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判 決
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 反訴被告は反訴原告に対し,114万8997円とこれに対する平成1
7年2月22日から支払いずみまで年5%の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は本訴反訴を通じ原告(反訴被告)の負担とする。
4 この判決は第2項にかぎり仮執行をすることができる。
事実および理由
第1 請求
 1 本訴
 ア 被告らは原告に対し連帯して218万3924円と
  うち110万円に対する平成16年1月1日から
  うち108万3924円に対する平成15年12月28日から
いずれも支払いずみまで年5%の割合による金員を支払え。
 イ 被告Aは原告に対し16万円とこれに対する平成16年1月24日から支払
いずみまで年5%の割合による金員を支払え。
 2 反訴
 主文第2項と同じ。
第2 当事者の主張
【本訴】
 1 請求原因
 (1) 被告Bに対する貸付け(本人契約)と被告Aの連帯保証
 ア 原告は被告B(以下「被告B」という)に対し弁済期を定めずに下記のとお
り金銭を貸し付けた。(i)-(iv)については利息月1%という約定があった。
  (i) 平成14年 2月20日  120万円
  (ii)       3月 1日   30万円
  (iii)       5月27日   45万円
  (iv)       8月 1日   25万円
  (v) 平成15年 7月15日   58万円
  (vi)       7月15日   52万円
 イ 被告A(反訴原告。以下「被告A」という)は,上記のそれぞれの日に,被
告Bの原告に対する貸金債務を同被告と連帯して保証した。
 (2) 請求原因(1)の予備的主張--有権代理
 ア 原告は被告Aに対し上記(1)アのとおりに金銭を貸し付けた。
 イ 被告Aはそれぞれの貸付時に被告Bのためにすることを示した。
 ウ 被告Bは被告Aに対し,おそくとも平成14年2月20日までに,原告から
金銭を借り入れるための代理権を包括的に与えた。
 エ 上記(1)イと同じ。
 (3) 被告Bとの間の準消費貸借(本人契約)
 ア 原告と被告Bは,平成14年12月27日,上記貸金(i)-(iv)の4口の元利
合計288万円(元金合計220万円と経過利息・将来利息合計68万円)を下記
の約定で消費貸借の目的とすることを合意した(以下「貸金A」という)。
弁済方法   平成15年1月から毎月12万円ずつ24回にわたって支払
う(ただし,平成15年1月,翌月分の分割金は11万8000円とし,翌々月分
以降の分割金は11万6000円とすることを合意した)。
期限の利益  分割金の支払いを1回でも怠ったときは期限の利益を喪失す
る。
 イ 原告と被告Bは,平成15年7月15日,上記貸金(v)と(vi)の貸付けの直
後,この貸金2口の元金合計110万円を下記の約定で消費貸借の目的とすること
を合意した(以下「貸金B」という)。
弁 済 期  平成15年12月31日
利   息  月1%
 ウ 被告Aは,上記ア,イのそれぞれの準消費貸借契約時に,被告Bの原告に対
する貸金債務を同被告と連帯して保証した。
 (4) 請求原因(3)の予備的主張--追認
 ア 原告は被告Aに対し上記(1)アの(i)-(iv)のとおり金銭を貸し付けた。
 イ 被告Aはそれぞれの貸付時に被告Bのためにすることを示した。
 ウ 原告は被告Aとの間で上記(3)アのとおり準消費貸借の合意をした。
 エ 被告Aは上記ウの準消費貸借契約時に被告Bのためにすることを示した。
 オ 被告Bは,平成15年3月9日,原告の被告Bに対するそれまでの貸付けと
上記ウの準消費貸借をすべて追認した。
 カ 被告Aは,上記ウの準消費貸借契約時に,被告Bの原告に対する貸金債務を
同被告と連帯して保証した。
 (5) 請求原因(1)・(3)の予備的主張--借主は被告A
 上記貸金(i)-(vi),貸金A・Bの借主は,いずれも被告Bではなく被告Aであっ
た。
 (6) 被告Aに対する貸付け
 原告は被告Aに対し弁済期を平成16年1月23日と定めて下記のとおり金銭を
貸し付けた。
  (vii) 平成16年 1月16日   16万円(以下「貸金C」という)
 (7) 弁済
 貸金Aについては下記のとおり弁済があったが,平成15年11月分の支払いが
