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平成24年6月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(ワ)第18147号名称抹消等請求事件
口頭弁論終結日平成24年5月24日
判決
東京都中央区<以下略>
原告A
東京都中央区<以下略>
原告花柳流花柳会
原告ら訴訟代理人弁護士錦戸景一
同藤田浩司
同岡部美奈子
同井上龍太郎
東京都中央区<以下略>
被告一般社団法人花柳流花柳会
訴訟代理人弁護士佐々木寛
主文
1被告は,その事業上の活動のために,「一般社団法人花柳流花柳会」
の名称及び「花柳流」,「花柳」又は「花柳流花柳会」の文字を含む
名称を使用してはならない。
2被告は,別紙登記目録記載の設立登記中,「一般社団法人花柳流花
柳会」の名称の抹消登記手続をせよ。
3訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項及び第2項と同旨
第2事案の概要
本件は,日本舞踊の普及等の事業活動を行う原告らが,「花柳流」及び「花
柳」の名称は「花柳流四世宗家家元花柳壽輔」(以下「四世宗家家元」という。)
の芸名を有する原告Aの営業表示として,「花柳流花柳会」の名称は権利能力
なき社団である原告花柳流花柳会(以下「原告花柳会」という。)の営業表示
として,それぞれ著名又は周知であり,被告がその事業活動に原告らの上記営
業表示と同一又は類似の「一般社団法人花柳流花柳会」の名称(以下「被告名
称」という。)を使用する行為は不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正
競争行為に該当する旨主張して,被告に対し,同法3条に基づき,被告名称等
の使用の差止め及び被告名称の抹消登記手続を求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求原因
当事者
ア原告Aは,四世宗家家元(花柳流四世宗家家元花柳壽輔)の芸名を有す
る,日本舞踊の流派「花柳流」の家元である。
原告Aは,花柳流三世宗家家元花柳壽輔(本名・B)(以下「三世宗家
家元」又は「三世花柳壽輔」という。)が平成19年5月23日に死去し
た後,上記芸名を襲名した。
イ原告花柳会は,昭和43年ころ設立された,花柳流舞踊の保存,伝承,
普及を図り,併せて会員の芸道知識一般の向上,相互の親睦,福利厚生を
推進し,もって,我が国の伝統芸能である日本舞踊の発展に寄与すること
を目的とし,花柳流宗家家元より名取名を認許された全名取を構成員とす
る権利能力なき社団である。
原告花柳会は,「花柳流花柳会会則」(甲2)を有し,①この会則に従
って構成された団体としての組織を備え,②総会及び理事会では,多数決
で決議が行われ,③会員の退会,除名及び入会等の構成員の変更によって
も原告花柳会自体は存続し,④代表の方法,総会の運営,財産の管理その
他団体としての主要な点が上記会則により規定され,確定しており,権利
能力なき社団の成立要件(最高裁判所昭和39年10月15日第一小法廷
判決・民集18巻8号1671頁参照)を充足している。
ウ被告は,平成23年1月24日に設立された,花柳流舞踊の保存,伝承,
普及を図り,併せて会員の芸道知識一般の向上,相互の親睦,福利厚生を
推進し,もって,我が国の伝統芸能である日本舞踊の発展に寄与すること,
花柳流に関わる伝承品を保存,保管,伝承することを目的とする一般社団
法人である。
原告らの営業表示及びその著名性又は周知性
ア原告Aについて
「花柳流」は,日本舞踊の最大流派として,全国的に知れ渡っており,
また,花柳流の名取は,花柳流宗家家元の認許を得て,芸名中の姓を「花
柳」と称しており,「花柳」は,花柳流の芸姓として全国的に知れ渡っ
ている。このことは,「花柳流」及び「花柳」の単語が,広辞苑(第六
版)(甲6)に掲載されていることからも明らかである。
そして,花柳流宗家家元は,①自ら舞踊会,講習会等で踊りを舞い,
出演料等の対価を得る活動,②門弟,名取を指導し,授業料等の対価を
得る活動,③門弟に対し,名取として花柳姓を冠した芸名を認許し,受
験料,名取料等の対価を得る活動,④その他振付料等の対価を得る活動
を行っており,このような事業活動は,不正競争防止法2条1項1号の
「営業」に該当する。
