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平成19年6月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成15年(ワ)第407号損害賠償請求事件(以下「甲事件」という)。
平成16年(ワ)第398号同反訴請求事件(以下「乙事件」という)。
平成16年(ワ)第583号同反訴請求事件(以下「丙事件」という)。
口頭弁論終結日平成19年2月22日
判決
当事者別紙当事者目録記載のとおり
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2原告は,Y1に対し60万円及び内50万円に対する平成15年7
,,,,月15日から支払済みまで年5分の割合の金員をY2Y3Y4
Y5及びY6に対し,それぞれ36万円及び内30万円に対する同日
から支払済みまで年5分の割合の金員を支払え。
3原告は,被告らのために「広報おおたわら」に別紙1記載の「謝,
罪文」と題する文章を,別紙2と同じ字幅により1回掲載し,かつ,
同謝罪文を掲載した「広報おおたわら」を,平成15年7月15日現
在における「広報おおたわら」の配布対象の居住住民の全員に配布せ
よ。
4被告らのその余の請求をいずれも棄却する。
,,,5訴訟費用は全事件を通じて原告に生じた費用の144分の43
Y1らに生じた費用の9分の4及びY3らに生じた費用の4分の1を
原告の負担とし,原告に生じた費用の36分の5及びY1らに生じた
費用の9分の5を同被告らの負担とし,原告に生じた費用の16分の
9及びY3らに生じた費用の4分の3を同被告らの負担とする。
6この判決は,主文2項に限り,仮に執行することができる。
ただし,原告が,Y1に対し40万円,Y2,Y3,Y4,Y5及
びY6それぞれにつき25万円の担保をそれぞれ供するときは,その
仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第1請求
1甲事件
被告らは,原告に対し,連帯して346万7544円及びこれに対する平成
14年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2乙事件
(1)原告は,Y1らに対し,それぞれ180万円及び内金150万円に対
する平成15年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
(2)原告は,Y1らのために「広報おおたわら」に別紙3記載の「謝罪,
文」と題する文章を1回掲載し,かつ,同謝罪文を掲載した「広報おおたわ
ら」を,平成15年7月15日現在における「広報おおたわら」の配布対象
の居住住民の全員に配布せよ。
3丙事件
(1)原告は,Y3らに対し,それぞれ550万円及び内金500万円に対
する平成15年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
(2)原告は,Y3らのために「広報おおたわら」に別紙4記載の「謝罪,
文」と題する文章を1回掲載し,かつ,同謝罪文を掲載した「広報おおたわ
ら」を,平成15年7月15日現在における「広報おおたわら」の配布対象
の居住住民の全員に配布せよ。
第2事案の概要
甲事件は,大田原市(平成17年10月1日合併前。以下いずれの市町村に
ついても同日合併前の名称を記載する)内から排出される可燃ごみ等を同市。
内に設置されたごみ焼却施設に搬入していた地方公共団体である原告が,被告
らによる同施設へのごみ搬入阻止活動(以下「本件阻止活動」という)によ。
り,仮保管場所にごみを保管せざるを得ず,収集業務費用が増加する等の損害
を被ったとして,被告らに対し,民法709条,719条に基づき,上記損害
及びこれに対する本件阻止活動を終了した日の翌日である平成14年12月1
7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求
した事案である。
乙事件及び丙事件は,被告らが原告に対し,不当提訴行為,名誉毀損(以上
乙事件及び丙事件,ごみ焼却施設等による環境汚染,同施設の建替について)
の説明責任の懈怠等不誠実な行動(以上丙事件)により,精神的損害を被ると
,,,,ともに名誉を毀損されたとして民法709条710条723条に基づき
慰謝料及びこれに対する名誉毀損行為の日である平成15年7月15日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに弁護士費用相当額
の支払を,名誉回復処分としての謝罪広告掲載を,それぞれ請求した事案であ
る。
1前提となる事実(証拠を摘示しない事実は,当事者間に争いがない)。
(1)当事者等
原告は,普通地方公共団体であり,黒羽町,湯津上村(いずれも合併後大
。)(,「」。)田原市及び那須町以下原告を含めた4市町村を4市町村という
との間で那須地区広域行政事務組合(以下「広域組合」という)を結成し。
。,。ている原告は可燃ごみ等の収集運搬を民間会社に委託して行わせている
広域組合は,栃木県大田原市内某所(以下「本件用地」という)におい。
て,広域クリーンセンター大田原(以下「新施設」という)を設置,管理。
している。
Y1らは大田原市内に居住する者であり,Y1は,昭和46年11月から
平成15年11月まで8期32年間原告市議会の議員を務めた者であり,Y
2は,Y1の夫として,Y1の秘書的な役割を務めていた者である。
Y3らは本件用地の近隣地区に居住し本件阻止活動当時A1自治会以,,(
下「本件自治会」という)に所属していた者である。。
(2)原告は,昭和42年3月,本件用地周辺にごみ処理焼却場を設置し,
昭和52年3月,焼却場を増設し,昭和61年,焼却炉を新設し,大田原市
清掃センター(以下「旧施設」という)を創設した。。
原告は,平成12年10月27日,本件用地について,広域組合大田原ご
み焼却場として都市計画の変更を行い,新施設の建設に着手し,平成14年
12月2日からの試験運転を経て,平成15年4月1日から新施設を本格稼
働した。新施設の試験運転開始に伴い,旧施設は,平成14年11月30日
に操業が停止された。
(3)Y3らを含む本件自治会の住民らは,平成14年2月18日から同年
3月2日までの13日間,旧施設へのごみ搬入阻止活動を行った(以下「第
1回阻止活動」という。。)
Y3らを含む本件自治会の住民らは,平成14年12月2日から同月16
,()。日までの15日間新施設へのごみ搬入阻止活動を行った本件阻止活動
4市町村及び広域組合は,平成14年12月9日,宇都宮地方裁判所に,
被告ら及び本件自治会の区長であったB1(以下「B1区長」という)に。
対する搬入妨害禁止仮処分の申立てをした(同裁判所平成14年(ヨ)第2
26号。以下「本件仮処分」という。同月16日,搬入妨害禁止仮処分。)
決定が出され,本件自治会住民らは,本件阻止活動を終了した。
(4)Y3らを含む大田原市住民約120名は,平成13年3月16日,宇
都宮地方裁判所に,原告及び広域組合に対する旧施設の操業停止等及び新施
設の建設中止を求めて提訴し(同裁判所平成13年(ワ)第163号。以下
「別件差止訴訟」という,平成15年2月27日,同裁判所は,請求棄。)
却の判決(以下「別訴一審判決」という)を言い渡した(甲3)。。
その後,上記住民のうち16名が東京高等裁判所に控訴し(同裁判所平成
15年(ネ)第1669号,同裁判所は,同年8月28日,既に旧施設の)
操業が停止されていること,新施設の建設が終了していること等を理由とし
,(「」。),,て控訴棄却判決以下別訴控訴審判決というを言い渡しその後
同判決が確定した。
(5)原告は,原告の広報誌である「広報おおたわら平成15年7月15日
No.956(以下「本件広報誌」という)に,別紙2記載の記事(以」。
下「本件記事」という。乙32)を掲載し,同日ころ,これを大田原市住民
の各戸に配布した。
(6)原告は,平成15年7月28日,被告ら及びB1区長を被告として,
甲事件を提訴した。
B1区長は,甲事件第1回口頭弁論期日に請求を認諾し,同人との関係で
は,甲事件は終了した。
原告は,甲事件の認諾額について,B1区長から支払を受けていない。
2争点
(1)本件阻止活動の違法性
(2)本件阻止活動における各被告の行動・参加の有無
(3)原告の損害
(4)本件記事は被告らの名誉を毀損するものか(乙事件,丙事件)
(5)甲事件の提訴は不法行為を構成するか(乙事件,丙事件)
()()6原告による旧施設以前のごみ焼却等が不法行為を構成するか丙事件
(7)新施設設置に関する原告の対応が不法行為を構成するか(丙事件)
(8)被告らの損害及び名誉毀損の回復措置(乙事件,丙事件)
3争点に関する当事者の主張
(1)本件阻止活動の違法性
(原告の主張)
被告らは,平成14年12月2日から同月16日までの15日間,新施設
の入口(以下「本件阻止活動現場」という)において,原告を含む4市町。
村が委託したごみ収集運搬車両(以下「運搬車」という)等の搬入を阻止。
する威力業務妨害行為である,本件阻止活動を行った。
被告らは,広域組合及び原告の職員が,封鎖解除の申入れをしたにもかか
わらず,これに応じなかった。
(被告らの主張)
ア本件阻止行動に至る経緯
(ア)本件用地周辺では,昭和30年ころにはごみの野焼きが行われ,
昭和42年に焼却炉が設置され,昭和61年に,旧施設が設置された。
旧施設は,焼却するごみが不足していたため,不完全燃焼を起こしや
すい状態にあり,それをカバーするために補助燃料を大量に消費してい
た。ごみの質についてみても,水分含有量が多く,燃焼状態が良くない
状態であった。
また,旧施設には,ダイオキシン類を大量に発生させる,窒素酸化物
及び硫黄酸化物対策がない,SPM及び重金属の除去対策が不十分,ダ
イオキシン類汚染を発生させたという危険性が存在した。
旧施設の危険性は以上のとおり顕著であり,本件自治会住民らは,旧
施設及びそれ以前からのごみ焼却(以下「旧施設以前のごみ焼却」とい
う)による汚染の被害に,半世紀もの長期に渡って,ひたすら耐えて。
きた。
(イ)また,原告は,昭和30年代以降,本件用地周辺へ,旧施設以前
のごみ焼却によって排出された焼却灰,焼却炉の残骸,廃レンガ等の野
積み及び埋立を行っており,本件自治会住民は,これら(以下,旧施設
以前のごみ焼却と併せて「旧施設以前のごみ焼却等」という)に伴,。
う汚染をも一手に引き受けさせられてきた。
旧施設の南側から採取した土壌から,平成12年2月14日の調査で
は1グラム中5100ピコグラム(pg-TEQ/g)のダイオキシン類が,平
成14年6月4日の調査では1300,1600,1200pg-TEQ/gの
ダイオキシン類が検出され,国内でも有数の高濃度汚染が判明した。
平成8年11月には,旧施設から排出された排ガス中から,1立方メ
ートル中110ナノグラム(ng-TEQ/N)のダイオキシン類が検出され‰
。,,た平成9年から平成13年にかけて旧施設から排出された飛灰から
3700から11000pg-TEQ/gのダイオキシン類が検出された。
平成13年5月には,焼却灰埋立地から約100mの地点で,背骨の
極端に曲がったどじょうやウグイが捕獲された。
平成13年12月19日に旧施設の周辺からクロマツの葉を採取して
分析した結果,一般環境についての全国平均の約2倍の2.7pg-TEQ/g
のダイオキシン類が検出され,このダイオキシン類濃度から,旧施設の
排ガス中のダイオキシン類の年平均濃度は,現在の排ガス規制値の約3
4倍にも達する171ng-TEQ/N程度と推定された。‰
平成14年7月のダイオキシンによる大気汚染状況のシミュレーショ
ン結果によれば,旧施設南東方向及び南西方向の約1kmの地域に,現
在の環境基本法で定める大気環境基準を上回る,1.8pg-TEQ/を超‰
過する高濃度の大気分布が存在していたと推定された。
(ウ)前記(イ)記載の本件用地周辺の汚染の状況をみたとき,廃棄物
の処理及び清掃に関する法律8条の2第2項及び9条の4の各規定に照
らして,旧施設以前のごみ焼却が行われてきた場所に新施設を設置する
ことは許されないというべきであり,原告は,新施設を設置するに当た
っては,本件用地周辺を避けるべきであった。
また,原告は,仮に新施設を本件用地に設置するとしても,計画の段
階から住民に対して誠実な説明を行い,根気強く理解を求めていくべき
であったが,原告の新施設設置に至る行動には,以下のとおり,住民に
対して数々の不誠実な行為があった。
aそれまでに住民らにかけてきた負担に対する配慮に欠けたこと
原告は,本件用地周辺住民の過去の負担に配慮することなく,住民
の理解を求めることもなく,本件用地に新たな焼却炉を設置すること
を決めた。
b新施設の設置に関して説明責任を果たさなかったこと
原告及び広域組合は,事前に本件自治会住民を初めとする近隣地区
の住民の意見を聞くことなしに,新施設を本件地域に設置することを
,,,,決定し平成11年5月31日某公民館において説明会と称して
本件自治会住民に対し,設置が決定した旨を発表した。
本件自治会は,平成11年8月24日には,広域組合管理者である
黒羽町長S1以下S1管理者という原告市長S2以下S(「」。),(「
2市長」という,原告市議会議長の3名宛てに,建設の見直しを求。)
める要望書を提出したが,十分な回答はなかった。本件自治会は,次
いで,設置に反対する請願書を提出し,これが原告市議会で不採択と
されると,広域組合に対して決議文を提出したが,原告からは何らの
回答もなかった。
本件自治会を含む3自治会は,平成12年6月12日,広域組合に
対して,設置の見直しを求める意見書を提出したが,広域組合の回答
は,住民らの不安に答えるものではなかった。
本件自治会及びA2自治会は,平成14年3月の大田原市長選挙に
先立ち,平成13年12月27日,立候補を予定していたS2市長外
1名に対して,ごみ問題及び焼却場問題に関する9項目にわたる公開
質問状を提出したところ,S2市長の回答は,原告市議会での答弁の
とおり,として,市議会議事録のコピーを添付しただけであった。
c旧施設からの汚染状況を殊更に隠そうとしたこと
S2市長は,平成12年4月22日,5100pg-TEQ/gのダイオキ
シン類が検出された調査結果について新聞報道がされると,過去に焼
却灰から5400pg-TEQ/gのダイオキシン類が検出されていたことを
故意に隠して,マスコミ及び原告市議会において,上記調査結果を否
定する旨の発言をした。
,,,,また原告の関知するところで広域組合は平成12年6月1日
近隣住民らとの間で採取条件について同意を得られないまま,住民ら
に立ち会いをさせることなく,ダイオキシン類調査のための土壌採取
を行った。
d被告ら住民との対話を拒否したこと
本件自治会住民らは,第1回阻止活動から本件阻止活動に至るまで
の間,一貫して,原告や広域組合に対して話し合いの申入れを行って
きたが,原告は,理由らしい理由なくしてこれを頑なに拒否し続けて
きた。
本件自治会は,住民の意思や希望が一切聞き入れられず,S2市長
も誠意ある回答を行わないなどの状況に対して,住民の断固たる意思
を示すことによって,広く市民に地元の実情を知ってもらうための最
後の手段として,平成14年1月27日,第1回阻止活動を行うこと
を決意したが,できるかぎり実行を回避したいと考え,同年2月4日
に,S2市長に対して,地元住民との対話の申入れを行ったが,S2
市長は日程の都合がつかないなどとしてこの申入れを拒否し,何らの
回答もしなかった。
,,,,そのため本件自治会は同月18日から第1回阻止活動を行い
S2市長に対して,現地に来て話し合いに応じるよう要請したが,S
2市長は一度も対話に応じなかった。
本件自治会は,同月28日には,新施設の設置を認めた上で,15
年後に移転するという内容の,期限付き住民協定締結の話し合い開始
の申入れを行ったが,S2市長は,これについても,新施設は広域組
合が設置する施設である,裁判中である,などという理由をつけて,