なかったので,平成15年11月30日までに期限の利益が失われた。
平成15年 1月27日  12万円
      3月 9日  11万8000円
      3月27日  11万6000円
      4月25日  11万6000円
      5月27日  11万6000円
      6月30日  11万6000円
      7月25日  11万6000円
      8月27日  11万6000円
      9月29日  11万6000円
     10月27日  11万6000円
     12月27日  11万6000円
 (8) まとめ
 原告は被告らに対して以下のとおり請求する。
 ア 貸金A
 被告Bに対しては準消費貸借による貸金返還請求権に基づき,被告Aに対しては
その連帯保証債務履行請求権に基づき(予備的には,被告Aのみに対して準消費貸
借による貸金返還請求権に基づき),108万3924円とこれに対する弁済期の
後である平成15年12月28日から支払いずみまで約定の範囲内である民法所定
の年5%の割合による遅延損害金(別表のとおり,もとの貸金(i)-(iv)を基準にし
て約定の範囲内の年5%の割合で利息・損害金を計算したので,準消費貸借の目的
とした利息分68万円の一部は切り捨てられている)
 イ 貸金B
 被告Bに対しては準消費貸借による貸金返還請求権に基づき,被告Aに対しては
その連帯保証債務履行請求権に基づき(予備的には,被告Aのみに対して準消費貸
借による貸金返還請求権に基づき),110万円とこれに対する弁済期の翌日であ
る平成16年1月1日から支払いずみまで約定の範囲内である民法所定の年5%の
割合による遅延損害金
 ウ 貸金C
 被告Aに対して貸金返還請求権に基づき16万円とこれに対する弁済期の翌日で
ある平成16年1月24日から支払いずみまで民法所定の年5%の割合による遅延
損害金
 2 請求原因に対する認否
 (1) 貸主
 貸金C以外のすべての貸付け・準消費貸借を通じて,原告が貸主であることは否
認する。原告は「有限会社山梨中央商事」の社員を装い,同社が貸し付けるという
意思表示をしており,原告個人が貸し付けるという意思表示はしていなかった。
 
 (2) 被告Bに対する貸付け・準消費貸借
 請求原因(1),(3)の事実はすべて否認する。原告は,借主が被告Aであり,被告
Bでないことを知っていた。
 請求原因(2),(4)は,被告Aに対する貸付けの事実(請求原因(2)アの事実)は反
訴請求原因記載の限度で認め,それ以外の事実はすべて否認する。
 (3) 被告Aに対する貸付け・準消費貸借
 請求原因(5)は,原告が被告Aに対して貸付けをしたことは反訴請求原因記載の限
度で認めるが,被告Aが請求原因(3)の準消費貸借の合意(貸金A・B)をしたこと
は否認する。
 請求原因(6)は,平成16年1月16日に交付を受けた金銭が13万円であり,同
月23日に16万円を弁済するという合意があったという限度で認める。
 請求原因(7)は,反訴請求原因記載の限度で認める。
 3 抗弁(別紙「計算書C」の「反訴原告支払金」欄参照)
 (1) 被告Aの弁済 
 被告Aは,原告からの借入金について下記のとおり弁済した。
平成14年6月~11月  毎月末日までに1万円ずつ(計6万円)
平成15年 1月27日  12万円
      2月28日  50万円
      3月27日  11万6000円
      4月25日  11万6000円
      5月27日  11万6000円
      6月30日  11万6000円
      7月25日  11万6000円
      8月27日  11万6000円
      9月12日  25万円
      9月29日  11万6000円
     10月27日  11万6000円
     12月26日   6万円
     12月27日  11万6000円
 
 (2) 被告Bの弁済
 被告Bは,被告Aの原告からの借入金の弁済として,平成15年3月9日,原告
に50万円を交付した。
 4 抗弁に対する認否
 弁済は,請求原因(7)の限度で認める。
【反訴】
 1 請求原因
 (1) 金銭の授受
 原告は被告Aに対し,平成14年5月27日以降,別紙計算書Cの「反訴被告交
付金」欄記載のとおり,弁済期を定めずに金銭を貸し付け,被告Aは同「反訴原告
支払金」欄記載のとおりに弁済をした。ただし,平成15年3月9日の50万円の
