弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
被告は日本国有鉄道が品川区内に設置を予定している仮称西大井駅の駅舎建設費用
及び同用地取得費用に充てるために品川区の公金を支出してはならない。
訴訟費用は被告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた判決
一 原告ら
主文同旨
二 被告
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告らは東京都品川区の住民である。
2 被告は、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)が東京都品川区内に設置しよ
うとしている仮称西大井駅の駅舎建設費用及び同用地取得費用に充てるために品川
区の公金から一四億六〇〇〇万円を支出することを予定しており、右支出行為のな
されることが相当の確実さをもつて予測される。以下、その経過につき説明する。
(一) 国鉄は、首都圏における中距離通勤輸送力増強のため、品川区内を縦貫す
る東海道本線貨物支線(通称品鶴線。以下「品鶴線」という。)に横須賀線客車を
乗り入れることを計画し、昭和四四年五月これを品川区に提示した。品川区は、昭
和四八年二月国鉄に対して、(1)品川区内五か所の踏切を国鉄の負担で立体交差
とする、(2)品川区内の南部に国鉄の負担で駅舎を設置する、(3)鉄道諸公害
を防止するとともに、すべての住民環境被害について国鉄が責任をもつて善処する
との三条件(以下「旧三条件」という。)が実現しない限り品鶴線への客車乗入れ
には反対である旨を申し入れた。これに対して国鉄は、昭和五〇年三月、(1)踏
切道五か所は廃止して昭和三一年一二月一八日付「道路と鉄道との交差に関する建
設省・日本国有鉄道協定」(以下「建国協定」という。)により立体交差とする、
(2)品川区の南部に駅舎を設置するが、工事費は全額地元負担とする、(3)公
害排除は、重量レール、ロングレールの採用、道床の改良、枕木の鉄筋コンクリー
ト化、鉄桁の改善、汚水タンク取付等可能な限り努力するとの回答を寄せたため、
品川区議会は、昭和五〇年一〇月二日、旧三条件を、(1)道路法に基づき踏切道
は五か所とも立体交差とする、(2)品川区の南部に駅舎を設置する、(3)鉄道
諸公害を防止するとともに、住民の環境被害については国鉄が責任をもつて善処す
る、但し、駅舎設置費用の地元負担並びに立体交差の建国協定に基づいての実施は
やむを得ないものと考えるが、現下の財政事情もあり、工事の実施、客車乗入れの
時期等については別途協議するとの新たな条件(以下「新三条件」という。)に変
更するとの議案を可決した。そして、昭和五〇年一〇月三日品川区と国鉄との間に
おいて、(1)国鉄及び品川区は踏切道五か所の立体交差を推進するものとし、詳
細については建国協定に基づき実施する、(2)国鉄は、品川区南部に新駅を設置
するが、駅新設に要する用地及び工事費は負担しない、(3)国鉄は、軌道及び工
作物について改良工事を実施するとの合意が成立し、覚書が交わされた。
(二) そこで、国鉄は、昭和五二年八月一九日品川区<地名略>地内に仮称西大
井駅を設置することを決定し、同年九月八日品川区に対して、(1)新駅設置に要
する工事費はすべて地元負担とする、(2)新駅設置に要する増用地(駅舎敷地と
して新たに買収を要する土地)も地元負担で取得し、これを国鉄に無償で譲渡す
る、(3)駅新設に関連する駅前広場の造成及びそれに通ずる道路の新設改修、
道・水路の付替え、給排水設備、その他駅設置に必要と認められるものについては
新駅開業までに品川区において負担施行する等の新駅設置条件を示して回答を求め
たところ、被告は、品川区議会品鶴線対策特別委員会(以下「品鶴線対策特別委員
会」という。)の議決を経て、昭和五二年一一月一五日付「東海道本線貨物支線
(東海道旅客新線)新駅設置について(回答)」をもつて、「昭和五二年九月八日
付東京南営総第一二八号で貴職より提示のあつた標記については、当区としては了
承いたしますが、提示条件各項の実施にあたつては、別途協議されるよう、よろし
くお取り計らい願います。また、踏切の立体交差及び鉄道諸公害防止については、
昭和五〇年一〇月三日付覚書の趣旨にのつとり早期に実現されるようお願いいたし
ます。なお、新駅設置にともなう経費処理は、地元運動団体『仮称西大井駅設置促
進期成同盟』を設立してこれに当らせたく別途ご連絡申し上げます。」との回答を
行つた。
(三) 右の回答をするに当たりあらかじめ行われた品鶴線対策特別委員会の審議
において、被告をはじめ品川区の事務担当者は、新駅設置費用として駅舎建設費一
五億二〇〇〇万円、増用地取得費一億五〇〇〇万円、合計一六億七〇〇〇万円が見
込まれ、これを昭和五二年度から昭和五六年度までの五か年度にわたり、昭和五二
年度に六五〇〇万円(うち五〇〇万円は地元住民からの寄附)、昭和五三年度に一
億〇五〇〇万円(うち五〇〇万円は地元住民からの寄附)、昭和五四年度に三億
円、昭和五五、五六年度に各六億円(うち一億円はいずれも東京都からの助成)の
予算措置を講じ用意する計画であるが、右費用を品川区が直接国鉄に支出すると地
方財政再建促進特別措置法(以下「地財再建法」という。)二四条二項の規定に抵
触するおそれがあるので、トンネル組織として仮称西大井駅設置促進期成同盟(東
京都、品川区及び東京商工会議所品川支部の各代表者によつて構成し、被告が会長
となる。以下「期成同盟」という。)を設立し、直接にはこれに対して公金を支出
する形式をとる旨説明をした。
(四) 品川区当局は、以上の経過を記載した文書を作成し、これに基づき昭和五
三年二月二七日から同年三月一日にかけて住民説明会を開催し、前記資金計画を具
体化していく方針を明らかにした。
(五) そして、昭和五三年三月に被告提案に係る東京都品川区公共施設建設基金
条例(以下「基金条例」という。)が制定され、かつ、前記資金計画の具体化とし
