弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を旭川地方裁判所留萌支部に差し戻す。
         理    由
 弁護人諸留嘉之助の控訴趣意は別紙の通りである。
 控訴趣意第一点について、
 日本国憲法第三十一条には「何人も法律の定める手続によらなければ、その生命
若しくは自由を奪はれ、又は其の他の刑罰を科せられない。」と規定している。こ
の規定は或行為に或刑罰を科するには法律で定めた手続によらなければならないと
いうことだけではなく、如何なる行為に如何なる刑罰を科するかという刑罰規定は
法律によつて定めなければならないということも定めた趣旨であると解される。従
つて命令は原則として罰則を設けることが出来ない訳であるが、法律が個別的に特
に罰則を設けることを命令に委任した場合は法律に基くものであるから、その委任
命令には罰則を設けることが出来ると解すべきであつて憲法第七十三条第六号に、
「政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることが出来
ない」と規定して政令についてこのことを明にしていると同様に省令については、
国家行制組織法第十二条第三項に「前二項の命令(総理府令、法務府令、省令)に
は法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制
限する規定を設けることが出来ない」と規定してこのことを示しているのである
が、若しその委任された命令の罰則が法律の委任した範囲を越えて刑罰の種類、範
囲を規定した場合に於ては結局法律によらないで刑罰を規定したことになるから該
罰則は憲法第三十一条に違反するものといわなければならない。
 <要旨>本件に於て原審が被告人の所為は昭和二十五年三月十四日農林省令第十九
号の第四条により一部改正せらた農林省令機船底曳網漁業取締規則第一条ノ
二、第二十七条第一項に該当するものとし所定の懲役と罰金を併科することにし、
被告人を懲役六月及び罰金五万円に処したことは原判決書の記載に徴し明かである
から、原判決は右取締規則第二十七条第一項の併科規定を適用し被告人を処断した
ものである。ところが機船底曳網漁業取締規則(以下単に規則と略称)は昭和二十
五年三月十四日農林省令第十八号旧漁業法に基く省令の効力に関する省令第一条に
より新漁業法(昭和二十四年法律第二百六十七号)の規定に基いて定められたもの
とせられたのであるから、新漁業法の規定を根拠法とする委任命令である。それで
規則第二十七条第一項は新漁業法のどの規定に基く罰則であるかという点について
考えて見ると、規則第二十七条は規則の他の罰則と共に昭和二十二年十二月二十九
日農林省令第九十六号第一条により旧漁業法第三十四条第三項に基いて設けられた
規定となつたものであり、旧漁業法第三十四条は新漁業法に所謂漁業調整に関する
事項を命令に委任し(第一、二項)その命令には罰則を設け得ること(第三項)及
びその罰則に規定し得る刑罰の種類、範囲(第四項)等を規定しているのであつ
て、新漁業法では第六十五条が同一事項をその内容とする規定である。そして前記
の昭和二十五年三月十四日農林省令第十九号の第四条による改正規則と改正前の旧
規則との各条項新漁業法の精神、その規定の体裁、順序等と旧漁業法のそれとを夫
々比較対照して見ると改正規則第二十七条第一項は新漁業法第六十五条第二項に基
く罰則であることがわかる。
 そうするとその規定し得る刑罰の種類、範囲は同条第三項に定められているので
あるが同条第三項には「前項の罰則に規定することが出来る罰は省令にあつては、
二年以下の懲役、五万円以下の罰金、拘留又は科料、規則にあつては、六箇月以下
の懲役、一万円以下の罰金、拘留又は科料とする。」とあつてはその定めた刑罰を
「及び」ではなく「又は」で一括しているから所定刑を選択刑として規定すること
が出来るという趣旨で之を併科することが出来るという意味は含まれていないので
ある。然るところこの罰則について所定刑を併科出来るということは他に新漁業法
にもその他の法律にも何等規定がないし、又法律以外にその根拠となるものもない
のであるから、改正規則第二十七条第一項は新漁業法第三項で定めた範囲を越えて
所定刑を併科することが出来ない訳であるが、同条項は「第一条ノ二、第八条、第
九条第一項、第十一条第十二条若ハ第十五条ノ規定ニ違反シタル者又ハ第二十五条
ノ二第一項ノ規定ニョル碇泊命令若ハ第二十五条ノ三ノ規定ニ依ル命令ニ従ハザル
者ハ二年以下ノ懲役若ハ五万円以下ノ罰金ニ処シ又ハ之ヲ併科ス」と規定し懲役と
罰金を併科することを規定しているのであるから、この併科に関する部分は法律に
よる委任の範囲を越えたもので結局憲法第三十一条に違反し憲法第九十八条第一項
により効力を有しないので適用し得ないものと言うべく、従つて適用し得ないこの
併科規定を適用した原判決は法令の適用を誤つたことに帰する。
 そしてこの誤が判決に影響を及ぼすことは明白であるから、論旨は理由があり、
原判決は他の控訴趣意に対する判断を侯つまでもなく破棄を免れない。よつて刑事
訴訟法第三百九十七条により原判決を破棄し、同法第四百条本文により本件を原裁
判所に差し戻すことにし、主文の通り判決する。
 (裁判長判事 竹村義徹 判事 西田賢次郎 判事 河野刀)

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