弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     控訴及び訴訟承継により、原判決を次の通り変更する。
     控訴人は、被控訴人Aに対し金二、五二三、五四七円、被控訴人Bに対
し金三、三六四、七二九円、被控訴人Cに対し金一、六八二、三六四円、及び各こ
れに対する昭和三六年一月三〇日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
     被控訴人らのその余の金員請求は、いずれもこれを棄却する。
     被控訴人らの附帯控訴は、いずれもこれを棄却する。
     被控訴人A、同Bの裁決変更の請求は、これを却下する。
     訴訟費用(附帯控訴費用を含む)は第一、二審を通じこれを四分し、そ
の三を被控訴人ら、その一を控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人と称する)代理人は、控訴につき「原判
決を取消す。本件訴(裁決変更の新請求を含む)を却下する。訴訟費用は第一、二
審とも被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人と称する)らの負担とする。」と
の判決、予備的に「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却す
る。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決、
 各附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人A、同B代理人は、控訴
につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決、附帯
控訴(昭和四三年(ネ)第六六九号事件)として原判決を次の通り変更する。別紙
目録記載の土地につき、大阪府収用委員会が昭和三五年一二月一六日になした裁決
中の損失補償金一〇、六三四、五六〇円を、金三三、七三四、〇〇〇円と変更す
る。控訴人は、被控訴人Aに対し金七、六九九、八一三円、同Bに対し金一五、三
九九、六二六円、及び各これに対する昭和三六年一月三〇日以降完済まで年五分の
割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との
判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人C訴訟代理人は、控訴につき「本件控訴
を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決、附帯控訴(昭和四六年
(ネ)第一六九八号事件)として「原判決中被控訴人C敗訴部分を取消す。控訴人
は同被控訴人に対し、金八、八八一、四三〇円、及びこれに対する昭和三六年一月
三〇日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。附帯控訴費用は控訴人の負
担とする。」との判決並びに、仮執行の宣言を求めた。
 当事者双方の事実に関する主張、証拠の提出援用認否は、
 被控訴人A、同B代理人において、土地収用に関する損失補償の訴の性質は、形
式に於ては抗告訴訟的であるが、実質に於ては当事者訴訟であり、裁決の中でも、
これを主に私益に関する事項と見たがために、その救済については、これを独立の
訴として、訴願を経ずして提起し得ることを認めたものというべきで、これがため
には、必ずしも裁決の変更の訴を要するものではないと考える。右請求は従来給付
の訴として考えられて来たが、近時に於ては、これを、裁決の取消、変更を求める
形成の訴と見るのが通説、判例となつたので、本訴においても、この見解に従つて
請求の趣旨を一部変更(追加)したのであるが、訴提起の期間遵守については、当
初の訴提起の時期を基準として考えるべきである。次に、収用土地の評価は、従来
一坪当り金三〇万円、本件土地一六八坪六合七勺につき総額五〇、六〇一、〇〇〇
円と主張していたところを、一坪当り金二〇万円、総額三三、七三四、〇〇〇円と
主張し、これよりすでに支払を受けた金一〇、六三四、五六〇円を差引いた残金は
二三、〇九九、四四〇円(そのうち、原審認容額は一三、二〇二、〇〇六円)とな
るところ、承継前の被控訴人Dは昭和四〇年六月二二日死亡し、同人の妻A(三分
