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○ 主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
○ 事実
控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五八年三月一一日付けでなした控
訴人の昭和五四年分、昭和五五年分及び昭和五六年分の各所得税額等の更正並びに
各過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控
訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり当審における控訴人の新たな主張及
びそれに対する被控訴人の反論を付加するほかは、原判決の事実の摘示と同じであ
るから、ここに引用する。
「1 控訴人の主張
被控訴人が採用した同業者比率の方式は、以下に述べるとおり推計の合理性を欠
き、違法である。
(一) 建築、賃貸業について
(1) 被控訴人は、同業者を選定するに当たり、
(1) 昭和五四ないし五六年分の対象年分を通じて主に木造建築業を継続して営
んでいた者であること、
(2) 個人事業者については、所得税青色申告決算書を提出していた者であるこ
と、
(3) 法人事業者については、青色申告者で、確定申告書、貸借対照表、損益計
算書及び勘定科目内訳明細書を提出していた者であること、
(4) 災害等により、経営状態が異常であると認められる者以外の者であるこ
と、
(5) 税務署長から更正処分を受け、これに対して不服申立てを行って係争して
いる者でないこと、
(6) 年間の売上金額が三億円以上一〇億円未満の者であることを基準とした
が、そのうち(3)ないし(5)は、いずれも極めて一般的なものに過ぎず、同業
者を合理的に限定する機能を果たしていない。
有意的といえるのは(1)及び(6)の各基準のみであるが、これらの基準の実質
は、実際上木造建築業一般というに等しく、同業者の中から控訴人と事業規模その
他の点において共通の性質を有する同業者を選別する機能を果たしていない。
(2) そして、実際にも、
ア 選定された同業者の所得率を見ると、各年分とも下はマイナス値、上はプラス
で一〇パーセントを超え、しかもその間のばらつきが激しく、所得率の一般的傾向
を見いだすことができない。したがって、それらの所得率の平均を単純に求めて
も、それは単なる数字上のものでしかなく、到底合理的な推計方法とはいえない。
このような結果になったのは、受注先中の公共事業の割合、従業員数等、所得率に
重要な影響を及ぼすべき基準を排除したためである。
イ また、選定された同業者がすべて法人事業者であり、控訴人と同じ個人事業者
に該当者がいないという点も問題である。
ウ 同業者の範囲を新潟税務署管内に事業所を有している業者に限定したこともま
た、理由のあることとは思われない。なぜならば、木造建築業という業種、業態か
らいって、地域毎の特殊性は殊更に見いだし難いからである。
エ さらに、選定された同業者の数自体も少な過ぎる。少なくとも本件におけるよ
うな極めて包括的な選定基準を採用した場合には、本件程度の同業者数でも少なき
に失するというべきである。
(二) 生コン圧送業について
(1) 被控訴人が同業者を選定するに当たって採用した基準は、
(1) 昭和五四ないし五六年分の対象年分を通じて主に生コン圧送業を継続して
営んでいた者であること、のほかば、前記(一)の(1)の建築、賃貸業について
の基準の(2)ないし(5)と同じである。しかし、(3)ないし(5)は、いず
れも前記の建築業の場合と同様に極めて一般的、包括的なものに過ぎず、同業者を
合理的に限定する機能を果たしていない。
結局(1)のみが基準として残るが、この基準では生コン圧送業一般というに等し
く、同業者の中から控訴人と共通の性質を有する者を選別する機能を果たしていな
い。
(2) そして、実際にも、
ア 選定された同業者の所得率を見ると、昭和五四年分は下は六・〇三パーセン
ト、上は二七・一一パーセント、昭和五五、五六年分は下はいずれもマイナス値、
上は二〇パーセントを超えており、その間のばらつきが激しく、所得率の一般的傾
向を見いだすことができない。したがって、それらの数値の平均を単純に求める推
計方法は、到底合理的なものとはいい難い。
このような結果になったのは、前記の建築業の場合と同様に生コン圧送業を営も業
者の中から控訴人と業態その他において共通点を有する者を合理的に選定する基準
を設けなかったためである。
イ 年間売上げ金額を全く限定しなかった点、選定された同業者がすべて法人事業
者であり、個人事業者に該当者がいない点は、不合理である。
ウ 同業者の範囲を新潟税務署ほか六税務署管内に事業所を有している業者に限定
する必要があったかも疑問である。なぜならば、生コン圧送業という業態では地域
の特殊性はそれほど見いだせないからである。
エ さらに、選定された同業者が昭和五四年分が六名、昭和五五年分が七名、昭和
五六年分が八名というのは、数において少な過ぎる。本件におけるような極めて包
括的、一般的な選定基準を採用した場合には、右の程度の同業者数では少なきに失
する。
2 被控訴人の反論
(一) 建築、賃貸業の主張に対して
被控訴人が行った控訴人の建築、賃貸業にかかる同業者の選定は、合理的な方法に
よっているから、控訴人の主張は失当である。
(1) 被控訴人が選定した比準同業者の基準は、業種の同一性、事務所の近接性
あるいは事業規模の近似性等において、同業者の類似性を判別する要件として合理
的なものであって、その選定に当たって被控訴人のし意が介在する余地が認められ
ないこと及び比準同業者はいずれも年間を通じて事業を継続する青色申告者であっ
て、その申告が確定していることから資料の正確性が担保されているというべきで
あり、さらに、選定された同業者の数は、昭和五四年分について一六名、昭和五五
年分について一七名、昭和五六年分について一八名であり、いずれも同業者の個別
特殊性を捨象し平均化するに足りる数である。
(2) 控訴人が主張する実際問題に対して反論するならば、
ア 同業者の所得のばらつきがあっても、これら同業者の所得率の平均値をもって
控訴人の所得金額の算定の基礎としているのであり、個別特殊性は、その平均値の
中に吸収・捨象されるものであるから、同業者の所得率のばらつきのゆえをもって
所得率の平均値に合理性がないとする主張は失当である。
そして、控訴人は、原処分時において調査に非協力的であったので、控訴人の事業
実態を木造建築工事業と把握できたものの、その事業実態の細部まで把握すること
が困難であったことは明らかであるし、また、同業者について見ても、もともと収
入内訳は同じ木造建築業といっても事業者によって収入の内訳や従業員の雇用実態
などは一様でなく、またそれゆえに、これら同業者の所得率の平均値をもって控訴
人の所得金額の算定の基礎としているのであるから、木造建築業を営も事業者の収
入金額の内訳を詳細に検討した上で同業者を選別せよとするかのごとき控訴人の主
張は、本件においては、比準同業者に、類似性を超えた酷似性を求める結果を招来
することにもなりかねず、不当である。
イ その余の控訴人の主張する実際問題に対しては、前記2の(一)の(1)で反
論したとおりである。
(二) 生コン圧送業の主張に対して
被控訴人が行った控訴人の生コン圧送業にかかる同業者の選定は、合理的な方法に
よっているから、控訴人の主張は失当である。
(1) 被控訴人が選定した比準同業者の基準は、業種の同一性あるいは事務所の
近接性等の点において、同業者の類似性を判別する要件として合理的なものであっ
て、その選定に当たって被控訴人のし意が介在する余地が認められないこと及び比
準同業者はいずれも年間を通じて事業を継続する青色申告者であって、その申告が
確定していることから資料の正確性が担保されているというべきであり、さらに、
選定された同業者の数は、昭和五四年分について六名、昭和五五年分について七
名、昭和五六年分について八名であり、いずれも同業者の個別特殊性を捨象し平均
化するに足りる数である。
(2) 控訴人が主張する実際問題に対して反論するならば、
ア 同業者間の所得率のばらつきがあっても、これら同業者の所得率の平均値をも
って控訴人の所得金額の算定の基礎としているのであり、個別特殊性は、その平均
値の中に吸収・捨象されるものであるから、同業者間の所得率のばらつきのゆえを
もって所得率の平均値に合理性がないとする主張は失当である。
イ 年間売上げ金額を全く限定しない同業者の選定基準も、同業者の類似性を判別
する要件として合理的なものである。
ウ その余の控訴人の主張する実際問題に対しては、前記2の(二)の(1)で反
論したとおりである。」
○ 理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないと判断する。その理由
は、次のとおり加除訂正するほかは、原判決の理由の説示と同じであるから、ここ
に引用する。
1 原判決四二枚目裏末行の「主張している。」を「主張し、証拠(甲五八の一な
いし二八、五九ないし六一、乙一〇二、原審における控訴人本人)及び弁論の全趣
旨によれば、右主張事実を認めることができる。」に改める。
2 同四三枚目表四行目から五行目にかけて、同五〇枚目表六行目から七行目にか
けて、同五六枚目表八行目から九行目にかけて及び同六三枚目表五行目から六行目
にかけての各「実額で所得金額を算定する場合に」をそれぞれ次のとおり改める。
「建築業者がいわゆる等価交換等の方式によって建物の建築工事をする代わりにそ
の代価に見合う注文主の所有する土地又は保有する借地権を取得することがあるこ
とは当裁判所に顕著な事実であるところ、そのような場合には、建築業者の所得金
額を算定するに当たっては」
3 同四三枚目裏三行目から四行目にかけての「一〇一六万六二〇〇円」を「一〇
一万六二〇〇円」に改める。
4 同五〇枚目表二行目の「主張している。」を「主張し、証拠(甲三七ないし三
九、五二の一、乙一〇一の九、原審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれ
ば、右主張事実を認めることができる。」に改める。
5 同五六枚目表四行目のの「主張している。」を「主張し、証拠(甲五三、五四
の一ないし八、五五ないし五七、原審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨によ
れば、右主張事実を認めることができる。」に改める。
6 同六三枚目表初行の「主張している。」を「主張し、証拠一甲四〇、四一の一
ないし三、四二、四三の一ないし九、四四、四五の一、二、四六ないし五一、五二
の二、原審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば、右主張事実を認める
ことができる。」に改める。
7 同六五枚目表七行目の次に、改行の上、次のとおり加える。
「税務署長が申告された又は無申告の所得税の課税標準等ないし税額等について更
正又は決定をするに当たっては、所得の実額をもってすべきである(国税通則法二
四条、二五条)が、所待の実額を捕そくすることができない場合においても、租税
負担公平の原則上更正又は決定をすることを回避又は放棄することは許されないか
ら、高度の信頼性を付与されている青色申告にかかる更正の場合を除き、間接的な
資料によって所得を認定して更正又は決定をしなければならない。所得税法一五六
条一なお、法人税法一三一条)は、この趣旨を規走したものである。したがって、
間接的な資料を用いて所得を認定する方式である推計課税は、直接資料を用いて所
得を認定する方式である実額課税に代わるものではあっても、それ自体一つの課税
の方式であって、所得の実額の近似値を求める、いうなれば概算課税の性質を有し
ているというべきである。そうだとすると、推計課税における推計の合理性は、所
得の実額との関係で厳密な整合性を有する必要はなく、実額課税に代わる方式にふ
さわしいといい得る程度の推計の合理性で足りるというべきである。」
8 同八行目の「次に、」を削り、「被告は、」の次に「推計の合理性を基礎付け
るため、既に判示したとおり」を加える。
9 同一〇行目の「算定しているので、」の次に「次に右の観点に立って」を加え
る。
10 同七四枚目裏四行目行頭に、次のとおり加える。
「前記のように推計課税の本質を解するときは、税務署長を被告とする所得税更正
処分取消訴訟において原告が直接資料によって収入及び経費の実額を主張・立証す
ることは、被告の抗弁に対する単なる反証ではなく、自らが主張・証明責任を負う
ところの再抗弁であり、しかも、その再抗弁においては単に収入又は経費の実額の
一部又は全部を主張証明するだけでは足りず、収入及び経費の実額をすべて主張・
証明することを要するというべきであるが、」
11 同五行目の「主張しているので、」の次に「念のため、」を加える。
二 以上のとおりであって、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却
した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がない。よって、行政事件訴訟
法七条、民事訴訟法三八四条によりこれを棄却し、控訴費用の負担について行政事
件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 山下 薫 並木 茂 中村直文)
(原裁判等の表示)
○ 主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者が求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五八年三月一一日付けでなした原告の昭和五四年分、昭和五五年分
及び昭和五六年分の各所得税額等の更正並びに各過少申告加算税賦課決定を、いず
れも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、建築業、飲食業、コンクリートポンブ圧送業及び不動産貸付業を営む
者であり、いわゆる白色申告者である。
2 原告は、次のとおり、昭和五四年分ないし昭和五六年分(以下、「本件各年
分」という。)の所得税の確定申告をした。
昭和五四年分
確定申告日     昭和五五年三月一三日
事業所得金額         八六〇万円
所得税額        七七万二八〇〇円
昭和五五年分
確定申告日     昭和五六年三月一二日
事業所得金額         七七〇万円
所得税額        六七万三四〇〇円
昭和五六年分
確定申告日     昭和五七年三月一二日
事業所得金額         六六〇万円
所得税額        五三万五一〇〇円
3 被告は、原告に対し、昭和五八年三月一一日付けで、次のとおり、それぞれ所
得税額等の更正(以下、「本件各更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定
(以下、「本件各決定」といい、本件各更正と本件各決定をあわせて「本件各処
分」という。)をなした。
昭和五四年分
事業所得金額    二四三七万五八三四円
所得税額       七四六万三五〇〇円
過少申告加算税     三三万四五〇〇円
昭和五五年分
事業所得金額    二四七五万五五五七円
所得税額       七九三万九八〇〇円
過少申告加算税     三六万三三〇〇円
昭和五六年分
事業所得金額    二九三八万五九〇五円
所得税額      一〇七四万七二〇〇円
