弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人笠原房夫の上告理由第一点について。
 原審の認定するところによれば、本件売渡処分は、買収の時期において本件土地
の転借人として現実に耕作の業務を営んでいた訴外Dが売渡手続の存在を知らなか
つたため買受の申込をなさず、転貸人である上告人が耕作者として買受の申込をし
たため上告人を売渡の相手方として行われたというのであり、しかも上告人は、そ
の当時から売渡処分の取消があるまで本件土地を自ら耕作したことは一度もないと
いうのであつて、本件売渡処分は、現実の耕作者である右Dを自作農化する結果と
はならず、却つてその耕作権を一旦消滅させ(自作農創設特別措置法二二条)、同
人に対しては地主的地位に当る上告人に単に土地の所有権を付与するに終つたこと
が明らかである。してみると、本件売渡処分は、現実に耕作の業務を営む小作農を
自作農化することにより耕作者の地位の安定を図ろうとする自作農創設特別措置法
の目的に全く反する違法の処分であることが顕著であるといわなければならない。
他面、原審認定の事実によれば、本件売渡処分と取消処分との間に約三年の年月の
経過があるとはいえ、その間、事実上法律上の状態にほとんど変動はなく、右処分
の取消により関係人の被る不利益が特に重大であると認めるべき格別の事情もうか
がわれないところである。従つて、以上のような事情の下では、本件売渡処分を放
置することによる公益上の不利益は、処分の取消により関係人に及ぼす不利益に比
してはるかに重大であり、本件売渡処分を取り消すべき公益上の必要があるものと
解するのが相当である。されば右取消処分は適法であり、これと同趣旨に出た原審
の判断は正当である。
 なお、論旨中には、訴外Dは、その転借につき農地委員会の承認を得ていない旨
云為する点もあるが、原審の認定する事情の下で、仮りに右承認がなかつたとして
も、上告人を差しおいて同人を売渡の相手方として選定することは必ずしも不相当
とはいい得ないから、被上告人が本件土地を改めて同人に売渡すべきことを売渡処
分取消の理由としたとしても、このため右処分が違法となるものとは解されない。
 以上の判断に反する論旨は、独自の見解を主張するものであるか、又は原審の事
実認定を非難するものであつて、いずれも採用することができない。
 同第二点について。
 論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二
五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆ
る「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    池   田       克

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