1の関連移動スピードよりも低速であることを意味すると
解することができる。
以上の解釈は,本件明細書の以下の記載によっても裏付けられる。
「【0135】
ある実施形態では,電子ドキュメントの縁に到達するまで第1方向に
並進移動することは,オブジェクトの移動スピードに対応する第1の関
連並進移動スピードを有する。例えば,図8A-8Dに示すウェブペー
ジ3912の縁に到達するまでの並進移動スピードは,スワイプジェス
チャー3925の移動スピードに対応する。電子ドキュメントの縁を越
えるエリアを表示することは,第2の関連並進移動速度で電子ドキュメ
ントを第1方向に並進移動することを含む。第2の関連並進移動スピー
ドは,第1の関連並進移動スピードより低速である。例えば,図8Cに
おいて,ウェブページ3912の縁を越えたエリア3930を表示する
ことは,縁に到達するまでの並進移動スピードより低速のスピードでウ
ェブページ3912を並進移動することを含む。ある実施形態では,第
2の関連スピードは,第1の関連スピードの分数(例えば,1/2又は
1/3)である。ある実施形態では,第2の関連スピードは,第1の関
連スピードの平方根である。」
(イ)そして,請求項36は,請求項35と比較すると,請求項35の
「関連移動距離」を「関連移動スピード」に置き換えたものといえる
(本件明細書【0134】【0135】も参照)。また,スピード=距
離/時間(距離=スピード×時間)であるから,①請求項35の「前記
電子ドキュメントが該電子ドキュメントの縁に到達するまで前記第1方
向に徐々に移動する場合,前記電子ドキュメントは,前記電子ドキュメ
ントの縁に到達するまでの前記オブジェクトの移動距離に対応する第1
の関連移動距離を移動し」は,請求項36の「前記電子ドキュメントの
縁に到達するまで前記第1方向に徐々に移動することは,前記オブジェ
クトの移動スピードに対応する第1の関連移動スピードを有し」と,②
請求項35の「更に,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示
することは,前記電子ドキュメントを前記第1方向に第2の関連移動距
離について徐々に移動することを含み」は,請求項36の「更に,前記
電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示することは,前記電子ドキ
ュメントを前記第1方向に第2の関連移動スピードで徐々に移動するこ
とを含み」と,③請求項35の「当該第2の関連移動距離は,前記電子
ドキュメントの縁に到達した後の前記オブジェクトの移動距離に対応す
る関連移動距離より短い」は,請求項36の「当該第2の関連移動スピ
ードは,前記第1の関連移動スピードより低速である」と実質的に同じ
である。
そして,上記のとおり,被告製品は,請求項35の技術的範囲に属す
る。
(ウ)したがって,上記(2)アと同様に,被告製品は,請求項36の技術
的範囲に属する。
イ請求項75について
(ア)請求項75は,以下のとおりである。
「前記リストの末端に到達するまで前記第1方向にスクロールすること
は,前記オブジェクトの移動スピードに対応する第1の関連スクロール
スピードを有し,
更に,前記リストの末端を越えるエリアを表示することは,前記リス
トを前記第1方向に第2の関連スクロールスピードでスクロールするこ
とを含み,
該第2の関連スクロールスピードは,前記第1の関連スクロールスピ
ードよりも低速である,請求項69に記載の装置。」
上記の請求項の記載に照らすと,第1の関連移動スクロールスピード
とは,「リストの末端に到達するまで前記第1方向にスクロールする」
場合であって,「前記オブジェクトの移動スピード」に対応するリスト
のスクロールスピードである。また,第2の関連移動スピードとは,
「前記リストの末端を越えるエリアを表示することは,前記リストを前
記第1方向に第2の関連スクロールスピードでスクロールすることを含
み,該第2の関連スクロールスピードは,前記第1の関連スクロールス
ピードよりも低速である」と記載されているから,リストを第1方向に
移動する場合であって,リストの末端を越えるエリアを表示するときの
リストのスクロールスピードであり,このときのスクロールスピードは
第1の関連移動スクロールスピードよりも低速であることを意味すると
解することができる。
以上の解釈は,本件明細書の以下の記載によっても裏付けられる。
「【0119】
ある実施形態では,リストの末端に到達するまでの第1方向のスクロ
ールは,オブジェクトの移動スピードに対応する第1の関連スクロール
スピードを有する。例えば,図6A-6Dに示すリストの末端に到達す
るまでのスクロールスピードは,末端に到達するまでのスワイプジェス
チャー3514のタッチスクリーンディスプレイ上のスピードに対応す
る。リストの末端を越えるエリアを表示することは,第2の関連スクロ
ールスピードでリストを第1方向にスクロールすることを含む。第2の
関連スクロールスピードは,第1の関連スクロールスピードより低速で
ある。例えば,図6Cにおいて,リストの末端を越えるエリア3536
を表示することは,末端に到達するまでのスクロールスピードより低い
スピードでリストをスクロールすることを含む。ある実施形態では,第
2の関連スピードは,第1の関連スピードの分数(例えば,1/2又は
1/3)である。ある実施形態では,第2の関連スピードは,第1の関
連スピードの平方根である。」
(イ)そして,請求項75は,請求項74と比較すると,請求項74の
「関連スクロール距離」を「関連スクロールスピード」に置き換えたも
のといえる(本件明細書【0118】【0119】も参照)。また,ス
ピード=距離/時間(距離=スピード×時間)であるから,①請求項7
4の「前記リストが該リストの末端に到達するまで前記第1方向にスク
ロールする場合,前記リストは,前記リストの末端に到達するまでの前
記オブジェクトの移動距離に対応する第1の関連スクロール距離を移動
し」は,請求項75の「前記リストの末端に到達するまで前記第1方向
にスクロールすることは,前記オブジェクトの移動スピードに対応する
第1の関連スクロールスピードを有し」と,②請求項74の「更に,前
記リストの末端を越えるエリアを表示することは,前記リストを前記第
1方向に第2の関連スクロール距離についてスクロールすることを含
み」は,請求項75の「更に,前記リストの末端を越えるエリアを表示
することは,前記リストを前記第1方向に第2の関連スクロールスピー
ドでスクロールすることを含み」と,③請求項74の「該第2の関連ス
クロール距離は,前記リストの末端に到達した後の前記オブジェクトの
移動距離に対応する関連スクロール距離より短い」は,請求項75の
「該第2の関連スクロールスピードは,前記第1の関連スクロールスピ
ードよりも低速である」と実質的に同じである。
そして,上記のとおり,被告製品は,請求項74の技術的範囲に属す
る。
(ウ)したがって,上記(2)ウと同様に,被告製品は,請求項75の技術
的範囲に属する。
ウまとめ
以上のとおり,被告製品は,請求項36及び請求項75の技術的範囲に
属する。
3本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるかに
ついて
(1)記載要件違反の有無(争点3-1)について
ア実施可能要件・サポート要件違反の有無について
本件発明は,その特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の
記載に照らすと,タッチスクリーンディスプレイを伴う装置に係る発明で
あることは明らかである。そして,本件発明は,本件明細書の発明の詳細
な説明の記載によれば,「更に,表示されたリストをスクロールしたり,
電子ドキュメントを並進移動したりすることは,タッチスクリーンディス
プレイを伴うポータブル及び非ポータブルの両電子装置において厄介であ
る。スクロール又は並進移動がユーザの意図を反映しない場合には,ユー
ザにフラストレーションを招く。同様に,電子ドキュメントの回転及びス
ケーリングがユーザの意図を反映しない場合にも,ユーザにフラストレー
ションを招く。」(【0005】)との課題を解決するものであるから,
ユーザの操作と装置の動作が特定され,出願当時の技術常識に基づいて,
この課題を解決できることを理解できれば足りるというべきである。
そして,本件明細書の【0041】~【0088】,【0115】~
【0127】,【図1】,【図2】及び【図5】~【図8】によれば,ユ
ーザの操作内容及び装置の動作が特定されていることは明らかである。
以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載において,実施可
能要件に違反する点はない。また,本件発明に係る特許請求の範囲の記載
は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載と対比しても,サポート要件に
違反する点はない。
これに対し,被告らは,本件発明の「インストラクション」の意義が不
明瞭などと主張するが,本件発明の「インストラクション」の意義は前記
1(1)のとおりであり,不明瞭な点はない。
イ明確性要件違反について
被告らは,本件発明の「電子ドキュメント」「電子ドキュメントの縁」
等の意味内容を理解できないから,本件発明は不明確であるなどと主張す
る。
しかしながら,「電子ドキュメント」「電子ドキュメントの縁」「縁を
越えるエリア」「リストの末端」「末端を越えるエリア」の意義について
は,前記1(2)のとおりであり,不明確な点はない。また,前記1(2)のと
おり,「電子ドキュメントの縁」は,装置が仮想的に縁と理解できるもの
であれば足りるから,その到達も装置が仮想的に理解できるものであれば
足りる(もっとも,装置を操作する人間の感覚に違和感のない範囲で調整
される必要がある。)のであって,不明確な点はない。これは,「リスト
の末端」「末端に到達」についても同様である。
以上のとおり,本件発明に係る特許請求の範囲の記載において,明確性
要件違反はない。
ウしたがって,記載要件違反は認められない。
(2)公然実施に基づく新規性の欠如(争点3-2)について
ア公然実施について
証拠(乙7,8)によれば,LaunchTileを搭載したPDA(HPiPAQ
hx2490PocketPC)は,平成17年(2005年)12月には販売されて
いたものと認められるから,本件発明に係る特許の最先の優先日である平
成19年(2007年)1月7日より前に販売されていたことが認められ
る。
しかしながら,乙8号証(平成17年4月8日付けの記事)では,
「LaunchTileでは,ユーザーは最大32個のアプリケーション・ソフトウ
エアのアイコンから選択する(図3)。」と記載されているのに対し,乙
7号証(2012年1月16日付け報告書)によれば,被告らが公然実施
を主張するLaunchTileは,「1つのZoneは4個のTileにより構成され,
Worldは9個のゾーン・36個のTileにより構成される。」(「Tile」は
アプリケーションに対応する表示であると解される〔乙6〕。)ものであ
る。また,乙7号証では,上記のPDAに搭載されたLaunchTileの実行フ
ァイルの名称は「LaunchPoint」というものである。
そうすると,被告らの公然実施の立証は不十分であるといわざるを得な
い。
以下では,「LaunchPoint」がLaunchTileであって,公然実施があった
と仮定して検討する。
イLaunchTileの概要
証拠(乙6)によれば,LaunchTileは,携帯端末であるiPAQ等のタ
ッチスクリーンデバイス上で実行されるプログラムであること,
LaunchTileのメイン画面は,36個の「Tile」から構成される「World」
であること,「World」は,それぞれ4個の「Tile」からなる9個の領域
に分割され,それぞれの領域は「Zone」と呼ばれること,「World」の表
示から「Zone」を選択するために,特定の「Zone」に対応する青ボタンを
タップすれば,画面全体に当該「Zone」が表示されること,「Zone」は,
同じ大きさの4個の「Tile」を含んでおり,それぞれの「Tile」は主とし
て1つ又はそれ以上のイメージファイルによって表現され,「Tile」をタ
ップするとアプリケーションが起動すること,LaunchTileは,emailアプ
リケーションを起動すると,emailの垂直方向のリストが表示されること,
当該リストは,タッチスクリーン上を上下にドラッグすることにより,上
下にスクロールすることが認められる(別紙LaunchTileVisualDesign参
照)。
ウ公然実施発明1(LaunchTileのメールリスト表示)に基づく新規性の欠
如について
(ア)乙7号証の資料1によれば,PDA(HPiPAQhx2490PocketPC)
は,スタイラス(ペン)が付属し,アプリケーションプロセッサ,12
8MBのFlashRom,64MBのSDRAMが搭載されていることが認められ,
上記イのとおり,LaunchTileは,プログラムであって,PDAに搭載で
きるから,PDAは,タッチスクリーンディスプレイ,プロセッサ,メ
モリ,プログラムを備え,このプログラムはメモリに記憶され,プロセ
ッサにより実行されるように構成されていると認められる。