弁済は,被告Bが被告Aのために弁済したものである。
 
 (2) 債権譲渡
 被告Bは,平成15年3月9日の50万円の弁済によって原告に対して取得した
不当利得返還請求権(すくなくとも12万4997円)を平成17年7月6日まで
に被告Aに譲渡し,これを平成17年7月13日の本件口頭弁論期日において原告
に通知した。
 (3) 利息計算
 上記(1)の金銭の授受につき,原告の主張にあわせて月1%の利息の約定があった
ものとして,かつ上記(2)の債権譲渡を前提として利息の計算をしたのが別紙計算書
Cであり,これによると平成16年1月16日の時点で104万8997円の過払
いが生じている。
 
 (4) 不法行為
 原告は,被告Aに対して金銭を貸し付ける際,架空の「有限会社山梨中央商事」
の社員になりすまし,その元利金の返済を求める際には,「ちゃんと払ってくれな
いと,おれの手を離れて,取立ての若い連中が家に行くよ」「石和(町)の事務所
には気の荒い連中ばかりいるから,来ないほうがいい」「おれから離れれば回収の
ほうへいってしまうので,おれは話することはない。脅されようが何されようがお
れが知ったことではない」「おれだからこういう話ができるけど,ふざけるなと言
われる。はっきり言って。うちの回収の連中が行けば,能書きを言う前に,指そろ
えな,と言われますよ」などと述べて被告Aを脅迫した。これは恐喝行為である。
 原告は貸金業の規制等に関する法律(貸金業法)3条1項の登録を受けていない
のに貸金業を営む表示をし,反復継続して被告Aに対して貸付けをしたのだから,
原告の行為は同法11条1項,2項に違反する犯罪行為である(同法47条2号,
49条2号)。
 この不法行為によって被告Aが受けた精神的苦痛を慰謝する金額は10万円は下
らない。
 (5) まとめ
 被告Aは原告に対して以下の請求をする。
 ア 不当利得
 不当利得返還請求権に基づき104万8997円とこれに対する請求(反訴状送
達)の翌日である平成17年2月22日から支払いずみまで民法所定の年5%の割
合による遅延損害金
 イ 不法行為
 不法行為に基づき10万円とこれに対する不法行為の後(反訴状送達の日の翌
日)である平成17年2月22日から支払いずみまで民法所定の年5%の割合によ
る遅延損害金
 2 請求原因に対する認否
 (1) 請求原因(1)の金銭の授受は,本訴請求原因記載の限度で認める。
 (2) 請求原因(2),(3)は争う。
 (3) 請求原因(4)は,原告が「有限会社山梨中央商事」と表示していたこと,貸
金業の登録をしていないことは認めるが,それ以外の事実は否認し,主張は争う。
第3 当裁判所の判断
 1 原告は貸主か
 原告は,被告らに金を貸したのは原告自身であると主張するのに対し,被告ら
は,原告主張の貸金Cについてはたしかに原告自身から借りたものだが(ただし交
付額には争いがある),それ以外はすべて「有限会社山梨中央商事」から借りたも
のであると主張するので,この点について最初に検討する。
 (1) 認定事実
 争いのない事実と証拠(かっこ内に掲げたもの)により以下の事実を認める。
 ア 有限会社山梨中央商事という会社は存在しない。原告はあくまでも自分個人
として人に金を貸していたが,つねに自分は有限会社山梨中央商事の社員であると
名乗っていた。(原告,被告A) 
 イ 被告Aは,知人の紹介で平成13年に原告と知りあった。その知人の説明に
よれば,原告は有限会社山梨中央商事の社員であり,この会社から金を借りること
ができるということだった。実際に会った際も,原告は,自分は有限会社山梨中央
商事の社員であると名乗り,以後,有限会社山梨中央商事として被告Aに対して金
を貸し,返済を受けた。原告が被告Aに渡した領収書には「登録番号 山梨県知事
(1) 第00893号 (有)山梨中央商事」という印が押してあった。(乙1
の1~・,2,原告,被告A)
 ウ もっとも,被告Aは,有限会社山梨中央商事という会社の事務所を訪ねたこ
とはなく,この会社が実在するかどうかを確認しようとしたこともなかった。原告
との間の金のやりとりは,公園や駐車場あるいは被告Aの自宅で行われ,金の貸し
借りについて実質的な話を被告Aとするのもつねに原告であった。(乙16,原
告,被告A)
 エ 平成16年1月16日に原告が被告Aに金を貸したとき(原告主張の貸金C
に相当するもの),原告は,それまでとは異なって,有限会社山梨中央商事ではな
く原告個人が貸すのだと説明し,被告Aもこれに納得して借用書を書いた。以後,
