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平成18年(ネ)第10084号謝罪広告等請求控訴事件
平成19年3月27日判決言渡,平成19年2月15日口頭弁論終結
(原審・東京地方裁判所平成18年(ワ)第13406号,平成18年10月30日判決)
判決
控訴人(原審原告)X
被控訴人(原審被告)横浜ゴム株式会社
訴訟代理人弁護士上谷清,永井紀昭,萩尾保繁,山口健司,薄葉健司
補佐人弁理士水野みな子,川崎典子
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人
「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し,原判決添付別紙1「謝罪広告指
定内容」記載の謝罪広告を,スポーツ新聞紙各紙(サンケイスポーツ,日刊スポー
ツ,東京スポーツ,デイリースポーツ,西日本スポーツ,中日スポーツ,スポーツ
報知,スポニチ大阪)及びゴルフ関連情報誌各誌(ゴルフトゥディ,アルバ,週間
,,,,パーゴルフ週間ゴルフダイジェスト月刊ゴルフダイジェストゴルフワッグル
,,)。ゴルフトライゴルフクラシックティアップゴルフマガジンに各3回掲載せよ
訴訟費用は,第1,第2審とも被控訴人の負担とする」との判決。。
2被控訴人
主文と同旨の判決。
第2事案の概要
本件は,ゴルフ用ボールマーカー(以下,単に「ボールマーカー」ともいう)。
に係る意匠権(以下「本件意匠権」といい,本件意匠権に係る登録意匠を「本件登
録意匠」という)を有する控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が製造し譲渡し。
たボールマーカーの意匠(以下,このボールマーカーを「被控訴人製品」といい,
被控訴人製品の意匠を「被控訴人製品意匠」という)が,控訴人の本件意匠権を。
侵害すると主張して,意匠法41条,特許法106条に基づき,謝罪広告を求めた
事案である。
原判決は,被控訴人製品意匠は本件登録意匠に類似せず,被控訴人製品の製造及
び譲渡は本件意匠権を侵害する行為でないとして,控訴人の請求を棄却した。
1当事者間に争いがない事実
()本件意匠権1
控訴人は,下記意匠権(本件意匠権)を有している。
登録意匠番号:登録第1217691号
出願日:平成16年2月18日
登録日:平成16年8月6日
意匠に係る物品:ゴルフ用ボールマーカー
(「」。)登録意匠の構成:原判決添付別紙2の意匠公報以下本件意匠公報という
に記載のとおり
()被控訴人製品の製造・譲渡2
被控訴人は「プロギアボールマーカー」と称するボールマーカー(被控訴人,
製品)を製造し,平成16年10月ころから,販促品として無償譲渡していた。
()被控訴人製品意匠の構成3
被控訴人製品意匠の構成は,以下のとおりである。
ア基本的構成
球体の一部を切り取ってできた円盤状であって,上面は,膨出する表面に円凹弧
面状のディンプルが複数配されており,底面は,水平状かつ同心円状に表れる。
イ具体的態様
上面に配されたディンプルは,いずれも略同径である。
ディンプルの配列は,略同径のディンプルが複数相互に近接して配されてい
る。
上面と底面際の間に周側面を形成する滑面状立ち上がり壁がある。
底面は,外輪郭線の内側に二重の同心円が表れる態様である。
上面の略同径ディンプル群の中央に,個々のディンプルの径より天地が長い
4個の大文字「「「「」が横直線状に近接して刻み込まれており,さPRGR」,」,」,
らに,当該文字の下方に当該文字と平行に「」という小さな大文字が横直線GOLF
状に刻み込まれている。
2争点
控訴人は,被控訴人製品意匠が本件登録意匠と類似するものであり,被控訴人が
被控訴人製品を製造して譲渡した行為は,本件意匠権の侵害に当たると主張し,被
控訴人は,被控訴人製品意匠が本件登録意匠と類似することを争い,被控訴人が被
,。控訴人製品を製造して譲渡した行為は本件意匠権の侵害に当たらないと主張する
したがって,本件の争点は「被控訴人製品意匠が本件登録意匠と類似するか否,
