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平成26年1月24日判決言渡
平成24年(行ウ)第89号相続税更正処分取消等請求事件
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1上尾税務署長が原告Aに対して平成22年7月6日付けでしたBの相続に係
る相続税の更正処分のうち課税価格5015万6000円及び納付すべき税
額810万2700円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分
(ただし,いずれも平成23年9月13日付け裁決により一部取り消された
後のもの)をいずれも取り消す。
2上尾税務署長が原告Cに対して平成22年7月6日付けでしたBの相続に係
る相続税の更正処分のうち課税価格9587万6000円及び納付すべき税
額1548万8900円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分
(ただし,いずれも平成23年9月13日付け裁決により一部取り消された
後のもの)をいずれも取り消す。
3上尾税務署長が原告Dに対して平成22年7月6日付けでしたBの相続に係
る相続税の更正処分のうち課税価格6798万7000円及び納付すべき税
額1098万3400円並びに過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,い
ずれも平成23年9月13日付け裁決により一部取り消された後のもの)を
いずれも取り消す。
4上尾税務署長が原告Dに対し平成22年7月6日付けでした被相続人E(以
下「E」という。)の相続に係る相続税の更正処分のうち,課税価格1億52
56万3000円及び納付すべき税額938万4100円並びに過少申告加
算税の賦課決定処分(ただし,いずれも平成23年9月13日付け裁決によ
り一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
第2事案の概要等
本件は,①原告らが,Bが平成19年▲月▲日に死亡したことによって
開始した相続(以下「本件第一次相続」という。)に係る相続税の申告にお
いて,地目を異にする複数の土地を一団の土地に当たるとしこれらを1つの
評価単位として財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56・直
審(資)17国税庁長官通達(ただし,平成21年5月13日付け課評2-
6による改正前のもの。)。以下「評価通達」という。)に定める広大地の
評価によるなどしてその課税価格を計算していたところ,上尾税務署長か
ら,これらの土地は相続開始時の現況の地目の別に個別に評価すべきである
などとして,それぞれ更正処分(以下「本件各更正処分1」という。)及び
過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分1」といい,本
件各更正処分1と併せて「本件各処分1」という。)を受けたことから,本
件各更正処分1のうち原告らの申告に係る課税価格及び納付すべき税額を超
える部分並びに本件各賦課決定処分1の各取消しを求め(前記第1の1から
3まで),②原告Dが,Eが平成20年▲月▲日に死亡したことによって開
始した相続(以下「本件第二次相続」という。)に係る相続税の申告におい
て,相続の開始前に売買契約が締結されていた土地を含む複数の土地を一団
の土地に当たるとしこれらを1つの評価単位として評価通達に定める広大地
の評価によるなどしてその課税価格を算定していたところ,上尾税務署長か
ら,本件第二次相続により原告Dが取得したのは売買契約が締結されていた
土地ではなく売買代金請求権であるなどとして,更正処分(以下「本件更正
処分2」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決
定処分2」といい,本件更正処分2と併せて「本件各処分2」という。)を
受けたことから,本件更正処分2のうち原告Dの申告に係る課税価格及び納
付すべき税額を超える部分並びに本件賦課決定処分2の各取消しを求める
(前記第1の4)事案である。
1関係法令等の定め
別紙1「関係法令等の定め」に記載したとおりである(なお,同別紙で定め
る略称は,以下においても用いる。)。
2前提事実
証拠(各認定事実の後に掲げる。証拠を掲げない事実は,当事者間に争い
がない。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実(以下「前提事実」と
いう。)が認められる。
(1)本件第一次相続に関する事実経過
ア平成19年▲月▲日にBが死亡し,Bの妻であるE及びBの子である
原告ら(以下「本件第一次相続共同相続人ら」という。)は,共同相続人
として,同年10月23日付け遺産分割協議に従い,別表10「財産目録
(本件第一次相続)」記載の各土地を含むBの財産を本件第一次相続によ
り取得した(以下,同別表の順号1の土地を「本件1土地」といい,他の
順号の土地についても同様に表記する。)。
イ(ア)本件1土地から本件9土地までの各土地の所在地及び地積は,それぞ
れ別表10「財産目録(本件第一次相続)」の「所在地」及び「地積
(㎡)」欄に記載したとおりである。
(イ)本件1土地から本件7土地までの各土地(以下「本件各土地」とい
う。)の位置関係は,別図3「図面(本件第一次相続)」に図示したと
おりであり,本件3土地,本件5土地及び本件6土地は北側で県道
 ○ 線に,本件2土地及び本件4土地は南側で市道  ○  号線
に,本件4土地,本件5土地,本件6土地及び本件7土地は東側で市道
○号線にそれぞれ接している。
本件各土地は,都市計画法7条に規定する市街化区域内で,同法8条
1項1号及び9条5項に規定する第一種住居地域に指定された地域内に
所在しており,その建築基準法52条に規定する容積率は200パーセ
ント,同法53条に規定する建ぺい率は60パーセントと定められてい
る(乙6,弁論の全趣旨)。
(ウ)本件1土地から本件6土地までの各土地(以下「E取得土地」とい
う。)を本件第一次相続により取得したのは,Eである。
a本件1土地の本件第一次相続開始時の現況は山林であった(弁論の
全趣旨)。
b本件2土地の本件第一次相続開始時の現況は宅地であり,B,E及
び原告Dの自宅の敷地であった(弁論の全趣旨)。
c本件3土地の本件第一次相続開始時の現況は宅地であり,Bが所有
して第三者に賃貸していた貸店舗の敷地であった(弁論の全趣旨)。
d本件4土地の本件第一次相続開始時の現況は畑であり,生産緑地法
2条3号の生産緑地であった(乙24,25,弁論の全趣旨)。
e本件5土地の本件第一次相続開始時の現況は宅地であり,Bが所有
して上記cの第三者とは別の第三者に賃貸していた貸事務所の敷地で
あった(弁論の全趣旨)。
f本件6土地の本件第一次相続開始時の現況は雑種地であり,上記c
及びeの各第三者とは別の第三者の賃借権の目的となっている駐車場
として使用されていた(弁論の全趣旨)。
(エ)本件7土地を本件第一次相続により取得したのは,原告Aである。
本件7土地は,間口が約57メートル,奥行が約20メートルの長
方形の土地で,その本件第一次相続開始時の現況は畑であり,生産緑
地法2条3号の生産緑地であった(乙2,24,25,弁論の全趣
旨)。
ウ本件第一次相続共同相続人らは,本件第一次相続に係る相続税につい
て,平成19年10月31日,別表8「課税の経緯(本件第一次相続に係
る相続税)」の「当初申告」欄記載のとおり申告(甲1,乙1)をし,ま
た,原告らは,平成22年6月14日,同別表の「修正申告」欄記載のと
おり修正申告(甲2。以下,この修正申告に係る修正申告書を「本件修正
申告書1」という。)をした。
原告らは,上記修正申告において,E取得土地を一団の土地に当たると
しこれらを1つの評価単位とした上で,E取得土地及び本件7土地につき
いずれも評価通達24-4に定める広大地の評価によるなどしてその課税
価格を算定していた。
なお,上記修正申告について,上尾税務署長は原告らに対し同年7月6
月付けで別表8「課税の経緯(本件第一次相続に係る相続税)」の「賦課
決定処分」欄記載のとおり過少申告加算税の賦課決定処分をしたが,原告
らは本件においてこの処分の取消しは求めていない。
エ本件各処分1,本件各処分1についての原告らの異議申立て並びにこれ
らに対する上尾税務署長の決定,これらの決定を経た後の本件各処分1に
ついての原告らの審査請求及びこれに対する国税不服審判所長の裁決の経
緯は,別表8「課税の経緯(本件第一次相続に係る相続税)」に記載した
とおりである。
(2)本件第二次相続に関する事実経過
ア平成20年▲月▲日にEが死亡し,Eの子である原告Dは,同年2月1
1日付け遺産分割協議に従い,別表11「財産目録(本件第二次相続)」
記載の財産を含むEの全ての財産を本件第二次相続により単独で取得した
(なお,同別表の順号1-1から1-4までの各土地は,本件1土地が本
件第二次相続の開始後に分筆されて生じた土地であり,同別表の順号2-
1及び2-2の各土地は,本件2土地が本件第二次相続の開始後に分筆さ
れて生じた土地であり,同別表の順号3-1及び3-2の各土地は,本件
3土地が本件第二次相続の開始後に分筆されて生じた土地であり,同別表
の順号4から6までの各土地は,それぞれ本件4土地から本件6土地まで
と同一である。以下,同別表の順号1-1の土地を「本件1-1土地」と
いい,他の順号(4から6までを除く。)の土地についても同様に表記す
る。)。
イ本件1-1土地から本件6土地までの各土地の所在地及び地積は,それ
ぞれ別表11「財産目録(本件第二次相続)」の「所在地」及び「分筆後
地番」並びに「地積(㎡)」及び「分筆後地積(㎡)」欄に記載したとお
りである。
また,本件1-1土地から本件6土地までの各土地の位置関係は,別図
4「図面(本件第二次相続)」に図示したとおりである。
ウ(ア)E及び原告Aは,本件第二次相続の開始前の平成19年12月21日
に,株式会社F(以下「F」という。)との間で,Eが本件第一次相続
により取得して所有していた本件1-2土地,本件2-2土地,本件3
-2土地及び本件4土地(以下「本件譲渡土地」という。)並びに原告
Aが本件第一次相続により取得して所有していた本件7土地の南側の一
部(以下「原告A譲渡土地」といい,本件譲渡土地と併せて「本件売買
対象土地」という。これらの土地の位置関係は,別図4に図示したとお
りである。)を1億2795万8000円で譲渡する旨の売買契約(乙
3の1。以下「本件第1売買契約」という。)を締結し,その手付金と
して390万円を受領していた。
(イ)なお,前記(ア)の本件第1売買契約の締結に先立ち,本件第一次相続
共同相続人らは,生産緑地法10条の規定に従い,平成19年8月30
日付けで桶川市長に対して生産緑地である本件4土地及び本件7土地を
買い取るべき旨の申出をしていたところ,平成20年2月27日付け
で,本件4土地及び本件7土地に係る生産緑地地区の指定が解除された
(乙24,25)。
(ウ)Fは,都市計画法30条の規定に従い,平成20年2月29日付け
で,桶川市長に対し,本件売買対象土地について同法29条1項の開発
行為の許可を申請し,同年3月18日にその許可を受けた(乙10の
5,26)。
(エ)この間,原告D及び原告Aは,本件第二次相続後の平成20年3月7
日に,Fとの間で,本件第1売買契約を解除する旨の合意(乙12。以
下「本件解約合意」という。)をするとともに,改めて売買契約(乙3
の2。以下「本件第2売買契約」という。)を締結した。本件第2売買
契約の内容は,売主及び土地所有者の名義を前記アの本件第二次相続に
係る遺産分割の結果を踏まえてEから原告Dに改め,残代金支払期日を
平成20年2月29日から同年3月28日に変更したほかは,本件第1
売買契約と同一である(乙3の1,3の2,弁論の全趣旨)。この際,
前記(ア)の手付金390万円は,Fに返還されることなく,そのまま本
件第2売買契約の手付金として扱われた(乙13,28,弁論の全趣
旨)。
(オ)原告D,原告A及びFは,前記(ウ)の開発行為の許可を受けた平成2
0年3月18日,本件譲渡土地のうち本件1-2土地,本件3-2土地
及び本件4土地並びに原告A譲渡土地について,有限会社Gにいわゆる
農地転用の届出に関する一切の権限を委任し,有限会社Gは,同月21
日,桶川市農業委員会に対しこれを届け出た(乙27の1,27の
2)。
(カ)平成20年4月11日,本件売買対象土地についてFへの所有権の移
転の登記がされ,原告D及び原告Aは,Fから,本件売買対象土地の売
買残代金として合計1億2405万8000円を受領した(乙28から
29の6まで)。
エ原告Dは,本件第二次相続に係る相続税について,平成20年9月11
日,別表9「課税の経緯(本件第二次相続に係る相続税)」の「当初申
告」欄記載のとおり申告(甲8)をし,平成22年6月14日,同別表の
「修正申告」欄記載のとおり修正申告(甲9。以下,この修正申告に係る
修正申告書を「本件修正申告書2」という。)をした。
原告Dは,上記修正申告において,E取得土地を一団の土地に当たると
しこれらを1つの評価単位とした上で,評価通達24-4に定める広大地
の評価によるなどしてその課税価格を算定していた。
なお,上記修正申告について,上尾税務署長は原告Dに対し同年7月6
月付けで別表9「課税の経緯(本件第二次相続に係る相続税)」の「賦課
決定処分」欄記載のとおり過少申告加算税の賦課決定処分をしたが,原告
Dは本件においてこの処分の取消しは求めていない。