したがって,「花柳流」及び「花柳」の表示は,花柳流宗家家元の営
業表示として,遅くとも,三世宗家家元が存命中の昭和56年3月ころ
までには,全国的に著名又は周知となっていた。
三世宗家家元が平成19年5月23日に死去後ほどなくして,原告A
の四世宗家家元の襲名の事実が一般の新聞や出版物,その他の舞踊に関
する刊行物等で報道されたこと,原告Aが襲名披露公演を開催し,その
報道がされたこと,原告Aが四世宗家家元として各種活動を行い,それ
らに関する報道等がされてきたことからすると,「花柳流」及び「花柳」
は,遅くとも,被告が設立された平成23年1月24日までには,四世
宗家家元である原告Aの営業表示として,全国的に著名又は周知となっ
ていた。
被告は,後記のとおり,原告Aの四世宗家家元の襲名は花柳流の伝統
と慣習に従ったものではなく,違法なものであり,原告Aは,花柳流の
「振り」を伝承していないので,「花柳流」及び「花柳」は,原告Aの
営業表示に該当しないなどと主張する。
しかし,原告Aは,正当に四世宗家家元を襲名し,花柳流の「振り」
を伝承しているものであり,被告の上記主張は,事実に基づかないもの
として,失当である。
イ原告花柳会について
原告花柳会は,約2万1370人の会員(花柳流の名取)を擁し,全
国に12の支部を置き,花柳流舞踊に関する事業活動を行っている。
そして,原告花柳会は,会員から入会金等を徴収し,事業年度ごとに
事業計画を立て,会計年度ごとに収支決算を行っており,原告花柳会の
事業活動は,経済上の収支計算の上に立って行われる事業活動の一面を
有しているから,不正競争防止法2条1項1号の「営業」に該当する。
原告花柳会は,その事業活動を行うに当たり,「花柳流花柳会」の名
称を営業表示として使用している。
そして,原告花柳会は,扇塚供養や物故者慰霊祭などの全国的なイベ
ントを毎年執り行うとともに,12の支部において,会員たる名取の技
能向上等のための講習会等を行うなどしており,花柳流が全国的な知名
度を有することと相俟って,花柳流の全国組織である原告花柳会の営業
表示である「花柳流花柳会」もまた,日本舞踊界及びこれに関連する業
界はもちろんのこと,社会の各層に広く認識されるに至っており,遅く
とも,三世宗家家元が存命中の昭和56年3月ころまでには,全国的に
著名又は周知となっていた。
なお,原告Aが四世宗家家元を襲名した後においても,原告花柳会の
団体自体の同一性に何ら変更は生じておらず,「花柳流花柳会」の名称
の原告花柳会の営業表示としての著名性又は周知性は維持・継続されて
いる。
被告の不正競争行為
ア被告の行為
被告は,平成23年1月24日の設立当初から,「一般社団法人花柳流
花柳会」の名称(被告名称)を用い,花柳流舞踊に関する事業を行ってい
る。その事業活動の中で,被告は,会員を募集し,会員を名取として保護
するとして会員から1万円の年会費を徴収しているほか,名取試験を行う
ことを予定している。
したがって,被告名称は,被告の営業表示であるといえる。
イ被告名称と原告らの営業表示との同一性又は類似性
被告名称は,「一般社団法人花柳流花柳会」の文字から構成されてい
るところ,「一般社団法人」は,一般社団法人及び一般財団法人に関す
る法律5条1項に基づき,一般社団法人の名称中に用いることが義務付
けられた文字であるから,被告名称の主要部分(要部)は,「花柳流花
柳会」の部分である。
被告名称の要部である「花柳流花柳会」のうち「花柳流」の部分は,
原告Aの営業表示である「花柳流」と同一であり,また,「花柳会」の
部分は,原告Aの営業表示である「花柳」を含む上に,「会」の部分は,
人の集まりを示す普通名詞にすぎず,これが付されることによって類似
性に影響が生じることはないことからすると,被告名称は,原告Aの営
業表示である「花柳流」及び「花柳」とそれぞれ実質的に同一であって,
類似する。
また,被告名称の要部である「花柳流花柳会」は,原告花柳会の営業
表示である「花柳流花柳会」と同一である。
以上によれば,被告名称は,原告らの営業表示と同一又は類似の営業
表示に該当するといえる。
ウ不正競争防止法2条1項1号該当性
原告Aとの関係
不正競争防止法2条1項1号に規定する「他人の営業」と「混同を生
じさせる行為」とは,他人の周知の営業表示と同一又は類似のものを使
用する者が自己とその他人とを同一営業主体として誤信させる行為の
