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平成22年6月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第3529号特許権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日平成22年5月27日
判決
東京都大田区<以下略>
原告キヤノン株式会社
同訴訟代理人弁護士増井和夫
同橋口尚幸
同齋藤誠二郎
東京都中央区<以下略>
被告エステー産業株式会社
同訴訟代理人弁護士黒田健二
同吉村誠
同門松慎治
同訴訟代理人弁理士松本孝
主文
1被告は,別紙物件目録()記載のインクタンクの輸入,販売又は販売2
のための展示をしてはならない。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを7分し,その1を原告の負担とし,その余を被告
の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,別紙物件目録()及び()記載のインクタンクの輸入,販売又は販売12
のための展示をしてはならない。
第2事案の概要
本件は,インクジェットプリンタに使用されるインクタンクなどの液体収納
容器及び該容器を備える液体供給システムの特許権を有する原告が,被告によ
る別紙物件目録()及び()記載のインクタンク(以下,同目録()記載のイン121
クタンクを「被告製品1,同目録()記載のインクタンクを「被告製品2」」2
といい,両製品を総称して「被告製品」という)の輸入及び販売行為は,上。
記液体収納容器の特許権を侵害するものである,又は,特許法101条2号に
,,より上記液体供給システムの特許権を侵害するものとみなされると主張して
被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の輸入,販売及び販売の
ための展示の差止めを求めた事案である。
なお,原告は,平成21年8月27日の本件第2回弁論準備手続期日におい
て,被告製品1に関する販売等の差止請求の訴えを取り下げたものの,被告は
取下げに同意しなかった。原告は,同年12月22日の本件第4回弁論準備手
続期日において,被告製品1を輸入,販売する行為が原告の上記特許権を侵害
する旨の主張を撤回した。
1争いのない事実等(末尾に証拠を掲げていない事実は,当事者間に争いがな
い事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である)。
()当事者1
原告は,事務機器,光学製品等を製造,販売する会社である。
被告は,インクリボンの製造販売,プリンター用インク補給装置の製造販
売等を業とする会社である。
()本件特許2
ア原告は,次の特許権(以下,後記特許請求の範囲請求項1の発明を「本
件発明1請求項5の発明を本件発明2といいこれらを併せて本」,「」,「
件発明」という。また,本件発明1に係る特許を「本件特許1,同特許」
に係る特許権を「本件特許権1」などといい,これらの特許ないし特許権
を併せて「本件特許」ないし「本件特許権,本件特許に係る明細書(別」
紙特許公報参照)を「本件明細書」という)を有している。。
特許番号第3793216号
発明の名称液体収納容器,該容器を備える液体供給システム,前
記容器の製造方法,前記容器用回路基板および液体収
納カートリッジ
出願日平成16年11月15日
優先日平成15年12月26日
登録日平成18年4月14日
特許請求の範囲
【請求項1】
別紙1「特許請求の範囲(以下,単に「別紙1」という)の「請」。
求項1「訂正前」欄記載のとおり」
【請求項5】
別紙1の「請求項5「訂正前」欄記載のとおり」
イ本件発明1及び本件発明2を構成要件に分説すると,それぞれ,次のと
おりである(以下,分説した構成要件をそれぞれ「構成要件1A1」など
という。。)
【本件発明1】
別紙2「構成要件の分説(以下,単に「別紙2」という)の「請求」。
項1「訂正前」欄記載のとおり」
【本件発明2】
別紙2の「請求項5「訂正前」欄記載のとおり」
()本件訂正請求3
ア被告は,平成21年に,本件特許につき特許無効審判請求(無効200
9−800141)をした(乙52。)
イ原告は,上記審判事件において,平成21年9月24日付けで審判事件
答弁書とともに,特許庁に対し,次のとおり,本件特許の請求項1及び請
求項5について訂正請求(以下「本件訂正」という)をした(乙52。。
以下,本件訂正後の請求項1の発明を「本件訂正発明1,本件訂正後の」
請求項5の発明を「本件訂正発明2」といい,両発明を総称して「本件訂
正発明」という。。)
【請求項1について】
別紙1の「請求項1「訂正後」欄記載のとおり」
【請求項5について】
別紙1の「請求項5「訂正後」欄記載のとおり(なお,原告は,本件」
訂正に伴い,本件訂正前の請求項3及び4を削除した。そのため,本件訂
正前の請求項5は,同訂正により請求項3となる)。
,,ウ本件訂正発明1及び本件訂正発明2を構成要件に分説するとそれぞれ
次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれ「構成要件1A1
」などという。’。)
【本件訂正発明1】
別紙2の「請求項1「訂正後」欄記載のとおり」
【本件訂正発明2】
別紙2の「請求項5「訂正後」欄記載のとおり」
()原告製プリンタ及び原告製インクタンク4
原告はインクジェットプリンタであるPIXUSシリーズ以下原,「」(「
告製プリンタ」という)並びに同プリンタに使用するインクタンクである。
「BCI−9BK」及び「BCI−7e系(以下「BCI−9BK」を」,
「原告製インクタンク1「BCI−7e系」を「原告製インクタンク2」」,
といい,両者を総称して「原告製インクタンク」という)を製造し,販売。
している(甲3の1,2。)
原告製インクタンク1と原告製インクタンク2とは,その形状が異なって
おり,前者の方が後者よりも大型である。また,各インクタンクに収納され
るインクの色(種類)は,原告製インクタンク1が,ブラックの1色のみで
あり,原告製インクタンク2が,ブラック,イエロー,マゼンタ,シアン,
フォトマゼンタ,フォトシアン,レッド及びグリーンの8色である(甲3の
1,2。)
原告製プリンタのタンクホルダには,原告製インクタンク1を1個及び原
告製インクタンク2を複数個搭載することができる。原告製プリンタのタン
クホルダに原告製インクタンクを搭載する位置は,インクタンクの形状(原
告製インクタンク1と原告製インクタンク2の別)及びインクの色(種類)
によって,あらかじめ決められている(甲3の1,2,甲4。)
()被告製品5
ア被告製品の構造及び形状
被告製品は,別紙物件目録()及び()の第2及び第3記載の構造のイン12
クタンク本体に,同目録第1記載の表示を付し,インクを充填したインク
タンクである(甲4,甲10の1∼4。なお,後記のとおり,被告製品の
構造の一部については,当事者間に争いがある。。)
被告製品1と被告製品2とは,その形状が異なっており,被告製品1の
方が被告製品2より大型である。
被告製品に収納されるインクの色(種類)は,被告製品1が,ブラック
の1色のみであり,被告製品2が,ブラック,イエロー,マゼンタ,シア
ン,フォトマゼンタ及びフォトシアンの6色である。
イ被告製品と原告製プリンタの関係
被告製品は,原告製プリンタに装着することができる(なお,被告製品
2のうち,インクの色(種類)がフォトマゼンタないしフォトシアンの物
は,一部の原告製プリンタ(甲第4号証において調査対象とされた「PI
XUSiP4500」など)には装着することができない。。)
原告製プリンタのタンクホルダには,被告製品1を1個及び被告製品2
を4個ないし6個搭載することができる。
原告製プリンタのタンクホルダに被告製品を搭載する位置は,インクの
形状(被告製品1と被告製品2の別)及びインクの色(種類)によって,
あらかじめ決められている。
ウ被告製品の輸入,販売
被告製品は,被告の100%子会社である香港法人「NSTECHN
OLOGY(H.K)LTD(中国工場名:龍昇科技精密廠)におい.」
て製造されている。
被告は,業として,上記香港法人から被告製品を輸入し,株式会社プレ
ジールなどに販売している。
2争点
()被告製品2は,本件発明1及び本件訂正発明1の構成要件を充足するか1
(争点1。)
()被告製品2を輸入,販売する行為は,特許法101条2号により,本件2
特許権2を侵害するものとみなされるか(間接侵害の成否(争点2。))
()本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか(特許法103
4条の3の抗弁の成否(争点3。))
ア本件発明は,進歩性を欠くか(争点3−1)
イ本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号(サポート
要件)に違反するか(争点3−2)
ウ本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号(明確性要
件)に違反するか(争点3−3)
エ本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項1号(実施
可能要件)に違反するか(争点3−4)
オ本件特許の無効理由は,本件訂正により解消されるか(争点3−5)
(ア)本件訂正は,特許法134条の2の訂正要件を満たすか(争点3−
5−1)
(イ)本件訂正発明は,進歩性を欠くか(争点3−5−2)
(ウ)本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号サ,(
ポート要件)に違反するか(争点3−5−3)
(エ)本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号明,(
確性要件)に違反するか(争点3−5−4)
(オ)本件明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号実,(
施可能要件)に違反するか(争点3−5−5)
()原告が被告に対して本件特許権に基づき被告製品2の輸入,販売等の差4
,,()止めを求めることは独占禁止法に違反し権利を濫用するものか争点4
3争点に関する当事者の主張
()争点1(被告製品2は,本件発明1及び本件訂正発明1の構成要件を充1
足するか)について
[原告の主張]
,(,「」。),以下のとおり被告製品2以下単にインクタンクともいうは
本件発明1及び本件訂正発明1の構成要件をいずれも充足する。
したがって,被告が被告製品2を輸入,販売する行為は,本件特許権1を
侵害する(なお,前記のとおり,原告は,被告製品1を輸入,販売する行為
が本件特許権を侵害する旨の主張については,本件第4回弁論準備手続期日
において,これを撤回した。。)
ア構成要件1A及び1A’について
被告製品2は,次のとおり,構成要件1A1ないし1A4及び構成要件
1A1’ないし1A5’の構成を備えた原告製プリンタ(記録装置)のキ
ャリッジに対して,着脱可能である。
したがって,被告製品2は,構成要件1A(1A1∼1A5)及び1A
(1A1’∼1A6)を充足する。’’
(ア)構成要件1A1及び1A1’について
被告製品2は,液体インク収納容器であり,原告製プリンタは,複数
の被告製品2を搭載して移動することのできるキャリッジを備えている
(甲4・3頁,甲10の1,2。)
したがって,原告製プリンタは「複数の液体収納容器が搭載可能」,
(構成要件1A1)なものであり「複数の液体インク収納容器を搭載,
して移動するキャリッジ(構成要件1A1)を備えている。」’
(イ)構成要件1A2及び1A2’について
原告製プリンタのタンクホルダには被告製品2に設けられた基板別,(
紙物件目録()の第2【図1】ないし【図3】の番号100を参照)と2
電気的に接続する接点が設けられている(甲4・3頁。)
したがって,原告製プリンタは「液体収納容器に備えられる接点と,
電気的に結合可能な装置側接点(構成要件1A2)及び「液体インク」
収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点(構成要」
件1A2)を備えている。’
(ウ)構成要件1A3及び1A3’について
原告製プリンタには,キャリッジの箇所に向かい合うように,被告製
品2の発光部(別紙物件目録()の第2【図1】ないし【図3】の番号2
101を参照)からの光を受光する受光手段が一つ設けられている。。
同プリンタのすべてのタンクホルダに被告製品を装着した状態でプリ
ンタの上部カバーを閉じると,キャリッジは,上記受光手段の付近まで
移動し,受光手段の付近で細かく移動する。これによって,受光手段に
対向するインクタンクは,次々と入れ替わる。
そして,各インクタンクが装着されるべき搭載位置(原告製プリンタ
では,前記1()のとおり,インクタンクの形状及び色によって,イン4
クタンクを搭載する位置があらかじめ定められている)が受光手段に。
対向する位置に来たときに,当該インクタンクの発光部を発光させ,上
記発光を受光部で受光することができるかどうかを確認する。
インクタンクが正しい位置に装着されていれば,上記発光を受光部で
受光することができるので,上記処理により,各インクタンクが正しい
位置に装着されているか否かを確認することができる(上記処理を,以
下「本件光照合処理」という(甲4・3頁及び4頁,甲10の1∼。)
4。)
したがって,原告製プリンタは「液体収納容器からの光を受光する,
受光手段(構成要件1A3,並びに「前記キャリッジの移動により」),
対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体
インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一
つ,及び「該受光手段で該光を受光することによって前記液体イン」,
ク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段構」(
成要件1A3)を備えている。’
(エ)構成要件1A4及び1A4’について
原告製プリンタは,各インクタンクと接続するタンクホルダのコネク
タが,タンクホルダの裏側において,共通の配線で接続されている。
本件光照合処理の際には,上記配線を通じて,各インクタンクを光ら
せるための色情報のコードが各インクタンクに送信され,各インクタン
クは,色情報を受信すると,色情報のコードを,インクタンクの基板上
のICチップ(別紙物件目録()の第2【図1】ないし【図3】の番号2
103を参照)に保持されている自己の色情報のコードと比較し,両。
者が一致している場合に,制御コードに基づきインクタンクの発光部を
点灯させる(なお,両者が一致しないときは,制御コードに基づく発光
部の点灯は,行われない(甲4・5頁及び6頁,甲10の1∼4。。))
したがって,原告製プリンタは「搭載される液体収納容器それぞれ,
の前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通に電気的接続する配
線を有した電気回路(構成要件1A4,及び「搭載される液体イン」),
ク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通
に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回
路(構成要件1A4)を備えている。」’
(オ)構成要件1A5’について
上記(ウ)及び(エ)のとおり,原告製プリンタは,本件光照合処理を行
うことにより,各インクタンクが正しい位置に装着されているか否かを
検出することができる。
したがって,原告製プリンタは「前記キャリッジの位置に応じて特,
定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ,そ
の光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液
体インク収納容器の搭載位置を検出する(構成要件1A5)機能を」’
備えている。
イ構成要件1B及び1B’について
被告製品2は,その支持部材の根本付近の底面部に基板が設置され,そ
の基板には,原告製プリンタ側のコネクタと電気的に接続する接点が4個
設けられており,基板は,接点がインクタンクの外側に向くように設置さ
れている(別紙物件目録()の第2【図1】ないし【図3】の番号1002
及び102を参照(甲4・7頁及び8頁。。))
したがって,被告製品2は,構成要件1B及び1B’の「前記装置側接
」,。点と電気的に接続可能な前記接点を備えており同構成要件を充足する
ウ構成要件1C及び1C’について
被告製品2は,その基板に設けられたICチップに,各インクタンクの
色に応じた色情報を保持している(甲4・9頁∼11頁。)
したがって,被告製品2は,構成要件1Cの「液体収納容器の個体情報
を保持可能な情報保持部」及び同1C’の「液体インク収納容器のインク
色を示す色情報を保持可能な情報保持部」を備えており,同構成要件を充
足する。
エ構成要件1D及び1D’について
被告製品2は,その基板の上部に,発光部であるLEDが設けられてお
り,本件光照合処理の際,同発光部から,原告製プリンタの受光部に投光
するための光を発光する。
したがって,被告製品2は,構成要件1Dの「発光部」及び同1D’の
「」,前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部を備えており
同構成要件を充足する。
オ構成要件1E及び1E’について
被告製品2は,その基板上のICチップに対して,インクの色に応じた
色情報に発光コマンド(制御部に発光を命じる命令コード)を付けた信号
を送付すると,インクタンクの色と送信した色情報が一致している場合の
み発光し,その他の場合は発光しない(甲4・11頁。)
したがって,被告製品2は,構成要件1Eの「前記接点から入力される
個体情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する個体情報とに応じて前
記発光部の発光を制御する制御部」及び同1E’の「前記接点から入力さ
れる前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とに
応じて前記発光部の発光を制御する制御部」を備えており,同構成要件を
充足する。
カ構成要件1F及び1F’について
上記のとおり,被告製品2は,構成要件1A1ないし1A4及び同1A
1’ないし1A5’の構成を備えた原告製プリンタのキャリッジに対して
着脱可能であり,構成要件1Bないし1E及び同1B’ないし1E’の構
成を備えた,液体インク収納容器である。
したがって,被告製品2は,構成要件1Fの「上記各構成を)有する(
ことを特徴とする液体収納容器」及び同1F’の「上記各構成を)有す(
ることを特徴とする液体インク収納容器」に該当し,同構成要件を充足す
る。
[被告の主張]
ア原告製プリンタ及び被告製品2の構造
原告製プリンタが,①被告製品2と電気的に結合可能なプリンタ側接
点,②被告製品2の発光部からの光を受光する光センサ(受光手段,)
③上記①の複数のプリンタ側接点をバス接続(共通に電気的接続)する
配線,を有することについては,知らない。これらの点は,原告製プリン
タの内部構成の問題であり,甲第4号証の写真だけでは明らかでない。
被告製品2が,発光部を制御する制御部とインクタンクの個体情報を保
持可能な情報保持部とが一体となったICチップを有し,電極パッドを介
して供給される電気信号及び電力によりICチップが発光部の発光の制御
を行うことについては,知らない。上記ICチップは,被告が自ら製造又
,,,は製造委託した物ではなく別のメーカーから仕入れた物であり被告は
同メーカーから,ICチップの構造等に関する詳細な情報を提供されてい
ない。また,甲第4号証に記載の動作確認実験は,プリンタ装置を用いた
実験ではなく,CPUボードによる実験にすぎないので,ICチップが上
記構造を有することを証明するものとしては,不十分である。
イ被告製品2は本件特許権1を侵害しないこと
(ア)インクタンク単体では非侵害であること
本件明細書に記載のある本件発明の実施例を要約すると,キャリッジ
上に取り付ける4つの装着部に対し,少なくともすべて異なる色の同形
状のインクタンクが1個ずつ計4個,位置を問わず装着されることを前
提に,プリンタの受光センサーとインクタンクのLED等を用いて光照
合処理を行っている。
このように,本件発明は,プリンタのキャリッジ上に,複数のインク
,,タンクが各色1個ずつすべて装着された構成を必須とするものであり
,。インクタンクのみならずプリンタを必須の構成要件とするものである
したがって,本件発明は,インクタンク単体の発明ではありえず,イ
ンクタンクを搭載したプリンタの発明というべきであり,被告製品2単
体では,本件特許権1を侵害しない。
(イ)交換用インクタンクは非侵害であること
a原告製プリンタにおいて,複数のインクタンクを同時に交換するこ
とはあり得ないこと
原告製プリンタを新規に購入する場合,その付属品として,原告製
インクタンクが,各色1セットずつ同梱されている。
そのため,原告製プリンタを購入したユーザーは,当初は,原告製
インクタンクを装着して使用を開始し,いずれかのインクタンクを使
い切ったため交換する際に,初めて,交換用インクタンクを使用する
こととなる。
,,しかしながら各色のインクタンクにおけるインクの消耗の仕方は
印刷する画像の色合いや,印刷物の内容によって異なり,本来的に同
一ではないから,複数のインクタンクのインクが同時になくなる(イ
ンクタンクが空になる)確率は,無に等しいものである。
また,インクタンクは高価であるから,インクを使い切るまで使用
,,するのは当然であり空になった1個のインクタンクを交換する際に
ユーザーが残量の残っている他のインクタンクを同時に交換するとい
うことも,合理的に考えてあり得ない。
以上の点は,①原告が作成した原告製プリンタの操作ガイド(乙
56の1。以下「原告製プリンタ操作ガイド」という)に「一度。,
に複数のインクタンクを外さず,必ず1つずつ交換してください」。
と記載されていること(55頁,②原告製プリンタでは,インク)
タンクのインクが1個でもなくなった場合には,プリンタ本体のエラ
ーランプが点滅し,インクタンクを交換しない限り,印刷を続行する
(,,ことができなくなること原告製プリンタ操作ガイド・9頁53頁
87頁,89頁,③原告製プリンタでは,インクタンクのインク)
が少なくなった場合にもインクランプは点滅するものの,インクがな
くなった場合の点滅の形態(点滅速度)とは明確に異なっている上,
上記操作ガイドには,インクが少なくなったにすぎない時点でのイン
クタンクの交換を許容する記載は存在しないこと(原告製プリンタ操
作ガイド・53頁,などからも裏付けられる。なお,原告製プリン)
タ操作ガイドには,インクタンクがなくなったことを示すエラーラン
プが点滅したときでも,リセットボタンを押す,ないし,同ボタンを
5秒以上押し続けることにより,印刷を続けることができる旨の記載
も存在する(87頁,89頁。しかしながら,同記載に続けて「イ),
ンク切れの状態で印刷を続けると,故障の原因となるおそれがありま
す「インク切れの状態で印刷を続けたことが原因の故障について。」,
はキヤノンは責任を負えない場合があります」などと記載されてい。
ることから,ユーザーが,故障の危険や異常色の印刷となることなど
を承諾してリセットボタンを押し,2個目のインクタンクがなくなる
まで異常色の印刷を継続することは,あり得ない。
以上のとおり,被告製品2を原告製プリンタに誤装着する場合とし
てあり得るのは,最初に装着した原告製インクタンクのいずれかが消
耗したため交換する際に,取り外したインクタンクと別の色の被告製
品2を誤って装着してしまう場合,すなわち,2個同色を装着した場
合のみである。
,,b原告製プリンタにおいて一つのインクタンクのみを交換する場合
光照合処理を行わずに誤装着を防止することができること
本件明細書の実施例における装着確認制御段落0098∼0(【】【
107)でのシーケンス(あらかじめ定められた順序又は手続にし】
たがって,制御の各段階を逐次進めていくこと)では,インクタンク
交換時に一つのインクタンクのみを交換することしか記載されていな
い。
また,上記制御は「インクタンク交換位置」に到達後にされるこ,
と(段落【0098)からも明らかなように,交換時にされるもの】
,,,(,であるからこの時プリンタ本体には既に各色一つずつ例えば
ブラック,シアン,マゼンタ,イエロー)のインクタンクが正常位置
に搭載され,本体側の制御部において,各インクタンクの色情報を認
知済みであることが前提となっている。
そして,同実施例によれば,一つのインクタンクのみを交換する際
に誤った色のインクタンクが装着された(すなわち,同色のインクタ
ンクが2個装着された状態となった)場合には,プリンタ本体の制御
部において,すべての色情報を認識することができないと判断し,本
件光照合処理を行うことなく,装着確認制御を異常終了させる(図2
6。)
c小括
以上のとおり,上記実施例の交換インクタンクの場合,本件光照合
処理を用いることなくインクタンクの誤装着が防止されるから,交換
用のインクタンクである被告製品2が本件発明の「液体収納容器」な
いし「液体インク収納容器」に含まれることはない。
(ウ)「液体収納容器からの光を受光する受光手段(構成要件1A3)」
及び「液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受
光手段(構成要件1A3)の解釈」’
本件明細書には,発明の効果として「このようなインクタンクを特,
定した発光制御が可能な場合,例えば,キャリッジに搭載された複数の
インクタンクについて,その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を
発光させるとともに,上記処置(判決注:本件訂正により「処置」を,
「」()。。)所定と訂正する旨の請求がされている甲8・11頁以下同じ
の位置での発光を検出するようにすることにより,発光が検出されない
インクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識できる(段落」
【0019)と記載されているものの【課題を解決するための手段】】,
(段落【0011】∼【0018)の欄には,本件発明の特許請求の】
範囲そのものが記載されているにすぎず,本件特許請求の範囲を説明す
る具体的な記述は存在しない。
また,本件発明1及び本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載には,
「」,「」,「」発光部受光手段という用語が用いられているものの発光部
と「受光手段」の関係が不明確で,どのように発光を検出するのかが不
明であり,この点について実施例以外に十分な開示がされているとはい
えない。
したがって,本件発明の特許請求の範囲の記載を解釈するに当たって
は,本件明細書に記載された実施例に記載されている発光の検出方法を
考慮して解釈せざるを得ないというべきである。
発光部と受光手段の関係について,本件明細書の実施例には,インク
タンクの底面と正面が交わる部分に基板が設けられ,基板の外側に向か
って位置する面に電極パッドが設けられて,タンクホルダに設けられた
接点と接触し,インクタンクの内側に向かって位置する基板の面に発光
部が設けられ,タンクホルダに上記発光部からの光の光軸を確保するた
めの穴を設けて光を通し受光部に到達させる構成が開示されている段,(
落【0034【0038,図4。】,】)
また,本件明細書には,上記構成の「変形例」として,発光部が発す
る光を光ファイバなどの導光性部材を用いて所要の位置に導くことが開
(【】,【】,)。,示されている段落00460047図12この場合も
タンクホルダに穴を開け,導光性部材を通すことによって光を導いてい
ることから,本件明細書に開示されている受光手段の受光方法は,タン
クホルダに穴を開けて光を通す構成だけであるといえる。
なお,本件明細書には,インクタンク上部に発光部を設けることによ
り,タンクホルダに穴を空けることなく受光手段に投光する構成も開示
されている(段落【0128】∼【0132。しかしながら,同構】)
成は,基板と別の位置に発光部が設けられ,発光部と基板とが別途配線
部を介して接続されているのであって,発光部が設けられている基板が
インクタンクの底面側に設けられているものではない。そのため,本件
明細書に触れた当業者が,本件発明に係るインクタンクについて,一つ
の基板に接点及び発光部を設け,当該基板をインクタンクの底面側に設
ける構成を実施しようとした時には,上記のようにタンクホルダに穴を
開けることでしか発光部の光を受光手段で受光させることができないと
いうべきであり,上記段落【0128】ないし【0132】の記載は,
「」「」上記構成の基板を設けたインクタンクにおける発光部と受光手段
の光の検出方法の実施形態とはいえない。
,「」したがって構成要件1A3の該液体収納容器からの光を受光する
及び同1A3’の「前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光す
る」とは「インクタンクホルダに空けられた穴もしくは光透過性の部,
分を通じて光を通すことにより該液体収納容器からの光を受光する,」
と解するのが相当である。
そうすると,被告製品2は,一つの基板に接点及び発光部を設け,当
該基板をインクタンクの底面側に設ける構成であるにもかかわらず,原
告製プリンタのタンクホルダには,光を通すための穴又は光透過性の部
分は存在しないものであるから,原告製プリンタは,構成要件1A3及
び1A3’所定の方法で被告製品2からの発光を受光するものではない
というべきである。
(エ)「複数の液体(インク)収納容器(構成要件1A1及び1A1)」’
並びに「記録装置に対して着脱可能(構成要件1A4及び1A5)及」
び「記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能(構成要件1A5’」
及び1A6)の解釈’
a本件発明が解決しようとする課題
本件明細書には,本件発明が解決しようとする課題について,次の
とおり記載されている。
「一方,さらなる高画質化の要求から従来の4色(ブラック,イエロ
ー,マゼンタ,シアン)インクに,濃度の薄い淡色マゼンタ,淡色
シアンといったインクが使われるようになってきており,さらには
レッド,ブルーインクといったいわゆる特色インクの使用も提案さ
れてきている。このような場合,インクジェットプリンタに対して
は7∼8個といったインクタンクを個別に搭載することになる。そ
の際に,間違った装着位置へのインクタンクの搭載を防止する機構
が必要となってくる。特許文献3には,インクタンクがキャリッジ
に搭載される際の,キャリッジの搭載部とインクタンク相互の係合
の形状をインクタンクごとに異ならせ,これにより,インクタンク
が誤った位置に装着されることを防止している構成が開示されてい
る(段落【0004)。」】
「,,インクタンクの搭載位置を特定する構成としては上述したように
搭載部とインクタンクが係合する相互の形状を搭載位置ごとに異な
らせるものがある。しかしながら,この場合は特に,インクの色な
いし種類ごとに異なる形状のインクタンクを製造する必要があり,
製造効率やコストの点で不利となる(段落【0007)。」】
b光照合処理による効果
本件明細書には,上記aの課題に対して本件発明の構成をとること
による効果について,次のとおり記載されている。
「本実施形態では,インクタンクの装着位置について,例えば,イン
クタンクと装着位置の形状を他のインクのインクタンクが装着でき
ないような形状とし,それぞれの色のインクタンクに対応して装着
位置を定めるような構成をとらないことから,それぞれの色のイン
クタンクについて本来の位置でないところに誤って装着される可能
性がある。このため,本光照合処理を行い,誤って装着されている
,。,,場合はユーザにその旨を知らせるものであるこれにより特に
インクタンクの形状を色ごとに異ならせることなく,インクタンク
の製造の効率化や低コスト化を図ることができる(段落【01。」
08)】
c「複数の液体収納容器」及び「着脱可能」の解釈
以上の記載からすれば,本件発明は,誤装着防止という従来からあ
った課題に対し,本件発明の構成を備えることで,インクタンクの形
状を色ごとに異ならせることなく,インクタンクの製造の効率化や低
コスト化を図りつつ,誤装着防止を実現するという効果を奏するもの
であると解すべきである。
そうすると,一つでも異なる形状の液体収納容器があれば,上記効
果を奏することができず,製造効率やコストの点で不利となってしま
,,,うため本件発明における液体収納容器とは上記効果を奏するよう
すべて同一形状である必要があるというべきである。
したがって,構成要件1A1及び1A1’における「複数の液体収
納容器(液体インク収納容器」とは「すべて同一形状の複数の液),
体収納容器(液体インク収納容器」と,構成要件1A5及び1A6)
’の「着脱可能」とは「すべて同一形状の複数の液体収納容器(液,
体インク収納容器)が搭載可能な記録装置に着脱可能」と,それぞれ
解するのが相当である。
d原告製プリンタは上記「記録装置」に該当しないこと
原告製プリンタのキャリッジは,前記1()のとおり,形状の異な5
るインクタンクである被告製品1及び被告製品2を装着することがで
きるものである。
よって,原告製プリンタは,上記の「すべて同一形状の複数の液体
収納容器(液体インク収納容器)が搭載可能な記録装置」には当たら
ず,被告製品2は,構成要件1A4及び1A5並びに構成要件1A5
’及び1A6’を充足しない。
(オ)「液体インク収納容器位置検出手段(構成要件1A3’及び1A」
5)の解釈’
a原告製プリンタの受光部は「位置検出手段」に該当しないこと,
構成要件1A5’にいう「液体インク収納容器位置検出手段」に関
し,原告は,構成要件2A3の「液体収納容器の位置検出手段」の解
釈として,原告製プリンタにおける受光部がこれに該当すると主張す
る(訴状24頁,28頁。)
しかしながら,一般に,受光部に当たる受光手段は,光を検出する
受光素子としての機能を有するのみであり,インクタンクの搭載位置
を検出する機能まで有するものでないことは,当業者にとっての技術
常識である。受光手段が受光した結果は,プリンタ本体の制御回路等
に送信され,かかる制御回路等においてインクタンクの搭載位置を判
断し,検出する。
したがって,原告製プリンタの受光部は,インクタンクの搭載位置
を検出する手段を有しておらず,原告製プリンタは,構成要件1A3
’及び1A5’の「液体インク収納容器位置検出手段」を備えていな
い。
b原告製プリンタは「液体インク収納容器の搭載位置を検出する」,
機能を有しないこと
(a)「搭載位置を検出する」の意義
「液体インク収納容器の搭載位置を検出する(構成要件1A3」
’及び1A5)とは,その通常の語義及び本件発明の課題がキャ’
リッジにおけるインクタンクの誤装着の防止であることからすれ
ば「各インクタンクがキャリッジ上のどの位置に搭載されている,
かを検出する」という意味であると解するのが相当である。
(b)原告製プリンタは,入れ違えによる誤装着の場合に,インクタ
ンクの「搭載位置を検出する」ことができないこと
仮に,原告製プリンタにおいて,複数のインク色の被告製品2が
同時に交換され,各インクタンクが,その本来搭載されるべき位置
に搭載されず,入れ違いに装着された場合,次のとおり,原告製プ
リンタは,インクタンクが所定の位置に装着されていないことは検
出できるものの,誤装着されたインクタンクが搭載された場所につ
いては検出することができない。
すなわち,例えば,ブラック色のインクタンクとシアン色のイン
クタンクを入れ違えた場合,本件光照合処理がされることにより,
受光センサは,ブラックのインクタンクからの光を受光しないこと
によって,ブラックのインクタンクが所定の位置に装着されていな
いことは検出することができるが,シアンの所定位置に装着された
ブラックのインクタンクからの光を受光できるわけではないため,
結局,ブラックのインクタンクがどの位置に装着されているかを検
出することはできない。
以上のとおり,原告製プリンタは,構成要件1A3’及び1A5
’の「液体インク収納容器の搭載位置を検出する」機能を備えてい
ない。
(カ)「制御(構成要件1E及び1E)の解釈」’
構成要件1E及び1E’における「制御」の意義については,本件明
細書中に「制御」の語義について直接的な定義がないため,その語が有
する一般的な意味に従って解釈するのが相当である。
「制御」の一般的な意味は「所定の目的に合致するよう意図的,思,
いどおりに支配したり,あやつるという,何らかの自律的なコントロー
ル・調節機能」を指すと解されている(日本語大辞典(乙7,工業プ)
ロセス計測制御用語及び定義[日本工業規格(乙43。]))
また,一般に,LEDなどによって実現される「発光部」の発光の状
態は,点灯,点滅,消灯の3つの状態があり得るものであり,点滅につ
いては,ゆっくりとした点滅,速い点滅など,点滅速度を選択すること
ができることは,周知の事柄である。
したがって「制御」とは,発光部の発光を,いつ,どのタイミング,
で,点灯,点滅,消灯のいずれの状態とするのかについて,自身でコン
トロールし,また,発光部の点滅速度を自身で調節し得る機構を指すと
解するのが相当である。
一方,原告製プリンタに被告製品2を搭載した場合,被告製品2の発
光部の発光を制御するのは,原告製プリンタの制御回路(本件明細書の
記載では,図19に記載のCPU301を備えた「制御回路300」に
相当する構成)であって,被告製品2は,上記制御回路からの信号を受
け取り,その指示どおりの発光,点滅を行っているにすぎない。
したがって,被告製品2は,構成要件1E及び1E’の「発光部の発
光を制御する制御部」を備えておらず,同構成要件を充足しない。
[被告の主張に対する原告の反論]
アインクタンク単体では非侵害であるとの主張について
,「」この点に関する被告の主張はいわゆるサブコンビネーションの発明
についての請求項を認めない,との主張と思われる。
しかしながら,サブコンビネーションの発明について,組み合わせる相
手方の要素を構成要件とすることは,特許庁の審査基準においても認めら
れている。すなわち,特許庁の審査基準では「サブコンビネーションと,
は,二以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明や,二以上の工程を
組み合わせてなる製造方法の発明等(以上をコンビネーションという)。
に対し,組み合わされる各装置の発明,各工程の発明等をいう」との定。
義の下に,サブコンビネーション形式の請求項も例示され,コンビネーシ
ョンの発明を,サブコンビネーションの発明として特定し,特許請求の範
囲に記載することを許容している(甲9。)
本件発明1及び本件訂正発明1においては,特定の構成を有するプリン
タと組み合わせるインクタンクの構成を,当該プリンタの構造を引用する
ことによって特定しており,同発明におけるインクタンクは,各構成要件
を充足するための必要な機能を備えなければならない。すなわち,インク
タンクは,プリンタ本体の共通配線と接続可能な端子を有している必要が
あり,プリンタ本体からの色情報信号を解読し,自己の情報保持部に保持
されている色情報と照合し,動作を決定する機能を有さなければならず,
さらに,キャリッジ上の特定の位置において,プリンタ本体の受光手段に
対して,受光手段がインクタンクの存在を認識し判別するのに適した強度
の発光をする機能を有さなければならない。
また,本件発明1及び本件訂正発明1の権利範囲については,いわゆる
用途発明の特許が,当該用途に使用される場合に発明の実施になる関係と
同様に理解される。物の発明形式の用途発明において,用途の記載が,物
の構成を当該用途に適した内容に特定することによって,新規性・進歩性
に寄与することは,特許解釈の常識であり,サブコンビネーション形式の
発明においても,上記のとおり,組み合わせる装置の構成が必然的に特許
発明の構成を限定する。
したがって,プリンタ本体の構成を特定することは,同時にインクタン
クがその制御部及び情報保持部において備えるべき機能を特定するのであ
り,発明の特定として明確な意味を有している。
本件発明1及び本件訂正発明1は,このようなサブコンビネーションの
発明として,プリンタ側の要件を構成要件とした液体収納容器についての
発明であるから,当該構成要件を充足するプリンタに使用される製品であ
,(),。る以上被告製品2インクタンクは単体で本件特許権1を侵害する
イ交換用インクタンクは非侵害であるとの主張について
(ア)原告製プリンタにおいて,複数のインクタンクを同時に交換するこ
ともあり得ること
被告の主張は,被告製品2の交換用インクタンクは「必ず1本ずつ,
交換される」という,根拠のない主張に基づくものである。被告製品2
が「交換用」として販売されていることから,直ちに「1本ずつ交換,
される」ものであって「誤装着の可能性がない」とはいえない。,
例えば,ユーザーが原告製プリンタと同時に被告製品も1セット購入
し,初期装着時にまず被告製品から使用を開始することや,中古の原告
製プリンタを譲り受けたような場合,譲受け時にはインクタンクが装着
されておらず,譲受人が,被告製品を購入して全色同時に装着すること
もあるのであり,互換性インクタンクだからといって,必ず交換に使用
されるとは限らない。
また,後記のとおり,複数のインクタンクが同時に交換を必要とする
状態になることは,よく経験されることである。さらに,続けて大量の
印刷を行う場合には,途中でのインク切れを防ぐため,あらかじめ,残
存インク量の少ないインクタンクをまとめて交換しておく必要が高くな
る。
なお,原告製プリンタ操作ガイドに「一度に複数のインクタンクを,
外さず,必ず1つずつ交換してください」との記載があることが認めら
れるものの,同記載は,2本以上のインクタンクを「同時に(いっぺん
に」取り外すような操作をしてはならない,ということであって,1)
回のインクタンク交換の機会において複数本のインクタンクを交換して
はならない,という趣旨ではない。1回のインクタンク交換の機会にお
いて,複数のインクタンクについて,それぞれを「1本ずつ」取り外し
装着することは,上記操作ガイドの記載の範囲内の行為であり,複数の
インクタンクについて順次「1本ずつ」取り外して装着すれば,ある装
着位置に誤った種類のインクタンクを装着することもあり得る。
原告製プリンタでは,インクが「少なくなった状態「なくなった」,
可能性がある状態」及び「ない状態」の,3段階のインク切れの警告が
行われ「なくなった可能性がある状態」及び「ない状態」の警告時に,
印刷が停止するものの,どちらの場合も,リセットボタンを押せば,イ
ンクタンクを交換しなくても印刷を続行することが可能であり,印刷続
行が不可能となるわけではない「インクがなくなった可能性がある」。
と判断された場合であっても,若干のインクがタンク内に残っているこ
とが多く,そのような場合,リセットボタンを押してそのまま印刷を継
続すると,通常どおり印刷が可能である。
したがって,1本のインクタンクについて「インクがなくなった可,
」,,能性があると判断されそれを示すエラーランプが点滅した場合でも
リセットボタンを押して継続使用している間に,2本目,3本目のイン
クタンクについても「インクがなくなった可能性がある」と判断され,
エラーランプが更に点滅することもあるそして2本目3本目のイ。,,「
ンクがなくなった可能性がある状態」に対して,それぞれリセットボタ
ンを押して印刷を継続しているうちに,とうとういずれかがインク切れ
になってしまうこともあり得る。このような場合,ユーザーにとって,
インクの交換作業は面倒な作業であり「できるだけまとめて済ませて,
しまいたい」というのは当然の気持ちであるから「なくなった可能性,
がある状態」の複数本のインクタンクをまとめて交換することは,現実
に起こり得ることである。
さらに「なくなった可能性がある状態」の警告の前に「少なくな,,
った状態」の警告も行われることから,複数本まとめてインクタンクを
交換することは,より一層頻繁に生じる事態となる。例えば「なくな,
った可能性がある状態」の警告が1本目のインクタンクについて出され
た後に,リセットボタンを押してしばらく使用し続けている間に,2本
目,更に3本目のインクタンクについて「少なくなった状態」の警告,
が行われたような場合,又は,複数のインクタンクについて「少なくな
った状態」の警告が行われた状態で印刷を継続している間に,そのうち
1本について「なくなった可能性がある状態」の警告が行われたような
場合,である。
このような場合,大量のカラー印刷を同時にミスなく仕上げたいと考
えたユーザーが「少なくなった状態」及び「なくなった可能性がある,
状態」の警告の行われたインクタンクをすべて同時に交換することや,
インクタンクの交換作業はなるべく1度で済ませてしまいたいという心
理から「なくなった可能性がある状態」のインクタンクを交換するつ,
いでに「少なくなった状態」のインクタンクも同時に交換してしまう,
ことは,十分あり得ることである。このようなユーザーの行動は,別段
不合理ではない。
(イ)原告製プリンタにおいて光照合処理が行われる場合について
原告製プリンタにおいてインクタンクを1個だけ交換する場合,異な
る色のインクタンクを誤装着したとしても光照合処理が行われないこと
については,認める。このような場合は,バス接続により誤装着を防ぐ
ことができるため,光照合処理を行うまでもないものである。
本件発明は,バス接続だけでは解決できない問題を解決することを意
図した発明であり,本件発明の価値は,インクタンクの色の種類は正し
,。い組み合わせであるが装着位置を間違えた場合を検出することにある
そして,2個以上のインクタンクを交換する場合に,最も起こりやすい
のがこの誤装着であり,この意味の誤装着は,バス接続の簡易かつ安価
な構成を使用する利益を得ようとする限り,本件発明を適用しないと防
止することができない。
(ウ)交換用インクタンクは本件特許権1を侵害すること
以上のとおり,被告製品2について,本件発明1及び本件訂正発明1
は実施されるのであり,被告製品2が上記発明の構成要件を充足する以
上,同製品を輸入,販売する行為は,本件特許権1を侵害する。
ウ「液体収納容器からの光を受光する受光手段(構成要件1A3)及び」
「」液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段
(構成要件1A3)の解釈’
被告の主張は,何の合理的理由もなく,請求項の構成要件を実施例の態
様に限定するものであり,特許法の一般的な解釈に合致しない。実施例と
は,請求項の具体的な実施態様の例にすぎず,請求項の技術的範囲が実施
例によって限定されるものではない。
また,本件明細書には,ホルダに穴を空けて導光性部材を通す以外の方
法も開示されている(段落【0128】∼【0133,図35∼37。】)
これに対し,被告は,上記段落【0128】以下の構成はインクタンク
の底面側に発光部を設けていないから,底面側に発光部を設けているイン
クタンクにおける「発光部」と「受光部」の光の検出方法の実施形態とは
いえない,などと主張するが,失当である。上記段落【0128】以下の
インクタンクの構成(発光部を設ける位置)が被告製品2と同じかどうか
ということと,上記段落【0128】以下に数個の異なる構成が開示され
ており,本件発明をホルダに穴を空ける一実施例の構成に限定解釈する必
要などない,ということとは,まったく関係がない。
エ「複数の液体(インク)収納容器(構成要件1A1及び1A1)並」’
びに記録装置に対して着脱可能構成要件1A4及び1A5及び記「」()「
録装置の前記キャリッジに対して着脱可能(構成要件1A5’及び1A」
6)の解釈’
被告は,一つでも異なる形状のインクタンクがあれば,インクタンクの
形状を色ごとに異ならせることなく誤装着防止を実現するという,本件発
明の効果を奏することができないと主張する。
しかしながら,被告製品2には6通りもの色があり,これらは相互に異
なる装着位置に装着することが可能であって,誤装着を生ずる可能性があ
るものである。
したがって,被告製品1と被告製品2の形状が異なるからといって,本