か」という点である。
3争点についての当事者の主張
(控訴人の主張)
被控訴人製品意匠は,下記のとおり,本件登録意匠と類似するものであり,被控
訴人が被控訴人製品を製造,譲渡した行為は,本件意匠権の侵害に当たるものであ
る。
()本件登録意匠は,全体がドーム形状であり,表面にエンボス加工を施して,1
複数の凹陥部(ディンプル)を形成し,内部にマグネットを有するという点に特徴
がある。
()従前の市販のボールマーカーは,コインのような円板形状をしており,これ2
は,グリーン上に置いて,視線を低くして見た場合に見え難くなるという欠点を有
していた。このような円板形状のボールマーカーは,あくまで,ゴルフボールの位
置をマークするという役割だけを果たすものであった。
これに対し,本件登録意匠に係る実施品は,隆起したドーム形状であるために,
距離を置いて見た場合にも容易に見ることができ,そのために,グリーン上をボー
ルが転がるラインを予測することができ,ボールとカップを挟んだ逆方向からのラ
イン読みも可能となったものである。
このように,ボールマーカーをドーム形状としたことは,画期的なことである。
()被控訴人製品意匠は,上記()の本件登録意匠の特徴をすべて備えるもので31
ある。原判決は,ディンプルの細かいデザインや「「」等のロゴをPRGRGOLF」,
問題とするが,そのようなものは,距離を置いて見た場合には識別が不可能であっ
て,問題とすべきものではない。
したがって,本件登録意匠の特徴をすべて備える被控訴人製品意匠が,本件登録
意匠と類似することは明らかである。
(被控訴人の主張)
原判決の判断は正当であって,被控訴人製品意匠は,本件登録意匠と類似するも
のではなく,したがって,被控訴人が被控訴人製品を製造して販売した行為は,本
件意匠権を侵害する行為ではない。
()控訴人の主張()は否認する。本件登録意匠の要部は,原判決が認定したと11
,「,,,,,おりその上面の具体的態様すなわち上面に配されたディンプルに大中
小の3種類の大きさがあり,大ディンプルは,縦横十文字に合計9個,当該十文字
の中間45度の位置の上面外縁付近に合計4個が,それぞれ配され,小ディンプル
は,上面の中心の大ディンプルとその周囲の4個の大ディンプルが作る隙間に,等
間隔に4個配され,中ディンプルは,上面外縁付近に配された4個の大ディンプル
,,,と縦横十文字に配された大ディンプルとの間に各5個合計20個配されており
これらディンプルは,上面と底面との際まで表されているという構成」にある。そ
して,被控訴人製品意匠は,本件登録意匠の要部である上記「上面の具体的態様」
,,,との対比においてディンプルの大きさや配列などの点で相当程度異なっており
両意匠は全く異なる美感を呈するものであって,類似しないことは明らかである。
()同()のうち,従前の市販のボールマーカーがコインのような円板形状をし22
ていたことは否認する。ゴルフ用ボールマーカーにおいて,球体の一部を切り取っ
てできた円盤状で,上面は,膨出する表面に円凹弧面状のディンプルが複数配され
ている構成を採用することは実開平6−44568号公報乙第5号証以下乙,(。「
5文献」という)に示されているとおり,公然知られていたものである。。
,。,,同()のうちその余の事実は不知なお本件登録意匠の実施品に係る主張が2
そのとおりであったとしても,それらは本件意匠公報の記載から判別し得ない事項
であり,かつ,意匠権の保護対象ではない機能に関するものであるから,本件登録
意匠の要部とは無関係である。
()同()の主張は争う。33
第3当裁判所の判断
1争点(被控訴人製品意匠が本件登録意匠と類似するか否か)について。
()本件登録意匠の構成及び要部1
ア本件登録意匠の構成
本件意匠公報(乙第1号証)によれば,本件登録意匠の基本的構成及び具体的態
様は,以下のとおりであると認められる。
基本的構成
球体の一部を切り取ってできた円盤状であって,上面は,膨出する表面に円凹弧
面状のディンプル(凹陥部)が複数配されており,底面は,水平状で,同心円状の
模様が表れている。
具体的態様
