弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人作田高太郎及び西村真人の上告趣意第一点について。
 原判決は、その判示として、被告人は、昭和二一年八月二日午後七時頃第一審の
相被告人A、同B、同C事Dと自動車の運転手を脅迫して金品を奪取せんことを共
謀し、四名共被害者E操縦の自動車に同乗し、同日午後八時頃判示ab丁目c番地
先焼跡路上において共謀者Aにおいて停車、消燈せしめた上被害者に対し判示のご
とく金銭を要求し、同Bにおいて被告人より預り居たる判示匕首を被害者の右肩の
辺に突付け、その反抗を抑圧し、B等において被害者の身体を物色して現金、時計
を強取した趣旨の犯罪事実を認定し、その証拠として被告人の原審公判廷における
供述の一部、同予審判事の第一回訊問調書中の犯罪地点を示す地番の点を除き判示
同趣旨の供述記載、原審証人Aに対する訊問調書中判示同趣旨の供述記載及び第一
審証人Eの原審公判廷における判示に照応する強盗被害顛末の供述を綜合してこれ
を認定したものである。そして、共謀者は犯行に加担せざるもその責を免れないも
のであるから共謀者の犯罪行為については各自の分担行為を一々判示するの要なき
ものである。従つて原判決の右判示は被告人が他三名の者と共謀の上判示強盗の犯
行を為した犯罪事実の判示として何等欠くるところはない。そして共謀その他判示
犯罪事実はその挙示の証拠就中その証拠により認められる本件犯行の時刻、場所、
内容等の客観的事情をも綜合して肯認し得るから、原判決には理由不備の違法はな
い。所論は結局原裁判所の自由裁量に属する事実の認定及び証拠価値の判断を非難
し、被告人の犯意、共謀の点等につき原判決と異る見解の下に擬律錯誤の違法あり
と主張するに過ぎないものであるから上告適法の理由とならない。
 同第二点について。
 刑法第六条は「犯罪後ノ法律ニ因リ刑ノ変更アリタルトキハ其の軽キモノヲ適用
ス」と定めている。従つて、同条が適用されるには、犯罪の制裁である刑が犯罪時
と裁判時の中間において法令の改正によつて変更され、その間に軽重の差を生じた
ことを前提としている。そして、犯罪の制裁である刑の変更は、刑罰法令の各本条
で定めている刑が改正されるときに生ずるのが典型的な場合であるが、なお刑法の
総則等に規定する刑の加重減軽に関する規定が改正された結果、刑罰法令の各本条
に定める刑が影響を受ける場合にも生ずるであろう。いずれにしても、特定の犯罪
を処罰する刑そのものに変更を生ずるのでなければならない。また刑の軽重は刑法
第一〇条によつて刑の種類又は量の変更を標準として判断されるのである。されば、
刑法第六条は特定の犯罪を処罰する刑の種類又は量が法令の改正によつて犯罪時と
裁判時とにおいて差異を生じた場合でなければ適用されない規定である。しかるに、
本件で問題となつている刑の執行猶予の条件に関する規定の変更は、特定の犯罪を
処罰する刑の種類又は量を変更するものではないから、刑法第六条の刑の変更に当
らない。刑の執行猶予はその性質からいえば、刑の執行を一時猶予するというだけ
のものである。(刑法第二七条の効果は同条所定の要件が新に具わることにより同
条に従つて新に発生するものである)つまり刑の執行のしかたであつて刑そのもの
の内容ではない。それだから、法律も刑と刑の執行猶予とを全然別に取扱い各別の
章に規定しており又刑の軽重の比較方法を定めた刑法第一〇条も執行猶予には一言
も触れていないのである。そこで、刑の執行猶予の条件に関する規定が改正された
場合に新旧いずれの規定を適用すべきかは、刑法第六条によつて決まるものではな
く、改正規定の立法趣旨によつて判断しなければならない問題となる。そして刑法
の一部を改正する法律(昭和二二年法律第一二四号)附則第四項の規定の反面解釈