て一億六〇〇〇万円の予算措置が講じられ(六〇〇〇万円については昭和五二年度
補正予算として、一億円については昭和五三年度当初予算としてそれぞれ計上され
た。)、これが右基金条例に基づき設置された東京都品川区公共施設建設基金(以
下「本件基金」という。)に積み立てられたが、当該予算説明書には右一億六〇〇
〇万円が品鶴線駅舎費として本件基金に積み立てられる旨明記されている。その
後、昭和五四年度の予算においても三億円が計上され、これも本件基金に積み立て
られた。
(六) 本件基金の支出予定先である期成同盟はまた設立されていないが、品川区
が仮称西大井駅の設置を区の最重点施策として位置付けていることに照らせば、そ
の設立は早急になされる見込みである。
以上によれば、品川区の予算執行責任者である被告が、仮称西大井駅の駅舎設置費
用として品川区の負担すべき一四億六〇〇〇万円につき逐次予算措置を講じて公金
を支出することが相当の確実さをもつて予測されることは明らかである。
3 しかし、右公金の支出は、地財再建法二四条二項に違反する違法なものであ
る。すなわち、同項は、「地方公共団体は、当分の間、・・・・・・日本国有鉄
道・・・・・・に対し、寄附金、法律又は政令の規定に基かない負担金その他これ
らに類するもの(これに相当する物品等を含む。以下「寄附金等」という。)を支
出してはならない。」と規定しており、右公金の支出はこれに真向うから抵触す
る。本件の場合、形式的には品川区がその公金を直接国鉄に支出するわけではな
く、期成同盟を経由して支出しようとしているものではあるが、地財再建法の目的
は地方公共団体の財政の健全性を確保することにあるのであるから、同法二四条二
項が禁止している国鉄等に対する寄附金等の支出経路が直接的であるか間接的であ
るかは問うところではなく、また、品川区当局の発意により容易に設立しうる期成
同盟を経由することによつて同項の規制を潜脱できるとするならば、地方公共団体
の財政再建を促進しその健全性を確保しようとする地財再建法の立法趣旨は、完全
に没却されてしまうのである。
4 以上のとおり、被告が違法に公金の支出をすることが相当の確実さをもつて予
測されるが、かかる支出がなされた後それによつて品川区に生じた損害を回復する
ためには、被告個人にその補填を求めるか、国鉄側からこれを回収するかのいずれ
かしかない。しかし、前者は、支出の予定されている金額(一四億六〇〇〇万円)
からみて到底実現不可能であり、また、後者も、地方自治法二四二条の二第一項四
号により原告らが品川区に代位して訴求しうる相手方が国鉄ではなく期成同盟であ
ると解される余地もあり、そのように解された場合には、期成同盟の主たる経費負
担者が品川区自身であることを考えれば、事後的請求は全く無意味なものとなる。
したがつて、本件の公金支出により品川区に回復の困難な損害を生ずるおそれがあ
ることは明らかである。
5 そこで、原告らは、昭和五三年二月一四日本件の違法な公金支出を防止するた
めに品川区監査委員に対し地方自治法二四二条一項に基づく住民監査請求を行つた
ところ、同年四月一二日付で監査委員の意見が一致せず合議がととのわなかつた旨
の監査結果が原告らに通知された。
6 しかしながら、原告らは、右監査結果に不服があるので、地方自治法二四二条
の二第一項一号に基づき被告に対し前記公金支出の差止めを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2冒頭の主張の趣旨は争う。同(一)の事実は認める。同(二)のうち、国
鉄が昭和五二年八月一九日品川区<地名略>地内に仮称西大井駅を設置することを
決定したことは不知、その余の事実は認める。同(三)の被告又は品川区の事務当
局者が品鶴線対策特別委員会においてした説明のうち、品川区が新駅設置費用を直
接国鉄に支払うと地財再建法に抵触するおそれがあるので、トンネル組織として期
成同盟を設立したこれに対して公金を支出する形式をとる旨述べたことは否認し、
その余の事実は認める。同(四)の事実は認める。同(五)のうち、基金条例が昭
和五三年三月に制定されたこと、昭和五二年度補正予算において六〇〇〇万円及び
昭和五三年度当初予算において一億円がそれぞれ本件基金に積み立てられたことは
認めるが、予算説明書に右一億六〇〇〇万円が品鶴線駅舎費と明記されている事実
は否認する。同(六)のうち、期成同盟が設立されていないことは認めるが、その
余は争う。
3 同3、4の主張は争う。
4 同5の事実は認める。
三 被告の主張
1 品川区は、昭和四年に営業を開始した品鶴線(貨物線)につき、当時から国鉄
に対し、同線に旅客列車を運行させるとともに品川区内に駅舎を設置するよう要望
してきた。一方、国鉄は、従来どおり東海道本線と横須賀線とを東京・大船間にお
いて同一線路上で運行していては横浜市以南から都内への通勤・通学客の増加に対
応することができないので、輸送力を増強するために東海道本線と横須賀線を分離
し、横須賀線の客車は品鶴線に乗り入れさせ、貨物列車については別途貨物線を新
設することを計画し、昭和四四年五月一六日これを品川区に提示してきた。しか
し、品鶴線は品川区内の住宅過密地帯を約四キロメートルにわたつて縦貫してお
り、国鉄はこれに横須賀線を乗り入れて、同区内をノン・ストツプで通過させ、も
つて中距離通勤対策の一環としようとするものであつて、これがそのまま実施され
ることになれば、沿線住民に対する騒音、振動、電光等の障害が急増し、また、ラ
ツシユ時には通過列車本数が上下線合わせて毎時四〇本にもなり、品鶴線に架かる
区内五か所の踏切は一時間のうち四〇分(従来の約三倍)も閉鎖せざるを得なくな
ると予想され、歩行者や車両の通行に重大な支障が発生すると考えられる。このよ
うに横須賀線の品鶴線への乗入れは、住民の生活環境の低下、交通の渋滞等、品川
区全域に悪影響を及ぼすおそれがあり、品川区としては得るところのない計画であ
るため、品川区当局は、国鉄から前記提示を受けて以来、国鉄の負担によつて踏切