過少申告加算税     五一万〇六〇〇円
4 原告は本件各処分について、昭和五八年五月四日、被告に対し異議申立てをし
たが、被告は同年八月四日、これを棄却する旨の決定をした。
そこで原告は同月一八日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は昭
和六〇年九月一三日、これを棄却する旨の裁決をした。
5 本件各更正の違法
(一) 被告が原告に対して行った税務調査は、所得税法二三四条一項所定の「調
査について必要があるとき」という要件を充たしておらず、違法である。本件各更
正は、違法な税務調査に基づく、違法なものである。
(二) 本件各更正は、原告の本件各年分の事業所得の金額を、推計の必要性がな
いのに推計の方法によって算定しているので、違法であり、取消しを免れない。
(三) 原告の本件各年分の事業所得の金額は各確定申告書に記載したとおりであ
る。被告が推計の方法によって算定した事業所得の金額は、原告の事業の実情を無
視したものであるから、これを基にした本件各更正は違法であり、取消しを免れな
い。
6 本件各決定は、
右のとおり本件各更正が違法であり取り消されるべきものであって、過少申告加算
税を賦課すべき理由は全くないから、取消しを免れない。
二 請求原因に対する認杏
1 請求原因1ないし4の事実は認める。
2 同5(一)は争う。
3 同5(二)のうち、本件各更正が、推計の方法によって算定した事業所得金額
に基づいてなされたものであることを認め、その余は争う。
4 同5(三)は争う。
5 同6は争う。
三 被告の主張
1 本件各更正の経緯
(一) 被告は、原告が本件各年分の所得税について提出した確定申告書の内容を
検討したところ、いずれの確定申告書にも、所得金額及び専従者控除額の記載があ
るだけで、収入金額及び必要経費の記載がなく、所得金額の算出経緯が不明であ
り、さらに、一般の業況等に照らすと原告の申告所得金額が低額であると推定され
たこと、及び、原告に対しては過去数年調査を行っていないこと等から、所得税に
関する調査の必要があると認め、昭和五七年四月中旬ころ、被告所属のA調査官に
調査を命じた。
(二) A調査官は、昭和五七年五月一九日午前一〇時四五分ころ原告の事務所に
赴き、原告に面会を求めたが、原告は不在であった。
(三) A調査官は、同日午後一時五分ころ原告に電話で所得税に関する調査のた
め伺いたい旨伝えたところ、原告から折り返し電話があり、同年六月三日か四日に
来てほしい旨の連絡があったので、六月三日に原告の事務所へ赴くことを約束し
た。
(四) 同年六月三日午後一時ころA調査官が原告の事務所に赴いたところ、原告
のほか、新潟民主商工会8以下、「民商」という。)の事務局員二名が待機してい
た。
A調査官は、身分証明書及び質問検査章を示したうえ、原告の事業概況、原告宅の
自宅工事及び取引銀行等について聴取するとともに、帳簿書類の呈示を求めた。
しかし、原告らは、「帳簿書類は何もない。」、「内容は全部頭の中に入ってい
る。」、「見積書、契約書は一切作成せず、口頭契約である。」、「調べてもらえ
ばわかる。」などと答えるばかりで、原告において帳簿書類等を呈示し調査に協力
しようとする姿勢は全く示さなかった。
そこで、A調査官は、右のような状態では調査に対する協力はとうてい得られない
と判断し、「ある程度調べたらまた伺います。」と言って辞去した。
(五) A調査官は、原告の取引銀行及び取引先の反面調査を実施した後、同年一
二月三日午後一時ころ、直属の上司であるB統括官と共に原告の事務所に赴いたと
ころ、原告の事務所には、原告のほか民商の事務局員二名が前回と同様に待機して
いた。
A調査官及びB統括實は、再三にわたり、帳簿書類を呈示し調査に協力するよう要
請したが、原告らは、「帳面はあるがあなた方に見せるものはない。」、「昭和五
六年分と現在のものはあるが古いものは焼却した。」、「そつちが勝手に調べたの
だからその結果を言え。」、「わからない点があったら調べてやる。」、「裁判で
争ってもいいんだ。こちらには帳面もあるんだから。」などと言うばかりで、帳簿
書類を呈示し調査に協力しようとする姿勢は全く見せなかった。
(六) 以上から明らかなように、A調査官は、原告に対し、帳簿書類を呈示し調
査に協力するよう要請し、かつ説得したにもかかわらず、原告がこれに全く応じな
かったため、原告の売上げ、仕入れあるいは経費等の具体的な数額を把握すること
ができず、所得金額を実額によって把握することができなかった。
そこで、被告は、やむなく、原告の取引銀行及び取引先の反面調査によって把握し
た収入金額を基礎として本件各年分の事業所得金額を推計したところ、原告の申告
所得金額はいずれも過少と認められたので、本件各更正を行ったものである。
2 原告の事業所得金額及びその算定根拠
被告が本件訴訟において主張する原告の本件各年分の事業所得金額及びその算定根
拠は、次のとおりである。
(一) 昭和五四年分
(1) 収入金額             七億〇七四五万五三九九円
収入金額は、次の(1)及び(2)の合計額である。
(1) 建築、賃貸業分         六億三〇二六万〇五二七円
木造建築及び不動産賃貸業に係る収入金額は、原告が審査請求時に国税不服審判所
に提出した会計帳簿(乙一の三ないし五。以下、「本件帳簿」という。)に記載さ
れている収入金額四億九七〇四万六一九九円(乙一の二の二頁)に、本件帳簿に記
載のない一億三三二一万四三二八円(内釈は別表1の1ないし1の3のとおり)を
加算した金額である。
なお、不動産賃貸業に係る収入金額は、その所得率が木造建築業の所得率を上回る
が、原告が有利となるように、木造建築業の収入金額に含めて算定した。
(2) 生コン圧送業分           七七一九万四八七二円
コンクリートボンプ圧送業(以下、「生コン圧送業」という。)に係る収入金額
は、別表2の1のとおりである。
(2) 所得金額(事業専従者控除前)     三二一七万二〇四〇円
事業専従者控除額の控除前の所得金額は、次の(1)及び(2)の合計額である
(同業者の平均所得率は、いずれも後記(5)及び3のとおりであり、(2)につ
いては主位的主張によった。)。
(1) 建築、賃貸業分           二〇五四万六四九三円
木造建築及び不動産賃貸業に係る所得金額は、(1)(1)の収入金額に、同業者
の平均所得率三・二六パーセント(別表4の昭和五四年分)を乗じたものである。
(2) 生コン圧送業分
ア 主位的主張            一一六二万五五四七円
生コン圧送業に係る所得金額は、(1)(2)の収入金額に、同業者の平均所得率
一五・〇六パーセント(別表5の昭和五四年分)を乗じたものである。
イ 予備的主張
i 新潟税務署管内から同業者を抽出した場合
同業者の平均所得率は一一・五三バーセントとなり、(1)(2)の収入金額にこ
れを乗ずると八九〇万〇五六八円となる。
ii 下越地区(新潟及び新発田税務署管内)から同業者を抽出した場合
新発田税務署管内には同業者が存在しないため、右iと同様となる。
(3) 事業専従者控除額                 四〇万円
事業専従者控除額(所得税法五七条三項-昭和五九年法律第五号による改正前のも
の)は、原告の妻Cに係るものであり、原告の確定申告額である。
(4) 事業所得金額             三一七七万二〇四〇円
事業所得金額は、(2)の所得金額から、(3)の事業専従者控除額を控除したも
のである(なお、(2)(2)について予備的主張によった場合は、事業所得金額
は二九〇四万七〇六一円となる。)。
(5) 同業者の平均所得率
事業所得金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金
額であるが(所得税法二七条二項一、原告の場合、いずれの事業の必要経費も不明
である。そこで、被告は、原告の事業所得の金額を算定するにあたり、各事業の同
業者及び同業者の平均所得率を次のとおり求めた。
(1) 建築、
賃貸業分
原告の住所地を所轄する新潟税務署管内に事業所を有する青色申告者で、原告と同
様に木造建築業を主に営み、原告の事業規模と類似する同業者(収入金額が三億円
以上一〇億円未満の者。個人事業者には該当者がなく、すべて法人事業者であ
る。)について、収入金額(売上金額又は売上高)に対する所得金額の割合の平均
値(以下、「平均所得率」という。)を求めると、三・二六パーセント(別表4の
昭和五四年分)となる。
なお、右同業者の所得金額は、原告がいわゆる個人の白色申告者であるため、法人
同業者の所得金額から、次の損金及び益金(略して「損益」といい、個人の収入金
額及び必要経費にあたる。)を除いて算出した。
ア 法人の青色申告者の損益となるが、個人の白色申告者の収入金額及び必要経費
とならないもの
例えば、各種準備金に係る損益、特別償却及び割増償却に係る損益、繰越欠損金の
控除等
イ 個人の青色申告者に限り必要経費とされるもの
例えば、耐用年数の短縮により通常の減価償却費を超えた償却費等
ウ 法人の損益とされるが、個人又は個人の白色申告者の収入金額又は必要経費と
ならないもの
例えば、代表者及び代表者と生計を一にする者からの受取利息及び賃貸料、代表者
及び代表者と生計を一にする者に対する報酬、給料、支払利息及び賃借料、寄付金
(損金不算入とされるものを含む。)に係る損益、各種引当金に係る損益等
エ 法人の益金とされるが、個人の事業所得の収入金額とならないもの
例えば、配当収入、預貯金の利息収入、固定資産の譲渡に係る損益、有価証券売却
損益、交際費等の損金不算入額等
(2) 生コン圧送業分
原告の住所地を管轄する新潟税務署及び近隣の村上、新発田、新津、巻、三条、長
岡の各税務署管内に事業所を有する青色申告者で、原告と同様の生コン圧送業(又
はコンクリートポンプ業)を主に営む同業者(個人事業者には該当がなく、すべて
法人事業者である。)について、収入金額に対する所得金額(前記(1)のなお書
は同様である。)の割合の平均所得率を求めると、一五・〇六パーセント(別表5
の昭和五四年分)となる。
(二) 昭和五五年分
(1) 収入金額             八億七七八七万二七九七円
収入金額は、次の(1)ないし(3)の合計額である。
(1) 建築、
賃貸業分         七億九五八九万一七八三円
木造建築及び不動産賃貸業に係る収入金額は、原告の本件帳簿に記載されている収
入金額五億八八〇九万六四五九円(乙一の二の三頁)に、本件帳簿に記載のない二
億〇七七九万五三二四円(内訳は別表1の4ないし1の6のとおり一を加算した金
額である。
(2) 生コン圧送業分           七九四七万六三四〇円
生コン圧送業に係る収入金額は、別表2の2のとおりである。
(3) 飲食業分               二五〇万四六七四円
飲食業に係る収入金額は、原告の預金口座(殖産相互銀行新潟支店の原告名義の普
通預金)に入金された収入金額の合計額(別表3の昭和五五年分)である。
(2) 所得金額(事業専従者控除前)     四〇三〇万二四〇八円
事業専従者控除額の控除前の所得金額は、次の(1)ないし(3)の合計額である
(同業者の平均所得率は、いずれも後記(5)及び3のとおりであり、右の額は
(2)については主位的主張によった。)。
(1) 建築、賃貸業分           三二四七万二三八四円
木造建築及び不動産賃貸業に係る所得金額は、(1)(1)の収入金額に、同業者
の平均所得率四・〇八パーセント(別表4の昭和五五年分)を乗じたものである。
(2) 生コン圧送業分
ア 主位的主張             七五五万〇二五二円
生コン圧送業に係る所得金額は、(1)(2)の収入金額に、同業者の平均所得率
九・五〇パーセント(別表5の昭和五五年分)を乗じたものである。
イ 予備的主張
i 新潟税務署管内から同業者を抽出した場合
同業者の平均所得率は三・六三パーセントとなり、(1)(2)の収入金額にこれ
を乗ずると二八八万四九九一円となる。
ii 下越地区(新潟及び新発田税務署管内)から同業者を抽出した場合
同業者の平均所得率は二・五一パーセントとなり、中(2)の収入金額にこれを乗
ずると一九九万四八五六円となる。
(3) 飲食業分                二七万九七七二円
飲食業に係る所得金額は、(1)(3)の収入金額に昭和五六年分の同業者の平均
所得率一一・一七パーセント(別表6)を乗じたものである。ただし、原告の飲食
業店舗(新潟市<地名略>東商ビル五階、名称「<略>」)は、昭和五五年一二月
五日に開店したものであって、昭和五五年中の営業期間が一か月に満たないため、
昭和五六年分の同業者の平均所得率によった。
(3) 事業専従者控除額                 四〇万円
事業専従者控除額は、原告の妻Cに係るものであり、原告の確定申告額である。
(4) 事業所得金額             三九九〇万二四〇八円
事業所得金額は、(2)の所得金額から、(3)の事業専従者控除額を控除したも
のである(なお、(2)(2)について予備的主張によった場合、新潟税務署管内
から同業者を抽出したときは三五二三万七一四七円となり、下越地区から同業者を
抽出したときは三四三四万七〇一二円となる。)。
(5) 同業者の平均所得率
(1) 建築、賃貸業分及び生コン圧送業分
昭和五五年分の建築、賃貸業分及び生コン圧送業分の同業者及び同業者の平均所得
率は、昭和五四年分と同様の方法により求めたものである(別表4及び5の昭和五
五年分の各欄記載のとおり)。
(2) 飲食業分
飲食業の同業者及び同業者の平均所得率は、次のとおり求めた。
原告の飲食業店舗と同一需給圏内に属する、通称征谷小路から広小路までの間の、
<地名略>ないし<地名略>、<地名略>、<地名略>及び<地名略>の各七番町
ないし九番町に事業所を有する個人の青色申告者で、原告と同様に酒場、スナック
業を営み、原告の事業規模と類似する同業者(収入金額が一三〇〇万円以上五二〇
〇万円未満の者)について、収入金額に対する所得金額(いわゆる青色申告の特典
控除前の金額)の割合の平均所得率を求めると、一一・一七バーセント(別表6)
となる。
(三) 昭和五六年分
(1) 収入金額             八億五二〇五万四四〇六円
収入金額は、次の(1)ないし(3)の合計である。
(1) 建築、賃貸業分         七億六四三二万八三五一円
木造建築及び不動産賃貸業に係る収入金額は、原告の本件帳簿に記載されている収
入金額五億一九四五万〇七三六円(乙一の二の四頁)に、本件帳簿に記載のない二
億四四八七万七六一五円(内調は別表1の7ないし1の10のとおり)を加算した
金額である。
(2) 生コン圧送業分           六一八七万六〇七〇円
生コン圧送業に係る収入金額は、別表2の3のとおりである。
(3) 飲食業分              二五八四万九九八五円
飲食業に係る収入金額は、原告の預金口座(殖産相互銀行新潟支店の原告名義の普
通預金)に入金された収入金額の合計額(別表3の昭和五六年分)である。
(2) 所得金額(事業専従者控除前)     三七二二万四一〇八円
事業専従者控除額の控除前の所得金額は、次の(1)ないし(3)の合計額である
(同業者の平均所得率は、いずれも前記(2(一)(5)、2(二)(5))と同
様の方法により求めたものであり、(2)については主位的主張によった。)。
(1) 建築、賃貸業分           三〇一九万〇九六九円
木造建築及び不動産賃貸業に係る所得金額は、(1)(1)の収人金額に、同業者
の平均所得率三・九五バーセント(別表4の昭和五六年分)を乗じたものである。
(2) 生コン圧送業分
