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平成12年(行ケ)第498号 審決取消請求事件(平成13年5月16日口頭弁
論終結)
          判         決
       原      告   イザンベール株式会社
       訴訟代理人弁護士   田 中 克 郎
       同          宮 川 美津子
       同          中 村 勝 彦
       被      告   A
       訴訟代理人弁護士   川 本 隆 司
          主         文
      特許庁が平成11年審判第30323号事件について平成12年11
月6日にした審決を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   主文と同旨
 2 被告
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   被告は、「MAGIC」の欧文字と「マヂック」の片仮名文字を上下2段に横書き
してなり、旧商標法施行規則(大正10年農商務省令第36号)に基づく区分によ
る第3類「香料及び他類に属しない化粧品」を指定商品とする登録第043100
6号商標(昭和27年6月4日登録出願、昭和28年9月10日設定登録、昭和4
9年3月8日、昭和58年8月29日及び平成5年10月28日各存続期間の更新
登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
   原告は、平成11年3月17日、被告を被請求人として、本件商標につき不
使用による登録取消しの審判請求をし、その予告登録が同年4月7日(以下「予告
登録日」という。)にされた。
   特許庁は、同請求を平成11年審判第30323号事件として審理した上、
平成12年11月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、そ
の謄本は同月27日に原告に送達された。
 2 審決の理由
   審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件商標は、通常使用権者と認め
られる株式会社ピカソ美化学研究所(以下「ピカソ美化学」という。)により、予
告登録日前3年以内に日本国内において、その指定商品中「クリーム」について使
用されていたから、本件商標の登録は、商標法50条の規定により取り消すべき限
りでないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 審決は、ピカソ美化学が使用した商標が本件商標と社会通念上同一と認めら
れるものと誤認した(取消事由)結果、本件商標が予告登録日前3年以内に日本国
内において、その指定商品について使用されていたものと誤って判断したものであ
るから、違法として取り消されるべきである。
 2 取消事由(同一性の誤認)
  (1) 審決は、写真(乙第20号証)及びパンフレット(乙第21号証)に示さ
れたスキンケアクリーム(以下「本件クリーム」という。)の容器に「ALOE」
と「MAGIC」の各欧文字を上下2段に横書きして表された商標(以下「ピカソ商標」
という。)につき、「『ALOE』と『MAGIC』と2段に表示されている標章中『ALOE』
の文字部分が、乙第21号証のパンフレットに『天然保湿成分をゆたかに配合しア
ロエとホホバがよりお肌をしっとりさせ、肌荒れを防ぎます。』と記載されている
ように、商品『クリーム』の品質、原材料を端的に示しているといえるか
ら、『ALOE』と『MAGIC』と2段に表示されている標章は、本件商標と社会通念上同
一と認めざるを得ない」(審決謄本11頁27行目~32行目)と判断した上、本
件商標は、通常使用権者と認められるピカソ美化学により、予告登録日前3年以内
に日本国内において、その指定商品中クリーム(本件クリーム)について使用され
ていたものとした(同12頁11行目~15行目)。
    しかしながら、ピカソ商標は、「ALOE」の文字部分と「MAGIC」の文字部分
とが、書体、大きさ及び色彩を同じくし、上下2段にバランスよく配置されてお
り、全体として2段併記の商標として一体に結合した態様であるとともに、「アロ
エマジック」と一連によどみなく称呼し得るものである。このようなピカソ商標の
態様及び本件クリームの容器にその原材料が「アロエベラ」である旨が別途記載さ