また,乙7号証によれば,PDAはメールリストの第1の部分を表示
するための機能を有し(図1-1),PDAがタッチスクリーンディス
プレイ上でペンの移動を検出する機能を有し(図1-2,図1-4),
PDAがペンの移動を検出するのに応答して,タッチスクリーンディス
プレイに表示されたメールリストを第1の方向に移動して,前記メール
リストの前記第1の部分とは異なる第2の部分を表示する機能を有する
(図1-3)ことが認められる。
そして,上記のメールリストは,本件発明3の「アイテムのリスト」
に相当するから,公然実施発明1は,本件発明3のA3~E3,G3,
H3及びK3(ただし,「を含む」を除く部分)に相当する構成を開示
しているものと認められる。
(イ)そこで,更に検討するに,乙7号証の図1-3及び図1-4をみる
と,「リストの最下端を越えるエリア」が表示され,スタイラスをタッ
チスクリーンから外すと,リストが下方向に移動して,「リストの最下
端を越えるエリア」が表示されなくなるように見受けられる。
しかしながら,甲24号証によれば,LaunchTileの開発に携わったV
は,LaunchTileのメールリスト表示(公然実施発明1)について,メー
ルのリストと青色のバーとが重なっている部分があると,自動的にリス
トがスクロール(スナップバック)し,重なっている部分がなければ,
何も起きないという趣旨の供述をしているものと解される。
そうすると,乙7号証の図1-3及び図1-4の動作は,メールのリ
ストと青色のバーとが重なっている部分があると,自動的にリストがス
クロール(スナップバック)するという動作にすぎないと解されるから,
公然実施発明1について,本件発明3のI3・J3に相当する構成を開
示しているとは認められない。同様に,本件発明1の構成要件I1・J
1,本件発明2の構成要件I2・J2に相当する構成を開示していると
は認められない。
(ウ)以上のとおり,公然実施発明1は,本件発明と同一ではない。
エ公然実施発明2(LaunchTileのZone表示)に基づく新規性の欠如につい
て
(ア)被告らは,LaunchTileの「Zone」が本件発明1及び2の「電子ドキ
ュメント」と本件発明3の「アイテムのリスト」に相当することを前提
として,公然実施発明2が本件発明と同一である旨主張する。
前記1(2)のとおり,本件発明1及び2の「電子ドキュメント」は,
電子データの形式で表示可能な文章,メール,静止画,動画,その他の
デジタル画像等のコンテンツであると解され,「縁を越えるエリア」に
は,電子ドキュメントを表示するためのデータは存在しないと解される。
これをLaunchTileの「Zone」についてみるに,上記イのとおり,
LaunchTileのメイン画面は,①36個の「Tile」から構成される
「World」であり,②「World」は,それぞれ4個の「Tile」からなる9
個の領域に分割され,それぞれの領域は「Zone」と呼ばれ,③「Zone」
は,同じ大きさの4個の「Tile」を含んでおり,それぞれの「Tile」は
主として1つ又はそれ以上のイメージファイルによって表現されている。
このように,「Zone」の同じ階層には,他の「Zone」あるいは「Tile」
が隣接して存在するのであるから,個別の「Zone」が「電子ドキュメン
ト」に相当するとはいい難い。これは本件発明3の「アイテムのリス
ト」についても同様である。
(イ)仮に,「Zone」が1つの「電子ドキュメント」に相当するとしても,
本件発明は,従来技術において,「並進移動がユーザの意図を反映しな
い場合には,ユーザにフラストレーションを招く。」(本件明細書【0
005】)という課題があったのに対し,「より透過的で且つ直感的な
ユーザインターフェイスを設ける」(【0006】)ことで課題を解決
しようとするものであり,そのような発明の目的に照らすと,電子ドキ
ュメントの縁に到達すると縁を越えるエリアを表示する意義(構成要件
I1及びI2)は,ユーザに表示情報の終端に到達し,それ以上移動し
ようとしても新たな情報が得られないことを明らかにし,無駄な移動を
試みることを防止することにあると解される。
そうすると,乙7号証の図2-3では,当初の「Zone」の終端に到達
した際に,隣接する「Zone」が表示されているから,構成要件I1及び
I2の「縁」に到達したものとみることができないし,「縁を越えるエ
リア」が表示されているともいえない。これは,本件発明3の「末端」
及び「末端を越えるエリア」についても同様である。
(ウ)以上のとおり,公然実施発明2は,本件発明と同一ではない。
オ小括
したがって,公然実施発明1及び2は,いずれも本件発明と同一ではな
いから,公然実施に基づく新規性の欠如は認められない。
(3)乙11号証に基づく新規性・進歩性の欠如(争点3-3)について
ア乙11号証は,平成15年12月5日に公開された公開特許公報(特開
2003-345491)であり,本件発明に係る特許の最先の優先日で
ある平成19年(2007年)1月7日より前に頒布された刊行物である。
乙11号証には,以下の記載がある(乙11の図4については,別紙乙
11号証の図面参照)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,たとえば液晶パネル上にタッチパ
ネルを設けて形成される表示入力装置と,その表示入力装置を使用した表
示入力方法,その表示入力方法のプログラムおよびそのプログラムを記録
した記録媒体とに関し,特に画面サイズが小さな携帯端末等において,画
面サイズに対して大きなサイズを持つ画像を閲覧する際の操作に関するも
のである。
【0002】
【従来の技術】PDA(PersonalDigitalAssistants)と称される携帯
情報端末などでは,前記液晶パネルなどの画像表示手段の画面上に,前記
タッチパネルなどの透明な入力手段が設けられ,前記タッチパネルとスタ
イラス(ペン)との組合せで,専用の機能キーなどを配置することなく,
多くの操作を実現できるように工夫されている。一方,前記PDAは,そ
の大きさから,表示画面のサイズはパーソナルコンピュータ等に比べて小
さなサイズとなる。ところが,表示画面の解像度は向上しつつあり,高精
細化が進んでいる。このため,ある程度縮小された画像でも,認識できる
形で,一度に多くの情報を表示できるようになった。
【0003】しかしながら,表示された画像の一部が小さすぎて見難い
ような場合もあり,その場合には,表示倍率を変化させて所望の大きさに
変更することが行われる。たとえば,メニューなどで拡大機能を選択し,
表示されている画像の拡大したい部分を囲むようにスタイラスによって指
定する場合がある。すなわち,先ず初めに始点をスタイラスの先端で触れ,
そのままスタイラスを画面から離さずに移動(ドラッグ)させると,その
始点と現在のスタイラスの先端が触れている点を終点とする直線を対角線
とする四角形が描画される。スタイラス先端を画面から離すことでその終
点が確定され,選択された四角形の領域が表示画面の中心に来るように拡
大され,再描画されるというものである。
【0004】または,一定倍率が予め定められており,スタイラスでタ
ップ(画面を軽くたたく)した点を中心にして,その一定の倍率で拡大さ
れ,再描画されるものもある。この場合,一度のタップで所望の拡大画像
が表示されない場合は,タップを繰返すことで所望の大きさまで拡大する
ことが可能である。もしくは,メニューを開き,そこから直接倍率を選択
することによって画像を拡大して表示する場合もある。
【0005】そして,以上のようにして拡大した画像を移動させたい場
合は,移動機能を選択した状態で,スタイラスでパニングを行うことで画
像を任意の位置に移動させ,所望とする画像の一部分を画面に拡大表示す
ることができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで,前記拡大表示の状態では,
等倍の画像サイズに比べて,画面外に隠れてしまう領域は相対的に広くな
る。したがって,前記パニング操作を行うにあたって,近傍への移動は問
題ないけれども,たとえば画像の上側を表示している状態から,下側を表
示させたい場合のように,画面の一方の端から他方の端へ移動させる場合,
前記拡大表示のままでは,移動距離が長くなってしまうという問題がある。
このため,パニング操作を入力するスタイラスのストローク回数が増加す
る。
【0007】もしくは,一度拡大表示を解除,または縮小機能を選択し
て倍率を下げて,画面に収まる画像の範囲を相対的に広くした後,前記パ
ニング操作を行い,その後に再び拡大表示に切換え,所望の拡大画像を得
るという煩雑な操作を行う必要がある。したがってこの場合には,現在の
表示状態に対して,所望とする画像を捜出すために,どの操作を行うかと
いった事を決定するための機能切換えの操作が介入し,やはり操作が煩雑
になる。
【0008】以上のように,従来のパニング操作の手法では,一連の作
業がスムーズに進まないという問題がある。
【0009】本発明の目的は,所望とする画像を,簡単な操作で捜出す
ことができる表示入力装置,表示入力方法,プログラムおよび記録媒体を
提供することである。」
「【0024】また,本発明の表示入力プログラムは,前記の表示入力方
法をコンピュータに実行させることを特徴とする。」
「【0029】図1は,本発明の実施の一形態の表示入力装置であるPD
A1の電気的構成を示すブロック図である。このPDA1は,大略的に,
制御部2と,画像データ作成部3と,表示部4と,入力部5と,領域判定
部6と,計時部7と,縮尺変更部8とを備えて構成される。前記制御部2
は,該PDA1のCPU(中央演算処理装置)であり,各部の制御を行う。
前記画像データ作成部3は,表示すべきデータ等を記憶するフラッシュR
OMやRAM等のメモリで実現される。前記表示部4は,前記液晶表示装
置などを備えて構成される。
【0030】前記入力部5は,各種の機能キーとともに,前記タッチパ
ネルとスタイラスとで構成される。なお,前記タッチパネルには,電磁誘
導方式,電磁授受方式,抵抗感圧方式,静電結合方式,音響方式,光学方
式等など,どのような方式を採用しても構わない。」
「【0034】そこで,この図3(b)で示すような画像を,通常,パニ
ングで移動させるとストロークに対応した分量だけ画面をスクロールした
効果が得られる。なお,ここで言うストロークとは,タッチパネルにスタ
イラス12の先端を押付け,そのままタッチパネル上を移動させた後,タ
ッチパネルからスタイラス12の先端を離す,という一連の操作のことを
意味し,マウスのドラッグ操作に対応するものである。
【0035】しかしながら,そのようなストローク操作は前述のように
煩雑であり,本発明では,ストローク操作で画像を移動させるにあたって,
図3(b)において斜線を施して示すように,表示部4の外周部に,縮尺
変更指示領域23を設定し,前記ストローク操作の開始点がこの縮尺変更
指示領域23内に存在する場合には,パニング(平行移動やスクロール)
とともに,表示画像を縮小する。なお,前記縮尺変更指示領域23は,図
面の説明上,前記斜線を施して示しているものであり,実際の表示画面に
は,そのような斜線は表示されない。しかしながら,該縮尺変更指示領域
23の範囲を操作者に認識させるために,参照符23aで示す内周側の境
界線程度は表示するようにしてもよい。この縮尺変更指示領域23は,最
低限スタイラス12の先端でタップして指定できる程度のドット数を必要
とするが,ドット数を取りすぎても通常のストローク操作を入力する範囲
が減少するので,画面サイズや解像度を考慮して,操作性を損なわないよ
うに設定される。たとえば,表示部4が240ドット×360ドットで構
成される場合,画面の4辺から,それぞれ30ドット程度の幅で設定され
る。
【0036】図4は,上述の縮尺変更を伴った本発明のパニング操作の
一連の流れを示す図である。図4(a)は初期状態であり,前記図3
(a)と同様である。上述のように縮尺変更指示領域23の内部に位置す
る点を開始点として,参照符25で示すようにストローク操作を開始する
と,図4(b)で示すように縮尺変更が行われ,前記図4(a)の初期状
態における枠22で示す画面サイズに対応した領域の範囲を示す枠24が
表示される。
【0037】前記枠22は,実際の画面のサイズを表している。したが
って,該枠22の範囲内にある部分が実際の画面に表示されている画像の
領域となる。したがって,スタイラス12の位置はパニングの操作に伴い
移動するものなので,該枠22の範囲内のどこかにいるが,中心とは限ら
ない。また,枠22は実画面の枠自身であるので,表示非表示は関係ない。
【0038】スタイラス12の移動(ストローク操作)が続くと,縮尺
がさらに小さくなり,図4(c)では,1/2に達している。前記縮尺の
限界値が,たとえばこの1/2に設定されていると,これ以上縮尺が変更
されることはないので,スタイラス12がさらに移動されても,図4
(d)で示すように,縮尺は変化しない。前記図4(d)で目的の表示領
域が合わせられ,予め定める時間,たとえば2秒が経過しても移動されな
い場合には,図4(e)で示すように縮尺が初期の状態に戻り,参照符2
4で示す領域の画像が画面サイズ一杯に拡大表示される。
【0039】なお,前記縮尺は,上述のようにストローク距離に応じて
