弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人須賀利雄の上告趣意は、後記のとおりであつて、当裁判所はこれに対し次
のように判断する。
 原判決は、被告人Aの弁護人小川哲二郎同須賀利雄の主張した、共同被告人Bの
司法警察員に対する供述調書及び検事に対する供述調書は、第一審公判において被
告人A及びその弁護人が証拠調につき不同意を表明したので被告人Aの関係につい
ては証拠に採れないとの控訴趣意に対し、刑事訴訟法三二一条一項の「被告人以外
の者」中には、共犯たる共同被告人を含まず、また同法三二二条一項の「被告人」
中には、共犯たる共同被告人を含むものと解すべきであるから、第一審公判廷にお
いて、被告人Aと共犯関係にあるものとして共同審理された被告人Bの司法警察員
に対する第一回乃至第三回供述調書及び同人の検事に対する供述調書を刑訴三二二
条の趣旨に則り被告人Aの関係について犯罪認定の資料に供したとしても、その訴
訟手続には法令の違反はない旨判示したこと、所論のとおりである。
 論旨は、原判決の右判断は論旨二(1)の当裁判所第三小法廷判決及び(2)(
3)の札幌高等裁判所判決と相反すると主張するので調べてみると、当裁判所の所
論判決は刑訴応急措置法一〇条三項の解釈に関するものであつて現行刑事訴訟法に
関するものではないから、本件の場合に適切な判例ではない。ところが、所論昭和
二五年三月一五日言渡の札幌高等裁判所判決(当裁判所事務総局刑事局昭和二五年
九月発行高等裁判所刑事判決特報六号一八五貞以下参照)及び昭和二五年七月一〇
日言渡の同裁判所判決(高等裁判所判例集三巻二号三一〇頁以下参照)は、いずれ
も刑訴三二一条の解釈に関する判例であつて、共犯者たる被告人等相互間の関係に
おける他の被告人の検事に対する供述調書は刑訴三二一条一項二号の供述調書であ
ると判断しており、これら札幌高等裁判所の判決は、原判決に先つて言渡されたも
のであるから、原判決は右高等裁判所のこれらの判例と相反する判断をしたことゝ
なり、刑訴四〇五条三号後段に規定する最高裁判所の判例がない場合に控訴裁判所
たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたことに当るものと言わなければならな
い(もつとも、昭和二七年一二月一一日当裁判所第一小法廷決定は、相被告人の検
察官に対する供述調書は被告人に対する関係においては刑訴三二一条一項二号の書
面であると判示し、前記札幌高等裁判所判決と同一の見解を示しているが、本件上
告申立当時においては、右決定は未だなされていなかつたのであるから、本件の場
合が刑訴四〇五条三号後段に当ることを妨げるものではない)。そして、当小法廷
もまた前記第一小法廷及び札幌高等裁判所の見解を正当であると認める。されば被
告人Aの犯罪を認定するにつき前記共同被告人Bの供述調書を刑訴三二二条により
証拠に供することは違法であつて、この点に関する原判決の判断は誤つているもの
と言わなければならない。
 しかしながら本件において第一審判決は、被告人A本人の自白を録取した司法警
察員並びに検事に対する供述調書(それが任意の供述を録取したものであることは
原判決の説示するところである)を補強する証拠として、証拠の標目に挙げている
ように多くの証拠を引用しているのであつて、本件で問題となつた前記Bの供述調
書を除外しても、その他の証拠によつて被告人A本人の自白は補強され、判示事実
は優に認定し得られるのであるから、前記判例違反の事由は刑訴四一〇条一項但書
にいう判決に影響を及ぼさないこと明らかな場合に当り、原判決を破棄する事由と
はならない。弁護人は、論旨一(1)(2)(3)において違法な証拠を他の証拠
と綜合して犯罪事実を認定した場合にその違法は判決に影響を及ぼすものであると
した当裁判所の判例を引用しているが、これらの判例はいずれも旧刑事訴訟法時代
の判例であつて、現行刑事訴訟法に関するものではないから本件に適切でない。現
行刑事訴訟法下においては、違法な証拠を除きその余の証拠を綜合して犯罪事実を
認めることができる場合にはその違法は判決に影響を及ぼさないものであるとする
当裁判所の判例(昭和二六年(あ)四六七七号同二七年三月六日第一小法廷判決、
昭和二五年(あ)二四九二号同二七年九月三〇日第三小法廷判決参照)がある。
 よつて、本件上告を棄却すべきものと認め、刑訴四一四条三九六条三七九条に従
い、裁判官全員の一致した意見で主文のとおり判決する。
 検察官 市島成一出席
  昭和二八年七月七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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