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平成12年(ネ)第6252号 商標権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁
判所平成10年(ワ)第9524号)      平成14年10月24日口頭弁論
終結
            判    決
 控訴人(被告)        株式会社アウトバーン
 控訴人(被告)        株式会社ピート
  控訴人ら訴訟代理人弁護士   志知俊秀、藤本圭子
  被控訴人(原告)       ベアー ユー エス エー インコーポレー
テッド
  訴訟代理人弁護士       吉武賢次、神谷巖
  訴訟復代理人弁護士      宮嶋学
  補佐人弁理士         菊地栄
主    文
   原判決中、控訴人らの敗訴部分を取り消す。
  被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。
   控訴人らと被控訴人との間に生じた訴訟費用は、第1、2審を通じて被控訴
人の負担とする。
   本判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定め
る。
            事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人ら
原判決を取り消す。
   被控訴人の請求をいずれも棄却する。
   訴訟費用は第1、2審を通じて被控訴人の負担とする。
 2 被控訴人
   本件控訴を棄却する。
   控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、ゴシック体のアルファベットで「BeaR」と横書きしてなる別紙
商標目録記載の商標(本件商標)についての商標権(本件商標権:登録第2667
318号、指定商品旧17類「被服、布製身回品、寝具類」、平成3年10月16
日出願、平成6年5月31日設定登録、平成8年7月8日株式会社フルーツから被
控訴人への移転登録。)を有する被控訴人(一審原告)が、控訴人ら及び控訴外豊
島株式会社(一審被告ら)に対し、「Bear」、「BEAR」、「ベアー」等の
文字を横書き又は縦書きした態様の別紙控訴人標章目録記載の標章(1)ないし(19)
(以下、各標章を単に「控訴人標章」という。)の使用の差止め等を求めるととも
に、商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。原判決は、被
控訴人の控訴人らに対する控訴人標章使用の差止め及び同標章を付した被服の廃棄
請求、並びに控訴人ら及び控訴外豊島株式会社に対する損害賠償請求の各一部を認
容し、これを不服とする控訴人らから本件控訴がされた。
 2 本件において争いのない事実等、争点及び争点に関する当事者の主張は、次
のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは、原判決の事実及び理由欄の
「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する(ただし、控訴外豊島
株式会社に関する部分(原判決9頁2行ないし7行、12頁3、4行、13頁6、
7行、19頁3行ないし8行、及び22頁10行ないし23頁8行まで)を除
く。)。
【控訴人らの主張】
(1)本件商標の類似範囲
  ア 本件商標(BeaR)は、大文字の「B」、小文字の「e」、「a」及び
大文字の「R」からなる特異な綴りのものであり、単なる「BEAR(Bear、
bear)」(「熊」等を意味する語)とは区別される。本件商標の出願人株式会
社フルーツも、審査段階における拒絶理由通知に対して、本件商標(BeaR)が
特異な綴りであることを強調し、本件商標と引用商標「GOLDBEAR」「GO
LDEN BEAR」等との間に称呼及び観念の共通性はないと主張することによ
って、商標登録を受けた経緯がある。この出願人の主張を容れて本件商標が登録さ