変化されるけれども,前記限界値に達する前にストローク操作を終了する
と,前記予め定める時間内はその縮尺が保持されている。そのため,前記
縮尺変更指示領域23に含まれない点を開始点としてストローク操作を再
開すると,そのままの縮尺を保ちつつ,通常のパニング操作を行うことが
できる。一方,前記縮尺変更指示領域23に含まれる点を開始点としてス
トローク操作を再開すると,前記限界値まで縮尺が変更されつつ,パニン
グ操作を行うことができる。」
「【0042】図6は,上述のような本発明のパニング処理の動作を説明
するためのフローチャートである。ステップS1で,入力部5のスタイラ
ス12およびタッチパネルによってストローク操作が開始されると,ステ
ップS2において,領域判定部6は,ストローク開始点が前記縮尺変更指
示領域23の内側であるか,外側であるかを判定し,縮尺変更指示領域2
3の内側であると判定された場合はステップS3へ進み,外側であると判
定された場合はステップS5へと進む。
【0043】ステップS3では,画像データ作成部3から,ストローク
に対応した画像データが読出され,その画像データを縮尺変更部8が縮小
することで,パンニング操作の処理と,縮尺変更の処理とが行われる。さ
らに,縮尺変更が開始されると,前記図4(b)~図4(d)で示すよう
に,枠24が画面内に表示される。これは,前述のように縮尺変更が始ま
る前に表示されていた範囲を示すもので,縮尺が大きくなることで比例し
て小さくなってゆく。最終的にこの枠24内の領域が,縮尺が元に戻った
場合に表示される領域となる。すなわち,枠24を設けることで,最終的
に表示される範囲に目的の範囲が収まるように確認しながら,最終的に目
的とする領域の検索が可能になり,操作性の向上に寄与することができる。
【0044】次に,ステップS4では,ストローク操作が終了している
か否か,すなわちスタイラス12の先端がタッチパネルから離されたか否
かの判定を行い,引続きスタイラス12が移動している場合には前記ステ
ップS3に戻ってパニング処理を継続し,ストローク操作が終了している
場合にはステップS7に移る。一方,ステップS5においては通常のパニ
ング操作として処理され,縮尺の変更が行われずに,ストローク操作に応
答した画像の移動だけが行われる。ステップS6では,前記ステップS4
と同様に,ストローク操作が終了しているか否かが判断され,終了してい
ない場合には前記ステップS3に戻ってパニング処理が継続され,ストロ
ーク操作が終了している場合にはステップS7に移る。
【0045】前記ステップS7では,計時部7によってストローク操作
を終了してからの時間が計測されており,前記予め定める一定時間内にス
トローク操作が再開されると前記ステップS2に戻り,前記一定時間が経
過するまでに再び次の操作が開始されない場合は,ステップS8に移り,
前記計時部7は縮尺変更部8へ信号を送信し,前記ステップS3,S4を
経由して縮尺が変更されている場合には,初期値(ステップS1の入力が
開始される直前の縮尺)に戻して処理を終了する。この縮尺が復帰するま
での前記一定時間も,操作者が設定できる機構を設けることで,該操作者
が自由に設定できるようにしてもよい。また,タップを検出する機構を設
け,タップされると縮尺を初期状態に戻すようにしてもよい。さらにまた,
縮尺を元に戻す場合は,一度に戻しても,または徐々に戻してもよい。」
「【0050】さらにまた,本発明は,上述した表示入力方法を,前記P
DA1などのコンピュータに実行させるためのプログラムであってもよい。
このプログラムをコンピュータにおいて実行すれば,上述した表示入力方
法を実行できるので,上述と同様の効果を得ることができる。また,本発
明は,前記のプログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体で
あってもよい。この記録媒体を,コンピュータにおいて読取って実行すれ
ば,上述した表示入力方法を実行できるので,上述と同様の効果を得るこ
とができる。このような構成によれば,パニング処理を行うプログラムを
記録した記録媒体を持ち運び自在に提供することができる。
【0051】前記構成において,前記記録媒体とは,ROMのようなメ
モリであってもよいし,または装置外部に備えられて接続された外部記録
装置であってもよいし,または装置外部に備えられて接続された外部読取
装置の記録媒体であってもよい。より詳細には,前記記録媒体は,装置本
体と分離可能に構成される記録媒体であって,磁気テープやカセットテー
プ等のテープ系,フロッピー(登録商標)ディスクやハードディスク等の
磁気ディスクやCD-ROM/MO/MD/DVD等の光ディスクのディ
スク系,ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系,あ
るいはマスクROM,EPROM(ErasableProgrammableReadOnly
Memory),EEPROM(ElectricallyErasableProgrammableRead
OnlyMemory),フラッシュROM等の半導体メモリなどであってもよい。
【0052】前記いずれの場合においても,前記プログラムは,マイク
ロプロセッサがアクセスして実行する構成であっても良いし,一旦図示し
ない記憶エリアに読込んだ後に実行する構成であってもよい。」
「【0060】また,本発明の表示入力装置は,以上のように,ストロー
ク操作が終了してから,予め定める時間が経過すると,その入力点を中心
として,自動的に元の倍率に復帰する。」
イ以上に基づいて,乙11号証に記載されている事項について検討する。
(ア)【0029】【0030】の記載によると,表示入力装置は,「タ
ッチパネル」「CPU(中央演算処理装置)」「表示すべきデータ等を
記憶するフラッシュROMやRAM等のメモリ」を有する。
(イ)【0024】の記載によると,表示入力装置は,「表示入力プログ
ラム」を有するが,【0050】【0051】の記載も併せると,RO
Mのような「メモリ」に記録されたプログラムを有し,表示入力装置の
プログラムはマイクロプロセッサにより実行され,このときCPUとマ
イクロプロセッサは同じ,又はCPUはマイクロプロセッサの一部であ
ると解される。
(ウ)【0036】【0037】【図4】の記載によると,表示入力装置
には符号24の領域が画面に表示される。
(エ)【0034】【0044】の記載によると,表示入力装置は,タッ
チパネルにスタイラス12の先端が押付けられているか離れているかを
判定し,スタイラス12のストローク操作を判定する。
(オ)【0036】~【0038】【0044】【図4】の記載によると,
表示入力装置は,ストローク操作に応答した画像の移動を行い,【図
4】(b)から【図4】(c)に符号22の領域が移動したときには,
符号24の領域は,【図4】(b)のときとは異なる部分を含んでいる。
そして,【0038】【0043】の記載によると,縮尺の限界値に達
するとそれ以上の縮尺の変更はされない(【図4】(c)(d)で限界
値に達したときに画面に表示されるのは符号24の領域である。)。ま
た,【0038】【0044】【0060】の記載によると,ストロー
ク操作が終了しているときには,その入力点を中心として自動的に元の
倍率に復帰する。
(カ)【0036】~【0039】の記載によると,【図4】(a)は,
スタイラス12の押付けを開始する前の状態を説明するものであり,符
号22は,実際に画面に表示されている状態を意味し,符号23の領域
内にスタイラス12を押付けると縮尺が変更できる。符号25はスタイ
ラスのストロークを説明する矢印である。
【図4】(b)は,縮尺の変更をしている最中の図を意味する。符号
22はスタイラスの押付けを開始した時点で表示されていた領域を意味
し,符号24は縮尺変更が開始された後の現在表示されている画像を意
味する。スタイラス12を離すと,それまで表示されていた符号24の
範囲から符号22の範囲に表示内容が変更されるものと解される。
【図4】(c)は,縮尺の限界値に達した場合に例を示している。実
施例では縮尺の限界値は1/2となっている。
【図4】(d)は,【図4】(c)の状態でスタイラス12を更に移
動し,目的の表示領域に合わせた状態を説明する。【図4】(c)
(d)において符号22,24の説明はないが,これまでものと同じ意
味であると解される。【図4】(c)では,スタイラスの移動を検出す
るのに応答して,タッチパネルに表示された【図4】(b)の画像が左
上方向に移動して,符号24の表示領域の画像が異なる画像となってい
る。【図4】(d)の記載においては,枠24,該枠24の画像,原画
像1/2の縮尺画像の一部とその端部,及び,原画像21の1/2縮尺
画像を越える領域が枠22内に示されている。
【図4】(e)は,【図4】(d)の状態でスタイラスを2秒以上移
動しなかった場合に縮尺が解除された状態を説明する図であると解され
る。【図4】(e)の符号22は,【図4】(d)符号24で指定され
ている範囲を拡大表示したものである。
ウ以上に照らすと,引用発明1(乙11号証に記載された発明)は,以下
のとおりである。
「タッチパネルと,
マイクロプロセッサと,
メモリと,
1つ以上のプログラムと,を備え,
前記1つ以上のプログラムは,前記メモリに記憶されて,前記マイクロ
プロセッサにより実行されるように構成され,前記プログラムは,
画像の第1部分を表示するための処理と
タッチパネル上におけるスタイラスのストロークを検知するための処理
と,
前記ストロークの検出に応答して,タッチパネル上に表示された前記画
像を第1の方向に移動して,前記画像の前記第1の部分とは異なる第2の
部分を表示するための処理と,
前記タッチパネル上でスタイラスがまだ検出されている間に前記画像を
斜め左上方向に移動する間に前記画像の縁に到達するのに応答して,前記
画像の縁を越えるエリアを表示し,当初の画像よりも小さい画像を表示す
る処理と,
前記タッチパネル上でスタイラスがもはやストロークしてないことに応
答して,入力点を中心として自動的に元の倍率に復帰する処理と
を含む表示入力装置。」
エそこで,引用発明1と本件発明1を対比すると,引用発明1の「タッチ
パネル」は,本件発明1の「タッチスクリーンディスプレイ」に相当し,
以下同様に,「マイクロプロセッサ」は「1つ以上のプロセッサ」に,
「メモリ」は「メモリ」に,「1つ以上のプログラム」は「1つ以上のプ
ログラム」に,「前記1つ以上のプログラムは,前記メモリに記憶されて,
前記マイクロプロセッサにより実行されるように構成され,前記プログラ
ムは,」は本件発明1の同様の構成に,「画像」は「電子ドキュメント」
に,「画像の第1部分を表示すること」は「電子ドキュメントの第1部分
を表示すること」に,「スタイラス」は「オブジェクト」に,「ストロー
ク」は「移動」に,「タッチパネル上のスタイラスのストロークを検知す
る」ことは,「タッチスクリーンディスプレイ上でオブジェクトの移動を
検出する」ことに,「前記ストロークの検出に応答して,タッチパネル上
に表示された前記画像を第1の方向に移動して,前記画像の前記第1の部
分とは異なる第2の部分を表示すること」は,本件発明1の「前記移動を
検出することに応答して,前記タッチスクリーンディスプレイに表示され
た前記電子ドキュメントを第1方向に徐々に移動して,前記電子ドキュメ
ントの前記第1部分とは異なる第2部分を表示すること」に,「前記タッ
チパネル上でスタイラスがまだ検出されている間に前記画像を斜め左上方
向に移動する間に前記画像の縁に到達するのに応答して,前記画像の縁を
越えるエリアを表示し,当初の画像よりも小さい画像を表示する」ことは
「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近でオブジェクトがま
だ検出されている間に前記電子ドキュメントを前記第1方向に移動する間
に前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して,前記電子ドキュメ
ントの縁を越えるエリアを表示し,且つ前記電子ドキュメントの前記第1
部分より小さい第3部分を表示すること」に,各「処理」はその処理をす
るための「インストラクション」が存在することに,「表示入力装置」は
「装置」にそれぞれ相当する。
オ乙11号証の記載によれば,スタイラスのストローク操作中,表示入力
装置のタッチパネルに表示される画像は,【図4】(b)~【図4】
(d)の符号22で示される部分である(【0043】には「前記図4
(b)~図4(d)で示すように,枠24が画面内に表示される。」と記
載されているが,これは,例えば図(d)において,枠24が枠22の画
面の内部にその一部として表示されることを示しているものと解され
る。)。
そして,【図4】(d)から(e)への移行の際に,(d)で示された
1/2縮尺画像24を越える領域である縁を越えるエリアが,画像の拡大
により図(e)では消失しているから,このような画像の拡大による縁を
越えるエリアの消失が,本件発明1の構成要件J1に相当するかが問題と
なる。
この点について,被告らは,本件発明1の「移動」にスケーリング(拡
大又は縮小)が含まれる場合がある旨主張する。確かに,本件明細書中に
は,スケーリング(拡大又は縮小)についての記載がある部分がある(例
