弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成22年6月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第3527号特許権侵害差止請求事件(第1事件)
同年(ワ)第3528号特許権侵害差止請求事件(第2事件)
同年(ワ)第3530号特許権侵害差止請求事件(第3事件)
同年(ワ)第3538号特許権侵害差止請求事件(第4事件)
同年(ワ)第3539号特許権侵害差止請求事件(第5事件)
口頭弁論終結日平成22年5月27日
判決
東京都大田区<以下略>
原告キヤノン株式会社
同訴訟代理人弁護士増井和夫
同橋口尚幸
同齋藤誠二郎
東京都中央区<以下略>
第1事件被告(以下「被告」という)。
株式会社サップ
東京都中央区<以下略>
第2事件被告(以下「被告」という)。
オフィネット・ドットコム株式会社
東京都中央区<以下略>
第3事件被告(以下「被告」という)。
株式会社スリーイーコーポレーション
大阪市<以下略>
第4事件被告(以下「被告」という)。
株式会社プレジール
大阪市<以下略>
第5事件被告(以下「被告」という)。
株式会社エム・エス・シー
被告ら訴訟代理人弁護士溝上哲也
同岩原義則
同江村一宏
同訴訟代理人弁理士山本進
主文
1被告株式会社サップは,別紙物件目録()記載のインクタンクの販売2
及び販売のための展示をしてはならない。
2被告オフィネット・ドットコム株式会社は,別紙物件目録()記載の2
インクタンクの販売及び販売のための展示をしてはならない。
3被告株式会社スリーイーコーポレーションは,別紙物件目録()記載2
のインクタンクの販売及び販売のための展示をしてはならない。
4被告株式会社プレジールは,別紙物件目録()記載のインクタンクの2
販売及び販売のための展示をしてはならない。
5被告株式会社エム・エス・シーは,別紙物件目録()記載のインクタ2
ンクの販売及び販売のための展示をしてはならない。
6原告のその余の請求をいずれも棄却する。
7訴訟費用は,これを7分し,その1を原告の負担とし,その余を被告
らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告株式会社サップは,別紙物件目録()及び()記載のインクタンクの輸12
入,販売又は販売のための展示をしてはならない。
2被告オフィネット・ドットコム株式会社は,別紙物件目録()及び()記載12
のインクタンクの輸入,販売又は販売のための展示をしてはならない。
3被告株式会社スリーイーコーポレーションは,別紙物件目録()及び()記12
載のインクタンクの輸入,販売又は販売のための展示をしてはならない。
4被告株式会社プレジールは,別紙物件目録()及び()記載のインクタンク12
の輸入,販売又は販売のための展示をしてはならない。
5被告株式会社エム・エス・シーは,別紙物件目録()及び()記載のインク12
タンクの輸入,販売又は販売のための展示をしてはならない。
第2事案の概要
本件は,インクジェットプリンタに使用されるインクタンクなどの液体収納
容器及び該容器を備える液体供給システムの特許権を有する原告が,被告らに
よる別紙物件目録()及び()記載のインクタンク(以下,同目録()記載のイ121
ンクタンクを「被告製品1,同目録()記載のインクタンクを「被告製品2」」2
といい,両製品を総称して「被告製品」という)の販売行為は,上記液体収。
納容器の特許権を侵害するものである,又は,特許法101条2号により上記
液体供給システムの特許権を侵害するものとみなされるものであり,被告らは
被告製品を輸入するおそれがある,と主張して,被告らに対し,特許法100
条1項に基づき,被告製品の輸入,販売及び販売のための展示の差止めを求め
た事案である。
なお,原告は,平成21年8月27日の本件第2回弁論準備手続期日におい
て,被告製品1に関する販売等の差止請求の訴えを取り下げたものの,被告ら
は取下げに同意しなかった。原告は,同年12月22日の本件第4回弁論準備
手続期日において,被告製品1を輸入,販売する行為が原告の上記特許権を侵
害する旨の主張を撤回した。
1争いのない事実等(末尾に証拠を掲げていない事実は,当事者間に争いがな
い事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である)。
()当事者1
原告は,事務機器,光学製品等を製造,販売する会社である。
被告株式会社サップ,被告オフィネット・ドットコム株式会社及び被告株
式会社スリーイーコーポレーションは,いずれも,インクリボン・トナー等
事務用品,事務用機器の製造,販売,輸出入,レンタル及び保守等を業とす
る会社である。
,,被告株式会社プレジール及び被告株式会社エム・エス・シーはいずれも
コンピューター及び周辺機器並びに部品の製造及び販売等を業とする会社で
ある。
()本件特許2
ア原告は,次の特許権(以下,後記特許請求の範囲請求項1の発明を「本
件発明1請求項5の発明を本件発明2といいこれらを併せて本」,「」,「
件発明」という。また,本件発明1に係る特許を「本件特許1,同特許」
に係る特許権を「本件特許権1」などといい,これらの特許ないし特許権
を併せて「本件特許」ないし「本件特許権,本件特許に係る明細書(別」
紙特許公報参照)を「本件明細書」という)を有している。。
特許番号第3793216号
発明の名称液体収納容器,該容器を備える液体供給システム,前
記容器の製造方法,前記容器用回路基板および液体収
納カートリッジ
出願日平成16年11月15日
優先日平成15年12月26日
登録日平成18年4月14日
特許請求の範囲
【請求項1】
別紙1「特許請求の範囲(以下,単に「別紙1」という)の「請」。
求項1「訂正前」欄記載のとおり」
【請求項5】
別紙1の「請求項5「訂正前」欄記載のとおり」
イ本件発明1及び本件発明2を構成要件に分説すると,それぞれ,次のと
おりである(以下,分説した構成要件をそれぞれ「構成要件1A1」など
という。。)
【本件発明1】
別紙2「構成要件の分説(以下,単に「別紙2」という)の「請求」。
項1「訂正前」欄記載のとおり」
【本件発明2】
別紙2の「請求項5「訂正前」欄記載のとおり」
()本件訂正請求3
ア被告らは,平成21年5月18日付けで,本件特許につき特許無効審判
請求(無効2009−800101)をした(乙A54。)
イ原告は,上記審判事件において,平成21年8月3日付けで審判事件答
弁書とともに,特許庁に対し,次のとおり,本件特許の請求項1及び請求
項5について訂正請求(以下「本件訂正」という)をした(乙A66。。
以下,本件訂正後の請求項1の発明を「本件訂正発明1,本件訂正後の」
請求項5の発明を「本件訂正発明2」といい,両発明を総称して「本件訂
正発明」という。。)
【請求項1について】
別紙1の「請求項1「訂正後」欄記載のとおり」
【請求項5について】
別紙1の「請求項5「訂正後」欄記載のとおり(なお,原告は,本件」
訂正に伴い,本件訂正前の請求項3及び4を削除した。そのため,本件訂
正前の請求項5は,同訂正により請求項3となる)。
,,ウ本件訂正発明1及び本件訂正発明2を構成要件に分説するとそれぞれ
次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれ「構成要件1A1
」などという。’。)
【本件訂正発明1】
別紙2の「請求項1「訂正後」欄記載のとおり」
【本件訂正発明2】
別紙2の「請求項5「訂正後」欄記載のとおり」
()原告製プリンタ及び原告製インクタンク4
原告はインクジェットプリンタであるPIXUSシリーズ以下原,「」(「
告製プリンタ」という)並びに同プリンタに使用するインクタンクである。
「BCI−9BK」及び「BCI−7e系(以下「BCI−9BK」を」,
「原告製インクタンク1「BCI−7e系」を「原告製インクタンク2」」,
といい,両者を総称して「原告製インクタンク」という)を製造し,販売。
している(甲3の1,2。)
原告製インクタンク1と原告製インクタンク2とは,その形状が異なって
おり,前者の方が後者よりも大型である。また,各インクタンクに収納され
るインクの色(種類)は,原告製インクタンク1が,ブラックの1色のみで
あり,原告製インクタンク2が,ブラック,イエロー,マゼンタ,シアン,
フォトマゼンタ,フォトシアン,レッド及びグリーンの8色である(甲3の
1,2。)
原告製プリンタのタンクホルダには,原告製インクタンク1を1個及び原
告製インクタンク2を複数個搭載することができる。原告製プリンタのタン
クホルダに原告製インクタンクを搭載する位置は,インクの形状(原告製イ
ンクタンク1と原告製インクタンク2の別)及びインクの色(種類)によっ
て,あらかじめ決められている(甲3の1,2,甲5。)
()被告製品5
ア被告製品の構造及び形状
被告製品は,別紙物件目録()及び()の第2及び第3記載の構造のイン12
クタンク本体に,同目録第1記載の表示を付し,インクを充填したインク
タンクである(甲5,甲10の1∼4。なお,後記のとおり,被告製品の
構造の一部については,当事者間に争いがある。。)
被告製品1と被告製品2は,その形状が異なっており,被告製品1の方
が被告製品2より大型である。
被告製品に収納されるインクの色(種類)は,被告製品1が,ブラック
の1色のみであり,被告製品2が,ブラック,イエロー,マゼンタ,シア
ン,フォトマゼンタ及びフォトシアンの6色である。
イ被告製品と原告製プリンタの関係
被告製品は,原告製プリンタに装着することができる(なお,被告製品
2のうち,インクの色(種類)がフォトマゼンタないしフォトシアンの物
は,一部の原告製プリンタ(甲第5号証において調査対象とされた「PI
XUSiP4500」など)には装着することができない。。)
原告製プリンタのタンクホルダには,被告製品1を1個及び被告製品2
を4個ないし6個搭載することができる。
原告製プリンタのタンクホルダに被告製品を搭載する位置は,インクタ
ンクの形状(被告製品1と被告製品2の別)及びインクの色(種類)によ
って,あらかじめ決められている。
ウ被告製品の輸入,販売
被告製品は,エステー産業株式会社(以下「エステー産業」という)。
「(.)の100%子会社である香港法人NSTECHNOLOGYHK
LTD(中国工場名:龍昇科技精密廠)において製造されている。.」
エステー産業は,上記香港法人から被告製品を輸入し,被告株式会社プ
レジール(以下「被告プレジール」という)に販売している。被告プレ。
ジールは,業として,被告製品を他の被告らに販売しており,被告プレジ
ール以外の被告は,日本国内において,業として,被告製品を販売してい
る。
2争点
()被告製品2は,本件発明1及び本件訂正発明1の構成要件を充足するか1
(争点1。)
()被告製品2を販売する行為は,特許法101条2号により,本件特許権2
2を侵害するものとみなされるか(間接侵害の成否(争点2。))
()本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか(特許法103
4条の3の抗弁の成否(争点3。))
ア本件発明は,進歩性を欠くか(争点3−1)
イ本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号(サポート
要件)に違反するか(争点3−2)
ウ本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号(明確性要
件)に違反するか(争点3−3)
エ本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項1号(実施
可能要件)に違反するか(争点3−4)
オ本件特許の無効理由は,本件訂正により解消されるか(争点3−5)
(ア)本件訂正は,特許法134条の2の訂正要件を満たすか(争点3−
5−1)
(イ)本件訂正発明は,進歩性を欠くか(争点3−5−2)
(ウ)本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号サ,(
ポート要件)に違反するか(争点3−5−3)
(エ)本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号明,(
確性要件)に違反するか(争点3−5−4)
(オ)本件明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号実,(
施可能要件)に違反するか(争点3−5−5)
()原告が被告らに対して本件特許権に基づき被告製品2の輸入,販売等の4
差止めを求めることは,独占禁止法に違反し,権利を濫用するものか(争点
4)
3争点に関する当事者の主張
()争点1(被告製品2は,本件発明1及び本件訂正発明1の構成要件を充1
足するか)について
[原告の主張]
,(,「」。),以下のとおり被告製品2以下単にインクタンクともいうは
本件発明1及び本件訂正発明1の構成要件をいずれも充足する。
したがって,被告らが被告製品2を販売する行為は,本件特許権1を侵害
するものであり,また,被告らは,被告製品2を輸入するおそれがある(な
お,前記のとおり,原告は,被告製品1を輸入,販売する行為が本件特許権
を侵害する旨の主張については,本件第4回弁論準備手続期日において,こ
れを撤回した。。)
ア構成要件1A及び1A’について
被告製品2は,次のとおり,構成要件1A1ないし1A4及び構成要件
1A1’ないし1A5’の構成を備えた原告製プリンタ(記録装置)のキ
ャリッジに対して,着脱可能である。
したがって,被告製品2は,構成要件1A(1A1∼1A5)及び1A
(1A1’∼1A6)を充足する。’’
(ア)構成要件1A1及び1A1’について
被告製品2は,液体インク収納容器であり,原告製プリンタは,複数
の被告製品2を搭載して移動することのできるキャリッジを備えている
(甲5・3頁,甲10の1,2。)
したがって,原告製プリンタは「複数の液体収納容器が搭載可能」,
(構成要件1A1)なものであり「複数の液体インク収納容器を搭載,
して移動するキャリッジ(構成要件1A1)を備えている。」’
(イ)構成要件1A2及び1A2’について
原告製プリンタのタンクホルダには被告製品2に設けられた基板別,(
紙物件目録()の第2【図1】ないし【図3】の番号100を参照)と2
電気的に接続する接点が設けられている(甲5・3頁。)
したがって,原告製プリンタは「液体収納容器に備えられる接点と,
電気的に結合可能な装置側接点(構成要件1A2)及び「液体インク」
収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点(構成要」
件1A2)を備えている。’
(ウ)構成要件1A3及び1A3’について
原告製プリンタには,キャリッジの箇所に向かい合うように,被告製
品2の発光部(別紙物件目録()の第2【図1】ないし【図3】の番号2
101を参照)からの光を受光する受光手段が一つ設けられている。。
同プリンタのすべてのタンクホルダに被告製品を装着した状態でプリ
ンタの上部カバーを閉じると,キャリッジは,上記受光手段の付近まで
移動し,受光手段の付近で細かく移動する。これによって,受光手段に
対向するインクタンクは,次々と入れ替わる。
そして,各インクタンクが装着されるべき搭載位置(原告製プリンタ
では,前記1()のとおり,インクタンクの形状及び色によって,イン4
クタンクを搭載する位置があらかじめ定められている)が受光手段に。
対向する位置に来たときに,当該インクタンクの発光部を発光させ,上
記発光を受光部で受光することができるかどうかを確認する。
インクタンクが正しい位置に装着されていれば,上記発光を受光部で
受光することができるので,上記処理により,各インクタンクが正しい
位置に装着されているか否かを確認することができる(上記処理を,以
下「本件光照合処理」という(甲5・3頁及び4頁,甲10の1∼。)
4。)
したがって,原告製プリンタは「液体収納容器からの光を受光する,
受光手段(構成要件1A3,並びに「前記キャリッジの移動により」),
対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体
インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一
つ,及び「該受光手段で該光を受光することによって前記液体イン」,
ク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段構」(
成要件1A3)を備えている。’
(エ)構成要件1A4及び1A4’について
原告製プリンタは,各インクタンクと接続するタンクホルダのコネク
タが,タンクホルダの裏側において,共通の配線で接続されている。
本件光照合処理の際には,上記配線を通じて,各インクタンクを光ら
せるための色情報のコードが各インクタンクに送信され,各インクタン
クは,色情報を受信すると,色情報のコードを,インクタンクの基板上
のICチップ(別紙物件目録()の第2【図1】ないし【図3】の番号2
103を参照)に保持されている自己の色情報のコードと比較し,両。
者が一致している場合に,制御コードに基づきインクタンクの発光部を
点灯させる(なお,両者が一致しないときは,制御コードに基づく発光
部の点灯は,行われない(甲5・5頁及び6頁,甲10の1∼4。。))
したがって,原告製プリンタは「搭載される液体収納容器それぞれ,
の前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通に電気的接続する配
線を有した電気回路(構成要件1A4,及び「搭載される液体イン」),
ク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通
に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回
路(構成要件1A4)を備えている。」’
(オ)構成要件1A5’について
上記(ウ)及び(エ)のとおり,原告製プリンタは,本件光照合処理を行
うことにより,各インクタンクが正しい位置に装着されているか否かを
検出することができる。
したがって,原告製プリンタは「前記キャリッジの位置に応じて特,
定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ,そ
の光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液
体インク収納容器の搭載位置を検出する(構成要件1A5)機能を」’
備えている。
イ構成要件1B及び1B’について
被告製品2は,その支持部材の根本付近の底面部に基板が設置され,そ
の基板には,原告製プリンタ側のコネクタと電気的に接続する接点が4個
設けられており,基板は,接点がインクタンクの外側に向くように設置さ
れている(別紙物件目録()の第2【図1】ないし【図3】の番号1002
及び102を参照(甲5・7頁及び8頁。。))
したがって,被告製品2は,構成要件1B及び1B’の「前記装置側接
」,。点と電気的に接続可能な前記接点を備えており同構成要件を充足する
ウ構成要件1C及び1C’について
被告製品2は,その基板に設けられたICチップに,各インクタンクの
色に応じた色情報を保持している(甲5・9頁∼11頁。)
したがって,被告製品2は,構成要件1Cの「液体収納容器の個体情報
を保持可能な情報保持部」及び同1C’の「液体インク収納容器のインク
色を示す色情報を保持可能な情報保持部」を備えており,同構成要件を充
足する。
エ構成要件1D及び1D’について
被告製品2は,その基板の上部に,発光部であるLEDが設けられてお
り,本件光照合処理の際,同発光部から,原告製プリンタの受光部に投光
するための光を発光する。
したがって,被告製品2は,構成要件1Dの「発光部」及び同1D’の
「」,前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部を備えており
同構成要件を充足する。
オ構成要件1E及び1E’について
被告製品2は,その基板上のICチップに対して,インクの色に応じた
色情報に発光コマンド(制御部に発光を命じる命令コード)を付けた信号
を送付すると,インクタンクの色と送信した色情報が一致している場合の
み発光し,その他の場合は発光しない(甲5・11頁。)
したがって,被告製品2は,構成要件1Eの「前記接点から入力される
個体情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する個体情報とに応じて前
記発光部の発光を制御する制御部」及び同1E’の「前記接点から入力さ
れる前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とに
応じて前記発光部の発光を制御する制御部」を備えており,同構成要件を
充足する。
カ構成要件1F及び1F’について
上記のとおり,被告製品2は,構成要件1A1ないし1A4及び同1A
1’ないし1A5’の構成を備えた原告製プリンタのキャリッジに対して
着脱可能であり,構成要件1Bないし1E及び同1B’ないし1E’の構
成を備えた,液体インク収納容器である。
したがって,被告製品2は,構成要件1Fの「上記各構成を)有する(
ことを特徴とする液体収納容器」及び同1F’の「上記各構成を)有す(
ることを特徴とする液体インク収納容器」に該当し,同構成要件を充足す
る。
[被告らの主張]
ア原告製プリンタ及び被告製品2の構造
原告製プリンタが,①被告製品2と電気的に結合可能なプリンタ側接
点,②被告製品2の発光部からの光を受光する光センサ(受光手段,)
③上記①の複数のプリンタ側接点をバス接続(共通に電気的接続)する
配線,を有することについては,知らない。これらの点は,原告製プリン
タの内部構成の問題であり,甲第5号証の写真だけでは明らかでない。
被告製品2が,発光部を制御する制御部とインクタンクの個体情報を保
持可能な情報保持部とが一体となったICチップを有し,電極パッドを介
して供給される電気信号及び電力によりICチップが発光部の発光の制御
を行うことについては,知らない。上記ICチップは,被告らが自ら製造
又は製造委託した物ではなく,被告らにおいて上記内容を確認することは
できない。
イ被告製品2は本件特許権1を侵害しないこと
(ア)「液体収納容器からの光を受光する受光手段(構成要件1A3)」
及び「液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受
光手段(構成要件1A3)の解釈」’
本件明細書の実施例には,インクタンクの発光部から,受光手段又は
液体インク収納容器位置検出手段の受光部に向けて投光する構成とし
て,インクタンクを搭載するキャリッジ上のホルダに穴を空けて光を通
す構成が記載されているだけであり(段落【0036【0038,】,】
),,,図4これ以外に発光部から受光手段等に投光する実施例について
十分な開示はされていない。
,「」したがって構成要件1A3の該液体収納容器からの光を受光する
及び同1A3’の「前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光す
る」とは「インクタンクホルダに空けられた穴もしくは光透過性の部,
」,分を通じて光を通すことにより該液体収納容器からの光を受光すると
限定して解するのが相当である。
しかしながら,原告製プリンタは,そのキャリッジ上のホルダに空け
られた穴又は光透過性の部分を通じて光を通す構成を有しておらず,イ
ンクタンクに設けられた光路部材によって光を通す方法を採用してい
る。
よって,原告製プリンタは,構成要件1A3及び1A3’所定の方法
で被告製品2からの発光を受光するものではない。
(イ)「記録装置に対して)着脱可能な液体収納容器(構成要件1A(」
5)及び「記録装置の)前記キャリッジに対して着脱可能な液体イン(
ク収納容器(構成要件1A6)の解釈」’
本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明が解決しようとする課
題及び同課題に対して本件発明の構成をとることによる効果について,
次のとおり記載されている。
「特許文献3には,インクタンクがキャリッジに搭載される際の,キャ
リッジの搭載部とインクタンク相互の係合の形状をインクタンクごと
に異ならせ,これにより,インクタンクが誤った位置に装着されるこ
とを防止している構成が開示されている(段落【0004)。」】
「インクタンクの搭載位置を特定する構成としては,上述したように,
搭載部とインクタンクが係合する相互の形状を搭載位置ごとに異なら
せるものがある。しかしながら,この場合は特に,インクの色ないし
種類ごとに異なる形状のインクタンクを製造する必要があり,製造効
率やコストの点で不利となる(段落【0007)。」】
「本実施形態では,インクタンクの装着位置について,例えば,インク
タンクと装着位置の形状を他のインクのインクタンクが装着できない
ような形状とし,それぞれの色のインクタンクに対応して装着位置を
定めるような構成をとらないことから,それぞれの色のインクタンク
について本来の位置でないところに誤って装着される可能性がある。
このため,本光照合処理を行い,誤って装着されている場合は,ユー
ザにその旨を知らせるものである。これにより,特に,インクタンク
の形状を色ごとに異ならせることなく,インクタンクの製造の効率化
や低コスト化を図ることができる(段落【0108)。」】
以上の記載からすると,本件発明は,インクタンクごとに形状を異な
らせる構成をとらないことを前提とするものであるから,構成要件1A
5及び1A6’の「着脱可能な液体収納容器(液体インク収納容器」)
とは「すべて同一形状の複数の液体収納容器が搭載可能な記録装置に,
着脱可能な液体収納容器(構成要件1A5)及び「すべて同一形状の」
複数の液体インク収納容器が搭載可能な記録装置のキャリッジに対して
着脱可能な液体インク収納容器(構成要件1A6)と解するのが相」’
当である。
そうすると,被告製品は,前記1()のとおり,被告製品1と被告製5
品2とで形状が異なるものであるから,構成要件1A5及び1A6’を
充足しない。
(ウ)「発光部の発光を制御する制御部(構成要件1E及び1E)の」’
解釈
a発光部の発光の制御は,インクタンクではなくプリンタ本体で行わ
れていること
構成要件1E及び1E’における「制御」の意義については,本件
明細書中に「制御」の定義を述べる記載が存在しないため,その語が
有する一般的な意味に従って解釈するのが相当である。
「制御」の一般的な意味は「かってにさせないこと。思いどおり,
にあやつること。支配「調節すること」を指すと解されている。」,。
(日本語大辞典(乙A7。))
また,一般に,LEDなどによって実現される「発光部」の発光の
状態は,点灯,点滅,消灯の3つの状態があり得るものであり,点滅
については,ゆっくりとした点滅,速い点滅など,点滅速度を変化さ
せることができることは,周知の事柄である。
したがって「制御」とは,発光部の発光を,いつ,どのタイミン,
グで,点灯,点滅,消灯のいずれの状態とするのかについて,自身で
コントロールし,また,発光部の点滅速度を自身で調節し得る機構を
指すと解するのが相当である。
一方,原告製プリンタに被告製品2を搭載した場合,被告製品2の
発光部の発光を制御するのは,原告製プリンタの制御回路(本件明細
書の記載では,図19に記載のCPU301を備えた「制御回路30
0」に相当する構成)である。
したがって,被告製品2は,構成要件1E及び1E’の「発光部の
発光を制御する制御部」を備えておらず,同構成要件を充足しない。
b原告製プリンタにおいて誤装着を生じるのは,2個同色を装着する
場合のみであり,その場合,上記制御部を活用せずに誤装着を認識し
得ること
原告製プリンタを新規に購入する場合,その付属品として,原告製
インクタンクが,各色1セットずつ同梱されている。
そのため,原告製プリンタを購入したユーザーは,当初は,原告製
インクタンクを装着して使用を開始し,いずれかのインクタンクを使
い切ったため交換する際に,初めて,交換用インクタンクを使用する
こととなる。
,,しかしながら各色のインクタンクにおけるインクの消耗の仕方は
印刷する画像の色合いや,印刷物の内容によって異なり,本来的に同
一ではないから,複数のインクタンクのインクが同時になくなる(イ
ンクタンクが空になる)確率は,無に等しいものである。
また,インクタンクは高価であるから,インクを使い切るまで使用
,,するのは当然であり空になった1個のインクタンクを交換する際に
ユーザーが残量の残っている他のインクタンクを同時に交換するとい
うことも,合理的に考えてあり得ない。
以上の点は,①原告が作成した原告製プリンタの操作ガイド(乙
A61の1。以下「原告製プリンタ操作ガイド」という)に「一。,
,。」度に複数のインクタンクを外さず必ず1つずつ交換してください
と記載されていること(55頁,②原告製プリンタでは,インク)
タンクのインクが1個でもなくなった場合には,プリンタ本体のエラ
ーランプが点滅し,インクタンクを交換しない限り,印刷を続行する
(,,ことができなくなること原告製プリンタ操作ガイド・9頁53頁
87頁,89頁,③原告製プリンタでは,インクタンクのインク)
が少なくなった場合にもインクランプは点滅するものの,インクがな
くなった場合の点滅の形態(点滅速度)とは明確に異なっている上,
上記操作ガイドには,インクが少なくなったにすぎない時点でのイン
クタンクの交換を許容する記載は存在しないこと(原告製プリンタ操
作ガイド・53頁,などからも裏付けられる。)
以上のとおり,被告製品2を原告製プリンタに誤装着する場合とし
てあり得るのは,取り外したインクタンクと別の色の被告製品2を誤
って装着してしまう場合,すなわち,2個同色を装着した場合に限ら
れる。
しかしながら,原告製プリンタは,2個以上の同色のインクタンク
が装着された場合,インクタンクに備えられた発光部及びプリンタ側
の受光部を使用することなく上記同色のインクタンクを点滅表示異,(
常表示)させるものである(乙A27,28。)
以上のとおり,被告製品2において唯一想定され得る誤装着の状態
である同色のインクタンクが2個装着された場合に,被告製品2の発
光部は機能しないのであるから,被告製品2は「発光部の発光を制御
する制御部」を有しておらず,構成要件1E及び1E’を充足しない
(また,同様の理由により,原告製プリンタは,構成要件1A5’の
「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体イン
ク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液
体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置
を検出する」機能を備えていない。。)
(エ)「液体インク収納容器位置検出手段(構成要件1A3’及び1A」
5)の解釈’
「液体インク収納容器の搭載位置を検出する(構成要件1A3)」’
とは,その通常の語義及び本件発明の課題がキャリッジにおけるインク
タンクの誤装着の防止であることからすれば「各インクタンクがキャ,
リッジ上のどの位置に搭載されているかを検出する」という意味である
と解するのが相当である。
原告製プリンタは,前記(ウ)bのとおり,必ず1個単位で交換される
ものであるから,そもそも,異なる色の2個のインクタンクを入れ違え
て装着することはあり得ないものであるが,仮に,2個のインクタンク
が入れ違いに装着されたとしても,次のとおり,原告製プリンタは,イ
ンクタンクが所定の位置に装着されていないことは検出できるものの,
誤装着されたインクタンクが搭載された場所については検出することが
できない。
すなわち,例えば,ブラック色のインクタンクとシアン色のインクタ
ンクを入れ違えた場合,本件光照合処理がされることにより,受光セン
サは,ブラックのインクタンクからの光を受光しないことによって,ブ
ラックのインクタンクが所定の位置に装着されていないことは検出する
ことができるが,シアンの所定位置に装着されたブラックのインクタン
クからの光を受光できるわけではないため,結局,ブラックのインクタ
ンクがどの位置に装着されているかを検出することはできない。
以上のとおり,原告製プリンタは,構成要件1A3’の「液体インク
収納容器の搭載位置を検出する」機能を備えていない。
[被告らの主張に対する原告の反論]
ア「液体収納容器からの光を受光する受光手段(構成要件1A3)及び」
「」液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段
(構成要件1A3)の解釈’
被告らの主張は,何の合理的理由もなく,請求項の構成要件を実施例の
態様に限定するものであり,特許法の一般的な解釈に合致しない。実施例
とは,請求項の具体的な実施態様の例にすぎず,請求項の技術的範囲が実
施例によって限定されるものではない。
また,本件明細書には,ホルダに穴を空けて導光性部材を通す以外の方
法も開示されている(段落【0128】∼【0133,図35∼37。】)
イ「記録装置)に対して着脱可能な液体収納容器(構成要件1A5)(」
及び「記録装置の)前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納(
容器(構成要件1A6)の解釈」’
被告らは,一つでも異なる形状のインクタンクがあれば,インクタンク
の形状を色ごとに異ならせることなく誤装着防止を実現するという,本件
発明の効果を奏することができないと主張する。
しかしながら,被告製品2には6通りもの色があり,これらは相互に異
なる装着位置に装着することが可能であって,誤装着を生ずる可能性があ
るものである。
したがって,被告製品1と被告製品2の形状が異なるからといって,本
件特許の作用効果を奏することができないというものではなく,被告らの
主張は理由がない。
ウ「発光部の発光を制御する制御部(構成要件1E及び1E)の解釈」’
(ア)発光部の発光の制御は,インクタンクで行われること
本件明細書の段落【0092】には,実施例として開示された構成に
おける発光部のオン・オフについて,次の手順で行われることが記載さ
れている(なお,下線は原告が引いたものである。。)
「LED101の点灯または消灯では,図24に示すように,上記と同
様,先ず「開始コード+色情報」のデータ信号が,本体側から信号,
線DATAを介して入出力制御回路103Aに送られてくる。上述し
たように「色情報」によってインクタンクが特定され,その後に送,
られてくる「制御コード」に基づくLED101の点灯,消灯は特定
されたインクタンクのみで行われる。点灯,消灯にかかる「制御コー
ド」は,図23にて上述したように「ON」または「OFF」のコ,
ードがあり「ON」によってLED101の点灯が行われ「OF,,
F」によって消灯が行われる。すなわち,制御コードが「ON」のと
き,入出力制御回路103Aは,図22にて前述したように,LED
ドライバ103Cに対してオン信号を出力し,それ以降もその出力状
態を維持する。逆に,制御コードが「OFF」のとき,入出力制御回
路103Aは,LEDドライバ103Cに対してオフ信号を出力し,
それ以降もその出力状態を維持する。なお,LED101の点灯また
は消灯の実際のタイミングは,図24に示す各データ信号についてク
ロックCLKの7クロック目以降に行われる」。
上記引用部分,とりわけ下線部の記述を読めば,発光部の制御は,イ
ンクタンクの入出力制御回路103A及びLEDドライバ103Cで行
われていることが理解される。
すなわち,プリンタ本体の制御回路から送られてくる「開始コード+
色情報」は,まず,インクタンクの入出力回路によって判断され,色情
報が自らのインクタンクの色に一致していると判断されると,入出力回
路は,引き続き送られてくる制御コードをLEDドライバに送り,その
結果,制御コードに従ったLEDの点灯・消灯が行われる。そして,本
件明細書の図20ないし22に示されているとおり,103は,液体収
納容器(インクタンク)に設けられた制御素子であり,その内部には,
上記入出力制御回路及びLEDドライバが搭載されている。
また,本件特許の発明思想からして,液体収納容器(インクタンク)
に発光部の発光を制御する制御部を設けることは,必須の要件である。
すなわち,本件特許の基本構成は,各インクタンクとプリンタ本体と
をバス配線で接続し,このバス配線で各インクタンクとプリンタ本体の
,,間の情報伝達及びエネルギー供給を行うというものであり同構成では
プリンタ本体からの命令がバス配線を通じて複数のインクタンクへ送信
されるため,何らかの工夫を行わないと,プリンタ本体が各インクタン
クに対して個別に命令を下すことができない。そこで,そのための工夫
として,プリンタ本体から各インクタンクへの命令について,その冒頭
