弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件仮処分申請はいずれもこれを却下する。
申請費用は申請人らの負担とする。
       理   由
〔当事者双方の申立〕
一 申請人らは「被申請人は、申請人Aに対し金八一、五五一円を、同Bに対し金
四六、一〇四円を、同Cに対し金六六、七二八円を、それぞれ仮に支払え。」との
決定を求めた。
二 被申請人は主文と同旨の決定を求めた。
〔当事者間に争いのない事実〕
一 被申請人は、肩書地に事業所を置く外、東大阪市に高井田営業所を置いて、タ
クシー・ハイヤー業を営む会社であつて、約三〇〇名の従業員を擁しており、右従
業員中一六〇余名が全自交北港パシフイツクタクシー労働組合を組織している。
二 申請人Aは、昭和四八年一二月一日被申請人に雇用されて昭和五四年八月二〇
日係長となり、同Bは昭和五三年七月二〇日被申請人に雇用されて昭和五六年九月
二〇日係長となり、同Cは同年三月七日被申請人に雇用されて同年九月二〇日係長
心得となつた者であつて、いずれも雇用されると同時に無線室に配属されて配車業
務に従事している。
三 被申請人は、昭和五七年二月分以降同年四月分までの各給料支払の際、申請人
らに残業手当の支給をしなかつた。
〔申請人の主張〕
一 申請人らの勤務については、午前九時三〇分から翌朝午前九時三〇分までの二
四時間の一勤務につき固定残業二時間の慣行があり、実際の残業が二時間を越えて
も少くとも二時間分の残業手当が支給されて来た。また、公出日は一日八時間の勤
務に就くか、別途一時間の残業をする慣行があり、これに対して残業手当が支給さ
れていた。
 そして賃金増額の際には、基本給、精勤手当及び残業手当を合算した額を基準に
して増額分を算出しており、残業手当は実質的には本給に組入れられているのであ
る。
二 被申請人は、従来申請人らに右残業手当を支給していたが、昭和五七年一月二
七日に同月分の給料支払の際に残業手当分を支給せず、申請人らの抗議によつてD
社長のポケツト・マネーから支出したと称して残業手当分を支給した。
 同年二月分の残業手当を支給しない理由として、被申請人は、申請人らが管理職
の地位にあるからだと説明しているが、無線室に配属されているのは合計四名であ
つて、その内の一人は非組合員である課長であり、その余の三名が組合員である申
請人らであるところ、申請人らの業務の内容には管理職といえる程の事項は全く含
まれず、被申請人は以前から申請人らが組合員であることを問題にしたこともな
く、労働協約で除外措置を定めることもなく推移して来たのであり、申請人らに対
する残業手当は当然の如く支給されて来たのである。
三 申請人らの昭和五六年一二月分の残業手当の金額を残業時間数で除して一時間
当りの残業手当の金額を求め、これに昭和五七年二月度ないし四月度の申請人らの
各残業時間数を乗じて計算すると、別表(一)記載の通り、申請人らの右各月分の
残業手当の合計額は〔当事者双方の申立〕一記載の各金額になる。
四 申請人らは、被申請人から支給される給料を唯一の収入源とする労働者であつ
て、申請人Aは妻、母(七〇才)及び長男(四才)の四人家族、同Bは妻、長女
(一〇才)及び長男(八才)の四人家族、同Cは母(五六才)との二人家族であ
り、夫々家族を養わねばならない立場にあるところ、現在の物価高で実質賃金が下
つている状況のもとでの被申請人の突然の賃金カツトにより、非常に困窮してい
る。因みに、申請人らの一ケ月の小遣いは金二、三万円に過ぎない。
 そこで、申請人らは、現在被申請人に対し右残業手当の支払を求める本案訴訟の
提起を準備中であるが、本案判決の確定を待つていては回復困難な損害を被るの
で、本件申請に及んだ。
〔被申請人の主張〕
一 被申請人は、従来一部フリー・ハイヤー制を実施していたため、他の同業会社
よりも無線業務が多忙であつたので、申請人らに原則として二四時間勤務について
二時間、公出日について一時間の残業をさせ、この残業について残業手当を支給し
ていたのであつて、残業手当の支給はあくまで実際に残業をすることが前提であ
る。
 ところが、被申請人は、昭和五七年一月二六日以降フリー・ハイヤー制を廃止し
たので、無線業務が半減して残業の必要も無くなり、同日以降申請人らの残業は皆
無となつたから、残業手当を支給する理由は存しない。
二 被申請人には労働組合が三組合あるが、無線業務はタクシーの運行管理をする
業務であつてその配車の仕方によつて乗務員の賃金の額に影響を及ぼすことができ
るので、組合間の紛争を避けるため、従来から無線係は管理職とし非組合員とされ
て来たのである。従つて、被申請人に対して申請人らが組合員であることの通知も
なく、労働協約での除外措置も全く問題にならなかつたのである。
三 申請人らの給与の額や本件で主張する残業手当の金額に照らせば、本件申請が
容れられなければ申請人らが生活を維持することができない等の緊急性は存在しな
いから、本件申請は保全の必要性を欠くものである。
〔当裁判所の判断〕
一 申請人らが被申請人に対しその主張の如き昭和五七年二月度から同年四月度ま
での残業手当金の支払を求めることができるか否かは兎も角として、本件仮処分申
請は右残業手当金の仮払を求めるものであつて、金銭債権を被保全権利とする仮の
地位を定める仮処分の申請であることは明らかであるところ、本来、金銭債権を保
全するためには、将来における確定判決の執行を確保することを目的とする仮差押
の方法によるべきであつて、金銭債権について、判決による権利関係の確定をまた
ずに債権者に確定判決の執行によるのと同様の満足を与える仮の地位を定める仮処
分が許されるのは、そうしなければ債権者が生活を維持することすら困難に陥る
等、債権者に著しい損害が発生する虞れがあり、緊急にこれを避ける必要がある場
合に限るものと解すべきである。
二 これを本件についてみるに、疎明資料によれば、申請人らは右残業手当金の支
給されなかった昭和五七年二月から同年四月までの各月に被申請人から別表(二)
記載の各賃金(通勤手当、責任者手当、深夜手当及び精勤手当を含み、税金等をも
含む)の支給を受けていること並びに右各残業手当の金額はほぼ申請人らの各月の
小遣銭に匹敵する額に過ぎないことが、一応認められる。そして、現下の物価状況
に照らせば、申請人らが被申請人から受領する右各賃金の額は、充分とは言えない
にせよ、申請人らがそれぞれその主張する家族と生活を営むのに著しく不足する額
ではなく、申請人らが直ちに前記残業手当金の支払を受けなければその生活を維持
することすら困難になる程の窮迫にさらされるものとは到底考えられないから、申
請人らがその主張する残業手当金について、仮処分によつてその仮払を求めなけれ
ばならない程の必要性があるものと言うことはできない。
三 してみれば、本件仮処分申請は、その必要性について疎明がないことに帰着
し、保証を以て疎明に代えさせることも相当とは認められないので、いずれもこれ
を却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項
本文を適用して、主文の通り決定する。
(裁判官 中川臣朗)
別表(一)(省略)
別表(二) 各月支給賃金(昭和五七年)
<04135-001>

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