件特許の作用効果を奏することができないというものではなく,被告の主
張は理由がない。
オ「液体インク収納容器位置検出手段(構成要件1A3’及び1A5)」’
の解釈
(ア)原告製プリンタにおける「位置検出手段」について
本件明細書の段落【0108】ないし【0113】及び図28ないし
30に説明された光照合処理の説明を理解すれば,構成要件1A5’の
「液体インク収納容器位置検出手段」とは,液体インク収納容器からの
光を受光し,その情報をプリンタ本体の制御回路で処理することによっ
て液体インク収納容器の位置を検出するものであることを,容易に理解
することができる。
このように「液体収納容器位置検出手段」とは,受光手段と組み合,
わせて機能するプリンタ本体の制御回路のことをいい,プリンタ本体の
受光部のみを指すものではない。
(イ)「液体インク収納容器の搭載位置を検出する(構成要件1A3’」
及び1A5)の意義’
本件明細書の段落【0010】には,本件発明の目的について「イ,
ンクタンクなど液体収納容器の搭載位置を特定した表示器の発光制御を
することを可能とすること,と説明され,段落【0019】には,発」
明の効果について「キャリッジに搭載された複数のインクタンクにつ,
いて,その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させるととも
に,上記処置の位置での発光を検出するようにすることにより,発光が
検出されないインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識で
きる。これにより,例えば,ユーザに対してインクタンクを正しい位置
に再装着することを促す処理をすることができ,結果として,インクタ
。」。ンクごとにその搭載位置を特定することができると説明されている
本件明細書の上記記載からすれば,構成要件1A3’及び1A5’の
「液体インク収納容器の搭載位置を検出する」とは「所定の位置での,
発光を検出するようにすることにより,発光が検出されないインクタン
クは誤った位置に搭載されていることを認識」する,という意味である
と理解され,誤った位置に搭載されたインクタンクがどの位置に搭載さ
れているかを確定させることまでは意味しないというべきである。
バス接続を使用するインクタンクの従来技術においては,あるインク
タンクが正しい位置に搭載されている事実の確認もできなかったし,別
のインクタンクの搭載位置が誤っていることも確認できなかったもので
ある。本件発明及び本件訂正発明は,このような搭載位置に関する検出
を可能にした新規な手段を本件明細書に記載した上で,当該手段の機能
を,請求項に「搭載位置を検出する」と記載したものである。
カ「制御(構成要件1E及び1E)の解釈」’
本件明細書の段落【0092】には,実施例として開示された構成にお
ける発光部のオン・オフについて,次の手順で行われることが記載されて
いる(なお,下線は原告が引いたものである。。)
「,,,LED101の点灯または消灯では図24に示すように上記と同様
先ず「開始コード+色情報」のデータ信号が,本体側から信号線DA,
。,TAを介して入出力制御回路103Aに送られてくる上述したように
色情報によってインクタンクが特定されその後に送られてくる制「」,「
御コード」に基づくLED101の点灯,消灯は特定されたインクタン
クのみで行われる。点灯,消灯にかかる「制御コード」は,図23にて
上述したように「ON」または「OFF」のコードがあり「ON」,,
によってLED101の点灯が行われ「OFF」によって消灯が行わ,
れる。すなわち,制御コードが「ON」のとき,入出力制御回路103
Aは,図22にて前述したように,LEDドライバ103Cに対してオ
ン信号を出力し,それ以降もその出力状態を維持する。逆に,制御コー
ドが「OFF」のとき,入出力制御回路103Aは,LEDドライバ1
,。03Cに対してオフ信号を出力しそれ以降もその出力状態を維持する
なお,LED101の点灯または消灯の実際のタイミングは,図24に
示す各データ信号についてクロックCLKの7クロック目以降に行われ
る」。
上記引用部分,とりわけ下線部の記述を読めば,発光部の制御は,イン
クタンクの入出力制御回路103A及びLEDドライバ103Cで行われ
ていることが理解される。
すなわち,プリンタ本体の制御回路から送られてくる「開始コード+色
情報」は,まず,インクタンクの入出力回路によって判断され,色情報が
自らのインクタンクの色に一致していると判断されると,入出力回路は,
引き続き送られてくる制御コードをLEDドライバに送り,その結果,制
御コードに従ったLEDの点灯・消灯が行われる。そして,本件明細書の
図20ないし22に示されているとおり,103は,液体収納容器(イン
クタンク)に設けられた制御素子であり,その内部には,上記入出力制御
回路及びLEDドライバが搭載されている。
また,以下のとおり,本件特許の発明思想からして,液体収納容器(イ
ンクタンク)に発光部の発光を制御する制御部を設けることは,必須の要
件である。
すなわち,本件特許の基本構成は,各インクタンクとプリンタ本体とを
バス配線で接続し,このバス配線で各インクタンクとプリンタ本体の間の
情報伝達及びエネルギー供給を行うというものであり,同構成では,プリ
ンタ本体からの命令がバス配線を通じて複数のインクタンクへ送信される
ため,何らかの工夫を行わないと,プリンタ本体が各インクタンクに対し
て個別に命令を下すことができない。そこで,そのための工夫として,プ
リンタ本体から各インクタンクへの命令について,その冒頭に色情報を付
加し,各インクタンクにおいて,上記色情報が自らのインクタンクのイン
クの色に一致しているか否かを判断し,一致している場合にのみ当該命令
に反応することとしたものである。これにより,バス配線を通じて同じ命
令がすべてのインクタンクへ送付されていても,特定のインクタンクにお
いてのみ当該命令が実行されることが可能となる。
以上のとおり,上記仕組みにおいては,各インクタンクごとに,色情報
を判断し,かつ,プリンタ本体からの命令を実行するための制御装置が必
須となるのであり,構成要件1E及び1E’の「発光部の発光を制御する
制御部」とは,上記制御装置にほかならない。
()争点2(間接侵害の成否)について2
[原告の主張]
次のとおり,被告製品2は,これを原告製プリンタに装着すると,本件発
明2及び本件訂正発明2の「液体供給システム」ないし「液体インク供給シ
ステム」を生成するものであり,インクタンクの誤った位置への装着を解消
するという,上記各発明の課題を解決するために不可欠なものである。
また,被告は,被告製品2を「CANON対応製品「キヤノン互換イ,」,
ンクカートリッジ」として販売しており,被告製品2が原告製プリンタに装
着されると上記各発明の実施に使用されることを理解した上で,被告製品2
を輸入,販売している。
したがって,被告製品2を輸入,販売する行為は,特許法101条2号に
より本件特許権2を侵害するものとみなされる。
ア原告製プリンタについて
前記1()及び3()[原告の主張]アのとおり,原告製プリンタは,複51
数の被告製品2を互いに異なる位置のタンクホルダに搭載して移動するキ
ャリッジ(構成要件2A1,2A1)を備え,タンクホルダには,被告’
製品2に設けられた基板と電気的に接続する接点(構成要件2A2,2A
2)が設けられている。’
また,原告製プリンタには,被告製品2からの光を受光する受光手段が
一つ設けられ,各インクタンクと接続するタンクホルダのコネクタが,タ
,,ンクホルダの裏側において共通の配線で接続され本件光照合処理により
各インクタンクの装着位置を確認することができる(構成要件2A3,2
A4,2A3,2A4。’’)
したがって,原告製プリンタは,構成要件2A1ないし2A4及び同2
A1’ないし2A4’を充足する。
イ被告製品2について
前記()[原告の主張]アないしカのとおり,被告製品2は,原告製プ1
リンタのキャリッジに着脱可能(構成要件2B,2B)であり,プリン’
タ側の接点と電気的に接続可能な接点(基板(構成要件2D1,2D1)
)を備え,基板に設けられたICチップに各インクタンクの色に応じた’
色情報を保持し(構成要件2D2,2D2,基板の上部には,上記受’)
光部に投光するための光を発光する発光部(構成要件2D3,2D3)’
が設けられており,原告製プリンタに装着すると,本件光照合処理が行わ
れる(構成要件2D4,2D4,2E,2F。’’’)
したがって,被告製品2は,構成要件2B,2D1ないし2D4,2B
,2D1’ないし2D4,2E’及び2F’を充足し,被告製品2を’’
,「」装着した原告製プリンタは構成要件2C及び2Eの液体供給システム
ないし同2C’及び2G’の「液体インク供給システム」に該当し,同構
成要件を充足する。
[被告の主張]
ア被告製品2を原告製プリンタに装着しても,本件発明2及び本件訂正発
明2の構成要件を充足しないこと
前記()[被告の主張]イ(イ)ないし(カ)と同様の理由により,交換用1
インクタンクは本件特許権2を侵害するものではなく,構成要件2A3及
’「()」び2A3の液体収納容器液体インク収納容器からの光を受光する
とは「インクタンクホルダに空けられた穴もしくは光透過性の部分を通,
じて光を通すことにより該液体収納容器からの光を受光する」と,構成要
件2B及び2Bの記録装置のキャリッジに対して着脱可能とはす’「」,「
べて同一形状の複数の液体収納容器(液体インク収納容器)が搭載可能な
記録装置に着脱可能」と,それぞれ限定して解釈すべきである。また,原
告製プリンタの受光部は,構成要件2A3及び2A3’の「液体収納容器
(液体インク収納容器)位置検出手段」に該当せず,同構成要件の「液体
収納容器(液体インク収納容器)の搭載位置を検出する」とは「各イン,
クタンクがキャリッジ上のどの位置に搭載されているかを検出する」とい
う意味に,構成要件2D4及び2D4’の「制御」とは「発光部の発光,
を,いつ,どのタイミングで,点灯,点滅,消灯のいずれの状態とするの
かについて,自身でコントロールし,また,発光部の点滅速度を自身で調
節し得る機構」を指すと,それぞれ解するのが相当である。
したがって,被告製品2を原告製プリンタに装着しても,本件発明2及
び本件訂正発明2の構成要件を充足しない。
イ原告製プリンタ及びこれに付属する原告製インクタンクがユーザーに譲
渡された時点で,本件特許権2は消尽していること
本件発明2及び本件訂正発明2は「液体供給システム(液体インク供,
給システム」についての発明であり,プリンタ及びインクタンクの両方)
を含むものである。また,前記のとおり,原告製プリンタは,原告製イン
クタンク1セットを同梱の上,販売されている。
,,したがって特許製品としての原告製プリンタ及び同梱インクタンクが
特許権者である原告により,我が国においていずれもユーザーに譲渡され
た時点で,本件特許権2は消尽し,原告は,当該特許製品であるプリンタ
及びインクタンクについて特許権を行使することはできないのが原則であ
る。
もっとも「特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工,
や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が
新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品に
ついて,特許権を行使することが許される(最高裁平成19年11月8」
日第一小法廷判決・民集61巻8号2989頁(以下「平成19年最高裁
判決」という)参照。しかしながら,本件における,当該特許製品の。)
属性(製品の機能,構造,材質,用途,耐用期間,使用態様,特許発明)
の内容,加工及び部材の交換の態様(加工等がされた際の当該特許製品の
状態,加工の内容及び程度,交換された部材の耐用期間,当該部材の特許
製品中における技術的機能及び経済的価値,取引の実情等を総合考慮す)
ると,以下のとおり「加工や部材の交換」によって「当該特許製品と同,
一性を欠く特許製品が新たに製造された」とは認められないというべきで
ある。
(ア)特許製品の属性
製品の機能については,液体供給システムの機能の大半を担うのが原
告製プリンタであることが,明らかである。
構造及び材質について,インクタンクは,プリンタの中のごく一部の
指定された箇所(キャリッジ)に着脱可能に搭載されるという構造とな
っており,材質的にも,プリンタとインクタンクとは同質ではない。
用途は,印刷であり,制御装置,パーソナルコンピュータとの接続,
印字ヘッド,用紙の収納部等を備えた原告製プリンタが,かかる用途の
ために必要な機能の大半を有している。
耐用期間は,原告製プリンタは,数年から10年程度という長期であ
る。一方,個々のインクタンクは,インク残量がなくなればその耐用期
間を終え,交換を余儀なくされるものであり,利用状況によるものの,
一般に,プリンタに比べて相当短い。
使用態様については,インク残量がなくなれば,なくなったインクタ
ンクごとに,新たなインクタンクに交換して使用するものであることが
前提であり,インクタンクは,当初から,交換が予定されている。
(イ)特許発明の内容
本件発明2及び本件訂正発明2の内容は,低コストでインクタンクの
誤装着を防ぐことを目的とした液体供給システムであり,プリンタとイ
ンクタンクから構成されている。そして,上記システムのうち,プリン
タを代替物として交換することは予定されていないのに対し,インクタ
ンクは,プリンタに対して着脱可能であることが明示されており,着脱
による代替が予定されている。
(ウ)部材の交換の態様
インクタンクの交換がされた際の当該特許製品の状態は,インクの残
量不足等に陥った特定のインクタンク部分のみが機能不全となっている
ものの,それ以外,特に,機能の大半を占めるプリンタ部分は,まった
く正常であり,液体供給システム全体としての完全性を維持しているの
が通常である。
,,,加工の内容及び程度についてインクタンクの交換は加工ではなく
インクの残量不足等に陥った特定のインクタンクのみを交換するという
程度であり,液体供給システム全体の完全性に影響を及ぼすものではな
い。
,,当該部材の特許製品中における技術的機能については前記のとおり
特許製品の印刷機能の大半を担うのは,プリンタ部分である。
経済的価値については,原告製プリンタの価格が1万8000円程度
であるのに対し(乙38,交換される被告製品2の価格は,1個当た)
り780円程度であり(甲5,20倍以上の開きがある。)
(エ)取引の実情
原告が原告製インクタンクを製造販売しているのに対し,被告は,原
告製プリンタにおいて稼動する互換品インクタンク(被告製品2等)を
製造販売しており,両者は,市場において競合する関係にある。
以上の(ア)ないし(エ)の考慮事由を総合的に検討すると,特許製品であ
る原告製プリンタ及び原告製インクタンクを購入したユーザーが,インク
タンクを被告製品2に交換することにより「同一性を欠く特許製品が新,
たに製造された」とはいえないというべきである。
ウ被告製品2は本件発明2及び本件訂正発明2の液体供給システム液,「(
体インク供給システム」の「生産に用いる物(特許法101条2号))」
に該当しないこと
特許法101条2号の「生産」とは,発明の構成要件のすべてを充足す
()「」,る物特許製品を新たに作り出すことをいうものと解すべきであり
「」,特許製品が新たに作り出されたかの判断及びその判断基準については
前記イの「同一性を欠く特許製品の新たな製造」の判断及びその判断基準
と共通性を有する。
したがって,前記イと同様の理由により,原告製プリンタに被告製品2
を装着することによって「特許製品が新たに作り出された」とはいえず,
特許法101条2号の「生産」には当たらないというべきである。
エ被告製品2は「日本国内において広く一般に流通しているもの(特,」
許法101条2号)に該当すること
「日本国内において広く一般に流通しているもの(特許法101条2」
号)とは,市場において広く取引され,たやすく入手することができるこ
とをいい,当該特許発明の実施に適しているが,それ以外の用途も有する
ものを意味するものと解される。
被告製品2は,市場において広く取引され,たやすく入手することがで
きる物である(乙22。また,被告製品2は,発光と受光という本件発)
明の特徴的機能を有しない,合計67機種のプリンタにおいても使用する
ことができるのであり,一方,発光と受光の機能を有している原告製プリ
ンタの数は,23機種にすぎない(乙29。)
したがって,被告製品2は,仮に,本件発明2及び本件訂正発明2の実
施に適しているとしても,それ以外の用途も有する汎用品であるといえる
から,特許法101条2号所定の「日本国内において広く一般に流通して
いるもの」に該当する。
オ被告製品2は,本件発明2及び本件訂正発明2の「課題の解決に不可欠
なもの(特許法101条2号)に該当しないこと」
「」(),発明による課題の解決に不可欠なもの特許法101条2号とは
当該対象物を用いることにより,初めて「発明の解決しようとしている課
題」を解決することができるもの,すなわち,従来技術の問題点を解決す
るための方法として,当該発明が新たに開示する,従来技術に見られない
特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成
分を直接もたらす,特徴的な部材,原料,道具等が,これに該当すると解
するのが相当である。
原告は,被告製品2が本件発明2の課題(インクタンクの誤った位置へ
の装着の解消等)を解決するために不可欠なものであると主張する。
しかしながら,原告製プリンタは,前記のとおり,誤って2個同色を装
着するという,原告製プリンタにおいてインクタンクの誤装着を生ずる唯
一の場合に,発光と受光による誤装着の検出を行わないものであり,そう
である以上,被告製品2は,本件発明2及び本件訂正発明2の特徴的技術
手段である,当該誤装着検出手段を直接形成するものには当たらないとい
うべきである。
したがって,被告製品2は,特許法101条2号所定の,本件発明2及
び本件訂正発明2の「課題の解決に不可欠なもの」に該当しない。
[被告の主張に対する原告の反論]
ア本件特許権2は消尽していないこと
本件発明2及び本件訂正発明2は,プリンタ本体とインクタンクの組合
せから構成されており,いずれも,発明における重要な技術事項を有して
いる。
また,価格については,プリンタ本体の主力機種がおおむね1万円台な
いし数万円程度となっているのに対し,インクタンク一式(全部の色を含
む)は数千円であり,プリンタ本体の通常の使用期間に対応するインクタ
,。ンクの価格を比較すればインクタンクの価格の方が高くなることもある
原告のプリンタシステムの技術において,プリンタ本体とインクタンク
の技術は,共に重要であり,プリンタ本体及びその消耗品(インクタンク
や印刷用紙等)へ多大な研究開発投資をし,それら製品の販売を通じて本
件事業への投資の回収を図っているのであるから,原告が両製品の売上げ
に依存することは,当然である。そして,需要者によるプリンタ本体当た
りのインクタンク使用量は必ずしも一定しないから,インクタンクは,需
要者が各自の必要に応じて購入する方式の方が合理的な販売方法である。
このような原告製品の性質上,たとえ,原告製プリンタを新規に購入し
た際に原告製インクタンク一式が添付されているとしても,原告製プリン
タの販売によって,原告が本件発明2及び本件訂正発明2の実施につき無
制限の実施権を付与する意思など有していなかったことは当然であり,需
要者にもそう認識される合理的な状況がある。
交換部材を使用する装置本体の販売において,特許権の消尽が成立する
のは,装置本体が高価であり,装置本体の価格によって発明の対価が回収
されたと合理的に認められる場合,すなわち,プリンタ本体の通常の寿命
の期間における本件発明の利用価値に相当する回収がされた場合であっ
て,かつ,交換部材が特許発明の実質的な構成要件を含まない場合に限ら
れる。
また,平成19年最高裁判決の一般的規準から判断しても,本件は消尽
論の適用されない場合である。すなわち,本件では,特許発明を構成する
プリンタ本体とインクタンクの組合せにおいて,インクタンク部分は,発
明の実施のための本質的な部分である,バス接続に対応する電気的接点,
情報保持部,発光制御機構及びプリンタ本体の受光手段に対して発光する
。,,発光部とを備えているまたバス接続に対応するインクタンクであって
色情報に基づいて作動する発光部と発光制御部を備えるインクタンクは,
被告引用のいずれの公知文献にも記載されておらず新規である。
このように,インクタンクが分担している本件発明2及び本件訂正発明
2の構成要件は,発明の本質的な要素であることが明らかであり,プリン
タ本体の使用者がインクタンクを購入してプリンタ本体に組み合わせる行
為が上記発明の実施に該当することは,平成19年最高裁判決の論理から
も,当然に認められる。
イ被告製品2は「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該,
当しないこと
被告製品2は,汎用的な用途のある普及品であるネジや釘と異なり,本
,,件発明の実施のために原告製プリンタにのみ適合するように設計された
原告製プリンタの専用品(他のメーカーのプリンタには使用することがで
きないし,プリンタ以外の製品にも使用することができない)であって,
特許法101条2号に該当する汎用品ではない。同号の趣旨からいって,
,,このような専用品はたとえ家電量販店で大量に販売されていたとしても
同号に該当する普及品とはみなされないというべきである。
ウ被告製品2は,本件発明2の「課題の解決に不可欠なもの」に該当する
こと
「,原告製プリンタにおいてインクタンクの誤装着を生ずる唯一の場合は
2個同色を装着する場合である」との被告の主張が誤りであり,原告製プ
リンタにおいても,複数のインクタンクを同時に交換することが十分にあ
り得ることについては,前記()[被告の主張に対する原告の反論]イの1
とおりである。
そして,原告製プリンタにおいて複数のインクタンクを同時に交換する
場合には,本件光照合処理が行われるのであり,被告製品2の構成は,本
件光照合処理に欠かせない要素である。
したがって,被告製品2は,本件発明2及び本件訂正発明2の「課題の
解決に不可欠なもの」に該当する。
()争点3−1(本件発明は,進歩性を欠くか)について3
[被告の主張]
本件発明1及び本件発明2は,以下のとおり,本件特許の最先の優先日前
の公知刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることが
,,できたものであり特許法29条2項に違反して特許されたものであるから
本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。
よって,特許法104条の3第1項により,原告は,被告に対し,本件特
許権の行使をすることができない。
【本件発明1について】
ア無効理由1
本件発明1は,本件特許の最先の優先日(平成15年12月26日)前
である平成14年5月23日に頒布された刊行物である,WO02/4
0275号国際公開公報(乙55。以下「乙55公報」という)に記載。
の発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができた
ものである。
(ア)乙55公報の記載
,,,,乙55公報には次のとおり本件発明1の構成要件1A11A2
1A4,1A5,1B,1C,1D,1E及び1Fに対応する記載が存
在する。
a構成要件1A1に対応する記載
乙55公報には印刷装置プリンタに複数の印刷記録材容器イ,()(
ンクカートリッジ)が搭載可能であることが開示されている(請求項
4,請求項16,1頁10行。)
b構成要件1A2に対応する記載
乙55公報には,複数のインクカートリッジに備えられる各記憶装
置のデータ信号端子DT,クロック信号端子CT及びリセット信号端
子RT(接点)が,プリンタに対する配線であるデータバスDB,ク
ロックバスCB及びリセットバスRBを介して,プリンタに存在する
(,端子と電気的に接続されることが開示されている18頁1行∼3行
同頁8行∼20行。)
c構成要件1A4に対応する記載
乙55公報には,プリンタに搭載される複数のインクカートリッジ
に備えられた各記憶装置のデータ信号端子DT,クロック信号端子C
T及びリセット信号端子RT(電気的接点)のそれぞれが,プリンタ
側の接点に対して,データバスDB,クロックバスCB及びリセット
バスRBの配線を介して共通に接続される構成(共通に電気的接続す
る配線を有した電気回路。いわゆるバス接続)が開示されている(上
記bの記載のほか,17頁19行∼26行。)
d構成要件1A5に対応する記載
乙55公報には,プリンタに対して着脱可能なインクカートリッジ
が開示されている(30頁24行∼25行,31頁5行∼7行,同頁
12行∼13行。)
e構成要件1Bに対応する記載
乙55公報には,上記bのとおり,プリンタ側と電気的に接続可能
なインクカートリッジに備えられた電気的接点が開示されている。
f構成要件1Cに対応する記載
乙55公報には,インクカートリッジが有する各記憶装置内に備え
られた,インクカートリッジの識別のための識別データ,インク残量
等(個体情報)を保持する情報保持部(メモリアレイ)が開示されて
(,,)。いる18頁1行∼3行20頁17行∼21行21頁1行∼3行
g構成要件1Dに対応する記載
乙55公報には,キャリッジ上に備えられたLED(発光部)が開
示されている(41頁17行∼22行。)
h構成要件1Eに対応する記載
乙55公報には,インクカートリッジ上の記憶装置が,メモリアレ
()(),()イ情報保持部の保有する識別データ個体情報と端子接点
から入力された識別データにかかる信号とに応じてプリンタに対して
応答し,プリンタの操作パネル上のランプを点滅させる機能を有して
(,,いることが開示されている20頁2行∼6行同頁17行∼19行
21頁13行∼24行,22頁3行∼6行,同頁9行∼13行,26
頁21行∼27頁10行,32頁25行∼33頁1行,43頁1行∼
3行。)
また,乙55公報には,プリンタ側の制御回路が,①メモリアレイ
に書き込まれたインクカートリッジの残量情報が所定のインク残量値
以下になっているかどうかを判定し,インクカートリッジの交換要求
をすること,②誤ったインクカートリッジが取り外されていないかど
うかを,前記識別データに対する応答という方法で判別し,誤った取
り外しの場合に,ランプを点滅させるなどの報知を行うこと,③交換
の要求された(交換の対象となる)インクカートリッジに対応するL
EDを点灯又は点滅させることが開示されている(20頁17行∼2
1頁3行,30頁26行∼31頁23行,同頁25行∼34頁3行,
同頁8行∼25行,41頁17行∼23行。)
なお,上記①の判定は,プリンタに備えられた「制御回路30」に
よって行われるものであり,同判定を行う機能がインクカートリッジ
側の記憶装置に備えられているわけではないが,同機能は,インクカ
ートリッジ上の記憶装置でもなし得ることであって,かかる機能をイ
ンクカートリッジ上の記憶装置に備えるか又はプリンタ側の制御回路
に備えるかは,設計事項にすぎない。
以上のとおり,乙55公報には,端子から入力された所定のインク
残量値に係る信号と,メモリアレイの保持するインク残量情報とに応
じてプリンタに対して応答し,インクカートリッジに対応するLED
を点灯又は点滅させることまでが,強く示唆されている。
(イ)乙55公報記載の発明
乙55公報に上記(ア)の記載が存在することから,同公報には,次の
構成(以下「構成1a1」などという)からなる液体収納容器に関す。
る発明(以下「乙55発明1」という)が記載されている。。
1a1複数のインクカートリッジが搭載可能であって,
1a2該インクカートリッジに備えられる端子と電気的に接続された
プリンタ側端子と,
1a4搭載されるインクカートリッジそれぞれの前記端子と接続する
前記プリンタ側端子に対して共通に電気的接続する配線(データ
バスDB,クロックバスCB,リセットバスRB)を有した電気
回路とを有するプリンタに対して
1a5着脱可能なインクカートリッジにおいて,
1b前記プリンタ側端子と電気的に接続可能な前記端子と,
1c少なくともインクカートリッジの識別データ,インク残量等の
情報を保持可能なメモリアレイと,
1dキャリッジに備えられたLEDと,
1e前記端子から入力される識別データに係る信号と,前記メモリ
アレイの保持する識別データとに応じてプリンタに対して応答し
プリンタの操作パネル上のランプを点滅させ,また,前記端子か
ら入力された所定のインク残量値に係る信号と,メモリアレイの
保持するインク残量情報とに応じてプリンタに対して応答し,イ
ンクカートリッジに対応するLEDを点灯又は点滅させる記憶装
置と,
1fを有することを特徴とする液体収納容器。
(ウ)本件発明1と乙55発明1の一致点
a構成要件1Aないし1C及び1Fについて
乙55発明1の構成と本件発明1の構成要件とを対比すると,構成
1a1が構成要件1A1に,構成1a5が構成要件1A5に,構成1
fが構成要件1Fに,それぞれ相当することは明らかである。
また,構成1a2及び同1bにおける「端子」が,電気的な接続点
という意味で,構成要件1A2及び同1Bにおける「接点」に対応す
ること,構成1a4における「データバスDB,クロックバスCB,
リセットバスRB」が構成要件1A4における「共通に電気的接続す
る配線」に対応すること,構成1cにおける「インクカートリッジの
識別データ,インク残量等の情報」が構成要件1Cの「個体情報」に
対応することは,いずれも明らかであるから,構成1a2が構成要件
1A2に,構成1bが構成要件1Bに,構成1a4が構成要件1A4
に,構成1cが構成要件1Cに,それぞれ相当する。
b構成要件1Dについて
構成1dは,発光部(LED)が液体収納容器(インクカートリッ
ジ)側ではなくプリンタ側のキャリッジにある点が,構成要件1Dと
異なる。
しかしながら,発光部を個々の液体収納容器に設けるか又は記録装
置側に設けるかということは,単なる設計上の違いにすぎず,実質的
な相違点ではない。キャリッジに設けた発光部(LED)が報知手段
の1例にすぎないことは,乙55公報に「なお,LED18は,キ,
ャリッジ101上ではなく,インク交換位置19の開口部に備えられ
ていても良い。また,LEDに限らず白熱灯を始めとする種々のライ
トが用いられることはいうまでもない。以上,いくつかの実施例に基
づき本発明に係る印刷記録材容器(インクカートリッジ)の識別装置
を説明してきたが,上記した発明の実施の形態は,本発明の理解を容
易にするためのものであり,本発明を限定するものではない。本発明
は,その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく,変更,改良
され得ると共に,本発明にはその等価物が含まれることはもちろんで
ある」と記載されている(42頁2行∼10行)ことからも,容易。
に理解することができる。
また,仮に,この点が相違点であるとしても,後記のとおり,イン
クカートリッジに発光部を設けることは,本件特許の最先の優先日当
時における周知慣用技術であったものであるから,乙55発明1の構
成1dにおける発光部をインクカートリッジに設けることは,極めて
容易であった。
c構成要件1Eについて
構成1eは,構成要件1Eに対応するものである。なお,乙55発
明1では,応答の結果として発光される「発光部」がキャリッジ上に
ある点が構成要件1Eと異なるが,この点が実質的な相違点でないこ
とについては,上記bのとおりである。
(エ)本件発明1と乙55発明1が相違する可能性のある点
乙55発明1の構成と本件発明1の構成要件が相違する可能性がある
点は,①乙55発明1には,構成要件1A3(液体収納容器からの光
を受光する受光手段)に相当する構成が存在しないこと(以下「相違点
1−1」という,②乙55発明1では,液体収納容器に発光部が。)
備えられている(構成要件1D)のではなく,プリンタ側のキャリッジ
に備えられていること(以下「相違点1−2」という,である。。)
しかしながら,上記相違点は,次のとおり,実質的な相違点とはいえ
ないもの又は乙55発明1に周知技術を組み合わせることにより当業者
が容易に発明をすることができたものであり,この点について進歩性が
肯定されるものではない。
<相違点1−1について>
a構成要件1A3は,記録装置についての要件であるにすぎず,液体
収納容器についての要件ではない。したがって,同構成要件は,液体
収納容器についての発明である本件発明1において,何ら発明を特定
する要素とはならず,相違点1−1は,本件発明1の進歩性を検討す
る上で無視されるべき事項である。
また,本件明細書は,本件発明の目的について次のように記載して
おり,受光手段による発光部からの光の検出は本件発明の目的ではな
いこと,すなわち,受光手段による発光部からの光の検出は,本件発
明の結果にすぎず,本件発明の技術的思想には含まれないことが明ら
かにされている。
「本発明はこのような問題を解消するためになされたものであり,そ
の目的とするところは,複数のインクタンクの搭載位置に対して共
通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い,この場
合でもインクタンクなど液体収納容器の搭載位置を特定した表示器
の発光制御をすることを可能とすることにある(6頁5行∼9。」
行段落【0010)】
b仮に,乙55発明1において構成要件1A3に相当する構成を欠く
ことが相違点であるとしても,次のとおり,記録装置に液体収納容器
からの光を受光する受光手段を設けることは,本件特許の最先の優先
日当時において周知慣用技術であったものであり,同技術を乙55発
明1に適用することは,当業者にとって容易であった。
(a)平成13年10月23日に頒布された刊行物である,特開20
01−293883号公報(乙2。以下「乙2公報」という)に。
は,インクジェット記録装置からインクタンク内の素子に光を発信
し,外部B(インクジェット記録装置)で受信することにより素子
の位置を検出する受光手段を設けることが開示されている(請求項
21,5頁7欄35行∼36行,8頁13欄27行∼32行,同頁
14欄2行∼6行,同欄10行∼14行。)
(b)平成11年10月19日に頒布された刊行物である,特開平1
1−286121号公報(乙33。以下「乙33公報」という)。
,,にはインクジェットプリンタ装置に備えられたプリントヘッドと
インクタンクとが,それぞれ光信号を授受するフォトダイオードセ
ットを備え,インクタンクの種類番号や色信号等の情報を光信号の
(,形で互いに授受することが開示されている4頁5欄9行∼15行
8頁13欄47行∼14欄6行,同欄12行∼14行,同欄24行
∼30行。)
(c)平成14年1月9日に頒布された刊行物である特開2002−
5818号公報(乙18。以下「乙18公報」という)には,イ。
ンクジェット記録装置に,インクタンク内の立体形半導体素子の発
光手段からの光を受光する受光手段を備えることが開示されている
(請求項7,4頁5欄2行∼7行,5頁7欄1行∼4行,7頁11
欄22行∼33行。)
(d)平成15年12月3日に頒布された刊行物である,特開200
3−341085号公報(乙34。以下「乙34公報」という)。
には,インク吐出方式の画像形成装置(インクジェット記録装置)
において,装置本体に発光素子と受光素子を設け,インクカートリ
ッジには反射部材を設け,発光素子から出力されインクカートリッ
ジの反射部材で反射された光を受光素子が受光する構成が開示され
ている(3頁4欄7行∼22行,6頁9欄33行∼39行。)
(e)平成10年4月28日に頒布された刊行物である,特開平10
−112598号公報(乙42。以下「乙42公報」という)に。
は,回路部品供給システム本体側に対して複数装着可能なフィーダ
(部品供給装置)に設けられた発光素子から発せられる光を,本体
側に設けられた受光素子が受光する構成を有し,受光結果をもとに
複数のフィーダの保持位置を示すテーブルを作成して比較対照する
ことによりフィーダの誤装着を防止することが開示されている請,(
求項1,11頁19欄45行∼20欄1行,同欄9行∼22行,1
4頁25欄15行∼21行,同頁26欄38行∼45行,18頁3
4欄40行∼48行,20頁37欄32行∼38欄46行,22頁
41欄26行∼32行。)
<相違点1−2について>
,,次のとおりプリンタにおいて液体収納容器に発光部を設けることは
本件特許の最先の優先日当時において周知慣用技術であったものであ
り,同技術を乙55発明1に適用することは,当業者にとって容易であ
った。
a乙18公報には,前記<相違点1−1について>b(c)の記載があ
り,インクタンクが立体形半導体素子の発光部を備えていることが開
示されている。
b平成4年9月30日に頒布された刊行物である,特開平4−275
156号公報(乙4。以下「乙4公報」という)には,インクタン。
クにLED(発光部)を設けることが開示されている(3頁3欄22
行∼25行,同頁4欄31行∼42行。)
c平成14年10月15日に頒布された刊行物である,特開2002
−301829号公報(乙3。以下「乙3公報」という)には,イ。
ンクタンクにインク残量警告ランプ14を設けることが開示されてい
る(3頁4欄33行∼38行,同欄50行∼4頁5欄10行。)
d平成12年11月28日に頒布された刊行物である,特開2000
(。「」。),−326604号公報乙35以下乙35公報というには
インクカートリッジにLEDの表示器8を設けることが開示されてい
(,,)。る3頁3欄39行∼43行6頁10欄16行∼18行図15
イ無効理由2
本件発明1は,乙18公報記載の発明及び周知技術等に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものである。
(ア)乙18公報の記載
乙18公報には,次のとおり,本件発明1の構成要件に対応する記載
が存在する。
a構成要件1A1に対応する記載
乙18公報には,インクジェット記録装置に複数のインクタンクが
搭載可能であることが開示されている(請求項7∼9。)
b構成要件1A2に対応する記載
乙18公報には,以下の①ないし⑤の記載が存在する。
①「外部からのエネルギーを異なる種類のエネルギーに変換するエネ
ルギー変換手段と,該エネルギー変換手段で変換されたエネルギー
により発光する発光手段とを有する立体形半導体素子(請求項。」
1)
②「前記エネルギー変換手段が変換する外部エネルギーは非接触で供
給される,請求項1から3のいずれか1項に記載の立体形半導体素
子(請求項4)。」
③「該インクタンク内に配された立体形半導体素子へ外部エネルギー
である起電力を供給する手段622(5頁7欄1行∼3行)」
④「外部エネルギーの供給方法としては,インクジェット記録装置に
用いられる場合,素子に外部エネルギーとして起電力を供給する手
,,,,段は回復ポジションリターンポジションもしくはキャリッジ
記録ヘッド等に設ければ良い(4頁6欄9行∼13行)。」
⑤「課題の一つは,タンク内に収容された素子を起動させるための電
力の供給である。素子の起動のための電源をインクタンクに持たせ
るとタンクが大型になったり,タンク外部に電源を備える場合でも
」()電源と素子との接続手段が必要になり3頁3欄25行∼29行
すなわち,上記①において「立体形半導体素子」における「エネ,
ルギー変換手段」に対し,外部からエネルギーが供給されることが記
載されている。
また,上記②において,上記①を引用して,上記「エネルギー変換
手段」が変換する外部エネルギーが非接触により供給される場合が特
に記載されているから,②の上位クレームである①にかかる「立体形
半導体素子」は,外部エネルギーが非接触により供給される場合のみ
ならず,外部エネルギーが接触により供給される場合を含んでいるこ
とが明らかである。
そして,供給される外部エネルギーについては,上記③及び④にお
いて起電力であることが記載されているから,外部エネルギーが接触
により供給される場合の典型例として,電気的エネルギーがあること
は明らかである。
さらに,上記⑤において,タンク外部に電源が備えられていること
などを考慮すると,外部エネルギーとして電気的エネルギーが開示さ
れているといえる。
また,立体形半導体素子はインクタンク内にあること(上記③)及
び外部エネルギーとしての起電力を供給する手段をインクジェット記
録装置側に設けること(上記④)が記載されており,上記⑤の記載か
ら,接触により起電力を供給する場合には,電源(インクジェット記
録装置側)と素子(インクタンク側)との電気的な接続手段が必要と
なることが,前提として記載されている。
以上のとおり,乙18公報には,インクジェット記録装置が,イン
クタンクに備えられる接続手段(接点)と電気的に接続して,インク
タンクに起電力を供給する接続手段(接点)を備えていることが開示
されている。
c構成要件1A3に対応する記載
乙18公報には,前記ア(エ)<相違点1−1について>b(c)のと
おり,インクジェット記録装置にインクタンク内の立体形半導体素子
の発光手段からの光を受光する受光手段を備えることが開示されてい
る(請求項7,4頁5欄2行∼7行,5頁7欄1行∼4行,7頁11
欄22行∼33行。)
d構成要件1A5に対応する記載
乙18公報には,インクタンクがインクジェット記録装置に対して
着脱可能であることが開示されている(2頁1欄47行∼50行。)
e構成要件1Bに対応する記載
乙18公報には,前記bのとおり,インクタンクがインクジェット
記録装置側の接続手段と電気的に接続する接続手段を備えていること
が開示されている。
f構成要件1Cに対応する記載
乙18公報には,インクタンク内の立体形半導体素子が,インクタ
ンク内のインクのpH,タンク内の圧力変化,インク残量,インク有
無等のタンク内情報を入手する情報入手手段を備えることが,開示さ
れている(5頁8欄11行∼25行。)
そして,情報を入手する以上,入手した情報を少なくとも一時的に
保持することは当然であるから,かかる入手したタンク内情報を保持
する情報保持部が,実質的に開示されている。
g構成要件1Dに対応する記載
乙18公報には,前記cのとおり,インクタンクが発光手段を備え
ていることが開示されている。
(イ)乙18公報記載の発明
乙18公報に上記(ア)の記載が存在することから,同公報には,次の
構成(以下「構成1(a)1」などという)からなる液体収納容器に関。
する発明(以下「乙18発明1」という)が記載されている。。
1(a)1複数のインクタンクが搭載可能であって,
1(a)2該インクタンクに備えられる接続手段と電気的に接続してイ
ンクタンクに起電力を供給する接続手段と,
1(a)3インクタンクからの光を受光する受光手段とを有するインク
ジェット記録装置に対して,
1(a)5着脱可能なインクタンクにおいて,
1(b)前記インクジェット記録装置側接続手段と電気的に接続する
前記接続手段と,
1(c)少なくとも情報入手手段が入手したインクタンクのインクの
pH,タンク内の圧力変化,インク残量,インク有無等のタンク
内情報を保持する情報保持部と,
1(d)発光手段と,
1(f)を有することを特徴とするインクタンク。
(ウ)本件発明1と乙18発明1の一致点
乙18発明1の構成と本件発明1の構成要件とを対比すると,構成1
(a)1が構成要件1A1に,構成1(a)2が構成要件1A2に,構成1
(a)3が構成要件1A3に,構成1(a)5が構成要件1A5に,構成1
(b)が構成要件1Bに,構成1(d)が構成要件1Dに,構成1(f)が構
成要件1Fに,それぞれ相当することは明らかである。
また,構成1(c)の「インクタンクのインクのpH,タンク内の圧力
変化,インク残量,インク有無等のタンク内情報」は,各インクタンク
が個別に有する情報,すなわち「個体情報」といってよいから,同構成
,。,,「」は構成要件1Cに相当するなお乙18公報には情報入手手段
が明示されているだけで「情報保持部」という明示の記載はないが,,
この点が実質的な相違点とならないことについては,前記(ア)fのとお
りである。そして,仮に,この点が相違点となるとしても,後記のとお
,,りインクタンクに情報保持部を設けることは周知技術であることから
乙18発明1において情報保持部を設けることは,極めて容易である。
(エ)本件発明1と乙18発明1が相違する可能性のある点
乙18発明1の構成と本件発明1の構成要件が相違する可能性のある
点は,①乙18発明1には,構成要件1A4(搭載される液体収納容
器それぞれの前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通に電気的
接続する配線を有した電気回路)に相当する構成(上記電気回路を,以
下「バス接続回路」という)が存在しないこと(以下「相違点()−。1
1」という,②乙18発明1には,構成要件1C(少なくとも液。)
体収納容器の個体情報を保持可能な情報保持部)に相当する構成が存在
(「」。),,しないこと以下相違点()−2という③乙18発明1には1
構成要件1E(前記接点から入力される個体情報に係る信号と,前記情
報保持部の保持する個体情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制
御部)に相当する構成が存在しないこと(以下「相違点()−3」とい1
う,である。。)
(オ)本件発明1の容易想到性
a相違点()−1について1
記録装置側にバス接続回路を設けることは,次のとおり,本件特許
の最先の優先日当時において周知慣用技術であったものであり,同技
術を乙18発明1に適用することは,当業者にとって容易であった。
(a)乙55公報には,前記ア(ア)cのとおり,プリンタ側にバス接
続回路を設ける構成が開示されている。
(b)平成14年12月24日に頒布された刊行物である,特開20
02−370378号公報(乙1。以下「乙1公報」という)に。
は,インクジェットプリンタ側にバス接続回路を設ける構成が開示
されている(6頁10欄17行∼23行,7頁11欄23行∼25
行,同欄49行∼12欄2行。)
(c)平成14年1月18日に頒布された刊行物である,特開200
2−14870号公報(乙37。以下「乙37公報」という)に。
も,インクジェットプリンタ側にバス接続回路を設ける構成が開示
(,,されている5頁7欄22行∼25行9頁16欄39行∼40行
同欄43行∼10頁17欄4行,同欄12行∼16行。)
b相違点()−2について1
インクタンクに少なくともインクタンクの個体情報を保持可能な情
報保持部を設けることは,次のとおり,本件特許の最先の優先日当時
において周知慣用技術であったものであり,同技術を乙18発明1に
適用することは,当業者にとって容易であった。
(a)乙2公報には,インクタンクに,情報入手手段より入手したタ
ンク内部情報やタンク内部情報と比較する諸条件といった,各イン
クタンクの個別情報を蓄積する「情報蓄積手段」を設ける構成が開
示されている(6頁10欄6行∼14行,同欄24行∼26行,同
欄37行∼45行,同欄49行∼7頁11欄2行。)
(b)平成14年1月9日に頒布された刊行物である,特開2002
−5724号公報(乙17。以下「乙17公報」という)には,。
インクタンクに,情報入手手段より入手したタンク内部情報やタン
ク内部情報と比較する諸条件といった,各インクタンクの個別情報
を蓄積する「情報蓄積手段」を設ける構成が開示されている(5頁
,,,8欄8行∼11行同欄24行∼28行6頁9欄17行∼23行
同欄27行∼39行,同欄44行∼10欄3行。)
(c)乙55公報には,前記ア(ア)fの記載があり,インクカートリ
ッジの有する記憶装置内にインクカートリッジの個体情報を保持す
るメモリアレイを有する構成が開示されている。
(d)乙1公報には,インクカートリッジの有する記憶装置内に備え
られた,個々のインクカートリッジのインク色を識別するための識
別情報(個体情報)を保持する記憶素子(メモリアレイ)が開示さ
れている(7頁11欄23行∼38行。)
c相違点()−3について1
液体収納容器に「接点から入力される個体情報に係る信号と,情報
保持部の保持する個体情報とに応じて発光部の発光を制御する制御
部」を設けることは,次のとおり,本件特許の最先の優先日当時にお
いて周知慣用技術であったものであり,同技術を乙18発明1に適用
することは,当業者にとって容易であった。
(a)乙2公報には,インクタンク内の立体形半導体素子において,