れた経緯からすれば、本件商標権の権利範囲は、上記出願人の主張に沿って解釈さ
れるべきである。
 また、本件商標の指定商品である被服等の分野においては、アルファベットの
「BEAR(Bear、bear)」又は片仮名文字の「ベア(ー)」を含む商標
や熊の図形商標が多数登録されているから、「BEAR(Bear、bear)」
や「ベア(ー)」は、それ単独では自他商品識別機能がなく、これに他の文字なり
図形なりが付け加わってはじめて、識別力が生じているというべきである。現実の
取引においても、「BEAR(Bear、bear)」や「ベア(ー)」は、被服
等の商品について、単独で使用される場合も含めて、多数使用されているから、単
にこれらの文字(及びそこから生じる称呼・観念)のみによって識別されているわ
けではない。商標法2条の商標の概念は、商標が自他商品識別機能を有することを
前提としているというべきであるから、登録商標の権利範囲を決するに当たって
も、自他商品識別機能を有しない標章については公有のものとして権利範囲から除
かれるべきである。
 要するに、本件商標の構成それ自体、並びに本件商標権登録前後の状況及び本件
商標権の出願経過等からして、本件商標と類似する商標の範囲は非常に狭く、「B
eaR」の文字部分に限られるのであって、①「熊」等を意味する英単語を想起さ
せない、アルファベットの「B」(大文字)、「e」(小文字)、「a」(小文
字)、「R」(大文字)という特異な配列によって構成され、②「ベアー」ないし
「ビール」の称呼しか生じさせない標章のみが本件商標と類似するというべきであ
る。
 控訴人標章は、これらの条件を満たさないから、本件商標と類似する標章とはい
えない。
 イ 取引において、控訴人標章を付した控訴人らの商品と本件商標を付した商
品との間で出所の誤認・混同は生じない。
 すなわち、「BEAR(Bear、bear)」や「ベア(ー)」が被服等の商
品について多数使用されているという取引の実情に照らすとき、控訴人の商品の購
入者や取引者が単に「Bear」、「ベア(ー)」等の標章によって商品の出所を
識別しているのでないことは明らかである。
 控訴人らは、控訴人標章を付して販売した商品には、すべて、権利者からライセ
ンスを受けた別紙控訴人商標目録記載の(1)又は(2)の商標(登録第3335699
号及び登録第3335700号。以下、両者を区別せずに、単に「控訴人商標」と
いう。)又はこれらの控訴人商標から「SNOW BOARDS」、「SURF BOARDS」の文字
を除いたシンボルマークを、商品の襟ネームに表示し、かつ、控訴人らの商号とと
もに商品タグに記載するなどして出所を明示している。控訴人らの商品の広告に
も、同様に、目立つところに必ず控訴人商標を印刷し、商品の出所として、控訴人
らの商号及び当時の日本におけるマスターライセンサーであったサクラ・インター
ナショナルの名称を記載していた。控訴人標章は、商品に付されている場合にはデ
ザインの一部として、広告に使用されているときは控訴人商標の名称として、使用
されているにすぎないものであって、いずれも、単独で出所を表示しているもので
はあり得ない。
 控訴人商標は、1976年に製作された映画「ビッグ・ウェンズデー」で用いら
れて以来、米国のヴァルキリー社による世界的商品化がなされたもので、日本にお
いても同社のライセンスの下に、1980年代からサーフボード、Tシャツ等の衣
類について宣伝・広告活動、商品展開が本格化した。その結果、控訴人商標は、サ
ーフブランドとして周知性・著名性を獲得している。
 他方、被控訴人は、横向きの熊の図形の長く伸ばした尾部に「Bear」の文字を大
きく表し、その右横に縦書きのUSAを付加するなどした標章(別紙被控訴人商標目録
参照)や、「Bear USA」、「BEAR USA」などの標章(以下、これらをまとめて
「被控訴人Bear USA商標」という。)を使用して、主としてダウンジャケットの商
品展開を図ってきており、本件商標を、一切、その商品に付して使用していない。
 このように、ヴァルキリー社のブランドと被控訴人のブランドとは、ブランドイ
