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平成18年(行ケ)第10336号審決取消請求事件
平成19年3月28日判決言渡,平成19年3月14日口頭弁論終結
判決
原告株式会社御池鐵工所
訴訟代理人弁理士伊藤晃
同石井久夫
同言上惠一
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人前田幸雄
同豊原邦雄
同高木彰
同大場義則
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−19310号事件について平成18年6月5日にし
た審決を取り消す。
第2当事者間に争いがない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成13年6月11日,発明の名称を「廃棄物の固形化押出し装
置」とする発明について特許出願(特願2001−175469号,以下「本
件出願」という。)をしたが,平成16年8月13日(発送日)に拒絶の査定
を受けたので,同年9月16日,拒絶査定不服の審判請求をし,不服2004
−19310号事件として特許庁に係属した。原告は,同年10月7日,願書
に添付した明細書につき特許請求の範囲等の補正(以下「本件補正」とい
う。)をした。特許庁は,同事件について審理した結果,平成18年6月5日,
本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,
同月20日にその謄本を原告に送達した。
2特許請求の範囲の発明の要旨
()本件補正前の明細書(甲4,11)の特許請求の範囲の請求項1に係る発1
明(以下「本件発明」という。)の要旨
【請求項1】廃棄物を投入する投入口から固形化物の排出口に亘ってほぼ
同じ断面形状を有する中空部を貫通したケーシングと,ケーシングの該中空
部に配設して投入口より装入した廃棄物を圧密化して排出口へ送る押出しス
クリューと,ケーシングの排出口に連接して固形化物に押出し成形する成形
手段と,から成り,
押出しスクリューが,回転軸としてケーシング内に貫通する多角形状横断
面の内側回動軸と,異なる軸径毎に別体に区分されて該内側回動軸の周りに
嵌合して連接された区分螺旋軸及び各区分螺旋軸の周囲に一体に形成した螺
旋羽根から成る投入口直下の第1の区分螺線部材と排出口側にわたる第2の
区分螺旋部材と,から構成され,
第2の区分螺旋部材が第1の螺線部材に連接される中間部と,中間部に連
接された終端部とに分割され,終端部が排出口側終端を閉じた終端壁を有し,
該終端壁が内側回動軸の排出口側端面にねじ止め固定され,
排出口側の第2の螺旋部材の螺旋軸の軸径が,投入口側にある第1の区分
螺旋部材の螺旋軸の軸径より大きくされて,且つ,第2の区分螺線部材の螺
旋羽根は第1の区分螺旋部材の螺旋羽根より螺旋ピッチが小さくされ且つそ
の螺旋ピッチが排出口側に向かって徐々に小さくされていることを特徴とす
る廃棄物の固形化押出し装置。
()本件補正に係る明細書(甲4,11,12,以下「本件明細書」とい2
う。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」とい
い,特許請求の範囲請求項1を,単に「特許請求の範囲」という。)の要旨
【請求項1】廃棄物を投入する投入口から固形化物の排出口に亘ってほぼ
同じ断面形状を有する中空部を貫通したケーシングと,ケーシングの該中空
部に配設して投入口より装入した廃棄物を圧密化して排出口へ送る押出しス
クリューと,ケーシングの排出口に連接して固形化物に押出し成形する成形
手段と,から成り,
押出しスクリューが,回転軸としてケーシング内に貫通する多角形状横断
面の内側回動軸と,異なる軸径毎に別体に区分されて該内側回動軸の周りに
嵌合して連接された区分螺旋軸及び各区分螺旋軸の周囲に一体に形成した螺
旋羽根から成る投入口直下の第1の区分螺旋部材と排出口側にわたる第2の
区分螺旋部材と,から構成され,
第2の区分螺旋部材が第1の螺旋部材に連接される中間部と,中間部に連
接された終端部とに分割され,終端部が排出口側終端を閉じた終端壁を有し,
該終端壁が内側回動軸の排出口側端面にねじ止め固定され,
排出口側の第2の螺旋部材の螺旋軸の軸径が,投入口側にある第1の区分
螺旋部材の螺旋軸の軸径より大きくされて,且つ,第2の区分螺旋部材の螺
旋羽根は第1の区分螺旋部材の螺旋羽根より螺旋ピッチが小さくされ且つそ
の螺旋ピッチが排出口側に向かって徐々に小さくされている廃棄物の固形化
押出し装置において,
上記第1の区分螺旋部材及び第2の区分螺旋部材の螺旋羽根は,全体でほ
ぼ3ターンからほぼ2ターンの範囲で形成されており,また
上記多角形状横断面の内側回動軸の周りに嵌合して連接された少なくとも
第2の区分螺旋軸の中間部及び終端部には嵌合面にグリースを注入する注入
部が形成されていることを特徴する廃棄物の固形化押出し装置。
(下線部が本件補正に係る箇所)
3審決の理由
()審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件補正発明は,特開平6−41
67号公報(以下「引用例1」という。),特開平11−342497号公
報(以下「引用例2」という。),特開平11−254193号公報(以下
「引用例3」という。)に記載された各発明(以下,順に「引用発明1」な
いし「引用発明3」という。)及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものと認められるので,特許法29条2項の規定
により特許出願の際独立して特許を受けることができず,本件補正は,特許
法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合しない
から,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定
により却下すべきものであるとした上,本件発明は,本件補正発明と同様に,
引用発明1ないし3及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受ける
ことができないものであるとした。
()審決が認定した引用発明1の要旨2
廃棄プラスチックを投入する投入口9から押出ダイス11に設けた減容プ
ラスチックの排出口10に亘ってほぼ同じ断面形状を有する中空部を貫通し
たケーシング2と,ケーシング2の該中空部に配設して投入口9より装入し
た廃棄プラスチックを圧密化して排出口10へ送るスクリュー5と,から成
り,棒状の減容プラスチックを排出する減容機において,スクリュー5が,
回転軸としてケーシング内に貫通する多角形状横断面の回動軸4と,該回動
軸4の周りに嵌合された羽根部3から成る投入口直下の第1の部分と排出口
側にわたる第2の部分と,から構成され,排出口側の第2の部分の軸径が,
投入口側にある第1の部分の軸径より大きくされている廃棄プラスチックの
減容機。
()審決が本件補正発明と引用発明1とを対比して認定した一致点及び相違点3
は,それぞれ次のとおりである(審決謄本8頁最終段落ないし9頁下から第
2段落)。
(一致点)
「廃棄物を投入する投入口から固形化物の排出口に亘ってほぼ同じ断面形
状を有する中空部を貫通したケーシングと,ケーシングの該中空部に配設し
て投入口より装入した廃棄物を圧密化して排出口へ送る押出しスクリューと,
ケーシングの排出口に連接して固形化物に押出し成形する成形手段と,から
成り,押出しスクリューが,回転軸としてケーシング内に貫通する多角形状
横断面の内側回動軸と,該内側回動軸の周りに嵌合された螺旋軸及び螺旋軸
の周囲に一体に形成した螺旋羽根から成る投入口直下の第1の螺旋部と排出
口側にわたる第2の螺旋部と,から構成され,排出口側の第2の螺旋部の螺
旋軸の軸径が,投入口側にある第1の螺旋部の螺旋軸の軸径より大きくされ
ている廃棄物の固形化押出し装置。」
(相違点1)
「押出しスクリューが,本件補正発明では,異なる軸径毎に別体に区分さ
れて内側回動軸の周りに嵌合して連接された区分螺旋軸及び各区分螺旋軸の
周囲に一体に形成した螺旋羽根から成る投入口直下の第1の区分螺旋部材と
排出口側にわたる第2の区分螺旋部材と,から構成され,第2の区分螺旋部
材が第1の螺旋部材に連接される中間部と,中間部に連接された終端部とに
分割され,終端部が排出口側終端を閉じた終端壁を有し,該終端壁が内側回
動軸の排出口側端面にねじ止め固定されており,上記第1の区分螺旋部材及
び第2の区分螺旋部材の螺旋羽根は,全体でほぼ3ターンからほぼ2ターン