これを拒否した。
本件自治会は,同年12月2日の新施設操業開始を控えた同年11
月8日,広域組合に対して,期限付き住民協定締結等を求める申入れ
を行ったが,広域組合は,これに対して,同月21日に,上記協定締
結の意思はないと回答した。
,,本件自治会は上記のような広域組合からの不誠実な回答に対して
再びごみ搬入阻止活動をとることを決定し,期限付き住民協定締結を
求め,広域組合の責任者との話し合いを開始することを要求して,同
,。,,年12月2日本件阻止活動を開始した本件自治会はその期間中
期限付き住民協定の締結を求め,その内容も譲歩しながら,何度も文
書や口頭で話し合い開始の申入れを行ったが,S1管理者もS2市長
も,一度も現地に訪れることはなかったのであり,話し合いができな
かった責任は原告にあるというべきである。
本件阻止活動継続中の同月13日には,仮処分の審尋が行われ,そ
の席上,裁判長は,2度に渡り,原告に対して,和解の話し合いのテ
ーブルにつくことを促したが,原告訴訟代理人は,平然と,はっきり
これを拒否した。
e被告ら住民を敵視して権謀術数の対象としてしかみなかったこと
原告は,原告民生部生活課C1主幹において,本件自治会の会長を
長く務めていたB1区長と気脈を通じさせ,スパイのような役回りを
させ,密かに情報収集を行い,対住民対策を練るという手法をとって
いた。
しかし,原告は,新施設の設置計画の策定自体に地元住民を参加さ
せず,建設決定を既定事項として住民に無理強いし,平成12年ころ
から新施設の建設を始め,平成14年12月に竣工した。
新施設設置は,地元住民にとって大きな影響を及ぼすことが予想さ
れるのであるから,地元住民がその計画設定の経緯の説明を求めるの
は当然であり,知らされなかった地元住民が原告に対し不信感を抱く
のも当然である。
(エ)本件阻止活動は,女性や子ども,老人をも含む,地元の住民たち
を主体とし,劣悪な環境を改善し,良好な環境を作り上げること,ひい
ては自らや家族や子孫の生命・健康を守ることを目的とするものであっ
た。
本件自治会住民は,劣悪な環境を長期に渡り一方的に押しつけられて
いる中で,上記目的達成のため,絶えず原告や広域組合との話し合いを
求めてきたが,話し合いに応じてもらえない状況であったことから,や
むを得ず,上記目的を達成するため,阻止活動に及んだものである。
イ本件阻止活動の態様
阻止活動期間中も,一般市民の持ち込みごみの搬入については阻止しな
かった。
搬入路の全部を封鎖することなく,半分に横断幕を張り,半分はロープ
を張っただけで,簡単に封鎖を外して運搬車が通れるようにした。
一般搬入車の全員に対して,現場において本件阻止活動に至った経過な
どを書いたチラシを手渡し,理解を求めるなど,運転手に対する説得の手
法に基づくものであった。
暴力により運転手を排除したことはなく,座り込みについても,道ばた
にパイプ椅子を置いて様子を眺めているもので,それ自体として運搬車の
進入を妨げる態様ではなく平和的手法によるものであった。
以上のとおり,本件阻止活動の態様は,住民運動としての手段,方法の
相当性が認められる範囲内のものであり,原告に対して物的な危害発生の
おそれがある実力行使などは含まれていなかった。
ウ以上によれば,被告らの行為は,その目的において正当であり,かつ手
段において相当と評価できるものであるから,正当行為として違法性を阻
却され,不法行為を構成しないというべきである。
また,被告らは,原告及び広域組合から劣悪な環境を長期に渡り一方的
に押しつけられ,話し合いにも応じてもらえない状況の中で,上記目的を
達成するためにやむを得ず阻止活動を行ったものであって,緊急避難行為
として違法性が阻却される。
(原告の反論)
ア原告は,新施設設置計画(以下「本件設置計画」という)当初から関。
係自治会長を中心に話し合いを続けてきたところであり,事実,A3,A
4,A5の3自治会(以下「A3等3自治会」という)とは,平成12。
年8月1日に,本件自治会とも平成15年8月27日に,それぞれ環境保
全協定を締結している。また,同年9月6日には,上記4自治会と,次期
施設設置計画に関する覚書を取り交わしており,新施設に関する諸問題は
解決済みである。
イ原告は,特に,本件自治会とは,本件設置計画当初に会長であったB2
(以下「B2区長」という)及び副自治会長であったY3を中心に何度。
も協議を重ね,先進地視察の実施,再説明会開催及び役員会への出席等に
ついて何度も要請するとともに,機会あるごとに新施設設置予定地の所有
者(以下「地権者」という)宅等を訪問の上協力依頼をしてきた。。
しかし,平成12年1月ころに「広域・市職員の戸別訪問禁止」との,
趣旨の張り紙が一部の自治会員宅の玄関に貼り出され,地権者及び自治会
員との接触は事実上禁止との方針が示され,これ以降は正副自治会長が交
渉の窓口になるとの通告を受け,原告は,同年10月25日,C2助役,
原告民生部生活課課長C3(以下「C3課長」という,広域組合C5。)
主幹がB2区長宅を訪問し,Y3同席の上で,時間的制約から地権者訪問
を再開する旨を通告し了解を得るまでは,この趣旨に反することなく,紳
士協定との判断で自粛していた。
原告は,このような経緯で,極めて民主的に話し合いを進めてきたとこ
ろであるが,残念ながら,役員の一部(特にY3)の理解が得られず,話
し合いの場について,全体説明会を2回,役員会への出席が1回と,合計
3回のみの実施にとどまってしまったものである。その後についても,原
告側から話し合いを拒むことはなかった。
ウそのような中,Y3らは,別件差止訴訟を提起しておきながら,新施設
の完成間近になってから方針を変更し,期限付き住民協定の締結について
法廷外での話し合いを求め,ごみ搬入阻止活動という強硬手段を2度に渡
って実施するという理不尽な行動を決行してきた。
また,第1回阻止活動終了後,役員会において,市長との直談判につい
て区長一任との結論を出しておきながら,平成14年4月19日に会談を
する旨決定すると,役員7名で推進するべきと態度を覆し,市長対区長の
会談を阻止し,民主的な話し合いのための環境を醸成しようとしなかった
のは,Y3らである。
(2)本件阻止活動における各被告の行動・参加の有無
(原告の主張)
本件阻止活動における各被告の行動は,別紙5「広域クリーンセンター大
田原へのごみ搬入阻止の行動状況」記載のとおりである。また,Y1らは,
本件阻止活動に深く関わっていた。
(Y3らの主張)
原告は,Y3らの具体的行動及び連帯責任の根拠に関する主張,立証を欠
いており,各人が,いつ,どこで,どのような行為を行ったか,被告らが連
帯して責任を負うべき理由及びその根拠について具体的に主張,立証してい
ない。
別紙5についても,参加被告人欄と行動の内容欄との記載の不一致がみら
れるほか「被告ら「被告らを中心とする住民」などという記載が多く,,」
主張に具体性を欠いている。
(Y1らの主張)
本件阻止活動は,本件自治会が主体となって行ったものであり,当時原告
市議会議員であったY1は,本件阻止活動の際,他の議員と共に招かれ,挨
拶を行い,その後5回ほど活動を視察したが,活動には参加していない。
Y1は,元々,原告市議会議員として,ダイオキシン問題と市民の健康問
題に関心を抱いて活動しており,その中で,本件自治会住民による新施設設
置反対運動と接触がうまれたが,第1回阻止活動には参加していないし,本
件阻止活動直前も病院に入院していて,本件阻止活動の立案,決定にも関与
していない。
Y1の秘書的役割を果たしていたY2は,第1回阻止活動時と同様に,本
件自治会住民による本件阻止活動の様子を写真に撮影したものの,本件阻止
活動には参加していない。
(3)原告の損害
(原告の主張)
被告らが,原告委託の運搬車等の搬入を阻止したため,原告には,以下の
損害が生じた。
アステーション収集業務経費(収集再開時の応援)40万6000円
原告は,平成14年12月3日から同月8日まで,市民に可燃ごみの排
出抑制を要請し,同月9日から収集を再開して,大田原市内調整池の仮保
管場所(以下「仮保管場所」という)にストックすることとしたが,約。
1週間分のごみが,同月9日及び10日に集中して出されるために収集車
両を増車し,上記経費が発生した。
イ仮保管場所からの搬出業務経費182万7800円
原告は,同月9日から同月16日まで仮保管場所にストックしていた可
燃ごみを,同月17日以降新施設まで搬入し,上記経費が発生した。
ウかん・金属類の中間処理経費21万3223円
,,かん・金属類については新施設に隣接する旧施設で前処理していたが
入口が同一のため搬入・前処理ができず,直接取扱業者の中間処理施設へ
搬入し,処理委託し,上記経費が生じた。
エ市職員の時間外勤務経費102万0521円
()通常勤務時間月曜日から金曜日の午前8時30分から午後5時15分
以外の勤務命令により勤務させた職員に対して,条例に基づいて勤務経費
を支出し,上記経費が生じた。
(被告らの主張)
アステーション収集業務経費について
本件阻止活動によって一定期間内に排出されるごみの量が変わるもので
はないから,回収量でみる限り,収集再開に伴う増車は,年間の委託契約
の範囲内で行うことができ,増加費用を生じさせるものではない。
ステーション収集業務における車の台数,単価については,旧施設所長
C4(以下「C4所長」という)による偽造文書しかなく,その算定根。
拠となる資料が存在しないほか,車の台数やごみの排出量の算定に関する
C4所長とC1主幹の証言は食い違っており,恣意的な数字を計上したも
のである。
また,収集再開後の回収費用のうち,本件阻止活動と関連するものはそ
の一部にすぎないはずであるが,その点の特定がされていない。
イ仮保管場所からの搬出業務経費
仮保管場所設置費用,仮保管場所からの搬出費用いずれについても,C
4所長による偽造文書以外にその算定根拠となる資料が存在しない。
ウかん・金属類の中間処理経費
被告らは「かん・金属類」を搬入する車両は阻止していないし,これ,
らの車両は自由に通行していた。
上記費用については,C4所長による偽造文書以外にその算定根拠とな
る資料が存在しない。
エ市職員の時間外勤務経費
時間外勤務の期間は,本件阻止行動の期間を大幅にはみ出しているが,
これに見合った説明はない。
時間外勤務命令簿の時間外業務の項目の記載が統一されていないほか,
時間外業務の内容に関する資料や証拠は一切なく,本件阻止活動との関連
性を読み取ることができない。また,仮に何らかの関連する業務が生じた
としても,通常の勤務時間帯にできず,時間外に行わなければならなかっ
た事情が説明されなければならないが,その点の説明もない。
(原告の反論)
被告らが偽造と主張する臨時委託収集業者作成の文書(甲7の8,7の1
1,7の13,7の15,7の17,7の19,7の27)ついては,業者
,,の承諾を受けて当時の原告担当職員であるC4所長が代筆したものであり
偽造の主張は理由がない。
(4)本件記事は被告らの名誉を毀損するものか(乙事件,丙事件)
(被告らの主張)
ア本件広報誌の発行,配布等の管理運営は,原告秘書課が行い,S2市長
においても,発行,配布に当たりその内容を確認している。
そして,本件広報誌は,市の広報誌という極めて公共性の高い情報媒体
であり,市内各戸に配布されて,その内容が市内各戸に流布された。
イ本件記事の内容について
(ア)第1名誉毀損部分(別紙6参照。以下同様,第2名誉毀損部。)
分は,本件阻止活動を行った被告らを,反社会的な団体で,大田原市民
その他の通常人に対し,被告らが社会秩序を破壊するおそれのある危険
な人物であるかのような印象を植え付けるものである。
(イ)第2名誉毀損部分,第3名誉毀損部分は,被告らが地元住民の中
でも特殊な一部の者にすぎないという事実に反する記載をして被告らを
誹謗する表現を含んでいるとともに,原告において住民側との話し合い
を拒んできたことが明らかであるにも関わらず,Y3らが「一部過激な
住民」であり,Y1らの「煽動」と「結託した」として,手段を選ば,
ず,話し合いによる解決を拒否し,原告に対し,不当な要求をしている
かのような印象を与えるものである
(ウ)また「政治的意図を持った特定の者「一部扇動者は,それを,」
強固に阻止し,現在では自治会内の対立が深まり自治会が分裂の危機に
瀕しております」という部分は,被告らの人格を全面的に否定するに等
しい誹謗中傷に当たる。
,,「」本件記事は本件阻止活動の目的を市政に対する悪質な嫌がらせ
にあると決めつけており,また,本件阻止活動が,説得による平和的手
法により行われたにもかかわらず「政治的意図を持った特定の者によ,
る煽動と地元一部過激住民が結託し」て行った実力行使として,不法な
有形力の行使を伴う阻止活動であるかのような印象を与えるものであ
る。
ウ以上のとおり,本件記事は,被告らの人格を全面的に否定するに等しい
誹謗中傷を含み,被告らが社会秩序を破壊するおそれのある危険な人物で
あるかのようなイメージを植え付け,本件阻止活動が不法な有形力の行使
を行う阻止活動であるような印象を与え,被告らが,手段を選ばず,話し
合いによる解決を拒否し,不当な要求をしているかのような印象を与える
ものであり,被告らの名誉を毀損するものである。
(Y3らの主張)
第4名誉毀損部分は,上記「被告らの主張」欄イ(ウ)と同様である。
本件記事は,本件阻止活動の際に,自治会として行動を行ったこと,絶え
ず期限付き住民協定の締結を要求して話し合いを求めていたことが,意図的
に掲載されておらず,住民,自治会及び被告らに対する誤った認識を持たせ
るものである。
(Y1らの主張)
本件記事は,被告らを,本件阻止活動における当事者として一括りにして
いるが,本件阻止活動は本件自治会が主体となって行われたものであった。
(原告の主張)
本件記事は,被告らを社会秩序を破壊するおそれのある危険な人物とは言
っていないし,被告らの人格を全面的に否定する誹謗中傷もしておらず,被
告らの行動を事実として述べたにすぎないものである。
Y3や上記各被告らを中心とした一部の強行派住民は,新施設設置に絶対
反対との立場で政治的対決姿勢をあらわにし,原告市民や原告らを誹謗中傷
し,名誉を毀損するビラを作成配布するなど,傍弱無人な振る舞いを行うほ
か,元地権者である原告市民に脅迫文を送るなどしているから,被告らの行
為は厳しく非難されてしかるべきであり,本件記事の掲載及び配布は,被告
らの名誉を毀損するものではない。
また,本件記事には一部過激な表現もあるが,すべて事実に基づいたもの
であり,それを各戸に配布することは,表現の自由の範疇内であって,違法
性は阻却される。
(5)甲事件の提訴は不法行為を構成するか(乙事件,丙事件)
(Y3らの主張)
原告は,広域組合を構成する他の地方公共団体が,劣悪な環境条件を強い
てきた地元住民に対する提訴を行わなかったのに対し,本件阻止活動をS2
市長個人に対する反対運動と捉えて,これを圧迫する目的で甲事件を提訴し
た。
原告が,甲事件について請求を認諾したB1区長から弁済を受けないまま
でいることは,甲事件提訴の目的が,原告に生じた損害を回復するというこ
とにないことを表すものである。
甲事件において主張した権利又は法律関係が,Y3らとの関係において事
実的,法律的根拠を欠き,原告はそのことを知りながらあえて訴えを提起し
たものであって,訴え提起は相当性を欠き,Y3らに対する不法行為を構成
する。
(Y1らの主張)
原告は,Y1らが本件阻止活動を行っていないことを知りながら,市民に
対し,Y1らについて不当な印象を与え,Y1らに不当な心理的圧迫を加え
ることを目的として,Y1らを被告として甲事件を提訴した。
甲事件において主張した権利又は法律関係は,Y1らとの関係において事
実的,法律的根拠を欠き,かつ,原告においてそのことを知りながらあえて
訴えを提起したものであって,訴え提起は相当性を欠き,Y1らに対する不
法行為を構成する。
(原告の主張)
いずれも否認する。