原告は,弁護士が介入するまで,被告Aに対して返済を要求する際,有限会社山梨
中央商事が貸した分と原告自身が貸した分とを明確に区別して返済を要求してい
た。(甲4,乙18,19,原告,被告A)
 (2) 判断
 上記の事実によれば,原告は,有限会社山梨中央商事という会社のために被告A
に対して金を貸すなどというつもりは毛頭なく,ただ,返済を要求する際に都合が
いいからという理由から,有限会社山梨中央商事という名称を利用していたにすぎ
ないと認めることができる。一方,被告Aも,有限会社山梨中央商事という会社が
実在するかどうかを確認しようとすらしておらず,終始原告のみとの間で金の貸し
借りの話をしていたのであるから,被告Aにとって,貸主が有限会社山梨中央商事
であるか原告個人であるかには重要な意味はなかったと判断できる。以上による
と,原告主張の貸金Cに相当するもの以外の原告と被告Aの間の金の貸し借りは,
すべて「有限会社山梨中央商事こと原告」と被告Aの間で行われたと認められる。
すなわち,貸主はすべ
て原告個人である。被告らの主張は採用しない。
 2 被告Bは借主か
 原告は,第1次的に,その主張する貸金(i)-(vi),貸金A・Bの借主はすべて被
告Bであって被告Aではないと主張する。これに対して被告らは,被告Bが借主と
なったことは一度もないと主張するので検討する。
 (1) 認定事実
 証拠(かっこ内に掲げたものと乙16,17,原告,被告A,被告B)により以
下の事実を認める。
 ア 平成13年に知りあって以来,原告と被告Aは金の貸し借りをめぐって何度
も面会した。被告Aは,生活費の不足などから金を必要としていたが,以前に債務
整理をしていたためにサラ金などを利用することができず,また,夫である被告B
にも生活費の不足を言い出すことができなかったため,困窮していた。そんなお
り,知人の紹介で原告と知りあい,金を借りるようになったのであった。
 イ 被告Aは,被告Bに迷惑をかけられないという気持ちがあったため,原告に
対し,自分個人として借金を申し込んだのであるが,原告は(原告主張の貸金Cに
相当するものはのぞく),「便宜上だから」「ちゃんと返済してくれれば問題ない
から」などと述べたうえ,借用証書上の借主は夫の被告Bとし,被告Aは連帯保証
人としてこれに署名するよう求め,また,被告Aと被告Bの印鑑登録証明書を原告
に交付するよう求めた。被告Aは,被告Bに内緒で被告Bの実印を持ち出し,また
印鑑登録証明書をとって原告に渡した。借用証書の署名は,被告Bの分も被告Aの
分も被告Aがした。(甲1の1~3,2の1~3,3,5の1~3,6の1~3)
 ウ 被告Aは,原告に対する返済金をなんとか自分で工面していたが,平成15
年2月になって返済できなくなり,息子に相談してその義父から50万円を工面し
てもらった。これがきっかけで被告Aの借金が被告Bに発覚した。被告Bは被告A
を問いただし,原告へ返済しなければならない借金のことを聞き出した。被告A
は,息子の義父からの50万円のほかに50万円,合計で100万円を返済しなけ
ればならないと説明した。本当は,原告と被告Aの間では,ほかにもまだ返済すべ
きものと認識していた借金があったのであるが,被告Aは被告Bに対する遠慮から
全部を打ち明けることができなかった。
 被告Bは,兄から50万円を借り,これですべてを清算するため,原告に会うこ
とにした。平成15年3月9日,原告が被告らの自宅を訪れ,被告Bと初めて面会
した。被告Bは,「もう貸さないでくれ」と念を押し,これで最後というつもりで
50万円を原告に交付した。(乙13,15)
 エ しかし,その後も被告Aは被告Bに内緒で原告への返済を続け,金を借り入
れた。借入れの際は,従来と同様,借用証書上の借主は被告Bとし,被告Aはその
連帯保証人となったが,被告Aは当然このことを被告Bに隠していたし,原告も被
告Bに直接確認しようなどと思わず以前と同じ処理をした。(甲3,6の1~3)
 オ 平成16年2月初め頃,被告Aが平成15年3月9日の後にも原告から金を
借り入れ,その返済でどうにもならなくなっていることが被告Bに発覚した。被告
Bは衝撃を受けて一時家出する騒ぎとなった。この騒動の結果,消費者相談センタ
ーに相談に行くなどして,被告Aはまもなく本件被告ら訴訟代理人弁護士に事後処
理を委任した。(乙15)
 (2) 判断
 上記の事実によれば,被告Bが原告からの借金の借主としての行動を一度たりと