れていることに照らし、ピカソ商標に接した取引者、需要者において、「ALOE」の
文字部分を原材料表示であるとして独立して認識することはあり得ない。
    すなわち、ピカソ商標は、「ALOE」及び「MAGIC」の各文字部分が全体とし
て一つの商標を構成するものであって、そうすると、ピカソ商標は、外観、称呼及
び観念とも本件商標と異なるものであるから、本件商標と社会通念上同一と認めら
れる商標であるとは到底いうことができない。
    したがって、審決が「『ALOE』の文字部分が・・・商品『クリーム』の品
質、原材料を端的に示しているといえるから、『ALOE』と『MAGIC』と2段に表示さ
れている標章は、本件商標と社会通念上同一と認めざるを得ない」とした判断は誤
りであり、この判断を前提として、本件商標が、通常使用権者と認められるピカソ
美化学により、予告登録日前3年以内に日本国内において、その指定商品中「クリ
ーム」について使用されていたと認定したことも誤りというべきである。
  (2) 被告は、ピカソ美化学が使用していた「MAGICCOLOR」及び「LIPMAGIC」
の各商標が本件商標と社会通念上同一と認められる商標であるとも主張する。
    しかしながら、「MAGICCOLOR」及び「LIPMAGIC」の各商標は、「COLOR」
の文字部分又は「LIP」の文字部分と「MAGIC」の文字部分とが、それぞれ書体及び
色彩を同じくして一体に書してなるものであり、「マジックカラー」又は「リップ
マジック」とよどみなく称呼し得るものであって、これらの商標に接した取引者、
需要者が、単に「MAGIC」の文字部分のみ独立して認識することはあり得ない。
    そうすると、これらの商標は、本件商標と称呼、観念及び外観が全く異な
るものであって、本件商標と社会通念上同一と認められる商標であるということは
できない。
  (3) 被告は、さらに、「HAIRMAGIC」の欧文字と「ヘヤーマジック」の片仮
名文字を上下2段に横書きしてなり、平成3年政令第299号による改正前の商標
法施行令別表の区分による第4類「頭髪用化粧品」を指定商品とする登録第067
5473号商標(昭和38年10月22日登録出願、昭和40年5月13日設定登
録、昭和50年8月27日、昭和60年7月16日及び平成7年9月28日各存続
期間の更新登録、以下「関連商標」という。)が、本件商標と、商標法等の一部を
改正する法律(平成8年法律第68号、以下「8年改正法」という。)による商標
法の改正によって廃止される前の連合商標(同改正前の同法7条)の関係にあった
ところ、関連商標の通常使用権者である株式会社アリミノ(以下「アリミノ」とい
う。)が、平成8年4月及び6月にヘアートリートメント剤について使用し
た「GN」、「HAIR」、「MAGIC」の各欧文字を上下3段に横書きしてなる商標(以下
「アリミノ商標」という。)が関連商標と社会通念上同一と認められる商標である
と主張する。
    しかしながら、アリミノ商標は、「GN」、「HAIR」及び「MAGIC」の各文字
部分が3段に表された態様であるが、上記各文字部分が書体、大きさ及び色彩を同
じくして、バランスよく配置されており、外観において緊密な一体性を有するとと
もに、「ジーエヌヘアーマジック」と一連によどみなく称呼し得るものであるか
ら、「GN」、「HAIR」及び「MAGIC」の各文字部分が全体として一つの商標を構成す
るものであり、そうすると、アリミノ商標は、外観、称呼及び観念とも本件商標と
異なるものであって、本件商標と社会通念上同一であるということはできない。
第4 被告の反論
 1 審決の認定、判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 2 取消事由(同一性の誤認)について
  (1) 原告は、ピカソ商標の上下2段に横書きされた「ALOE」の文字部分
と「MAGIC」の文字部分とが、全体として一つの商標を構成するものであると主張す
るが、審決が認定判断するとおり、「ALOE」の文字部分は、本件クリームの品質、
原材料を端的に示しているものであり、「ALOE」の文字部分と「MAGIC」の文字部分
とを一体的に一つの商標として把握しなければならない必然性は全くなく、したが
って、原告の上記主張は誤りである。
  (2) また、本件商標の通常使用権者であるピカソ美化学は、「MAGICCOLOR」
の商標を使用して本件商標の指定商品であるアイシャドウを、さらに、「LIP
