弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人真子傅次が提出した控訴趣意書に、これに対する答弁
は、東京高等検察庁検察官検事石井和男が提出した答弁書にそれぞれ記載されたと
おりであるから、これらを引用する。
 控訴趣意第一(事実誤認及び法令適用の誤りの主張)について
 所論は、要するに、被告人はテナントになつた特定の者からのみ預り金をしたに
過ぎないから、不特定かつ多数の者から預り金をしたとの事実(原判示第一)を認
定して被告人を出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反の罪に間
擬した原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認ないし法令適用の誤
りの違法がある、というのである。
 そこで、原審記録を調査して検討すると、被告人が代表取締役社長をしていたA
株式会社は、昭和五一年七月東京都渋谷区a1町b1番c3号d4ビルe5階に
「BC店」という名称の店舗を開設し、店舗内に八五〇個余りのガラス製商品展示
用ケース(カプセルボツクス)を並べ、一ボツクス毎に一年契約、賃料二四万円
(昭和五二年七月以降は三六万円)で賃貸するとともに、賃借客(テナント)が持
ち込みボツクス内に展示した商品をテナントに代つて管理・販売して手数料を得る
という形態の商品展示場の経営を始めたこと、ところがテナントがなかなか集まら
ず、またある程度獲得したテナントの中には陳列商品の売れ行きが悪いため右賃貸
契約の解約を申出る者もあり、これらに対しては大々的な新聞広告をしてテナント
を募集し、あるいは売れ行きのよい自社商品をボツクス内に陳列させるなど種々の
対策を講じてきたこと、被告人は、その対策の一環として及び会社資金の調達を図
るため、取締役営業部長D、前示C店店長Eらと共謀のうえ、昭和五二年二月ころ
から、既得のテナントや来店した一般多数客に対し、原判示のとおり、「実は会社
では今度出資制度というものを始めましたが加入しませんか。この制度は一年間の
期限で元金を出資してもらい、その金をこちらで運用し外国の一流ブランド商品を
仕入れ、それを売つて利益を配当する制度です。一年後に間違いなく元金をお返し
しますし、一ケ月前に言つて戴けば、中途解約はいつでも自由で、間違いなく元金
は保証します。利益配当は月一割五分くらいできます。例えば二〇万円出資しても
らえば月三万円くらい配当が受けられ、ボツクスの中の品物が少しも売れなくとも
月二万円のレンタル料を引いても儲けになります。」とか、これと同趣旨の勧誘を
行つたこと、さらに右会社は、昭和五二年七月東京都中央区fg1丁目b2番c2
号d2ビルe2階にも「BF店」という店舗を設け、一八〇個のカプセルボツクス
を並べ、一ボツクス毎に一年契約、賃料一二〇万円で賃貸するなど前同様の形態の
商品展示場経営を加えたが、被告人は、前示Dらと共謀のうえ、来店した一般多数
客に対して、前同趣旨の勧誘を行つたこと、その結果、原判示別紙一覧表(一)記
載のとおり、前後九五回にわたり右勧誘に応じたGほか五〇名から「出資金」等名
下に預金と同様の経済的性質を有する金員合計八七九八万円の受入れをした<要旨>
ことが認められる。ところで、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法
律二条が、他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人に対しても不特定
且つ多数の者から業として預り金をすることを禁止した趣旨は、預金等をしょうと
する一般大衆の地位を保護し、社会の信用制度と経済秩序の維持発展を図ることに
あり、このような本条の趣旨目的に照らして、右にいわゆる「不特定且つ多数の
者」とは、一般大衆を指称すると解すべきであり(最高裁判所昭和三六年四月二六
日大法廷判決、刑集一五巻四号七三二頁参照)、これを本件についてみると、被告
人らの預り金行為の対象者は、すでにカプセルボツクスのテナントになつている者