もとっていないことは明らかである。原告主張の貸金Cに相当するものをのぞい
て,借用証書上の借主が被告Bとなっているのは事実であるが,実際に金の貸し借
りの話をしたのも,金のやりとりをしたのも,原告と被告Aの間だけである。借用
証書上の被告B名義の署名をしたのは被告Aであるし,被告Aも,原告も,これは
あくまでも形だけのものであることを承知していた。
 これらのことを前提にすると,被告Bが借主として原告と契約したとはとうてい
認めることができない。被告Bが被告Aに対して借入れの代理権を与えたと認める
こともできないし,被告Aのした借入れが自分に帰属することを被告Bが追認した
と認めることもできない。被告Bはおよそ借主にはなりえないから,被告Bが借主
であることを前提とする原告の主張はすべて理由がない。
 その反面,ことの実質に照らし,借主は被告Aであると認めることができる。し
たがって,以降,被告Aが借主であることを前提に,その貸し借りと弁済の経過に
ついて検討する。
 3 原告と被告Aの間の貸金関係
 (1) 事実の認定
 原告と被告Aの間の貸し借りと弁済の経過について,両者の供述は鋭く対立す
る。原告は基本的にその主張にそった供述をするのに対し(もっとも,以下に述べ
るとおり,その供述は一貫していない),被告Aは被告らの主張にそった供述をす
る。当裁判所は,以下の理由から,被告Aの供述を採用し,原告の供述を排斥す
る。
 ア 原告の供述が信用できない理由
 a 原告は,その主張する金の貸し借りと弁済について証拠として残っているもの
は本件訴訟で提出されたものだけであると供述する。そうすると,まず,その主張
する貸金・,④については客観的な証拠が欠落していることになる。借用証書を作
成するにあたり,実印を押捺させ印鑑登録証明書の交付まで受けるという慎重な手
続をとっていながら,その客観的な記録がまったく残っていないというのは不可解
である。
 b 原告の主張する貸金の経過は,本件訴訟にいたるまで変遷を重ねており(乙7
の1・2,8の1・2,9の1・2),本人尋問の中においても,原告の供述には
首尾一貫しないところが残る。また,貸し借りの経過についての原告の説明は,と
おりいっぺんのもので具体性に欠ける。これらの事情は原告の供述全体の信用性を
疑わせる。
 c 被告Aは,平成16年2月10日頃に原告との間で交わした電話での会話内容
を録音していた(乙18,19,原告,被告A)。この会話内容は,本件訴訟にお
ける原告の主張・供述とあいいれない。
 d 原告は,貸金業の登録を受けていないにもかかわらず(争いがない),「有限
会社山梨中央商事」の社員を名乗って金の貸付行為をし,被告Aに渡した領収書に
は「登録番号 山梨県知事(1) 第00893号 (有)山梨中央商事」という
表示までしていた。これは貸金業法11条1項,2項に違反する犯罪行為(同法4
7条2号,49条2号)に該当する疑いが強い。すなわち,原告は,すくなくとも
金の貸付けに関しては自分の利益のためなら相手を惑わすことや法に触れかねない
ことでも平気で行う人物であり,まさにその金の貸付けが問題となっている本件訴
訟におけるその供述は全体として信用性を欠くというほかない。
 イ 被告Aの供述を信用する理由
 a 金のやりとりに関する被告Aの供述は,その全部ではないが多くの部分に何ら
かの裏づけがある(乙10の1~3,11の1~4,12の1・2,13ないし1
5)。その供述に一致する借用証書や領収書が全部は残っていないのは事実である
が,「原告は実際に被告Aに渡した金額よりも大きい金額の借用証書を作成した」
「原告の要求する返済額全額を返済できなかった場合,領収書はもらえなかった」
などの被告Aの供述は,継続的な貸し借りをしている貸主と借主の力関係からして
それほど不自然なものではなく,借用証書や領収書が全部残っていないことをもっ
て被告Aの供述の信用性を排斥することはできない。
 b 原告から金を借りるに至った経緯,被告Bに事情を説明できなかった理由,原
告に対して分割返済をするに至った経緯などに関する被告Aの供述は,具体的であ
るし,その境遇に照らし,不自然なところはなく,納得することができる。
 c 前述の平成16年2月10日頃の原告と被告Aの間の電話での会話内容(乙1
8,19)は,被告Aの供述を裏づける。
 (2) 検討
 被告Aの供述を前提にすると,原告と被告Aの間の金の貸し借りと弁済の経過
は,被告らの主張のとおり,すなわち別紙計算書Cのとおりと認めることができ