みならず,両者間に緊密な営業上の関係等が存在すると誤信させる行
為,いわゆる広義の混同惹起行為も含まれること(最高裁判所平成10
年9月10日第一小法廷判決・裁判集民事189号857頁参照)から
すると,個人と法人との間でも,営業の混同は生じ得る。
そして,被告名称が原告Aの周知の営業表示である「花柳流」及び「花
柳」と類似していることは前記イのとおりであるところ,原告A及び被
告の事業目的が重複していること,伝統芸能の世界においては,その流
派,流儀内に団体を擁する場合が多く,花柳流も「一般財団法人花柳流
花柳会」(甲9)等を擁していることなどからすると,原告Aが自然人
であり,被告が法人であることを踏まえたとしても,被告の前記アの行
為は,原告Aの周知の上記営業表示と類似の名称を自己の営業表示とし
て使用し,原告Aとの間に「緊密な営業上の関係」が存すると誤信させ,
又は誤信させるおそれを生じさせるものであるから,不正競争防止法2
条1項1号の不正競争行為に該当する。
原告花柳会との関係
被告名称が原告花柳会の周知の営業表示である「花柳流花柳会」と同
一又は類似していることは前記イのとおりであるところ,原告花柳会及
び被告の事業目的及び事業内容がほぼ同一であることからすると,被告
の前記アの行為は,原告花柳会の周知の上記営業表示と同一又は類似の
名称を自己の営業表示として使用し,原告花柳会と同一の営業主体とし
て誤信させるものであるか,少なくとも原告花柳会との間に「緊密な営
業上の関係」が存すると誤信させるものであるから,不正競争防止法2
条1項1号の不正競争行為に該当する。
エ不正競争防止法2条1項2号該当性
被告の前記アの行為は,原告らの著名な営業表示と同一又は類似の名称
を自己の営業表示として使用するものであり,不正競争防止法2条1項2
号の不正競争行為に該当する。
まとめ
よって,原告らは,被告に対し,不正競争防止法3条1項に基づき,被告
名称等の使用の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,侵害の停止又
は予防に必要な行為として,被告名称の抹消登記手続を求める。
2請求原因に対する認否及び被告の主張
請求原因について
ア請求原因アのうち,原告Aが家元あるいは四世宗家家元であること
は否認する。
宗家は,花柳家本家を引き継ぎ,その流儀を維持して行事を執り行う
者であり,家元は,宗家の委任を受けて,花柳流の舞踊を維持し,弟子
の指導を行う者であるから,宗家は,原則として花柳家の血筋の者が受
け継ぐものであり,家元は,先代の指名に基づいて受け継ぐものである。
しかるところ,原告Aは,花柳流初代家元の養子Cの養子である四世
花柳芳次郎の長男として生まれ,花柳家の血筋を引いていないので,宗
家ではないし,三世宗家家元の指名を受けていないから,家元でもなく,
花柳流の伝統,慣習に従って宗家家元を引き継いだ者ではない。
すなわち,平成19年5月23日に三世宗家家元が死去し,翌24日,
「花柳流花柳会」の理事会が開催された。同理事会の議事録によれば,
「三世家元の生前の意思に加えて経歴,実績及び三世家元との続柄等を
総合的に考慮すると,三世家元後見である花柳芳次郎氏が最も相応し
い」という意見で,「花柳芳次郎」(原告A)を「四世家元候補」とす
る旨の決議を行った。原告Aは,前記理事会決議があったことを理由に,
三世宗家家元の本葬があった同年6月28日,喪主挨拶の中で,突然四
世宗家家元に就任した旨を発表した。しかし,上記議事録によれば,「四
世家元」の確定には,①三世宗家家元の親族との調整が行われ,原告A
に一本化されること,②「花柳流花柳会」の理事会及びその役員が全員
一致で原告Aを支持することの二つの要件を満たす必要があるところ,
①の親族との調整はできておらず,前記理事会は,原告Aを「四世家元」
の候補としたにすぎず,「四世家元」とする決定をしたものではないか
ら,原告Aについては,①及び②の要件をいずれも満たしていない。
また,原告A及び三世宗家家元のいずれもが,原告Aが四世宗家家元
になることを予定していなかったことは,平成18年,「五世花柳芳次
郎」を襲名していた原告Aが第一線を退き,隠居名である「寛應」を襲
名することになっていたことからも明らかである。
さらに,「花柳流」の家元である者は,花柳流の伝統の振付けの型を
伝承している者でなければならない。「花柳流」舞踊は,「振り」を重