ア 主位的主張            四一四万五六九六円
生コン圧送業に係る所得金額は、(1)(2)の収入金額に、同業者の平均所得率
六・七〇パーセント(別表5の昭和五六年分)を乗じたものである。
イ 予備的主張
i 新潟税務署管内から同業者を抽出した場合
同業者の平均所得率は三・〇六パーセントとなり、(1)(2)の収入金額にこれ
を乗ずると一八九万三四〇七円となる。
ii 下越地区(新潟及び新発田税務署管内)から同業者を抽出した場合
同業者の平均所得率は三・〇二パーセントとなり、(1)(2)の収入金額にこれ
を乗ずると一八六万八六五七円となる。
(3) 飲食業分               二八八万七四四三円
飲食業に係る所得金額は、(1)(3)の収入金額に、同業者の平均所得率一一・
一七パーセント(別表6)を乗じたものである。
(3) 事業専従者控除額                 四〇万円
事業専従者控除額は、原告の妻Cに係るものであり、原告の確定申告額である。
(4) 事業所得金額             三六八二万四一〇八円
事業所得金額は、(2)の所得金額から(3)の事業専従者控除額を控除したもの
である(なお、(2)(2)について予備的主張によった場合、新潟税務署管内か
ら同業者を抽出したときは三四五七万一八一九円となり、下越地区から同業者を抽
出したときは三四五四万七〇六九円となる。)。
3 推計の必要性及び合理性
(一) 推計の必要性
前記1のとおり、原告は、本件各更正に係る被告の調査に全く応ぜず、本件各年分
の所得金額を算定するに足りる帳簿書類等の資料を提出しなかった。
被告は、実額による本件各年分の所得金額を算定することができないため、やむな
く被告の調査によって把握した収入金額を基礎として原告の事業所得金額を推計し
たところ、原告の申告所得金額が過少と認められたため、所得税法一五六条の規定
により本件各年分の所得税額等の更正を行ったものである。
したがって、本件において推計の必要性が充足されていることは明白である。
(二) 推計の合理性
(1) 同業者の抽出及び平均所得率
被告が原告の事業所得金額を算定するために採用した推計方法は、原告の各事業の
収入金額に、各事業の同業者の平均所得率を乗じたものであり、右同業者は、前述
した同業者(2(一)(5)、2(二)(5)、2(三)(2))から、次の
(1)及び(2)の条件のいずれをも充たす者全部を抽出し、これら同業者につい
て、それぞれ収入金額に対する所得金額の割合を算定し平均したものであり、その
具体的内容は別表4ないし6のとおりである。
(1) 対象年分
ア 木造建築業及び生コン圧送業
昭和五四年分(法人については、昭和五四年七月から昭和五五年五月の間に終了す
る事業年度分)
昭和五五年分(法人については、昭和五五年七月から昭和五六年五月の間に終了す
る事業年度分)
昭和五六年分(法人については、昭和五六年七月から昭和五七年五月の間に終了す
る事業年度分)
イ 酒場、スナック業
昭和五六年分(法人事業者は除く。)
(2) 対象者(同業者)
ア 共通事項
i 前記(1)の対象年分を通じて主に木造建築業、生コン圧送業又は酒場、スナ
ック業を継続して営んでいた者であること
ii 個人事業者については、所得税青色申告決算書を提出していた者であること
法人事業者については、青色申告者で、確定申告書、貸借対照表、損益計算書及び
勘定科目内訳明細書を提出していた者であること
iii 災害時により、経営状態が異常であると認められる者以外の者であること
iv 税務署長から更正処分を受け、これに対して不服申立てを行って係争してい
る者でないこと
イ 木造建築業のみの事項
年間の売上金額が三億円以上一〇億円未満の者であること
ウ 酒場、
スナック業のみの事項
i 個人事業者で、新潟市<地名略>ないし<地名略>、<地名略>、<地名略>
及び<地名略>の各七番町ないし九番町にのみ営業店舗がある者であること
ii 年間収入金額が一三〇〇万円以上五二〇〇万円未満の者であること
(2) 推計の合理性
右各同業者は、前記(1)の条件を充たす者の全部を抽出したものであって、そこ
に恣意が介在する余地はなく、また原告と業種等が同一か類似しているものである
から、同業者の平均所得率を適用して原告の所得金額を算定する方法には合理性が
あるといえる。
4 本件各更正の適法性について
被告が本件訴訟において主張する本件各年分の原告の事業所得の金額は、前記2の
とおり、
昭和五四年分    三一七七万二〇四〇円
(予備的主張    二九〇四万七〇六一円)
昭和五五年分    三九九〇万二四〇八円
(予備的主張    三五二三万七一四七円
又は       三四三四万七〇一二円)
昭和五六年分    三六八二万四一〇八円
(予備的主張    三四五七万一八一九円
又は       三四五四万七〇六九円)
であり、被告が本件各更正において認定した原告の事業所得の金額をいずれの年分
も上回るから、本件各更正はいずれも適法である。
5 本件各決定の適法性について
本件各更正により納付すべき所得税額の計算の基礎となった事実のうち、いずれの
年分についても、国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)六五条
二項に規定する「正当な理由」が認められなかったので、被告は、同条一項の規定
に基づき本件各更正により納付すべき本件各年分の所得税にそれぞれ一〇〇分の五
の割合を乗じて計算した金額を、過少申告加算税として賦課決定したものであり、
これも適法なものである。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1(本件各更正の経緯)について
(一) 被告の主張1(一)について
被告の主張1(一)のうち、原告が本件各年分の所得税について提出した各確定申
告書に収入金額及び必要経費の記載がないことは認めるが、被告が原告に対して過
去数年調査を行っていないとの事実は否認する。
(二) 同1(二)のうち、A調査官が、昭和五七年五月一九日午前一〇時四五分
ころ原告の事務所に赴き、原告に面会を求めたことは認める。
(三) 同1(三)のうち、A調査官が、同日、原告に電話で所得税の調査のため
伺いたい旨伝え、原告が、折り返し電話をしたことは認める。
(四) 同1(四)のうち、同年六月三日、A調査官が原告の事務所を訪ね、原告
の事業概況について聴取し、帳簿書類の呈示を求めたことは認める。しかし、原告
らが調査に協力しようとする姿勢は全く示さなかったとの事実は否認する。A調査
官が、「ある程度調べたらまた伺います。」と言って辞去したことは認める。
(五) 同1(五)のうち、A調査官が、昭和五七年一二月三日、B統括官と共に
原告の事務所に赴いたことは認める。しかし、両調査官が原告に対し再三にわたり
帳簿書類を呈示し調査に協力するよう要請したが、原告は帳簿書類を呈示し調査に
協力しようとする姿勢は全く見せなかったとの事実は否認する。
2 被告の主張2(原告の事業所得金額及びその算定根拠)について
(一) 被告の主張2(一)(昭和五四年分)について
(1) 同2(一)(1)(収入金額)について
(1) 同2(一)(1)(1)(建築、賃貸業分)について
ア 認否
本件帳簿に記載されている収入金額のうち、九九〇万円を差し引いた四億八七一四
万六一九九円は認める。本件帳簿に記載のない収入金額(別表1の1ないし1の3
記載)のうち、別表1の11ないし1の13の「原告の認否」欄が「○」のものの
合計三六九五万七四二一円は認め、その余は否認する。
したがって、建築、賃貸業分の収入金額は五億二四一〇万三六二〇円である。
イ 否認の理由
i 右の九九〇万円は、「もぐらの家」のために預かった土地代金であって、原告
の収入ではない。
ii 別表1の2及び1の3の順号32、39、40、59、68、70記載の各
収入先に係る収入金額を否認する理由は、別表7の1記載のとおりである。
iii 別表1の3の順号74記載の収入先Dに係る収入金額四〇〇〇万円につい
て原告は、昭和五四年ころ、Dから建築請負を依頼され、その際、工事代金の対価
として土地を代物弁済として取得したが、同年分の収入として本件帳簿に記載して
いない。他方、原告は、右の土地を昭和五四年から昭和五六年の間にEほか六名に
売却し、あわせて同人らの依頼により右土地の上に建物建築を行い、同人らから昭
和五四年から昭和五六年の間に土地の売却代金と建築工事代金を領収し、これを各
年分の売上として本件帳簿に記帳している。
したがって、Dからの収入金額とEほか六名からの収入金額の両方を計上すること
は、一つの収入を重複して計上することになるから、昭和五四年分の収入金額に四
〇〇〇万円を加えるべきではない。
(2) 同2(一)(1)(2)(生コン圧送業分)について
別表2の1のうち、入金先解明分の六九二八万〇四四一円は認める。入金先未解明
分のうち、別表2の4の「原告の認否」欄が「認」のものの合計一〇一万六二〇〇
円は認め、その余は否認する。
したがって、生コン圧送業分の収入金額は、七〇二九万六六四一円である。
(2) 同2(一)(2)(所得金額)について
事業専従者控除額の控除前の所得金額及び同業者の平均所得率はいずれも否認す
る。
(3) 同2(一)(3)(事業専従者控除額)は認める。
(4) 同2(一)(4)(事業所得金額)は否認する。
(二) 被告の主張2(二)(昭和五五年分)について
(1) 同2(二)(1)(収入金額)について
(1) 同2(二)(1)(1)(建築、賃貸業分)について
ア 認否
本件帳簿に記載されている収入金額五億八八〇九万六四五九円は認める。本件帳簿
に記載のない収入金額(別表1の4ないし1の6記載)のうち、別表1の14ない
し1の16の「原告の認否」欄が「○」のものの合計二五八七万七三二四円は認
め、その余は否認する。
したがって、建築、賃貸業分の収入金額は、六億一三九七万三七八三円である。
イ 否認の理由
i 別表1の5及び1の6の順号50及び56記載の各収入先に係る収入金額を否
認する理由は、別表7の2記載のとおりである。
ii 別表1の6の順号55番記載の収入先Fに係る収入金額五六〇〇万円につい

原告は、昭和五五年にFに対して五六〇〇万円相当の貸家の建築工事をなし、同年
九月八日、右工事代金にかえて土地を代物弁済として取得したが、同年分の収入と
して本件帳簿に記帳していない。他方、原告は、右の土地をG及び株式会社オリジ
ナル・サーベに右同額で売却し、右売却代金を、右上地上に建築した建物工事代金
とともに昭和五六年分の売上として本件帳簿に記帳している。したがって、被告が
主張するように右のFからの五六〇〇万円を昭和五五年分の収入金額として計上す
るとすれば、昭和五六年の売上分は、昭和五五年に取得した土地を購入価格と同額
で処分した売却代金にすぎないから収入金額とはならず、昭和五六年分の収入金額
から五六〇〇万円を減額すべきである(あるいは、昭和五五年分の収入金額に五六
〇〇万円を加えるべきではない。)。
(2) 同2(二)(1)(2)(生コン圧送業分)について
別表2の2のうち、入金先解明分の六七七七万七五九〇円は認める。入金先未解明
分のうち、別表2の5の「原告の認否」欄が「認」のものの合計一九一万一七五〇
円は認め、その余は否認する。
したがって、生コン圧送業分の収入金額は、六九六八万九三四〇円である。
(3) 同2(二)(1)(3)(飲食業分)については、二五〇万四〇〇〇円は
認める。
(2) 同2(二)(2)(所得金額)について
事業専従者控除額の控除前の所得金額及び同業者の平均所得率は、いずれも再詔す
る。
(3) 同2(二)(3)(事業専従者控除額)は認める。
(4) 同2(二)(4)(事業所得金額)は否認する。
(三) 被告の主張2(三)(昭和五六年分)について
(1) 同20(1)(収入金額)について
(1) 同2(三)(1)(1)(建築、賃貸業分)について
ア 認否
本件帳簿に記載されている収入金額五億一九四五万〇七三六円は認める。本件帳簿
に記載のない収入金額(別表1の7ないし1の10記載)のうち、別表1の17な
いし1の20の「原告の認否」欄が「○」のものの合計三六四〇万八一〇〇円は認
め、その余は否認する。
したがって、建築、賃貸業分の収入金額は、五億五五八五万八八三六円である。
イ 否認の理由
i 別表1の8ないし1の10の順号35、71、74、76記載の各収入先から
の収入金額を否認する理由は、別表7の2記載のとおりである。
ii 別表1の8の順号27番記載の収入先Hに係る収入金額三二〇七万円につい

原告は、昭和五四年三月二九日、Hに対して五四〇七万二一九二円相当の貸家の建
築工事をすることを約し、右工事代金にかえてHから土地を代物弁済として取得し
たが、同年分の収入として本件帳簿に記帳していない。原告はHに対し、三二〇七
万円の領収証を作成しているが、これは後日、Hから税務申告のために求められて
作成したものである。他方、原告は、魚進ことIの依頼で右の土地の上に建物を建
築し、Iに右の土地を売却した。原告は、Iから支払われた右売却代金五〇〇八万
五二八三円及び建物工事代金七四〇〇万円を、昭和五四年から昭和五五年の二年間
にわたって本件帳簿に記帳している。したがって、Hからの収入金額とIからの収
入金額の両方を計上することは、一つの収入を重複して計上することになるから、
昭和五四年分の収入金額から三二〇七万円を減額すべきである(あるいは、昭和五
六年分の収入金額に三二〇七万円を加えるべきではない。)。
iii 別表1の10の順号77番記載の収入先Jに係る収入金額六一一三万四四
三八円について
原告は、Jから貸家の工事代金の対価として、昭和五五年と昭和五六年の二回にわ
たって、右工事代金に見合う土地を代物弁済として取得したが、右各年分の収入と
して本件帳簿に記帳していない。他方、原告は、右の土地を九三土地株式会社ほか
四名に同額で売却し、右売却代金を、右土地上に建築した建物工事代金とともに、
昭和五六年分の売上として本件帳簿に記帳している。したがって、被告が主張する
ように右の六一一三万四四三八円を昭和五六年分の収入金額として計上するとすれ
ば、昭和五六年の売上分は、昭和五五年と昭和五六年に取得した土地を購入価格と
同額で処分した売却代金にすぎないから収入金額とはならず、昭和五五年分の収入
金額から九三土地株式会社からの収入金額二二七四万二〇〇〇円を減額すべきであ
り、昭和五六年分の収入金額からその余の一二〇五万四〇八〇円を減額すべきであ
る(あるいは、昭和五六年分の収入金額に六一一三万四四三八円を加えるべきでは
ない。)。
(2) 同2(三)(1)(2)(生コン圧送業分)について
別表2の3のうち、入金先解明分の五〇五八万六二七〇円は認める。入金先未解明
分のうち、別表2の6の「原告の認否」欄が「認」のものの合計二三三方四〇〇〇
円は認め、その余は否認する。
したがって、生コン圧送業分の収入金額は、五二九二万〇二七〇円である。
(3) 同2(三)(1)(3)(飲食業分)については、二五八四万九〇〇〇円
は認める。
(2) 同2(三)(2)(所得金額)について
事業専従者控除額の控除前の所得金額及び同業者の平均所得率は、いずれも否認す
る。
(3) 同2(三)(3)(事業専従者控除額)は認める。
(4) 同2(三)(4)(事業所得金額)は否認する。
3 被告の主張3(推計の必要性及び合理性について)について
(一) 被告の主張3(一)(推計の必要性について)は争う。
昭和五七年六月三日の被告の調査において原告が帳簿書類を呈示しなかったのは、
被告所属の係官が調査の具体的理由を明示しなかったため、「どこを見せてよいか
分からない」と判断したことによるものであり、これは「合理的理由のある資料提
供の拒否」というべきである。