の一)及び長男B(三分の二)が相続人として(Cは相続人ではない)その権利義
務を承継したので、控訴人に対し、被控訴人Aは金七、六九九、八一三円、被控訴
人Bは金一五、三九九、六二六円の支払を求め(うち、原審認容額以上の分は附帯
控訴により)、右被控訴人両名において本件裁決中の損失補償金額の変更を求め
る。と述べ、証拠として、甲第九、一〇号証を提出し、乙第一六ないし二四号証の
成立を認め、同二〇ないし二四号証を利益に援用し、被控訴人C代理人において、
本件土地の損失補償金不足分としては、原審通り金三九、九六六、四四〇円を主張
する。そして承継前の被控訴人Dの昭和四〇年六月二二日の死亡による相続人は、
被控訴人A(妻、相続分三分の一)、同B(長男、同九分の四)のほか、被控訴人
C(相続分九分の二)があり、同被控訴人は、亡Dと訴外Eとの間の子として昭和
四年五月一八日に出生したものであるが、祖父Fが私生子としての届出を嫌い、自
己の五女として届出で、母Eが早く死亡したため、専らFの許で養育され、D生前
には認知されなかつたため、同人死後認知訴訟を提起し、昭和四二年六月一二日勝
訴判決があり、同年七月一日確定したものであるがら、亡Dの権利義務を承継した
相続人として控訴人に対し本件補償金のうち前記相続分九分の二に該当する金八、
八八一、四三〇円と、これに対する昭和三六年一月三〇日以降年五分の割合の損害
金の請求権があるのでその支払を求める(うち原審認容分の相続分二、九三三、三
三三円以上は附帯控訴として)。被控訴人A、同Bの主張中Dの死亡による相続関
係の点を除く主張を利益に援用する、と述へ、証拠として丙第一号証を提出し、右
被控訴人A、同Bの提出、援用証拠及び控訴人の証拠に対する認否をも援用し、控
訴代理人において、土地収用法に基づく収用委員会の裁決のうち、損失補償に関す
る訴は、形式的には当事者訴訟として扱われているが(土地収用法第一三三条二
項)、その実質は有効な裁決の取消、変更を求める抗告訴訟、即ち裁決の当否を訴
訟物とする形成訴訟と解すべきものであるところ、被控訴人らの請求は、裁決の変
更を求めずして直ちに補償金額以上の金員の支払を求める給付訴訟に外ならないか
ら、不適法であり、却下を免れない。
 被控訴人A、同Bの当審における裁決変更の請求は、法定の三ケ月の出訴期限た
る昭和三六年三月二一日を約九ケ年も経過した不適法なものであるがら、却下せら
るべきである。土地収用の損失補償額は、客観的適正額でなくとも、相対的適正額
であれば足り、被収用者が任意受領すれば請求権は消滅するのであるから、これと
同様に、被収用者が供託額を任意に還付受領すれば、請求権は当然に消滅すべき筋
合である。次に、補償額の算定に関し、更地価額を決定するについて、これを大差
のある各鑑定人の算定価額を単純に平均するが如き計算方法で決定することには何
等の合理性はなく、そのうち最も信用度の高い鑑定結果(乙第五、六、七号証)の
平均値を採り、これに時点修正として平均的推移倍率(約一、二一倍)を乗じて求
むべく、そうすれば、昭和三五年一二月一六日当時の本件土地の更地価額は、商店
街を形成する商業地たる甲地(西側表道路より東へ奥行六間の部分、約六二坪五合
六勺)については、一坪金二六二、五七〇円、バラツク建住宅の密集する任宅地た
る乙地(その余の部分、約一〇六坪一合一勺)については一坪金六八、九七〇円が
相当である。また承継前の被控訴人亡Dが、本件土地の賃借人中、G、H1、I、
Jに対して為した昭和三四年一〇月一七日付の地代の支払催告及び条件付解除の意
思表示は、従来賃貸面積を過大に主張して来たところから、従前地代が実面積に対
しては不当な高額であつたものであるから、信義則違反又は権利濫用となり、解除
の効力を生じない。なお、右の催告時点においては、本件土地収用の起業者たる控
訴人は、土地賃借人らと土地収用法第四〇条所定の協議を行つていた時期であり、
右賃借人らは、近い将来において、起業者たる控訴人との間に、控訴人のために、
その賃借権を消滅せしめる黙示的な合意がすでに成立していた後であり、しかも賃
貸人としても、自ら賃借地を使用する意思はなかつたのであるから、すでに賃貸借
契約の解除の機能を失つていたものであり、右の解除は、賃借地を故らに更地とし
て不当の補償金を要求する目的のみから為されたものであるがら、権利濫用に外な
らず、その効力を生じない。承継前の被控訴人Dが昭和四〇年六月二二日死亡した
こと、妻の被控訴人A、長男の被控訴人Bが相続人であるほか、被控訴人Cより右