によると、刑法第二五条の改正規定は同法施行前の行為についても適用される趣旨
が窺われるので、事実審が判決で刑の言渡をする場合に刑の執行猶予をも同時に言
渡すか否かの判断をする条件については新規定によるべきこと当然である。しかし、
原審が本件について刑を言渡した判決当時においては改正規定はまだ施行されてい
なかつたのであるから新規定を適用する余地はまつたくなく、この点について原判
決にはもとより違法はない。上告審では原審の判決後に刑の廃止又は大赦があつた
ときには原判決を破毀して免訴の判決をすべきであり、刑の変更があつたときには
原判決を破毀して新たに刑を言渡すべきであるが本件のように刑の執行猶予の条件
に関する規定が改正された場合には如何にすべきであろうか原審の判決後に刑の廃
止若は変更又は大赦があつたときには事後の事情によつて前審の判決が法令に違反
する場合と同様な結果となるから原判決を破毀するのである。しかるに、刑の執行
猶予の条件に関する規定が改正された場合には、前審の判決は法令に違反する場合
と同様な結果を生じないので前記の場合に準ずることはできない。そして、上告審
は前記の場合を除いては原判決に違法がない限りこれを破毀して自判することはで
きず、従つて自ら刑を言渡し得ないのであるから原判決に違法のない本件について
は、上告審たる当裁判所は刑の執行猶予の条件に関する改正規定を適用する余地の
ないことも亦当然である。されば論旨は理由がない。
 以上の理由により、刑事訴訟法第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官真野毅及び同斎藤悠輔を除く外、その他の裁判官の一致した
意見によるものである。
 検察官 十蔵寺宗雄関与。
 本件に関する裁判官真野毅の反対意見は次のとおりである。
 わたくしは、本件を破毀すべきものと考える。刑法には、罪刑法定主義が行われ、
刑法不遡及の原則が適用せられる。すなわち、犯罪は、犯罪行為当時に現存する刑
罰法規によつてのみ処罰せらるべきものであつて、犯罪時の後に法令の改正があつ
て裁判時に現行されているとしても、かかる事後法によつて処断することは許され
ないのである。この一大鉄則に対する例外として、刑法第六条は、「犯罪後の法律
に因り刑の変更ありたるときは、其軽きものを適用す」と定め、事後法の遡及効を
も認めている。そして、刑訴第四一五条は、「判決ありたる後刑の変更ありたると
きは、之を上告の理由と為すことを得」と定め、同第四二四条においては、判決が
あつた後における刑の変更については、職権をもつて調査をなすことを得る旨を規
定している(以下刑の廃止及び大赦については触れない)。すなわち、判決後の刑
の変更は、上告の理由従つて破毀の理由となり得ると共に、職権調査による破毀の
理由ともなり得る訳である。そこで、昭和二二年法律第一二四号による刑法の一部
改正に当り、刑法第二五条の執行猶予言渡の要件たる刑の範囲が、「二年以下の懲
役又は禁錮」から「三年以下の懲役若くは禁錮又は五千円以下の罰金」に改められ
たことが、前述の「刑の変更」に該当するか否かが本件における問題の焦点となる
のである。前述の刑法及び刑事訴訟法の一連の規定は、刑法の根本原則に関連する
重要なものではあるが、従来裁判の実際においては、あまり論議せられる程の問題
を提供することがなかつた。一八七一年ドイツ旧刑法第二条第二項は、「犯罪行為
の時からその判決時までに法律が変更したときは、最も寛大な法律が適用せらるべ
きである。」と定め、同一九〇九年予備草案第二条第二項は、「法律が裁判に至る
までに変更したときは、行為者に対して最も有利なる法律を適用する」と定め、現
行の一九三五年ナチス刑法第二条a第二項には、「裁判時において行為時における