そして、原告は、同年一二月三日以降も被告所属の係官の調査には協力する意向で
あり、被告所属の係官において銀行調査や取引先の反面調査等を行ったうえ不明な
部分を具体的に調査するのであれば、原告としても帳簿書類等を呈示して積極的に
調査に応ずる意向であった。
しかしながら、被告所属の係官はこのような対応をせず、一方的に調査を打ち切っ
たものであるから、推計の必要性は存在しない。
(二) 被告の主張3(二)(推計の合理性について)は争う。
(1) 同業者の所得率についての被告の主張は、次のように、原処分時と全く矛
盾するものであって、被告は自らに有利な主張を展開するため恣意的に「同業者」
を選定しているとしか解されない。
(1) 建築業に係る所得率
被告は、更生処分の段階では、建築業に係る本件各年分の同業者の平均的な所得率
を、昭和五四年分三・七一パーセント、昭和五五年分三・〇四パーセント、昭和五
六年分三・〇四パーセントと主張していたにもかからわず、本件訴訟においては、
昭和五四年分三・二六パーセント、昭和五五年分四・〇八バーセント、昭和五六年
分三・九五パーセントと、昭和五四年分を除いて、高い所得率を主張している。
(2) 飲食業に係る所得率
被告は、更正処分の段階では、飲食業に係る本件各年分の同業者の平均的な所得率
を、昭和五五年分一七・三一パーセント、昭和五六年分一四・八五パーセントと主
張していたにもかかわらず、本件訴訟においては、昭和五五年分と昭和五六年分を
いずれも一一・一七パーセントと主張している。
(3) 生コン圧送業に係る所得率
被告は、更正処分の段階では、生コン圧送業に係る本件各年分の同業者の平均的な
所得率の主張をしていないが、国税不服審判所長の裁決書においては、昭和五四年
分八・六一パーセント、昭和五五年分一・四三パーセント、昭和五六年分四・〇〇
パーセントと認定している。これに対し、本件訴訟においては、昭和五四年分一
五・〇六パーセント、昭和五五年分九・〇五パーセント、昭和五六年分六・七〇パ
ーセントと、大幅に高い所得率を主張している。
(2) 下越地区の生コン圧送業の平均所得率について
被告が主張する同業者率の根拠となった八業者、長岡地区、三条地区及び下越地区
(新潟市及び新発田市)に分けて地区別の平均所得率を計算すると、次のとおりで
ある。
昭和五四年分  昭和五五年分  昭和五六年分
長岡地区  一六・〇六%  一六・六五%  一〇・六六%
三条地区  一七・〇八%  一二・九四%  一〇・一〇%
下越地区  一一・五三%   二・五一%   三・〇二%
右から、長岡地区や三条地区と比較して下越地区(新潟市及び新発田市)の平均所
得率は極めて低く、特に、昭和五五年分の場合は一〇パーセント以上の格差がある
ことが分かる。
右のような格差が生じた理由は、下越地区の生コン圧送業者九者が、昭和五三年か
ら昭和五七年当時、新幹線や関越自動車道の事業が一段落したこともあって、生コ
ン出荷数量が年々減少傾向となり、ポンプ車数が過剰状態にあったことにある。そ
の後、昭和五八年九月に下越地区の生コン圧送業者九者が下越生コン圧送協同組合
を設立して経営の合理化と安定を図るようになるまでの間、下越地区の生コン圧送
業者は全般的に非常に苦しい経営状態であった。
右のような下越地区の生コン圧送業者の特殊事情を無視して、長岡及び三条地区の
所得率の高い業者とひとまとめにして所得率を計算することは、不合理である。
4 被告の主張4(本件各更正の適法性について)は争う。
五 原告の実額の主張
原告の本件各年分の事業所得金額は、いずれも、実額によって算定すべきである。
1 昭和五四年分の事業所得金額
(一) 建築、賃貸業分
前記四2(一)(1)(1)アのとおり、収入金額は五億二四一〇万三六二〇円で
ある。原告の昭和五四年の建築、不動産賃貸業分の必要経費は、別表8の同年分の
欄記載のとおりである。したがって、収入金額から必要経費を差し引くとマイナス
三四八万五八五五円となり、所得は生じない。
(二) 生コン圧送業分
前記四2(一)(1)(2)のとおり、収入金額は七〇二九万六六四一円である。
経費は裏付け資料が散逸しているために算出できず、したがって現時点では営業利
益は不明であり、所得金額は〇円である。
(三) 事業所得金額
前記マイナス三四八万五八五五円から事業専従者控除額四〇万円を差し引くと、マ
イナス三八八万五八五五円となり、事業所得は生じない。
2 昭和五五年分の事業所得金額
(一) 建築、賃貸業分
前記四2(二)(1)(1)アのとおり、収入金額は六億一三九七万三七八三円で
ある。原告の昭和五五年の建築、不動産賃貸業分の必要経費は、別表8の同年分の
欄記載のとおりである。したがって、収入金額から必要経費を差し引くとマイナス
一四七一万六九四二円となり、所得は生じない。
(二) 生コン圧送業分
前記四2(二)(1)(2)のとおり、収入金額は六九六八万九三四〇円である。
経費は裏付け資料が散逸しているために算出できず、したがって現時点では営業利
益は不明であり、所得金額は〇円である。
(三) 飲食業分
前記四2(二)(1)(3)のとおり、収入金額は二五〇万四〇〇〇円である。
原告の昭和五五年の飲食業による営業利益は、別表10の1記載のとおりマイナス
二〇万四〇〇〇円であって、所得は生じない。
(四) 事業所得金額
以上のマイナス一四七一万六九四二円とマイナス二〇万四〇〇〇円を合算したう
え、事業専従者控除額四〇万円を差し引くとマイナス一五三二万〇九四二円とな
り、事業所得は生じない。
3 昭和五六年分の事業所得金額
(一) 建築、賃貸業分
前記四2(三)(1)(1)アのとおり、収入金額は五億五五八五万八八三六円で
ある。
原告の昭和五六年の建築、不動産賃貸業分の必要経費は、別表8の同年分の欄記載
のとおりである。
また、手形不渡によって、収入金額のうち七〇二万七八八〇円が減額した。
したがって、収入金額から、必要経費と手形不渡による収入減額分を差し引くと、
所得金額は一四三九万九一二三円となる。
(二) 生コン圧送業分
前記四2(三)(1)(2)のとおり収入金額は、五二九二万〇二七〇円である。
原告の昭和五六年の生コン圧送業分の必要経費は、別表9の営業費・一般管理費の
欄記載のとおりである。
したがって、収入金額から必要経費を差し引くとマイナス一四七万四三三〇円とな
って、所得は生じない。
(三) 飲食業分
前記四2(三)(1)(3)のとおり、収入金額は二五八四万九〇〇〇円である。
原告の昭和五六年の飲食業による営業利益は別表10の2記載のとおりマイナス三
〇五万四〇〇〇円であって、
所得は生じない。
(四) 事業所得金額
以上の一四三九万九一二三円とマイナス一四七万四三三〇円とマイナス三〇五万四
〇〇〇円を合算したうえ、事業専従者控除額四〇万円を差し引くと、事業所得は九
四七万〇七九三円となる。
六 実額の主張に対する被告の反論
1 建築、賃貸業分について
原告の主張する必要経費に関しては、本件各年分のいずれについても、請求書ある
いは領収書等の原始記録に基づく立証が全くなされておらず、失当である。
また、原告は、昭和五六年分の所得金額について、手形不渡によって収入が減少し
たとして収入金額から不渡手形金額を控除しているが、不渡手形それ自体は資産勘
定に計上すべきものであり、単に手形が不渡になったという事実のみでは経費に計
上できない。
2 生コン圧送業分について
原告は昭和五四年及び昭和五五年分について、資料散逸のため必要経費が不明であ
り所得金額は算出不能であるとして、所得金額を〇円であるとしている。しかしな
がら、そのような場合は、収入金額自体を所得金額とするか、あるいは必要経費を
何らかの合理的基準により推計して所得金額を算定すべきである。
また、昭和五六年分について原告が主張する営業費・一般管理費に関しては、請求
書あるいは領収書等の原始記録に基づく立証が全くなされておらず、失当である。
3 飲食業分について
原告は、昭和五五年及び昭和五六年分の所得金額について損益計算書を掲げるのみ
で、何らの立証もしていない。
以上のとおり、原告主張の所得金額をもって真実の所得金額とすることはできない
から、本件においては推計によって原告の所得金額を算定しなければならないこと
が明白であり、本件各更正は適法である。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1ないし4の事実は、当事者間に争いがない。
二 税務調査の必要性について
原告は、被告が原告に対して行った所得税に関する調査について、所得税法二三四
条一項の「調査について必要があるとき」という要件を充たしておらず違法である
から、本件各更正は違法な税務調査に基づく、違法なものである旨を主張してい
る。
所得税法二三四条一項の「調査について必要があるとき」とは、「具体的事情に鑑
み、客観的な必要があると判断される場合」をいうところ、確定申告後に行われる
所得税に関する調査については、適正かつ公平な課税の実現という税務調査制度の
目的からみて、確定申告にかかる課税標準又は税額等が過少であるなどの疑いが認
められる場合に限らず、広く、右申告の適否(すなわち、申告の真実性ないし正確
性)を調査するためにする場合も、これに当たると解すべきである。
これを本件についてみると、原告が本件各年分の所得税について提出した確定申告
書のいずれにも収入金額及び必要経費の記載がないことは当事者間に争いがないか
ら、被告としては、右所得金額の算定経緯を確認する必要があったことは明らかで
ある。してみると、被告の行った原告の所得税に関する調査は、原告がなした各確
定申告の真実性ないし正確性を調査するためのものということができ、「調査につ
いて必要があるとき」に該当すると解することができる。
三 推計の必要性について
1 本件各更正が、原告の取引銀行及び取引先の反面調査によって把握された収入
金額を基礎とする推計の方法によって所得金額を算定してなされたものであること
は、当事者間に争いがない。
原告は、本件各更正が推計の必要性を欠くのになされた違法な処分である旨を主張
するので、以下、推計の必要性について検討する。
2 証拠(証人A)によれば、以下の事実が認められ、右認定に反する証人Kの証
言及び原告本人尋問の結果は採用できない。
(一) 被告は、原告が本件各年分の所得税について提出した確定申告書の内容を
検討したところ、いずれの確定申告書にも所得金額及び専従者控除額の記載がある
だけで、収入金額及び必要経費の記載がなく、所得金額の算定経緯が不明であるこ
となどから、所得税に関する調査の必要があると認め、昭和五七年四月中旬ころ、
被告所属のA調査官に調査を命じた。
(二) A調査官は、同年五月一九日午前一〇時四五分ころ原告の事務所に赴き、
原告に面会を求めたが、原告は不在であった。
(三) A調査官は、同日午後一時五分ころ原告に電話で所得税に関する調査のた
め伺いたい旨伝えたところ、原告から折り返し電話があり、同年六月三日か四日に
来てほしい旨の連絡があったので、六月三日に原告の事務所へ赴くことを約束し
た。
(四) 同年六月三日午後一時ころA調査官が原告の事務所に赴いたところ、原告
のほか民商の事務局員二名が待機していた。
A調査官は、原告の事業概況、原告宅の自宅工事及び取引銀行等について聴取する
とともに、帳簿書類の呈示を求めた。
しかし、原告らは、「帳簿書類は何もない。」、「内容は全部頭の中に入ってい
る。」、「見積書、契約書は一切作成せず、口頭契約である。」、「調べてもらえ
ばわかる。」などと答えるばかりで、原告において帳簿書類等を呈示し調査に協力
しようとする姿勢は全く示さなかった。
そこで、A調査官は、右のような状態では調査に対する協力はとうてい得られない
と判断し、「ある程度調べたらまた伺います。」と言って辞去した。
(五) A調査官は、原告の取引銀行及び取引先の反面調査を実施した後、同年一
二月三日午後一時ころ、直属の上司であるB統括官と共に原告の事務所に赴いたと
ころ、原告の事務所には、原告のほか民商の事務局員二名が前回と同様に待機して
いた。
A調査官及びB統括官は、再三にわたり、帳簿書類を呈示し調査に協力するよう要
請したが、原告らは、「帳面はあるがあなた方に見せるものはない。」、「昭和五
六年分と現在のものはあるが古いものは焼却した。」、「そつちが勝手に調べたの
だからその結果を言え。」、「わからない点があったら調べてやる。」、「裁判で
争ってもいいんだ。こちらには帳面もあるんだから。」などと言うばかりで、帳簿
書類を呈示し調査に協力しようとする姿勢は全く見せなかった。
3 右認定事実によれば、原告は、被告の所属係官の調査に対し、本件各年分の所
得を実額で算定するに必要な帳簿書類等の呈示をせず、非協力的な態度に終始した
のであり、そのため、被告において、原告の本件各年分の所得金額を実額によって
把握することができなかったのである。したがって、本件各更正時においては推計
課税の必要性があったと認められるから、被告が、原告の取引銀行及び取引先の反
面調査によって把握した収入金額を基礎とする推計の方法によって原告の本件各年
分の事業所得金額を算定したうえ、本件各更正を行ったことには、何らの違法もな
いというべきである。
四 原告の収入金額
以下、原告の本件各年分の事業所得金額を検討するにあたって、まず、原告の事業
ごとの収入金額を検討する。
1 昭和五四年
(一) 建築、賃貸業分
(1) 本件帳簿に記載されている収入金額のうち九九〇万円を差し引いた四億八
七一四万六一九九円、及び、本件帳簿に記載のない収入金額(別表1の1ないし1
の3記載)のうち別表1の11ないし1の13の「原告の認否」欄が「○」のもの
の合計三六九五万七四二一円が、原告の建築、賃貸業に係る収入金額であること
は、当事者間に争いがない。
(2) 原告は、右の九九〇万円は、「もぐらの家」のために預かった土地代金で
あって原告の収入ではない旨を主張し、原告本人尋問の結果中には右主張に沿う供
述が存する。
証拠(乙一の三)によれば、右の九九〇万円は、原告の建築、賃貸業による売上げ
を記載した本件帳簿(売上)に、収入金額として記載されていることが認められ
る。そして、右の九九〇万円の外に、原告が他人からの預り金を本件帳簿に収入と
して記載した例があることは、本件証拠上窺うことはできない。とするならば、本
件帳簿に収入金額として記載されており、他に特段の証拠がない以上、右金員は原
告の建築、賃貸業に係る収入金額であると推認するのが相当である。右認定に反す
る原告本人尋問の結果中の供述は、あいまいな点が多く、採用できない。
(3) 別表1の1の順号6記載の収入金額について
収入先Lに係る収入金額三二万円について、証拠(乙七二、七八、証人A)によれ
ば、新潟縣信用組合小針支店が原告の建築、賃貸業に係る取引銀行であること、昭
和五四年一一月二四日、右支店の原告名義の当座預金口座にLが振り出した金額三
二万円の小切手による入金があったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸
業に係る収入金額であると認められる。
(4) 別表1の1の順号10記載の収入金額について
収入金額一五万円について、証拠(乙四九、八一、証人A)によれば、新潟相互銀
行近江支店が原告の建築、賃貸業に係る取引銀行であること、昭和五四年一月一八
日、右支店の原告名義の当座預金口座に一五万円の入金があったことが認められる
から、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(5) 別表1の2の順号29記載の収入金額について
収入先菅原巧に係る収入金額一五万円について、証拠(乙八一、証人A)によれ
ば、昭和五四年一二月五日、新潟相互銀行近江支店の原告名義の当座預金口座に金