MAGIC」の商標を使用して本件商標の指定商品である口紅を、それぞれ予告登録日前
3年以内に日本国内において販売した。
    「MAGICCOLOR」の商標の「COLOR」の文字部分は商品の機能を表示するも
のにすぎず、また、「LIPMAGIC」の商標の「LIP」の文字部分は、その構成文字
が「MAGIC」の文字部分の構成文字の半分の横幅である上、商品の用途である「口
唇」を特定するために使用されている付記的部分であるにすぎないから、これらの
各商標において、自他商品識別機能を果たすのは「MAGIC」の文字部分である。した
がって、これらの商標は本件商標と社会通念上同一と認められる商標と評価すべき
ものである。
    そうすると、この点からも、本件商標は、予告登録日前3年以内に日本国
内において、通常使用権者であるピカソ美化学により指定商品につき使用されてい
たものというべきである。
  (3) さらに、被告は、関連商標の商標権者であるところ、平成7年1月1日、
アリミノに対し、許諾商品の範囲をヘアトリートメントセット剤とし、許諾期間を
3年とする約定により、関連商標の通常使用権の許諾をした。
    本件商標と関連商標とは、8年改正法による商標法の改正によって廃止さ
れる前の連合商標の関係にあった。そして、本件審判は、平成12年3月31日よ
り前に請求されたものであるから、本件審判については上記改正前の同法50条2
項の規定がなお効力を有し(8年改正法附則10条2項)、予告登録日前3年以内
であって、かつ、平成9年3月31日(8年改正法の施行日の前日)までの間に、
日本国内において、関連商標の通常使用権者が本件審判請求に係る指定商品につい
て関連商標を使用していれば、本件商標についての商標登録の取消しを免れること
ができる。
    アリミノは、アリミノ商標を使用して、平成8年4月9日及び同年6月3
日に滝川株式会社に対し本件商標の指定商品であるヘアートリートメント剤各10
本を販売し、また、同年6月7日に株式会社小西武雄商店に対してヘアートリート
メント剤80本を販売した。
    そして、「GN」、「HAIR」、「MAGIC」の各文字を上下3段に横書きしてな
る構成態様のアリミノ商標は、「HAIR/MAGIC」の文字部分に自他商品識別機能があ
るから、アリミノ商標と関連商標とは、社会通念上同一と認められる商標というべ
きである。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(同一性の誤認)について
  (1) まず、ピカソ商標が本件商標と社会通念上同一と認められる商標といえる
か否かにつき検討する。
    本件クリームの容器が示されている写真(乙第20号証)及びパンフレッ
ト(乙第21号証)によれば、ピカソ商標の態様等につき、本件クリームの円筒形
容器の側面の緑色の地に、いずれも白色の欧文字によって、「ALOE」の文字
と「MAGIC」の文字とを上下2段に横書きして表したものであること、「ALOE」及
び「MAGIC」の各文字部分を構成する文字は、書体及び大きさが同一であること、上
段の「ALOE」の文字部分と下段の「MAGIC」の文字部分との間隔は、各文字の大きさ
の5分の1ないし6分の1程度で、極めて近接しており、かつ、上段の「ALOE」の
文字部分の横方向の長さは下段の「MAGIC」の文字部分のそれよりも多少短いもの
の、それぞれの文字部分の横方向中央を同じ位置にそろえ、下段の文字部分中の上
段の文字部分と重ならない部分がその前後端で同じ長さとなるようにし、全体に上
下段の文字部分がまとまりよく配置されていることが認められる。
    上記態様等に照らすと、ピカソ商標は、上下2段に表されているとして
も、その全体が外観において極めて緊密な一体性を有しているものというべきであ
る。他方、前掲パンフレット(乙第21号証)の記載によれば、本件クリームの成
分は、アロエベラ(ALOEVERA)にホホバオイル(JOJOBAOIL)を配合したものであ
ることが認められるが、上記ピカソ商標の態様に照らして、これに接した取引者、
需要者が、「ALOE」の文字部分が本件クリームの原材料表示であると理解し、下段
の「MAGIC」の文字部分のみを独立した商標として認識するとするのは極めて不自然
である。したがって、ピカソ商標は、原材料に由来する「ALOE」の語と「魔法」を
意味する「MAGIC」の語とを組み合せた「ALOEMAGIC」との造語によって表されたも