に色情報を付加し,各インクタンクにおいて,上記色情報が自らのイン
クタンクのインクの色に一致しているか否かを判断し,一致している場
合にのみ当該命令に反応することとしたものである。これにより,バス
配線を通じて同じ命令がすべてのインクタンクへ送付されていても,特
定のインクタンクにおいてのみ当該命令が実行されることが可能とな
る。
以上のとおり,上記仕組みにおいては,各インクタンクごとに,色情
報を判断し,かつ,プリンタ本体からの命令を実行するための制御装置
が必須となるのであり,構成要件1E及び1E’の「発光部の発光を制
御する制御部」とは,上記制御装置にほかならない。
(イ)原告製プリンタにおいてインクタンクの誤装着を生じるのは,2個
同色を装着する場合に限られないこと
被告らは,原告製プリンタにおいて,被告製品2は必ず1本ずつ交換
されるものであると主張するが,被告製品2が「交換用」として販売さ
れていることから,直ちに「1本ずつ交換される」ものであって「誤,,
装着の可能性がない」とはいえない。
複数のインクタンクが同時に交換を必要とする状態になることは,よ
く経験されることである。また,続けて大量の印刷を行う場合には,途
中でのインク切れを防ぐため,あらかじめ,残存インク量の少ないイン
クタンクをまとめて交換しておく必要が高くなる。
なお,原告製プリンタ操作ガイドに「一度に複数のインクタンクを,
外さず,必ず1つずつ交換してください」との記載があることが認めら
れるものの,同記載は,2本以上のインクタンクを「同時に(いっぺん
に」取り外すような操作をしてはならない,ということであって,1)
回のインクタンク交換の機会において複数本のインクタンクを交換して
はならない,という趣旨ではない。1回のインクタンク交換の機会にお
いて,複数のインクタンクについて,それぞれを「1本ずつ」取り外し
装着することは,上記操作ガイドの記載の範囲内の行為であり,複数の
インクタンクについて順次「1本ずつ」取り外して装着すれば,ある装
着位置に誤った種類のインクタンクを装着することもあり得る。
原告製プリンタでは,インクが「少なくなった状態「なくなった」,
可能性がある状態」及び「ない状態」の,3段階のインク切れの警告が
行われ「なくなった可能性がある状態」及び「ない状態」の警告時に,
印刷が停止するものの,どちらの場合も,リセットボタンを押せば,イ
ンクタンクを交換しなくても印刷を続行することが可能であり,印刷続
行が不可能となるわけではない「インクがなくなった可能性がある」。
と判断された場合であっても,若干のインクがタンク内に残っているこ
とが多く,そのような場合,リセットボタンを押してそのまま印刷を継
続すると,通常どおり印刷が可能である。
したがって,1本のインクタンクについて「インクがなくなった可,
」,,能性があると判断されそれを示すエラーランプが点滅した場合でも
リセットボタンを押して継続使用している間に,2本目,3本目のイン
クタンクについても「インクがなくなった可能性がある」と判断され,
エラーランプが更に点滅することもあるそして2本目3本目のイ。,,「
ンクがなくなった可能性がある状態」に対して,それぞれリセットボタ
ンを押して印刷を継続しているうちに,とうとういずれかがインク切れ
になってしまうこともあり得る。このような場合,ユーザーにとって,
インクの交換作業は面倒な作業であり「できるだけまとめて済ませて,
しまいたい」というのは当然の気持ちであるから「なくなった可能性,
がある状態」の複数本のインクタンクをまとめて交換することは,現実
に起こり得ることである。
さらに「なくなった可能性がある状態」の警告の前に「少なくな,,
った状態」の警告も行われることから,複数本まとめてインクタンクを
交換することは,より一層頻繁に生じる事態となる。例えば「なくな,
った可能性がある状態」の警告が1本目のインクタンクについて出され
た後に,リセットボタンを押してしばらく使用し続けている間に,2本
目,更に3本目のインクタンクについて「少なくなった状態」の警告,
が行われたような場合,又は,複数のインクタンクについて「少なくな
った状態」の警告が行われた状態で印刷を継続している間に,そのうち
1本について「なくなった可能性がある状態」の警告が行われたような
場合,である。
このような場合,大量のカラー印刷を同時にミスなく仕上げたいと考
えたユーザーが「少なくなった状態」及び「なくなった可能性がある,
状態」の警告の行われたインクタンクをすべて同時に交換することや,
インクタンクの交換作業はなるべく1度で済ませてしまいたいという心
理から「なくなった可能性がある状態」のインクタンクを交換するつ,
いでに「少なくなった状態」のインクタンクも同時に交換してしまう,
ことは,十分あり得ることである。このようなユーザーの行動は,別段
不合理ではない。
そして,原告製プリンタにおいて2個以上のインクタンクを交換する
場合,本件光照合処理が行われ,インクタンクが正しい位置に装着され
ているのかが検出されるものであるから,被告製品2は「発光部の発,
光を制御する制御部(構成要件1E及び1E)を有しているといえ」’
る。
エ「液体インク収納容器の搭載位置を検出する(構成要件1A3)の」’
意義
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】には,本件発明の目
的について「インクタンクなど液体収納容器の搭載位置を特定した表示,
器の発光制御をすることを可能とすること,と説明され,段落【001」
9】には,発明の効果について「キャリッジに搭載された複数のインク,
タンクについて,その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させ
るとともに,上記処置(判決注:本件訂正により「処置」を「所定」と,
訂正する旨の請求がされている(甲8・11頁。以下同じ)の位置で)。
の発光を検出するようにすることにより,発光が検出されないインクタン
。,,クは誤った位置に搭載されていることを認識できるこれにより例えば
ユーザに対してインクタンクを正しい位置に再装着することを促す処理を
することができ,結果として,インクタンクごとにその搭載位置を特定す
ることができる」と説明されている。。
本件明細書の上記記載からすれば構成要件1A3及び1A5の液,’’「
体インク収納容器の搭載位置を検出する」とは「所定の位置での発光を,
検出するようにすることにより,発光が検出されないインクタンクは誤っ
」,,た位置に搭載されていることを認識するという意味であると理解され
誤った位置に搭載されたインクタンクがどの位置に搭載されているかを確
定させることまでは意味しないというべきである。
バス接続を使用するインクタンクの従来技術においては,あるインクタ
ンクが正しい位置に搭載されている事実の確認もできなかったし,別のイ
ンクタンクの搭載位置が誤っていることも確認できなかったものである。
本件発明及び本件訂正発明は,このような搭載位置に関する検出を可能に
した新規な手段を本件明細書に記載した上で,当該手段の機能を,請求項
に「搭載位置を検出する」と記載したものである。
()争点2(間接侵害の成否)について2
[原告の主張]
次のとおり,被告製品2は,これを原告製プリンタに装着すると,本件発
明2及び本件訂正発明2の「液体供給システム」ないし「液体インク供給シ
ステム」を生成するものであり,インクタンクの誤った位置への装着を解消
するという,上記各発明の課題を解決するために不可欠なものである。
また,被告らは,被告製品2を「CANON対応製品「キヤノン互換,」,
インクカートリッジ」として販売しており,被告製品2が原告製プリンタに
装着されると上記各発明の実施に使用されることを理解した上で,被告製品
2を販売している。
したがって,被告製品2を販売する行為は,特許法101条2号により本
件特許権2を侵害するものとみなされる。
ア原告製プリンタについて
前記第2の1()及び同3()[原告の主張]アのとおり,原告製プリン51
タは,複数の被告製品2を互いに異なる位置のタンクホルダに搭載して移
動するキャリッジ(構成要件2A1,2A1)を備え,タンクホルダに’
は,被告製品2に設けられた基板と電気的に接続する接点(構成要件2A
2,2A2)が設けられている。’
また,原告製プリンタには,被告製品2からの光を受光する受光手段が
一つ設けられ,各インクタンクと接続するタンクホルダのコネクタが,タ
,,ンクホルダの裏側において共通の配線で接続され本件光照合処理により
各インクタンクの装着位置を確認することができる(構成要件2A3,2
A4,2A3,2A4。’’)
したがって,原告製プリンタは,構成要件2A1ないし2A4及び同2
A1’ないし2A4’を充足する。
イ被告製品2について
前記()[原告の主張]アないしカのとおり,被告製品2は,原告製プ1
リンタのキャリッジに着脱可能(構成要件2B,2B)であり,プリン’
タ側の接点と電気的に接続可能な接点(基板(構成要件2D1,2D1)
)を備え,基板に設けられたICチップに各インクタンクの色に応じた’
色情報を保持し(構成要件2D2,2D2,基板の上部には,上記受’)
光部に投光するための光を発光する発光部(構成要件2D3,2D3)’
が設けられており,原告製プリンタに装着すると,本件光照合処理が行わ
れる(構成要件2D4,2D4,2E,2F。’’’)
したがって,被告製品2は,構成要件2B,2D1ないし2D4,2B
,2D1’ないし2D4,2E’及び2F’を充足し,被告製品2を’’
,「」装着した原告製プリンタは構成要件2C及び2Eの液体供給システム
ないし同2C’及び2G’の「液体インク供給システム」に該当し,同構
成要件を充足する。
[被告らの主張]
ア被告製品2を原告製プリンタに装着しても,本件発明2及び本件訂正発
明2の構成要件を充足しないこと
前記()[被告らの主張]イ(ア)ないし(エ)と同様の理由により,構成1
要件2A3及び2A3’の「液体収納容器(液体インク収納容器)からの
光を受光する」とは「キャリッジ上のホルダに空けられた穴もしくは光,
,」,透過性の部分を通じて光を通し該液体収納容器からの光を受光すると
構成要件2B及び2B’の「記録装置のキャリッジに対して着脱可能な液
体収納容器(液体インク収納容器」とは「すべて同一形状の複数の液),
体収納容器(液体インク収納容器)が搭載可能な記録装置のキャリッジに
対して着脱可能な液体収納容器(液体インク収納容器」と,それぞれ限)
定して解釈すべきであり,構成要件2A3,2A3’及び2F’の「液体
収納容器(液体インク収納容器)の搭載位置を検出する」とは「各イン,
クタンクがキャリッジ上のどの位置に搭載されているかを検出する」とい
う意味に,構成要件2D4及び2D4’の「制御」とは「発光部の発光,
を,いつ,どのタイミングで,点灯,点滅,消灯のいずれの状態とするの
かについて,自身でコントロールし,また,発光部の点滅速度を自身で調
節し得る機構」を指すと,それぞれ解するのが相当である。
また,被告製品2において唯一想定され得る誤装着の状態である同色の
インクタンクが2個装着された場合に,被告製品2の発光部は機能しない
のであるから,被告製品2は「発光部の発光を制御する制御部(構成要」
件2D4,2D4)を有していない。’
したがって,被告製品2を原告製プリンタに装着しても,本件発明2及
び本件訂正発明2の構成要件を充足しない。
イ原告製プリンタ及びこれに付属する原告製インクタンクがユーザーに譲
渡された時点で,本件特許権2は消尽していること
本件発明2及び本件訂正発明2は「液体供給システム(液体インク供,
給システム」についての発明であり,プリンタ及びインクタンクの両方)
を含むものである。また,前記のとおり,原告製プリンタは,原告製イン
クタンク1セットを同梱の上,販売されている。
,,したがって特許製品としての原告製プリンタ及び同梱インクタンクが
特許権者である原告により,我が国においていずれもユーザーに譲渡され
た時点で,本件特許権2は消尽し,原告は,当該特許製品であるプリンタ
及びインクタンクについて特許権を行使することはできないのが原則であ
る。
もっとも「特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工,
や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が
新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品に
ついて,特許権を行使することが許される(最高裁平成19年11月8」
日第一小法廷判決・民集61巻8号2989頁(以下「平成19年最高裁
判決」という)参照。しかしながら,本件における,当該特許製品の。)
属性(製品の機能,構造,材質,用途,耐用期間,使用態様,特許発明)
の内容,加工及び部材の交換の態様(加工等がされた際の当該特許製品の
状態,加工の内容及び程度,交換された部材の耐用期間,当該部材の特許
製品中における技術的機能及び経済的価値,取引の実情等を総合考慮す)
ると,以下のとおり「加工や部材の交換」によって「当該特許製品と同,
一性を欠く特許製品が新たに製造された」とは認められないというべきで
ある。
(ア)特許製品の属性
製品の機能について,液体供給システムの機能の大半を担うのは,原
告製プリンタである。
構造及び材質について,インクタンクは,プリンタの中のごく一部の
指定された箇所(キャリッジ)に着脱可能に搭載されるという構造とな
っており,材質的にも,プリンタとインクタンクとは同質ではない。
用途は,印刷であり,制御装置,パーソナルコンピュータとの接続,
印字ヘッド,用紙の収納部等を備えた原告製プリンタが,かかる用途の
ために必要な機能の大半を有している。
耐用期間は,原告製プリンタは,数年から10年程度という長期であ
る。一方,個々のインクタンクは,インク残量がなくなればその耐用期
間を終え,交換を余儀なくされるものであり,利用状況によるものの,
一般に,プリンタに比べて相当短い。
使用態様については,インク残量がなくなれば,なくなったインクタ
ンクごとに,新たなインクタンクに交換して使用するものであることが
前提であり,インクタンクは,当初から,交換が予定されている。
(イ)特許発明の内容
本件発明2及び本件訂正発明2の内容は,低コストでインクタンクの
誤装着を防ぐことを目的とした液体供給システムであり,プリンタとイ
ンクタンクから構成されている。インクタンクは,プリンタに対して着
脱可能であることが請求項に記載されており,着脱による代替が予定さ
れている。
(ウ)部材の交換の態様
インクタンクの交換がされた際の当該特許製品の状態は,インクの残
量不足等に陥った特定のインクタンク部分のみが機能不全となっている
ものの,それ以外,特に,機能の大半を占めるプリンタ部分は,全く正
常であり,液体供給システム全体としての完全性を維持しているのが通
常である。
,,,加工の内容及び程度についてインクタンクの交換は加工ではなく
インクの残量不足等に陥った特定のインクタンクのみを交換するという
程度であり,液体供給システム全体の完全性に影響を及ぼすものではな
い。
,,当該部材の特許製品中における技術的機能については前記のとおり
特許製品の印刷機能の大半を担うのは,プリンタ部分である。
経済的価値については,原告製プリンタの価格が1万8000円程度
であるのに対し(乙A38,交換される被告製品2の価格は,1個当)
たり780円程度であり,20倍以上の開きがある。
(エ)取引の実情
原告が原告製インクタンクを製造販売しているのに対し,被告らは,
原告製プリンタにおいて稼動する互換品インクタンク(被告製品2等)
を販売しており,両者は,市場において競合する関係にある。
以上の(ア)ないし(エ)の考慮事由を総合的に検討すると,特許製品であ
る原告製プリンタ及び原告製インクタンクを購入したユーザーが,インク
タンクを被告製品2に交換することにより「同一性を欠く特許製品が新,
たに製造された」とはいえないというべきである。
このように,直接行為者であるユーザーが原告製プリンタのインクタン
クを被告製品2に交換することが本件特許権2の直接侵害に該当しない以
上,被告らが被告製品2を販売する行為に本件特許権2の間接侵害は成立
しない。
ウ被告製品2は本件発明2及び本件訂正発明2の液体供給システム液,「(
体インク供給システム」の「生産に用いる物(特許法101条2号))」
に該当しないこと
特許法101条2号の「生産」とは,供給を受けた「発明の構成要件を
充足しない物を素材として発明の構成要件のすべてを充足する物特」,「(
)」「」,,許製品を新たに作り出すことをいうものと解すべきであり加工
修理,組立て等の行為態様に限定はないものの,供給を受けた物を素材と
して,これに何らかの手を加えることが必要であり,素材の本来の用途に
従って使用するにすぎない行為は含まれないと解するのが相当である。
そうすると,特許製品である原告製プリンタ及び原告製インクタンクを
購入したユーザーが,インクを使い切ったインクタンクを被告製品2に交
換しても「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成,
要件のすべてを充足する物」を「生産」しているとはいえないことは明ら
かである。すなわち,被告製品2を購入したユーザーが,被告製品2を原
告製プリンタに装着する行為は,原告製プリンタから見れば,単に消耗品
を交換するにすぎない行為であり,被告製品2の性質から見れば,本来の
用途に従って使用する行為であるから,このようなユーザーの行為は,社
会通念上,物を「生産」する行為ということはできない。
したがって,被告製品2は,特許法101条2号の「その物の生産に用
いる物」に該当しない。
エ被告製品2は「日本国内において広く一般に流通しているもの(特,」
許法101条2号)に該当すること
「日本国内において広く一般に流通しているもの(特許法101条2」
号)とは,市場において広く取引され,一般に入手することが可能な状態
にある普及品のことをいい,当該特許発明の実施に適しているが,それ以
外の用途も有するものを意味するものと解される。
被告製品2は,市場において広く取引され,一般に入手することが可能
な状態にある普及品である(乙A22。また,被告製品2は,発光と受)
光という本件発明の特徴的機能を有しない,合計67機種のプリンタにお
いても使用することができるのであり,一方,発光と受光の機能を有して
いる原告製プリンタの数は,23機種にすぎない(乙A29。)
したがって,被告製品2は,仮に,本件発明2及び本件訂正発明2の実
施に適しているとしても,それ以外の用途も有する普及品であるといえる
から,特許法101条2号所定の「日本国内において広く一般に流通して
いるもの」に該当する。
オ被告製品2は,本件発明2及び本件訂正発明2の「課題の解決に不可欠
なもの(特許法101条2号)に該当しないこと」
「その発明による課題の解決に不可欠なもの(特許法101条2号)」
とは,当該対象物を用いることにより,初めて「発明の解決しようとして
いる課題」を解決することができるものをいう。
しかしながら,原告製プリンタは,前記のとおり,誤って2個同色を装
着するという,原告製プリンタにおいてインクタンクの誤装着を生ずる唯
一の場合に,発光と受光による誤装着の検出を行わないものであり,そう
である以上,被告製品2は,本件発明2及び本件訂正発明2の課題の解決
に不可欠なものとはいえない。
したがって,被告製品2は,特許法101条2号所定の,本件発明2及
び本件訂正発明2の「課題の解決に不可欠なもの」に該当しない。
[被告らの主張に対する原告の反論]
ア本件特許権2は消尽していないこと
本件発明2及び本件訂正発明2は,プリンタ本体とインクタンクの組合
せから構成されており,いずれも,発明における重要な技術事項を有して
いる。
また,価格については,プリンタ本体の主力機種がおおむね1万円台な
いし数万円程度となっているのに対し,インクタンク一式(全部の色を含
む)は数千円であり,プリンタ本体の通常の使用期間に対応するインクタ
,。ンクの価格を比較すればインクタンクの価格の方が高くなることもある
原告のプリンタシステムの技術において,プリンタ本体とインクタンク
の技術は,共に重要であり,原告は,プリンタ本体及びその消耗品(イン
クタンクや印刷用紙等)へ多大な研究開発投資をし,それら製品の販売を
通じて本件事業への投資の回収を図っているのであるから,原告が両製品
の売上げに依存することは,当然である。そして,需要者によるプリンタ
本体当たりのインクタンク使用量は必ずしも一定しないから,インクタン
クは,需要者が各自の必要に応じて購入する方式の方が合理的な販売方法
である。
このような原告製品の性質上,たとえ,原告製プリンタを新規に購入し
た際に原告製インクタンク一式が添付されているとしても,原告製プリン
タの販売によって,原告が本件発明2及び本件訂正発明2の実施につき無
制限の実施権を付与する意思など有していなかったことは当然であり,需
要者にもそう認識される合理的な状況がある。
交換部材を使用する装置本体の販売において,特許権の消尽が成立する
のは,装置本体が高価であり,装置本体の価格によって発明の対価が回収
されたと合理的に認められる場合,すなわち,プリンタ本体の通常の寿命
の期間における本件発明の利用価値に相当する回収がされた場合であっ
て,かつ,交換部材が特許発明の実質的な構成要件を含まない場合に限ら
れる。
また,平成19年最高裁判決の一般的規準から判断しても,本件は消尽
論の適用されない場合である。すなわち,本件では,特許発明を構成する
プリンタ本体とインクタンクの組合せにおいて,インクタンク部分は,発
明の実施のための本質的な部分である,バス接続に対応する電気的接点,
情報保持部,発光制御機構及びプリンタ本体の受光手段に対して発光する
。,,発光部とを備えているまたバス接続に対応するインクタンクであって
色情報に基づいて作動する発光部と発光制御部を備えるインクタンクは,
被告引用のいずれの公知文献にも記載されておらず新規である。
このように,インクタンクが分担している本件発明2及び本件訂正発明
2の構成要件は,発明の本質的な要素であることが明らかであり,プリン
タ本体の使用者がインクタンクを購入してプリンタ本体に組み合わせる行
為が上記発明の実施に該当することは,平成19年最高裁判決の論理から
も,当然に認められる。
イ被告製品2は「その物の生産に用いる物」に該当すること,
被告らは,特許法101条2号の「生産」とは,供給を受けた「発明の
構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充,
足する物(特許製品」を「新たに作り出す」ことをいい,供給を受けた)
物を素材として,これに何らかの手を加えることが必要であり,素材の本
来の用途に従って使用するにすぎない行為は含まれないと主張する。
しかしながら,被告らの上記定義によったとしても,被告製品2は,そ
れ自体で本件発明2及び本件訂正発明2の構成要件のすべてを充足するも
のではなく,原告製プリンタに装着することによって上記発明が完成する
ものであるから被告製品2を原告製プリンタに装着することは上記生,,「
産」に該当する。
機械製品の特許において,部材を組み合わせて特許製品を完成する場合
の部材の供給が間接侵害に該当することは,ごく普通のことである。
ウ被告製品2は「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該,
当しないこと
被告製品2は,汎用的な用途のある普及品であるネジや釘と異なり,本
,,件発明の実施のために原告製プリンタにのみ適合するように設計された
原告製プリンタの専用品(他のメーカーのプリンタには使用することがで
きないし,プリンタ以外の製品にも使用することができない)であって,
特許法101条2号に該当する汎用品ではない。同号の趣旨からいって,
,,このような専用品はたとえ家電量販店で大量に販売されていたとしても
同号に該当する普及品とはみなされないというべきである。
エ被告製品2は,本件発明2の「課題の解決に不可欠なもの」に該当する
こと
「,原告製プリンタにおいてインクタンクの誤装着を生ずる唯一の場合は
2個同色を装着する場合である」との被告らの主張が誤りであり,原告製
プリンタにおいても,複数のインクタンクを同時に交換することが十分に
あり得ることについては,前記()[被告らの主張に対する原告の反論]1
ウ(イ)のとおりである。
そして,原告製プリンタにおいて複数のインクタンクを同時に交換する
場合には,本件光照合処理が行われるのであり,被告製品2の構成は,本
件光照合処理に欠かせない要素である。
したがって,被告製品2は,本件発明2及び本件訂正発明2の「課題の
解決に不可欠なもの」に該当する。
()争点3−1(本件発明は,進歩性を欠くか)について3
[被告らの主張]
本件発明1及び本件発明2は,以下のとおり,本件特許の最先の優先日前
の公知刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることが
,,できたものであり特許法29条2項に違反して特許されたものであるから
本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。
よって,特許法104条の3第1項により,原告は,被告らに対し,本件
特許権の行使をすることができない。
【本件発明1について】
本件発明1は,本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前で
ある平成14年12月24日に頒布された刊行物である特開2002−37
0378号公報(乙A1。以下「乙A1公報」という)に記載の発明に,。
平成13年10月23日に頒布された刊行物である特開2001−2938
83号公報(乙A2。以下「乙A2公報」という)に記載の発明,平成1。
4年1月9日に頒布された刊行物である特開2002−5818号公報(乙
A18。以下「乙A18公報」という)に記載の発明及び平成4年9月3。
0日に頒布された刊行物である特開平4−275156号公報(乙A4。以
下「乙A4公報」という)に記載の発明を組み合わせることによって,当。
業者が容易に発明をすることができたものである。
また,平成14年5月23日に頒布された刊行物である,WO02/4
(。「」。),0275号国際公開公報乙A30以下乙A30公報というには
後記【本件発明2について】のとおり,乙A1公報記載の発明と同様の構成
が開示されており,乙A1公報記載の発明の構成は,必要であれば,乙A3
0公報記載の発明の構成と置き換えることが可能である。
よって,被告らは,予備的に,本件発明1について,乙A1公報記載の発
明を主引例とし,乙A2公報,乙A18公報,乙A4公報及び乙A30公報
記載の発明を副引例とする,進歩性の欠如を主張する。
ア乙A1公報記載の発明
乙A1公報には次の構成からなる液体収納容器に関する発明以下乙,(「
A1発明1」という)が記載されていると認められる(請求項11,段。
落【0001【0003】∼【0006【0008【0011,】,】,】,】
00340037∼0039004300510【】,【】【】,【】,【】,【
052,図2,図3。】)
1a1複数のインクカートリッジが搭載可能であって,
1a2該インクカートリッジに備えられる端子と電気的に結合可能な装
置側接点と,
1a4搭載されるインクカートリッジそれぞれの前記端子と結合する前
記装置側接点に対して共通に電気的接続する信号線を有した制御回
路とを有する印刷装置に対して
1a5着脱可能なインクカートリッジにおいて,
1b前記装置側接点と電気的に接続可能な前記端子と,
1c少なくともインクカートリッジの識別情報を保持可能な記憶素子
と,
1e前記端子から入力される識別情報に係る信号と,前記記憶素子の
保持する識別情報とに応じて前記制御回路に対して応答信号を送信
する記憶装置と,
1fを有することを特徴とするインクカートリッジ。
イ本件発明1と乙A1発明1の一致点
乙A1発明1の構成と本件発明1の構成要件とを対比すると,乙A1発
明におけるインクカートリッジ端子信号線印刷装置記「」,「」,「」,「」,「
憶素子「記憶装置「識別情報」及び「制御回路」が,それぞれ,本」,」,
件発明1における「液体収納容器「接点「配線「記録装置「情」,」,」,」,
報保持部「制御部「個体情報」及び「電気回路」に対応することは」,」,
明らかである。
したがって,本件発明1と乙A1発明1は「複数の液体収納容器が搭,
載可能であって,該液体収納容器に備えられる接点と電気的に結合可能な
装置側接点と,搭載される液体収納容器それぞれの前記接点と結合する前
記装置側接点に対して共通に電気的接続する配線を有した電気回路とを有
する記録装置に対して着脱可能な液体収納容器において,前記装置側接点
と電気的に接続可能な前記接点と,少なくとも液体収納容器の個体情報を
,,保持可能な情報保持部と前記接点から入力される個体情報に係る信号と
前記情報保持部の保持する個体情報とに応じて所定の動作を行う制御部
と,を有することを特徴とする液体収納容器」である点において一致す。
る。
ウ本件発明1と乙A1発明1の相違点
本件発明1と乙A1発明1とは,本件発明1が,記録装置側に「受光手
段(構成要件1A3)を有し,液体収納容器側に「発光部(構成要件」」
1D)及び「発光部の発光を制御する制御部(構成要件1E)を有する」
のに対し,乙A1発明1は,かかる「受光手段「発光部」及び「発光」,
部の発光を制御する制御部」を有しない点で,相違する。
しかしながら,次のとおり,上記相違点は,乙A1発明1に,乙A2公
報,乙A18公報及び乙A4公報記載の発明を組み合わせることにより当
業者が容易に想到することができたものであり,この点について,本件発
明1に進歩性が肯定されるものではない。
(ア)乙A2公報記載の発明
乙A2公報の記載からは「インクタンクに設けることが可能な半導,
体素子であって,インクヘッド等に設けた他の半導体素子や記録装置と
の間で,光を通信手段として情報を伝達する情報伝達手段と,インクタ
ンクのIDを記憶した情報蓄積手段と,判断手段とを備えた半導体素子
についての構成」を把握することができる(段落【0014】∼【0。
016【0019【0055【0062【0063【00】,】,】,】,】,
76【0082,図3。】,】)
上記判断手段は,記録装置から送信されるIDと情報蓄積手段に記憶
されたIDとを比較し,一致した場合において,所定の条件下で情報伝
達手段に情報を表示,伝達させるものである。
したがって,乙A2公報には,液体収納容器に情報伝達手段としての
「」,,発光部を設け記録装置側から送られてくる個体情報に係る信号と
,「」情報保持部の保持する個体情報とに応じて発光部を制御する制御部
を設けることが,開示されている。
(イ)乙A18公報記載の発明
乙A18公報の記載からは「インクタンク内に設けた半導体素子か,
らの光を受光する光センサを記録装置に設ける構成」を把握すること。
ができる(請求項7,8,段落【0007【0061,図7。】,】)
したがって乙A18公報には液体収納容器からの光を受光する受,,「
光手段」が開示されている。
また,同公報には,複数のインクタンクが所定の位置に装着される記
録装置において,記録装置側からの信号によってインクタンク側の半導
体素子の発光を制御し,半導体素子からの発光を記録装置側に設けた光
センサによって受光し,インクタンクが不適切な位置に装着されたこと
,。を検知しユーザーに警告を発することができることが記載されている
そして,請求項4に「前記エネルギー変換手段が変換する外部エネル,
ギーは非接触で供給される,請求項1から3のいずれか1項に記載の立
体形半導体素子」と記載されていることから,請求項1ないし3におい
ては,外部エネルギーが素子と接触の状態で供給される場合も含まれる
ことは明らかである。
(ウ)乙A4公報記載の発明
乙A4公報の記載からは「インクタンクの上面に,インクエンド表,
示用LED,ニアエンド表示用LED,通電回数累積値を記憶するEE
PROMをそれぞれ設け,I/Oポートに各LEDの表示回路にそれぞ
れ駆動信号を出力する表示ドライバを接続し,EEPROMに記憶され
た通電回数累積値があらかじめ設定した判定値まで達すると,表示ドラ
イバに駆動信号を出力してLEDを点灯させる構成」を有した記憶装。
置について,把握することができる(段落【0015【0017,】,】
【0021。】)
すなわち,乙A4公報には,液体収納容器に報知手段としての「発光
部」を設け,EEPROMに保持している通電回数累積値に応じて発光
部を制御する「制御部」を設けることが,開示されている。
(エ)上記各発明と本件発明1との共通性
a技術分野の共通性
乙A1発明1と,乙A2公報,乙A18公報及び乙A4公報記載の
発明は,いずれも,インクカートリッジや記録装置,又は,これらに
取付け可能な半導体素子もしくはLEDについての発明であるから,
本件発明1と技術分野を共通にする。
b課題の共通性
乙A1発明1は,バス接続された複数のインクカートリッジにおい
,,てインクカートリッジの記憶素子に記憶させた識別情報を利用して
インクカートリッジを個々に識別し,装着の有無及び通信異常の有無
を検出する技術に関するものであり,バス接続において個々のインク
カートリッジを識別する技術という点で,本件発明1と課題を共通に
する。
乙A18公報記載の発明は,複数のインクタンクがインクの種類に
従って所定の位置に装着されるよう構成されている記録装置におい
て,インクタンクの形状を異ならせることなく,ユーザーによるイン
クタンクの誤装着を防止するための発明であり,本件発明1と課題を
共通にする。
また,乙A2公報記載の発明の半導体素子は,素子の位置を確認の
上,交換が必要なインクタンクを特定する実施例に適用することがで
きるものであり,乙A4公報記載の発明のLEDは,インクエンドや
インクニアエンドを報知するためのものである。
したがって,乙A1発明1並びに乙A2公報,乙A18公報及び乙
A4公報記載の各発明の課題は,いずれも,本件発明1の課題と共通
する。
c作用・機能の共通性
(a)乙A1発明1は,インクカートリッジに設けた記憶装置に識別
情報を持たせることにより,バス接続においても個々のインクカー
トリッジを識別し,通信異常の発生しているインクカートリッジを
特定することができるものであるから,同発明は,作用ないし機能
の点で,本件発明1と共通性がある。
(b)乙A18公報記載の発明は,インクタンク側に発光部及び記録
装置側に受光手段を設け,インクタンク内のインクを透過した光を
上記受光手段で受光することにより,装着されたインクタンクを識
別し,誤装着があれば,ユーザーに報知することができるものであ
るから,同発明は,作用ないし機能の点で,本件発明1と共通性が
ある。
d記載内容中の示唆
(a)乙A1公報には,複数のインクカートリッジをバス接続し,各
カートリッジに記憶装置を設けて識別する構成が開示されている
が,インクカートリッジに「発光部」を設けることについて,直接
の記載はない。
しかしながら,同公報には,記録装置側から送出されてきた識別
情報とインクカートリッジの記憶装置が格納している識別情報とが
一致する場合に,同記憶装置は記録装置の制御回路に対して応答信
号を送り返すものとすることにより,同制御回路は,応答のない記
憶装置を備えるインクカートリッジを検出することができ,かかる
インクカートリッジを検出したときは,各インクカートリッジに対
応して備えられた操作パネル上のランプを点滅させる構成が開示さ
れている(段落【0051】∼【0052。】)
すなわち,上記発明は,ユーザーへの報知手段として光を利用す
ることを前提としているものであるから,上記「応答信号」を記録
装置の制御回路に送り返す際に,ユーザーへの報知を兼ねて,光に
よる通信手段を用いることについても,示唆があるというべきであ
る。
(b)乙A18公報には,インクタンクに設けた半導体素子からの発
光を記録装置に設けた光センサによって受光する構成が開示されて
いるものの,インクタンクをバス接続することについて,直接の記
載はない。
しかしながら,同公報記載の発明は,複数のインクタンクを搭載
する記録装置に対して適用することを前提としており,キャリッジ
上に搭載されたインクタンクを所定の位置に移動させた上で,イン
クタンクに設けた半導体素子を発光させることも可能である。
したがって,乙A18公報には,同公報記載の発明をバス接続の
場合にも適用することができることについて,示唆されている。
(オ)小括
以上のとおり,乙A18公報記載の発明の「光センサ」は,本件発明
1の「受光手段(構成1A3)に,乙A2公報記載の発明の「半導体」
素子」は,本件発明1の「発光部(構成1D)及び「制御部(構成」」
1E)に,乙A4公報記載の発明のインクエンド又はインクニアエンド
報知用の「LED」は,本件発明1の「発光部(構成1D)に,それ」
