弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は原判決を取消す。被控訴人と控訴人との間で別紙第一目録記載の物
件について昭和二十年三月十七日なされた売買契約の無効を確認する。被控訴人は
控訴人に対し別紙第二目録記載の不動産について昭和二十年五月二日帯広区裁判所
池田出張所受附第七十八号をもつてした所有権移転登記の抹消登記手続をなし且つ
別紙第一目録記載の物件を引渡せ。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする
との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述は原判決の事実摘示と同一であるからここにこれを引
用する。
 (立証省略)
         理    由
 控訴人と被控訴人との間に昭和二十年三月十七日控訴人を売主とし被控訴人を買
主として別紙第一目録記載の物件について売買契約が成立したこと、右物件のうち
田畑を除いたその余の不動産である別紙第二目録記載の物件について同年五月二日
帯広区裁判所池田出張所受附第七十八号をもつて売買による有権移転登記手続がな
されたこと、竝に同年同月五日別紙第一目録記載の物件全部について引渡が完了し
たことは本件当事者間に争がない。
 控訴代理人は本件売買契約は別紙第一目録記載の物件を北海道庁立十勝農業学校
生徒の実習用に供し同校の存続中これを継続することを契約の主要な内容として締
結されたものであるが、被控訴人は右物件の引渡をうけながら今日までこれを同校
生徒の実習用に供しないから本件売買契約は法律行為の要素に錯誤があつて無効で
あると主張するから、まず右物件を同校生徒の実習用に供することを本件売買契約
の主要な内容としたかどうかについて考えてみるに、証人Aは原審及び当審におい
て、又控訴本人Bは原審(第一回)においていずれも控訴人の主張に副うような供
述をしておるけれどもこれらの供述は証人Cの原審及び当審における証言と矛盾し
ておるのでこれをそのまま信用するわけにゆかず、その他控訴人の提出援用にかか
るあらゆる証拠を仔細に検討してみても右物件を同校生徒の実習用に供することを
本件売買契約の主要な内容とした事実はこれを認めることができない。却つて証人
Cの右証言に成立に争のない乙第一乃至第六号証を綜合するとかかる事実がなかつ
たとみるのが真相のように思はれる。従つてこの事実の存在を前提として法律行為
の要素に錯誤があるから本件売買契約は無効であるという控訴人の主張はこれを容
るるに由ないものといわなければならない。
 次に控訴代理人は別紙第一目録記載の物件の中、田一筆と畑三筆とは本件売買契
約締結当時現に耕作の目的に供せられていた農地であつたのに右農地の売買につき
臨時農地等管理令第七条の二所定の地方長官の許可をうけていないから右農地の売
買契約は無効でありその無効は包括的に締結された本件売買契約全部の無効を来た
す旨主張するからこの点について判断するに、別紙第一目録記載の物件の中、田一
筆と畑三筆とが本件売買契約締結当時現に耕作の目的に供せられていた農地であつ
たこと、竝に右農地の売買につき臨時農地等管理令<要旨>第七条の二所定の地方長
官の許可をうけていないことは当事者間に争がない。そこで農地の売買契約は同令
七条の二所定の地方長官の許可をうけなければすべて無効であるかという
点を考えてみる。同令第七条の二に違反した行為が国家総動員法第十三条第三十三
条によつて処罰されることは明かであるが、その私法上の効力については直接明示
的規定を欠いているので専ら理論的にこれを決定しなければならない。然るときこ
れを農地の売買契約に限定して考察すると農地の売買契約は少くとも該農地を耕作
の目的に供するためになされ、且つ農地の引渡又は所有権移転登記のいずれか一方
が完了しているものは同令第七条の二所定の地方長官の許可がなくても私法上有効
であると解すべきものである。
 このことは同令を廃止して農地の統制を強化した昭和二十年十二月二十八日法律
第六十四号農地調整法中改正法律において同令に基いてなした許可若は認可又は許
可若は認可の申請を同法の相当規定に基いてなしたものと看做し(同法附則第五
条)、農地の所有権移転は同法第五条所定の地方長官又は市町村長の認可をうけな
ければその効力を生じないこととしながら(同法第五条)、農地を耕作の目的に供
するため所有権を取得する場合には同法第五条所定の認可を不要とし(同法第六条
第三号)、更に農地の統制を一属強化した昭和二十一年十月二十一日法律第四十二
号農地調整法中改正法律においては、農地を耕作の目的に供するため所有権を取得
する場合をも含めて農地の所有権移転は同法第四条所定の地方長官の許可又は市町
村農地委員会の承認をうけなければその効力を生じないことと改正したが(同法第
四条)、この改正規定は同法施行前に農地を耕作の目的に供するため所有権を取得
する契約がなされ且つ当該農地の引渡又は所有権移転登記のいずれか一方が完了し
ているものには適用しない趣旨(同法附則第二項)を明かにしていることからの当
然の帰結でもあるのである。
 今これを本件についてみるに、前記田一筆及び畑三筆の農地についての売買契約
が該農地を耕作の目的に供するためになされたことは、本件売買契約の目的物件中
に農耕用の各種の器具、馬匹種物等を包含している事実に証人Cの原審及び当審に
おける証言を綜合してこれを認めることができるし、又右農地の引渡が昭和二十年
五月五日に完了したことは当事者間に争がないから右農地に関する売買契約は私法
上有効と解すべきもので、その無効であることを前提とする控訴人の主張も亦採用
するわけにゆかない。
 以上説明する如く本件売買契約の無効を前提とする控訴人の本訴請求は爾余の点
について判断するまでもなく失当でありこれを棄却した原判決は結論において相当
である。
 よつて本件控訴を棄却し民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条に従い
主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 浅野英明 裁判官 藤田和夫 裁判官 臼居直道)
 (別紙目録省略)

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