を立体交差とし、区内に駅舎一か所を新設すること等を要請して、新駅設置を容易
に認めようとはしない国鉄との間で折衝を重ね、昭和五〇年一〇月三日にようやく
品川区議会の同意を得て原告ら主張のような費用地元負担により新駅設置の覚書を
交わすに至つたものである。品川区が地元の負担で新駅を設置することに合意した
のは、西大井地区には鉄道駅がないため交通の便が悪く、地元住民からも新駅設置
の強い要望が出されており、ここに新駅を設置すれば昭和六〇年には一日の乗降客
が推計約五万二〇〇〇人になると見込まれ、住民の利便と地域産業の発展に資する
ことができると判断したからである。そして、新駅設置は、覚書にあるとおり、住
民の生活環境の保全及び交通の安全確保上の施策を国鉄にとらせることと一体とな
つて合意されたものであるから、新駅設置のみを分離してその是非を論ずるのは相
当でなく、右合意を一体としてとらえ、その当否を判断すべきであるが、右合意
は、品川区内に新駅を設置して住民の利便と福祉の向上を図り、生活環境の保全を
めざすとともに、横須賀線の乗入れに同意して首都圏の交通事情の改善、ひいては
地域の産業経済の発展及び公共の福祉の向上を図るものであるから、品川区の総合
的環境対策と国鉄の中距離通勤対策との整合を図つた望ましい対応ということがで
きるのである。一方、新駅設置の費用の点については、もともと品川区内をノン・
ストツプで通過させることを計画していた国鉄に費用を負担してまで新駅を設置す
る考えがないうえに、横須賀線が品鶴線に乗り入れるに伴い本件のほか新たに設置
されることになつた川崎市内の仮称新鹿島田駅及び横浜市内の仮称東戸塚駅の双方
とも、当該新駅建設費は新鹿島田駅設置期成同盟(神奈川県、川崎市及び川崎商工
会議所の代表者で構成)又は東戸塚駅設置促進期成同盟(神奈川県、横浜市及び横
浜商工会議所の代表者で構成)が支出し、最終的には前者の場合は神奈川県と川崎
市が、後者の場合は神奈川県、横浜市及び開発業者が負担するという隣接地方公共
団体の対応の一般的すう勢からみて、地元負担としなければ国鉄に新駅を設置させ
ることができない状況にあつた。そこで、品川区は、区全体の生活環境保全と産業
交通政策との整合的な地域行政を実施するという見地から、費用を地元で負担して
でも新駅を設置するのが相当であるとの区議会の議決に従つて、前記覚書に合意し
たものである。
2 地方公共団体が行う長期事業においては、計画、設計、交渉、協議、内諾及び
これらに続く契約の締結、金員の支出、物件の取得等種々の段階があるところ、本
件の場合、事実関係の経緯が大要原告ら主張のとおりであるとしても、原告らが公
金の支出先として主張する期成同盟なるものはいまだ設立されておらず、また、本
件基金の設置目的も条例上は公共施設一般の建設資金に充てるためのものであつ
て、仮称西大井駅駅舎建設資金に充てるものと限定されているわけではないから、
現段階において、被告が駅舎建設費用として公金を支出することが一義的に変更の
余地のないほど明確とはいいえず、青写真的計画の立案とこれに伴う協議、交渉、
内諾を経て右計画の概要が公表されたといういわば中間的段階にいまだあるにすぎ
ないものというべきである。したがつて、本件の公金支出は、地方自治法二四二条
一項にいう「当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合」に
は当らない。
3 憲法九二条及び九四条によれば、地方公共団体は憲法上固有の財政自主権を有
するものであるから、これに対する国の一般的、後見的な権力関与を認めた規定に
ついては、できる限り制限又は縮少して解釈すべきである。かかる観点から地財再
建法二四二条二項をみると、同項が禁止しているのは国又は国鉄等からの割当的強
制に応じてする寄附のみであつて、地方公共団体の任意的、自発的な寄附までをも
禁止する趣旨ではないと解される。すなわち、地方自治法二三二条の二が「普通地
方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることが
できる。」と規定している反面、地方財政法四条の五は、「国・・・・・・は地方
公共団体・・・・・・に対し、・・・・・・寄附金(これに相当する物品等を含
む。)を割り当てて強制的に徴収(これに相当する行為を含む。)するようなこと
をしてはならない。」と規定しているが、右二規定と対比するならば、地財再建法
二四条二項は、地方自治法によつて地方公共団体に認められている国又は国鉄等に
対する寄附を全面的に禁止しているものではなく、そのなかで地方財政法四条の五
の現定で禁止している割当的寄附の強制徴収だけを地方公共団体の側から規制した
にすぎないものというべきである。したがつて、品川区が任意に行う本件の公金支
出は、地財再建法二四条二項に抵触するものではない。そのうえ、同法は、地方財
政が危機的状況にあつた昭和三〇年当時「当分の間」の臨時立法として制定された
もので、今日ではもはや「当分の間」を経過し、地方公共団体の国又は国鉄等に対
する寄附金等の支出を禁ずる合理的根拠を欠くに至つており、かかる規制は現実に
もほとんど遵守されていないのが実情である。このことは、運輸省と関係地方公共
団体との間で越美線又は宮福線の営業損失を地元府県の負担とする旨の確認書が交
わされていること、昭和四三年以降に設置された国鉄の新駅のうち関係地方公共団
体が費用を負担したものが一一駅あり、その負担額合計が一〇億円を超えているこ
と、今後設置が予定されている新駅一〇駅に関し地方公共団体等の設置費用負担額
合計が約九三億円にのぼること及び国立学校、国立病院、国の出先機関、福祉・厚
生・労働関係の各種会館等の設置に係る用地取得と建設工事費の全部又は一部が地
元地方公共団体の実質的負担とされている事例が無数に存在することからも明らか
である。
4 更にまた、品川区が本件新駅の設置費用を支出することは、地財再建法二四条
二項但書の規定に基づき寄附金等の支出の特例を定めた同法施行令(以下「地財再
建法施行令」という。)一二条の二第五号にいう「もつぱら当該地方公共団体の利