のであって、全体として1個の商標を構成するものと認められ、また、「ALOE
MAGIC」の文字が「アロエマジック」と一連によどみなく称呼し得ることにかんがみ
て、「アロエマジック」の称呼を生じ、特定の具体的観念は生じないものと認める
のが相当である。
    そして、本件商標はその構成に応じて「マジック」の称呼及び「魔法」の
観念を生ずるものと認められるから、本件商標と称呼及び観念において異なるもの
であり、そうすると、ピカソ商標が本件商標と社会通念上同一と認められる商標で
あるとはいえない。
    したがって、ピカソ商標につき、「『ALOE』と『MAGIC』と2段に表示され
ている標章中『ALOE』の文字部分が、乙第21号証のパンフレットに『天然保湿成
分をゆたかに配合しアロエとホホバがよりお肌をしっとりさせ、肌荒れを防ぎま
す。』と記載されているように、商品『クリーム』の品質、原材料を端的に示して
いるといえるから、『ALOE』と『MAGIC』と2段に表示されている標章は、本件商標
と社会通念上同一と認めざるを得ない」(審決謄本11頁27行目~32行目)と
した審決の判断は誤りであり、本件商標の指定商品にピカソ商標を用いたとして
も、指定商品についての本件商標の使用をしたことに当たるということはできな
い。
  (2) 被告は、さらに、本件商標の通常使用権者であるピカソ美化学が「MAGIC
COLOR」の商標を使用して本件商標の指定商品であるアイシャドウを、また、「LIP
MAGIC」の商標を使用して本件商標の指定商品である口紅を、それぞれ予告登録日前
3年以内に日本国内において販売したところ、「MAGICCOLOR」及び「LIPMAGIC」
の各商標は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標と評価すべきものである
と主張するので、この点について検討する。
   (ア) 製造元をピカソ美化学、発売元を株式会社ジュテームとするアイシャ
ドウの容器及び外箱の写真(乙第12号証)によれば、同外箱の長方形状の1面
に「MAGICCOLOR」の欧文字を横書きした商標が付されていること、その構成文字
は、大きさ、書体及び色彩が同一でまとまりよく配置されていることが認められ、
その態様に照らすと、「MAGICCOLOR」の文字全体が1個の商標を構成するものと認
められる。なお、被告は、「MAGICCOLOR」の商標の「COLOR」の文字部分が商品の
機能を表示するものであって、自他商品識別機能を果たすのは「MAGIC」の文字部分
であると主張するが、「MAGICCOLOR」の文字の上記態様に照らし、また、それが
「マジックカラー」と一連によどみなく称呼し得ること等にかんがみて、当該商標
は、「魔法」を意味する「MAGIC」の語と機能に関連する「COLOR」の語とを組み合
せた「MAGICCOLOR」との造語によって表されたものであって、「MAGICCOLOR」の
文字全体に自他商品識別機能があるものと認めるのが相当であるから、被告の上記
主張は採用することができない。
     そして、「MAGICCOLOR」の商標は、上記のように「マジックカラー」の
称呼を生じ、また、特定の具体的観念は生じないと認められるから、本件商標と称
呼及び観念において異なり、さらに本件商標と外観が顕著に異なるものであって、
そうすると、「MAGICCOLOR」の商標が本件商標と社会通念上同一と認められる商標
であるとはいえない。
     したがって、本件商標の指定商品に「MAGICCOLOR」の商標を用いたとし
ても、指定商品についての本件商標の使用をしたことに当たるということはできな
い。
   (イ) 製造元をピカソ美化学、発売元を株式会社ジュテームとする口紅の外
箱の写真(乙第8号証)によれば、同外箱の長方形状の1面に「JET'AIME」の欧文
字と「LIPMAGIC」の欧文字とを上下2段に横書きした商標が付されていること、そ
のうちの「LIPMAGIC」の文字部分は、「JET'AIME」の文字部分と色彩が異なり、
また、構成文字の大きさが小さく表されていること、さらに、「LIPMAGIC」の文字
部分のみについて見るに、そのうちの「LIP」の文字部分を構成する各文字
が「MAGIC」の文字部分を構成する各文字のおおむね3分の1の横幅であるもの
の、「LIPMAGIC」の文字部分全体として、各文字が書体及び色彩を同じくしてまと
まりよく配置されていることが認められる。
     そうすると、構成文字の大きさ及び色彩の相違並びに「JET'AIME」の語
