弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人両名弁護人森西隆恒上告趣意第一点について。
 しかし、所論の判示事実は、原判決挙示の各証拠、殊にAに対する検察事務官の
聴取書記載によつて、これを充分に肯認することができるから、原判決には所論の
ように、証拠に基かずして事実を認定したという違法はない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 しかし、原判決の認定したところは、所論のごとく単に怒声を浴せて脅迫したと
認定したものではなく、原判示に具体的に掲げてあるように、多衆の威力を示し暴
行及び脅迫の罪を犯した暴力行為等処罰に関する法律の違反行為を認定判示したも
のであるから、原判決には、所論のごとき理由不備の違法はない。論旨は理由がな
い。
 同第三点について。
 刑事裁判における証人の喚問は、被告人にとりても又検察官にとりても重要な関
心事であることは言うを待たないが、さればといつて被告人又は弁護人からした証
人申請に基きすべての証人を喚問し不必要と思われる証人までをも悉く訊問しなけ
ればならぬという訳のものではなく、裁判所は当該事件の裁判をなすに必要適切な
証人を喚問すればそれでよいものと言うべきである。そして、いかなる証人が当該
事件の裁判に必要適切であるか否か従つて証人申請の採否は、各具体的事件の性格
環境、属性、その他諸般の事情を深く斟酌して当該裁判所が決定すべき事柄である。
しかし、裁判所は、証人申請の採否について自由裁量を許されていると言つても主
観的な専制ないし独断に陥ることは固より許され難いところであり、実験則に反す
るに至ればここに不法を招来することとなるのである。そこで、憲法第三七条第二
項の趣旨もまた上述するところと相背馳するものではない。同条からして直ちに所
論のように、不正不当の理由に基かざる限り弁護人の申請した証人はすべて裁判所
が喚問すべき義務があると論定し去ることは、当を得たものと言うことができない。
証人の採否は、どこまでも前述のごとく事案に必要適切であるか否かの自由裁量に
よつて当該裁判所が決定すべき事柄である。さて、本件において原裁判所は弁護人
から申請のあつた証人Bについて申請を却下したのであるが、つぶさに本件の具体
的性質、環境その他諸般の事情を斟酌すれば、該証人の喚問は必ずしも裁判に必要
適切なものでないと認めても実験則に反するところはないから、右却下は何等の違
法を生ずることがない。論旨は、それゆえに理由なきものである。
 上告趣意第三点に対する裁判官齋藤悠輔の意見は次のとおりである。
 憲法第三七条第二項によれば刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会
を充分に与えられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める基本的
な権利を有する。しかし国民は憲法の保障する自由及び権利を濫用してはならない
のであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うことも同第一二条
の明定するところである。されば被告人の権利を尊重すると共に公共の福祉を維持
する裁判所は訴訟手続において被告人の証人に対する審問若しくは証人を求める被
告人の権利行使にして、不当であり若しくは不必要であると認めるときは憲法上こ
れを拒否することを得るものと言わなければならぬ。そして裁判所は証拠の取捨、
判断については法令その他実験則に反せざる限り良心に従い諸般の事情に応じ独立、
自由に決定すべきものであり、しかも本件においては所論証人の外記録上すでに他
に適当な証拠があることを認め得るから所論証人を不必要として却下したからと言
つて何等実験則に反したものでもなく、原審には所論の違法はない。
 上告趣意第三点に対する裁判官沢田竹治郎の意見は次のとおりである。
 しかし、証人の喚問は裁判上確定すべき事実の認定の証拠を得るためにすること
で、いかなる者を証人として喚問するか否かは事実認定の資料としてその者の供述
が必要であるか否かで決すべきであり、その必要があるか否かの判断はこれを決す
る者の自由裁量に一任さるべきであり、これを決する者は裁判所であるという訴訟
法上の原則を前提とするときは、いわゆる当事者の証人喚問の申請権は、厳格にい
うと、申請によつて裁判所にその証人を喚問する義務とか拘束を発生せしめるもの
でなく、単にその証人を喚問するかどうかを、決定する義務を発生するにとゞまる
ものといわなければならぬ。もとより裁判所が証人を喚問するか否かを決定するの
はその自由裁量によるべきだといつたとて、その裁量は恣意の意味でなく、経験則
に反してはならぬという制限に服するものであることは、いうまでもない、又裁判
所が証人を喚問すると決定したからには、裁判所は自らした決定という処分によつ
てその証人を喚問すべき拘束を受けることとなる筋合であるのは理の当然である。
そこで日本国憲法特にその第三七条第二項の規定が、この意味においての証人喚問
を決定する裁判所の権限を、裁判所から奪つて当事者殊に被告人に与へるとか、決
定するについて裁判所の裁量に制限を加える趣旨のものだと解することは、同条項
の文詞からもその他の規定の文詞からも困難である。又条理からいつても、不必要
な証人の喚問は、迅速な裁判の障害となるし、当事者には不必要な訴訟費用の負担
を来たすし、証人には無意味に出頭、宣誓、供述の義務が課せられることとなるの
は必定であるし、裁判所の裁量は経験則に反しない限り、その自由を原則とするの
が当然であるから、証人喚問の申請を決定することは、喚問する必要があるか否か
を、最も適切に、最も公正に判断することのできる地位にある裁判所の自由裁量に
よる判断に、これを委ねるのが当然であつて、当事者殊に犯罪の嫌疑をかけられて
いる被告人の判断に、委ねるべきではないといえるから、日本国憲法が、いかに基
本的人権の尊重擁護に真剣であるからといつたとて、この条理を否定し、抹殺し去
らねばならぬという理由を発見することができない。従つて日本国憲法第三七条第
二項の規定は、被告人の証人喚問の申請についての規定ではなく、既に裁判所が証
人として喚問することに決した証人に対して、被告人が審問する権利又は強制手続
を請求する権利を宣言し保障する趣旨の規定と解すべきである。されば同項の規定
を引用して、証人の喚問を申請することは、憲法に依り保障せられた国民の権利で
あつて、その申請が不正不当の理由に基かぬ限り、裁判所は弁護人が申請した証人
を喚問すべき義務がある、との論旨は当を得ない。故に弁護人の証人喚問の申請を
原審が却下したからといつて、原判決には憲法違反の不法ありとの所論は理由がな
い。又本件事案の骨子は比較的単純で、しかも、犯行は公衆の前で行われたもので
あり、被害者の他に、犯行の目撃者乃至関係人もあつて、それ等の者の供述書のあ
ることは一件記録で明らかなところであるから、原審が被害者を証人として喚問す
る必要はないと判断して、所論の証人申請を却下しても、実験則に反する違法を生
ずるとはいえない。されば被害者を喚問しないでした判決だからといつて原判決に
は審理不尽の違法ありとの所論は筋違いである。論旨は理由がない。
 よつて刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は、理由に関する少数意見を除き裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二三年七月二九日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    三   淵   忠   彦
            裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
 裁判官庄野理一は退官につき署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    三   淵   忠   彦

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