入手したインクタンク内の情報と「情報蓄積手段」から読み出さ,
れた情報とを比較し,光等による情報伝達の必要性を判断する「判
」(,断手段を備えることが記載されている6頁10欄6行∼14行
同欄24行∼26行,同欄30行∼31行,同欄37行∼45行,
同欄49行∼7頁11欄2行,同欄5行∼17行。)
,,(b)乙17公報にはインクタンク内の立体形半導体素子において
入手したインクタンク内の情報と「情報蓄積手段」を設ける構成,
が開示から読み出された情報とを比較し,光等による情報伝達の必
要性を判断する「判断手段」が記載されている(5頁8欄8行∼1
1行,同欄24行∼28行,6頁9欄17行∼23行,同欄27行
∼39行,同欄44行∼10欄3行,同欄36行∼38行,7頁1
1欄13行∼27行。)
(c)乙55公報には,前記ア(ア)fのとおり,インクカートリッジ
上の記憶装置が,自ら保有する識別データ(個々のインクカートリ
ッジ個体を識別するための個体情報)と,インクジェットプリンタ
からプリンタとの接点を通じて送信された識別データを比較し,一
致した場合に応答する機能を有し,応答の有無に応じてインクジェ
ットプリンタ上のランプを発光させることが記載されており,上記
識別データの一致を判断する記憶装置が,インクジェットプリンタ
との接点から入力される個体情報にかかる信号と記憶装置の有する
個体情報に応じて発光を制御する役割を有していることが,実質的
に開示されている。
(d)乙1公報には,各インクタンクに備えられている記憶素子に格
納されている識別情報(インク色を識別するための情報)と,イン
クジェットプリンタ側からインクジェットプリンタとの接点を通じ
て送信される識別情報とを比較し,一致した場合にプリンタに対し
応答する機能を有する記憶装置,及び,かかる応答の有無により各
インクカートリッジに対応した表示ランプを点滅させることが記載
されており,上記識別情報の一致を判断する記憶装置が,インクジ
ェットプリンタとの接点から入力される個体情報にかかる信号と記
憶装置の有する個体情報に応じて,発光を制御する役割を有してい
ることが,実質的に開示されている(7頁11欄14行∼17行,
同欄35行∼43行,8頁14欄30行∼47行,10頁17欄2
行∼6行。)
ウ無効理由3
本件発明1は,乙33公報記載の発明及び周知技術等に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものである。
(ア)乙33公報の記載
乙33公報には,次のとおり,本件発明1の構成要件に対応する記載
が存在する。
a構成要件1A1に対応する記載
乙33公報には,インクジェット記録装置に複数のインクタンクが
(,搭載可能であることが開示されている11頁20欄21行∼24行
13頁24欄16行∼23行。)
b構成要件1A2に対応する記載
乙33公報には,インクジェットプリントヘッドの電気接点部分と
インクタンクの電気接点部分とが,インクタンクをインクジェットプ
リントヘッドに装着することにより電気的に接合されること,及び,
インクジェットプリントヘッドはインクジェットプリンタ装置本体の
キャリッジに固着されて,着脱を前提としない構成が開示されている
(,)。6頁9欄46行∼48行9頁16欄35行∼10頁17欄4行
c構成要件1A3に対応する記載
前記ア(エ)<相違点1−1について>b(b)のとおり,乙33公報
には,インクジェットプリント装置に備えられたプリントヘッドと,
インクタンクとが,それぞれ光信号を授受するフォトダイオードセッ
トを備え,インクタンクの種類番号,インクタンクの色信号等の情報
を,光信号の形で互いに授受することが開示されている。
d構成要件1A5に対応する記載
乙33公報には,インクタンクがインクジェットプリント装置に対
()。して着脱可能である構成が開示されている4頁5欄9行∼10行
e構成要件1Bに対応する記載
乙33公報には,前記bのとおり,インクタンクがインクジェット
プリント装置側の電気的接点と電気的に接合可能な接点を備えている
ことが開示されている。
f構成要件1Cに対応する記載
乙33公報には,インクタンクに,インクタンクの種類その他の情
報個体情報を保持するメモリ部を備えることが開示されている1()(
2頁22欄28行∼32行,7頁12欄35行∼48行,8頁13欄
47行∼49行。)
g構成要件1Dに対応する記載
乙33公報には,前記cのとおり,インクタンクが光信号を授受す
るフォトダイオードセットを備えていることが開示されている。
(イ)乙33公報記載の発明
乙33公報に上記(ア)の記載が存在することから,同公報には,次の
構成(以下「構成1[]1」などという)からなる液体収納容器に関すa。
る発明(以下「乙33発明1」という)が記載されている。。
1[]1複数のインクタンクが搭載可能であって,a
1[]2該インクタンクに備えられる接点と電気的に接合可能なインa
クジェットプリンタ装置側接点と,
1[]3光信号を授受するフォトダイオードセットとを有するインクa
ジェットプリント装置に対して,
1[]5着脱可能なインクタンクにおいて,a
1[]前記インクジェットプリント装置側の電気的接点と電気的にb
接合可能な接点と,
1[]少なくともインクタンクにインクタンクの種類その他の情報c
を保持するメモリ部と,
1[]光信号を授受するフォトダイオードセットと,d
1[]を有することを特徴とするインクタンク。f
(ウ)本件発明1と乙33発明1の一致点
乙33発明1の構成と本件発明1の構成要件とを対比すると,構成1
[]1が構成要件1A1に構成1[]2が構成要件1A2に構成1[]aaa,,
3が構成要件1A3に,構成1[]5が構成要件1A5に,構成1[]がab
構成要件1Bに,構成1[]が構成要件1Cに,構成1[]が構成要件1cd
Dに,構成1[]が構成要件1Fに,それぞれ相当することは明らかでf
ある。
(エ)本件発明1と乙33発明1が相違する可能性のある点及び本件発明
1の容易想到性
乙33発明1の構成と本件発明1の構成要件が相違する可能性のある
点は,①乙33発明1には,構成要件1A4に相当する構成(バス接
続回路)が存在しないこと(以下「相違点[]−1」という,②乙1。)
33発明1には,構成要件1E(前記接点から入力される個体情報に係
る信号と,前記情報保持部の保持する個体情報とに応じて前記発光部の
発光を制御する制御部)に相当する記載が存在しないこと(以下「相違
点[]−2」という,である。1。)
しかしながら,上記相違点が本件特許の最先の優先日当時においてい
ずれも周知慣用技術であったことについては,前記イ(オ)a及びcのと
おりであり,上記技術を乙33発明1に適用することは,当業者にとっ
て容易であった。
【本件発明2について】
ア無効理由1
本件発明2は,乙55公報記載の発明及び乙18公報記載の発明に基づ
いて,又は,乙55公報記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものである。
(ア)乙55公報の記載
乙55公報には,次のとおり,本件発明2の構成要件に対応する記載
が存在する。
a構成要件2A1に対応する記載
乙55公報には,プリンタに複数の印刷記録材容器(インクカート
リッジ)が既定の装着位置にそれぞれ装着可能であることが開示され
ている(請求項4,請求項16,1頁10行。)
b構成要件2A2に対応する記載
構成要件2A2は,構成要件1A2と同一である。乙55公報に構
(,,成要件1A2に対応する記載18頁1行∼3行同頁8行∼20行
43頁1行∼4行)があることについては,前記【本件発明1につい
て】ア(ア)bのとおりである。
c構成要件2A4に対応する記載
構成要件2A4は,構成要件1A4に「個体情報に係る信号を発,
生するためのが付け加わっただけである上記付加部分は後記()」。,5
のとおり不明確な記載であり,その技術的意義が不明であるから,進
歩性の検討をするために先行技術と対比するに当たっては無視するこ
ととする。
したがって,構成要件2A4は,構成要件1A4と実質的に異なら
ず,同構成要件に対応する記載(17頁19行∼26行,18頁1行
∼3行,同頁8行∼20行,43頁1行∼4行)が乙55公報に存在
することについては,前記【本件発明1について】ア(ア)cのとおり
である。
d構成要件2B及び2Cに対応する記載
乙55公報には,インクカートリッジが記録装置のキャリッジに対
して着脱可能であることが開示されている(請求項27,16頁21
,,,)。行30頁24行∼25行31頁5行∼7行同頁12行∼13行
また,乙55公報には,プリンタとインクカートリッジとが共に機能
する構成が開示されており,プリンタとインクカートリッジとを備え
るインク供給システム(液体供給システム)が開示されている。
e構成要件2D1に対応する記載
構成要件2D1は,構成要件1Bと同一である。構成要件1Bに対
応する記載(18頁1行∼3行,同頁8行∼20行,43頁1行∼4
行)が乙55公報に存在することについては,前記【本件発明1につ
いて】ア(ア)eのとおりである。
f構成要件2D2に対応する記載
構成要件2D2と構成要件1Cは,前者が個体情報を「保持する」
と記載しているのに対し,後者は「保持可能」と記載している点が異
なるだけである。かかる構成に対応する記載(18頁1行∼3行,2
0頁17行∼21行,21頁1行∼3行)が乙55公報に存在するこ
,【】。とについては前記本件発明1についてア(ア)fのとおりである
g構成要件2D4に対応する記載
乙55公報には,前記【本件発明1について】ア(ア)hのとおり,
インクカートリッジ上の記憶装置が,メモリアレイ(情報保持部)の
保有する識別データ(個体情報)と,端子(接点)から入力された識
別データに係る信号を比較し,一致した場合に応答する機能を有して
おり,応答のない場合には,プリンタは操作パネル上のランプを点滅
させることが記載されている(20頁2行∼6行,同頁17行∼19
行,21頁13行∼24行,22頁3行∼6行,同頁9行∼13行,
26頁21行∼27頁10行,32頁25行∼33頁1行,43頁1
行∼3行。なお,構成要件2D4では「一致した」場合に発光させ)
るのに対し,乙55公報では「一致しない」場合に発光させるという
記載となっている点は,単に発光と消灯を逆に指示しているというも
のにすぎず「一致した」場合に発光させることを実質的に開示して,
いるに等しい。
(イ)乙55公報記載の発明
乙55公報に上記(ア)の記載が存在することから,同公報には,次の
構成(以下「構成2a1」などという)からなるインク供給システム。
に関する発明(以下「乙55発明2」という)が記載されている。
2a1複数のインクカートリッジが既定の装着位置にそれぞれ装着可
能であって,
2a2該インクカートリッジに備えられる端子と電気的に接続された
プリンタ側端子と,
2a4搭載されるインクカートリッジそれぞれの前記端子と接続する
前記プリンタ側端子に対して共通に電気的接続する配線(データ
バスDB,クロックバスCB,リセットバスRB)を有した電気
回路とを有するプリンタと,
2b前記プリンタのキャリッジに対して着脱可能なインクカートリ
ッジと,
2cを備えるインク供給システムにおいて,
2d1前記インクカートリッジは,前記プリンタ側端子と電気的に接
続可能な前記端子と,
2d2少なくともインクカートリッジの識別データ,インク残量等の
情報を保持するメモリアレイと,
2d3プリンタ側のキャリッジに備えられたLEDと,
2d4前記端子から入力される識別データに係る信号と,前記メモリ
アレイの保持する識別データとが一致する場合にプリンタに対し
て応答し一致しない場合には応答しないことによりプリンタの操
作パネル上のランプを点滅させる制御部と,
2eを有することを特徴とするインク供給システム。
(ウ)本件発明2と乙55発明2の一致点
乙55発明2の構成と本件発明2の構成要件とを対比すると,構成2
a1が構成要件2A1に,構成2bが構成要件2Bに,構成2cが構成
要件2Cに,構成2eが構成要件2Eに,それぞれ相当することは明ら
かである。
また,前記【本件発明1について】ア(ウ)aのとおり,構成2a2及
び同2d1における「端子」が構成要件2A2及び同2D1の「接点」
に,構成2a4における「データバスDB,クロックバスCB,リセッ
」「」「」,トバスRBが構成要件2A4の共通に電気的接続する配線に
構成2d2における「インクカートリッジの識別データ,インク残量等
の情報」が構成要件2D2の「個体情報」に,それぞれ対応することか
ら,構成2a2が構成要件2A2に,構成2a4が構成要件2A4に,
構成2d1が構成要件2D1に,構成2d2が構成要件2D2に,それ
ぞれ相当する。
そして,構成2d4が構成要件2D4に相当することについては,前
記【本件発明1について】ア(ウ)cのとおりである。
(エ)本件発明2と乙55発明2が相違する可能性のある点
乙55発明2の構成と本件発明2の構成要件が相違する可能性のある
点は,①乙55発明2には,構成要件2A3(該液体収納容器からの
光を受光することによって前記液体収納容器の搭載位置を検出する液体
収納容器位置検出手段)に相当する構成が存在しないこと(以下「相違
点2−1」という,②乙55発明2では,液体収納容器に発光部。)
が備えられている(構成要件2D3)のではなく,プリンタ側のキャリ
ッジに発光部が備えられていること(以下「相違点2−2」という,。)
である。
(オ)本件発明2の容易想到性(その1)
相違点2−1及び同2−2は,次のとおり,いずれも,乙55発明2
に乙18公報記載の発明を組み合わせることによって容易に克服するこ
とができるものであり,かかる組合せにより,当業者が容易に想到する
ことができた。
a乙18公報の記載
乙18公報には,インクジェット記録装置に,インクタンク内の立
体形半導体素子の発光手段からの光を受光することによってインクタ
ンクの搭載位置を検出するインクタンク位置検出手段を備えること,
及び,インクタンクが記録装置の位置検出手段に投光するための発光
部を備えていることが開示されている(請求項7,4頁5欄2行∼7
行,5頁7欄1行∼4行,7頁11欄22行∼33行。)
b技術分野の共通性
乙55発明2と乙18公報記載の発明は,いずれも,プリンタ装置
に装着されるインクカートリッジやインクタンクに関する発明であ
り,技術分野において共通する。
c発明の課題の共通性
乙55発明2と乙18公報記載の発明は,いずれも,複数のインク
カートリッジないしインクタンクの形状を異ならせることなく,イン
クカートリッジないしインクタンクの誤装着を防止するという,共通
の課題を有している(乙55公報1頁10行∼15行,同頁20行∼
26行,2頁7行∼10行,乙18公報2頁2欄50行∼3頁3欄1
1行。)
(カ)本件発明2の容易想到性(その2)
プリンタに,液体収納容器からの光を受光することによって前記液体
収納容器の搭載位置を検出する液体収納容器位置検出手段を設けるこ
と,及び,プリンタ側の受光部に投光するための発光部をインクタンク
に設けることは,次のとおり,いずれも,本件特許の最先の優先日当時
において周知慣用技術であったものであり,同技術を乙55発明2に適
用することは,当業者にとって容易であった。
aプリンタに「液体収納容器からの光を受光することによって液体収
納容器の搭載位置を検出する液体収納容器位置検出手段」を備えるこ
とが,周知慣用技術であったこと
(a)乙18公報には,前記(オ)のとおり,インクジェット記録装置
に,インクタンク内の立体形半導体素子の発光手段からの光を受光
することによってインクタンクの搭載位置を検出するインクタンク
位置検出手段を備えることが,開示されている。
(b)乙33公報には,インクジェットプリンタ装置に備えられたプ
リントヘッドと,インクタンクとが,それぞれ光信号を授受するフ
ォトダイオードセットを備え,インクタンクの種類番号,インクタ
ンクの色信号等の情報を,インクタンク側のフォトダイオードセッ
トが,光信号の形でプリントヘッド側のフォトダイオードセットに
送信し,これを受けたプリントヘッド側が,インクタンクが使用す
るに合致しているかどうか(正しいインクタンクが装着されている
かどうか)を判断することが,開示されている(4頁5欄9行∼1
5行,8頁13欄47行∼14欄6行,同欄12行∼14行,同欄
24行∼30行,7頁12欄35行∼48行,8頁14欄43行∼
9頁15欄9行,12頁22欄28行∼35行。)
(c)平成11年9月28日に頒布された刊行物である,特開平11
−263025号公報(乙36。以下「乙36公報」という)に。
は,インクジェットプリンタにおいて,プリンタ側のエミッタ(発
光素子)からインクカートリッジ上の指標位置(反射部)に光を当
て,反射してインクカートリッジから戻ってきた光をプリンタ側の
「検出器」が受け取ることによって,キャリッジのどのカートリッ
ジ位置にどのインクカートリッジが取り付けられているかを識別す
る構成,及び,かかる構成が複数インクカートリッジの識別にも適
用可能であること,すなわち,インクカートリッジからの光を受光
することによって,インクカートリッジが正しい位置に装着されて
いるかどうかを検出する,インクカートリッジの位置検出手段が開
示されている(3頁3欄6行∼10行,同頁4欄36行∼4頁5欄
18行,同頁6欄49行∼5頁7欄13行,同欄27行∼47行,
5頁8欄23行∼28行。)
bプリンタ側の受光部に投光するための発光部をインクタンクに備え
ることが,周知慣用技術であったこと
(a)乙18公報には,前記(オ)のとおり,インクタンクが,記録装
置の位置検出手段に投光するための発光部を備えていることが開示
されている。
(b)乙33公報には,前記a(b)のとおり,インクタンクからの光
を受光することによってインクタンクが正しい位置に装着されてい
るかどうかを検出する,インクタンクの位置検出手段,及び,同位
置検出手段に光信号を送信する,インクタンク側のフォトダイオー
ドセット,が開示されている。
,「」(c)乙2公報にはインクタンク内の素子における情報伝達手段
が光エネルギーにより情報を伝達すること及びインクジェット記録
装置をその伝達先とすることが開示されている(請求項21,5頁
7欄35行∼36行,6頁10欄9行∼14行,7頁11欄5行∼
17行)
(d)乙17公報には,インクタンク内の素子における「情報伝達手
段」が光エネルギーにより情報を伝達すること及びインクジェット
記録装置の通信回路をその伝達先とすることが開示されている(5
頁8欄8行∼11行,6頁9欄17行∼23行,同欄44行∼10
欄3行。)
イ無効理由2
本件発明2は,乙18公報記載の発明及び周知技術等に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものである。
(ア)乙18公報の記載
乙18公報には,次のとおり,本件発明2の構成要件に対応する記載
が存在する。
a構成要件2A1に対応する記載
乙18公報には,プリンタに,複数のインクタンクの各々が,イン
クの種類に従って所定の異なる位置に搭載可能であることが,開示さ
れている(請求項8,請求項9。)
b構成要件2A2に対応する記載
構成要件2A2は,構成要件1A2と同一である。乙18公報に構
成要件1A2に対応する記載(請求項1,請求項4,5頁7欄1行∼
3行,4頁6欄9行∼13行,3頁3欄25行∼29行)が存在する
ことについては,前記【本件発明1について】イ(ア)bのとおりであ
る。
c構成要件2A3に対応する記載
乙18公報には,インクジェット記録装置に,インクタンク内の立
体形半導体素子の発光手段からの光を受光することによってインクタ
ンクの装着位置を検出するインクタンク位置検出手段を備えること
が,開示されている(請求項7,4頁5欄2行∼7行,5頁7欄1行
∼4行,7頁11欄22行∼23行。)
d構成要件2B及び2Cに対応する記載
乙18公報には,インクタンクがインクジェット記録装置に対して
着脱可能であること及びインクタンクがキャリッジに対して着脱可能
であることが開示されている(2頁1欄47行∼50行,4頁6欄4
6行∼5頁7欄1行。)
e構成要件2D1に対応する記載
構成要件2D1は,構成要件1Bと同一である。乙18公報に構成
(,,,要件1Bに対応する記載請求項1請求項45頁7欄1行∼3行
4頁6欄9行∼13行,3頁3欄25行∼29行)が存在することに
ついては,前記【本件発明1について】イ(ア)eのとおりである。
f構成要件2D2に対応する記載
構成要件2D2と構成要件1Cは,前者が個体情報を「保持する」
と記載するのに対し,後者は「保持可能」と記載する点で異なるだけ
である。乙18公報には,前記【本件発明1について】イ(ア)fのと
おり,インクタンクがインクのpH等のタンク内情報を保持する情報
保持部を有することが,実質的に開示されている(5頁8欄11行∼
25行。)
g構成要件2D3に対応する記載
乙18公報には,前記【本件発明1について】イ(ア)cのとおり,
インクタンクが記録装置の位置検出手段に向けて発光するための発光
手段を備えていることが開示されている(請求項7,4頁5欄2行∼
7行,5頁7欄1行∼4行,7頁11欄22行∼33行。)
(イ)乙18公報記載の発明
乙18公報に上記(ア)の記載が存在することから,同公報には,次の
構成(以下「構成2(a)1」などという)からなる液体供給システム。
に関する発明(以下「乙18発明2」という)が記載されている。。
2(a)1複数のインクタンクの各々がインクの種類に従って所定の異
なる位置に搭載可能であって,
2(a)2該インクタンクに備えられる接続手段と電気的に接続してイ
ンクタンクに起電力を供給する接続手段と,
2(a)3該インクタンクからの光を受光することによって前記インク
タンクの装着位置を検出するインクタンク位置検出手段と,
2(a)4を有するインクジェット記録装置と,
2(b)前記インクジェット記録装置のキャリッジに対して着脱可能
なインクタンクと,
2(c)を備える液体供給システムにおいて,
2(d)1前記インクタンクは,前記インクジェット記録装置側接続手
段と電気的に接続する接続手段と,
2(d)2少なくとも情報入手手段が入手したインクタンクのインクの
pH,タンク内の圧力変化,インク残量,インク有無等のタンク
内情報を保持する情報保持部と,
2(d)3前記位置検出手段に向けて発光するための発光手段と,
2(e)を有することを特徴とする液体供給システム。
(ウ)本件発明2と乙18発明2の一致点
乙18発明2の構成と本件発明2の構成要件とを対比すると,構成2
(a)1が構成要件2A1に,構成2(a)2が構成要件2A2に,構成2
(a)3が構成要件2A3に,構成2(b)が構成要件2Bに,構成2(c)
が構成要件2Cに,構成2(d)1が構成要件2D1に,構成2(d)3が
構成要件2D3に,構成2(e)が構成要件2Eに,それぞれ相当するこ
とは明らかである。
また,構成2(d)2が構成要件2D2に相当すること,及び,仮にこ
の点が相違点であるとしても,乙18発明2において情報保持部を設け
,【】ることが極めて容易であることについては前記本件発明1について
イ(ウ)のとおりである。
(エ)本件発明2と乙18発明2が相違する可能性のある点及び本件発明
2の容易想到性
乙18発明2の構成と本件発明2の構成要件が相違する可能性のある
点は,前記【本件発明1について】イ(エ)における乙18発明1の構成
と本件発明1の構成要件が相違する可能性のある点と同じである。
また,上記相違点が,本件特許の最先の優先日当時において周知慣用
技術であったものであり,同技術を乙18発明2に適用することが当業
者にとって容易であったことについては,前記【本件発明1について】
イ(オ)のとおりである。
ウ無効理由3
本件発明2は,乙33公報記載の発明及び周知技術等に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものである。
(ア)乙33公報の記載
乙33公報には,次のとおり,本件発明2の構成要件に対応する記載
が存在する。
a構成要件2A1に対応する記載
乙33公報には,複数のインクタンクが,インクの色に対応したイ
ンクジェットプリント装置上の異なる位置に搭載可能であることが,
開示されている(12頁22欄36行∼39行,14頁25欄12行
∼14行。)
b構成要件2A2に対応する記載
構成要件2A2は,構成要件1A2と同一である。乙33公報に構
成要件1A2に対応する記載(6頁9欄46行∼48行,9頁16欄
35行∼10頁17欄4行)が存在することについては,前記【本件
発明1について】ウ(ア)bのとおりである。
c構成要件2A3に対応する記載
乙33公報には,前記ア(カ)a(b)のとおり,インクタンクからの
光信号を受光することによってインクタンクが正しい位置に装着され
ているかどうかを検出する,インクタンクの位置検出手段が開示され
ている(4頁5欄9行∼15行,8頁13欄47行∼14欄6行,同
,,,欄12行∼14行同欄24行∼30行7頁12欄35行∼48行
,)。8頁14欄43行∼9頁15欄9行12頁22欄28行∼35行
d構成要件2B及び2Cに対応する記載
乙33公報には,インクタンクを搭載したインクジェットプリント
カートリッジがインクジェットプリント装置のキャリッジに対して着
()。脱可能であることが開示されている13頁24欄16行∼23行
また,乙33公報には,プリンタとインクタンクとが共に機能する
構成が開示されており,プリンタとインクカートリッジとを備えるイ
ンク供給システム(液体供給システム)が開示されていることは明ら
かである。
e構成要件2D1に対応する記載
構成要件2D1は,構成要件1Bと同一である。乙33公報に構成
要件1Bに相当する構成が開示されていることについては,前記【本
件発明1について】ウ(ア)eのとおりである(6頁9欄46行∼48
行,9頁16欄35行∼10頁17欄4行。)
f構成要件2D2に対応する記載
構成要件2D2は,構成要件1Cと実質的に同じである。乙33公
報に構成要件1Cに相当する構成が開示されていることについては,
前記【本件発明1について】ウ(ア)fのとおりである(12頁22欄
28行∼32行,7頁12欄35行∼48行,8頁13欄47行∼4
9行。)
g構成要件2D3に対応する記載
乙33公報には,前記ア(カ)a(b)のとおり,インクタンクが,位
置検出手段としてのプリントヘッド側のフォトダイオードセットに光
信号を発信するフォトダイオードセットを備えていることが,開示さ
れている(4頁5欄9行∼15行,8頁13欄47行∼14欄6行,
同欄12行∼14行,同欄24行∼30行,7頁12欄35行∼48
行,8頁14欄43行∼9頁15欄9行,12頁22欄28行∼35
行。)
(イ)乙33公報記載の発明
乙33公報に上記(ア)の記載が存在することから,同公報には,次の
構成(以下「構成2[]1」などという)からなる液体供給システムにa。
関する発明(以下「乙33発明2」という)が記載されている。。
2[]1複数のインクタンクがインクの色に対応したインクジェットa
プリント装置上の異なる位置に搭載可能であって,
2[]2該インクタンクに備えられる接点と電気的に接合可能なインa
クジェットプリント装置側接点と,
2[]3該インクタンクからの光信号を受光することによってインクa
タンクが正しい位置に装着されているかどうかを検出するインク
タンクの位置検出手段と,
2[]4を有するインクジェットプリント装置と,a
2[]前記インクジェットプリント装置のキャリッジに対して着脱b
可能なインクタンクと,
2[]を備える液体供給システムにおいて,c
2[]1前記インクタンクは,前記インクジェットプリント装置側のd
電気的接点と電気的に接合可能な接点と,
2[]2少なくともインクタンクにインクタンクの種類その他の情報d
を保持するメモリ部と,
2[]3前記位置検出手段に光信号を発信するフォトダイオードセッd
トと,
2[]を有することを特徴とする液体供給システム。e
(ウ)本件発明2と乙33発明2の一致点
乙33発明2の構成と本件発明2の構成要件とを対比すると,構成2
[]1ないし2[]3が構成要件2A1ないし2A3に,構成2[]が構aab
成要件2Bに,構成2[]が構成要件2Cに,構成2[]1ないし2[]cdd
3が構成要件2D1ないし2D3に,構成2[]が構成要件2Eに,そe
れぞれ相当することは明らかである。
(エ)本件発明2と乙33発明2が相違する可能性のある点及び本件発明
2の容易想到性
乙33発明2の構成と本件発明2の構成要件が相違する可能性のある
点は,前記【本件発明1について】ウ(エ)における乙33発明1の構成
と本件発明1の構成要件が相違する可能性のある点と同じである。
また,上記相違点が,本件特許の最先の優先日当時において周知慣用
技術であったものであり,同技術を乙33発明2に適用することが当業
者にとって容易であったことについては,前記【本件発明1について】
ウ(エ)のとおりである。
[原告の主張]
被告の主張を否認ないし争う。
仮に,本件特許に被告の主張する無効理由があるとしても,原告は,前記
のとおり本件訂正の請求をしているため,本件訂正によって上記無効理由を
解消することができる(なお,本件訂正発明に進歩性が認められることにつ
いては,後記()のとおりである。また,後記()ないし()において被告の847
主張する無効理由についても,上記無効理由と同様に,本件訂正によって無
効理由を解消することができる。。)
()争点3−2(本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項14
号(サポート要件)に違反するか)について
[被告の主張]
ア本件明細書には「発光部の発光を制御する制御部」ないし「発光部を,
発光させる制御部」の構成が開示されていないこと
構成要件1E及び2D4には,本件発明1に係る液体収納容器は「発,
光部の発光を制御する制御部を本件発明2に係る液体収納容器は発」,,「
光部を発光させる制御部」を備えているべきことが記載されている。
しかしながら,前記()[被告の主張]イ(カ)のとおり,原告製プリン1
タに被告製品2を搭載した場合,被告製品2の発光部の発光を制御するの
は,原告製プリンタの制御回路(本件明細書の記載では,図19に記載の
CPU301を備えた「制御回路300」に相当する構成)であって,被
,,,告製品2は上記制御回路からの信号を受け取りその指示どおりの発光
点滅を行っているにすぎない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,液体収納容器に備え
られた「発光部の発光を制御する制御部」ないし「発光部を発光させる制
御部」という構成が開示されているとは認められず,特許法36条6項1
号に違反する。
イ本件明細書には「液体収納容器」にインク以外の液体が開示されてい,
ないこと
本件発明1及び本件発明2においては「液体収納容器」に収納されて,
いる「液体」について,具体的に特定されておらず,本件特許の請求項1
を引用する請求項4には「前記液体収納容器にはインクが収納されてい,
ることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の液体収納
容器と記載されているこのように請求項4において液体をイ。」。,「」「
ンク」と限定していることからすれば,請求項1における「液体」及び請
「」「」,求項1と同じ液体という用語が用いられている請求項5の液体は
「」,「」。インク以外の液体を含むインクの上位概念であると理解される
しかしながら,本件明細書では,その実施例において「インク」以外,
の液体については記載も示唆もされていない。
したがって,本件発明1及び本件発明2は,発明の詳細な説明に記載さ
れていないものを含むものであり,特許法36条6項1号に違反する。
[原告の主張]
ア本件明細書には「発光部の発光を制御する制御部」ないし「発光部を,
発光させる制御部」の構成が開示されていること
前記()[被告の主張に対する原告の反論]カのとおり,本件明細書に1
は,液体収納容器に設けられた制御素子103(より正確には,その内部
の入出力制御回路103A及びLEDドライバ103C)により,液体収
納容器に設けられた発光部の点灯,消灯が制御されていることが明記され
ているものであり,特許法36条6項1号に違反するものではない。
イ本件明細書には,インク以外の液体を収納する構成も開示されているこ

明細書に「インク」が例示されていれば,本件発明の実施に際し,他の
液体でも特に相違を生じないことは,当業者が容易に理解することができ
る。
したがって,本件特許は,特許法36条6項1号に違反するものではな
い。
()争点3−3(本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項25
号(明確性要件)に違反するか)について
[被告の主張]
本件発明の特許請求の範囲は,次のとおり,特許を受けようとする発明が
明確でなく,特許法36条6項2号(明確性要件)に違反する。
ア本件発明1における「発光部」と「受光手段」の関係が明確でないこと
本件発明1では,液体収納容器が「発光部(構成要件1D)を有し,」
液体収納容器が着脱される記録装置は「液体収納容器からの光を受光す,
る受光手段(構成要件1A3)を有する。」
しかしながら,本件特許の請求項1の記載からは,記録装置側の「液体
」「」,収納容器からの光を受光する受光手段の液体収納容器からの光とは
「発光部」が発した光を指すのか,それ以外の,例えば,自然光や,記録
装置側から発せられる光が液体収納容器に反射した反射光なども含むのか
否かが,全く不明であり「液体収納容器からの光を受光する受光手段」,
という構成が不明確となっている。
また,請求項1の記載からは「発光部」が発した光が「受光手段」に,
向けて投光されない構成,例えば,プリンタ装置との通信手段としてでは
なく,ユーザの目のみに向けて液体収納容器の装着の適否やインク切れを
報知するために発光する発光部,を備えた液体収納容器についても本件発
明1の技術的範囲に含まれるものかどうかが,不明確である。
イ本件発明1の「液体収納容器」を「液体収納容器」自体で特定すること
ができないこと
本件発明1は「液体収納容器」という物の発明に関するものである。,
,,,これらは請求されている物の発明としてそれ自体で技術的特徴を備え
特定することができるものでなければ,明確とはいえない。また,請求項
に請求されている物以外の他の物についての記載がある場合かかる他,,「
の物」の特定事項により「請求されている物」の発明特定事項を特定す,
ることができ,その技術的特徴をその記載から把握することができなけれ
ば,その記載は,不明確なものであるといわざるを得ない。
本件発明1において,構成要件1A1ないし1A4の部分は「請求さ,
れている物」としての「液体収納容器」以外の「他の物」である「記録,
装置」が記載されている。
しかしながら,請求項に記載されているのは「液体収納容器」が「複,,
数の液体収納容器が搭載可能であって(中略)共通に電気的接続する配線
を有した電気回路とを有する記録装置に対して(構成要件1A1ないし」
1A4「着脱可能(構成要件1A5)ということだけである。例えば,)」
「複数の液体収納容器が搭載可能(構成要件1A1)という記載から,」
「液体収納容器」が必ず複数同時に搭載されなければならないのかどうか
は明らかではない。また「液体収納容器に備えられる接点と電気的に結,
合可能な装置側接点(構成要件1A2)は「液体収納容器」が「前記」,
装置側接点と電気的に接続可能な前記接点(構成要件1B)を備えてい」
,「」。ることの裏返しにすぎず何ら液体収納容器を特定するものではない
さらに「受光手段(構成要件1A3)や「搭載される液体収納容器,」
それぞれの前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通に電気的接続
する配線を有した電気回路(構成要件1A4)などは「記録装置」の」,
特定事項ではあるものの「請求されている物」である「液体収納容器」,
との関係がまったく不明であって「液体収納容器」の発明特定事項を何,
ら特定するものではない。
以上のとおり「記録装置」の特定事項である構成要件1A1ないし1,
,「」,A4の記載は液体収納容器の技術的特徴を示すものとなっておらず
これらの記載からは,特許を受けようとする発明が明確でない。
また,仮に,搭載されるべき相手方となる「他の物(本件発明1では」
)()記録装置が一定の構成要件本件発明1では構成要件1Aないし1A4
を充足するか否かによって「請求されている物(本件発明1では液体,」
収納容器)の当該発明の技術的範囲への属否が決まるのであれば「請求,
されている物」そのものの構成のみからは,当該発明の技術的範囲への属
否を判断することができず,特許請求の範囲の記載が発明の保護範囲を明
示する役割を果たし得ないこととなって,不当である。
ウ本件発明2における「互いに異なる位置に」が明確でないこと
構成要件2A1には,複数の液体収納容器が「互いに異なる位置に」搭
載可能である旨が記載されているが,この意味は明確でない。
すなわち,液体収納容器の搭載位置は,液体収納容器1個につき1つし
かないから,複数の液体収納容器が同一の位置に搭載されることはおよそ
考えられないし「互いに」が何を指すのかも明確でない。,
また「互いに異なる位置」という記載だけでは,複数の液体インク収,
納容器のそれぞれが固有の位置を有していることまで読み取ることはでき
ないし「互いに」とは,通常,2つのものの相互の関係について使用す,
る用語であることから,本件発明のように4色以上もの液体収納容器につ
いて用いる意味が明確でない。
エ本件発明2における「個体情報に係る信号を発生するための配線」が明
確でないこと
構成要件2A4は「搭載される液体収納容器それぞれの前記接点と結,
合する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し個体情報に係る信号を
」,,発生するための配線を有した電気回路とというものであるがこのうち
「個体情報に係る信号を発生するための配線」を有した電気回路という記
載の技術的意義が,明確でない。
すなわち,同構成要件において「個体情報に係る信号を発生するため,
の配線」の直前に記載されている「前記装置側接点に対して共通に電気的
接続しという記載が配線にかかるものと合理的に解される以上個」「」,「
体情報に係る信号を発生するための」という記載も「配線」にかかるも,
のと考えられる。そうすると「配線」が「信号を発生する」ためのもの,
であることになるが,配線が信号を発生することがあるのか,仮に,そう
,。いう意味でないとすればいかなる技術的意義を有するのかが明確でない
仮に「信号を最初に発生させる」のが「電気回路」であるならば,電気,
回路と配線が一体であろうとも「信号を発生する」のは「電気回路」で,
あり「信号を発生するための配線」という記載と矛盾する。,
オ本件発明1及び本件発明2における「複数の液体収納容器」が明確でな
いこと
本件発明1及び本件発明2では「複数の液体収納容器」がプリンタに,
搭載可能であることが構成要件として定められているところ(構成要件1
A1,2A1「複数の液体収納容器」には,何の限定も付されておら),
ず,液体収納容器の形状,大きさがそれぞれ異なる場合も含むこととなっ
ている。
一方,本件明細書には,前記()[被告の主張]イ(エ)のとおり「複1,
数の液体収納容器」とは,少なくとも「すべて同一形状の複数の液体収納
容器」である場合のみが記載されており「複数の液体収納容器」にいか,
なる場合までが含まれるのかが明確でない。
カ本件発明1及び本件発明2における「液体収納容器の個体情報(構成」
要件1C及び2D2「接点から入力される個体情報に係る信号(構成),」
要件1E)及び「前記接点から入力される前記個体情報に係る信号と,前
記情報保持部の保持する個体情報とが一致した場合(構成要件2D4)」
並びにこれらの相関関係が明確でないこと
構成要件1C及び2D2には「液体収納容器の個体情報」との記載が,
あり,構成要件1E及び同2D4には「入力される(前記)個体情報に,
係る信号」との記載があるが「個体情報」及び「個体情報に係る信号」,
の意味が明確でなく,これらの「一致」は,技術的に理解することができ
ないものである。
なお,本件明細書には「液体収納容器の個体情報」に,経時変化し得,
る「インク残量」等のほか,経時変化しない「色情報,インクタンクの」
固有番号や製造ロット番号等も含まれる旨の記載がある段落0「」「」(【
083【0087【0097【0144)ものの「液体収納容】,】,】,】,
器の個体情報」のうち,例えばインクタンクの「固有番号」や「製造ロッ
ト番号」に応じて発光部の発光を制御する構成(構成要件1E)や,イン
クタンクの「固有番号「製造ロット番号,及び「インク残量」が接点」,」
から入力された信号と一致する場合に発光部を発光させる構成(構成要件
2D4)は,本件明細書に記載されていない。
以上のとおり,本件発明1及び本件発明2において「液体収納容器の,
個体情報」の技術範囲を確定することができず,どのように構成要件1E
及び2D4の発光制御に用いられるのかどうかも明確でなく「液体収納,
容器の個体情報」の外延は不当に広く,明確でない。
キ本件発明2における「液体収納容器位置検出手段」及び「前記位置検出
手段に投光するための発光部」が明確でないこと
構成要件2A3の「液体収納容器位置検出手段」及び同2D3の「前記
位置検出手段に投光するための発光部」は,以下のとおり,その技術的意
義が不明であり,技術的に理解できないものである。
,「」,,すなわち液体収納容器位置検出手段については本件明細書には
その文言も定義もなく「装着確認制御の詳細を示すフローチャート(段,」
落【0099)及び「ステップS105の光照合処理に移行する(段】。」
落【0107)として,制御フローが記載されているにすぎない。】
,,,また本件明細書の具体的な構成を探しても以下の記載があるだけで
LED101の発光を受光する第1受光部210及びインクタンクの装着
位置を判断する制御回路300のいずれか,又は,両方を合わせたものが
「液体収納容器位置検出手段」に該当するのかどうかが,明確でない。
「キャリッジ205の移動範囲の一方の端部近傍に設けられる第1受光部
210は,インクタンク1のLED101からの発光を受けて,それに
応じた信号を制御回路300へ出力する。制御回路300は,後述のよ
うに,この信号に基づき,それぞれのインクタンク1のキャリッジ20
5における位置を判断することができる(17頁50行∼18頁3。」
行段落【0079)】
「インクタンク本来の正しい位置に装着されているとき,第1受光部21
0はLED101の発光を受光することができ,制御回路300は,そ
。」の装着位置にはインクタンク1Yが正しく装着されていると判断する
(23頁10行∼12行段落【0110)】
「マゼンタインクのインクタンク1Mが装着されるべき位置にシアンイン
クのインクタンク1Cが誤って装着されているときは,第1受光部21
0に対向しているインクタンク1CのLED101は発光せず,別の位
置に搭載されているインクタンク1MのLED101が発光する。この
,,,結果このタイミングでは第1受光部210は受光できないことから
制御回路300は,その装着位置にはインクタンク1M以外のインクタ
ンクが装着されていると判断する(23頁21行∼26行段落【0。」
112)】
「以上説明した光照合処理を行うことにより,制御回路300は本来の位
置に装着されていないインクタンクを特定することができる。また,装
着されるべき位置に正しいインクタンクが装着されていなかった場合に
は,その装着位置において,他の3色のインクタンクを順に発光させる
制御を行うことによって,その装着位置に誤って何色のインクタンクが
装着されてしまったかを特定することもできる(23頁32行∼3。」
6行段落【0113)】
[原告の主張]
ア本件発明1における「発光部」と「受光手段」の関係は明確であること
本件明細書の記載から,本件発明1の実施のためには,インクタンクの
発光部から発した光が受光部で受光されることにより,当該発光部を有す
るインクタンクの搭載位置の判別がされる必要のあることは明らかであ
る。なお,本件訂正により,発光部と受光手段の関係が明記されたため,
本件訂正後の本件訂正発明1の特許請求の範囲については,特許法36条
6項2号違反の問題は存在しない。
イ本件発明1は,サブコンビネーション形式の発明であって,明確性を欠
くものではないこと
前記()[被告の主張に対する原告の反論]ア記載のとおり,本件発明1
1は,サブコンビネーション形式の発明であり,請求項1のプリンタ本体
の構成要件と組み合わせられて,組合せとしての機能をすべて実現する構
成を有するか否かによって,請求項1のインクタンクの範囲が定まるもの
であるから,明確性に欠けることはない。
ウ本件発明2における「互いに異なる位置に」の意義は明確であること
構成要件2A1は,複数のインクタンクホルダに複数の異なるインクタ
ンクが搭載されることを「互いに異なる位置に」と表現しているだけで,
あり,マゼンタ色のインクタンクの位置とイエロー色のインクタンクの位
置は異なり,シアン色のインクタンクの位置とも異なることを意味してい
る。本件明細書の全体を読めば,本件特許の目的が,複数の液体収納容器
のそれぞれが固有の「装着位置」を有しており,その「装着位置」を誤っ
て装着された場合にその誤りを本件光照合処理で検出することであること
や「互いに異なる位置」というのは「複数のインクタンクホルダに,,,
複数のインクタンクが搭載されること」であるということを,容易に理解
することができる。
それぞれのインクタンクが,他のインクタンクの位置とは異なる固有の
位置を有しているから,各インクタンクの搭載位置につき誤装着という問
題を生じ,搭載位置を判別する必要も生ずるのである。
エ本件発明2における「個体情報に係る信号を発生するための配線」の意
義は明確であること
本件明細書の段落【0080】ないし【0083】の説明と図20及び
段落【0086】ないし【0088】の説明と図23を見れば,構成要件
2A4の「電気的接続し個体情報に係る信号を発生するための配線を有し
た電気回路」とは,図20において4つのインクタンクとプリンタ本体を
つないでいる4本の共通の信号配線(いわゆるバス接続)を含む電気回路
のことであると,容易に理解することができる。バス接続では,プリンタ
側又はインクタンク側から,インクタンクの個体情報が載せられた信号が
流されるものであり,上記記載において,信号を最初に発生させるのはプ
リンタの電気回路であるが,電気回路と配線は一体のものであって,共通
配線を通じてインクタンク側に個体情報に係る信号を発生させることを意
味している。
オ本件発明1及び本件発明2における「複数の液体インク収納容器」の意
義は明確であること
「複数の液体収納容器」の意味は,読んで字のごとく「複数」の「液,
体収納容器」をキャリッジに搭載することができる,というだけのことで
あり,それ以上の意味はなく,不明確性などない。
形状の異なるインクタンクが存在する場合に,その異なる形状のインク
タンクがすべて請求項1及び5に含まれるか否かという問題は,請求項1
及び5に係る特許権の権利行使に際しての解釈問題であって,記載の明確
性の問題ではない。
カ本件発明1及び本件発明2における「液体収納容器の個体情報「接」,
点から入力される個体情報に係る信号」及び「前記接点から入力される前
記個体情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する個体情報とが一致し
た場合」並びにこれらの相関関係が明確であること
被告の主張を否認ないし争う。また,本件訂正により,構成要件1C及
「」,「」,び2D2の個体情報はインク色を示す色情報に訂正されており
特許を受けようとする発明が明確になっている。
キ本件発明2における「液体収納容器位置検出手段」及び「前記位置検出
手段に投光するための発光部」が明確であること
構成要件2A3の「液体収納容器位置検出手段」については,請求項5
の記載と,本件明細書に記載された光照合処理の手順(段落【0108】
∼【0112)をみれば,当業者であれば,光照合処理を実施するため】
の構成であること,具体的には,発光部の発光を受光する受光部と受光結
果に基づくインクタンク装着位置の誤りの有無を検出する制御部であると
いうことを,容易に理解することができる。
()争点3−4(本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条46