(6)原告による旧施設以前のごみ焼却等が不法行為を構成するか
(Y3らの主張)
アY3らは,前記(1「被告らの主張」欄ア(ア(イ)記載のとおり,))
原告による旧施設以前のごみ焼却等による環境汚染の被害を受けてきた。
イY3らは,上記の絶大な環境汚染,生活環境の破壊によって,被告らの
人格権としての身体権,平穏生活権,環境権を侵害された。
劣悪な環境のもとにおかれることは,仮に当該住民に健康被害が現実に
発生していなくとも,生命及び健康に対する権利である身体権を危険に曝
し続けさせられたこととなる。また,平穏生活権は,一般通常人を基準と
して,生命及び身体に対する侵害の危険に関して,危険感や不安感となっ
て精神的平穏や平穏な生活を侵害していると評価される場合にその侵害が
認められる。環境権は,良好な環境を享受する権利であり,憲法13条,
25条に根拠を有し,環境基本法3条がそれを具体化している。
(原告の主張)
原告による旧施設の管理運営に違法性はなく,法令等に違反した運転をし
たことも,報告義務に違反したこともない。
旧施設以前の廃棄物焼却の問題及び旧施設運転継続に伴うダイオキシン類
等の有害物質による汚染に基づく健康被害等については,別訴一審判決及び
別訴控訴審判決により,いずれも原告の勝訴により確定済みであり,Y3ら
の主張は過去のことである。
(7)新施設設置に関する原告の対応が不法行為を構成するか
(Y3らの主張)
,()「」()新施設設置に関する原告の対応には前記1被告らの主張欄アウ
記載のとおり数々の不誠実な行為があり,被告らは,人格権である平穏生活
権の一環としての,住民の行政に対する,誠実な行動に対する期待権を侵害
された。
およそ人の居住する住居のすぐ隣に迷惑施設を建設するときには,建設者
が業者であっても,住民に対して誠実な説明をする義務,安全配慮義務を要
求される。まして,地方自治体については,地方自治の本旨たる住民自治の
理念,地方自治法1条の2第1項に照らして,業者に比べてより高い,ない
,,しはより加重された説明義務安全配慮義務が課せられるというべきであり
上記義務の裏返しとして,住民らには,平穏生活権の一環としての,行政か
ら誠実な説明を受ける権利,誠実な安全配慮を受ける権利が認められる。
また,上記権利は,地方自治体と住民との間の契約類似の関係に基づく約
束に基づく権利,高度の理性と道徳性とを備えていることが期待される地方
自治体に対する条理上の権利,長年に渡り劣悪な環境のもとにおかれて同様
の被害を与え続けられたという過去の経緯に基づく信義則上の権利として
も,認められるものである。
(原告の主張)
上記(1「原告の反論」欄主張のとおり。)
(8)被告らの損害及び名誉毀損の回復措置
(Y1らの主張)
ア原告の上記各不法行為により,被告らに生じた精神的損害を慰謝するに
は,被告それぞれにつき,以下の金額が相当である。
(ア)名誉毀損100万円
(イ)不当提訴50万円
イ反訴提起に関わる弁護士費用30万円
(Y3らの主張)
ア原告の上記各不法行為により,被告らに生じた精神的損害を慰謝するに
は,被告それぞれにつき,以下の金額が相当である。
(ア)名誉毀損100万円
(イ)不当提訴50万円
(ウ)旧施設による環境汚染200万円
(エ)住民に対する不誠実な行動150万円
イ反訴提起に関わる弁護士費用50万円
(原告の主張)
否認する。
第3争点に対する判断
1上記前提となる事実に,証拠(以下に記載するほか,主な証拠を各事実の後
。,,,に記載することがある甲1ないし68の1ないし8の139ないし16
18の1ないし18の18,19の1ないし19の3,19の4の1及び2,
19の5の1及び2,19の6ないし19の13,20の1及び2,23,2
8ないし32,39ないし45,46の1ないし46の3,47の1及び2,
48,49,乙1ないし31,32の2及び3,32ないし46,47の1及
び2,48ないし66,67の1及び2,68ないし74,76ないし93,
94の1及び2,95ないし98,99の1及び2,100,101の1及び
2,102の1及び2,103の1ないし103の8,104の1ないし10
4の7,106ないし112,113の1及び2,114ないし119,12
1ないし125,証人C1,証人C4,証人B1,原告代表者S2,Y1,Y
2,Y3)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下(1)ないし(9)の事実が
認められる。
(1)本件設置計画に至る経緯
ア(ア)本件用地は,大田原市役所から約3kmの同市内中心部付近に位
置し,半径500m圏内には,本件自治会,A3等3自治会及びA2自
治会の住民が,半径700m圏内にはA6自治会の住民がそれぞれ居住
している(以下,これらの自治会住民の居住地域を総称して「A地区」
という。。)
(),,イ本件用地には昭和30年ころから原告のごみ焼却場が設置され
昭和42年3月には処理能力1日20t(8h)の焼却炉が設置され,
昭和52年3月には隣接地に処理能力1日30t(8h)の焼却炉が増
。,,,設されたさらに昭和61年6月には計約1万4200㎡の敷地に
(),1日40t16hの処理能力を有する准連続焼却式ストーカ炉2機
電気集じん器使用のごみ焼却施設を備えた旧施設が設置され,可燃式ご
み焼却場として稼動するようになった。
イ原告は,平成9年ころから,旧施設が稼働後約10年を迎えて老朽化が
進み,施設更新を検討する中,栃木県企業庁が平成9年3月に策定したご
み固形燃料(RDF)化技術を利用するRDF発電システムの事業化計画
に参加し,原告市内にRDF製造施設を設置する計画を進めていた(甲。
30)
同じころ,平成14年12月1日以降のダイオキシン規制につき,焼却
,.能力が1時間当たり4トン以上の廃棄物の焼却炉であって火床面積が0
5㎡以上又は焼却能力が1時間当たり50kg以上のものについては,排
出ガス中のダイオキシン濃度が01ng/を超えてはならない以下新.(「‰
排出基準」という)と規制される見通しとなった(ダイオキシン類対。。
策特別措置法20条,8条,同法施行規則1条の2,別表第1,附則2条
1項,同法施行令別表第1第5号参照)
ウ県ごみ処理広域化検討委員会那須地域部会では,平成9年12月24日
から平成10年7月22日まで,広域内におけるごみ処理の在り方につい
て協議を重ね,資源の有効利用,ダイオキシンの抑制対策,建設費及び維
持管理費の削減の要請,1日100t未満の処理量の処分場には国庫補助
が支出されないこと等を考慮して,広域化を推進することで一致した。
上記協議では,同時に,広域化の問題点として,7市町村のごみを一体
的に処理するには1日400tの処理能力と4万㎡の敷地が必要となるこ
と,周辺住民の合意を得るのに困難が予想されること等,立地場所の選定
が大きな課題であること,各市町村のごみ分別収集体制,輸送体制等を調
整する必要があることが挙げられた。また,各市町村から,現存するごみ
焼却施設の更新や拡張の可能性について,地元住民の理解が得られないこ
とや地元との覚書等を理由としながら,消極的な意見が述べられる中で,
原告は,地元住民の理解が得られるかどうかは未定である,との意見を述
べた。
上記部会では,上記協議を踏まえ,同年9月29日,平成14年11月
末までに施設の更新が必要となる4市町村を第1期事業,他の3町村を第
2期事業として,今後は,広域組合で,将来の全体的な広域化を視野に入
れながらごみ処理方式を検討していく旨の最終報告書案を策定した(乙。
72)
第1期事業については,当初,県によるRDF発電システムに参加する
ことも検討されたが,県の計画が2年程度延期され,平成14年11月末
までに施設を稼動することが困難となってきたことから,RDFではなく
燃焼型の処理方式を柱に検討することとされた。
エS2市長は,平成10年3月の原告市長選挙時には,未だ,前記ウのR
DF発電計画の延期が確定的ではなかったこともあり,A地区での市政報
告会において,A地区には新たに焼却場を造らないこと,今後は,U市に
RDF発電施設ができれば,その中間処理施設をA地区に造ることを説明
。(,〔,〕,〔〕,〔,した甲30証人C1120121B162Y329
30)〕
原告は,平成9年から平成10年にかけて,本件用地と国道400号線
をつなぐ市道308号線について,周辺住民から用地を買収した上,拡幅
工事を行った。
オ広域組合は,ごみ焼却施設の設置場所について検討を進め,平成11年
3月ころ,第1期事業の対象4市町村中,大田原市が人口50%以上,ご
みの排出量54%と共に最大であること,黒羽町は広域組合の最終処分場
を引き受けることを主な理由として,設置場所を大田原市内とすることを
内部的に合意した上,同年5月19日,同組合正副管理者会議において,
(「」。),旧施設の隣接地以下買収予定地というを買収して用地を拡張し
新施設を設置する旨決定した(甲19の4の2,原告代表者〔84ない。
し109,116ないし118)〕
カ原告は,広域組合における検討と並行して,大田原市内におけるごみ焼
却場の設置場所について,S2市長,助役,民生部長,生活課長等で協議
し,A6やA2も検討したものの,最終的にS2市長の判断により,新排
出基準が適用される平成14年12月1日までに高性能の焼却炉を設置す
る必要がある中,設置に必要な都市計画決定手続の期間短縮やごみ搬入の
ための道路整備の点からは,既に旧施設が設置され新たに都市計画決定を
行う必要がなく,かつ,市道308号線が整備されている本件用地への設
置が適当であるとして,本件用地を設置場所と決定した(甲20の2,。
証人C1〔124,原告代表者〔115,153,340)〕〕
S2市長は,本件設置計画について,仮に反対する者がいても説得の上
実施する必要があると認識していたが,原告市議会,地元自治会及び買収
予定地の地権者に別個の時期に伝えて反対の声が上がった場合には実施が
困難となるおそれもあると危惧し,上記内部決定前には,いずれに対して
。(〔,も打診あるいは説明を行わなかった原告代表者110ないし122
161ないし166,171)〕
(2)新施設建設工事開始に至る経緯
ア(ア)原告及び広域組合は,平成11年5月20日から同月23日にか
けて,本件自治会及び周辺4自治会の各自治会長に対し,広域ごみ処理
施設計画説明会の開催を申し入れ,同月31日,本件自治会住民に対す
る同説明会を開催し,本件用地への新施設設置を了承してもらいたい旨
の申入れをした(以下「本件説明会」という。甲43)。
住民からは,①A地区は火葬場とごみ焼却場があるという異例の地区
であり,この地区に新施設を設置する必要はなく,検討の余地があるの
ではないか,②他の場所への変更を考えてほしい,③今まで負荷を負っ
てきた住民にまた負荷を負わせるのでは納得がいかない,他の地域にで
きないか,④安全な施設であるなら他の地域を説得してほしい,⑤細か
い所まで詰めていって細かい対応をやってもらわないと信頼関係はでき
ない,もう少し地域に便宜を図ってもらわないとこういう事業は進まな
,。いので住民の話を聞き入れてもらいたいといった反対意見が出された
これに対し,S2市長は,①ごみ量等を考慮し,人口増などを考える
と,大田原市で引き受けざるを得ないと受け止めていること,②大田原
市の他地区へもっていくにしても,新しい地域を見つけるのは難しいこ
と,なかなか他の地域に受け入れてもらえないこと,③旧施設よりも安
全な,性能の良い施設に改善するので,ぜひ理解してほしいこと,④迷
惑施設というが必要施設であり,理解してほしいこと,⑤当初はRDF
,,の県の計画に参画して進めていく予定であったが県の計画が延期され
平成14年11月末までに稼働することが困難になってしまったこと,
⑥組織内部では,旧施設の拡張しか方策はないと決定してきていること
等を説明した。
また,S1管理者は,ごみの排出量,人口等を考慮して,旧施設の拡
張による対応を依頼したいことを,C3課長は,今後施設整備の具体的
な内容が決まった段階で地元と環境保全協定を文書で結び,約束事を守
っていくこと等を説明した。
原告及び広域組合は,その後,周辺4自治会に対して,それぞれ,上
記と同様に説明会を開催した。
(イ)同年6月14日開会の大田原市定例市議会では,他の候補地の検
討の有無や新施設の安全性等に関するY1からの質問に対し,S2市長
は,A地区の住民にとって,ごみ焼却炉がないほうが良いことは分かっ
ており,旧施設では迷惑をかけたがこれからは迷惑をかけないようなす
ばらしい施設を造ろうとして地元の理解を得ようとしていること,今後
環境アセスメントを実施するなどして,環境保全対策や施設の安全対策
に十分配慮した施設整備を検討するので理解してもらいたいこと等を説
明した(甲20の2)。
(ウ)広域組合C5主幹,C3課長及びC1主幹は,同月25日,前記
(ア)の説明会後の本件自治会の動向を聴取するために,本件自治会の
自治会長であったB2区長及び同副会長であったY3を訪ね,同人らか
ら,環境アセスメントのための調査は了承するが,本件自治会としては
現状では新施設の設置に反対であり,今後も説明会等を開催してもらい
たいこと,広域組合や原告と最後まで対立するようなことにはしたくな
いこと,安全の確保を最優先として望むため,グリーンベルトの設置に
ついても,汚染物質を吸収するという役割に重点を置いて検討してほし
いこと,本件用地周辺が過疎になることも考えられるので都市計画につ
いても十分配慮してほしいこと,などを聴取した(甲19の7)。
(エ)本件自治会は,その後,同月30日及び同年7月19日の役員会
,,,において本件設設置計画について協議しA地区では40年以上の間
原告市内のごみを焼却する焼却場の設置を我慢して受け入れてきたにも
かかわらず,今後,他の町村のごみまで加えた形で焼却を続けるという
のでは,健康被害や住宅建設の遅れ等につながるおそれがあり,感情的
にも受け入れ難い,本件自治会に事前に何の相談もせず,一方的に本件
設置計画を通告するというS2市長の手法にも納得がいかないといった
意見を踏まえ,本件設置計画に反対することを決めた。
イ(ア)本件自治会は,平成11年8月23日,A3自治会,A4自治会
及びA2自治会と共に,広域組合,S2市長及び原告市議会に対して,
本件建設計画の見直しを要望する内容の「那須広域ごみ処理施設のA地
」(「」。)区内への建設案の見直しを求める要望書以下本件要望書という
を提出した。
Y3は,その際,S1管理者らに対し,ごみ処理施設の必要性は理解
できるが,広域組合として施設を建設するなら新たな場所が望ましく,
半径500m以内は樹木で覆われたところが望ましいこと,安全な施設
ならなおさら他の場所へ建設できるはずであること,本件要望書につい
て,タイトルは要望書となっているが,陳情請願と厳しく受け止めてほ
しいことを述べた(甲19の7)。
(),,イ同年9月6日開会の大田原市定例市議会ではY1やD1議員が
本件要望書に言及しつつ,これまでの本件用地周辺へのダイオキシン蓄
積量を考慮せずに,新施設は安全だから受け入れるべきだというのは酷
ではないか,A地区に造らなければならない理由はどういうものか等と
質問したのに対し,S2市長は,A地区以外の場所は今は見つからない
こと,旧施設がA地区にあるというのが理由の大きな要素であること,
どの地域でも反対の声は出るだろうから,他の地域へ設置の提案をして
計画が宙に浮いてしまうよりは,今ある地域できちんと説明をして理解
してもらうほうが筋が通っていると考えていること,他の地域へ設置す
るとなると一からスタートしなくてはならないこと等を説明した甲,。(
20の2)
(ウ)Y2,Y1及びY3は,同月7日,C3課長を訪ね,本件用地へ
の建設を決定した理由や,他の候補地を検討したのか等を尋ね,地域住
民の半数以上は他の地域に建設することを望んでいる旨伝えたところ,
C3課長は,どこを候補地としたかについては言及できないが,他の候
,,補地と比較してA地区への依頼を決めた候補地の変更は考えておらず
これまでの反省に立って安全で安心できる施設建設をすることで,地域