ぞれ,相当するものである。
また,乙A1発明が,信号線を通じて応答信号を制御回路に送信して
いる点については,記録装置側に乙A18公報の「光センサ」のような
「受光手段」を設け,液体収納容器側に乙A4公報の「LED」ないし
乙A2公報の「半導体素子」のような「発光部」を設けて,光を介して
情報伝達する手段と置き換えることにより,本件発明1のように構成す
ることは,当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。
したがって,乙A1発明1に,乙A2公報,乙A18公報及び乙A4
,,公報記載の各発明を組み合わせることで液体収納容器に発光部を設け
記録装置からの信号により,バス接続された液体収納容器を識別して発
光を制御し,誤装着を検出できるようにすること(すなわち,前記相違
点に相当する構成を備えること)は,当業者であれば容易に想到する。
ことができたものである。
【本件発明2について】
本件発明2は,乙A30公報記載の発明に,乙A2公報,乙A18公報及
び乙A4公報記載の各発明を組み合わせることによって,当業者が容易に発
明をすることができたものである。
また,前記【本件発明1について】のとおり,乙A1公報には,乙A30
公報記載の発明と同様の構成が開示されており,乙A30公報記載の発明の
構成は,必要であれば,乙A1公報記載の発明の構成と置き換えることが可
能である。
よって,被告らは,予備的に,本件発明2について,乙A1公報記載の発
明を主引例とし,乙A2公報,乙A18公報,乙A4公報及び乙A30公報
記載の各発明を副引例とする,進歩性の欠如を主張する。
ア乙A30公報記載の発明
乙A30公報にには,次の構成からなるインク供給システムに関する発
明(以下「乙A30発明2」という)が記載されていると認められる(1
頁10行∼13行,同頁16行∼19行,2頁1行∼4行,同頁6行∼9
行,15頁6行∼7行,16頁21行∼24行,18頁8行∼14行,2
0頁2行∼6行,同頁17行∼19行,21頁13行∼22頁6行,同頁
9行∼13行,25頁23行∼26頁4行,同頁6行∼18行,同頁21
行∼27頁10行,同頁13行∼21行,30頁26行∼31頁23行,
同頁25行∼34頁3行,同頁8行∼25行,41頁17行∼23行,4
3頁1行∼4行,図11,16,17。)
2a1複数のインクカートリッジが互いに異なる位置に搭載可能であっ
て,
2a2該インクカートリッジに備えられる端子と電気的に結合可能な装
置側接点と,
2a3前記複数のインクカートリッジを搭載したキャリッジの移動によ
り所定の位置にインクカートリッジが入れ換わるように配置可能
で,
2a4搭載されるインクカートリッジそれぞれの前記端子と結合する前
記装置側接点に対して共通に電気的接続し識別データに係る信号を
発生するための信号線を有した制御回路とを有する記録装置と,
2b前記記録装置のキャリッジに対して着脱可能なインクカートリッ
ジと,
2cを備える液体供給システムにおいて,
2d1前記インクカートリッジは,前記装置側接点と電気的に接続可能
な前記端子と,
2d2少なくともインクカートリッジの識別データを保持可能なメモリ
アレイと,
2d4前記端子から入力される識別データに係る信号と,前記メモリア
レイの保持する識別データとが一致した場合に前記制御回路に対し
て応答信号を送信する制御部と,
2eを有することを特徴とする液体供給システム。
イ本件発明2と乙A30発明2の一致点
乙A30発明2の構成と本件発明2の構成要件とを対比すると,乙A3
0発明2における「インクカートリッジ「端子「信号線「印刷装」,」,」,
置メモリアレイ記憶装置識別データ制御回路及び印」,「」,「」,「」,「」「
刷記録材容器の識別装置」が,それぞれ,本件発明2における「液体収納
容器「接点「配線「記録装置「情報保持部「制御部「個体」,」,」,」,」,」,
情報「電気回路」及び「液体供給システム」に対応することは明らか」,
である。
したがって,本件発明2と乙A30発明2は「複数の液体収納容器が,
互いに異なる位置に搭載可能であって,該液体収納容器に備えられる接点
と電気的に結合可能な装置側接点と,前記複数のインクカートリッジを搭
載したキャリッジの移動により所定の位置にインクカートリッジが入れ換
わるように配置可能で,搭載される液体収納容器それぞれの前記接点と結
合する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し個体情報に係る信号を
発生するための配線を有した電気回路とを有する記録装置と,前記記録装
置のキャリッジに対して着脱可能な液体収納容器と,を備える液体供給シ
ステムにおいて,前記液体収納容器は,前記装置側接点と電気的に接続可
能な前記接点と,少なくとも液体収納容器の個体情報を保持する情報保持
部と,前記接点から入力される前記個体情報に係る信号と,前記情報保持
部の保持する個体情報とが一致した場合に前記制御回路に対して所定の動
作を行う制御部と,を有することを特徴とする液体供給システム」であ。
る点において一致する。
ウ本件発明2と乙A30発明2の相違点
本件発明2と乙A30発明2とは,本件発明2が,記録装置側に「液体
収納容器位置検出手段構成要件2A3を有し液体収納容器側に発」(),「
光部(構成要件2D3)及び「発光部を発光させる制御部(構成要件」」
2D4)を有しているのに対し,乙A30発明2は,かかる「液体収納容
器位置検出手段「発光部」及び「発光部を発光させる制御部」を有し」,
ていない点で,相違する。
しかしながら,次のとおり,上記相違点は,乙A30発明2に,乙A2
公報,乙A18公報及び乙A4公報記載の各発明を組み合わせることによ
り当業者が容易に想到することができたものであり,この点について,本
件発明2に進歩性が肯定されるものではない。
すなわち,乙A2公報,乙A18公報及び乙A4公報には,前記【本件
発明1について】記載の各構成が開示されており,乙A18公報記載の発
明の「光センサ」が,本件発明2の「液体収納容器からの光を受光するこ
とによって前記液体収納容器の搭載位置を検出する液体収納容器位置検出
」(),「」,手段構成要件2A3に乙A2公報記載の発明の半導体素子が
本件発明2の「前記位置検出手段に投光するための発光部(構成要件2」
)「」D3及び個体情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部
(構成要件2D4)に,乙A4公報記載の発明のインクエンド又はインク
ニアエンド報知用の「LED」が,本件発明2の「発光部(構成要件2」
),,【】D3にそれぞれ相当することについては前記本件発明1について
と同様である。
また,乙A30発明2は,複数色のインクカートリッジを備える記録装
置において,インクカートリッジの交換時等に,交換されるべきインク色
とは異なるインクカートリッジを誤装着するのを防止するための技術であ
り,外形的な識別形状を用いることなく誤装着を防止することを目的とす
るものであるから,本件発明2と課題が共通する上,インクカートリッジ
に設けた記憶装置に識別データを持たせることにより,バス接続において
も個々のインクカートリッジを識別し,インクタンク交換時の誤装着を検
出することができるものであるから,作用ないし機能の点でも,本件発明
2と共通性がある。
なお,乙A30公報には,複数のインクカートリッジをバス接続し,各
カートリッジに記憶装置を設けて識別する構成が開示されているものの,
インクカートリッジに「発光部」を設けることについて,直接の記載はな
い。
しかしながら,同公報には,搭載されているインクカートリッジに対応
する数のLEDをキャリッジ上に設け,インクカートリッジの交換時に,
キャリッジをインク交換位置まで移動させた後,交換の対象となるインク
カートリッジに対応するLEDを点滅させて,交換対象のインクカートリ
ッジをユーザーに指し示したり(図21,誤ったインクカートリッジの)
装着の報知に際し,記録装置上の表示ランプを利用することができること
が開示されている(35頁15∼18行目。すなわち,同公報記載の発)
明は,ユーザーへの報知手段として光を利用することを前提としているか
ら,記録装置から送出される識別データとインクカートリッジに記憶して
いる識別データが一致して応答信号を記録装置側の制御回路に送り返す際
,,にユーザーへの報知を兼ねて光による通信手段を用いることについても
示唆があるというべきである
したがって,乙A30発明2に,乙A2公報,乙A18公報及び乙A4
公報記載の各発明を組み合わせることで,液体収納容器に発光部を設け,
記録装置からの信号により,バス接続された液体収納容器を識別して発光
を制御し,誤装着を検出できるようにすること(すなわち,上記相違点に
相当する構成を備えること)は,当業者であれば容易に想到することが。
できたものである。
エその他の引用例
被告らは,補足的に,平成14年10月15日に頒布された刊行物であ
る特開2002−301829号公報(乙A3。以下「乙A3公報」とい
う,平成10年9月2日に頒布された刊行物である特開平10−23。)
0616号公報(乙A5。以下「乙A5公報」という,平成15年1。)
0月21日に頒布された刊行物である特開2003−300358号公報
(乙A51。以下「乙A51公報」という,平成14年3月26日に。)
頒布された刊行物である特開2002−86697号公報(乙A6。以下
「乙A6公報」という,平成14年1月9日に頒布された刊行物であ。)
る特開2002−5724号公報(乙A17。以下「乙A17公報」とい
う)及び平成14年1月18日に頒布された刊行物である特開2002。
−14870号公報(乙A37。以下「乙A37公報」という)に記載。
の発明を,副引用例として主張する。
(ア)乙A3公報記載の発明
乙A3公報の記載からは「インク残量が少ないことをユーザーに報,
知するためにインクタンクにLEDからなる発光部を設ける構成」を。
把握することができる(段落【0023【0026。】,】)
乙A3公報の上記構成からすると,インクエンド又はインクニアエン
,,ドをユーザーに報知する手段としてインクタンクごとにランプを設け
その発光の状態を制御することは,公知の事柄であるといえる。
(イ)乙A5公報記載の発明
乙A5公報の記載からは「キャリッジに搭載された複数のインクカ,
ートリッジについて,夫々インク残量の検知を行うために,記録装置側
に「発光部」と「受光部」を設け,キャリッジを移動させつつ,インク
カートリッジの収納物残量検知部に向けて,記録装置側の「発光部」か
ら発光し,その反射光を「受光部」で受光する構成」を把握すること。
ができる(請求項1,段落【0006【0052【0054。】,】,】)
上記構成からすると,インクカートリッジを記録装置側に設けた発光
部と対向可能な位置までキャリッジで移動させ,所定の位置に移動させ
た後に発光及び受光の処理を行う点に,困難性は認められない。
(ウ)乙A51公報記載の発明
乙A51公報の記載からは「複数のインクカートリッジに回路チッ,
プをそれぞれ設け,その回路チップのフラッシュメモリにインクカート
リッジを識別するデータを記憶させ,インクカートリッジの「無線通信
回路」と記録装置の「通信ユニット」の間で無線通信を行って,正常に
装着されていないインクカートリッジを特定する構成」を把握するこ。
とができる(段落【0034】∼【0036【0043。】,】)
上記構成からすると,バス接続されたインクカートリッジを識別して
誤装着等の検出を行う乙A1発明1及び乙A30発明2の構成に対し,
記録装置とインクカートリッジの間の情報伝達手段として,乙A2公報
及び乙A18公報記載の発明のような無線通信手段を採用することは,
当業者であれば容易に想到できる事柄であるというべきである。
(エ)乙A6公報記載の発明
乙A6公報の記載からは「ユーザーに発光ダイオードを用いてイン,
クエンド等の状態を報知する際に,発光ダイオードの点灯状態とキャリ
ッジの停止位置を組み合わせることにより,少ない発光ダイオードであ
ってもインクエンドの状況を分かりやすくユーザーに知らせる構成」。
を把握することができる(請求項2,段落【0094。】)
上記構成からすると,キャリッジに搭載したインクカートリッジに対
し停止位置も組み合わせて発光制御すること(本件発明2における本件
光照合処理の構成をとること)には,何ら困難性が認められない。
(オ)乙A17公報記載の発明
乙A17公報の記載からは「判断手段と情報蓄積手段と光を用いた,
情報伝達手段とを備え,インクタンクの内部情報を外部に伝達可能な半
導体素子であって,半導体素子のみで通信するのではなく,インクジェ
ット記録装置の通信回路に対しても情報伝達可能な構成」を把握する。
ことができる(段落【0038【0039【0044【004】,】,】,
6【0052【0053。】,】,】)
上記構成からすると,上記(ウ)と同様,乙A1発明1及び乙A30発
明2の構成に乙A2公報及び乙A18公報記載の各発明を組み合わせる
ことは,当業者であれば容易に想到することができる事柄であるといえ
る。
(オ)乙A37公報記載の発明
乙A37公報の記載からは「記録装置側から送られてくる色情報に,
ついての「IDデータ」と自身が保持している色情報についての「ID
データ」の一致,不一致の判断を行い,アクセス許可信号を送出するこ
とで,以後の制御コードの受入,無視の処理を行う構成」を把握する。
ことができる(段落【0058【0079。】,】)
本件発明2において液体収納容器側に設ける「制御部」は,制御部と
いう名称が付けられていても「色情報」以後の「制御コード」の受入,
れ又は無視の処理を行うだけのものであり,そのような構成は,乙A2
公報,乙A30公報及び乙A37公報に開示されているといえる。
また,乙A37公報には,先頭の3ビットがインクの色に対応した識
別データであり,次の4ビット目が読み込み又は書き込みを指示するコ
マンド部であり,5ビット目以降がメモリアレイに書き込む情報である
ように設計されたデータ列が開示されているから,本件明細書に記載さ
れているように「個体情報に係る信号」と共に「個体情報と共に入力,
される制御に係る信号」を用いて制御を行う点も,公知の事柄であると
いえる。
[原告の主張]
被告らの主張を否認ないし争う。
仮に,本件特許に被告らの主張する無効理由があるとしても,原告は,前
記のとおり本件訂正の請求をしているため,本件訂正によって上記無効理由
を解消することができる(なお,本件訂正発明に進歩性が認められることに
ついては,後記()のとおりである。また,後記()ないし()において被告847
らの主張する無効理由についても,上記()の無効理由と同様に,本件訂正3
によって無効理由を解消することができる。。)
()争点3−2(本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項14
号(サポート要件)に違反するか)について
[被告らの主張]
構成要件1E及び2D4には,液体収納容器に「発光部の発光を制御する
制御部」ないし「発光部を発光させる制御部」を備えるべきことが記載され
ている。
しかしながら,前記()[被告らの主張]イ(ウ)のとおり,上記構成要件1
「」,「,,,,における制御とは発光部の発光をいつどのタイミングで点灯
点滅,消灯のいずれの状態とするのかについて,自身でコントロールし,ま
た,発光部の点滅速度を自身で調節し得る機構」を指すと解するのが相当で
ある。本件明細書の記載(段落【0075【0077】∼【0079,】,】
【0083【0088【0094【0110】∼【0113【0】,】,】,】,
115【0116)によれば,液体収納容器側の「制御部」は,記録装】,】
置側から送られてくる「色情報」と自身が保持している「色情報」の一致,
不一致により,点灯,消灯の「制御コード」の受入れ,無視の処理を行って
いるにすぎず,自身が「発光部の発光を制御する」ものではなく,そのよう
な発光部の点灯制御は,記録装置側の「制御回路300」で行っていること
が明らかである。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,液体収納容器に備えら
「」「」れた発光部の発光を制御する制御部ないし発光部を発光させる制御部
という構成が開示されているとは認められず,特許法36条6項1号に違反
する。
[原告の主張]
前記()[被告らの主張に対する原告の反論]ウのとおり,本件明細書に1
は,液体収納容器に設けられた制御素子103(より正確には,その内部の
入出力制御回路103A及びLEDドライバ103C)により,液体収納容
,。器に設けられた発光部の点灯消灯が制御されていることが明記されている
したがって,本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号
に違反するものではない。
()争点3−3(本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項25
号(明確性要件)に違反するか)について
[被告らの主張]
【本件発明1について】
,「」,本件発明1は液体収納容器という物の発明に関するものであるから
「液体収納容器」の構成自体に技術的特徴を備え,特許請求の対象である物
の発明として特定することができるものでなければ,請求項の記載が明確で
あるとはいえない。
しかしながら,本件発明1の請求項は,その液体収納容器が装着されるで
あろう記録装置側の構造や,記録装置から送られてくる信号及びそれに基づ
く制御の形態について記載されている。
物の発明に係る請求項の記載において,その「特許請求されている物」自
体の構造,動作を特定するのではなく,関連する「他の物」の構造や動作に
よって「特許請求されている物」を特定する記載表現を用いることが,直ち
に請求項の記載を不明確なものとするわけではないものの,そのような記載
表現が許容されるのは「他の物」の構造等を記載することによって「特,,
許請求されている物」の発明を明確に特定し「特許請求されている物」の,
技術的特徴を把握することができる場合に限られ,そのような特定をするこ
とができない記載は,特許法36条6項2号に違反する不明確なものである
というべきである。
本件発明1については,次のとおり「他の物(記録装置)の構造等を,」
特定することによって「特許請求されている物(液体収納容器)の発明,」
特定事項が明確に特定されているものではないので,特許法36条6項2号
に違反する。
ア「発光部」と「受光手段」の関係が不明確であること
本件発明1では,液体収納容器が「発光部(構成要件1D)を有し,」
液体収納容器が着脱される記録装置は「液体収納容器からの光を受光す,
る受光手段(構成要件1A3)を有する。」
しかしながら,請求項1の記載からは,記録装置側の「液体収納容器か
」「」,「」らの光を受光する受光手段の液体収納容器からの光とは発光部
が発した光を指すのか,それ以外の,例えば,記録装置側から発せられる
光が液体収納容器に反射した反射光なども含むのか否かが,全く不明であ
り「液体収納容器からの光を受光する受光手段」という記載により,液,
体収納容器側の「発光部」の配置や構成は何ら特定されていない。
したがって,上記記載は,液体収納容器の発明特定事項としては,不明
確である。
また,液体収納容器の「発光部」が記録装置側の「受光手段」に投光さ
れて,光を介した情報伝達手段として機能し得るか否かは,液体収納容器
に「発光部」を設けるだけでなく「発光部」と「受光手段」の位置関係,
等いかんにもよる。すなわち,本件発明1の「制御部」が,接点から入力
された個体情報と情報保持部で保持していた個体情報等に応じて発光部の
発光を制御するとしても,それが装置側の受光手段に情報を伝達できるか
否かは,液体収納容器が特定の記録装置に装着された時に初めて確認でき
ることである。本件発明1においては「発光部」から発光された光がど,
こに向かうかは,液体収納容器の構成としては問題としていないのである
から,液体収納容器としてみるならば,発光部が,記録装置側の受光手段
との間で光を介した情報伝達手段としての機能を実現できる可能性を持っ
ている,と規定しているにすぎない。
したがって,本件発明1は,その記載から発明を明確に特定することが
できず,技術的にも不明確なものとなっている。
さらに,請求項1の記載からは「発光部」が発した光が「受光手段」,
に向けて投光されない構成(例えば,記録装置との通信手段としてではな
く,ユーザーの目のみに向けて液体収納容器の装着の適否や,インク切れ
を報知するために発光する発光部)を備えた液体収納容器についても本。
件発明1の技術的範囲に含まれるものかどうかが,不明確である。
イ「電気回路」と液体収納容器の関係が不明確であること
構成要件1A4には,記録装置が「搭載される液体収納容器それぞれ,
の前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通に電気的接続する配線
を有した電気回路」を有する旨の記載があるが,本件発明1が特許請求し
ている対象物である「液体収納容器」の発明特定事項には,上記「電気回
路」との関係が何ら記載されていない。
したがって,上記記載は,液体収納容器の発明特定事項としては不明確
である。
【本件発明2について】
ア「位置検出手段」と「液体収納容器位置検出手段」の関係が不明確であ
ること
本件発明2では,液体収納容器の発光部は「前記位置検出手段(構,」
成要件2D3)に投光するためのものであることが特定されているが,請
,「」,求項5の記載上位置検出手段という名称の手段は定義されておらず
記録装置側の構成として記載されているのは「液体収納容器位置検出手,
段(構成要件2A3)という,異なる名称の手段である。」
このように,請求項5には「液体収納容器位置検出手段」という記載,
と「位置検出手段」という記載があり,用語が統一されていないため,,
これら2つの手段の関係が不明確となっている。また,本件明細書の発明
の詳細な説明には「位置検出手段」が「液体収納容器位置検出手段」と,
同義であるとか,その略称であるという説明又は用語の定義は,存在しな
い。
したがって,本件発明2は「位置検出手段」と「液体収納容器位置検,
出手段」の関係が明確でなく,技術的にも不明確なものである。
イ「位置検出手段」及び「液体収納容器位置検出手段」が何を指すのかが
不明確であること
本件明細書の発明の詳細な説明には,請求項5に記載されている「位置
検出手段」及び「液体収納容器位置検出手段」が,段落【0021】以下
に記載されている実施例における記録装置のどの構成に対応するのかにつ
。,,「」いての説明が存在しないすなわち本件発明5は請求項5で∼手段
と上位概念で記載しているにもかかわらず,発明の詳細な説明において,
請求項に記載した手段を実現するための具体的構成が例示されておらず,
当該手段の意味するところが不明確となっている。
そのため,本件明細書の記載からは「位置検出手段」及び「液体収納,
容器位置検出手段」が,どのような機構によって液体収納容器の位置を検
出するのかが不明であり,これらの手段と液体収納容器の「発光部」との
位置関係や制御関係も不明であるため,発明を特定することができない。
ウ「前記位置検出手段に投光するための発光部」の記載が明確でないこと
本件発明2には,液体収納容器が「前記位置検出手段に投光するための
発光部(構成要件2D3)を有することが記載されている。」
しかしながら「前記位置検出手段に投光するため」という記載は「発,,
」,,光部を設ける目的を記載したものにすぎず液体収納容器のどの位置に
どのような構成の「発光部」を設けるのかについては,何ら具体的に特定
。,「」,されていない具体的な特定がなければ発光部から発光された光が
記録装置側の「位置検出手段」に投光されるものか,ユーザーの目に向け
て投光されるものかなど区別のしようがなく,かかる請求項の記載は,不
明確である。
[原告の主張]
【本件発明1について】
本件発明1は,いわゆるサブコンビネーション形式の発明であり,請求項
1のプリンタ本体の構成要件と組み合わせられて,組合せとしての機能をす
べて実現する構成を有するか否かによって,請求項1のインクタンクの範囲
が定まるものであり,明確性に欠けることはない。
ア「発光部」と「受光手段」の関係は明確であること
本件訂正後の請求項1では,液体収納容器の「発光部」が発した光が記
録装置の「受光手段」に向けて投光される関係にあり,特定の位置関係で
受光手段がインクタンクから受光した光に基づいて,インクタンクの位置
検出がされることが明記された(構成要件1A3,1A5,1D。’’’)
また,本件訂正後の請求項1において,記録装置側から発せられる光を液
体収納容器が反射する場合や,ユーザーの目のみに向けて発光するインク
タンクを搭載した場合が包含されないことは,明白である。
これらの点は,本件訂正前の請求項1についても,当然そのように解さ
れたはずの内容ないし十分理解し得た内容である。
イ「電気回路」と液体収納容器の関係は明確であること
本件発明1におけるインクタンクは,プリンタの構成要件全部を充足す
るプリンタに使用されることによって,請求項1の技術的範囲に属するこ
とになるものである。
本件発明1ないし本件訂正発明1において「電気回路」は「配線」,,
と共に,インクタンクの制御部に対して色情報及び制御情報を与え,それ
により,インクタンクの制御部が作動して発光部を発光させることが,請
求項1の内容である。
したがって「電気回路」とインクタンクの関係は,明確である。,
【本件発明2について】
本件訂正後の請求項3では,本件訂正前の「位置検出手段」という用語及
び「液体収納容器位置検出手段」という用語が,いずれも「液体インク収納
容器位置検出手段」と訂正されたため,被告らの指摘する問題点は解消され
ている。
また,請求項に記載された「液体収納容器位置検出手段」や「発光部」の
具体的構成については,本件明細書を見た当業者が,その技術常識に基づい
て理解することが困難な点があるとは考えられず,被告らの主張は理由がな
い。
()争点3−4(本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条46
項1号(実施可能要件)に違反するか)について
[被告らの主張]
ア「発光部」と「受光手段」ないし「液体収納容器位置検出手段」がいか
なる位置関係であっても実施可能であるとは認められないこと
本件発明1は,液体収納容器が「発光部(構成要件1D)を有し,記」
録装置が「該液体収納容器からの光を受光する受光手段(構成要件1A」
3)を有することが記載されているものの「発光部」と「受光手段」の,
位置関係は,何ら特定されていない。
また,本件発明2の請求項5には,液体収納容器が「前記位置検出手段
に投光するための発光部(構成要件2D3)を有することが記載されて」
いるものの「前記位置検出手段に投光するため」のものであるという,,
「発光部」の目的が記載されているだけであり「発光部」と「液体収納,
容器位置検出手段」の位置関係を特定する記載はない。
すなわち,本件発明1及び本件発明2は,液体収納容器の任意の位置に
発光部が存在しそれに対していかなる位置に受光手段ないし液「」,「」「
体収納容器位置検出手段(両者を併せて,以下「受光手段等」という)」。
,,,が存在しようとも受光手段等は発光部からの光を受光することができ
,,それによってインクタンクの誤装着の検出等ができることになっており
「発光部」と「受光手段等」がいかなる位置関係であっても技術的範囲に
含まれるよう特許請求されている。
しかしながら,音波や電波とは異なり,光を通信手段として用いるので
あれば「発光部」は「受光手段等」に対して投光可能な位置に存在し,,
なければならないはずであり,例えば「発光部」と「受光手段等」の間,
に液体収納容器を構成する部材が介在する場合に,どのようにすれば受光
手段に向けて投光できるのか,本件明細書の記載からは不明である。
したがって,本件明細書は「発光部」と「受光手段等」がいかなる位,
置関係であっても当業者が本件発明1を実施できるように,明確かつ十分
にその発明の実現手段が開示されているとはいえない。
イ受光手段等が隣接位置からの発光を誤装着として検出しないようにする
手段が不明であること
本件特許における「キャリッジに搭載された複数のインクタンクについ
て,その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させるとともに,
上記処置の位置での発光を検出するようにすることにより,発光が検出さ
れないインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識できる」。
(本件明細書の段落【0019)という効果を達成するためには,受光】
手段等が特定のインクタンクの発光部からの発光のみを受光するように,
何らかの構成を付加することが不可欠である。
すなわち,本件明細書の記載からは,誤装着されているインクタンクの
位置が正しい装着位置と隣接している場合,どのようにすれば,隣接して
いる位置からの発光やその他プリンタの使用環境に存在する周囲の光は受
光せずに,インクタンクが誤装着しているものとして区別して認識するこ
,。,とができるのかその実現手段が明確でない何らの手段も講じなければ
,,プリンタ装置側の受光手段等はプリンタの使用環境に存在する周囲の光
少なくとも隣接位置からの発光は受光してしまうはずである。
しかしながら,本件発明1及び本件発明2は,そのような構成を設ける
ことなく「該液体収納容器からの光を受光する受光手段(構成要件1,」
A3)ないし「該液体収納容器からの光を受光することによって前記液体
収納容器の搭載位置を検出する液体収納容器位置検出手段(同2A3)」
と,インクタンクからの光を受光することができるものとして特許請求さ
れており,本件明細書において,その実現手段は明らかにされていない。
したがって,本件明細書には,当業者が本件発明を実施できるように明
確かつ十分に発明の実現手段が開示されているとはいえず,特許法36条
4項1号(実施可能要件)に違反する。
[原告の主張]
ア「発光部」と「受光手段等」との位置関係について
インクタンクの具体的な構成の実施例については,本件明細書の発明の
詳細な説明の段落【0021】ないし【0150】及び図1ないし40に
よって詳細に説明されており,当業者が本件発明を実施できるように明確
かつ十分に発明の実現手段が開示されている。
したがって,特許法36条4項1号に違反するものではない。
イ受光手段等が隣接位置からの発光を誤装着として検出しないようにする
手段について
「」,,,この程度の実現手段は明細書に記載がなくても当業者であれば
技術常識から容易に設定することができる。一例として,最も容易な方法
は,受光手段の信号について適当な閾値を設けて,それ以上の光かそれ以
下の光かで区別する方法である。隣接している位置からの光やプリンタの
周囲の光は,直接受光手段に向き合っているインクタンクからの光に比べ
て数段その強さが落ちるため,適当な閾値を設定して,それより強いか弱
いかで判断すれば,受光手段に向き合ったインクタンクからの発光をその
他の光から区別することは,たやすいことである。
いかなる種類のセンサーといえども,そこから得られた信号について,
システムが反応すべきレベルの信号と,雑音等として捨て去るべきレベル
の信号とを区別するために,適当な閾値を設定しそれを超えるか否かで区
別することは,当業者にとっては技術常識である。
[原告の主張に対する被告らの反論]
閾値を設けることについて,本件明細書には一切記載がない。また,閾値
を設けるだけでは,連続的に導入される隣接位置からの光を区別することは
当業者にとって容易ではない。すなわち,隣接するインクタンクは強い光を
発している上,インクタンク同士の距離は非常に短く,一定程度の速さで移
動するため,対向する位置のインクタンクの発光部の光量と,隣接する位置
のインクタンクのそれとでは大きな違いはなく,閾値の設定は当業者にとっ
て容易でない。
()争点3−5−1(本件訂正は,特許法134条の2の訂正要件を満たす7
か)について
[被告らの主張]
ア「結合」を「接続」に訂正することは,明りょうでない記載の釈明を目
的とするものではないこと
原告は,本件訂正により,構成要件1A2,1A4,2A2及び2A4
における「結合」を「接続(構成要件1A2,1A4,2A2,2,」’’’
A4)に訂正し,かかる訂正は「明りょうでない記載の釈明(特許法’,」
134条の2第1項3号)に当たると主張する。
しかしながら結合とは結び合うこと結び合わせること日,「」,「。。」(
本語大辞典(乙A56)を意味するものであるのに対し「接続」とは,),
「つなぐこと。つながること(乙A56)を意味するものであり,こ。」
れらの語句自体が意味するところに,別段不明りょうな点はない。明りょ
うでない記載の釈明とは,記載内容がそれ自体明らかでないときに,その
意味を明らかにするために認められるものであるところ,本件訂正は,語
句自体の意味としては明確である「結合」と「接続」とに書き分けてい,
たものを,確たる理由もなく「接続」に統一するものであり,明りょうで
ない記載の釈明を目的とするものとはいえない。
また,上記のとおり「接続」は「結合」を含む広い概念であるから,,
「結合」を「接続」に訂正することは,従来特許請求の範囲に含まれてい
なかった「結合」以外の「接続」の態様を含むことになり,特許請求の,
範囲を拡張するものでもある。
したがって,かかる訂正は,特許法134条の2第5項で準用する12
6条4項により認められない。
「」「」イ発光部を前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部
に訂正することなどは,特許請求の範囲を減縮するものではないこと
(ア)原告は,本件訂正により,構成要件1Dの「発光部」を「前記受,
光手段に投光するための光を発光する前記発光部(構成要件1D)」’
に訂正し,かかる訂正は特許請求の範囲を減縮するものであると主張す
る。
しかしながら,本件訂正発明1は液体インク収納容器についての発明
であるところ,上記訂正によって追加記載された「受光手段」は,記録
装置側の構成要素であって,液体インク収納容器に係る発明の構成要素
ではない。なお,構成要件1A3’には,記録装置側の受光手段が「液
体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用」のものであ
ることの記載はあるが「発光部」と「受光手段」に互いに光の目的や,
用途を記載したところで,それによって,液体インク収納容器の発光部
の構成が具体的に限定されるものではない。
したがって,上記訂正は,液体インク収納容器の構成を限定するもの
ではなく,特許請求の範囲の減縮に該当しない。
,,(),,また原告は訂正請求書甲8において上記訂正の根拠として
発光部からの光が受光手段にのみ向かっている本件明細書の図3(a)の
実施例を挙げるが,同図と,発光部からの光が人の目に対してのみ向か
う図3(b)の実施例を比較した場合,液体インク収納容器の構成として
は差がないものであり「発光部」を「受光手段に投光するための光を,
発光する前記発光部」と訂正しても,それによって,液体インク収納容
器に設ける発光部を格別の構成を有するものに限定したことにはならな
いる。
,,,「」さらにそもそも本件明細書には請求項に記載された受光手段
が,実施例に示されたプリンタ装置の具体的構成中のどの部分に該当す
るのかについての説明がなく,明細書の記載からはいかなる機構を指す
のかが不明である。なお,原告は,訂正請求書(甲8)において,上記
,【】,訂正の根拠として本件明細書の発明の詳細な説明の段落0036
【0038】ないし【0047【0073】及び【0079】を挙】,
げるものの,上記記載部分には「受光手段に投光するための光を発光,
する発光部」という構成に相当する記載は存在しない。
,「」,したがって受光手段に投光するための光を発光する発光部とは
本件訂正により新たに加えられた事項であるというべきであり,上記訂
正は,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものにも該当する。
(イ)原告は,本件訂正により,構成要件2D3の「前記位置検出手段に
投光するための発光部」を「前記液体インク収納容器位置検出手段の前
記受光部に投光するための光を発光する発光部(構成要件2D3)」’
に訂正し,かかる訂正は特許請求の範囲を減縮するものであると主張す
る。
しかしながら「投光するための光を発光する」という抽象的な記載,
を追加しても,液体インク収納システムの構成が特定されるものではな
く,上記訂正は,受光部のみに投光するための光を発光することを意味
しない。すなわち「発光部」を「受光部に投光するための光を発光,,
する発光部」というように,光の目的を記載しても,それによって,液