えば,【0001】【0004】~【0006】等)。しかし,そのこと
と,それが本件発明1についての記載であるかは別のことであるから,本
件発明1の技術的意義に照らして,本件発明1がスケーリング(拡大又は
縮小)を移動の態様とする場合を含むかについて検討する必要がある。
そこで,検討するに,構成要件G1の「前記タッチスクリーンディスプ
レイ上又はその付近でオブジェクトの移動を検出するためのインストラク
ション」は,オブジェクトの移動であるから,被告らの主張する「拡大」
「縮小」とは無関係である。構成要件H1の「前記移動を検出するのに応
答して,前記タッチスクリーンディスプレイに表示された前記電子ドキュ
メントを第1方向に徐々に移動して,前記電子ドキュメントの前記第1部
分とは異なる第2部分を表示するためのインストラクション」では,移動
を「拡大」と解釈すると,第1部分を拡大することを意味することになる
と解されるが,「第1部分とは異なる第2部分」との関係で矛盾が生じる。
構成要件I1の「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近でオ
ブジェクトがまだ検出されている間に前記電子ドキュメントを前記第1方
向に移動する間に前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して,前
記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示し,且つ前記電子ドキュメ
ントの前記第1部分より小さい第3部分を表示するためのインストラクシ
ョン」についても,拡大する間に「電子ドキュメントの縁に到達」するこ
とはあり得ず,また,縮小することによって電子ドキュメントの縁が表示
されるに到ったとしても,「縁に到達する」という文言とは合致しない。
このように,構成要件J1の「移動」を「拡大又は縮小」による態様のも
のを含むものと解釈すると,本件発明1の他の構成要件の記載と整合しな
いし,本件明細書中にも,構成要件J1について,そこにいう「移動」が
「拡大又は縮小」による態様を含むような記載は見当たらない。
そうすると,本件発明1の構成要件J1の「移動」に「拡大又は縮小」
の態様によるものを含むものと解することはできない。
カ以上に照らすと,本件発明1と引用発明1の一致点・相違点は次のとお
りである。
【一致点】
「タッチスクリーンディスプレイと,
1つ以上のプロセッサと,
メモリと,
1つ以上のプログラムと,を備え,
前記1つ以上のプログラムは,前記メモリに記憶されて,前記1つ以上
のプロセッサにより実行されるように構成され,前記プログラムは,
電子ドキュメントの第1部分を表示するためのインストラクションと,
前記タッチスクリーンディスプレイ上でオブジェクトの移動を検出する
ためのインストラクションと,
前記移動を検出するのに応答して,前記タッチスクリーンディスプレイ
に表示された前記電子ドキュメントを第1方向に移動して,前記電子ドキ
ュメントの前記第1部分とは異なる第2部分を表示するためのインストラ
クションと,
を含む,装置。」
【相違点1】
電子ドキュメントの第1の移動について,本件発明1では電子ドキュメ
ントが「徐々に」移動するのに対し,引用発明1にはそのような構成が記
載されていない点。
【相違点2】
本件発明1では,「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近
にオブジェクトがもはやないことを検出するのに応答して,前記電子ドキ
ュメントの縁を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで前記電子ドキ
ュメントを第2方向に徐々に移動して,前記電子ドキュメントの第1部分
とは異なる第4部分を表示するためのインストラクション」を含むのに対
し,引用発明1にはそのような構成が記載されていない点。
キ続いて,上記の相違点について検討する。
(ア)まず,相違点1については,本件明細書で「徐々に」について具体
的な構成・効果を説明するものではなく,「徐々に」との用語を使用す
ることにより,瞬間的な移動を排除するという以上の技術的な特徴を表
しているとはいえない。
そうすると,単なる文言上の差異にすぎないものであるから,相違点
1は,実質的な相違点ではない。
(イ)次に,相違点2について検討するに,本件発明1の構成要件J1に
相当する部分の存否は実質的相違点である。そこで,この相違点につい
て,当業者が乙11発明から本件発明1を容易に想到できたかについて
検討するに,本件発明1の課題は,スクロール又は並進移動がユーザの
意図を反映しない場合には,ユーザにフラストレーションを招くことか
ら,使用,構成及び/又は適応が容易な,より透過的で且つ直感的なユ
ーザインターフェイスを設けること(甲の【0005】【0006】)
である。これに対し,乙11発明の課題は,パニング操作をするに当た
って,スタイラスのストローク回数が増加することや拡大,縮小の切換
えのために煩雑な操作を要するというパニング操作上の難点を解消する
ことにある(乙11の【0006】~【0008】)。そうすると,両
者はその課題を異にするものであって,当業者が乙11発明から本件発
明1に想到することが容易であるとはいえない。
(ウ)以上のとおり,本件発明1は,引用発明1と同一であるとは認めら
れないし,引用発明1に基づいて,当業者が本件発明1を容易に想到し
得たとは認められない。
ク続いて,本件発明2及び3について検討する。
引用発明1と本件発明2を対比すると,引用発明1は,構成要件J2の
「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近にオブジェクトがも
はやないことを検出するのに応答して,前記電子ドキュメントの縁を越え
るエリアがもはや表示されなくなるまで,前記ドキュメントを第2方向に
徐々に移動するためのインストラクションと,」が記載されていない点で
相違する。
また,引用発明1と本件発明3を対比すると,引用発明1は,構成要件
J3「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近にオブジェクト
がもはやないことを検出するのに応答して,前記リストの末端を越えるエ
リアがもはや表示されなくなるまで,前記第1方向とは逆の第2方向に前
記リストをスクロールするためのインストラクションと,」が記載されて
いない点で相違する。
これらの相違点は,本件発明1についての相違点2と実質的に同じもの
である。
そうすると,本件発明2及び3は,引用発明1と同一であるとは認めら
れないし,引用発明1に基づいて,当業者が本件発明2及び3を容易に想
到し得たとは認められない。
(4)乙13号証に基づく新規性・進歩性の欠如(争点3-4)について
ア乙13号証は,平成15年(2003年)10月2日に国際公開された
国際公開公報(WO03/081458)であり,本件発明に係る特許
の最先の優先日である平成19年(2007年)1月7日より前に頒布さ
れた刊行物である。
乙13号証には,以下の記載がある(乙13の図14Bについては,別
紙乙13号証の図面参照)。
(ア)「ディスプレイはタッチスクリーン…を含み得る…」(The
displaymayincludeatouchscreen…)(3頁10行)
(イ)「小さいディスプレイ又はディスプレイウィンドウを持つデバイス,
例えば,PDA,電話,ハンドヘルドコンピュータ,又は電子書籍…」
(…adevicehavingasmalldisplayorasmalldisplaywindow,
suchas,forexample,aPDA,atelephone,ahandheldcomputer,
oranelectronicbook,…)(1頁16~18行)
(ウ)「ディスプレイのディスプレイウィンドウに電子ドキュメントを表
示する。」(…viewinganelectronicdocumentinadisplaywindow
ofadisplay…)(21頁3~4行)
(エ)「ディスプレイ上の指示は,ディスプレイ上の入力手段の動きを追
(うこと)を含む」(…navigatingonadisplayincludestracking
motionofaninputtoolonadisplay,…)(3頁1~2行)
(オ)「ディスプレイ上の指示は,ディスプレイ上の入力手段の動きを追
い,そして,入力手段の動きとしきい値を比較し,動きがしきい値を超
えた場合はディスプレイ上の情報のページの見える部分の位置を変える
ことを含む」(…navigatingonadisplayincludestrackingmotion
ofaninputtoolonadisplay,comparingthemotionoftheinput
tooltoathreshold,changingthepositionofthevisible
portionofapageofinformationonthedisplayifthemotion
exceedsthethreshold,…)(3頁1~4行)
(カ)「図6を参照すると,その他にPDAに共通する指示手段の特徴は,
ディスプレイウィンドウ605上にスタイラス600を置き,そしてス
タイラス600をドラッグすることによりディスプレイウィンドウをス
クロールできることである。」(ReferringtoFig.6,another
commonPDAnavigationfeatureisthecapabilitytoscrollthe
displaywindowbyplacingastylus600onthedisplaywindow605
andthendraggingthestylus600.)(11頁27~29行)
(キ)「図14Bを参照すると,別の実施態様では,垂直整列コントロー
ルは,ユーザがディスプレイ1205からペン1200を持ち上げる時
に有効にされる。これは,ユーザがスクロールを止める時に,論理列1
220をディスプレイウィンドウ1205と整列した状態にはめ込ませ
る。ユーザは,たとえば,ユーザ定義のはめ込みしきい値に基づいて最
も近い論理列にはめ込むように整列コントロールをセットすることによ
って,はめ込み感度を調整することができる。ユーザのスクロールが,
そのしきい値を超えない場合には,これは,テキスト列1220を見続
ける意図を示し,ディスプレイ1205は,ペン1200がスクリーン
から持ち上げられると論理列1210をセンタリングする。ユーザのス
クロールが,そのしきい値を超える場合には,これは,論理列1220
の境界を超えて移動する意図を示し,ディスプレイは,隣接するまたは
再位置決めされた列にはめ込まれる。他の実施態様では,ユーザのスク
ロールがしきい値を超える時に,はめ込みは行われない。列に対するは
め込み機能をアニメートして,ディスプレイが列を表示する正しい位置
までスクロールするときの移動の外見を提供することもできる。
同様の水平整列コントロールを提供することもできる。そのようなコ
ントロールは,たとえばスプレッドシートアプリケーションで,水平に
スクロールする時に垂直移動を制限するのに使用することができる。」
(ReferringtoFig.14B,inanotherimplementation,thevertical
alignmentcontrolisenabledwhentheuserliftsthepen1200
fromthedisplay1205.Thiscausesthelogicalcolumn1220to
snapintoalignmentwiththedisplaywindow1205astheuser
stopsscrolling.Theusercanadjustthesnapsensitivityby,
forexample,settingthealignmentcontroltosnaptothe
nearestlogicalcolumnbasedonauser-definedsnapthreshold.
Iftheuser'sscrollingdoesnotexceedthethreshold,which
indicatesanintentiontocontinuetoviewthetextcolumn1220,
thedisplay1205centersthelogicalcolumn1210asthepen1200
isliftedfromthescreen.Iftheuser'sscrollingexceedsthe
threshold,whichindicatesanintentiontomovebeyondthe
boundaryofthelogicalcolumn1220,thedisplayissnappedto
theadjacentorrepositionedcolumn.Inotherimplementations,
nosnappingoccurswhentheuser'sscrollingexceedsthe
threshold.Thesnap-on-columnfeaturecanalsobeanimatedto
provideanappearanceofmovementasthedisplayscrollstothe
correctcolumn-viewingposition.