の範囲で形成されているのに対して,引用発明(注,引用発明1)では,回
動軸4の周りに嵌合された羽根部3から成る投入口直下の第1の部分と排出
口側にわたる第2の部分から構成されているものの,異なる軸径毎に別体に
区分され,第2の部分がさらに中間部と終端部とに分割されたものとはされ
ておらず,また,螺旋羽根が全体でほぼ3ターンからほぼ2ターンの範囲で
形成されているともされていない点。」
(相違点2)
「本件補正発明では,第2の区分螺旋部材の螺旋羽根は第1の区分螺旋部
材の螺旋羽根より螺旋ピッチが小さくされ且つその螺旋ピッチが排出口側に
向かって徐々に小さくされているのに対して,引用発明では,そのように特
定されていない点。」
(相違点3)
「本件補正発明では,多角形状横断面の内側回動軸の周りに嵌合して連接
された少なくとも第2の区分螺旋軸の中間部及び終端部には嵌合面にグリー
スを注入する注入部が形成されているのに対して,引用発明では,そのよう
に特定されていない点。」
第3原告主張の審決取消事由
審決は,本件補正発明と引用発明1との相違点を看過し(取消事由1),相
違点1及び2についての判断を誤り(取消事由2,3),その結果,本件補正
発明が進歩性を欠くとの誤った結論を導いたものであって,違法であるから,
取り消されるべきである。
1取消事由1(相違点の看過)
()審決は,「本件補正発明と引用発明(注,引用発明1)とを対比すると,1
引用発明における『廃棄プラスチック』は,本件補正発明における『廃棄
物』に相当し,以下同様に,『減容プラスチック』は『固形化物』に・・・
相当する。・・・さらに,引用発明における『廃棄プラスチックの減容機』
は,廃棄物の固形化押出し装置と表現することができる」(審決謄本8頁第
4段落ないし下から第3段落)と認定したが,誤りである。
()本件明細書には,「装入された廃棄物中のプラスチック片は,ケーシング2
内で軟化し又は溶融し,・・・圧縮され,流動状態の廃棄物WPは・・・多
孔板の115のノズル孔116から棒状固形燃料として押し出されて成形し
ていた。」(段落【0005】),「特に,廃棄物には,可燃性の廃材,例
えば,プラスチックや紙,布を含んだ廃棄物,シュレッダーダストや量販店
からの多量の可燃性ゴミを集めて,利用すれば,固形化物は,固形燃料とし
て,利用することができる。」(段落【0010】),「プラスチックなど
の廃棄物の圧縮が強まり」(段落【0032】),「ケーシング内で加熱加
圧されてできた廃棄物の(中の)流動物,例えば,プラスチック融液は,ノ
ズル35を通して柱状ないし棒状に押出される。」(段落【0035】)と
の記載があり,これらの記載によると,「廃棄物」の語は,「廃棄プラスチ
ック」の語と区別して用いられているから,引用発明1における「廃棄プラ
スチック」が本件補正発明の「廃棄物」に相当するとした審決の認定は誤り
である。
()本件明細書の「本発明は,特に,廃棄物として,プラスチック屑,紙屑,3
木屑,布屑を含む一般の都市・家庭廃棄物及び産業廃棄物から固形燃料に押
出し成形するための固形燃料装置に関する。」(段落【0001】)との記
載から明らかなとおり,本件補正発明の「廃棄物」は,プラスチック屑のよ
うな溶融物と,紙屑,木屑,布屑のような非溶融物とからなる。ところで,
一般に,上記のような溶融物と非溶融物とからなる廃棄物から形成される固
形化物は,廃棄物固形燃料又はゴミ固形燃料として広く知られているところ
であり(甲5ないし7参照),この社会常識を参酌すると,本件補正発明に
おける「固形化物」は,廃棄物固形燃料又はゴミ固形燃料を意味するもので
ある。
一方,引用例1には,「移動する廃棄プラスチックは,羽根部3,3によ
る前記剪断時の発熱及び羽根部3,3とケーシング2内壁間の摩擦熱と,ヒ
ータ12・・・及びヒータ14,14による加熱で温度が上昇し,かつ羽根
部3,3で加圧される。このように温度が上昇した状態で加圧された廃棄プ
ラスチックは半溶解状態となって減容され,排出エルボ10a・・・から棒
状となって排出される。」(段落【0008】),「廃棄プラスチックは,
半溶解状態となって減容され,・・・棒状で排出される。」(段落【001
5】)と記載されており,引用発明1の「廃棄プラスチック」は,ケーシン
グの中で半溶融状態となって減容され,「減容プラスチック」として排出さ
れるのであるから,「減容プラスチック」は,プラスチックのみから構成さ
れるものであって,廃棄物固形燃料又はゴミ固形燃料を意味する「固形化
物」よりなる本件補正発明の「廃棄物」とは異なるものである。
()本件補正発明において,固形燃料となる廃棄物は,非溶融物を含む圧縮物4
を押し出すのであるから,廃棄物の組成にもよるが,押出圧力は非常に大き
いものとなり,押出ノズルとしては,直状ノズルが多孔配設された頑強なノ
ズル盤が使用されるのであって,このような配慮の不要な,押出し前にケー
シング内で最終的に半溶融状態となり,減容化される引用発明1の「減容プ
ラスチック」とでは著しい差異がみられる。例えば,廃棄プラスチック60
wt.%,紙屑(古紙)30wt.%及び木屑(廃木材)10wt.%の組
成の廃棄物を直径40mmの固形化物に押出すに必要な押出圧力は,一般に
200kg/cm以上に設計される(甲8参照)のに対し,溶融した廃棄2
プラスチックを押し出すには10∼20kgcm以下の圧力で十分である。/2
このように,溶融したプラスチックの押出装置である引用発明1の「廃棄プ
ラスチックの減容機」と,本件補正発明の「廃棄物の固形化押出し装置」と
は,押出圧力が大きく異なるから,引用発明1の「廃棄プラスチックの減容
機」を,本件補正発明の「廃棄物の固形化押出し装置」に使用することはで
きず,引用発明1の「廃棄プラスチックの減容機」を,本件補正発明の「廃
棄物の固形化押出し装置」と同視することができない。
()本件明細書の発明の詳細な説明には,「本発明は,・・・破砕,混練,溶5
融,圧密化の能力を備え,・・・特に固形燃料を製造する装置を提供するも
のである。」(段落【0007】),「このように本発明の装置は,・・・
廃棄物の溶融と緻密化が促進され,さらに,成形手段での押出し成形を確実
にすることができる。」(段落【0009】),「本発明の廃棄物の固形化
押出し装置は,廃棄物の減容,圧密化のために使用することができ,・・・
特に,廃棄物には,可燃性の廃材,例えば,プラスチックや紙,布を含んだ
廃棄物・・・を利用すれば,固形化物は,固形燃料として,利用することが
できる。」(段落【0010】),「上流側から廃棄物Wが大量に送り込ま
れるので,圧力が極めて大きくなり,圧密化が促進されることになる」(段
落【0032】),「【発明の効果】本発明の固形燃料製造装置においては
・・・軸径を大きくした軸部で廃棄物を圧縮することができ,廃棄物間での
摩擦力を高めて,溶融緻密化とその後の押出し成形を促進することができ
る。」(段落【0038】)との記載があるから,本件補正発明の「廃棄物
の固形化押出し装置」は,圧密化の工程を必須とするものである。すなわち,
本件補正発明の「廃棄物」は,溶融物と非溶融物が混練されてなり,溶融物
であるプラスチック屑は溶融するが,混練されている非溶融物については,
溶融物とともに圧密化して押出成形する必要があるのである。これに対して,
「廃棄プラスチック」は,溶融して減容化するのみであるから,溶融後に圧
密化の工程を必要としない。
また,引用発明1の「廃棄プラスチックの減容機」は,プラスチックをケ
ーシング内混練時に溶融させる熱源を必須とし,ノズルは湾曲しているのに
対し,本件補正発明の「廃棄物の固形化装置」では,ケーシング内に熱源は
なく,圧密化した圧縮物が多孔板30配設の直状ノズル33内に押し込まれ
固形化される。
したがって,本件補正発明の「廃棄物の固形化押出し装置」は,圧密化工
程を必須とするから,圧密化工程を必要としない引用発明1の「廃棄プラス
チックの減容機」と圧密化工程を必須とする本件補正発明の「廃棄物の固形
化押出し装置」とは同一視することができない。
()以上によれば,引用発明1の「廃棄プラスチック」,「減容プラスチッ6
ク」,「廃棄プラスチックの減容機」が,本件補正発明の「廃棄物」,「固
形化物」,「廃棄物の固形化押出し装置」と相違することを看過した審決の
認定は誤りであって,結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,審決は,
取り消されるべきである。
2取消事由2(相違点1についての認定判断の誤り)
()審決は,相違点1について,「引用発明(注,引用発明1)及び刊行物21
に記載された発明(注,引用発明2)は,いずれもスクリューを用いて廃棄