体インク収納システムの発光部を格別の構成を有するものに限定したこ
とにはならない。
したがって,上記訂正は,液体インク収納システムの構成を限定する
ものではなく,特許請求の範囲の減縮に該当しない。
,,(),,また原告は訂正請求書甲8において上記訂正の根拠として
段落【0036【0038】ないし【0047【0073】及び】,】,
【0079】を挙げるが,上記記載部分に「受光部に投光するための光
」,,を発光する発光部という構成に相当する記載は存在せず上記訂正は
実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものにも該当することについ
ては,上記(ア)と同じである。
ウ「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入
れ替わるように配置され」との構成を付加することは,特許請求の範囲
を減縮するものではないこと
原告は,本件訂正により,構成要件1A3に「前記キャリッジの移,
動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置さ
れ」との構成を付加し(構成要件1A3,上記訂正は,受光手段が’)
キャリッジ上に搭載されたインク収納容器と「対向する」位置関係にあ
り,かつ,キャリッジが移動するにつれ,受光手段に対向するインク収
納容器が入れ替わることを明記したものであると主張する。
しかしながら,請求項に記載のとおり入れ替わるように配置されるか
どうかは,液体インク収納容器を実際に記録装置に搭載した時に,記録
装置側のキャリッジの動作を見て初めて確認できることであるから,上
記記載は,液体インク収納容器に係る発明の構成を減縮するものではな
く,また,液体インク収納容器の構成に密接に関連するキャリッジ側の
構成を特定したものでもない。
したがって,上記訂正は液体インク収納容器の構成を限定するもので
はなく,特許請求の範囲を減縮するものではない。
エ構成要件1A5’及び同2F’の構成を付加することは,特許請求の
範囲を減縮するものではないこと
原告は,本件訂正により「前記キャリッジの位置に応じて特定され,
たインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の
受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体イン
ク収納容器の搭載位置を検出する」との構成(構成要件1A5,2F’
)を付加し,上記訂正は特許請求の範囲を減縮するものであると主張’
する。
しかしながら「前記キャリッジの位置に応じて特定された」とは,,
キャリッジ内部の各インクタンクの装着箇所に応じて特定されたという
意味とも,移動するキャリッジのシャフト上における位置に応じて特定
,。,されたという意味とも理解し得るものであって不明確であるそして
仮に,前者の意味に理解したとしても,本件明細書には,記録装置側で
液体インク収納容器の搭載位置を検出可能とするための具体的構成は開
示されていないので,上記訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張又は変
更するものである。
また,本件明細書には「液体インク収納容器位置検出手段」につい,
ての説明はなく,明細書からはいかなる機構を指すのかが不明であるか
ら「液体インク収納容器位置検出手段」とは,本件訂正により新たに加
えられた構成であることが明らかであり,上記訂正は,実質上特許請求
の範囲を拡張又は変更するものである。
さらに,そもそも,記録装置において液体インク収納容器が正しい位
置に搭載されているか否かを判断できるという効果は,複数の液体イン
ク収納容器のうち,あるインク色の液体インク収納容器が来るべきタイ
ミングが記録装置側であらかじめ分かっており,そのタイミングで所定
のインク色の液体インク収納容器の発光部を光らせ,その光が受光され
たか否かを判断する手段が記録装置側に備わっていて初めて得られるも
のであり,液体インク収納容器側の構成によって実現される効果ではな
い。
したがって,本件訂正発明1に係る上記訂正は,液体インク収納容器
,。の構成を限定するものとはいえず特許請求の範囲の減縮に該当しない
[原告の主張]
ア「結合」を「接続」に訂正することは,明りょうでない記載の釈明に該
当すること
本件訂正の前後において「結合」と「接続」は,同じ意味で使用され,
ている。すなわち,本件明細書の実施例の説明中の「またパッド102お
」(【】),「,よびコネクタ152が接合した状態になる段落0054一方
接点としてのパッド102およびコネクタ152は金属など比較的剛性の
高い導電部材であり,これらの間には良好な電気接続性が確保されるべき
である(段落【0057)との記載や,インクタンクのホルダへの装。」】
着によってパッド102がコネクタ152と接触するようになる様子を描
いた図15を見れば,構成要件1A2及び2A2の「電気的に結合可能」
における「結合」とは,電気が流れるように「つながる」という意味であ
って「一体になる」という意味ではないことを,容易に理解することが,
できる。
異なる用語が同一の意味に使用されていることは誤解を生じかねないた
め,用語を統一することが明りょうでない記載の釈明に該当することは当
然である。
「」「」イ発光部を前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部
に訂正することなどは,特許請求の範囲を減縮するものであること
本件訂正の前後を問わず,インクタンクの発光部からの光は,受光手段
において受光される構成としなければならないことは,本件明細書の段落
【0108】ないし【0112】記載の光照合処理の説明,及び段落【0
019】記載の発明の効果についての説明を読めば,容易に理解すること
ができる。本件発明の目的及び作用効果は,バス接続(共通接続)を使用
しながらインクタンクごとの発光部の制御を可能にし,それにより本件光
照合処理を行ってインクタンクの装着位置を特定する,すなわち誤装着を
防止することにある。そして,光照合処理には,発光部からの光を受光手
段で受光することが必須であり本件発明における発光部及び受光手段受,(
光部)は,前者からの光を後者で受光できるように構成すべきであること
は,当業者には,明細書の記載から容易に理解し得ることである。また,
具体的にどのように構成すればよいかについても,実施例の記載を参酌す
れば,当業者であれば容易に理解することができるものである。
以上のとおり,本件訂正の前後を通じて,発光部と受光手段(受光部)
の関係については,何らの変更もされておらず,構成要件1D’の「前記
受光手段に投光するための光を発光する発光部」とは,形式的に見れば,
従前は無限定であった発光部と受光手段の関係について,前者の光が後者
に受光される構成に限ることを明記した点で,特許請求の範囲を減縮する
訂正であり,実質的には,発明の内容を変更することなく,ただその内容
をより明確にしたにすぎない。
,「」,また受光手段がプリンタ装置中のどのような構成を意味するかは
当業者であれば,本件明細書を読めば容易に理解することができるもので
ある。すなわち,例えば,本件明細書の発明の詳細な説明には,受光部に
ついて次のような説明がされており,受光部を配置すべき場所について具
体的な記載がある。
「すなわち,図3(a)に示すように,ホルダ150を搭載するキャリッジ
の走査範囲の端部にあって図の右上方向に投光される光を受容する位置
に受光部を配置し,その部位にキャリッジが位置したときに第1発光部
101の発光を制御することで,記録装置側は受光部の受光内容からイ
ンクタンク1に係る所定の情報を認識することが可能となる(段落。」
【0036)】
上記説明と,図3(a)及びインクジェットプリンタの全体図である図1
8を参照すれば,プリンタのどの部分に,どのような「受光部「受光」,
手段」を設ければよいかについて,当業者ならば容易に理解し,設計する
ことが可能である。受光部ないし受光手段の具体的な形状やセンサーの構
造,プリンタへの取付方法等は,当業者の選択に委ねられるべき設計的事
項であり,そのようなことまで特許明細書で説明する必要はない。
ウ「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ
替わるように配置され」との構成を付加することは,特許請求の範囲を減
縮するものであること
キャリッジの移動に伴い(受光手段に)対向する液体インク収納容器,
が入れ替わるように配置する,という構成を実現するためには,キャリッ
ジの動きを適切に設計しなければならないだけでなく,キャリッジ上での
液体インク収納容器の配置方法も適切に設計しなければならないのであ
り,その結果,液体インク収納容器の形状の設計にも制限が加わることに
なる。したがって,この要件は,液体インク収納容器の構成に密接に関連
する。
また,本件訂正前には,キャリッジの動作によって液体インク収納容器
と受光手段の関係がどのように変化すべきかについて,請求項上は何らの
制限もされていなかったものを,本件訂正により,この点を制限し,上記
訂正において定める動きに従うよう,キャリッジと液体インク収納容器を
適切に設計すべきことになったものであるから,上記訂正は,キャリッジ
と液体インク収納容器双方に対する構成を「限定」するものであり,請求
項の減縮に該当することは明らかである。
エ構成要件1A5’及び同2F’の構成を付加することは,特許請求の範
囲を減縮するものであること
「前記キャリッジの位置に応じて特定された」とは,キャリッジ内部の
各インクタンクの装着箇所に応じて特定された,という意味ではなく,キ
ャリッジのシャフト上における位置に応じて特定された,という意味であ
り,この点は,本件明細書の段落【0108】ないし【0112,図2】
9及び30に説明されている光照合処理の具体的な手順から明らかであっ
て,同図には,シャフト上をキャリッジが移動すると共に,キャリッジの
位置の変更に応じて異なるインクタンクの発光部を発光させる様子が説明
されている。
また,本件発明の光照合処理は,記録装置側の構成と液体インク収納容
器側の構成の双方が請求項の記載どおりにそろえられることで初めて実現
可能となるものであり,訂正請求項1に記載された記録装置側の構成は,
液体インク収納容器側の構成と密接に関連するものであって,訂正請求項
1は全体として液体インク収納容器の構成を規定する上記訂正も前,。,「
記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容
器の前記発光部を光らせ」という文言から明らかなとおり,キャリッジの
位置に応じて特定されたインク色の発光部を光らせることができるよう,
液体インク収納容器側の構成も適切に設計する必要を規定するものであ
り,液体インク収納容器の構成に密接に関連する要件である。
なお,本件訂正後の請求項3は「液体インク収納容器位置検出手段」,
について「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液,
体インク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記
液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を
検出する(構成要件2F)との記載を付加しているが,本件明細書を」’
読めば「液体インク収納容器の搭載位置を検出する」のは本件光照合処,
理によるものであることが説明されており「液体インク収納容器位置検,
出手段」とは,光照合処理を行うための「手段」であることが明らかであ
る。また,本件訂正前の請求項5にも「該液体収納容器からの光を受光,
することによって前記液体収納容器の搭載位置を検出する液体収納容器位
置検出手段(構成要件2A3)という,光照合処理を行うための構成が」
記載されており,構成要件2F’に対応する記載は存在したものである。
以上のとおり,上記訂正は,特許請求の範囲を減縮する適法な訂正であ
る。
()争点3−5−2(本件訂正発明は,進歩性を欠くか)について8
[被告らの主張]
本件訂正発明1及び本件訂正発明2は,以下のとおり,本件特許の最先の
優先日前の公知刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項により,特許を
受けることができないものである。
【本件訂正発明1について】
本件訂正発明1は,乙A1公報記載の発明に,前記(3)[被告らの主張]
【本件発明1について】記載の文献(乙A18公報,乙A17公報,乙A2
公報∼乙A6公報,乙A37公報,乙A51公報)並びに本件特許の最先の
優先日前である平成11年9月28日に頒布された刊行物である特開平11
−263025号公報(乙A36。以下「乙A36公報」という)及び同。
平成15年10月14日に頒布された刊行物である特開2003−2913
64号公報(乙A67。以下「乙A67公報」という)記載の周知技術を。
組み合わせることによって,当業者が容易に発明をすることができたもので
ある。
ア乙A1公報記載の発明
乙A1公報には次の構成からなる液体収納容器に関する発明以下乙,(「
A1発明1」という)が記載されていると認められる(請求項11,’。
【】,【】【】,【】,【】,段落00010003∼000600080011
003300340037∼004000420【】,【】,【】【】,【】,【
043【0051【0052,図1∼3,図5。】,】,】)
1a1’複数の印刷記録材容器を搭載して移動するキャリッジと,
1a2’該印刷記録材容器に備えられる端子と電気的に結合可能な装置
側接点と,
1a3’前記複数の印刷記録材容器を搭載した前記キャリッジの移動に
より対向する印刷記録材容器が入れ替わるように配置され,
1a4’搭載される印刷記録材容器それぞれの前記端子と結合する前記
装置側接点に対して共通に電気的接続する信号線を有した制御回
路とを有する印刷装置の
1a6’前記キャリッジに対して着脱可能な印刷記録材容器において,
1b’前記装置側接点と電気的に接続可能な前記端子と,
1c’少なくとも印刷記録材容器のインク色を示す色情報を保持可能
な記憶素子と,
1e’前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記記憶素
子の保持する前記色情報とに応じて,アクセス許可の応答信号を
前記配線を通じて印刷装置側の制御回路に対して送り返す動作を
制御する記憶装置と,を有し,
1f’前記印刷記録材容器にはインクが収納されている印刷記録材容
器」。
イ本件訂正発明1と乙A1発明1’の一致点
乙A1発明1’の構成と本件訂正発明1の構成要件とを対比すると,乙
A1発明1’における「印刷記録材容器「端子「信号線「印刷装」,」,」,
置「記憶素子「記憶装置」及び「制御回路」が,それぞれ,本件訂」,」,
「」,「」,「」,「」,正発明1における液体インク収納容器接点配線記録装置
「情報保持部「制御部」及び「電気回路」に対応することは明らかで」,
ある。
したがって,本件訂正発明1と乙A1発明1’は「複数の印刷記録材,
容器を搭載して移動するキャリッジと,該印刷記録材容器に備えられる接
点と電気的に結合可能な装置側接点と,前記複数の印刷記録材容器を搭載
した前記キャリッジの移動により対向する印刷記録材容器が入れ替わるよ
うに配置され,搭載される印刷記録材容器それぞれの前記接点と結合する
前記装置側接点に対して共通に電気的接続する配線を有した制御回路とを
有する印刷装置の前記キャリッジに対して着脱可能な印刷記録材容器にお
いて,前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,少なくとも印刷
記録材容器のインク色を示す色情報を保持可能な記憶素子と,前記接点か
ら入力される前記色情報に係る信号と,前記記憶素子の保持する前記色情
報とに応じて,アクセス許可の応答信号を前記配線を通じて印刷装置側の
制御回路に対して送り返す動作を制御する記憶装置と,を有し,前記印刷
記録材容器にはインクが収納されている印刷記録材容器」である点にお。
いて一致する。
ウ本件訂正発明1と乙A1発明1’の相違点
本件訂正発明1と乙A1発明1’とは,次の点で相違する。
①本件訂正発明1は,記録装置が「液体インク収納容器の発光部からの
光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え,該受光手段で該光を受
光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体
インク収納容器位置検出手段(構成要件1A3)を有することが特」’
,’()。定されるのに対し乙A1発明1は上記特定を有しない点相違点1
②本件訂正発明1は,液体インク収納容器が「キャリッジの位置に応じ
て特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光ら
せ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は
前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置の前記キャリッ
ジに対して着脱可能(構成要件1A5)であることが特定されるの」’
に対し,乙A1発明1’は上記特定を有しない点(相違点2。)
③本件訂正発明1は,液体インク収納容器が「前記受光手段に投光する
ための光を発光する前記発光部(構成要件1D)を有することが特」’
定されるのに対し,乙A1発明1’は,上記特定を有しない点(相違点
3。)
しかしながら,次のとおり,上記相違点は,乙A1発明1’に,乙A1
8公報,乙A17公報,乙A5公報,乙A36公報及び乙A67公報等記
載の周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到することが
できたものであり,この点について,本件訂正発明1に進歩性が肯定され
るものではない。
(ア)乙A18公報記載の発明
乙A18公報には「記録装置に複数搭載可能な液体インク収納容器,
が,情報保持部と,発光部と,その発光を制御する制御部とを備え,液
体インク収納容器の外部からの個体情報に係る信号と,情報保持部の保
持する個体情報とを比較した判断結果を,発光部の発光により,記録装
。」(,,,置の受光手段へ伝達する構成が開示されている請求項134
6∼8,段落【0007【0061,図5,7。】,】)
なお,同公報の図7をみると,インクタンク側の半導体素子からの発
光を記録装置側に設けた一つの光センサによって受光し,インクタンク
が不適切な位置に装着されたことを検知する構成を把握することができ
る。同公報の段落【0058】及び【0059】には,一つの光センサ
を用いても,どの波長が最も吸収されたかを検知することで,インクタ
ンクのインク色がいずれであるかを判別することができる旨が記載され
ているものであるから,あえてインクタンクごとに光センサを設ける必
要はないといえる。
(イ)乙A17公報記載の発明
乙A17公報にも,乙A18公報と同様「記録装置に複数搭載可能,
な液体インク収納容器が,情報保持部と,発光部と,その発光を制御す
る制御部とを備え,液体インク収納容器の外部からの個体情報に係る信
号と,情報保持部の保持する個体情報とを比較した判断結果を,発光部
の発光により,記録装置の受光手段へ伝達する構成」が開示されてい。
る(請求項1,4,10∼15,段落【0033【0038【0】,】,
039【0044【0046【0052【0053。】,】,】,】,】)
(ウ)乙A5公報記載の発明
乙A5公報には「受光部8を備えた検知器9を1つ備え,発光部7,
から発光した光の受光結果によって複数のインクタンクのインク残量を
キャリッジ4を移動させながら順番に検出するプリンタ装置の構成」。
が開示されている(図2。)
(エ)乙A36公報記載の発明
乙A36公報には「インクジェットプリンタにおいて,プリンタ側,
のエミッタ24(発光素子)からインクタンク上の指標位置(反射部)
に光を当て,反射しているインクタンクから戻ってきた光をプリンタ側
の検出器26が受け取ることによってキャリッジのどのカートリッジ位
置にどのインク・リザーバ(インクタンク)が取り付けられているかを
識別する構成」及び上記構成が複数のインクタンクの識別にも適用可。
(,,,【】,能であることが開示されている請求項6919段落0026
【0027,図2。】)
(オ)乙A67公報記載の発明
乙A67公報には「インクタンクの底面部に第1及び第2のルーフ,
ミラーユニット30A,30Bを設けると共にプリンタ装置側には受光
素子32を備えたフォトセンサPSを一つ設け,インクタンクを所定の
方向に移動させたときに,受光素子32側でルーフミラーユニット30
A,30Bにおけるルーフ状ミラー34A,34Bの数量の違いによる
光量ピーク値の差を検知することでインクタンク単体での情報が認識で
き,各色のインクタンクを識別する構成」が開示されている(請求項。
21,22,段落【0064】∼【0066【0114,図2。】,】)
(カ)相違点1ないし3の容易想到性
乙A1発明1’の電気配線を通じた伝送も,乙A18公報及び乙A1
7公報記載の発光部の発光による記録装置への伝達も,液体インク収納
容器の外部からのインクの色情報に係る信号と情報保持部の保持する色
情報とを比較した判断結果を記録装置に伝える点で,共通している。
したがって,乙A1発明1’において,液体インク収納容器の外部か
らの色情報に係る信号と情報保持部の保持する色情報とを比較した判断
結果を記録装置に伝える方法として,乙A1発明1’の電気配線を通じ
た伝送を,乙A18公報及び乙A17公報記載の発光部の発光による記
録装置への伝達に置き換えて,本件訂正発明1の相違点1ないし3に係
る構成を備えることは,当業者が容易に想到し得ることである。なお,
’,,乙A1発明1と乙A18公報記載の発明について技術分野の共通性
課題の共通性,作用・機能の共通性,記載内容中の示唆が認められるこ
とについては,前記()[被告らの主張【本件発明1について】ウ(エ)3]
のとおりである。
また,乙A5公報の上記記載から,受光手段たる光センサを一つ設け
て,キャリッジの移動により順次インクタンクからの光の受光を行う構
成は,周知技術であったことが認められる(なお,同公報記載の受光部
は,インク残量検出用のものであるが,本件明細書の段落【0043】
及び図9には,インク残量検出用のセンサと受光手段を兼用する構成が
記載されているので,インク残量検出用のセンサと本件訂正発明1の受
光手段は,兼用も可能な技術であり,同様の技術常識が当てはまるとい
うべきである。さらに,乙A36公報の上記記載から,インクタン。)
クからの光を受光することによって,インクタンクが正しい位置に装着
「」,されているかどうかを検出する液体インク収納容器位置検出手段は
周知技術であったことが認められ,乙A67公報の上記記載から,キャ
リッジを移動させながら,所定のタイミングで発光したときのインクタ
ンクからの光を受光することによってインクタンクを識別する「液体収
納容器位置検出手段」も,周知技術であったとことが認められる。
【本件訂正発明2について】
本件訂正発明2は,次のとおり,乙A30公報記載の発明に,前記【本件
訂正発明1について】記載の文献(乙A18公報,乙A17公報,乙A2公
報∼乙A6公報,乙A37公報,乙A51公報,乙A36公報,乙A67公
報)記載の周知技術を組み合わせることによって,当業者が容易に発明をす
ることができたものである。
また,前記【本件訂正発明1について】のとおり,乙A1公報には,乙A
30公報記載の発明と同様の構成が開示されており,乙A30公報記載の発
明の構成は,必要であれば,乙A1公報記載の発明の構成と置き換えること
が可能である。
よって,被告らは,予備的に,本件訂正発明2について,乙A1公報記載
の発明を主引例とし,乙A2公報,乙A18公報,乙A4公報及び乙A30
公報を副引例とする,進歩性の欠如を主張する。
ア乙A30公報記載の発明
乙A30公報には,次の構成からなるインク供給システムに関する発明
(以下「乙A30発明2」という)が記載されていると認められる(1’
頁10行∼13行,同頁16行∼19行,2頁1行∼4行,同頁6行∼9
行,15頁6行∼7行,16頁21行∼24行,18頁8行∼14行,2
0頁2行∼6行,同頁17行∼19行,21頁13行∼22頁6行,同頁
9行∼13行,25頁23行∼26頁4行,同頁6行∼18行,同頁21
行∼27頁10行,同頁13行∼21行,30頁26行∼31頁23行,
同頁25行∼34頁3行,同頁8行∼25行,41頁17行∼23行,4
3頁1行∼4行,図11,16,17。)
2a1’複数のインクカートリッジを互いに異なる位置に搭載して移動
するキャリッジと,
2a2’該インクカートリッジに備えられる端子と電気的に結合可能な
装置側接点と,
2a3’前記複数のインクカートリッジを搭載したキャリッジの移動に
より所定の位置にインクカートリッジが入れ換わるように配置さ
れ,
2a4’搭載されるインクカートリッジそれぞれの前記端子と結合する
前記装置側接点に対して共通に電気的接続しインクの色情報に係
る信号を発生するための信号線を有した制御回路とを有する印刷
装置と,
2b’前記印刷装置のキャリッジに対して着脱可能なインクカートリ
ッジと,
2c’を備える液体供給システムにおいて,
2d1’前記インクカートリッジは,前記装置側接点と電気的に接続可
能な前記端子と,
2d2’少なくともインクカートリッジのインク色を示す色情報のデー
タを保持可能なメモリアレイと,
2d4前記端子から入力される前記色情報に係る信号と,前記メモリア
レイの保持する前記色情報とが一致した場合に,アクセス許可の
応答信号を前記信号線を通じて印刷装置側の制御回路に対して送
り返す動作を制御する制御部と,
2eを有することを特徴とする印刷記録材容器の識別装置。
イ本件訂正発明2と乙A30発明2’の一致点
乙A30発明2’の構成と本件訂正発明2の構成要件とを対比すると,
乙A30発明2’における「インクカートリッジ「端子「信号線,」,」,」
「印刷装置「メモリアレイ「記憶装置「制御回路」及び「印刷記」,」,」,
録材容器の識別装置」が,それぞれ,本件訂正発明2における「液体イン
ク収納容器「接点「配線「記録装置「情報保持部「制御部,」,」,」,」,」,」
「電気回路」及び「液体インク供給システム」に対応することは明らかで
ある。
したがって,本件訂正発明2と乙A30発明2’は「複数のインクカ,
ートリッジを互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジと,該イン
クカートリッジに備えられる接点と電気的に結合可能な装置側接点と,前
記複数のインクカートリッジを搭載したキャリッジの移動により所定の位
置にインクカートリッジが入れ換わるように配置され,搭載されるインク
カートリッジそれぞれの前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通
に電気的接続しインクの色情報に係る信号を発生するための配線を有した
制御回路とを有する記録装置と,前記記録装置のキャリッジに対して着脱
可能なインクカートリッジと,を備える液体供給システムにおいて,前記
,,インクカートリッジは前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と
少なくともインクカートリッジのインク色を示す色情報のデータを保持可
能なメモリアレイと,前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,
前記メモリアレイの保持する前記色情報とが一致した場合に,アクセス許
可の応答信号を前記配線を通じて印刷装置側の制御回路に対して送り返す
,。」動作を制御する制御部とを有することを特徴とする液体供給システム
である点において一致する。
ウ本件訂正発明2と乙A30発明2’の相違点
本件訂正発明2と乙A30発明2’とは,次の点で相違する。
①本件訂正発明2は,記録装置が「液体インク収納容器からの光を受光
する位置検出用の受光部を一つ備え,該受光部で該光を受光することに
よって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容
器位置検出手段(構成要件2A3)を有することが特定されるのに」’
対し,乙A30発明2’は,上記特定を有しない点(相違点()。1)
②本件訂正発明2は,記録装置の受光部が「キャリッジの移動により対
向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され,前記キャ
リッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の
前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容
器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出すること」
(構成要件2E,2F)が特定されるのに対し,乙A30発明2’’’
は,上記特定を有しない点(相違点()。2)
③本件訂正発明2は,液体インク収納容器が「液体インク収納容器位置
検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部(構成要」
’),’,件2D3を有することが特定されるのに対し乙A30発明2は
上記特定を有しない点(相違点()。3)
エ相違点()ないし()の容易想到性13
乙A30発明2’の電気配線を通じた伝送も,乙A18公報及び乙A1
7公報記載の発光部の発光による記録装置への伝達も,液体インク収納容
器の外部からのインクの色情報に係る信号と情報保持部の保持する色情報
とを比較した判断結果を記録装置に伝える点で,共通している。
したがって,乙A30発明2’において,液体インク収納容器の外部か
らの色情報に係る信号と情報保持部の保持する色情報とを比較した判断結
果を記録装置に伝える方法として,乙A30発明2’の電気配線を通じた
伝送を,乙A18公報及び乙A17公報記載の発光部の発光による記録装
置への伝達に置き換えて,本件訂正発明2の相違点()ないし()に係る構13
成を備えることは,当業者が容易に想到し得ることである。
また,乙A30発明2’と乙A18公報及び乙A17公報記載の発明に
ついて,技術分野の共通性,課題の共通性,作用・機能の共通性,記載内
,【】容中の示唆が認められることについては前記本件訂正発明1について
と同様である。
[原告の主張]
【本件訂正発明1について】
ア乙A1公報記載の発明
被告らの主張する乙A1公報記載の発明の内容,本件訂正発明1と乙A
1発明1’の一致点及び相違点については,認める。ただし,相違点とし
て「本件訂正発明1は,液体収納容器認が「前記接点から入力される前,
記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて
前記発光部の発光を制御する制御部(構成要件1E)を有するのに対」’
し,乙A1発明1’は上記構成を有しない点」を加えるのが相当である。
イ相違点1ないし3の容易想到性
被告らは,相違点1ないし3について,乙A18公報及び乙A17公報
等に記載された周知技術を組み合わせることにより,当業者は本件訂正発
明1に容易に想到し得たものであると主張する。
しかしながら,次のとおり,被告らの上記主張は理由がない。
(ア)乙A18公報について
乙A18公報の図7を見れば,同公報に開示された構成が,本件訂正
発明1の構成とあまりに異なるものであり,乙A1発明1’に組み合わ
せても本件訂正発明1に想到し得ないことは明らかである。
すなわち,図7及びそれを説明した段落【0057】の記載から,こ
こに開示されているのは,インクタンク内のインクに浮遊させた球状の
立体形半導体素子が発光し,その光がインク中を透過して,タンク外部
の光センサによって感知されるという構成であり,光センサ上に搭載さ
れているインクタンクの種別を判別するには,インクの色により,吸収
される(あるいは透過する)光の波長が異なることを利用して,透過光
のある波長の強度を測定することにより実行される(段落【0014】
∼【0016)ものであることが認められる。】
したがって,インクタンク内の素子は,インクタンクの色情報を保持
する必要はなく,単に発光するだけであり,光センサが取得するのは,
インクタンクの位置情報ではなく,透過光の波長情報(インクタンクの
種類)にすぎないものであるから,本件訂正発明1における,単一の受
光手段が,受光手段と対向する位置を順次移動していくインクタンクの
発光を受光することによって,インクタンクの搭載位置を判別する構成
とは,その構成を明確に異にする。
また,乙A18公報において,光センサの設置される場所や個数につ
いては明記されていないが,図7から,光センサは,各インクタンクに
対応するインクタンクホルダの底面に,各インクタンクの装着箇所ごと
に設置されるものと理解される。それ以外に,複数のインクタンクにつ
き各インクタンクが不適切な位置に搭載されていないかどうかを判別す
る方法は考えにくい。そして,乙A18公報は,光センサが取得した情
報をどのように制御に反映させるのかについて説明していないが,個別
の光センサが得た情報は,個別の配線により制御装置に送信されるもの
と考えられる。
乙A18公報記載の発明の構成については上記のとおりであり,かか
る構成を,どのようにして,乙A1発明1’のようなバス接続の構成に
,,適用し本件訂正発明1の構成に到達することができるのかについては
不明であるというほかない。
(イ)乙A17公報について
乙A17公報記載の発明は,インク内部に浮遊した立体形半導体素子
を使用した発明であるが,乙A18公報の図7のように,インクタンク
の装着位置を検出するための仕組みが開示されているものではない。
また,乙A17公報記載の発明は,インクタンク内のインクに浮遊さ
せた球状の立体形半導体素子を使用する構成であり,立体形半導体素子
と外部とが非接触の状態で情報やエネルギーのやり取りをする点で,バ
ス接続による有線通信を前提とする本件訂正発明1とは決定的に異なっ
ており,かかる乙A17公報の技術思想を,バス接続による通信を前提
とする乙A1発明1’に組み合わせることには,阻害要因がある。
(ウ)乙A5公報について
乙A5公報には,各インクカートリッジの底部にプリズム状のインク
残量検知部を設け(図12,それに対して記録装置側の発光部から発)
光し,反射光を記録装置側の受光部で受光する構成が開示されている。
そして,被告らは,本件光照合処理に関して,乙A5公報記載の上記
構成からすれば,インクカートリッジを,記録装置側に設けた発光部と
対向可能な位置までキャリッジで移動させ,所定の位置に移動させた後
に発光及び受光の処理を行う点に困難性は認められない,と主張する。
しかしながら,本件光照合処理は「インクカートリッジを,記録装,
置側に設けた発光部と対向可能な位置までキャリッジで移動させ,所定
の位置に移動させた後に発光及び受光の処理を行う」ことだけで実現。
されるものではなく,インクタンクへの発光部,情報保持部,及び制御
部の搭載が必要であるほか,そもそも,上記光照合処理は,インクタン
クとプリンタ本体の間の情報伝達・エネルギー供給がバス配線で行われ
る構成において,インクタンクの誤った位置への装着を防ぐという目的
を達成するために必要となるものである。
これに対し,乙A5公報は,インクタンクとプリンタ本体をバス配線
で接続することを開示するものではなく,また,同公報記載の発明は,
インク残量の検知を行うという発明であって,インクタンクの誤った位
置への装着防止を目的とした発明ではない。
以上のとおり,乙A5公報記載の発明は,本件訂正発明と発明の目的
を異にし,開示されている基本的な構成も異なるため,本件訂正発明1
へ想到するために参考になる文献ではない。
(エ)乙A36公報について
乙A36公報記載の発明は,インクカートリッジ上の反射部にプリン
タ側から光を当ててその反射部の指標を「見る」ことで,キャリッジ上
のどのカートリッジの位置にどのインクカートリッジが取り付けられて
いるかを識別するものであり,プリンタ側からの光の反射光を見る技術
である。したがって,インクタンク上の発光部の光をプリンタ側で受光
する本件訂正発明1の構成とは,根本的に異なっている。
(オ)その他の公報について(なお,乙A30公報記載の発明の内容につ
いては,後記【本件訂正発明2について】のとおりである)。
a乙A2公報について
乙A2公報には,インクタンク内に浮遊させた立体形半導体素子を
使用が,外部と非接触の状態で,外部との間で情報やエネルギーのや
りとりをする構成が,開示されている(段落【0017【004】,
7。】)
これに対し,本件訂正発明1の構成では,インクタンクとプリンタ