Asimilarhorizontalalignmentcontrolalsomaybeprovided.
Suchacontrolmaybeusedtolimitverticalmovementwhen
scrollinghorizontallyin,forexample,aspreadsheet
application.)(15頁18~16頁3行)
イ以上に基づいて,乙13号証に記載されている事項について検討する。
(ア)上記ア(ア)によると,デバイスはタッチスクリーンディスプレイを
有する。
(イ)上記ア(イ)に加え,乙13号証のその他の記載に照らすと,デバイ
スがプロセッサを,プロセッサが表示制御を行うためのプログラムを,
デバイスがプログラムを格納するメモリを有すると認めるのが相当であ
る。
(ウ)上記ア(ウ)に加え,図14等によると,デバイスが電子ドキュメン
トの第1の部分を表示する機能を有する。
(エ)上記ア(エ)に加え,図14によると,デバイスがタッチスクリーン
ディスプレイ上でペンの移動をトラッキングする機能を有する。
(オ)上記ア(オ)~(キ)に加え図6,図14によると,デバイスは移動を
トラッキングするのに応答して,タッチスクリーンディスプレイに表示
された電子ドキュメントを第1の方向に移動して,電子ドキュメントの
第1の部分とは異なる第2の部分を表示する機能を有する。
(カ)上記ア(キ)に加え,図14等によると,図14Bにおいて,黒色の
矢印線は,ユーザがペン1200を使って操作する軌跡であって,垂直
方向にスクロールさせようとしたときの水平方向のふらつき(ウォブリ
ング)を示しており,ユーザがペンを垂直方向に操作したとき,動作の
ふらつきの幅が所定値(しきい値)より小さければ,ディスプレイ12
05がふらつくことはあっても,ペンを持ち上げると画像がディスプレ
イ1205に表示され,他方,所定値(しきい値)を超えるとテキスト
コラム1215又は1225を表示するようにディスプレイ1205が
ジャンプするものと解される。
ウ以上に照らすと,引用発明2(乙13号証に記載された発明)は,以下
のとおりである。
「タッチスクリーンディスプレイと,
プロセッサと,
メモリと,
プログラムと,を備え,
前記プログラムは,メモリに記憶されて,プロセッサにより実行される
ように構成され,前記プログラムは,
電子ドキュメントの第1の部分を表示する機能と,
前記タッチスクリーンディスプレイ上でペンの移動をトラッキングする
機能と,
前記移動をトラッキングするのに応答して,タッチスクリーンディスプ
レイに表示された電子ドキュメントを第1の方向に移動して,電子ドキュ
メントの第1の部分とは異なる第2の部分を表示する機能と,
を含む,デバイス。」
エそこで,引用発明2と本件発明1を対比すると,引用発明2の「タッチ
スクリーンディスプレイと,プロセッサと,メモリと,プログラムと,を
備え,前記プログラムは,メモリに記憶されて,プロセッサにより実行さ
れるように構成され,前記プログラムは電子ドキュメントの第1の部分を
表示する機能と」の部分は,本件発明1の構成要件A1~F1に相当する。
引用発明2の「ペン」は本件発明1の「オブジェクト」に相当し,以下同
様に,それぞれ,「移動をトラッキング」は「移動を検出」に,「前記移
動をトラッキングするのに応答して,タッチスクリーンディスプレイに表
示された電子ドキュメントを第1の方向に移動して,電子ドキュメントの
第1の部分とは異なる第2の部分を表示する機能と」は本件発明1の構成
要件H1に,「デバイス」は「装置」相当する。
そうすると,本件発明1と引用発明2の一致点・相違点は次のとおりで
ある。
【一致点】
「タッチスクリーンディスプレイと,
1つ以上のプロセッサと,
メモリと,
1つ以上のプログラムと,を備え,
前記1つ以上のプログラムは,前記メモリに記憶されて,前記1つ以上
のプロセッサにより実行されるように構成され,前記プログラムは,
電子ドキュメントの第1部分を表示するためのインストラクションと,
前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近でオブジェクトの移
動を検出するためのインストラクションと,
前記移動を検出するのに応答して,前記タッチスクリーンディスプレイ
に表示された前記電子ドキュメントを第1方向に徐々に移動して,前記電
子ドキュメントの前記第1部分とは異なる第2部分を表示するためのイン
ストラクションと,
を含む,装置。」
【相違点1】
本件発明1では,デバイスが「前記タッチスクリーンディスプレイ上又
はその付近でオブジェクトがまだ検出されている間に前記電子ドキュメン
トを前記第1方向に移動する間に前記電子ドキュメントの縁に到達するの
に応答して,前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示し,且つ前
記電子ドキュメントの前記第1部分より小さい第3部分を表示するための
インストラクション」を有するのに対し,引用発明2では,そのような構
成は記載されていない点。
【相違点2】
本件発明1では,デバイスが「前記タッチスクリーンディスプレイ上又
はその付近にオブジェクトがもはやないことを検出するのに応答して,前
記電子ドキュメントの縁を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで前
記電子ドキュメントを第2方向に徐々に移動して,前記電子ドキュメント
の第1部分とは異なる第4部分を表示するためのインストラクション」を
有するのに対し,引用発明2では,そのような構成は記載されていない点。
オ被告らは,引用発明2の「コラム」が本件発明1の「電子ドキュメン
ト」に相当し,引用発明2においては,「表示部分がコラムの境界を越え
て移動するようにドラッグするとコラムの境界を越えた部分を表示する」
ことが本件発明1の構成要件I1に相当し,「ディスプレイからペンを持
ちあげるとコラムがディスプレイウィンドウにはめ込まれるように位置が
調整され,コラムの境界を越えた部分が表示されないようになり,この移
動の様子は表示される」ことが構成要件J1に相当する旨主張する。
確かに,乙13号証には,図14Bに関し,「ディスプレイ1205は,
ペン1210がスクリーンから持ち上げられると論理列1210をセンタ
リングする。ユーザのスクロールが,そのしきい値を超える場合には,こ
れは,論理列1220の境界を超えて移動する意図を示し,ディスプレイ
は,隣接するまたは再位置決めされた列にはめ込まれる。…列に対するは
め込み機能をアニメートして,ディスプレイが列を表示する正しい位置ま
でスクロールするときの移動の外見を提供することもできる。」などの記
載がある。しかしながら,引用発明2は,画面の小さいデバイスにおいて,
1つの画像を全体表示できない場合における表示方法やインターフェイス
の構成を課題にしていると解される。乙13号証では,PDAのように水
平方向に一画面表示できない場合において,図6のディスプレイウィンド
ウという概念に続いて,図7でテキストコラムを参照するのに適したディ
スプレイウィンドウ700を説明し,具体例として図8~10(ウィンド
ウは水平方向の移動に限定)を示している。さらに,これらを前提に,図
12で垂直方向の移動,図13でウォブリング(ふらつき)について言及
し,このとき「コラム」という概念を導入している(具体的な表示につい
ては別紙乙13号証の図面参照)。
以上に照らすと,引用発明2の「コラム」は,本来の画像の一部と解す
るのが相当であるから,図14B等を根拠として,「コラム」が本件発明
1の「電子ドキュメント」に相当し,引用発明2において,電子ドキュメ
ントの縁が表示され,電子ドキュメントの縁を越えるエリアがもはや表示
されなくなるまで徐々に移動することが開示されていると解することはで
きない。
カそうすると,引用発明2は,本件発明1と同一ではない。また,乙11
号証(引用発明1)には,相違点2の構成についての記載も示唆もないか
ら,引用発明2に引用発明1を適用して,当業者が本件発明1を容易に想
到し得たとは認められない。
キ続いて,本件発明2及び3について検討する。
引用発明2と本件発明2を対比すると,引用発明2は,構成要件I2の
「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近において前記オブジ
ェクトがまだ検出されている間に前記電子ドキュメントを第1方向に移動
する間に前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して,前記電子ド
キュメントの縁を越えるエリアを表示するためのインストラクション
と,」と,構成要件J2の「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はそ
の付近にオブジェクトがもはやないことを検出するのに応答して,前記電
子ドキュメントの縁を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで,前記
ドキュメントを第2方向に徐々に移動するためのインストラクション
と,」が記載されていない点で相違する。
また,引用発明2と本件発明3を対比すると,引用発明2は,構成要件
I3の「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近においてオブ
ジェクトがまだ検出されている間に前記リストを第1方向に移動する間に
前記リストの末端に到達した場合には前記リストの末端を越えるエリアを
表示するためのインストラクションと,」と,構成要件J3の「前記タッ
チスクリーンディスプレイ上又はその付近にオブジェクトがもはやないこ
とを検出するのに応答して,前記リストの末端を越えるエリアがもはや表
示されなくなるまで,前記第1方向とは逆の第2方向に前記リストをスク
ロールするためのインストラクションと,」が記載されていない点で相違
する。
そして,これらの相違点についての判断は上記カと同様である。
したがって,本件発明2及び3は,引用発明2と同一ではないし,引用
発明2に引用発明1を適用して,当業者が本件発明2及び3を容易に想到
し得たとは認められない。
(5)乙25号証に基づく進歩性の欠如(争点3-5)について
ア乙25号証は,平成3年12月3日に公開された公開特許公報(平3-
271976)であり,本件発明に係る特許の最先の優先日(平成19年
1月7日)より前に頒布された刊行物である。
乙25号証には,以下の記載がある。
(ア)「1.発明の名称電子辞書」(1頁・発明の名称)
(イ)「(作用)
上述した各手段を備えた本発明に係る電子辞書によれば,例えば文書
画像のような大画像を入力して表示しながら,その表示画像中から予め
パターンのまとまりを抽出し,パターンのまとまりを個々に表示するの
で,辞書検索の為のキーワードを求める為のパターン列の選択処理の負
担を大幅に軽減することができる。しかもこの際,熟語やハイフォネー
ション等にて分離したパターンを1つのパターンのまとまりとして扱う
ことができるので,辞書検索に用いられるキーワードを得る為のパター
ン選択を非常に簡易に,且つ適確に行うことが可能となる。
また入力された画像や,任意の入力情報,および辞書検索結果を,こ
れらの間で自由に編集して文書を作成することが可能となり,従って表
示画面上での知的処理を効果的に支援することが可能となる。更には検
索結果や背景情報を利用した幅広い練習問題の生成処理と,その模範解
答の生成等を効果的に行わせることが可能となる。」(4頁左下欄~同
頁右下欄「作用」の項)
(ウ)「補助情報(マウスカーソルとメニューとメッセージを含む)等を
表示する表示装置」(5頁左上欄2~4行)
(エ)「入力画像が上記画像表示領域3bを越えて大幅に大きいような場
合には,例えば入力画像を適宜縮小してその全部を表示するか,或いは
入力画像に対して画像表示領域3bをスクロール可能とし,第3図
(b)(c)に示すように画像表示領域3bからはみだす画像部分をス
クロール操作によって適宜見ることができるようにしておけば良い。」
(5頁左下欄2~8行)
(オ)「更にこの実施例では指定方向にそれ以上のスクロールが不可能な
場合には,その方向へのスクロールが不可能であることを使用者に知ら
しめるような表示制御が行われる。この表示制御は,例えば第5図に示
すように,スクロールの限界を示す為の境界線33や境界外領域34を
表示することにより実現される。このような境界線33や境界外領域3
4を表示すれば,利用者に対してスクロール不可能な方向を容易に知ら
しめることが可能となる。」(6頁右上欄17行~同頁左下欄5行)
(カ)「一方,上述したスクロールの操作機能を次のように実現しても良
い。例えば第8図に示すように表示画面3a上にスクロール操作用領域
3eを表示する。そしてこのスクロール操作用領域3eに入力画像の概
形Aを表示する。そして前記画像表示領域3bに現在表示中の部分画像
の範囲を示す図形Bを上記スクロール操作用領域3e内の概形Aに対応
付けて表示する。この図形Bを前述したマウスカーソルとして用い,マ
ウス操作により上記図形Bをスクロール操作用領域3e内で自由に動か
せるようにする。
しかしてこのような表示機能を用いれば,マウスカーソル(図形B)
を用いて概形Aに対する任意の領域を指定すれば,その指定された領域
の入力画像を前記画像表示領域3bに表示することが可能となる。」
(7頁右上欄10行~同頁左下欄5行)
(キ)「またマウスの機能をライトペン・タブレット・デジタイザなどの
他の指示機能を有する装置で実現しても良い。」(14頁左下欄4~6