視するものであるが,原告Aの踊りの「振り」は,初代,二世,三世と
続いた「花柳流」の「振り」を破壊するものであり,原告Aが花柳流宗
家家元を名乗ることは許されない。
したがって,原告Aの四世宗家家元の襲名は違法なものであり,法的
に保護すべきものではなく,原告Aは,四世宗家家元を僭称する単なる
創作舞踊家にすぎない。
イ請求原因イは争う。もっとも,「花柳流花柳会」という団体が,花柳
流の名取の親睦団体として,三世宗家家元によって昭和43年ころ設立さ
れたことは認めるが,上記団体と原告花柳会との同一性については不知。
ウ請求原因ウの事実は認める。
被告は,原告Aの花柳流創流の伝統の破壊を憂えた二世,三世の「花柳
流宗家家元花柳壽輔」の弟子たちが立ち上げたものである。
請求原因について
ア請求原因アのうち,「花柳流」及び「花柳」が著名であることは
認めるが,その余は争う。
同のうち,原告Aが四世宗家家元と称して原告ら主張の事業活動を
行っていることは認めるが,その余の事実は否認する。
前記アのとおり,原告Aの四世宗家家元の襲名は違法なものであ
り,法的に保護すべきものではなく,原告Aは,四世宗家家元を僭称し
ているにすぎない。
したがって,原告Aの事業活動は,個人としての営業活動であって,
「花柳流」の営業活動とはいえないから,「花柳流」及び「花柳」の表
示は,原告Aの著名又は周知の営業表示ではない。
イ請求原因イのうち,原告花柳会が12の支部を置いていることは
認めるが,その余は争う。
原告花柳会は,基本的に会員の親睦,研鑽を目的としたもので,営業
活動を目的としたものではないから,原告花柳会は,不正な方法による
営業上の競争を防止することを趣旨とする不正競争防止法の保護の対
象となるものではない。
したがって,「花柳流花柳会」の表示は,原告花柳会の営業表示では
ない。
請求原因について
請求原因は争う。
第4当裁判所の判断
1前提事実
請求原因ウの事実,「花柳流」及び「花柳」が著名であること,原告花柳
会が12の支部を置いていることは,当事者間に争いがない。
上記争いのない事実と証拠(甲1ないし21(枝番のあるものは枝番を含
む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,次のような事実が認められる。
「花柳流」は,四代目西川扇蔵に学んだ「花柳壽助」が嘉永2年(184
9年)に創始(創流)した日本舞踊の一流派である。「花柳流」を主宰する
初代家元の花柳壽助は,文久元年(1861年),「初代花柳壽輔」と芸名
を改めた。以後,「花柳壽輔」の芸名は,花柳流の宗家家元(家元)が代々
継承する名跡となった。
すなわち,初代花柳壽輔が明治36年1月に死去した後,大正7年7月に
市村座で襲名披露をした二男の二世花柳壽輔が宗家家元(家元)となった。
二世花柳壽輔が,昭和39年1月に宗家家元の座を長女(本名・B)の三世
花柳壽輔に譲り,「壽應」と改名した後,昭和40年11月に歌舞伎座で三
世花柳壽輔の襲名披露が行われた。
その後,三世花柳壽輔は,平成19年5月23日に死去した。
「花柳流」は,代々の宗家家元の「花柳壽輔」が統率し,花柳壽輔から認
許を受けた名取は,その芸名に「花柳」の姓を冠している。
三世花柳壽輔は,昭和43年ころ,花柳流舞踊の保存,普及を図ること等
を目的として,花柳流の宗家家元及び全名取を構成員(会員)とする「花柳
流花柳会」と称する団体(原告花柳会)を組織し,その名誉会長に就任した。
三世花柳壽輔は,花柳流宗家家元として,①自ら舞踊会,講習会等で踊り
を舞い,出演料等の対価を得る活動,②門弟,名取を指導し,授業料等の対
価を得る活動,③門弟に対し,名取として花柳姓を冠した芸名を認許し,受
験料,名取料等の対価を得る活動,④その他振付料等の対価を得る活動等の
事業活動を行うとともに,日本舞踊の普及に務めた。
その結果,「花柳流」は,遅くとも昭和56年3月ころには,日本舞踊の
最大流派となり,「花柳流」及び「花柳」は,花柳流宗家家元の事業活動に
係る表示として,日本舞踊に携わる者及び全国の日本舞踊の愛好者らの間で
広く認識されるに至り,周知となっていた。
その後も,「花柳流」は,日本舞踊の最大流派であることを維持し,平成
23年6月現在その名取数は,約2万1370人に及んでいる。
ア原告花柳会は,「花柳流花柳会会則」という名称の会則を有し,この会