用に供され、又は主として当該地方公共団体を利することとなる施設で公社等の当
該施設に係る一般的な設置基準をこえるものを当該公社等が設置する場合におい
て、当該施設を構成する財産を公社等に寄附しようとし、又は当該財産の取得に要
する費用を当該地方公共団体が負担しようとするとき」に該当するから、違法な支
出となるものではない。すなわち、地方公共団体には広狭二義があり、狭義では公
法上の組織又は行政主体を意味するが、広義ではこれにとどまらず、地域の産業、
経済、文化活動及び住民生活をも含めたものを意味するところ、地方公共団体の主
たる活動が地域住民の福祉の増進を目的とした事務処理であること及び地方自治法
二三二条の二、二四四条の規定等を考えれば、同号の「地方公共団体」とは、右広
義での地方公共団体を指すものというべきであるから、国鉄が設置する新駅は、右
にいう「もつぱら当該地方公共団体の利用に供され、又は主として当該地方公共団
体を利することとなる施設」に当たる。そして、同号の「一般的な設置基準」と
は、公社等が施設の具体的な設置基準を定めているときはその基準、これを定めて
いないときは類似の条件下における公社等の他の同種の施設と比較して自己の費用
で設置することが社会通念上当然と認められる程度をいうと解されるところ、国鉄
においては新駅に関する具体的な設置基準を文書化してはいないが、新駅の設置は
原則として右の一般的な設置基準をこえるものとして取り扱つているのであるか
ら、本件の仮称西大井駅の新設も国鉄の一般的な設置基準をこえるものというべき
である。このことは、前記仮称新鹿島田駅及び同東戸塚駅新設の費用を地元地方公
共団体等が負担していることからも明らかである。もつとも、本件については、地
財再建法二四条二項但書の規定によつて必要とされる自治大臣の承認の手続を経て
いないが、前記3で述べたとおり、同項は、制限又は縮少して解釈すべきであり、
しかも、この規制は現実に遵守されておらず、これに反する事例が無数に見受けら
れるのであるから、右自治大臣の承認を要するとの規定は行政内部の準則又は訓示
規定にすぎないと解すべきである。
四 原告らの反論
1 被告の主張1について
被告は、仮称西大井駅新設の必要性及びその費用を品川区が負担せざるを得なかつ
た事情をるる説明するが、そのような事情があつたとしても、それだけで本件公金
支出の違法性が払拭されるものではない。なお、被告が同種事例としてあげる仮称
東戸塚駅の新設については、その設置費用総額約二五億円のうち地元開発業者がそ
の八〇パーセントを、横浜市がその余の二〇パーセントをそれぞれ負担し、神奈川
県は全く負担していないのであつて、横須賀線の品鶴線乗入れに伴つて新設される
駅舎の設置費用を地元地方公共団体が負担することは決して一般的すう勢になつて
いるとはいえない。
2 同2について
被告は、期成同盟がいまだ設立されていないことと、本件基金の設置目的が条例上
は仮称西大井駅駅舎建設資金に充てるためというように限定されていないことをあ
げて、品川区の公金が駅舎建設費用として支出されることが一義的に変更の余地の
ないほど明確であるとはいえない旨主張するけれども、そもそも地方自治法二四二
条一項にいう「当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合」
とはそのように厳格に解すべきものではないのみならず、期成同盟は、被告、東京
都知事及び東京商工会議所品川支部長の三者で構成し、被告を代表者にすることが
予定されており、その目的も専ら品川区が国鉄に本件公金を支出するに当たつてそ
の経由機関となることにあるのであるから、公金支出時期に関する国鉄との協議が
整いさえすれば、直ちにも結成できる性質のものである。それ故、いまだ期成同盟
が設立されていないことは、本件公金支出の確実性を左右するものではない。ま
た、基金条例は、本件基金の目的につき一般的、抽象的に公共施設の建設資金に充
てるためと定めてはいるが、品川区当局が区議会に提出した予算案説明書には、昭
和五二年度及び昭和五三年度の予算で右基金に積み立てられた一億六〇〇〇万円に
ついて「品鶴線駅舎分」と明記されているのであつて、本件基金をこれ以外の用途
に使用する具体的かつ現実的な計画は全くない。基金条例の制定とこれに基づく本
件基金への積立ては、品川区と国鉄との間で駅舎建設費用の支払方法に関し年度別
分納方式とするか一括前納方式とするかにつき合意をみていないため、一括前納方
式がとられた場合に備え、品川区の資金を積み立てておくことを唯一の目的として
行われたものなのである。したがつて、被告の前記主張は失当である。
3 同3について
被告は、地財再建法二四条二項は強制的な寄附のみを禁止しているにとどまり、地
方財政法四条の五と同趣旨の規定であると主張する。しかし、地財再建法は、いわ
ゆる第一次地方財政危機(昭和二八ないし昭和三〇年)の末期たる昭和三〇年一二
月に地方財政の窮状を打開するために制定されたものであるのに対し、地方財政法
四条の五(昭和二七年法律第一四七号により新設)は、かかる背景をもたず、主と
して国及び地方公共団体が住民に対して寄附金を割り当てて強制的に徴収すること
を禁ずることによつて住民保護を徹底しようとしたもので、両者はその目的を異に
する。もし、被告主張のとおり地財再建法二四条二項が禁じているのが強制的寄附
のみであるとすれば、地方財政法四条の五の規定がありながら更にこれと同じ内容
の規定を特例措置として制定したことを説明することができず、また、地財再建法
二四条二項但書は一定の要件の下に同項本文の制約をはずしているのであるから、
同法は、かえつて地方財政法四条の五の規定が定めている制約を緩和していること
になるが、このような規定が地方財政の窮状を打開するための特例措置として制定
されたと考えることは到底できない。したがつて、被告の前記主張は失当である。
更に、被告は、地財再建法二四条二項の立法理由はもはや消滅していると主張する
が、これも次のとおり失当である。すなわち、実質収支赤字の地方公共団体(いわ
