弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 原決定を次のとおり変更する。
2 抗告人が平成13年8月17日付けで相手方に対して発布した退去強制令書に
基づく執行は,送還部分に限り,本案事件(東京地方裁判所平成13年(行ウ)第
245号退去強制令書発布処分取消等請求事件)の第一審判決の言渡しの日から起
算して10日後までの間これを停止する。
3 相手方のその余の申立てを却下する。
4 本件申立費用及び抗告費用は,これを2分し,その1を抗告人の,その余を相
手方の各負担とする。
       理   由
第1 本件抗告の趣旨は,「1 原決定主文中,第1項を取り消す。2 前項の取
消しにかかる本件申立てを却下する。」との裁判を求めるというものであり,抗告
の理由は,別紙1(抗告理由書写し)等に記載のとおりである。
 これに対する相手方の意見は,別紙2(意見書1写し)等に記載のとおりであ
る。
第2 事案の概要
1 本件は,法務大臣が相手方に対して平成13年8月17日付けでした出入国管
理及び難民認定法(法)49条1項に基づく相手方の異議申出が理由がない旨の裁
決(本件裁決)及び抗告人が相手方に対して同日付けでした退去強制令書(本件退
令)の発付処分の各取消しを求める訴えを本案として,本件退令の執行について,
本案事件の判決確定までの停止を求めた事案である。
 原決定は,本件申立てについて,本案事件の第一審判決の言渡しの日から起算し
て10日後までの間につき本件退令に基づく執行の停止を求める限度で理由がある
としてこれを認容し,その余の部分は理由がないとしてこれを却下した。
 当裁判所は,後記の理由により,本件申立ては,本件退令に基づく送還部分の執
行につき,本案事件の第一審判決の言渡しの日から起算して10日後までの停止を
求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の部分は理由がないからこれを
却下すべきであると判断した。
2 前提となる事実
 記録によれば,次の事実が一応認められる。
(1)相手方は,昭和47年(1972年)5月30日にパキスタンイスラム共和
国で出生し,同国の国籍を有する者である。
(2)相手方は,平成3年12月31日,航空機でタイ王国バンコクから新東京国
際空港に到着し,法14条に基づく寄港地上陸許可(上陸期間を平成4年1月3日
午前7時15分までとする。)を受けて,本邦に上陸した。
(3)相手方は,上記上陸期限を超えて不法残留し,日本において就労するように
なり,平成5年ころからは,東京都墨田区α所在の中村製本所で製本工として稼働
した。
(4)相手方は,平成9年2月17日,東京都墨田区長に対し,外国人登録法3条
1項に基づく新規登録申請をし,同月28日,外国人登録証明書の交付を受けた。
(5)相手方は,同年3月19日,日本人であるAとの婚姻届をした。
(6)相手方は,同年6月9日,東京入国管理局(東京入管)第二庁舎に出頭し,
不法残留を申告した。
(7)東京入管入国警備官は,平成10年6月19日,相手方について法24条6
号に該当すると疑うに足りる相当な理由があるとして,抗告人から収容令書の発布
を受け,同月23日,同令書を執行して,相手方を法24条6号該当者として東京
入管入国審査官に引き渡した。
(8)東京入管入国審査官は,違反審査を行い,同月23日,相手方が法24条6
号に該当する旨認定し,抗告人に対しその旨通知したところ,相手方は,東京入管
特別審理官に対し口頭審理を請求した。
(9)東京入管特別審理官は,相手方について,平成10年7月2日,口頭審理を
行い,上記入国審査官の認定に誤りがない旨判定し,相手方にこれを通知したとこ
ろ,相手方は,同日,法務大臣に対し異議の申出をした。
(10)法務大臣は,同年10月14日,相手方に対し,在留資格を「日本人の配
偶者等」,在留期間1年の在留特別許可をした。
(11)相手方は,平成11年8月24日,Aと協議離婚し,在留期限である同年
10月14日を超えて本邦に不法残留した。
(12)相手方は,平成13年1月ころ,日本人であるB(昭和43年5月5日
生)と知り合って交際するようになり,同年3月ころからBが毎週末に相手方の居
住先に泊まる状態になった。相手方は,交際開始後間もなく,自分が不法残留して
いることをBに伝えた。
(13)相手方は,上記中村製本所で稼働していたところ,同年6月12日,警視
庁本所警察署員に不法残留の容疑で逮捕され,同年7月2日不起訴処分となった。
(14)相手方は,この間の同年6月21日,Bとの婚姻届をした。
(15)東京入管入国警備官は,同月29日,相手方について法24条4号ロに該
当すると疑うに足りる相当な理由があるとして,抗告人から収容令書の発布を受
け,同年7月2日,同令書を執行して,抗告人を東京入管収容場に収容し,同月4
日,相手方を東京入管入国審査官に引き渡した。
(16)東京入管入国審査官は,違反審査を行い,同月16日,相手方が法24条