則で,宗家家元及び全名取を会員とすること,役員として,名誉会長,理
事,監事を置くこと,名誉会長には宗家家元が就任し,理事及び監事は総
会で選任し,理事の互選で理事長を定めること,理事長は原告花柳会を代
表すること,理事は理事会を組織すること,毎年1月28日に定時総会を
開催すること,総会の議決事項は,事業計画,事業報告,予算及び決算等
であること,総会及び理事会の議事は,別段の定めがある場合を除き,出
席した会員又は理事の過半数で決すること,会員の入会及び退会に関する
事項,会員の資格喪失事由,財産及び会計に関する事項などを定め,昭和
43年ころ以降,毎年1月に定時総会を開催してきた。
原告花柳会は,東京都中央区に事務所(本部)を,全国に12の支部(北
海道支部,東北支部,甲信支部,神奈川支部,静岡支部,中部支部,北陸
支部,関西支部,中国支部,九州支部,四国支部,東京・関東五県支部)
を置き,また,本部委員会として広報部などの各種委員会及びこれを統括
する委員長を置いている。
なお,原告花柳会の上記会則は,平成23年1月28日,同日に開催さ
れた定時総会で承認可決された甲2の会則に変更された。
イ原告花柳会は,昭和43年ころ以降,「花柳流花柳会」の名称を使用し
て,日本舞踊に関する知識を啓発し,その研究,論評の道を開くための機
関誌の発行,舞踊発表会,講習会等の開催,会員の共済及び福利厚生に関
する事業等の事業活動を行ってきた。
原告花柳会の上記事業活動は,事業年度ごとに事業計画を立て,会員の
入会金,会費,事業収入等で運営されており,会計年度ごとに収支決算が
行われてきた。
そして,遅くとも昭和56年3月ころには,「花柳流」が日本舞踊の最
大流派となっていたことと相俟って,「花柳流花柳会」は,原告花柳会の
事業活動に係る表示として,日本舞踊に携わる者及び全国の日本舞踊の愛
好者らの間で広く認識されるに至り,周知となっていた。
ア原告Aは,初代花柳壽輔の養子Cの養子であるD(四世花柳芳次郎)の
長男である。
原告Aは,昭和42年に五世花柳芳次郎を襲名し,三世花柳壽輔の存命
中,その家元後見人を務めていた。
イ平成19年5月23日に三世花柳壽輔が死去した後,同年6月28日
にその葬儀が行われた。その葬儀の際に,喪主を務めた原告Aは,自ら
が「花柳流宗家家元」四世花柳壽輔を襲名することを発表した。その間,
原告Aは,原告花柳会の理事会から四世花柳壽輔襲名の打診を受けてい
た。
平成19年6月から同年7月にかけて,原告Aが「花柳流宗家家元」
四世花柳壽輔を襲名した旨の新聞報道(同年6月28日付け東京新聞朝
刊,同年7月18日付け東京新聞朝刊,同月20日付け朝日新聞夕刊,
同月21日付け東京新聞夕刊,同月25日付け毎日新聞夕刊等)がされ
た。原告Aの「花柳流宗家家元」四世花柳壽輔襲名の事実は,業界の刊
行物(全日本舞踊連合「舞踊年鑑32平成19年の記録」平成20年
3月25日発行(甲13))や日本舞踊を紹介する書籍(甲11,14),
読売新聞のウェブサイト(ヨミウリ・オンライン)のインタビュー記事
(甲21)にも紹介された。
また,平成20年5月には3日間にわたり,歌舞伎座で,原告Aの「四
世宗家家元花柳壽輔襲名披露公演」が開催され,その旨の新聞報道(同
月17日付け東京新聞夕刊等)がされ,同年6月には,国立文楽劇場(大
阪)でも,同様の襲名披露公演が開催された。
原告Aは,平成19年6月から平成21年5月までの間,約120流
派,約6000名の日本舞踊家が所属する社団法人日本舞踊協会の常任
理事を「花柳流四世家元」花柳壽輔として務め,平成23年4月からは,
「花柳流四代目宗家家元」花柳壽輔として,東京芸術文化評議会評議員
に就任している。
さらに,原告Aは,四世宗家家元として,花柳流舞踊公演の主催,出
演,原告花柳会の支部の講習会での指導等の事業活動を行い,これらの
各種活動は,新聞等(甲20の1ないし17等)で報道されている。
ウ平成23年2月4日,原告Aを代表理事とする一般財団法人花柳流花柳
会が設立された。なお,同財団法人は,原告花柳会の総会決議を経て,花
柳流の伝承品等の財産を永続的に保管・管理し,将来の花柳流へ継承して
いくことを目的として設立されたものである。
被告は,平成23年1月24日に設立した,「花柳流舞踊の保存,伝承,
普及を図り,併せて会員の芸道知識一般の向上,相互の親睦,福利厚生を推