エ本件各処分2,本件各処分2についての原告Dの異議申立て並びにこれ
に対する上尾税務署長の決定,この決定を経た後の本件各処分2について
の原告Dの審査請求及びこれに対する国税不服審判所長の裁決の経緯は,
別表9「課税の経緯(本件第二次相続に係る相続税)」に記載したとおり
である。
(3)本件訴えの提起
原告らは,平成24年2月21日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3本件各処分1及び2の根拠及び適法性に関する被告の主張
本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張は,後記4において引用
する別紙2「争点に関する当事者の主張の要旨」に掲げるほか,別紙3「本
件各処分1及び2の根拠及び適法性に関する被告の主張」記載のとおりであ
る(なお,これらの別紙で定める略称は,以下においても用いる。)。
4争点及びこれに関する当事者の主張の要旨
本件の争点は,本件各処分1及び2の適法性であり,具体的には,以下の
各点が争われている。これらに関する当事者の主張の要旨は,別紙2「争点
に関する当事者の主張の要旨」記載のとおりである。
(本件各処分1に関する争点)
①E取得土地は,これを1つの評価単位として評価すべきか,本件1土地
から本件6土地までの土地ごとに評価すべきか(争点1)
②本件7土地が評価通達24-4に定める広大地に該当するか(争点2)
(本件各処分2に関する争点)
③本件第二次相続に係る相続税の課税対象となる財産を構成するのは本件
譲渡対象土地か,本件第1売買契約に係る本件売買残代金請求権か(争点
3)
第3当裁判所の判断
1争点1(E取得土地は,これを1つの評価単位として評価すべきか,本件1
土地から本件6土地までの土地ごとに評価すべきか)について
(1)評価通達について
相続税法22条は,相続により取得した財産の価額は,原則として,当該
財産の取得の時における時価による旨を定めているが(別紙1・第1の
2),財産の価額を客観的かつ適正に把握することは必ずしも容易なことで
はなく,また,納税者ごとに財産の評価の方法が異なることは公平の観点か
ら好ましくないことから,課税実務上,国税庁長官が発した通達(国家行政
組織法14条2項参照)である評価通達に基づいて,相続により取得した財
産の価額の評価がされているところである。
このような課税実務は,評価通達に定められた評価方式が当該財産の取得
の時における時価を算定するための手法として合理的なものであると認めら
れる場合においては,租税法律関係の確定に際して求められる種々の要請を
満たし,国民の納税義務の適正な履行の確保(通則法1条,相続税法1条参
照)に資するものとして,相続税法22条の規定の許容するところであると
解される。そして,別紙1・第2に掲げた評価通達の定めは,いずれも上記
の観点に照らして,合理的なものと認められる(評価通達のこれらの定めの
合理性それ自体については,原告らにおいても争ってはいないところであ
る。)。
(2)E取得土地の評価上の区分について
ア(ア)評価通達7の本文は,土地の価額は,宅地,田,畑,山林,原野,牧
場,池沼,鉱泉地及び雑種地という地目の別に評価し,この場合の地目
は,課税時期の現況によって判定する旨を定めている(別紙1・第2の
1(1))。
(イ)これに対し,評価通達7のただし書は,一体として利用されている一
団の土地が2以上の地目からなる場合には,その一団の土地は,そのう
ちの主たる地目からなるものとして,その一団の土地ごとに評価する旨
を定めている(別紙1・第2の1(2))。
その趣旨は,大規模な工場用地,ゴルフ練習場用地等のように一体と
して利用されている一団の土地のうちに2以上の地目の土地がある場合
に,評価通達7の本文の定めに従って,その一団の土地をそれぞれの地
目ごとに区分して評価すると,一体として利用されていることによる効
用が評価額に反映されないこととなることから,実態に即した評価を行
うために,評価通達7の本文に対する例外として,その一団の土地を1
つの評価単位とすることにあると解される(乙5参照)。
(ウ)また,評価通達7のなお書きは,市街化調整区域以外の都市計画区域
で市街地的形態を形成する地域において,市街地農地(生産緑地を除
く。),市街地山林,市街地原野又は宅地と状況が類似する雑種地のい
ずれか2以上の地目の土地が隣接しており,その形状,地積の大小,位
置等からみてこれらを一団として評価することが合理的と認められる場
合には,その一団の土地ごとに評価する旨を定めている(別紙1・第2
の1(3))。
その趣旨は,市街化調整区域以外の都市計画区域で市街地的形態を形
成する地域における市街地農地(生産緑地を除く。),市街地山林,市
街地原野又は宅地と状況が類似する雑種地については,いずれも,その
現況が宅地でなくても,近隣の宅地の価額の影響を強く受けることか
ら,原則として,これらの土地が宅地であるとした場合の価額からこれ
らの土地を宅地に造成するために通常必要と認められる標準的な造成費
等を控除して評価額を算出する方式(いわゆる宅地比準方式)によりそ
の価額が評価されることを踏まえ,これらの土地が隣接していて,その
形状,地積の大小,位置等からみてこれらを一団の土地として評価する
ことが合理的と認められる場合には,その評価方法の同一性に着目し
て,評価通達7の本文に対する例外として,その一団の土地を1つの評
価単位とすることにあると解される(乙5参照)。
イ(ア)これをE取得土地についてみると,本件2土地,本件3土地及び本件
5土地の本件第一次相続開始時の現況は宅地,本件4土地の本件第一次
相続開始時の現況は畑,本件1土地の本件第一次相続開始時の現況は山
林,本件6土地の本件第一次相続開始時の現況は雑種地であるから(前
提事実(1)イ(ウ)),評価通達7の本文の定めによれば,これらの地目の
別に評価することが原則となる。
(イ)そして,E取得土地の利用の実態については,本件2土地はBらの自
宅の敷地として,本件3土地は貸店舗の敷地として,本件5土地は貸事
務所の敷地として,本件6土地は駐車場としてそれぞれ利用されていた
というものであったことからすれば(前提事実(1)イ(ウ)),これらが一
体として利用されていたとは認められないから,E取得土地について評
価通達7のただし書にいう一団の土地に当たるものとして1つの評価単
位とみることはできない。
(ウ)また,本件各土地は,市街化区域内で第一種住居地域に指定された地
域に所在していることから(前提事実(1)イ(イ)),本件1土地について
は評価通達7のなお書きにいう市街化調整区域以外の都市計画区域で市
街地的形態を形成する地域における市街地山林に,本件6土地について
は評価通達7のなお書きにいう市街化調整区域以外の都市計画区域で市
街地的形態を形成する地域における宅地と状況が類似する雑種地にそれ
ぞれ該当し得るが,本件1土地と本件6土地とは隣接していないから
(前提事実(1)イ(イ),別図3),これらについて評価通達7にいう一団
の土地に当たるものとして1つの評価単位とみることはできない。
なお,原告らは,市街地農地(生産緑地を除く。),市街地山林,市
街地原野又は宅地と状況が類似する雑種地とが隣接する場合のみなら
ず,これらと宅地とが隣接している場合にも評価通達7のなお書きが適
用されるべきであると主張し,原告ら補佐人であるH税理士もその意見
書(甲18)において同様の意見を述べるが,前記ア(ウ)のとおり,評
価通達7のなお書きは,市街地農地(生産緑地を除く。),市街地山
林,市街地原野又は宅地と状況が類似する雑種地の評価方法(宅地比準
方式)の同一性に着目した定めであるから,これらとは評価方法の異な
る宅地が隣接している場合をも含めて一団の土地として評価すること
は,評価通達7のなお書きの予定しないところというほかない。したが
って,本件1土地及び本件6土地について,その間に位置する宅地であ
る本件3土地及び本件5土地をも含めて一団の土地とみて,これに評価
通達7のなお書きを用いるようなことは相当ではないというべきであ
る。
(エ)以上によれば,E取得土地については,評価通達7の本文の定める原
則に従い,その地目の別に評価することになる。
(3)本件2土地,本件3土地及び本件5土地の評価単位について
ア本件2土地,本件3土地及び本件5土地の本件第一次相続開始時の現況
はいずれも宅地であるところ,評価通達7-2(1)は,宅地は,利用の単
位となっている1区画の宅地(1画地の宅地)を評価単位とする旨を定め
ている(別紙1・第2の2(1))。
イこれを本件2土地,本件3土地及び本件5土地についてみると,本件2
土地はBらの自宅の敷地として,本件3土地は貸店舗の敷地として,本件
5土地は貸事務所の敷地としてそれぞれ利用されており,かつ,本件3土
地上の貸店舗と本件5土地上の貸事務所とはそれぞれ異なる賃借人の賃借
権の目的とされていたことからすれば(前提事実(1)イ(ウ)),本件2土
地,本件3土地及び本件5土地はそれぞれが利用の単位となっている1区
画の宅地に当たるというべきであり,それぞれ別個に評価すべきことにな
る。
(4)小括
以上によれば,E取得土地については,これを1つの評価単位として評価
することはできず,本件1土地から本件6土地までの土地ごとに評価すべき
である。
(5)原告らの主張について
アこれに対し,原告らは,普通住宅地区等に所在するある土地がその地域
における標準的な地積に比して広大で,開発行為を行うとした場合に公共
公益的施設用地の負担が必要と認められるときは,たとえ当該土地が複数
の地目からなる土地であっても,造成を予定している開発未了の土地とい
う意味ではそれぞれが同価値であり,個々の地目が何であるかはさほど重
要でないから,評価通達7は適用せず,1つの評価単位として扱った上
で,評価通達24-4に定める広大地として評価するべきであるとして,
E取得土地についても,1つの評価単位として扱った上で,広大地として
評価するべきであると主張し,H税理士もその意見書(甲18)において
同様の意見を述べる。
しかし,評価通達の定めの構造(乙16)からすれば,土地及び土地の
上に存する権利(評価通達第2章)の通則(同第1節)である評価通達7
及び評価通達7-2によって土地の評価単位を画した上で,その画された
評価単位のうちの宅地が評価通達24-4に定める広大地に該当するか否
かを検討すべきことは明らかであって,評価通達7よりも評価通達24-
4が優先的に用いられるべきであるかのようにいう原告らの主張は失当と
いうほかない。
イまた,原告らは,仮にE取得土地を1つの評価単位として評価すること
ができないとしても,本件1土地については道路に直接には接していない
土地であるから,評価通達20-2の無道路地として評価すべきであると
主張し,H税理士もその意見書(甲18)において同様の意見を述べる。
評価通達20-2は,無道路地の価額は,実際に利用している路線の路
線価に基づき評価通達20(不整形地の評価)の定めによって計算した価
額からその価額の100分の40の範囲内において相当と認める金額を控
除した価額によって評価し,この場合において,100分の40の範囲内
において相当と認める金額は,無道路地について接道義務に基づき最小限
度の通路を開設する場合のその通路に相当する部分の価額とする旨を定め
ている(別紙1・第2の5)。その趣旨は,無道路地の所有者にはいわゆ
る囲繞地通行権が認められるから,それに基づき通路が開設されて旗竿状
の画地となったことを想定して,その通路開設費用相当額を控除すること
が最も現実的であることにあると解される(乙5参照)。
本件1土地については,それ自体としては道路に接しておらず,市道
 ○ 号線に至るためには本件2土地上を通行する必要があるところ(前
提事実(1)イ(イ),別図3),本件1土地及び本件2土地は,いずれも本件
第一次相続によりEが取得したものであるから(前提事実(1)イ(ウ)),そ
のときにおいては囲繞地通行権を主張したり本件2土地上に通路を開設し
たりするまでもなく本件1土地から市道 ○ 号線に至ることができた
ものである。そうすると,本件1土地については,本件第一次相続開始時
において,同一の所有者の所有に係る本件2土地を介して市道 ○ 号
線に接していたのであって,評価通達20-2に定める無道路地には当た
らないというべきである(乙20参照)。
したがって,本件1土地を評価通達20-2の無道路地として評価すべ
きであるとする原告らの主張は理由がない。
ウさらに,原告らは,仮にE取得土地を1つの評価単位として評価するこ
とができないとしても,隣接する本件3土地及び本件5土地については,
いずれも貸家建付地として利用の単位を共通としているので,1つの評価
単位として扱った上で,広大地として評価すべきであると主張し,H税理
士もその意見書(甲18)において同様の意見を述べるが,前記(3)及び
前記アにおいて判示したところに照らし,原告らの主張を採用することは
できない。
2争点2(本件7土地が評価通達24-4に定める広大地に該当するか)につ
いて
(1)広大地の評価について
評価通達24-4は,広大地とは,その地域における標準的な宅地の地積
に比して著しく地積が広大な宅地で,都市計画法4条12項に規定する開発
行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの
をいう旨を定めた上で,広大地の価額は,その広大地が路線価地域に所在す
る場合には,原則として,その広大地の面する路線の路線価に,評価通達1
5から20-5までの定めに代わるものとして一定の広大地補正率を乗じて