メージが全く異なる。両社の商品(両社のライセンシーによって販売される商品)
は、日本における衣類の取引業者、消費者において明確に区別されており、そこに
誤認混同の生じる余地はない。
 (2)先使用権の抗弁 
「BEAR」、「Bear」及び「ベア(ー)」等の標章は、本件商標の出願前
から、控訴人商標の称呼あるいは観念として、ヴァルキリー社のライセンス又はラ
イセンス事業を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた。したがっ
て、ヴァルキリー社のライセンスの下に控訴人らが控訴人標章の「BEAR」、
「Bear」、及び「ベア(ー)」等を使用する行為は、商標法32条の規定によ
る先使用権に基づくものとして、本件商標権の侵害を構成しない。
 (3)権利濫用等
 被控訴人は、①出願経過からしてその権利範囲をきわめて狭く解釈すべき本件商
標(BeaR)を平成8年に譲り受けたことを奇貨として、②本件商標を被控訴人
の商品に全く使用していないのにもかかわらず、③被服の分野において以前からヴ
ァルキリー社の商標として周知性を獲得しており、あるいは、自他識別機能を有し
ていないほど一般的に用いられている「BEAR(Bear、bear)」や「ベ
ア(ー)」に対してまで、商標権を行使するものである。かかる商標権の行使は権
利濫用であって許されるものではない。
 (4)損害額
 原判決は、本件商標の使用料相当額を、控訴人標章が商品に付された場合は、商
品販売額の1.5%、広告に使用された場合は商品販売額の0.5%と認定した
が、この認定は、①控訴人標章と本件商標との類似性は、仮に認められるとして
も、弱いものであること、②控訴人標章は、本件商標登録出願前から、ヴァルキリ
ー社のライセンス商品あるいはライセンス事業を表示する商標として周知性を獲得
していたこと、③取引者・需要者において、控訴人標章を付した控訴人らの商品と
被控訴人の商品につき、出所の誤認混同を生じる可能性がないことを看過してい
る。上記①ないし③の事情を考慮すれば、損害賠償額としての使用料の率は原判決
の認定するような高率になるはずがない。
【被控訴人の反論】
 控訴人らの主張は、原審における主張の繰り返しにすぎず、いずれも理由がな
い。
(1)商標の類否
 控訴人標章の「Bear」、「BEAR」、「ベアー」等がいずれも本件商標の
指定商品との関係で自他商品識別力を有することは明らかである。本件商標権の登
録の前後を通じて「ベア」、「Bear」、「熊」などの前後に他の語が付加され
た商標の登録が多数認められている事実は、全体として別異の商標として認識(称
呼、観念)されれば、それぞれ非類似の商標として認識されると特許庁で判断され
たことを意味するにすぎない。
 また、商標の類否を判断するに当たって取引の実情等を考慮することがあるとし
ても、商品タグにサクラ・インターナショナルの名称が付加されている等の商標そ
れ自体の構成とは全く関係のないの外部事情を、商標それ自体の類否の判断に当た
り考慮することは許されない。また、ブランドイメージが異なるからといって誤認
混同の生じる可能性がないとはいえない。
 被控訴人及びそのライセンシーが本件商標を使用していることは商品(Tシャ
ツ)を撮影した写真(甲28)や新聞広告(甲29)から明らかである。
(2)先使用権
 控訴人標章(1)ないし(19)はいずれも控訴人商標(1)及び(2)とは全く異なるから、
先使用権の主張は理由がない。
(3)権利濫用等
 本件侵害行為の当時、被控訴人が実際に使用していた商標の態様の多くが本件商
標(BeaR)と異なるとしても、被控訴人は本件商標と同一の称呼、観念を生じ
る商標を使用していたのであるから、権利行使には合理的理由がある。権利濫用の
主張は失当である。
(4)損害額
 控訴人らの行為によって被控訴人は大きな損害を蒙っており、その損害は原判決
の認定した損害額では到底填補されない。
第3 当裁判所の判断
 1 本件において争いのない事実、証拠(括弧内に挙示。枝番省略)及び弁論の
全趣旨によれば、次の事実が認められる。
