弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人松岡浩、同鈴木敏夫の上告理由一について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用するこ
とができない。
 同二について
 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 上告人A1自動車株式会社(以下「上告人A1」という。)及び上告人A2
株式会社(以下「上告人A2」という。)は、いずれも自動車の販売を業とする会
社である。訴外有限会社D商店(以下「D」という。)は、自動車の修理販売を業
とする会社である。
 2 上告人A1は、Dがユーザーに転売することを了承のうえ、自らの営業活動
の一環として、かなり以前からDに対しその所有する自動車を継続的に販売してい
た。同上告人は、昭和五一年六月から一一月にかけてDに対し、同社の販売用に本
件各中古自動車を、その所有権を代金完済まで留保し、代金支払方法は二回ないし
九回の分割払の約定で売渡し、Dは、各割賦金支払のために同上告人にあてて約束
手形を振り出した。同上告人は、右売買契約の際、Dがユーザーに転売するために
買い人れることを承知し、かつ右転売を容認していた。
 3 上告人A2も従前からDに対し、同社がユーザーに転売することを知りつつ、
自らの営業活動の一環として自動車を販売していた。同上告人は、昭和五一年九月
から一〇月にかけて、Dに対し、同社の販売用に本件各新車を、その所有権を代金
完済まで留保し、代金支払方法は一括払の約定で売り渡し、Dは右支払のために小
切手を振り出した。右売渡にあたり、同上告人は、Dから後記の転売先まで知らさ
れ、転売を容認していた。
 4 その後Dは、本件各自動車を被上告人らユーザーに、それぞれ所有権留保の
特約を付することなく転売し、各被上告人は、それぞれその引渡しを受け、代金を
完済した。
 5 被上告人らは、上告人らのDに対する所有権留保の特約の事実を知らず、ま
た、これを知るべきであつたという特段の事情もない。
 6 Dは、昭和五一年一二月に倒産し、上告人らに対する本件各自動車の代金は
支払不能となつた。そこで、上告人A1は、昭和五二年五月一〇日、上告人A2は、
昭和五二年二月九日、それぞれDに対し、本件各自動車の売買契約解除の意思表示
をした。
 右事実関係によると、デイーラーである上告人らは、サブデイーラーであるDに
対し、営業政策として、ユーザーに対する転売を容認しながら所有権留保特約付で
本件各自動車を販売し、ユーザーである被上告人らは、右所有権留保特約を知らず、
また、これを知るべきであつたという特段の事情なくして本件各自動車を買い受け、
代金を完済して引渡しを受けたのであつて、かかる事情の下において、上告人らが
Dとの右売買契約を代金不払いを理由として解除したうえその留保所有権に基づい
て被上告人らに対し本件各自動車の返還を請求することは、本来上告人らにおいて
サブデイーラーであるDに対して自ら負担すべき代金回収不能の危険をユーザーで
ある被上告人らに転嫁しようとするものであり、かつ、代金を完済した被上告人ら
に不測の損害を被らせるものであつて、権利の濫用として許されないというべきで
ある。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、論旨は、採用す
ることができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    宮   崎   梧   一
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       幸   次

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