物を圧縮,固化する装置として共通するものである。そして,上記の螺旋部
材(注,「各区分螺旋軸の周囲に一体に形成した螺旋羽根から成る区分螺旋
部材」)をどのように区分又は分割するかは,押出しスクリューの軸径・軸
長等に応じて当業者が適宜設定できる事項にすぎない」(審決謄本10頁第
3段落)と判断したが,誤りであるから,この判断を前提として,「引用発
明において刊行物2に記載された発明を適用し,内側回動軸の周りに嵌合し
て連接された螺旋部材について投入口直下の第1の部分と排出口側にわたる
第2の部分とを別体に区分して第1の区分螺旋部材と第2の区分螺旋部材と
することに格別困難性は見出せず,第2の部分をさらに中間部と終端部とに
分割し,終端部が排出口側終端を閉じた終端壁を有するものとすることにも
困難性は見当たらない。」(同)とした判断も誤りである。
()すなわち,引用発明2は,スクリューを用いて圧縮,固化する装置として2
本件補正発明と共通するものであっても,引用発明1においては,「廃棄プ
ラスチック」を原料とするから,溶融,減容化をするものであって,圧縮
(圧密),固化の工程はないのに対し,引用発明2で用いる廃棄物は,溶融
物であるプラスチックと古紙,木材等の非溶融物とからなり,圧縮後,溶融
プラスチックをバインダーとして両者を併せて固化させ,固形燃料化するも
のである。したがって,引用発明1と引用発明2とは,似て非なるプロセス
であるから,共通の技術課題を有するものではなく,これを組み合わせるこ
とが容易であるとするのは,誤りである。
審決は,前記1()のとおり,引用発明1の「廃棄プラスチック」,「減5
容プラスチック」,「廃棄プラスチックの減容機」が,本件補正発明の「廃
棄物」,「固形化物」,「廃棄物の固形化押出し装置」と相違することを看
過したが,相違点1の検討においても,「引用発明及び刊行物2に記載され
た発明は,いずれもスクリューを用いて廃棄物を圧縮,固化する装置として
共通するものである。」(審決謄本10頁第3段落)とするのみで,引用発
明1の「廃棄プラスチック」と引用発明2の「廃棄物」とが相違することを
見誤り,相違点1に係る本件補正発明の構成についての進歩性判断を誤った
ものである。
()また,審決は,「押出しスクリューの螺旋羽根を全体で何ターンにするか3
についても,装置の規模や要求される圧縮度等に応じて当業者が適宜設定す
べき設計的事項にすぎない。」(審決謄本10頁下から第4段落)と判断し
たが,誤りである。
本件補正発明,引用発明2のような非溶融物を含む廃棄物に係る押出し装
置は,単に廃棄プラスチックを溶融,減容化する場合に比べ,大きな押出圧
力を必要とする。ところで,非溶融物を含む廃棄物の圧縮固形化を図るに当
たって,押し出しスクリューの螺旋羽根が,引用発明2では6ターンとなっ
ており,本件明細書の図7に示された従来例においても5ないし6ターンと
なっているのであって,本件出願時,非溶融物を含む廃棄物の固形化には,
押し出しスクリューの螺旋羽根を全体で5ないし6ターンとするのが常識で
あったものである。
ところが,本件補正発明は,上記の技術常識に反し,押し出しスクリュー
の螺旋羽根3ないし2ターンという少ない数としたことによって,駆動モー
タ1kW当たりの処理能力を向上させた。このような処理能力の向上を勘案
すると,本件補正発明の進歩性が否定される理由はない。
()したがって,相違点1についての審決の進歩性の認定判断は誤っているか4
ら,取り消されるべきである。
3取消事由3(相違点2についての認定判断の誤り)
()審決は,相違点2について,「引用発明(注,引用発明1)及び刊行物31
に記載された発明(注,引用発明3)は,いずれもスクリューを用いて廃棄
物を圧縮,固化する装置として共通するものであるから,引用発明に刊行物
3に記載された発明を適用することにより,排出口側にわたる第2の部分の
螺旋羽根を第1の部分より螺旋ピッチが小さくし,且つその螺旋ピッチを排
出口側に向かって徐々に小さくするように設定することに格別の困難性は見
出せない。」(審決謄本10頁最終段落)と判断したが,誤りである。
()すなわち,本件出願時,引用発明3のような,非溶融物を含む廃棄物を粉2
砕,圧縮固化させることを主工程とする装置においては,廃棄プラスチック
のみを溶融,減容化させる引用発明1のような装置の場合に比して,圧縮を
徐々に行う必要があり,そのため,螺旋ピッチを増加させる必要があり,し
かも,押出時に螺旋羽根とノズルの間に空隙が生じないようにするのが技術
常識であったものであり(引用例2の段落【0007】参照),引用発明3
においては,廃棄物を粉砕,圧縮固化させることを主工程とするものである
から,廃棄プラスチックのように溶融減容化させる引用発明1に比して,圧
縮を徐々に行う必要があり,螺旋ピッチを増加させる必要がある。したがっ
て,引用発明3は,引用発明1とは,技術課題が異なっており,前者を後者
に適用することは,困難である。
()結局,審決は,前記1()のとおり,引用発明1の「廃棄プラスチック」,35
「減容プラスチック」,「廃棄プラスチックの減容機」が,本件補正発明の
「廃棄物」,「固形化物」,「廃棄物の固形化押出し装置」と相違すること
を看過したが,相違点2の検討においても,「引用発明及び刊行物2に記載
された発明は,いずれもスクリューを用いて廃棄物を圧縮,固化する装置と
して共通するものである」(審決謄本10頁第3段落)とするのみで,引用
発明1の「廃棄プラスチック」と引用発明3の「産業廃棄物」とが相違する
ことを見誤り,相違点2に係る本件補正発明の構成についての進歩性判断を
誤ったものである。
したがって,相違点2についての審決の進歩性の認定判断は誤っているか
ら,取り消されるべきである。
第4被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(相違点の看過)について
()原告は,「廃棄物」の語は,「廃棄プラスチック」の語と区別して用いら1
れているから,引用発明1における「廃棄プラスチック」が本件補正発明の
「廃棄物」に相当するとした審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし,一般に,「廃棄プラスチック」は,上位概念としての「廃棄物」
に含まれるものであり,引用発明1の「廃棄プラスチック」は,「廃棄物」
ということができる。そして,本件明細書の請求項1には,「廃棄物」とし
か記載されていないから,廃棄プラスチックのみの廃棄物を排除していると
はいえず,その他,本件補正発明の「廃棄物」が非溶融物を含む廃棄物に限
定されると解すべき特段の理由もない。
()原告は,「減容プラスチック」は,プラスチックのみから構成されるもの2
であって,廃棄物固形燃料又はゴミ固形燃料を意味する「固形化物」よりな
る本件補正発明の「廃棄物」とは異なる旨主張する。
しかし,本件明細書の特許請求の範囲には,「固形化物」としか記載され
ておらず,この本件補正発明にいう「固形化物」が,廃棄物固形燃料又はゴ
ミ固形燃料に限定されると解すべき特段の理由はない。
また,原告主張のとおり,引用例1には,「廃棄プラスチックは,半溶解
状態となって減容され,・・・棒状で排出される。」(段落【0015】)
との記載があるが,他方,「棒状の減容廃棄プラスチックが所定の長さに揃
うので」(段落【0018】)との記載もあるのである。そして,本件明細
書には,「廃棄物の流動物,例えば,プラスチック融液は,・・・柱状ない
し棒状に押出される」(段落【0035】)と記載され,引用発明1と同様
に棒状のものを排出しているから,引用発明1の減容機から排出される「減
容プラスチック」も,本件明細書の「固形化物」といい得るものである。
()原告は,本件補正発明において,固形燃料となる廃棄物は,非溶融物を含3
む圧縮物を押し出すのであるから,押出圧力は非常に大きいものとなり,押
出ノズルとしては,直状ノズルが多孔配設された頑強なノズル盤が使用され
るのであって,このような配慮の不要な引用発明1の「減容プラスチック」
とでは著しい差異がみられ,引用発明1の「廃棄プラスチックの減容機」を,
本件補正発明の「廃棄物の固形化押出し装置」と同視することができない旨
主張する。
しかし,本件補正発明に係る廃棄物の固形化押出し装置において,非溶融
物を含む圧縮物を押し出すことにより押し出し圧力が非常に大きなものとな
ること,及び,押出ノズルが直状であることは,本件明細書の特許請求の範
囲に記載されていない事項であるから,引用発明1の「廃棄プラスチックの
減容機」を本件補正発明の「廃棄物の固形化押出し装置」と同視できない理