 (1)本件商標の出願経過等(甲1、2、乙2)
 本件商標は、訴外株式会社フルーツが平成3年10月16日に商標登録出願し、
平成6年5月31日に商標権設定登録を受けたものである。被控訴人は、株式会社
フルーツから平成8年3月29日に本件商標権を譲り受け、同年7月8日に本件商
標権の移転登録を了した。
 本件商標については、その登録審査の過程で、先登録の第745533号商標
(「GOLDBEAR」の文字からなる商標。以下「A商標」という。)、第15
72840号商標(熊の図柄の下に「GOLD」及び「BEAR」の各文字を横書
きに、上下2段に配したもの。以下「A’商標」という。)、第1734991号
商標(「GOLDEN BEAR」。以下「B商標」という。)及び第15728
41号商標(「ゴールデン ベア」。以下「B’商標」という。)を引用した拒絶
理由通知(平成5年2月5日発送)があり、これを受けた出願人(株式会社フルー
ツ)が、平成5年3月2日付けで意見書を提出した。この意見書の中で、出願人
は、①本件商標のアルファベット綴り「BeaR」に対し引用商標A及びA’の
「BEAR」がアルファベットの共通文字を各々有するものの、本件商標はアルフ
ァベット綴りの態様が特異であり、一見して熊等を意味する英単語を想起すること
が困難である、引用商標A及びA’は「GOLD」の部分や「GOLD」と熊の図
が視覚上強力な識別機能を発揮する、②称呼上、本件商標は「ベアー」又は「ビー
ル」であるのに対し、A商標及びA’商標は共に「ゴールドベアー」であるから
「ゴールド」の有無が識別機能を発揮し、混同されることはない、③観念上、本件
商標は「熊」をはじめ「運ぶ」、「耐える」等の意味を想起させるのに対し、A商
標及び及びA’商標は「金製の熊」若しくは「金色の熊」を想起させるから、混同
されることはない、などと主張し、B商標及びB’商標に対する関係でも、本件商
標につき、上記と同一論旨の主張をした。特許庁は、上記意見書が提出された後、
本件商標登録出願を同年8月30日に出願公告し、同年12月17日に登録査定し
た。
 (2)「BEAR」、「ベア(ー)」等の文字を含む商標の登録・使用状況等
(甲28、29、乙1、8、16ないし20、122、130及び弁論の全趣旨)
 本件商標の指定商品の分野において、アルファベットの「BEAR」、「Bea
r」、「bear」の文字列を含む商標は、本件商標の出願の前後を通じて、極め
て多くのものが出願・登録されている。それらの中には、①文字のみからなる商標
の中に、「BEAR」、「Bear」又は「bear」の文字を、他の文字列から
間隔を空けて区分し、又は区分することなく一連に書した態様のもの(例えば、
「TINY BEAR」、「LITTLE BEAR」、「PETIT BEA
R」など)や、②熊の図形又は熊以外の図形と「BEAR」、「Bear」、「b
ear」の文字を含む文字標章とを組み合わせたものがある。同様に、「ベア
(ー)」の片仮名文字についても、本件商標の出願の前後を通じて、片仮名文字の
文字列の中に「ベアー」文字を区分し又は区分することなく表した商標や、「ベア
(ー)」又は「ベア(ー)」を含む語と図形(熊又はそれ以外のもの)とを組み合
わせたものを含めて多種多様なものが出願・登録されている。しかし、本件商標出
願前の出願に係る既登録商標の中に、他の文字又は図形と組み合わされることな
く、単独でアルファベットの「BEAR」、「Bear」、「bear」又は片仮
名文字の「ベア(ー)」のみを表したものはない。
 さらに、熊を表した図形のみからなる商標及び熊の図形に他の語を付記した商標
も、本件商標の登録の前後を通じて、多数が出願・登録されており、これらのもの
も含めて、被服等の分野において熊(ベアー、bear)を商標の要素とする商標
は、極めてポピュラーなものであるということができる。
 (3)被控訴人による本件商標の使用状況(乙11ないし13、121、127
ないし129)
 被控訴人は、その商品に、横向きの熊の長く伸ばした尾部の輪郭線の中
に「Bear」の文字を大きく表し、その右横に縦書きのUSAの文字を付加するなどした