住民の理解を得られるよう努力したい等と回答した(甲19の7)。
(エ)C5主幹及びC1主幹は,同年10月6日,B2区長及びY3を
訪ね,ごみ処理施設先進地視察会の実施を依頼したのに対し,Y3は,
再三に渡り本件用地への建設見直しを要望しているのに,行政側は見直
す考えがなく,明解な回答もせずに,安全な施設にするから建設させて
くれの一点張りである,新施設の建設場所は見直すべきであると強く述
べた。
(オ)本件自治会は,同年10月12日の全員協議会において,先進地
視察会の実施等について協議し,いらないものを見る必要はない,等の
意見を踏まえ,実施要請には応じないことを決めた。
(カ)原告及び広域組合は,同年7月から10月にかけて,A3等3自
治会及びA2自治会参加の先進地視察会を行った。
(キ)広域組合,S2市長及び原告市議会は,同年11月24日,B2
区長に対し,本件要望書の要望を拒否する旨回答した。
ウ(ア)本件自治会は,平成11年12月3日,A2自治会と共に,原告
市議会に対し,新施設建設計画へ反対する住民ら約1300名(後に追
加されて約1800名となった)の署名を添えた請願書(以下「本件請
願書」という)を提出した。。
(イ)本件自治会は,同月14日の全員協議会において,新施設の用地
選定の理由に納得できないため,S1管理者及びS2市長との座談会の
開催並びに行政側の引率なしの先進地視察会の実施を要望することを決
め翌15日B2区長からC5主幹及びC1主幹へその旨伝えた甲,,。(
19の3)
(ウ)本件自治会は,同月27日の全員協議会において,S1管理者及
びS2市長との座談会を開催し,多くの住民が,新施設建設計画に反対
する意見を述べた。
(エ)本件自治会は,A2自治会と共に,平成12年1月9日以降,両
自治会地域内へ,新施設建設計画に反対する旨の看板を設置した。
(オ)原告市議会では,平成11年12月21日から,本件請願書の採
択について審議を行っていたところ,平成12年1月28日の民生文教
委員会での不採択意見を経て,同年2月7日,臨時議会において,不採
択とする旨決定された。
(カ)本件自治会の役員であったY4は,清掃センター所長等立ち会い
のもと,同月14日,本件用地の南側田のあぜの土壌の表層部分を約2
00g採取し,E1の代表者を務めるE2を介し,E3へ,土壌のダイ
オキシン濃度調査を依頼した。
エ(ア)本件自治会,A2自治会及び買収予定地地権者4名中B3,B4
及びB5は,平成12年2月18日,S1管理者に対して,本件請願書
の不採択決定に対する抗議と本件設置計画への反対運動(以下「本件反
対運動」という)を続けていく旨を記載し,512名の追加署名を添。
えた「決議文(以下「本件決議文」という。乙111)を提出した。」
その際,B1区長は,ダイオキシンだけが問題ではなく,最初の焼却
場を建設した当時は地元には47から48戸しかない状況であったが,
今もってなぜA地区に焼却炉を造るのか分からない,なぜ地元に相談な
しでA地区に決めたのか不信感でいっぱいである,徹底的に反対運動を
行う覚悟である,運搬車も25台から85台となると述べ,Y3は,い
くら条件が良くても絶対に応じないと思うと述べた(甲19の7)。
(イ)S2市長は,同年3月3日開会の原告市議会定例議会で,新施設
の耐用年数十数年を経過するころに,県のRDF発電計画が進んでいれ
ば,RDF燃料化施設を造ることで,A地区でごみを焼却しないですむ
ようにしたいと考えている旨説明した(甲20の2)。
オ(ア)本件自治会は,平成12年3月20日の定例総会において,出席
者38名,委任状出席者26名の賛成により,改めて,広域組合による
本件用地への新施設建設について,いかなる建設計画であっても絶対に
。(,,,認めることはできないという結論に達した甲19の34849
乙121)
本件自治会は,併せて,通常の役員会の他にごみ役員会を設置し,新
施設建設計画に関する協議や活動を委任することとし,ごみ役員11名
を選出した(乙115,116)。
(イ)Y3は,翌21日,C3課長に対し,上記(ア)の定例総会にお
ける結論を伝え,新施設建設地の代替案を提示するとともに,譲歩案と
して,15年後には他の場所へ焼却炉を移転するという約束ができない
か提案したところ,C3課長は,新施設の更新時期には再度協議するこ
とを協定に盛り込むことは可能ではないかと思うが,RDF製造設備も
検討しており将来の処理方式が不透明な現状では,将来他の場所に建設
する約束はできないと回答した(甲19の3)。
(ウ)B2区長は,同月22日,S1管理者宛に,上記20日の自治会
定例総会での結論と見直しの方向での再検討を要望する旨記載した自,「
治会要望書(甲49)を提出した(甲48)」。
(エ)同年4月24日,本件自治会は,A2自治会と共に,厚生省及び
(。),。環境庁いずれも当時以下同様へ新施設建設反対の陳情に行った
(オ)本件自治会は,同年5月9日,ダイオキシン土壌調査に関する勉
強会を開催した。
(カ)C5主幹及びC1主幹は,同月11日,B2区長宅を訪れ,新施
設を他の地域へ建設することは考えていないこと,環境保全に配慮した
計画を履行するために敷地拡張には努力を続けていきたいが,やむを得
ず施設用地が確保できなければ,その時点で確保できる敷地の中で建設
することも考えていること等を説明した(甲19の3)。
カ(ア)原告は,平成12年6月1日,S1管理者,S2市長,原告市議
会議員24名中21名及びA3等3自治会役員立ち会いのもと,本件用
地の周辺数カ所について土壌調査を行った。
本件自治会は,A2自治会及びA6自治会とともに,上記調査の実施
に対して抗議した。
(),,イ本件自治会は同年6月10日及び21日の全員協議会において
土壌のダイオキシン濃度調査の実施について協議した。
本件自治会ごみ役員会は,同月22日以降,ごみ役員同士の認識を共
通にしながら本件反対運動を行うべく,役員会便りを発行するようにな
った(乙1ないし30)。
Y3は,同月30日,S2市長宛に,本件用地選定の理由の1つとし
て挙げられている市道308号線整備の際の原告の対応に不信を拭えな
いこと等に触れつつ,新施設建設計画を見直すよう求める「申立書」を
送付した(甲19の8)。
(ウ)原告は,同年7月6日,上記(ア)の土壌調査の結果,周辺地域
,,,,のダイオキシン濃度は140pg-TEQ/g86pg-TEQ/g23pg-TEQ/g
25pg-TEQ/g,11pg-TEQ/gと,いずれも環境基準である1000pg-T
EQ/gを下回る数値であったことを,原告市議会へ報告した。
(エ)本件自治会は,同月15日,A3等3自治会に対して,本件反対
運動への協力を要請した。
(オ)本件自治会,A2自治会及びA6自治会有志18名は,平成12
年7月18日,厚生省及び国土交通省へ,新施設建設反対の陳情に行っ
た。
(カ)本件自治会は,翌19日,A2自治会及びA6自治会と共に,陳
情書をS1管理者へ渡し,建設の見直しを要請した。
(キ)広域組合は,同月11日付けで,E1に対し,E3に提出した土
,,壌試料を提供するよう依頼する要望書を送付したが返送を受けたため
同月24日には,C5主幹及びC1主幹において,Y4に同様の依頼を
したが,拒絶された。
その際,Y4が,新施設を本件用地に建設する理由を尋ねたところ,
C5主幹及びC1主幹は,本件用地が最良の場所であると断言している
,,,わけではなく今ある諸々の制約の中で判断した場合に新施設は安全
安心であるため,本件用地がふさわしく,本件用地しかないとの結論に
至ったと説明した(甲19の3)。
キ(ア)広域組合は,平成12年8月1日,A3等3自治会との間で,環
境保全協定を締結した。
(イ)Y3は,同月18日,A地区における40年間の過去の環境汚染
を軽くみることはできないはずであり,将来への人体に及ぼす健康不安
も無視できないこと,新施設は安全というが,有害物質の分解生成のく
りかえしであり,過去の汚染のない,新しい場所を選定するべきである
こと等を述べた「平成の大失政」と題する文書を,S2市長宛に送付し
た(甲19の8)。
(),,,ウ本件自治会は同年9月6日A2自治会及びA6自治会と共に
本件用地の都市計画変更決定に対する異議申立てを行った。
(エ)本件自治会は,翌7日,A2自治会及びA6自治会と共に,本件
反対運動に対する理解と支援を依頼するチラシを,新聞折込広告の形で
原告市民へ配布した(乙98)。
(オ)原告は,同月11日から25日の間,本件用地を広域組合大田原
ごみ焼却場に供する旨の都市計画変更決定を縦覧に供し,8名から意見
書が提出された。
(カ)本件自治会は,同年10月18日,A2自治会及びA6自治会と
,。共に上記都市計画変更決定の撤回を求める嘆願書を県知事へ提出した
(キ)C2助役,C3課長及びC5主幹は,同月25日,B2区長及び
Y3に対し,今後,本件用地の買収について,個々の地権者との個別交
渉に入ることを伝えた。その際,C2助役は,次回の焼却炉更新時期に
は見直しをするということは約束できると思うが,場所を見直すという
ことを約束するのは無責任なことと考えており,約束できない旨説明し
た(甲19の3)。
(ク)原告は,同月26日,上記都市計画変更決定を告示した。
,,,原告及び広域組合は同月31日以降買収予定地の地権者らに対し
買収への協力要請を開始した。
ク(ア)本件自治会は,平成12年11月19日,本件反対運動に対する
理解と支援を依頼するチラシを,新聞折込広告の形で原告市民へ配布し
た。
(イ)本件自治会役員等12名は,同年12月1日,S1管理者と面会
し,B1区長及びY3から,本件自治会に事前の相談等なく突然計画決
定の説明があったことが問題の発端であること,40年に渡り焼却場を
我慢して受け入れてきた地元住民の心情を理解してほしいことを述べ
た。
(ウ)広域組合は,同月4日及び5日,B6及びB4から,買収予定地
の16%に相当する土地を買収した。
(エ)本件自治会は,同月14日,S1管理者と面会し,新施設建設工
事の入札中止等を申し入れたが,広域組合は,翌15日,入札を実施し
た。
本件自治会は,これを受けて,同日のごみ役員会において,新施設工
事差止訴訟の提起について協議した。また,B1区長,Y3,Y4,Y
6外3名は,買収予定地の一部の埋立等に関する過去の資金交付に不正
行為があったと考え,Y1及びY2に相談の上,同日,監査請求を行う
とともに,S2市長を告発した(乙92)。
(),,,オY3及びY6は同月18日広域組合のC6事務局長らに対し
S1管理者に入札中止を申し入れたにもかかわらず入札を実施したこと
について,強硬な行動であり,S1管理者に裏切られた形となったと抗
議し,最後の手段として,工事現場での座り込みや訴訟提起を考えてい
ることなどを述べた(甲19の3)。
(カ)広域組合は,同月20日,E4との間で,新施設の建設請負仮契
約を締結した(乙84)。
,,,,新施設は約2万5000㎡の敷地にバグフィルタ触媒脱硝装置
有害ガス除去装置等の排ガス処理設備を備えた,1日60トンの処理能
力を有する全連続焼却式ストーカ炉2機と燃料燃焼式灰溶融炉のごみ焼
却施設に,環境問題を学習するためのリサイクルプラザ,道路沿いから
施設の運転状況や排ガスの状況等が分かる公害監視盤を備えるものと計
画された。
排ガス中の有害物質の濃度は,ばいじんが0.02g/以下,硫黄酸‰
化物が30ppm以下,窒素酸化物が50ppm以下,塩化水素が70
mg/N以下,ダイオキシン類が目標値0.02ng-TEQ/N,保証値0.‰‰
05ng-TEQ/N以下と,いずれも法令上の基準に比して厳しい基準が設‰
定された。排ガス中のダイオキシン類等については,2重のバグフィル
タ,触媒脱硝塔により除去し,焼却灰は灰溶融炉でスラグ化し,飛灰は
飛灰処理設備により固形化し,排水は再利用を図るものとされた(乙。
73,77)
(3)A地区の環境状況(乙106,64)
ア(ア)A地区は,昭和30年ころにごみ焼却が始まると,本件用地周辺
や,本件用地西側を流れるA川の土手に焼却灰(焼却炉の底に堆積する
灰)が野積みされ,風で飛散して周辺へ降り積もったほか,煙突から出
る黒い飛灰(排ガス中に浮遊する灰)が田の水面を広く覆うようになっ
た。また,本件用地の北側には,隣接して火葬場が設置された。
昭和40年ころからは,ビニール,プラスチック類がごみに混入する
ようになり,煙や臭いもひどくなっていった。
(),,,イ昭和61年の旧施設稼動後も旧施設からは施設立ち上げ時や
夜間を中心として,煙突から黒い煙が立ち上がる状態が多く見られ,A
地区住民は,すすによる洗濯物の汚れや,焼却場からの臭いに悩まされ
る状態が続いた。
また,野積灰にカラスが群がり,生焼けのごみを加えて食べ散らかす
状態が続き,平成3年には,本件自治会と農家の生産組合とでカラス駆
除を行った。
(ウ)平成13年5月には,A川や,本件用地周辺の水路から取水した
池から,胴体や背骨にくびれ等の変形が生じたどじょう,ざこ,鯉が見
つかった(乙44)。
イダイオキシン類濃度の調査結果,分析等(乙93,甲19の6)
(ア)a平成8年度の原告による調査(試料採取日同年11月19日)
では,排ガス110ng-TEQ/N,飛灰28ng-TEQ/gと,厚生省が平成‰
9年1月に公表した「ごみ処理に係るダイオキシン類発生防止等ガイ
ドライン」が定める緊急対策の基準値(80ng-TEQ/N)を超える排‰
ガス中ダイオキシン類濃度が測定され,新聞等で大きく報道された。
原告は,これを受けて,ダイオキシン類の排出を削減するための対
策を進め,平成9年度の調査(試料採取日同年10月29日)では,
排ガス27ng-TEQ/N,飛灰5.3ng-TEQ/gと削減効果を挙げ,平‰
成10年度には,ガス冷却室の修繕工事等によりガス冷却機能を30
0℃以下から250℃以下へ改善し,同年度の調査(試料採取日同年
12月16日)では,排ガス6.4ng-TEQ/N,飛灰11ng-TEQ/g‰
と,焼却灰1ng-TEQ/gと,排ガスについて削減したが,なお,高い
濃度が測定された。
b平成11年度の原告による調査(試料採取日同年12月15日)で
は,排ガス5.1ng-TEQ/N,飛灰5.4ng-TEQ/g,焼却灰0.6‰
6ng-TEQ/g,平成12年度(試料採取日平成13年1月25日)に
は,排ガス3.1ng-TEQ/N,飛灰3.7ng-TEQ/g,焼却灰0.5n‰
,(),g-TEQ/g平成13年度試料採取日平成13年12月14日には
排ガス1.5ng-TEQ/N,飛灰9.5ng-TEQ/g,焼却灰0.38ng-‰
TEQ/gと順次減少した(ただし,飛灰については平成12年から平。
成13年にかけて増加)。
c平成14年7月の,本件自治会の依頼によるE5の調査(試料採取
日平成13年12月19日)では,本件用地周辺松葉から2.7pg-T
EQ/gの濃度が測定され,ここから,排ガス中ダイオキシン濃度につい
て,171ないし323ng-TEQ/Nと,上記緊急対策の基準値80ng‰
-TEQ/Nを大きく超える濃度と推測された。‰
(イ)a平成11年12月7日の広域組合の依頼によるE6による調査
(試料採取日同年10月18日)では,旧施設北側敷地境140pg-T
EQ/g,同東側あぜ道53pg-TEQ/g(いずれもコプラナーPCBを除い
た数値,同南側田のあぜ(後記cの南側田のあぜと近接した地点))
130pg-TEQ/gと,いずれも,環境基準1000pg-TEQ/g以下(ただ
し,250pg-TEQ/g以上のときは調査が必要)の範囲内にとどまるも
のの,平成12年度の環境省調査による発生源周辺把握調査の土壌の
平均濃度11pg-TEQ/gを大きく上回るダイオキシン類毒性等量濃度が
測定された(乙53,54)。
ℓ,同下流上記調査では,水質について,A川上流0.17pg-TEQ/
0.15ℓℓを下回る濃度がpg-TEQ/と,水質の基準値年平均値1pg-TEQ/
測定された。
,,,,b広域組合は平成12年3月上記aの調査結果を元にして土壌
水質を始めとして,ダイオキシン濃度は環境基準を満たしており,予