計算した価額にその広大地の地積を乗じて計算した金額によって評価する旨
を定めている(別紙1・第2の6)。
その趣旨は,評価の対象となる1画地の宅地の地積が,当該宅地の価額の
形成に関して直接影響を与えるような特性を持つ当該宅地の属する地域にお
ける標準的な宅地の地積に比して著しく広大で,評価の時点において,当該
宅地を,当該地域における経済的に最も合理的な宅地の利用を反映すると一
般に見られる当該標準的な宅地の規模を踏まえて類似の利用に供しようとす
る際に,都市計画法に規定する許可を受けた上で開発行為を行わなければな
らない場合にあっては,当該開発行為により所要の土地の区画形質の変更を
行ったときに,道路,公園等の公共公益的施設用地として相当のいわゆる潰
れ地が生ずるのを免れないことがあり,評価通達15から評価通達20-5
までによる減額の補正では十分とはいえないことがあることから,このよう
な宅地の価額の評価に当たっては,潰れ地が生じることを,当該宅地の価額
に影響を及ぼすべき客観的な個別事情として,価額が減少していると認めら
れる範囲に対応させたものに相当する特殊な補正をすることとしたものと解
される。
(2)本件7土地が広大地に該当するかについて
ア被告主張路地状開発について
(ア)本件7土地は,東側で市道 ○ 号線に面しており,間口が約5
7メートル,奥行が約20メートルの長方形の土地であるところ(前
提事実(1)イ(イ)及び(エ)),被告は,本件7土地を戸建住宅の分譲用地
として開発する場合には,路地状の敷地により道路に接する部分を有
する宅地の分譲(路地状開発)を行うことが物理的に可能であり,具
体的には,別図5に示すような被告主張路地状開発を行うことが可能
であるから,本件7土地については開発道路すなわち公共公益的施設
用地の負担はないと主張する。
そこで,被告主張路地状開発が,本件7土地をその地域における標準
的な宅地の規模を踏まえて類似の利用に供しようとするもので,これに
より所要の土地の区画形質の変更を行ったときに,道路,公園等の公共
公益的施設用地として相当のいわゆる潰れ地が生ずるのを免れないもの
であるかどうかについて検討する。
(イ)前記(1)で述べた評価通達24-4の趣旨に鑑みれば,評価通達24
-4にいう評価の対象となる1画地の宅地の属する「その地域」とは,
河川や山などの自然的状況,行政区域,都市計画法による土地利用の規
制などの公法上の規制等,道路,鉄道及び公園などの土地の利用の状況
の連続性並びに地域としての一体性を分断することがあると一般に考え
られる客観的な状況を総合勘案し,各土地の利用の状況,環境等がおお
むね同一と認められる,ある特定の用途に供されることを中心としたひ
とまとまりとみるのが相当な地域を指すものと解される。
そして,本件7土地は,埼玉県桶川市αにおいて,都市計画法7条に
規定する市街化区域内で,同法8条1項1号及び9条5項に規定する第
一種住居地域に指定された地域内に所在しており,その建築基準法52
条に規定する容積率は200パーセント,同法53条に規定する建ぺい
率は60パーセントと定められているところ(前提事実(1)イ(ア)及び
(イ)),埼玉県桶川市αにおいて都市計画法8条1項1号及び9条4項
に規定する第一種中高層住居専用地域に指定されている地域は,第一種
住居地域に指定されている地域と同様に,その容積率は200パーセン
ト,建ぺい率は60パーセントと定められており(乙6),いずれも各
土地が一般的に戸建住宅として利用されている地域であり,各土地の利
用の状況,環境等がおおむね同一と認められることからすると,本件7
土地が広大地に該当するかの判断に当たっての基礎となる「その地域」
(評価通達24-4)とは,埼玉県桶川市αにおいて都市計画法上の用
途地域が第一種住居地域又は第一種中高層住居専用地域と定められてい
る地域(本件地域)をいうものと解するのが相当である。
(ウ)本件地域においては,平成17年4月1日から平成22年3月31日
の間に8件の開発許可がされているところ(乙10の1から10の8ま
で,弁論の全趣旨),このうち6件において路地状開発が行われており
(乙11の2から11の6まで,11の8),また,本件指導要綱(桶
川市開発行為等に関する指導要綱)第3の2(2)が,戸建の住宅を目的
とする開発事業における区割りの計画について,1区画当たり100平
方メートル未満の区画は作らない旨などを定めているところ(別紙1・
第4の2),被告主張路地状開発による1区画当たりの宅地の地積は,
おおむね132.5平方メートルから156.2平方メートルまでであ
ることからすれば(別紙5,弁論の全趣旨),被告主張路地状開発は,
本件7土地を本件地域における標準的な宅地の規模を踏まえて類似の利
用に供しようとするものと認められる。
(エ)被告主張路地状開発においては,路地状部分の長さが11.23メー
トルで,その路地状部分の幅員が2.5メートルと想定されているとこ
ろ(別図5),これは,本件条例(埼玉県建築基準法施行条例)3条
が,建築物の敷地が路地状部分のみによって道路に接する場合に,その
敷地の路地状部分の長さが10メートル以上15メートル未満のものに
ついては,その路地状部分の幅員を2.5メートル以上としなければな
らいらない旨を定めていること(別紙1・第3)に合致するものである
し,その他,被告主張路地状開発が都市計画法等の法令等に反すること
をうかがわせる事情は見当たらない。
(オ)以上によれば,被告主張路地状開発は,本件7土地をその地域におけ
る標準的な宅地の規模を踏まえて類似の利用に供しようとするものであ
り,このとおり所要の土地の区画形質の変更を行うことを妨げる法令等
の規定も見当たらないことから,結局,本件7土地を被告主張路地状開
発のとおり区画形質の変更を行うことによって,道路,公園等の公共公
益的施設用地として相当のいわゆる潰れ地が生ずるのを免れることがで
きるものといえる。
イ小括
したがって,本件7土地については,開発行為を行うとした場合に公共
公益的施設用地の負担が必要であるとまでは認められないから,評価通達
24-4に定める広大地には該当しないものというべきである。
(3)原告らの主張について
これに対し,原告らは,本件7土地については,別図6のように開発道路
を開設する形で開発する方が経済的合理性に勝るなどとして,開発行為を行
うとした場合には公共公益的施設用地の負担が必要であると主張し,H税理
士もその意見書(甲18)において同様の意見を述べる。
実際に,本件7土地については,Fによりこれを含む本件売買対象土地に
つき開発道路を開設する設計での開発行為が行われていること(乙11の
5),平成17年4月1日から平成22年3月31日の間に,本件地域にお
ける8件の開発行為のうち,上記の本件7土地に関するもののほかに4件に
おいて開発道路が開設されていること(乙11の1,11の2,11の6,
11の7)などの事情に照らすと,原告らの主張する別図6のような開発方
法が,本件7土地の開発方法として一定の合理性を有していることは首肯す
ることができる。
しかし,本件7土地の開発方法は,原告らの主張する別図6のようなもの
に限られるものではなく,先に判示したとおり,本件7土地については,被
告主張路地状開発のとおり区画形質の変更を行うことによって,道路,公園
等の公共公益的施設用地として相当のいわゆる潰れ地が生ずるのを免れるこ
とができるのであって,本件7土地につき開発行為を行うとした場合に原告
らの主張するように公共公益的施設用地の負担が必要であるとまでは認めら
れない。
したがって,原告らの主張は,上記の当裁判所の判断を左右するものでは
ない。
3争点3(本件第二次相続に係る相続税の課税対象となる財産を構成するのは
本件譲渡対象土地か,本件第1売買契約に係る本件売買残代金請求権か)に
ついて
(1)本件第二次相続に係る相続税の課税対象となる財産について
本件第二次相続に関する事実経過は,前提事実(2)ウのとおりである。
本件第一次相続の開始後であって本件第二次相続の開始前である平成19
年12月21日に本件第1売買契約が締結されたことにより,E及び原告A
は,Fに対し,本件売買対象土地の所有権を移転する義務を負うとともに,
売買代金請求権を取得したものであるが,本件第1売買契約の第6条に「本
物件の所有権は,第3条の残金の支払いと同時に売主から買主に移転するも
のとし」(乙3の1)と定められ,また,本件売買対象土地には農地が含ま
れており,農地法所定の届出をしないとその所有権が移転しないものとされ
ているところ(平成21年法律第57号による改正前の農地法5条3項及び
1項3号並びに3条4項),平成20年▲月▲日にEが死亡して本件第二次
相続が開始した時には,本件第1売買契約の残代金の支払はされておらず,
本件売買対象土地のうちの農地について農地法所定の届出もされていなかっ
たことから,本件譲渡土地を含む本件売買対象土地の所有権はFには移転し
ていなかったことになる。
相続税法2条1項は,相続税の課税対象となる財産は相続により取得した
財産である旨を定めているところ(別紙1・第1の1),上記の事実関係の
下で,本件第1売買契約の売買残代金請求権(本件売買残代金請求権)と本
件譲渡土地のいずれが原告Dが本件第二次相続によりEから取得した財産に
当たるのかが問題となるが,本件第1売買契約の第6条において本件譲渡土
地の所有権が農地法所定の届出を経た場合を含めて残代金の支払がされるま
で売主であるEに留保されるものとされた実質は,本件売買残代金請求権を
確保するための機能を持たせるためであったものと推認することが相当であ
るから,原告Dが本件第二次相続によりEから取得した財産は,本件譲渡土
地ではなく,本件売買残代金請求権であると解するのが相当である。そし
て,本件第二次相続開始時において本件売買対象土地のうちの農地について
農地法所定の届出がされていなかったのは,この届出を行うことに法律上の
障害があったなどの事情によるものではなく,たまたま農地法所定の届出が
されるよりも前にEが死亡したという経緯に由来するものと認めるのが相当
である(乙13)から,上記の届出がされていなかったことは,原告Dが本
件第二次相続によりEから取得した財産が本件譲渡土地であるか本件売買残
代金請求権であるかを判断するに際して決定的な事由となるものではなく,
Eに留保された本件譲渡土地の所有権の実質が本件売買残代金請求権を確保
するためのものにすぎなかったという結論を左右するものともいえない。
したがって,本件第二次相続に係る相続税の課税対象となる財産を構成す
るのは,本件譲渡対象土地ではなく,本件売買残代金請求権であるというべ
きである。
(2)原告Dの主張について
ア原告Dは,本件第二次相続開始時において本件売買対象土地のうちの農
地について農地法所定の届出がされていなかったことなどから,本件譲渡
土地の所有権はEに帰属しており,本件第二次相続に係る相続税の課税対
象となる財産を構成するのは本件譲渡対象土地となると主張し,H税理士
もその意見書(甲18)において同様の意見を述べるが,前記(1)で判示
したところに照らし,採用することはできない。
イまた,原告Dは,本件第1売買契約については,本件第二次相続開始後
に本件解約合意がされたことから,締結日にまで遡って消滅しており,本
件第二次相続開始時には本件売買契約もそれを基礎とする本件売買残代金
請求権も存在していないことになると主張する。
しかし,前提事実(2)ウのとおり,本件解約合意がされたのと同日に売
主及び土地所有者の名義並びに残代金支払期日のほかは本件第1売買契約
と同一内容の本件第2売買契約が締結されたこと,本件解約合意には本件
第1売買契約に係る手付金を買主であるFに返還する旨の定めがあったに
もかかわらず(乙12),実際にはこれがFに返還されることはなく,そ
のまま本件第2売買契約の手付金として扱われたこと,本件第一次相続共
同相続人らが本件第1売買契約の締結前の平成19年8月30日付けで桶
川市長に対して生産緑地である本件4土地及び本件7土地を買い取るべき
旨の申出をしていたところ,Fは,本件第1売買契約締結後の平成20年
2月27日付けで本件4土地及び本件7土地に係る生産緑地地区の指定が
解除されると,同月29日付けで都市計画法29条1項の開発行為の許可
を申請し,同年3月7日に本件解約合意がされてもそのままこれを維持し
て,同月18日にその許可を受け,同月21日に原告D,原告A及びFが
桶川市農業委員会に対して本件譲渡土地のうちの農地についていわゆる農
地転用を届け出て,同年4月11日に本件売買対象土地についてFへの所
有権の移転の登記がされ,原告D及び原告AがFから売買残代金を受領す
るなど,本件解約合意の前後を通じて本件第1売買契約で合意した内容に
沿ってその手続が進められたことなどの事情に照らせば,本件解約合意
は,本件第2売買契約の締結とあいまって,本件第二次相続により本件第
1売買契約におけるEの契約上の地位が原告Dに移転したことを明らかに
するとともに,残代金の弁済期を変更したにすぎないものというべきであ
って,本件第1売買契約の効果を遡及的に失わせるものでないと解するの
が相当である。
したがって,原告Dの主張は採用できない。
4本件各処分1及び2の適法性について
これまで判示してきたところ及び弁論の全趣旨によれば,原告らが納付す
べき本件第一次相続に係る相続税の税額及びこれらに係る過少申告加算税の
額は,別紙3「本件各処分1及び2の根拠及び適法性に関する被告の主張」
第1のとおりであり,本件各処分1におけるそれらと同額と認められ,ま
た,原告Dが納付すべき本件第二次相続に係る相続税の税額及びこれに係る
