弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 本件抗告理由の要旨は、抗告人(仮処分債権者)は相手方(仮処分債務者)か
ら、同人が別紙目録記載の施設を利用して東京都中央卸市場本場生鮮水産部におい
て仲買業務を行う権利を、昭和三十一年六月三十日代金百七十万円で買受け、相手
方は抗告人に右施設を昭和三十二年八月中に引渡すことを約し、抗告人は右代金を
完済した、すなわち抗告人は相手方の有する右仲買権を買受けた結果、相手方にた
いし、右市場施設の引渡請求権を取得したのであるが、相手方は右売買契約を無視
し抗告人の取得した右施設の使用権をさらに他に売却しようとしているので、抗告
人は右市場施設の引渡請求権の執行を保全するため、同施設の執行吏保管ならびに
占有移転禁止の仮処分申請をしたところ、原裁判所は右市場施設についての仲買人
の使用権は私法上の取引の目的となり得ないもので、抗告人と相手方との間に仲買
権の売買契約がなされても、これをもつて抗告人は右施設の使用権を取得すること
なく、したがつて相手方にたいしこれが引渡を求むる権利もないとして、右仮処分
の申請を却下した、しかし本件仲買権の売買契約は、(1)相手方は東京都に仲買
人廃業届を提出すべし(2)相手方は抗告人と連署で名義書換申請を東京都になす
べし(3)仲買業務場所である相手方占有の本件施設を抗告人に引渡すべしという
内容を有する契約で、かかる契約は東京都にたいしては対抗力がないとしても当事
者間においては有効である、すなわち右(1)(2)の契約内容が任意に履行せら
れ、東京都がこれを受理し、認容すれば、抗告人に仲買人として本件施設を使用す
る権利は円満に発生するし、東京都がこれを拒否する場合は、右売買契約の目的と
するところを都に強制することはできずかえつて都は相手方にたいし仲買業務許可
の取消などの制裁を課することができるまでのことである、当事者はこのことを諒
承の上本件取引をしたので少くとも抗告人は本件仲買権の売買契約によつて相手方
にたいし相手方の本件市場施設の占有を抗告人に移転すべき請求権を取得したもの
というべきであるからその権利の保全の必要ある以上抗告人の本件仮処分の申請は
許可せらるべきである、よつてこれを却下した原決定の取り消しを求める、という
にある。
 <要旨>これにたいする当裁判所の判断はつぎのとおりである。昭和二十三年東京
都条例第一四七号東京都中央卸売市場業務規程第四三条、第四四条、第四六
条第二項によると、右市場において仲買業務を行うものその他が市場施設を使用す
るには知事の指定を受けることを要し、指定を受けた者はいかなる名義をもつてし
ても、市場施設の転貸または他人に使用させることを禁止され、これに違反した場
合は知事は使用指定の取消、制限その他の措置を命じ、かつ、これを強制的に執行
できることが明白である。右規定の趣旨は中央卸売市場が公衆の重要な食料品その
他の集散の場であつて、そこの業務が円滑迅速かつ衛生的に行われることは公衆の
食生活等の好条件を保つために重要であるという事情から、ひとつの公益的施設で
あるとみて、市場施設使用者の個性を重要視し、経営能力、信用、資力、誠実さな
どにつきいやしくも難点ある者には絶対に市場取引に関与する機会を与えないとい
うのであると解すべきであり、したがつて、みだりに使用者の変更を許さぬ趣旨で
あるといわなければならない。
 してみれば私人間で市場における仲買人の権利を売買することによつて市場施設
の使用権を移転せんとする契約は公の秩序に関する法規に違背し無効のものという
べく、したがつて抗告人は本件施設の引渡請求権を取得するに由ないものである。
抗告人は本案の請求権を有しないこと法律上明かであるから本件仮処分の申請を却
下した原決定は相当である。よつて主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 藤江忠二郎 判事 谷口茂栄 判事 満田文彦)

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