測評価としても,汚染負荷は軽減されると評価されるなど,12種類
すべての環境項目について,環境保全目標を満たすとする生活環境影
響調査結果をまとめた(乙77)。
c平成12年3月23日の本件自治会依頼によるE3の分析(試料採
取日同年2月14日)では,南側山林130pg-TEQ/g,南側田のあぜ
5100pg-TEQ/g(ただし,いずれも環境庁の土壌調査測定マニュア
ル〔乙55〕に従わない表層1点の採取方法によるものである。51
00pg-TEQ/gについては,証拠(乙71〔42ないし45項)及び〕
前記(ア)ab認定の飛灰の濃度,前記aの近接地点の土壌の濃度に
よれば,飛灰あるいは焼却灰に由来するものと認められる)と,高。
い濃度が測定され,同年4月22日,その旨報道された(乙59)。
d平成12年の原告の調査(試料採取日同年6月1日)では,前記c
と南側田のあぜ140pg-TEQ/g,北側約200mA4団地内地点23
pg-TEQ/g,北西約300mA3団地内地点25pg-TEQ/g,西側約60
0mA5団地内地点11pg-TEQ/gと測定された。
e前記(ア)cのE5の調査では,南東側あぜ道420pg-TEQ/g,同
地点140pg-TEQ/g(ただし,土壌調査測定マニュアルに従わない表
層1点の採取方法によるもの,A川土手灰野積地点18000pg-T)
EQ/g,北側約600m地点32pg-TEQ/gと,いずれも高い濃度が測定
された。
(ウ)a平成11年8月から同年12月までの広域組合の調査では,2
地点の大気につき,夏期0.10pg-TEQ/,0.14pg-TEQ/,秋‰‰
.,.,.,期020pg-TEQ/034pg-TEQ/冬期059pg-TEQ/‰‰‰
0.46pg-TEQ/で,年平均0.297pg-TEQ/,0.313pg-T‰‰
EQ/と,環境基準の年平均0.6pg-TEQ/以下の範囲内にとどまる‰‰
ものの,平成12年度の環境省調査による発生源周辺把握調査の大気
平均濃度0.15pg-TEQ/を大きく超える濃度濃度が測定された。‰
b前記(ア)cのE5の調査では,本件用地周辺松葉から2.7pg-T
EQ/gの濃度が測定され,ここから,周辺大気中濃度について,0.2
7pg-TEQ/と,前記aの発生源周辺把握調査の大気平均濃度を大き‰
く超える濃度と推測された。また,上記(ア)bの排ガス中濃度の推
測値より,本件用地の南東及び南西方向約1kmの地域に1.8pg-T
EQ/を超える非常に高い濃度の分布があり,同北北東方向約1km‰
の地域に,環境基準を超える高濃度の分布があると推測された。
c前記(ア)cのE5の調査では,本件自治会住民であるE7の血液
から,56ないし81pg-TEQ/gと,労働省が高濃度ダイオキシン汚染
問題が生じているとして行った豊能の労働者92名の平均値は下回る
が,厚生省調査による一般環境調査の平均値を大きく上回るダイオキ
シン類毒性等量濃度が測定され,体脂肪率を20%とした場合に,許
容一日摂取量である4pg-TEQ/kgの1.3ないし1.9倍のダイオキ
。(,,)シン摂取が長期的に続いていたと推測された乙316162
(エ)E5は,本件阻止活動後の平成18年12月,前記(ア)ないし
(ウ)の各調査結果,推測結果等をもとに,本件用地周辺ではそれ以外
の地域と比較して,環境中の汚染も人体に蓄積している汚染も著しく高
かったとし,その原因は,旧施設から排出されていた排ガス中ダイオキ
シン類の排出量が非常に大きかったことにある,すべての有害な物質を
網羅した規制,対策を行うことは事実上不可能であるため,特に,本件
用地周辺のように,過去の汚染が著しかったことが明らかである地域に
おいては,仮に新施設の環境対策が万全であっても,生活環境を保全す
るために廃棄物焼却炉の立地は将来に渡り回避すべきであるとの意見を
表明した(乙108)。
(4)本件自治会,被告らの状況
ア本件自治会の区域は,本件用地を含み,その周辺約700m圏内に広が
る地域であり,昭和30年ころには山林や田圃が多く見られ,その後,住
宅建設が進められていった。本件自治会の住民の多くは何代にも渡って同
区域内に居住しており,広い土地を有し,農業により生計を立てている。
A3等3自治会の区域は,本件用地の北西方向約700内に位置し,い
ずれも新興住宅地域を構成している。
イY3は,本件用地から北東約400mの距離にある肩書住所地へ代々居
住し,当初農業により,その後酪農業により生計を立ててきた。
Y3は,本件説明会以前から,旧施設やそれ以前の焼却炉から黒い煙が
立ち上り,洗濯物にすすがつくという状況に悩むとともに,若年層が流出
したり,スーパーや病院の設置が進まないというA地区の状況をみて,ご
み処理施設の存在のために地域の発展が阻害されているのではないかと心
を痛めており,本件自治会副会長の立場にあったこともあり,本件説明会
以降,本件自治会における,本件反対運動を率先して進めてきた。
Y4は,本件用地から東約300mの距離に,Y5及びY6は南東約5
00mの位置に,それぞれ居住し,本件自治会の役員を務めており,Y3
と共に,本件反対運動を率先して進めてきた。
Y3らは,本件反対運動の一環として,本件自治会全員協議会及びごみ
役員会において協議するとともに,ダイオキシン問題等の勉強,各種調査
の依頼や,そのための資料の収集を自ら行い,その過程で,前記(3)ア
(ウ)の魚の変形を目にするなどし,A地区の汚染に不安を感じていた。
ウY1は,昭和19年に原告市内で生まれ,同市内小学校での教員勤務を
経て,昭和45年にY2と結婚し,昭和46年12月以降,某政党の支持
のもと,平成15年11月までの8期32年間,連続して,原告市議会の
議員を務めた。Y1は,前記(3)イ(ア)aの平成8年の110ng-TEQ
/Nの新聞報道がされたのを期に,ダイオキシン問題に関心を寄せるよう‰
になっていった。
Y1は,新施設の設置についても大きな関心を寄せ,本件用地へ建設す
るとの発表の直後から,原告市議会での質問,S2市長への申入れや,現
地周辺での調査等を継続し,その後,本件自治会の全員協議会やごみ役員
会に同席して意見を述べるなど,本件反対運動を支援するようになってい
った(乙46,93,94の1及び2)。
Y2は,那須町で生まれ育ち,昭和40年に某政党の専従職員となり大
田原市に居住後,昭和45年にY1と結婚し,平成12年11月30日に
退職後,Y1の議員活動の送迎などを行っており,Y1同様に,本件反対
運動を支援していた。
(5)別件差止訴訟の提起から第1回阻止活動に至る経緯
ア(ア)本件自治会は,平成13年1月1日,A2自治会及びA6自治会
と共に,本件反対運動等について理解を求める旨記載したチラシを,新
聞折込広告の形で原告市民へ配布した(乙92)。
(),,,イ本件自治会は同年2月1日A2自治会及びA6自治会と共に
再度,本件反対運動等について理解を求める旨記載したチラシを,新聞
折込広告の形で原告市民へ配布した。
(ウ)本件自治会は,同月13日の役員会,同月25日の全員協議会,
同年3月5日の役員会において,従来から新施設建設計画について相談
をしていたE7弁護士の同席のもと,同訴訟の提起について協議した。
イ(ア)被告ら及びB1区長を含む大田原市の住民約120名は,同月1
6日,原告に対して旧施設の操業停止等及び新施設の建設中止を求める
別件差止訴訟を提訴した。
(イ)本件自治会は,同月22日,新聞折込広告を原告市民へ配布し,
同月25日,E7弁護士同席のもと,自治会定期総会を開催した。
(),,,ウ広域組合は同年5月17日県北健康福祉センター所長に対し
新施設につき,着工予定日同年7月20日,使用開始予定日平成14年
12月1日として,一般廃棄物処理施設設置届出申請をし,平成13年
7月6日,同申請は許可された(乙76)。
(エ)同年5月,6月ころには,A川や,本件用地周辺の水路から取水
した池から,胴体や背骨にくびれ等の変形が生じたどじょう,ざこ,鯉
が見つかった(乙44)。
(オ)B1区長は,同年6月7日,総理大臣へ,新施設建設中止を求め
る直訴状を提出した。
(カ)S2市長は,同年6月以降の定例議会では,新施設建設計画に関
連する事項について,別件差止訴訟の裁判中であることを理由に,回答
を控えるようになった。
(キ)本件自治会は,同年7月4日ころ,自治会地域内へ「Aへのご,
み焼却NO」と記載した看板を立てるようになった。
(ク)市道308号線の用地の地権者であった,B8,B9,B5及び
B10は,同年7月11日,市道308号線の整備の際の原告の対応に
ついて非難する内容の陳情書を作成した(乙112)。
ウ(ア)本件自治会は,平成13年7月1日及び同年8月5日のごみ役員
会を経て,同日の全員協議会において,旧施設へのごみ搬入の実力阻止
行動の実施について協議し,住民の大多数から実施やむなしとして賛成
を得て決定し,同月26日のごみ役員会において,実力阻止活動の具体
的内容について協議した。
(イ)本件自治会は,同年9月3日,新施設建設工事の中止を求める申
入書を,広域組合へ提出した。
(ウ)本件自治会は,同年10月17日のごみ役員会において,実力阻
止活動は別件差止訴訟の状況の推移をみて慎重に検討すること,実施に
ついてはA2自治会と協力することを,同年11月6日のごみ役員会に
おいて,E7弁護士同席のもと,実力阻止活動の時期や,新施設設置反
対を訴える看板の設置を,同月27日のごみ役員会において,翌年3月
の原告市長選挙への自治会としての対応を協議した。
(エ)平成13年12月1日,本件自治会は,A2自治会と共に,新施
設の設置等について抗議する内容の書面を作成,配布した(乙57)。
(オ)本件自治会は,同月25日の役員会において,看板設置作業や後
記エ(ア)の公開質問状の送付について協議した。
エ(ア)本件自治会及びA2自治会は,同年12月27日,平成14年3
月の原告市長選挙へ立候補を表明しているS2市長とD1議員に対し,
①地元住民の意見も聞かず,一方的に広域の焼却場建設を強行したのは
公約違反,住民に対する背信行為にならないのか,②A地区の住民は市
のごみを40年も燃やし続け,公害に苦しんできたが,その苦しみをど
う考えるのか,施設移転を求める切実な声を,単なる地域エゴ,いやが
らせ,腹いせと考えるのか,③新焼却場の今後について,環境汚染の影
響の少ない地域への移転等についてどう考えるか等9項目の質問を記載
した公開質問状(甲20の1)を送付した。
S2市長は,上記公開質問状の内容が,従前の原告市議会の一般質問
でY1から何回も質問されていた事項と同様であったため,実質はY1
が関わって作った質問状であると考え,平成11年6月から同13年1
2月分市議会の議事録を添付引用しただけの回答書を作成し,平成14
年1月17日に,本件自治会へ交付した(甲20の2,乙102の1。
及び2,原告代表者〔220ないし225)〕
(イ)本件自治会は,平成13年12月30日「ただいま裁判中!」,
等と記載した看板を,自治会地域内へ設置した。
(ウ)本件自治会は,平成14年1月18日のごみ役員会において,看
板の設置等について協議し(乙21,翌19日の全員協議会では,Y)
2のほか,E7弁護士,研究者であるE8,原告市議会議員D2(以下
「D2議員」という,同D3(以下「D3議員」という,D1議。)。)
員等出席のもと,近隣の栃木県某町での同種住民運動の例などを踏まえ
て,実力阻止活動について協議した。
E8は,いかに近代的な施設であっても,日常的に故障等のトラブル
の発生は避けられず,1年中の稼動期間を通じて100%排出基準を守
れるということはあり得ないこと,大型焼却施設の立地がされている地
域では,既にダイオキシン類による健康障害が発生している可能性を否
定できないため,徹底した疫学調査や住民の健康調査を実施し,その安
全性が確認されないうちは,新たな焼却炉の設置を行うべきではないこ
とを説明した(乙49ないし51)。
(エ)本件自治会は,同月27日,ごみ役員会において,翌2月中に実
力阻止活動を実施することを協議した(乙22)。
(オ)本件自治会は,同年2月1日,A2自治会と共に,S2市長とD
1議員との公開質問状に対する回答の概要を掲載したチラシを作成し,
原告市民へ配布した(乙102の1及び2)。
本件自治会は,同月4日ころ,S2市長に対して,住民との対話の場
として市政懇談会を開催するよう申し入れたが,日程の都合がつかない
と断られた。
(カ)本件自治会は,S2市長が,公開質問状への実質的な回答及び市
政懇談会の開催を拒否したことに大きな不満を持ち,原告市長選を控え
たこの機会に,新施設設置に関するS2市長の手法の問題点を広く市民
に知ってもらうべく,予定どおり,実力阻止活動を行うこととし,同月
6日,A2自治会と共に,阻止活動のお知らせ文書(甲19の5の2)
を作成し,自治会住民へ回覧した。
オ平成13年10月17日の地元紙では,U市の清掃工場で,3月から6
月までの間に32回に渡り,地元自治会と結んだ環境保全協定の自己規制
値を超えた濃度の有害物質が排出され,7月までの間,濃度測定結果の見
落としなどを原因として,同協定で定められた焼却炉一次運転停止や自治
会への報告が行われていなかった旨報道された(乙37)。
同月23日の地元紙では,栃木県K町で,町の費用負担のもと,清掃工
場が設置された地域の地元住民と町が,共同して,クロマツの葉から大気
中のダイオキシン濃度を分析する試みが進められている旨報道された乙。(
38)
栃木県S市では,平成11年12月ころ,当時稼働中の清掃センターに
隣接して新たに清掃センターを建設する計画が断念され,その後も,翌1
2年8月以降,市が候補地を表明しては住民等の反対に合い計画を断念す
ることが続いた後,平成13年11月,公募で参加した市民が新清掃セン
ター建設について話し合う委員会が設置された(乙43)。
(6)第1回阻止活動(甲46の2,47の2,乙23,42)
ア本件自治会の住民らは,平成14年2月18日から3月2日までの13
日間,第1回阻止活動を行い,原告の委託を受けて可燃ごみを運搬する運
搬車に対し,ごみの搬入を断念するよう要求した。
イ本件自治会は,活動開始日である同年2月18日の午後,C3課長を介
して,S2市長に阻止活動の現場へ来て住民との話し合いに応じるよう要
請したが,S2市長は,市長選挙の直前であり,立候補予定のD1議員が
現場を訪れていたことなどを考え,現場へは行かないこととし,C3課長
において,同月20日,裁判中の内容以外の地域問題等について話し合い
を行うことは前向きに考えたいが,裁判中の内容については法廷外で話し
合いをすることはできない旨回答し,阻止活動の終了を要請した(乙2。
3,原告代表者〔242)〕
ウ本件自治会は,同月21日,E5から,前記(3)イ(イ)eのA川土
手灰野積地点から18000pg-TEQ/gという,平成14年当時最終処分場
への埋立の際にも所定の処理が必要とされる3000pg-TEQ/gという基準
を遙かに超える非常に高濃度が測定された旨の報告を受け,これを報道機
,,,。()関に発表し同発表内容は全国紙を含め各紙で報道された乙42
本件自治会は,上記測定値を踏まえて,同月25日「県・広域及び市,
当局に対する当面の緊急要求」を提出したところ,S2市長は,ダイオキ
シン類再調査を実施することを検討し,処理の必要なものについては適切
に処理をする等と回答した(甲46の2)。
エ本件自治会は,同月28日,新施設建設後に関する話し合いに応ずるこ
とを求める旨の申入書をC2助役に交付した。これに対し,C3課長は,
同年3月1日,新施設は広域組合が建設する施設であること,別件訴訟が
裁判所で審理中であるから法廷外での話し合いに応じることはできないこ
とを記載した回答書を交付するととともに,S2市長と協議の上,現在係
争中の内容については話し合いはできないがそれ以外のことについては可
能であり,良好な関係を構築するためさらに努力をするので,合意による
形で阻止活動解除をしてほしいと要請した(甲46の1,3)。