亡Dに対する認知請求事件の判決がCの勝訴に確定し、Cも相続人とされたことは
認める。と述べ、証拠として、乙第一六ないし二四号証を提出し、当審における鑑
定証人Pの証言及び鑑定人Pの鑑定の結果を援用し、甲第九、一〇号証、丙第一号
証の成立を認めたほか原判決事実摘示と同一(但し、原判決八枚目表六行目の「裁
決に服したものではなく、」の次に「元来、右供託は民法の定める弁済供託ではな
く、土地収用法第一〇〇条に基づく起業者に対する補償金支払義務の強制の目的か
ら認められたものであり、弁済に代る免責を生じない性質のものであるから」を加
える)であるから、これを引用する。
         理    由
 一、 損失補償の訴の性質と訴の適法性の有無について
 控訴人は、土地収用の損失補償金の請求は、収用裁決の有効を前提として、その
内容の取消、変更を求めるものであるがら、その実質は抗告訴訟であり、従つて、
別に収用裁決自体の変更を求めるのでなければ、裁決額以上の補償金請求は許され
ず、本訴は不適法である(被控訴人A、同Bの裁決変更の新請求<要旨>は、出訴期
限徒過で、それ自体が不適法却下を免れない)と主張するので、按ずるに、土地収
用において、損失補償金の裁決額に不服があり、裁決額以上の金員の支払を
求めるのは、とりもなおさず、裁決内容の一部の取消、変更を求めるものに外なら
ないと見るべきではあるが、土地収用制度及びこれに関する手続の全般より眺めた
場合、補償金額に対する不服は、土地収用自体は兎も角これを肯定する態度の上に
立つものであること、補償金の額は、収用条件の中でも、収用される物件自体に関
するものでなく、その対価たる金銭の多寡に関するに過ぎないこと等の点で、収用
の可否自体、又は収用方法その他補償金額以外の点に関する不服と比べて、その性
質及びその処理方法につき顕著な差異を考えることができ、土地収用法第一三三条
も、この点に着眼して、補償に関する訴の方法を、同条所定の如く、特別にこれを
規定し、裁決処分の当事者である収用委員会を除外した訴訟形式に依らしめ、土地
所有者又は関係人よりは、費用負担者である起業者へ、恰も給付訴訟の如き形にお
いて、その負担の増加の可否という結果をもたらす金員請求を為す道を認めたもの
と解すべきであつて、このように補償金額に関する不服につき、他の点の不服方法
とは切り離した方式における特異の訴訟形態を認める以上は、不服の対象である裁
決内容への取消、変更請求は、訴により、その請求の理由として述べれば足り、申
立としては、窮極の請求目的である金員請求のみを掲げる方法に依ることが許さ
れ、否むしろ、端的に、この方法に依ることを以て相当とするものと解することが
可能である。この見解に立つ以上、土地所有者又は関係人よりは、裁決の取消、変
更自体を、何等直接にはその権限を有しない起業者に対して別に請求することは無
用の業といつて差支なく、従つて、別に適法な裁決の取消、変更がないことを以
て、本訴が不適法であり、却下せらるべきであるとする控訴人の主張は、理由がな
い。なお、右と同様の理由で、控訴人を相手方として、裁決自体(その補償金額)
の変更を求める被控訴人A、同Bの当審における新請求も、その訴の利益が認めら
れないから、却下を免れない。
 二、 本件土地の収用から裁決に至るまでの事実経過と賃借権の存否について
 承継前の被控訴人Dの所有であつた本件土地が、起業者たる控訴人のために収用
されるについての手続、即ち、これについての建設大臣の裁定、大阪府収用委員会
の裁決及びその内容並びに右裁決の送達に関する被控訴人らの主張事実、及び本件
収用土地のうちの一部、即ち原判決引用図面1ないし6の部分については、右裁決
時たる昭和三五年一二月一六日当時において、訴外G、K、H1またはH2、I、
Jは賃借権を有していなかつたとする被控訴人らの主張事実は、当裁判所もこれを
肯認するものであつて、その理由は、原判決理由の一及び二の3(原判決九枚目表
一行目冒頭から一四枚目表一〇行目末尾まで)のうち、同一三枚目裏一一行目の末
尾に「それにも拘らず大阪府収用委員会が右Gら五名についてこれを賃借権着であ
る関係人として取扱つた理由については、成立に争のない乙第八号証(裁決書)に
よると、右賃借権の消滅については争いが存し訴訟繋属中の場合には、土地所有者
において、その消滅について裁判所の判決によつて証明をなさない限りは、一応賃
貸借契約はなお存続しているものとして、それを前提として補償裁決をするを妥当
と考えたことに因るものであることが認められるけれども、行政処分を為すについ