額一五万円の小切手による入金があったことが認められるから、右は原告の建築、
賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(6) 別表1の2の順号32記載の収入金額について
収入先Mに係る収入金額五〇〇万円について、証拠(甲一四、一五の一及び二、乙
一の三、証人N)によれば、本件帳簿(売上)の昭和五四年五月二〇日の欄にM
(ただし、「竹松」名義)からの五〇〇万円の入金が記載されていると認められる
から、右は、本件帳簿に記載のない収入金額とすることはできない。
(7) 別表1の2の順号37記載の収入金額について
収入先土田デンキ、Oに係る収入金額二三三万円について、証拠(乙七二、七四、
七八、証人A)によれば、昭和五四年一月二〇日、新潟縣信用組合小針支店の原告
名義の当座預金口座にOの振出依頼に係る金額二三三万円の小切手による入金があ
ったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認め
られる。
(8) 別表1の2の順号39記載の収入金額について
収入先電報電話局に係る収入金額一〇万六二四〇円について、証拠(乙八九、九〇
の一ないし一一、証人A)によれば、第四銀行女池支店が原告の建築、賃貸業に係
る取引銀行であること、昭和五四年一一月二二日、第四銀行女池支店の原告名義の
当座預金口座に電報電話局から一〇万六二四〇円の入金があったことが認められる
から、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(9) 別表1の2の顧号40記載の収入金額について
収入先Pに係る収入金額二五〇万円について、証拠(甲一四、一六、乙一の三、証
人N)によれば、本件帳簿(売上)の昭和五四年一二月二四日の欄に、右の収入先
(ただし、「Q」名義)に係る二五〇万円の入金が記載されていると認められるか
ら、右は、本件帳簿に記載のない収入金額とすることはできない。
(10) 別表1の2の順号46記載の収入金額について
収入先新潟臨港海陸運送株式会社に係る収入金額五〇〇万円について、証拠(乙五
六、八一、証人A)によれば、昭和五四年一二月三一日、新潟相互銀行近江支店の
原告名義の当座預金口座に新潟臨港海陸運送株式会社に係る五〇〇万円の入金があ
ったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認め
られる。
(11) 別表1の3の順号54記載の収入金額について
収入先藤吉商会に係る収入金額四一万五六六七円について、証拠(乙七八、証人
A)によれば、新潟縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金口座に、昭和五四年
六月五日一〇万円と、同年八月九日三一万五六六七円の、藤吉商会に係る入金があ
ったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認め
られる。
(12) 別表1の3の順号59記載の収入金額について
収入先Rに係る収入金額五〇〇万円について、証拠(甲一四、二四、二五、証人
N)によれば、昭和五四年二月二一日、第四銀行女池支店の原告名義の当座預金口
座にRから入金された五〇〇万円は、原告とRとの間で締結された準消費貸借に基
づくRからの弁済金であることが認められるので、右は、原告の建築、賃貸業に係
る収入金額とすることはできない。
(13) 別表1の3の順号60記載の収入金額について
収入先有限会社松原食茸に係る収入金額七四万円について、証拠(乙七二、七八、
証人A)によれば、昭和五四年一〇月三一日、新潟縣信用組合小針支店の原告名義
の当座預金口座に有限会社松原食茸が振り出した金額七四万円の小切手による入金
があったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると
認められる。
(14) 別表1の3の順号68記載の収入金額について
収入先Sに係る収入金額一二〇〇万円について、証拠(甲一四、一七の一及び二、
乙一の三、証人N)によれば、右の収入先(ただし、Sの妻の旧姓である「T」名
義)に係る入金として、本件帳簿に、昭和五四年五月二二日五〇〇万円、同年八月
二八日二〇〇万円、同年一〇月二五日一五〇万円、同年一一月五日三五〇万円がそ
れぞれ記載されていると認められるから、右は、本件帳簿に記載のない収入金額と
することはできない。
(15) 別表1の3の順号70記載の収入金額について
収入先Uに係る収入金額二〇〇万円について、証拠(乙一の三、一一)によれば、
原告は、昭和五四年中にUから居宅新築工事を請け負い、その代金として同人から
一三〇〇万円を受領したこと、右代金のうち二〇〇万円が本件帳簿に記載されてい
ないことが認められる。したがって、右の二〇〇万円は、本件帳簿に記載のない原
告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
なお、証人Nは、右の二〇〇万円は本件帳簿の昭和五六年一二月三一日の欄に記載
されている旨を証言しているが、居宅新築工事を請け負ったのは昭和五四年中であ
り、代金のほとんどは昭和五四年五月までに支払済みであるにもかかわらず、残額
二〇〇万円のみが二年以上経た昭和五六年末に支払われたとするのは不合理である
から、右証言は採用できない。
(16) 別表1の3の順号71記載の収入金額について
収入先Vに係る収入金額二〇五四万五〇〇〇円について、証拠(乙一四)によれ
ば、原告は、昭和五四年一二月二八日にVから住居工事代金清算金として二〇五四
万五〇〇〇円を受領したことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収
入金額であると認められる。
(17) 別表1の3の順号74記載の収入金額について
収入先Dに係る収入金額四〇〇〇万円について、証拠(乙一三、一〇二)によれ
ば、原告は、昭和五四年五月一〇日にDから家屋工事代金として四〇〇〇万円を受
領したことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認
められる。
右の収入金額に関して、原告は、右の工事代金の対価としてDから土地を代物弁済
として取得し、右の土地を昭和五四年から昭和五六年の間にEほか六名に売却し、
あわせて同人らの依頼により右土地の上に建物建築を行い、同人らから昭和五四年
から昭和五六年の間に土地の売却代金と建築工事代金を領収し、これを各年分の売
上として本件帳簿に記帳しているので、Dからの収入金額とEほか六名からの収入
金額の両方を計上することは、一つの収入を重複して計上することになるから、昭
和五四年分の収入金額に四〇〇〇万円を加えるべきではない旨を主張している。
しかしながら、会計処理においては、工事代金は収入金額として、原告が取得した
土地は仕入金額としてそれぞれ計上され、その後の土地の売却もそれぞれ収入金額
として計上されるべきことは明らかである。そして、実額で所得金額を算定する場
合に、右の土地の仕入金額が必要経費として計上されることになるのであるから、
原告の右主張は理由がない。
以上から、本件帳簿に記載された収入金額四億九七〇四万六一九九円と本件帳簿に
記載のない収入金額(別表1の1ないし1の3記載)のうちの一億〇八七一万四三
二八円を合計した六億〇五七六万〇五二七円が、昭和五四年の原告の建築、賃貸業
に係る収入金額であると認められる。
(二) 生コン圧送業分
(1) 別表2の1記載の収入金額について、入金先解明分の六九二八万〇四四一
円、及び、入金先未解明分のうち別表2の4の「原告の認否」欄が「認」のものの
合計一〇一六万六二〇〇円が原告の生コン圧送業に係る収入金額であることは、当
事者間に争いがない。
(2) 別表2の1記載の収入金額について、入金先未解明分のうち、別表2の4
の「原告の認否」欄が「否認」のものの合計六八九万八〇四一円について検討す
る。
証拠(乙四六、四七、八四ないし八六、証人A、原告本人)及び弁論の全趣旨によ
れば、原告は、生コン圧送業について、「隆泉コンクリートポンプ」の名称を使用
して営業を行うとともに、新潟相互銀行近江支店に「隆泉コンクリートポンプ」名
義の当座預金口座を設定し、専ら同口座を利用して、原告の営も他の事業と区別し
て生コン圧送業分の収入金を取立人金したり、取引先に振込入金させたりしていた
こと、乙八四ないし八六は右「隆泉コンクリートポンプ」名義の当座預金口座の、
本件各年分の入金状況の調査書であることが認められる。右事実に加えて、原告
が、乙八四ないし八七に記載された入金のうち、別表2の1ないし2の3記載の入
金先解明分についてはすべて原告の生コン圧送業に係る収入金額であることを認め
ていること、さらに、原告が、別表2の1ないし2の3記載の入金先未解明分につ
いても、その後、入金先が明らかになったもののほとんどについて原告の生コン圧
送業に係る収入金額であることを認めていること、入金先が明らかになったもので
原告が否認しているものも、後記(2(二)(2)(1)、3(二)(2)
(1)、3(二)(2)(2))のとおり、いずれも原告の生コン圧送業に係る収
入金額であると認められることに鑑みると、乙八四ないし八七に記載された入金の
うち、未だに入金先が解明していないものについても、すべて原告の生コン圧送業
に係る収入金額であると推認するのが相当である。したがって、入金先未解明分の
うち、別表2の4の「原告の認否」欄が「否認」のものの合計六八九万八〇四一円
は、原告の生コン圧送業に係る収入金額であると認められる。
以上から、昭和五四年の原告の生コン圧送業に係る収入金額は、合計七七一九万四
六八二円であると認められる。
2 昭和五五年
(一) 建築、
賃貸業分
(1) 本件帳簿に記載されている収入金額五億八八〇九万六四五九円、及び、本
件帳簿に記載のない収入金額(別表1の4ないし1の6記載)のうち別表1の14
ないし1の16の「原告の認否」欄が「○」のものの合計二五八七万七三二四円
が、原告の建築、賃貸業に係る収入金額であることは、当事者間に争いがない。
(2) 別表1の4の順号1記載の収入金額について
収入先アイリス保育園、早川鉄石に係る収入金額二二二五万六〇〇〇円について、
証拠(乙一七、七九、八二、証人A)によれば、昭和五五年四月二八日、新潟相互
銀行近江支店の原告名義の当座預金口座に小切手による七六二万六〇〇〇円の入金
があり、同年五月二九日、原告は工事代金清算金として早川鉄石から一四四〇万円
を受領し、同年九月三〇日、新潟縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金口座に
同保育園に係る二三万円の入金があったことが認められるから、右は原告の建築、
賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(3) 別表1の4の順号6記載の収入金額について
収入先Wに係る収入金額四九三万七八〇〇円について、証拠(乙七九、証人A)に
よれば、昭和五五年一一月二六日、新潟縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金
口座にWに係る四九三万七八〇〇円の入金があったことが認められるから、右は原
告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(4) 別表1の4の順号18記載の収入金額について
収入先坂井組に係る収入金額一四万六四〇〇円について、証拠(乙八二、証人A)
によれば、昭和五五年一〇月八日、新潟相互銀行近江支店の原告名義の当座預金口
座に坂井組に係る一四万六四〇〇円の入金があったことが認められるから、右は原
告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(5) 別表1の4の順号21記載の収入金額について
収入先シルバー工業株式会社に係る収入金額八〇万八〇〇〇円について、証拠(乙
四五、七九、証人A)によれば、昭和五五年五月三一日、新潟縣信用組合小針支店
の原告名義の当座預金口座にシルバー工業株式会社が振り出した金額八〇万八〇〇
〇円の手形による入金があったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に
係る収入金額であると認められる。
(6) 別表1の5の順号36記載の収入金額について
収入先西牧組に係る収入金額六万円について、証拠(乙七九、証人A)によれば、
昭和五五年八月二五日、新潟縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金口座に西牧
組に係る六万円の入金があったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に
係る収入金額であると認められる。
(7) 別表1の5の順号45記載の収入金額について
収入先Xし係る収入金額一〇万円について、証拠(乙八二、証人A)によれば、新
潟相互銀行近江支店の原告名義の当座預金口座に昭和五五年一〇月三〇日に五万円
と同年一二月一日に五万円のXに係る入金があったことが認められるから、右は原
告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(8) 別表1の5の順号46記載の収入金額について
収入先有隣会社松原食茸に係る収入金額四〇四五万円について、証拠(乙三六、三
七、七九、証人A)によれば、昭和五五年一月三一日、新潟縣信用組合小針支店の
原告名義の当座預金口座に有限会社松原食茸が振り出しな金額二四九五万円の手形
による入金があり、同年七月三一日、右の原告名義の当座預金口座に同社が振り出
した金額一五五〇万円の手形による入金があったことが認められるから、右は、原
告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(9) 別表1の5の順号47記載の収入金額について
収入先前川塗装に係る収入金額一三万九八〇〇円について、証拠(甲一三、乙八
二、証人A)によれば、昭和五五年一二月一三日、新潟相互銀行近江支店の原告名
義の当座預金口座に前川塗装に係る六万九九〇〇円の入金があったことが認められ
るから、右の収入金額のうち、六万九九〇〇円は原告の建築、賃貸業に係る収入金
額であると認められる。しかしながら残額六万九九〇〇円は、これを原告の建築、
賃貸業に係る収入金額であると認めるに足りる証拠はない。
(10) 別表1の5の順号50記載の収入金額について
収入先Yに係る収入金額一〇〇〇万円について、証拠(甲一四、一八の一ないし
三、乙一の四、証人N)によれば、右の収入先に係る入金として、本件帳簿(売
上)に、昭和五五年一月一〇日二〇〇万円、同年五月一九日三〇〇万円、同年八月
一一日三〇〇万円、同月二九日二〇〇万円がそれぞれ記載されていると認められる
から、右は、
本件帳簿に記載のない収入金額とすることはできない。
(11) 別表1の6の順号51記載の収入金額について
収入先有限会社逢坂酒店に係る収入金額一八三〇万円について、証拠(乙三九、四
五、七九、証人A)によれば、昭和五五年五月三一日、新潟縣信用組合小針支店の
原告名義の当座預金口座に有限会社逢坂酒店が振り出した金額八六五万円の手形に
よる入金があり、同年六月三〇日と同年八月一日、右の原告名義の当座預金口室に
同社が振り出した金額九六五万円の手形による入金があったことが認められるか
ら、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(12) 別表1の6の順号52記載の収入金額について