過少申告加算税の額は,同別紙第2のとおりであり,本件各処分2における
それらと同額と認められる。
したがって,本件各処分1及び2は,いずれも適法である。
第4結論
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却すること
とし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官八木一洋
裁判官田中一彦
裁判官川嶋知正
別紙1
関係法令等の定め
第1相続税法
1相続税法2条(相続税の課税財産の範囲)
相続税法2条1項は,同法1条の3第1号又は2号に定める相続税の納税
義務者については,その者が相続又は遺贈により取得した財産の全部に対
し,相続税を課する旨を定めている。
2相続税法22条(評価の原則)
相続税法22条は,同法第3章(財産の評価)で特別の定めのあるものを
除くほか,相続,遺贈又は贈与により取得した財産の価額は,当該財産の取
得の時における時価により,当該財産の価額から控除すべき債務の金額は,
その時の現況による旨を定めている。
第2評価通達(乙5)
1評価通達7(土地の評価上の区分)
(1)評価通達7の本文は,土地の価額は,宅地,田,畑,山林,原野,牧
場,池沼,鉱泉地及び雑種地という地目の別に評価し,この場合の地目
は,課税時期の現況によって判定する旨を定めている。
(2)評価通達7のただし書は,一体として利用されている一団の土地が2以
上の地目からなる場合には,その一団の土地は,そのうちの主たる地目か
らなるものとして,その一団の土地ごとに評価する旨を定めている。
(3)評価通達7のなお書きは,市街化調整区域(都市計画法7条3項に規定
する「市街化調整区域」をいう。)以外の都市計画区域(同法4条2項に
規定する「都市計画区域」をいう。)で市街地的形態を形成する地域にお
いて,評価通達40の本文の定めにより評価する市街地農地(評価通達4
0-3に定める生産緑地を除く。),評価通達40-2の本文の定めによ
り評価する市街地農地(評価通達40-3に定める生産緑地を除く。),
評価通達49の本文の定めにより評価する市街地山林,評価通達49-2
の本文の定めにより評価する市街地山林,評価通達58-3の本文の定め
により評価する市街地原野,評価通達58-4の本文の定めにより評価す
る市街地原野又は評価通達52の本文の定めにより評価する宅地と状況が
類似する雑種地のいずれか2以上の地目の土地が隣接しており,その形
状,地積の大小,位置等からみてこれらを一団として評価することが合理
的と認められる場合には,その一団の土地ごとに評価する旨を定めてい
る。
2評価通達7-2(評価単位)
(1)評価通達7-2(1)は,宅地は,1画地の宅地(利用の単位となっている
1区画の宅地をいう。)を評価単位とする旨を定めている。
(2)評価通達7-2(2)の本文は,田及び畑(以下「農地」という。)は,1
枚の農地(耕作の単位となっている1区画の農地をいう。)を評価単位と
する旨を定めている。
(3)評価通達7-2(3)の本文は,山林は,1筆(地方税法341条10号に
規定する土地課税台帳又は同条11号に規定する土地補充課税台帳に登録
された1筆をいう。)の山林を評価単位とする旨を定めている。
(4)評価通達7-2(7)の本文は,雑種地は,利用の単位となっている一団の
雑種地(同一の目的に供されている雑種地をいう。)を評価単位とする旨
を定めている。
3評価通達11(評価の方式)
評価通達11(1)は,市街地的形態を形成する地域にある宅地の評価は,原
則として,路線価方式によって行う旨を定めている。
4評価通達13(路線価方式)
評価通達13は,路線価方式とは,その宅地の面する路線に付された路線
価を基とし,評価通達15から20-5までの定めにより計算した金額によ
って評価する方式をいう旨を定めている。
5評価通達20-2(無道路地の評価)
評価通達20-2は,道路に接しない宅地(建築基準法その他の法令におい
て規定されている建築物を建築するために必要な道路に接すべき最小限の間口
距離の要件である接道義務を満たしていない宅地を含む。)である無道路地の
価額は,実際に利用している路線の路線価に基づき評価通達20(不整形地の
評価)の定めによって計算した価額からその価額の100分の40の範囲内に
おいて相当と認める金額を控除した価額によって評価し,この場合において,
100分の40の範囲内において相当と認める金額は,無道路地について接道
義務に基づき最小限度の通路を開設する場合のその通路に相当する部分の価額
とする旨を定めている。
6評価通達24-4(広大地の評価)
評価通達24-4は,その地域における標準的な宅地の地積に比して著し
く地積が広大な宅地で,都市計画法4条12項に規定する開発行為を行うと
した場合に同条14項に規定する道路,公園等の公共施設の用に供される土
地及び都市計画法施行令27条に掲げる教育施設,医療施設等の公益的施設
の用に供される土地等である公共公益的施設用地の負担が必要と認められる
もの(評価通達22-2に定める大規模工場用地に該当するもの及び中高層
の集合住宅等の敷地用地に適しているもの(その宅地について,経済的に最
も合理的であると認められる開発行為が中高層の集合住宅等を建築すること
を目的とするものであると認められるものをいう。)を除く。)である広大
地の価額は,その広大地が路線価地域に所在する場合には,原則として,そ
の広大地の面する路線の路線価に,評価通達15から20-5までの定めに
代わるものとして次の算式により求めた広大地補正率を乗じて計算した価額
にその広大地の地積を乗じて計算した金額によって評価する旨を定めてい
る。
広大地補正率=0.6-0.05×広大地の地積/1000平方メートル
第3埼玉県建築基準法施行条例(昭和35年埼玉県条例第37号。乙8。以下
「本件条例」という。)
本件条例3条(路地状敷地)本文は,建築物の敷地が路地状部分のみによ
って道路に接する場合においては,その路地状部分の幅員は,路地状部分の
長さが10メートル以上15メートル未満のものについては,2.5メート
ル以上とし,有効に保持しなければならない旨を定めている。
第4桶川市開発行為等に関する指導要綱(乙7。以下「本件指導要綱」とい
う。)
1本件指導要綱第2(整備基準)の1(道路)(2)
本件指導要綱第2の1(2)は,開発事業により設置すべき道路は,事業者の
負担において整備し,市の道路境界杭を設置した上,市に無償譲渡する旨を
定めている。
2本件指導要綱第3(住宅の規模等)の2(戸建住宅等の区画)(2)
本件指導要綱第3の2(2)は,戸建の住宅を目的とする開発事業における区
割りの計画について,1区画当たり100平方メートル未満の区画は作らな
い旨などを定めている。
以上
別紙2
争点に関する当事者の主張の要旨
第1争点1(E取得土地は,これを1つの評価単位として評価すべきか,本件1
土地から本件6土地までの土地ごとに評価すべきか)
1被告の主張
(1)E取得土地の評価方法
ア土地の価額は,評価通達7の本文の定めに従い,現況地目の別に評価す
ることが原則である(乙5・28頁及び29頁)。
イもっとも,2以上の地目からなる土地であっても,評価通達7のただし
書及びなお書きの定めにより,一団の土地として一体で評価すべき場合も
ある。
しかし,評価通達7のただし書の趣旨は,大規模な工場用地やゴルフ練
習場用地等のように一体として利用されている一団の土地のうちに2以上
の地目がある場合に,その一団の土地をそれぞれの地目ごとに区分して評
価すると,一体として利用されていることによる効用が評価額に反映され
ないこととなるため,実態に即した評価を行おうとすることにあるところ
(乙5・29頁及び30頁),E取得土地については,前提事実(1)イ(ウ)
aからfまでのとおりの各土地の利用状況に鑑みれば,そもそも大規模な
工場用地やゴルフ練習場用地等のように「一体として利用されている一団
の土地」とはいえないから,評価通達7のただし書の適用がないことは明
らかである。
また,評価通達7のなお書きの趣旨は,宅地化が進展している地域(市
街化調整区域以外の都市計画区域で市街地的形態を形成する地域)におけ
る市街地農地,市街地山林,市街地原野又は宅地と状況が類似する雑種地
の評価通達上の取扱いは,その現況が宅地でなくても,近隣の宅地の価格
の影響を強く受けることから,原則として,いわゆる宅地比準方式(農地
等が宅地であるとした場合の価額から,当該農地等を宅地に造成するため
通常必要と認められる標準的な造成費等を控除して評価額を算出する方
式。評価通達40。乙5・261頁)により宅地転用を想定して評価する
こととなっていることを踏まえ,隣接しているこれらの土地を一団として
評価することが合理的と認められる場合には,その一団の土地を一つの評
価単位として評価しようとすることにあるところ,本件1土地及び本件6
土地は,それぞれ評価通達7のなお書きに定める「市街地山林」及び「宅
地と状況が類似する雑種地」に該当すると認められるものの,これらの土
地は隣接していないから(別図3「図面(本件第一次相続)」),本件1
土地及び本件6土地はもちろんのこと,これらを含むE取得土地につい
て,評価通達7のなお書きの適用がないこともまた明らかである。
ウ以上によれば,E取得土地の価額については,現況地目が宅地である本
件2土地,本件3土地及び本件5土地の各土地,現況地目が山林である本
件1土地,現況地目が畑である本件4土地並びに現況地目が雑種地である
本件6土地をそれぞれ別個に評価して算定すべきことになる。
そして,評価通達7-2(1)は宅地の評価単位をその利用の単位となっ
ている1画地の宅地とする旨を定めているところ,現況地目が宅地である
本件2土地,本件3土地及び本件5土地については,本件2土地は自用
地,本件3土地及び本件5土地は貸家建付地で,それぞれ利用単位を異に
していることから,本件2土地と本件3土地及び本件5土地とは,それぞ
れ別個に評価することとなる。さらに,貸家建付地の評価において,貸家
が数棟あるときには,原則として,各棟の敷地ごとに区分して評価するこ
とになるところ(乙5・37頁及び38頁),本件3土地は貸店舗の敷
地,本件5土地は貸事務所の敷地として,それぞれ異なる第三者に賃貸し
ていることから,本件3土地と本件5土地とについても,それぞれ別個に
評価することとなる。
エしたがって,E取得土地の価額については,本件1土地から本件6土地
までの各土地の価額を別個に評価して算定することになる。
オこれに対し,原告らは,普通住宅地区等に所在する土地がその地域にお
ける標準的な地積に比して広大で,開発行為を行うとした場合に公共公益
的施設用地の負担が必要と認められるときは,たとえ当該土地が複数の地
目からなる土地であっても,評価通達7を適用せず,1つの評価単位とし
て評価すべきであるとして,E取得土地の価額については,1つの評価単
位として扱った上で,評価通達24-4に定める広大地として評価すべき
であるなどと主張するが,造成を予定しているか否かや,開発未了か否か
を客観的に判断することは困難であるから,原告らの主張は,相続又は遺
贈によって財産を取得した者の主観によって一団の土地と評価される範囲
が異なってくるなど,不当な結果を招来するおそれが大きく,現況におけ
る土地の評価方法として合理性を欠くことは明らかであるから,失当であ
る。
(2)本件1土地は無道路地として評価できないこと
ア原告らは,仮にE取得土地を1つの評価単位として評価することができ
ないとしても,本件1土地については道路に直接には接していない土地で
あるから,評価通達20-2の無道路地として評価すべきであるなどと主
張する。
イ評価通達20-2は,無道路地の価額は,実際に利用している路線の路
線価に基づき評価通達20(不整形地の評価)の定めによって計算した価
額からその価額の100分の40の範囲内において相当と認める金額を控
除した価額によって評価する旨を定めている。これは,無道路地は,道路
に面している画地に比べるとその利用価値が低くなるのが一般的であると
ころ,無道路地がその所有権の属性として囲繞地通行権を内蔵しており,
そこに通路が開設され,袋地(旗竿状の画地)となったことを想定して,
その通路開設費用相当額を控除することが最も現実的なものであることに
基づくものである(乙5・94頁及び95頁)。
ウ他方,評価通達1(評価の原則)(3)は,相続税の課税対象たる財産の
評価には,その財産の価額に影響を及ぼすべき全ての事情を考慮する旨を
定めているから(乙16・4頁),無道路地に該当するか否かの判断に当
たっては,道路に接面していない土地のみに着目するのではなく,当該土
地と公道との連絡状態等を含めた利用状況や囲繞地の所有権の状況も考慮
すべきである。例えば,評価対象地と囲繞地の所有者が同一であり,借地
権,地上権又は地役権等を設定しなくとも,評価対象地の自由な利用が阻
害されていない場合には,通行権確保の費用等を負担する必要がなく,評
価対象地の経済的利用価値は道路に接面している土地の場合と全く同様に
評価できることとなるから,このような場合には,そもそも無道路地に該
当しないものとして評価するのが相当である。課税実務上においても,無
道路地の所有者と囲繞地の所有者が同一人であれば,不整形地としての考
慮はするものの,評価通達上の「無道路地」としての考慮はしていない
(乙20)。
エ本件1土地及び本件2土地は,いずれも本件第一次相続によりEが取得
したものであり,また,別図3「図面(本件第一次相続)」のとおり,本
件1土地は本件2土地を介して公道に接続できることからすれば,本件1