ては、その基盤たる事実関係に紛争が存する場合には、処分権者として、その権能
の許す限り、自ら調査を為して積極的に事実を確認した上で、処分を行うべき職責
があるのであつて、関係当事者の一方にのみ公的手段による立証の責任を負課し
て、これによつて自ら調査責任を免れ得る筋合のものではないから、右収用委員会
の裁決理由を以てしては、右Gら五名について、賃借権の存在を否定しなかつた裁
決の正当性を肯定することはできない。」と附加するほか、右原判決理由説示の通
りであるがら、これを引用する。控訴人は、前記賃貸借契約の解除の前提となつた
催告及び条件付契約解除の意思表示又は契約解除を以て、信義則違反又は権利濫用
で無効である旨抗弁するけれども、たとえ控訴人主張のように賃貸面積の主張が過
大であつたとしても、それだけの理由で、延滞賃料の催告等が全部無効となるいわ
れはないし、またG等五名の賃借人との間に、控訴人主張のような控訴人との間の
賃借権消滅の黙示的合意があつたとの事実は、控訴人の全立証によつても確認でき
ないから、右抗弁は採用できない。
 三、 本件土地の裁決時の価額について
 右価額の判定に関する資料の証拠能力及び本件土地の評価上の区分として、これ
を原判決理由の示す如く、甲・乙両地に区別することの正当性は、当裁判所もこれ
を肯認するものであつて、その理由は、原判決理由の二の4の(一)(二)(原判
決一四枚目表一一行目冒頭から一五枚目裏九行目末尾まで)と同一であるがら、こ
れを引用する。
 次に右土地の評価基準として、更地価格を検討するに、前掲乙第四ないし七号
証、証人L、同Mの証言、鑑定人N、同Oの鑑定結果を綜合すれば、昭和三五年四
月初現在における本件土地の更地価格の評価としては、一坪当り、甲地金二二五、
〇〇〇円、乙地六万円(甲地については、乙第五、六号証の平均値を採り、乙第七
号証の評価二〇万円はその甲地の区分範囲の奥行が深いため、多少の評価増をする
要があり、そうすれば、右平均値の相当性を左右しない。乙地については、乙第
五、六号証により、乙第七号証の評価は、前同様多少の評価増をすれば、右評価の
相当性を左右しない。なおN鑑定は一坪二〇八、〇〇〇円、O鑑定は一坪二〇一、
六〇〇円を算定していて、いずれも甲・乙両地の区分をしたものではないが、その
内容を検討すると、果して右の両地の土地条件による価値の差等を意識していたか
否かの点も疑わしい上に、その結論を証人Lの証言と対比検討すると、右両鑑定の
評価は、乙地の評価としては余りにも懸絶するので、専ら甲地に着眼した評価とし
てのみ採用し得るものというべく、そうすれば、前認定を支持する根拠とこそな
れ、これを左右する資料たり得ない。また当審鑑定人Pの鑑定結果は、鑑定目的物
件の正確性を欠く上に、甲・乙両地を意識的に一括して一筆地としての評価をして
いるところ、このような等差の著しい両地を一括評定するについての基準の正確性
が認められないから、たやすく採用できない)を相当と認め、これに証人Lの証言
により認められる昭和三五年当時の地価の年間上昇率一割五分ないし二割の平均値
と、右評価時と裁決時との時間差を乗じて得られる比率を加算するときは、本件裁
決時の更地価格は、坪当り、甲地二五四、二五〇円、乙地六七、八〇〇円を以て、
相当とする。
 次に、右価額を基準として、底地価格、建付地価格を算定すると、底地価格につ
いては、借地権割合を、甲・乙両地で区別して算定するを相当とし、その割合は前
掲乙第五、六号証、N鑑定、O鑑定を綜合すると、甲地については借地権割合を六
割(底地価格四割)、乙地については借地権割合五割(底地価格五割)、建付地割
合は九割五分を相当と認める。そして右算定基準による算定法としては、当裁判所
は、原判決理由二、4、(七)(一八枚目表八行目冒頭から一九枚目表三行目末尾
まで)の方法を正当と認めるから、右理由を引用する(従つて、甲・乙両地の各合
計は、甲地六〇坪一合四勺、乙地一〇八坪五合三勺となる。)
 右計算方法により、計算すると、本件裁決時の地価は、甲地部分の建付地価格に
依つたもの金一四、五二六、〇三五円、乙地部分の底地価格によつたもの金三、六
七九、一六七円、合計金一八、二〇五、二〇二円となる。乙第一六、一七号証によ
つても、右認定を覆すに足らず、以上に検討した各証拠資料のほかに、右認定を左
右するに足る証拠は、他に見出すことができない。
 四、 控訴人の補償金供託と、その還付請求の効力について