商標(別紙被控訴人商標目録参照)や「Bear USA」、「BEARUSA」などの商標(ま
とめて「被控訴人のBear USA商標」という。)を付し、主としてダウンジャケット
の商品展開を図ってきた。
 本件商標自体に関しては、被控訴人は、平成10年(1998年)ころから、被
控訴人のBear USA商標と共に本件商標が被控訴人の登録商標であることを広告する
ようになったことが認められるが、本件で商標権侵害を主張されている控訴人らの
各商品が販売された平成6年から平成8年にかけての時期に、本件商標を被控訴人
の商品に付して使用していたことを確実に認め得る証拠はない。したがって、上記
時期において、本件商標「BeaR」自体の知名度は低く、ほとんど使用実績のな
いものであったということができる(なお、本件商標については、不使用による登
録取消請求は成り立たないとした審決を維持した判決(東京高裁平成11年(行
ケ)第361号、第362号)があり、その理由中で、本件商標は審判請求の予告
登録(平成10年4月30日)前3年以内に株式会社フルーツが被控訴人から許諾
を受けた通常使用権者として使用していた旨認定されているが、同判決の認定した
事実からも、株式会社フルーツにより本件商標を付して販売された被服等の商品の
数量は、わずかなものであったことがうかがわれるから、本件商標が被服等につい
て使用実績の乏しい商標であるとの上記認定が左右されるものではない。)
 (4)控訴人標章の使用状況その他関連する事実等(甲3ないし23、26、2
7、乙8、10、14の1ないし3、15の1及び2、21ないし126)
 平成6年から平成8年ころにかけて、控訴人標章を付して控訴人らが販売した商
品は、襟ネームにライセンスを受けた控訴人商標(別紙控訴人商標目録参照。これ
らの商標はいずれも平成6年12月1日に商標登録出願され、同9年8月1日に2
5類洋服等を指定商品とする登録第3335699号及び登録第3335700号
の商標として商標権登録がされている。)又はその特徴部分を表したマークを表示
し、かつ、商品に付けた商品タグに同じ控訴人商標等を控訴人らの商号と共に表示
していた。また、控訴人標章に係る控訴人らの商品を掲載した広告には、控訴人商
標が目立つように印刷され、多くの広告に、「ビッグウェンズデーの「BEA
R」」、「ビッグウェンズデーから生まれた伝説のサーフブランド」などと、「B
EAR」が映画「ビッグウェンズデー」から生まれたブランドである旨の説明が付
されている。
 控訴人商標は、1976年に製作(1978年公開)された、サーフィンを主題
とする映画「ビッグ・ウェンズデー」において主人公らのサーフボード、Tシャツ
等に使用されたシンボルに由来するもので、横菱形の輪郭内中央部に、正面を向い
た熊の頭部から胸部を写実的に描出し、熊を挟んで左に「SNOW」又は「SURF」、右
に「BOARDS」の文字をやや小さめに配し、熊に重ねてかご抜きの「BEAR」の文
字を大きく書してなるものである(別紙控訴人商標目録参照)。映画「ビッグ・ウ
ェンズデー」のヒット後、前記シンボル(後にこのシンボルに由来する標章が米国
及び日本において商標登録されている。)を使用して、世界的商品化がなされ、日
本でも、その権利者のライセンスの下に、1980年代後半から、サーフボード、
Tシャツ等の衣類について、宣伝・広告活動、商品展開が本格化した。控訴人ら
は、控訴人商標の米国における権利者であるヴァルキリー社から、同社の日本にお
けるマスターライセンシーを通じ、控訴人商標の使用許諾を受け、同商標を使用し
て商品を販売してきた。
 控訴人商標は、平成6年(1994年)ころには、若者に人気のあるサーフブラ
ンド「ベアー」として、一般のファッション誌や新聞に取り上げられており、被控
訴人が本件商標権の移転を受けた平成8年ころには、日本において、広く知られた
ものとなっていたことが認められる。
 2 以上認定の事実を前提として、本件商標と控訴人標章との類否を検討する。
 (1)まず、標章自体に着目すると、本件商標は、ゴシック体で、大文字の