よりも寛大な法律が存するときは、一層寛大な法律を適用することを得る」と規定
している。かくドイツ法制の下においては、最も寛大な法律(ダス・ゲミルデステ・
ゲゼツツ)、最も有利な法律(ダス・ギユンステイヒステ・ゲゼツツ)、又は一層
寛大な法律(ダス・ミルデレ・ゲゼツツ)、というのであるから、その適用の範囲
は、当然相当広いのであり、又この規定は事実審裁判官に対してのみ適用があると
解せられている。これに反して、わが刑法第六条は、「刑の変更ありたるとき」と
いうのであり、そして刑事訴訟法によつて上告審裁判官に対しても適用があること
になるのであるから、ドイツ刑法と同様な広い解釈適用を認める訳にはいかない。
すなわち、刑の変更による軽い法律というのとただ寛大な法律又は有利な法律とい
うのとでは、前者の方がその適用の範囲が狭かるべきことは、自明であると言い得
る。又上告審にも適用がありとする制度を採る以上、破毀の場合には更に事実審を
重ねる必要がある点を考えると、利害得失の価値判断からしてもドイツ刑法の場合
に比しその適用をむしろ適当に狭く解するのを妥当とする。しかるに、わが国の従
来の学説には、ドイツ刑法の解釈にならつて動もすれば広きに過ぐる適用を認めて
いるものがあるが、それは、彼我の法制が互に似ていてしかも相異なる点が厳存す
ることを、看過したのに基く誤つた見解であると言わなければならぬ。
 そこで、刑法第六条の正しい適用の範囲としては、刑の変更に関する法令の改廃
があつた場合に限定さるべきものであつて、これを超えて広く有利法令の変更があ
つたすべての場合を含むものではないと解するを妥当と考える。先ず、(一)刑罰
法規の各本条で定めている法定刑そのものが、変更せられた場合を含むと解すべき
ことは、おそらく何人も異議なきところである。次に、(二)刑法総則等にある刑
の加重減免に関する規定が改正せられ処断刑に変更があつた場合をも含むと解すべ
きである。なぜならば、処断刑の変更もまた法令の改正によつて当然一般的に生ず
る刑の変更に当るからである。例えば、従来の数罪が一罪として処罰せらるる規定
が設けられるときは、一般的に刑が重く変更せられることになり、逆に従来の一罪
が数罪として処罰せられる法令の改正があるときは、一般的に刑が重く変更せられ
ることになる。(先頃の刑法の一部改正で連続犯の刑法第五五条は廃止せられた結
果、従来の連続犯一罪は併合罪数罪として処罰せられることとなつたから、処断刑
は重く変更せられたことになる。それ故、これに刑法第六条を適用すれば、軽い旧
法の適用があるべき訳である。前記刑法の一部改正法の附則において、「この法律
施行前の行為については、刑法第五五条の改正規定にかかわらず、なお従前の例に
よる」と定めているのは、刑法第六条適用の当然の結果を念のため便宜上明確にし
たものである)。さて、(三)本件執行猶予規定の改正は、「刑の変更」に該当す
るか否かの問題について考うべき順序となつた(この点に関しては、上告審につい
ての経過規定を設けるのが、賢明であつたと思う)。「刑」とは、犯罪に対して科
せられる制裁そのものであると見れば、固有の意義において「刑の変更」とは、刑
の種類又は量に関する変更のみを意味し、本件のごとき刑の執行猶予の要件に関す
る変更を含まないと解することができよう。けだし、刑の執行猶予は、観念的に見
れば性質上刑の内容として刑に内在するものではなくして、ただ刑の執行を一時猶
予するに過ぎないものであるからである。しかし、これは全く形式的な物の考え方
である。執行猶予を観念的に見ないで現実の制度として考えるときにおいて、それ
は単に刑の執行を一時延期するというばかりでなく、猶予期間を無事に経過した暁
には刑の言渡の効力が失われるという制度であるという実態をそのまま端的に把握