土地に建築物を建築するとした場合,本件2土地を介していつでも接道義
務を満たすことが可能であるから,本件1土地について接道義務を満たさ
ないことによる利用の制限があるとは認められない。
そうすると,本件1土地は,新たに道路を開設する必要がなく,道路開
設費相当額を負担する必要がないことから,評価通達20-2に定める無
道路地には該当しない。
したがって,原告らの主張には理由がない。
(3)本件3土地及び本件5土地は広大地として評価できないこと
ア原告らは,仮にE取得土地を1つの評価単位として評価することができ
ないとしても,隣接する本件3土地及び本件5土地については,いずれも
貸家建付地として利用の単位を共通としているから,1つの評価単位とし
て扱った上で,広大地として評価すべきであるなどと主張する。
イしかし,評価通達7-2(1)は宅地の評価単位をその利用の単位となっ
ている1画地の宅地とする旨を定めているところ,1画地の宅地の区分
は,原則として,宅地の所有者による自由な使用収益を制約する他者の権
利(原則として使用貸借による使用借権を除く。)の存在の有無によると
され,具体的には,貸家建付地を評価する場合に貸家が数棟あるときに
は,原則として各棟の敷地ごとに1画地の宅地とするとされている(乙
5・37頁及び38頁)。
ウそして,本件3土地及び本件5土地には,本件第一次相続の開始時に,
それぞれ独立した家屋が存在し,それらの家屋がそれぞれ別の者に賃貸さ
れていたのであるから,別個の評価単位として評価するのが相当である。
エこれに対し,原告らは,本件3土地及び本件5土地について,貸家各棟
の敷地ごとに1画地の宅地として評価することは,貸家を取り壊して開発
分譲地とすることを前提に土地の評価を行う広大地評価の場合は無用であ
り,開発分譲適地について,複数の貸家建付地から構成されていることだ
けを理由に評価単位を細分することは,貸家が敷地に比して極めて小規模
な貸家建付地が連たんする場合にも広大地評価をすることが不可能とな
り,市場での取引実態とかい離する結果となるなどと主張するが,開発分
譲適地とはどのような土地を指すのかが判然とせず,土地を一団として開
発分譲地として造成する意思を有するか否かといった,相続又は遺贈によ
って財産を取得した者の主観によって,一団の土地と評価される範囲が異
なってくるなど,不当な結果を招来するおそれが大きく,土地の評価方法
としての合理性を欠いているから,原告らの主張は失当である。
2原告らの主張
(1)主位的な主張
ア評価通達7及び7-2の合理性は争わない。しかし,これらの定めをE
取得土地に適用することは不合理である
イ評価通達24-4は,普通住宅地区に所在する一定規模以上の土地のよ
うに開発分譲が最有効使用となる土地については,実際に開発する際に開
発道路等の潰れ地が生じる場合が多いことから,その価額を評価するとき
には潰れ地による減価を考慮するものとしたものであるところ,ある一団
の土地が評価通達24-4が想定しているような開発分譲地に適するかど
うかは,専ら,当該一団の土地の地積,形状,接面街路の幅員,駅等の公
共公益施設との位置関係,隣接不動産等の周囲の状態,公法上の規制の内
容に左右されるものであって,当該一団の土地が複数の地目の土地によっ
て構成されているとしても,造成を予定している開発未了の土地という意
味ではそれぞれが同価値であり,個々の地目が何であるかはさほど重要で
ない。
そうすると,普通住宅地区に所在する開発分譲適地のような広大地とし
て評価すべき土地について,評価通達7の本文を適用して地目ごとに評価
単位を細切れにすることに合理性はなく,また,評価通達7のなお書きを
適用して特定の地目の土地の隣接状況に応じて評価単位を定めることも不
合理であり,取引市場における評価実態ともかい離するものである。取り
分け,宅地と状況が類似する雑種地と市街地農地とが隣接している場合に
は評価通達7のなお書きが適用されて1つの評価単位として評価されるの
に,宅地と状況が類似する雑種地と宅地とが隣接した場合にはこれを1つ
の評価単位としてはみることができないとするのは,いずれの場合であっ
ても開発分譲地とするのが最有効使用であることを考えると,いかにも不
合理である。
したがって,普通住宅地区等に所在するある土地がその地域における標
準的な地積に比して広大で,開発行為を行うとした場合に公共公益的施設
用地の負担が必要と認められるときは,たとえ当該土地が複数の地目から
なる土地であっても,評価通達7は適用せず,1つの評価単位として評価
するべきである。このような評価方法は当該土地そのものの市場価値を反
映した合理的なものと考えられる。また,これら一団の土地を構成する各
土地は,たとえ地目を異にしていても価格形成要因を共通にし,一般に開
発法という同一の評価方法によって評価されるのであるから,上記のよう
な評価方法を採用しても,価格形成要因及び評価方法の共通性を根拠に評
価単位の区分を定めた評価通達7の趣旨には反しない。
ウE取得土地については,本件1土地から本件6土地までの各土地の地目
は別であっても,いずれも普通住宅地区内に所在し,地積,形状,接面街
路との位置関係等からみて,標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広
大で公共公益的施設用地の負担が必要と認められる一団の土地といえるか
ら,評価通達24-4に定める広大地として評価されるべきである。
(2)予備的な主張
ア本件1土地の評価
(ア)仮にE取得土地を1つの評価単位として評価することができないとし
ても,本件1土地については道路に直接には接していない土地であるか
ら,評価通達20-2の無道路地として評価すべきである。
(イ)相続税法においては,財産の価額は時価によるとされている。ここに
いう「時価」とは,不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通
常成立する価額をいうものと解されているところ,本件1土地の時価
は,本件1土地のみが独立当事者間の自由な取引の対象となったときに
通常成立すると認められる価額である。本件1土地について,市道に面
して所有者も同一である土地と隣接しているとの事情を含めて評価する
のは,本件1土地と本件2土地とを合わせた土地の最有効使用を前提と
する評価額から本件2土地の価格を控除した残額を算定するに等しい。
このような評価方法は,本件1土地の価額の評価の前提として本件1土
地と本件2土地とが一体として独立当事者間の自由な取引の対象となる
ことを想定したものであるが,ある土地を評価するに当たって,当該土
地の所有者が囲繞地の所有者と同一であるという前提を入れて評価する
のは,売主の属性を固定している点で,不特定多数の当事者間で成立す
る取引とはいえず,上記の時価の概念と矛盾する。このような方法によ
る評価額が本件1土地の時価を表すものでないことは論を待たない。
(ウ)以上のことは,不動産鑑定評価の公的指針たる不動産鑑定評価基準の
考え方からも導かれる。
不動産鑑定評価基準では,上記の時価に相当する概念として正常価格
が定義されている。正常価格とは,市場性を有する不動産について,現
実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場において
形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう(甲15)。
ここで,囲繞地が自己所有地である特定の土地を売却する場合,売主の
立場からみると,囲繞地に買主のために通路開設等の負担が生じたり,
囲繞地の利用効率が落ちることがあるため,当該囲繞地の減価分を当該
土地の売却価格に上乗せすることはあり得る。したがって,この例でい
えば,確かに囲繞地所有者が誰であるかによって当該土地の価格は影響
を受けている。しかし,だからといって,当該土地の正常価格を評価す
るに当たってこの要素を検討することは許されない。なぜなら,囲繞地
の所有者が対象土地の所有者と同一であることを前提に算出された評価
額は,市場が相対的に限定されたときにおける特定当事者間においての
み経済合理性を有するいわゆる限定価格であり,正常価格とは異なるも
のとされているからである(甲15,16)。
(エ)よって,本件1土地は無道路地として評価すべきである。
イ本件3土地及び本件5土地の評価
(ア)仮にE取得土地を1つの評価単位として評価することができないとし
ても,隣接する本件3土地及び本件5土地については,いずれも貸家建
付地として利用の単位を共通としているので,1つの評価単位として扱
った上で,広大地として評価すべきである。
(イ)一般に,複数の貸家建付地が隣接する場合は貸家各棟の敷地それぞれ
を1画地の宅地として評価するとものされているが,これは借家契約の
個別性に着目して評価単位を判定したものと考えられる。しかし,その
ような配慮は,貸家を取り壊して開発分譲地とすることを前提に土地の
評価を行う広大地の評価の場合には無用である。また,開発分譲適地に
ついて,複数の貸家建付地から構成されていることだけを理由に評価単
位を細分することは,貸家が敷地に比して極めて小規模な貸家建付地が
連たんする場合にも広大地評価をすることが不可能となり,市場での評
価実態とかい離する結果となる。
したがって,普通住宅地区に所在するある土地がその地域における標
準的な地積に比して広大で,開発行為を行うとした場合に公共公益的施
設用地の負担が必要と認められるときは,たとえ当該土地が複数の貸家
建付地からなる土地であっても,1つの評価単位として評価するべきで
ある。
(ウ)本件3及び5土地は,いずれも普通住宅地区内に所在し,地積,形
状,接面街路との位置関係等からみて,標準的な宅地の地積に比して著
しく地積が広大で公共公益的施設用地の負担が必要と認められる一団の
土地と評価できる。
よって,本件3土地及び本件5土地については,1つの評価単位とし
て扱った上で,広大地として評価すべきなのである。
第2争点2(本件7土地が評価通達24-4に定める広大地に該当するか)
1被告の主張
(1)評価通達24-4は,その地域における標準的な宅地の地積に比して著
しく地積が広大な宅地で都市計画法4条12項に規定する開発行為を行う
とした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものについて
は,広大地に該当するとして,当該土地の評価の際に一定割合を減額する
旨を定めているところ,これは,広大地について開発行為を行うとした場
合に,大量の潰れ地が生ずるため,当該土地の評価の際に,潰れ地の生ず
る程度により一定割合を減額する趣旨であるとされ,このような趣旨か
ら,普通住宅地区等に所在する土地で,各自治体が定める開発許可を要す
る面積基準以上のものであっても,公共公益的施設用地の負担がほとんど
生じないと認められる土地については,広大地に該当しないものとされて
いる。
(2)広大地に該当するための要件である戸建住宅分譲用地として開発した場
合の公共公益的施設用地の負担の必要性は,経済的に最も合理的な開発
(戸建住宅の分譲)を行った場合の当該開発区域内に開設される開発道路
の必要性により判断することが相当であると解されている(乙5・141
頁)。開発区域内に新たに開発道路を開設する場合には,その開発道路部
分は,市に無償譲渡することが一般的であり,現に,本件各土地が所在す
る桶川市の本件指導要綱第2の1(2)においても,開発事業により設置すべ
き道路は市に無償譲渡する旨が定められているから,こうして無償譲渡す
ることになる開発道路部分はいわゆる潰れ地になるのである。
したがって,開発道路を開設しないことが,都市計画法等の法令に反しな
いものであり,かつ,その開発方法が評価対象地の周辺の地域において一般
的に行われているものであると判断される場合には,開発道路すなわち公共
公益的施設用地の負担がないこととなり,その結果,当該土地については広
大地には該当しないこととなる。
(3)本件7土地は,東側で市道 ○ 号線に面しており(別図3「図面
(本件第一次相続)」),間口が約57メートル,奥行が約20メートル
の長方形の土地である(別図1-7,別図5)。このように,道路に接す
る面の長い長方形であるという形状及びその間口・奥行きの長さからすれ
ば,本件7土地を戸建住宅の分譲用地として開発する場合には,路地状の
敷地により道路に接する部分を有する宅地の分譲方法(以下「路地状開
発」という。)を行うことが物理的に可能であり,具体的には,別図5に
示すような路地状開発(以下「被告主張路地状開発」という。)を行うこ
とが可能であるから,被告主張路地状開発を行った場合には,開発道路す
なわち公共公益的施設用地の負担はない。
(4)ところで,路地状開発により戸建分譲を行うことが経済的に最も合理性
のある開発に当たるかどうかについては,一般に,①路地状部分を組み合
わせることによって評価通達24-4に定める「その地域」における標準
的な宅地の地積に分割できること,②都市計画法等の法令等に反しないこ
と,③容積率(建築基準法52条)及び建ぺい率(同法53条)の計算上
有利であること,④評価対象地を含む周辺地域において路地状開発による
戸建分譲が一般的に行われていることといった基準により判断されている
(乙22・2頁)。
ア本件7土地は,桶川市α地区で都市計画法における用途地域が第一種住
居地域に所在し,容積率が200パーセント,建ぺい率が60パーセント
とされているところ(前提事実(1)イ(イ)),桶川市α地区で第一種住居地
域及び第一種中高層住居専用地域とされている地域は,その利用状況が同
一であると認められるから(乙6・12枚目),本件7土地に係る「その