オ本件自治会は,前記エの原告側の回答に納得はしなかったものの,同月
2日正午ころ,原告の不当な住民無視の行為に対し今後も実力行使を行う
こと,旧施設の操業停止と新施設の建設阻止あるいは新施設の期限付き住
民協定締結の実現まで挙を掲げ続けること,選挙後の新市長との新たな話
し合いの進展を強く望むこと等を宣言して,第1回阻止活動を解除した。
(乙34)
(7)第1回阻止活動後の状況
ア本件自治会は,平成14年4月2日,E5から,前記(3)イ(ウ)c
のB7の血液検査で厚生省調査による一般環境調査の平均値を大きく上回
るダイオキシン類毒性等量濃度が測定された旨の報告を受けた。
,,,,イB1区長及びY3らは同年5月8日C3課長C1主幹等に対して
A川沿い土手の焼却灰の即時撤去等の要望を伝えた(乙67の2)。
原告は,同年6月,上記焼却灰の一部である2万8000を撤去する‰
とともに,その余の焼却灰の河川への流出を防ぐために,土留め工事を行
った。
ウ本件自治会は,同年7月,E5から,前記(3)イのE5による各測定
結果と,シミュレーション結果の報告を受け,同月27日の全員協議会に
おいて,E7弁護士同席のもと協議した。
エ別件差止訴訟は,同年10月17日に,第1審での弁論が終結し,翌年
1月30日が判決言渡し予定日とされた。
新施設建設工事は,このころまでに完了した。
オ(ア)本件自治会は,ごみ役員会において,平成14年10月27日,
広域組合に対する期限付き住民協定締結申入れについて協議し,同年1
1月8日,広域組合に対し,本件用地周辺からのダイオキシン検出等の
環境汚染についての見解と今後の対応の明示,新施設操業を前に期限付
き住民協定締結のための話し合いを1日も早く開始すること等につき,
。(,同月15日までの回答を求める旨の申入書を提出した甲18の12
乙117)
(イ)広域組合は,同月15日,上記申入書に対する回答期限の延期を
申し入れた上で,同月21日,C5主幹から,A3等3自治会と既に環
境保全協定を締結しており(前記キ(ア)参照,改めて期限付き住民)
協定を締結することは考えていない旨記載した回答書(甲42)を,B
1区長及びY3へ手渡した。
これに対して,Y3は「40年も我慢してきたのに何で期限付きの,
協定書が結べないんだ」などと,B1区長も「我々が一番望んでいる,
のは期限付き住民協定の締結だ。40年も我慢したんだから次(の焼却
炉の建設)は違う場所でということだ」などと述べて上記回答を非難。
し,回答書の受理を拒否した。
(ウ)S2市長は,期限付き住民協定締結について検討したが,他の広
域行政事務組合において,焼却場建替の際は他の場所へ移転する旨の文
書を作成したものの,移転が実現できず,混乱が生じた旨の報道を耳に
していたため,自身は新施設の建替前に市長職を退いていることが予想
される中,上記協定を締結しては,後任の者に迷惑をかけることになり
かねないと考え,締結しないこととした(原告代表者〔189)。〕
カ(ア)本件自治会は,同月25日のごみ役員会において,E7弁護士,
,,(),D2議員Y2ら同席のもと前記オイの広域組合の回答を受けて
再度阻止活動を行うことについて協議し,出席役員15名中,B11,
B12が慎重意見を表明するも賛成したほか,全員の賛成を得て,本件
阻止活動の実施を決めた。
(),,,,イB1区長は翌26日C1主幹から第1回阻止活動のときは
地元との話し合いを行う姿勢が必要であるとの判断から,対話を重視し
て穏便な解決方法をとってきたが,今般阻止活動を実施した場合には,
原告市民だけでなく4市町村に迷惑がかかること,原告の施設ではなく
広域組合の施設であること,性能試験期間中であること,2度も穏便に
済ませられる状況ではないことから,直ちに法令に基づく手続や,必要
な措置をとれるように準備を整えていること,阻止活動を速やかに排除
する方法を考えなければならないことを告げられた(乙105の5)。
(ウ)本件自治会は,同月27日の拡大役員会(ごみ役員に,組長経験
者数名を加えたもの)において,阻止活動の実施について協議し,出席
役員18名中,B1区長が,新施設の建設業者であるE4から損害賠償
を請求されることを危惧する発言をしたものの賛成したほか,B13が
反対した以外の17名は賛成し,欠席役員5名中,B11,B14が反
,,。対した以外3名の賛成を得て改めて本件阻止活動の実施を確認した
(エ)Y1は,同月18日から30日まで,病院へ入院しており,前記
(ア)及び(ウ)の役員会には同席しなかった。Y2は,前記(ア)の
役員会に同席し,本件自治会役員から,阻止活動実施の際の写真撮影を
依頼され,これを了承した。
キ本件自治会は,同月30日,期限付き住民協定の締結拒否へ抗議し,新
施設の操業を前に最後の要求として,同協定の締結を強く求める旨のチラ
シを作成し,配布した(乙99の1,2)。
ク原告民生部生活課職員は,本件阻止活動前から,その実施に備えて,ご
みの仮保管場所の選定等の準備作業を行うとともに,本件阻止活動参加者
に対する損害賠償請求訴訟の提起や仮処分の申立てを念頭に置き,そのた
めの証拠収集方法を検討するなどしていた。
ケ本件自治会住民ら約20名は,同年12月2日,午前7時40分ころ,
本件用地へ赴き,B1区長からC3課長に対して,新施設の将来の移転に
ついて話し合いに応じてもらいたい旨要請したが,C3課長は,別件訴訟
の判決前であり,話し合いをする時期ではないとして,これを拒否した。
そこで,上記住民らは,当初の計画どおり,原告委託にかかる可燃ごみ
の運搬車の新施設へのごみ搬入を阻止することとし,本件阻止活動を開始
した。
コ栃木県S市では,前記(3)オの委員会設置以降,同委員会による清掃
,,センター施設の安全性等をまとめた答申の提出を経て平成14年5月に
施設設置に期限を設けること,地域振興策としての公民館建設などの要望
とともに,全回一致で新清掃センターの受入を表明した自治会が登場し,
清掃センターの建設地が決定した(乙43)。
(8)本件阻止活動(甲18の14,乙104の1ないし104の7)
ア(ア)本件阻止活動は,平成14年12月2日から,旧施設及び新施設
の入口付近道路上と市道177号線上(以下「活動現場」という)で。
行われ,本件自治会住民を中心として,本件自治会75戸中,最大約4
0人,1日平均約20人が,活動現場を訪れて本件阻止活動に参加した
(以下,本件阻止活動に参加した者らを「本件参加者」という。。)
本件参加者は「15年後にはAから出て行け!『期限付き住民協定,
むすべ』A1自治会」と記載した横断幕を,高さ数十cmの木の杭の支
,,,柱に結びつけて活動現場の片側車線を塞ぐ形で張り横断幕の背後に
椅子やストーブを設置して座り,もう一方の車線上には,1本のロープ
を張り,運搬車等が現れると,ロープの付近に立って車を止めさせ,チ
ラシを渡すなどして本件反対運動への理解を求め,原告委託にかかる可
燃ごみの運搬車か否かを確認してこれに該当する場合には搬入を断念す
るよう依頼して現場から引き返させ,該当しない場合にはロープを緩め
て新施設へのごみの搬入を行わせていた。
また,活動現場脇には,活動現場を訪れる者の目につくように「オ,
ラがふるさとでこれ以上燃やすな!汚すな!A1自治会」等と記載した
横断幕や,A地区への新施設設置に反対する内容を記載した看板を並べ
ていた。
(イ)Y1は,同月2日,要旨「ダイオキシンが,子,孫の代に,大変
厳しい状況を人類にもたらすと言われているが,このダイオキシンを減
らすために,住民の皆さんが一致して行動しようということは当然のこ
とだと思う,がんばって下さい」との応援演説を行った。続いて,D2
議員も応援演説を行った(Y1〔80)。〕
,,,,,Y1は2日の応援演説のほかは3日あるいは4日7日13日
16日に,現場を訪れた。
Y2は,連日活動現場を訪れ,本件阻止活動の様子を,写真やビデオ
で撮影していた。
イ(ア)本件参加者は,同月3日にも,本件組合に対して,話し合いを要
求したが,本件組合はこれを拒否した。
本件参加者は,同月4日,S1管理者に対し,活動現場へ来られない
のであれば,こちらから出かけていくので,夜間でもよいから調整して
ほしいとして話し合いを申し入れたが,広域組合は,別件差止訴訟の判
決が出される平成15年1月30日以後に自治会側から申し出があった
場合には応対する旨回答し,話し合いを拒否した。
(イ)広域組合及び4市町村長は,本件参加者に対し,同月2日及び3
日,本件阻止活動は威力業務妨害に当たり,違法行為であることは明白
であるとして,速やかに封鎖を解除し,解散するようにとの警告を,同
月4日,封鎖を解除しない場合には法的措置の検討も視野に入れる旨の
警告を,同月5日,封鎖を解除しない場合には法的措置をとる旨の警告
を行った(甲8の1ないし4)。
(ウ)B1区長らは,同月6日,黒羽町役場へ出向き,S1管理者に対
し,搬入阻止が目的ではなく,広域組合との話し合いによる解決を望ん
でいるので是非理解してほしい,現場の状況を見てほしい,15年には
必ずしもこだわらないので耐用年限がきたら他へ移転してほしい,など
と要請したところ,S1管理者は,新施設の存在を認めた上での話し合
いであれば前向きに対処したいとして,次の建替時期に移転する内容の
環境保全協定締結について話し合いができるように首長同士で検討する
旨回答した。
(エ)広域組合は,同月6日,法的な措置をとらざるを得ず,違法な実
力行使を直ちに無条件で中止することを求める旨の警告を行い,同月7
日,9日にも警告を行った(甲8の5ないし7)。
本件自治会は,同月7日,午後1時から3時までの間,22名の参加
により緊急拡大役員会を開催し,法的措置があるまで本件阻止活動を継
続することを決定した。
(オ)広域組合及び4市町村長は,同月9日,被告ら及びB1区長7名
を債務者として,宇都宮地方裁判所へ,本件仮処分の申立てをした。
(カ)B1区長は,同月11日,4市町村長のうち1人でも現場に来れ
ば実力阻止をやめる旨申入れをしたが,これに対し,広域組合は,4市
町村長に確認したが応じられないと返答した。
S2市長は,別件差止訴訟の裁判中であり,判決が下りてから話し合
,。,いをすればよく阻止活動現場を訪れるべきではないと判断したまた
C1主幹も,本件参加者の行動について,別件差止訴訟を提起しておき
ながら,まもなく判決が下りるという段階になって実力行使をするのは
おかしい,法廷に訴えておきながら法廷外で話し合いを求めるというこ
と自体おかしいと判断した(原告代表者〔327,証人C1〔22。〕
6)〕
(キ)原告職員は,同月12日,本件参加者に対して,損害賠償請求訴
訟を提起する準備をしているので,封鎖解除が遅れれば遅れるだけ賠償
金額が増えることになる旨注意した。
(ク)同月13日,本件仮処分申立事件の審尋が行われ,担当裁判官か
ら原告と被告らに対し,話し合いによる解決を勧められたが,広域組合
及び4市町村は,これを拒否した。また,同事件における被告らの訴訟
代理人であったE7弁護士は,Y1を債務者として仮処分の申立てをし
たことについて,支援者である市議会議員を相手として仮処分の申立て
をするというのは,支援者の弁護士を相手方として申立てをするような
ものでおかしいとして,非難した。
広域組合は,同月14日,本件参加者に対し,本件阻止活動を中止す
るよう警告を行った。
(ケ)同月16日午後4時ころ,宇都宮地方裁判所は,本件阻止活動を
禁止する旨の仮処分決定を行い,広域組合は,本件参加者に対して決定
の写しを示し,封鎖の解除を通告した。
B1区長は,同日午後5時半ころ,解除宣言をし,本件参加者は封鎖
を解除した。
本件参加者は,翌17日午前10時,用意した声明文を,報道機関へ
発表した(乙100,106)。
ウ本件阻止活動に参加したごみ役員らは,活動期間中,阻止活動の経緯を
(),記載した役員会便り緊急号外乙104の1ないし104の6を作成し
本件自治会の住民に配布した。
エ原告は,本件阻止活動開始日の同月2日,許可ごみについては収集の上
,,,周辺市町へ焼却を依頼し可燃ごみは収集しないこととし市民に対して
可燃ごみの自宅保管と,新施設への直接搬入を要請した。
原告は,同月2日,3日は,可燃ごみの収集を行い,収集したごみにつ
いて,N町の清掃センターへ焼却を依頼したが,翌日からは,収集を行わ
ないこととした。
原告は,同月3日,本件阻止活動が長期化した場合を想定し,可燃ごみ
の収集を再開した場合の保管場所の選考等を始め,同月7日まで収集を停
止したのち,同月9日以降,収集を再開し,収集したごみを仮保管場所に
保管するようになった。
本件阻止活動開始から同月7日までの間に,新施設へ直接可燃ごみを搬
入した原告市民の数は,1日当たり,車数十台から約200台程度であっ
た。
原告は,収集再開に際し,市民が1週間の間ごみの排出を控えて家庭で
ごみを保管していた分,再開当初は排出量が増えるだろうと予測し,同月
9日から同月11日にかけて,通常より多くの運搬車を手配するよう業者
へ依頼した。
原告は,本件阻止活動解除後の同月17日以降,一時保管していた上記
可燃ごみを,仮保管場所から新施設へ搬出し,同月19日までの間に搬出
を終了した(甲6)。
(9)本件阻止活動後の状況
ア宇都宮地方裁判所は,別件差止訴訟について,当初予定日の約1か月
後の平成15年2月27日に,旧施設の操業停止,新施設の建設中止いず
れについても,請求を棄却する判決(別訴一審判決)を言い渡した。
イY6,Y5らを含む,A7地区29戸中23戸の住民は,同年3月8日
の本件自治会全員協議会において,本件自治会を脱会した(乙105の。
6,Y3〔22)〕
ウ原告は,同年5月16日,本件阻止活動の参加者に対する損害賠償請求
について内部で協議し,第1回阻止活動は,大田原市だけに対して被害を
及ぼすものであったし,地元住民に迷惑をかけ続けてきた旧施設に対する
搬入阻止活動であったために参加者に対する提訴はしなかったものの,本
件阻止活動については,他の3市町村にも迷惑を及ぼしたものであり,安
全な施設である新施設に対する阻止活動であったことを考慮し,本件仮処
分と同様に被告ら及びB1区長の7名を相手方として,損害賠償を求める
訴訟を提起する方針とした(原告代表者〔292ないし298)。〕
,,,,,B1区長は同年6月7日C1主幹に対しY3Y6及びY4から
本件阻止活動は自治会活動として行ったものである以上,原告が本件阻止
活動に関して損害賠償請求をする際には,自治会長であるB1区長に対し
て請求されるのではないかと伝えられ,これに対し,B1区長において,
本件阻止活動は一部住民でやったことだと考えている旨返答したことを伝
えた(乙105の7)。
同月18日,被告らは,甲事件が提訴された場合には,全国の,同じよ
うにごみ焼却施設に対する何らかの運動に立ち上がっている住民に敵対
し,弾圧を強める結果になると憂慮している等と記載した声明文を発表し
た(甲18の17)。
エS2市長は,平成15年度第3回大田原市市議会定例会へ,甲事件提訴
に関する追加議案を提案し,同年6月30日,市議会において,提案理由
の説明として「本件阻止活動は)政治的意図を持った特定の者による,(,
扇動と地元の一部過激な住民が結託し,自治会長と良識ある多くの地区内
住民の反対にもかかわらず行った行為でありまして,住民運動に名を借り
た権力闘争であり,市政に対する悪質な嫌がらせ以外の何物でもありませ
ん。良識ある大部分の自治会内の住民からは,行政との話し合いによる解
決を求められているにもかかわらず,一部扇動者はそれを強固に阻止し,
,。現在では自治会内の対立が深まり自治会が分裂の危機に瀕しております
このような状況から1日も早く脱却し,円満な地域住民の生活環境を回復
するためにも,今回の損害賠償請求訴訟は必要との結論に達したところで
あります。なお,良識ある大部分の地域住民並びに市民等からは,悪意の
不法行為を黙認することは行政の怠慢であるとして,毅然とした市の対応
を求める声が多く寄せられ,今回の議案提出となった」旨説明した。
これに対する質問として,D5議員から「市政に対する嫌がらせとい,