「B」、小文字の「e」と「a」、及び大文字の「R」を、一連に「BeaR」と
書した、特異な綴りからなるものである。本件商標「BeaR」の綴り文字は、こ
れを、①英語の「bear」という単語の末尾を大文字としたもの(この場合の称
呼は、「ベア(ー)」であり、「熊」又は「我慢」、「忍耐」等の観念が生じ
る。)とみることも可能であるが、他方、②一般に「bear」という単語は、全
部を大文字又は小文字のいずれかで綴るか、頭文字だけを大文字とするのが普通で
あって、冒頭の文字と末尾の文字とを大文字とすることはないから、これを「Be
a」と「R」の組合せあるいは「B」と「R」の間に「ea」の文字を挟んだ造語
ないし何らかの略称(この場合の称呼は、「ビー、アール」又は「ビール」であ
り、観念としては特定のものを生じさせない。)とみることも可能である。このよ
うに、「BeaR」は、そこから生じる称呼及び観念において多分に不確定なもの
を含んでおり、少なくとも、本件商標「BeaR」から、「ベア(ー)」の称呼及
び「熊」の観念が確定的に生じるということはできない。この点については、本件
商標の出願人であった株式会社フルーツも、拒絶理由通知に対する平成5年3月2
日付け意見書の中で、「本件商標のアルファベット綴の態様が特異であり一見して
熊等を意味する英単語を想起することが困難である」と主張していたところであ
る。
 そうすると、本件商標と控訴人標章との類否の判断においては、本件商標が需要
者・取引者に、熊を意味する英語「bear」を想起させることも、「B」、
「e」、「a」、「R」という特異な文字列で構成された造語と受け取られること
もあり得るという前提に立ち、標章自体を外観、観念及び称呼の観点から対比する
のみならず、本件商標と控訴人標章がそれぞれ本件商品の指定商品に付されて流通
過程に置かれたときに、出所の識別がいかになされるかを、指定商品の取引分野に
おける一般的な取引の実情に即して検討し、さらに、当該商標及び標章に関連する
個別の取引事情をも勘案して、商品の出所についての誤認混同が生ずるか否かを判
断することが相当である。
 (2)そこで、上記観点に立って検討するに、本件商標の「BeaR」を熊を意
味する英語の「bear」とみた場合であっても、本件商標の指定商品の分野にお
いて、「bear(熊、ベアー)」に関連づけられる観念及び称呼を生じさせる多
数の商標が独立の商標として登録され、実際に使用されていると認められることは
前示のとおりである。このような実情に照らすと、本件商標の指定商品である被服
等の市場においては、単なる「ベアー」の称呼や「ベアー(熊)」の観念のみによ
っては自他商品を識別することが困難であり、取引者・需要者は、むしろ「bea
r」等に付加された語句や図形等の差異によって種々の形態の「bear」商標を
識別していると考えることが経験則に合致する。そして、本件商標の出願人が拒絶
理由通知に対して提出した前記意見書における主張は、「bear」等を含む商標
が単にベアーの称呼及び熊の観念によって識別されるものではないという一般的な
取引事情についての出願人の認識を表明したものと解されるのであって、本件商標
についてみれば、同意見書でも強調されているように、本件商標「BeaR」の特
異な綴り、特に末尾の「R」が大文字で強調されているという点が、本件商標を一
般的な「bear」(熊)から区別する部分と解される。言い換えれば、本件商標
は、他の「bear」(熊)に関連づけられる多数の登録商標群及び現に使用され
ている商標群の中にあって、「最後のRが大文字のベアー」という特異なものとし
て看取され、観念され、そのようなものとしての識別力を発揮するものと解するこ
とが相当である。
 なお、本件商標を「B」と「R」の間に「e」「a」の入った造語とみるとき
は、本件商標が控訴人標章と称呼、観念において類似しないものであることは論を
またない。
  (3) 次に、本件商標及び控訴人標章に関連する個別の取引事情について検
討する。
 前記1(3)のとおり、被控訴人は、横向きの熊の図と「Bear」、「US