由にはならない。
2取消事由2(相違点1についての認定判断の誤り)について
引用例2(甲2)の段落【0001】に記載されているとおり,引用発明2
は,各種プラスチック等の廃棄物を減容化して排出したり,非溶融物等と混合
し固形化,減容化して排出する2軸押出機に関するものであり,螺旋羽根を有
する2本の回転軸の回転駆動により投入された廃棄物を圧縮して排出するもの
であるから,引用発明2においても,引用発明1における「廃棄プラスチッ
ク」及び「減容プラスチック」が,それぞれ「廃棄物」及び「固形化物」に当
たるものであり,引用発明2は,スクリューを用いて廃棄物を圧縮,固化する
装置として引用発明1と共通するということができる。
したがって,相違点1について,「引用発明(注,引用発明1)に刊行物2
に記載された発明(注,引用発明2)を適用し上記相違点1に係る本件補正発
明の特定事項とすることは当業者が容易になし得たことである」(審決謄本1
0頁第5段落)とした審決の判断に誤りはない。
3取消事由3(相違点2についての認定判断の誤り)について
引用発明3は,螺旋羽根を有する回転軸の回転駆動により投入された廃棄物
を圧縮して排出するものであるから,引用発明1における「廃棄プラスチッ
ク」及び「減容プラスチック」が,それぞれ,引用発明3の「廃棄物」及び
「固形化物」に当たるものであり,引用発明3は,スクリューを用いて廃棄物
を圧縮,固化する装置として引用発明1と共通するということができる。
したがって,相違点2について,引用発明1に引用発明3を適用し相違点2
に係る本件補正発明の特定事項とすることが当業者が容易にし得たことである
とした審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(相違点の看過)について
()審決は,「本件補正発明と引用発明(注,引用発明1)とを対比すると,1
引用発明における『廃棄プラスチック』は,本件補正発明における『廃棄
物』に相当し,以下同様に,『減容プラスチック』は『固形化物』に・・・
相当する。・・・さらに,引用発明における『廃棄プラスチックの減容機』
は,廃棄物の固形化押出し装置と表現することができる」(審決謄本8頁第
4段落ないし下から第3段落)と認定したのに対して,原告は,これを争う
ので,検討する。
()本件補正発明の「廃棄物」が引用発明1の「廃棄プラスチック」に相当す2
るか否かについて
ア一般的な用語例に従うと,「廃棄物」は,「不用として廃棄されるも
の」(広辞苑第五版),「不用なものとして廃棄された物。事業活動によ
り生じたものを産業廃棄物といい,それ以外のものを一般廃棄物という。
他に放射性廃棄物などがある。」(大辞林第三版)を意味するものという
ことができる。また,廃棄物の処理及び清掃に関する法律2条1項によれ
ば,「廃棄物」とは,「ごみ,粗大ごみ,燃え殻,汚泥,ふん尿,廃油,
廃酸,廃アルカリ,動物の死体その他の汚物又は不要物であつて,固形状
又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)」
をいうものと規定されている。
本件明細書の特許請求の範囲をみると,「廃棄物を圧密化して排出口へ
送る」,「廃棄物の固形化押出し装置」などといった記載があるが,「圧
密化」,「固形化押出し」は,「廃棄物」に対して実施される作業のこと
であるから,「廃棄物」の意味を限定するものとはいえない。
イ念のため,本件明細書の発明の詳細な説明をみると,「廃棄物」につい
ての定義あるいは格別に限定を加えた記載はないが,例えば,「【発明の
属する技術分野】この発明は,溶融圧密化の可能な廃棄物を押出し成形す
るための廃棄物の押出し成形装置に関する。本発明は,特に,廃棄物とし
て,プラスチック屑,紙屑,木屑,布屑を含む一般の都市・家庭廃棄物及
び産業廃棄物から固形燃料に押出し成形するための固形燃料製造装置に関
する。」(段落【0001】),「本発明の廃棄物の固形化押出し装置は,
廃棄物の減容,圧密化のために使用することができ,また,固形燃料の製
造装置としても,利用できる。特に,廃棄物には,可燃性の廃材,例えば,
ブラスチックや紙,布を含んだ廃棄物,シュレッダーダストや量販店から
の多量の可燃性ゴミを集めて,利用すれば,固形化物は,固形燃料として,
利用することができる。」(段落【0010】)との記載がある。
本件明細書の上記記載によると,本件補正発明の「廃棄物」とは,「溶
融圧密化の可能な廃棄物」,「プラスチック屑,紙屑,木屑,布屑を含む
一般の都市・家庭廃棄物及び産業廃棄物」,「可燃性の廃材,例えば,ブ
ラスチックや紙,布を含んだ廃棄物,シュレッダーダストや量販店からの
多量の可燃性ゴミ」を含むものであって,可燃性で溶融圧密化が可能であ
ればどのような廃棄物でもよいとしているものと認められる。そして,
「可燃性の廃材,例えば,ブラスチックや紙,布を含んだ廃棄物,シュレ
ッダーダストや量販店からの多量の可燃性ゴミ」を含むとの記載のとおり,
可燃性の非溶融物の種類,内容,容量については何らの限定もしておらず,
溶融物と非溶融物との比率等にも言及していない。
むしろ,「プラスチック屑,紙屑,木屑,布屑を含む一般の都市・家庭
廃棄物及び産業廃棄物」,「可燃性の廃材,例えば,ブラスチックや紙,
布を含んだ廃棄物,シュレッダーダストや量販店からの多量の可燃性ゴ
ミ」とは,家庭,企業等から出る「ゴミ」であるから,種々雑多な廃材が
無秩序に混在することを予定しているものであって,溶融物と非溶融物と
が混在する部分もあれば,溶融物と非溶融物とが分離して存在する部分も
あり得る以上,そもそも,可燃性の非溶融物の種類,内容,容量について
は,これを限定することも,溶融物と非溶融物との比率等に言及すること
もできないものというべきである。
したがって,非溶融物が含まれておらず,溶融物であるプラスチック屑
のみの場合も,本件補正発明にいう「廃棄物」に当たると解するのが相当
である。
ウ原告は,本件明細書において,「廃棄物」の語は,「廃棄プラスチッ
ク」の語と区別して用いられているから,引用発明1における「廃棄プラ
スチック」が本件補正発明の「廃棄物」に相当するとした審決の認定は誤
りである旨主張する。
しかし,上記認定のとおり,本件補正発明の「廃棄物」は,「廃棄プラ
スチック」をも含む上位概念の語と解すべきところ,上位概念の「廃棄
物」と,下位概念の「廃棄プラスチック」を区別して用いているからとい
って,審決の上記認定を誤りとすることはできない。引用発明1における
「廃棄プラスチック」が本件補正発明の「廃棄物」に相当するとは,「廃
棄物」と「廃棄プラスチック」とが完全に一致していることまで意味する
ものではない。
したがって,原告の上記主張は,失当である。
()本件補正発明の「廃棄物の固形化押出し装置」が引用発明1の「廃棄プラ3
スチックの減容機」に相当するか否かについて
ア原告は,本件補正発明の「廃棄物の固形化押出し装置」は,圧密化工程
を必須とするから,圧密化工程を必要としない引用発明1の「廃棄プラス
チックの減容機」と圧密化工程を必須とする本件補正発明の「廃棄物の固
形化押出し装置」とは同一視することができない旨主張する。
イ本件明細書の特許請求の範囲には,「ケーシングの該中空部に配設して
投入口より装入した廃棄物を圧密化して排出口へ送る押出しスクリュー」
との記載がある。「圧密」とは,一般的な用語例に従うと,「土や地盤に
圧力が加わって体積が減少すること。」(大辞林第三版)といった意味を
有するものとされているところ,本件補正発明にいう「圧密化」も,圧力
が加えられ,体積が減少することを意味するものと推察されるが,その技
術的意義については,必ずしも明確とはいえない。
そこで,本件明細書の発明の詳細な説明を検討すると,次の記載がある。
(ア)「【発明の属する技術分野】この発明は,溶融圧密化の可能な廃棄物
を押出し成形するための廃棄物の押出し成形装置に関する。本発明は,
特に,廃棄物として,プラスチック屑,紙屑,木屑,布屑を含む一般の
都市・家庭廃棄物及び産業廃棄物から固形燃料に押出し成形するための
固形燃料製造装置に関する。」(段落【0001】)
(イ)「本発明は,このような従来装置の問題点に鑑み,構造が簡単で小型
化可能で,しかも,従来とほぼ同等ないしそれ以上の破砕,混練,溶融,
圧密化の能力を備え,製造した固形物が保形性に優れた廃棄物固形化の
ための押出し装置,特に,固形燃料を製造する装置を提供するものであ
る。また,本発明は,構造を簡素化して,保守点検を容易にした固形化
押出し装置を提供することを目的としている。」(段落【0007】)
(ウ)「このように本発明の装置は,特に,ケーシングの中空部を廃棄物を