4号ロに該当する旨認定したところ,相手方は,東京入管特別審理官に対し口頭審
理を請求した。
(17)東京入管特別審理官は,相手方について,同月31日,口頭審理を行い,
上記入国審査官の認定に誤りがない旨判定し,相手方にこれを通知したところ,相
手方は,同日,法務大臣に対し異議の申出をした。
(18)法務大臣は,同年8月17日,相手方に対し,相手方の異議申出は理由が
ない旨の裁決をし,東京入管主任審査官は,同日,本件退令を発布した。
第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実によれば,本件は,本件裁決が裁量権の逸脱又は濫用に当たり違
法で,これを前提とする本件退令発布処分も違法であるとの相手方の主張が主張自
体失当であって,本案について理由がないとみえるときに当たるとまでいうことは
できない。
2(1) 本件退令が執行されて本国に送還された場合,相手方は,訴訟代理人と
打ち合わせをするについて支障を生ずることなどにより,第一審判決までの間訴訟
を維持するにつき事実上相当な困難を伴うこととなることは否定し難く,本案訴訟
において勝訴判決を得ても,送還の執行前の状態を回復するについて制度的な保障
はなく,事実上困難となることが認められる。したがって,相手方は,送還の執行
によって回復困難な損害を受けるものというべく,このような損害を避けるために
は,本案の第一審判決の言渡しの日から起算して10日後までの間送還部分の執行
を停止すべき緊急の必要性があると認めるのが相当である。
(2)しかしながら,収容部分の執行については,前記前提事実によっても,同部
分の執行によって回復困難な損害を受けるものと認めることはできない。
 すなわち,法52条5項が定める収容は,退去強制令書の発布を受けた者につい
て,送還可能のときまで収容して,その者の送還を確実に実施できるようにするた
め必要な限度でその身体を拘束しておく手続であり,法は,収容部分の執行により
被収容者が入国者収容所等に収容されてその身体の自由が制限される等の不利益を
受けることを当然に予定しており,本件退令の収容部分の執行の停止を求める申立
てについて,行訴法25条2項にいう「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要
があるとき」に該当するというためには,上記のような身体拘束による自由の制限
等の不利益を超え,被収容者の身体的状況,収容場等の環境その他諸般の事情によ
り,収容を不相当とするような特別の損害を被るおそれがあることを要すると解す
るのが相当である。
 これを本件についてみると,本件全資料によっても,相手方が,収容により,精
神的,身体的に何らかの異常をきたしたとの疎明はない(記録によれば,相手方
は,原決定により釈放された後に,精神科医を受診していることが認められるが,
これは,相手方において,本件申立ての結果如何によっては再度収容されるおそれ
があることを思い煩ったためと認められる。)。また,Bは,仕事のかたわら,相
手方との面会のため東京入管収容場等に頻繁に赴き,特に相手方が茨城県牛久市所
在の東日本収容センターに移送された平成13年10月以降は,相手方との面会に
少なからぬ不便を被ったことが認められるものの,B自身,不法残留であることを
知りながら相手方と交際を始めたのであり,Bが受けた不便,精神的及び経済的負
担は,もとより,Bと相手方との婚姻関係にとって生じうる影響等も,本件退令の
収容部分を執行されることによって通常生じる損害であり,回復困難な損害に当た
らない。
 そうすると,本件について,相手方がその収容を不相当とするような特別の損害
を被るおそれがあるとはいえない。
 他に,相手方が本件退令の収容部分の執行により回復の困難な損害を避けるため
緊急の必要があるとの疎明はない。
3 本件全資料によっても,本件退令に基づく送還部分の執行を停止することが公
共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある旨の疎明はない。
4 以上によれば,本件申立てのうち,本件退令に基づく送還部分の執行の停止を
求める部分は,執行停止期間の点を除いて理由があるから,第一審判決の言渡しの
日から起算して10日後までの間送還部分の執行を停止し,同時点以降について
は,改めて判断するのを相当とするから,これを却下し,本件退令に基づく送還部
分の執行の停止を求める部分は,回復の困難な損害を避けるため緊急の必要がある
との疎明がないから,その余の点について判断するまでもなく,これを却下すべき
ところ,これと異なる原決定を変更することとし,主文のとおり決定する。
平成14年3月11日
東京高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 江見弘武
裁判官 岩田眞
裁判官 原啓一郎

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