項1号(実施可能要件)に違反するか)について
[被告の主張]
本件明細書の記載からは,誤装着されているインクタンクの位置が正しい
装着位置と隣接している場合,どのようにすれば隣接している位置からの発
光やその他プリンタの使用環境に存在する周囲の光は受光せずに,インクタ
ンクが誤装着しているものとして区別して認識することができるのか,その
実現手段が明確でない。何らの手段も講じなければ,プリンタ装置側の受光
手段は,プリンタの使用環境に存在する周囲の光,少なくとも隣接位置から
の発光は受光してしまうはずである。
以上のとおり,本件特許における「キャリッジに搭載された複数のインク
タンクについて,その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させる
とともに,上記処置の位置での発光を検出するようにすることにより,発光
が検出されないインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識でき
る(本件明細書の段落【0019)という効果を達成するには,受光手。」】
段が特定のインクタンクの発光部からの発光のみを受光するように,何らか
の構成を付加することが不可欠である。
しかしながら,本件発明1及び本件発明2は,そのような構成を設けるこ
となく「該液体収納容器からの光を受光する受光手段(構成要件1A3),」
ないし「該液体収納容器からの光を受光することによって前記液体収納容器
の搭載位置を検出する液体収納容器位置検出手段(同2A3)と,インク」
タンクからの光を受光することができるものとして特許請求されており,本
件明細書において,その実現手段は明らかにされていない。
したがって,本件明細書には,当業者が本件発明を実施できるように明確
かつ十分に発明の実現手段が開示されているとはいえず,特許法36条4項
1号(実施可能要件)に違反する。
[原告の主張]
被告の主張を否認ないし争う。
この程度の「手段」は,当業者であれば技術常識から容易に設定すること
ができる。一例として,最も容易な方法は,受光手段の信号について適当な
閾値を設けて,それ以上の光かそれ以下の光かで区別する方法である。隣接
している位置からの光や,プリンタの周囲の光は,直接受光手段に向き合っ
ているインクタンクからの光に比べて数段その強さが落ちるため,適当な閾
値を設定して,それより強いか弱いかで判断すれば,受光手段に向き合った
インクタンクからの発光をその他の光から区別することは,たやすいことで
ある。
[原告の主張に対する被告の反論]
閾値を設けることについて,本件明細書には一切記載がない。また,閾値
を設けるだけでは,連続的に導入される隣接位置からの光を区別することは
当業者にとって容易ではない。すなわち,隣接するインクタンクは強い光を
発している上,インクタンク同士の距離は非常に短く,一定程度の速さで移
動するため,対向する位置のインクタンクの発光部の光量と,隣接する位置
のインクタンクのそれとでは大きな違いはなく,閾値の設定は当業者にとっ
て容易ではない。
さらに,被告の調査によれば,原告製インクタンクにおいては,特定の導
光路部材を用いて発光部からの光を導くことによって発光部からの光の受光
を確保しており,かかる導光路部材を切除すると異常動作をすることが確認
されていることから,単に閾値を用いるだけでは,隣接位置からの光を検出
せず,適切な受光が行われるという結果が得られないことは明らかである。
すなわち,乙第53号証の実験結果を見れば明らかなように,インクタン
.,クの導光路部材を切除した実証No2ないし4及び6ないし8においては
各色のインクタンクを正しい位置に装着した場合においても,いずれも異常
動作をすることが判明している。つまり,原告の主張するように閾値を設定
するだけでは,隣接位置からの光を検出せずに適切な受光が行われるという
結果を得ることはできない。かかる結果は,インクタンクに特定の導光路部
材を用いることにより初めて実現できるものであるにもかかわらず,かかる
特定の導光路部材について,本件明細書には記載がない。
[被告の反論に対する原告の反論]
いかなる種類のセンサーといえども,そこから得られた信号について,シ
ステムが反応すべきレベルの信号と,雑音等として捨て去るべきレベルの信
号とを区別するために,適当な閾値を設定しそれを超えるか否かで区別する
ことは,当業者にとっては技術常識である。
また,乙第53号証の実験は,製品構成の重要部分を破壊すれば作動しな
くなるという当たり前のことを確認しているだけであって,本件特許の実施
可能要件の問題とは関係がない。原告製品の場合は,発光部と受光手段の間
に導光路部材が存在することを前提として,受光手段の閾値が適切に設定さ
れているのであり,導光路部材の存在を前提として設定された閾値が,その
導光路部材が破壊されてしまうと適切に作動しないのは,当然である。
()争点3−5−1(本件訂正は,特許法134条の2の訂正要件を満たす7
か)について
[被告の主張]
ア「結合」を「接続」に訂正することは,特許請求の範囲を拡張するもの
であること
原告は,本件訂正により,構成要件1A2及び2A2における「結合」
を「接続」に訂正し,かかる訂正は「明りょうでない記載の釈明(特,」
許法134条の2第1項3号)に当たると主張する。
しかしながら「結合」とは「いくつかの物が結びついて一つになる,,
こと。また,その結びつき(大辞林(乙48)という意味であり,電。」)
気的接点に関していえば,コンセントやプラグ,コネクタなどのように,
接点同士が物理的に一体となる態様を表すのに対し「接続」とは「つ,,
なぐこと。また,つながること(乙48)という意味であり「一つに。」,
なる」ことまで意味するものではなく,電気的接点に関していえば,接点
同士が電気的に接触して電気が流れる状態になっていればよく,接点同士
が物理的に一体となることまでは要しない。
このように「接続」は「結合」を含む広い概念であり,構成要件1,,
A2及び2A2の「結合」を「接続」に訂正することは,従来特許請求の
範囲に含まれていなかった「結合」以外の「接続」の態様を含むことに,
なり,特許請求の範囲を拡張するものである。
したがって,かかる訂正は,特許法134条の2第5項及び126条4
項により認められない。
イ構成要件1A3などに加えた訂正は,特許請求の範囲を拡張又は変更す
るものであること
(ア)訂正の内容
本件訂正により,構成要件1A3,1A5,2A3,2E’及び’’’
2F’には,次の構成が付加されており,原告は,かかる訂正は特許請
求の範囲を減縮するものであると主張する。
【1A3】’
1①「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が
入れ替わるように配置され」
1②「前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する」
1③「位置検出用の受光手段を一つ備え」
1④「該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容
器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」
【1A5】’
1⑤「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体イ
ンク収納容器の前記発光部を光らせ」
1⑥「その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段
は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」
【2A3】’
2①「位置検出用の受光部を一つ備え,該受光部で該光を受光する」
【2E】’
2②「前記受光部は,前記キャリッジの移動により対向する前記液体イ
ンク収納容器が入れ替わるように配置され」
【2F】’
2③「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体イ
ンク収納容器の前記発光部を光らせ」
2④「その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段
は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」
(イ)上記(ア)の構成要件1A3’及び1A5’にかかる訂正は,特許請
求の範囲を減縮するものではないこと
上記(ア)の構成要件1A3’及び1A5’にかかる訂正(上記1①∼
1⑥)は,記録装置に関する訂正であり,本件訂正発明1の対象である
インクタンクにかかる発明の構成を減縮するものではない。
例えば,上記1①の記載が追加されたとしても,入れ替わるように配
置されるかどうかは,液体インク収納容器を実際に記録装置に搭載した
ときに記録装置側のキャリッジの動作を見て,初めて確認できることで
あるから「入れ替わるように配置され」との記載は,液体インク収納,
容器にかかる発明の構成を減縮するものではなく,液体インク収納容器
の構成に密接に関連するキャリッジ側の構成を特定したものでもない。
また,上記1④の記載が追加されたとしても,記録装置において液体
インク収納容器が正しい位置に搭載されているか否かを判断することが
できるという効果は,複数の液体インク収納容器のうち,あるインク色
の液体インク収納容器が来るべきタイミングが記録装置側であらかじめ
分かっており,そのタイミングで所定のインク色の液体インク収納容器
の発光部を光らせ,その光が受光されたか否かを判断する手段が記録装
置側に備わっていて初めて得られるものであって,液体インク収納容器
の構成によって実現される効果ではない。
以上のとおり,上記1①ないし⑥の訂正は,インクタンクにかかる発
,。明の構成を減縮するものではなく特許請求の範囲の減縮に当たらない
(ウ)本件訂正により新たな構成を付加する場合,同構成が周知でない限
り「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するもの」に該当する,
こと
特許請求の範囲の訂正は「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変,
更するものであってはならない(特許法134条の2第5項,126」
条4項)とされており,特許請求の範囲に新たな構成を付加する訂正で
あって,訂正によって付加された構成が,特許出願当時当業者にとって
,,周知の技術手段に該当しない場合は訂正前と後とで別個の発明になり
「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する」ことになると解する
のが相当である。
原告は,本件訂正によって付加された上記1①ないし⑥及び2①ない
し④の構成が,本件特許出願当時の周知技術であることを主張立証しな
い。
したがって,上記1①ないし⑥及び2①ないし④に係る訂正は,実質
上特許請求の範囲を拡張又は変更するものである。
(エ)上記1①,④ないし⑥及び2①ないし④の訂正は,本件訂正前の請
求項にない新たな効果を奏するものであり,実質上特許請求の範囲を変
更するものであること
a本件訂正により追加された上記1①及び④ないし⑥の構成は,以下
のとおり,本件発明1では予定されていなかった「インクタンクの,
発光部の光を受光手段が受光することによって,インクタンクの位置
を検出する」という,新たな作用効果を奏するものである。
すなわち,本件発明1においては,プリンタ上の「該液体収納容器
からの光を受光する受光手段(構成要件1A3)及びインクタンク」
上の「発光部(同1D)という記載はあったものの,相互の関係に」
ついての記載も「位置検出手段」という記載もなかったため「発,,
光部」と「受光手段」の関係すら不明確であり,発光部と受光手段を
備えることで可能な作用効果は,発光部の発光を受光手段において感
知することだけであって,かかる作用効果を超えて,発光部と受光手
段のみで位置検出をするという作用効果を備えるものではなかった。
したがって,上記1①及び④ないし⑥の訂正は,これによって新た
な作用効果を奏するものであり,実質的に特許請求の範囲を変更する
ものである。
,,b本件訂正により追加された上記2①ないし④の構成は次のとおり
本件発明2では予定されていなかった「移動するキャリッジ上の特,
定のインクタンクの発光部の光を受光部が受光することによって,イ
ンクタンクの位置を検出する」という,新たな作用効果を奏するもの
である。
すなわち,本件発明2においては,インクタンクの搭載位置を検出
するとの構成は備えられていたものの「キャリッジの移動」や「受,
光部,それらの位置関係「キャリッジの位置に応じて特定された」,
インク色のインクタンクを光らせ「受光部の受光結果に基づきイ」,
ンクタンクの位置を検出する,などの記載は存在しなかった。」
そのため,インクタンクの発光部の光により位置検出手段がインク
,,タンクの位置を検出することは読み取れるもののかかる位置検出を
移動するキャリッジ上の特定のインクタンクの光を受光部が受光する
ことにより行うという作用効果は,本件発明2の構成から奏するとは
いえないものであった。
したがって,上記2①ないし④の訂正は,これによって新たな作用
効果を奏するものであり,実質的に特許請求の範囲を変更するもので
ある。
ウ構成要件1D’に加えた訂正は,新規事項を追加するものであること
原告は本件訂正により構成要件1Dの発光部及び同2D3の投,,「」「
光するための発光部」を「投光するための光を発光する発光部」に訂正,
し,かかる訂正は特許請求の範囲を減縮するものであると主張する。
しかしながら「投光するための光を発光する発光部」と訂正すること,
は,本件訂正前の本件明細書に記載のない新規事項の追加に当たるもので
あり,特許法134条の2第5項,126条3項に違反する。
すなわち,本件明細書には「投光するための光を発光する」という記,
載はなく,発光部の発光の形態として本件明細書に記載されているのは,
受光手段に当たる第1受光部と対向する位置にあるインクタンクの発光部
が第1受光部に対して直接光を照射する構成のみである(図29,30参
照。)
これに対し「投光するための光を発光する」という構成は,受光手段,
に対して直接光を照射する場合だけでなく,受光した光が反射するなどし
,,て間接的に投光されるものも含むことになるのでありそのような構成は
本件明細書に記載されていないから,新規事項の追加に当たる。
[原告の主張]
ア「結合」と「接続」は,同じ意味で使用されていること
本件訂正の前後において「結合」と「接続」は,同じ意味で使用され,
ている。
すなわち,本件明細書の実施例の説明中の「またパッド102およびコ
ネクタ152が接合した状態になる(段落【0054「一方,接点」】),
としてのパッド102およびコネクタ152は金属など比較的剛性の高い
導電部材であり,これらの間には良好な電気接続性が確保されるべきであ
る(段落【0057)との記載や,インクタンクのホルダへの装着に。」】
よってパッド102がコネクタ152と接触するようになる様子を描いた
図15を見れば,構成要件1A2及び2A2の「電気的に結合可能」にお
「」,「」,ける結合とは電気が流れるようにつながるという意味であって
「」,。一体になるという意味ではないことを容易に理解することができる
異なる用語が同一の意味に使用されていることは誤解を生じかねないた
め,用語を統一することが明りょうでない記載の釈明に該当することは当
然である。
イ構成要件1A3’及び1A5’に係る訂正は,特許請求の範囲を減縮す
るものであること
前記[被告の主張]イ(ア)の構成要件1A3’及び1A5’に係る訂正
(前記1①ないし⑥)は,液体インクタンクを搭載したキャリッジの動き
を具体的に特定することで,液体収納容器の配置も具体的に特定している
ものである。また,光照合処理は,記録装置側の構成とともに,液体イン
ク収納容器の構成がそろうことで初めて実現するのであり,液体インク収
納容器と無関係な発明ではない。
以上のとおり,上記訂正は,液体インクタンクに係る発明の構成を減縮
したものにほかならない。
ウ構成要件2A3’及び2F’などに加えた訂正は,特許請求の範囲を拡
張又は変更するものではないこと
本件明細書には「キャリッジに搭載された複数のインクタンクについ,
て,その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させるとともに,
上記処置の位置での発光を検出するようにすることにより,発光が検出さ
れないインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識できる段」(
落【0019)との記載があり,インク色ごとの発光位置を設定し,そ】
の受光結果により位置認証するという,本件光照合処理についての原理な
いし仕組みが開示されている。かかる記載と,上記原理ないし仕組みを具
体化した光照合処理の実施例の説明(段落【0108】∼【0112)】
を併せ読めば,上記原理ないし仕組みをどのように具体化すればよいか,
当業者ならば,容易に理解することが可能である。
そして,本件訂正前の請求項1及び請求項5には,本件光照合処理に必
要な構成はすべて記載されていたし,当業者であれば,本件訂正前の請求
項1及び請求項5の構成は「光照合処理が可能なように」設計すべきも,
のであることも,容易に理解することができたものである。
以上のとおり,本件訂正前の請求項1及び請求項5においても,本件光
照合処理を具体化することは容易だったものであり,被告の主張するよう
に,発光部と受光部の関係が不明確であったとか,位置検出という作用効
果を備えることがなかったということはない。
本件訂正によって,光照合処理の作業手順に関連する装置の動作(構成
要件1A5’及び2F’の「前記キャリッジの位置に応じて特定されたイ
ンク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ」等)や,光照合
処理という作用効果が可能であること構成要件1A5及び2Fのそ(’’「
の光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体
インク収納容器の搭載位置を検出する」という記載)を明記したのは,本
件明細書の記載を反映させて,本件訂正前の請求項1及び請求項5の内容
をより明確にしただけであり,新たな作用効果を付加したものではなく,
訂正により別個の発明となるものではない。
エ構成要件1D’に加えた訂正は,新規事項を追加するものではないこと
請求項の権利範囲は,実施例に限定されないというのが原則であり,実
施例は,あくまで請求項を実施する具体例にすぎず,その形態に請求項の
範囲が限定されるものではない。したがって,明細書の開示と技術常識と
に基づき当業者が容易に実施できる範囲において,発光部の光を受光手段
で受光して,光照合処理が可能になる構成であれば,途中にミラーを介し
,,,たり光伝達手段が介在していたりしても構わないしそのようなものも
訂正の前後を問わず,本件発明1の発明思想を利用した構成であり,本件
訂正前の請求項1の権利範囲に含まれる。
本件訂正前の請求項1においても,本件明細書の光照合処理の説明(段
落【0108】∼【0112)を読めば,インクタンクの「発光部」か】
らの光は「受光部「受光手段」に投光されるものであることは,当業,」,
者ならば容易に理解することができたものである。そして,本件明細書に
は,それを実現する構成の実施例として,インクタンク下部の発光部の光
を受光手段が直接受光する構成(図11)のほか,導光性部材を介する構
成(図12)インクタンクの上部に発光部を付けた構成(図35,支持)
部材の操作部にも光を照射する構成(図36)等,いくつかの構成が開示
されている。
したがって,本件訂正前の請求項1に,ミラーによる反射光や光伝達手
段を介した伝達光を受光手段に投光する形態が含まれることも,本件発明
1の権利範囲内であるといえ,本件訂正によって新規事項が追加されたも
のではない。
()争点3−5−2(本件訂正発明は,進歩性を欠くか)について8
[被告の主張]
【本件訂正発明1について】
ア無効理由1’
本件訂正発明1は,乙55公報記載の発明及び周知技術等に基づいて,
又は,乙55公報記載の発明及び乙18公報記載の発明に基づいて,当業
者が容易に発明をすることができたものである。
(ア)乙55公報の記載
乙55公報には,次のとおり,本件訂正発明1の構成要件に対応する
記載が存在する。
a乙55公報には,前記()[被告の主張【本件発明1について】3]
ア(ア)の記載があり,構成要件1A1(請求項4,請求項16,1’
頁10行,1A2(18頁1行∼3行,同頁8行∼20行,43)’
頁1行∼4行,1A4(1A2’に対応する記載のほか17頁1)’
9行∼26行,1A6(30頁24行∼25行,31頁5行∼7)’
,),’(’),行同頁12行∼13行1B1A2に対応する記載と同じ
1C(18頁1行∼3行,20頁17行∼21行,21頁1行∼3’
行)及び1F’に相当する構成が開示されている(なお,同事実につ
いては,当事者間に争いがない。。)
b構成要件1A5’に対応する記載
乙55公報には,プリンタのキャリッジをインク交換位置まで移動
させ,交換の対象となる特定のインクカートリッジに対応するLED
を点灯させる構成が開示されている(41頁17行∼22行。)
また,後記cのとおり,キャリッジを所定の「インク交換位置」ま
で移動させ,特定のインクカートリッジに対応するキャリッジ上のL
EDを点灯させる構成について,発光部をインクタンクに備えるか又
はキャリッジに備えるかは,実質的に等価である。
したがって,乙55公報には,構成要件1A5’のうち「前記キ,
ャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容
器の前記発光部を光らせ」に対応する構成が,開示されている。
c構成要件1D’に対応する記載
乙55公報には,前記bのとおり,キャリッジ上に備えられたLE
D(発光部)が開示されている。
また,乙55公報には,前記()[被告の主張【本件発明1につ3]
いて】ア(ウ)bのとおり,報知手段として種々の方法を取ることがで
きることが示唆されており(42頁2行∼10行,発光部をキャリ)
ッジ上に設けるか又はインクタンク上に設けるかは,設計事項にすぎ
ない。
したがって,乙55公報には,ユーザーに交換対象となるインクカ
ートリッジを指し示す報知手段の1例としてのLED発光部実,「」(
質的にインクタンクに設けられた発光部を含む等価物)が,開示され
ている。
d構成要件1E’に対応する記載
構成要件1E’は「個体情報」が「色情報」に変更された点を除,
き,構成要件1Eと同じである。乙55公報に構成要件1Eに対応す
,[]る記載が存在すると解すべきことについては前記()被告の主張3
【本件発明1について】ア(ウ)cのとおりである。
(イ)乙55公報記載の発明
乙55公報に上記(ア)の記載が存在することから,同公報には,次の
構成(以下「構成1a1」などという)を含み,かつ,前記の構成’。
要件1A1,1A2,1A4,1A6,1B,1C’及び1F’’’’’’
に相当する構成を備える,液体インク収納容器に関する発明(以下「乙
55発明1」という)が記載されている。’
1a5’前記キャリッジを所定の位置に移動させて特定のキャリッジ
上のLEDを点灯させるプリンタの
1d’報知手段の1例としてのLED発光部(実質的にインクタン
クに設けられた発光部を含む等価物)と,
1e’前記端子から入力される識別データに係る信号と,前記メモ
リアレイの保持する識別データとに応じてプリンタの操作パネ
ル上のランプを点滅させるための応答をプリンタに対して行
い,また,前記端子から入力された所定のインク残量値に係る
信号と,メモリアレイの保持するインク残量情報とに応じてイ
ンクカートリッジに対応するLEDを点灯又は点滅させるため
の応答をプリンタに対して行う記憶装置
(ウ)本件訂正発明1と乙55発明1’の一致点
a乙55発明1’が,構成要件1A1,1A2,1A4,1A6’’’
,1B,1C’及び1F’に相当する構成を備えることについて’’
は,前記(ア)のとおりである。
b構成要件1A5’について
キャリッジを所定の「インク交換位置」まで移動させ,特定のイン
クカートリッジに対応するキャリッジ上のLEDを点灯させる構成
は,前記(ア)bのとおり発光部をインクタンクに備えるか又はキャリ
ッジに備えるかが実質的に等価であることから,構成要件1A5’の
「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体イン
ク収納容器の前記発光部を光らせ」に対応する。
したがって,上記限度で,構成1a5’と構成要件1A5’は,一
致する。
c構成要件1D’について
構成1d’は,発光部(LED)が液体収納容器(インクカートリ
ッジ)側ではなくプリンタ側のキャリッジにある点が,構成要件1D
’と異なる。
しかしながら前記()被告の主張本件発明1についてア(ウ),[]【】3
bのとおり,液体収納容器と記録装置とが電気的に接続されている以
,,上制御の対象となっている発光部を個々の液体収納容器に設けるか
又は,個々の液体収納容器に対応ししかも極めて隣接した位置にある
記録装置側のキャリッジ箇所に設けるかは,単なる設計上の違いにす
ぎず,実質的な相違点とはならないというべきである。
また,仮に,この点が相違点であるとしても,後記のとおり,イン
クカートリッジに発光部を設けることは,本件特許の最先の優先日当
時における周知慣用技術であったものであるから,構成1d’におけ
,。る発光部をインクカートリッジに設けることは極めて容易であった
d構成要件1E’について
’’,構成1eが構成要件1Eに対応すると解すべきことについては
前記()[被告の主張【本件発明1について】ア(ウ)cと同様であ3]
る。
(エ)本件訂正発明1と乙55発明1’が相違する可能性のある点
乙55発明1’の構成と本件訂正発明1の構成要件が相違する可能性
があるのは,①乙55発明1’には,構成要件1A3(前記キャリ’
ッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように
配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出
用の受光手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光することによって前
記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検
出手段)及び同1A5(前記キャリッジの位置に応じて特定されたイ’
ンク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光
結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収
納容器の搭載位置を検出する記録装置)に相当する構成が存在しないこ
と(以下「相違点1−1」という,②乙55発明1’では,液体’。)
インク収納容器に「受光手段に投光するための光を発光する発光部」が
備えられている(構成要件1D)のではなく,プリンタ側のキャリッ’
ジに,受光手段に投光するためのものではない発光部が備えられている
こと(以下「相違点1−2」という,である。’)
(オ)本件訂正発明1の容易想到性(その1)
<相違点1−1’について>
a記録装置に,液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置
検出用の受光手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光することによ
って前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容
器位置検出手段を設けるという構成要件1A3’及び1A5’の構成
は,記録装置についての要件であるにすぎず,本件訂正発明1の進歩
性を検討する上で無視されるべき事項であること,及び,受光手段に
よる発光部からの光の検出は,本件発明の結果にすぎず,本件訂正発
明の技術的思想には含まれないことについては,前記()[被告の主3
張【本件発明1について】ア(エ)<相違点1−1について>aのと]
おりである。
b仮に,乙55発明1’において構成要件1A3’及び1A5’に相
当する構成を欠くことが相違点であるとしても,上記構成は,次のと
おり,本件特許の最先の優先日当時において周知慣用技術であったも
のであり,同技術を乙55発明1’に適用することは,当業者にとっ
て容易であった。
(a)乙18公報には,前記()[被告の主張【本件発明1につい3]
て】ア(エ)<相違点1−1について>b(c)の記載(請求項7,4
頁5欄2行∼7行,5頁7欄1行∼4行,7頁11欄22行∼33
行)があり,インクジェット記録装置にインクタンク内の立体形半
導体素子の発光手段からの光を受光する受光手段を一つ備えるとい
う構成,及び,受光手段で受光することによりインクタンクの装着
位置を検出する構成を備えることが開示されている。また,乙18
公報には,上記の記載があり,複数のインクタンクが,インクの種
類に従ってキャリッジ上の所定の位置に装着される構成も開示され
ているから,上記のとおりプリンタが「受光手段を一つ備える」こ
ととの関係上,構成要件1A3’の「キャリッジの移動により対向
する液体インク収納容器が入れ替わるように配置され」という構成
も開示されていることが明らかである。
なお,原告は,後記のとおり「乙18公報の)図7から,光,(
センサ550は,各インクタンクに対応するインクタンクホルダの
底面に,各インクタンクの装着箇所ごとに設置されるものと理解さ
れる」と主張する。しかしながら,同図には,光センサの設置位置
を原告主張のように限定する記載はまったく存在しない上,受光手
段である光センサをインクタンクごとに設けることは,コストがか
かる点で不合理であるから,移動するキャリッジを有するプリンタ
において,受光手段は一つのみを設けて,キャリッジの移動により
順次インクタンクからの光を受光する構成をとることが常識であ
る。このことは,原告自らが,本件特許の最先の優先日前に発売し
た原告製プリンタ(平成15年4月24日発売のPIXUS65
00i。乙51)において,受光手段を一つだけ設けて,キャリッ
ジの移動により順次各インクタンクからの光を受光する構成をとっ
ていたことからも明白である。
(b)乙36公報には,前記()[被告の主張【本件発明2につい3]
て】ア(カ)a(c)の記載(3頁3欄6行∼10行,同頁4欄36行
∼4頁5欄18行,同頁6欄49行∼5頁7欄13行,同欄27行
∼47行,5頁8欄23行∼28行)があり,インクジェットプリ
ンタにおいて,プリンタ側のエミッタ(発光素子)からインクカー
トリッジ上の指標位置(反射部)に光を当て,反射してインクカー
「」トリッジから戻ってきた光をプリンタ側に一つ備えられた検出器
が受け取ることによって,キャリッジのどのカートリッジ位置にど
のインクカートリッジが取り付けられているかを識別する構成,及
び,かかる構成が,移動するキャリッジ上に複数装着され,キャリ
ッジの移動により「検出器」に対して入れ替わるように配置された
インクカートリッジの識別にも適用可能であることが,開示されて
いる。なお,上記構成は,インクカートリッジに発光部を設けるの
ではなく,反射光を用いるものであるが,インクカートリッジから
の光を受光してインクカートリッジの位置を検出する位置検出手段
という,本件訂正発明1と同様の構成が開示されていることは明ら
かである。
(c)乙2公報には,前記()[被告の主張【本件発明1について】3]
ア(エ)<相違点1−1について>b(a)のとおり,インクジェット
記録装置からインクタンク内の素子に光を発信し,外部B(インク
ジェット記録装置)で受信することにより素子の位置を検出する受
光手段を設けることが開示されている(請求項21,5頁7欄35
行∼36行,8頁13欄27行∼32行,同頁14欄2行∼6行,
同欄10行∼14行。なお,同公報には受光手段の数は明記され)
ていないが,前記(a)のとおり,受光手段を一つとすることは本件
特許の最先の優先日において技術常識であったものであるから,一
つの受光手段が開示されているものと解することができる。
(d)上記(a)ないし(c)のほかに,発光と受光による位置検出手段
という構成を開示したものとして,前記()[被告の主張【本件3]
発明1について】ア(エ)<相違点1−1について>b(b)(乙33
公報4頁5欄9行∼15行,8頁13欄47行∼14欄6行,同欄
12行∼14行,同欄24行∼30行)及び(e)(乙42公報請求
項1,11頁19欄45行∼20欄1行,同欄9行∼22行,14
頁25欄15行∼21行,同頁26欄38行∼45行,18頁34
欄40行∼48行,20頁37欄32行∼38欄46行,22頁4
1欄26行∼32行)のとおり,乙33公報及び乙42公報が存在
する。
<相違点1−2’について>
プリンタにおいて,プリンタ側の受光手段に投光するための光を発光
するための発光部を液体インク収納容器に設けることが本件特許の最先
の優先日当時において周知慣用技術であったこと,及び,同技術を乙5
5発明1’に適用することが当業者にとって容易であったことについて
は,前記()[被告の主張【本件発明2について】ア(カ)のとおりで3]
ある。
(カ)本件訂正発明1の容易想到性(その2)
前記の相違点1−1’及び同1−2’は,いずれも,乙55発明1’
に乙18公報記載の発明を組み合わせることによって容易に克服するこ
とができるものであり,かかる組合せにより,当業者が容易に想到する
ことができた。
上記相違点がいずれも乙18公報に開示されていること,乙55発明
1’と乙18公報記載の発明が技術分野及び発明の課題について共通性
を有しており,乙18公報記載の発明を乙55発明1’に適用すること
が当業者にとって極めて容易であったことについては,前記()[被告3
の主張【本件発明2について】ア(オ)と同様である。]
イ無効理由2’
本件訂正発明1は,乙18公報記載の発明及び周知技術等に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ア)乙18公報の記載
乙18公報には,次のとおり,本件訂正発明1の構成要件に対応する
記載が存在する。
a乙18公報には,前記()[被告の主張【本件発明1について】3]
イ(ア)の記載が存在し,構成要件1A1(請求項7∼9,1A6’)
(2頁1欄47行∼50行,1D(請求項7,4頁5欄2行∼7’)’
行,5頁7欄1行∼4行,7頁11欄22行∼23行)及び1F’に
相当する構成が開示されている(なお,同事実については,当事者間
に争いがない。。)
b構成要件1A2’に対応する記載
乙18公報には,前記()[被告の主張【本件発明1について】3]
イ(ア)bのとおり,インクジェット記録装置が,インクタンクに備え
られる接続手段(接点)と電気的に接続して,インクタンクに起電力
を供給する接続手段(接点)を備えることが,開示されている(請求
項1,請求項4,5頁7欄1行∼3行,4頁6欄9行∼13行,3頁
3欄25行∼28行。)
c構成要件1A3’に対応する記載
乙18公報には,前記【本件訂正発明1について】ア(オ)b(a)の
とおり,インクジェット記録装置にインクタンク内の立体形半導体素
子の発光手段からの光を受光する受光手段を一つ備えるという構成,
上記受光手段で受光することによりインクタンクの装着位置を検出す
る構成,及び,キャリッジの移動により対向する液体インク収納容器
が入れ替わるように配置されるという構成が,開示されている(請求
項7,4頁5欄2行∼7行,5頁7欄1行∼4行,7頁11欄22行
∼33行。)
d構成要件1A5’に対応する記載
構成要件1A5’のうち「その光の受光結果に基づき前記液体イ,
ンク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検
出する」構成が乙18公報に開示されていることについては,上記c
のとおりである。
また,乙18公報には,構成要件1A5’のうち「前記キャリッ,
ジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前
記発光部を光らせ」との構成も,開示されている。すなわち,乙18
公報に構成要件1A1’及び1D’に相当する構成が開示されている
ことについては,前記aのとおり当事者間に争いがないところ,乙1
8公報に開示されている,インクジェット記録装置に備えられた位置
検出用の受光手段は,前記cのとおり一つである。したがって,キャ
リッジに搭載され移動する複数のインクタンクのうち,キャリッジの
位置に応じて,一つ備えられた受光手段と特定の位置関係に来たイン
クタンクの発光部を光らせることは,開示されているに等しい。
e構成要件1B’に対応する記載
乙18公報には,前記bのとおり,インクジェット記録装置側の接
続手段と電気的に接続する接続手段をインクタンクが備えていること
が,実質的に開示されている。
f構成要件1C’に対応する記載
乙18公報には,前記()[被告の主張【本件発明1について】3]
イ(ア)fのとおり,タンク内情報を保持する情報保持部が実質的に開
示されている(5頁8欄11行∼25行。)
(イ)乙18公報記載の発明
乙18公報に上記(ア)の記載が存在することから,同公報には,次の
構成(以下「構成1(a)2」などという)を含み,かつ,前記の構’。
成要件1A1,1A6,1D’及び1F’に相当する構成を備える,’’
液体インク収納容器に関する発明(以下「乙18発明1」という)が’
記載されている。
1(a)2’該インクタンクに備えられる接続手段と電気的に接続して
インクタンクに起電力を供給する接続手段と,
1(a)3’キャリッジの移動により対向するインクタンクが入れ替わ
るように配置され前記インクタンクの発光部からの光を受光す
る位置検出用の受光手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光
することによって前記インクタンクの装着位置を検出するイン
クタンク位置検出手段と,
1(a)5’前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記
インクタンクの前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づ
き前記インクタンク位置検出手段は前記インクタンクの装着位
置を検出するインクジェット記録装置の
1(b)’前記インクジェット記録装置側接続手段と電気的に接続す
る前記接続手段と,
1(c)’少なくとも情報入手手段が入手したインクタンクのpH,
タンク内の圧力変化,インク残量,インク有無等のタンク内情
報を保持する情報保持部と,
(ウ)本件訂正発明1と乙18発明1’の一致点
a乙18発明1’が,構成要件1A1,1A6,1D’及び1F’’
’,。に相当する構成を備えることについては前記(イ)のとおりである
また,構成1(a)2’が構成要件1A2’に,構成1(a)3’が構成
要件1A3’に,構成1(a)5’が構成要件1A5’に,構成1(b)
’が構成要件1B’に,それぞれ相当することは明らかである。
b構成要件1C’について
構成1(c)’の「情報入手手段が入手したインクタンクのpH,タ
ンク内の圧力変化,インク残量,インク有無等のタンク内情報」は,
「色情報」との明示の記載はないものの,各インクタンクが個別に有
する情報であるから,インクタンクの種類に関する「色情報」と同様
の情報といえる。したがって,構成1(c)’は,構成要件1C’に相
当する。
そして,情報を入手する以上,入手した情報を少なくとも一時的に
保持することは当然であるから,かかる入手したタンク内情報を保持
する情報保持部が,実質的に開示されている。また,仮に,上記の点
が相違点となるとしても,インクタンクに情報保持部を設けることは
後記のとおり周知技術であることから,乙18発明1’において情報
保持部を設けることは,極めて容易であったものである。
(エ)本件訂正発明1と乙18発明1’が相違する可能性のある点
乙18発明1’の構成と本件訂正発明1の構成要件が相違する可能性
のある点は,①乙18発明1’には,構成要件1A4’に相当する構
成(バス接続回路)が存在しないこと(以下「相違点()−1」とい1’
う,②乙18発明1’には,情報を入手する「情報入手手段」が明)
示されているだけで「情報保持部」を備えるという明示の記載がない,
こと(以下「相違点()−2」という,③乙18発明1’には,構1’)
成要件1E(前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記’
情報保持部の保持する色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制
御部)に相当する構成が存在しないこと(以下「相違点()−3」と1’
いう,である。)
(オ)本件訂正発明1の容易想到性
<相違点()−1’について>1
記録装置側にバス接続回路を設けることが本件特許の最先の優先日当
時において周知慣用技術であったこと,及び,同技術を乙18発明1’
に適用することが当業者にとって容易であったことについては前記(),3
[被告の主張【本件発明1について】イ(オ)と同様である。]
なお,構成要件1A4’のうち「色情報に係る信号を発生するため,
の」の点については,前記()エのとおり,不明確な記載であり,そも5
そもいかなる技術的意義を有するのかすら不明であるから,進歩性の検
討をするために先行技術と対比するに当たっては,技術的に意味のある
記載とは考えず,無視するのが相当である。
<相違点()−2’について>1
インクタンクに少なくともインクタンクの色に関する情報を保持可能
な情報保持部を設けることは,次のとおり,本件特許の最先の優先日当
時において周知慣用技術であったものであり,同技術を乙18発明1’
に適用することは,当業者にとって容易であった。
a乙2公報には前記()被告の主張本件発明1についてイ(オ),[]【】3
b(a)の記載があり,情報入手手段より入手した各インクタンクのイ
ンクの種類についての情報を蓄積する「情報蓄積手段」が記載されて
いる(6頁10欄6行∼14行,同欄24行∼26行,同欄37行∼
45行,同欄49行∼7頁11欄2行。かかる「情報蓄積手段」が)
インクタンクの色情報を保持可能な情報保持部に相当することは,明
らかである。
b乙17公報には,情報入手手段より入手した各インクタンクのイン
ク色材情報等のタンク内部情報やインクタンクの識別のための情報と
,「」いった各インクタンクの色に関する情報を蓄積する情報蓄積手段
(,,が記載されている5頁8欄8行∼11行6頁9欄17行∼23行
同欄44行∼10欄3行,7頁11欄13行∼17行。)
c乙55公報には,インクカートリッジの有する記憶装置内に,イン
クカートリッジの識別のための識別データを保持するメモリアレイを
備える構成が開示されている(18頁1行∼3行,20頁17行∼2
1行,21頁1行∼3行。かかるメモリアレイがインクタンクの色)
情報を保持可能な情報保持部に相当することは明らかである。
d乙1公報には,インクカートリッジの有する記憶装置内に,個々の
インクカートリッジのインク色を識別するための識別情報(色情報)
を保持する記憶素子(メモリアレイ)を備える構成が開示されている
(7頁11欄23行∼38行。)
<相違点()−3’について>1
液体収納容器に「接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持
部の保持する色情報とに応じて発光部の発光を制御する制御部」を設け
ることは,次のとおり,本件特許の最先の優先日当時において周知慣用
技術であったものであり,同技術を乙18発明1’に適用することは,
当業者にとって容易であった。
a乙2公報には,インクタンク内の立体形半導体素子において,入手
したインクの種類等のインクタンク内の情報と「情報蓄積手段」か,
ら読み出された情報とを比較し,光等による情報伝達の必要性を判断
する「判断手段」を備えることが記載されている(6頁10欄6行∼
14行,同欄24行∼26行,同欄30行∼31行,同欄37行∼4
5行,同欄49行∼7頁11欄2行,同欄5行∼17行。)
b乙17公報には,インクタンク内の立体形半導体素子において,イ
ンクタンク識別のための情報と,インクタンクの「情報蓄積手段」に
記憶されている情報を比較し,光等による情報伝達の必要性を判断す
る「判断手段」が記載されている(5頁8欄8行∼11行,6頁9欄
17行∼23行,同欄44行∼10欄3行,同欄36行∼38行,7
頁11欄13行∼17行,同欄18行∼27行。)
c乙55公報には,前記ア(ア)のとおり,インクカートリッジ上の記
憶装置が,自ら保有する識別データ(個々のインクカートリッジ個体
を識別するための色情報)と,インクジェットプリンタからプリンタ
との接点を通じて送信された識別データを比較し,一致した場合に応
答する機能を有し,応答の有無に応じてインクジェットプリンタ上の
ランプを発光させることが記載されており,かかる識別データの一致
を判断する記憶装置が,インクジェットプリンタとの接点から入力さ
れる色情報に係る信号と,記憶装置の有する色情報に応じて発光を制
御する役割を有していることが,実質的に開示されている。
d乙1公報には,各インクタンクに備えられている記憶素子に格納さ
れている識別情報(インク色を識別するための情報)と,インクジェ
ットプリンタ側からインクジェットプリンタとの接点を通じて送信さ
れる識別情報とを比較し,一致した場合にプリンタに対し応答する機
能を有する記憶装置,及び,かかる応答の有無により各インクカート
リッジに対応した表示ランプを点滅させることが記載されており,か
かる識別情報の一致を判断する記憶装置が,インクジェットプリンタ
との接点から入力される色情報に係る信号と,記憶装置の有する色情
報に応じて発光を制御する役割を有していることが実質的に開示され
ている(7頁11欄14行∼17行,同欄35行∼43行,8頁14
欄30行∼47行,10頁17欄2行∼6行。)
【本件訂正発明2について】
ア無効理由1’
本件訂正発明2は,乙55公報記載の発明及び周知技術等に基づいて,
又は,乙55公報記載の発明及び乙18公報記載の発明に基づいて,当業
者が容易に発明をすることができたものである。
(ア)乙55公報の記載
乙55公報には,次のとおり,本件訂正発明2の構成要件に対応する
記載が存在する。
a乙55公報には,前記()[被告の主張【本件発明2について】3]
ア(ア)の記載があり,構成要件2A1(請求項4,請求項16,1’
頁10行,2A2(18頁1行∼3行,同頁8行∼20行,43)’
頁1行∼4行,2A4(17頁19行∼26行,18頁1行∼3)’
行,同頁8行∼20行,43頁1行∼4行,2B(請求項27,)’
16頁21行,30頁24行∼25行,31頁5行∼7行,同頁12
行∼13行,2C,2D1(18頁1行∼3行,同頁8行∼20)’’
行,43頁1行∼4行,2D2(18頁1行∼3行,20頁17)’
行∼21行,21頁1行∼3行)及び2G’に相当する構成が開示さ
れている(なお,同事実については,当事者間に争いがない。。)
b構成要件2D3’に対応する記載
乙55公報には,前記【本件訂正発明1について】ア(ア)cのとお
り,キャリッジ上に備えられたLED(発光部)が開示されており,
報知手段の1例としてのLED発光部(実質的にインクタンクに設け
られた発光部を含む等価物)が開示されている。
c構成要件2D4’に対応する記載
乙55公報には,前記【本件訂正発明1について】ア(ア)dのとお
,,()りインクカートリッジ上の記憶装置がメモリアレイ情報保持部
の保有する識別データ(色情報)と,端子(接点)から入力された識
別データに係る信号を比較し一致した場合に応答する機能を有してお
り,応答のない場合には,プリンタは操作パネル上のランプを点滅さ
せることが記載されている。
なお,構成要件2D4’では「一致した」場合に発光させるのに対
し,乙55公報においては「一致しない」場合に発光させるという記
載となっている点は,単に発光と消灯を逆に指示しているというもの
にすぎず「一致した」場合に発光させることを実質的に開示してい,
るに等しいものといえる。
d構成要件2F’に対応する記載
乙55公報には,前記【本件訂正発明1について】ア(ア)bのとお