投入する投入口から固形化物の排出口に亘ってほぼ同じ断面形状にする
ことができ,押出しスクリューの回転軸の軸径を排出口側で少なくとも
1段階大きくしているから,前後に渡りほぼ同じ横断面の中空部を有す
るケーシングの中空部では軸径が大きくした部分で廃棄物の圧縮が強ま
り,廃棄物粒子間で摩擦が高まり,廃棄物の溶融と緻密化が促進され,
さらに,成形手段での押出し成形を確実にすることができる。そして,
ケーシング中空部には,その内面に絞り部(例えば,従来の内壁絞り
部)を設けずに,断面形状を中空軸方向に一定にするので,ケーシング
からの螺旋軸の取外しや再装着が容易にでき,製造装置の保守,点検,
修理などの作業が格段に容易になる。」(段落【0009】)
(エ)「本発明の廃棄物の固形化押出し装置は,廃棄物の減容,圧密化のた
めに使用することができ,また,固形燃料の製造装置としても,利用で
きる。特に,廃棄物には,可燃性の廃材,例えば,ブラスチックや紙,
布を含んだ廃棄物,シュレッダーダストや量販店からの多量の可燃性ゴ
ミを集めて,利用すれば,固形化物は,固形燃料として,利用すること
ができる。」(段落【0010】)
(オ)「【実施例】以下の実施例では,廃棄物の固形化押出し装置を固形燃
料製造装置に適用する例を示すが,その装置1の概要を図6に示し,そ
の詳細の断面図を図1と図2に示している。この装置において,ケーシ
ング11内には,一端部に廃棄物W,例えば,プラスチック屑や,紙屑,
木屑等,を投入する投入口11aを設け,他端部の排出口11bには,
成形手段30を連接してある。ケーシング11の中空部12には,2軸
の押出しスクリュー2を配置している。押出しスクリュー2の螺旋羽根
20により,投入された廃棄物Wを,中空部12に長手方向に沿って搬
送しながら破砕,混練,圧縮を行い,その間の発熱によってバインダー
成分を溶融する。溶融したプラスチックは,ケーシング11の他端部に
設けた成形手段により,一定の形状に成形し,冷却する。この例は,成
形手段として,押出し成形ノズル35を設けた多孔板30を配置して,
溶融物を押出し成形ノズルから押し出して,棒状に固形化するもので,
この固形物を固形燃料Fとして利用する。」(段落【0021】及び
【0022】)
(カ)「これにより,投入口側から排出口側にわたり同じ断面大きさの中空
部12を有するケーシング11内では,軸径が大きくされた区分螺旋軸
23a,27aによってプラスチックなどの廃棄物の圧縮が強まり,廃
棄物相互にで摩擦が高まり,溶融が促進されることになる。この際,第
1螺旋部材22,26の螺旋羽根22b,26bの大きな螺旋ピッチに
よって上流側から廃棄物Wが大量に送り込まれるので,圧力が極めて大
きくなり,圧密化が促進されることになる。」(段落【0032】)
ウ上記の「この発明は,溶融圧密化の可能な廃棄物を押出し成形するため
の廃棄物の押出し成形装置に関する。」(上記イ(ア)),「従来とほぼ同
等ないしそれ以上の破砕,混練,溶融,圧密化の能力を備え」(上記イ
(イ)),「本発明の廃棄物の固形化押出し装置は,廃棄物の減容,圧密化
のために使用することができ」(上記イ(エ))との記載によれば,「圧密
化」は,「溶融」,「減容」とは区別して用いられていることが認められ
る。
そして,「投入された廃棄物Wを,中空部12に長手方向に沿って搬送
しながら破砕,混練,圧縮を行い,その間の発熱によってバインダー成分
を溶融する。溶融したプラスチックは,ケーシング11の他端部に設けた
成形手段により,一定の形状に成形し,冷却する。・・・溶融物を押出し
成形ノズルから押し出して,棒状に固形化する」(上記イ(オ)),「ケー
シング11内では,軸径が大きくされた区分螺旋軸23a,27aによっ
てプラスチックなどの廃棄物の圧縮が強まり,廃棄物相互にで摩擦が高ま
り,溶融が促進されることになる。この際・・・大きな螺旋ピッチによっ
て上流側から廃棄物Wが大量に送り込まれるので,圧力が極めて大きくな
り,圧密化が促進されることになる。」(上記イ(カ))の記載によると,
本件補正発明の実施例では,プラスチック屑や,紙屑,木屑等を,ケーシ
ング11の中空部12において,「破砕」し,「混練」し,「圧縮」し,
その間の発熱によってバインダー成分すなわちプラスチック成分を「溶
融」することが示されているが,「破砕,混練,圧縮」の間の発熱によっ
てバインダー成分,すなわち,プラスチック成分を溶融するというのであ
り,「溶融」と「圧縮」とが重なる時期において,両者の競合,すなわち,
固体と流動化したプラスチック成分とが混ざり,これに圧力が加えられる
ことによって,当然に密度が高まることが予想され,このように圧縮力に
より廃棄物を緻密化することを「圧密化」と称しているものと認められる。
なお,「ケーシング11内には,一端部に廃棄物W,例えば,プラスチ
ック屑や,紙屑,木屑等,を投入する投入口11aを設け」(上記イ
(オ)),「ケーシング11内では,軸径が大きくされた区分螺旋軸23a,
27aによってプラスチックなどの廃棄物の圧縮が強まり」(上記イ
(カ))との記載によれば,プラスチック屑も圧縮されることは,明らかで
あり,そのプラスチックが溶融すれば,プラスチックのみの場合において
も「圧密化」が生ずるものというべきである。
エ一方,引用例1には,次の記載がある。
(ア)「【産業上の利用分野】過去においては,使用済みのプラスチック製
品は,焼却すると高温を発し焼却炉を傷めるので主に埋め立て投棄によ
ってゴミ処理をしていた。しかし,多様な形状のプラスチック製品をそ
のまま埋め立てると場所をとり,埋め立て用地の確保が困難となるため,
近年,減容機により減容した所謂減容プラスチックにしてから埋め立て
るという処理方法が広まってきた。また将来的には,この減容プラスチ
ックを燃料として再利用する可能性も出てきている。本発明は,このよ
うな減容機に係り,特に,投入口と押出ダイスを備えたケーシング内に
回転するスクリューを配置し,前記投入口に投入した廃棄プラスチック
を前記スクリューによって前記押出ダイスに向け順次移動しかつ圧縮し
た減容プラスチックを,該押出ダイスに設けた排出口から棒状で排出さ
せるように成したものに関する。」(段落【0001】∼【000
2】)
(イ)「移動する廃棄プラスチックは,羽根部3,3による前記剪断時の発
熱及び羽根部3,3とケーシング2内壁間の摩擦熱と,ヒータ12・・
・及びヒータ14,14による加熱で温度が上昇し,かつ羽根部3,3
で加圧される。このように温度が上昇した状態で加圧された廃棄プラス
チックは半溶解状態となって減容され,排出エルボ10a・・・から棒
状となって排出される。」(段落【0008】)
(ウ)「前記実施例の減容機を駆動するには,駆動モーター16の駆動,ヒ
ーター12・・・及びヒーター14,14の電源を入れてから,所定の
大きさ以下に裁断した廃棄プラスチックをホッパー9aに投入する。投
入された廃棄プラスチックは,投入口9から互いに対向方向に回転する
両スクリュー5,5間に落下し,該スクリュー5,5の羽根部3,3に
より剪断されながら押出ダイス11に向かって移動する。移動する廃棄
プラスチックは,ヒーター12・・・及びヒーター14,14による加
熱と,羽根部3,3の前記剪断時の発熱及び羽根部3,3とケーシング
2内壁間の摩擦熱で温度が上昇する一方,羽根部3,3によって押出ダ
イス11間で圧縮,加圧される。そして,このように温度が上昇した状
態で加圧された廃棄プラスチックは,半溶解状態となって減容され,前
記排出エルボ10a,10a,10aから棒状で排出される。なお,排
出時の廃棄プラスチックの溶解程度を上げたい時には,ケーシング2内
の押出ダイス近傍の圧力を上げればよい。即ち,前記排出エルボ10a,
10a,10aを内径の小さいものに代え排出に対する抵抗を大きくす
る。」(段落【0015】)
オ引用例1の上記記載によると,ケーシング2内において,廃棄プラスチ
ックを,スクリュー5,5の羽根部3,3により「剪断」し,ヒーター,
上記剪断時の発熱及び摩擦熱によってにより「加熱」し,「圧縮,加圧」
し,「半溶解状態となって減容」し,「棒状で排出」するものであるから,
本件補正発明の「廃棄物の固形化押出し装置」に相当するものが開示され
ており,また,本件補正発明の場合と同様に,「圧密化」の工程,すなわ
ち,「圧縮」を含んだ「溶融」,「減容」の工程が存在するものというべ
きである。
そうすると,引用発明1の「廃棄プラスチックの減容機」が本件補正発
明の「廃棄物の固形化押出し装置」に相当することが明らかであり,引用
発明1には「圧密化」の工程がないとし,これを前提に,圧密化工程を必