進し,もって,我が国の伝統芸能である日本舞踊の発展に寄与すること,な
らびに花柳流に関わる伝承品の保存,保管,伝承すること」を目的とする一
般社団法人である。
被告の事業内容は,①花柳流創流嘉永2年(1849年)の伝統を重んじ,
日本舞踊に関する調査,研究及び知識の啓発をし,その研究,論評の道を開
くための機関紙の刊行,②会員の技能及び教養向上のための講習会,舞踏会
等の開催,③流儀に残る古典伝承のための研修会の開催,④永年花柳会貢献
者の顕彰,⑤花柳流に関する資料,文献の収集保存,⑥会員の共済,福利厚
生に関する事業,⑦その他上記目的を達成するために必要な事業である。
2原告Aの営業表示及びその著名性又は周知性について(請求原因ア,ア
関係)
原告Aは,四世宗家家元を襲名した後,日本舞踊の流派「花柳流」の宗家家
元として事業活動を行い,「花柳流」及び「花柳」は,遅くとも,被告が設立
された平成23年1月24日までには,四世宗家家元である原告Aの営業表示
として,著名又は周知となっていた旨主張する。
これに対し被告は,原告Aの四世宗家家元の襲名は違法なものであり,法的
に保護すべきものではないから,原告Aが四世宗家家元と称して行っている原
告Aの事業活動は,個人としての営業活動であって,「花柳流」の営業活動と
はいえず,「花柳流」及び「花柳」の表示は,原告Aの著名又は周知の営業表
示ではない旨主張するので,以下において検討する。
ア初代家元花柳壽助が創始した日本舞踊の流派である「花柳流」は,遅く
とも,三世花柳壽輔が宗家家元であった昭和56年3月ころには,日本舞
踊の最大流派となり,「花柳流」及び「花柳」は,花柳流宗家家元の事業
活動に係る表示として,日本舞踊に携わる者及び全国の日本舞踊の愛好者
らの間で広く認識されるに至り,周知となっていたことは,前記1及び
のとおりである。
そして,前記1の認定事実によれば,花柳流宗家家元が行う事業活動は,
日本舞踊の普及という文化芸術活動としての性格を有するものではある
が,他方において,これらの活動から出演料,名取料等の一定の対価を収
受するなど,経済上の収支計算の上に立って経済秩序の一環として行われ
る事業活動としての性格をも有するものといえるから,不正競争防止法2
条1項1号の「営業」に該当するものと認められる。
イまた,原告Aが,三世花柳壽輔が死去した後,平成19年6月28日に
行われた三世花柳壽輔の葬儀の際に,自らが「花柳流宗家家元」四世花柳
壽輔を襲名することを発表し,その襲名の事実が新聞等で報道されたこ
と,原告Aの「四世宗家家元花柳壽輔襲名披露公演」が平成20年5月及
び6月に歌舞伎座及び国立文楽劇場で開催されたこと,原告Aは,上記襲
名発表後,「花柳流四世家元」花柳壽輔として社団法人日本舞踊協会の常
任理事を務めたり,四世宗家家元として,花柳流舞踊公演の主催,出演,
原告花柳会の支部の講習会での指導等の事業活動を行い,これらの各種活
動が新聞等で報道されてきたことは,前記1イのとおりである。
ウ以上のア及びイを総合すれば,「花柳流」及び「花柳」は,四世宗家家
元を襲名した原告Aの営業表示として,遅くとも,平成23年1月24日
までには,日本舞踊に携わる者及び全国の日本舞踊の愛好者らの間で広く
認識されるに至り,周知となっていたものと認められる。
これに対し被告は,①花柳流の宗家は,原則として花柳家の血筋の者が受
け継ぐものであり,家元は,先代の指名に基づいて受け継ぐものであるが,
原告Aは,花柳家の血筋を引いていないので,宗家ではなく,三世宗家家元
の指名を受けていないから,家元でもない,②「四世家元」の確定には,三
世宗家家元の親族との調整が行われ,原告Aに一本化されること,「花柳流
花柳会」の理事会及びその役員が全員一致して原告Aを支持することの二つ
の要件を満たす必要があるところ,原告Aについては,いずれの要件も満た
していない,③「花柳流」の家元である者は,花柳流の伝統の振付けの型を
伝承している者でなければならないが,原告Aは,これを伝承していないな
どとして,原告Aは,花柳流の伝統,慣習に従って宗家家元を引き継いだ者
ではなく,原告Aの四世宗家家元の襲名は違法なものであり,法的に保護す
べきものではないから,「花柳流」及び「花柳」の表示は,原告Aの営業表
示とはいえず,また,原告Aの営業表示として周知であるとはいえない旨主
張する。
しかしながら,本件において,被告は,被告が主張する花柳流宗家家元の