行)
(ク)「(実施例)
以下,図面を参照して本発明の実施例に係る電子辞書について説明す
る。
第1図は本発明に係る電子辞書の基本的な全体構成図で,基本的には
次のような機能ブロックを備えて構成される。
第1図において,1は文書画像(原稿)の一部,または1枚乃至複数
枚の原稿からなる文書画像の全てを光電変換によって入力する画像入力
装置である。また,2は使用者により操作される,例えばマウス付きキ
ーボードからなる操作部,3は前記入力画像や後述する文字コード列,
および訳等の検索結果,…4は上記表示装置3で表示される情報を印刷
出力したり,前記検索結果を音声合成等により発生出力する出力装置で
ある。」(4頁右下欄10行~5頁左上欄6行,ただし摘記事項(c)
を除く。)
(ケ)「また7は前記入力画像や文字コード列,文字コード列に対する訳
等の検索結果,およびその他の情報を格納する為の主記憶装置,8は前
記入力画像や文字コード列,検索結果,およびその他の情報を適宜保存
する為の補助記憶装置である。そして9は本装置の全体を機能させる為
の制御を司る制御装置である。」(5頁左上欄13~19行)
イ以上に基づいて,乙25号証に記載されている事項について検討する。
(ア)上記ア(ウ)及び(ク)によると,電子辞書は「表示装置」を有する。
(イ)上記ア(ケ)によると,電子辞書は「制御装置」を有する。
(ウ)上記ア(ケ)に記載されている主記憶装置,補助記憶装置にはプログ
ラムが搭載されていることは記載されていないから,格納されている情
報を考慮すると,「情報」に類するものが格納されていると解される。
他方,制御装置は装置全体を機能させることができるものであるから,
少なくとも電子辞書には制御装置により装置全体を機能させるためのプ
ログラムとプログラムを格納するためのメモリが存在すると認められる。
(エ)上記ア(エ)等によると,電子辞書は画像の第1部分を表示する機能
を有する。
(オ)上記ア(ウ),(カ)~(ク)によると,電子辞書はライトペン・タブレ
ット・デジタイザなどの操作を検出する機能を有する。
(カ)上記ア(オ)~(キ)によると,電子辞書はライトペン・タブレット・
デジタイザなど操作により表示装置に表示された画像を第1の方向にス
クロールして,画像の前記第1部分とは異なる第2部分を表示する機能
を有する。
(キ)上記ア(オ)及び(キ)によると,電子辞書はライトペン・タブレッ
ト・デジタイザなどの操作が検出されている間に画像を第1の方向にス
クロールしそれ以上のスクロールが不可能な場合には,スクロールの限
界を示す為の境界外領域を表示する機能を有する。
ウ以上に照らすと,引用発明3(乙25号証に記載された発明)は,以下
のとおりである。
「表示装置と,
制御装置と,
メモリと,
プログラムと,を備え,
前記プログラムは,前記メモリに記憶されて,前記制御装置により実行
されるように構成され,前記プログラムは,
画像の第1部分を表示する機能と,
ライトペン・タブレット・デジタイザなどの操作を検出する機能と,
ライトペン・タブレット・デジタイザなど操作により表示装置に表示さ
れた画像を第1の方向にスクロールして,画像の前記第1部分とは異なる
第2部分を表示する機能と,
ライトペン・タブレット・デジタイザなど操作が検出されている間に画
像を第1の方向にスクロールしそれ以上のスクロールが不可能な場合には,
スクロールの限界を示す為の境界外領域を表示する機能と,
を含む,電子辞書。」
エそこで,引用発明3と本件発明1とを対比すると,引用発明3の「制御
装置」は本件発明1の「プロセッサ」に,「メモリ」は「メモリ」に,
「プログラム」は「プログラム」に相当する。「前記プログラムは,前記
メモリに記憶されて,前記制御装置により実行されるように構成され,前
記プログラムは」は,本件発明1の構成要件E1に相当する。以下同様に,
それぞれ「画像」は「電子ドキュメント」に,「画像の第1部分を表示す
ること」は構成要件F1の「電子ドキュメントの第1部分を表示するこ
と」に,「ライトペン・タブレット・デジタイザなど」は「オブジェク
ト」に,「ライトペン・タブレット・デジタイザなどの操作」は「オブジ
ェクトの移動」に,「ライトペン・タブレット・デジタイザなどの操作を
検出する」ことは「オブジェクトの移動を検出する」ことに,「ライトペ
ン・タブレット・デジタイザなど操作が検出されている間に画像を第1の
方向にスクロールしそれ以上のスクロールが不可能な場合には,スクロー
ルの限界を示す為の境界外領域を表示する」ことは「前記移動を検出する
のに応答して,前記タッチスクリーンディスプレイに表示された前記電子
ドキュメントを第1方向に徐々に移動して,前記ドキュメントの前記第1
部分とは異なる第2部分を表示する」ことに,「スクロールの限界を示す
為の境界外領域」は「電子ドキュメントの縁を越えるエリア」に,「ライ
トペン・タブレット・デジタイザなど操作が検出されている間に画像を第
1の方向にスクロールしそれ以上のスクロールが不可能な場合には,スク
ロールの限界を示す為の境界外領域を表示する」ことは,「オブジェクト
が検出されている間に・・・前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを
表示する」ことに,「機能」は「インストラクション」に,「電子辞書」
は「装置」に相当する。
また,引用発明3において,スクロールの限界を示す為の境界外領域を
表示するときには,第1部分より小さい第3部分を表示していることは明
らかである。
さらに,引用発明3の「表示装置」は,指示機能を有する装置が上記ア
(キ)のライトペン・タブレット・デジタイザなどの場合,いわゆるタッチ
パネルと同じ機能を備えることは当業者であれば理解できるから,引用発
明3の「表示装置」は本件発明1の「タッチスクリーンディスプレイ」に
相当する。
加えて,引用発明3のスクロールは,本件発明1の「移動」に含まれる
と解釈できるから,本件発明1の「移動」に相当する。乙25号証には
「徐々に移動」について明記されていないものの,本件明細書で「徐々
に」について具体的な構成・効果を説明するものではなく,「徐々に」と
の用語を使用することにより瞬間的移動を排除する以外の技術的な特徴を
表しているとはいえないから,単なる文言上の差異にすぎないものであっ
て,本件発明1と引用発明3とは,この点で実質的に相違するものではな
いと認められる。
そうすると,本件発明1と引用発明3の一致点・相違点は次のとおりで
ある。
【一致点】
「タッチスクリーンディスプレイと,
プロセッサと,
メモリと,
プログラムと,を備え,
前記1つ以上のプログラムは,前記メモリに記憶されて,前記1つ以上
のプロセッサにより実行されるように構成され,前記プログラムは,
電子ドキュメントの第1部分を表示するためのインストラクションと,
前記タッチスクリーンディスプレイ上でオブジェクトの移動を検出する
ためのインストラクションと,
前記移動を検出するのに応答して,前記タッチスクリーンディスプレイ
に表示された前記電子ドキュメントを第1方向に移動して,前記電子ドキ
ュメントの前記第1部分とは異なる第2部分を表示するためのインストラ
クションと,
前記タッチスクリーンディスプレイ上でオブジェクトがまだ検出されて
いる間に前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示し,且つ前記電
子ドキュメントの前記第1部分より小さい第3部分を表示するためのイン
ストラクションと,
を含む,装置。」
【相違点1】
電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示するのは,本件発明1では
「前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答」するときであるのに対
し,引用発明3では「それ以上のスクロールが不可能な場合」である点。
【相違点2】
本件発明1では装置に「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその
付近にオブジェクトがもはやないことを検出するのに応答して,前記電子
ドキュメントの縁を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで前記電子
ドキュメントを第2方向に徐々に移動して,前記電子ドキュメントの第1
部分とは異なる第4部分を表示するためのインストラクション」が含まれ
るのに対し,引用発明3にはそのような構成は記載されていない点。
オ上記相違点について検討する。
(ア)まず,相違点1について検討するに,引用発明3において,スクロ
ール指示があるときに,それ以上スクロールが不可能であるとの判定を
する必要があることは当業者であれば理解できる。
そして,上記ア(カ)を参照すると,引用発明3においては,マウスカ
ーソルをスクロール操作用領域内で自由に動かせるのに対し,本件発明
1においても「縁」を検出するために電子ドキュメントの領域を把握し
ておくことが必要である点で,両者に格別の相違はないと解される。
そうすると,領域を越えたか否かを判定するための具体的な手法とし
て,「縁」に到達したか否かを検知する構成とすることは当業者が適宜
行うことができたものである。
したがって,相違点1は,当業者が容易に構成し得たものである。
(イ)続いて,相違点2について検討するに,この点について,被告らは,
相違点2は,公然実施発明1(ないし公然実施発明2,引用発明1又は
2)において開示されている位置合わせを適用することで直ちに解消す
ると主張する。
しかし,乙25号証には電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示
した後のことについては何ら言及されていない。すなわち,乙25号証
は,境界線や境界外領域を表示することによって,利用者に対しスクロ
ール不可能な方向を容易に知らしめようとするものであって,オブジェ
クトが検出されなくなると電子ドキュメントが反対方向へ徐々に移動し
て縁を越えるエリアが消失する構成については,記載も示唆もない。し
たがって,そもそも上記公然実施発明1等を適用する動機付けがない。
この点を措いて検討してみても,上記(2)ウのとおり,公然実施発明
1(LaunchTileのメールリスト表示)について,乙7号証の図1-3及
び図1-4をみると,「リストの最下端を越えるエリア」が表示され,
スタイラスをタッチスクリーンから外すと,リストが下方向に移動して,
「リストの最下端を越えるエリア」が表示されなくなるように見受けら
れるが,当該動作は,メールのリストと青色のバーとが重なっている部
分があると,自動的にリストがスクロール(スナップバック)という動
作にすぎないと解されるのであり,その動作の目的も本件発明1とは明
らかに異なると解される。
そうすると,引用発明3に公然実施発明1を適用することによって相
違点2に係る構成を容易に想到し得たとは認められない。また,公然実
施発明2,引用発明1及び2には,相違点2に係る構成についての記載
も示唆もない。
したがって,当業者が容易に相違点2に係る構成に想到し得たとは認
められない。
(ウ)以上のとおり,引用発明2に公然実施発明1及び2並びに引用発明
1及び2を適用して,当業者が本件発明1を容易に想到し得たとは認め
られない。
カ続いて,本件発明2及び3について検討する。
引用発明3と本件発明2を対比すると,引用発明3は,本件発明2の構
成要件I2の「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近におい
て前記オブジェクトがまだ検出されている間に前記電子ドキュメントを第
1方向に移動する間に前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して,
前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示するためのインストラク
ションと,」と,構成要件J2の「前記タッチスクリーンディスプレイ上
又はその付近にオブジェクトがもはやないことを検出するのに応答して,
前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで,
前記ドキュメントを第2方向に徐々に移動するためのインストラクション
と,」が記載されていない点で相違する。
また,引用発明3と本件発明3を対比すると,引用発明3は,本件発明
3の構成要件I3の「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近
においてオブジェクトがまだ検出されている間に前記リストを第1方向に
移動する間に前記リストの末端に到達した場合には前記リストの末端を越
えるエリアを表示するためのインストラクションと,」と,構成要件J3
の「前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近にオブジェクトが
もはやないことを検出するのに応答して,前記リストの末端を越えるエリ
アがもはや表示されなくなるまで,前記第1方向とは逆の第2方向に前記
リストをスクロールするためのインストラクションと,」が記載されてい
ない点で相違する。
そして,これらの相違点についての判断は上記オと同様である。
したがって,本件発明2及び3は,引用発明3に公然実施発明1及び2
並びに引用発明1及び2を適用して,当業者が本件発明2及び3を容易に
想到し得たとは認められない。
(6)その他進歩性の欠如(争点3-6)について