り,プリンタのキャリッジをインク交換位置まで移動させ,交換の対
象となる特定のインクカートリッジに対応するLEDを点灯させる構
成が開示されている。
(イ)乙55公報記載の発明
乙55公報に上記(ア)の記載が存在することから,同公報には,次の
構成(以下「構成2d3」などという)を含み,かつ,前記の構成’。
要件2A1,2A2,2A4,2B,2C,2D1,2D2’’’’’’’
及び2G’に相当する構成を備える,液体インク供給システムに関する
発明(以下「乙55発明2」という)が記載されている。’
2d3’報知手段の1例としてのLED発光部(実質的にインクタンク
に設けられた発光部を含む等価物)と,
2d4’前記端子から入力される識別データに係る信号と,前記メモリ
アレイの保持する識別データを比較し,プリンタの操作パネル上
のランプを点滅させるために両者が一致する場合にプリンタに応
答し一致しない場合には応答しない記憶装置と,を有し
2f’前記キャリッジを所定の位置に移動させて特定のキャリッジの
LEDを点灯させる
(ウ)本件訂正発明2と乙55発明2’の一致点
’,’,’,’,’,a乙55発明2が構成要件2A12A22A42B
2C,2D1,2D2’及び2G’に相当する構成を備えること’’
については,前記(ア)のとおりである。
b構成要件2D3’について
構成2d3’は,発光部がインクカートリッジ側ではなくプリンタ
側のキャリッジにある点が,構成要件2D3’と異なる。
しかしながら,この点が実質的な相違点とならないこと,及び,仮
に,この点が相違点となるとしても,構成2d3’における発光部を
インクカートリッジに設けることが極めて容易であったことについて
は,前記【本件訂正発明1について】ア(ウ)cのとおりである。
c構成要件2D4’について
構成2d4’が構成要件2D4’に対応することについては,前記
【本件訂正発明1について】ア(ウ)dと同様である。
d構成要件2F’について
構成2f’が構成要件2F’に対応することについては,前記(ア)
dのとおりである。
(エ)本件訂正発明2と乙55発明2’が相違する可能性のある点及び本
件訂正発明2の容易想到性
乙55発明2’の構成と本件訂正発明2の構成要件が相違する可能性
がある点は,前記【本件訂正発明1について】ア(エ)における乙55発
明1’の構成と本件訂正発明1の構成要件が相違する可能性のある点と
同じである。
上記相違点が,本件特許の最先の優先日当時において周知慣用技術で
あったものであり,同技術を乙55発明2’に適用することが容易であ
ったことについては,前記【本件訂正発明1について】ア(オ)のとおり
である。
また,上記相違点がいずれも乙18公報に開示されていること,乙5
5発明2’と乙18公報記載の発明が技術分野及び発明の課題について
共通性を有しており,乙18公報記載の発明を乙55発明2’に適用す
ることが当業者にとって極めて容易であったことについては,前記()3
[被告の主張【本件発明2について】ア(オ)と同様である。]
イ無効理由2’
本件訂正発明2は,乙18公報記載の発明及び周知技術等に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ア)乙18公報の記載
乙18公報には,次のとおり,本件訂正発明2の構成要件に対応する
記載が存在する。
a乙18公報には,前記()[被告の主張【本件発明1について】3]
イ(ア)の記載が存在し,構成要件2A1(請求項8,請求項9,’)
2B(2頁1欄47行∼50行,4頁6欄46行∼5頁7欄1行,’)
2C,2D3(請求項7,4頁5欄2行∼7行,5頁7欄1行∼’’
4行,7頁11欄22行∼23行)及び2G’に相当する構成が開示
されている(なお,同事実については,当事者間に争いがない)。
b構成要件2A2’は,構成要件1A2’と同一である。乙18公報
に構成要件1A2’に対応する記載が存在することについては,前記
【本件訂正発明1について】イ(ア)bのとおりである。
c構成要件2A3’及び2F’と構成要件1A3’は,表現に若干の
差異はあるものの,実質的に同一である。乙18公報に構成要件1A
3’に対応する記載が存在することについては,前記【本件訂正発明
1について】イ(ア)cのとおりである。
d構成要件2D1’は,構成要件1B’と同一である。乙18公報に
構成要件1B’に対応する記載が存在することについては,前記【本
件訂正発明1について】イ(ア)eのとおりである。
’’,「」e構成要件2D2と構成要件1Cは前者が色情報を保持する
と記載されているのに対し,後者は「保持可能」と記載されている点
を除き,同一である。乙18公報には,前記【本件訂正発明1につい
て】イ(ア)fのとおり,インクタンクがインクのpH,タンク内の圧
力変化,インク残量,インク有無等のタンク内情報を保持する情報保
持部を有することが実質的に開示されている。
f乙18公報には,前記【本件訂正発明1について】イ(ア)dのとお
り,キャリッジの位置に応じて特定されたインク色のインクタンクの
発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき,インクタンク位置検出
手段がインクタンクの装着位置を検出することが開示されており,構
成要件2F’に相当する構成が開示されている。
(イ)乙18公報記載の発明
乙18公報に上記(ア)の記載があることから,同公報には,次の構成
(以下「構成2(a)2」などという)を含み,かつ,前記の構成要’。
件2A1,2B,2C,2D3’及び2G’に相当する構成を備え’’’
る,液体インク供給システムに関する発明(以下「乙18発明2」と’
いう)が記載されている。
2(a)2’該インクタンクに備えられる接続手段と電気的に接続して
インクタンクに起電力を供給する接続手段と,
2(a)3’該インクタンクの発光部からの光を受光する位置検出用の
受光部を一つ備え,該受光部で該光を受光することによって前
記インクタンクの装着位置を検出するインクタンク位置検出手
段と,
2(d)1’前記インクタンクは,前記インクジェット記録装置側接続
手段と電気的に接続する接続手段と,
2(d)2’少なくとも情報入手手段が入手したインクタンクのpH,
タンク内の圧力変化,インク残量,インク有無等のタンク内情
報を保持する情報保持部と,
2(e)’前記受光部は,前記キャリッジの移動により対向するイン
クタンクが入れ替わるように配置され
2(f)’前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記
インクタンクの前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づ
き前記インクタンク位置検出手段は前記インクタンクの装着位
置を検出する
(ウ)本件訂正発明2と乙18発明2’の一致点
a乙18発明2’が,構成要件2A1,2B,2C,2D3’及’’’
び2G’に相当する構成を備えることについては,前記(イ)のとおり
である。また,構成2(a)2’が構成要件2A2’に,構成2(a)3
’が構成要件2A3’に,構成2(d)1’が構成要件2D1’に,そ
れぞれ相当することは明らかである。
b構成要件2D2’について
’「,構成要件2D2の情報入手手段が入手したインクタンクのpH
,,」,タンク内の圧力変化インク残量インク有無等のタンク内情報は
前記【本件訂正発明1について】イ(ウ)bのとおり,各インクタンク
が個別に有する情報であって,インクタンクの「色情報」と同様の情
報といえる。また,情報を入手する以上,入手した情報を少なくとも
一時的に保持することは当然であるから,かかる入手したタンク内情
報を保持する情報保持部が,実質的に開示されている。また,仮に,
上記の点が相違点となるとしても,インクタンクに情報保持部を設け
ることは後記のとおり周知技術であることから,乙18発明2’にお
いて情報保持部を設けることは,極めて容易であったものである。
(エ)本件訂正発明2と乙18発明2’が相違する可能性のある点及び本
件訂正発明2の容易想到性
乙18発明2’の構成と本件訂正発明2の構成要件が相違する可能性
のある点は,前記【本件訂正発明1について】イ(エ)における乙18発
明1’の構成と本件訂正発明1の構成要件が相違する可能性のある点と
同じである。
また,上記相違点が,本件特許の最先の優先日当時において周知慣用
技術であったものであり,同技術を乙18発明2’に適用することが当
業者にとって容易であったことについては,前記【本件訂正発明1につ
いて】イ(オ)のとおりである。
[原告の主張]
【本件訂正発明1について】
ア無効理由1’
(ア)乙55公報の記載
a乙55公報に,構成要件1A1,1A2,1A4,1A6,’’’’
1B,1C’及び1F’に対応する記載が存在し,これらの構成要’
件に相当する構成が開示されていることについては,認める。
b乙55公報に,構成要件1A5’の一部(前記キャリッジの位置に
応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を
光らせ,構成要件1D’及び1E’に対応する記載が存在すること)
については,否認する。その理由は,次のとおりである。
(a)構成要件1A5’及び1D’について
乙55公報には,各インクカートリッジに対応するLEDをキャ
リッジ上に設け,インク残量の検出により交換の対象となるインク
カートリッジに対応するキャリッジ上のLEDを発光させる構成,
及び,交換される特定のインクカートリッジについて,プリンタ本
体が識別信号を発して,インクカートリッジからの応答に基づき,
正しいインクカートリッジが装着されなかったと判断したときは,
操作パネル上のランプを発光させる(点滅させる)ことにより報知
する構成,が開示されている。
そして,被告は,かかる発光部を個々の液体収納容器に設けるか
又は記録装置側のキャリッジ箇所に設けるかは,単なる設計上の違
いにすぎず,実質的に等価であって,相違点ではないと主張する。
しかしながら,発光部をインクタンクではなくキャリッジ側に設
けたのでは「キャリッジを特定の位置に移動させた上で,特定の,
色のインクタンクの発光部を発光させ,プリンタ側の受光手段でイ
ンクタンクからの光を受光できるか否かを確認することで,当該色
のインクタンクが適正な位置に装着されているか否かを確認する」
という,本件光照合処理の操作そのものが,根本的に不可能となっ
てしまう。本件光照合処理において,インクタンク上の発光部は,
バス接続を通じてプリンタ本体から送信される色情報と,インクタ
ンク自身の保持する色情報を比較して,それが同じであった場合に
,。のみ発光するという機能を有し光照合処理の要となる構成である
これに対し,乙55公報記載の発明におけるキャリッジ上のLED
は,各インクタンク内部の色情報とは関係なく,プリンタ本体の命
令により点灯・点滅するものである。また,キャリッジ上のLED
は,キャリッジ上に固定されており,各インクタンクの装着位置の
変化には対応していないのだから,インクタンクを所定の位置で光
らせ,その光を受光した結果に基づいてインク搭載位置を特定する
という本件光照合処理に,使用できるはずがない。
以上のとおり,本件訂正発明における発光部及び受光手段と,乙
55公報に記載された上記発光手段とは,目的も機能もまったく異
なるものであり,等価物といえるものではない。本件発明の目的及
びその解決手段に想到しなければ,乙55公報に記載された発明に
おけるキャリッジ上の発光部をインクタンクに移動させる理由は何
もなく,乙55公報のいかなる記載からも,本件光照合処理の手段
には想到し得ない。
(b)構成要件1E’について
乙55公報には,以下の記載が存在し,誤ったインクカートリッ
ジが装着されているか否かを判断するのは,パーソナルコンピュー
タ又はプリンタ本体であり,その判断に基づいて,パーソナルコン
ピュータ又はプリンタ本体が,操作パネル13上のランプを点滅さ
せることが記載されている。
「パーソナルコンピュータPCは(中略)インクカートリッジC,
A1の記憶装置20が保有する識別データに対応する識別データ
をデータバスDB上に送信する(ステップS230。パーソナ)
ルコンピュータPCは送信した識別データに対して応答があるか
否かを判定する(ステップS240(中略)誤ったインクカ)。
ートリッジCAが装着されている場合には,いずれの記憶装置も
記憶装置20に対応する識別データに対して応答することができ
ない。パーソナルコンピュータPCは,応答がない場合には(ス
テップS240:No,誤ったインクカートリッジCAが装着)
されている旨を報知し(ステップS250(中略)誤ったイ),
ンクカートリッジCAの装着の報知は,例えば,操作パネル13
上配置されているランプLMを点滅させても良い(26頁2。」
1行∼37行)
「上記実施例では,パーソナルコンピュータPCによってインクカ
ートリッジCAの識別処理が実行されているが,これら一連の処
理をカラープリンタ20の制御回路30によって実行してもよ
い(43頁1行∼3行)。」
以上のとおり,乙55公報記載の発明では,ランプの点滅は,す
べてプリンタ側の制御装置によって行われており,液体収納容器側
には,ランプの点滅を行う制御装置は搭載されていない。
(イ)本件訂正発明1の容易想到性
a被告は,構成要件1A3’及び1A5’の構成は,記録装置につい
ての要件であるにすぎず,本件訂正発明1の進歩性を検討する上で無
視されるべき事項であるなどと主張する。
しかしながら上記主張が失当であることについては前記()被,,[1
告の主張に対する原告の反論]のとおりである。
b相違点1−1’及び1−2’について
被告は,プリンタに構成要件1A3’及び1A5’の構成を備える
こと及びプリンタ側の受光手段に投光するための光を発光するための
発光部を液体インク収納容器に設けることは,本件特許の最先の優先
日当時において周知慣用技術であったと主張し,乙2公報,乙17公
報,乙18公報,乙33公報,乙36公報及び乙42公報の記載を引
用する。
しかしながら,上記公報の記載は,以下のとおり,バス接続をする
プリンタのインクタンクの発光部に関するものではない。本件訂正発
明は,共通配線であるためにプリンタ本体側ではどのインクタンクと
通信しているのかを判別することができないという,バス接続の欠陥
を解消するために,液体収納容器に発光部を設け,その発光部を制御
,,して適宜光らせプリンタ側の受光部でその光を受光できるか否かで
どのような液体収納容器がインクタンクホルダのどの位置に取り付け
られているかを判断することを特徴的構成とするものであるが,上記
公報の記載は,かかる構成を開示ないし示唆するものではない。
したがって,上記公報の記載を乙55公報記載の発明にどのように
組み合わせようと,本件訂正発明1に容易に想到せしめるものではな
い。
(a)乙2公報について
乙2公報に開示されている構成は,インクタンク中に球状の立体
形半導体素子31を浮遊させ,外部からインクタンク内に光を当て
て素子31の位置を測定することで,素子の位置によりインクタン
クの交換の必要を判断するというものであり(段落【0061】∼
【0065,図6。なお,同構成では,素子の像を具体的にどの】
ような手段で観察すればよいのかは不明である,本件訂正発明。)
の構成(インクタンクの発光部が発光し,その光をプリンタ側の受
光手段で受光する)とは構成が異なる。。
また,作用効果についても,本件訂正発明における受光手段は,
どの色のインクタンクがホルダのどの位置に装着されているかを確
認するための手段であるのに対し,乙2公報記載の上記構成では,
素子の像の位置(素子が浮かんでいる高さ)からインクタンク内部
のインクの量が判明するだけであり,どの色のインクタンクがホル
ダのどこに装着されているかなどは,分からない。
(b)乙33公報について
乙33公報に開示されている構成は,図7から明らかなように,
インクタンク側の発光素子(PD441)からの受光を行うインク
ジェットプリントヘッド側の受光素子(PD411)が,一つでは
なく,各インクタンクのホルダごとに備えられている。
また,乙33公報において,インクタンク側の発光素子からイン
クジェットプリントヘッド側の受光素子に伝えられた各インクタン
クの情報は,各インクジェットプリントヘッドの内部において処理
され,プリンタ本体との間で共通配線による情報交換は行われない
と解される。このことは,同公報における以下の記載から明らかで
ある(なお,下線は原告が引いたものである。。)
「本例では,各種データ④は,18個のブロックデータ信号からな
,,(“”),(“りその一例を図9に示すようにインク種類6A色
B,グレード(F,製造ロット(97年A月27日Fラ”)“”)“
イン,インク圧力(レベル5,インク流路開閉器状態0<O”))
FF>,製造番号(555555)というような信号形態で“”
構成されている(段落【0072)。」】
「これを,インクジェットプリントヘッド側は受けて,このインク
タンクが使用するに合致しているかどうか判断処理を行う(処理
SH5,SH7。そして合致していればインク貯留部17のイ)
ンク有無信号⑤を返信し,合致していなければプリンタ本体のM
PU401に不良(NG)信号を送出する(処理SH9,SH1
1,SH13。信号の形態を変えれば,何が合致していないか)
の信号送致も可能である。すなわち,インクタンクのインク圧力
が足りないのか,インクが消費期限を過ぎて古くなっているか,
インクのグレードが異なるかなどの信号であり,これをプリンタ
本体で何らかの処理で操作者に報知することも可能であり,さら
にはインターフェース400を介してパーソナルコンピュータな
どのホスト装置(入力機器)に報知ないし表示を行わせることも
可能である(段落【0073)。」】
以上のとおり,乙33公報記載の発明の構成では,各インクタン
クの情報は,光通信によって,それが装着された各インクジェット
プリントヘッドに送信され,各インクジェットプリントヘッドごと
にその内部で情報処理が行われることから,同公報に明記されては
いないが,各プリントヘッドによる処理の結果は,各プリントヘッ
ドからプリンタ本体の制御機構に対して,個別の配線によって通知
されるものと考えられる。
(c)乙18公報について
乙18公報には,インクタンク内のインクに浮遊させた球状の立
体形半導体素子526が発光し,その光がインク中を透過して,タ
ンク外部の光センサ550によって感知し,その波長からインクの
色を識別して各インクタンクが所定の位置に装着されたかを確認す
(【】【】,るという構成が開示されている段落0057∼0061
図7。そして,同公報には,光センサ550の設置される場所や)
個数は明記されていないが,①仮に,単一のセンサによって各イ
ンクタンクを順次識別していくのであれば,何らかの記載があって
しかるべきであること,②図5の記録装置には,光センサは表示
されていないが,被告の主張するように,キャリッジと異なる位置
に単一の光センサを設けるのであれば,図5に表示することができ
たはずであること,③図5では,フォトカプラ611や,キャリ
ッジ上の外部エネルギー供給手段622まで記載しているのである
から,重要部材である光センサを記載していないのは,キャリッジ
の下側に設置されるため,図5には表示困難であることが理由であ
ろうと推測されること,などから,光センサ550は,各インクタ
ンクに対応するインクタンクホルダの底面に,各インクタンクの装
着箇所ごとに設置されるものと理解される。
なお,この点について,被告は,移動するキャリッジを有するプ
リンタにおいて,受光手段は一つのみを設けて,キャリッジの移動
により順次インクタンクからの光を受光する構成をとることが常識
であり,このことは,原告自らが,本件特許の最先の優先日前に発
売した原告製プリンタ(乙51)において,受光手段を一つだけ設
けて,キャリッジの移動により順次各インクタンクからの光を受光
する構成をとっていたことからも明白であると主張する。しかしな
がら,上記原告製プリンタの発光部及び受光部は,どちらも,プリ
ンタ内部で水平に動くキャリッジの底面を下から見ることのできる
位置に取り付けられているものである。このセンサは,インクタン
ク内のインク残量を検出するために,インクタンクの外側から照射
された光の反射光を受光する残検センサであり,本件光照合処理に
よる位置認証技術とはまったく関係がない。
また,乙18公報記載の発明の最大の特徴は,インクタンク内に
浮遊させた立体形半導体素子を使用すること,及び,その立体形半
導体素子が外部と非接触の状態で,外部との間で情報やエネルギー
のやりとりをすることであるが(段落【0017【0018,】,】
【0057】∼【0061。なお,同発明では,上記の個別の光】
センサによって受光され,個別の光センサが得た情報は,個別の配
線により制御装置に送信されるものと考えられる,本件訂正発。)
明の構成は,インクタンクとプリンタ本体との情報伝達やエネルギ
ー供給をバス接続の有線通信によって行っており,その点が決定的
に異なっている。
このように,非接触での通信を特徴とする乙18公報記載の発明
の技術思想は,バス接続による通信を前提とする乙55公報記載の
発明の技術思想と根本的に異なっており,両者を組み合わせること
,(,,には阻害要因があるというべきであるまた同様の理由により
乙2公報記載の発明と乙18公報記載の発明の組み合わせについて
も阻害要因があるというべきである。。)
(d)乙36公報について
乙36公報記載の発明は,インクカートリッジ上の反射部にプリ
ンタ側から光を当ててその反射部の指標を「見る」ことで,キャリ
ッジ上のどのカートリッジの位置にどのインクカートリッジが取り
付けられているかを識別するものであり,プリンタ側からの光の反
射光を見る技術である。したがって,インクタンク上の発光部の光
をプリンタ側で受光する本件訂正発明の構成とは,根本的に異なっ
ている。
(e)乙42公報について
乙42公報記載の発明は,回路部品供給システムにおいて部品の
供給管理を容易にするための発明であり,本件訂正発明とは技術分
野が全く異なる。したがって,同公報に記載の発明は,本件訂正発
明に想到する上で参考になる公知技術ではない。
(f)乙17公報について
乙17公報記載の発明は,乙18公報記載の発明と同じく,イン
,,クタンク内に立体形半導体素子を浮遊させ非接触の無線によって
プリンタ側との情報伝達やエネルギー供給を行うというものであ
。,,,るしたがって乙18公報記載の発明と同様本件訂正発明とは
その構成を大きく異にし,共通配線による情報伝達・エネルギー供
給を前提とする乙55公報記載の発明と組み合わせることには技術
的な阻害要因がある。
c被告は,本件訂正発明1は,乙55公報記載の発明と乙18公報記
載の発明に基づいて当業者が容易に想到することができたとも主張す
る。
しかしながら,前記b(c)のとおり,乙18公報記載の発明は,イ
ンクタンク内のインクに浮遊させた球状の立体形半導体素子を使用す
る構成であって,本件訂正発明の構成とは大きく異なっているほか,
立体形半導体素子が外部と非接触の状態で情報やエネルギーのやり取
りをすることが同発明の最大の特徴となっている点で,バス接続によ
る有線通信を前提とする乙55公報記載の発明とは技術思想が根本的
に異なっており,両発明を組み合わせることに阻害要因があるという
べきである。
したがって,被告の上記主張は,理由がない。
イ無効理由2’
(ア)乙18公報の記載及び同公報記載の発明
a乙18公報に,構成要件1A1,1A6,1D’及び1F’に’’
対応する記載が存在し,これらの構成要件に相当する構成が開示され
ていることについては,認める。
b乙18公報に,構成要件1A2,1A3,1A5,1B’及び’’’
1C’に対応する記載が存在することについては,否認する。その理
由は,次のとおりである。
(a)構成要件1A2’及び1B’について
乙18公報記載の発明は,インク中に浮遊させた立体形半導体素
,,,,子を使用し当該素子が光や電磁波などの手段により非接触で
プリンタ側と情報伝達を行ったりエネルギー供給を受けたりする,
。,という点に特徴がある発明である非接触の点に特徴があることは
①同公報に実施例として開示されている図2,3,4及び7のい
ずれにおいても,立体形半導体素子は,インク中に浮遊して,外部
から切り離された状態で描かれていること,②同公報には【課,
題を解決するための手段】として,外部エネルギーの供給は非接触
で行うことが記載され(段落【0017【0018,それ以】,】)
外のエネルギー供給手段は開示されていないこと,から明らかであ
る。
したがって,乙18公報には(立体形半導体素子とプリンタを,
つなぐための「電気的に接続可能な接点(構成要件1A2,1)」’
B)は,開示されていない。’
(b)構成要件1A3’及び1A5’について
乙18公報に構成要件1A3’及び1A5’に相当する構成が開
,。示されていないことについては前記ア(イ)b(c)のとおりである
(c)構成要件1C’について
乙18公報記載の発明における発光部及び受光手段は,各インク
タンクの内部での発光が液体インクを透過する際に,インクの色に
対応した波長の吸収がされるため,そのインクタンクに対応する個
別の受光部において,吸収された波長からインクタンクの種類を判
別するというものであり(段落【0014【0015【00】,】,
20【0057】∼【0059,インクタンク内の素子に色】,】)
情報は保持されない。
したがって,乙18公報には,構成要件1C’に相当する構成は
開示されていない。
(イ)本件訂正発明1の容易想到性
被告は,相違点()−1’ないし同()−3’に係る構成を備えること11
は,本件特許の最先の優先日当時において周知慣用技術であったもので
あり,同技術を乙18発明1’に適用することは当業者にとって容易で
あったと主張し,乙1公報,乙2公報,乙17公報,乙37公報及び乙
55公報の記載を引用する。
しかしながら,乙1公報,乙37公報及び乙55公報記載の発明は,
前記のとおり,いずれも,複数のインクタンクとプリンタ本体の間がバ
ス接続という有線接続でつながれた構成を有するものであるから,同発
明を,インク中に浮遊した立体形半導体素子との非接触での情報変換及
びエネルギー供給を前提とする乙18公報記載の発明に組み合わせるこ
とについては,阻害要因があるというべきである。
また,乙2公報記載の発明及び乙17公報記載の発明は,乙18公報
記載の発明と同様,インクタンク内のインクに浮遊させた立体形半導体
素子を使用する発明であり,非接触での情報伝達・エネルギー供給を前
提とする技術であるから,これらを組み合わせたところで,各インクタ
ンクと記録装置の間がバス接続でつながれた本件訂正発明1の構成に想
到し得るものではない。
したがって,上記公報の記載を乙18公報記載の発明にどのように組
み合わせようと,本件訂正発明に容易に想到せしめるものではない。
【本件訂正発明2について】
ア無効理由1’
(ア)乙55公報の記載及び同公報記載の発明
a乙55公報に,構成要件2A1,2A2,2A4,2B,2’’’’
C,2D1,2D2’及び2G’に対応する記載が存在し,これ’’
らの構成要件に相当する構成が開示されていることについては,認め
る。
b乙55公報に,構成要件2D3,2D4’及び2F’に対応する’
記載が存在することについては,否認する。その理由は,前記【本件
訂正発明1について】ア(ア)bと同様である。
(イ)本件訂正発明2の容易想到性
被告は,相違点1−1’及び同1−2’に係る構成が,本件特許の最
先の優先日当時において周知慣用技術であったものであり,同技術を乙
’。55発明2に適用することは当業者にとって容易であったと主張する
しかしながら被告の上記主張に理由がないことについては前記本,,【
件訂正発明1について】ア(イ)と同様である。
また,被告は,本件訂正発明2は,乙55公報記載の発明と乙18公
報記載の発明に基づいて当業者が容易に想到することができたとも主張
する。
しかしながら,上記主張に理由がないことについては,前記【本件訂
正発明1について】ア(イ)cのとおりである。
イ無効理由2’
(ア)乙18公報の記載及び同公報記載の発明
a乙18公報に,構成要件2A1,2B,2C,2D3’及び2’’’
G’に対応する記載が存在し,これらの構成要件に相当する構成が開
示されていることについては,認める。
b乙18公報に,構成要件2A2,2A3,2D1,2D2’及’’’
び2F’に対応する記載が存在することについては,否認する。その
理由は,前記【本件訂正発明1について】イ(ア)bと同様である。
(イ)本件訂正発明2の容易想到性
被告は,相違点()−1’ないし同()−3’に係る構成は,本件特許11
の最先の優先日当時において周知慣用技術であったものであり,同技術
を乙18発明2’に適用することは当業者にとって容易であったと主張
する。
しかしながら被告の上記主張に理由がないことについては前記本,,【
件訂正発明1について】イ(イ)と同様である。
()争点3−5−3(本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は,特許法369
条6項1号(サポート要件)に違反するか)について
[被告の主張]
本件明細書の発明の詳細な説明には液体インク収納容器に備えられた発,「
光部の発光を制御する制御部(構成要件1E)ないし「発光部を発光さ」’
せる制御部(構成要件2D4)という構成が開示されているとは認めら」’
れず,特許法36条6項1号(サポート要件)に違反する。
その理由は,前記()[被告の主張]アと同じである。4
[原告の主張]
被告の主張を否認ないし争う。
本件明細書の発明の詳細な説明に,液体インク収納容器に備えられた「発
光部の発光を制御する制御部」ないし「発光部を発光させる制御部」という
構成が開示されていることについては,前記()[原告の主張]アのとおり4
である。
()争点3−5−4(本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は,特許法3610
条6項2号(明確性要件)に違反するか)について
[被告の主張]
本件訂正後の本件訂正発明の特許請求の範囲は,次のとおり,特許を受け
ようとする発明が明確でなく,特許法36条6項2号に違反する。
ア本件訂正発明における「発光部」と「受光手段」の関係が明確でないこ

【本件訂正発明1について】
原告は,本件訂正により,受光手段が液体インク収納容器の発光部から
の光を受光すること(構成要件1A3)及び発光部が受光手段に投光す’
るための光を発光すること(構成要件1D)を追加した。’
しかしながら,上記訂正後においても「投光するための光」と「液体,
インク収納容器の発光部からの光」との関係は不明りょうであり,受光時
における発光部と受光手段との位置関係は明確でない。
また,受光時における発光部と受光手段との位置関係について,本件訂
正により「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液,
体インク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記
液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を
検出する(構成要件1A5)との構成が追加されたが「前記キャリッ」’,
ジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器」という
構成の意義が不明確である。
すなわち「キャリッジの位置に応じて特定された」とは,キャリッジ,
内部の各インクタンクの装着箇所に応じて特定されたという意味とも,移
動するキャリッジのシャフト上における位置に応じて特定されたという意
味とも理解することができ,二義的に解釈が可能な記載となっており,不
明確である。そして,仮に,キャリッジ内部の各インクタンクの装着箇所
に応じて特定されたという意味に理解するとしても,本件明細書には,記
録装置側で液体インク収納容器の搭載位置を検出可能とするための具体的
構成が開示されていないため,上記訂正は,新規事項の追加として,訂正
要件に違反する。
さらに,仮に「キャリッジの位置に応じて特定された」が,移動する,
キャリッジのシャフト上における位置に応じて特定されたという意味だと
しても,キャリッジがシャフト上のいかなる位置に来たときに,キャリッ
ジ内のどのインクタンクを光らせるのかについて,本件訂正後の構成要件
は明らかにしていない。
その結果,本件訂正後の構成要件は,インクタンクの発光部が受光手段
と対向する位置ではなく,対向する位置と隣接する位置又はさらに離れた
位置において発光する場合や,キャリッジ自体が受光手段から著しく離れ
た位置や障害物により光が遮断される位置にある場合など,受光手段が発
光部からの発光を受光できず,結果としてインクタンクの位置を検出でき
ないような場合に特定色のインクタンクの発光部を光らせる場合をも含む
こととなっており,技術的に意味がないような不当に広い範囲にまで特許
権が及ぶおそれがある。
,,,したがって本件訂正は権利範囲が不当に広いという観点から見ても
明確性要件に違反する。
【本件訂正発明2について】
本件訂正発明2についても,受光時における発光部と受光手段との位置
関係については,構成要件2F’に,構成要件1A5’と同じ記載がある
だけである。
したがって,本件訂正発明2も,本件訂正発明1と同様に「キャリッ,
ジの位置に応じて特定された」との記載が不明確であるとともに,受光部
が発光部からの発光を受光できないという,発光部と受光手段との間に技
術的な関連性がないような不当に広い範囲にまで特許権が及ぶおそれがあ
り,明確性要件に違反する。
イ本件訂正発明1の「液体インク収納容器」を「液体インク収納容器」自
体で特定することができないこと
本件訂正発明1において,構成要件1A1’ないし1A5’の部分は,
請求される物としての液体インク収納容器以外の他の物である記「」「」「
録装置」が記載されているところ,同構成要件の記載は「液体インク収,
納容器」の技術的特徴を示すものとなっておらず,これらの記載からは,
特許を受けようとする発明が明確でない。その理由については,前記()5
[被告の主張]イと同様である。
なお,本件訂正により,構成要件1A3’及び1A5’には,プリンタ
側の「液体インク収納容器位置検出手段」による位置検出という構成が付
加されたが,後記キのとおり「液体インク収納容器位置検出手段」とい,
う構成がそもそも不明確であるため,インクタンクの搭載位置の検出がい
かにして実現されるのかどうかが不明確となっている。したがって,上記
構成を付加することによっても,プリンタとインクタンクとの関係は明確
となっておらず,インクタンクの構成は何ら特定されない。
また,本件訂正により,構成要件1A5’には「キャリッジの位置に,
応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の発光部を(記録「
装置」が)光らせ」る構成も付加されている。
しかしながら,キャリッジの位置に応じた所定のタイミングで「発光部
を光らせ」ることができるかどうかは,プリンタ側の構成如何によること
は明らかであるにもかかわらず,本件訂正発明1の構成要件には,かかる
構成について何ら記載がない。そのため,インクタンク側において,キャ
リッジの位置に応じた所定のタイミングで「発光部を光らせ」るという行
為がいかにして実現されるのかどうかが,不明確となっている。
さらに,構成要件1A5’によれば,発光部を光らせる構成は記録装置
側にあるものと理解されるものの,他方で,構成要件1E’には「発光,
部の発光を制御する制御部」がインクタンク側に存在することが記載され
ており,プリンタとインクタンクのいずれが「発光部を光らせ」るのかが
不明である。
したがって,上記構成を付加することによっても,プリンタとインクタ
ンクとの関係は明確となっておらず,インクタンクの構成は何ら特定され
ていない。
ウ本件訂正発明2における「互いに異なる位置に」が明確でないこと
構成要件2A1’には,複数の液体インク収納容器が「互いに異なる位
置に」搭載可能である旨が記載されているが,この意味は明確でない。そ
の理由については,前記()[被告の主張]ウと同じである。5
エ本件訂正発明における「色情報に係る信号を発生するための配線」が明
確でないこと
構成要件1A4’及び2A4’には「色情報に係る信号を発生するた,
めの配線」との記載があるが,同記載の技術的意義は明確でない。その理
由については,前記()[被告の主張]エと同じである。5
オ本件訂正発明における「複数の液体インク収納容器」が明確でないこと
原告は,本件訂正により,構成要件1A1及び2A1の「複数の液体収
」,「」(’,’)納容器を複数の液体インク収納容器構成要件1A12A1
に変更した。
しかしながら,上記「複数の液体インク収納容器」にいかなる場合まで
が含まれるのかは,明確でない。その理由については,前記()[被告の5
主張]オのとおりである。
カ本件訂正発明1における「受光手段」と本件訂正発明2における「受光
部」との関係が明確でないこと
本件訂正により,構成要件2A3,2D3’及び2E’に「受光部」’
という構成が付加されたが,この「受光部」は,構成要件1A3’の「受
光手段」と異なる用語を用いているため「受光手段」と異なる構成を指,
すのか,同一の構成を指すのかが不明確となっている。
キ本件訂正発明における「液体インク収納容器位置検出手段」が明確でな
いこと
原告は,本件訂正により,構成要件2A3の「液体収納容器位置検出手
段」を「液体インク収納容器位置検出手段(構成要件2A3)に変更」’
,’’「」し構成要件1A3及び1A5に液体インク収納容器位置検出手段
との構成を付加したが,かかる「液体インク収納容器位置検出手段」も,
構成要件2A3の「液体収納容器位置検出手段」と同様,明確でない。そ
の理由については,前記()[本件光照合処理の主張]キと同じである。5
[原告の主張]
ア「発光部」と「受光手段」の関係は明確であること
【本件訂正発明1について】
本件訂正発明1は,発光部と受光手段の位置関係について「発光部か,
らの光を受光する位置検出用の受光手段(構成要件1A3)と規定し」’
ており,両者の位置関係は明確になっている。すなわち,位置検出(光照
合処理)においては,インクタンクの発光部からの光がプリンタ側の受光
手段において受光されるような位置関係になるように設計されなければな
らない,ということである。
請求項の記載としては,これで必要十分であり,これ以上の具体的な位
置関係の説明は不要である。発光部と受光手段の具体的な位置関係は,本
件訂正後の請求項と実施例を見た当業者が,発明思想を理解した上で適1
宜に設計することで定まるのであり,それで十分実施可能である。
また,本件明細書において光照合処理について説明している部分(段落
【0108】∼【0012)を読めば「キャリッジの位置に応じて」】,
とは「移動するキャリッジのシャフト上における位置に応じて」の意味,
であることを容易に理解することができる。光照合処理においては,キャ
リッジをシャフト上で左右に移動させ,プリンタ側に設置された受光手段
に対向するインクタンクを入れ換えながら,所定のパターンで各色のイン
クタンクの発光部を光らせていく処理を行うからである。請求項の解釈に
おいては,請求項の全体を合理的に解釈すべきであり「キャリッジ内部,
の各インクタンクの装着位置に応じて特定された」という読み方では,技
術的に意味をなさないことが明らかであるから,そもそも,そのような解
釈は成り立たない。
本件明細書における本件光照合処理についての原理ないし仕組みの記載
(段落【0019)と,同原理ないし仕組みを具体化した光照合処理の】
実施例の説明(段落【0108】∼【0112)を併せ読めば,上記原】
理ないし仕組みをどのように具体化すればよいか,当業者ならば,容易に
理解することが可能であるから,明確性要件に違反するものではない。
さらに,本件訂正後の請求項1には「発光部からの光を受光する位置検
出用の受光手段「受光結果に基づき…液体インク収納容器の搭載位置」,
を検出する」と明記されているのだから,受光手段が発光部からの発光を
,,受光できず結果としてインクタンクの位置を検出できないような設計は
本件訂正後の請求項1の権利範囲外であることは明らかである。したがっ
て,この点も,明確性要件に違反するものではない。
【本件訂正発明2について】
本件訂正発明2について「キャリッジの位置に応じて特定された」と,
の記載の意義が明確であること,及び,発光部と受光手段との間に技術的
な関連性がないような不当に広い範囲にまで特許権が及ぶおそれがないこ
とについては,上記【本件訂正発明1について】と同じである。
イ本件訂正発明1における「液体収納容器」は特定されていること
被告は,本件訂正後の請求項においては,プリンタについての記載が1
インクタンクを何ら特定せず,明確性要件違反の無効理由があると主張す
るが,次のとおり,同主張には理由がない。
a構成要件1A1’について
本件明細書には,すべての色のインクタンクが装着されないうちは,
次のステップである光照合処理に進まないことが記載されている(段落
【0095】∼【0105。したがって,本件訂正発明1では,イ】)
ンクタンクは複数搭載されることが前提であることは明らかである。
b構成要件1A2’について
構成要件1A2’では,インクタンク側の接点とプリンタ側の接点が
電気的に接続する構造になっているということを,プリンタ側から規定
したものであり,これをインクタンク側から規定したものである構成要
件1B’と同意義のものである。
このように,構成要件1A2’は,構成要件1B’と相まって,イン
クタンクの接点の構造をより明確にしているものであり,明確性要件に
違反するものではない。
c構成要件1A4’について
本件明細書の段落【0080】ないし【0083】の説明と図20及
び段落【0086】ないし【0088】の説明と図23を見れば,構成
要件1A4’の「…電気的に接続し色情報に係る信号を発生するための
配線を有した電気回路」とは,図20において4つのインクタンクとプ
リンタ本体をつないでいる4本の共通の信号配線(いわゆるバス接続)
を含む電気回路のことであると,容易に理解することができる。また,
インクタンクとの関係についていえば,各インクタンクの接点が,この
ようなバス接続の配線を接続される構造になっていなければならないと
いう限度で,この記載も,インクタンクの構造を規定するものとなって
いる。
’’「」d構成要件1A3及び1A5の液体インク収納容器位置検出手段
について
構成要件1A3’及び1A5’の,キャリッジの位置に応じて特定さ
れたインク色の液体インク収納容器の発光部を光らせ,それを受光手段
で受光し,その受光結果に基づいて液体インク収納容器の搭載位置を検
出する,という記載と,本件明細書に記載された光照合処理の手順(段
落【0108】∼【0112)を併せ見れば,当業者であれば「液】,
体インク収納容器位置検出手段」とは光照合処理を実施するための構成
であること,具体的には,発光部の発光を受光する受光部と受光結果に
基づきインクタンク装着位置の誤りの有無を検出する制御部であること
を容易に理解することができる。
そして,本件訂正発明1では,インクタンク側の発光部と,プリンタ
側の上記液体インク収納容器位置検出手段とが協働して,上記光照合機
能を実現するのであり,インクタンク側の構成は,液体インク収納容器
位置検出手段の構成に適合するよう限定を受けるのであるから,液体イ
ンク収納容器位置検出手段は,インクタンクの構成を特定する記載であ
るといえる。
e構成要件1A5’の「キャリッジの位置に応じて特定されたインク色
の前記液体インク収納容器の発光部を光らせ」る構成について
本件明細書には,本件訂正発明1において各インクタンクの発光部を
個別に制御する方法及び光照合処理の方法の1実施例が記載されている
(段落【0080】∼【0094【0108】∼【0112,図2】,】
1,29,30。上記光照合処理においては,プリンタ側の制御回路)
から,色情報及び制御コードが,バス接続ですべてのインクタンクに送
信され,各インクタンクの制御部において,色情報の照合及びそれに応
じた発光部の制御が行われることで,適切なタイミングにおいて適切な
インクタンクの発光部が発光するものである。
このように「発光部を光らせ」るのは,プリンタ側の制御回路と各,
インクタンク上の制御部の協働作業によるものであり,どちらの要素が
欠けても,適切なタイミングで「発光部を光らせ」ることはできない。
以上のとおり本件明細書の記載を参照すればどのような方法で発,,「
光部を光らせ」るのかを明確に理解することができるのであるから,明
確性要件違反はない。
また「発光部を光らせ」るためにはインクタンク側の要件が不可欠,
,,。であるからこの要件はインクタンクの構造を特定しているといえる
ウ本件訂正発明2における「互いに異なる位置に」の意義が明確であるこ

本件明細書の全体を読めば,構成要件2A1’の「互いに異なる位置」
とは「複数のインクタンクホルダに,複数のインクタンクが搭載されるこ
と」であることを容易に理解することができることについては,前記()5
[原告の主張]ウのとおりである。したがって,明確性要件には違反しな
い。
エ本件訂正発明における「色情報に係る信号を発生するための配線」の意
義は明確であること
本件明細書を見れば,構成要件1A4’及び2A4’の「…電気的接続
し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」とは,図2
0において,4つのインクタンクとプリンタ本体をつないでいる4本の共
通の信号配線(いわゆるバス接続)を含む電気回路のことであると,容易
に理解することができることについては,前記()[原告の主張]ウのと5
おりである。したがって,明確性要件に違反するものではない。
オ本件訂正発明における「複数の液体インク収納容器」の意義が明確であ
ること
複数の液体インク収納容器構成要件1A12A1とは複「」(’,’),「
数」の「液体インク収納容器」をキャリッジに搭載できるというだけのこ
とであり,明確性を欠くものではない。この点に関する被告の主張に理由
がないことについては,前記()[原告の主張]オのとおりである。5
カ本件訂正発明1における「受光手段」と本件訂正発明2における「受光
部」は,同一の構成を意味すること
本件明細書を参照すれば,構成要件1A3’の「受光手段」と構成要件
2A3’及び2E’の「受光部」とは,どちらも,インクタンクの発光部
からの光を受光し,その受光結果でインクタンクの搭載位置を特定するた
めの手段ないし部位であり,同一の構成を意味することを,容易に理解す
ることができる。
また,上記「受光手段」と「受光部」は,それぞれ異なる請求項の中の
異なる用語なのであるから,各請求項において各用語の意味が定まれば十
分であって,両用語が同じ構成を指すのか否かということは,請求項の明
確性の要件とは関係がない。
キ本件訂正発明における「液体インク収納容器位置検出手段は明確である
こと
構成要件1A3’及び2A3’の「液体インク収納容器位置検出手段」
の意味が明確であることについては,前記イdのとおりである。
また,構成要件1A3,1A5,2A3’及び2F’の記載から,’’
上記位置検出については,受光機能及び受光結果を処理して搭載位置を判
断する制御部(制御回路)が必須であることは明らかであるから,本件明
細書の実施例でいえば,LED101の発光を受光する第1受光部210
及びインクタンクの装着位置を判断する制御回路300が「液体インク,
」,。収納容器位置検出手段を構成すると解するのが論理的には厳密である
()争点3−5−5(本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法3611
条4項1号(実施可能要件)に違反するか)について
[被告の主張]
本件明細書の記載からは,誤装着されているインクタンクの位置が正し
い装着位置と隣接している場合に,どのようにすれば,隣接している位置
からの発光やその他プリンタの使用環境に存在する周囲の光は受光せず
に,インクタンクが誤装着しているものとして区別して認識することがで
きるのかその実現手段が明確でないその理由については前記()被,。,[6
告の主張]と同じである。
[原告の主張]
被告の主張を否認ないし争う。
当業者であれば,この程度の「手段」を技術常識から容易に設定するこ
とができることについては,前記()[原告の主張]のとおりである。6
()争点4(権利濫用(独占禁止法違反)の抗弁の成否)について12
[被告の主張]