地域」とは,桶川市α地区で用途地域が第一種住居地域及び第一種中高層
住居専用地域とされている地域を併せた地域(以下「本件地域」とい
う。)をいうことが相当である。
そして,被告主張路地状開発により区画された宅地の地積はおおむね1
32.5平方メートルから156.2平方メートルまでと計算されるとこ
ろ,これは本件指導要綱第3の2(2)に定める「1区画あたり100平方
メートル未満の区画は,つくらないこと」(乙7)との基準に沿うもので
あるから,被告主張路地状開発によって本件地域における標準的な宅地の
地積に分割できるものと認められる。
イ本件条例3条は,建築物の敷地が路地状部分のみによって道路に接する
場合に,その敷地の路地状部分の長さが10メートル以上15メートル未
満のものについては,その路地状部分の幅員を2.5メートル以上としな
ければならいらない旨を定めているところ,被告主張路地状開発は,路地
状部分の長さが11.23メートルでその路地状部分の幅員が2.5メー
トルであるから(別図5),本件条例の規定に沿うものである。また,上
記アのとおり被告主張路地状開発は本件指導要綱第3の2(2)の定めに沿
うものである。したがって,被告主張路地状開発は都市計画法等の法令等
に反しないものと認められる。
ウ被告主張路地状開発によって,建築基準法52条所定の容積率及び同法
53条所定の建ぺい率の算定に当たって路地状部分の面積も敷地面積に含
まれることから,より広い延べ面積及び建築面積の建築物を建てることが
可能となり,容積率及び建ぺい率の計算上有利になることは明らかであ
る。
エ本件地域において,平成17年4月1日から平成22年3月31日の間
に開発許可がされた事例(乙10の1から11の8まで。以下「本件開発
事例」という。)をみると,同期間の本件地域内の開発件数は8件で,そ
のうちの6件で路地状開発が行われているから,本件地域において路地状
開発が一般的に行われていることは明らかである。
このうち本件8土地及び本件9土地は,それぞれ本件地域内に所在し,
本件7土地の近隣に所在する土地であり,本件第一次相続により,原告D
及び原告Cがそれぞれ取得し,本件第一次相続の後,本件売買対象土地と
同様にFに譲渡されたものであるが,これら各土地の実際の開発状況をみ
ると,それぞれ路地状開発を行うことにより,開発道路を設置することな
く戸建住宅用地として分譲開発されている(本件8土地につき乙11の
3,本件9土地につき乙11の4)。取り分け,本件9土地の開発状況
(乙11の4)をみると,1481平方メートル余りの大きな土地であっ
たものが,13区画もの宅地に分譲されているにもかかわらず,4区画の
路地状開発を組み込むことにより,開発道路の設置による潰れ地を生じさ
せることなく,合理的に分譲を行っているものと認められる。こうした本
件8土地及び本件9土地の実際の開発状況は,本件地域内で路地状開発が
一般的に行われていることを示すにとどまらず,路地状開発が経済的に合
理的な開発方法であることをも明らかにしているといえる。
オ前記アからエまでからすれば,本件7土地については,被告主張路地状
開発のような分譲方法が経済的に最も合理性を有する開発方法であるとい
える。
(5)以上のとおり,本件7土地を戸建住宅に分譲開発するとした場合には,
被告主張路地状開発のような分譲方法が経済的に最も合理的な開発方法で
あり,その場合,開発道路の設置の必要は認められず,公共公益的施設用
地の負担が必要である場合には該当しないから,本件7土地を広大地とし
て評価する余地はない。
(6)これに対し,原告らは,本件7土地を主体とする一体の土地(本件売買
対象土地)が実際には開発道路を開設する形で開発されたと主張するが,
本件で問題となっているのは,飽くまでも本件第一次相続時における本件
7土地の評価であるところ,本件売買対象土地の開発は本件7土地のみの
開発とは異なるのであるから,本件売買対象土地の開発をもって,本件7
土地が開発行為に当たって公共公益的施設用地の負担が必要な土地であっ
たと評価するのは相当ではない。
(7)また,原告らは,本件7土地の形状,面積等からすれば,別図5のよう
に路地状開発するよりも,別図6のように開発道路を開設する形で開発す
る方が,経済的合理性に勝ることは明白であるなどと主張するが,その根
拠となる別表13の計算過程には,市道 ○ 号線に接していない分譲
地について,特定路線価を設定せず,市道 ○ 号線に付けられた路線
価を正面路線価としてその価額を評価している部分があり,その結果とし
て,別図6のように開発道路を開設する形で開発する場合の本件7土地全
体の評価額が不当に高く算定されてしまっているという問題がある。
2原告らの主張
(1)路地状開発は可能ではあるが,都市計画法上の開発行為(切土,盛土を
行う造成工事による土地の区画形質の変更)に当たって開発道路の開設等
が必要とされる場合は,一般にまま見られることであり,両者は原則的に
無関係である。災害対策を第一義とする同法の理念からすれば,路地状敷
地は災害時の避難や救出の点から好ましい存在ではなく,路地状開発を前
提とする開発許可の申請がされた場合,行政としては,路地状開発を否定
し,又は路地状開発とともに一定程度の幅員を確保した開発道路の造成を
指導するのが一般的だからである。
そして,こうした路地状開発は可能ではあるが開発道路の開設が必要な場
合が公共公益的施設用地の負担が必要と認められる場合に該当することは,
評価通達24-4が,広大地として評価するための要件として,路地状開発
が可能であるかどうかなどを掲げていないことなどからして,明白である。
したがって,本件7土地において路地状開発をすることが可能であったと
しても,公共公益的施設用地の負担が不要であることが導かれるわけではな
い。
(2)むしろ,本件開発事例をみると,本件7土地を除く7事例のうち4事例
について開発道路が開設されており,本件7土地についてもこれを主体と
する一体の土地(本県売買対象土地。本件1-2土地,本件2-2土地,
本件3-2土地,本件4土地及び本件7土地)について開発道路を開設す
る形での開発が行われていること(乙11の5)からすれば,本件7土地
が開発行為に当たって公共公益的施設用地の負担が必要な土地であったこ
とは優に認められる。
(3)被告は,本件7土地を戸建住宅に分譲開発するとした場合には,被告主
張路地状開発のような分譲方法が経済的に最も合理的な開発方法であるか
ら,公共公益的施設用地の負担が必要である場合には該当しないなどと主
張するが,これは,路地状開発が可能かどうかの問題と公共公益的施設用
地の負担(開発道路の開設等)が必要かどうかの問題をすり替えているの
である。
(4)ところで,被告は,本件7土地について,別図5のように路地状開発す
ることが合理的であると主張するところ,その論拠としては,①本件地域
における標準的な宅地の地積に分割できる,②都市計画法等の法令等に反
しない,③容積率及び建ぺい率の計算上有利である,④周辺地域において
路地状開発による戸建分譲が一般的に行われているといった点を挙げるの
みである。これらは,いずれも路地状開発を行うことの一般的な利点を示
すにとどまり,開発道路を開設した場合との相対的優劣の観点が欠落して
いる。すなわち,路地状開発は,旗竿地のような不整形地を生じさせ,防
災の点からも忌避されるのに対し,開発道路を開設した場合は,全体の分
譲可能面積が縮小するものの街区が整備されることにより住宅の環境等の
付加価値を高め上質な住宅が供給できるところ,被告の主張は,こうした
点を一切考慮していないのである。
(5)本件7土地の形状,面積等からすれば,別図5のように路地状開発する
よりも,別図6のように開発道路を開設する形で開発する方が,経済的合
理性に勝ることは明白である。すなわち,別表12は,本件7土地を別図
5のように路地状開発することを想定した場合における本件7土地全体の
評価額を評価通達に定められた方法によって8086万0528円と算定
したものであり,別表13は,本件7土地を別図6のように開発道路を開
設する形で区画割りすることを想定した場合における本件7土地全体の評
価額を評価通達に定められた方法によって8256万9904円と算定し
たものであるところ,分譲可能面積は別図5の方が大きいが,別図5は4
区画について不整形(旗竿地)による減価が認められるため,本件7土地
全体の評価額は開発道路を開設する形で区画割りした場合の方が高額とな
るのである。
実際にも,前記(2)のとおり,本件7土地を購入した土地開発業者は,本
件7土地を含む一体の土地について区画造成を行ったが,本件7土地につい
て路地状開発は一切していない。これは,同業者が本件7土地の開発に当た
って,経済的合理性に最も富む開発方法が開発道路を開設する方式であると
判断したことを意味している。
第3争点3(本件第二次相続に係る相続税の課税対象となる財産を構成するのは
本件譲渡対象土地か,本件第1売買契約に係る本件売買残代金請求権か)
1被告の主張
(1)相続税の課税対象となる財産は,相続により取得した財産であり(相続
税法2条1項),相続財産の価額は取得の時における時価である(同法2
2条)。また,相続は,被相続人の死亡によって開始され(民法882
条),相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利
義務を承継するから(同法896条),ある財産が相続税の課税対象とな
るか否かは,被相続人の死亡のときにおけるその財産の権利関係の状況に
よって判断するべきである。
(2)そして,本件では,前提事実(2)ウ(ア)のとおり,本件第二次相続開始前
の平成19年12月21日に,E及び原告AはFとの間で本件第1売買契
約を締結して,手付金を受領しており,その後,本件第二次相続開始のと
きまでに,本件第1売買契約が解除されたり,本件第1売買契約に係る残
代金が清算された事実も認められないから,Eは本件第二次相続開始の時
において,本件第1売買契約の売買残代金請求権(以下「本件売買残代金
請求権」という。)を有していたものと認められ,本件第二次相続におい
て,原告Dはその権利義務の一切を承継したこととなる。
(3)もっとも,本件第1売買契約は,その6条において,「所有権は(中
略)残金の支払いと同時に売主から買主に移転する」(乙3の1)と定め
ていることから,本件第1売買契約上は,本件第二次相続開始時におい
て,本件譲渡土地の所有権はFには移転していない。
しかし,本件第1売買契約の16条の1には,売主は買主の計画する開発
等許認可に関する全てにおいて全面的に協力する旨が,同条の4には,農地
法第5条申請について売主買主協力して行う旨がそれぞれ定められているこ
とに照らせば,特段の事情がない限り,本件第1売買契約の成立と同時に,
上記各諸手続が進められ,本件第1売買契約の履行が確実な状態にあったと
認められ,売主であるE及び原告Aは,買主であるFに所有権移転義務を負
う一方で,売買代金請求権を取得したものと解される。
本件と同様に,農地の売買後その所有権移転前に売主の相続が開始され,
その相続税の対象となる相続財産が土地か売買代金債権であるかが争われた
事案において,最高裁昭和56年(行ツ)第89号同61年12月5日第二
小法廷判決・訟務月報33巻8号2149頁は,「たとえ本件土地の所有権
が売主に残っているとしても,もはやその実質は売買代金債権を確保するた
めの機能を有するにすぎないものであり,上告人ら(括弧内省略)の相続し
た本件土地の所有権は,独立して相続税の課税財産を構成しない」と判示し
ている。
したがって,本件第一次相続開始時に本件譲渡土地の所有権がEに残って
いたとしても,それは「もはやその実質は売買代金債権を確保するための機
能を有するにすぎない」ものであるから,相続税の課税対象は本件譲渡土地
ではなく,本件売買残代金請求権となることは明らかである。
(4)ところで,本件解約合意は,以下に述べるとおり,本件第1売買契約を
遡及的に消滅させるものとは解されず,平成20年▲月▲日にEが死亡し
たことを契機として,本件第1売買契約のうち,売主及び土地所有者の名
義並びに残代金支払期日のみを変更するためにされたものにすぎないとい
うべきである。
すなわち,本件解約合意は,Eが死亡したという理由で,原告側からの申
出により成立したものであり,買主であるFの申出やEの意思に基づくもの
ではない(乙13)。また,本件解約合意(乙12)では,第1条におい
て,「売主と買主は平成20年3月7日付けにて原契約を白紙撤回で合意解
除する」,第2条において,「売主は前条の合意解除に伴い,買主から受領
済の金円を無利息にて買主へ返還し,買主はこれを受領する」と定められて
いるものの,本件解約合意と同日付けで,売主及び土地所有者の名義並びに
残代金支払期日のほかは本件第1売買契約と同一内容の本件第2売買契約が
締結された上,手付金(上記「買主から受領済の金円」)も実際には返還さ
れていない(乙13)。さらに,Fは,生産緑地地区の解除を受けた後遅滞
なく,本件売買対象土地について,桶川市長に対し,同年2月29日付けで
都市計画法29条1項の規定による開発行為の許可を申請し(乙26),同
年3月7日付けで本件解約合意及び本件第2売買契約を締結した後も,同申
請を撤回することなく,同月18日にその許可を受け(乙10の5),原告
A及び原告Dは,同年4月11日,本件譲渡土地及び原告A譲渡土地の所有
権移転登記手続と引換えに,Fから売買残代金1億2405万8000円を
受領するなど,本件第1売買契約で合意した内容に沿って履行手続が着実に