の情報伝達やエネルギーの供給は,共通配線(バス接続)という有線
通信によって行われており,上記公報記載の構成と相違する。
また,乙A2公報記載の発明では,立体形半導体素子が送信するデ
ータは「インクタンク内の情報,例えばインクの残量,インクの種,
類,温度,phなど(段落【0054)であって,インクタンク」】
の位置に関する情報が含まれない点で本件訂正発明1と相違するほ
か,そもそも,同公報には,複数のインクタンクを搭載することに関
(),する記載はなく図15でも単一のインクタンクが搭載されている
インクタンクの位置決定という課題は考えられていない。
以上のとおり,乙A2公報は,インクタンク内に浮遊させた素子と
無線による通信をするという手段を教示しているにすぎず,これを拡
張して理解するとしても,プリンタにおいて,無線又は光による通信
回路を設けることが可能であることを教示するにとどまるものであっ
て,同公報記載の構成では,インクタンクの搭載位置情報は得ること
はできないし,かかる情報を得ることを可能とする構成を示唆するも
のもない。
b乙A4公報について
乙A4公報記載の発明は「ヘッドと一体化されたカートリッジの,
上部にインク切れを示すLEDを設け,インクヘッドに設けられたカ
ウンタに記録された印字数が一定の数値に達すると,LEDを点灯さ
せる,という構成である。。」
同発明は,インクタンクが1個しかなく,インクタンクがインクヘ
ッドと一体化された構成を前提とするものであり(図1参照,複数)
のインクタンクをホルダに装着して使用する本件訂正発明1とは,構
成を異にする。
また,乙A4公報記載の発明は,単に,インク切れをユーザーに知
らせるという目的しか有しないため,発光部からの光を受光する受光
手段も開示されていないほか,上記のとおり,ヘッドとインクタンク
を一体化した1個のカートリッジを前提とするものであることから,
そもそも,インクタンクの搭載位置情報を知るという課題すら設定さ
れていない。
c乙A3公報について
被告らは,乙A3公報には,インク残量が少ないことをユーザーに
報知するためにインクタンクにLEDからなる発光部を設ける構成が
開示されている,と主張する。すなわち,同公報は,乙A4公報と同
趣旨の公知文献であり,それ以外の,本件訂正発明1に関する教示を
含むものではない。
d乙A51公報について
乙A51公報記載の発明は,インクカートリッジに無線通信可能な
回路チップを搭載することで,インクカートリッジとプリンタ本体の
無線通信の有無により,インクカートリッジがプリンタ本体に適切に
装着されたか否かを確認できる,という発明である。
上記発明は,乙A2公報及び乙A18公報記載の発明と同様に,イ
ンクタンクとプリンタ本体間の情報伝達を非接触の無線で行うことを
前提とした発明であり,バス配線による有線での情報伝達・エネルギ
ー供給を基本構成とする本件訂正発明1とは相容れない技術思想に基
づく発明である。
したがって,乙A51公報は,本件訂正発明1へ想到するために参
考となるものではない。
e乙A6公報について
乙A6公報記載の発明は,インクカートリッジにインクロー又はイ
ンクエンドのエラーが発生した場合,エラーの発生したインクカート
リッジごとにキャリッジを異なる位置に移動させ,さらに,プリンタ
本体に付けられた発光ダイオードを点滅させたり点灯させたりするこ
とで,どのインクタンクにどのようなエラーが生じたかを知らせる,
という発明である。
同公報には,キャリッジの位置と発光ダイオードの点滅具合の組合
せにより,どのインクタンクにどのようなエラーが生じたかを知らせ
る構成が開示されているだけで,本件光照合処理に必要な,インクタ
ンクへの発光部,情報保持部及び制御部の搭載や,プリンタ側の受光
手段は開示されておらず,本件光照合処理の前提となる,インクタン
クとプリンタ本体との間のバス配線も開示されていない。また,同公
,,報記載の発明の目的はインクタンクのエラーを報知することであり
インクタンクの装着位置を確認するという本件訂正発明1の目的は,
全く意識されていない。
したがって,乙A6公報は,本件訂正発明1へ想到する上で参考と
なるものではない。
f乙A37公報について
乙A37公報には,インクカートリッジに備えられた記憶装置に対
して,色情報を照合して特定のインクカートリッジの記憶装置にアク
セスし,その情報を書き換えるという構成が開示されている。
上記技術は,後記の乙A30公報記載の発明と同様,バス接続を使
用するプリンタにおける,インクタンク内のメモリの取扱いに関する
公知技術であって,乙A30公報等に開示された内容に特に付け加え
られる内容を有するものではない。
【本件訂正発明2について】
ア乙A30公報記載の発明
被告らの主張する乙A30公報記載の発明の内容,本件訂正発明1と乙
A30発明2’の一致点及び相違点については,認める。ただし,相違点
として「本件訂正発明2は,液体収納容器が「前記接点から入力される,
前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致
した場合に前記発光部を発光させる制御部(構成要件2D4)を有す」’
るのに対し,乙A30発明2’は上記構成を有しない点」を加えるのが相
当である。
イ相違点()ないし()の容易想到性13
被告らは,相違点()ないし()に係る構成が,本件特許の最先の優先日13
当時において周知慣用技術であったものであり,同技術を乙A30発明2
’ないし乙A1発明1’に適用することは当業者にとって容易であったと
主張する。
しかしながら被告らの上記主張に理由がないことについては前記本,,【
件訂正発明1について】と同様である。
()争点3−5−3(本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は,特許法369
条6項1号(サポート要件)に違反するか)について
[被告らの主張]
ア液体インク収納容器側に「制御部」を設ける構成が本件明細書に記載さ
れていないこと
本件明細書の発明の詳細な説明には,液体インク収納容器に備えられた
「発光部の発光を制御する制御部(構成要件1E)ないし「発光部を」’
発光させる制御部(構成要件2D4)という構成が開示されていると」’
は認められず,特許法36条6項1号(サポート要件)に違反する。
その理由は,前記()[被告らの主張]と同じである。4
イ「液体インク収納容器の搭載位置を検出する」ことは発明の詳細な説明
に記載されていないこと
「液体インク収納容器の搭載位置を検出する(構成要件1A3,2」’
F)とは「各インクタンクがキャリッジ上のどの位置に搭載されてい’,
るかを検出する」という意味であると解されることについては,前記()1
[被告らの主張]イ(エ)のとおりである。
しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には,入れ違いによる誤
装着の場合に,対象の液体インク収納容器が所定の位置に装着されていな
いことが検出される実施例(本件光照合処理による方法)が記載されてい
るだけであり,液体インク収納容器の「搭載位置を検出する」ことについ
ては,開示がない。
したがって,上記記載は,特許法36条6項1号に違反する。
[原告の主張]
被告らの主張を否認ないし争う。
本件明細書の発明の詳細な説明に,液体インク収納容器に備えられた「発
光部の発光を制御する制御部」ないし「発光部を発光させる制御部」という
構成が開示されていることについては,前記()[原告の主張]のとおりで4
ある。
また「液体インク収納容器の搭載位置を検出する」の意義については,,
前記()[被告らの主張に対する原告の反論]エのとおりであるから,被告1
らの主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
()争点3−5−4(本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は,特許法3610
条6項2号(明確性要件)に違反するか)について
[被告らの主張]
本件訂正後の本件訂正発明の特許請求の範囲は,次のとおり,特許を受け
ようとする発明が明確でなく,特許法36条6項2号に違反する。
【本件訂正発明1について】
本件訂正発明1は「液体インク収納容器」という物についての発明である
から「液体インク収納容器」の構成自体に技術的特徴を備え,特許請求の,
対象である物の発明として特定できるものでなければ,請求項の記載が明確
であるとはいえない。
物の発明に係る請求項の記載において,その「特許請求されている物」自
体の構造,動作を特定するのではなく,関連する「他の物」の構造や動作に
よって「特許請求されている物」を特定する記載表現を用いることが許容さ
れるのは「他の物」の構造等を記載することによって「特許請求されて,,
いる物」の発明を明確に特定し「特許請求されている物」の技術的特徴を,
把握することができる場合に限られることについては,前記()[被告らの5
主張【本件発明1について】のとおりである。しかしながら,本件発明1]
における「発光部」と「受光手段」との関係は,前記()[被告らの主張]5
【本件発明1について】のとおり,不明確である。なお,本件訂正により,
受光手段が液体インク収納容器の発光部からの光を受光すること(構成要件
1A3)及び発光部が受光手段に投光するための光を発光すること(構成’
要件1D)との記載が追加されたが,上記訂正後においても,受光時にお’
ける発光部と受光手段との位置関係は不明確なままであり,液体収納容器の
どの位置に,どのような構成の「発光部」を設けるのかは何ら具体的に特定
されていない。
また,受光時における発光部と受光手段との位置関係について,本件訂正
により「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体イ,
ンク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体イ
ンク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出す
る(構成要件1A5)との構成が追加されたが「キャリッジの位置に応」’,
じて特定された」という記載が二義的に解釈が可能なものであって不明確な
ものであること,及び「液体インク収納容器位置検出手段」の意味が不明,
確であることについては,前記()[被告らの主張]エのとおりである。7
仮に「キャリッジの位置に応じて特定された」が,移動するキャリッジ,
のシャフト上における位置に応じて特定されたという意味だとしても,キャ
リッジがシャフト上のいかなる位置に来たときに,キャリッジ内のどのイン
クタンクを光らせるのかについて,本件訂正後の請求項は明らかにしておら
ず,その結果,本件訂正後の請求項は,インクタンクの発光部が受光手段と
対向する位置ではなく,対向する位置と隣接する位置又はさらに離れた位置
において発光する場合や,キャリッジ自体が受光手段から著しく離れた位置
や障害物により光が遮断される位置にある場合など,受光手段が発光部から
の発光を受光できず,結果としてインクタンクの位置を検出できないような
場合に特定色のインクタンクの発光部を光らせる場合をも含むこととなって
おり,技術的に意味がないような不当に広い範囲にまで特許権が及ぶおそれ
がある。したがって,本件訂正は,権利範囲が不当に広いという観点から見
ても,明確性要件に違反する。
【本件訂正発明2について】
,「」本件明細書の発明の詳細な説明には液体インク収納容器位置検出手段
(構成要件2A3,2F)が,段落【0021】以下に記載されている’’
実施例の記録装置のどの構成に対応するのかについての説明が存在しない。
すなわち,本件訂正発明2は,請求項で「∼手段」と上位概念で記載してい
るにもかかわらず,発明の詳細な説明において,請求項に記載した手段を実
現するための具体的構成が例示されておらず,当該手段の意味するところが
不明となっている。
,,「」そのため本件明細書の記載からは液体インク収納容器位置検出手段
が,どのような機構によって位置を検出するのかが不明であり,これらの手
段と液体インク収納容器の「発光部」との位置関係や制御関係も不明である
ため,発明を特定することができない。
また,本件訂正発明2についても,受光時における発光部と受光手段との
位置関係については,構成要件2F’に,構成要件1A5’と同じ記載があ
るだけである。したがって,本件訂正発明2も,本件訂正発明1と同様に,
「」,キャリッジの位置に応じて特定されたとの記載が不明確であるとともに
受光部が発光部からの発光を受光できないという,発光部と受光手段との間
に技術的な関連性がないような不当に広い範囲にまで特許権が及ぶおそれが
あり,明確性要件に違反する。
[原告の主張]
【本件訂正発明1について】
本件訂正発明1は,発光部と受光手段の位置関係について「発光部から,
の光を受光する位置検出用の受光手段(構成要件1A3)と規定してお」’
,。,()り両者の位置関係は明確になっているすなわち位置検出光照合処理
においては,インクタンクの発光部からの光がプリンタ側の受光手段におい
て受光されるような位置関係になるように設計されなければならない,とい
うことである。請求項の記載としては,これで必要十分であり,これ以上の
具体的な位置関係の説明は不要である。発光部と受光手段の具体的な位置関
係は,本件訂正後の請求項と実施例を見た当業者が,発明思想を理解した1
上で適宜に設計することで定まるものであり,それで十分実施可能である。
また「キャリッジの位置に応じて」とは「移動するキャリッジのシャ,,
フト上における位置に応じて」の意味であり「液体インク収納容器位置検,
出手段」とは,本件光照合処理を行うための手段であって,これらの意味に
ついて,当業者であれば本件明細書の記載から容易に理解することができる
ことについては,前記()[原告の主張]エのとおりである。7
本件明細書における本件光照合処理についての原理ないし仕組みの記載
(段落【0019)と,同原理ないし仕組みを具体化した光照合処理の実】
施例の説明(段落【0108】∼【0112)を併せ読めば,上記原理な】
いし仕組みをどのように具体化すればよいか,当業者ならば容易に理解する
ことが可能であるから,明確性要件に違反するものではない。
さらに,本件訂正後の請求項1には「発光部からの光を受光する位置検出
用の受光手段「受光結果に基づき…液体インク収納容器の搭載位置を検」,
出する」と明記されているのだから,受光手段が発光部からの発光を受光で
きず,結果としてインクタンクの位置を検出できないような設計は,本件訂
正後の請求項1の権利範囲外であることは明らかである。したがって,この
点も,明確性要件に違反するものではない。
【本件訂正発明2について】
本件訂正発明2について「キャリッジの位置に応じて特定された」との,
記載の意義が明確であること,及び,発光部と受光手段との間に技術的な関
連性がないような不当に広い範囲にまで特許権が及ぶおそれがないことにつ
いては,上記【本件訂正発明1について】と同じである。
()争点3−5−5(本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法3611
条4項1号(実施可能要件)に違反するか)について
[被告らの主張]
本件訂正発明1及び2は,次のとおり,発明の詳細な説明の記載が,そ
の発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をす
ることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず,特許法36条4
項1号に規定する実施可能要件を満たしていない。
ア「発光部」と「受光手段」若しくは「受光部」が,いかなる位置関係
であっても実施可能とは認められないこと
本件訂正によって,液体インク収納容器の「発光部」は「受光手段,
に投光するための光を発光する前記発光部(構成要件1D)ないし」’
「液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を
発光する発光部(構成要件2D3)と訂正されたが,同訂正によっ」’
ても「発光部」と「受光手段」ないし「受光部」の位置関係は特定さ,
れていない。
すなわち,本件訂正発明の請求項における「投光するための光」との
記載は,いわば願望の記載に止まるもので「発光部」と「受光手段」,
ないし「受光部」の位置関係を具体的に特定するものではない。
したがって本件訂正発明は液体インク収納容器の任意の位置に発,,「
」,「」「」光部が存在しそれに対していかなる位置に受光手段や受光部
が存在しようとも「発光部」からの光を受光することができ,それによ
って液体インク収納容器の搭載位置が検出できることとなっており,い
かなる位置関係であっても技術的範囲に含まれるように特許請求されて
いるに等しい。
しかしながら,本件明細書には,いかなる位置関係であっても「発光
部」から投光可能とするための実現手段は開示されていない。
したがって,本件明細書は,発光部と受光手段がいかなる位置関係で
あっても当業者が本件訂正発明を実施できるように明確かつ十分にその
発明の実現手段が開示されているとはいえない。
イ誤装着されたインクタンクが隣接位置にある場合,隣接位置からの光
は受光しない実現手段が不明であること
本件特許における「キャリッジに搭載された複数のインクタンクにつ
いて,その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させるととも
に,上記処置の位置での発光を検出するようにすることにより,発光が
検出されないインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識で
きる(本件明細書の段落【0019)という効果を達成するために。」】
は,受光手段等が特定のインクタンクの発光部からの発光のみを受光す
るように,何らかの構成を付加することが不可欠であるところ,本件明
細書においてその実現手段が明らかにされていないことについては,前
記()「被告らの主張」イのとおりである。6
ウキャリッジがシャフト上のいかなる位置に来たときに,キャリッジ内
のどの液体インク収納容器を「光らせ」るのかを特定することなく実施
可能であるとは認められないこと
「前記キャリッジの位置に応じて特定された(構成要件1A5,」’
2F)の意味を,仮に,移動するキャリッジのシャフト上における位’
置に応じて特定されたという意味であると解したとしても,上記構成要
,,件の記載からはキャリッジがシャフト上のいかなる位置に来たときに
キャリッジ内のどのインクタンクを「光らせ」るのかについての特定が
されていない。また,本件明細書には,液体インク収納容器の発光部が
受光手段と対向する位置ではなく,そもそもキャリッジ自体が受光手段
から著しく離れた位置や障害物により光が遮断される位置にある場合で
あっても「発光部」から「受光手段」への投光を可能とする実現手段,
は開示されていない。
したがって,本件明細書は,当業者が本件訂正発明を実施できるよう
に明確かつ十分にその発明の実現手段が開示されているとはいえない。
[原告の主張]
ア「発光部」と「受光手段」の位置関係は明確であること
本件明細書には,図8,9,35及び36などに「発光部」と「受,
光手段」の構成が何種類か記載されており,当業者であれば,明細書の
光照合処理の説明とこれら実施例の図を参照すれば「発光部」と「受,
光手段」の具体的な構成を容易に設計することが可能である。
明細書の開示としてはこの限度で十分であり「発光部」と「受光手,
段」の関係についてのより具体的な構成については,プリンタやインク
タンクの具体的な設計に応じて適宜設計すべき設計的事項として,当業
者に委ねられるものである。
イ閾値の設定について
この程度の実現手段については,明細書に記載がなくても,当業者で
。,あれば技術常識から容易に設定することができるその理由については
前記()[原告の主張]イのとおりである。6
ウ光照合処理の具体的な実施方法について
本件明細書における本件光照合処理についての原理ないし仕組みの記
載(段落【0019)と,同原理ないし仕組みを具体化した光照合処】
理の実施例の説明(段落【0108】∼【0112)を併せ読めば,】
上記原理ないし仕組みをどのように具体化すればよいか,当業者ならば
。,[]容易に理解することが可能であるその理由は前記()原告の主張10
イのとおりである。
()争点4(権利濫用(独占禁止法違反)の抗弁の成否)について12
[被告らの主張]
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」と
いう)21条は「この法律の規定は,著作権法,特許法,実用新案法,。,
意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為についてはこれを適用
しない」と規定するが,同条は,特許権者が特許権の行使に名を藉りて濫。
用的に競争制限行為に及んだ場合にまで独占禁止法の適用を除外する趣旨で
はなく,特許権を行使する行為が独占禁止法上違法で公序良俗違反と評価さ
れる場合には,その特許権の行使は,権利の濫用として許されないものとさ
れるべきである。
本訴における請求は,以下のとおり,インクカートリッジの消費者の選択
肢を奪い,市場に認知されている互換品の製造販売業者を一挙に締め出すこ
とを意図して,本件特許権を利用しようとするものであって,独占禁止法に
違反し,公序良俗に反するものであることが明らかであり,権利の濫用とし
て許されない。
アインクカートリッジ市場の動向
原告は,インクジェットカラープリンタ及びカラーインクカートリッジ
の開発及び製造販売を行っており,我が国のカートリッジ市場において有
力な最大手の事業者である。原告を始めとするプリンタメーカーは,プリ
ンタを格安で販売した上で,必需品のインクカートリッジを消耗品として
何個も売ることで利益上げるビジネスモデルを推進しており,インクカー
トリッジ販売の営業利益率は推定25ないし30%あると報道され,その
荒稼ぎが批判されている。
インクカートリッジには,プリンタメーカーが販売するいわゆる純正品
のほか,再生業者によって製造販売される再生品とプリンタメーカー以外
の生産者によって製造販売される互換品とがあり,被告らは「プレジー,
ル」製の互換品である被告製品を製造している。インクカートリッジの市
場は,プリンタメーカーが自社独自の構造のインクカートリッジを採用し
ているため,再生業者や互換品業者が代替品の販売をすることによって初
めて,消費者に違った価格や品質のインクを提供することが可能となって
おり,このような市場の確保が自由かつ公正な競争に不可欠である。
また,今日,パーソナルコンピュータやデジタルカメラ利用の増大に伴
い,インクカートリッジの需要が急速に拡大し,ユーザーの互換品インク
カートリッジに対する需要も高まっている。
イ原告のインクカートリッジの変更について
原告は,これまで,原告製インクタンク1及び2と同じ形状であって,
ICチップが搭載されていないインクカートリッジ(BCI3e,6,-
7系。以下「旧原告製インクタンク」という)を製造販売してきた。旧。
原告製インクタンクについては,平成17年9月ころには,再生品及び互
換品が既に発売されており,市場に認知され,数多くのユーザーが使用し
ていた。
原告は,平成17年9月,それ以降に発売するプリンタを発光機能付き
の原告製インクタンクでないと動作しないように設計した上,ICチップ
が搭載された原告製インクタンクの製造販売を開始し,それと同時に,旧
原告製インクタンクの製造販売を中止して,従来のプリンタを購入してい
たユーザーにもあえて発光機能付きの原告製インクタンクを購入するよう
に市場を誘導した。
しかしながら,発光制御機能のない従来のプリンタに発光機能付きの原
告製インクタンクを装着しても,発光しないまま印刷ができるだけであっ
たのみならず,原告製インクタンクは,インクカートリッジ内部に発光機
能を組み込んだことにより,旧原告製インクタンクと比較してインク容量
が必然的に減少することとなったため,従来のプリンタのユーザーにとっ
ては,割高の商品を強制的に購入せざるを得ない不利益を生じさせるもの
であった。例えば,BCI−7YとBCI7eYとの対比において,そ-
のインク容量が約8.4重量%減少したのみならず,販売価格は約14円
の値上げとなった。このように,原告は,従来のプリンタを購入していた
ユーザーに対し,不要な機能付の原告製インクタンクを抱き合わせて購入
することを強いたのみならず,インクカートリッジの仕様変更に乗じて,
不当な利益を搾取したことが明らかである。
原告は,本件発明の課題をパソコンに不慣れなユーザーによる誤った使
用(装着位置のミス)の防止である旨主張する。しかしながら,前記のと
おり,新機種のプリンタは,同色のインクカートリッジが2個以上装着さ
れたミスがあっても,LEDの発光によりユーザーにエラーが報知される
ことはない。また,すべての色が装着されたが位置が違っていたというミ
スの場合は,LEDの発光による報知はあっても,インクカートリッジが
受光部の近傍まで移動した後にタイムラグがあって報知されるので,エラ
ーに気づいたときには,すでにキャリッジ部分に違った色のインクが浸透
して混色が進んでしまうという欠点があり,誤装着による問題点の解消に
は,実用上ほとんど意味がない。
したがって,原告製インクタンクへの変更は,既に市場に認知されてい
た再生業者や互換業者を排除するために,出願中であった本件発明に関連
するインクカートリッジの発光機能を利用することを意図して,これにI
Cチップを搭載したものであったことが明らかである。
さらに,原告製インクタンクの発売に伴って再生品,互換品(オーム,
カレン,阿吽など)が旧機種のプリンタのみの対応品という位置付けにな
ったため,それを境に再生品,互換品とも著しく売り上げが減少すること
となった。その結果,再生業者は,インクカートリッジの確保が困難とな
り,他方,互換業者は,暗号化されたICチップの解読や発光機能への対
応に困難を極めることとなって,原告製インクタンク適合のプリンタにつ
いては,その後,約1年半にわたって100%純正品の市場を強いられる
こととなった。原告がインクカートリッジの変更によって市場を独占する
こととなったため,ユーザーからは,価格が高止まりしていることが批判
されている。
結局,再生業者において,原告製インクタンクの再生品を発売できたの
が平成19年4月,互換品(オーム電機,カレン,ナインスター,阿吽,
G&G等)が発売されたのが平成20年8月,被告製品の発売は同年9月
20日であって,その発売後,ようやく互換品を含めた各社が選択肢を提
供する健全な市場が形成されかけた矢先に,これを阻止すべく,本件訴え
が提起された。
以上の経過からすると,原告が本件訴えに及んだ真の意図は,高止まり
していた原告製インクタンクの価格を維持し,インクカートリッジの消費
者の選択肢を奪い,市場に認知されている互換品の製造販売業者を一挙に
締め出すことにあるというべきである。
ウインクカートリッジの発光化と独占禁止法について
原告は,平成16年10月21日,公正取引委員会から,独占禁止法違
,,,反被疑事件の処理についてその審査の結果を公表されたが同委員会は
その中で「レーザープリンタに装着されるトナーカートリッジへのIC,
チップの搭載とトナーカートリッジの再生利用に関する独占禁止法上の考
え方」として,以下のとおりの見解を公表している(乙A25。)
「近年,レーザープリンタに使用されるトナーカートリッジ(以下「カー
トリッジ」という)にICチップが搭載される事例が増えている。レ。
ーザープリンタのメーカーがその製品の品質・性能の向上等を目的とし
て,カートリッジにICチップを搭載すること自体は独占禁止法上問題
となるものではない。しかし,プリンタメーカーが,例えば,技術上の
必要性等の合理的理由がないのに,あるいは,その必要性等の範囲を超
えて
①ICチップに記録される情報を暗号化したり,その書換えを困難に
して,カートリッジを再生利用できないようにすること
②ICチップにカートリッジのトナーがなくなった等のデータを記録
,,,し再生品が装着された場合レーザープリンタの作動を停止したり
一部の機能が働かないようにすること
,③レーザープリンタ本体によるICチップの制御方法を複雑にしたり
これを頻繁に変更することにより,カートリッジを再生利用できない
ようにすること
などにより,ユーザーが再生品を使用することを妨げる場合には,独占
禁止法上問題となるおそれがある(第19条(不公正な取引方法第10
項[抱き合わせ販売等]又は第15項[競争者に対する取引妨害)の]
規定に違反するおそれ。)
なお,前記の考え方は,インクジェットプリンタに使用されるインク
カートリッジにICチップを搭載する場合についても,基本的に同様で
ある」。
,,上記の公正取引委員会の考え方は再生品について述べたものであるが
本件のような互換品に対しても適用できるものであり,インクカートリッ
ジに発光機能を付加してICチップの制御方法を複雑にする場合にも適用
が問題となるものである。
エ原告の独占禁止法違反行為
上記の考え方を前提として,原告の一連の行為をみると,原告製インク
タンクは,特定のプリンタにしか適合しないICチップを新たに搭載した
インクカートリッジであり,ユーザーが互換品を使用することを妨げる,
いわゆる特定のプリンタとの抱き合わせ商品であって,原告は,プリンタ
の供給に併せてユーザーに原告製インクタンクを購入するように強制させ
ているから,独占禁止法19条(不公正な取引方法第10項「抱き合わせ
販売等)の規定に違反している。」
すなわち,原告製インクタンクが,色ラベルにより誤装着を防止してい
るにもかかわらず,プリンタからの発光制御信号によって発光する発光素
子を採用し,印刷開始に先立って発光しない限り動作しないようにしてい
るのは,単に原告製プリンタがこの発光素子を持たないインクタンクを排
除するように設計されているからであり,原告は,原告製プリンタと原告
製インクタンクについて,抱き合わせ販売を行っている。このような抱き
合わせ販売がされることにより,ユーザーは,原告製インクタンクの購入
を強制されて,商品選択の自由が妨げられ,その結果,良質・廉価な商品
を提供して顧客を獲得するという競争が侵害され,原告が市場を独占する
ことになった。
また,原告製インクタンクに搭載されたICチップは,ICチップに記
録される情報を複雑にしてその書換えを困難にし,本件発明に関連する発
光機能を動作させるための不可欠の条件とするものであるから,ユーザー
が所望する安価な互換品の購入を妨害し,互換品生産事業者の事業参入を
阻害するものである。
原告は,前記のとおり,ICチップ搭載による発光機能の付加が誤装着
による問題点の解消に実用上ほとんど意味のないものであったにもかかわ
らず,競争関係にある再生業者や互換品業者の参入を阻止するため,技術
上の必要性等の範囲を超えて,原告製インクタンクにICチップ搭載によ
る発光機能を付加させたものであり,これにより,ユーザーが原告以外の
事業者から別のインクカートリッジを購入することを長期間にわたって不
当に妨害しているから独占禁止法19条不公正な取引方法第15項競,(「
争者に対する取引妨害)の規定に違反する。」
オ原告の権利濫用行為
本件訴えは,上記独占禁止法違反行為によって,市場を独占し,不当な
利益を享受していた原告が,相次いで互換品を発売した互換品業者の市場
参入を阻止し,自らの独占を維持するために,インクカートリッジの消費
者の選択肢を奪い,市場に認知されている互換品の製造販売業者を一挙に
締め出すことを意図して,本件特許権の存在を利用して技術上の必要性等
の範囲を超えてなしたものであって,独占禁止法に違反し,公序良俗に反
するというべきである。
したがって,本件請求は,原告が特許権の行使に名を藉りて濫用的に競
争制限行為に及んだものであって,権利濫用として許されない。
[原告の主張]
被告らの主張を否認ないし争う。
本件訴えは,原告自身の開発した,原告製品に関する特許権を,単独で行
使するものであり,権利濫用となり得る要素は存在しない。
原告は,プリンタを廉価販売し,インクタンクを高値で販売しているもの
ではなく,原告製プリンタ及び原告製インクタンクは,市場における競業他
社製品との競争の中で価格が形成されている。原告製プリンタ及び原告製イ
ンクタンクの販売価格は,それらを支える技術の知的財産価値,投入した資
金を回収するために必要な価格レベル及び取引の実情を考慮して設定されて
おり,合理的な価格である。
また,原告製インクタンクは,カラープリンタ製品の市場動向に鑑み,需
要者の希望に沿う技術開発の結果として商品化されたものであり,失敗のな
いカラー印刷の実現に寄与している。本件発明を実施した原告製インクタン
ク及び原告製プリンタにより,ユーザーが誤った位置にインクタンクを装着
することが防止される上,インクタンクの交換に際し,光によるガイドが提
供され,インク切れについても正確な報知がされる。そして,バス配線によ
る接続によってコストを下げつつ,誤装着防止の機能を実現するためには,
インクタンクに発光部,情報保持部及び制御部を備えたICチップを搭載す
ることは,技術上必要なことであったものである。なお,発光制御機能のな
い旧製品のプリンタについては,ICチップ搭載のメリットを生かすことが
できないものの,原告製インクタンクは,それら旧製品のプリンタにも適合
するように設計されており,旧製品プリンタのユーザーにも,デメリットは
生じない。
以上のとおり,原告が,旧原告製インクタンクをICチップ搭載のインク
タンク(原告製インクタンク)に変更した理由は,ひとえにその技術的な必
要性のためであって,競争者を排除するためではない。
第3当裁判所の判断
1本件特許権1に基づく被告製品2の輸入,販売等の差止請求の可否
()争点1(被告製品2は,本件発明1及び本件訂正発明1の構成要件を充1
足するか)について
ア被告製品2の構成
(,),,証拠甲510の1∼4及び弁論の全趣旨によれば被告製品2は
別紙物件目録()の第2及び第3記載の構造のインクタンク本体に,同目2
録第1記載の表示を付し,インクを充填したインクタンクであると認めら
れる。
これに対し,被告らは,別紙物件目録()記載のICチップ(同目録の2
第2【図1】ないし【図3】の番号103)は,被告らが自ら製造又は製
造委託した物ではないから,同ICチップの構造(上記目録の第3の8項
及び9項)については知らないと主張する。
しかしながら,前掲各証拠により認められる,被告製品2に設けられた
基板の外観,同基板上に設けられたICチップ内部のメモリに保持された
コードをCPUボードを用いて読み出した結果,及び,被告製品2を原告
製プリンタに装着した際の動作の状況等によれば,①被告製品2は,そ
の基板の上面に,発光部及びICチップが設けられ,基板の下面(上面と
反対側の面)に,インクタンクがタンクホルダに保持された状態で原告製
プリンタのコネクタ(プリンタ側接点)と電気的に接続する電極パッドが
設けられていること,②上記ICチップには情報保持部が存在し,当該
インクタンクのインク色を示す情報を保持することが可能であること,③
上記ICチップには制御部が存在し,原告製プリンタから上記電極パッ
ドを介して入力される電気信号中の色情報と,上記情報保持部の保持する
色情報とを比較し,それらが同一である場合に上記発光部を発光させるこ
とが認められ,上記認定を左右するに足りる証拠はない。
したがって,被告製品2に設けられたICチップが別紙物件目録()記2
載の構造(同目録第3の8,9)を有することは明らかであり,被告らの
主張は理由がない。
イ各構成要件の充足性についての検討
(ア)構成要件1A及び1A’について
a構成要件1A1及び1A1’について
証拠(甲5・3頁,甲10の1,2)によれば,被告製品2は液体
インク収納容器であり,原告製プリンタは複数の被告製品2を搭載し
て移動することのできるキャリッジを備えていることが認められる。
,,「」したがって原告製プリンタは複数の液体収納容器が搭載可能
(構成要件1A1)なものであり「複数の液体インク収納容器を搭,
載して移動するキャリッジ(構成要件1A1)を備えていると認」’
められる。
b構成要件1A2及び1A2’について
証拠(甲5・3頁,甲10の1∼4)によれば,原告製プリンタの
タンクホルダには,被告製品2に設けられた基板と電気的に接続する
接点が設けられていることが認められる。
したがって,原告製プリンタは「液体収納容器に備えられる接点,
と電気的に結合可能な装置側接点(構成要件1A2)及び「液体イ」
ンク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点構」(
成要件1A2)を備えていることが認められる。’
c構成要件1A3及び1A3’について
(a)証拠(甲5(3頁,4頁,7頁∼11頁,甲10の1∼4))