ゆる赤字団体)数と赤字総額につき、昭和三〇年度と昭和五〇年度とを比較する
と、昭和三〇年度は赤字団体数が一五五八、赤字総額が六四二億円であり、昭和五
〇年度は赤字団体数が二六九、赤字総額が二〇三三億円である。これによれば、赤
字団体数は大幅に減少しているが、これは、主として、昭和三〇年当時の赤字団体
がほとんど農村部に集中していたのに対し、昭和五〇年当時のそれは大都市に集中
していることに由来しているのであつて、赤字総額についてみれば、その額は三倍
以上に増加しており、今日における地方財政の危機的状況が昭和三〇年当時の状況
に匹敵することを示している。しかも、地方債に依存する度合いが近年急激に高ま
つてきており、昭和四九年度に平均五・九パーセントであつたものが昭和五三年度
には一一・七パーセントにも達している。これに資金運用部資金からの借入れをも
合わせると、その比率は更に高くなり、昭和五三年度についていえば、その歳入不
足三兆〇五〇〇億円に対処するための地方債と資金運用部からの借入れの合計額は
二兆九〇〇〇億円になることが見込まれている。そのうえ、昭和三〇年当時は、地
方財政とは異なり国家財政に相当の余裕があつたため、国が地方公共団体を援助す
ることが比較的容易であつたが、今日の財政危機は地方公共団体のみにとどまらず
国家財政にまで及んでいる。これらのことを考えるならば、今日の地方財政の状況
は、昭和三〇年当時よりもはるかに深刻なものとなつており、地財再建法を維持す
べき必要性は毫も失われていないというべきである。
4 同4について
被告がいう地財再建法施行令一二条の二第五号に定める「地方公共団体」とは、あ
くまで行政主体としての地方公共団体自体であつて、その住民までも包含するもの
ではない。それ故、仮称西大井駅の新設によつて近隣一部住民の利便が若干増進す
るとしても、そのことから直ちに、右新駅が「もつぱら当該地方公共団体の利用に
供され、又は主として当該地方公共団体を利することとなる施設」に当たることと
なるものではない。近隣住民の右利便は、国鉄に対し所定の対価を支払つてその施
設を利用することから生ずるものにすぎず、これは国鉄の主たる営業活動の一環を
なしているものであつて、国鉄の施設利用権が排除又は制限されることによつて住
民の利用権が設定されるわけではない。したがつて、仮称西大井駅駅舎は、国鉄の
一般的設置基準をこえているか否かを論ずるまでもなく、本件の公金支出は同号に
は該当しないというべきである。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1の事実、同2(一)の事実、同2(二)のうち国鉄が昭和五二年八
月一九日品川区<地名略>地内に仮称西大井駅の設置を決定したことを除くその余
の事実、同2(三)のうち被告又は品川区の事務当局者が品鶴線対策特別委員会に
おいて、品川区が新駅設置費用を直接国鉄に支払うと地財再建法に抵触するおそれ
があるのでトンネル組織として期成同盟を設立しこれに対して公金を支払う形式を
とると説明したことを除くその余の事実、同2(四)の事実、同2(五)のうち基
金条例が昭和五三年三月に制定され、昭和五二年度補正予算において六〇〇〇万円
及び昭和五三年度当初予算において一億円がそれぞれ本件基金に積み立てられた事
実、同2(六)のうち期成同盟がいまだ設立されていない事実、及び同5の事実に
ついては、当事者間に争いがない。
二 そこで、まず、本件の公金支出がなされることが相当の確実さをもつて予測さ
れるか否かについて検討する。
右当事者間に争いのない事実と成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一ないし
三、乙第一号証、第三号証の二、原本の存在と成立に争いのない甲第四ないし第一
二号証、乙第六号証、第七号証の二、第八、第九号証に弁論の全趣旨を合わせる
と、次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。
1 東海道本線と横須賀線は、東京・大船間において同一線路上で運行されている
ところ、このままの状態では運行本数の増加にも限界があり、横浜市以南から都心
等への通勤通学客の増加に見合う輸送力を確保することが困難となつてきたため、
国鉄当局は、右の中距離通勤客等の輸送力増強を目的として、東海道本線と横須賀
線を分離し、横須賀線の客車は品川区内を縦貫する貨物線である品鶴線に乗り入れ
ることを計画し、昭和四四年五月一六日東京都及び品川区に対して同計画を提示し
た。同計画は中距離輸送力の増強をねらつたものであることに加え、品鶴線を使用
すれば迂回により従来よりも長時間を要することになるため、国鉄の当初の方針は
品川区内をノン・ストツプで通過させるというもので、同区内に新駅を設置すると
いう考えは有していなかつた。そこで、もし、かかる計画がそのまま実施に移され
ることになれば、品川区としては何ら得るところがないばかりか、品鶴線に設置さ
れている区内五か所の踏切の閉鎖時間が従来以上に長時間に及び円滑な交通の妨げ
となること及び同線の沿線住民に対して騒音、振動等の鉄道諸公害が生ずることが
予測されたため、品川区は、昭和四六年九月区議会に品鶴線対策特別委員会を設置
して国鉄等に対する折衝活動を開始し、また、品川区<地名略>付近の一部住民に
よつて結成された国鉄品鶴線西大井駅(仮称)建設促進同盟も、同月二七日品川区
議会に対して品川区<地名略>品鶴線原踏切付近に新駅を設置するよう配慮するこ
とを求め、これが容れられない場合には横須賀線の品鶴線への乗入れには反対であ
る旨の請願書を提出した。そして、品川区は、昭和四八年二月国鉄に対して旧三条
件が実現しない限り横須賀線の品鶴線乗入れには反対である旨を申し入れたとこ
ろ、昭和五〇年三月、(1)踏切道五か所は廃止して建国協定に基づき立体交差と
する、(2)品川区の南部に駅舎を設置するが、工事費は全額地元負担とする、
(3)公害排除は、重量レール、ロングレールの採用、道床の改良、枕木の鉄筋コ
