弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人鶴和夫の上告趣意第一点について。
 所論は、事実誤認又は法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当ら
ない。(なお所論の刑訴三九二条違反の主張について調べてみるに、原判決は、第
一審判決の判示記載について、これを挙示の各証拠と照合して検討した結果、原判
決の説明するような趣旨と認め詳細に判示したのであつて、その判断は相当であり
誤りはない。従つて原判決に所論のような違法はない。また刑訴三九六条違反の主
張は、原審が証拠によつて適法に認定した被告人の共同正犯としての刑責を、所論
独自の見解と資料を掲げて否定するに過ぎず、原判決の判示はもとより正当であつ
て所論のような誤りは認められない)。
 同第二点について。
 所論は、法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(記録
を調べてみると、第一審は多くの証拠調を行い、被告人の尋問をした場合、先ず弁
護人に尋問を求め、次で検察官、最後に裁判長が発問し、当事者に発問の機会を十
分に与え、なんらこれを制限した形跡は認められない。そして現刑訴のもとにおい
ては、被告人に有利と認められる事項については、弁護人こそ尋問の責務を尽すべ
きであつて、本件のように、裁判所が審理を尽しているにもかかわらず、なおかつ
所論のような事項につき裁判長は責務として職権による発問をしなければならない
という刑訴法上の根拠は認められない)。
 同第三点について。
 所論は、第一審判決が証拠とした証人Aの供述調書は、被告人に反対尋問の機会
が与えられなかつたから憲法三七条二項に違反すると主張する。しかし裁判所が証
人を裁判所外で尋問する場合、被告人が監獄に拘禁されているようなときは、特別
の事由がないかぎり、被告人の弁護人に尋問の日時、場所等を通知し立会の機会を
与え、被告人の証人審問権を実質的に害しない措置をとつた以上、必しも常に被告
人自身を証人尋問に立ち会わせなくても憲法三七条に違反するものでないとするの
は、当裁判所大法廷判決の判示するとこである(昭和二四年(れ)第一八七三号同
二五年三月一五日判決、集四巻三号三七一頁参照)。本件において所論の証人の取
調を大垣簡易裁判所裁判官に嘱託したのであるが、嘱託することについて及び証人
尋問の日時について裁判所の弁護人に対する手続になんらの手落はなく、証人審問
権を害したところはない。所論は採用のかぎりでない。
 同第四点について。
 所論は、所論の摘示する公判前の証人A及び同Bの各供述調書について、所論の
ような趣旨をもつて反対尋問の機会を与えなかつた違法があり憲法三七条二項に違
反すると主張する。しかし記録を調べてみると、検察官が証拠調を申請した所論の
各供述調書は、第一審の第八回公判において被告人及び弁護人共にこれを証拠とす
ることに明示の同意を与え、適法な証拠調が行われ、この証拠調に対しても異議そ
の他の申立のあつた形跡なく、その後被告人の供述、検察官の論告、弁護人の弁論、
最終陳述等が正規のとおり行われ支障なく結審となつたことが認められる。従つて
かかる経過にかんがみ、被告人側において反対尋問権を放棄したものと認めた原判
決の判断は正当であり、所論違憲の主張は前提を欠くことに帰し、採用できない。
 同第五点及び第六点について。
 所論第五点は、理由不備、事実誤認の主張であり、同第六点は量刑不当の主張で
あつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 弁護人早稲田逸郎の上告趣意第一点について。
 所論は、単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 (そして刑訴の控訴審は第一審判決の当否を審査する独自の地位と職責を有する
ものであつて、原審で取り調べた証拠の価値判断をするに当つて所論のような格段
の制約を受けるものではない。所論は独自の見解に過ぎない)
 同第二点について。
 所論は、結局事実誤認、法令違反等の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当
らない。
 同第三点について。、
 所論は、憲法三八条違反の主張である。所論の前提とする理由について調べてみ
ると、所論のBの供述調書が第一審判決において証拠として採用されているのは、
同人の第一審第八回公判における証人としての供述、第一回公判前における裁判官
に対する証人としての供述及び検察官に対する供述の三であつて、司法警察員に対
する供述は証拠に採用されていない。そして右証人の検察官に対する供述中「……
司法警察員Cの供述調書中三項を読聞けた」「詳しいことは只今読み聞けの通りで
あります」との記載あることは、所論の指摘するとおりであるが、この読聞けたと
いう右三項を含むBに対する司法警察員Cの供述調書は、判決の証拠に採用されて
いないのであるから、調書のこの部分も結局証拠に採用されていないことに帰する。
従つて証人Bの司法警察員に対する供述を所論違憲の理由とする主張は前提を欠く
ことに帰し採用できない。
 その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
 よつて同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決す
る。
  昭和三〇年八月九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    垂   水   克   己

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