又は預け金をすると同時にカプセルボツクスのテナントになつた者のいずれかてあ
り、その意味では所論主張のとおりテナントに限つて預り金をしたといえるが、そ
のテナントなる者は、もともと被告人らの新聞広告等による宣伝に応募した家庭の
主婦やOL等のまさに一般大衆であり、ただ預け金をするについては返還を要求し
得ない高額のテナント料の支払が条件とされていたというものに過ぎず、いいかえ
ると、被告人らはテナント料を支払いテナントとなつた一般大衆から併せて預り金
をしたのであり、以上によれば、原判決が被告人らにおいて「不特定且つ多数の
者」から預り金をしたとの事実を認定し、これを一つの要件として前同法二条一項
を適用したことは正当であつて、原判決にはこれらの点に関し何らの誤りもない。
論旨は理由がない。
 控訴趣意第二(量刑不当の主張)について
 所論は、要するに、被告人は全力をあげて殆んど全部の被害者と示談を結んで現
金を支払い又は今後の支払約束をしているなど諸般の情状を考慮すると、被告人を
懲役二年に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり、被告人に対しその刑の執行
を猶予するのが相当である、というのである。
 しかしながら、原審記録を調査して検討すると、原判決がその「量刑の理由」の
欄において詳細説示する諸事情、すなわち、本件は、被告人が前示Dらと共謀のう
え定期預金等に比較して極めて利殖度の高い受入れ条件を示すなどして社会経験に
乏しい家庭の主婦やOL等を巧みに勧誘し、前叙のとおり前後九五回にわたり五一
名の者から合計八七九八万円にも及ぶ多額の預り金をし(原判示第一)、さらに右
芳秋と共謀のうえ美術商から販売委託された絵画二〇点(仕入れ価格合計一七八五
万円、指定最低販売価格合計三八八〇万円)をほしいままに自社の二〇〇〇万円の
借入債務の担保に供して業務上横領した(同第二)という大規模な事犯であり、被
告人はそれについて主導的な役割を果していること、その後被告人の甚だ放漫な経
営態度から会社の倒産を招き、預り金のうち中途解約をしていた三名を除く四八名
分合計約八二〇〇万円についてはこれを返還することが不可能となり(約半数は利
益配当も受けていない。)、また美術商から預つた絵画も回収不能となり、これら
の者に多大の金銭的損害を与えたこと、これに対して被告人は、原判決言渡時まで
に預り金未返還分約八二〇〇万円につきその一割強を、絵画分につき五〇〇万円を
それぞれ弁償したに過ぎないことなどが認められ、また当審における事実取調の結
果によると、その後預け金をした者の一部及び美術商に対し合計一八二万円を弁償
しているものの、なお多額の被害弁償が残つていることが認められ、以上の諸事情
を併せ考えると、被告人の罪責は甚だ重いといわざるを得ないから、被告人が被害
者らとの間で、昭和五五年一一月から昭和五九年一二月まで毎月分割弁済すること
等の約束を取り交わし、現に被害弁償のために努力していること、被告人には傷害
罪等により三回罰金刑に処せられた以外特段の前科前歴はないこと、その他反省の
態度など諸般の情状を被告人のため十分しん酌してみても、被告人を懲役二年に処
した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとは認められない。論旨は理由がない。
 よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決
する。
 (裁判長裁判官 千葉和郎 裁判官 宮嶋英世 裁判官 中野保昭)
           (参 考)
            刑事補償請求棄却決定に対する異議申立について
            された刑事補償請求更正決定の主文及び理由
昭和五五年(け)第一七号
             決   定
 本籍 長野県松木市大字hi1番地c3号
 住居 埼玉県朝霞市ji2番地のk
      請求人 H
右の者に対する刑事補償請求事件について、昭和五五年三月三一日当裁判所がした
請求棄却決定に対し、請求人代理人弁護士伊達秋雄外二名から異議の申立があつた