収入先佐藤建設興業に係る収入金額一〇〇〇万円について、証拠(乙三八、七九、
証人A)によれば、昭和五五年二月二五日、新潟縣信用組合小針支店の原告名義の
当座預金口座に佐藤建設興業が振り出した金額一〇〇〇万円の手形による入金があ
ったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認め
られる。
(13) 別表1の6の順号53記載の収入金額について
収入先東北開発運輸株式会社に係る収入金額一二万円について、証拠(乙四七、八
二、証人A)によれば、昭和五五年八月一二日、新潟相互銀行近江支店の原告名義
の当座預金口座に東北開発運輸株式会社が振り出した金額一二万円の小切手による
入金があったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であ
ると認められる。
(14) 別表1の6の順号54記載の収入金額について
収入先株式会社ホシに係る収入金額二三〇万円について、証拠(乙四七、八二、証
人A)によれば、昭和五五年五月三一日、新潟相互銀行近江支店の原告名義の当座
預金口座に株式会社ホシが振り出した金額二三〇万円の小切手による入金があった
ことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められ
る。
(15) 別表1の6の順号55記載の収入金額について
収入先Fに係る収入金額五六〇〇万円について、証拠(乙一八の一及び二、一〇一
の一ないし九)によれば、原告はFから家屋工事代金として、昭和五五年二月一日
に一四二五万円、同年九月八日に四一七五万円をそれぞれ受け取ったことが認めら
れるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
右の収入金額に関して、原告は、右の工事代金の対価としてFから土地を代物弁済
として取得し、右の土地をG及び株式会社オリジナル・サーベに右と同額で売却
し、右売却代金を右土地上に建築した建物工事代金とともに昭和五六年分の売上と
して本件帳簿に記帳しているので、右のFからの五六〇〇万円を昭和五五年分の収
入金額として計上すべきであるとすれば、昭和五六年の売上分は、昭和五五年に取
得した土地を購入価格と同額で処分した売却代金にすぎないから収入金額とはなら
ず、昭和五六年分の収入金額から五六〇〇万円を減額すべきであり、そうでなけれ
ば、昭和五五年分の収入金額に五六〇〇万円を加えるべきではない旨を主張してい
る。
しかしながら、会計処理においては、工事代金は収入金額として、原告が取得した
土地は仕入金額としてそれぞれ計上され、その後の土地の売却もそれぞれ収入金額
として計上されるべきことは明らかである。そして、実額で所得金額を算定する場
合に、右の土地の仕入金額が必要経費として計上されることになるのであるから、
原告の右主張は理由がない。
(16) 別表1の6の順号56記載の収入金額について
収入先Zに係る収入金額一二八〇万円について、証拠(甲一四、乙一の四、証人
N)によれば、Zに係る入金として、本件帳簿(売上)に、昭和五五年五月一四日
四五〇万円、同年一一月一四日二五〇万円、同月一九日一二〇万円、同月二一日二
〇〇万円、同年一二月一二日六〇万円、同月二六日二〇〇万円がそれぞれ記載され
ていると認められるから、右は、本件帳簿に記載のない収入金額とすることはでき
ない。
(17) 別表1の6の順号58記載の収入金額について
収入先結城製菓、P1に係る収入金額三五〇万円について、証拠(乙四七、八二、
証人A)によれば、昭和五五年五月一六日、新潟相互銀行近江支店の原告名義の当
座預金口座に結城製菓P1が振り出した金額三五〇万円の小切手による入金があっ
たことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認めら
れる。
以上から、本件帳簿に記載された収入金額五億八八〇九万六四五九円と本件帳簿に
記載のない収入金額(別表1の4ないし1の6記載)のうちの一億八四九二万五四
二四円を合計した七億七三〇二万一八八三円が、昭和五五年の原告の建築、
賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(二) 生コン圧送業分
(1) 別表2の2記載の収入金額について、入金先解明分の六七七七万七五九〇
円、及び、入金先未解明分のうち別表2の5の「原告の認否」欄が「認」のものの
合計一九一万一七五〇円が原告の生コン圧送業に係る収入金額であることは、当事
者間に争いがない。
(2) 別表2の2記載の収入金額について、入金先未解明分のうち、別表2の5
の「原告の認否」欄が「否認」のものの合計九七八万七〇〇〇円について検討す
る。
(1) 昭和五五年七月一五日の株式会社米山工業からの五万六〇〇〇円について
証拠(乙四六、八五、証人A)によれば、昭和五五年七月一五日、新潟相互銀行近
江支店の隆泉コンクリートポンプ名義の当座預金口座に、株式会社米山工業が振り
出した金額五万六〇〇〇円の小切手による入金があったことが認められるから、右
は原告の生コン圧送業に係る収入金額であると認められる。
(2) 前記1(二)(2)の理由により、乙八四ないし八七に記載された入金の
うち、未だに入金先が解明していないものについても、すべて原告の生コン圧送業
に係る収入金額であると推認するのが相当である。したがって、入金先未解明分の
うち、別表2の5の「原告の認否」欄が「否認」のものの合計九七八万七〇〇〇円
(右(1)の収入金額を含む。)は、原告の生コン圧送業に係る収入金額であると
認められる。
以上から、昭和五五年の原告の生コン圧送業に係る収入金額は、合計七九四七万六
三四〇円であると認められる。
(三) 飲食業分
(1) 被告が主張する収入金額のうち、二五〇万四〇〇〇円が原告の飲食業に係
る収入金額であることは、当事者間に争いがない。
(2) 被告が主張する収入金額の残額六七四円については、これを原告の飲食業
に係る収入金額であると認めるに足りる証拠はない。
以上から、昭和五五年の原告の飲食業に係る収入金額は二五〇万四〇〇〇円である
と認められる。
3 昭和五六年
(一) 建築、賃貸業分
(1) 本件帳簿に記載されている収入金額五億一九四五万〇七三六円、及び、本
件帳簿に記載のない収入金額(別表1の7ないし1の10記載)のうち別表1の1
7ないし1の20の「原告の認否」欄が「○」のものの合計三六四〇万八一〇〇円
が、原告の建築、賃貸業に係る収入金額であることは、当事者間に争いがない。
(2) 別表1の7の順号6記載の収入金額について
収入先株式会社オリジナルサーベー、荒木英俊に係る収入金額五五〇万六六〇〇円
について、原告の建築、賃貸業に係る収入金額であることを認めるに足りる証拠は
ない。
(3) 別表1の7の順号10記載の収入金額について
収入先神田工業に係る収入金額二五万円について、証拠(乙八〇、証人A)によれ
ば、昭和五六年五月三〇日、新潟縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金口座に
神田工業に係る二五万円の入金があったことが認められるから、右は原告の建築、
賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(4) 別表1の7の順号11記載の収入金額について
収入先有限会社勝見商店(有限会社日昇食品)に係る収入金額二九五〇万円につい
て、証拠(乙二〇、八〇、証人A)によれば、原告が昭和五六年九月一六日に有限
会社勝見商店(有限会社日昇食品)から五五〇万円を受け取り、同年一〇月六日に
新潟縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金口座に同社に係る二四〇〇万円の入
金があったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額である
と認められる。
(5) 別表1の7の順号16記載の収入金額について
収入先苅羽上野住建株式会社に係る収入金額八一万九〇〇〇円について、証拠(乙
四四、八〇、証人A)によれば、昭和五六年九月三〇日、新潟縣信用組合小針支店
の原告名義の当座預金口座に苅羽上野住建株式会社が振り出した金額八一万九六三
〇円の手形による入金があったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に
係る収入金額であると認められる。
(6) 別表1の7の順号18記載の収入金額について
証拠(乙二一)によれば、共同機械サービス有限会社から原告に対し、昭和五六年
五月二〇日に三三八万四〇〇〇円、同年七月一日に一〇〇〇万円、同月八日に三一
〇万五〇九〇円、同年九月二八日に四五〇万円、同年一〇月二七日四五〇万円がそ
れぞれ人金されたこと、右金員合計二五四八万九〇九〇円のうち、原告が行った工
場新築代金として払われたのは一三五〇万円であり、残りの一一九八万九〇九〇円
は同社がP2から購入した土地の代金として支払われたことが認められる。したが
って、原告の建築、賃貸業に係る収入金額となるのは一三五〇万円であると認めら
れる。そして、証拠(乙一の五)によれば、右各入金のうち、同年九月二八日の四
五〇万円と同年一〇月二七日の四五〇万円は、本件帳簿(売上)に記載されている
ことが認められる。よって、右の工場新築代金の一三五〇万円のうちの四五〇万円
のみが、本件帳簿に記載のない原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認めら
れる。
(7) 別表1の7の順号19記載の収入金額について
収入先協有住宅資材株式会社に係る収入金額二一万五〇〇〇円について、証拠(乙
四四、八〇、証人A)によれば、昭和五六年九月三〇日、新潟縣信用組合小針支店
の原告名義の当座預金口座に協有住宅資材株式会社が振り出した金額二一万五〇〇
〇円の手形による入金があったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に
よる収入金額であると認められる。
(8) 別表1の7の順号20記載の収入金額について
収入先P3に係る収入金額一六〇万円について、証拠(乙九〇の六、証人A)によ
れば、昭和五六年一月二六日、第四銀行女池支店の原告名義の当座預金口座にP3
に係る一六〇万円の入金があったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業
に係る収入金額であると認められる。
(9) 別表1の7の順号24記載の収入金額について
収入先有限会社小出材木店に係る収入金額一〇六万円について、証拠(乙四四、八
〇、証人A)によれば、昭和五六年九月三〇日、新潟縣信用組合小針支店の原告名
義の当座預金口座に有限会社小出材木店が振り出した金額一〇六万円の手形による
入金があったことが認められるから、右は、原告の建築、賃貸業に係る収入金額で
あると認められる。
(10) 別表1の8の順号27記載の収入金額について
収入先Hに係る収入金額三二〇七万円について、証拠(乙九六の一及び二)によれ
ば、原告は、Hから建築工事代金として昭和五六年一月八日に二一〇七万円、同年
二月二八日に一一〇〇万円を受け取ったことが認められるから、右は原告の建築、
賃貸業に係る収入金額であると認められる。
右の収入金額に関して、原告は、右の工事代金にかえてHから土地を代物弁済とし
て取得し、右の土地を魚進ことIに売却し、右売却代金を右土地上に建築した建物
の工事代金とともに昭和五四年から昭和五五年の二年間にわたって本件帳簿に記帳
しているので、Hからの収入金額とIからの収入金額の両方を計上することは、一
つの収入を重複して計上することになるから、昭和五四年分の収入金額から三二〇
七万円を減額すべきであり、そうでなければ、昭和五六年分の収入金額に三二〇七
万円を加えるべきではない旨を主張している。
しかしながら、会計処理においては、工事代金は収入金額として、原告が取得した
土地は仕入金額としてそれぞれ計上され、その後の土地の売却もそれぞれ収入金額
として計上されるべきことは明らかである。そして、実額で所得金額を算定する場
合に右の土地の仕入金額が必要経費として計上されることになるのであるから、原
告の右主張は理由がない。
(11) 別表1の8の順号34記載の収入金額について
収入先P4に係る収入金額三〇〇万円について、証拠(乙四一二、八〇、証人A)
によれば、昭和五六年二月一三日、新潟縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金
口座にP4が振り出した金額三〇〇万円の手形による人金があったことが認められ
るから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(12) 別表1の8の順号35記載の収入金額について
収入先玉村町農協に係る収入金額七三〇万円仁ついて、証拠(乙八〇、証人A)に
よれば、昭和五六年五月二日、新潟縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金口座
に玉村町農協に係る七三〇万円の入金があったことが認められるから、右は原告の
建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(13) 別表1の8の順号36記載の収入金額について
収入先玉木工務店に係る収入金額七〇〇万円について、証拠(乙八〇、証人A)に
よれば、昭和五六年九月三〇日、新潟縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金口
座に玉木工務店に係る七〇〇万円の入金があったことが認められるから、右は原告
の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(14) 別表1の8の順号42記載の収入金額について
収入先鳥屋野不動産に係る収入金額五〇万円について、証拠(乙八〇、証人A)に
よれば、昭和五六年六月一日、新潟縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金口座
に鳥屋野不動産に係る五〇万円の入金があったことが認められるから、右は原告の
建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(15) 別表1の8の順号48記載の収入金額について
収入先新潟フローリングに係る収入金額一五万五〇〇〇円について、証拠(乙八
九、九〇の六、証人A)によれば、昭和五六年一月二一日、第四銀行女池支店の原
告名義の当座預金口座に新潟フローリングに係る一五万五三五〇円の入金があった
ことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められ
る。
(16) 別表1の8の順号50記載の収入金額について
収入先P5に係る収入金額一六万九〇五七円について、証拠(乙九〇の六ないし一
一)によれば、第四銀行女池支店の原告名義の当座預金口座にP5から、昭和五六
年二月六日に五万円、同年六月一一日に二万五〇〇〇円、同年七月七日に二万五〇
〇〇円、同年八月一二日に二万五〇〇〇円、同年一〇月一七日に二万五〇〇〇円、
同年一一月一一日に一万九〇五七円が、それぞれ人金されたことが認められるか
ら、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(17) 別表1の9の順号52記載の収入金額について
収入先有限会社平野銘材店に係る収入金額一〇〇万円について、証拠(乙四四、八
〇、証人A)によれば、昭和五六年九月三〇日、新潟縣信用組合小針支店の原告名