しなければならぬはずである。すなわち、実質的には刑の執行猶予は、科刑上刑の
量以上に重視すべき大きな価値があるし、又現に実際においても、裁判官、検察官、
弁護人、被告人及びその他の関係者にとつて、単なる刑の量などと較べものになら
ぬ程に科刑上重要視されていることは、今日ではむしろわれわれの動かぬ常識とな
つている。さらに、法制の上でも刑事訴訟法第四一二条に「刑の量定甚しく不当」
という中には、刑の種類又は量の盛り方の不当な場合ばかりでなく、刑の執行猶予
をつけなかつた場合をも含むこと並びに一審判決で言渡された執行猶予を控訴審判
決で取除くことは、同第四〇三条にいわゆる重い刑の変更となることは、すでに判
例その他において一般に広く承認せられているところである。又刑の執行猶予を求
める上告理由をはねる判決において、「論旨は、結局量刑不当を非難するに帰着す
る」という風な手法が常套的に用いられている事例は、世人の知るが如く枚挙にい
とまがない程である。されば、これらの諸点から観察すれば、本件執行猶予規定の
改正は、「刑の変更」に該当するものと言うを相当とする。さらに又、「刑の変更」
と見るについて争のない刑罰法規各本条の法定刑の変更の場合を例にとつて、別の
観点から問題を考察してみよう。判決後の刑の変更を上告理由及び破毀理由として
いるのは、判決後に各本条の法定刑の変更があつた結果、原判決で言渡された宣告
刑が、新法による新法定刑の限度を超えた不適法のものである場合を含むのは勿論
であるが、かかる場合だけではなく新法定刑の限度内で適法のものである場合をも
含むことは明らかである。例えば、詐欺罪で八年の刑が言渡された後に、同罪の法
定刑が長期一〇年から長期六年に変更された場合は、新法の下では不適法となるか
ら、原判決が破毀せらるべきはもとより当然であると共に、五年の刑が言渡された
後に同様の改正があつたときは、新法の下でも不適法ではないが、さらに新法に従
つて量刑をし直すために破毀せらるべきものと言わなければならぬ。すなわち、前
者の場合は、刑の変更が必然的に原判決の宣告刑に影響を及ぼす場合であるが、後
者の場合は、必然的にではなくただ自由裁量によつて原判決の刑に影響を及ぼす可
能性を生ずる場合である。そこで、本件執行猶予規定の改正によつて、原判決で三
年の体刑を言渡された者は、新法の下でも必然的に刑の執行猶予を受けるというの
ではないが、破毀差戻の後事実審の自由裁量によつて原判決の刑に影響を及ぼし刑
の執行猶予を受け得るに至る可能性を生ずることは明らかである。それ故、かかる
場合をも「刑の変更」と認めることは、各本条の法定刑の変更の場合と対比して同
じ根拠に立ち均衡を得たものということができる。(多数意見は、後段において「
原審の判決後に刑の変更があつたときには事後の事情によつて前審の判決が法令に
違反する場合と同様な結果となるから原判決を破毀するのである。しかるに、刑の
執行猶予の条件に関する規定が改正された場合には、前審の判決は法令に違反する
場合と同様な結果を生じないので前記の場合に準ずることはできない」と述べてい
るが、その意味は甚だ不明確で理解し難いものがある。若しそれが、判決後に刑の
変更があつたときには法令の改正という事後の事情によつて原判決の刑が、新法の
下においては不適法となるから、原判決を破毀するという意義であるならば、前掲
設例の後者の場合には破毀ができないことになり、これは明白に不当な見解である
と言わなければならぬ。又若し、前掲設例の後者の場合にも破毀ができることを認
めている趣旨だとすれば、その表現が極めて不完全であるばかりでなく、自由裁量
によつて原判決の刑に影響を及ぼす可能性を生ずることを破毀の根拠として承認し
なければならぬこととなり、この同じ根拠は執行猶予の要件に関する規定が改正さ