及び弁論の全趣旨によれば,①原告製プリンタには,同プリンタ
のキャリッジの箇所に向かい合うように,被告製品2の発光部から
の光を受光する受光手段が一つ設けられていること(なお,被告製
品2は,底面の発光部の光が,透明なプラスチック状の導光性部材
を通してインクタンク上部まで導光され,同所から上記受光手段に
投光される構成となっている,②同プリンタのすべてのタン。)
クホルダに被告製品を装着した状態でプリンタの上部カバーを閉じ
ると,キャリッジは,上記受光手段の付近まで移動し,受光手段の
付近で細かく移動することによって,受光手段に対向するインクタ
ンクが次々と入れ替わること,③各インクタンクは,前記アのと
おり,当該インクタンクのインク色を示す色情報を保持することが
可能な情報保持部を有しており,原告製プリンタから上記bの接点
を介して入力される電気信号中の色情報と,上記情報保持部の保持
する情報を比較し,それらが同一である場合に,インクタンク上の
,,,発光部を発光させること④上記③の発光は各インクタンクが
その本来装着されるべき搭載位置が上記受光手段に対向する位置に
来た時に行われること,⑤原告製プリンタ(具体的には,プリン
タ内の制御回路)は,上記②ないし④の動作により上記受光部が上
,,記発光を受光することができるか否かによって各インクタンクが
その本来装着されるべき位置に装着されているかどうかを確認する
こと(すなわち,本件光照合処理を行うこと,が認められる。)
したがって,原告製プリンタは「液体収納容器からの光を受光,
する受光手段(構成要件1A3,並びに「前記キャリッジの移」),
動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置
され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出
用の受光手段を一つ,及び「該受光手段で該光を受光すること」,
によって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク
収納容器位置検出手段(構成要件1A3)を備えている。」’
(b)これに対し,被告らは,本件明細書の実施例には,インクタン
クの発光部から,受光手段又は液体インク収納容器位置検出手段の
受光部に向けて投光する構成として,インクタンクを搭載するキャ
リッジ上のホルダに穴を空けて光を通す構成が記載されているだけ
であり(段落【0036【0038,図4,これ以外に,発】,】)
光部から受光手段等に投光する実施例について,十分な開示はされ
ていないから,構成要件1A3の「該液体収納容器からの光を受光
する」及び同1A3’の「前記液体インク収納容器の発光部からの
光を受光する」とは「インクタンクホルダに空けられた穴もしく,
は光透過性の部分を通じて光を通すことにより該液体収納容器から
の光を受光する」と,限定して解するのが相当であり,かかる受光
方法を採用していない原告製プリンタは,構成要件1A3及び1A
3’所定の方法で被告製品2からの発光を受光するものではない,
と主張する。
しかしながら,上記構成要件には,単に「該液体収納容器から,
の光を受光する」ないし「前記液体インク収納容器の発光部からの
光を受光する」と記載されているだけであり,プリンタに設けられ
た受光手段がインクタンクないしインクタンクの発光部からの光を
受光する方法を被告らの主張する方法に限定する旨の記載は存在し
ない。
また,本件明細書には,発明の詳細な説明として,以下の記載が
存在する(甲2。)
【背景技術】
「近年,デジタルカメラの普及に伴って,パーソナルコンピュータ
(PC)を介さずにデジタルカメラと記録装置としてのプリンタ
()。とを直接接続して印刷する用途ノンPC記録が増えつつある
さらにデジタルカメラに着脱可能に用いられる情報記憶媒体であ
るカードタイプの情報記憶媒体を直接プリンタに装着してデータ
,()。」転送を行い印刷を行う形態ノンPC記録も増えつつある
(4頁43行∼48行段落【0002)】
「一方,さらなる高画質化の要求から従来の4色(ブラック,イエ
ロー,マゼンタ,シアン)インクに,濃度の薄い淡色マゼンタ,
淡色シアンといったインクが使われるようになってきており,さ
らにはレッド,ブルーインクといったいわゆる特色インクの使用
も提案されてきている。このような場合,インクジェットプリン
タに対しては7∼8個といったインクタンクを個別に搭載するこ
とになる。その際に,間違った装着位置へのインクタンクの搭載
を防止する機構が必要となってくる。特許文献3には,インクタ
ンクがキャリッジに搭載される際の,キャリッジの搭載部とイン
クタンク相互の係合の形状をインクタンクごとに異ならせ,これ
により,インクタンクが誤った位置に装着されることを防止して
いる構成が開示されている(5頁11行∼20行段落【0。」
004)】
【発明が解決しようとする課題】
「インクタンクの搭載位置を特定する構成としては,上述したよう
に,搭載部とインクタンクが係合する相互の形状を搭載位置ごと
に異ならせるものがある。しかしながら,この場合は特に,イン
クの色ないし種類ごとに異なる形状のインクタンクを製造する必
要があり,製造効率やコストの点で不利となる(5頁35行。」
∼39行【0007)】
「他の構成として,インクタンクの電気接点とキャリッジ等の搭載
位置における本体側の電気接点とが接続して形成される回路の信
号線を,搭載位置ごとに個別のものとする構成が考慮される。例
えば,インクタンクのインク色情報をそのインクタンクから読み
出し,LEDの点灯などを制御するための信号線を搭載位置ごと
に個別のものとすることにより,読み出した色情報がその搭載位
置に適合していなければインクタンクが誤って搭載されているこ
とを知ることができる(5頁40行∼46行【0008)。」】
「しかしながら,このような信号線をインクタンクもしくは搭載位
,。置ごとに個別なものとする構成は信号線の数を増すものである
特に,上述したように最近のインクジェットプリンタなどでは,
用いるインクの種類を多くすることにより画質の向上を図るのが
一つの傾向としてある。このようなプリンタでは,特に信号線の
数が増すことはコストを増すなどの要因となる。一方で,配線数
を削減するためにはバス接続といった所謂共通の信号線の構成が
有効であるが,単にバス接続のような共通の信号線を用いる構成
では,インクタンクもしくはその搭載位置を特定することができ
ないことは明らかである(5頁47行∼6頁4行段落【0。」
009)】
「本発明はこのような問題を解消するためになされたものであり,
その目的とするところは,複数のインクタンクの搭載位置に対し
て共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い,
この場合でもインクタンクなど液体収納容器の搭載位置を特定し
た表示器の発光制御をすることを可能とすることにある(6。」
頁5行∼9行段落【0010)】
【発明の効果】
「以上の構成によれば,記録装置の本体側の接点(コネクタ)と接
続する液体収納容器であるインクタンクの接点(パッド)を介し
て入力される信号と,そのインクタンクの個体情報とに基づいて
発光部の発光を制御するので,先ず,搭載される複数のインクタ
ンクが共通の信号線によってその同じ制御信号を受け取ったとし
ても,固体情報に合致するインクタンクのみがその発光制御を行
うことができ,これにより,インクタンクを特定した発光部の点
灯など発光制御が可能となる。次に,このようなインクタンクを
特定した発光制御が可能な場合,例えば,キャリッジに搭載され
た複数のインクタンクについて,その移動に伴い所定の位置で順
次その発光部を発光させるとともに,上記処置の位置での発光を
検出するようにすることにより,発光が検出されないインクタン
。,クは誤った位置に搭載されていることを認識できるこれにより
例えば,ユーザに対してインクタンクを正しい位置に再装着する
ことを促す処理をすることができ,結果として,インクタンクご
とにその搭載位置を特定することができる(8頁47行∼9。」
頁10行段落【0019)】
「この結果,複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線
を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い,この場合でもイ
ンクタンクなど液体収納容器の搭載位置を特定した表示器の発行
(判決注:発光」の誤記と認める)制御をすることが可能と「。
なる(9頁11行∼14行段落【0020)。」】
本件明細書の発明の詳細な説明における上記【発明が解決しよう
とする課題】及び【発明の効果】の記載からすると,本件発明1及
び本件訂正発明1においてインクタンクに発光部を設けること及び
プリンタに受光手段を設けることの技術的意義は,インクタンクに
よる所定の位置での発光を上記受光部が検出することによって本件
光照合処理を実現することにあるものと認められる。
そうすると,構成要件1A3及び1A3’の「受光手段」とは,
プリンタ上に1個設けられたものであり,インクタンクからの発光
を受光することによって本件光照合処理を実現することのできるも
のであれば足りると解するのが相当であり,これを更に,基板をイ
ンクタンクの底面側に設けた場合のインクタンクからの発光を受光
する方法を本件明細書の実施例の場合に限定するものと認めること
はできないというべきである。
被告らの主張は,本件発明1及び本件訂正発明1の技術的範囲を
その実施例に限定しようとするものであり,これを採用することは
できない。
(c)被告らは「液体インク収納容器の搭載位置を検出する(構,」
成要件1A3)とは,その通常の語義や,本件発明1及び本件訂’
正発明1の課題がキャリッジにおけるインクタンクの誤装着を防止
することであることからすれば「各インクタンクがキャリッジ上,
のどの位置に搭載されているかを検出する」という意味であると解
するのが相当であり,原告製プリンタは,インクタンクが所定の位
置に装着されていないことは検出できるものの,誤装着されたイン
クタンクが装着された場所については検出することができないか
ら,上記の意味の「検出」機能を備えていないとも主張する。
しかしながら,構成要件1A3’は,単に「液体インク収納容,
器の搭載位置を検出する」と記載されているだけであり「搭載」,
とは「船・車・飛行機などに資材を積みこむこと」を「位置」と,
は「ある人・物・事柄が,他との関係もしくは全体との関係で占め
る場所,あるいは立場」を「検出」とは「検査して見つけ出すこ,
」,(,とをそれぞれ意味するものであるから広辞苑第5版152頁
860頁,1879頁「搭載位置」というだけでは,それが絶),
対的な位置関係(インクタンクが現に装着されているキャリッジ上
の特定の箇所)を意味するのか,相対的な位置関係(例えば,イン
クタンクが現に装着されている場所が,その本来装着されるべき場
所との関係で,正しいものか否か)を意味するのかは,一義的に。
明確であるとはいえないというべきである。
そこで本件明細書の発明の詳細な説明を見ると,前記(b)のとお
り,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1及び本件訂正
発明1の課題は,インクタンクの形状を異ならせたり,各インクタ
ンクとプリンタとをつなぐ個別の信号線を用いたりすることなく,
インクタンクの誤装着を防止することであり,本件光照合処理によ
り,発光が検出されないインクタンクは誤った位置に搭載されてい
ることを認識することができ,これによって,上記課題を解決する
ことができる旨が記載されていることが認められるが,それを超え
て,誤った位置に搭載されたインクタンクが,キャリッジ上のどの
位置に搭載されているのかを検出する方法については,何らの記載
も示唆もされていないものと認められる。
さらに,本件明細書の発明の詳細な説明中には【発明を実施す,
るための最良の形態】として,次のとおり,本件光照合処理につい
て説明する部分があり,ここでも,本件光照合処理は,インクタン
クが正しい位置に装着されているか否かを判断する処理であり,同
処理によって,本来の位置に装着されていないインクタンクを特定
することができることが説明されている。
「光照合処理は,正常に装着されたインクタンクそれぞれが正しい
位置に装着されているか否かを判断する処理である。本実施形態
では,インクタンクの装着位置について,例えば,インクタンク
と装着位置の形状を他のインクのインクタンクが装着できないよ
うな形状とし,それぞれの色のインクタンクに対応して装着位置
を定めるような構成をとらないことから,それぞれの色のインク
タンクについて本来の位置でないところに誤って装着される可能
性がある。このため,本光照合処理を行い,誤って装着されてい
る場合は,ユーザにその旨を知らせるものである。これにより,
特に,インクタンクの形状を色ごとに異ならせることなく,イン
クタンクの製造の効率化や低コスト化を図ることができる(2。」
2頁43行∼23頁1行段落【0108)】
「図29(a)∼(d)および図30(a)∼(d)は,この光照合処理を
説明する図である(23頁2行∼4行段落【0109)。」】
(,。判決注:下記の図面は対応する図面を裁判所において挿入した
以下同じ)。
【図29】【図30】
「図29(a)に示すように,先ず,第1受光部210に対して,図
中左側から右側へ移動キャリッジ205を開始する。そして,最
初に,イエローインクのインクタンク1Yが装着されるべき位置
のインクタンクが第1受光部210に対向する位置で,インクタ
ンク1YのLED101を発光させる(図24にて説明したよう
に,実際は点灯し所定時間後消灯すること,以下,本照合処理で
)。,は同様インクタンク本来の正しい位置に装着されているとき
第1受光部210はLED101の発光を受光することができ,
制御回路300は,その装着位置にはインクタンク1Yが正しく
装着されていると判断する(23頁5行∼12行段落【0。」
110)】
「キャリッジ205を移動しつつ,同様にして,図29(b)に示す
ように,マゼンタインクのインクタンク1Mが装着されるべき位
置のインクタンクが第1受光部210に対向する位置で,インク
タンク1MのLED101を発光させる。同図に示す例は,イン
クタンク1Mが正しい位置に装着されていて第1受光部210は
その発光を受光することを示している。順次,図29(b)∼(d)
,。に示すように判断する装着位置を変えながら発光を行って行く
これらの図は,正しい位置に装着されている例を示している」。
(23頁13行∼19行段落【0111)】
「これに対し,図30(b)に示すように,マゼンタインクのインク
タンク1Mが装着されるべき位置にシアンインクのインクタンク
1Cが誤って装着されているときは,第1受光部210に対向し
ているインクタンク1CのLED101は発光せず,別の位置に
搭載されているインクタンク1MのLED101が発光する。こ
の結果,このタイミングでは,第1受光部210は受光できない
ことから,制御回路300は,その装着位置にはインクタンク1
M以外のインクタンクが装着されていると判断する。これに対応
して,図30(c)に示すように,シアンインクのインクタンク1
Cが装着されるべき位置にマゼンタインクのインクタンク1Mが
誤って装着されており,第1受光部210に対向しているインク
タンク1MのLED101は発光せず,別の位置に搭載されてい
るインクタンク1CのLED101が発光する(23頁20。」
行∼30行段落【0112)】
「以上説明した光照合処理を行うことにより,制御回路300は本
来の位置に装着されていないインクタンクを特定することができ
る。また,装着されるべき位置に正しいインクタンクが装着され
ていなかった場合には,その装着位置において,他の3色のイン
クタンクを順に発光させる制御を行うことによって,その装着位
置に誤って何色のインクタンクが装着されてしまったかを特定す
ることもできる(23頁31行∼36行段落【0113)。」】
「図25において,上述したステップS105の光照合処理の後,
ステップS106でこの処理が正常終了したか否かを判断する。
光照合が正常終了したと判断したときは,ステップS107で,
操作部213の表示器を例えばグリーンに点灯して,本処理を終
了する。一方,正常の終了でないと判断したときは,ステップS
109で操作部213の表示器を例えばオレンジで点滅するとと
もに,ステップS110で,ステップS105で特定した,本来
の正しい位置に装着されていないインクタンクのLED101
を,例えば点滅あるいは点灯する。これにより,ステップS10
8で,ユーザが本体カバー201を開けたとき,本来の正しい位
置に装着されていないインクタンクを知ることができ,正しい位
置への再装着を促すことができる(23頁37行∼46行。」
段落【0114)】
以上の請求項の記載及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載か
らすると,構成要件1A3’の「液体インク収納容器の搭載位置を
検出する」とは「インクタンクが正しい位置に搭載されているか,
否かを認識する」ことを意味するものであり,それを超えて,誤っ
た位置に搭載されたインクタンクが,キャリッジ上のどの位置に搭
載されているかを確定させることまでは意味しないと解するのが相
当である。
したがって,被告らの主張は理由がない。
d構成要件1A4及び1A4’について
証拠(甲5・5頁及び6頁,甲10の1∼4)によれば,原告製プ
リンタは,各インクタンクと接続するタンクホルダのコネクタが,タ
ンクホルダの裏側において共通の配線で接続されていること,本件光
照合処理の際には,上記配線を通じて,各インクタンクを光らせるた
めの色情報のコードが各インクタンクに送信されること,が認められ
る。
したがって,原告製プリンタは「搭載される液体収納容器それぞ,
れの前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通に電気的接続す
る配線を有した電気回路(構成要件1A4,及び「搭載される液」),
体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対
して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有
した電気回路(構成要件1A4)を備えていると認められる。」’
e構成要件1A5’について
構成要件1A5’の「液体インク収納容器の搭載位置を検出する」
とは,前記cのとおり「インクタンクが正しい位置に搭載されてい,
るか否かを認識する」ことを意味するものと解される。また,原告製
プリンタが,本件光照合処理を行うことによって,各インクタンクが
正しい位置に装着されているか否かを検出することができると認めら
れることについても,上記cで認定したとおりである。
したがって,原告製プリンタは「前記キャリッジの位置に応じて,
特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光ら
せ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段
は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する(構成要件1A5」
)機能を備えていると認められる。’
f構成要件1A5及び1A6’について
(a)被告製品2は,上記aないしeのとおり,構成要件1A1ない
し1A4及び構成要件1A1’ないし1A5’の構成を備えた原告
製プリンタのキャリッジに対して着脱可能であることが認められ
る。
したがって,被告製品2は,構成要件1A(1A1∼1A5)及
び1A(1A1’∼1A6)を充足する。’’
(b)これに対し,被告らは,本件明細書の発明の詳細な説明には,
本件発明が解決しようとする課題及び同課題に対して本件発明の構
成をとることによる効果について,前記の段落【0004【0】,
007】及び【0108】のとおり記載されており,上記記載から
すると,本件発明は,インクタンクごとに形状を異ならせる構成を
とらないことを前提とするものであるから,構成要件1A5及び1
’「()」,A6の着脱可能な液体収納容器液体インク収納容器とは
「すべて同一形状の複数の液体収納容器が搭載可能な記録装置に着
脱可能な液体収納容器(構成要件1A5)及び「すべて同一形状」
の複数の液体インク収納容器が搭載可能な記録装置のキャリッジに
対して着脱可能な液体インク収納容器(構成要件1A6)と解」’
するのが相当である,と主張する。
しかしながら,上記構成要件は,単に「記録装置に対して),(
着脱可能な液体収納容器(構成要件1A5)及び「記録装置の)」(
前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器(構成要」
件1A6)と記載されているだけであり,搭載可能な液体収納容’
,。器の形状について被告らの主張するような限定は付されていない
,,,また本件明細書の発明の詳細な説明には前記cの記載があり
上記記載によれば,同一形状の複数のインクタンクを相互に異なる
位置に搭載することができるプリンタであれば,同プリンタに上記
インクタンクと異なる形状のインクタンクを搭載することができる
か否かにかかわらず,本件発明1及び本件訂正発明1における課題
(インクタンクの形状をインクタンクごとに異ならせることなく,
インクタンクの誤装着を防止すること)が存在するということが。
でき,本件光照合処理によりインクタンクの誤装着を認識するとい
う上記発明の効果によって,上記課題を解決することができるもの
と認められる。
そうすると,構成要件1A5及び1A6’の「記録装置に対,(
して)着脱可能な液体収納容器(構成要件1A5)及び「記録」(
装置の)前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器」
(構成要件1A6)とは,同一形状の複数のインクタンクを相互’
に異なる位置に搭載することかできるプリンタないしそのキャリッ
ジに対して着脱可能な液体収納容器ないし液体インク収納容器であ
れば足りると解するのが相当であり,上記プリンタが,他に異なる
形状のインクタンクを搭載することができるものであることは,被
告製品2が構成要件1A5及び1A6’を充足するとの判断を妨げ
るものではないというべきである。
したがって,被告らの主張は理由がない。
(イ)構成要件1B及び1B’について
証拠(甲5・7頁及び8頁)によれば,被告製品2には,その底面部
に基板が設置され,同基板上に,原告製プリンタ側のコネクタと電気的
に接続することが可能な接点が設けられていることが認められる。
したがって,被告製品2は,構成要件1B及び1B’の「前記装置側
接点と電気的に接続可能な前記接点」を備えていると認められ,同構成
要件を充足する。
(ウ)構成要件1C及び1C’について
証拠(甲5・8頁∼11頁,甲10の1∼4)によれば,被告製品2
は,その基板に設けられたICチップに,当該インクタンクの色に応じ
た色情報を保持していることが認められる。
したがって,被告製品2は,構成要件1Cの「液体収納容器の個体情
報を保持可能な情報保持部」及び同1C’の「液体インク収納容器のイ
」,ンク色を示す色情報を保持可能な情報保持部を備えていると認められ
同構成要件を充足する。
(エ)構成要件1D及び1D’について
前記アのとおり,被告製品2は,その基板の上面に発光部が設けられ
ていることが認められる。また,前記(ア)cのとおり,上記発光部は,
本件光照合処理の際,原告製プリンタの受光部に投光するための光を発
光することが認められる。
したがって,被告製品2は,構成要件1Dの「発光部」及び同1D’
の「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」を備えて
いると認められ,同構成要件を充足する。
(オ)構成要件1E及び1E’について
a前記アのとおり,被告製品2は,その基板の上面に発光部及びIC
チップが設けられ,ICチップには情報保持部が存在し,当該インク
タンクのインク色を示す情報を保持することが可能であって,原告製
プリンタとインクタンクとの接点から上記ICチップに対し,インク
の色に応じた色情報に発光コマンド(制御部に発光を命じる命令コー
ド)を付けた信号を送付すると,ICチップ内の制御部において,上
,,記送信された色情報と上記情報保持部の保持する色情報とを比較し
両者が一致している場合のみ上記発光部を発光させることが認められ
る。
したがって,被告製品2は,構成要件1Eの「前記接点から入力さ
れる個体情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する個体情報とに
応じて前記発光部の発光を制御する制御部」及び同1E’の「前記接
点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持す
る前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」を備え
ており,同構成要件を充足する。
bこれに対し,被告らは「かってにさせないこと。思いどおりにあ,
やつること。支配「調節すること(乙A7)という「制御」。」,。」,
の有する通常の意味に従って解釈すれば,構成要件1E及び1E’の
「発光部の発光を制御する制御部」とは,発光部の発光を,いつ,ど
のタイミングで,点灯,点滅,消灯のいずれの状態とするのかについ
て,自身でコントロールし,また,発光部の点滅速度を自身で調節し
得る機構を指すと解するのが相当であり,被告製品2は,プリンタ本
体の制御回路からの信号を受け取って,その指示どおりの発光,点滅
を行っているにすぎないから,上記意味での「制御部」を備えていな
い,と主張する。
,(),「」,,しかしながら証拠乙A7によれば制御とは一般的に
「かってにさせないこと。思いどおりにあやつること。支配「調。」,
。」,,節することを意味するものと認められるところ被告製品2では
上記aのとおり,プリンタ本体から送られてくる「色情報+発光コマ
ンド」を受信すると,同製品に設けられたICチップ内の制御部にお
いて,上記色情報が自らのインクタンクの色に一致しているかどうか
を比較し,両者が一致していると判断した場合に限り,同製品上の発
光部を発光させていることが認められる。
そうすると,被告製品2は,単にプリンタ本体に指示されるがまま
に発光部を発光させているものではなく,そのICチップ内の制御部
において,その発光部の発光を操作している,すなわち,上記のとお
りプリンタ本体から送られてくる色情報が自己の保有する色情報と一
致するかどうかを主体的に判断することにより,発光部の発光を「制
御」しているものと認められる。
また,本件明細書の発明の詳細な説明においても,前記のとおり,
本件発明1及び本件訂正発明1の目的は「複数のインクタンクの搭,
載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御
を行い,この場合でもインクタンクなど液体収納容器の搭載位置を特
定した表示器の発光制御をすることを可能とすること(段落【00」
10)にあり,発明の効果は「記録装置の本体側の接点(コネク】,
タ)と接続する液体収納容器であるインクタンクの接点(パッド)を
介して入力される信号と,そのインクタンクの個体情報とに基づいて
発光部の発光を制御するので,先ず,搭載される複数のインクタンク
が共通の信号線によってその同じ制御信号を受け取ったとしても,固
体情報に合致するインクタンクのみがその発光制御を行うことがで
き,これにより,インクタンクを特定した発光部の点灯など発光制御
が可能となる(段落【0019)であると説明されており,イン。」】
クタンクにおいて発光部の発光制御が行われる旨が記載されている。
さらに,本件明細書の発明の詳細な説明の【発明を実施するための
最良の形態】においても,次のとおり,発光部の制御は,インクタン
ク内の入出力の制御回路及びLEDドライバで行われる旨が記載され
ている。
「一方,各インクタンク1の基板100には,これら4本の信号線の
信号によって動作する制御部103およびそれによって動作するL
ED101が設けられている(18頁29行∼31行段落【0。」
082)】
「図21はこれら制御部などが設けられた基板の詳細を示す回路図で
ある。同図に示すように,制御部103は,入出力制御回路(I/
OCTRL)103A,メモリーアレイ103BおよびLEDド
ライバ103Cを有して構成される。入出力制御回路103Aは,
本体側の制御回路300からフレキシブルケーブル206を介して
送られてくる制御データに応じて,LED101の表示駆動やメモ
リーアレイ103Bに対するデータの書き込みおよび読み出しを制
御する。メモリーアレイ103Bは,本実施形態ではEEPROM
の形態のものであり,インク残量,収納するインクの色情報の他,
そのインクタンクの固有番号や製造ロット番号などの製造情報等の
インクタンク個体情報を記憶することができる。なお,色情報はイ
ンクタンクの出荷時または製造時に,その収納しているインクの色
に対応して,メモリーアレイ103Bの所定のアドレスに書き込ま
。,,,れる例えばこの色情報は図23図24にて後述されるように
(),,インクタンクの識別情報個体情報として用いられこれにより
インクタンクを特定してメモリーアレイ103Bに対するデータの
書き込みやメモリーアレイ103Bからデータの読み出しを行い,
また,そのインクタンクのLED101の点灯,消灯を制御するこ
とが可能となる(後略(18頁32行∼46行段落【008。)」
3)】
「LEDドライバ103Cは,入出力制御回路103Aから出力され
る信号がオンのときLED101に電源電圧を印加するよう動作
し,これにより,LED101を発光させる。従って,入出力制御
回路103Aから出力される信号がオンの状態にあるとき,LED
101は点灯状態となり,上記信号がオフの状態にあるとき,LE
D101は消灯状態となる(19頁8行∼13行段落【00。」
84)】
「図23に示すように,メモリーアレイ103Bへの書き込みでは,
本体側の制御回路300からインクタンク1の制御部103におけ
る入出力制御回路103Aに対し,信号線DATA(図20)を介
して「開始コード+色情報「制御コード「アドレスコード,」,」,」
「データコード」の各データ信号が,クロック信号CLKに同期し
てこの順で送られてくる「開始コード+色情報」は,その「開始。
」,,,コード信号によって一連のデータ信号の始まりを意味しまた
「色情報」信号によってこの一連のデータ信号の対象となっている
インクタンクを特定する。なお,ここでのインクの「色」とはY,
M,C等のインク色だけでなく濃度の異なるインクをも含むもので
ある(19頁26行∼34行段落【0087)。」】
「「」,,「」,「」,「」,色情報は同図に示すようにインクの色KCM
「」,,Yに対応したコードを有しており入出力制御回路103Aは
このコードが示す色情報とメモリーアレイ103Bに格納されてい
る自身の色情報とを比較し一致しているときにのみ,それ以降のデ
ータ信号を取り込む処理を行い,一致しないときは,それ以降のデ
ータ信号の取り込みを無視する処理を行う。これにより,図20に
示した共通の信号線「DATA」を介して,本体側からデータ信号
をそれぞれのインクタンクに共通に送っても,それに上述の色情報
を含めることによってインクタンクを特定することができ,書き込
み,読み出し,LEDの点灯,消灯など,その後のデータ信号に基
づく処理を,その特定したインクタンクに関してのみ行うことが可
。,()能となるこの結果4つのインクタンクに対して共通の1本の
データ信号線を介して送信されるデータによってデータの書き込み
などのほか,LEDの点灯,消灯の制御を行うことができ,これら
の制御に要する信号線の数を本発明のように少なくすることが可能
となる(後略(19頁35行∼47行段落【0088)。)」】
「LED101の点灯または消灯では,図24に示すように,上記と
同様,先ず「開始コード+色情報」のデータ信号が,本体側から,
信号線DATAを介して入出力制御回路103Aに送られてくる。
上述したように「色情報」によってインクタンクが特定され,そ,
の後に送られてくる「制御コード」に基づくLED101の点灯,
消灯は特定されたインクタンクのみで行われる。点灯,消灯にかか
る「制御コード」は,図23にて上述したように「ON」または,
「OFF」のコードがあり「ON」によってLED101の点灯,
が行われ「OFF」によって消灯が行われる。すなわち,制御コ,
ードが「ON」のとき,入出力制御回路103Aは,図22にて前
,,述したようにLEDドライバ103Cに対してオン信号を出力し
。,「」それ以降もその出力状態を維持する逆に制御コードがOFF
のとき,入出力制御回路103Aは,LEDドライバ103Cに対
してオフ信号を出力し,それ以降もその出力状態を維持する(後。
略(20頁21行∼32行段落【0092))」】
以上の請求項の記載及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載によ
れば,構成要件1E及び1E’の「発光部の発光を制御する」とは,
「プリンタ本体とインクタンクとの接点を通じてプリンタからインク
タンクに入力される,インクタンクのインク色を示す色情報に係る信
号と,インクタンク内の情報保持部の保持する当該インクタンクの色
情報とを比較し,両者が一致する場合にインクタンクの発光部を発光
させ,一致しない場合は発光部を発光させないこと」を意味すると解
するのが相当である。
そうすると,本件では,上記認定のとおり,被告製品2において上
記意味での「制御」が行われていることが明らかであるから,被告ら
の主張は理由がない。
c被告らは,各色のインクタンクにおけるインクの消耗の仕方は,印
刷する画像の色合いや印刷物の内容によって異なるものであり,複数
のインクタンクのインクが同時になくなる確率は無に等しいものであ
る上,インクタンクは高価であるから,空になった1個のインクタン
クを交換する際に,残量の残っている他のインクタンクを同時に交換
することもあり得ないとして,被告製品2を原告製プリンタに誤装着
する場合としてあり得るのは,インクタンクのいずれかが消耗したた
めに交換する際に,取り外したインクタンクと別の色の被告製品2を
誤って装着してしまう場合(すなわち,2個同色を装着した場合)。
だけであって,この場合,原告製プリンタは,本件光照合処理を行わ
ずに誤装着の有無を検出し,誤装着を防止することができるので,被
告製品2は「発光部の発光を制御する制御部」を有しておらず,構成
要件1E及び1E’を充足しないと主張する。
また,被告らは,同人らの主張は,①原告製プリンタ操作ガイド
(乙A61の1)に「一度に複数のインクタンクを外さず,必ず1,
つずつ交換してください」と記載されていること(55頁,②。)
原告製プリンタでは,インクタンクのインクがなくなった場合,プリ
ンタ本体のエラーランプが点滅し,インクタンクを交換しない限り印
刷を続行することができなくなること(同ガイド・9頁,53頁,8
7頁,89頁,③原告製プリンタでは,インクタンクのインクが)
少なくなった場合にもインクランプは点滅するが,インクがなくなっ
た場合の点滅の形態(点滅速度)とは明確に異なっている上,上記操
作ガイドには,インクが少なくなったにすぎない時点でのインクタン
クの交換を許容する記載は存在しないこと(同ガイド・53頁,な)
どからも裏付けられるとする。
しかしながら,証拠(甲5,10の1∼4,11,乙A61の1∼
4)及び弁論の全趣旨によれば,原告製プリンタは,1個のインクタ
ンクのみが脱着可能な開口部を有するカバーをプリンタ上に設けるな
どして,交換されるべきインクタンクだけを脱着することができるよ
うな構成(乙A30・1頁16行∼19行,15頁16行∼21行,
第1図を参照)を採るものではなく,ユーザーが,プリンタのトッ。
プカバーを開けて,任意のインクタンクを脱着することが可能な構成
,,,を採っておりプリンタカバーを開けた状態であれば一度の機会に
複数のインクタンクを順次取り外し,取外し作業の完了後に,新しい
インクタンクを順次装着していくことも可能な構成であることが認め
られる。
したがって,ユーザーが,上記交換の際に,複数のインクタンクの
装着位置を取り違え,それぞれ所定の位置と異なる場所に装着してし
まうこと(例えば,前記本件明細書の発明の詳細な説明の段落【01
】,),,12図30のようなケースも起こり得るものでありこの場合
ユーザーが,複数のインクタンクの脱着が完了した状態でプリンタカ
バーを閉じると,本件光照合処理が行われ,インクタンクが正しい位
置に装着されているか否かを検出することができると認められる。
また,被告らは,上記①ないし③の事実を挙げるなどして,原告製