a上面に配されたディンプルには,おおむね大,中,小の3種類の大きさがあ
る。
,(),b大ディンプルは上面の中心を通過するように垂直縦方向に直列に5個
同じく上面の中心を通過し,上記垂直方向の直列と中心の1個を共通にして十文字
を形成するように水平(横)方向に直列に5個,合計9個が配され,さらに,上記
十文字の中心から,縦横の直列がなす直角の中間45度の方向で,上面外縁付近に
各1個,計4個配されている。小ディンプルは,上面の上記十文字の中心である大
ディンプルとその周囲の4個の大ディンプルが作る隙間に,等間隔に4個配されて
いる。中ディンプルは,上面外縁付近に配された4個の大ディンプルと縦横十文字
に配された大ディンプルとの間に各5個,合計20個配されている。
cディンプルは,上面全体に底面の際まで配されている。
d底面には,外輪郭線の内側に一つの同心円が表れている。
イ本件登録意匠の要部
意匠の類否判断に当たっては,意匠全体の観察を要するものの,意匠に係る
物品の各部位における構成に対する判断の比重がすべて等しいというわけではな
く,取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,両意
匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して,両意匠が全体と
して美感を共通にするか否かを判断すべきものである。そして,この場合に,意匠
の要部は,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様等を考慮するほか,その意匠の
各部が公然知られた意匠に係るものと同一の意匠に係る部位であるか,新規な創作
の意匠に係る部位であるか等を斟酌して,認定すべきものである。
したがって,意匠の要部の認定は,意匠に係る物品の取引者・需要者がどのよう
な者であるか,その用途や使用態様がどのようなものであるか,意匠の各部位が公
然知られたものであるか否か等の事実の認定を経て行うこととなるものである。
取引者・需要者
乙第3,第4号証及び弁論の全趣旨によれば,ゴルフ競技において,ボールマー
カーは,ボールがグリーンに載った場合,その他ルールによって必要とされる場合
に,地表からボールを拾い上げる際,ボールのあった位置を示す目印として地表に
置くものであること,また,ボールマーカーは,ゴルフ場にも備えられているが,
その意匠を趣味や楽しみの対象として個人用のものが使用されることも多いことが
認められ,この事実によれば,ボールマーカーの取引者・需要者は,主として,趣
味又はスポーツとしてゴルフを行う一般の競技者であることが認められる。
用途・使用態様
ボールマーカーの用途及び使用態様は上記のとおりであるから,ボールマーカ
ーの主な需要者である一般のゴルフ競技者は,自己の趣味や粋を意匠として表現し
得る上面に最も注意を惹かれる反面,その使用時に地表と接着し,視認し得ない底
面に注意を惹かれることはないものと推認される。
公知事実
乙5文献は,名称を「ゴルフ用マーカーの携帯機構」とする考案に係る公開実用
新案公報であって(考案の詳細な説明の段落【】の記載によれば「ゴルフ用0001,
マーカー」は,ボールマーカーを意味することが認められる,公開日を平成6年。)
,(【】6月14日とするものであるが考案の詳細な説明の実施例に係る記載段落0010
∼【)中に「図1ないし図3において,1はゴルフ用マーカーで,本体2は0015】,
金や銀,プラチナ等の貴金属やプラスチックその他の素材で作成されている。そし
てその表面にはゴルフボールの表面状態に類似したディンプル3が形成され,使用
時の滑りを防止している(段落【)との記載があり,図1∼3には,球体。」】0011
の一部を切り取ってできた円盤状であって,上面は,膨出する表面に円凹弧面状の
ディンプルが複数配された構成の意匠に係るボールマーカーが図示されている。
そうすると,ボールマーカーにおいて「球体の一部を切り取ってできた円盤状,
で,上面は,膨出する表面に円凹弧面状のゴルフボールの表面のディンプルに類似