ア被告らは,公然実施発明2又は引用発明2を主引例として,引用発明3
を適用することにより,本件発明の進歩性が欠如する旨主張する。これに
対し,原告は,被告らの主張は,時機に後れた攻撃防御方法である旨主張
する。
確かに,被告らの主張は,本件訴訟の提訴日(平成23年8月23日)
から1年6か月以上経過した平成25年3月14日の第10回弁論準備手
続期日に陳述されたものである。その間,実際の審理としては,本件発明
に係る侵害論及び無効論を経て,上記弁論準備手続期日の時点では,本件
発明の従属項に係る侵害論及び無効論の終了が見込まれる状況であったの
であり,原告が時機に後れた攻撃防御方法であると主張することも理解で
きないではない。しかし,当裁判所は,被告らの主張について判断するこ
とができることから,時機に後れた攻撃防御方法として却下はせず,この
点について判断することとする。
イまず,公然実施発明2を主引例とする場合について検討するに,被告ら
は,LaunchTileの「Zone」が本件発明1及び2の「電子ドキュメント」に
相当する旨主張する。
しかしながら,上記(2)エのとおり,LaunchTileの「Zone」は,本件発
明1及び2の「電子ドキュメント」に相当するとはいい難いことは既に判
断したとおりである。仮に,「Zone」が1つの「電子ドキュメント」に相
当するとしても,当初の「Zone」の終端に到達した際に,隣接する
「Zone」が表示されているから,構成要件I1及びI2の「縁」に到達し
たものとみることができないし,「縁を越えるエリア」が表示されている
ともいえない。
以上に照らすと,公然実施発明2には,「縁を越えるエリア」を表示さ
せる動機が存在しない。また,仮に公然実施発明2に引用発明3を適用し
たとしても,「Zone」の動作が特定されるにすぎない。
したがって,公然実施発明2に引用発明3を適用して,本件発明1及び
2を容易に想到し得たとは認められない。これは本件発明3についても同
様である。
ウ続いて,引用発明2を主引例とする場合について検討するに,被告らは,
引用発明2の「コラム」が本件発明1及び2の「電子ドキュメント」に相
当する旨主張する。
しかしながら,上記(4)オのとおり,引用発明2の「コラム」は,画像
の一部であると解するのが相当であるから,引用発明2には,「縁を越え
るエリア」を表示させる動機が存在しない。また,仮に引用発明2に引用
発明3を適用したとしても,Webページのような画面の中で「コラム」
の動作が特定されるにすぎない。
したがって,引用発明2に引用発明3を適用して,本件発明1及び2を
容易に想到し得たとは認められない。これは本件発明3についても同様で
ある。
(7)まとめ
以上のとおり,本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべ
きものであるとは認められない。
4本件発明の従属項に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきもので
あるかについて
(1)請求項25に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものであ
るか(争点4-1)について
被告らは,公然実施発明1及び2に基づいて,請求項25の新規性ないし
進歩性が欠如する旨主張する。
しかしながら,請求項25は,本件発明1(請求項19)の従属項であり
本件発明1の「電子ドキュメント」を「デジタル映像」と特定したものであ
るところ,本件発明1は,公然実施発明1及び2に基づいて,新規性・進歩
性が否定されないから(前記3(2)),請求項25も新規性・進歩性が否定
されないものであり,被告らの主張は理由がない。
(2)請求項35,61及び74並びに請求項36及び75に係る特許が特許
無効審判により無効にされるべきものであるか(争点4-2)について
ア請求項35,61及び74についての記載要件違反(明確性要件違反)
について
被告らは,請求項35,61及び74の「関連スクロール距離」が何に
関連付けられているのか,当該「関連スクロール距離」がオブジェクトの
移動距離とどのように対応付けられるのか,明確に理解することはできな
い旨主張する。
しかしながら,前記2(2)のとおり,請求項35の記載に照らすと,第
1の関連移動距離とは,「電子ドキュメントが該電子ドキュメントの縁に
到達するまで前記第1方向に徐々に移動する場合」であって,「前記電子
ドキュメントの縁に到達するまでの前記オブジェクトの移動距離」に対応
する電子ドキュメントの移動距離である。また,第2の関連移動距離とは,
「前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示することは,前記電子
ドキュメントを前記第1方向に第2の関連移動距離について徐々に移動す
ることを含み,当該第2の関連移動距離は,前記電子ドキュメントの縁に
到達した後の前記オブジェクトの移動距離に対応する関連移動距離より短
い」と記載されているから,電子ドキュメントを第1方向に移動する場合
であって,電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示するときの電子ド
キュメントの移動距離であり,このときの移動距離は対応するオブジェク
トの移動距離よりも短いことを意味すると解することができる。
請求項61は,請求項35と比較して,請求項35が「当該第2の関連
移動距離」と記載されているのに対して「該第2の関連移動距離」と記載
されている点と,本件発明2の従属項である点が異なるにすぎない。した
がって,請求項35と同様に解することができる。
請求項74の記載に照らすと,第1の関連スクロール距離とは,「リス
トが該リストの末端に到達するまで前記第1方向にスクロールする場合」
であって,「前記リストの末端に到達するまでの前記オブジェクトの移動
距離」に対応するリストの移動距離である。また,第2の関連スクロール
距離とは,「前記リストの末端を越えるエリアを表示することは,前記リ
ストを前記第1方向に第2の関連スクロール距離についてスクロールする
ことを含み,該第2の関連スクロール距離は,前記リストの末端に到達し
た後の前記オブジェクトの移動距離に対応する関連スクロール距離より短
い」と記載されているから,リストを第1方向に移動する場合であって,
リストの末端を越えるエリアを表示するときのリストの移動距離であり,
このときのスクロール距離は対応するオブジェクトの移動距離よりも短い
ことを意味すると解することができる。
以上のとおり,請求項35,61及び74の記載は明確であると認めら
れる。
イ請求項36及び75についての記載要件違反(明確性要件違反)につい
て
被告らは,請求項36及び75の「関連スクロールスピード」が何に関
連付けられているのか,当該「関連スクロールスピード」がオブジェクト
の移動スピードとどのように対応付けられるのか,明確に理解することは
できない旨主張する。
しかしながら,前記2(3)のとおり,請求項36の記載に照らすと,第
1の関連移動スピードとは,「電子ドキュメントの縁に到達するまで前記
第1方向に徐々に移動する」場合であって,「前記オブジェクトの移動ス
ピード」に対応する電子ドキュメントのスピードである。また,第2の関
連移動スピードとは,「前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアを表示
することは,前記電子ドキュメントを前記第1方向に第2の関連移動スピ
ードで徐々に移動することを含み,当該第2の関連移動スピードは,前記
第1の関連移動スピードより低速である」と記載されているから,電子ド
キュメントを第1方向に移動する場合であって,電子ドキュメントの縁を
越えるエリアを表示するときの電子ドキュメントの移動スピードであり,
このときの移動スピードは第1の関連移動スピードよりも低速であること
を意味すると解することができる。
請求項75の記載に照らすと,第1の関連移動スクロールスピードとは,
「リストの末端に到達するまで前記第1方向にスクロールする」場合であ
って,「前記オブジェクトの移動スピード」に対応するリストのスクロー
ルスピードである。また,第2の関連移動スピードとは,「前記リストの
末端を越えるエリアを表示することは,前記リストを前記第1方向に第2
の関連スクロールスピードでスクロールすることを含み,該第2の関連ス
クロールスピードは,前記第1の関連スクロールスピードよりも低速であ
る」と記載されているから,リストを第1方向に移動する場合であって,
リストの末端を越えるエリアを表示するときのリストのスクロールスピー
ドであり,このときのスクロールスピードは第1の関連移動スクロールス
ピードよりも低速であることを意味すると解することができる。
以上のとおり,請求項36及び75の記載は明確であると認められる。
ウ乙56号証に基づく新規性・進歩性の欠如について
請求項35,61及び74並びに請求項36及び75の優先日に争いが
あるが,まず,新規性・進歩性について検討する(以下の争点でも先に新
規性・進歩性を検討する。)。
(ア)乙56号証(2007年6月14日に公開された米国特許公開公報
US2007/0132789)には,以下の記載がある。
「[0056]Alistofitemsonthetouch-sensitivedisplayis
scrolledinresponsetothemovement(112).Oneormoreofthe
followingoperationsmayoccur.Inresponsetoafirst
acceleratedmovementofthepointofcontactandoptional
breakingofthepointofcontact,thescrollingmayaccelerate
(114).Inresponsetoasecondacceleratedmovementofthepoint
ofcontactandoptionalbreakingofthepointofcontact,the
scrollingmayfurtheraccelerate(116).Adirectionofthe
scrollingmayreversewhenthescrollinglistintersectsa
virtualboundarycorrespondingtoaterminusofthelist(118).
Forexample,whenthelistisscrolledtoitsbeginningorend,
thescrollinglistmayappeartobounceagainataboundaryand
reversedirection.Afterthebounceorscrollingdirection
reversal,thescrollingmayautomaticallystopsoastoleave
thefirstorlastitemofthelistinviewonthetouch-
sensitivedisplay.Thescrollingmaystopwhentheuserbreaks
thepointofcontact(e.g.,byliftinghis/herfingeroffthe
display)andthenestablishingasubstantiallystationarypoint
ofcontactforatleastapre-determinedperiodoftime(120).
Inotherembodiments,themethod100mayincludefewer
operationsoradditionaloperations.Inaddition,twoormore
operationsmaybecombinedand/oranorderoftheoperationsmay
bechanged.」
(被告[0056]抄訳:タッチ感知式ディスプレイ上のアイテムのリストは
動き(112)に応じてスクロールされる。次の動作の一つ又は複数を
行うことができる。接触点の第1の加速移動及び任意選択的な接触点の
切断に応答して,スクロールを加速することができる(114)。接触
点が第2の加速移動及び任意選択的な接触点の切断に応答して,スクロ
ールを更に加速することができる(116)。スクロールの方向は,ス
クロールしているリストの終端に対応する仮想境界と交差するときに反
転することができる(118)。例えば,リストがその最初又は最後ま
でスクロールされると,境界で跳ね返り,向きを変える。跳ね返り,又
はスクロール方向が反転した後,リストのスクロールは最初又は最後の
アイテムがタッチ感知式ディスプレイ上に見えるように,自動的に止ま
る。ユーザが接触点をなくし(例えば,ディスプレイから指を離す),
少なくとも所定の時間,実質的に静止した接触点を作ると,スクロール
は停止する(120)。他の実施例では,方法100はより少ない操作
又は付加した操作を含むことができる。さらに,二つ又はそれより多く
の操作を組み合わせ,かつ/又は操作の順番を変更することができ
る。)
「[0065]FIGS.7A-7Billustratethescrollingofalistofitems
toaterminusofthelist,atwhichpointoneormoredisplayed
itemsattheendofthelistsmoothlybounceofftheendofthe
display,reversedirection,andthenoptionallycometoastop.