る。被告Aへの貸付けは同計算書の「反訴被告交付金」欄,被告らからの弁済は同
計算書の「反訴原告支払金」欄に記載されている。弁済のうち,平成15年3月9
日の50万円は被告Bによる第三者弁済であり,それ以外は被告Aの弁済である。
 同計算書は,利息を年12%として計算している。これは原告の主張に照らして
正当な計算方法である。
 この計算によると,被告Bが平成15年3月9日に50万円を弁済した結果,被
告Bは原告に対し12万4997円の不当利得返還請求債権を取得したことが認め
られる。そして,被告Bがこの不当利得返還請求債権を被告Aに譲渡したことは証
拠(乙17,被告B)により認められ,その通知が原告に対して行われたことは当
裁判所に顕著である。したがって,同計算書のとおり,被告Aは過払いをしてお
り,平成16年1月16日の時点で原告に対して104万8997円の不当利得返
還請求債権を取得したと認められる。
 4 不法行為
 (1) 認定事実
 前述のとおり,原告は,自分個人で被告Aに対して金を貸すにあたり,そのこと
を隠して「有限会社山梨中央商事」の社員と名乗り,あるときはその会社の立場,
あるときは原告個人の立場と,2つの立場を巧妙に使い分けていた。そして,証拠
(乙16,18,19,原告,被告A)によれば,平成16年2月10日頃の電話
での会話において,原告が被告Aに対して次のようなことを述べたことが認められ
る。
おれだとこういう話をしていられるけど,ふざけんなって言われますよ。は
っきり言って。うちの回収の連中が行けば。能書き言う前に(「耳」または
「指」)そろえなって言われますよ,はっきり言って。
ぶちあけうちの回収のほうは(借用書を)もってますからね。
おれから手離れしちゃえば,うちの回収が話をしに行くから。最終的にはお
れが話を言って,それ以降はもうおれがもう手離れしちゃったときは,もう回収の
ほうにいっちゃうんで,おれはもう話することがないんですよ,だんなさんに。
だんなさんが脅されようが何されようが,おれが知ったこっちゃないっちゅ
う,早い話が。
結局でも借用がきってあるんで,裁判所へ行こうが何しようが○○さん
(注・被告らのこと)負けますよ。うちも安っぽい弁護士についてるんじゃないん
で。それ専門にやっている連中がついているんで。そんなぐちぐちもうあれです
よ。かえって変な形で金取られますよ。言っときますけど。
 このような原告の態度を前提にすると,「ちゃんと払ってくれないと,おれの手
を離れて,取立ての若い連中が家に行くよ」「石和(町)の事務所には気の荒い連
中ばかりいるから,来ないほうがいい」と原告から言われていたという被告Aの供
述(乙16)も十分信用することができる。したがって原告はこのようなことも言
ったと認める。ちなみに,石和町に歓楽街があること,一般に歓楽街には不逞のや
からがたむろしがちであることは周知の事実である。
 (2) 判断
 前述のとおり,原告は,貸金業の登録を受けていないのに,これを装って被告A
に対して貸付けをしていた。そればかりでなく,上記の事実によれば,原告はみず
からの立場を巧みに使い分けることによって被告Aを困惑させて返済を迫っていた
といえる。さらに,返済が滞れば厳しく悪質な取立てが行われるかのような説明を
して被告Aを脅しており,これは恐喝にも相当する行為である。したがって,被告
Aの主張するとおり,これらの原告の言動は被告Aに対する不法行為にあたると判
断することができる。その慰謝料が10万円を下らないとする被告Aの主張も正当
である。
 
 5 結論
 以上をまとめると次のようになる。
 (1) 原告の請求について
 被告Bが借主であることを前提とする原告の主張はすべて理由がない。被告Aに
対して原告が金を貸したのは事実であるが,それは弁済ずみである。原告の被告ら
に対する請求はすべて理由がない。
 
 (2) 被告Aの請求について
 被告Aは不当利得返還請求として原告に対し104万8997円とこれに対する
請求(反訴状送達)の翌日である平成17年2月22日から支払いずみまで民法所
定の年5%の割合による遅延損害金を請求することができる。
 被告Aは不法行為に基づき原告に対し慰謝料10万円とこれに対する不法行為の
後である平成17年2月22日から支払いずみまで民法所定の年5%の割合による
遅延損害金を請求することができる。
   甲府地方裁判所民事部
 裁判官  倉 地 康 弘

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