進められており,本件第1売買契約が遡及的に消滅したことをうかがわせる
事情は認められないのである。
(5)以上のとおり,本件第二次相続の開始時において,本件第1売買契約が
履行されることが確実である状況と認められ,そのような状況下にあって
は,前記(3)に掲げた最高裁判決の判示に照らせば,本件譲渡土地の所有権
がEに残っていても,もはやその実質は本件第1売買契約に係る売買残代
金請求権を確保するための機能を有するにすぎないから,本件第二次相続
の相続税の課税対象とすべき財産は,本件譲渡土地の所有権ではなく,本
件第1売買契約に係る売買残代金請求権であると解すべきである。
2原告Dの主張
(1)本件売買対象土地のうち,本件4土地及び原告A譲渡土地は市街化区域
内にある農地である。農地法上,市街化区域内にある農地の転用及び権利
移転には農業委員会への届出が必要とされており,その手続が終了しない
限り所有権移転の効力は発生しないとされているところ,本件4土地及び
原告A譲渡土地については,本件第二次相続開始前に農業委員会への上記
届出はされていない。
(2)また,本件第1売買契約では,売買代金の支払時に本件譲渡土地の所有
権が売主であるE及び原告Aから買主であるFへ移転するものとされてい
たが,本件第1売買契約に係る売買代金1億2795万8000円は,本
件第二次相続開始時に至るまで,全額が未払であった。なお,E及び原告
Aは手付金390万円を受領していたが,これは売買代金支払時に充当さ
れる約定であったのであるから,それまでは売買代金は全額未払であった
ものと評価するのが正しい。仮に手付金の授受を売買代金の内金払と評価
するにしても,売買代金のほぼ全てが未払であったことに変わりはない。
さらに,所有権の移転登記に必要な書類のFへの交付も,土地の引渡しも
未了であった。
こうした本件第二次相続開始時の状態からすれば,本件譲渡土地が同時点
において,法律的にも税務上の実質判断の上でも,Eに帰属していたことは
明白であり,したがって,本件第二次相続に係る相続税の課税対象となるの
は,本件売買残代金請求権ではなく,本件譲渡土地である。
(3)これに対し,被告は,前記1(3)の最高裁判決の判示を根拠に,本件売買
残代金請求権が本件第二次相続に係る相続税の課税対象となると主張す
る。確かに,同最高裁判決の事案は,農地の売買後その所有権移転前に売
主の相続が開始されたというものであるが,相続開始時までに農地法の手
続が終了していた点,相続開始時までに売買代金の大部分が支払われてい
た点,相続開始後に相続人間において売買対象土地ではなく既受領売買代
金及び売買残代金債権が遺産分割の対象となっていた点,相続開始直後に
相続人らが売買残代金を受領し,所有権移転登記申請も行なっている点に
おいて,本件とは全く事情を異にしている。
むしろ,最高裁昭和57年(行ツ)第18号同61年12月5日第二小法
廷判決・裁判集民事149号263頁は,農地の売買後に農地法所定の手続
が完了する前に買主が死亡した事案において,当該農地については農地法所
定の許可が未了で当該農地の所有権がいまだ買主に移転していなかったこと
を理由に相続税の課税対象となる買主の相続財産には含まれない旨の原審の
判断を是認しているところ,これは,農地の売買後に当事者の一方が死亡し
た場合の相続税の課税対象については,農地法上の手続が終了していたかど
うかが主たるメルクマールになることを意味していると解すべきである。
こうした最高裁判決の考え方からしても,本件第二次相続に係る相続税の
課税対象となるのが本件売買残代金請求権ではなく本件譲渡土地であること
が導かれるのである。
(4)さらに,本件第二次相続に係る相続税の課税対象が本件売買残代金請求
権ではなく本件譲渡土地そのものであることは,本件第二次相続開始後に
本件第1売買契約について本件解約合意がされていることからも導かれ
る。
すなわち,合意解除にも他の解除と同様に原則として遡及効が認められる
ところ(民法545条),本件解約合意では,「原契約を白紙撤回で合意解
除する」ものとされていて,本件第1売買契約を初めからなかったものにす
るとの意思があったことが明らかであるから,遡及効を否定するような特段
の事情は認められない。したがって,本件第1売買契約は,本件解約合意に
より,締結日である平成19年12月21日にまで遡って消滅しており,本
件第二次相続開始時には本件売買契約もそれを基礎とする本件売買残代金請
求権も存在していないことになるのであって,相続時に存在しない売買残代
金請求権を課税対象とすることは明白に誤っているのである。
なお,広島地裁平成22年(行ウ)第4号同23年9月28日判決(乙2
3)は,相続開始後に不動産売買契約を解除した場合の相続財産について,
「ある財産が,相続開始後の契約解除の遡及効(民法545条1項参照)に
よって,民法上の相続財産に帰属しないとされた場合には,相続税法上の
「相続により取得した財産」にも帰属しないことになる」旨を判示してい
る。
以上
別紙3
本件各処分1及び2の根拠及び適法性に関する被告の主張
第1本件各処分1
1本件各更正処分1の根拠
本件第一次相続に係る相続人は,本件第一次相続共同相続人ら(E及び原告
ら)であるところ,本件第一次相続共同相続人らの相続税の課税価格及び納付
すべき税額は,別表1「課税価格及び納付すべき相続税額等の計算明細表(本
件第一次相続)」に記載したとおりであり,その内容は,次のとおりである。
(1)課税価格の合計額(別表1の順号5の「合計額」欄の金額)
4億3992万0000円
上記金額は,本件第一次相続共同相続人らの本件第一次相続に係る相続税
の各課税価格の合計額であり,それぞれ本件第一次相続により本件第一次相
続共同相続人らが取得した次のアの財産の価額から,本件第一次相続共同相
続人らが承継又は負担する次のイの債務等の金額を控除した以下の各金額
(ただし,国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項の規定によ
り,1000円未満の端数金額を切り捨てたもの)(別表1の順号5の「原
告A」欄,「原告C」欄,「原告D」欄及び「E」欄の各金額)を合計した
金額である。
原告A8948万7000円
原告C9527万7000円
原告D6854万9000円
E1億8660万7000円
ア本件第一次相続により取得した財産の価額の合計額(別表1の順号1の
「合計額」欄の金額)4億4870万3613円
上記金額は,本件第一次相続により本件第一次相続共同相続人らが取得
した財産の総額であり,その内訳は,次のとおりである。
(ア)土地の価額(別表1付表の順号2の「合計額」欄の金額)
4億0669万6807円
上記金額は,次のaの本件1土地から本件9土地までの各評価額の合
計額と,次のbのその他の土地の評価額とを合計した金額である。
a本件1土地から本件9土地までの各評価額(別表1付表の順号3か
ら順号11までの各「合計額」欄の金額)の合計額
3億7110万9913円
上記金額は,本件1土地から本件9土地までの各評価額を合計した
金額であり,これらの評価額の具体的な計算過程は,別表3-1から
3-9までに記載したとおりである。
bその他の土地の評価額(別表1付表の順号12の「合計額」欄の金
額)3558万6894円
上記金額の内訳は,次のとおりであり,これらは,本件修正申告書
1(甲2)の第11表「相続税がかかる財産の明細書」の「財産の明
細」欄の各土地の「価額」欄に記載された金額と同額である。
(a)桶川市β×番○に所在する土地
1704万0000円
(b)桶川市β×番○に所在する土地
1368万0000円
(c)桶川市γ×番○,同○,×番○,同○及び同○に所在する土地
   387万6894円
(d)桶川市δ×番○に所在する土地     99万0000円
(イ)家屋・構築物の価額(別表1付表の順号13の「合計額」欄の金額)
599万0593円
上記金額は,本件修正申告書1の第15表「相続財産の種類別価額
表」の番号⑨の「各人の合計」欄の金額と同額である。
(ウ)現金預貯金の価額(別表1付表の順号14の「合計額」欄の金額)
2052万4214円
上記金額は,本件修正申告書1の第15表の番号㉑の「各人の合計」
欄の金額と同額である。
(エ)その他の財産の価額(別表1付表の順号15の「合計額」欄の金額)
1549万1999円
上記金額は,本件修正申告書1の第15表の番号㉗の「各人の合計」
欄の金額と同額である。
イ債務及び葬式費用の金額(別表1の順号2の「合計額」欄の金額)
878万2008円
上記金額は,本件修正申告書1の第15表の番号㉟の「各人の合計」欄
に記載された金額と同額である。
(2)納付すべき相続税額
本件第一次相続に係る本件第一次相続共同相続人らの納付すべき相続税額
は,次のとおり計算される。
ア相続税の課税価格の合計額(別表1の順号5の「合計額」欄の金額)
4億3992万0000円
上記金額は,前記(1)の金額である。
イ遺産に係る基礎控除額(別表1の順号6の金額)
9000万0000円
上記金額は,前記アの金額から控除すべき基礎控除額であり,相続税法
15条の規定により,5000万円と1000万円にBの法定相続人の数
である4を乗じて算出した金額である4000万円との合計額である。
ウ課税遺産総額(別表1の順号7の金額)3億4992万0000円
上記金額は,前記アの金額から前記イの金額を控除した金額である。
エ法定相続分に応じた本件第一次相続共同相続人らの各取得金額(別表1
の順号9の「原告A」欄,「原告C」欄,「原告D」欄及び「E」欄の各
金額)
(ア)原告A(法定相続分6分の1)5832万0000円
(イ)原告C(法定相続分6分の1)5832万0000円
(ウ)原告D(法定相続分6分の1)5832万0000円
(エ)E(法定相続分2分の1)1億7496万0000円
上記(ア)から(エ)までの各金額は,相続税法16条の規定により,前記ウ
の課税遺産総額を本件第一次相続共同相続人らが民法900条の規定によ
る相続分の割合に応じて取得したものとした場合におけるその各取得金額
である。
オ相続税の総額の基礎となる税額(別表1の順号10の「原告A」欄,
「原告C」欄,「原告D」欄及び「E」欄の各金額)
(ア)原告A1049万6000円
(イ)原告C1049万6000円
(ウ)原告D1049万6000円
(エ)E5298万4000円
上記(ア)から(エ)までの各金額は,前記エ(ア)から(エ)までの各金額に相続
税法16条に定める税率を乗じて計算した金額である。
カ相続税の総額(別表1の順号11の金額)8447万2000円
上記金額は,前記オ(ア)から(エ)までの各金額の合計額である。
キ本件第一次相続共同相続人らの算出税額(別表1の順号13の「原告
A」欄,「原告C」欄,「原告D」欄及び「E」欄の各金額)
(ア)原告A1718万3001円
(イ)原告C1829万4778円
(ウ)原告D1316万2554円
(エ)E3583万1665円
上記(ア)から(エ)までの各金額は,相続税法17条の規定により,前記カ
の金額に,本件第一次相続共同相続人ら各人の課税価格(別表1の順号5
の「原告A」欄,「原告C」欄,「原告D」欄及び「E」欄の各金額)が
前記(1)の課税価格の合計額(同別表の順号5の「合計額」欄の金額)の
うちに占める割合(同別表の順号12の「原告A」欄,「原告C」欄,
「原告D」欄及び「E」欄の各あん分割合)を乗じて算出した金額である。
ク配偶者の税額軽減額(別表1の順号14の「E」欄の金額)
E3583万1665円
上記金額は,相続税法19条の2の規定に従って算出された,Eに係る
配偶者の税額軽減額である。
ケ本件第一次相続共同相続人らの納付すべき相続税額(別表1の順号15
の各人の金額)
(ア)原告A1718万3000円
(イ)原告C1829万4700円
(ウ)原告D1316万2500円
(エ)E0円
上記(ア)から(ウ)までの各金額は,前記キ(ア)から(ウ)までの各金額につい
て,それぞれ通則法119条1項の規定により100円未満の端数金額を
切り捨てたものであり,上記(エ)の金額は,前記キ(エ)の金額から前記クの
金額を控除した金額について,同項の規定により100円未満の端数金額
を切り捨てたものである。
2本件各更正処分1の適法性
前記1のとおり,原告らの納付すべき本件第一次相続に係る相続税額は,原
告Aについては1718万3000円,原告Cについては1829万4700
円,原告Dについては1316万2500円であるところ,本件各更正処分1
(ただし,いずれも平成23年9月13日付け裁決により一部取り消された後
のもの)における原告らの納付すべき相続税額(別表8「課税の経緯(本件第
一次相続に係る相続税)」の「裁決」欄の各「納付すべき税額」欄の各金額)
はこれらと同額であるから,本件各更正処分1は適法である。
3本件各賦課決定処分1の根拠及び適法性
(1)本件各賦課決定処分1の根拠
前記2のとおり,本件各更正処分1は適法であるところ,原告らは,本件
第一次相続に係る納付すべき相続税額を過少に申告していたものであり,こ
れについて通則法65条4項に定める正当な理由があるとは認められない。
したがって,原告らに対しては,それぞれ次のとおり過少申告加算税が課
されるべきである。
ア原告A134万7000円
上記金額は,通則法65条1項及び2項の規定に従い,本件各更正処分
1により原告Aが新たに納付すべきこととなった税額である908万円
(別表8の「裁決」欄の「納付すべき税額」欄の金額から同別表の「修正
申告」欄の「納付すべき税額」欄の金額を差し引いた金額。ただし,通則
法118条3項の規定により1万円未満の端数金額を切り捨てたもの)に
100分の10の割合を乗じて計算した金額である90万8000円に,