うことで,地元住民以外の住民がそこに入っていろいろな画策をするとい
うこともこれも十分理解をしているという発言がD4議員から大,」,,「
田原市に合わせてやはり他町村も訴えを起こすべきだろう」という発言が
されたほか,D3議員からは,提案に対する反対討論として「損害賠償,
を求めることによって火に油を注ぎ,地元住民に市政に対する失望感を与
えるよりも,ここはじっと我慢して,恩情を示し,今後の円満な関係を結
ぶきっかけをつくることがまことに大切な判断のときであります」との発
言があった(甲38)。
その後,上記議案は,議決に移り,賛成15名,反対D3議員及びD2
議員2名,退席Y1(の)1名で可決された。
オ原告は,甲事件提訴は,原告が市民に対して訴えを提起するという重要
案件であるため,一般市民にも広報するべきであろうとのS2市長の判断
,「」,のもと広報おおたわらに提訴事実とその理由とを掲載することとし
広報公聴担当職員や生活安全課職員が,前記エの原告市議会におけるS2
,,,市長の説明を元に原案を作りS2市長が目を通して本件記事を作成し
同年7月15日ころ,同記事を掲載した本件広報誌を大田原市住民の各戸
に配布した(原告代表者〔309,310,336)。〕
S2市長は,本件記事において,共産党を指す言葉として「政治的意図
を持った特定の者」という表現を用い,第1回阻止活動が市長選の告示の
直前に行われたこと等から,本件阻止活動も含め,阻止活動全体が,S2
市長をターゲットとした活動であると考え「権力闘争」という言葉を用,
いた(原告代表者〔312ないし315)。〕
カ広域組合及び他の町村は,金額が少額のため,勝訴したときの利益がな
い,地元住民に新施設稼働による負担をかけるのによその自治体が地元住
民を訴えるのは問題である等と判断し,損害賠償請求は行わないこととし
た(甲19の4の2)。
キ原告は,平成15年7月28日,原告訴訟代理人弁護士に委任して,甲
事件を提訴した。
ク本件自治会(ただし,23戸脱退後)は,広域組合及び原告との間で,
平成15年8月27日,環境保全協定(甲19の1)を締結した。
本件自治会,A3自治会,A4自治会及びA5自治会は,広域組合及び
原告との間で,同年9月6日,新施設の次の焼却施設の建設地について,
。()広域組合が早急に調査検討を開始する旨の覚書を締結した甲19の2
ケ別件差止訴訟については,同訴訟原告らのうち,Y3らを含む16名が
控訴したところ,同年8月28日,既に旧施設の操業が停止されているこ
と,新施設の建設が終了していること等を理由として,控訴を棄却する旨
の控訴審判決(別訴控訴審判決)が出され,その後,同判決が確定した。
コY1は,平成15年11月16日の原告市議会議員選挙,平成18年3
月15日の同議員補欠選挙において,落選した(乙106)。
(10)以上の認定に関し,若干付言する。
ア原告は,本件阻止活動が被告らを中心とする一部住民の行動であったと
主張し,本件自治会の住民が作成した申立書(甲41)には,本件阻止活
動は本件自治会の決定に基づくものではないとの趣旨の記載があるが,上
記申立書は,本件阻止活動から4年以上経過した甲事件訴訟の審理終了間
,,近になってから一部の住民によって作成されたという作成経緯からして
にわかにその記載内容を信用することはできないし,本件説明会当初から
本件自治会住民が新施設設置について反対意見を述べ,その後も本件自治
会住民で全員協議会を交えつつ度々協議をしながら,自治会役員が中心と
なって,数々の積極的な反対運動を行ってきたという,本件反対運動の経
過に照らして不自然な内容であって,採用できず,他に上記原告主張を認
めるに足りる証拠はない。
イ原告は,原告側から話し合いを拒んだことはなく,むしろ役員会への出
席の要請等を行っており,話し合いや説明会の機会が少なかったのは,Y
3らがB1区長とS2市長との会談を阻止するなど,Y3らに原因がある
旨主張し,証拠(乙97)によれば,平成14年3月31日に,本件自治
会の役員らが,B1区長との間で,行政側との交渉は役員7名以上で行う
。,ことを原則とすること等の申し合わせを行ったことが認められるしかし
上記申し合わせの事実から,直ちにY3らがB1区長とS2市長との会談
を阻止したと推認することはできず,むしろ,前記(2(5)ないし),
(8)認定のとおり,Y3らを中心とした本件自治会住民は,積極的に原
,,()()告に対して各種申入れを行っているのに対し原告には前記5エア
のとおり公開質問状に対して議事録を添付引用しただけの不親切というほ
かない回答をしたり,同(オ)のとおり市政懇談会の開催を拒否し,ある
いは,前記(6)イのとおり第1回阻止活動時の話し合いを拒否したとい
う各対応がみられるのであり,他に上記原告主張を認めるに足りる証拠は
ない。
2争点(1(本件阻止活動の違法性)について)
前記1に認定の事実に基づき,本件阻止活動の違法性の有無を検討する。
(1)本件阻止活動により,原告委託にかかる運搬車が15日間に渡り新施
設へごみを搬入し得なくなり,その間,原告は,委託した業務の履行を受領
することができなくなった。そのため,原告が約1週間の間可燃ごみの収集
を控えたことで,原告市民がごみの自宅保管あるいは自主搬入を余儀なくさ
,,,れたほか収集再開後も収集したごみを10日間の間仮保管場所へ保管し
阻止活動解除後に同仮保管場所から新施設へごみを運搬する必要が生じたこ
とは,前記1(8)エ認定のとおりであり,原告及び原告市民が一定の不便
を強いられたことは否定できない。
(2)本件阻止活動の態様は,15日間に渡り,新施設入口付近の道路上の
活動現場で,新施設の15年後の移転を求める内容の横断幕を,高さ数十c
mの木の杭の支柱に結びつけて,活動現場の片側車線を塞ぐ形で張り,横断
幕の背後に椅子やストーブを設置し参加者らが座り込むとともに,もう一方
の車線上に1本のロープを張り,原告委託にかかる運搬車が活動現場に現れ
ると,ロープの付近に立って搬入を断念するよう要請し,これによって,上
記運搬車は新施設へのごみ搬入を断念せざるを得なくなったというものであ
ったことは前記1(8)ア(ア)認定のとおりであり,このような行為は,
物理的な手段を用いて新施設へのごみの搬入を阻止するものであり,新施設
設置反対あるいは15年後の移転を要請する意見表明の態様としてはやや穏
当を欠くものといわざるを得ない。
しかしながら,上記要請の態様は,運搬車を停止させて説得を試みるとい
うものであって,暴力的な行動を伴うものではなく,また,本件参加者は,
搬入阻止と並行して,活動開始日の平成14年12月2日から同月4日,6
日,11日と,継続して,広域組合あるいは原告に対して,15年後あるい
は耐用年数経過による建替時にごみ焼却施設を別の地域へ移転するという期
限付き住民協定の締結に向けた話し合いを要求し続けていたのであり,本件
阻止活動の実体は,新施設の稼働の妨害ではなく,上記話し合いを要請する
行動であったといえる。
また,本件参加者は,原告や広域組合による封鎖解除の警告には応じなか
ったものの,本件仮処分命令には従い,発令後速やかに本件阻止活動を終了
しているのであり,本件阻止活動には,法秩序を無視してあえて行うという
ような悪質性はなかったと考えられる。
(3)本件自治会住民らは,十分な汚染防止措置を欠いたごみ焼却の長期間
の継続により本件用地周辺に環境汚染が蓄積している危険があり,今後,よ
り大規模な焼却施設が設置されるのでは,さらに環境汚染が進むとともに,
地域発展が阻害されるおそれがあると懸念し,また,長期間のごみ焼却に加
え,ごみ焼却場と火葬場との隣接という全国的に例のない事態を受け入れて
きた中で,今後さらに,原告市民から排出されるごみだけでなく他町村のご
みをも焼却することとなる施設を設置するのは感情的に受け入れ難い等とし
て,本件設置計画に反対したものである。
そして,新施設の建設が提案された当初は,周辺の他の3自治会も本件反
対運動に同調したこと(前記1(2)イ(ア,その後も,約1800名))
もの新施設建設反対の署名を集めたり,約120名が別件差止訴訟を提起し
ていること(同(2)ウ(ア(5)イ(ア)に照らせば,漸次人数の減),)
少は見られるものの,本件用地周辺の居住環境の悪化を防ぐために本件設置
計画に反対すること自体は,A地区住民の多くの意向であったといえる。特
に,本件自治会の住民については,前記1(2(4)ないし(8)に認),
定の事実によれば,何代も前から農作に従事して生活してきた者が多く,そ
の周辺環境に深い関わりをもってきたがゆえに,本件設置計画への反対の程
度も,周辺の他の自治会の住民に比して高いものであったということができ
る。
また,本件用地周辺の環境については,前記1(3)のとおり,旧施設か
ら排出される排ガスに加え,本件用地周辺の土壌,大気及び周辺住民の血液
から高濃度のダイオキシン類が検出されるなど,環境汚染を疑わせる事情が
みられ,これをもとに,本件用地周辺へのごみ焼却炉の設置を回避すべきと
,,する調査機関の意見も出されているのであるから本件設置計画を断念させ
あるいはせめて期限付き住民協定を締結して,本件用地周辺の居住環境を改
善したいという希望は,相応の根拠のあるものであったといえる。
以上によれば,本件自治会住民らによる,新施設の建設を防ぎ,または期
限付き住民協定を締結することによって,本件用地周辺の居住環境を改善し
たいという希望は,尊重されるべきものであったといえる。
(),,4ア本件用地周辺では昭和30年ころ以降継続してごみ焼却が行われ
焼却場からの煙やすす,臭いが広がる状況が長く続いており,平成8年に
は,排ガス中から非常に高濃度のダイオキシン類が検出され,その対策措
置がとられた後もなお,一般的な焼却炉周辺部の平均に比べて高濃度のダ
イオキシン類が検出される状況が続いていた。このような状況の中で,原
告は,事前に本件自治会住民の意見を聴取することなく,周辺の道路整備
や事務手続の便宜の点から,本件設置計画を立案したものであり(前記1
(1,立案後の本件説明会で初めて同計画を知らされた本件自治会住))
民からは反対の声が多く上がり(同(2)ア(ウ(エ,その後も,本)))
件自治会は,本件要望書,本件請願書,本件決議文を提出するなど,次々
と,本件設置計画に反対する意向を明確に示していったが(同イ(ア,)
同ウ(ア,同エ(ア,本件自治会に対する原告の説明は,本件設置計)))
画立案の理由について,新施設は性能が良く安全である,他の場所を見つ
けるのは難しくなかなか受け入れてもらえない,必要施設であるため理解
してほしい,などと本件用地選定の理由につき的を得ないものであったほ
か,原告市議会でのS2市長の説明も,安全な施設である,他の場所は見
つからない,既に旧施設が存在することが本件用地選定の大きな要素であ
る,事務手続の便宜を考慮した,などにとどまり,C3課長の本件自治会
住民に対する説明も,具体的地区名を言及しないまま,他の候補地と比較
(()(),()検討したなどと抽象的なものに終始し前記12アイ同イイ
(ウ,本件用地選定の積極的理由を問う本件自治会住民の疑問に答え))
る真摯な説明はなかった。
また,原告は,本件説明会に続く第2回目の説明会を開催するなど(同
ウ(ウ,本件自治会住民の理解を求めるための一定の努力はしていた))
ものの,結局,本件自治会住民による反対の声を聞き入れて,本件設置計
画の見直しをすることはなかった(同イ(ウ)参照。)
イ平成12年3月には,S2市長が,原告市議会で,新施設の耐用年数十
数年の経過時の本件用地でのごみ焼却の終了を示唆する説明をしたことも
あり,本件自治会住民からも,その旨の約束を望む声が挙げられたが,C
3課長はこれを拒否した(同エ(イ,同オ(イ。)))
本件自治会は,その後も,ダイオキシン問題に関する勉強会を開催する
などして廃棄物処理問題について理解を深める努力を重ねながら,随時,
要望書の提出や陳情を行ったが(同オ(ウ)ないし(オ,同カ(エ)な)
いし(カ,広域組合及び原告は,本件用地が最良の場所というわけで))
,,,はないが本件用地しかないといった不十分な説明をするだけでやはり
本件用地への新施設の設置を見直すことはなかった(同オ(カ,同カ)
(キ。))
平成12年8月1日に至り,A3等3自治会が広域組合との間で環境保
全協定を締結したのを機に,新施設建設計画は,都市計画変更決定,用地
の一部買収,入札,建設請負仮契約の締結と,同年中に順次進行し(同キ
(オ(ク,同ク(ウ(エ(カ,これに対して,本件自治会は,本))))))
件反対運動への理解を求めるチラシの配布,都市計画変更決定への異議申
立て,嘆願書提出,S1管理者への直接要請といった反対運動を継続して
(()()(),()(),()()()),行ったが同キウエカ同クアエ5アアイ
原告に,本件設置計画見直しの動きが見られない中,平成13年3月16
日には,別件差止訴訟を提起した(同(5)イ(ア。))
その後も,本件自治会は,チラシ配布,工事中止の申入書の提出といっ
た活動を続けつつ(同イ(イ,同ウ(イ,ごみ搬入実力阻止行動を行)))
うことも視野に入れながら(同ウ(ア,本件反対運動の一環として,))
原告市長選の機会に,S2市長を含む候補者へ,将来の新施設の移転の可
否を含めた公開質問状を送付して回答を要求したが,S2市長からは誠意
ある回答は得られず(同エ(ア,さらには,市政懇談会の開催も断ら))
れたことから(同エ(オ,これらの対応に抗議して対話を要求すると))
ともに,本件反対運動について原告市民に広く認識してもらうために,第
1回阻止活動を行った。しかし,S2市長が本件自治会との対話に応じる
姿勢を見せることはなかった(同(6。))
この間,本件用地周辺から変形した魚が発見され,A川沿いの野積灰や
周辺住民の血液から高濃度のダイオキシン類が検出されるなど,周辺の環
境汚染を疑わせる調査結果が相次いで判明したほか(同(5)イ(エ,)
(6)ウ(7)アウ,U市の清掃工場における不祥事や,新施設設置,)
による周辺環境悪化を危惧する専門家の意見を聞くなどして(同(5)エ
(ウ,オ,本件自治会住民は不安を強めていったが,原告の対応は,))
野積灰の全量撤去も行わないなど(同(7)イ,住民の不安を拭い去る)
ものではなかった。
他方で,栃木県内の他の市町では,行政が,ごみ焼却問題に関して,住
((),()民側に歩みよる姿勢を見せている旨が報道されていた同5オ7
ク。)
ウ平成13年10月中旬に別件差止訴訟の第1審での審理が終わり,翌年
の判決言渡を控える中,新施設は既に建設を終え,同年12月の新施設稼
動(試運転)開始を待つ状況となった。このような状況下で,本件自治会
住民は,新施設稼動をただ黙認することができるはずもなく,同年10月
末には,再度,広域組合や原告に対して,期限付き住民協定締結の申入れ
を行ったが,原告は,別件差止訴訟係属中に訴訟外での話し合いはできな
い,後任の市長に迷惑をかけたくない,といった独自の理由により,締結
を拒絶し,話し合いを行うこと自体も拒否した。そこで,本件自治会住民
は,従前より相談していた弁護士や市議会議員に相談の上,本件阻止活動
を行ったものである。
エ以上のような経緯をみたとき,本件自治会住民が,前記(3)に認定の
居住環境を改善したいという希望から,本件反対運動を進め,さらには,
原告の,説明不足,他の地方公共団体に比べておよそ誠意のない対応,話
し合いの拒否という状況が続き,野積灰による弊害除去も不十分な中で,
新施設稼動を前にして,A地区へ再三に渡りごみ焼却炉を設置するという
原告の行政手法及びこれを黙認する原告市民に対する抗議の意思を表明す
べく,表現活動としての住民運動の実質を有する本件阻止活動の実行に訴
えたことは,やむを得ないものということができる。
(),,(),,5本件阻止活動開始後本件参加者は前記2のとおり継続して
広域組合あるいは原告に対して,期限付き住民協定の締結に向けた話し合い
の実施を要求したが,原告は,これに対し,裁判中である,新施設は広域組
合が設置するものであるといった理由を述べて,話し合いを拒否し続け,さ