れた場合にも存在することは前述のとおりである。それ故、この点において両者を
区別し差別待遇をすべき理由は、跡方もなく雲散霧消すべき筈である。)
 本件原審において被告は、昭和二二年一〇月二二日懲役三年に処せられたが、そ
の後刑法一部の改正で三年の体刑に対しても執行猶予の言渡を受ける可能性が生じ
たから、破毀差戻をなすを相当とする。
 弁護人作田高太郎及び同西村真人の上告趣意第二点についての裁判官斎藤悠輔の
補足意見は次のとおりである。
 刑法第六条にいわゆる「刑ノ変更」とは、予め法律を以て規定した「刑罰」の変
更すなわち犯罪者の行為規範の違反に対し科すべきものと予定した法律効果たる「
制裁」の変更を意味し、広く「刑法」の変更又は刑の適用に関する一切の「裁判規
範」の変更換言すれば刑の適用につき、裁判機関に対し命じた行為規範を定めた一
切の法規の変更を指すものではないと解すべきである。蓋し、同条は、実体刑法不
遡及の原則に対し一大例外を認めたものであるから、その立法趣旨に照しこれを狭
く厳格に解すべきは当然であり、そして、同条はその明文上明らかなように、単に
「犯罪後ノ法律ニ因り刑ノ変更アリタルトキハ其ノ軽キモノヲ適用ス」と規定した
にとどまり或る立法例のように広く実体刑法規定の変更あつたときは、犯罪者に最
も有利な結果を生すべき一切の規定(刑罰に関すると否と刑の変更に関すると否と
を問わない)を適用する趣旨の立法ではないからである。すなわち同条は、犯罪者
の犯罪行為成立(即時犯)又は完結(継続犯)後判決言渡までの間においてその犯
罪者の行為規範の違反に対し予定した法律効果を規定した法規に変更を生じたとき
は、罪刑法定主義の建前からすれば、本来行為当時の刑罰法規を適用すべきもので
あるのに、犯罪者に対する立法者の恩恵的な法律観念の変化に伴う最も寛大な立法
意思の表現である最も軽い法律効果を規定した法規を適用すべきものとして、旧法
の外特に新法又は中間法の遡及効を認めたものに過ぎないのである。然るに、いわ
ゆる裁判規範を規定した法規は、犯罪者に対する規範を定めた法規ではなく、裁判
機関の為すべき行為の準則法規に外ならないから、裁判機関の為すべき行為当時に
おける法規に従うべく、従つて、或る犯罪後かゝる法規の変更があつても常に裁判
機関の為すべき行為当時の新法に準拠すべく、特に別段の定のない限り、犯罪者に
利益な結果を生ずる旧法又は中間法等の既に失効した法規に従うべき理由がない。
そして同条は、前述のごとく、単にその適用を法律効果を規定した法規に限り、一
切の刑法規定に及ばないのは勿論、刑の適用又は訴訟手続に関する。裁判規範の変
更については何等別段の定をしていないのである。されば、同条に「犯罪後の法律
ニ因リ刑ノ変更アリタルトキ」とは犯罪行為成立又は完結後公布実施された法律に
因り、その犯行以前予めその犯罪行為に対する制裁として規定した当該刑罰法規各
本条の法定刑に変更のあつたとき換言すればその犯罪行為に対し予定した制裁の種
類又は分量が法律規定の改正の結果或は重く或は軽く変更を来した場合に限ると解
すべく、裁判機関が当該法定刑を修正すべき刑罰の加重減軽に関する刑法総則規定
(刑法第五四条第五五条をも含む但し後者については刑法の一部を改正する法律の
附則において別段の定をしている)若しくは訴訟手続上免訴又は免刑の判決(刑訴
第三六三条第二号、第三五九条)を為すべき事由たる刑の廃止又は免除を規定した
刑法規定の変更を包含しないものといわねばならぬ。
 そして刑の執行猶予に関する刑法総則規定は、法定刑の変更若しくはこれが修正
に関する規定ではなく、既に修正を加えられ具体的に確定した一定の宣告刑の執行
を一定の期間猶予すべきか否か又はその猶予の取消を為すべきか否かに関する条件