要としない引用発明1の「廃棄プラスチックの減容機」と圧密化工程を必
須とする本件補正発明の「廃棄物の固形化押出し装置」とは同一視するこ
とができないとする原告の主張は,採用することができない。
カ原告は,引用発明1の廃棄プラスチックの減容機は,プラスチックをケ
ーシング内混練時に溶融させる熱源を必須とし,ノズルは湾曲しているの
に対し,本件補正発明の廃棄物の固形化装置では,ケーシング内に熱源は
なく,圧密化した圧縮物が多孔板30配設の直状ノズル33内に押し込ま
れ固形化されるものであるとして,本件補正発明の「廃棄物の固形化押出
し装置」と引用発明1の「廃棄プラスチックの減容機」の相違を主張する。
しかし,本件補正発明の特許請求の範囲においては,熱源について何ら
触れられていないから,本件補正発明の要旨とは関係のない事項である。
しかも,上記のとおり,本件補正発明においては,ケーシング内で,廃棄
物の破砕,混練,圧縮に伴う発熱によってプラスチック成分を溶融してい
るのに対し,引用発明1においては,ケーシング内で,スクリューの羽根
部による剪断に伴う摩擦熱とヒーターの発熱によって廃棄プラスチックを
溶融しているのであるから,ケーシング内の熱源の有無によって,本件補
正発明の「廃棄物の固形化押出し装置」と引用発明1の「廃棄プラスチッ
クの減容機」の共通性を左右するものとはいえない。また,ノズルの湾曲
についても,単なる設計事項にすぎないものであるから,本件補正発明の
「廃棄物の固形化押出し装置」と引用発明1の「廃棄プラスチックの減容
機」の共通性を左右するものとはいえない。
また,原告は,本件補正発明において,固形燃料となる廃棄物は,非溶
融物を含む圧縮物を押し出すのであるから,押出圧力は非常に大きいもの
となり,押出ノズルとしては,直状ノズルが多孔配設された頑強なノズル
盤が使用されるのであって,このような配慮の不要な引用発明1の「減容
プラスチック」とでは著しい差異がみられ,引用発明1の「廃棄プラスチ
ックの減容機」を,本件補正発明の「廃棄物の固形化押出し装置」と同視
することができない旨主張する。
しかし,本件補正発明においては,押出圧力が大きいことについては,
特許請求の範囲に何ら記載がないばかりでなく,原告は,本件補正発明の
「廃棄物」が,常に,溶融物であるプラスチック屑及び非溶融物である紙,
布等を含んでいることを前提としているが,その前提が誤りであることは,
前記()のとおりである。しかも,「廃棄物」中の溶解物の量が多ければ2
押出圧力は少なくて済み,非溶解物の量が多ければ押出圧力は多くなると
いうだけの設計的な問題であって,「押出圧力」の程度が,本件補正発明
の「廃棄物の固形化押出し装置」と引用発明1の「廃棄プラスチックの減
容機」の共通性を左右するものとはいえないことは,明らかである。
したがって,原告の上記主張は,いずれも,失当というほかない。
()本件補正発明の「固形化物」が引用発明1の「減容プラスチック」に相当4
するか否かについて
ア引用例1の前記()エ(イ)の「このように温度が上昇した状態で加圧され3
た廃棄プラスチックは,半溶解状態となって減容され,前記排出エルボ1
0a・・・から棒状となって排出される。」との記載から,引用発明1の
「減容プラスチック」は,「棒状で排出」されるから,それが固体である
ことは明らかであり,本件補正発明の「固形化物」に相当するものである。
イ原告は,本件明細書の「本発明は,特に,廃棄物として,プラスチック
屑,紙屑,木屑,布屑を含む一般の都市・家庭廃棄物及び産業廃棄物から
固形燃料に押出し成形するための固形燃料装置に関する。」(段落【00
01】)との記載から明らかなように,本件補正発明の「廃棄物」は,プ
ラスチック屑のような溶融物と,紙屑,木屑,布屑のような非溶融物とか
らなるものであり,社会常識を参酌すると,本件補正発明における「固形
化物」は,廃棄物固形燃料又はゴミ固形燃料を意味する旨主張する。
しかし,本件補正発明が,「固形化物」を構成要素としているものであ
ることは,前記第2の2()のとおりであり,仮に,本件明細書の記載上,2
本件補正発明の「固形化物」が,廃棄物固形燃料又はゴミ固形燃料に使用
されることを目的としているとしても,特許請求の範囲においては,「廃
棄物固形燃料又はゴミ固形燃料」とは記載されておらず,「廃棄物固形燃
料又はゴミ固形燃料」をも包含する上記概念である「固形化物」とされて
いるのであるから,本件補正発明における「固形化物」は,あくまでも,
上記概念の「固形化物」である。
したがって,原告の上記主張は,失当であり,引用発明1の「減容プラ
スチック」が,本件補正発明の「固形化物」に相当するとした審決の認定
に誤りはない。
ちなみに,引用例1には,「このように構成した変形例においては,棒
状の減容プラスチックが所定の長さに揃うので,以後のゴミ処理が行い易
いだけでなく,この減容廃棄プラスチックを燃料化する際,長さが揃って
いるので燃料用の成形加工を省略できるという利点がある。」(段落【0
018】)との記載があることから明らかなとおり,引用発明1の「減容
プラスチック」を燃料として使用することが記載されており,使途におい
ても,本件補正発明と引用発明1とは変わりがない。
()以上のとおりであるから,引用発明1の「廃棄プラスチック」,「減容プ5
ラスチック」,「廃棄プラスチックの減容機」が,本件補正発明の「廃棄
物」,「固形化物」,「廃棄物の固形化押出し装置」と相違することを看過
したとする原告主張の取消事由1は,理由がない。
2取消事由2(相違点1についての認定判断の誤り)について
()審決は,相違点1について,「引用発明(注,引用発明1)及び刊行物21
に記載された発明(注,引用発明2)は,いずれもスクリューを用いて廃棄
物を圧縮,固化する装置として共通するものである。そして,上記の螺旋部
材(注,「各区分螺旋軸の周囲に一体に形成した螺旋羽根から成る区分螺旋
部材」)をどのように区分又は分割するかは,押出しスクリューの軸径・軸
長等に応じて当業者が適宜設定できる事項にすぎない」とし,これを理由に,
「引用発明において刊行物2に記載された発明を適用し,内側回動軸の周り
に嵌合して連接された螺旋部材について投入口直下の第1の部分と排出口側
にわたる第2の部分とを別体に区分して第1の区分螺旋部材と第2の区分螺
旋部材とすることに格別困難性は見出せず,第2の部分をさらに中間部と終
端部とに分割し,終端部が排出口側終端を閉じた終端壁を有するものとする
ことにも困難性は見当たらない。」(審決謄本10頁第3段落)と判断し
たのに対し,原告は,これを争うので,検討する。
()引用例2に,「押出しスクリューが,別体に区分されて内側回動軸の周り2
に嵌合して連接された区分螺旋軸及び各区分螺旋軸の周囲に一体に形成した
螺旋羽根から成る区分螺旋部材から構成され,前記区分螺旋部材に連接され
る終端部が終端壁を有し,該終端壁が内側回動軸の排出口側端面にねじ止め
固定されること。」(同頁第2段落)との技術(引用発明2)が記載されて
いることは,当事者間に争いがない。
そうすると,引用発明1に引用発明2の上記構成を組み合わせることがで
きれば,相違点1に係る本件補正発明の構成となることが明らかである。
()上記組合せが容易かどうかを検討するに当たって,まず,引用例2(甲3
2)を検討すると,次の記載がある。
ア「【発明の属する技術分野】この発明は,各種プラスチック等の廃棄物
を混練圧縮(減容化)し高密度物として排出したり,又は各種プラスチッ
ク等の廃棄物を混練圧縮,加熱(自己発熱や外部加熱)して,熱可塑性処
理物を軟化,溶融させて非溶融物(木くず,紙くずその他)等と混合し固
形化,減容化して排出する2軸押出機に関するものである。」(段落【0
001】)
イ「【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために,この発明
は,まず,排出ノズルを有する端板(排出用金型)付近(スクリューの終
端付近)の処理物の押し出し圧を高めるようにしたのである。押し出し圧
が高まれば,排出ノズルからの処理物の排出効率は高くなるとともに,排
出される処理物の圧縮率も向上する。その押し出し圧の向上は,スクリュ
ー羽根の終端端面をスクリュー羽根半径方向全長に亘って端板に接しさせ
ること,等により得ることができる。スクリュー羽根の終端端面が端面に
接すれば,上記隙間sの存在がなくなり,そのスクリュー羽根の回転によ
り押圧力が働くとともに,そのスクリュー羽根の終端端面と端板との間で
摩砕作用が行われる。」(段落【0007】)
ウ「端板5には胴体3の各円を中心とする内外2つの円周上に多数個の貫
通孔13が設けられている。胴体3の内面には長さ方向及び上下方向とも