らには,話し合いや政治的手法による解決を図る努力をせずに本件仮処分の
申立てをし,裁判所からの話し合いの提案をも拒否するという不誠実な対応
であった。
(6)以上認定のとおり,本件阻止活動により,委託契約上の利益が侵害さ
れて,行政サービスの提供が妨害され,原告及び原告市民に一定の不便が生
じたこと,本件阻止活動にはその態様にやや穏当を欠く面があったことは否
定できないものの,本件自治会住民らの,周辺環境を改善しようとする希望
が法的保護に値する利益というべきであること,原告の,本件阻止活動前後
の対応には責められるべき点が多々あること等前記に説示した諸事情を考慮
すると,本件阻止活動には,民法上の不法行為として損害賠償義務を負うま
での違法性は認められないというべきである。
原告は,Y3らが,別件訴訟を提起しながら,新施設完成間近になってか
ら期限付き住民協定の締結について法廷外での話し合いを求め,2回に渡り
ごみ搬入阻止活動を実施したことが理不尽である旨主張する。
しかし,広域組合や原告による本件自治会住民らの生活上の利益の侵害が
問題となっている場面において,地方公共団体である原告に対してその住民
が話し合いを求めることが,裁判中であるが故に控えるべきとされる理由は
なく,本件自治会住民らが法廷外での話し合いを求めたことに何ら非難され
るべき点はなく,むしろ,原告のほうこそ,裁判中であることを理由として
話し合いに応じなかった点を反省すべきであって,原告において話し合いに
。,,応じないことが正当化されるものではないまた新施設の建設の進展など
刻々と事情が変わっていく中で,本件自治会住民の原告側に対する要望が変
わっていくことは当然であるし,期限付き住民協定の締結を求めるという要
望は,本件自治会住民らの立場からは,原告側へ大きく譲歩したものであっ
て,これらの方針の変更について,何ら非難されるべき点などない。
よって,原告の上記主張を採用する余地はない。
(7)小括
以上のとおり,原告が被告らによる共同不法行為を構成すると主張する本
件阻止活動には,損害賠償請求を基礎づけるまでの違法性は認められないか
ら,原告の被告らに対する請求は,争点(2)及び(3)を含めその余の点
について判断するまでもなく,理由がないことに帰する。
3争点(4(本件記事は被告らの名誉を毀損するものか)について)
(1)前記1(9)エないしキに認定の事実及び弁論の全趣旨によれば,原
告は,被告らに対する甲事件の提訴につき原告市議会に議案を提出し,議会
において討論の上提訴を可とする議決を得て,本件記事を掲載した本件広報
誌を原告市内住民の各戸に配布し,その約2週間後には甲事件を提訴してお
り,本件記事にいう「政治的意図を持った特定の者による煽動と地元一部過
激住民」が甲事件の被告である被告らを指すことは客観的に明らかであった
といえる。
(2)次に,本件記事が被告らの名誉を毀損するものといえるか検討する。
ア記事の記載による名誉毀損の不法行為は,問題とされる表現が,人の品
性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価
を低下させるものであれば,これが事実を摘示するものであるか,又は意
見ないし論評を表明するものであるかを問わず,成立し得るものであり,
ある記載の意味内容が他人の名誉を毀損するかどうか,すなわち,他人の
社会的評価を低下させるものであるかどうかは,その記載についての一般
の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである。
イ第1名誉毀損部分について
同部分(別紙6参照。以下同様)は,一般の読者の普通の注意と読み。
方とを基準とすれば,Y1らが,不穏当でかつ度を超えた行動をする傾向
のあるY3らに対し,政治的意図から本件阻止活動を勧めそそのかし,被
告らが共に本件阻止活動を行ったと摘示するもので,Y1らについて,本
件阻止活動を自らの政治的活動に利用する意思で不当にけしかけたという
悪印象を与え,Y3らについても,不穏当でかつ度を超えた行為をする人
物であり,上記そそのかしにのり,思慮を欠いて本件阻止活動を行ったと
誹謗するものであって,上記摘示自体,被告らの社会的評価を低下させる
ものである。
ウ第2名誉毀損部分について
同部分は,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば,Y1ら
が,不穏当でかつ度を超えた行動をする傾向のあるY3らに対し,政治的
意図から本件阻止活動を勧めそそのかし,被告らが共に,本件自治会長等
本件自治会住民の多くの正当な反対を押し切って,本件阻止活動を行った
と摘示しつつ,本件阻止活動を,原告あるいはS2市長に対する政治的闘
争の手段にすぎず,原告の行政を理由なく妨害するものであると非難する
ものであって,前記イに説示したところや,被告らを,地域から孤立して
特殊な行動を行う人物であると根拠なく誹謗するものであることに加え,
全体としても,反社会的な暴力主義的活動を行ったかのような印象を抱か
せるものであり,上記摘示自体,被告らの社会的評価を低下させるもので
ある。
エ第3名誉毀損部分について
同部分は,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば,本件自
治会住民の多くが,原告や広域組合との話し合いにより新施設建設計画問
題を解決するよう求めているのに,被告らが,無思慮に,話し合いによる
解決の妨害を無理矢理勧めそそのかし,これにより,本件自治会内住民が
不和となり,本件自治会が分裂しそうであると摘示するもので,被告らに
ついて,民主的手段を拒否し暴力的手段に訴えて,地域に混乱を招いたと
いう不当な悪印象を与えるものであり,被告らの社会的評価を低下させる
ものである。
オ第4名誉毀損部分について
同部分は,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば,本件自
治会住民の多くや原告市議会議員の多くが,本件阻止活動について,被告
らがわざと行った法律に違反する行為であるとして,本件訴訟の提起に賛
成していると摘示するもので,被告らを,地域から孤立した特殊な人物で
あり,法律に触れる行為をあえて行った者であるという悪印象を与えるも
のであり,被告らの社会的評価を低下させるものである。
,,,,カしたがって本件記事は全体として被告らの社会的評価を低下させ
名誉を毀損するものであると認められる。
(4)よって,原告は,被告らに対し,原告職員の職務の執行としての本件
記事の掲載,配布による名誉毀損について,不法行為責任を負う。
原告は,Y3らが,原告市民や原告の名誉毀損行為を行っているため,被
告らの名誉を毀損しない,あるいは,本件記事は事実に基づくものであって
表現の自由の範疇内であり違法性が阻却されるなどと主張するが,これは,
名誉毀損の違法性阻却事由の主張としては失当であり,原告の上記不法行為
責任の成否に影響するものではない。
4争点(5(甲事件の提訴は不法行為を構成するか)について)
,,,被告らは原告は本件阻止活動をS2市長個人に対する反対運動と捉えて
これを圧迫する目的でY3らを被告とし,Y1らが本件阻止活動を行っていな
いことを知りながら,市民に対し,Y1らについて不当な印象を与え,Y1ら
に不当な心理的圧迫を加えることを目的として,Y1らを被告として甲事件を
提訴した等として,甲事件の訴え提起は不法行為を構成すると主張するので,
検討する。
訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,提訴者の主張した権
利又は法律関係が,事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,その
ことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに
あえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著し
く相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である最。(
高裁判所昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集421号1頁)
前記2説示のとおり,本件阻止活動には損害賠償を認めるほどの違法性は認
められないから,原告の請求は法律的根拠を欠くものといえるところ,本件阻
止活動が,原告市民による,原告の行政手法に対する抗議意見の表明の性質を
有する住民運動であることや,ごみ焼却施設の設置を長年に渡り受け入れてき
たY3らを含めた本件参加者の心情を考慮すれば,地方公共団体たる原告とし
,,,,ては本件阻止活動を含め新施設の移転等の問題につき政治的手法により
将来的,総合的な解決手段を模索するべきであって,広域組合を構成する他の
町村が仮処分申立てにとどまる中,躊躇なく,原告が被った損害の回復を求め
るとして訴え提起を行ったその姿勢には疑問を挟まざるを得ない。そして,訴
え提起に当たり,公務あるいは公共的サービスが妨害された場合に,私法上の
法的保護に値する利益が侵害されたとして,民法上の損害賠償を請求すること
が可能か否か,他に類似の例があるかについての検討もされていない(原告。
代表者〔334)〕
しかしながら,本件全証拠によっても,原告代表者であるS2市長において
甲事件の提起が法律的根拠を欠くことを知っていた,あるいは,通常人であれ
ば容易にそのことを知り得たと認めるに足りる事情は認められず,訴えの提起
が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとは認められない。
よって,甲事件の訴え提起が不法行為を構成するとはいえず,この点に関す
る被告らの主張は理由がない。
5争点(6(原告による旧施設以前のごみ焼却等が不法行為を構成するか))
について
(1)Y3らは,新施設稼動前の原告によるごみ焼却等によって,本件用地
周辺の環境が汚染され,生活環境が破壊されて,Y3らの人格権としての身
体権,平穏生活権,環境権を侵害された旨主張するので,以下検討する。
(2)前記1(3)ア(ア)及び同(4)イ認定の事実によれば,本件用地
周辺には,旧施設以前のごみ焼却場から排出された焼却灰が野積みされ,飛
灰とともに周辺へ飛散するとともに,住民が悪臭やすすに悩む状態が続き,
Y3らにおいても同様の悩みを抱いていたことが窺われる。
しかし,本件用地周辺の土壌については,420pg-TEQ/g,140pg-TEQ
/gと高いダイオキシン類濃度が測定された地点も存在するが,いずれも環境
基準は下回るものであって,土壌自体について,環境基準に抵触し,住民ら
に健康被害を及ぼすおそれのあるような汚染状態が存在したものとはいえな
い。また,前記1(3)イ(イ)a及び(ウ)aのとおり,A川の水質や周
辺大気についても,環境基準を上回るダイオキシン類濃度は,実測によって
も,松葉の調査に基づく推定としても認められておらず,環境基準に抵触す
るような汚染状態は認められない。
さらに,前記1(3)イ(イ)e,同(5)イに認定のとおり,A川沿い
には,現在の基準で最終処分場への埋立が必要となるダイオキシン類濃度を
遙かに超えた高濃度の焼却灰が,流出防止措置を講じた形で埋め立てられた
ままとなっており,上記焼却灰が万が一飛散あるいは流出した際に,周辺環
境や周辺住民の健康に危険を与えるおそれがないとはいえないものの,現時
点において,上記焼却灰の野積みの影響により,何らかの環境汚染や,健康
被害が生じていることを窺わせる事実は認められない。
そうすると,本件用地周辺の環境について,不法行為を構成するような環
境汚染があったとは認められず,被告らの生活環境が破壊されたとはいえな
い。
(3)したがって,その余の点を検討するまでもなく,原告による新施設稼
働前のごみ焼却等によって,Y3らの主張する人格権が侵害されたものとは
いえない。
よって,Y3らの上記主張は理由がない。
6争点(7(新施設設置に関する原告の対応が不法行為を構成するか)につ)
いて
Y3らは,原告の新施設設置に至る行動には,本件用地付近の住民に対して
数々の不誠実な行為があり,人格権である平穏生活権の一環としての,行政か
ら誠実な説明を受ける権利,誠実な安全配慮を受ける権利等が侵害されたと主
張する。
しかし,Y3らが上記各権利の侵害として主張するところは,その内容も抽
象的であり,結局のところ,新施設建設に至る原告の対応に対する不満等によ
る精神的苦痛をいうものと解されるが,そのような精神的苦痛は,選挙を含め
た政治過程において回復されるべきものである。原告の対応に不誠実な点があ
り,Y3らが不満等を抱いたことは前記2のとおりであるものの,社会的に許
容し得る態様,程度を超え,全体としてそれが法的利益を侵害した違法なもの
ということはできない。
よって,Y3らの上記主張は理由がない。
7争点(8(被告らの損害及び名誉毀損の回復措置)について)
前記1(7)オに認定の事実,前記3に説示した事実及び弁論の全趣旨によ
れば,本件広報誌は,地方公共団体の発行,配布に係る公共性の高い情報媒体
であり,現に被告らの居住する原告市内各戸に配布されて,その内容が近隣住
民を含む市内各戸に流布されたものであり,その分量も本件広報誌の1頁の4
分の3という相当な紙面を割いて掲載されたものであり,本件広報誌の掲載,
配布により被告らの社会的評価及び名誉感情が侵害された程度は相当のものと
いうべきである。
以上の事実に加え,その他本件に現れた一切の事情を勘案すると,本件広報
誌の掲載,配布により被告らが被った損害の回復のためには,名誉回復処分と
して,別紙1のとおりの謝罪文を別紙2と同じ字幅により「広報おおたわら」
に掲載し,かつ,本件広報誌が配布された当時である平成15年7月15日現
在における同広報誌の配布対象者全員に,その「広報おおたわら」の配布を命
ずることが,被告らの名誉を回復するための適当な措置であると認められる。
また,本件広報誌の配布により被告らが被った損害の状況,特に,平成15
年11月まで8期連続して原告市議会議員を務めてきたY1が本件広報誌配布
の約4か月後の同議員選挙で落選したこと(前記1(9)には,本件広報誌)
配布の影響もあったものと考えられること等諸般の事情を勘案すれば,被告ら
の被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額としては,Y1について50万
円,その余の被告についてそれぞれ30万円とするのが相当である。
さらに,被告らは,本件訴訟を被告ら訴訟代理人に委任しており,名誉毀損
による慰謝料請求と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害金については,
Y1について10万円,その余の被告についてそれぞれ6万円と認めるのが相
当である。
第4以上によれば,その余の点を検討するまでもなく,原告の請求は理由がない
から棄却することとし,被告らの請求は,原告に対し,Y1について60万円
及び内50万円に対する本件広報誌配布の日である平成15年7月15日から
支払済みまで年5分の割合の金員の支払を求める部分,その余の被告らについ
てそれぞれ36万円及び内30万円に対する同日から支払済みまで年5分の割
合の金員の支払を求める部分,被告らについて別紙1の謝罪文を掲載した「広
」,報おおたわらの配布を求める部分の限度で理由があるから認容することとし
その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
宇都宮地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官福島節男
裁判官原道子
裁判官田端理恵子

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