したディンプルが複数配されている」構成を意匠の一部として採用することは,本
件登録意匠出願(平成16年2月18日)前に公然知られていたものであることが
認められる。なお,乙5文献は,上記のとおり,公開実用新案公報であり,かつ,
上記実施例を含め,上記考案が実施されたか否かも明らかではないが,乙5文献が
頒布された刊行物であることは明らかであるから,上記事情は,乙5文献に記載さ
れた上記意匠が公然知られていたと認めることの妨げとはならない(平成18年法
律第55号による改正前の意匠法3条参照。)
上記∼の各事実によれば,本件登録意匠において,取引者・需要者の注
意を惹かない底面の意匠は要部とはならず,また,上面の意匠のうちでも,本件登
録意匠の登録前に公然知られていた「球体の一部を切り取ってできた円盤状で,,
上面は,膨出する表面に円凹弧面状のゴルフボールの表面のディンプルに類似した
ディンプルが複数配されている」構成自体も,創作性が低いから本件登録意匠の要
部とはなり得ないものといわざるを得ない。そして,上記乙5文献の存在にもかか
わらず,本件登録意匠の登録がなされたことにかんがみると,本件登録意匠は,専
ら,上面のディンプルの大きさ及び配置の態様に創作非容易性が認められたものと
推認され,このことは,ディンプルの形状(円形か六角形かなど,大きさ,配置)
の態様等にのみ差異があるゴルフボールにつき,複数の意匠登録がなされ(乙第6
号証の1,2,乙第7号証の1∼8,ゴルフボールの創作非容易性がこれらの点)
において認められているものと推認されることと符合するものである。
そうすると,本件登録意匠の要部は,上記アのの具体的態様のうちの,a∼c
に係る上面に配されたディンプルの大きさ及び配置の態様(下記に再説する)に。
あるものと認められる。
a上面に配されたディンプルには,おおむね大,中,小の3種類の大きさがある。
b大ディンプルは,上面の中心を通過するように垂直(縦)方向に直列に5個,同じく上面
の中心を通過し,上記垂直方向の直列と中心の1個を共通にして十文字を形成するように水平
(横)方向に直列に5個,合計9個が配され,さらに,上記十文字の中心から,縦横の直列が
なす直角の中間45度の方向で,上面外縁付近に各1個,計4個配されている。小ディンプル
は,上面の上記十文字の中心である大ディンプルとその周囲の4個の大ディンプルが作る隙間
に,等間隔に4個配されている。中ディンプルは,上面外縁付近に配された4個の大ディンプ
ルと縦横十文字に配された大ディンプルとの間に各5個,合計20個配されている。
cディンプルは,上面全体に底面の際まで配されている。
控訴人は,本件登録意匠につき,全体がドーム形状であり,表面にエンボス
加工を施して,複数の凹陥部(ディンプル)を形成し,内部にマグネットを有する
という点に特徴があると主張するところ,この主張は,これらの点が,本件登録意
匠の要部であるとの趣旨と解される。
しかしながら,まず,内部にマグネットを有するという点は,本件意匠公報に全
く表されていない点であり,本件登録意匠の要部はおろか,本件登録意匠の構成を
なすものと認めることもできない。なお,控訴人は,本件登録意匠の実施品である
として,検甲第2,第3号証を提出するところ,仮に,これらが本件登録意匠の実
施品に当たり(実際には,実施品にも当たらないことは後記のとおりである,。)
かつ,内部にマグネットを有するとしても,登録意匠と,その意匠権を侵害すると
主張された他の意匠との類否判断は,当該登録意匠に係る意匠公報に記載された意
匠に基づいて行われるべきものであるから,本件意匠公報に,本件登録意匠が,内
部にマグネットを有するものとして表されていない以上,この点を本件登録意匠に
係る構成・要部と主張することはできない。
次に,表面にエンボス加工を施し複数のディンプルを形成する点は,本件登録意
匠の上面について見られる点であるが,上記のとおり,上面の表面にディンプルを
複数配する構成自体は,乙5文献に記載され,公然知られたものであって,それ自
体が本件登録意匠の要部とはいえず,単に,当該ディンプルの大きさ及び配置の態