 控訴人が昭和三六年一月二七日本件裁決補償金額である金一〇、六三四、五六〇
円を大阪法務局布施出張所に供託したことは、当事者間に争がなく、承継前の被控
訴人Dが、同年二月一三日右供託金全額の払渡請求を為し、これを受領したこと
は、成立に争のない乙第二号証の一、二と弁論の全趣旨により、これを認めること
ができる。控訴人は、右供託金受領を以て、相対的適正額の任意受領と同一である
がら、被控訴人らのその余の補償金請求権は消滅した旨抗弁するので按ずるに、成
立に争のない乙第一号証によると、右供託は土地収用法第九五条第二項第一号に準
拠して為されたものであることが明白で、同法第一〇〇条等の同法の規定を参酌す
ると、右供託の制度は主として土地収用の効果を確保、促進する目的から置かれた
ものであり、民法所定の弁済供託とは、おのずからその趣旨、目的を異にしている
ものと認むべきであるから、供託者が供託をしただけでは、一方的に債務を免れた
ことにはならず(何となれば、もしこれを肯定すれば、一方的な供託によつて、一
切の不服を封ずる結果となり、その不当なことは明白であるからである)、従つて
供託の相手方についても、その者がこれが還付を請求してこれを受領したというだ
けでは、他に特段の事情のない限り、補償金額についての不服申立の権利を放棄し
たり消滅させたりすることにはならないと解すべきである(事柄は、確定債務額の
弁済の成否の問題ではなく、債務額そのものに対する不服の許容の問題であつて、
両者の論点は全く異なるものというべきである)。そして、右の特段の合意その他
の不服権放棄等に関する事由については、控訴人の何等主張、立証しないところで
あるがら、右控訴人の抗弁は理由がない。
 そうすると、承継前の被控訴人Dの本訴請求により、同人の受くべかりし正当な
補償金額は、前認定の金一八、二〇五、二〇二円と変更せらるべく、同人は、右金
額より、さきに供託金還付により受領した前認定の金員を差引いた残金七、五七
〇、六四二円につき、起業者たる控訴人に対して、これが支払を求める権利を取得
したものというべきである。そしてその取得の時期は、収用発効の日である昭和三
六年一月二九日(裁決日より四五日目、この点は当事者間に争がない)であること
明白である。
 五、 被控訴人らの相続と承継金額について
 承継前の被控訴人Dが昭和四〇年六月二二日死亡したこと、同人の相続人として
妻である被控訴人A、長男である被控訴人Bがあることはすべての当事者間に争が
なく、他に相続人として認知による子である被控訴人Cがあることは、同被控訴人
と控訴人間では争がなく、その他の当事者間では、当裁判所において成立を認める
丙第一号証(判決及び確定証明)により、これを認めることができるから、右被控
訴人合計三名の相続分は、民法第九〇〇条に則り、被控訴人Aは三分の一、被控訴
人Bは九分の四、被控訴人Cは九分の二となる訳である。よつて、前記被相続人D
の取得した補償金残額七、五七〇、六四〇円(原判決認容額以内)を右相続分に応
じて分割すると、被控訴人Aは金二、五二三、五四七円、被控訴人Bは金三、三六
四、七二九円、被控訴人Cは金一、六八二、三六四円、、(各、円未満切捨)とな
る。そして、控訴人は各これに対し、昭和三六年一月三〇日以降完済まで、年五分
の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきである。
 六、 結論
 すると被控訴人らの請求は、右認定の限度においてのみ正当であるが、その余の
部分は失当であるところ、右限度を越えてこれを認容した原判決は、一部失当であ
るから、控訴人の控訴によりこれを変更し、右限度においてのみ被控訴人らの請求
を認容し、訴訟承継により、前認定の通り分割するため、原判決を変更(更正)す
べきものとし、被控訴人らの各附帯控訴及び被控訴人A、Bの当審新請求はすべて
理由がないから、これを棄却及び却下すべきものとし、仮執行宣言は、裁判額の変
更の実質を含むから、相当ならずと認めて、これを附せざることとし、訴訟費用に
つき民事訴訟法第九六条第八九条第九二条第九三条を適用して、主文の通り判決す
る。
 (裁判長裁判官 宮川種一郎 裁判官 林繁 裁判官 平田浩)
 (別紙)
         目    録
 東大阪市ab丁目c番地
    宅地三三四坪三合九勺(一、七二・三六平方米)
 右のうち
      一六七坪六合七勺(五五七・五八平方米)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