ンクリート化、鉄桁の改善、汚水タンク取付等可能な限り努力するとの回答が寄せ
られた。この間、国鉄は、品鶴線に乗り入れる横須賀線用として東京、品川間の地
下軌道設備、新橋地下駅、品川駅新ホーム等の設置工事を進め、品鶴線対策特別委
員会委員らは、国鉄の担当者とともに右品川駅の工事の見学、仮称西大井駅設置予
定場所の視察及び品鶴線試乗を行つた。
2 こうして、横須賀線が品鶴線に乗り入れることは必至となる一方で、前記国鉄
の回答からもわかるように国鉄が旧三条件を全面的に受け入れる見込みは全くな
く、このままでは、住民から強く要望されている仮称西大井駅新設も実現せず、品
川区当局が従前から懸念していた交通の渋滞と鉄道諸公害のみが地元にもたらされ
る情勢となつたため、品川区議会は、次善の策として、昭和五〇年一〇月二日旧三
条件を新駅設置費用の地元負担等を内容とする新三条件に変更する旨議決し、これ
を受けて、被告は、同月三日国鉄東京南鉄道管理局長との間で、(1)国鉄及び品
川区は踏切道五か所の立体交差を推進するものとし、詳細については建国協定に基
づき実施する、(2)国鉄は、品川区南部に新駅を設置するが、駅新設に要する用
地及び工事費は負担しない、(3)国鉄は、軌道及び工作物について改良工事を実
施するとの覚書を交わした。
3 そこで、国鉄は、昭和五二年九月上旬ころ品川区<地名略>地内に仮称西大井
駅を新設することを決定し、同月八日にその旨を公表するとともに、品川区に対し
て、新駅設置に要する工事費はすべて地元負担とし、新駅設置に要する増用地も地
元負担で取得してこれを国鉄に無償で譲渡すること、駅新設に関連する駅前広場の
造成及びそれに通ずる道路の新設改修、道・水路の付替え、給排水設備、その他駅
設置に必要と認められるものについては新駅開業までに品川区において負担施行す
ること等の新駅設置条件を提示して回答を求めてきたので、品川区議会は、同月一
三日、同月三〇日、同年一〇月一一日、同月一七日、同月三一日、同年一一月一一
日の六回にわたり品鶴線対策特別委員会を開催してその対応策について審議をし
た。そのなかで、被告や品川区事務当局者は、国鉄の提示した右新駅設置条件に従
い品川区が新駅設置費用を負担することを基本方針として、その負担額は概算で駅
舎建設費一五億二〇〇〇万円、増用地買収費一億五〇〇〇万円、合計一六億七〇〇
〇万円と見込まれ、これを昭和五二年度から昭和五六年度までの五か年度にわた
り、昭和五二年度に六五〇〇万円(うち五〇〇万円は地元住民からの寄附)、昭和
五三年度に一億〇五〇〇万円(うち五〇〇万円は地元住民からの寄附)、昭和五四
年度に三億円、昭和五五、五六年度に各六億円(うち一億円はいずれも東京都から
の助成)の予算措置を講じて用意する計画であると説明したところ、品川区が新駅
設置費用を負担することの是非をめぐつて議論が行われ、一部委員から(1)現在
の財政事情の下で膨大な費用を支出すれば他の施策にも影響を及ぼすし、財源確保
も困難である、(2)品川区が国鉄に右費用を支出することは地財再建法二四条二
項に違反するなどの意見や質問が出されたが、これに対して、被告又は事務当局者
は、(1)区当局としては新駅設置を区の最重点施策と位置付けており、財政計画
にも万全を期す覚悟であつて、そのため他の施策に多少の支障が生じたとしても重
大な事態には至らないものと考えている、(2)品川区が負担する新駅設置費用に
ついては別に基金条例を定めてこの基金に資金を積み立てる計画であるが、国鉄へ
の工事費の支払を全額一括前納とするか年度別分納とするかは未確定であり、今後
国鉄の東京第一工事局と協議したうえで決定される、(3)しかし、現時点におい
ては、具体的な費用の支払時期等についてまで煮詰まつていなくても、新駅設置費
用を品川区が負担するという基本的態度だけは決定しておくことが必要である、
(4)品川区が新駅設置費用を負担することは地財再建法二四条二項に違反する疑
いがあるので、この疑いを少しでも弱めるために、他の地方公共団体における例に
ならい新駅設置促進期成同盟というような民間の組織を結成し、これをいわゆるト
ンネルとして経由させて品川区の資金を国鉄に支出するという方法をとることを計
画しており、このような方法での公金支出の適否が万一住民監査請求や訴訟で争わ
れることになれば、最終的には裁判所の判断に委ねられるが、これまでには実際に
争いが提起された事例は皆無であるので、本件においても、支出方法に違法の疑い
があるからといつて、地元のためになる新駅の設置を断念するわけにはいかない、
(5)他の地方でこれまで結成された新駅設置促進期成同盟の例では、県代表、関
係市町村代表、商工会議所代表、議員等を構成員とし、地元の地方公共団体が設置
費用の大半を拠出し、その長が会長を勤めているものが多く、品川区の期成同盟は
まだ結成されていないが、早急にその結成作業に着手する予定である旨答弁した。
このような審議を経て、品鶴線対策特別委員会は、昭和五二年一一月一一日国鉄の
前記新駅設置条件を了承する旨の事務当局案を可決し、被告は、これを受けて同月
一五日付で国鉄東京南鉄道管理局長あてに原告ら主張(請求原因2(二))のとお
りの回答を行つた。そして、同年一二月一二日に開催された品川区議会の定例会に
おいて品鶴線対策特別委員会副委員長が右の同委員会における審議経過を報告し
た。
4 品川区当局は、昭和五三年二月に以上の経過の概略を記載した「国鉄品鶴線対
策経過報告会資料」と題する小冊子を作成し、このなかでも駅舎建設費用及び用地
買収費用は現時点で総額一六億七〇〇〇万円と試算され、その一部を民間からの寄
附金によつて調達する計画であり、これらの運営は地元運動団体である期成同盟を
設立して行う予定であると説明しており、併せて新駅の設置に対する区民の理解と
協力を呼びかけている。そして、品川区当局は、右小冊子に基づき同月二七日から
同年三月一日にかけて住民説明会を開催し、前記資金計画を具体化していく方針を
明らかにした。
5 このような過程を経て、昭和五三年三月被告提案に係る基金条例が制定されて