義の当座預金口座に有限会社平野銘材店が振り出した金額一〇〇万円の手形による
入金があったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であ
ると認められる。
(18) 別表1の9の順号54記載の収入金額について
収入先藤吉商会に係る収入金額三〇万円について、証拠(乙八〇、証人A)によれ
ば、昭和五六年六月二三日、新潟縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金口座に
藤吉商会に係る三〇万円の入金があったことが認められるから、右は原告の建築、
賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(19) 別表1の9の順号58記載の収入金額について
収入先ボンオーハシに係る収入金額三四万五〇〇〇円について、証拠(乙八八、九
〇の八、証人A)によれば、新潟県信用金庫鳥屋野支店が原告の建築、賃貸業に係
る取引銀行であること、昭和五六年三月六〇、新潟県信用金庫鳥屋野支店の原告名
義の当座預金口座にボンオーハシに係る四万五〇〇〇円の入金があり、同七月二
日、第四銀行女池支店の原告名義の当座預金口座にボンオーハシに係る三万円の入
金があったことが認められるから、右の収入金額のうち、七万五〇〇〇円が原告の
建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
残額二七万円については、これを原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認め
るに足りる証拠はない。
(20) 別表1の9の順号59記載の収入金額について
収入先株式会社丸高木材に係る収入金額一二六一万四〇〇〇円について、証拠(乙
四二、七〇、七一、八〇、八八、証人A)によれば、昭和五六年一月三一日、新潟
縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金口座に株式会社丸高木材が振り出した金
額三一一万四〇〇〇円の手形と金額三〇〇万円の手形による入金があったこと、同
年二月一六日、三条信用金庫鳥屋野支店の原告名義の当座預金口座に同社が振り出
した金額二五〇万円の手形による入金があったこと、新潟県信用金庫鳥屋野支店の
原告名義の当来預金口座に同年四月二二日三〇〇万円と同年九月一日一〇〇万円の
同社に係る入金があったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収
入金額であると認められる。
(21) 別表1の9の順号60記載の収入金額について
収入先有限会社松原食茸に係る収入金額一〇九三万二〇〇〇円について、証拠(乙
八〇、証人A)によれば、新潟縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金口座に昭
和五六年一月一七日五〇六万円、同年二月二〇日五八七万二六三七円の有限会社松
原食茸に係る入金があったことが認められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る
収入金額であると認められる。
(22) 別表1の9の順号62記載の収入金額について
収入先前川塗装に係る収入金額八三万七七〇〇円について、証拠(乙八三、証人
A)によれば、新潟相互銀行近江支店の原告名義の当座預金口座に、前川塗装か
ら、昭和五六年一月一二日に六万九九〇〇円、同年二月一四日に六万九九〇〇円、
同年三月一一日に六万九九〇〇円、同年四月一四日に六万九九〇〇円、同年五月一
三日に六万九九〇〇円、同年六月一一日に六万九九〇〇円、同年七月一一日に六万
九九〇〇円、同年八月一二日に六万九六〇〇円、同年九月一四日に六万九六〇〇
円、同年一〇月一六日に六万九六〇〇円、同年一一月一三日に六万九六〇〇円、同
年一二月四日に六万九四〇〇円が、それぞれ入金されたことが認められるから、右
の収入金額のうち、八三万七一〇〇円は原告の建築、賃貸業に係る収入金額である
と認めれる。しかしながら残額六〇〇円は、これを原告の建築、賃貸業に係る収入
金額であると認めるに足りる証拠がない。
(23) 別表1の9の順号68記載の収入金額について
収入先P6に係る収入金額五〇万円について、証拠(乙四四、八〇、証人A)によ
れば、昭和五六年九月三〇日、新潟縣信用組合小針支店の原告名義の当座預金口座
にP6が振り出した金額五〇万円の手形による入金があったことが認められるか
ら、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(24) 別表1の9の順号71記載の収入金額について
収入先P7に係る収入金額一二五七万一一三〇円について、証拠(乙二六の一及び
二、八八、証人A)によれば、昭和五六年三月一七日、新潟信用金庫鳥屋野支店の
原告名義の当座預金口座にP7から一二五七万一一三〇円の入金があったことが認
められるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(25) 別表1の9の順号74記載の収入金額について
収入先P8に係る収入金額一五〇万円について、証拠(甲一四、一八の一ないし
三、乙一の五、証人N)によれば、本件帳簿(売上)の昭和五六年一〇月七日の欄
に右の収入先(ただし、「大石金物店」名義)に係る一五〇万円の入金が記載され
ていると認められるから、右は、本件帳簿に記載のない収入金額とすることはでき
ない。
(26) 別表1の9の順号75記載の収入金額について
収入先株式会社新潟建築入札事務所に係る収入金額一〇万一五〇〇円について、証
拠(乙二八、八〇、証人A)によれば、昭和五六年八月二九日、新潟縣信用組合小
針支店の原告名義の当座預金口座に株式会社新潟建築人札事務所が振り出した金額
一〇万一五〇〇円の小切手による入金があったことが認められるから、右は原告の
建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(27) 別表1の10の順号76記載の収入金額について
収入先P9に係る収入金額一〇〇万円について、証拠(甲一四、乙一の五、証人
N)によれば、本件帳簿(売上)の昭和五六年四月二一日の欄にP9からの一〇〇
万円の入金が記載されていると認められるから、右は、本件帳簿に記載のない収入
金額とすることはできない。
(28) 別表1の10の順号77記載の収入金額について
収入先Jに係る収入金額六一一三万四四三八円について、証拠(乙二五の一ないし
五)によれば、原告は、Jから家屋建築工事代金として昭和五六年五月一〇日に三
一一三万四四三八円、同年一二月二五日に三〇〇〇万円を受け取ったことが認めら
れるから、右は原告の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
右の収入金額に関して、原告は、右の工事代金の対価としてJから昭和五五年と昭
和五六年の二回にわたって、右工事代金に見合う土地を代物弁済として取得し、右
の土地を九三土地株式会社ほか四名に同額で売却し、右売却代金を右土地上に建築
した建物工事代金とともに昭和五六年分の売上として本件帳簿に記帳しているの
で、右のJからの収入金額を昭和五六年分の収入金額として計上すべきであるとす
れば、丸三土地株式会社ほか四名に右の土地を売った売上分は、昭和五五年と昭和
五六年に取得した土地を購入価格と同額で処分した売却代金にすぎないから収入金
額とはならず、昭和五五年分の収入金額から丸三土地株式会社からの収入金額二二
七四万二〇〇〇円を減額し、昭和五六年分の収入金額からその余の一二〇五万四〇
八〇円を減額すべきであり、そうでなければ、昭和五六年分の収入金額に六一一三
万四四三八円を加えるべきではない旨を主張している。
しかしながら、会計処理においては、工事代金は収入金額として、原告が取得した
土地は仕入金額としてそれぞれ計上され、その後の土地の売却もそれぞれ収入金額
として計上されるべきことは明らかである。そして、実額で所得金額を算定する場
合に、右の土地の仕入金額が必要経費として計上されることになるのであるから、
原告の右主張は理由がない。
以上から、本件帳簿に記載されている収入金額五億一九四五万〇七三六円と、本件
帳簿に記載のない収入金額(別表1の7ないし1の10記載)のうちの二億二四六
一万一三二五円を合計した七億四四〇六万二〇六一円が、昭和五六年の原告の建
築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。
(二) 生コン圧送業分
(1) 別表2の3のうち、入金先解明分の五〇五八万六二七〇円、及び、入金先
未解明分のうち別表2の6の「原告の認否」欄が「認」のものの合計二三三万四〇
〇〇円が、原告の生コン圧送業に係る収入金額であることは、当事者間に争いがな
い。
(2) 別表2の3記載の収入金額について、入金先未解明分のうち、別表2の6
の「原告の認否」欄が、
「否認」のものの合計八九五万五八〇〇円について検討する。
(1) 昭和五六年一〇月三一日の有限会社新陽コンクリートポンプからの三〇万
円について
証拠(乙六八の一ないし三、八六、証人A)によれば、昭和五六年一〇月三一日、
新潟相互銀行近江支店の隆泉コンクリートポンプ名義の当座預金口座に、有限会社
新陽コンクリートポンプが振り出した金額三〇万円の小切手による入金があったこ
とが認められるから、右は原告の生コン圧送業に係る収入金額であると認められ
る。
(2) 昭和五六年一一月一一日の有限会社諸橋工務店からの七万五八〇〇円につ
いて
証拠(乙四六、六九、八六、証人A)によれば、昭和五六年一一月一一日、同支店
の隆泉コンクリートポンプ名義の当座預金口座に、有限会社諸橋工務店が振り出し
た金額七万五八〇〇円の小切手による入金があったことが認められるから、右は原
告の生コン圧送業に係る収入金額であると認められる。
(3) 前記1(二)(2)の理由により、乙八四ないし八七に記載された入金の
うち、未だに入金先が解明していないものについても、すべて原告の生コン圧送業
に係る収入金額であると推認するのが相当である。したがって、入金先未解明分の
うち、別表2の6の「原告の認否」欄が「否認」のものの合計八九五万五八〇〇円
(右(1)及び(2)の収入金額を含も。)は、原告の生コン圧送業に係る収入金
額であると認められる。
以上から、昭和五六年の原告の生コン圧送業に係る収入金額は、合計六一八七万六
〇七〇円であると認められる。
(三) 飲食業分
(1) 被告が主張する収入金額のうち、二五八四万九〇〇〇円が原告の飲食業に
係る収入金額であることは、当事者間に争いがない。
(2) 被告が主張する収入金額の残額九八五円については、これを原告の飲食業
に係る収入金額であると認めるに足りる証拠はない。
以上から、昭和五六年の原告の飲食業に係る収入金額は、二五八四万九〇〇〇円で
あると認められる。
五 推計の合理性について
次に、被告は、原告の取引銀行及び取引先の反面調査によって把握された収入金額
を基礎とし、各事業の同業者の平均所得率によって原告の本件各年分の事業所得金
額を算定しているので、右推計の合理性について検討する。
1 建築、賃貸業について
(一) 証拠(乙二の一及び二、証人P10)によれば以下の事実が認められ、
右認定に反する証拠はない。
(1) 関東信越国税局長は、昭和六一年九月四日付けで、被告に対し、「訴訟事
件に関する資料の報告について」と題する通達を発し、新潟税務署管内に事業所を
有している木造建築業を営む個人及び法人のうちから、本件各年分について(ただ
し、法人については、昭和五四年分を昭和五四年七月から昭和五五年五月の間に終
了する事業年度分とし、昭和五五年分を昭和五五年七月から昭和五六年五月の間に
終了する事業年度分とし、昭和五六年分を昭和五六年七月から昭和五七年五月の間
に終了する事業年度分とする。)、次の(1)ないし(5)のいずれの基準にも該
当する者全員の収入金額、所得金額及び所得率の報告を求めた。これを受けて被告
は、関東信越国税局長に対し、右基準に適合する該当者として、昭和五四年分につ
き一六名、昭和五五年分につき一七名、昭和五六年分につき一八名の業者を比準同
業者として、その収入金額、所得金額及び所得率を報告した(該当する個人事業者
はなく、いずれも法人事業者である。)。
(1) 年を通じて主に木造建築業を継続して営んでいた者であること
(2) 個人事業者については、所得税青色申告決算書を提出していた者であるこ

(3) 法人事業者については、青色申告者で、確定申告書、貸借対照表、損益計
算書及び勘定科目内訳明細書を提出していた者であること
(4) 災害等により、経営状態が異常であると認められる者以外の者であること
(5) 税務署長から更正処分を受け、これに対して不服申立てを行って係争して
いる者でないこと
(5) 年間の売上金額が三億円以上一〇億円未満の者であること
(2) 本件各年分についての比準同業者の収入金額、所得金額及び所得率は、別
表4記載のとおりであり、これに基づいて本件各年分の平均所得率を算出すると、
別表4の平均欄記載のとおり、昭和五四年分は三・二六パーセント、昭和五五年分
は四・〇八パーセント、昭和五六年分は三・九五パーセントとなる。
なお、法人同業者の所得金額については、原告がいわゆる個人の白色申告者である
ため、法人同業者の所得金額から、次の損金及び益金(略して損益といい、個人の
収入金額及び必要経費にあたる。)を除いて算出した。
(1) 法人の青色申告者の損益となるが、個人の白色申告者の収入金額及び必要
経費とならないもの
例えば、各種準備金に係る損益、特別償却及び割増償却に係る損益、繰越欠損金の
控除等
(2) 個人の青色申告者に限り必要経費とされるもの
例えば、耐用年数の短縮により通常の減価償却費を超えた償却費等
(3) 法人の損益とされるが、個人又は個人の白色申告者の収入金額又は必要経
費とならないもの
例えば、代表者及び代表者と生計を一にする者からの受取利息及び賃貸料、代表者
及び代表者と生計を一にする者に対する報酬、給料、支払利息及び賃借料、寄付金
(損金不算入とされるものを含む。)に係る損益、各種引当金に係る損益等
(4) 法人の益金とされるが、個人の事業所得の収入金額とならないもの
例えば、配当収入、預貯金の利息収入、固定資産の譲渡に係る損益、有価証券売却
損益、交際費等の損金不算入額等
(二) 右認定事実によれば、原告の所得金額を算出する目的で関東信越国税局長
が選定した比準同業者の選定基準は、業種の同一性、事業所の近接性あるいは事業
規模の近似性等の点において、洞業者の類似性を判別する要件として合理的なもの
であって、その選定に当たって被告の恣意が介在する余地は認められない。また、
右の比準同業者は、いずれも年間を通じて事業を継続する青色申告者であって、そ
の申告が確定していることに照らすと、収入金額等の算出根拠となる資料の正確性
も担保されているものというべきである。
そして、選定された同業者の数は、昭和五四年分につき一六名、昭和五五年分につ
き一七名、昭和五六年分につき一八名であり、いずれも同業者の個別特殊性を捨象
し平均化するに足りる数であると解される。
なお、弁論の全趣旨によれば、不動産賃貸業の所得率は木造建築業の所得率を上回
ることが認められるから、不動産賃貸業に係る収入金額を木造建築業の収入金額に
含めて算定することは、原告にとって有利にはなっても不利になることはないか
ら、許されると解される。
以上から、前記の平均所得率を適用して原告の本件各年分の建築、賃貸業に係る事
業所得金額を推計することは、合理性があると認めることができる。
