弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 1 上告代理人小室貴司の上告理由について
 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条
1項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,理由の不備・食違い
をいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって,明ら
かに上記各項に規定する事由に該当しない。
 2 以下,職権により,上告人の本件請求について判断する。
 (1) 原審の確定した事実関係は,次のとおりである。
 ア 上告人は,平成2年6月11日,被上告人との間で,被上告人から第1審判
決別紙物件目録記載一の土地(以下「137番1の土地」という。)を,同土地の
南側に隣接する同物件目録記載二の土地(以下「136番1の土地」という。)と
の境界は第1審判決別紙図面のイ,ロ,ハの各点を直線で結ぶ線であるとし,実測
面積68・90平方メートル,代金1坪当たり900万円,総額1億8758万円
で買い受ける旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し,同年8月
8日ころ,その引渡しを受けた。
 イ 136番1の土地の所有者であるDは,平成3年4月ころ,両土地の境界は
同図面のイ,ロ,ホ,ニの各点を直線で結ぶ線であるとして,その線上にブロック
塀を建築し,同図面のロ,ハ,ニ,ホ,ロの各点を直線で結んだ範囲内の12・2
6平方メートル(約3・71坪)の土地(以下「本件土地」という。)は136番
1の土地に属するものであると主張するに至った。
 ウ 上告人は,平成3年7月末ころ,Dに対し,ブロック塀の建築に抗議したが
,同人はこれを受け入れなかった。そこで,上告人は,同年11月,Dを相手方と
して,ブロック塀の撤去等を求める旨の仮処分を申し立てたところ,Dは,同年1
2月16日付けの答弁書によって,本件土地が136番1の土地に属する旨を主張
した。同仮処分申立てについては,平成4年2月24日,Dに対して本件土地につ
き占有移転を禁止する旨の仮処分命令が発せられた。
 エ 上告人は,平成3年12月,Dを被告として,所有権に基づき,ブロック塀
の撤去,本件土地の明渡しを求める訴訟を提起した。これについては,平成6年1
1月28日上告人の請求を棄却する旨の第1審判決がされ,同7年9月13日上告
人の控訴を棄却する旨の判決が,同8年3月5日上告人の上告を棄却する旨の判決
がされた。
 オ 上告人は,平成7年11月10日ころ,被上告人に対して本件売買契約に基
づく売主としての責任を問う旨の意思を表明し,同8年4月19日,本件訴訟を提
起した。
 (2) 本件において,上告人は,被上告人に対し,主位的には民法563条又
は565条に基づく代金減額請求,予備的には不当利得返還請求として,本件売買
契約に基づいて上告人が支払った代金のうち本件土地の面積分に相当する3339
万円及び遅延損害金の支払を求め,被上告人は,代金減額請求について,民法56
4条所定の1年の除斥期間が経過していると主張して争った。
 原審は,次のとおり判断し,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 ア 本件土地は,本件売買契約の目的の一部とされたが,D所有の136番1の
土地に属するものであると認められる。そして,Dには本件土地を被上告人に対し
て譲渡する意思がないので,本件売買契約の売主である被上告人は,これを買主で
ある上告人に移転することができない。
 イ 上告人の被上告人に対する代金減額請求は,民法563条又は565条に基
づくものであるところ,同法564条所定の善意の買主の権利に係る除斥期間の起
算点は,買主が,単に売買の目的である権利の一部が他人に属し,又は数量を指示
して売買した物が不足していたことを知っただけでなく,売主においてこれを買主
に移転することができないことをも知った時であると解するのが相当である。
 ウ 前記事実関係の下においては,上告人は,仮処分申立て事件につき,Dから
,本件土地は136番1の土地の一部であることを明確に主張する平成3年12月
16日付けの答弁書が提出された時に,本件土地はDの所有に属し,又は本件売買
契約の目的である土地の面積に不足があることのみならず,被上告人がDから本件
土地を取得してこれを上告人に移転することができないことをも知ったものと解す
るのが相当である。そうすると,上告人は,その時点から1年内に被上告人に対し
て代金減額請求権を行使していないから、同請求権は,民法564条所定の除斥期
間の経過によって消滅していることになる。
 エ 代金減額請求権が消滅した以上,上告人の主張する不当利得返還請求権も発
生する余地がない。
 (3) しかし,原審の判断のうち(2)のウの部分は,これを是認することが
できない。その理由は,次のとおりである。
 【要旨1】売買の目的である権利の一部が他人に属し,又は数量を指示して売買
した物が不足していたことを知ったというためには,買主が売主に対し担保責任を
追及し得る程度に確実な事実関係を認識したことを要すると解するのが相当である。
本件のように,土地の売買契約が締結された後,土地の一部につき,買主と同土地
の隣接地の所有者との間で所有権の帰属に関する紛争が生起し,両者が裁判手続に
おいて争うに至った場合において,隣接地の所有者がその手続中で係争地が同人の
所有に属することを明確に主張したとしても,買主としては,その主張の当否につ
いて公権的判断を待って対処しようとするのが通常であって,そのような主張があ
ったことから直ちに買主が係争地は売主に属していなかったとして売主に対し担保
責任を追及し得る程度に確実な事実関係を認識したということはできない。【要旨
2】以上説示したところによれば,上告人の本件代金減額請求権について,仮処分
申立て事件においてDから答弁書が提出された時点をもって,民法564条所定の
除斥期間の起算点と解するのが相当であるとした原審の判断は,同条の解釈を誤っ
たものといわざるを得ない。
 以上のとおりであって,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法
令の違反があるから,原判決を職権をもって破棄し,更に審理を尽くさせるため,
原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 大出峻郎 裁判官 町田
 顯 裁判官 深澤武久)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