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」と
いう)21条は「この法律の規定は,著作権法,特許法,実用新案法,。,
意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為についてはこれを適用
しない」と規定するが,同条は,特許権者が特許権の行使に名を藉りて濫。
用的に競争制限行為に及んだ場合にまで独占禁止法の適用を除外する趣旨で
はなく,特許権を行使する行為が独占禁止法上違法で公序良俗違反と評価さ
れる場合には,その特許権の行使は,権利の濫用として許されないものとさ
れるべきである。
本訴における請求は,以下のとおり,インクカートリッジの消費者の選択
肢を奪い,市場に認知されている互換品の製造販売業者を一挙に締め出すこ
とを意図して,本件特許権を利用しようとするものであって,独占禁止法に
違反し,公序良俗に反するものであることが明らかであり,権利の濫用とし
て許されない。
アインクカートリッジ市場の動向
原告は,インクジェットカラープリンタ及びカラーインクカートリッジ
の開発及び製造販売を行っており,我が国のカートリッジ市場において有
力な最大手の事業者である。原告を始めとするプリンタメーカーは,プリ
ンタを格安で販売した上で,必需品のインクカートリッジを消耗品として
何個も売ることで利益を上げるビジネスモデルを推進しており,インクカ
ートリッジ販売の営業利益率は推定25ないし30%あると報道され,そ
の荒稼ぎが批判されている。
インクカートリッジには,プリンタメーカーが販売するいわゆる純正品
のほか,再生業者によって製造販売される再生品とプリンタメーカー以外
,,「」の生産者によって製造販売される互換品とがあり被告はプレジール
。,製の互換品である被告製品を製造しているインクカートリッジの市場は
プリンタメーカーが自社独自の構造のインクカートリッジを採用している
ため,再生業者や互換品業者が代替品の販売をすることによって初めて,
消費者に違った価格や品質のインクを提供することが可能となっており,
このような市場の確保が自由かつ公正な競争に不可欠である。
また,今日,パーソナルコンピュータやデジタルカメラ利用の増大に伴
い,インクカートリッジの需要が急速に拡大し,ユーザーの互換品インク
カートリッジに対する需要も高まっている。
イ原告のインクカートリッジの変更について
原告は,これまで,原告製インクタンク1及び2と同じ形状であって,
ICチップが搭載されていないインクカートリッジ(BCI3e,6,-
7系。以下「旧原告製インクタンク」という)を製造販売してきた。旧。
原告製インクタンクについては,平成17年9月ころには,再生品及び互
換品が既に発売されており,市場に認知され,数多くのユーザーが使用し
ていた。
原告は,平成17年9月,それ以降に発売するプリンタを発光機能付き
の原告製インクタンクでないと動作しないように設計した上,ICチップ
が搭載された原告製インクタンクの製造販売を開始し,それと同時に,旧
原告製インクタンクの製造販売を中止して,従来のプリンタを購入してい
たユーザーにもあえて発光機能付きの原告製インクタンクを購入するよう
に市場を誘導した。
しかしながら,発光制御機能のない従来のプリンタに発光機能付きの原
告製インクタンクを装着しても,発光しないまま印刷ができるだけであっ
たのみならず,原告製インクタンクは,インクカートリッジ内部に発光機
能を組み込んだことにより,旧原告製インクタンクと比較してインク容量
が必然的に減少することとなったため,従来のプリンタのユーザーにとっ
ては,割高の商品を強制的に購入せざるを得ない不利益を生じさせるもの
であった。例えば,BCI−7YとBCI7eYとの対比において,そ-
のインク容量が約8.4重量%減少したのみならず,販売価格は約14円
の値上げとなった。このように,原告は,従来のプリンタを購入していた
ユーザーに対し,不要な機能付の原告製インクタンクを抱き合わせて購入
することを強いたのみならず,インクカートリッジの仕様変更に乗じて,
不当な利益を搾取したことが明らかである。
原告は,本件発明の課題をパソコンに不慣れなユーザーによる誤った使
用(装着位置のミス)の防止である旨主張する。しかしながら,前記のと
おり,新機種のプリンタは,同色のインクカートリッジが2個以上装着さ
れたミスがあっても,LEDの発光によりユーザーにエラーが報知される
ことはない。また,すべての色が装着されたが位置が違っていたというミ
スの場合は,LEDの発光による報知はあっても,インクカートリッジが
受光部の近傍まで移動した後にタイムラグがあって報知されるので,エラ
ーに気づいたときには,すでにキャリッジ部分に違った色のインクが浸透
して混色が進んでしまうという欠点があり,誤装着による問題点の解消に
は,実用上ほとんど意味がない。
したがって,原告製インクタンクへの変更は,既に市場に認知されてい
た再生業者や互換業者を排除するために,出願中であった本件発明に関連
するインクカートリッジの発光機能を利用することを意図して,これにI
Cチップを搭載したものであったことが明らかである。
さらに,原告製インクタンクの発売に伴って再生品,互換品(オーム,
カレン,阿吽等)が旧機種のプリンタのみの対応品という位置付けになっ
たため,それを境に再生品,互換品とも著しく売り上げが減少することと
。,,,なったその結果再生業者はインクカートリッジの確保が困難となり
他方,互換業者は,暗号化されたICチップの解読や発光機能への対応に
困難を極めることとなって,原告製インクタンク適合のプリンタについて
は,その後,約1年半にわたって100%純正品の市場を強いられること
となった。原告がインクカートリッジの変更によって市場を独占すること
となったため,ユーザーからは,価格が高止まりしていることが批判され
ている。
結局,再生業者において,原告製インクタンクの再生品を発売できたの
が平成19年4月,互換品(オーム電機,カレン,ナインスター,阿吽,
G&G等)が発売されたのが平成20年8月,被告の製造する被告製品の
発売は同年9月20日であって,その発売後,ようやく互換品を含めた各
社が選択肢を提供する健全な市場が形成されかけた矢先に,これを阻止す
べく,本件訴え提起がされた。
以上の経過からすると,原告が本件訴えに及んだ真の意図は,高止まり
していた原告製インクタンクの価格を維持し,インクカートリッジの消費
者の選択肢を奪い,市場に認知されている互換品の製造販売業者を一挙に
締め出すことにあるというべきである。
ウインクカートリッジの発光化と独占禁止法について
原告は,平成16年10月21日,公正取引委員会から,独占禁止法違
,,,反被疑事件の処理についてその審査の結果を公表されたが同委員会は
その中で「レーザープリンタに装着されるトナーカートリッジへのIC,
チップの搭載とトナーカートリッジの再生利用に関する独占禁止法上の考
え方」として,以下のとおりの見解を公表している(乙25。)
「近年,レーザープリンタに使用されるトナーカートリッジ(以下「カー
トリッジ」という)にICチップが搭載される事例が増えている。レ。
ーザープリンタのメーカーがその製品の品質・性能の向上等を目的とし
て,カートリッジにICチップを搭載すること自体は独占禁止法上問題
となるものではない。しかし,プリンタメーカーが,例えば,技術上の
必要性等の合理的理由がないのに,あるいは,その必要性等の範囲を超
えて
①ICチップに記録される情報を暗号化したり,その書換えを困難に
して,カートリッジを再生利用できないようにすること
②ICチップにカートリッジのトナーがなくなった等のデータを記録
,,,し再生品が装着された場合レーザープリンタの作動を停止したり
一部の機能が働かないようにすること
,③レーザープリンタ本体によるICチップの制御方法を複雑にしたり
これを頻繁に変更することにより,カートリッジを再生利用できない
ようにすること
などにより,ユーザーが再生品を使用することを妨げる場合には,独占
禁止法上問題となるおそれがある(第19条(不公正な取引方法第10
項[抱き合わせ販売等]又は第15項[競争者に対する取引妨害)の]
規定に違反するおそれ。)
なお,前記の考え方は,インクジェットプリンタに使用されるインク
カートリッジにICチップを搭載する場合についても,基本的に同様で
ある」。
,,上記の公正取引委員会の考え方は再生品について述べたものであるが
本件のような互換品に対しても適用できるものであり,インクカートリッ
ジに発光機能を付加してICチップの制御方法を複雑にする場合にも適用
が問題となるものである。
エ原告の独占禁止法違反行為
上記の考え方を前提として,原告の一連の行為をみると,原告製インク
タンクは,特定のプリンタにしか適合しないICチップを新たに搭載した
インクカートリッジであり,ユーザーが互換品を使用することを妨げる,
いわゆる特定のプリンタとの抱き合わせ商品であって,原告は,プリンタ
の供給に併せてユーザーに原告製インクタンクを購入するように強制させ
ているから,独占禁止法19条(不公正な取引方法第10項「抱き合わせ
販売等)の規定に違反している。」
すなわち,原告製インクタンクが,色ラベルにより誤装着を防止してい
るにもかかわらず,プリンタからの発光制御信号によって発光する発光素
子を採用し,印刷開始に先立って発光しない限り動作しないようにしてい
るのは,単に原告製プリンタがこの発光素子を持たないインクタンクを排
除するように設計されているからであり,原告は,原告製プリンタと原告
製インクタンクについて,抱き合わせ販売を行っている。このような抱き
合わせ販売がされることにより,ユーザーは,原告製インクタンクの購入
を強制されて,商品選択の自由が妨げられ,その結果,良質・廉価な商品
を提供して顧客を獲得するという競争が侵害され,原告が市場を独占する
ことになった。
また,原告製インクタンクに搭載されたICチップは,ICチップに記
録される情報を複雑にしてその書換えを困難にし,本件発明に関連する発
光機能を動作させるための不可欠の条件とするものであるから,ユーザー
が所望する安価な互換品の購入を妨害し,互換品生産事業者の事業参入を
阻害するものである。
原告は,前記のとおり,ICチップ搭載による発光機能の付加が誤装着
による問題点の解消に実用上ほとんど意味のないものであったにもかかわ
らず,競争関係にある再生業者や互換品業者の参入を阻止するため,技術
上の必要性等の範囲を超えて,原告製インクタンクにICチップ搭載によ
る発光機能を付加させたものであり,これにより,ユーザーが原告以外の
事業者から別のインクカートリッジを購入することを長期間にわたって不
当に妨害しているから独占禁止法19条不公正な取引方法第15項競,(「
争者に対する取引妨害)の規定に違反する。」
オ原告の権利濫用行為
本件訴えは,上記独占禁止法違反行為によって,市場を独占し,不当な
利益を享受していた原告が,相次いで互換品を発売した互換品業者の市場
参入を阻止し,自らの独占を維持するために,インクカートリッジの消費
者の選択肢を奪い,市場に認知されている互換品の製造販売業者を一挙に
締め出すことを意図して,本件特許権の存在を利用して技術上の必要性等
の範囲を超えてなしたものであって,独占禁止法に違反し,公序良俗に反
するというべきである。
したがって,本件請求は,原告が特許権の行使に名を藉りて濫用的に競
争制限行為に及んだものであって,権利濫用として許されない。
[原告の主張]
被告の主張を否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1本件特許権1に基づく被告製品2の輸入,販売等の差止請求の可否
()争点1(被告製品2は,本件発明1及び本件訂正発明1の構成要件を充1
足するか)について
ア被告製品2の構成
(,),,証拠甲410の1∼4及び弁論の全趣旨によれば被告製品2は
別紙物件目録()の第2及び第3記載の構造のインクタンク本体に,同目2
録第1記載の表示を付し,インクを充填したインクタンクであると認めら
れる。
これに対し,被告は,別紙物件目録()記載のICチップ(同目録の第2
2【図1】ないし【図3】の番号103)は,被告が自ら製造又は製造委
託した物ではなく,別のメーカーから仕入れた物であり,被告は,同メー
カーから,ICチップの構造等に関する詳細な情報を提供されていないの
で,同ICチップの構造(上記目録の第3の8項及び9項)については知
らないと主張する。
しかしながら,前掲各証拠により認められる,被告製品2に設けられた
基板の外観,同基板上に設けられたICチップ内部のメモリに保持された
コードをCPUボードを用いて読み出した結果,及び,被告製品2を原告
製プリンタに装着した際の動作の状況等によれば,①被告製品2は,そ
の基板の上面に,発光部及びICチップが設けられ,基板の下面(上面と
反対側の面)に,インクタンクがタンクホルダに保持された状態で原告製
プリンタのコネクタ(プリンタ側接点)と電気的に接続する電極パッドが
設けられていること,②上記ICチップには情報保持部が存在し,当該
インクタンクのインク色を示す情報を保持することが可能であること,③
上記ICチップには制御部が存在し,原告製プリンタから上記電極パッ
ドを介して入力される電気信号中の色情報と,上記情報保持部の保持する
色情報とを比較し,それらが同一である場合に上記発光部を発光させるこ
とが認められ,上記認定を左右するに足りる証拠はない。
したがって,被告製品2に設けられたICチップが別紙物件目録()記2
載の構造(同目録第3の8項及び9項)を有することは明らかであり,被
告の主張は理由がない。
イ各構成要件の充足性についての検討
(ア)構成要件1A及び1A’について
被告製品2は,次のとおり,構成要件1A1ないし1A4及び構成要
件1A1’ないし1A5’の構成を備えた原告製プリンタのキャリッジ
に対して着脱可能であることが認められる。
したがって,被告製品2は,構成要件1A(1A1∼1A5)及び1
A(1A1’∼1A6)を充足する。’’
a構成要件1A1及び1A1’について
(a)証拠(甲4・3頁,甲10の1,2)によれば,被告製品2は
液体インク収納容器であり,原告製プリンタは複数の被告製品2を
搭載して移動することのできるキャリッジを備えていることが認め
られる。
したがって,原告製プリンタは「複数の液体収納容器が搭載可,
能(構成要件1A1)なものであり「複数の液体インク収納容」,
器を搭載して移動するキャリッジ(構成要件1A1)を備えて」’
いると認められる。
(b)これに対し,被告は,①本件発明1及び本件訂正発明1は,
インクタンクの誤装着防止という従来からあった課題に対し,上記
発明の構成を備えることで,インクタンクの形状を色ごとに異なら
せることなく,インクタンクの製造の効率化や低コスト化を図りつ
つ,誤装着防止を実現するという効果を奏するものである,②し
たがって,一つでも異なる形状の液体収納容器があれば,上記効果
を奏することができず,製造効率やコストの点で不利となってしま
う,③そのため,構成要件1A1及び1A1’の「複数の液体収
納容器(液体インク収納容器」とは「すべて同一形状の複数の),
液体収納容器(液体インク収納容器」と解するのが相当であり,)
被告製品2と形状の異なる被告製品1を搭載することのできる原告
製プリンタは上記構成要件に該当しない,と主張する。
しかしながら上記構成要件は単に複数の液体収納容器液,,,「(
体インク収納容器」と記載されているだけであり,液体収納容器)
の形状について,被告の主張するような限定は付されていない。
また,本件明細書には,発明の詳細な説明として,以下の記載が
存在する(甲2。)
【背景技術】
「近年,デジタルカメラの普及に伴って,パーソナルコンピュータ
(PC)を介さずにデジタルカメラと記録装置としてのプリンタ
()。とを直接接続して印刷する用途ノンPC記録が増えつつある
さらにデジタルカメラに着脱可能に用いられる情報記憶媒体であ
るカードタイプの情報記憶媒体を直接プリンタに装着してデータ
,()。」転送を行い印刷を行う形態ノンPC記録も増えつつある
(4頁43行∼48行段落【0002)】
「一方,さらなる高画質化の要求から従来の4色(ブラック,イエ
ロー,マゼンタ,シアン)インクに,濃度の薄い淡色マゼンタ,
淡色シアンといったインクが使われるようになってきており,さ
らにはレッド,ブルーインクといったいわゆる特色インクの使用
も提案されてきている。このような場合,インクジェットプリン
タに対しては7∼8個といったインクタンクを個別に搭載するこ
とになる。その際に,間違った装着位置へのインクタンクの搭載
を防止する機構が必要となってくる。特許文献3には,インクタ
ンクがキャリッジに搭載される際の,キャリッジの搭載部とイン
クタンク相互の係合の形状をインクタンクごとに異ならせ,これ
により,インクタンクが誤った位置に装着されることを防止して
いる構成が開示されている(5頁11行∼20行段落【0。」
004)】
【発明が解決しようとする課題】
「インクタンクの搭載位置を特定する構成としては,上述したよう
に,搭載部とインクタンクが係合する相互の形状を搭載位置ごと
に異ならせるものがある。しかしながら,この場合は特に,イン
クの色ないし種類ごとに異なる形状のインクタンクを製造する必
要があり,製造効率やコストの点で不利となる(5頁35行。」
∼39行【0007)】
「他の構成として,インクタンクの電気接点とキャリッジ等の搭載
位置における本体側の電気接点とが接続して形成される回路の信
号線を,搭載位置ごとに個別のものとする構成が考慮される。例
えば,インクタンクのインク色情報をそのインクタンクから読み
出し,LEDの点灯などを制御するための信号線を搭載位置ごと
に個別のものとすることにより,読み出した色情報がその搭載位
置に適合していなければインクタンクが誤って搭載されているこ
とを知ることができる(5頁40行∼46行【0008)。」】
「しかしながら,このような信号線をインクタンクもしくは搭載位
,。置ごとに個別なものとする構成は信号線の数を増すものである
特に,上述したように最近のインクジェットプリンタなどでは,
用いるインクの種類を多くすることにより画質の向上を図るのが
一つの傾向としてある。このようなプリンタでは,特に信号線の
数が増すことはコストを増すなどの要因となる。一方で,配線数
を削減するためにはバス接続といった所謂共通の信号線の構成が
有効であるが,単にバス接続のような共通の信号線を用いる構成
では,インクタンクもしくはその搭載位置を特定することができ
ないことは明らかである(5頁47行∼6頁4行段落【0。」
009)】
「本発明はこのような問題を解消するためになされたものであり,
その目的とするところは,複数のインクタンクの搭載位置に対し
て共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い,
この場合でもインクタンクなど液体収納容器の搭載位置を特定し
た表示器の発光制御をすることを可能とすることにある(6。」
頁5行∼9行段落【0010)】
【発明の効果】
「以上の構成によれば,記録装置の本体側の接点(コネクタ)と接
続する液体収納容器であるインクタンクの接点(パッド)を介し
て入力される信号と,そのインクタンクの個体情報とに基づいて
発光部の発光を制御するので,先ず,搭載される複数のインクタ
ンクが共通の信号線によってその同じ制御信号を受け取ったとし
ても,固体情報に合致するインクタンクのみがその発光制御を行
うことができ,これにより,インクタンクを特定した発光部の点
灯など発光制御が可能となる。次に,このようなインクタンクを
特定した発光制御が可能な場合,例えば,キャリッジに搭載され
た複数のインクタンクについて,その移動に伴い所定の位置で順
次その発光部を発光させるとともに,上記処置の位置での発光を
検出するようにすることにより,発光が検出されないインクタン
。,クは誤った位置に搭載されていることを認識できるこれにより
例えば,ユーザに対してインクタンクを正しい位置に再装着する
ことを促す処理をすることができ,結果として,インクタンクご
とにその搭載位置を特定することができる(8頁47行∼9。」
頁10行段落【0019)】
「この結果,複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線
を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い,この場合でもイ
ンクタンクなど液体収納容器の搭載位置を特定した表示器の発行
(判決注:発光」の誤記と認める)制御をすることが可能と「。
なる(9頁11行∼14行段落【0020)。」】
本件明細書の上記記載によれば,同一形状の複数のインクタンク
を相互に異なる位置に搭載することができるプリンタであれば,同
プリンタに上記インクタンクと異なる形状のインクタンクを搭載す
ることができるか否かにかかわらず,本件発明1及び本件訂正発明
1における課題(インクタンクの形状をインクタンクごとに異なら
せることなく,インクタンクの誤装着を防止すること)が存在す。
るということができ,本件光照合処理によりインクタンクの誤装着
を認識するという上記発明の効果によって,上記課題を解決するこ
とができるものと認められる。
そうすると構成要件1A及び1Aの複数の液体収納容器液,’「(
体インク収納容器)が搭載可能」な記録装置とは,同一形状の複数
のインクタンクを相互に異なる位置に搭載することかできるプリン
タであれば足りると解するのが相当であり,他に異なる形状のイン
クタンクを搭載することができるものであることは,被告製品2が
構成要件1A及び1A’を充足するとの判断を妨げるものではない
というべきであるから,被告の主張は理由がない。
b構成要件1A2及び1A2’について
証拠(甲4・3頁,甲10の1∼4)によれば,原告製プリンタの
タンクホルダには,被告製品2に設けられた基板と電気的に接続する
接点が設けられていることが認められる。
したがって,原告製プリンタは「液体収納容器に備えられる接点,
と電気的に結合可能な装置側接点(構成要件1A2)及び「液体イ」
ンク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点構」(
成要件1A2)を備えていることが認められる。’
c構成要件1A3及び1A3’について
(a)証拠(甲4(3頁,4頁,7頁∼11頁,甲10の1∼4))
及び弁論の全趣旨によれば,①原告製プリンタには,同プリンタ
のキャリッジの箇所に向かい合うように,被告製品2の発光部から
の光を受光する受光手段が一つ設けられていること(なお,被告製
品2は,底面の発光部の光が,透明なプラスチック状の導光性部材
を通してインクタンク上部まで導光され,同所から上記受光手段に
投光される構成となっている,②同プリンタのすべてのタン。)
クホルダに被告製品を装着した状態でプリンタの上部カバーを閉じ
ると,キャリッジは,上記受光手段の付近まで移動し,受光手段の
付近で細かく移動することによって,受光手段に対向するインクタ
ンクが次々と入れ替わること,③各インクタンクは,前記アのと
おり,当該インクタンクのインク色を示す色情報を保持することが
可能な情報保持部を有しており,原告製プリンタから上記bの接点
を介して入力される電気信号中の色情報と,上記情報保持部の保持
する情報を比較し,それらが同一である場合に,インクタンク上の
,,,発光部を発光させること④上記③の発光は各インクタンクが
その本来装着されるべき搭載位置が上記受光手段に対向する位置に
来た時に行われること,⑤原告製プリンタ(具体的には,プリン
タ内の制御回路)は,上記②ないし④の動作により上記受光部が上
,,記発光を受光することができるか否かによって各インクタンクが
その本来装着されるべき位置に装着されているかどうかを確認する
こと(すなわち,本件光照合処理を行うこと,が認められる。)
したがって,原告製プリンタは「液体収納容器からの光を受光,
する受光手段(構成要件1A3,並びに「前記キャリッジの移」),
動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置
され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出
用の受光手段を一つ,及び「該受光手段で該光を受光すること」,
によって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク
収納容器位置検出手段(構成要件1A3)を備えている。」’
(b)これに対し,被告は,①本件発明1及び本件訂正発明1の特
許請求の範囲の記載には「発光部「受光手段」という用語が用,」,
いられているものの「発光部」と「受光手段」の関係は不明確で,
あり,どのように発光を検出するのかが不明であって,本件明細書
の発明の詳細な説明にも,この点について実施例以外に十分な開示
がされていない,②そのため,上記記載の解釈に当たっては,上
記実施例に記載されている発光の検出方法を考慮して解釈せざるを
得ない,③そうすると,本件発明1及び本件訂正発明1に係るイ
ンクタンクについて,被告製品2のように,一つの基板に接点及び
発光部を設け,当該基板をインクタンクの底面側に設ける構成を実
施しようとした時には,上記実施例(段落【0034【003】,
8【0046【0047,図4,12)のように,タンクホ】,】,】
ルダに穴を設け,この穴から直接光を通すか,穴に設けた導光性部
材を通じて光を通すことでしか,発光部の光を受光手段で受光させ
ることができないというべきである,④すなわち,構成要件1A
3の「該液体収納容器からの光を受光する」及び同1A3’の「前
記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する」とは「イン,
クタンクホルダに空けられた穴もしくは光透過性の部分を通じて光
を通すことにより該液体収納容器からの光を受光する」と解するの
が相当である,⑤一方,被告製品2の構成は上記(a)①のとおり
であり,インクタンクホルダに空けられた穴又は光透過性の部分を
通じて光を通す構成とはなっていないから,同製品は構成要件1A
3及び1A3’を充足しない,と主張する。
しかしながら,上記各構成要件には,単に「該液体収納容器か,
らの光を受光する」ないし「前記液体インク収納容器の発光部から
の光を受光する」と記載されているだけであり,プリンタに設けら
れた受光手段がインクタンクないしインクタンクの発光部からの光
を受光する方法を被告の主張する方法に限定する旨の記載は存在し
ない。
また,本件明細書の発明の詳細な説明における前記【発明が解決
しようとする課題】及び【発明の効果】の記載からすると,本件発
明1及び本件訂正発明1においてインクタンクに発光部を設けるこ
と及びプリンタに受光手段を設けることの技術的意義は,インクタ
ンクによる所定の位置での発光を上記受光部が検出することによっ
て本件光照合処理を実現することにあるものと認められる。
そうすると,構成要件1A3及び1A3’の「受光手段」とは,
プリンタ上に1個設けられたものであり,インクタンクからの発光
を受光することによって本件光照合処理を実現することのできるも
のであれば足りると解するのが相当であり,これを更に,基板をイ
ンクタンクの底面側に設けた場合のインクタンクからの発光を受光
する方法を本件明細書の実施例の場合に限定するものと認めること
はできないというべきである。
被告の主張は,本件発明1及び本件訂正発明1の技術的範囲をそ
の実施例に限定しようとするものであり,これを採用することはで
きない。
(c)被告は「液体インク収納容器の搭載位置を検出する(構成,」
要件1A3)とは,その通常の語義や,本件発明1及び本件訂正’
発明1の課題がキャリッジにおけるインクタンクの誤装着を防止す
ることであることからすれば「各インクタンクがキャリッジ上の,
どの位置に搭載されているかを検出する」という意味であると解す
るのが相当であり,原告製プリンタは,インクタンクが所定の位置
に装着されていないことは検出できるものの,誤装着されたインク
タンクが装着された場所については検出することができないから,
上記の意味の「検出」機能を備えていないとも主張する。
しかしながら,構成要件1A3’は,単に「液体インク収納容,
器の搭載位置を検出する」と記載されているだけであり「搭載」,
とは「船・車・飛行機などに資材を積みこむこと」を「位置」と,
は「ある人・物・事柄が,他との関係もしくは全体との関係で占め
る場所,あるいは立場」を「検出」とは「検査して見つけ出すこ,
」,(,とをそれぞれ意味するものであるから広辞苑第5版152頁
860頁,1879頁「搭載位置」というだけでは,それが絶,),
対的な位置関係(インクタンクが現に装着されているキャリッジ上
の特定の箇所)を意味するのか,相対的な位置関係(例えば,イン
クタンクが現に装着されている場所が,その本来装着されるべき場
所との関係で,正しいものか否か)を意味するのかは,一義的に。
明確であるとはいえないというべきである。
,,そこで本件明細書の発明の詳細な説明を見ると前記aのとおり
本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1及び本件訂正発明
1の課題は,インクタンクの形状を異ならせたり,各インクタンク
とプリンタとをつなぐ個別の信号線を用いたりすることなく,イン
クタンクの誤装着を防止することであり,本件光照合処理により,
発光が検出されないインクタンクは誤った位置に搭載されているこ
とを認識することができ,これによって,上記課題を解決すること
ができる旨が記載されていることが認められるが,それを超えて,
誤った位置に搭載されたインクタンクが,キャリッジ上のどの位置
に搭載されているのかを検出する方法については,何らの記載も示
唆もされていないものと認められる。
さらに,本件明細書の発明の詳細な説明中には【発明を実施す,
るための最良の形態】として,次のとおり,本件光照合処理につい
て説明する部分があり,ここでも,本件光照合処理は,インクタン
クが正しい位置に装着されているか否かを判断する処理であり,同
処理によって,本来の位置に装着されていないインクタンクを特定
することができることが説明されている。
「光照合処理は,正常に装着されたインクタンクそれぞれが正しい
位置に装着されているか否かを判断する処理である。本実施形態
では,インクタンクの装着位置について,例えば,インクタンク
と装着位置の形状を他のインクのインクタンクが装着できないよ
うな形状とし,それぞれの色のインクタンクに対応して装着位置
を定めるような構成をとらないことから,それぞれの色のインク
タンクについて本来の位置でないところに誤って装着される可能
性がある。このため,本光照合処理を行い,誤って装着されてい
る場合は,ユーザにその旨を知らせるものである。これにより,
特に,インクタンクの形状を色ごとに異ならせることなく,イン
クタンクの製造の効率化や低コスト化を図ることができる(2。」
2頁43行∼23頁1行段落【0108)】
「図29(a)∼(d)および図30(a)∼(d)は,この光照合処理を
説明する図である(23頁2行∼4行)段落【0109)。」】
(,。判決注:下記の図面は対応する図面を裁判所において挿入した
以下同じ)。
【図29】【図30】
「図29(a)に示すように,先ず,第1受光部210に対して,図
中左側から右側へ移動キャリッジ205を開始する。そして,最
初に,イエローインクのインクタンク1Yが装着されるべき位置
のインクタンクが第1受光部210に対向する位置で,インクタ
ンク1YのLED101を発光させる(図24にて説明したよう
に,実際は点灯し所定時間後消灯すること,以下,本照合処理で
)。,は同様インクタンク本来の正しい位置に装着されているとき
第1受光部210はLED101の発光を受光することができ,
制御回路300は,その装着位置にはインクタンク1Yが正しく
装着されていると判断する(23頁5行∼12行段落【0。」
110)】
「キャリッジ205を移動しつつ,同様にして,図29(b)に示す
ように,マゼンタインクのインクタンク1Mが装着されるべき位
置のインクタンクが第1受光部210に対向する位置で,インク
タンク1MのLED101を発光させる。同図に示す例は,イン
クタンク1Mが正しい位置に装着されていて第1受光部210は
その発光を受光することを示している。順次,図29(b)∼(d)
,。に示すように判断する装着位置を変えながら発光を行って行く
これらの図は,正しい位置に装着されている例を示している」。
(23頁13行∼19行段落【0111)】
「これに対し,図30(b)に示すように,マゼンタインクのインク
タンク1Mが装着されるべき位置にシアンインクのインクタンク
1Cが誤って装着されているときは,第1受光部210に対向し
ているインクタンク1CのLED101は発光せず,別の位置に
搭載されているインクタンク1MのLED101が発光する。こ
の結果,このタイミングでは,第1受光部210は受光できない
ことから,制御回路300は,その装着位置にはインクタンク1
M以外のインクタンクが装着されていると判断する。これに対応
して,図30(c)に示すように,シアンインクのインクタンク1
Cが装着されるべき位置にマゼンタインクのインクタンク1Mが
誤って装着されており,第1受光部210に対向しているインク
タンク1MのLED101は発光せず,別の位置に搭載されてい
るインクタンク1CのLED101が発光する(23頁20。」
行∼30行段落【0112)】
「以上説明した光照合処理を行うことにより,制御回路300は本
来の位置に装着されていないインクタンクを特定することができ
る。また,装着されるべき位置に正しいインクタンクが装着され
ていなかった場合には,その装着位置において,他の3色のイン
クタンクを順に発光させる制御を行うことによって,その装着位
置に誤って何色のインクタンクが装着されてしまったかを特定す
ることもできる(23頁31行∼36行段落【0113)。」】
「図25において,上述したステップS105の光照合処理の後,
ステップS106でこの処理が正常終了したか否かを判断する。
光照合が正常終了したと判断したときは,ステップS107で,
操作部213の表示器を例えばグリーンに点灯して,本処理を終
了する。一方,正常の終了でないと判断したときは,ステップS
109で操作部213の表示器を例えばオレンジで点滅するとと
もに,ステップS110で,ステップS105で特定した,本来
の正しい位置に装着されていないインクタンクのLED101
を,例えば点滅あるいは点灯する。これにより,ステップS10
8で,ユーザが本体カバー201を開けたとき,本来の正しい位
置に装着されていないインクタンクを知ることができ,正しい位
置への再装着を促すことができる(23頁37行∼46行。」
段落【0114)】
以上の請求項の記載及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載か
らすると,構成要件1A3’の「液体インク収納容器の搭載位置を
検出する」とは「インクタンクが正しい位置に搭載されているか,
否かを認識する」ことを意味するものであり,それを超えて,誤っ
た位置に搭載されたインクタンクが,キャリッジ上のどの位置に搭
載されているかを確定させることまでは意味しないと解するのが相
当である。
したがって,被告の主張は理由がない。
d構成要件1A4及び1A4’について
証拠(甲4・5頁及び6頁,甲10の1∼4)によれば,原告製プ
リンタは,各インクタンクと接続するタンクホルダのコネクタが,タ
ンクホルダの裏側において共通の配線で接続されていること,本件光
照合処理の際には,上記配線を通じて,各インクタンクを光らせるた
めの色情報のコードが各インクタンクに送信されること,が認められ
る。
したがって,原告製プリンタは「搭載される液体収納容器それぞ,
れの前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通に電気的接続す
る配線を有した電気回路(構成要件1A4,及び「搭載される液」),
体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対
して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有
した電気回路(構成要件1A4)を備えていると認められる。」’
e構成要件1A5’について
構成要件1A5’の「液体インク収納容器の搭載位置を検出する」
とは,前記cのとおり「インクタンクが正しい位置に搭載されてい,
るか否かを認識する」ことを意味するものと解される。また,原告製
プリンタが,本件光照合処理を行うことによって,各インクタンクが
正しい位置に装着されているか否かを検出することができると認めら
れることについても,上記cで認定したとおりである。
したがって,原告製プリンタは「前記キャリッジの位置に応じて,
特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光ら
せ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段
は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する(構成要件1A5」
)機能を備えていると認められる。’
(イ)構成要件1B及び1B’について
証拠(甲4・7頁及び8頁)によれば,被告製品2には,その底面部
に基板が設置され,同基板上に,原告製プリンタ側のコネクタと電気的
に接続することが可能な接点が設けられていることが認められる。
したがって,被告製品2は,構成要件1B及び1B’の「前記装置側
接点と電気的に接続可能な前記接点」を備えていると認められ,同構成
要件を充足する。
(ウ)構成要件1C及び1C’について
証拠(甲4・8頁∼11頁,甲10の1∼4)によれば,被告製品2
は,その基板に設けられたICチップに,当該インクタンクの色に応じ
た色情報を保持していることが認められる。
したがって,被告製品2は,構成要件1Cの「液体収納容器の個体情
報を保持可能な情報保持部」及び同1C’の「液体インク収納容器のイ
」,ンク色を示す色情報を保持可能な情報保持部を備えていると認められ
同構成要件を充足する。
(エ)構成要件1D及び1D’について
前記アのとおり,被告製品2は,その基板の上面に発光部が設けられ
ていることが認められる。また,前記(ア)cのとおり,上記発光部は,
本件光照合処理の際,原告製プリンタの受光部に投光するための光を発
光することが認められる。
したがって,被告製品2は,構成要件1Dの「発光部」及び同1D’
の「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」を備えて
いると認められ,同構成要件を充足する。
(オ)構成要件1E及び1E’について
a前記アのとおり,被告製品2は,その基板の上面に発光部及びIC
チップが設けられ,ICチップには情報保持部が存在し,当該インク
タンクのインク色を示す情報を保持することが可能であって,原告製
プリンタとインクタンクとの接点から上記ICチップに対し,インク
の色に応じた色情報に発光コマンド(制御部に発光を命じる命令コー
ド)を付けた信号を送付すると,ICチップ内の制御部において,上
,,記送信された色情報と上記情報保持部の保持する色情報とを比較し
両者が一致している場合のみ上記発光部を発光させることが認められ
る。
したがって,被告製品2は,構成要件1Eの「前記接点から入力さ
れる個体情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する個体情報とに
応じて前記発光部の発光を制御する制御部」及び同1E’の「前記接
点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持す
る前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」を備え
ており,同構成要件を充足する。
bこれに対し,被告は「所定の目的に合致するよう意図的,思いど,
おりに支配したり,あやつるという,何らかの自律的なコントロール
・調節機能(乙7,43)という「制御」の有する通常の意味に」,
従って解釈すれば,構成要件1E及び1E’の「発光部の発光を制御
」,,,,,する制御部とは発光部の発光をいつどのタイミングで点灯
点滅,消灯のいずれの状態とするのかについて,自身でコントロール
し,また,発光部の点滅速度を自身で調節し得る機構を指すと解する
のが相当であり,被告製品2は,プリンタ本体の制御回路からの信号
を受け取って,その指示どおりの発光,点滅を行っているにすぎない
から,上記意味での「制御部」を備えていない,と主張する。
しかしながら,証拠(乙7,43)によれば「制御」とは,一般,
的に「システムにおいて,所定の目的に合致するように行う意図的,
な操作「かってにさせないこと。思いどおりにあやつること。支。」,
配「調節すること」を意味するものと認められるところ,被告。」,。
製品2では,上記aのとおり,プリンタ本体から送られてくる「色情
報+発光コマンド」を受信すると,同製品に設けられたICチップ内
の制御部において,上記色情報が自らのインクタンクの色に一致して
いるかどうかを比較し,両者が一致していると判断した場合に限り,
同製品上の発光部を発光させていることが認められる。
そうすると,被告製品2は,単にプリンタ本体に指示されるがまま
に発光部を発光させているものではなく,そのICチップ内の制御部
において,その発光部の発光を意図的に操作している,すなわち,上
記のとおりプリンタ本体から送られてくる色情報が自己の保有する色
情報と一致するかどうかを主体的に判断することにより,発光部の発
光を「制御」しているものと認められる。
また,本件明細書の発明の詳細な説明においても,前記のとおり,
本件発明1及び本件訂正発明1の目的は「複数のインクタンクの搭,
載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御
を行い,この場合でもインクタンクなど液体収納容器の搭載位置を特
定した表示器の発光制御をすることを可能とすること(段落【00」
10)にあり,発明の効果は「記録装置の本体側の接点(コネク】,
タ)と接続する液体収納容器であるインクタンクの接点(パッド)を
介して入力される信号と,そのインクタンクの個体情報とに基づいて
発光部の発光を制御するので,先ず,搭載される複数のインクタンク
が共通の信号線によってその同じ制御信号を受け取ったとしても,固
体情報に合致するインクタンクのみがその発光制御を行うことがで
き,これにより,インクタンクを特定した発光部の点灯など発光制御
が可能となる(段落【0019)であると説明されており,イン。」】
クタンクにおいて発光部の発光制御が行われる旨が記載されている。
さらに,本件明細書の発明の詳細な説明の【発明を実施するための
最良の形態】においても,次のとおり,発光部の制御は,インクタン
ク内の入出力の制御回路及びLEDドライバで行われる旨が記載され
ている。
「一方,各インクタンク1の基板100には,これら4本の信号線の
信号によって動作する制御部103およびそれによって動作するL
ED101が設けられている(18頁29行∼31行段落【0。」
082)】
「図21はこれら制御部などが設けられた基板の詳細を示す回路図で
ある。同図に示すように,制御部103は,入出力制御回路(I/
OCTRL)103A,メモリーアレイ103BおよびLEDド
ライバ103Cを有して構成される。入出力制御回路103Aは,
本体側の制御回路300からフレキシブルケーブル206を介して
送られてくる制御データに応じて,LED101の表示駆動やメモ
リーアレイ103Bに対するデータの書き込みおよび読み出しを制
御する。メモリーアレイ103Bは,本実施形態ではEEPROM
の形態のものであり,インク残量,収納するインクの色情報の他,
そのインクタンクの固有番号や製造ロット番号などの製造情報等の
インクタンク個体情報を記憶することができる。なお,色情報はイ
ンクタンクの出荷時または製造時に,その収納しているインクの色
に対応して,メモリーアレイ103Bの所定のアドレスに書き込ま
。,,,れる例えばこの色情報は図23図24にて後述されるように
(),,インクタンクの識別情報個体情報として用いられこれにより
インクタンクを特定してメモリーアレイ103Bに対するデータの
書き込みやメモリーアレイ103Bからデータの読み出しを行い,
また,そのインクタンクのLED101の点灯,消灯を制御するこ
とが可能となる(後略(18頁32行∼46行段落【008。)」
3)】
「LEDドライバ103Cは,入出力制御回路103Aから出力され
る信号がオンのときLED101に電源電圧を印加するよう動作
し,これにより,LED101を発光させる。従って,入出力制御
回路103Aから出力される信号がオンの状態にあるとき,LED
101は点灯状態となり,上記信号がオフの状態にあるとき,LE
D101は消灯状態となる(19頁8行∼13行段落【00。」
84)】
「図23に示すように,メモリーアレイ103Bへの書き込みでは,
本体側の制御回路300からインクタンク1の制御部103におけ
る入出力制御回路103Aに対し,信号線DATA(図20)を介
して「開始コード+色情報「制御コード「アドレスコード,」,」,」
「データコード」の各データ信号が,クロック信号CLKに同期し
てこの順で送られてくる「開始コード+色情報」は,その「開始。
」,,,コード信号によって一連のデータ信号の始まりを意味しまた
「色情報」信号によってこの一連のデータ信号の対象となっている
インクタンクを特定する。なお,ここでのインクの「色」とはY,
M,C等のインク色だけでなく濃度の異なるインクをも含むもので
ある(19頁26行∼34行段落【0087)。」】
「「」,,「」,「」,「」,色情報は同図に示すようにインクの色KCM
「」,,Yに対応したコードを有しており入出力制御回路103Aは
このコードが示す色情報とメモリーアレイ103Bに格納されてい
る自身の色情報とを比較し一致しているときにのみ,それ以降のデ
ータ信号を取り込む処理を行い,一致しないときは,それ以降のデ
ータ信号の取り込みを無視する処理を行う。これにより,図20に
示した共通の信号線「DATA」を介して,本体側からデータ信号
をそれぞれのインクタンクに共通に送っても,それに上述の色情報
を含めることによってインクタンクを特定することができ,書き込
み,読み出し,LEDの点灯,消灯など,その後のデータ信号に基
づく処理を,その特定したインクタンクに関してのみ行うことが可
。,()能となるこの結果4つのインクタンクに対して共通の1本の
データ信号線を介して送信されるデータによってデータの書き込み
などのほか,LEDの点灯,消灯の制御を行うことができ,これら
の制御に要する信号線の数を本発明のように少なくすることが可能
となる(後略(19頁35行∼47行段落【0088)。)」】
「LED101の点灯または消灯では,図24に示すように,上記と
同様,先ず「開始コード+色情報」のデータ信号が,本体側から,
信号線DATAを介して入出力制御回路103Aに送られてくる。
上述したように「色情報」によってインクタンクが特定され,そ,
の後に送られてくる「制御コード」に基づくLED101の点灯,
消灯は特定されたインクタンクのみで行われる。点灯,消灯にかか
る「制御コード」は,図23にて上述したように「ON」または,
「OFF」のコードがあり「ON」によってLED101の点灯,
が行われ「OFF」によって消灯が行われる。すなわち,制御コ,
ードが「ON」のとき,入出力制御回路103Aは,図22にて前
,,述したようにLEDドライバ103Cに対してオン信号を出力し
。,「」それ以降もその出力状態を維持する逆に制御コードがOFF
のとき,入出力制御回路103Aは,LEDドライバ103Cに対
してオフ信号を出力し,それ以降もその出力状態を維持する(後。
略(20頁21行∼32行段落【0092))」】
以上の請求項の記載及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載によ
れば,構成要件1E及び1E’の「発光部の発光を制御する」とは,
「プリンタ本体とインクタンクとの接点を通じてプリンタからインク
タンクに入力される,インクタンクのインク色を示す色情報に係る信