がフランス語であるのに対し「LIPMAGIC」の語が英語であることによって、仮
に、「LIPMAGIC」の文字部分が「JET'AIME」の文字部分から独立した別個の商標
であるとしても、「LIPMAGIC」の文字部分の上記態様に照らして、その部分全体が
1個の商標を構成するものと認められる。なお、被告は、「LIPMAGIC」の商標
の「LIP」の文字部が商品の用途を表示するものであって、自他商品識別機能を果た
すのは「MAGIC」の文字部分であると主張するが、「LIPMAGIC」の文字部分の上記
態様に照らし、また、「LIPMAGIC」の文字が「リップマジック」と一連によどみな
く称呼し得ること等にかんがみて、当該商標は、用途に関連する「LIP」の語と「魔
法」を意味する「MAGIC」の語とを組み合せた「LIPMAGIC」との造語によって表さ
れたものであって、「LIPMAGIC」の文字全体に自他商品識別機能があるものと認め
るのが相当であるから、被告の上記主張は採用することができない。
     そして、「LIPMAGIC」の商標は、上記のように「リップマジック」の称
呼を生じ、また、特定の具体的観念は生じないと認められるから、本件商標と称呼
及び観念において異なり、さらに、本件商標と外観が顕著に異なるものであって、
そうすると、「LIPMAGIC」の商標が本件商標と社会通念上同一と認められる商標で
あるとはいえない。
     したがって、本件商標の指定商品に「LIPMAGIC」の商標を用いたとして
も、指定商品についての本件商標の使用をしたことに当たるということはできな
い。
  (3) 本件商標に係る商標登録原簿写し(乙第1号証)並びに関連商標に係る商
標登録原簿写し(乙第27号証)及び公告公報(乙第32号証)によれば、関連商
標は「HAIRMAGIC」の欧文字と「ヘヤーマジック」の片仮名文字を上下2段に横書
きしてなるものであって、本件商標と関連商標とは、8年改正法による商標法の改
正によって廃止される前の連合商標(同改正前の同法7条)の関係にあったことが
認められる。そして、被告は、関連商標の通常使用権者であるアリミノが、予告登
録日前3年以内であって、かつ、平成9年3月31日(8年改正法の施行日の前
日)までの間に、日本国内において、アリミノ商標を使用して本件審判請求に係る
指定商品であるヘアートリートメント剤を販売したところ、アリミノ商標は関連商
標と社会通念上同一と認められる商標であると主張するので、この点について検討
する。
    アリミノが販売するヘアートリートメント剤の写真4葉(乙第28号証の
1~4)によれば、アリミノ商標の態様等につき、同ヘアートリートメント剤の円
筒形容器の側面に、「GN」、「HAIR」及び「MAGIC」の各欧文字を上下3段に横書き
して表したものであること、「GN」、「HAIR」及び「MAGIC」の各文字部分を構成す
る文字は、書体及び大きさが同一であること、各文字部分の間隔は、各文字の大き
さの3分の2程度であって互いに近接しており、また、それぞれの文字部分の横方
向の長さは、上段から下段に向かうに従って長くなるものの、それぞれの文字部分
の横方向中央を同じ位置にそろえ、上段から下段に向かうに従って、各文字部分の
左右の文字端がおおむね等間隔で広がるようにし、全体に上中下各段の文字部分が
まとまりよく配置されていることが認められる。
    上記態様等に照らすと、アリミノ商標は、上下3段に表されているとして
も、その全体が外観において極めて緊密な一体性を有しているものと認めら
れ、「GN」、「HAIR」及び「MAGIC」の各文字を組み合せた「GNHAIRMAGIC」との
造語によって表されたものであって、全体として1個の商標を構成するものである
と認めるのが相当である。
    また、前掲ヘアートリートメント剤の写真4葉(乙第28号証の1~4)
によれば、同ヘアートリートメント剤の容器には、アリミノ商標のほか、「Gals
Nippon」、「Treatmentset」、「(Technical)」の各欧文字を上下3段に横書きし
た表示、及び「ギャルスニッポン」、「トリートメントセット・テクニカル」の各
文字を上下2段に横書きした表示が付されており、さらに、同ヘアートリートメン
ト剤に係る化粧品製造品目追加許可申請書(乙第29号証の1)には、「新たに製
造する品目」として「頭髪用化粧品類 ギャルスニッポン トリートメントセッ
ト・テクニカル」との記載があるところ、これらの事実によれば、同ヘアートリー