本件各更正処分1により原告Aが新たに納付すべきこととなった税額(た
だし,累積増差税額を加算した金額)のうち期限内申告税額に相当する金
額を超える部分に相当する税額である878万円(別表8の「裁決」欄の
「納付すべき税額」欄の金額から同別表の「修正申告」欄の「納付すべき
税額」欄の金額を差し引いた金額に,同別表の「修正申告」欄の「納付す
べき税額」欄の金額から同別表の「当初申告」欄の「納付すべき金額」欄
の金額を差し引いた金額を加算した金額のうち,同別表の「当初申告」欄
の「納付すべき税額」欄の金額を超える部分に相当する金額。ただし,通
則法118条3項の規定により1万円未満の端数金額を切り捨てたもの)
に100分の5の割合を乗じて計算した金額である43万9000円を加
算した金額である。
イ原告C42万0000円
上記金額は,通則法65条1項及び2項の規定に従い,本件各更正処分
1により原告Cが新たに納付すべきこととなった税額である280万円
(別表8の「裁決」欄の「納付すべき税額」欄の金額から同別表の「修正
申告」欄の「納付すべき税額」欄の金額を差し引いた金額。ただし,通則
法118条3項の規定により1万円未満の端数金額を切り捨てたもの)に
100分の10の割合を乗じて計算した金額である28万円に,上記28
0万円に100分の5の割合を乗じて計算した金額である14万円を加算
した金額である。
ウ原告D32万5500円
上記金額は,通則法65条1項及び2項の規定に従い,本件各更正処分
1により原告Dが新たに納付すべきこととなった税額である217万円
(別表8の「裁決」欄の「納付すべき税額」欄の金額から同別表の「修正
申告」欄の「納付すべき税額」欄の金額を差し引いた金額。ただし,通則
法118条3項の規定により1万円未満の端数金額を切り捨てたもの)に
100分の10の割合を乗じて計算した金額である21万7000円に,
上記217万円に100分の5の割合を乗じて計算した金額である10万
8500円を加算した金額である。
(2)本件各賦課決定処分1の適法性
前記(1)のとおり,原告らに課されるべき過少申告加算税の額は,原告A
については134万7000円,原告Cについては42万円,原告Dについ
ては32万5500円であるところ,本件各賦課決定処分1(ただし,いず
れも平成23年9月13日付け裁決により一部取り消された後のもの)の金
額(別表8の「裁決」欄の各「過少申告加算税の額」欄の各金額)はこれら
と同額であるから,本件各賦課決定処分1は適法である。
第2本件各処分2
1本件更正処分2の根拠
本件第二次相続に係る相続人は,原告らであるところ,原告らの相続税の課
税価格及び納付すべき税額は,別表2「課税価格及び納付すべき相続税額等の
計算明細表(本件第二次相続)」に記載したとおりであり,その内容は,次の
とおりである。
(1)課税価格の合計額(別表2の順号5の「合計額」欄の金額)
2億0594万3000円
上記金額は,原告らの本件第二次相続に係る相続税の各課税価格の合計額
であり,それぞれ本件第二次相続により原告らが取得した次のアの財産の価
額から,原告らが承継又は負担する次のイの債務等の金額を控除した以下の
各金額(ただし,通則法118条1項の規定により,1000円未満の端数
金額を切り捨てたもの)(別表2の順号5の「原告A」欄,「原告C」欄及
び「原告D」欄の各金額)を合計した金額である。
原告A0円
原告C0円
原告D2億0594万3000円
ア本件第二次相続により取得した財産の価額の合計額(別表2の順号1の
「合計額」欄の金額)2億1045万4777円
上記金額は,本件第二次相続により原告Dが取得した財産の総額であり,
その内容は,次のとおりである。
(ア)土地の価額(別表2付表の順号2の「合計額」欄の金額)
1億4293万7488円
上記金額は,次のaの本件1-1土地から本件6土地までの各評価額
と,次のbのその他の土地の評価額とを合計した金額である。
a本件1-1土地から本件6土地までの各評価額(別表2付表の順号
3から順号9までの各「合計額」欄の金額)の合計額
1億0609万0248円
上記金額は,本件1-1土地から本件6土地までの各評価額を合計
した金額であり,これらの評価額の具体的な計算過程は,別表4-1
から別表4-7までに記載したとおりである。
bその他の土地の評価額(別表2付表の順号10の「合計額」欄の金
額)3684万7240円
上記金額の内訳は次のとおりであり,これらは本件修正申告書2
(甲9)の第11表「相続税がかかる財産の明細書」の「財産の明
細」欄の各土地の「価額」欄に記載された金額と同額である。
(a)桶川市β×番○に所在する土地
1740万9748円
(b)桶川市β×番○に所在する土地
1395万4716円
(c)桶川市γ×番○,同○,×番○,同○及び同○に所在する土地
   449万9112円
(d)桶川市δ×番○に所在する土地98万3664円
(イ)家屋・構築物の価額(別表2付表の順号11の「合計額」欄の金額)
177万9629円
上記金額は,本件修正申告書2の第15表「相続財産の種類別価額
表」の番号⑨の「各人の合計」欄の金額と同額である。
(ウ)現金預貯金の価額(別表2付表の順号12の「合計額」欄の金額)
837万8410円
上記金額の内訳は,次のとおりである。
a現金預貯金の申告額803万5401円
上記金額は,本件修正申告書2の第15表の番号㉑の「各人の合
計」欄の金額と同額である。
b現金預貯金の申告漏れ額34万3009円
上記金額は,本件第二相続に係る相続税の修正申告において申告漏
れとなっていた相続財産であるI農業協同組合本店の普通貯金口座番
号▲の本件第二次相続開始時の残高である。
(エ)その他の財産の価額(別表2付表の順号13の「合計額」欄の金額)
5735万9250円
上記金額の内訳は,次のとおりである。
aその他の財産の価額の申告額637万9829円
上記金額は,本件修正申告書2の第15表の番号㉗の「各人の合
計」欄の金額と同額である。
b売買残代金請求権の価額5097万9421円
上記金額は,本件第二次相続に係る相続税の修正申告において申告
漏れとなっていた本件売買残代金請求権(本件第1売買契約の売買残
代金請求権)の価額である。本件第1売買契約の売主はE及び原告A
であり,その売買代金は1億2795万8000円であるところ(乙
3の1),この金額に本件第1売買契約において売買代金の精算基準
面積とされた部分(以下「本件精算対象部分」という。)の面積(本
件精算対象部分の面積は,別表5記載のとおりである。)に対するE
が所有していた部分(本件譲渡土地)の面積の割合を乗じた金額から,
Eが受領していた手付金(以下「本件手付金」という。)の金額であ
る190万円(甲8・第13表)を差し引いた金額が,本件売買残代
金請求権の価額である。本件売買残代金請求権の価額の具体的な計算
過程は,別表6記載のとおりである。
イ債務及び葬式費用の金額(別表2の順号2の「合計額」欄の金額)
451万1637円
上記金額は,次の(ア)の金額に次の(イ)の金額を加算した金額から次の
(ウ)の金額を差し引いた金額である。
(ア)債務及び葬式費用の申告額471万9900円
上記金額は,本件修正申告書2の第15表の番号㉟の「各人の合計」
欄の金額と同額である。
(イ)未払仲介手数料の金額169万1737円
上記金額は,本件第1売買契約の仲介手数料である409万3677
円(乙4)に本件精算対象部分の面積に対するEが所有していた部分
(本件譲渡土地)の面積の割合を乗じた金額であり(これについての具
体的な計算過程は別表7に記載したとおりである。),本件第二次相続
開始時には未払となっていたものである。
(ウ)本件手付金の金額190万0000円
上記金額は,本件手付金の金額である。前記(ア)の債務及び葬式費用
の申告額471万9900円には,本件手付金の金額190万円が含ま
れているところ(甲8・第13表),本件手付金は,Eが本件第1売買
契約に係る売買代金の手付金として受領したものであり,本件売買残代
金請求権の価額の計算において考慮されるものであるが,これを債務と
して控除する根拠がないことから,債務の金額から差し引くものである。
(2)納付すべき相続税額
本件第二次相続に係る原告らの納付すべき相続税額は,次のとおり計算さ
れる。
ア相続税の課税価格の合計額(別表2の順号5の「合計額」欄の金額)
2億0594万3000円
上記金額は,前記(1)の金額である。
イ遺産に係る基礎控除額(別表2の順号6の金額)
8000万0000円
上記金額は,前記アの金額から控除すべき基礎控除額であり,相続税法
15条の規定により,5000万円と1000万円にEの法定相続人の数
である3を乗じて算出した金額である3000万円との合計額である。
ウ課税遺産総額(別表2の順号7の金額)1億2594万3000円
上記金額は,前記アの金額から前記イの金額を控除した金額である。
エ法定相続分に応じた原告らの各取得金額(別表2の順号9の「原告A」
欄,「原告C」欄及び「原告D」欄の各金額)
(ア)原告A(法定相続分3分の1)4198万1000円
(イ)原告C(法定相続分3分の1)4198万1000円
(ウ)原告D(法定相続分3分の1)4198万1000円
上記(ア)から(ウ)までの各金額は,相続税法16条の規定により,前記ウ
の課税遺産総額を原告らが民法900条の規定による相続分の割合に応じ
て取得したものとした場合におけるその各取得金額である。
オ相続税の総額の基礎となる税額(別表2の順号10の「原告A」欄,
「原告C」欄及び「原告D」欄の各金額)
(ア)原告A639万6200円
(イ)原告C639万6200円
(ウ)原告D639万6200円
上記(ア)から(ウ)までの各金額は,前記エ(ア)から(ウ)までの各金額に相続
税法16条に定める税率を乗じて計算した金額である。
カ相続税の総額(別表2の順号11の金額)1918万8600円
上記金額は,前記オ(ア)から(ウ)までの各金額の合計額である。
キ原告ら各人の算出税額(別表2の順号13の「原告A」欄,「原告C」
欄及び「原告D」欄の各金額)
(ア)原告A0円
(イ)原告C0円
(ウ)原告D1918万8600円
上記(ア)から(ウ)までの各金額は,相続税法17条の規定により,前記カ
の金額に,原告ら各人の課税価格(別表2の順号5の「原告A」欄,「原
告C」欄及び「原告D」欄の各金額)が前記(1)の課税価格の合計額(同
別表の順号5の「合計額」欄の金額)のうちに占める割合(同別表の順号
12の「原告A」欄,「原告C」欄及び「原告D」欄の各あん分割合)を
乗じて算出した金額である。
ク原告らの納付すべき相続税額(別表2の順号15の「原告A」欄,「原
告C」欄及び「原告D」欄の各金額)
(ア)原告A0円
(イ)原告C0円
(ウ)原告D1918万8600円
上記(ア)から(ウ)までの各金額は,前記キ(ア)から(ウ)までの各金額と同額
である。
2本件更正処分2の適法性
前記1のとおり,原告Dの納付すべき本件第二次相続に係る相続税額は19
18万8600円であるところ,本件更正処分2(ただし,平成23年9月1
3日付け裁決により一部取り消された後のもの)における原告Dの納付すべき
相続税額(別表9「課税の経緯(本件第二次相続に係る相続税)」の「裁決」
欄の「納付すべき税額」欄の金額)はこれと同額であるから,本件更正処分2
は適法である。
3本件賦課決定処分2の根拠及び適法性
(1)本件賦課決定処分2の根拠
前記2のとおり,本件更正処分2は適法であるところ,原告Dは,本件第
二次相続に係る納付すべき相続税額を過少に申告していたものであり,これ
について通則法65条4項に定める正当な理由があるとは認められない。
したがって,原告Dに対しては,次のとおり過少申告加算税が課されるべ
きである。すなわち,原告Dに課されるべき過少申告加算税の金額は,通則
法65条1項及び2項の規定に従い,本件更正処分2により原告Dが新たに
納付すべきこととなった税額である980万円(別表9の「裁決」欄の「納
付すべき税額」欄の金額から同別表の「修正申告」欄の「納付すべき税額」
欄の金額を差し引いた金額。ただし,通則法118条3項の規定により1万
円未満の端数金額を切り捨てたもの)に100分の10の割合を乗じて計算
した金額である98万円に,本件更正処分2により原告Dが新たに納付すべ
きこととなった税額(ただし,累積増差税額を加算した金額)のうち期限内
申告税額に相当する金額を超える部分に相当する税額である52万円(別表
9の「裁決」欄の「納付すべき税額」欄の金額から同別表の「修正申告」欄
の「納付すべき税額」欄の金額を差し引いた金額に,同別表の「修正申告」
欄の「納付すべき税額」欄の金額から同別表の「当初申告」欄の「納付すべ
き金額」欄の金額を差し引いた金額を加算した金額のうち,同別表の「当初
申告」欄の「納付すべき税額」欄の金額を超える部分に相当する金額。ただ
し,通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てたもの)
に100分の5の割合を乗じて計算した金額である2万6000円を加算し
た金額である100万6000円となる。
(2)本件賦課決定処分2の適法性
前記(1)のとおり,原告Dに課されるべき過少申告加算税の額は100万
6000円であるところ,本件賦課決定処分2(ただし,本件裁決2により
一部取り消された後のもの。)の金額(別表9の「裁決」欄の「過少申告加
算税の額」欄の各金額)はこれと同額であるから,本件賦課決定処分2は適
法である。
以上

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