が、当裁判所は、異議を理由かあるものと認め、刑訴法四二八条二項三項、四二三
条二項前段により、次のとおり決定を更正する。
             主   文
請求人に対し金一三万一二〇〇円を交付する。
             理   由
本件請求の趣旨及び理由は、代理人伊達秋雄、同佐藤博史、同山嵜進が連名で提出
した刑事補償請求書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
本件記録によれば、
一、請求人は、昭和五一年一一月九日「被告人は、治安を妨げ、かつ、人の身体・
財産を害しようとする目的をもつて、昭和四七年九月中旬ころから昭和五一年一〇
月一八日までの間、宝塚市Iトンネル工事現場、大阪府池田市lg2丁目b1番c
4号m2荘J方、東京都板橋区og3丁目b4番c2号m2荘K方、同都中野区p
g2丁目b5番c6号m3荘の自室及び同都板橋区og2丁目b2番c7号の自宅
において、爆発物であるダイナマイト四本を所持したものである。との公訴事実
(爆発物取締罰則・同罰則三条、火薬類取締法違反・同法五九条二号、二一条)で
東京地方裁判所に起訴されたこと、
二、同裁判所は、昭和五三年二月二八日、被告人は、昭和四七年一〇月下旬ころか
ら昭和五一年一〇月一八日までの間右公訴事実記載の場所において爆発物であるダ
イナマイト四本を所持した者であるが、その所持の目的が、治安を妨げ、人の身体
財産を害するためでないことを証明することができないものであるとの事実(爆発
物取締罰則六条該当)を認定したうえ、被告人は火薬類取締法違反の点については
無罪であるが、同罰則三条の罪と想像的競合の関係にあるものとして起訴され、同
条の罪と公訴事実において同一性のある同罰則六条の罪について有罪の言渡をする
のであるから、主文では無罪の言渡をしない、旨を判示して、被告人に対し、懲役
一年六月、未決通算一八〇日、執行猶予三年の判決を言い渡したこと、
三、請求人は、右判決を不服として控訴を申し立てたところ、当裁判所は、昭和五
四年一二月一三日、原判決を破棄し、被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和
四七年一〇月下旬ころから昭和五一年一〇月一八日までの間前記公訴事実記載の場
所において爆発物であるダイナマイト四本を所持したものである、との事実(火薬
類取締法五九条二号、二一条該当)を認定したうえ、被告人に対する本件公訴事実
中の爆発物取締罰則六条該当の点については犯罪の証明がないが、同罰則六条該当
の訴因を内包する同罰則三条該当の事実は、判示火薬類取締法違反の事実と科刑上
一罪の関係にあるものとして起訴されたものと解されるから、特に主文において無
罪の言渡をしない、と判示して、被告人に対し、懲役七月、原審未決の通算一八〇
日、執行猶予二年の判決を言い渡して、同判決は昭和五四年一二月二七日確定した
こと、
四、請求人は、右事件に関し、昭和五一年一〇月一八日逮捕され、同月二一日から
昭和五二年五月一七日まで勾留されたが、右拘禁の罪名は爆発物取締罰則違反だけ
であったこと、
以上の事実が認められる。
ところで、請求人が本件について抑留及び拘禁された日数(二一二日)のうち、未
決勾留田数として本刑に算入された部分(一八〇日)については、仮に刑の執行猶
予が取り消された場合、刑の執行と同一視され、刑事補償の対象とはならない(最
高裁判所昭和三四年一〇月二九日決定・刑集一三巻一一号三〇七六頁参照)もので
あることなどをも勘案したうえ、刑事補償法三条二号により、これを補償しないの
が相当であると考える。
そこで、残余の全日数、すなわち三二日につき、諸般の事情を考慮し、昭和五五年
法律第四二号刑事補償法の一部を改正する法律附則二号により、同法による改正前
の刑事補償法四条一項所定の補償金額の最高限度である、一日四一〇〇円の割合に
よる補償金を交付するのが相当であると認め、同法一六条前段により、主文のとお
り決定する。
(昭和五五年六月二七日 東京高等裁判所第二刑事部)

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