本件基金が設置され、品川区の昭和五二年度補正予算のうちから六〇〇〇万円及び
昭和五三年度当初予算のうちから一億円がそれぞれ区議会の議決を経て本件基金に
積み立てられたが、品川区当局があらかじめ区議会議員に配付した昭和五三年度当
初予算についての説明資料には同年度の重点事業のひとつとして本件基金に積み立
てられた右一億円が掲げられており、その事業内容として「品鶴線駅舎分」と明記
されている。そして更に、本訴提起後に議決された品川区の昭和五四年度当初予算
においても三億円が計上されて、本件基金に積み立てられた。しかし、期成同盟は
まだ設立されていない。
6 一方、国鉄は、昭和五三年一一月二二日、新設を進めている横浜新貨物線を含
む東京・小田原間の線路増設工事が昭和五四年三月には完成し、それに伴つて現在
東京・大船間において同一線路上で運行している東海道本線と横須賀線を昭和五五
年一〇月から分離運転すること、そして、新たな横須賀線の停車駅は、大船、戸
塚、東戸塚(新駅)、保土ケ谷、横浜、新鹿島田(新駅)、西大井(新駅)、品
川、新橋、東京(地下駅)となることを発表し、翌二三日その旨が新聞で報道され
た。これより先、昭和五一年四月ころに右新鹿島田駅が完成しており、昭和五四年
二月には右東戸塚駅の起工式が行われた。
以上認定の事実によれば、現在同一線路上で運行している東海道本線と横須賀線を
分離し、横須賀線の客車を品鶴線に乗り入れ、これに伴い品川区<地名略>地内に
新駅(仮称西大井駅)を設置することは、既に国鉄の確定した方針となつているも
のであり、これに対応して、品川区は六回にわたる品鶴線対策特別委員会の審議を
経て、右新駅の駅舎建設費用はすべて地元で負担し、新駅設置に要する増用地も地
元負担で取得したうえ国鉄に無償譲渡するという国鉄の提案を受け入れることを決
定し、被告名義で国鉄に対しその旨正式回答し、右費用を合計一六億七〇〇〇万円
と見積つたうえ、うち一四億六〇〇〇万円を品川区の公金で負担することとし、こ
れを昭和五二年度から昭和五六年度までの五か年度にわたつて積み立てる計画の下
に、基金条例を制定して本件基金を設け、昭和五二年度ないし昭和五四年度の予算
としてとりあえず四億六〇〇〇万円を計上し、これを本件基金に積み立てたもので
ある。そして、被告は、国鉄との間で具体的な支出時期等が決まり次第、右基金を
期成同盟に支出し、期成同盟の名で国鉄に対し仮称西大井駅の駅舎建設費用を寄附
し、また、期成同盟の名で増用地を取得したうえこれを国鉄に寄附することを計画
しているのであるが、右期成同盟なるものは、その結成のいきさつや予想される構
成及びその資金源等からして、少なくとも国鉄との費用負担の関係においては、実
質上品川区が国鉄に対して本件基金に積み立てた公金を寄附し、あるいはその公金
により取得した増用地を寄附するについて、これが品川区の公金により行われたこ
とを表面化させないようにするための単なるトンネル機関にすぎないものと認める
べきである(右期成同盟が費用負担の関係を除く他の点において地元運動団体とし
ての機能を果たすことがありうるとしても、右に述べた費用負担面での役割が直ち
に変わるわけではない。)。
被告は、期成同盟がまだ設立されてはいないこと及び本件基金の設置目的が新駅設
置費用に充てるためと限定されたものではないことの二点をあげて、被告が品川区
の公金から新駅設置費用を支出することが確実であるとはいえない旨主張する。し
かしながら、前示の認定に照らせば、期成同盟がいまだ設立されていないのは、被
告の右公金支出が将来中止される具体的な可能性があるからではなく、現在まだ新
駅建設工事が開始されるに至つていないため、今のところ期成同盟の名でその費用
を支払う必要がないからにすぎず、その必要が生ずれば被告が中心となつて新駅設
置賛同者を加え短時間のうちに期成同盟を設立して前記のような経費処理をするこ
とが予定されているものと認められるのである。また、本件基金条例がその条文の
文言上「公共施設の建設資金に充てるために本件基金を設置する」との一般的表現
を用いているとしても、前認定の事実の経過に徴するならば、本件基金が専ら仮称
西大井駅新設費用に充てる資金として積み立てられていることは明らかといわなけ
ればならない。
原本の存在と成立に争いのない甲第一三号証によれば、品川区の事務当局者が昭和
五三年三月に開かれた区議会予算特別委員会において、本件基金には特定の目的が
ない旨答弁していることが認められるが、本件の公金支出が地財再建法に抵触する
おそれがあるとの問題点を十分に意識したうえでの答弁であることからすれば、到
底真実を語つたものとはいいがたい。
してみると、品川区の財産の管理処分権者である被告が仮称西大井駅の駅舎建設費
用及び同用地取得費用に充てるために本件基金から品川区の公金を支出すること
は、その支出の具体的な時期や金額が現時点において最終的に確定するまでは至つ
ていないにせよ、単にその可能性が漠然と存在するというにとどまるものではな
く、公金の支出自体については相当程度の客観的、具体的可能性があるものであつ
て、地方自治法二四二条一項にいう「当該行為がなされることが相当の確実さをも
つて予測される場合」に当たるというべきである。
三 次に、本件公金支出の適否について検討する。
1 地方自治法二三二条の二によれば、地方公共団体は、その公益上必要がある場
合においては、寄附又は補助をすることができるものとされているが、地財再建法
二四条二項は、その特則として、「地方公共団体は、当分の間、
国、・・・・・・、日本国有鉄道、・・・・・・に対し、寄附金、法律又は政令の
規定に基かない負担金その他これに類するもの(これに相当する物品等を含む。以
下「寄附金等」という。)を支出してはならない。」と規定し、ただ「地方公共団
体がその施設を国又は公社等に移管しようとする場合その他やむを得ないと認めら
れる政令で定める場合における国又は公社等と当該地方公共団体との協議に基いて
支出する寄附金等で、あらかじめ自治大臣の承認を得たものについては、この限り