FIG.7Aisaschematicdiagramillustratinganembodimentofa
userinterfaceofaportableelectronicdevice600havinga
touch-sensitivedisplay.Oneormoredisplayedobjects,suchas
informationobject612-1maybeadistance712-1fromaterminus
714ofthelistofitemsandmaybemovingwithavelocity710-1
whilethelistisbeingscrolled.Notethattheterminus714is
avirtualboundaryassociatedwiththedisplayedobjects,as
opposedtoaphysicalboundaryassociatedwiththewindow610
and/orthedisplay608.AsillustratedinFIG.7B,whentheone
ormoredisplayedobjects,suchastheinformationobject612-1,
reachorintersectwiththeterminus714,themovement
correspondingtothescrollingmaystop,i.e.,thescrolling
velocitymaybezeroataninstantintime.Asillustratedin
FIG.7C,theoneormoredisplayedobjects,suchasthe
information612-1,maysubsequentlyreversedirection.Atatime
aftertheintersectionwiththeterminus714,theinformation
object612-1mayhavevelocity710-2andmaybeadistance712-2
fromtheterminus714.Insomeembodiments,themagnitudeof
velocity710-2maybelessthanthemagnitudeofvelocity710-1
whenthedistance712-2equalsthedistance712-1,i.e.,the
motionoftheoneormoredisplayedobjectsisdampedafterthe
scrollinglistreachesand"bounces"atitsterminus.」
(原告[0065]抄訳:図7A及び7Bはアイテムのリストをリストの末端
に向かってスクロールすることを示している。そこでは,一以上の表示
されたアイテムがリストの終わりまでスクロールされるとなめらかに境
界で跳ね返り,向きを変え,任意に止まる。図7Bに示されるように,
一以上の表示されたオブジェクトは,例えばオブジェクト612-1で
あるが,末端714に到達又は越えると,スクロールに対応する移動は
止まり,すなわち,スクロールスピードはその時ゼロにすることができ
る。図7Cに示されるとおり,一以上の表示されたオブジェクトは,例
えばオブジェクト612-1であるが,その後跳ね返ることができ
る。)
(イ)以上の記載及び図7A~7Cに照らすと,乙56号証には,リスト
が最初又は最後までスクロールされると境界で跳ね返ることが記載され
ているものの,本件発明3の「リストの末端を越えるエリア」について
記載されているとはいえないし,示唆もされていない(本件発明1及び
2の「電子ドキュメントの縁を越えるエリア」も同様である。)。
そして,乙56号証には,「跳ね返り,又はスクロールの方向が反転
した後,リストのスクロールは最初又は最後のアイテムがタッチ感知式
ディスプレイ上に見えるように,自動的に止まる。」と記載されている
が,その具体的な態様についての説明はないから,少なくとも構成要件
J3の「前記リストの末端を越えるエリアがもはや表示されなくなるま
で,前記第1方向とは逆の第2方向に前記リストをスクロールする」こ
とが記載されているとはいえない(構成要件J1及びJ2も同様であ
る。)。
そうすると,引用発明4(乙56号証に記載された発明)は,請求項
35,61及び74並びに請求項36及び75と同一ではない。
(ウ)また,被告らは,他の公知技術(公然実施発明1及び2,引用発明
1~3)と引用発明4を組み合わせて,請求項35,61及び74並び
に請求項36及び75を容易に発明できた旨主張する。
しかしながら,上記他の公知技術には,いずれも少なくとも構成要件
J1~J3に相当する構成についての記載がないから,引用発明4に上
記他の公知技術を組み合わせたとしても,請求項35,61及び74並
びに請求項36及び75を容易に想到し得たとは認められない。
以上のとおり,乙56号証に基づく新規性・進歩性欠如の主張は理由
がない。
エマックワールド等における公然実施について
(ア)証拠(乙59)によれば,平成19年(2007年)1月9日に開
催された2007年マックワールドにおけるプレゼンテーターのiPhone
の操作状況は,別紙マックワールドにおける操作状況記載の写真のとお
りである。
写真ア及びイ(乙59・6分30秒付近)は,端末画面下から上に指
をはじくようにスクロール操作をしている場面である。その後,写真ウ
~ク(乙59・6分41秒付近)では,指を端末画面上から下方向には
じき終わると,リストが下方向にスクロールを開始し(写真ウ及びエ),
端末画面上方にリストの末端に対応する部分を越えたエリアが表示され
(写真オ),下方向のスクロールとは逆に上方向にスクロールし(写真
カ及びキ),リストの末端に対応する部分を越えたエリアが表示されな
くなったこと(写真ク)が認められる。また,写真ケ及びコ(乙59・
6分47秒付近)は,端末画面下から上に指をはじいてリストを上方向
にスクロールさせて場面であり,バウンスバックしているようにみえる
箇所がある。
(イ)以上に基づいて,マックワールドにおける操作が請求項35,61
及び74並びに請求項36及び75の公然実施といえるかについて検討
するに,乙59号証のビデオ(写真ウ~ク,ケ及びコ)をみても,①端
末画面から指を離すことと,②リストの末端を越えるエリアの表示との
関連が明らかではない。
そうすると,マックワールドのプレゼンテーションに使用された
iPhoneについて,構成要件J3の「前記タッチスクリーンディスプレイ
上又はその付近にオブジェクトがもはやないことを検出するのに応答し
て,前記リストの末端を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで,
前記第1方向とは逆の第2方向に前記リストをスクロールするためのイ
ンストラクション」に相当する動作があったとは認め難い。
構成要件J1及びJ2についても同様である。
(ウ)以上のとおりであるから,本件発明1を引用する請求項35,36,
本件発明2を引用する請求項61,本件発明3を引用する請求項74及
び75について,公然実施があったとは認められない。
また,被告らは,マスメディアを含めて複数の者がiPhoneを使用した
などとして公然実施を主張するけれども,この点について,請求項35,
61及び74並びに請求項36及び75の公然実施があったと認めるに
足りる証拠はない。
オiPhoneguidedtourによる公然実施について
(ア)証拠(乙64,65)によれば,平成19(2007年)6月22
日に公開された動画であるAppleiPhoneguidedtour(55秒付近)に
おけるiPhoneの操作状況は,別紙iPhoneguidedtour操作状況記載の写
真のとおりである。
写真aは端末に保存されている画像のサムネイルの一覧が表示されて
いる状態であり,写真bはサムネイル画像に指を当てた状態である。写
真cは,写真bの状態から,画面に指を当てた状態で,下方向にスクロ
ールさせている状態であり,上二段の画像がスクロールを開始した後に
表示された領域であって,その上部には白色のエリアが表示されている。
写真dは,写真cから更に下方向にスクロールさせている状態である。
(イ)以上のとおり,iPhoneguidedtour(写真a~d)は,リストの末
端を越えるエリアを表示する前後のスクロールの様子を示していると認
められる。そして,写真cの上部にある白色エリアは,リストの末端を
越えるエリアであると認められる。
そこで,iPhoneguidedtour(写真a~d)について,請求項35,
61及び74の「該第2の関連スクロール距離は,前記リストの末端に
到達した後の前記オブジェクトの移動距離に対応する関連スクロール距
離より短い」に相当する動作があったかを検討するに,リストの末端を
越えるエリアを表示する前と表示したとでは,指と画像の移動距離の関
係に特段の変化は認められない。
そうすると,iPhoneguidedtour(写真a~d)は,上記要件に相当
する動作があったとは認め難い。また,距離とスピードの関係を考慮す
ると,請求項36及び75についても同様である。
(ウ)以上のとおり,iPhoneguidedtourは,請求項35,61及び74
並びに請求項36及び75の公然実施であるとは認められない。
なお,原告は,この点についての被告らの主張・立証が時機に後れた
攻撃防御方法である旨主張するが,審理の経過に鑑みると,時機に後れ
たとは認められない。
カその他進歩性の欠如について
(ア)被告らは,他の公知技術(公然実施発明1及び2,引用発明1~
3)に減衰運動に係る設計的事項又は周知慣用技術を適用して,請求項
35,61及び74並びに請求項36及び75の進歩性が欠如する旨主
張する。これに対し,原告は,被告らの主張は,時機に後れた攻撃防御
方法である旨主張する。
確かに,被告らの主張は,本件訴訟の提訴日(平成23年8月23
日)から1年6か月以上経過した平成25年3月14日の第10回弁論
準備手続期日に陳述されたものである。その間,実際の審理としては,
本件発明に係る侵害論及び無効論を経て,上記弁論準備手続期日の時点
では,本件発明の従属項に係る侵害論及び無効論の終了が見込まれる状
況であったのであり,原告が時機に後れた攻撃防御方法であると主張す
ることも理解できないではない。しかし,当裁判所は,被告らの主張に
ついて判断することができることから,時機に後れた攻撃防御方法とし
て却下することはせず,この主張について判断することとする。
(イ)前記3のとおり,公然実施発明1及び2,引用発明1~3に基づい
て本件発明の新規性・進歩性は否定されない。
そうすると,減衰運動に係る点が周知慣用技術であったとしても,本
件発明の従属項であり,本件発明をその基礎とする請求項35,61及
び74並びに請求項36及び75を当業者が容易に想到できたものとは
いえない。
(ウ)以上のとおり,上記他の公知技術に基づく進歩性欠如の主張は理由
がない。
(3)まとめ
以上のとおり,請求項25,35,36,61,74及び75に係る特許
が特許無効審判により無効にされるべきものであるとは認められない。
5検証の申出,検証物提示命令及び文書提出命令の申立てについて
被告らは,マックワールド等に係る公然実施とiPhoneguidedtourによる公
然実施の主張に関し,①2007年マックワールドのデモンストレーションに
おいて使用されたiPhone,②iPhoneguidedtourのデモンストレーションにお
いて使用されたiPhone,③上記①及び②のiPhoneにインストールされたのと同
一バージョンのオペレーションシステムの実行ファイルがインストールされた
iPhoneの検証の申出とともに検証物提示命令を,また,上記①及び②のiPhone
にインストールされたのと同一のオペレーションシステムを実行させるための
ソースコードが記録された記録媒体の文書提出命令を申し立てた。
しかしながら,上記検証の申出,検証物提示命令及び文書提出命令の申立て
は,公然実施の立証には必要がないものであるから,いずれも却下する。
6結論
以上によれば,被告製品は,本件発明の構成要件を充足し,本件発明の技術
的範囲に属するものであって,本件発明に係る特許は特許無効審判により無効
にされるべきものとは認められない。
また,被告製品は,本件発明1の従属項である請求項25,35及び36,
本件発明2の従属項である請求項61,本件発明3の従属項である請求項74
及び75の各構成要件を充足し,当該各発明の技術的範囲に属するものであっ
て,当該各発明に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものとは認
められない。
そして,本件においては,損害賠償義務の有無(被告日本サムスンによる被
告製品の輸入,販売の有無,被告サムスン電子による被告製品の販売期間)及
び損害額(争点5)について,更に審理をする必要があるから,主文のとおり
中間判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官小川雅敏
裁判官西村康夫
(別紙)
当事者目録
アメリカ合衆国カリフォルニア州<以下略>
原告アップルインコーポレイテッド
同訴訟代理人弁護士長沢幸男
同矢倉千栄
同永井秀人
同金子晋輔
同訴訟代理人弁理士大塚康徳
同訴訟復代理人弁護士片山英二
同北原潤一
同岡本尚美
同稲瀬雄一
同石原尚子
同蔵原慎一朗
同補佐人弁理士大塚康弘
同前田浩次
東京都港区<以下略>
被告日本サムスン株式会社
東京都千代田区<以下略>
被告サムスン電子ジャパン株式会社
(旧商号・サムスンテレコムジャパン株式会社)
上記2名訴訟代理人弁護士大野聖二
同三村量一
同田中昌利
同市橋智峰
同井上義隆
同小林英了
同井上聡
同逵本憲祐
同岡田紘明
同訴訟代理人弁理士鈴木守
同訴訟復代理人弁護士飯塚暁夫
同補佐人弁理士大谷寛
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◎事務所事件の共同受任可
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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