様が要部と認められるものである。
さらに,全体がドーム形状であるとは,本件登録意匠の基本的構成のうち,球体
,,の一部を切り取ってできた円盤状であって上面が膨出する点をいうものであるが
この点も,上記のとおり,乙5文献に記載され,公然知られたものであって,本件
登録意匠の要部と認めることはできない。なお,この点に関し,控訴人は,本件登
録意匠がドーム形状であるために,その実施品は,距離を置いても容易に見ること
ができ,グリーン上をボールが転がるラインを予測するライン読みが,カップの反
,,対側からも可能となったものであってボールマーカーをドーム形状としたことは
画期的なことであるとも主張する。しかしながら,乙5文献に記載されたボールマ
ーカーの意匠も,球体の一部を切り取ってできた円盤状であって,上面が膨出する
もの(控訴人のいう「ドーム形状」のもの)であるから,仮に,本件登録意匠が主
張の効果を奏するのであれば,乙5文献に記載されたボールマーカーの意匠も同様
,,。,の効果を奏するはずであり当該効果は新規のものということができないまた
意匠法によって保護される「意匠」とは「物品・・・の形状,模様若しくは色彩,
又はこれらの結合であつて,視覚を通じて美感を起こさせるものをいう(意匠法。」
2条1項)のであるから,意匠に係る特定の部分の構成によって生起する美感によ
り,技術的な効果も併せ生ずるような場合であっても,当該特定の部分の意匠に係
る構成が要部たり得るかどうかは,当該美感を生起させる構成であるという点のみ
を考慮して判断すれば足りるものであって,技術的な効果を考慮の対象として含め
る必要はない。したがって,控訴人の上記主張も失当である
甲第3号証(弁理士作成の所見書)には,乙5文献の図1∼3記載の意匠に
おいては,円状の模様箇所(ディンプル)が隆起した上面の表面全体に占める割合
(甲第3号証には「非模様箇所に占める割合」と記載されているが,誤記であると
認められる)が圧倒的に小さいのに対し,本件登録意匠では,凹陥部箇所(ディ。
ンプル)が隆起した上面の表面全体に占める割合(甲第3号証には「非凹陥部箇所
に占める割合」と記載されているが,前同様,誤記であると認められる)が圧倒。
,,的に大きくその相違がそれぞれの意匠から受ける美感の中で特に印象に残るとし
上記の点に創作非容易性(甲第3号証では「新しさ」と記載されているが,新規性
ではなく,創作非容易性の趣旨であるものと認められる)が認められて,本件登。
録意匠の登録がなされた旨の記載があるところ,この記載は,凹陥部箇所(ディン
プル)が隆起した上面の表面全体に占める割合が大きい点をもって,本件登録意匠
の要部であるとする趣旨を含むものと解される。
しかしながら,ディンプルの上面の表面全体に占める割合が圧倒的に大きいか,
圧倒的に小さいかという点に創作非容易性が認められて,本件登録意匠の登録がさ
,,,,れたとの点は上記乙第6号証の12乙第7号証の1∼8によって認められる
ゴルフボールに係る意匠登録における創作非容易性の判断と明らかに齟齬するもの
であるが(上記乙第6号証の1,2,乙第7号証の1∼8記載のゴルフボールの意
,,。),匠はすべてディンプルの表面全体に占める割合が圧倒的に大きいものである
上記甲第3号証には,その齟齬につき何らの説明もなく,そうであれば「表面に,
はゴルフボールの表面状態に類似したディンプル3が形成され(段落【)た」】0011
乙5文献記載のボールマーカーとの関係における,本件登録意匠の創作非容易性の
判断の根拠として,上記甲第3号証の記載は首肯し難く,したがって,凹陥部箇所
(ディンプル)が隆起した上面の表面全体に占める割合が大きい点をもって,本件
登録意匠の要部であるとする点も,前提を欠くものであって,採用することはでき
ない。
()被控訴人製品意匠の構成2
被控訴人製品意匠の構成は,上記第2の1(当事者間に争いがない事実)の()3
のとおりである(下記に再説する。。)
ア基本的構成
球体の一部を切り取ってできた円盤状であって,上面は,膨出する表面に円凹弧面状のディ