でない。」としている。この地財再建法の規定は、従来から地方財政法四条の五
(昭和二七年法律第一四七号による追加)によつて国の地方公共団体からの強制的
な寄附金の徴収が禁止されてはいたが、同条が禁止しているのは、専ら国の側にお
いて強制的に寄附金等を徴収することにとどまり、地方公共団体の側から国に対し
て任意自発的な寄附をすることまでも規制の対象とするものではないため、かかる
規定があるにもかかわらず、国等がその優越的な地位を背景にして、本来自己の負
担すべき経費につき自発的寄附という名目で地方公共団体にその負担を転嫁した
り、あるいは地方公共団体の側においても、国等の機関や施設等を誘致するために
国等の負担すべき経費を自ら進んで拠出したりするといつた事例が後を断たず、こ
れを放置するときは、国等と地方公共団体との間の経費負担区分をみだし、地方財
政秩序を混乱させるおそれがあるので、あえて地方自治法の原則を修正し、このよ
うな地方公共団体の国等に対する自発的寄附又は任意負担をも原則として禁止する
ことによつて、右の弊害を防止し、地方財政の健全化を図る一方、右寄附等を一律
に禁止することが公益上又は社会通念上かえつて不合理な結果をきたすことがない
よう一定の場合には事前に自治大臣の承認を得たうえで寄附等をなしうることとし
たものであると解される。もつとも、右規制は、法文上「当分の間」と定められて
おり、その立法当時は将来廃止又は変更されることが予想されていたものと認めら
れるが、現実に廃止又は変更の措置がとられていない以上、なお法規としての効力
を失うものでないことは当然である。
してみると、地財再建法二四条二項は、地方公共団体の国等に対する寄附金等につ
いて、同項但書に当たる場合を除き、強制的なものであると仕意的なものであると
を問わず、また、それが当該地方公共団体にとつて必要ないし利益であると否とに
かかわりなく、すべてこれを禁止しているものというべきである。地方公共団体が
寄附金等を支出する直接の相手方が形式的には国等ではなく、何らかの経由組織を
通じて間接的に支出する場合であつても、その経由組織の実態等に照らし実質的に
みて国等に対して直接支出する場合と同一で、ひつきよう法の禁止を潜り抜けるた
めの手段にすぎないと認められるような場合も、同項に定める規制の対象となるも
のと解するのが相当である。
被告は、地方公共団体の財政自主権を制約する地財再建法の右規制は今日の実情に
適合しなくなつており、これに抵触する事例が現実に多数存在していると主張する
が、右規制が合理的根拠を失うに至つているとみるべき資料は存しないから、単に
行政施策上国等に対する寄附金等が必要であるとか、他に違反事例が少なくないと
かの理由によつて右規制の適用を殊更に限定し又は緩和すべきいわれはない。
2 本件についてみると、前記二で認定したとおり、被告は、仮称西大井駅の設置
費用に充てるため、品川区の公金を本件基金に積み立ててこれを期成同盟に支出
し、期成同盟から駅舎建設費用及び同用地を国鉄に寄附させようとしているが、か
かる経理処理面に関する限り、その実態は、品川区が国鉄に対して品川区の公金を
寄附し、あるいはその公金により取得した用地を寄附するについて地財再建法の前
記規定を潜脱するためのトンネル機関として期成同盟を経由させることとしたにす
ぎないものである。すなわち、本件の場合、実質的にみれば、品川区が直接国鉄に
対してその公金を寄附し、あるいはその公金により取得した用地を寄附する場合と
何ら異なるところはないのであり、かかる寄附がまさに地財再建法二四条二項によ
つて禁止されていることは明らかである。そうすると、本件における新駅設置自体
の当否はともかく、その費用に充てるために品川区が本件のような方法によつて行
う公金の支出社、同項本文に違反するものであるといわざるをえない。
3 被告は、本件の公金支出は地財再建法二四条二項但書に基づく同法施行令一二
条の二第五号に掲げる場合に当たるから違法ではないと主張する。しかし、同法二
四条二項但書は、その要件として、同法施行令所定の場合につきあらかじめ自治大
臣の承認を得ることを必要としているのであり、右承認は同項本文の規制を免れる
ための効力要件をなすものと解されるところ、本件公金の支出について自治大臣の
承認手続を経ていないことは被告の自認するところである。前述のように、同項
は、寄附金等の一律禁止による不合理な結果を避けるために但書の特例を設けて妥
当な調和を図つているのであるから、右但書に定められている承認を求める手続す
ら履践することなく支出の適法性を主張することは、もとより失当というべきであ
る。
4 以上によれば、現在までの経過を前提とする限り、国鉄が品川区内に設置を予
定している仮称西大井駅の駅舎建設費用及び同用地取得費用に充てるため品川区の
公金を支出することは、期成同盟を経由すると否とにかかわらず、地財再建法二四
条二項に違反し違法なものというほかない。
四 ところで、被告が品川区の財産の管理処分権者として本来支出すべからざる右
違法な公金の支出をすれば、品川区に同額の損害を生ずることはいうまでもないと
ころ、その金額が現時点における被告の試算においてさえ一四億六〇〇〇万円と見
込まれており、将来現実に支出する段階になれば、物価の騰貴等にあわせて右の金
額が若干なりとも増加することはありえても減少することはないと推定されるか
ら、支出される金額がこのように巨額であることにかんがみると、本件においては
右支出により品川区に「回復の困難な損害を生ずるおそれがある」というべきであ
る。
五 以上の次第で、右公金支出の差止めを求める原告らの本訴請求は理由があるか
らこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を
適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤 繁 泉 徳治 菊池洋一)

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