複数に分割され,耐摩耗性を有する分割形胴体ライナー(内張材)15が
コッタ16により取付けられている。胴体ライナー15内には1対の回転
軸17,18が互いに平行に,かつ対向する方向に回転可能に設けられて
いる。この回転軸17,18は胴体ライナー15内部分の断面が六角形で
あり,その外面にそれぞれ6枚の分割形送りスクリュー20・・・が互い
に噛み合うように嵌挿固定されている。そして各送りスクリュー20はそ
の羽根20aが連続した螺旋状となるように組み付けられる。回転軸17,
18はこの例では断面六角形としたが,円形としてこれに送りスクリュー
20をキー等で連結してもよい。また,送りスクリュー20を6枚に分割
したが,分割数は任意であり,一体ものの1本の送りスクリューを回転軸
17,18に嵌挿固定するようにしてもよい。」(段落【0017】)
エ「次に,この実施例の作用を説明する。処理物aが供給口4から送りス
クリュー20の供給ゾーンへ投下されると,処理物aはまず平面からみて
互いに内側となる対向方向に回転する回転軸17,18上の送りスクリュ
ー20により粗砕される。粗砕後,さらに送りスクリュー20により端板
5側へ移送され,この間に回転軸17,18の回転力により混練圧縮,破
砕されながら摩砕板28に押し付けられると共に排出ノズル33から順次
排出される。また,フラット部25bにより,前記圧縮された処理物aが
確実に排出ノズル33に押し込まれると共に摩砕板28との間ですり潰さ
れて細かくされる。」(段落【0022】)
()引用例2の上記記載によると,引用発明2は,溶融物である各種プラスチ4
ック等の廃棄物,又は,溶融物である各種プラスチック等の廃棄物と非溶融
物(木くず,紙くずその他)等を固形化あるいは減容化することを目的とし,
その機能,作用として,供給ゾーンにおいて,送りスクリューにより粗砕さ
れ,回転軸の回転力により混練圧縮,破砕されながら摩砕板28に押し付け
られてすり潰され,排出ノズル33から順次排出されるというのであり,一
方,引用発明1は,前記1()オに認定したとおりの装置であるから,「引3
用発明(注,引用発明1)及び刊行物2に記載された発明(注,引用発明
2)は,いずれもスクリューを用いて廃棄物を圧縮,固化する装置として共
通するものである。」(審決謄本10頁第3段落)ということができ,その
原料となる廃棄物は,引用発明1においては,廃棄プラスチックであるのに
対して,引用発明2においては,「廃棄物」として,溶融物である「各種プ
ラスチック等の廃棄物」,又は,溶融物である「各種プラスチック等の廃棄
物」と非溶融物である「紙屑,木屑等」を含むものであって,前者は,後者
に包摂される関係にある。
そして,上記の「回転軸17,18はこの例では断面六角形としたが,円
形としてこれに送りスクリュー20をキー等で連結してもよい。また,送り
スクリュー20を6枚に分割したが,分割数は任意であり,一体ものの1本
の送りスクリューを回転軸17,18に嵌挿固定するようにしてもよい。」
(上記()ウ)の記載によると,回転軸をどのように区分するか分割するか3
は,当業者において,適宜設定し得る設計事項というべきである。
そうすると,引用発明1と引用発明2は,技術分野を共通にするのみなら
ず,具体的な技術においても共通しているものであり,両発明は,ともに,
スクリューを用いて廃棄物を圧縮,固化する装置として技術課題を共通して
おり,しかも,その組合せは,日常的にされる設計変更の範囲内の事柄であ
るのに対し,引用発明1に引用発明2を適用することを妨げる格別の事情を
見いだすことができないから,引用発明1に引用発明2を適用し,相違点1
に係る「異なる軸径毎に別体に区分されて内側回動軸の周りに嵌合して連接
された区分螺旋軸及び各区分螺旋軸の周囲に一体に形成した螺旋羽根から成
る投入口直下の第1の区分螺旋部材と排出口側にわたる第2の区分螺旋部材
と,から構成され,第2の区分螺旋部材が第1の螺旋部材に連接される中間
部と,中間部に連接された終端部とに分割され,終端部が排出口側終端を閉
じた終端壁を有し,該終端壁が内側回動軸の排出口側端面にねじ止め固定さ
れ」るという本件補正発明の構成とすることは,当業者において,容易に想
到できるものであると認められる。
()原告は,引用発明2は,本件補正発明と同様,廃棄物の圧縮固形燃料化に5
使用できるものであり,引用発明1のように廃棄プラスチックのみの溶融減
容化を図るものと同じではなく,技術課題が異なるから,引用発明1に引用
発明2を適用することが容易ではない旨主張する。
しかし,上記のとおり,引用発明1と引用発明2とは,原料とする「廃棄
プラスチック」ないし「廃棄物」においても共通しているものである。また,
前記1()のとおり,引用発明1の「減容プラスチック」も燃料としての使4
途を有するものであって,引用発明1と引用発明2とは変わりがない。
したがって,廃棄物として非溶融物を含むかどうかを根拠に,技術課題が
異なるから引用発明1に引用発明2を適用することが容易でないとする原告
の主張は,採用することができない。
また,原告は,審決が,相違点1の検討において,「引用発明及び刊行物
2に記載された発明はいずれもスクリューを用いて廃棄物を圧縮,固化する
装置として共通するものである。」(審決謄本10頁第3段落)とするのみ
で,引用発明1の「廃棄プラスチック」と引用発明2の「廃棄物」とが相違
することを見誤り,相違点1に係る本件補正発明の構成についての進歩性判
断を誤った旨主張するが,引用発明1の「廃棄プラスチック」と引用発明2
の「廃棄物」とが一致することは,引用発明1の「廃棄プラスチック」と本
件補正発明の「廃棄物」の対比の場合と同様であるから,原告の上記主張は,
失当である。
そうすると,「引用発明において刊行物2に記載された発明を適用し,内
側回動軸の周りに嵌合して連接された螺旋部材について投入口直下の第1の
部分と排出口側にわたる第2の部分とを別体に区分して第1の区分螺旋部材
と第2の区分螺旋部材とすることに格別困難性は見出せず,第2の部分をさ
らに中間部と終端部とに分割し,終端部が排出口側終端を閉じた終端壁を有
するものとすることにも困難性は見当たらない。」(審決謄本10頁第3段
落)とした審決の判断に誤りはない。
()次に,押出しスクリューの螺旋羽根を全体で何ターンにするかについてみ6
ると,本件明細書の特許請求の範囲には,「全体でほぼ3ターンからほぼ2
ターンの範囲にする」との記載があって,一種の数値限定の形をとっている
ところ,発明の詳細な説明をみても,上記数値に関する何らの記載も示唆も
見いだすことができず,本件明細書の図2に図示されている押出しスクリュ
ーの螺旋羽根の数を数えると「全体でほぼ3ターンからほぼ2ターンの範
囲」であることがようやく理解することができるのみである。
したがって,本件補正発明の,「全体でほぼ3ターンからほぼ2ターンの
範囲にする」との記載については,格別な技術的意義を見いだすことができ
ない。
一方,引用例2には,前記()ウのとおり,「この回転軸17,18は胴3
体ライナー15内部分の断面が六角形であり,その外面にそれぞれ6枚の分
割形送りスクリュー20・・・が互いに噛み合うように嵌挿固定されている。
そして各送りスクリュー20はその羽根20aが連続した螺旋状となるよう
に組み付けられる。・・・送りスクリュー20を6枚に分割したが,分割数
は任意であり,一体ものの1本の送りスクリューを回転軸17,18に嵌挿
固定するようにしてもよい。」(段落【0017】)との記載があるから,
押し出しスクリューの螺旋羽根の枚数は,適宜選択し得る設計事項であるこ
とが認められる。
原告は,押し出しスクリューの螺旋羽根が,引用発明2では6ターンとな
っており,本件明細書の図7に示された従来例においても5ないし6ターン
となっているのであって,本件出願時,非溶融物を含む廃棄物の固形化には,
押し出しスクリューの螺旋羽根を全体で5ないし6ターンとするのが常識で
あったものであるとし,本件補正発明は,その技術常識に反し,3ないし2
ターンに少なくする構造的改造をしたことによって,駆動モータ1kW当た
りの処理能力を向上させたものであるから,押出しスクリューの螺旋羽根を
全体で何ターンにするかは当業者が適宜設定しうべき設計的事項ではない旨
主張する。
しかし,引用発明2おける押し出しスクリューの螺旋羽根が任意の枚数で
よいことは,上記のとおりであり,また,本件明細書の図7に示された従来
例においても,数えてみれば5ないし6ターンとなっているというのみであ
って,そのことに格別の技術的意義を見いだすことができず,原告の上記主
張は,その前提において失当である。