号と,インクタンク内の情報保持部の保持する当該インクタンクの色
情報とを比較し,両者が一致する場合にインクタンクの発光部を発光
させ,一致しない場合は発光部を発光させないこと」を意味すると解
するのが相当である。
そうすると,本件では,上記認定のとおり,被告製品2において上
記意味での「制御」が行われていることが明らかであるから,被告の
主張は理由がない。
(カ)構成要件1F及び1F’について
a上記のとおり,被告製品2は,構成要件1A1ないし1A4及び同
1A1’ないし1A5’の構成を備えた原告製プリンタのキャリッジ
に対して着脱可能であり,構成要件1Bないし1E及び同1B’ない
し1E’の構成を備えた液体インク収納容器であると認められる。
したがって,被告製品2は,構成要件1Fの「上記各構成を)有(
することを特徴とする液体収納容器」及び同1F’の「上記各構成(
を)有することを特徴とする液体インク収納容器」に該当し,同構成
要件を充足する。
bこれに対し,被告は,各色のインクタンクにおけるインクの消耗の
仕方は,印刷する画像の色合いや印刷物の内容によって異なるもので
あり,複数のインクタンクのインクが同時になくなる確率は無に等し
いものである上,インクタンクは高価であるから,空になった1個の
インクタンクを交換する際に,残量の残っている他のインクタンクを
同時に交換することもあり得ないとして,被告製品2を原告製プリン
タに誤装着する場合としてあり得るのは,インクタンクのいずれかが
消耗したために交換する際に,取り外したインクタンクと別の色の被
告製品2を誤って装着してしまう場合(すなわち,2個同色を装着し
た場合)だけであって,この場合,原告製プリンタは,本件光照合。
処理を行わずに誤装着の有無を検出し,誤装着を防止することができ
るので,被告製品2は本件発明1及び本件訂正発明1の「液体収納容
器」ないし「液体インク収納容器」に該当しないと主張する。
また,被告は,同人の主張は,①原告製プリンタ操作ガイド(乙
56の1)に「一度に複数のインクタンクを外さず,必ず1つずつ,
交換してください」と記載されていること(55頁,②原告製。)
プリンタでは,インクタンクのインクがなくなった場合,プリンタ本
体のエラーランプが点滅し,インクタンクを交換しない限り印刷を続
行することができなくなること(同ガイド・9頁,53頁,87頁,
89頁,③原告製プリンタでは,インクタンクのインクが少なく)
なった場合にもインクランプは点滅するが,インクがなくなった場合
の点滅の形態(点滅速度)とは明確に異なっている上,上記操作ガイ
ドには,インクが少なくなったにすぎない時点でのインクタンクの交
換を許容する記載は存在しないこと(同ガイド・53頁,などから)
も裏付けられるとする。
しかしながら,証拠(甲4,10の1∼4,甲11,乙56の1∼
4)及び弁論の全趣旨によれば,原告製プリンタは,1個のインクタ
ンクのみが脱着可能な開口部を有するカバーをプリンタ上に設けるな
どして,交換されるべきインクタンクだけを脱着することができるよ
うな構成(乙55・1頁16行∼19行,15頁16行∼21行,第
1図を参照)を採るものではなく,ユーザーが,プリンタのトップ。
カバーを開けて,任意のインクタンクを脱着することが可能な構成を
採っており,プリンタカバーを開けた状態であれば,一度の機会に,
複数のインクタンクを順次取り外し,取外し作業の完了後に,新しい
インクタンクを順次装着していくことも可能な構成であることが認め
られる。
したがって,ユーザーが,上記交換の際に,複数のインクタンクの
装着位置を取り違え,それぞれ所定の位置と異なる場所に装着してし
まうこと(例えば,前記本件明細書の発明の詳細な説明の段落【01
】,),,12図30のようなケースも起こり得るものでありこの場合
ユーザーが,複数のインクタンクの脱着が完了した状態でプリンタカ
バーを閉じると,本件光照合処理が行われ,インクタンクが正しい位
置に装着されているか否かを検出することができると認められる。
また,被告は,上記①ないし③の事実を挙げるなどして,原告製プ
リンタにおいてユーザーが複数のインクタンクを同時に交換すること
はあり得ないことであると主張する。しかしながら,上掲各証拠によ
れば,原告製プリンタでは,インクが「少なくなった状態「なく」,
なった可能性がある状態」及び「ない状態」の,3段階のインク切れ
の警告が行われ「なくなった可能性がある状態」及び「ない状態」,
の警告時に印刷が停止するものの,どちらの場合も,リセットボタン
を押せば,インクタンクを交換しなくても印刷を続行することが可能
な構成となっており,その旨は原告製プリンタ操作ガイドにも記載さ
れていることが認められる。そうすると,被告製品2を装着して原告
製プリンタを使用しているユーザーが,同プリンタを使用中に,1本
のインクタンクについて「インクがなくなった可能性がある」こと,
を示すエラーランプが点滅した場合でも,直ちに当該インクタンクを
,,,交換せずリセットボタンを押して印刷を継続することとしその後
他のインクタンクについても「インクがなくなった可能性がある状,
態」ないし「インクが少なくなった状態」を示すエラーランプが点滅
する状態となったため,この機会に複数のインクタンクをまとめて交
換することとして,複数のインクタンクの脱着作業を行うということ
は,格別不合理な行動とはいえず,およそ起こり得ない状況ではない
ものと認められる。
以上の点に照らして考えると,被告製品2が本件発明1及び本件訂
正発明1の「液体収納容器」ないし「液体インク収納容器」に該当す
ることは明らかであり,被告の主張は理由がない。
c被告は,本件発明1及び本件訂正発明1は,プリンタのキャリッジ
上に,複数のインクタンクが各色1個ずつ,すべて装着された構成を
必須とするものであり,インクタンクだけでなく,プリンタをも必須
,,の構成要件とするものであるからインクタンク単体の発明ではなく
インクタンクを搭載したプリンタの発明というべきであり,被告製品
2単体で本件特許権1を侵害するものではないとも主張する。
しかしながら,本件訂正前の請求項1及び本件訂正後の請求項1の
記載によれば,本件発明1及び本件訂正発明1は,組み合わせる装置
(本件では,インクタンクを装着するプリンタ本体)の構成を構成。
要件とすることにより,組み合わされる装置(本件では,インクタン
ク)の構成を特定するものであるということができるから,プリン。
タ側の構成に係る構成要件(構成要件1A1∼1A4,同1A1’∼
1A5)も,インクタンクの構成を特定するために必要なものであ’
ることが認められる。
したがって,前記のとおり,被告製品2が本件発明1の構成要件及
び本件訂正発明1の構成要件をいずれも充足するものである以上,被
告製品2は,単体で本件特許権1を侵害するものであると認められ,
被告の主張は理由がない。
()争点3(本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか)に2
ついて
被告は,前記3()ないし()の[被告の主張]のとおり,本件発明は進歩36
性を欠く(争点3−1,本件発明の特許請求の範囲の記載は特許法36条)
6項1号(サポート要件)及び同項2号(明確性要件)に違反する(争点3
−2,3−3,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項)
1号(実施可能要件)に違反する(争点3−4)などと主張して,本件特許
は特許無効審判により無効にされるべきものであると主張する。
しかしながら,本件特許については,その無効審判事件において本件訂正
の請求がされており,同訂正はいまだ確定していない状況にある。このよう
な場合において,特許法104条の3第1項所定の「当該特許が無効審判に
より無効にされるべきものと認められるとき」とは,当該特許についての訂
正審判請求又は訂正請求に係る訂正が将来認められ,訂正の効力が確定した
ときにおいても,当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認めら
れるか否かによって判断すべきものと解するのが相当である。
したがって,原告は,被告が,訂正前の特許請求の範囲の請求項について
無効理由があると主張するのに対し,①当該請求項について訂正審判請求又
は訂正請求をしたこと,②当該訂正が特許法126条又は134条の2所定
の訂正要件を充たすこと,③当該訂正により,当該請求項について無効の抗
弁で主張された無効理由が解消すること,④被告製品が訂正後の請求項の技
術的範囲に属すること,を主張立証することができ,被告は,これに対し,
⑤訂正後の請求項に係る特許につき無効事由があることを主張立証すること
ができるというべきである。
本件においても,原告及び被告は本件訂正に関し,同趣旨の主張をしてお
り,前記のとおり,原告が本件訂正請求をしていること(上記①)及び被告
製品2が本件訂正後の請求項1の技術的範囲に属すること(本件訂正発明1
の構成要件を充足すること。上記④)については,これを認めることができ
る。
そこで,以下において,上記②,③及び⑤の点について判断する。
ア争点3−5−1(本件訂正は,特許法134条の2の訂正要件を満たす
か)について
(ア)本件訂正により,本件訂正前の請求項1は,別紙1の「請求項1」
「訂正後」欄記載のとおり訂正請求がされている。
そこで,上記訂正が特許法134条の2の訂正要件を充たすか否かに
ついて検討するに次のとおり本件訂正は特許請求の範囲の減縮特,,,(
許法134条の2第1項1号)ないし明りょうでない記載の釈明(同項
3号)を目的とするものであり,かつ,同条第5項において準用される
同法126条3項及び4項の規定に適合するものであるから,適法な訂
正であると認められる(なお,以下の説示中においては,本件訂正請求
に係る訂正部分を下線で示すものとする。。)
a構成要件1A1’及び1A6’について
構成要件1A1’は,構成要件1A1の「液体収納容器が搭載可能
であって」を「液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジ,
と」に変更するものであり,構成要件1A6’は,構成要件1A5の
「着脱可能な液体収納容器」を「前記キャリッジに対して着脱可能,
な液体インク収納容器」に変更するものである。
,「」,「」上記変更は訂正前の液体収納容器を液体インク収納容器
(液体インクを収納する容器)に限定した上,同容器を,キャリッジ
を備えた記録装置の該キャリッジに対して着脱可能な容器に限定する
ものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認
められる(なお,構成要件1A2’以下においても,訂正前の請求項
1の「液体収納容器」を「液体インク収納容器」に変更するものがあ
り,かかる訂正が,いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
であると認められることについては,構成要件1A1’の場合と同じ
である。。)
また,上記訂正の内容は,本件明細書の段落【0022】及び【0
068】ないし【0072】などに記載されているから(甲2,同)
訂正は,明細書に記載した事項の範囲内において行われたもの(特許
法134条の2第5項,同法126条3項)であると認められる。
b構成要件1A2’について
構成要件1A2’は,構成要件1A2の「該液体収納容器に備えら
れる接点と電気的に結合可能な装置側接点」を「該液体インク収納,
容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点」に変更する
ものである。
上記変更は,本件訂正前の請求項1において,構成要件1A2及び
1Bが,いずれも,インクタンクに備えられる接点と装置側接点との
関係を表現したものであるにもかかわらず,構成要件1A2では「結
」,「」,合と表現され構成要件1Bでは接続と表現されているために
表現が混在していたものを「接続」という表現に統一して明確にし,
たものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであ
ると認められる。
また,インクタンクに備えられる接点と装置側接点とが接触する関
係を「接続」と表現することについては,本件明細書の段落【003
3【0057】などにも記載されているから(甲2,同訂正は,】,)
明細書に記載した事項の範囲内において行われたものであると認めら
れる。
c構成要件1A3’及び1A5’について
構成要件1A3’は,構成要件1A3の「該液体収納容器からの光
を受光する受光手段」を「前記キャリッジの移動により対向する前,
記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収
納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備
え,該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容
器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」に変更す
るものであり,構成要件1A5’は,訂正前の請求項1に「前記キ,
ャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容
器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク
収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出す
る」との構成を付加するものである。
上記変更は,発明の対象となる液体インク収納容器を,上記の構成
を有する記録装置に着脱可能な容器に限定するものであるから,特許
請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
また,上記訂正の内容が本件明細書の段落【0019】及び【01
08】ないし【0113】などに記載されていると認められることに
ついては,前記()イ(ア)cのとおりであるから,同訂正は,明細書1
に記載した事項の範囲内において行われたものであると認められる。
d構成要件1A4’について
構成要件1A4’は,構成要件1A4の「搭載される液体収納容器
それぞれの前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通に電気的
接続する配線を有した電気回路とを有する」を「搭載される液体イ,
ンク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して
共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した
電気回路とを有し」に変更するものである。
上記変更は,発明の対象となる液体インク収納容器を,色情報に係
る信号を発生する電気回路を備えた記録装置に着脱可能な容器に限定
するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである
と認められる(なお,構成要件1A4の「結合」を「接続」に変更す
ることが,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであると認め
られることについては,上記bと同じである。。)
また上記訂正の内容は本件明細書の段落0088ないし0,,【】【
094】などに記載されているから(甲2,同訂正は,明細書に記)
載した事項の範囲内において行われたものであると認められる。
e構成要件1C’及び1E’について
構成要件1C’は,構成要件1Cの「少なくとも液体収納容器の個
体情報を保持可能な情報保持部」を「少なくとも液体インク収納容,
器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部」に変更するもの
であり,構成要件1E’は,構成要件1Eの「前記接点から入力され
る個体情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する個体情報とに応
じて前記発光部の発光を制御する制御部」を「前記接点から入力さ,
れる前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報
とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」に変更するものであ
る。
上記各変更は,訂正前の「液体収納容器の個体情報」ないし「個体
情報を液体インク収納容器のインク色を示す色情報ないし色」,「」「
情報」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とす
るものであると認められる。
また,上記訂正の内容は,本件明細書の段落【0083】などに記
載されているから(甲2,同訂正は,明細書に記載した事項の範囲)
内において行われたものであると認められる。
f構成要件1D’について
構成要件1D’は,構成要件1Dの「発光部」を「前記受光手段,
に投光するための光を発光する前記発光部」に変更するものである。
上記変更は,訂正前の「発光部」を「記録装置の)受光手段に,(
投光するための光を発光する発光部」に限定するものであるから,特
許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
また,上記訂正の内容は,本件明細書の段落【0036【00】,
38】ないし【0047【0073【0079】及び図3(a)】,】,
などに記載されているから(甲2,同訂正は,明細書に記載した事)
項の範囲内において行われたものであると認められる。
(イ)これに対し,被告は,次のとおり,本件訂正は特許法134条の2
所定の訂正要件を充たすものではなく,違法であると主張する。
a構成要件1A2’及び1A4’について
被告は「結合」とは,コンセントやプラグ,コネクタなどのよう,
に,接点同士が物理的に一体となる態様を表すのに対し「接続」と,
は「つなぐこと。また,つながること」を意味し「一つになる」,。,
ことまで意味するものではないから構成要件1A2及び1A4の結,「
合」を,それぞれ同1A2’及び1A4’の「接続」に変更すること
は,特許請求の範囲を拡張するものであり,かかる訂正は,特許法1
34条の2第5項で準用する126条4項に違反し,許されないと主
張する。
しかしながら,上記訂正が明りょうでない記載の釈明を目的とする
ものであり,明細書に記載した事項の範囲内において行われたもので
あると認められることについては,前記(ア)b,dのとおりである。
また,本件明細書における,インクタンクに設けられた接点と,プリ
ンタのホルダに設けられた接点との関係について記載した部分(段落
【】,【】【】,【】,【】,00330057∼006100720080
図20∼24など)をみれば,本件訂正前の請求項1における「液体
インク収納容器に備えられる接点」と「装置側接点」との「電気的」
な「結合」ないし「接続」とは,接点同士の接触により電気信号のや
り取りが可能な状態となることを意味するものであり,被告の主張す
るような,接点同士が物理的に一体となる態様を意味するものではな
いことは,明らかである。
したがって,被告の主張は理由がない。
b構成要件1A3’及び1A5’について
被告は本件訂正により構成要件1A3及び1A5に前記(ア),,’’
cの構成が付加されたことにつき,①これは,記録装置に関する訂
正であるから,本件発明1及び本件訂正発明1の対象であるインクタ
ンクにかかる発明の構成を減縮するものではない,②訂正により新
たな構成を付加する場合,同構成が周知の技術手段でない限り「実,
質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するもの(特許法134条」
の2第5項,126条4項)に該当するにもかかわらず,原告は,上
記構成が本件特許出願当時の周知技術であることを主張立証しない,
③上記訂正は,発光部と受光手段のみで位置検出をするという,本
件訂正前の請求項にない新たな効果を発するものであるから,実質的
に特許請求の範囲を変更するものであり,特許法134条の2第5項
で準用する126条4項に違反するものであって許されない,と主張
する。
しかしながら,上記①の点については,上記本件発明1及び本件訂
正発明1では,プリンタ側の構成に係る構成要件も,発明の対象であ
るインクタンクの構成を特定するために必要なものであることについ
ては,前記()イ(カ)cのとおりであり,構成要件1A3’及び1A1
5’に係る訂正も,インクタンクにかかる発明の構成を減縮するもの
であると認められるから,被告の主張は理由がない。
また,前記()のとおり,本件訂正前の請求項1に係る発明の技術1
,「,的課題はインクタンクの形状をインクタンクごとに異ならせたり
インクタンクとプリンタとをつなぐ信号線を個別の配線としたりする
ことによる,製造効率の悪化やコスト増を招かない方法により,イン
クタンクの誤装着を防止すること」であり「本件光照合処理により,
インクタンクが正しい位置に搭載されているか否かを検出すること」
により,上記課題を解決しようとするものであって,そのための構成
が同請求項に規定した液体収納容器の構成であると認められるのであ
り,構成要件1A3’及び1A5’により付加された構成は,本件訂
正前の請求項1における「発光部「受光手段」及び「発光部の発」,
光を制御する制御部」により実現される内容をより具体的に規定した
ものであって,新たな技術的事項を導入するものではないと認められ
る。そして,本件明細書に接した第三者であれば,同明細書に記載さ
れた上記の内容から,上記のような訂正が可能であることを予測する
ことが可能であって,上記訂正が第三者の利益を損なうものともいえ
ない。
したがって,構成要件1A3’及び1A5’に係る訂正は,実質上
特許請求の範囲を拡張,変更するものであるとはいえないから,上記
②及び③に係る被告の主張は,理由がない。
c構成要件1D’について
被告は,本件明細書には「投光するための光を発光する」という,
記載はなく,発光部の発光の形態として本件明細書に記載されている
のは,受光手段に当たる第1受光部と対向する位置にあるインクタン
クの発光部が第1受光部に対して直接光を照射する構成のみである
(図29,30参照)にもかかわらず,構成要件1Dの「発光部」を
「投光するための光を発光する発光部」に訂正することは,本件訂正
前の本件明細書に記載のない新規事項の追加に当たるものであり,特
許法134条の2第5項で準用する126条3項に違反すると主張す
る。
しかしながら,本件明細書に「投光するための光を発光する発光,
部」に相当する構成が開示されていることについては,段落【003
6【0038】ないし【0047【0073【0079】及】,】,】,
び図3(a)などの記載から明らかであり,かかる訂正が特許請求の範
囲を実質上変更するものとは到底認められない。
したがって,被告の主張は理由がない。
イ争点3−5−2(本件訂正発明は,進歩性を欠くか)について
【無効理由1’について】
被告は,本件訂正発明1は,乙55公報記載の発明及び乙18公報記載
の発明に基づいて,又は,乙55公報記載の発明及び周知技術等に基づい
て,当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。
(ア)乙55公報の記載
乙55公報には,以下の記載が存在する(乙55。)
a請求の範囲
(第1項)
印刷装置に装着されると共に識別情報を格納する記憶装置を有する
印刷記録材容器を識別する識別装置であって,前記記憶装置に格納さ
れている識別情報を利用して,前記装着された印刷記録材容器が装着
されるべき正しい印刷記録材容器であるか否かを判定する判定手段と
を備える印刷記録材容器の識別装置(45頁2行∼6行)。
(第2項)
請求の範囲第1項に記載の印刷記録材容器の識別装置はさらに,前
記判定手段によって,前記装着された印刷記録材容器が装着されるべ
き正しい印刷記録材容器でないと判定された場合には,誤った印刷記
録材容器が装着された旨を報知する報知手段を備える印刷記録材容器
の識別装置(45頁8行∼11行)。
(第4項)
請求の範囲第1項ないし請求の範囲第3項のいずれかに記載の印刷
記録材容器の識別装置において,前記印刷装置には複数の印刷記録材
容器が既定の装着位置にそれぞれ装着されており,前記判定手段は,
前記各装着位置に装着されるべき印刷記録材容器と前記装着位置とを
関連付ける装着位置情報を有し,前記装着された印刷記録材容器に装
着されている記憶装置の識別情報と前記装着位置情報とに基づいて,
前記装着された印刷記録材容器が装着されるべき正しい印刷記録材容
器であるか否かを判定することを特徴とする印刷記録材容器の識別装
置(45頁19行∼46頁1行)。
(第16項)
収容されている印刷記録材の種類に対応した識別情報を格納する記
憶装置を有する複数の印刷記録材容器が装着される印刷装置における
印刷記録材容器の交換制御装置であって,印刷記録材の交換要求を検
出する交換要求検出手段と,前記交換の要求された印刷記録材を内包
する印刷記録材容器を交換位置まで移動させる印刷記録材容器移動手
段と,前記交換位置に移動された前記印刷記録材容器の取り外しを検
出すると共に,取り外しに続く印刷記録材容器の装着を検出する脱着
検出手段と,前記識別情報を利用して,前記装着された印刷記録材容
器が交換の要求された印刷記録材を内包する正しい印刷記録材容器で
あるか否かを判定する判定手段とを備える印刷記録材容器の交換制御
装置(49頁26行∼50頁10行)。
b技術分野
本発明は,印刷装置における印刷記録材容器の識別技術に関し,さ
らに詳細には印刷記録材容器交換に際して正しい印刷記録材容器が装
着されたか否かを識別する技術に関する(1頁5行∼7行)。
c発明の背景
複数色のインクカートリッジ(印刷記録材容器)を備えるカラープ
リンタにおいて,インクカートリッジの交換時におけるインクカート
リッジの誤装着,すなわち,交換されるべきインク色とは異なるイン
クカートリッジの装着,を防止するための技術が提案されている。例
えば,インク色毎にインクカートリッジの外形形状を変更し,誤った
インクカートリッジが物理的に装着できないようにする技術が知られ
ている。また,同一の外形形状を有するインクカートリッジを用いる
場合には,一個のインクカートリッジのみが脱着可能な開口部を有す
るカバーをプリンタ上に設け,交換されるべきインクカートリッジを
開口部まで移動させて,交換されるべきインクカートリッジのみの脱
着を許容する技術が知られている。しかしながら,インク色毎に異な
る外形形状を有するインクカートリッジを用いる場合には,インクカ
ートリッジを再利用する際にインク色毎にしかインクカートリッジを
,。再利用することができずリサイクル効率が悪いという問題があった
また,インクカートリッジの誤装着は防止できても交換を要しないイ
ンクカートリッジを誤まって取り外してしまうという問題は防止する
ことができなかった。さらに,インク色毎にインクカートリッジ用の
異なる金型を作成しなければならず,コスト高になるという問題があ
。,ったインクカートリッジを所定の交換位置まで移動させる技術では
交換されるべきでないインクカートリッジの誤った取り外しは防止で
きても,装着されたインクカートリッジが正しいインクカートリッジ
であるか否かまでは検出することはできず,誤装着は防止できないと
いう問題があった(1頁10行∼2頁4行)。
d発明の開示
本発明は,上記問題を解決するためになされたものであり,外形的
な識別形状を用いることなく印刷記録材容器交換時における印刷記録
材容器の誤装着を防止することを目的とする。また,交換されるべき
でない印刷記録材容器の誤った取り外しを防止することを目的とす
る(2頁7行∼10行)。
本発明の第3の態様は,印刷記録材の種類に対応する識別情報を格
納する記憶装置を備えると共に前記印刷記録材の種類に応じて印刷装
置上に既定の位置に装着される印刷記録材容器の識別方法を提供す
る。本発明の第3の態様に係る印刷記録材容器の識別方法は,前記印
刷記録材容器の取り外しを検出し,前記取り外された印刷記録材容器
が装着されていた装着位置を記憶し,前記印刷記録材容器の装着を検
出し,前記記憶装置に格納されている識別情報を利用して,前記装着
された印刷記録材容器の印刷記録材の種類を識別し,前記装着された
印刷記録材容器の装着位置と,前記装着された印刷記録材容器の印刷
記録材の種類とに基づいて,正しい印刷記録材容器が装着されたか否
かを判定しても良い。本発明の第3の態様に係る印刷記録材容器の識
別方法によれば,取り外された印刷記録材容器の装着位置と,記憶装
置に格納されている識別情報を利用して,装着された印刷記録材容器
が装着されるべき正しい印刷記録材容器であるか否かを判定するの
で,外形的な識別形状を用いることなく印刷記録材容器交換時におけ
る印刷記録材容器の誤装着を検出することができる。本発明の第3の
態様に係る印刷記録材容器の識別方法において,誤った印刷記録材容
器が装着されたものと判定した場合には,誤った印刷記録材容器の装
着を報知しても良い(6頁11行∼7頁1行)。
e発明を実施するための最良の形態
[第1実施例]
図3はカラープリンタ10の制御回路30の内部構成を示す説明図
である(15頁4行∼5行)。
制御回路30は,パーソナルコンピュータPCから受信した制御信
号に従ってプリンタ10の各部の動作を制御する(16頁19行∼。
20行)
制御回路30の内部構成について,図3を参照して説明する。制御
回路30には,CPU31,PROM32,RAM33,インクカー
トリッジCA1∼CA4に備えられた記憶装置,紙送りモータ105
やキャリッジモータ103等とデータのやり取りを行う周辺機器入出
力部(PIO)34,タイマ35,駆動バッファ36等が設けられて
いる。駆動バッファ36は,インク吐出用ヘッドPN1∼PN4にド
ットのオン・オフ信号を供給するバッファとして使用される(17。
頁2行∼7行)
制御回路30は,インクカートリッジCAの交換時には,取り外さ
れたインクカートリッジと新たに装着されたインクカートリッジCA
とが同一のインク種を内包するインクカートリッジであるか否かを識
別する(中略)制御回路30によって実行される詳細なインクカー。
トリッジの識別処理の流れについては,以下に説明する(17頁1。
2行∼18行)
各記憶装置20,21,22,23は,図5に示すようにインクジ
ェットプリンタ用の4色のインクカートリッジCA1,CA2,CA
,。()3CA4それぞれ備えられているものとする18頁1行∼3行
各記憶装置20,21,22,23のデータ信号端子DT,クロッ
ク信号端子CT,リセット信号端子RTは,データバスDB,クロッ
クバスCB,リセットバスRBを介してそれぞれ接続されている(図
)。,4および図7参照パーソナルコンピュータPCとデータバスDB
クロックバスCB,リセットバスRBとは,データ信号線DL,クロ
ック信号線CL,リセット信号線RLを介して接続されている(1。
8頁8行∼13行)
記憶装置20は,メモリアレイ201,アドレスカウンタ202,
IDコンパレータ203,オペレーションコードデコーダ204,I
/Oコントローラ205および工場設定ユニット206を備えてい
る(20頁17行∼19行)。
IDコンパレータ203は,クロック信号端子CT,データ信号端
子DT,リセット信号端子RTと接続されており,データ信号端子D
Tを介して入力されたデータ列に含まれる識別データとメモリアレイ
201に格納されている識別データとが一致するか否かを判定する。
(中略)IDコンパレータ203は,両識別データが一致する場合に
は,アクセス許可信号ENをオペレーションコードデコーダ204に
送出する(21頁13行∼24行)。
オペレーションコードデコーダ204は,アクセス許可信号ENが
入力されると,取得した書き込み/読み出しコマンドを解析してI/
Oコントローラ205に対して書き込み処理要求または読み出し処理
要求を送出する(22頁3行∼6行)。
I/Oコントローラ205は,データ信号端子DT,メモリアレイ
201と接続されており,オペレーションコードデコーダ204から
の要求に従ってメモリアレイ201に対するデータ転送方向ならびに
データ信号端子DTに対する(データ信号端子DTと接続されている
信号線の)データ転送方向を切り換え制御する(22頁9行∼13。
行)
パーソナルコンピュータPCは,既述のようにカートリッジアウト
信号COOに基づいてインクカートリッジCA1が装着されるまで待
機し(ステップS220:No,インクカートリッジCA1が装着)
されると(ステップS220:Yes,インクカートリッジCA1)
の記憶装置20が保有する識別データに対応する識別データをデータ
バスDB上に送信する(ステップS230。パーソナルコンピュー)
タPCは送信した識別データに対して応答があるか否かを判定する
(ステップS240。すなわち,装着されるべきインクカートリッ)
ジCA1が装着されている場合には,送信された識別データに対応す
る識別データを保有する記憶装置20が応答し,誤ったインクカート
リッジCAが装着されている場合には,いずれの記憶装置も記憶装置
20に対応する識別データに対して応答することができない。パーソ
ナルコンピュータPCは,応答がない場合には(ステップS240:
No,誤ったインクカートリッジCAが装着されている旨を報知し)
(ステップS250,ステップS220に戻り,再度,正しいイン)
クカートリッジCAの装着を検出する。誤ったインクカートリッジC
Aの装着の報知は,例えば,操作パネル13上配置されているランプ
LMを点滅させても良い(26頁21行∼27頁10行)。
[第3実施例]
第3実施例に係るインクカートリッジの識別処理は,交換用開口部
14を備えず,ユーザが任意のインクカートリッジCAを脱着可能な
プリンタに適している。なお,第3実施例に係るインクカートリッジ
の識別処理は,交換用開口部14および交換対象となるインクカート
リッジCAの移動を必要としないものの,第1実施例に係るインクカ
ートリッジの識別装置に対して適用可能であるから,以下の説明では
第1実施例に係るインクカートリッジの識別装置において用いた符号
と同一の符合を用いるものとする(31頁5行∼11行)。
第3実施例に係るインクカートリッジの識別処理は,インクカート
リッジCA1∼CA4の初期装着終了後,インクカートリッジCAが
空になったとき等に実行される(31頁14行∼16行)。
パーソナルコンピュータPCは,インク交換要求が発生したと判定
した場合には(ステップS400:Yes,インクカートリッジ特)
定処理を実行する(ステップS410。本実施例では,ユーザによ)
って任意のインクカートリッジCAが脱着され得るので,取り外され
たインクカートリッジCAが,交換を要求されたインクカートリッジ
CAと同一であるか否かを特定するためのインクカートリッジ特定処
理が必要となる(31頁25行∼32頁4行)。
パーソナルコンピュータPCは,先ず,交換を要求されたインクカ
ートリッジCAを特定する(ステップS4100(中略)以下の)。
説明では,説明の便宜上,インクカートリッジCA1の交換要求が発
生したものとする。
パーソナルコンピュータPCは,カートリッジアウト信号COOの
入力値COが1となるまで,すなわち,インクカートリッジCAが取
()。,り外されるまで待機するステップS4110:Noかかる場合
パーソナルコンピュータPCは,どのインクカートリッジCAが取り
外されたかまでは特定することはできず,いずれかのインクカートリ
ッジCAの取り外しを待機することとなる。パーソナルコンピュータ
PCは,カートリッジアウト信号COOの入力値CO=1を検出する
と(ステップS4110:Yes,先に特定したインクカートリッ)
ジCA1に対応する識別データをデータバスDB上に送出する(ステ
ップS4120。パーソナルコンピュータPCは,データバスDB)
上に送出した識別データに対して応答があるか否かを判定する(ステ
ップS4130。既述のように各インクカートリッジCA1∼CA)
4の記憶装置20∼23は,自己の保有する識別データと一致する識
別データを受信しない限り応答しないので,識別データをデータバス
DB上に送出することによって交換を要求されたインクカートリッジ
CA1が正しく取り外されたか否かを検出することができる。パーソ
ナルコンピュータPCは,インクカートリッジCA1に備えられてい
る記憶装置20からの応答を検出しない場合には(ステップS413
0:No,交換を要求されたインクカートリッジCA1が正しく取)
り外されたものと判定し,図16の処理ルーチンにリターンする。す
なわち,以上の処理により,交換要求されたインクカートリッジCA
1と取り外されたインクカートリッジCAとが同種のインクカートリ
ッジCAであることが識別される。そして,次に,図15に示す処理
ルーチンにて,装着されたインクカートリッジCAがインクカートリ
ッジCA1と同種のインクカートリッジCAであるか否かを判定す
る。
一方,パーソナルコンピュータPCは,インクカートリッジCA1
に備えられている記憶装置20からの応答を検出した場合には(ステ
ップS4130:Yes,全ての記憶装置20∼23が保有する識)
別データに対応する識別データを順次,データバスDB上に送出する
(ステップS4140。かかる場合には,交換を要求されたインク)
カートリッジCA1以外のインクカートリッジCAが取り外されてお
り,いずれのインクカートリッジCAが取り外されたかを特定する必
要があるからである。パーソナルコンピュータPCは,データバスD
B上に順次,送出した識別データのうち,応答のなかった識別データ
に対応する記憶装置を備えるインクカートリッジCAを特定すると共
に,実際に取り外されたインクカートリッジCAの情報として図示し
ないRAM上に一時的に格納する(ステップS4150。パーソナ)
ルコンピュータPCは,誤ったインクカートリッジCAが取り外され
た旨を報知し(ステップS4160,図16に示す処理ルーチンに)
リターンする。以上の処理によって,交換要求のあったインクカート
リッジCA1に代わって実際に取り外されたインクカートリッジCA
を特定(識別)することができる。このインクカートリッジ特定処理
を実行することによって,取り外されたインクカートリッジCAと装
着されたインクカートリッジCAとが同一種のインクカートリッジC
。()Aであるか否かを判定することができる32頁6行∼34頁3行
パーソナルコンピュータPCは,新たなインクカートリッジCAの
装着を検出するまですなわちCO=0を検出するまで待機するス,,(
テップS420:No。パーソナルコンピュータPCは,CO=0)
を検出すると(ステップS420:Yes,インクカートリッジ特)
定処理において特定したインクカートリッジCAに対応する識別デー
タをデータバスDB上に送信する(ステップS430。パーソナル)
コンピュータPCは,特定したインクカートリッジCA(あるいは,
インクカートリッジCA1)に備えられている記憶装置(あるいは,
記憶装置20)からの応答を検出した場合には(ステップS440:
Yes,新たなインクカートリッジCAが正しく装着されたものと)
判断し,本処理ルーチンを終了する。一方,パーソナルコンピュータ
PCは,特定したインクカートリッジCAに備えられている記憶装置
からの応答を検出しなかった場合には(ステップS440:No,)
先に取り外されたインクカートリッジCAと同種のインクカートリッ
ジCAが装着されなかったものと判断し,誤ったインクカートリッジ
CAが装着された旨を報知し(ステップS450,正しいインクカ)
ートリッジCAの装着を再度,試みる(ステップS410∼ステップ
S440。なお,誤ったインクカートリッジCAの報知は,第1実)
施例において説明した形態に準じて実行される(34頁8行∼25。
行)
[その他の実施例]
図21に示す実施例では,搭載されているインクカートリッジCA
に対応する数だけキャリッジ101上にLED18が備えられてい
る。インクカートリッジCAの交換時には,制御回路30は,キャリ
ッジ101をインク交換位置19まで移動させた後,交換の対象とな
るインクカートリッジCAに対応するLED18を点灯または点滅さ
せて,交換対象となるインクカートリッジCAをユーザに指し示す。
(41頁17行∼22行)
上記実施例では,パーソナルコンピュータPCによってインクカー
トリッジCAの識別処理が実行されているが,これら一連の処理をカ
ラープリンタ20の制御回路30によって実行してもよい。かかる場
合には,インクカートリッジCAの識別処理をカラープリンタ20単
独で実行することができる(43頁1行∼4行)。
(イ)乙55公報記載の発明
以上の記載から,乙55公報には「複数のインクカートリッジ(印,
刷用記録材容器)を搭載して移動するキャリッジと,該インクカートリ
ッジに備えられるデータ信号端子と電気的に接続可能なプリンタ側端子
と,各インクカートリッジに対応して設けられ,交換対象となるインク
カートリッジを点灯して示すキャリッジ上のLEDと,搭載されるイン
クカートリッジそれぞれの前記端子と接続され,インクカートリッジを
識別するための識別データを送出するためのデータバスとを有し,交換
対象となるインクカートリッジに対応するキャリッジ上のLEDを点灯
させ,その点灯結果に基づいて交換対象となるインクカートリッジを報
知するカラープリンタのキャリッジに対して着脱可能なインクカートリ
ッジであって,前記データバスに接続可能な前記データ信号端子と,イ
ンクカートリッジの識別データを格納するメモリアレイと,前記データ
信号端子から入力される識別データと,前記メモリアレイに格納されて
いる識別データとに応じて応答するIDコンパレータと,を有するイン
クカートリッジの発明が開示されているものと認められる以下乙。」(「
55発明」という。。)
(ウ)本件訂正発明1と乙55発明との対比
a乙55発明の「インクカートリッジ」及び「インクカートリッジに
備えられるデータ信号端子」は,それぞれ,本件訂正発明1の「液体
インク収納容器(構成要件1A1’等)及び「液体インク収納容器」
に備えられる接点(構成要件1A2)に相当するものと認められ」’
る。また,乙55公報には,本件訂正発明1の「液体インク収納容器
に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点(構成要件1A」
2)を備える点について明示の記載はないものの「インクカート’,
リッジに備えられるデータ信号端子」がキャリッジに設けられたデー
タバスに接続されていることから,キャリッジ側に対応する端子(接
点)が設けられていることは当業者にとって自明であるから,乙55
発明は「液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能,
」「」な装置側接点及び前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点
(構成要件1B)を備えていると認められる。’
乙55発明の「データバス」は,各インクカートリッジのデータ信
号端子と接続し,バス接続,すなわち,共通な電気的接続となってお
り,インクカートリッジ(の色)を識別するための識別データを送信
するための配線を有した電気回路であると認められる。したがって,
乙55発明は,構成要件1A4’の「搭載される液体インク収納容器
それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的
接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」を
備えていると認められる。
乙55発明の「識別データ」は,インク色を示すものであるから,
乙55発明の「インクカートリッジの識別データを格納するメモリア
レイ」は,構成要件1C’の「液体インク収納容器のインク色を示す
色情報を保持可能な情報保持部」に相当するものと認められる。
したがって,本件訂正発明1と乙55発明は,構成要件1A1,’
1A2,1A4,1A6,1B,1C’及び1F’に相当する’’’’
構成を備える点で一致し,以下の点で相違すると認められる。
(a)相違点1
記録装置に関して,本件訂正発明1は,構成要件1A3(前記’
キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替
わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受
光する位置検出用の受光手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光
することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液
体インク収納容器位置検出手段)及び同1A5(前記キャリッジ’
の位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前
記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納
容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する
記録装置)に相当する構成,すなわち,本件光照合処理に用いられ
る受光部等の液体インク収納容器の位置検出手段を有するのに対
し,乙55発明はこれを有しない点。
(b)相違点2
液体インク収納容器に関して,本件訂正発明1の液体インク収納
容器に「受光手段に投光するための光を発光する発光部」が備えら
れている(構成要件1D)のに対し,乙55発明のインクカート’
,,リッジには発光部が備えられておらずプリンタ側のキャリッジに
交換対象となるインクカートリッジを報知するための発光部が備え
られている点。また,本件訂正発明1では,インクタンク内に,前
記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の
保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部
を備える(構成要件1E)のに対し,乙55発明では,インクカ’
ートリッジ内の記憶装置(制御部)は,プリンタとの接点から入力
される色情報(識別情報)に係る信号と,メモリアレイの保持する
前記色情報とが一致した場合に,応答信号をプリンタ側の制御回路
に対して送り返す動作を制御するものの,上記記憶装置(制御部)
においてプリンタ側のLED(発光部)を発光させるものではない
点。
bこれに対し,被告は,液体収納容器と記録装置とが電気的に接続さ
れている以上,制御の対象となっている発光部を個々の液体収納容器
に設けるか,それとも,個々の液体収納容器に対応し,しかも極めて
隣接した位置にある記録装置側のキャリッジ箇所に設けるかは,単な
る設計上の違いにすぎず,実質的な相違点とはならないから,乙55
公報には,構成要件1A5’のうち「前記キャリッジの位置に応じて
特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光ら
せ」に対応する構成並びに構成要件1D’及び1E’に対応する構成
も開示されていると主張する。
しかしながら,乙55公報の記載は前記(ア)のとおりであり,同公
報中には,インクカートリッジ上に発光部を設ける構成に係る記載な
いし同構成を示唆する記載は存在しないまた構成要件1Dの発。,’「
光部」とは,単に光を発すれば足りるものではなく「前記受光手段,
に投光するための光を発光する」ものである必要があり,本件訂正発
明1では,インクタンクの本来装着されるべき位置が,プリンタに設
けた受光手段に対向する位置に来た時に,当該インクタンクに設けた
発光部を発光させ,その光を上記受光手段が受光することによって,
本件光照合処理を実現するものであるから,同発明において,発光の
目的は重要な技術的意義を有するものと認められる。これに対し,乙
55発明におけるプリンタ上の発光部は,前記のとおり,交換対象と
なるインクカートリッジを(ユーザーに)報知するためのものである
から,本件訂正発明1における発光部とは,発光の目的を異にする。
これらの点からみると,乙55発明における発光部と本件訂正発明
1における発光部とは実質的に相違するというべきであり,かかる相
違点が実質的な相違点ではないとする被告の主張は理由がない。