資格及び継承に係る要件を裏付ける証拠を何ら提出しておらず,原告Aによ
る四世宗家家元の襲名が違法であるとの被告の主張は,証拠の裏付けを欠
き,失当であるというほかない。
かえって,前記イの認定事実によれば,原告Aが三世花柳壽輔から花柳
流宗家家元の地位を正当に継承した四世宗家家元であることは,その襲名発
表以来,日本舞踊の業界はもとより,社会的に広く認識されてきたことが認
められる。
したがって,「花柳流」及び「花柳」の表示が原告Aの営業表示とはいえ
ず,また,原告Aの営業表示として周知であるとはいえないとの被告の主張
は,採用することができない。
以上のとおり,「花柳流」及び「花柳」の表示は,遅くとも平成23年1
月24日までには,四世宗家家元である原告Aの営業表示として,「需用者
の間に広く認識され」(不正競争防止法2条1項1号),周知となっていた
ものと認められる。
3原告花柳会の営業表示及びその著名性又は周知性について(請求原因イ,
イ関係)
原告花柳会は,花柳流宗家家元より名取名を認許された花柳流の全名取を構
成員とする権利能力なき社団であるところ,その設立以来,「花柳流花柳会」
の名称を使用してその事業活動を行い,遅くとも,昭和56年3月ころまでに
は,「花柳流花柳会」の表示は,原告花柳会の営業表示として,著名又は周知
となっていた旨主張する。
ア前記1及びの認定事実によれば,①三世花柳壽輔は,昭和43年こ
ろ,花柳流舞踊の保存,普及を図ること等を目的として,花柳流の宗家家
元及び全名取を構成員(会員)とする「花柳流花柳会」と称する団体(原
告花柳会)を組織し,その名誉会長に就任したこと,②原告花柳会は,そ
の会則(花柳流花柳会会則)に従って構成された団体としての組織を備え,
また,総会及び理事会において多数決で決議が行われ,会員の入会,退会
等の構成員の変更によっても原告花柳会そのものは存続し,さらに,代表
の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が上記会則
により規定され,確定していること,③原告花柳会は,昭和43年ころ以
降,「花柳流花柳会」の名称を使用してその事業活動を行い,上記会則に
従った運営がされていることが認められるから,原告花柳会は,権利能力
なき社団に該当することが認められる。
イ前記1のとおり,原告花柳会においては,事業年度ごとに事業計画を
立て,会員の入会金,会費,事業収入等で運営されており,会計年度ごと
に収支決算が行われてきたことからすると,原告花柳会の事業活動は,経
済上の収支計算の上に立って経済秩序の一環として行われる事業活動と
しての性格をも有するものといえるから,不正競争防止法2条1項1号の
「営業」に該当するものと認められる。
加えて,遅くとも昭和56年3月ころには,「花柳流」が日本舞踊の最
大流派となっていたことと相俟って,「花柳流花柳会」は,原告花柳会の
事業活動に係る表示として,日本舞踊に携わる者及び全国の日本舞踊の愛
好者らの間で広く認識されるに至り,周知となっていたことを併せ考慮す
ると,「花柳流花柳会」の表示は,そのころまでに,原告花柳会の営業表
示として,「需用者の間に広く認識され」(不正競争防止法2条1項1号),
周知となっていたものと認められる。
これに対し被告は,原告花柳会は,基本的に会員の親睦,研鑽を目的とし
たもので,営業活動を目的としたものではないから,不正競争防止法の保護
の対象となるものではなく,「花柳流花柳会」の表示は,原告花柳会の営業
表示ではない旨主張する。
しかしながら,不正競争防止法2条1項1号にいう「営業」とは,営利を
直接の目的として行われる事業に限らず,役務又は商品を提供してこれと対
価関係に立つ給付を受け,これらを収入源とする経済収支の計算に基づいて
行われる非営利事業も含むものと解されるところ(最高裁判所平成18年1
月20日第二小法廷判決・民集60巻1号137頁参照),前記イ認定の
とおり,原告花柳会の事業活動は,経済上の収支計算の上に立って経済秩序
の一環として行われる事業活動としての性格をも有するものといえるから,
上記「営業」に該当するというべきである。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
以上のとおり,「花柳流花柳会」の表示は,遅くとも昭和56年3月ころ