2 生コン圧送業について
(一) 証拠(乙二の一及び二、三の一及び二、四の一及び二、五の一及び二、六
の一及び二、七の一及び二、八の一及び二、証人P10)によれば、以下の事実が
認められ、右認定に反する証拠はない。
(1) 関東信越国税局長は、昭和六一年九月四日付けで、被告、長岡税務署長、
三条税務署長、新発田税務署長、新津税務署長、巻税務署長及び村上税務署長に対
し、「訴訟事件に関する資料の報告について」と題する通達を発し、各税務署管内
に事業所を有している生コン圧送業を営も個人及び法人のうちから、本件各年分に
ついて(ただし、法人については、昭和五四年分を昭和五四年七月から昭和五五年
五月の間に終了する事業年度分とし、昭和五五年分を昭和五五年七月から昭和五六
年五月の間に終了する事業年度分とし、昭和五六年分を昭和五六年七月から昭和五
七年五月の間に終了する事業年度分とする。)、次の(1)ないし(5)のいずれ
の基準にも該当する者全員の収入金額、所得金額及び所得率の報告を求めた。これ
を受けて、被告は、昭和五四年分及び昭和五五年分につき各二名、昭和五六年分に
つき三名の業者を、長岡税務署長及び三条税務署長は、本件各年分につき各二名の
業者を、新発田税務署長は、昭和五五年分及び昭和五六年分につき各一名の業者
を、それぞれ前記基準に適合する比準同業者として、関東信越国税局長に対し、各
収入金額、所得金額及び所得率を報告し(該当する個人事業者はなく、いずれも法
人事業者である。)、その他の税務署長は、該当する事業者は存しない旨を報告し
た。
(1) 年を通じて主に生コン圧送業を継続して営んでいた者であること
(2) 個人事業者については、所得税青色申告決算書を提出していた者であるこ

(3) 法人事業者については、青色申告者で、確定申告書、貸借対照表、損益計
算書及び勘定科目内訳明細書を提出していた者であること
(4) 災害等により、経営状態が異常であると認められる者以外の者であること
(5) 税務署長から更正処分を受け、これに対して不服申立てを行って係争して
いる者でないこと
(2) 本件各年分についての右比準同業者の収入金額、所得金額及び所得率は、
別表5記載のとおりであり、これに基づいて本件各年分の平均所得率を算出する
と、別表5の平均欄記載のとおり、昭和五四年分は一五・〇六パーセント、昭和五
五年分は九・五〇パーセント、昭和五六年分は六・七〇パーセントとなる。
なお、法人同業者の所得金額については、原告がいわゆる個人の白色申告者である
ため、法人同業者の所得金額から、次の損金及び益金を除いて算出した。
(1) 法人の青色申告者の損益となるが、個人の白色申告者の収入金額及び必要
経費とならないもの
(2) 個人の青色申告者仁限り必要経費とされるもの
(3) 法人の損益とされるが、個人又は個人の白色申告者の収入金額又は必要経
費とならないもの
(4) 法人の益金とされるが、個人の事業所得の収入金額とならないもの
(二) 原告の主張について
原告は、長岡地区や三条地区と比較して下越地区(新潟市及び新発田市)の平均所
得率が極めて低く、特に昭和五五年分の場合は一〇パーセント以上の格差があると
ころ、右の格差が生じた理由は、下越地区の生コン圧送業者九者が昭和五三年から
昭和五七年当時、新幹線や関越自動車道の事業が一段落したこともあって、生コン
出荷数量が年々減少傾向となり、ポンプ車数が過剰状態にあったことによるもので
あり、右のような下越地区の生コン圧送業者の特殊事情を無視して、長岡及び三条
地区の所得率の高い業者とひとまとめにして所得率を計算することは不合理である
旨を主張している。
そこで、検討するに、証拠(乙二の一及び二、三の一及び二、四の一及び二、五の
一及び二)によれば、別表5の同業者番号の3、6及び8の同業者が新潟税務署管
内の事業者であり、同業者番号1及び2の同業者が長岡税務署管内の事業者であ
り、同業者番号4及び5の同業者が三条税務署管内の事業者であり、同業者番号7
の同業者が新発田税務署管内の事業者であることが認められる。そして、同一税務
署管内の事業者同士を対比してみると、同一税務署管内の事業者であっても、事業
者ごとにその所得率には差があるのみならず、新潟税務署管内の事業者であっても
安定して一〇パーセント前後の所得率を保持している事業者がいることが認められ
から、所得率に差が生じる原因は、事業所の所在地のいかんではなく、各事業者の
個別特殊性によるものと解される。
したがって、各事業者の個別特殊性を捨象して平均的な所得率を算出するために、
少数にすぎない新潟税務署管内の事業者のみならず、隣接する長岡税務署、三条税
務署及び新発田税務署の各管内の事業者の所得率をも求め、それらの事業者の所得
率を平均することによって生コン圧送業における同業者の平均所得率とすることに
は、合理性があると解される。
さらに、証拠(甲三四、証人P11)によれば、昭和五四年ないし昭和五六年にお
ける年度別生コン出荷数量は、下越地区が数量はもとより対昭和五三年度比率にお
いても中越地区を上回っており、生コン圧送業の景況は下越地区が中越地区よりも
良好な状態にあったと推認されることに鑑みると、原告の主張は失当である。
(三) 以上から、原告の所得金額を算出する目的で関東信越国税局長が選定した
比準同業者の選定基準は、業種の同一性あるいは事業所の近接性等の点において、
同業者の類似性を判別する要件として合理的なものであって、その選定に当たって
被告の恣意が介在する余地は認められない。また、右の比準同業者は、いずれも年
間を通じて事業を継続する青色申告者であって、その申告が確定していることに照
らすと、収入金額等の算出根拠となる資料の正確性も担保されているものというべ
きである。
そして、選定された同業者の数は、昭和五四年分につき六名、昭和五五年分につき
七名、昭和五六年分につき八名であり、いずれも同業者の個別特殊性を捨象し平均
化するに足りる数であると解される。
以上から、前記の平均所得率を適用して原告の本件各年分の生コン圧送業に係る事
業所得金額を推計することは、合理性があると認めることができる。
3 飲食業について
(一) 証拠(乙二の一及び二、証人P12)によれば、以下の事実が認められ、
右認定に反する証拠はない。
(1) 関東信越国税局長は、昭和六一年九月四日付けで、被告に対し、「訴訟事
件に関する資料の報告について」と題する通達を発し、新潟税務署管内に事業所を
有している酒場、スナック業を営む個人のうちから、昭和五六年分について、次の
(1)ないし(5)のいずれの基準にも該当する者全員の収入金額、所得金額及び
所得率の報告を求め、これを受けて被告は、関東信越国税局長に対し、右基準に適
合する該当者として、一九名の業者を比準同業者として、その収入金額、所得金額
及び所得率を報告した。
(1) 年を通じて主に酒場、スナック業を継続して営んでいた者であること
(2) 所得税青色申告決算書を提出していた者であること
(3) 災害等により、経営状態が異常であると認められる者以外の者であること
(4) 税務署長から更正処分を受け、これに対して不服申立てを行って係争して
いる者でないこと
(5) 年間の収入金額が一三〇〇万円以上五二〇〇万円未満の者であること
(6) 営業店舗が新潟市<地名略>ないし<地名略>、<地名略>、<地名略>
及び<地名略>の各<地名略>ないし<地名略>にのみあること
(2) 昭和五六年分の比準同業者の収入金額、所得金額及び所得率は、別表6記
載のとおりであり、これに基づいて平均所得率を算出すると、別表6の平均欄記載
のとおり、一一・一七パーセントとなる。
(二) 右認定事実によれば、原告の所得金額を算出する目的で関東信越国税局長
が選定した比準同業者の選定基準は、業種の同一性、事業所の近接性あるいは事業
規模の近似性等の点において、同業者の類似性を判別する要件として合理的なもの
であって、その選定に当たって被告の恣意が介在する余地は認められない。また、
右の比準同業者は、いずれも、年間を通じて事業を継続する青色申告者であって、
その申告が確定していることに照らすと、収入金額等の算出根拠となる資料の正確
性も担保されているものというべきである。
そして、選定された同業者の数は一九名であって、同業者の個別特殊性を捨象し平
均化するに足りる数であると解される。
なお、証拠(乙一の六)によれば、原告が昭和五五年中に飲食業を営んだのは、一
二月五日から同月末日までの期間にすぎなかったことが認められるから、前記の昭
和五六年の平均所得率を適用して原告の昭和五五年分の飲食業に係る事業所得金額
を推計することも許されると解される。
以上から、前記の平均所得率を適用して原告の昭和五五年分及び昭和五六年分の飲
食業に係る事業所得金額を推計することは、合理性があると認めることができる。
六 原告の実額の主張について
原告は、本件各年分の事業所得金額について実額によって算定すべき旨を主張して
いるので、以下、事業ごとに検討する。
1 建築、賃貸業について
原告が主張する本件各年分の建築、賃貸業に係る収入金額が論拠のないものである
ことは、前記四において認定した本件各年分の建築、賃貸業に係る収入金額との対
比から明らかである。
また、原告は、別表8記載のとおり、本件各年分の建築、賃貸業に係る必要経費を
主張する。別表8の記載の基礎となった収支計算書(乙一の二)は、売上帳などの
本件帳簿(乙一の三ないし五)に基づいて作成されたものであることは明らかであ
る。そして、証拠(証人N、原告本人)によれば、本件帳簿は、経理事務に不慣れ
な原告の妻Cが記帳したものであること、原告は、本件帳簿の記載の原始書類であ
る請求書、領収書あるいは納品書等の書類を保管していないことが認められる。右
認定事実、及び、前記四において認定した収入金額が本件帳簿に記載された収入金
額と大きく食い違うことに鑑みると、右帳簿の信用性は低く、その記載に基づいて
原告の建築、賃貸業に係る必要経費を認定することは不相当といわなければならな
い。
以上のとおり、原告が主張する実額をもって原告の本件各年分の建築、賃貸業に係
る所得金額を算定することはできないから、結局、右金額は推計の方法によって算
定せざるをえない。
2 生コン圧送業について
原告が主張する本件各年分の生コン圧送業に係る収入金額が論拠のないものである
ことは、前記四において認定した本件各年分の生コン圧送業に係る収入金額との対
比から明らかである。
原告は、昭和五四年分及び昭和五五年分の生コン圧送業に係る必要経費について、
裏付け資料が散逸しているために算出できないとしているのであるから、原告の昭
和五四年分及び昭和五五年分の生コン圧送業に係る所得金額を算定するには、推計
の方法によらざるをえないことは明らかである。
原告は、昭和五六年分の生コン圧送業に係る必要経費は別表9の営業費・一般管理
費の欄記載のとおりである旨を主張している。証拠(甲二〇ないし二三、証人N)
によれば、別表9の基になった損益計算書(甲二〇)は、主として、新潟相互銀行
近江支店の隆泉コンクリートポンプ名義の当座預金口座の取引明細表(甲二三)
に、当時原告方で経理を担当していた者がメモ書きをしていた記載に基づいて、証
人Nが作成したものであることが認められろ。しかしながら、右の取引明細表に記
載されているのは全くのメモ書きにすぎないうえ、証人Nは、その記載を裏付ける
べき請求書、領収書あるいは納品書等の原始書類に全く当たることなく、右の損益
計算書を作成していることなどに鑑みると、右損益計算書の信用性は低く、その記
載に基づいて原告の生コン圧送業に係る必要経費を認定することは不相当といわな
ければならない。
以上のとおり、原告が主張する実額をもって、原告の本件各年分の生コン圧送業に
係る所得金額を算定することはできないから、結局、右金額は推計の方法仁よって
算定せざるをえない。
3 飲食業について
原告は、
昭和五五年分及び昭和五六年分の飲食業による営業利益は別表10の1及び10の
2記載のとおりである旨を主張している。
別表10の1及び10の2が損益計算書(乙一の六)に基づいて作成されたもので
あることは明らかである。しかしながら、証拠(証人N)によれば、右損益計算書
は、原告が経営する飲食店の従業員が記帳していたノートに基づいて作成されたも
のであるが、そのノートの所在は不明であることが認められる。したがって、右の
ノート及び損益計算書の記載内容の正確性を確認しえないのであるから、右損益計
算書の信用性は低く、その記載に基づいて原告の飲食業による営業利益を認定する
ことは不相当といわなければならない。
以上のとおり、原告が主張する実額をもって、原告の昭和五五年分及び昭和五六年
分の飲食業に係る所得金額を算定することはできないから、結局、右金額は推計の
方法によって算定せざるをえない。
七 原告の事業所得金額
1 昭和五四年分
(一) 建築、賃貸業に係る所得金額
前記四-(一)の原告の建築、賃貸業に係る収入金額六億〇五七六万〇五二七円
に、同業者率三・二六バーセント(別表4の昭和五四年分)を乗じて得た一九七四
万七七九三円である。
(二) 生コン圧送業に係る所得金額
前記四1(二)の原告の生コン圧送業に係る収入金額七七一九万四六八二円に、同
業者率一五・〇六パーセント(別表5の昭和五四年分)を乗じて得た一一六二万五
五一九円である。
(三) 事業所得金額
右(一)と(二)の合計額から、当事者間に争いのない事業専従者控除額四〇万円
を控除した三〇九七万三三一二円が原告の昭和五四年分の事業所得金額となる。
2 昭和五五年分
(一) 建築、賃貸業に係る所得金額
前記四2(一)の原告の建築、賃貸業は係る収入金額七億七三〇二万一八八三円
に、同業者率四・〇八パーセント(別表4の昭和五五年分)を乗じて得た三一五三
万九二九二円である。
(二) 生コン圧送業に係る所得金額
前記四2(二)の原告の生コン圧送業に係る収入金額七九四七万六三四〇円に、同
業者率九・五〇パーセント(別表5の昭和五五年分)を乗じて得た七五五万〇二五
二円である。
(三) 飲食業に係る所得金額
前記四2(三)の原告の飲食業に係る収入金額二五〇万四〇〇〇円に、同業者率一
一・一七パーセント(別表6)を乗じて得た二七万九六九六円である。
(四) 事業所得金額
右(一)ないし(三)の合計額から、当事者間に争いのない事業専従者控除額四〇
万円を控除した三八九六万九二四〇円が原告の昭和五五年分の事業所得金額とな
る。
3 昭和五六年分
(一) 建築、賃貸業に係る所得金額
前記四3(一)の原告の建築、賃貸業に係る収入金額七億四四〇六万二〇六一円
に、同業者率三・九五パーセント(別表4の昭和五六年分)を乗じて得た二九三九
万〇四五一円である。
(二) 生コン圧送業に係る所得金額
前記四3(二)の原告の生コン圧送業に係る収入金額六一八七万六〇七〇円に、同
業者率六・七〇パーセント(別表5の昭和五六年分)を乗じて得た四一四万五六九
六円である。
(三) 飲食業に係る所得金額
前記四3(三)の原告の飲食業に係る収入金額二五八四万九〇〇〇円に、同業者率
一一・一七パーセント(別表6)を乗じて得た二八八万七三三三円である。
(四) 事業所得金額
右(一)ないし(三)の合計額から、当事者間に争いのない事業専従者控除額四〇
万円を控除した三六〇二万三四八〇円が原告の昭和五六年分の事業所得金額とな
る。
八 結論
右七の認定によれば、本件各更正は原告の本件各年分の事業所得の金額の範囲内に
おいてなされたものであって、これを上回るものではないから、何らの違法もな
く、したがって、これに伴う本件各決走にも、違法はない。
よって、原告の本訴請求はいずれも理由がない。
別表1~3及び7~10(省略)

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