プリンタにおいてユーザーが複数のインクタンクを同時に交換するこ
とはあり得ないことであると主張する。しかしながら,上掲各証拠に
よれば,原告製プリンタでは,インクが「少なくなった状態「な」,
くなった可能性がある状態」及び「ない状態」の,3段階のインク切
,「」「」れの警告が行われなくなった可能性がある状態及びない状態
の警告時に印刷が停止するものの,どちらの場合も,リセットボタン
を押せば,インクタンクを交換しなくても印刷を続行することが可能
な構成となっており,その旨は原告製プリンタ操作ガイドにも記載さ
れていることが認められる。そうすると,被告製品2を装着して原告
製プリンタを使用しているユーザーが,同プリンタを使用中に,1本
のインクタンクについて「インクがなくなった可能性がある」こと,
を示すエラーランプが点滅した場合でも,直ちに当該インクタンクを
,,,交換せずリセットボタンを押して印刷を継続することとしその後
他のインクタンクについても「インクがなくなった可能性がある状,
態」ないし「インクが少なくなった状態」を示すエラーランプが点滅
する状態となったため,この機会に複数のインクタンクをまとめて交
換することとして,複数のインクタンクの脱着作業を行うということ
は,格別不合理な行動とはいえず,およそ起こり得ない状況ではない
ものと認められる。
以上の点に照らして考えると,被告製品2が本件発明1及び本件訂
正発明1の「発光部の発光を制御する制御部」を有していることは明
らかであり,被告らの主張は理由がない。
(カ)構成要件1F及び1F’について
上記のとおり,被告製品2は,構成要件1A1ないし1A4及び同1
A1’ないし1A5’の構成を備えた原告製プリンタのキャリッジに対
して着脱可能であり,構成要件1Bないし1E及び同1B’ないし1E
’の構成を備えた液体インク収納容器であると認められる。
したがって,被告製品2は,構成要件1Fの「上記各構成を)有す(
ることを特徴とする液体収納容器」及び同1F’の「上記各構成を)(
有することを特徴とする液体インク収納容器」に該当し,同構成要件を
充足する。
()争点3(本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか)に2
ついて
被告らは,前記第2の3()ないし()の[被告らの主張]のとおり,本件36
発明は進歩性を欠く(争点3−1,本件発明の特許請求の範囲の記載は特)
許法36条6項1号(サポート要件)及び同項2号(明確性要件)に違反す
る(争点3−2,3−3,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法)
()(),36条4項1号実施可能要件に違反する争点3−4などと主張して
本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであると主張する。
しかしながら,本件特許については,その無効審判事件において本件訂正
の請求がされており,同訂正はいまだ確定していない状況にある。このよう
な場合において,特許法104条の3第1項所定の「当該特許が無効審判に
より無効にされるべきものと認められるとき」とは,当該特許についての訂
正審判請求又は訂正請求に係る訂正が将来認められ,訂正の効力が確定した
ときにおいても,当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認めら
れるか否かによって判断すべきものと解するのが相当である。
したがって,原告は,被告らが,訂正前の特許請求の範囲の請求項につい
て無効理由があると主張するのに対し,①当該請求項について訂正審判請求
又は訂正請求をしたこと,②当該訂正が特許法126条又は134条の2所
定の訂正要件を充たすこと,③当該訂正により,当該請求項について無効の
抗弁で主張された無効理由が解消すること,④被告製品が訂正後の請求項の
技術的範囲に属すること,を主張立証することができ,被告らは,これに対
し,⑤訂正後の請求項に係る特許につき無効事由があることを主張立証する
ことができるというべきである。
本件においても,原告及び被告らは本件訂正に関し,同趣旨の主張をして
おり,前記のとおり,原告が本件訂正請求をしていること(上記①)及び被
告製品2が本件訂正後の請求項1の技術的範囲に属すること(本件訂正発明
1の構成要件を充足すること。上記④)については,これを認めることがで
きる。
そこで,以下において,上記②,③及び⑤の点について判断する。
ア争点3−5−1(本件訂正は,特許法134条の2の訂正要件を満たす
か)について
(ア)本件訂正により,本件訂正前の請求項1は,別紙1の「請求項1」
「訂正後」欄記載のとおり訂正請求がされている。
そこで,上記訂正が特許法134条の2の訂正要件を充たすか否かに
ついて検討するに次のとおり本件訂正は特許請求の範囲の減縮特,,,(
許法134条の2第1項1号)ないし明りょうでない記載の釈明(同項
3号)を目的とするものであり,かつ,同条第5項において準用される
同法126条3項及び4項の規定に適合するものであるから,適法な訂
正であると認められる(なお,以下の説示中においては,本件訂正請求
に係る訂正部分を下線で示すものとする。。)
a構成要件1A1’及び1A6’について
構成要件1A1’は,構成要件1A1の「液体収納容器が搭載可能
であって」を「液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジ,
と」に変更するものであり,構成要件1A6’は,構成要件1A5の
「着脱可能な液体収納容器」を「前記キャリッジに対して着脱可能,
な液体インク収納容器」に変更するものである。
,「」,「」上記変更は訂正前の液体収納容器を液体インク収納容器
(液体インクを収納する容器)に限定した上,同容器を,キャリッジ
を備えた記録装置の該キャリッジに対して着脱可能な容器に限定する
ものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認
められる(なお,構成要件1A2’以下においても,訂正前の請求項
1の「液体収納容器」を「液体インク収納容器」に変更するものがあ
り,かかる訂正が,いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
であると認められることについては,構成要件1A1’の場合と同じ
である。。)
また,上記訂正の内容は,本件明細書の段落【0022】及び【0
068】ないし【0072】などに記載されているから(甲2,同)
訂正は,明細書に記載した事項の範囲内において行われたもの(特許
法134条の2第5項,同法126条3項)であると認められる。
b構成要件1A2’について
構成要件1A2’は,構成要件1A2の「該液体収納容器に備えら
れる接点と電気的に結合可能な装置側接点」を「該液体インク収納,
容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点」に変更する
ものである。
上記変更は,本件訂正前の請求項1において,構成要件1A2及び
1Bが,いずれも,インクタンクに備えられる接点と装置側接点との
関係を表現したものであるにもかかわらず,構成要件1A2では「結
」,「」,合と表現され構成要件1Bでは接続と表現されているために
表現が混在していたものを「接続」という表現に統一して明確にし,
たものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであ
ると認められる。
また,インクタンクに備えられる接点と装置側接点とが接触する関
係を「接続」と表現することについては,本件明細書の段落【003
】,【】(),,30057などにも記載されているから甲2上記訂正は
明細書に記載した事項の範囲内において行われたものであると認めら
れる。
c構成要件1A3’及び1A5’について
構成要件1A3’は,構成要件1A3の「該液体収納容器からの光
を受光する受光手段」を「前記キャリッジの移動により対向する前,
記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収
納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備
え,該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容
器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」に変更す
るものであり,構成要件1A5’は,訂正前の請求項1に「前記キ,
ャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容
器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク
収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出す
る」との構成を付加するものである。
上記変更は,発明の対象となる液体インク収納容器を,上記の構成
を有する記録装置に着脱可能な容器に限定するものであるから,特許
請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
また,上記訂正の内容が本件明細書の段落【0019】及び【01
08】ないし【0113】などに記載されていると認められることに
ついては,前記()イ(ア)cのとおりであるから,同訂正は,明細書1
に記載した事項の範囲内において行われたものであると認められる。
d構成要件1A4’について
構成要件1A4’は,構成要件1A4の「搭載される液体収納容器
それぞれの前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通に電気的
接続する配線を有した電気回路とを有する」を「搭載される液体イ,
ンク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して
共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した
電気回路とを有し」に変更するものである。
上記変更は,発明の対象となる液体インク収納容器を,色情報に係
る信号を発生する電気回路を備えた記録装置に着脱可能な容器に限定
するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである
と認められる(なお,構成要件1A4の「結合」を「接続」に変更す
ることが,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであると認め
られることについては,上記bと同じである。。)
また上記訂正の内容は本件明細書の段落0088ないし0,,【】【
094】などに記載されているから(甲2,同訂正は,明細書に記)
載した事項の範囲内において行われたものであると認められる。
e構成要件1C’及び1E’について
構成要件1C’は,構成要件1Cの「少なくとも液体収納容器の個
体情報を保持可能な情報保持部」を「少なくとも液体インク収納容,
器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部」に変更するもの
であり,構成要件1E’は,構成要件1Eの「前記接点から入力され
る個体情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する個体情報とに応
じて前記発光部の発光を制御する制御部」を「前記接点から入力さ,
れる前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報
とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」に変更するものであ
る。
上記各変更は,訂正前の「液体収納容器の個体情報」ないし「個体
情報を液体インク収納容器のインク色を示す色情報ないし色」,「」「
情報」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とす
るものであると認められる。
また,上記訂正の内容は,本件明細書の段落【0083】などに記
載されているから(甲2,同訂正は,明細書に記載した事項の範囲)
内において行われたものであると認められる。
f構成要件1D’について
構成要件1D’は,構成要件1Dの「発光部」を「前記受光手段,
に投光するための光を発光する前記発光部」に変更するものである。
上記変更は,訂正前の「発光部」を「記録装置の)受光手段に,(
投光するための光を発光する発光部」に限定するものであるから,特
許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
また,上記訂正の内容は,本件明細書の段落【0036【00】,
38】ないし【0047【0073【0079】及び図3(a)】,】,
などに記載されているから(甲2,同訂正は,明細書に記載した事)
項の範囲内において行われたものであると認められる。
(イ)これに対し,被告らは,次のとおり,本件訂正は特許法134条の
2所定の訂正要件を充たすものではなく,違法であると主張する。
a構成要件1A2’及び1A4’について
被告らは「結合」とは「結び合うこと。結び合わせること」を,,。
意味するものであるのに対し「接続」とは「つなぐこと。また,,,
つながること」を意味するものであり,これらの語句が意味すると。
ころに別段不明りょうな点はなく,また「接続」は「結合」を含む,
,「」「」広い概念であるから構成要件1A2及び1A4の結合を接続
に変更することは,特許請求の範囲を拡張するものであり,かかる訂
正は,特許法134条の2第5項で準用する126条4項に違反し,
許されないと主張する。
しかしながら,上記訂正が明りょうでない記載の釈明を目的とする
ものであり,明細書に記載した事項の範囲内において行われたもので
あると認められることについては,前記(ア)b,dのとおりである。
また,本件明細書における,インクタンクに設けられた接点と,プリ
ンタのホルダに設けられた接点との関係について記載した部分(段落
【】,【】【】,【】,【】,00330057∼006100720080
図20∼24など)をみれば,本件訂正前の請求項1における「液体
収納容器に備えられる接点」と「装置側接点」との「電気的」な「結
合」ないし「接続」とは,接点同士の接触により電気信号のやり取り
,。が可能な状態となることを意味するものであることは明らかである
したがって,被告らの主張は理由がない。
b構成要件1A3’について
被告らは,本件訂正により,構成要件1A3に「前記キャリッジの
移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置
され」との構成が付加されているが(構成要件1A3,請求項に’)
記載のとおり入れ替わるように配置されるかどうかは,液体インク収
納容器を実際に記録装置に搭載した時に,記録装置側のキャリッジの
動作を見て初めて確認できることであるから,上記訂正は,液体イン
ク収納容器の構成を限定するものではなく,特許請求の範囲を減縮す
るものではないと主張する。
しかしながら,本件訂正前の請求項1及び本件訂正後の請求項1の
記載によれば,本件発明1及び本件訂正発明1は,組み合わせる装置
(本件では,インクタンクを装着するプリンタ本体)の構成を構成。
要件とすることにより,組み合わされる装置(本件では,インクタン
ク)の構成を特定するものであるということができるから,プリン。
タ側の構成に係る構成要件(構成要件1A1∼1A4,同1A1’∼
1A5)も,インクタンクの構成を特定するために必要なものであ’
ることが認められる。
したがって,記録装置の構成に関するものである上記訂正も,発明
の対象となる液体インク収納容器を,上記の構成を有する記録装置に
着脱可能な容器に限定するものであるという意味で,特許請求の範囲
の減縮を目的とするものであると認められ,被告らの主張は理由がな
い。
c構成要件1A5’について
被告らは,本件訂正により「前記キャリッジの位置に応じて特定,
されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ,そ
の光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記
液体インク収納容器の搭載位置を検出する」との構成(構成要件1A
5)が付加されているが「前記キャリッジの位置に応じて特定さ’,
れた」という意味が不明確である上,本件明細書には「液体インク,
収納容器位置検出手段」についての説明はなく,これがいかなる機構
を指すのかが不明であることから「液体インク収納容器位置検出手,
段」とは,本件訂正により新たに加えられた構成であって,上記訂正
は実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものであると主張する。
しかしながら,前記()イ(ア)c及びeのとおり,請求項の記載及1
び本件明細書の発明の詳細な説明の記載からすると,構成要件1A5
’の「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体
インク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前
記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載
位置を検出する」とは,各インクタンクが,その本来装着されるべき
搭載位置が上記受光手段に対向する位置に来た時に,インクタンク上
の発光部を発光させることにより,上記受光部が上記発光を受光する
ことができるか否かによって,各インクタンクがその本来装着される
べき位置に装着されているかどうかを確認すること(すなわち,本件
光照合処理を行うこと)を意味するものであると認められ「前記キ,
ャリッジの位置に応じて特定された」とは,キャリッジのシャフト上
における位置に応じて特定された,という意味であることは明らかで
ある。
したがって,上記訂正は,新たな構成を加えたり,実質上特許請求
の範囲を拡張又は変更するものとは認められず,被告らの主張は理由
がない。
なお,被告らは,記録装置において液体インク収納容器が正しい位
置に搭載されているか否かを判断できるという効果は,特定の構成が
記録装置側に備わっていて初めて得られるものであり,液体インク収
納容器側の構成によって実現される効果ではないから,上記訂正は,
液体インク収納容器の構成を限定するものとはいえず,特許請求の範
囲を減縮するものではないとも主張するが,上記主張に理由がないこ
とについては,上記bと同様である。
d構成要件1D’について
被告らは,本件明細書には「受光手段に投光するための光を発光,
する発光部という記載はないから構成要件1Dの発光部を受」,「」「
光手段に投光するための光を発光する発光部」に訂正することは,本
件訂正前の本件明細書に記載のない新規事項の追加に当たるものであ
り,特許法134条の2第5項で準用する126条3項に違反すると
主張する。
しかしながら,本件明細書に「受光手段に投光するための光を発,
光する発光部」に相当する構成が開示されていることについては,段
落【0036【0038】ないし【0047【0073【0】,】,】,
079】及び図3(a)などの記載から明らかであり,かかる訂正が特
許請求の範囲を実質上変更するものとは到底認められない。
また,被告らは,本件訂正発明1は液体インク収納容器についての
,「」,発明であるところ上記訂正によって追加記載された受光手段は
記録装置側の構成要素であって,液体インク収納容器に係る発明の構
成要素ではなく,同訂正によって液体インク収納容器の発光部の構成
が具体的に限定されるものではないから,同訂正は特許請求の範囲を
減縮するものではないとも主張する。
しかしながら,上記(ア)fのとおり,上記訂正が特許請求の範囲を
減縮するものであることについては,その記載自体から明白である。
したがって,被告らの主張は理由がない。
イ争点3−5−2(本件訂正発明は,進歩性を欠くか)について
被告らは,本件訂正発明1は,乙A1公報記載の発明及び周知技術に基
づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。
(ア)乙A1公報の記載
乙A1公報には,以下の記載が存在する(乙A1。)
【請求項11】
識別情報を格納する記憶装置を備える印刷記録材容器が複数装着さ
れる印刷装置であって,前記複数の印刷記録材容器に備えられた各記
憶装置をバス接続にて接続する信号線と,前記印刷記録材容器の交換
要求を検出する交換要求検出手段と,前記印刷記録材容器の交換完了
を検出する交換完了検出手段と,前記複数の印刷記録材容器が全て装
着されているか否かを判定する装着判定手段と,前記複数の印刷記録
材容器が全て装着されていると判定された場合には,前記信号線を介
して前記各記憶装置と通信できるか否かを判定する通信判定手段と,
前記各記憶装置と通信できないと判定された場合には,前記識別情報
に基づいて,通信できなかった記憶装置を備える印刷記録材容器を特
定する第1の印刷記録材容器特定手段とを備える印刷装置。
【発明の詳細な説明】
a発明の属する技術分野
本発明は,バス接続されている記憶装置を備えた印刷記録材容器が
複数個用いられる場合に,印刷記録材容器の有無を検出する技術に関
する(段落【0001)。】
b従来の技術
記憶装置を備える印刷記録材容器,例えば,インクカートリッジが
実用化されている。記憶装置には,例えば,印刷記録材(インク)の
量に関するデータ,インクの種類に関するデータ,インクカートリッ
。,,ジの製造年月日情報等が格納されているカラープリンタでは通常
少なくともシアンインク,マゼンタインク,イエロインク,ブラック
インクの4色が用いられる。したがって,ブラックインクカートリッ
ジとカラーインクカートリッジといった2個のインクカートリッジ,
または各インク色毎に4個のインクカートリッジがプリンタに装着さ
れる(段落【0002)。】
また,インクカートリッジに備えられた各記憶装置と制御回路とを
接続する信号線数を低減するために,各記憶装置を識別するための信
号線を廃止し,共通のバスを用いて各記憶装置を接続するバス接続の
技術が知られている。この技術では,バス接続されている各記憶装置
を特定(識別)するために,各記憶装置に対してユニークに割り当て
られた識別子が利用される(段落【0003)。】
c発明が解決しようとする課題
しかしながら,バス接続形式では,インクカートリッジの取り外し
は検出できるものの,複数のインクカートリッジが同時に取り外され
た場合には,どのインクカートリッジが取り外されたかを特定するこ
とができないという問題があった。さらに,インクカートリッジに備
えられた各記憶装置とプリンタの制御回路との通信が正常に行われな
い場合には,いずれの記憶装置(インクカートリッジ)に異常が発生
しているか報知されず,ユーザは全てのインクカートリッジを脱着し
て確認しなければならなかった(段落【0004)。】
本発明は,上記問題を解決するためになされたものであり,バス接
続されている記憶装置を備える印刷記録材容器が印刷装置に複数装着
される際に,印刷記録材容器に発生している通信異常を検出し,報知
することを目的とする。また,いずれの印刷記録材容器が装着されて
いないかを検出することを目的とする。さらに,記憶装置と印刷装置
との通信が正常に行われない場合に,いずれの印刷記録材容器に備え
られている記憶装置が異常であるかを検出することを目的とする段。(
落【0005)】
d課題を解決するための手段およびその作用・効果
上記課題を解決するために本発明の第1の態様は,識別情報を格納
する記憶装置が備えられた印刷記録材容器の異常検出装置を提供す
る。本発明の第1の態様に係る異常検出装置は,前記複数の印刷記録
材容器に備えられた各記憶装置をバス接続にて接続する信号線と,前
記信号線を介して全ての前記印刷記録材容器に備えられている前記記
憶装置と通信できるか否かを判定する通信判定手段と,前記通信判定
手段によって,全ての前記記憶装置と通信できないと判定された場合
には,前記識別情報に基づいて,通信異常の発生した記憶装置を備え
る印刷記録材容器を特定する異常印刷記録材容器特定手段を備えるこ
とを特徴とする(段落【0006)。】
本発明の第1の態様に係る異常検出装置によれば,複数の印刷記録
材容器に備えられている記憶装置と通信できるか否かを判定し,通信
異常が発生している場合には,識別情報を用いて通信異常の発生した
記憶装置を備える印刷記録材容器を特定するので,バス接続されてい
る記憶装置を備える印刷記録材容器が印刷装置に複数装着される際
に,いずれの印刷記録材容器に通信異常が発生しているかを検出する
ことができる。ここで,通信異常の発生した記憶装置を備える印刷記
録材容器を特定は,例えば,記憶装置に対して識別情報を送信し,送
信した識別情報に対して記憶装置が応答するか否かに基づいて特定し
。,,ても良いあるいは記憶装置に格納されている識別情報を検索して
目的とする識別情報が存在するか否かに基づいて特定しても良い段。(
落【0007)】
本発明の第1の態様に係る異常検出装置はさらに,前記複数の印刷
記録材容器を,印刷記録材容器の取り外しができない位置まで移動さ
せて前記印刷記録材容器が装着されているか否かを判定する装着判定
手段と,前記印刷記録材容器が装着されていないと判定された場合に
は,前記通信異常は,印刷記録材容器が装着されていないことに起因
すると判定する通信異常理由判定手段とを備えても良い。かかる場合
,,には印刷記録材容器の脱着を許容しない構造を備えることによって
印刷記録材容器の有無をより確実に検出することができると共に,通
信異常の理由が,印刷記録材容器の非装着に起因するものであると判
断することができる(段落【0008)。】
本発明の第1の態様に係る異常検出装置において,前記異常印刷記
録材容器特定手段は,前記複数の印刷記録材容器に対応する各識別情
報を順次,検索し,検索できなかった識別情報が格納されている記憶
装置を有する印刷記録材容器を,前記通信異常の発生した印刷記録材
容器として特定しても良い(段落【0011)。】
本発明の第2の態様に係る報知装置において,前記印刷記録材容器
に備えられている記憶装置は,互いにバス接続にて接続されており,
前記記憶装置には固有の識別情報が格納されており,前記印刷記録材
容器特定手段は,前記識別情報に基づいて,通信異常の発生した記憶
装置を備える印刷記録材容器を特定しても良い。かかる構成を備える
場合には,本発明の第1の態様に係る異常検出装置と同様の作用効果
を得ることができる(段落【0017)。】
カラープリンタ10は,図示するように,キャリッジ11に搭載さ
れた印字ヘッドIH1∼IH6を駆動してインクの吐出およびドット
形成を行う機構と,このキャリッジ11をキャリッジモータ12によ
ってプラテン13の軸方向に往復動させる機構と,紙送りモータ14
によって印刷用のカット紙Pを搬送する機構と,制御回路30とから
構成されている。キャリッジ11をプラテン13の軸方向に往復動さ
せる機構は,プラテン13の軸と並行に架設されたキャリッジ11を
摺動可能に保持する摺動軸15と,キャリッジモータ12との間に無
端の駆動ベルト16を張設するプーリ17等から構成されている。カ
,,ラープリンタ10にはインクカートリッジCAの交換を初めとする
プリンタ10対する各種指示を入力するための操作ボタン,表示ラン
プ351を備える操作パネル35が備えられている(段落【003。
3)】
制御回路30は,プリンタ10を印刷記録材容器(インクカートリ
ッジ)の異常検出装置として機能させる他,プリンタ10の操作パネ
ル35と信号をやり取りしつつ,紙送りモータ14やキャリッジモー
タ12,印字ヘッドIH1∼IH6の動きを適切に制御する。キャリ
ッジ11にはインクカートリッジCA1∼CA6が装着されている。
例えば,インクカートリッジCA1には黒(K)インク,インクカー
トリッジCA2にはシアン(C)インク,インクカートリッジCA3
にはライトシアン(LC)インク,インクカートリッジCA4にはマ
ゼンタ(M)インク,インクカートリッジCA5にはライトマゼンタ
(LM)インク,インクカートリッジCA6にはイエロー(Y)イン
クの各インクが収納されている(段落【0034)。】
次に,図2および図3を参照してインクカートリッジに備えられて
いる記憶装置と制御回路30(パーソナルコンピュータPC)との接
続状態について説明する。図2はキャリッジ11上に装着されている
インクカートリッジCA1∼CA6と制御回路との接続状態を概略的
に示す説明図である。図3はインクカートリッジCA1∼CA6に備
えられている各記憶装置21∼26と制御回路30(パーソナルコン
ピュータPC)との接続状態を示すブロック図である。なお,図3で
は説明を容易にするために,記憶装置21,22,23,26を備え
るインクカートリッジCA1,CA2,CA3,CA6とが代表して
模式的に示されている。また,本実施例に係る印刷記録材容器の異常
検出装置の構成は,図3に示す構成に限定されるものではない(段。
落【0036)】
各記憶装置21∼26は,既述のように,インクジェットプリンタ
用の6色のインクカートリッジCA1∼CA6それぞれ備えられてい
る。また,本実施例では,記憶装置として不揮発的に記憶内容を保持
すると共に記憶内容を書き換え可能なEEPROMを用いた。各記憶
装置21∼26は,その内部に,識別情報を格納する記憶素子(メモ
リアレイ,送信されてきた識別情報と記憶素子内に格納されている)
識別情報とを比較するIDコンパレータ,命令コードを解析するオペ
レーションデコーダ,アドレス位置をカウントアップするアドレスカ
ウンタ,記憶素子に対する読み出し/書き込みを制御するI/Oコン
トローラ等を備えている(段落【0037)。】
各記憶装置21∼26内の記憶素子に格納されている識別情報は,
それぞれインクカートリッジCA1∼CA6内に収容されているイン
ク色を識別するための識別情報である。各記憶装置21∼26は,制
御回路30から識別情報が送信されてくると送信されてきた識別情報
と自己の識別情報とを比較解析し,解析した識別情報が記憶素子内に
格納されている識別情報と一致する場合には,アクセス許可の応答信
。,,号を制御回路30に対して送り返すこれによって制御回路30は
アクセスを所望するインクカートリッジCA1∼CA6に対して選択
的にアクセスすることができる。また,識別情報が書き込みデータと
共にデータ列として送信されてきた場合には,識別情報の一致を確認
後,書き込みデータの書き込みを許容する(段落【0038)。】
各記憶装置21∼26のデータ信号端子DT,クロック信号端子C
T,リセット信号端子RTは,データバスDB,クロックバスCB,
。,リセットバスRBを介してそれぞれ接続されている制御回路30は
データ信号線DLへ送出するためのデータ列を一時的に格納しておく
バッファメモリを備えている。なお,信号線は,例えば,フレキシブ
ル・フィード・ケーブル(FFC)として実現され得る(段落【0。
039)】
制御回路30の電源正極端子VDDHと各記憶装置21∼26の電
源正極端子VDDMとは電源供給線VDLを介して接続されている。
また,各記憶装置21∼26の電源負極端子VSSは,キャリッジ1
1上の接地線GDLに接続されている。キャリッジ11上には,イン
クカートリッジCA1∼CA6に備えられているカートリッジアウト
検出用端子CAOTをカスケードに接続するカートリッジアウト検出
線CDLが配置されている。カートリッジアウト検出線CDLの一端
は接地されており,他端はカートリッジアウト信号線COLを介して
パーソナルコンピュータPCのカートリッジアウト検出端子COTと
接続されている(段落【0040)。】
制御回路30は,CPU31を介して,クロック信号生成機能,リ
セット信号生成機能,電源監視機能,電源回路,データ記憶回路およ
び各回路を制御する制御機能を実現する制御装置であり,記憶装置2
1∼26に対するアクセスを制御する。制御回路30は,カラープリ
ンタ10の本体側に配置されており,電源がオンされると,データ信
号線DL記憶装置21∼26から,インク消費量,インクカートリッ
ジの装着時間といったデータを取得しデータ記憶回路に記憶する。ま
た,電源がオフされる際には,データ信号線DLを介して記憶装置2
1∼26に対して,それぞれインク消費量,インクカートリッジの装
着時間といったデータを書き込む(段落【0042)。】
制御回路30は,インクジェットプリンタの電源投入時,インクカ
ートリッジの交換時,印刷ジョブの終了時,インクジェットプリンタ
,。の電源遮断時等に記憶装置21∼26に対するアクセスを実行する
,,制御回路30は記憶装置21∼26に対してアクセスする場合には
リセット信号生成回路に対してリセット信号RSTの生成を要求す
る。制御回路30は,インクカートリッジCAの装着の有無,通信の
状態を検出する際には,インクカートリッジCA1∼CA6に対応す
る識別情報を順次,データ信号線DL上に送出する。これに対して,
アクセスを所望するインクカートリッジCAが決まっている場合に
は,アクセスを所望するインクカートリッジCAの識別情報が先頭列
に格納されているデータ列をデータ信号線DL上に送出して,各イン
クカートリッジCA1∼CA6の記憶装置21∼26に送信する段。(
落【0043)】
一方,制御回路30は,いずれかのインクカートリッジCAが装着
されておらずCO≠0である,すなわち入力値が1であると判定した
場合には(ステップS130:NO,存在しない,すなわち,装着)
されていないインクカートリッジCAを検出する(ステップS15
0。装着されていないインクカートリッジCAの検出に際しては,)
制御回路30は,各記憶装置21∼26に割り当てられている識別情
報を順次,データ信号線DLへ送出する。本実施例における記憶装置
21∼26は,送出されてきた識別情報と自己が格納する識別情報と
,,が一致する場合には応答信号を制御回路30に対して送り返すので
制御回路30は,応答信号の無い記憶装置を備えるインクカートリッ
ジCAを装着されていないインクカートリッジCAとして検出する。
(段落【0051)】
制御回路30は,装着されていないインクカートリッジCAを検出
すると,装着されていないインクカートリッジCAを報知する(ステ
ップS160。報知の態様としては,例えば,パーソナルコンピュ)
ータPCを介して印刷処理が実行されている場合には,表示モニタM
N上に表示されているインクカートリッジCAのステータスウィンド
,,ウにおいて装着されていないインクカートリッジCAを表示したり
インクカートリッジが装着されていない旨を警告する警告文を表示す
るようにしても良い。あるいは,プリンタ10の操作パネル35上に
各インクカートリッジに対応して備えられている表示ランプ351を
点滅させるようにしても良い(段落【0052)。】
(イ)乙A1公報記載の発明
以上の記載から,乙A1公報には「複数のインクカートリッジ(印,
刷用記録材容器)を搭載して移動するキャリッジと,該インクカートリ
ッジに備えられるデータ信号端子と電気的に接続可能なプリンタ側端子
と,各インクカートリッジに対応して設けられ,装着されていない又は
通信異常のあるインクカートリッジを点灯して示す操作パネル上の表示
ランプと,搭載されるインクカートリッジそれぞれの前記端子と接続さ
れ,インクカートリッジを識別するための識別情報を送出するためのデ
ータバスとを有し,装着されていない又は通信異常のあるインクカート
リッジに対応する操作パネル上の表示ランプを点灯させ,その点灯結果
に基づいて装着されていない又は通信異常のあるインクカートリッジを
報知するカラープリンタのキャリッジに対して着脱可能なインクカート
リッジであって,前記データバスに接続可能な前記データ信号端子と,
(),インクカートリッジの識別情報を格納するEEPROM記憶装置と
前記データ信号端子から入力される識別情報と,前記メモリアレイに格
納されている識別情報とに応じて応答する記憶装置と,を有するインク
カートリッジ」の発明が開示されているものと認められる(以下「乙。
A1発明」という。。)
(ウ)本件訂正発明1と乙A1発明との対比
a乙A1発明の「インクカートリッジ」及び「インクカートリッジに
備えられるデータ信号端子」は,それぞれ,本件訂正発明1の「液体
インク収納容器(構成要件1A1’等)及び「液体インク収納容器」
に備えられる接点(構成要件1A2)に相当するものと認められ」’
る。また,乙A1公報には,本件訂正発明1の「液体インク収納容器
に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点(構成要件1A」