までには,原告花柳会の営業表示として,「需用者の間に広く認識され」(不
正競争防止法2条1項1号),周知となっていたものと認められる。
4不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為該当性について(請求原因ア
ないしウ関係)
原告Aとの関係
ア前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成23年1
月24日の設立当初から,「一般社団法人花柳流花柳会」の名称(被告名
称)を用いて,花柳流舞踊に関する事業を行っていること,被告は,その
事業活動の中で,会員を募集し,会員から年会費を徴収していることが認
められる。
そうすると,被告の上記事業活動は,経済上の収支計算の上に立って経
済秩序の一環として行われる事業活動としての性格をも有するものであ
り,不正競争防止法2条1項1号にいう「営業」に該当し,被告名称は,
被告の営業表示に当たるものと認められる。
イ被告名称は,「一般社団法人花柳流花柳会」の漢字12文字から構成
されているところ,「一般社団法人」は,一般社団法人の名称中に用い
ることが義務付けられた文字であることからすると(一般社団法人及び
一般財団法人に関する法律5条1項),被告名称のうち,出所識別標識
としての機能を有する部分は,「花柳流花柳会」の部分である。
そして,「花柳流」及び「花柳」が著名であることは被告も自認する
ところであり,「花柳流花柳会」の部分からは,日本舞踊の流派の「花
柳流」又はその芸姓である「花柳」を連想し,「花柳流」の名取等「花
柳流」に属する者の組織であることを観念するものといえるから,被告
名称は,原告Aの周知の営業表示である「花柳流」及び「花柳」とそれ
ぞれ類似するものといえる。
また,被告が被告名称を花柳流舞踊に関する事業活動に使用した場合
には,日本舞踊の愛好者らが,被告が四世宗家家元である原告Aと緊密
な営業上の関係が存すると誤信するおそれが存するものと認められる
から,被告が被告名称を使用する行為は,原告Aの営業と「混同を生じ
させる行為」(不正競争防止法2条1項1号)に該当するものといえる。
ウ以上によれば,被告が,その事業活動に被告名称を使用する行為は,原
告Aに対する不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当すると
いうべきである。
原告花柳会との関係
ア前記イのとおり,被告名称のうち,出所識別標識としての機能を有
する部分は,「花柳流花柳会」の部分である。
そうすると,被告名称は,原告花柳会の周知の営業表示である「花柳流
花柳会」と実質的に同一であって,類似するものといえる。
また,被告が被告名称を花柳流舞踊に関する事業活動に使用する行為
は,原告花柳会の営業と「混同を生じさせる行為」(不正競争防止法2条
1項1号)に該当するものといえる。
イ以上によれば,被告が,その事業活動に被告名称を使用する行為は,原
告花柳会に対する不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当す
るというべきである。
まとめ
以上のとおり,被告が,その事業活動に被告名称を使用する行為は,原告
らに対する不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当し,これによ
り原告らの「営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれ」(同法3条
1項)があるものと認められる。
そして,本件においては,被告に対して,原告ら主張の被告名称等の差止
め及び「侵害の停止又は予防に必要な行為」(不正競争防止法3条2項)と
して原告ら主張の抹消登記手続を命じる必要性があるものと認められる。
5結論
以上によれば,原告らの請求は,いずれも理由があるから認容することとし,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官髙橋彩
裁判官上田真史
(別紙)登記目録
東京法務局
会社法人等番号0100-05-016250
名称一般社団法人花柳流花柳会
主たる事務所東京都中央区築地二丁目11の5
法人成立の年月日平成23年1月24日

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