ンプルが複数配されており,底面は,水平状かつ同心円状に表れる。
イ具体的態様
上面に配されたディンプルは,いずれも略同径である。
ディンプルの配列は,略同径のディンプルが複数相互に近接して配されている。
上面と底面際の間に周側面を形成する滑面状立ち上がり壁がある。
底面は,外輪郭線の内側に二重の同心円が表れる態様である。
上面の略同径ディンプル群の中央に,個々のディンプルの径より天地が長い4個の大文
字「「「「」が横直線状に近接して刻み込まれており,さらに,当該文字の下方PRGR」,」,」,
に当該文字と平行に「」という小さな大文字が横直線状に刻み込まれている。GOLF
()類否判断3
ア本件登録意匠を,その要部において,被控訴人製品意匠と比較すると,以下
のような相違点がある。
,,,上面の膨出する表面に配されたディンプルが本件登録意匠においては大
中,小の3種類の大きさがあるのに対し,被控訴人製品意匠においては,いずれも
略同径である。
本件登録意匠においては,大ディンプルは,垂直(縦)方向と水平(横)方
向の十文字に計9個が,上記十文字の中心から,縦横の中間45度の方向の上面外
縁付近に計4個が配され,小ディンプルは,上面の中心の大ディンプルと周囲の大
ディンプルが作る隙間に,等間隔に4個配され,中ディンプルは,上面外縁付近に
配された4個の大ディンプルと縦横十文字に配された大ディンプルとの間に各5
個,計20個配されているのに対し,被控訴人製品意匠においては,略同径のディ
ンプルが複数相互に近接して配されており,その数は約45個である(被控訴人製
品意匠におけるディンプルの数につき,検甲第4号証,検乙第1号証。)
本件登録意匠においては,上面にディンプル以外,何も表されていないのに
対し,被控訴人製品意匠においては,上面のディンプル群の中央に,個々のディン
プルの径より天地が長い4個の大文字「「「「」が横直線状に近接しPRGR」,」,」,
て刻み込まれており,さらに,当該文字の下段に2番目の「」の文字の左端からR
4番目の「」の左端にかけて当該文字と平行して,天地の長さを個々のディンプR
ルの径のほぼ2分の1とする大文字により「」と刻み込まれている(被控訴GOLF
人製品意匠の「」との文字の位置及び大きさにつき,検甲第4号証,検乙第GOLF
1号証。)
本件登録意匠は,ディンプルは,上面全体に底面の際まで配されているのに
対し,被控訴人製品意匠は,上面と底面際の間に周側面を形成する滑面状立ち上が
り側壁があり,当該側壁にはディンプルは表されていない(被控訴人製品意匠の側
壁にディンプルが表されていない点につき,検甲第4号証,検乙第1号証。)
イ以上のとおり,被控訴人製品意匠と本件登録意匠とは,基本的構成を同じく
するものの,要部の構成において相違しており,その相違は,ボールマーカーの上
面全体に及んでいて,微小なものとはいえないから,被控訴人製品意匠は,全体と
して本件登録意匠とは美感を異にするというべきである。
ウなお,控訴人は,本件登録意匠の実施品であるとして,検甲第2,第3号証
のボールマーカーを提出するが,これらのボールマーカーは,検甲第2号証のもの
において,ディンプルが上面全体に底面の際まで配されている点を除き(検甲第3
号証のものは,上面と底面際の間に周側面を形成する立ち上がり側壁が認められ
る,上記本件登録意匠の要部の構成をもたないものであるから,本件登録意匠の。)
実施品とはいえず,これと被控訴人製品意匠とを比較しても,本件登録意匠と被控
訴人製品意匠との類否判断において意味をもち得ない。
2以上によれば,控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由
がないから,これを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がない。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
石原直樹
裁判官
髙野輝久

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