そうすると,「押出しスクリューの螺旋羽根を全体で何ターンにするかに
ついても,装置の規模や要求される圧縮度等に応じて当業者が適宜設定すべ
き設計的事項にすぎない。」(審決謄本10頁下から第4段落)とした審決
の判断に誤りはない。
()以上のとおり,原告の取消事由3の主張は採用することができない。7
3取消事由3(相違点2についての認定判断の誤り)について
()審決は,相違点2について,「引用発明(注,引用発明1)及び刊行物31
に記載された発明(注,引用発明3)は,いずれもスクリューを用いて廃棄
物を圧縮,固化する装置として共通するものであるから,引用発明に刊行物
3に記載された発明を適用することにより,排出口側にわたる第2の部分の
螺旋羽根を第1の部分より螺旋ピッチが小さくし,且つその螺旋ピッチを排
出口側に向かって徐々に小さくするように設定することに格別の困難性は見
出せない。」(審決謄本10頁最終段落)と判断したのに対し,原告は,こ
れを争うので,検討する。
()引用例3に,「産業廃棄物固化処理装置において,駆動軸に固設したスク2
リュー羽根を,出口側に向うに連れて,そのピッチを徐々に短くして固形物
の圧縮率を高めることが」(審決謄本10頁下から第2段落)との技術(引
用発明3)が記載されていることは,当事者間に争いがない。
そうすると,引用発明1に引用発明3の上記構成を組み合わせることがで
きれば,相違点1に係る本件補正発明の構成となることが明らかである。
()上記組合せが容易かどうかを検討するに当たって,まず,引用例3(甲3
3)を検討すると,次の記載がある。
ア「【発明の属する技術分野】本発明は,産業廃棄物を構造簡易にして容
易に固化できる産業廃棄物固化処理装置に関する。」(段落【000
1】)
イ「本実施形態に係る産業廃棄物固化処理装置は,一側に入口1を,端部
に蓋2で塞いだ出口3を備えた横長筒状のケーシング(搬送路)4内に,
駆動軸5に固設したスクリュー羽根6を収容する構成になっている。ケー
シング4は,入口1から出口3に向って開口径を同一口径にするとともに,
その軸方向に沿って,例えば3分割できる分割タイプになっている。分割
タイプに構成したケーシング4は,図2に示すように,横断中心軸xを境
に上半ケーシング4aと下半ケーシング4bとに区分けし,パッキング7
を介装させてフランジ8a,8b間をボルト9a,9bで締結し,分割で
きる構成になっている。」(段落【0016】ないし【0017】)
ウ「一方,分割タイプに構成したケーシング4に収容する駆動軸5は,図
1に示すように,一方にシール11および軸受12を軸装させて駆動部1
3に接続するとともに,他方にスクリュー羽根6を固設させ,固形物の出
口3側に向って長く延びている。また,駆動軸5に固設したスクリュー羽
根6は,出口3側に向うに連れて,そのピッチP,P,Pを徐々に短123
くして固形物の圧縮率を高め,固形物を確実に固化できるようになってい
る。」(段落【0019】)
エ「本実施形態に係る産業廃棄物固化処理装置は,駆動軸5に固設したス
クリュー羽根6を収容するケーシング4の開口径D,Dのうち,出口312
の開口径Dを,入口1の開口径Dに較べて相対的に大きくしたものであ21
る。また,入口1から出口3に向ってケーシング4の開口径の拡開に伴っ
て,駆動軸5の口径も拡口径にするとともに,駆動軸5に固設するスクリ
ュー羽根6のピッチP,P,Pを入口1から出口3に向うに連れ短く123
している。」(段落【0028】)
()引用例3の上記記載によると,引用発明3は,産業廃棄物固化処理装置に4
おいて,スクリューを用いて廃棄物を圧縮,固化する装置であって,引用発
明1と共通する技術課題を有するものであるところ,引用発明3の「駆動軸
に固設したスクリュー羽根を,出口側に向うに連れて,そのピッチを徐々に
短くして固形物の圧縮率を高める」という技術は,産業廃棄物固化処理装置
において特殊化された技術というものではなく,一般的に,固形物の圧縮率
を高め,固形物を確実に固化するための技術であることが,その技術内容か
らも明らかである。一方,引用発明1は,前記1()オに認定したとおりの3
装置であるから,「引用発明(注,引用発明1)及び刊行物3に記載された
発明(注,引用発明3)は,いずれもスクリューを用いて廃棄物を圧縮,固
化する装置として共通するものである」(審決謄本10頁最終段落)という
ことができ,その原料となる廃棄物は,引用発明1においては,廃棄プラス
チックであるのに対して,引用発明3においては,「産業廃棄物」であって,
前者は,後者に包摂される関係にある。
そして,上記の「駆動軸5に固設したスクリュー羽根6は,出口3側に向
うに連れて,そのピッチP,P,Pを徐々に短くして固形物の圧縮率を123
高め,固形物を確実に固化できるようになっている。」(前記()ウ)の記3
載のとおり,固形物の圧縮率を高め,固形物を確実に固化できるようにする
という技術課題は,スクリューを用いて廃棄物を圧縮,固化する装置におい
て,当然に考慮すべき基本的な技術課題の一つである。
そうすると,引用発明1と引用発明3は,技術分野を共通にするのみなら
ず,具体的な技術においても共通しているものであり,しかも,両発明は,
固形物の圧縮率を高め,固形物を確実に固化できるようにするという基本的
な技術課題を共有しているのに対し,引用発明1に引用発明3を適用するこ
とを妨げる格別の事情を見いだすことができないから,引用発明1に引用発
明3を適用し,相違点2に係る「第2の区分螺旋部材の螺旋羽根は第1の区
分螺旋部材の螺旋羽根より螺旋ピッチが小さくされ且つその螺旋ピッチが排
出口側に向かって徐々に小さくされている」という本件補正発明の構成とす
ることは,当業者において,容易に想到できるものであると認められる。
()原告は,引用発明3においては,廃棄プラスチックのように溶融減容化さ5
せる引用発明1に比して,圧縮を徐々に行う必要があり,螺旋ピッチを増加
させる必要があるから,引用発明1とは,技術課題が異なっており,前者を
後者に適用することは困難である旨主張する。
しかし,上記のとおり,引用発明1と引用発明3とは,原料とする「廃棄
プラスチック」ないし「産業廃棄物」においても共通しているものであるか
ら,両者の原料が異なるとの理由で,技術課題が異なるから引用発明1に引
用発明3を適用することが容易でないとする原告の主張は,採用することが
できない。
また,原告は,本件補正発明は,引用発明2,3に比べると,螺旋ピッチ
を減少させて,全体でほぼ3ターンからほぼ2ターンの範囲にするとともに,
審決の看過した上記相違点に係る構成を加え,そして,摩耗が激しくなるこ
とを考慮して,排出口側の第2区分(圧密化工程)の螺旋部材を投入口側に
ある第1区分(粉砕工程)の螺旋部材と別体とし,特に摩耗の激しい第2区
分の螺旋部材の取り替えを可能としたものである旨主張する。
しかし,本件補正発明の,「全体でほぼ3ターンからほぼ2ターンの範囲
にする」との記載については,格別な技術的意義を見いだすことができない
ことは,前記2()のとおりである。また,上記のとおり,引用発明1ない6
し3は,共通の技術分野で,しかも,いずれも,スクリューを用いて廃棄物
を圧縮,固化する装置であって,概括的ではあるが技術内容までも共通にす
るものであって,本件補正発明は,このような事情の下で,公知となってい
る技術的要素の組合せにより構成されるものであるところ,原告主張の作用
効果は,それぞれの技術的要素の総体として予想される範囲を出るものでも
ないものというべきである。
したがって,原告の上記主張は,採用の限りでない。
()そうすると,相違点2について,「引用発明(注,引用発明1)及び刊行6
物3に記載された発明(注,引用発明3)は,いずれもスクリューを用いて
廃棄物を圧縮,固化する装置として共通するものであるから,引用発明に刊
行物3に記載された発明を適用することにより,排出口側にわたる第2の部
分の螺旋羽根を第1の部分より螺旋ピッチが小さくし,且つその螺旋ピッチ
を排出口側に向かって徐々に小さくするように設定することに格別の困難性
は見出せない。」とした審決の判断に誤りはなく,これを争う原告の取消事
由3の主張は,採用することができない。
4以上のとおり,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,他に審決を取
り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官篠原勝美
裁判官宍戸充
裁判官柴田義明

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