弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告補助参加代理人野口善國、同福田和美の上告理由について
 【要旨】非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の二分の一と定めた民法九〇〇条四
号ただし書前段の規定が憲法一四条一項に違反するものでないことは、当裁判所の
判例(最高裁平成三年(ク)第一四三号同七年七月五日大法廷決定・民集四九巻七
号一七八九頁)とするところであり、本件について民法九〇〇条四号ただし書前段
の規定を適用した原判決が憲法一四条一項に違反するものでないことは、右判例に
照らして明らかである。したがって、右の違憲をいう論旨は理由がない。その余の
論旨は、違憲及び理由不備をいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主
張するものであって、明らかに民訴法三一二条一項、二項に規定する事由に該当し
ない。
 よって、裁判官藤井正雄の補足意見、裁判官遠藤光男の反対意見があるほか、裁
判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官藤井正雄の補足意見は、次のとおりである。
 私は、民法九〇〇条四号ただし書前段の規定(以下「本件規定」という。)が憲
法一四条一項に違反しないとする点につき、法廷意見に同調するものであるが、反
対意見にかんがみ、私の意見を補足しておきたい。
 一 昭和二二年に現行民法が制定された当時及びその後相当の期間にわたって、
本件規定については、大多数の見解がその合憲性を承認してきたといってよい。し
かし、近年における社会情勢の変動、家庭環境、婚姻傾向、結婚観等の変化はめざ
ましく、これに伴って本件規定の合理性に疑いを向ける意見が徐々に顕著となって
きた。こうした国民の意識の変化は、諸外国における立法のすう勢、我が国におけ
る市民的及び政治的権利に関する国際条約や児童の権利に関する条約の批准といっ
た内外の動向も寄与しているものと思われる。このような法律制定後の事情の変化
が、法律の憲法適否の判断に影響を及ぼすことがあり得ることは、否定し得ないと
ころである。
 しかし、本件規定が制定後の事情の変化により現在では憲法上容認し得ないと評
価されるとしても、そのような評価に至った時点、すなわち合憲から違憲へと飛躍
的な移行を裏付ける劇的な社会変動をどこに捕らえるかは、甚だ困難である。
 法律制定後の社会事象の変動、国民の意識の変化に対処するには、国会の立法作
用により、制度全般の中で関係規定との整合性に留意しつつ、明確な適用基準時を
定めて法改正を行うことが最も望ましく、むしろそれによってこそ適用範囲に疑義
を容れない適切な処理が可能となるものと考える(前記大法廷決定における千種・
河合両裁判官の補足意見参照)。本件規定は、相続法の中の一規定で、国民に広く
関わりを持ち、極めて幅広い影響を及ぼすものであるだけに、混乱を避け、法的安
定を損なわない配慮が是非とも必要である。
 二 遠藤裁判官の引用される前記大法廷決定の同裁判官ほか四名の反対意見は、
違憲判断の不遡及的効力に言及される。これは、最高裁判所の違憲判断が一般的効
力ないしは実質的にこれに近い事実上の効力を有することを前提としつつ、既存の
裁判・協議に影響を及ぼし混乱を招くのを回避するための理論として提示されたも
のと思われる。
 裁判所による法の解釈は立法者によって与えられた法の内容を発見することにあ
るとするならば、最高裁判所の違憲判断は、その法が以前から違憲無効であったこ
とを宣明するものであって、遡及的効果を持つとする考えに親しみやすいであろう。
これに対し、裁判所の法解釈には法の制定に類する創造的機能もあることを承認す
るならば、最高裁判所は、違憲判決において、その効果を遡及させるか否かを自ら
決定することもできるといえることになるであろう。しかし、後者の考え方におい
ても、その不遡及的違憲判断は当該事件には例外的に適用されるのか、それとも当
該事件には適用されず将来の同種事件についてのみ活かされる傍論的説示にとどま
るのかも問題であり、いまだ十分に議論が熟しているとはいえない。
 法の解釈に創造的機能があることは否定できないが、それは主として法の欠缺す
る分野においてである。明文の規定の存するところに法創造的契機を持ち込むこと
は、更に慎重な検討を必要とするものと思う。
 三 以上の次第で、私は、本件規定につき、現時点において違憲判断をすること
が相当であるとはいえず、立法府による改正を待たなければならないと考えるもの
である。
 裁判官遠藤光男の反対意見は、次のとおりである。
 私は、民法九〇〇条四号ただし書前段の規定は憲法一四条一項に違反して無効で
あり、原判決を破棄すべきものであると考える。その理由は、前記大法廷決定にお
ける私の反対意見の中で述べたとおりである。
(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井
正雄 裁判官 大出峻郎)

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