トメント剤は、その製品としての名称を「ギャルスニッポン トリートメントセッ
ト・テクニカル」とするものであり、アリミノ商標の「GN」の文字部分は、上記名
称のうち特に識別力が強いものと認められる「ギャルスニッポン」の部分の英語表
記である「GalsNippon」の頭文字を組み合せたものであることが推認される。
    そうすると、アリミノ商標の「GN」の文字部分は、同商標が自他商品識別
標識としての機能を果たす上でとりわけ重要な部分であると解されるから、アリミ
ノ商標に接する取引者、需要者が、「GN」の文字部分を省いて、これを「ヘアーマ
ジック」と称呼するものとは認め難く、したがって、アリミノ商標からは、多少冗
長にわたるものの、「ジーエヌヘアーマジック」の称呼が生ずるものと認めるのが
相当である。また、アリミノ商標からは特定の具体的な観念は生じないと認められ
る。
    なお、前掲ヘアートリートメント剤の写真のうち乙第28号証の4によれ
ば、同ヘアートリートメント剤の包装箱には、「GalsNippon」の欧文字と「Let's
HAIR」の欧文字とを右端をそろえて上下2段に横書きし、その右側に接し
て「MAGIC」の欧文字を横書きし、更にその右側に接して「(Technical)」の欧文字
を横書きしたものであって、各文字部分の構成文字の大きさ
が、「MAGIC」、「Let'sHAIR」、「(Technical)」及び「GalsNippon」の各文字部
分の順に小さくなるように表した表示が付されていることが認められる。しかしな
がら、この表示全体から「ヘアーマジック」の称呼が生ずるものとは認められない
し、まして、このような表示が包装箱に存在するからといって、アリミノ商標から
「ヘアーマジック」の称呼が生ずるとする理由もない(なお、被告は、上記表示の
うち構成文字の大きい「MAGIC」の文字部分につき、直截的に本件商標の使用と解す
ることも可能である旨主張するが、アリミノが本件商標についての専用使用権者又
は通常使用権者である旨の主張立証はないから、上記主張はそれ自体失当といわざ
るを得ない。)。
    他方、関連商標は、その構成に応じて「ヘヤーマジック」又は「ヘアーマ
ジック」の称呼が生じ、特定の具体的な観念は生じないものと認められる。
    そうすると、アリミノ商標と関連商標とは、ともに特定の具体的な観念が
生ずるものではないが、称呼を異にし、さらに、外観においても顕著に異なるもの
であるから、社会通念上同一と認められる商標であるとはいえない。
    したがって、本件商標の指定商品にアリミノ商標を使用したとしても、本
件審判請求に係る指定商品についての関連商標の使用をしたことに当たるというこ
とはできないから、本件商標と連合商標の関係にあった商標が、予告登録日前3年
以内であって連合商標制度の廃止までの間に日本国内において、その通常使用権者
であるアリミノにより本件商標の指定商品につき使用されていたとの被告の主張
は、その余の点につき判断するまでもなく、採用することができない。
 2 以上のとおり、本件商標が通常使用権者と認められるピカソ美化学により、
予告登録日前3年以内に日本国内において、その指定商品中「クリーム」について
使用されていたとの審決の判断は誤りであり、また、当該判断のほか、本件商標又
はこれと連合商標の関係にあった商標が、通常使用権者により、予告登録日前3年
以内に(連合商標にあっては、予告登録日前3年以内であって連合商標制度の廃止
までの間に)日本国内において、本件審判請求に係る指定商品に使用されていたと
する被告の主張を認めることもできないから、審決は結論に影響を及ぼす瑕疵があ
り、違法として取消しを免れない。
   よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき
行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第13民事部
    裁判長裁判官 篠   原   勝   美
    裁判官 石   原   直   樹
    裁判官   宮   坂   昌   利

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時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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採用担当宛