2)を備える点について明示の記載はないが「インクカートリッ’,
ジに備えられるデータ信号端子」がキャリッジに設けられたデータバ
スに接続されていることから,キャリッジ側に対応する端子(接点)
,,が設けられていることは当業者にとって自明であって乙A1発明は
「液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側
接点」及び「前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点(構成」
要件1B)を備えていると認められる。’
乙A1発明の「データバス」は,各インクカートリッジのデータ信
号端子と接続し,バス接続,すなわち,共通な電気的接続となってお
り,インクカートリッジ(の色)を識別するための識別データを送信
するための配線を有した電気回路であると認められる。したがって,
乙A1発明は,構成要件1A4’の「搭載される液体インク収納容器
それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的
接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」を
備えていると認められる。
乙A1発明の「識別情報」は,インク色を示すものであるから,乙
A1発明の「インクカートリッジの識別情報を格納するEEPROM
(記憶装置」は,構成要件1C’の「液体インク収納容器のインク)
色を示す色情報を保持可能な情報保持部」に相当するものと認められ
る。
したがって,本件訂正発明1と乙A1発明は,構成要件1A1,’
1A2,1A4,1A6,1B,1C’及び1F’に相当する’’’’
構成を備える点で一致し,以下の点で相違すると認められる。
(a)相違点1
記録装置に関して,本件訂正発明1は,構成要件1A3(前記’
キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替
わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受
光する位置検出用の受光手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光
することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液
体インク収納容器位置検出手段)及び同1A5(前記キャリッジ’
の位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前
記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納
容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する
記録装置)に相当する構成,すなわち,本件光照合処理に用いられ
る受光部等の液体インク収納容器の位置検出手段を有するのに対
し,乙A1発明はこれを有しない点。
(b)相違点2
液体インク収納容器に関して,本件訂正発明1の液体インク収納
容器に「受光手段に投光するための光を発光する発光部」が備えら
れている(構成要件1D)のに対し,乙A1発明のインクカート’
,,リッジには発光部が備えられておらずプリンタ側の操作パネルに
装着されていない又は通信異常のあるインクカートリッジを報知す
るための表示ランプが備えられている点。また,本件訂正発明1で
は,インクタンク内に,前記接点から入力される前記色情報に係る
信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光
部の発光を制御する制御部を備える(構成要件1E)のに対し,’
乙A1発明では,インクカートリッジ内の記憶装置(制御部)は,
(),プリンタとの接点から入力される色情報識別情報に係る信号と
記憶装置の保持する前記色情報とが一致した場合に,応答信号をプ
リンタ側の制御回路に対して送り返す動作を制御するものの,上記
記憶装置(制御部)においてプリンタ側の表示ランプ(発光部)を
発光させるものではない点。
(エ)本件訂正発明1の容易想到性の有無
被告らは,前記相違点1及び2に係る構成は,いずれも本件特許の最
先の優先日当時において周知慣用技術であったものであり,同技術は乙
A18公報及び乙A17公報等にも記載されているから,これらの技術
を乙A1発明に適用することは当業者にとって容易であったと主張す
る。
しかしながら,次のとおり,相違点1及び2に相当する構成は,乙A
18公報及び乙A17公報等に開示されているとは認められず,このほ
かに,上記相違点に相当する構成が本件特許の最先の優先日当時におい
て周知慣用技術であったことを認めるに足りる証拠もない。
したがって,被告らの主張は理由がない。
a乙A18公報の記載
証拠(乙A18)によれば,乙A18公報には「複数のインクタ,
ンクを搭載して移動するキャリッジと,前記インクタンクの発光手段
からの光を受光する光センサを備えたインクジェット記録装置に対し
て着脱可能なインクタンクにおいて,前記光センサに投光するための
。」光を発光する前記発光手段を有することを特徴とするインクタンク
の発明が開示されているものと認められる(請求項1,4∼8,段落
【】【】,【】,【】,【】,0001∼0003000600070010
【0011【0012【0014【0017【0020,】,】,】,】,】
【0021【0028【0032【0033【0057,】,】,】,】,】
【0058【0061,図7。】,】)
しかしながら,同公報記載の発明は,インク色ごとに光の吸収スペ
クトルが異なることに着目し,立体形半導体素子から一定の範囲の波
長を含む光を発光させ,その光をインク中に透過させて,インクタン
ク外にある受光手段で受光させ,どの波長が最も吸収されたかを検知
することで,当該インクの種類を判別するものであって(段落【00
14【0020【0057【0058,上記立体形半導体】,】,】,】)
素子に当該インクタンクのインク色を示す色情報が保持される(構成
要件1C)ものではない。’
このように,同公報記載の発明における発光部及び受光部と,本件
訂正発明1における発光部及び受光部とは,これらを用いることによ
り当該インクタンクの色情報(本件訂正発明1においては,受光部に
対向するインクタンクの色情報)を判別するための原理も,その果た
す役割も,全く異なるものであり,同公報中に,本件訂正発明1にお
ける本件光照合処理のような構成や技術思想を示唆する記載は存在し
ない。
さらに,同公報記載の発明は,従来の構成ではインクタンク内に検
出用の電極を配置する必要があったため,インク成分に金属イオンを
用いることができないなど,使用するインクに制約が生じてしまうと
いう課題があることを解決するために,立体形半導体素子への外部エ
ネルギーの供給を非接触で行う構成としたものであるから(段落【0
006【0017,乙A1発明のように,立体形半導体素子と】,】)
プリンタとを電気的につなぐための接点を設けることは,むしろ,上
記発明の技術思想に反するものであるということができる。
したがって,乙A1発明に乙A18公報記載の発明を適用する動機
付けはなく,仮に乙A1発明に乙A18公報記載の構成を組み合わせ
ても,本件訂正発明1に想到することが容易であるということはでき
ない。
b乙A17公報の記載
証拠(乙A17)によれば,乙A17公報には,各インクタンク内
に配置された,インクタンクの色ごとに応答条件が異なる通信機能を
有する立体形半導体素子が,インクジェット記録装置側に設けられた
通信回路と,外部と非接触の無線によって,インクタンクの色ごとに
独立した通信を行うことが開示されていると認められる(段落【00
37【0039【0040【0044】∼【0047【0】,】,】,】,
050【0052,図3等。】,】)
このように,同公報には,インクタンク内の立体形半導体素子とイ
ンクジェット記録装置側とが,インクタンクの色ごとに独立した通信
を行うことが可能な構成が開示されているものの,本件訂正発明1に
おける方法でインクタンクの誤装着を検出する方法,すなわち,イン
クタンクの発光部を所定の位置で発光させ,これをプリンタ側の受光
部で受光することによって,当該インクタンクが正しい位置に装着さ
れているか否かを検出するという,本件光照合処理(構成要件1A3
,1A5)に係る記載ないし同構成を示唆する記載は存在しない’’
ものと認められる。
,,,また乙A17公報記載の発明も乙A18公報記載の発明と同様
外部からのエネルギーをインクタンク内の立体形半導体素子に非接触
で供給することを技術的特徴とするものであるから(段落【000
】,【】,【】,【】),,6002900330034乙A1発明のように
立体形半導体素子とプリンタとを電気的につなぐための接点を設ける
ことは,同発明の技術思想に反するものであるということができる。
したがって,乙A17公報記載の発明を乙A1発明に組み合わせる
動機付けはなく,また,乙A17公報には,相違点1に係る構成のす
べて及び相違点2に係る構成のうち構成要件1B’及び1E’に相当
する構成については,開示されていないと認められるから,乙A1発
明に同公報記載の構成を組み合わせても,本件訂正発明1に想到する
ことが容易であるということはできない。
cその他の公報について
被告らは,相違点1及び2に係る構成が本件特許の最先の優先日当
時において周知技術であったことを裏付けるものとして,上記各公報
のほかに,乙A2ないしA6,A36,A37,A51,A67各公
報も挙げているが,いずれの公報にも,受光部等の構成が断片的に記
載されているだけで,上記相違点に係る構成は開示されていないと認
められ,これらの公報の記載を総合しても,上記相違点に係る構成が
周知技術であったと認めることはできない。
(a)乙A2公報
証拠(乙A2)によれば,乙A2公報記載の発明は,インクタン
ク中に球状の立体形半導体素子31を浮遊させ,外部からインクタ
ンク内に光を当てて素子31の位置を測定することで,素子の位置
によりインクタンクの交換の必要を判断するというものであって,
インクタンクが正しい位置に装着されているか否かを確認するため
の手段ではなく,インクタンクに発光部が設けられているものでも
ないことが認められる。
(b)乙A3公報及び乙A4公報
証拠(乙A3,4)によれば,乙A3公報及び乙A4公報記載の
発明は,インク残量が少ないことをユーザーに報知するためにイン
クタンクにLEDからなる発光部を設けるものであり,発光部から
の光を受光する受光手段が開示されていないことが認められる。
(c)乙A5公報
証拠(乙A5)によれば,乙A5公報には,各インクカートリッ
ジの底部にプリズム状のインク残量検知部を設け,それに対して記
録装置側の発光部から発光し,反射光を記録装置側の受光部で受光
する構成が開示されている(図12等)ものの,インクカートリッ
ジに発光部,情報保持部及び制御部が設けられていないものである
ことが認められる。
(d)乙A6公報
証拠(乙A6)によれば,乙A6公報記載の発明は,インクカー
トリッジにインクロー又はインクエンドのエラーが発生した場合,
エラーの発生したインクカートリッジごとにキャリッジを異なる位
置に移動させ,さらに,プリンタ本体に付けられた発光ダイオード
を点滅させたり点灯させたりすることで,どのインクタンクにどの
ようなエラーが生じたかを知らせるというものであり,インクタン
クに発光部や制御部が設けられていないことが認められる。
(e)乙A36公報
証拠(乙A36)によれば,乙A36公報には,インクジェット
プリンタにおいて,プリンタ側のエミッタ(発光素子)からインク
カートリッジ上の指標位置(反射部)に光を当て,反射してインク
カートリッジから戻ってきた光を,プリンタ側に一つ備えられた検
出器が受け取ることによって,キャリッジのどのカートリッジ位置
にどのインクカートリッジが取り付けられているかを識別する構
成,及び,かかる構成が,移動するキャリッジ上に複数装着され,
キャリッジの移動により「検出器」に対して入れ替わるように配置
されたインクカートリッジの識別にも適用可能であることが開示さ
れていると認められる。
しかしながら,上記構成は,インクカートリッジに発光部を設け
るのではなく,プリンタ側から発光した光を,インクカートリッジ
の表面に添付されたラベル上の光学的に読み取り可能な指標(当該
カートリッジの種類を識別する符号化された情報)において反射さ
せ,その反射光をプリンタ側の受光部で受け取り,同受光部で上記
光学的指標を読み取ることによって,インクカートリッジの種類を
識別するというものである。
(f)乙A37公報
証拠(乙A37)によれば,乙A37公報記載の発明は,インク
カートリッジに備えられた記憶装置に対して,色情報を照合して特
定のインクカートリッジの記憶装置にアクセスし,その情報を書き
換えるというものであり,バス接続を使用するプリンタにおけるイ
ンクタンク内のメモリの取扱いについて開示するものであるが,相
違点1及び2に係るその余の構成を開示するものではない。
(g)乙A51公報
証拠(乙A51)によれば,乙A51公報記載の発明は,インク
カートリッジに無線通信可能な回路チップを搭載することで,イン
クカートリッジとプリンタ本体の無線通信の有無により,インクカ
ートリッジがプリンタ本体に適切に装着されたか否かを確認すると
いうものであり,インクタンクに発光部及びその発光を制御する制
御部を設けたり,プリンタ本体に受光部を設けるものではなく,相
違点1及び2に係る構成を開示するものではないことが認められ
る。
乙A67公報(h)
証拠(乙A67)によれば,乙A67公報には「インクタンク,
の底面部に第1及び第2のルーフミラーユニットを設けると共に,
プリンタ装置側には受光素子を備えたフォトセンサを一つ設け,イ
ンクタンクを所定の方向に移動させたときに,受光素子側でルーフ
ミラーユニットにおけるルーフ状ミラーの数量の違いによる光量ピ
ーク値の差を検知することで,インクタンク単体での情報を認識す
ることができ,各色のインクタンクを識別する構成」が開示され。
ていると認められる。
しかしながら,上記構成は,乙A36公報記載の発明と同様,イ
ンクカートリッジに発光部を設けるのではなく,プリンタ側から発
光した光を,インクタンクに設けた反射体において反射させ,その
反射光をプリンタ側の受光部で受け取ることによって,インクタン
クの種類を識別するというものである。
したがって,乙A67公報に相違点1及び2に相当する構成が開
示されていると認めることはできない。
ウ争点3−5−3(本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36
条6項1号(サポート要件)に違反するか)について
被告らは,本件明細書の発明の詳細な説明には,液体インク収納容器に
備えられた「発光部の発光を制御する制御部(構成要件1E)の構成」’
が開示されているとは認められず,特許法36条6項1号に違反すると主
張する。
しかしながら,構成要件1E’の「発光部の発光を制御する制御部」の
意義及びインクタンク内に設けられたICチップ内の制御部が上記「制御
部」に該当することについては,前記()イ(オ)のとおりであり,本件明1
細書の発明の詳細な説明には,インクタンクに備えられた「発光部の発光
を制御する制御部」の構成が開示されていると認められる。したがって,
被告らの主張は理由がない。
また,被告らは「液体インク収納容器の搭載位置を検出する(構成,」
要件1A3)とは「各インクタンクがキャリッジ上のどの位置に搭載’,
」,されているかを検出するという意味であると解釈することを前提として
本件明細書の発明の詳細な説明には「液体インク収納容器の搭載位置を検
出する」構成が開示されているとは認められず,特許法36条6項1号に
違反するとも主張する。
しかしながら,構成要件1A3’の「液体インク収納容器の搭載位置を
検出する」とは「本件光照合処理により,プリンタにおいて)インク,(,
タンクが正しい位置に搭載されているか否かを認識する」ことを意味する
ものと解されることについては,前記()イ(ア)cのとおりである。被告1
らの上記主張は,その前提を欠くものであり,理由がない。
エ争点3−5−4(本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36
条6項2号(明確性要件)に違反するか)について
被告らは,①原告は,本件訂正により,受光手段が液体インク収納容
器の発光部からの光を受光すること(構成要件1A3)及び発光部が受’
光手段に投光するための光を発光すること(構成要件1D)を追加した’
ものの,上記訂正後においても「投光するための光」と「液体インク収,
納容器の発光部からの光」との関係は不明りょうであり,受光時における
発光部と受光手段との位置関係は明確でない,②受光時における発光部
と受光手段との位置関係について,本件訂正により「前記キャリッジの,
位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部
を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手
段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する(構成要件1A5)」’
との構成が追加されたものの「前記キャリッジの位置に応じて特定され,
」,たインク色の前記液体インク収納容器という構成の意義が不明確である
と主張する。
しかしながら,本件特許における請求項の記載及び本件明細書の発明の
詳細な説明の記載から「発光部」と「受光手段」の関係や,いかなる方,
法により液体収納容器の「搭載位置の検出」がされるのかなど,構成要件
1A3’及び1A5’の意味について明確に理解することができることに
ついては,前記()に認定したとおりであるから,被告らの主張は理由が1
ない。
また,被告らは,本件訂正発明1において,構成要件1A1’ないし1
A5’の部分には「請求される物」としての「液体インク収納容器」以,
外の他の物である「記録装置」が記載されており,同構成要件の記載は,
「液体インク収納容器」の技術的特徴を示すものとなっておらず,これら
の記載からは,特許を受けようとする発明が明確でないとも主張する。
しかしながら,本件訂正発明1は,組み合わせる装置(本件では,イン
。),クタンクを装着するプリンタ本体の構成を構成要件とすることにより
組み合わされる装置(本件では,インクタンク)の構成を特定するもの。
ということができるから,プリンタ側の構成に係る構成要件(構成要件1
A1’∼1A5)も,インクタンクの構成を特定するために必要なもの’
であることが認められる。そして,請求項の記載及び本件明細書の発明の
詳細な説明の記載から,構成要件1A1’ないし1A5’の意味について
明確に理解することができることについては,前記()で認定したとおり1
である。したがって,特許を受けようとする発明が明確でないとは認めら
れず,被告らの主張は理由がない。
オ争点3−5−5(本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36
条4項1号(実施可能要件)に違反するか)について
被告らは,①本件訂正発明1の請求項は,液体インク収納容器の任意
の位置に「発光部」が存在し,それに対していかなる位置に「受光手段」
「」「」,や受光部が存在しようとも発光部からの光を受光することができ
それによって液体インク収納容器の搭載位置が検出できるような記載とな
っているところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,いかなる位置関係
であっても「発光部」から「受光手段」への投光を可能とするための実現
手段は開示されていない,②本件明細書の記載からは,誤装着されてい
るインクタンクの位置が正しい装着位置と隣接している場合に,どのよう
にすれば,隣接している位置からの発光やその他プリンタの使用環境に存
在する周囲の光は受光せずに,インクタンクが誤装着しているものとして
区別して認識することができるのか,その実現手段が明確でない,③仮
に,構成要件1A5’の「前記キャリッジの位置に応じて特定された」の
意味を「移動するキャリッジのシャフト上における位置に応じて特定さ,
れた」という意味に解したとしても,上記構成要件の記載からは,キャリ
ッジがシャフト上のいかなる位置に来たときに,キャリッジ内のどのイン
クタンクを「光らせ」るのかについての特定がされておらず,本件明細書
には,液体インク収納容器の発光部が受光手段と対向する位置ではなく,
そもそもキャリッジ自体が受光手段から著しく離れた位置や障害物により
光が遮断される位置にある場合であっても「発光部」から「受光手段」,
への投光を可能とする実現手段は開示されていない,として,本件明細書
の発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号に違反すると主張す
る。
しかしながら,特許法36条4項は,明細書の発明の詳細な説明の記載
は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実
施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければなら
ない旨を定めるものであるところ,本件特許における請求項の記載及び本
件明細書の発明の詳細な説明の記載から「発光部」と「受光手段」の関,
係や,いかなる方法により液体収納容器の「搭載位置の検出」がされるの
か(すなわち,本件光照合処理の方法により,インクタンクが正しい位置
に装着されているか否かをプリンタ側において認識することができるこ
と)など,構成要件1A3’及び1A5’の意味について明確に理解す。
ることができることについては,前記()に認定したとおりである(した1
がって,被告らの主張する上記①及び③のような解釈がとられるものでな
いことは明らかである。そして,これらの本件光照合処理についての。)
記載や光照合処理の実施例の説明を読めば,当業者であれば,本件光照合
処理を実現するために「発光部」と「受光手段」をどのように具体化すれ
,。ばよいのかということを容易に理解することが可能であると認められる
また,本件光照合処理の構成を実現するために,原告製インクタンクの
ように,適当な閾値を設定して,受光手段に向き合ったインクタンクから
の発光をその他の光から区別する方法を採ったり,発光部からの光を導光
路部材を用いて受光部まで導く方法を採ることなどは,当業者が適宜選択
すべき設計的事項にすぎないというべきである。これら発明の実施に当た
って取り決める詳細設計が明細書に開示されていないからといって,本件
発明を当業者が実施することができないとはいえない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が発明を
実施するのに十分な程度のものであると認められ,被告らの主張は理由が
ない。
カ小括
以上のとおりであるから,本件訂正後の請求項1に係る特許につき被告
らの主張する無効理由はいずれも理由がないから,仮に,本件特許1に無
効理由があるとしても,本件訂正により,その無効理由をいずれも解消す
ることができるというべきである。
したがって,被告らの主張する本件特許1の無効理由(前記争点3−1
ないし3−3)についても,理由がない。
()争点4(原告が被告らに対して本件特許権に基づき被告製品2の輸入,3
販売等の差止めを求めることは,独占禁止法に違反し,権利を濫用するもの
か)について
被告らは,独占禁止法21条は,特許権者が特許権の行使に名を藉りて濫
用的に競争制限行為に及んだ場合にまで独占禁止法の適用を除外する趣旨で
はなく,特許権を行使する行為が独占禁止法上違法で公序良俗違反と評価さ
れる場合には,その特許権の行使は,権利の濫用として許されないものとさ
れるべきである,とした上で,①原告は,平成17年9月,それ以降に発
売するプリンタを発光機能付きの原告製インクタンクでないと動作しないよ
うに設計した上,ICチップが搭載された原告製インクタンクの製造販売を
開始したものの,前記のとおり,原告製プリンタにインクタンクを誤装着す
る場合としてあり得るのは,同色のインクタンクを2個装着した場合だけで
あり,かかる誤装着は,本件光照合処理によらずに防止することができる,
,,②またすべての色が装着されたが位置が違っていたというミスの場合は
本件光照合処理によりユーザーにエラーが報知されるとしても,インクカー
トリッジが受光部の近傍まで移動した後に,タイムラグがあって報知される
ので,エラーに気づいたときには,すでにキャリッジ部分に違った色のイン
クが浸透して混色が進んでしまうという欠点があり,誤装着による問題点の
解消には,実用上ほとんど意味がない,③したがって,原告製インクタン
クは,ユーザーが互換品を使用することを妨げる,いわゆる特定のプリンタ
との抱き合わせ商品であって,原告は,プリンタの供給に併せてユーザーに
原告製インクタンクを購入するよう強制しているから独占禁止法19条不,(
公正な取引方法第10項「抱き合わせ販売等)に違反する,④また,原」
告は,上記①のとおり,ICチップ搭載による発光機能の付加が誤装着によ
る問題点の解消に実用上ほとんど意味のないものであったにもかかわらず,
競争関係にある再生業者や互換品業者の参入を阻止するため,技術上の必要
性等の範囲を超えて,原告製インクタンクにICチップ搭載による発光機能
を付加させたものであり,これにより,ユーザーが原告以外の事業者から別
のインクカートリッジを購入することを長期間にわたって不当に妨害してい
るから,独占禁止法19条(不公正な取引方法第15項「競争者に対する取
引妨害)に違反する,⑤そうすると,本件訴えは,上記独占禁止法違反」
行為によって,市場を独占し,不当な利益を享受していた原告が,相次いで
互換品を発売した互換品業者の市場参入を阻止し,自らの独占を維持するた
めに,インクカートリッジの消費者の選択肢を奪い,市場に認知されている
互換品の製造販売業者を一挙に締め出すことを意図して,本件特許権の存在
を利用して技術上の必要性等の範囲を超えてしたものであって,独占禁止法
に違反し,公序良俗に反するというべきであるから,権利濫用として許され
ない,と主張する。
しかしながら,原告製プリンタにおいてインクタンクの誤装着が生じる場
合は2個同色を装着する場合に限られず,本件光照合処理により誤装着を防
止することのできる場合も想定し得ることについては,前記()イ(オ)cで1
認定したとおりである。また,被告らの主張する上記②の事実については,
これを客観的に裏付けるに足りる証拠は存在しない。そうすると,原告製プ
リンタ及び原告製インクタンクは,本件明細書に記載された本件発明1及び
2の課題(インクタンクの形状をインクタンクごとに異ならせたり,インク
タンクとプリンタとをつなぐ信号線を個別の配線としたりすることによる,
製造効率の悪化やコスト増を招かない方法により,インクタンクの誤装着を
防止すること)を,本件光照合処理によりインクタンクが正しい位置に搭載
されているか否かを検出する構成を有するプリンタ及びインクタンクによっ
て解決するために開発され,製造,販売されているものといえ,原告のかか
る行為は,技術的必要性という合理的な理由基づくものといえる。
そうである以上,原告が本件特許権1に基づき,同特許権を侵害する被告
製品2の販売等の差止めを求めることが,権利の行使に名を藉りた濫用的な
ものであるということはできない。被告らの主張は理由がない。
()以上のとおり,被告製品2は,本件発明1の技術的範囲に属するものと4
認められ,かつ,本件特許1は,無効とされるべきものとは認められない。
また,前記第2の1()ウのとおり,被告らにおいて被告製品2を販売して5
いることが認められる。
したがって,原告の被告らに対する特許法100条1項に基づく被告製品
2の販売又は販売のための展示の差止請求は,理由がある。
なお,前記第2の1()ウのとおり,被告製品は,エステー産業の1005
%子会社である香港法人において製造されており,エステー産業において同
香港法人から被告製品を輸入して被告プレジールに販売し,被告プレジール
から他の被告らに販売されていると認められる。
原告は,被告らは現在被告製品を輸入しているものではないとしても,今
後被告製品を輸入するおそれがあると主張して,被告らに対し,被告製品の
輸入の差止めも請求する。しかしながら,被告らがこれまでに被告製品を輸
入した事実がないことについては上記のとおりであり,本件証拠を精査して
も,被告らにおいて今後被告製品を輸入するおそれがあることを具体的に裏
付けるに足りる証拠はない。
したがって,被告らに対して被告製品2の輸入の差止めを請求する原告の
主張は,理由がない。
2本件特許権2に基づく被告製品2の輸入,販売等の差止請求の可否
以上のとおり,本件では,本件特許権1に基づく被告製品2の販売及び販売
のための展示の差止請求が認められるものであるが,本件の事案にかんがみ,
本件特許権2に基づく被告製品2の輸入,販売等の差止請求の可否についても
判断を加える。
()争点2(間接侵害の成否)について1
ア原告製プリンタ
前記1のとおり,原告製プリンタは,複数の被告製品2を互いに異なる
位置のタンクホルダに搭載して移動するキャリッジ(構成要件2A1,2
A1)を備え,タンクホルダには,被告製品2に設けられた基板と電気’
的に接続する接点(構成要件2A2,2A2)が設けられている。’
また,原告製プリンタには,被告製品2からの光を受光する受光手段が
一つ設けられ,各インクタンクと接続するタンクホルダのコネクタが,タ
,,ンクホルダの裏側において共通の配線で接続され本件光照合処理により
各インクタンクの装着位置を確認することができる(構成要件2A3,2
A4,2A3,2A4。’’)
したがって,原告製プリンタは,構成要件2A1ないし2A4及び同2
A1’ないし2A4’を充足する。
イ被告製品2
前記1のとおり,被告製品2は,原告製プリンタのキャリッジに着脱可
能(構成要件2B,2B)であり,プリンタ側の接点と電気的に接続可’
能な接点(基板(構成要件2D1,2D1)を備え,基板に設けられ)’
たICチップに各インクタンクの色に応じた色情報を保持し(構成要件2
D2,2D2,基板の上部には,上記受光部に投光するための光を発’)
光する発光部(構成要件2D3,2D3)が設けられており,原告製プ’
リンタに装着すると,本件光照合処理が行われる(構成要件2D4,2D
4,2E,2F。’’’)
したがって,被告製品2は,構成要件2B,2D1ないし2D4,2B
,2D1’ないし2D4,2E’及び2F’を充足し,被告製品2を’’
,「」装着した原告製プリンタは構成要件2C及び2Eの液体供給システム
ないし同2C’及び2G’の「液体インク供給システム」に該当し,同構
成要件を充足する。
ウ「その物の生産に用いる物」及び「発明による課題の解決にとって不可
欠なもの(特許法101条2号)」
被告製品2は,これを原告製プリンタに装着すると,本件発明2及び本
件訂正発明2の「液体供給システム」ないし「液体インク供給システム」
,。を生成するものであると認められることについては上記のとおりである
したがって,被告製品2が,本件発明2及び本件訂正発明2の「液体供
給システム(液体インク供給システム」の「生産に用いる物(特許法)」
101条2号)に該当することは明らかであり,かつ,インクタンクの誤
った位置への装着を解消するという,上記各「発明による課題の解決にと
って不可欠なもの」であると認められる。
これに対し,被告らは,原告製プリンタは,誤って2個同色を装着する
という同プリンタにおいてインクタンクの誤装着を生ずる唯一の場合に,
本件光照合処理による誤装着の検出を行わないものであるから,本件発明
2及び本件訂正発明2の特徴的技術手段である,上記誤装着検出手段を直
接形成するものには当たらず,特許法101条2号所定の,本件発明2及
び本件訂正発明2の「課題の解決に不可欠なもの」に該当しないと主張す
る。
しかしながら,原告製プリンタにおいてインクタンクの誤装着を生ずる
のは誤って2個同色を装着する場合に限られないことは前記1()イ(オ),1
cで認定したとおりであるから,被告らの主張はその前提を欠くものであ
る。
被告製品2は,発光部や制御部,情報保持部といった構成を備えること
により,原告製プリンタと協働して,システムとしての機能を達成してい
るといえるから「発明による課題の解決にとって不可欠なもの」である,
と認められる。
エ「日本国内において広く一般に流通しているもの(特許法101条2」
号)について
被告らは,被告製品2は,市場において広く取引され,たやすく入手す
ることができる物であり,本件発明2及び本件訂正発明2の特徴的機能を
有しない67機種の原告製造のプリンタにおいても使用することができる
,,一方同機能を有している原告製プリンタの数は23機種にすぎないから
仮に,同製品が本件発明2及び本件訂正発明2の実施に適しているとして
も,それ以外の用途も有する汎用品であるといえ,特許法101条2号所
定の「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当すると主張
する。
しかしながら,特許法101条2号所定の「日本国内において広く一般
に流通しているもの」とは,より広い用途を有するねじや釘のような普及
品を想定して制定されたものである。原告製プリンタにしか使用すること
ができない被告製品2は,発光と受光という本件発明の特徴的機能を有し
ない機種計67機種の他の原告製プリンタにも使用することができるとし
ても,汎用品ということは到底できず「日本国内において広く一般に流,
通しているもの」とは認められない。上記「日本国内において広く一般に
流通しているもの」とは,汎用の部品や材料が,特許発明の侵害する製品
の製造に用いられたとしても,間接侵害とならないように設けられた規定
であり,被告製インクタンクは,原告製プリンタ専用のインクタンクであ
るから,到底,汎用の部品とはいえない。
したがって,被告製品2は「日本国内において広く一般に流通してい,
るもの」とは認められない。
オ消尽について
被告らは,特許製品としての原告製プリンタ及び同梱インクタンクが,
特許権者である原告により,我が国においていずれもユーザーに譲渡され
た時点で,本件特許権2は消尽し,原告は,当該特許製品であるプリンタ
及びインクタンクについて特許権を行使することはできないと主張する。
しかしながら,インク供給システムの発明において,インクタンクは,
プリンタ装置本体と同等に重要な構成要素(主要な部品)であるといえ,
その主要な部品を新たなものに交換する行為は,修理等の域を超えて,実
施対象を新たに生産するものと考えられるから,被告製インクタンクを原
告製プリンタに装着する行為は,インク供給システムの新たな生産とみな
すことができ,本件特許権2は消尽していないと解するのが相当である。
カ小括
被告らは,被告製品2を「CANON対応製品「キヤノン互換イン,」,
クカートリッジ」として販売しており,被告製品2が原告製プリンタに装
着されると上記各発明の実施に使用されることを理解した上で,被告製品
2を販売している。
したがって,被告製品2を販売する行為は,特許法101条2号により
本件特許権2を侵害するものとみなされる。また,被告らは,本件特許2
についても,同特許の特許無効審判により無効にされるべきものであると
主張するものの(争点3,その主張する無効理由は,本件特許1につい)
て主張する無効理由とほぼ同様のものであるから,前記1で判示した点に
照らして,同主張に理由がないことは明らかである。
したがって,原告の被告らに対する特許法100条1項に基づく被告製
品2の販売又は販売のための展示の差止請求は,理由がある。
3被告製品1に関する請求について
原告は,前記第2の3のとおり,被告製品1が本件特許権を侵害する旨の主
張を第4回弁論準備手続期日において撤回し,本件訴訟において,被告製品1
が本件特許権を侵害する旨の主張はしていない。
したがって,原告の請求のうち,被告製品1の輸入,販売及び販売のための
展示の差止めを求める部分については,理由がない。
4結語
よって,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるから認容し,その余の
請求についてはいずれも理由がないからこれを棄却することとし,仮執行宣言
,。については相当でないからこれを付さないこととして主文のとおり判決する
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官山門優
裁判官柵木澄子
(別紙特許公報省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