A」の文字を組合せた被控訴人の「Bear USA」商標の下に商品展開をしており、被
控訴人の商品は、「ベアUSA」ブランドないし横向きの熊の図形のある「Bear 
USA」ブランドとして、遅くとも被控訴人が本件商標権を譲り受けた平成8年ころに
は、日本において、相当程度の知名度を獲得していたと認めることができる。しか
し、本件商標「BeaR」自体は、使用の実績も薄く、同時期において知名度のあ
る商標となっていたものとは認め難い。
 ところで、ある標章が周知・著名である場合には、その標章がワンポイントマー
クとして、あるいは衣類のデザインの一部として胸部その他の部分にあしらわれて
いるだけで、需要者が当該標章だけから商品の出所を認識し、当該標章の付された
商品の出所が当該著名標章の権利者又はそのライセンシーであると誤認することも
大いにあり得るというべきであるが、一般には、被服類の購入者や取引業者は衿ネ
ームや商品タグによっても商品の出所を識別しているのであり、とりわけ、本件の
ごとく、文字や図形によって「熊」を観念させ、あるいは「ベア(ー)」を含む称
呼を生じさせる多種多様な標章が被服類について使用されているという事情の下で
は、一般的な注意力を持った通常の取引者及び需要者は、Tシャツの胸等の目立つ
ところにあしらわれた「BEAR」、「Bear」、「bear」、「ベア
(ー)」等のロゴのみによってではなく、むしろ、衿ネームや商品タグによって商
品の出所を識別するのが普通であると認められる。
 上記事情に加えて、控訴人らの商品は、襟ネーム及び商品タグに、映画「ビッグ
ウェンズデー」に由来するサーフブランドとして広く知られた控訴人商標を表示し
て販売されていたという事実、及び本件商標自体は使用実績の乏しい商標であった
という事実をも併せ考慮すると、本件における具体的取引事情の下で、取引者及び
需要者が控訴人の商品を衣類等の胸その他の部分に表示された「BEAR」、「B
ear」、「ベアー」等の文字のみによって商品の出所を認識しているとは認め難
く、本件商標「BeaR」を付した商品と控訴人標章「Bear」、「BEA
R」、「ベアー」等を付した商品との間で出所を混同するおそれがあると認めるこ
とはできない。
 被控訴人は、本件商標とは別のところに付された商品タグに控訴人商標及び控訴
人らのマスターライセンサーの表示がある等などの、商標の構成それ自体と関係の
ない外部事情を、商標の類否の判断に当たり考慮することは許されないと主張する
が、商標の構成それ自体とは関係のない事情であっても、bear(熊)に関連す
る多数の商標が存在する中で商品の出所がいかに識別されるかという一般的な経験
則に関連して商品の出所の誤認混同のおそれを左右する事情は、これを取引の実情
の一つとして考慮し得ないものではないというべきである。
 3 以上1において認定した事実を前提にして2において検討した点を総合する
と、本件商標の指定商品の取引分野において、本件商標を付した商品と控訴人標章
を付した商品とが取引に置かれたときに、両商品の間でその出所についての誤認混
同が生ずるおそれがあると認めることはできない。したがって、控訴人標章は、本
件商標に類似するものではないというべきである。
 4 以上のとおりであるから、商標権侵害を理由として控訴人らに対し控訴人標
章の使用の差止め、同標章を付した被服の廃棄及び損害賠償を求める被控訴人の請
求はいずれも理由がない。
 よって、控訴人らの控訴は理由があるから、原判決を取り消し、控訴人らに対す
る被控訴人の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第18民事部
       裁判長裁判官     永   井   紀   昭
裁判官     古   城   春   実
          裁判官     田   中   昌   利
(別紙)
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激動の時代に
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