を、規定したものであり、ただ同法第二七条において一定の場合刑の言渡をしてそ
の効力を失わしめる恩赦的な効果を規定しているに過ぎないものである。そしてこ
の執行猶予の規定は、もと現行刑法並びに現行刑事訴訟法施行以前の明治三八年法
律第七〇号を以て制定せられた単行法律規定であつて、刑の変更又は修正に関する
規定でないのみならず、元来本案たる刑の言渡についての判決手続規定ではない。
ここを以て現行刑法制定の際刑法総則にこれが条件並びに効果に関する実体的規定
を取り入れると共にこれが手続並びに経過法として刑法施行法第一四条第五四条乃
至第五八条の規定を設け、更らに旧刑事訴訟法改正の際右刑法施行法の手続規定を
廃止すると共にその猶予の取消手続については刑訴第三七四条の決定手続規定を設
け、その言渡手続については同第三五八条第二項において「刑ノ執行猶予ハ刑ノ言
渡ト同時ニ判決ヲ以テ其ノ言渡ヲ為スヘシ」と規定して本案の判決において刑の言
渡を為すことを条件とし、その言渡に随伴する附随の処分(刑訴第五二三条第二項
参照)として判決を以てこれが言渡を為すべきものとしたのである。されば右立法
の沿革からしても刑の執行猶予に関する改正法律は刑法第六条の刑の変更に関する
規定に当るものではなく、刑の言渡の附随処分手続に属する裁判規範規定たること
明らかである。それ故刑の執行猶予を為すべきか否か若しくはこれが取消を為すべ
きか否かはこれを決定する権限を有する裁判所が現に又の決定を為すべき当時の新
法に準拠して為すべきものといわねばならぬ。そしてそのことは刑法の一部を改正
する法律の附則において執行猶予に関する改正規定は、その罰金刑に処せられたこ
とを理由とする取消規定の外これが適用を排除しなかつたところからも窺い知るこ
とができるのである。
 しかし、上告は、第二審判決又は第一審判決に対し、法令違反を理由とするとき
に限り、これを為し得るものであり、従つて上告審は、刑訴第四一五条又は同第四
一六条第二号所定の場合を除き、第二審判決又は第一審判決の言渡当時における実
体法又は手続法の違反を爾後審査する法律審であつて原則として自ら刑の言渡をし
ないものであり、しかも、現行刑訴法においては刑法施行法第五五条第二項「上訴
裁判所ハ新ニ執行猶予ノ言渡ヲ為スコトヲ得」のごとき規定を設けなかつたのであ
るから、上告裁判所は、原判決を破毀して自ら刑の言渡を為すべき例外の場合でな
ければ刑の執行猶予を与うべきか否かに関する権限を有しないものといわねばなら
ぬ。
 それ故上告審においては右例外の場合の外執行猶予に関する改正新法適用の余地
も存しないのである。換言すれば刑の執行猶予を為すに足る条件の有無並びにこれ
が猶予を為すか否かの判定は、刑の言渡を為す事実審たる原裁判所がその言渡当時
の法規に従い独立自由に為すべき事柄に属する。そして前述のごとく執行猶予は一
定の宣告刑の執行に関するもので刑の変更に関するものでないから刑訴第四一五条
又は同第四一六条第二号にいわゆる「刑ノ変更」にも当らない。それ故原審判決言
渡後における刑の執行猶予の条件に関する刑法規定の改正を理由とする本件上告は、
結局原審の自由裁量の非難に帰着し上告適法の理由とならないものである。
 裁判官庄野理一は退官につき合議に関与しない。
  昭和二三年一一月一〇日
     最高裁判所大法廷
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
 裁判長裁判官三淵忠彦、裁判官小谷勝重同岩松三郎は各差支えのため、署名捺印
することができない。
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎

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