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平成一一年(行ウ)第二一六号 実用新案技術評価取消請求事件
口頭弁論終結の日 平成一一年一二月七日
判      決
       原       告A
       被       告 特許庁長官 B
     右指定代理人C
  同D
同 E
同F
主      文
 一 本件訴えを却下する。
  二 訴訟費用は、原告の負担とする。
 事実及び理由
第一 請求
 被告が原告に対し、平成一一年七月六日発送した登録番号第三〇六〇二九八号の
実用新案登録についての実用新案技術評価書において、請求項1を評価1とし、請
求項2を評価2とした実用新案技術評価を取り消す。
第二 事案の概要
一 争いのない事実
1 原告は、次の実用新案権(以下、実用新案登録請求の範囲記載の考案を「本件
考案」という。)を有する。
登録番号 第三〇六〇二九八号
考案の名称 照明装置付歯鏡
出願日 平成一〇年四月三〇日
登録日 平成一一年六月二日
実用新案登録請求の範囲
「請求項1 鏡部と柄部の境界に近接した柄部に、眩しさを防止するために突出さ
せ傾斜させた光源部を持つ照明装置付歯鏡
 請求項2 鏡部と柄部の境界に近接した枠に、眩しさを防止するために突出させ
傾斜させた光源部を持つ照明装置付歯鏡」
2 原告は、被告に対し、平成一〇年四月三〇日、同日実用新案登録出願した本件
考案について、実用新案技術評価を請求した。
3 特許庁審査官は、平成一一年六月一八日、本件考案についての実用新案技術評
価書(以下「本件技術評価書」という。)を作成し、被告は原告に対し、同年七月
六日、本件技術評価書を発送した。
4 本件技術評価書において、本件考案の請求項1は評価1と、請求項2は評価2
とそれぞれ評価された(以下、これらの評価を「本件評価」という。)。
二 本件は、原告が、本件技術評価書において、請求項1を評価1とし、請求項2
を評価2とした本件評価は誤りであると主張して、被告に対し、その取消しを求め
る事案である。
第三 当事者の主張
 本件評価が行政事件訴訟法三条二項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当た
る行為」に当たるかどうかについての当事者の主張は、次のとおりである。
一 被告の主張
1 実用新案法一二条の規定する実用新案技術評価は、先行技術文献及び先行技術
文献からみた考案の有効性に関する評価を含む客観的な評価をするものであって、
実用新案権について、技術的、専門的に公的な一定の見解を表明するものにすぎ
ず、実用新案権の権利の消長に影響を与えるものではない。
2 実用新案法二九条の三第一項は、実用新案登録を無効とする旨の審決が確定し
たときの実用新案権者等の損害賠償責任について規定するとともに、同項ただし書
において、実用新案権者等が実用新案技術評価に基づきその権利を行使する等した
ときは、その賠償責任を免れる旨を規定する。
 しかし、右ただし書は、特許庁による実用新案権に関する技術的、専門的な公的
な一定の見解の表明たる実用新案技術評価書を信頼して、その権利の行使等をした
実用新案権者等について、相当の注意をもって権利の行使等をしたことの一事情と
してこれを考慮することができるという当然のことを規定したものであって、実用
新案技術評価自体により、実用新案権者等が損害賠償責任を免れる等の特別の法的
な効力を与えたものではない。
3 以上によると、実用新案技術評価は、個々の国民の権利義務又は法律上の地位
に具体的な影響を及ぼすものではないから、行政事件訴訟法三条二項の「行政庁の
処分その他公権力の行使に当たる行為」(以下「処分」という。)に当たらない。
4 よって、本件評価の取消しを求める訴えは、不適法である。
二 原告の主張
1 実用新案権は、無効審判で無効と審決されない限り有効であるが、実用新案技
術評価が「1」から「5」のいずれかであれば、実体的要件を充たしていないとし
て、実質的に無効とされるから、実用新案技術評価「1」から「5」は、実質的に
実用新案権を法的に拘束している。
2 実用新案権者等は、権利行使をする場合、警告時に実用新案技術評価書を提示
することを義務付けられているから、実用新案技術評価は、「1」から「6」のい
ずれであっても、法的効力を与えられている。
3 実用新案法二九条の三第一項ただし書は、実用新案登録を無効にすべき旨の審
決が確定した場合、実用新案権者等が、実用新案技術評価「6」に基づき、その権
利を行使し、又はその警告をしたときは、権利者が無効原因となった公知文献をそ
れ以前から知っていた等の特段の事情がない限り、損害賠償の責任はないとしてい
るから、実用新案技術評価「6」は、法的効力を与えられている。
 また、実用新案法二九条の三第一項ただし書は、実用新案権者等が、「1」から
「5」のいずれかの実用新案技術評価に基づき、権利を行使し、又は警告をした場
合において、無効審判で無効と審決されたときは、損害賠償の責任を負うとしてい
るから、実用新案技術評価「1」から「5」は、法的拘束力を有する。
4 したがって、本件評価は、行政事件訴訟法三条二項の「処分」に当たる。
第四当裁判所の判断
一取消訴訟の対象となる行政事件訴訟法三条二項の「処分」とは、公権力の主体
たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を
形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解され
る。
二 実用新案法は、実用新案権の設定登録を、実用新案登録の実体的要件を審査し
ないで行うといういわゆる無審査登録制度を採用していることから、登録された実
用新案権が実体的要件を充たしているか否かという権利の有効性についての判断は
当事者に委ねられることになるが、その判断には、技術性及び専門性が要求され
る。
そこで、実用新案法は、実用新案技術評価に関する規定を置き、「実用新案登録
出願又は実用新案登録については、何人も、特許庁長官に、・・・実用新案技術評
価・・・を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係る実用
新案登録出願又は実用新案登録については、請求項ごとに請求することができ
る。」(一二条一項)、「特許庁長官は、前項の請求があったときは、審査官にそ
の請求に係る実用新案技術評価の報告書(以下「実用新案技術評価書」という。)
を作成させなければならない。」(同二項)と定めて、審査官が実用新案技術評価
書を作成することによって、請求項ごとに、先行技術文献及び先行技術文献から見
た権利の有効性に関する評価を示すこととしている。
 このように、実用新案法一二条の定める実用新案技術評価は、実体的要件を審査
せずに登録された実用新案権の有効性を判断する客観的な判断材料を提供するもの
であって、その評価自体により登録された権利の有効又は無効が確定するなどその
権利の消長に影響を及ぼすものではない。
三 実用新案権者等は、権利行使をする場合、警告時に実用新案技術評価書を提示
することを義務付けられている(実用新案法二九条の二)が、実用新案技術評価が
「1」から「6」のいずれであっても、権利行使自体が妨げられることはないか
ら、実用新案法一二条の定める実用新案技術評価は、権利行使の可否そのものを左
右する法的効力を有するものではない。
四 実用新案法二九条の三第一項は、「実用新案権者又は専用実施権者が侵害者等
に対しその権利を行使し、又はその警告をした場合において、実用新案登録を無効
とすべき旨の審決・・・が確定したときは、その権利の行使又はその警告により相
手方に与えた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、実用新案技術評価書の実用新
案技術評価(・・・実用新案登録をすることができない旨の評価を受けたものを除
く。)に基づきその権利を行使し、又はその警告をしたとき、その他相当の注意を
もってその権利を行使し、又はその警告をしたときは、この限りでない。」と規定
している。
 右規定は、実用新案権が実体的要件の審査をしないで設定登録されることから、
瑕疵ある権利の濫用を防止するため、実用新案権者等は、実用新案登録を無効とす
べき旨の審決が確定したときは、相当の注意をもって権利の行使等をしたことを立
証しない限り、損害賠償責任を負うことを定めたものである。
 同項ただし書は、前記のとおり、実用新案技術評価書が権利の有効性を判断する
ための客観的な判断材料を提供するものであることから、実用新案技術評価書の実
用新案技術評価(実用新案登録をすることができない旨の評価を受けたものを除
く。)を信頼して権利の行使等をしたときは、同項本文の規定を適用しないことを
定めたものと解されるが、右ただし書は、それ以上に積極的に権利者が損害賠償責
任を免除されることまで規定しているわけではなく、瑕疵ある権利の行使等を受け
た相手方が、実用新案権者等の権利の行使等が相当な注意を怠るものであることを
立証すれば、実用新案技術評価(実用新案登録をすることができない旨の評価を受
けたものを除く。)が存したとしても、実用新案権者等は損害賠償責任を負うこと
になるものと解される。
 また、同項ただし書によると、実用新案技術評価(実用新案登録をすることがで
きない旨の評価を受けたものを除く。)に基づく権利の行使等でなくとも、実用新
案権者等が相当の注意をもって権利の行使等をしたことを立証すれば、損害賠償責
任を負うことはない。
 したがって、同項ただし書の規定から、実用新案法一二条の規定する実用新案技
術評価が直接実用新案権者等の損害賠償責任の存否を確定する法的効果を有するも
のということはできない。
五 以上のとおりであるから、実用新案法一二条の規定する実用新案技術評価は、
直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められている
ものとはいえず、したがって、本件評価は、行政事件訴訟法三条二項の「処分」に
は当たらない。
六 よって、本件評価の取消しを求める本件訴えは不適法であるから、却下するこ
ととし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第四七部
 裁判長裁判官森 義之
 裁判官榎戸道也
 裁判官岡口基一

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