弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
         事    実
 原告は、昭和二十九年十二月七日施行された広島県豊田郡a町教育委員会委員の
選挙は無効たることを確定するとの判決を求め、その請求原因として次の通り述べ
た。昭和二十九年十二月七日豊田郡a町に於て施行されたa町教育委員会委員の定
例選挙で原告は選挙人であると共に候補者てあつたが、本件選挙は左記理由により
選挙の規定に違反して無効である。本件選挙では投票区は数個に分れでいるが一開
票区であり選挙会の区域と同一であつた為公職選挙法第七十九条に則り開票の事務
は選挙会の事務に合わせ行われたものであるが、此の場合選挙長は選挙立会人を選
任しなければならないのに法の解釈を誤りこれを選任せず選挙録を作成するに当り
狼敗して各候補者が選任して届出でた開票立会人A外四名を勝手に選挙立会人に変
更するに至つた。即ちa町選挙管理委員会は本件選挙に当り適法に選挙立会人を選
任せずして昭和二十九年十二月七日の選挙会においてその立会なくして当選を決定
したものである。右は明かに選挙の規定に違反し選挙の結果に異動を及ぼし無効で
あるから原告は同委員会に対し同年十二月二十日異議の申立をなし同委員会は昭和
三十年一月十七日これを棄却したので原告は更に同年一月二十六日被告委員会に訴
願したが被告委員会も同年七月二十六日これを棄却する裁決をなしたので、原告は
本訴を提起し本件選挙が無効であることの確定を求めるものであると述べ、立証と
して証人B、C、D、E、F、A、G、H、Iの各証言を援用し乙号各証の成立を
認めると述べた。
 被告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として原告の主張事実中昭
和二十九年十二月七日a町教育委員会委員の定例選挙が施行され原告が選挙人であ
ると共に候補者であつたこと、その主張のような経緯でその主張のような訴願の裁
決がなされたこと、本件選挙が開票区と選挙会の区域が同一な為公職選挙法第七十
九条に則り開票の事務は選挙会の事務と合わせ行われたことは認めるがその余の事
実は否認する。本件選挙に際しa町選挙管理委員会は原告か開票立会人と主張する
五名の者を選挙立会人に選任したものであつて公職選挙法第七十九条第二項により
右選挙立会人が当然開票立会人としての職務を執行し当選人を決定したものであ
る。選挙録にはAを除く他の四名はいづれも署名して選挙立会人のつもりで居り、
a町選挙管理委員会も同人等を選挙立会人として手続をなし現実に選挙立会人とな
したものである。只立会人の届出書及びその承諾書か開票立会人と誤つて記載され
たのみて右は事務上の誤りであつた。而して右Aも立候補した原告の選挙立会人と
なつて当日開票より選挙会終了まで立会したものであり選挙立会人としての手当も
受領している。従て本件選挙が選挙立会人なくして行われたもので選挙の規定に違
反すると云う原告の主張は当らないと述べ、立証として乙第一号証の一、二、三、
第二号証の一、二、第三号証の一乃至七、第四号証の一乃至十、第五号証の一乃至
八を提出し、証人J、K、Lの各証言を援用した。
         理    由
 昭和二十九年十二月七日a町教育委員会委員の定例選挙が施行され、原告が選挙
人であると共に候補者であつたこと、原告が同年十二月二十日同町選挙管理委員会
に対し本件選挙を無効とする異議の申立をなし、昭和三十年一月十七日右申立を却
下され、更に原告は、同年一月二十六日被告委員会に対し、訴願を提起したが同年
七月二十六日これを棄却する裁決がなされたこと、本件選挙において開票区が選挙
会の区域と同一であつた為公職選挙法第七十九条に則り開票事務は選挙会の事務と
合わせ行われたことは当事者間に争がない。
 原告は本件選挙において選挙立会人の選任なくその立会なくして当選人を決定し
た違法があると主張し、被告はこれを否認しているので考へてみるに成立に争のな
い乙第二号証の一、二、第三号証の一乃至七、第四号証の一乃至十、第五号証の一
乃至八に証人B、柄崎敏失、D、E、F、A、G、H、I、J、Kの各証言、本件
口頭弁論の全趣旨を綜合すれば本件選挙は広島県知事選挙、a町町長選挙と同時に
行われた為a町選挙管理委員会は同町では知事選には選挙立会人を必要としないの
で三選挙に共通に開票立会人届出とその承諾書の用紙のみを印刷し、本件選挙にお
いてもこれらの用紙によつて各候補者から開票立会人として各本人の承諾を得て届
出てしむることによりA外四名を開票立会人となし、これらの者をして本件選挙の
開票事務のみならず選挙会の事務にも立会せしめて当選人を決定したこと、右開票
立会人届出に際し各候補者はもとより各立会人は右承諾書を出した開票立会人とは
開票より最終的に当選人が決定する迄立会う者と考へ開票立会人と選挙立会人の区
別を知らなかつたこと、a町選挙管理委員会においてもM委員長を始め係員は右各
開票立会人は公職選挙法第七十九条第二項により当然選挙立会人の職務を行い得る
ものと誤解し該開票立会人を以て選挙立会人に充て開票事務と選挙会の事務を処理
し、各立会人に選挙立会人の手当を支給し、Aを除く他の四名の立会人に選挙録に
選挙立会人として署名せしめたこと、右Aも選挙録の内容には異議はなかつたか後
日になつて当日附に遡る点で署名を拒んだこと等の事実が認められ右認定に反する
部分の証人J、Kの各証言は措信し難く他に右認定<要旨>を左右するに足る証拠は
ない。以上認定の事実関係から判断すると開票立会人を定めたのみで選挙立会人を
めないで右開票立会人を以て選挙立会人に充てたことになるから公職選挙
法第七十九条第二項に違反すること勿論であるが、実際には開票立会人をして開票
事務にも選挙会の事務にも共々立会させる積りで本件開票立会人を定め事実その通
り両事務に立会させそれについて関係者一同異議なかつたものであつて、結果にお
いて選挙立会人のみを定め開票立会人を兼ねしめたものと何等差異がたいことにな
るから本件の場合違法ではあつても選挙の結果に異動を及ぼす虞がなかつたものと
解するのが相当である。
 然らば本件選挙は公職選挙法第七十九条第二項に違反してもこれを無効とはなし
かたく原告の訴願を棄却した被告委員会の裁決は相当であり、原告の本訴請求は到
底認容し難いからこれを棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八
十九条を適用して主文のように判決した。
 (裁判長裁判官 植山日二 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)

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