(エ)本件訂正発明1の容易想到性の有無(その1)
被告は,上記相違点1及び2に相当する構成は,いずれも乙18公報
に開示されており,乙18公報記載の発明と乙55公報記載の発明とは
技術分野及び発明の課題について共通性を有することから,乙18公報
記載の発明を乙55公報記載の発明に適用することは当業者にとって容
易であったものであり,両発明を組み合わせることによって,当業者は
本件訂正発明1に容易に想到することができたと主張する。
a乙18公報の記載
乙18公報には,以下の記載が存在する(乙18。)
(a)特許請求の範囲
(請求項1)
外部からのエネルギーを異なる種類のエネルギーに変換するエネ
ルギー変換手段と,該エネルギー変換手段で変換されたエネルギー
により発光する発光手段とを有する立体形半導体素子。
(請求項4)
前記エネルギー変換手段が変換する外部エネルギーは非接触で供
給される,請求項1から3のいずれか1項に記載の立体形半導体素
子。
(請求項5)
前記エネルギー変換手段で変換されたエネルギーは電力である,
請求項1から4のいずれか1項に記載の立体形半導体素子。
(請求項6)
請求項1から5のいずれか1項に記載の立体形半導体素子が少な
くとも1つ配されたインクタンク。
(請求項7)
請求項6に記載のインクタンクが搭載されるインクジェット記録
装置であって,前記インクタンク内に配された前記立体形半導体素
子の発光手段で発光され,前記インクタンク内に収容されたインク
を透過した光を受光する受光手段を備えているインクジェット記録
装置。
(請求項8)
複数の前記インクタンクの各々が,それぞれの前記インクタンク
内に収容されたインクの種類に従って所定の位置に装着されるよう
に構成されており,前記光を受光した前記受光手段によって前記イ
ンクタンクが不適切な位置に装着されたことが検知されたときにユ
ーザーに警告を発する手段を備えている,請求項7に記載のインク
ジェット記録装置。
(b)発明の詳細な説明
(発明の属する技術分野)
本発明は,外部からエネルギーが供給されると発光する立体形半
導体素子に関する(2頁1欄45行∼46行段落【0001)。】
,,また本発明は上記の立体形半導体素子が配されたインクタンク
および該インクタンクが着脱可能に搭載される,ファクシミリ・プ
リンター・複写機等に用いられるインクジェット記録装置に関す
る(同欄47行∼50行段落【0002)。】
(従来の技術)
従来,記録ヘッドに設けた複数の噴射ノズルからインクを噴射さ
せながら,記録ヘッドを搭載したキャリッジを印字方向に移動する
ことで,画像をドットパターンで用紙に印字するようにしたインク
ジェット記録装置においては,記録用のインクを収容したインクタ
ンクを設け,そのインクタンクのインクをインク供給路を介して記
録ヘッドに供給するようにしている。そこで,そのインクタンクの
インクの残量を検出するようにしたインク残量検出装置が実用に供
されることについても,種々提案されている(2頁2欄1行∼1。
1行段落【0003)】
(発明が解決しようとする課題)
上述した従来公報に代表するような,インクタンク内のインク残
量を検出する構成が知られているが,このような構成ではインクタ
ンク内に検出用の電極を配置する必要がある。また,電極間の導通
状態によりインク残量を検知するため,インク成分に金属イオンを
用いることができない等,使用するインクに制約が生じてしまう。
また,上記の構成ではインク残量しか検知することができず,イン
クタンク内に収容されているインクの種類等のタンク内情報を知る
ことができない(2頁2欄39行∼49行段落【0006)。】
さらに,複数のインクを用いて印字するインクジェット記録装置
では,インクを無駄なく使うために,各色ごとの複数のインクタン
クを所定の位置に装着する場合がある。そのようなインクジェット
記録装置では,ユーザーがインクタンクを不適切な位置に装着する
のを防止するために,各色のインクタンクを異なる形状にし,不適
切な位置では装着できないようにすることが一般的である。しかし
ながら,インクの色の数だけインクタンクの形状を異ならせること
で,インクタンクのコストアップに繋がる場合があった。したがっ
て,インクタンクの形状は同じでありつつ,誤装着を防止すること
が可能なインクタンクが望まれている(2頁2欄50行∼3頁3。
欄11行段落【0007)】
本発明の目的は,インクタンク内に収容されているインクの種類
等の検出に用いられる立体形半導体素子を提供することにある3。(
頁3欄39行∼41行段落【0010)】
,,,また本発明の更なる目的は上記素子が配されたインクタンク
および該インクタンクが搭載されるインクジェット記録装置を提供
することにある(3頁3欄42行∼44行段落【0011)。】
(課題を解決するための手段)
上記目的を達成するため,本発明の立体形半導体素子は,外部か
らのエネルギーを異なる種類のエネルギーに変換するエネルギー変
換手段と,該エネルギー変換手段で変換されたエネルギーにより発
光する発光手段とを有する(3頁3欄46行∼50行段落【0。
012)】
,,一般にインクジェット記録装置等において用いられるインクは
インク色ごとに光の吸収スペクトルが異なるので,インクを透過し
た光のある波長における強度を検出することによって,その光が透
過したインクの色種類を判別することができる。したがって,立体
形半導体素子で発光した光をインク中に透過させ,その透過光のあ
る波長における強度を検出することにより,そのインクの種類を判
別することが可能になる(3頁4欄12行∼19行段落【00。
14)】
さらに,前記エネルギー変換手段が変換する外部エネルギーは非
接触で供給される構成とすることにより,素子の起動のためのエネ
ルギー源をインクタンクに持たせたり,エネルギー供給用の配線を
素子に接続する必要がなく,外部との直接的な配線を施すことが困
難な箇所に使用することができる(3頁4欄37行∼42行段。
落【0017)】
また,本発明のインクジェット記録装置は,上記本発明のインク
タンクが搭載されるインクジェット記録装置であって,前記インク
タンク内に配された前記立体形半導体素子の発光手段で発光され,
前記インクタンク内に収容されたインクを透過した光を受光する受
光手段を備えている(4頁5欄2行∼7行段落【0020)。】
さらに,複数の前記インクタンクの各々が,それぞれの前記イン
クタンク内に収容されたインクの種類に従って所定の位置に装着さ
れるように構成されており,前記光を受光した前記受光手段によっ
て前記インクタンクが不適切な位置に装着されたことが検知された
ときにユーザーに警告を発する手段を備えている構成としてもよ
い。これによれば,ユーザはインクタンクを適切な位置に装着し直
すことができる(4頁5欄8行∼15行段落【0021)。】
(発明の実施の形態)
外部エネルギーの供給方法としては,インクジェット記録装置に
用いられる場合,素子に外部エネルギーとして起電力を供給する手
,,,,段は回復ポジションリターンポジションもしくはキャリッジ
記録ヘッド等に設ければ良い(4頁6欄9行∼13行段落【0。
028)】
本発明の立体形半導体素子を備えたインクタンクを搭載するイン
クジェット記録装置の構成例を図5に概略図で示す。図5に示され
るインクジェット記録装置600に搭載されたヘッドカートリッジ
601は,印字記録のためにインクを吐出する液体吐出ヘッドと,
その液体吐出ヘッドに供給される液体を保持する図2∼図4に示し
たようなインクタンクとを有するものである。また,該インクタン
ク内に配された立体形半導体素子へ外部エネルギーである起電力を
供給する手段622や前記素子から放射された光を受光する手段
(不図示)が記録装置600内に設置されている(4頁6欄44。
行∼5頁7欄4行段落【0032)】
ヘッドカートリッジ601は,図5に示すように,駆動モータ6
02の正逆回転に連動して駆動力伝達ギヤ603および604を介
して回転するリードスクリュー605の螺旋溝606に対して係合
するキャリッジ607上に搭載されている。駆動モータ602の動
力によってヘッドカートリッジ601がキャリッジ607ともとに
ガイド608に沿って矢印aおよびbの方向に往復移動される5。(
頁7欄5行∼12行段落【0033。】)
図7は,本発明の立体形半導体素子を用いたインクタンクの概略
構成図である。この図で示す立体形半導体素子526は,インクタ
ンク521内の生インク522の液面付近に浮遊しており,インク
タンク521外の外部共振回路(不図示)によって電磁誘導による
起電力を誘起させられ,立体形半導体素子526の表面に付近に配
設されたフォトダイオードが駆動されることで,光を発する。その
光は,インク522を透過し,インクタンク521の外部の光セン
サ550で受光される(6頁10欄36行∼45行段落【00。
57)】
【図7】
図8に,代表的なインク(イエロー,マゼンタ,シアン,ブラッ
ク)の吸光波長を示す。図8からわかるように,イエロー,マゼン
ダ,シアン,ブラックの各色のインクは,300∼700nmの波
長帯において吸光率のピークが分散している。各色のインクの吸光
,,,率のピークはイエローが約390nmマゼンダが約500nm
,。,ブラックが約590nmシアンが約620nmであるそのため
300∼700nmの範囲の波長を含む光を立体形半導体素子から
発光させ,その光をインク中に透過させてインクタンク外にある光
センサ550(図7参照)で受光し,どの波長が最も吸収されたか
を検知することで,光が透過したインクの色が上記のうちのいずれ
であるかを判別することができる(6頁10欄46行∼7頁11。
欄8行段落【0058)】
また,複数のインクタンクの各々が,それぞれのインクタンク内
に収容されたインクの種類に従って所定の位置に装着されるように
構成されているインクジェット記録装置においては,インクタンク
内のインクを透過した光を受光した光センサ550によってインク
タンクが不適切な位置に装着されたことが検知されたときにユーザ
ーに警告を発する手段が備えられていてもよい。この場合の警告手
段としては,ランプ等の発光手段やブザー等の鳴音手段などを用い
ることができる。ユーザーは,警告手段による警告によってインク
タンクを誤った位置に装着したことを知り,そのインクタンクを本
来の位置に装着し直すことができる(7頁11欄22行∼33行。
段落【0061)】
b乙18公報記載の発明
(a)上記各記載によれば,乙18公報には「複数のインクタンク,
を搭載して移動するキャリッジと,前記インクタンクの発光手段か
らの光を受光する光センサを備えたインクジェット記録装置に対し
て着脱可能なインクタンクにおいて,前記光センサに投光するため
の光を発光する前記発光手段を有することを特徴とするインクタン
ク」の発明(以下「乙18発明」という)が開示されているも。。
のと認められる。
,,,,(b)これに対し被告は乙18公報には上記(a)の構成に加え
①インクジェット記録装置が,インクタンクに備えられる接続手
段(接点)と電気的に接続して,インクタンクに起電力を供給する
接続手段(接点)を備える構成,②インクジェット記録装置にイ
ンクタンク内の立体形半導体素子の発光手段からの光を受光する受
光手段を一つ備える構成,③上記受光手段で受光することにより
インクタンクの装着位置を検出する構成,④キャリッジの移動に
より対向する液体インク収納容器が入れ替わるように配置される構
,,成⑤キャリッジに搭載され移動する複数のインクタンクのうち
キャリッジの位置に応じて,一つ備えられた受光手段と特定の位置
関係に来たインクタンクの発光部を光らせる構成,⑥インクタン
ク内の立体形半導体素子が,インクタンク内のインクのpH,タン
ク内の圧力変化,インク残量,インク有無等のタンク内情報を保持
する情報保持部を備える構成(すなわち,構成要件1A2,1A’
3,1A5,1B’及び1C’の構成)を備える発明が開示さ’’
れていると主張する。
しかしながら,乙18公報の記載は前記aのとおりであり,同公
報には,外部からのエネルギーをインクタンク内の立体形半導体素
子に非接触で供給する構成が開示されているだけであり,上記立体
形半導体素子とプリンタをつなぐための電気的に接続可能な接点
(構成要件1A2,1B)に係る記載ないし同構成を示唆する’’
記載は存在しないものと認められる。乙18公報記載の発明は,従
来の構成ではインクタンク内に検出用の電極を配置する必要があっ
たため,インク成分に金属イオンを用いることができないなど,使
用するインクに制約が生じてしまうという課題があることを解決す
るために,立体形半導体素子への外部エネルギーの供給を非接触で
(【】,【】),行う構成としたものであるから段落00060017
立体形半導体素子とプリンタとを電気的につなぐための接点を設け
ることは,むしろ,上記発明の技術思想に反するものであるという
ことができる。
また,乙18公報記載の発明は,インク色ごとに光の吸収スペク
トルが異なることに着目し,立体形半導体素子から一定の範囲の波
長を含む光を発光させ,その光をインク中に透過させて,インクタ
ンク外にある受光手段で受光させ,どの波長が最も吸収されたかを
検知することで,当該インクの種類を判別するものであって(段落
【0014【0020【0057【0058,上記立体】,】,】,】)
形半導体素子に当該インクタンクのインク色を示す色情報が保持さ
れる(構成要件1C)ものではないと認められるから,本件訂正’
発明1におけるキャリッジの位置に応じて特定されたインク色の発
光部を光らせ,その光の受光結果に基づき当該インクタンクが正し
い搭載位置に装着されているかどうかを検出する(構成要件1A3
,1A5)という,本件光照合処理の方法が乙18公報に開示’’
されているともいえない。
したがって,乙18公報に本件訂正発明1の構成要件1A2,’
1A3,1A5,1B’及び1C’に相当する構成を備える発’’
明が開示されているとは認められず,被告の主張は理由がない。
c乙55発明と乙18発明の組合せによる本件訂正発明1の容易想到
性の有無
乙18発明の内容は,前記bのとおりであり,同発明は,前記相違
点1に相当する構成(構成要件1A3’及び1A5’の構成)を有す
るものではなく,相違点2のうち「インクタンク内に,前記接点か,
ら入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前
記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部を備える」構
成(構成要件1E’の構成)も有しないと認められる。
また,乙18発明における発光部及び受光部と,本件訂正発明1に
おける発光部及び受光部とは,これらを用いることにより当該インク
タンクの色情報(本件訂正発明1においては,受光部に対向するイン
クタンクの色情報)を判別するための原理も,その果たす役割も,全
く異なるものであるというべきことは,前記bのとおりであり,乙1
8公報の前記記載に照らしても,同公報中に,本件訂正発明1におけ
る本件光照合処理のような構成や技術思想を示唆する記載が存在しな
いことも,明らかである。
したがって,乙55発明に乙18発明を組み合わせても,相違点1
及び2に係る構成に想到することが容易であるということはできず,
被告の主張は理由がない。
(オ)本件訂正発明1の容易想到性の有無(その2)
被告は,前記相違点1及び2は,いずれも本件特許の最先の優先日当
時において周知慣用技術であったものであり,同技術は乙18公報,乙
36公報,乙2公報,乙33公報及び乙42公報にも記載されているか
ら,これらの技術を乙55発明に適用することは当業者にとって容易で
あったと主張する。
しかしながら,次のとおり,相違点1及び2に相当する構成は,乙1
8公報,乙36公報,乙2公報,乙33公報及び乙42公報に開示され
ているとは認められず,このほかに,上記相違点に相当する構成が本件
特許の最先の優先日当時において周知慣用技術であったことを認めるに
足りる証拠もない。
したがって,被告の主張は理由がない。
a乙18公報の記載
乙18公報に記載された発明の内容が乙18発明のとおりであり,
同公報に相違点1及び2に相当する構成が開示されていると認められ
ないことについては,前記(エ)bのとおりである。
b乙36公報の記載
証拠(乙36)によれば,乙36公報には,インクジェットプリン
タにおいて,プリンタ側のエミッタ(発光素子)からインクカートリ
ッジ上の指標位置(反射部)に光を当て,反射してインクカートリッ
ジから戻ってきた光を,プリンタ側に一つ備えられた検出器が受け取
ることによって,キャリッジのどのカートリッジ位置にどのインクカ
ートリッジが取り付けられているかを識別する構成,及び,かかる構
成が,移動するキャリッジ上に複数装着され,キャリッジの移動によ
り「検出器」に対して入れ替わるように配置されたインクカートリッ
ジの識別にも適用可能であることが開示されていると認められる(段
【】,【】,【】,【】,【】,落00010009001000180020
【0021【0024。】,】)
しかしながら,上記構成は,インクカートリッジに発光部を設ける
のではなく,プリンタ側から発光した光を,インクカートリッジの表
面に添付されたラベル上の光学的に読み取り可能な指標(当該カート
リッジの種類を識別する符号化された情報)において反射させ,その
反射光をプリンタ側の受光部で受け取り,同受光部で上記光学的指標
を読み取ることによって,インクカートリッジの種類を識別するとい
(【】,【】,【】,うものであり同公報・段落000500090012
【0016【0018【0020,本件訂正発明1における】,】,】)
発光部及び受光部とは,これらを用いることにより当該インクタンク
の色情報を判別するための原理も,その果たす役割も,全く異なるも
のであると認められる。
したがって,乙36公報に相違点1及び2に相当する構成が開示さ
れていると認めることはできない。
c乙2公報の記載
証拠(乙2)によれば,乙2公報には,インクジェット記録装置か
らインクタンク内の素子に光を発信し,外部B(インクジェット記録
装置)で受信することにより素子の位置を検出する受光手段を設ける
(,【】,ことが開示されていると認められる請求項21段落0025
【0059【0062【0063。】,】,】)
しかしながら,上記構成は,インクタンク中に球状の立体形半導体
素子31を浮遊させ,外部からインクタンク内に光を当てて素子31
の位置を測定することで,素子の位置によりインクタンクの交換の必
(【】【】,要を判断するというものであって段落0061∼0065
図6,インクタンクが正しい位置に装着されているか否かを確認す)
るための手段ではなく,インクタンクに発光部が設けられているもの
でもない。また,乙2公報の記載に照らしても,本件訂正発明1にお
ける課題(インクタンクの形状をインクタンクごとに異ならせたり,
インクタンクとプリンタとをつなぐ信号線を個別の配線としたりする
ことによる,製造効率の悪化やコスト増を招かない方法により,イン
クタンクの誤装着を防止すること)や,その解決方法(本件光照合。
処理によるインクタンクの搭載位置の検出)を示唆する記載は存在し
ない。
したがって,乙2公報に相違点1及び2に相当する構成が開示され
ていると認めることはできない。
d乙33公報の記載
証拠(乙33)によれば,乙33公報には,インクジェットプリン
タ装置に備えられたプリントヘッドと,インクタンクとが,それぞれ
光信号を授受するフォトダイオードセットを備え,インクタンクの種
類番号,インクタンクの色信号等の情報を,インクタンク側のフォト
ダイオードセットが,光信号の形でプリントヘッド側のフォトダイオ
ードセットに送信し,これを受けたプリントヘッド側が,インクタン
クが使用する条件に合致しているかどうか(正しいインクタンクが装
着されているかどうか)を判断することが,開示されていると認めら
れる(段落【0014【0060【0067】∼【0069,】,】,】
【0071】∼【0073【0115。】,】)
しかしながら,上記構成は,インクタンク側の発光素子からの受光
を行うインクジェットプリントヘッド側の受光素子が,各インクタン
クのホルダごとに備えられ,発光素子と受光素子が1対1で情報の交
信を行うことにより当該インクタンクの装着位置を検出するという点
(なお,段落【0067】ないし【0069】及び図7等の記載から
すると,乙33公報記載の構成では,インクジェットプリンタヘッド
側の受光素子(フォトダイオードセット411)が,各インクタンク
のホルダごとに備えられており,インクタンク側の発光素子(信号伝
送手段441)と,1対1で,インクタンクの色信号等の光信号の授
受を行う構成となっていることが認められる)で,プリンタ側とイ。
ンクタンク側とをつなぐ回路をバス接続とすることを前提に,1個だ
け設けた受光手段により本件光照合処理を行うことによってインクタ
ンクの位置を検出するという本件訂正発明1とは,インクタンクの位
置を検出するための原理が全く異なっている。
したがって,乙33公報に相違点1及び2に相当する構成が開示さ
れていると認めることはできない。
e乙42公報の記載
証拠(乙42)によれば,乙42公報には,回路部品供給システム
本体側に対して複数装着可能なフィーダ(部品供給装置)に設けられ
た発光素子から発せられる光を,本体側に設けられた受光素子が受光
する構成を有し,受光結果をもとに複数のフィーダの保持位置を示す
テーブルを作成して比較対照することにより,フィーダの誤装着を防
止することが開示されていると認められる(請求項1,段落【003
7【0038【0051【0053【0070【007】,】,】,】,】,
7】∼【0079【0086。】,】)
しかしながら,上記構成も,乙33公報記載の発明と同様,受光素
子が複数設けられ,これに対応する発光素子と1対1で通信を行うこ
とによってフィーダの誤装着を防止するという点(なお,段落【00
38【0051】及び図9等の記載からすると,乙42公報記載】,
の構成では,回路部品供給システム本体側に設けられる複数のS/F
通信部ごとに受光素子290,292,294が備えられ,これらの
受光素子が,S/F通信部に対応してフィーダ側に設けられるF/S
通信部に備えられる発光素子280,282,284との間で,1対
1で通信を行う構成となっていることが認められる)で,本件訂正。
発明1とは,インクタンクないしフィーダの位置を検出する(誤装着
を防止する)ための原理が全く異なっている。
したがって,乙42公報に相違点1及び2に相当する構成が開示さ
れていると認めることはできない。
【無効理由2’について】
被告は,本件訂正発明1は,乙18公報記載の発明及び周知技術等に基
づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。
(ア)乙18公報の記載及び同公報記載の発明
乙18公報の記載,及び,同公報に「複数のインクタンクを搭載して
移動するキャリッジと,前記インクタンクの発光手段からの光を受光す
る光センサを備えたインクジェット記録装置に対して着脱可能なインク
タンクにおいて,前記光センサに投光するための光を発光する前記発光
手段を有することを特徴とするインクタンク」の発明(乙18発明)。
が開示されていると認められることについては,前記【無効理由1’に
ついて】(エ)a及びbのとおりである。
(イ)本件訂正発明1と乙18発明との対比
乙18発明の上記内容からすると,本件訂正発明1と乙18発明は,
構成要件1A1,1A6,1D’及び1F’に相当する構成を備え’’
る点で一致し,以下の点で相違すると認められる。
a相違点()1
記録装置に関して,本件訂正発明1は,構成要件1A2(該液体’
),インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点
同1A3(前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収’
納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部
からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え,該受光手段で
該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検
出する液体インク収納容器位置検出手段,同1A4(搭載される)’
液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に
対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を
有した電気回路)及び同1A5(前記キャリッジの位置に応じて特’
定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ,
その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前
記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置)の構成を有す
るのに対し,乙18発明は,これに相当する構成,すなわち,インク
タンクの接点と接続する装置側接点,バス接続回路及び本件光照合処
理に用いられる受光部等の液体インク収納容器の位置検出手段を有し
ない点。
b相違点()2
液体インク収納容器に関して,本件訂正発明1は,構成要件1B’
(前記装置側接点と電気的に接続可能な接点,同1C(少なくと)’
も液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持
)’(,部及び同1E前記接点から入力される前記色情報に係る信号と
前記色情報の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御
する制御部)の構成を有するのに対し,乙18発明は,これに相当す
る構成を有しない点。
(ウ)本件訂正発明1の容易想到性の有無
被告は,本件訂正発明1と乙18公報記載の発明との相違点を,①
乙18公報記載の発明には,構成要件1A4’に相当する構成(バス接
続回路)が存在しないこと,②同発明には,情報を入手する「情報入
手手段」が明示されているだけで「情報保持部」を備えるという明示,
の記載がないこと,③同発明には,構成要件1E’に相当する構成が
存在しないこと,の3点だけであるとした上で,これらの相違点は,い
ずれも本件特許の最先の優先日当時において周知慣用技術であったもの
であり,同技術は乙55公報,乙2公報,乙17公報及び乙1公報にも
記載されているから,これらの技術を乙18公報記載の発明に適用する
ことは当業者にとって容易であったと主張する。
しかしながら,本件訂正発明1と乙18公報記載の発明との相違点が
上記3点だけであるとする被告の主張が誤りであり,両発明の相違点は
上記(イ)のとおりであると認められることについては,前記のとおりで
あるから,被告の主張は,その前提を欠くものであって,これを採用す
ることはできない。
また,本件証拠を精査しても,本件特許の最先の優先日当時において
上記相違点()及び()に相当するすべての構成が周知慣用技術であった12
ことを認めるに足りる証拠はない。なお,被告は,上記のとおり,被告
が主張する3点の相違点が本件特許の最先の優先日当時において周知慣
用技術であったことを裏付ける証拠として,乙55公報,乙2公報,乙
17公報及び乙1公報を挙げるが,これらの文献に,相違点()及び()12
に係る構成のすべてが開示されているとは認められないことについて
は,以下のとおりである。
a乙55公報について
乙55公報記載の発明は,前記【無効理由1’について】(ウ)のと
おり,構成要件1A3’及び1A5’に相当する構成を記録装置が有
しておらず,かつ,構成要件1D’及び1E’に相当する構成をイン
クカートリッジが有していない点で,本件訂正発明1と相違する。
,,,したがって乙55公報には相違点()及び()に係る構成のうち12
構成要件1A3,1A5’及び1E’に係る構成が開示されている’
とは認められない。
b乙2公報について
乙2公報に開示されている構成は,前記【無効理由1’について】
(オ)cのとおりであり,同構成は,構成要件1A2’ないし1A5’
に相当する構成をインクジェット記録装置が有しておらず,かつ,構
成要件1B,1C’及び1E’に相当する構成をインクタンクが有’
していない点で,本件訂正発明1と相違する。
したがって,乙2公報には,相違点()及び()に係る構成が開示さ12
れているとは認められない。
c乙17公報について
証拠(乙17)によれば,乙17公報には,各インクタンク内に配
置された,インクタンクの色ごとに応答条件が異なる通信機能を有す
る立体形半導体素子が,インクジェット記録装置側に設けられた通信
回路と,外部と非接触の無線によって,インクタンクの色ごとに独立
した通信を行うことが開示されていると認められる(段落【003
7【0039【0040【0044】∼【0047【00】,】,】,】,
50【0052,図3等。】,】)
しかしながら,乙17公報は,外部からのエネルギーをインクタ
ンク内の立体形半導体素子に非接触で供給する構成が開示されている
だけであり,上記立体形半導体素子とプリンタをつなぐための電気的
に接続可能な接点(構成要件1A2,1B)に係る記載ないし同’’
構成を示唆する記載は存在しないものと認められる(段落【000
6【0029【0033【0034。】,】,】,】)
また,同公報には,上記のとおり,インクタンク内の立体形半導体
素子とインクジェット記録装置側とが,インクタンクの色ごとに独立
した通信を行うことが可能な構成が開示されているものの,本件訂正
発明1における方法でインクタンクの誤装着を検出する方法,すなわ
ち,インクタンクの発光部を所定の位置で発光させ,これをプリンタ
側の受光部で受光することによって,当該インクタンクが正しい位置
に装着されているか否かを検出するという,本件光照合処理(構成要
件1A3,1A5)に係る記載ないし同構成を示唆する記載は存’’
在しないものと認められる。
したがって,乙17公報には,相違点()に係る構成のすべて並び1
に相違点()のうち構成要件1B’及び1E’に係る構成が開示され2
ているとは認められない。
d乙1公報について
証拠(乙1)によれば,乙1公報には「複数のインクカートリッ,
ジ(印刷用記録材容器)を搭載して移動するキャリッジと,該インク
カートリッジに備えられるデータ信号端子と電気的に接続可能なプリ
ンタ側端子と,各インクカートリッジに対応して設けられ,装着され
ていない又は通信異常のあるインクカートリッジを点灯して示す操作
パネル上の表示ランプと,搭載されるインクカートリッジそれぞれの
前記端子と接続され,インクカートリッジを識別するための識別情報
を送出するためのデータバスとを有し,装着されていない又は通信異
常のあるインクカートリッジに対応する操作パネル上の表示ランプを
点灯させ,その点灯結果に基づいて装着されていない又は通信異常の
あるインクカートリッジを報知するカラープリンタのキャリッジに対
して着脱可能なインクカートリッジであって,前記データバスに接続
可能な前記データ信号端子と,インクカートリッジの識別情報を格納
するEEPROM(記憶装置)と,前記データ信号端子から入力され
る識別情報と,前記メモリアレイに格納されている識別情報とに応じ
て応答する記憶装置と,を有するインクカートリッジ」が開示され。
ていると認められる(請求項11,段落【0001【0003】】,
【】,【】,【】,【】,【】,∼00080011001700330034
【】【】,【】,【】,【】,0036∼0040004200430051
【0052,図1∼3。】)
上記のとおり,乙1公報記載の構成は,乙55公報記載の発明の構
成とほぼ同様であり,相違点()及び()に係る構成のうち,構成要件12
1A3,1A5’及び1E’に係る構成が開示されているとは認め’
られない。
したがって,被告の主張は理由がない。
ウ争点3−5−3(本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36
条6項1号(サポート要件)に違反するか)について
被告は,原告製プリンタに被告製品2を搭載した場合,被告製品2の発
光部の発光を制御するのは,原告製プリンタ内の制御回路であって,被告
製品2は,上記制御回路からの信号を受け取り,その指示どおりの発光,
点滅を行っているにすぎないものであるから,本件明細書の発明の詳細な
説明には,液体インク収納容器に備えられた「発光部の発光を制御する制
御部(構成要件1E)の構成が開示されているとは認められず,特許」’
法36条6項1号(サポート要件)に違反すると主張する。
しかしながら,構成要件1E’の「発光部の発光を制御する制御部」の
意義及びインクタンク内に設けられたICチップ内の制御部が上記「制御
部」に該当することについては,前記()イ(オ)のとおりであるから,本1
件明細書の発明の詳細な説明には,インクタンクに備えられた「発光部の
発光を制御する制御部」の構成が開示されていると認められる。
したがって,被告の主張は理由がない。
エ争点3−5−4(本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36
条6項2号(明確性要件)に違反するか)について
(ア)「発光部」と「受光部」の関係
被告は,①原告は,本件訂正により,受光手段が液体インク収納容
器の発光部からの光を受光すること(構成要件1A3)及び発光部が’
受光手段に投光するための光を発光すること(構成要件1D)を追加’
したものの,上記訂正後においても「投光するための光」と「液体イ,
ンク収納容器の発光部からの光」との関係は不明りょうであり,受光時
における発光部と受光手段との位置関係は明確でない,②受光時にお
ける発光部と受光手段との位置関係について,本件訂正により「前記,
キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容
器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収
納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」
(構成要件1A5)との構成が追加されたものの「前記キャリッジ’,
の位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器」という
構成の意義が不明確である,と主張する。
しかしながら,請求項の記載及び本件明細書の発明の詳細な説明の記
載から「発光部」と「受光手段」の関係や,いかなる方法により液体,
収納容器の「搭載位置の検出」がされるのかなど,構成要件1A3’及
’,び1A5の意味について明確に理解することができることについては
前記()に認定したとおりである。1
したがって,被告の主張は理由がない。
(イ)「液体インク収納容器」の特定
被告は,本件訂正発明1において,構成要件1A1’ないし1A5’
の部分には「請求される物」としての「液体インク収納容器」以外の,
他の物である記録装置が記載されており同構成要件の記載は液「」,,「
体インク収納容器」の技術的特徴を示すものとなっておらず,これらの
記載からは,特許を受けようとする発明が明確でないと主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件訂正発明1は,組み合わせる装置
(本件では,インクタンクを装着するプリンタ本体)の構成を構成要。
,(,。)件とすることにより組み合わされる装置本件ではインクタンク
の構成を特定するものということができるから,プリンタ側の構成に係
る構成要件(構成要件1A1’∼1A5)も,インクタンクの構成を’
特定するために必要なものであることが認められる。
,,そして請求項の記載及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載から
構成要件1A1’ないし1A5’の意味について明確に理解することが
できることについては,前記()で認定したとおりである。1
,,したがって特許を受けようとする発明が明確でないとは認められず
被告の主張は理由がない。
(ウ)「色情報に係る信号を発生するための配線」の意義
被告は,構成要件1A4’の「色情報に係る信号を発生するための配
線」の技術的意義は明確でないと主張する。
しかしながら,本件明細書をみれば,構成要件1A4’の「…電気的
」,接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とは
図20において,4つのインクタンクとプリンタ本体をつないでいる4
本の共通の信号配線(いわゆるバス接続)を含む電気回路のことである
と理解することができるものと認められる。
したがって,上記記載は,明確性要件に違反するものではなく,被告
の主張は理由がない。
(エ)「複数の液体インク収納容器」の意義
被告は,構成要件1A1’の「複数の液体インク収納容器」にいかな
る場合まで含まれるのかが明確でないと主張する。
しかしながら,構成要件1A1’の「複数の液体インク収納容器を搭
載」とは,同一形状の複数のインクタンクを相互に異なる位置に搭載す
ることができるプリンタであれば足り,上記インクタンクと異なる形状
のインクタンクを搭載することができるか否かについては,これを問わ
ないと解するのが相当であることについては,前記()イ(ア)aのとお1
りである。
したがって,被告の主張は理由がない。
(オ)本件訂正発明1における受光手段と本件訂正発明2における受「」「
光部」との関係
被告は,本件訂正により,本件訂正発明2の構成要件2A3,2D’
3’及び2E’に「受光部」という構成が付加されたものの,この「受
光部」は,本件訂正発明1の構成要件1A3’の「受光手段」と異なる
用語を用いているため「受光手段」と異なる構成を指すのか,同一の,
構成を指すのかが不明確となっていると主張する。
しかしながら,前記()イ(ア)cのとおり,本件明細書の発明の詳細1
な説明における【発明が解決しようとする課題】及び【発明の効果】の
記載からすると,本件発明1及び本件訂正発明1においてインクタンク
に発光部を設けること及びプリンタに受光手段を設けることの技術的意
義は,インクタンクによる所定の位置での発光を上記受光部が検出する
ことによって本件光照合処理を実現することにあるものと認められ,構
成要件1A3’の「受光手段」とは,プリンタ上に1個設けられたもの
であり,インクタンクからの発光を受光することによって本件光照合処
理を実現することのできるものであれば足りると解するのが相当であ
る。そして,本件訂正発明2における「受光部」についても,その技術
的意義が上記「受光手段」と同様であることは,本件明細書の上記記載
等から明らかである。
したがって,本件訂正発明1における「受光手段」と本件訂正発明2
における「受光部」とは,ほぼ同一の構成を指すものとして解釈するこ
とが可能である。
よって,被告の主張は理由がない。
(カ)「液体インク収納容器位置検出手段」の意義
被告は,構成要件1A3’及び1A5’の「液体インク収納容器位置
検出手段」の意義が明確でないと主張する。
しかしながら,構成要件1A3’の「液体インク収納容器の搭載位置
を検出する」とは「本件光照合処理により,プリンタにおいて)イ,(,
ンクタンクが正しい位置に搭載されているか否かを認識する」ことを意
味するものと解するのが相当であることについては,前記()イ(ア)c1
のとおりである。
したがって,受光部又は受光手段が「液体インク収納容器位置検出手
段」に含まれると解釈することが妥当であり,本件明細書全体の記載を
参酌することにより,意味は明確であると考えられるから,被告の主張
は理由がない。
オ争点3−5−5(本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36
条4項1号(実施可能要件)に違反するか)について
被告は,本件明細書の記載からは,誤装着されているインクタンクの位
置が正しい装着位置と隣接している場合に,どのようにすれば,隣接して
いる位置からの発光やその他プリンタの使用環境に存在する周囲の光は受
光せずに,インクタンクが誤装着しているものとして区別して認識するこ
とができるのか,その実現手段が明確でないと主張する。
しかしながら,特許法36条4項は,明細書の発明の詳細な説明の記載
は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実
施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければなら
ない旨を定めるものである。本件光照合処理の構成を実現するために,原
告製インクタンクのように,適当な閾値を設定して,受光手段に向き合っ
たインクタンクからの発光をその他の光から区別する方法を採ったり,発
光部からの光を導光路部材を用いて受光部まで導く方法を採ることなど
,,は当業者が適宜選択すべき設計的事項にすぎないというべきであるから
これら発明の実施に当たって取り決める詳細設計が明細書に開示されてい
ないからといって,本件発明を当業者が実施することができないとはいえ
ない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が発明を
実施するのに十分な程度のものであると認められ,被告の主張は理由がな
い。
カ小括
以上のとおり,本件訂正後の請求項1に係る特許につき被告の主張する
無効理由はいずれも理由がないから,仮に,本件特許1に無効理由がある
としても,本件訂正により,その無効理由をいずれも解消することができ
るというべきである。
したがって,被告の主張する本件特許1の無効理由(前記争点3−1な
いし3−3)についても,理由がない。
()争点4(原告が被告に対して本件特許権に基づき被告製品2の輸入,販3
,,)売等の差止めを求めることは独占禁止法に違反し権利を濫用するものか
について
被告は,独占禁止法21条は,特許権者が特許権の行使に名を藉りて濫用
的に競争制限行為に及んだ場合にまで独占禁止法の適用を除外する趣旨では
なく,特許権を行使する行為が独占禁止法上違法で公序良俗違反と評価され
る場合には,その特許権の行使は,権利の濫用として許されないものとされ
るべきである,とした上で,①原告は,平成17年9月,それ以降に発売
するプリンタを発光機能付きの原告製インクタンクでないと動作しないよう
に設計した上,ICチップが搭載された原告製インクタンクの製造販売を開
始したものの,前記のとおり,原告製プリンタにインクタンクを誤装着する
場合としてあり得るのは,同色のインクタンクを2個装着した場合だけであ
り,かかる誤装着は,本件光照合処理によらずに防止することができる,②
また,すべての色が装着されたが位置が違っていたというミスの場合は,
本件光照合処理によりユーザーにエラーが報知されるとしても,インクカー
トリッジが受光部の近傍まで移動した後に,タイムラグがあって報知される
ので,エラーに気づいたときには,すでにキャリッジ部分に違った色のイン
クが浸透して混色が進んでしまうという欠点があり,誤装着による問題点の
解消には,実用上ほとんど意味がない,③したがって,原告製インクタン
クは,ユーザーが互換品を使用することを妨げる,いわゆる特定のプリンタ
との抱き合わせ商品であって,原告は,プリンタの供給に併せてユーザーに
原告製インクタンクを購入するよう強制しているから独占禁止法19条不,(
公正な取引方法第10項「抱き合わせ販売等)に違反する,④また,原」
告は,上記①のとおり,ICチップ搭載による発光機能の付加が誤装着によ
る問題点の解消に実用上ほとんど意味のないものであったにもかかわらず,
競争関係にある再生業者や互換品業者の参入を阻止するため,技術上の必要
性等の範囲を超えて,原告製インクタンクにICチップ搭載による発光機能
を付加させたものであり,これにより,ユーザーが原告以外の事業者から別
のインクカートリッジを購入することを長期間にわたって不当に妨害してい
るから,独占禁止法19条(不公正な取引方法第15項「競争者に対する取
引妨害)に違反する,⑤そうすると,本件訴えは,上記独占禁止法違反」
行為によって,市場を独占し,不当な利益を享受していた原告が,相次いで
互換品を発売した互換品業者の市場参入を阻止し,自らの独占を維持するた
めに,インクカートリッジの消費者の選択肢を奪い,市場に認知されている
互換品の製造販売業者を一挙に締め出すことを意図して,本件特許権の存在
を利用して技術上の必要性等の範囲を超えてしたものであって,独占禁止法
に違反し,公序良俗に反するというべきであるから,権利濫用として許され
ない,と主張する。
しかしながら,原告製プリンタにおいてインクタンクの誤装着が生じる場
合は2個同色を装着する場合に限られず,本件光照合処理により誤装着を防
止することのできる場合も想定し得ることについては,前記()イ(カ)で認1
定したとおりである。また,被告の主張する上記②の事実については,これ
を客観的に裏付けるに足りる証拠は存在しない。そうすると,原告製プリン
タ及び原告製インクタンクは,本件明細書に記載された本件発明1及び2の
課題(インクタンクの形状をインクタンクごとに異ならせたり,インクタン
クとプリンタとをつなぐ信号線を個別の配線としたりすることによる,製造
効率の悪化やコスト増を招かない方法により,インクタンクの誤装着を防止
すること)を,本件光照合処理によりインクタンクが正しい位置に搭載され
ているか否かを検出する構成を有するプリンタ及びインクタンクによって解
決するために開発され,製造,販売されているものといえ,原告のかかる行
為は,技術的必要性という合理的な理由に基づくものといえる。
そうである以上,原告が本件特許権1に基づき,同特許権を侵害する被告
製品2の輸入,販売等の差止めを求めることが,権利の行使に名を藉りた濫
用的なものであるということはできない。被告の主張は理由がない。
()以上のとおり,被告製品2は,本件発明1の技術的範囲に属するものと4
認められ,かつ,本件特許1は,無効とされるべきものとは認められない。
また,前記第2の1()ウのとおり,被告製品2は,被告の子会社である香5
港法人において製造され,被告は,業として,上記香港法人から被告製品2
を輸入し,同製品を株式会社プレジールなどに販売していることが認められ
る。
したがって,原告の被告に対する特許法100条1項に基づく被告製品2
の輸入,販売又は販売のための展示の差止請求は,理由がある。
2本件特許権2に基づく被告製品2の輸入,販売等の差止請求の可否
以上のとおり,本件では,本件特許権1に基づく被告製品2の差止請求が認
められるものであるが,本件の事案にかんがみ,本件特許権2に基づく被告製
品2の輸入,販売等の差止請求の可否についても判断を加える。
()争点2(間接侵害の成否)について1
ア原告製プリンタ
前記1のとおり,原告製プリンタは,複数の被告製品2を互いに異なる
位置のタンクホルダに搭載して移動するキャリッジ(構成要件2A1,2
A1)を備え,タンクホルダには,被告製品2に設けられた基板と電気’
的に接続する接点(構成要件2A2,2A2)が設けられている。’
また,原告製プリンタには,被告製品2からの光を受光する受光手段が
一つ設けられ,各インクタンクと接続するタンクホルダのコネクタが,タ
,,ンクホルダの裏側において共通の配線で接続され本件光照合処理により
各インクタンクの装着位置を確認することができる(構成要件2A3,2
A4,2A3,2A4。’’)
したがって,原告製プリンタは,構成要件2A1ないし2A4及び同2
A1’ないし2A4’を充足する。
イ被告製品2
前記1のとおり,被告製品2は,原告製プリンタのキャリッジに着脱可
能(構成要件2B,2B)であり,プリンタ側の接点と電気的に接続可’
能な接点(基板(構成要件2D1,2D1)を備え,基板に設けられ)’
たICチップに各インクタンクの色に応じた色情報を保持し(構成要件2
D2,2D2,基板の上部には,上記受光部に投光するための光を発’)
光する発光部(構成要件2D3,2D3)が設けられており,原告製プ’
リンタに装着すると,本件光照合処理が行われる(構成要件2D4,2D
4,2E,2F。’’’)
したがって,被告製品2は,構成要件2B,2D1ないし2D4,2B
,2D1’ないし2D4,2E’及び2F’を充足し,被告製品2を’’
,「」装着した原告製プリンタは構成要件2C及び2Eの液体供給システム
ないし同2C’及び2G’の「液体インク供給システム」に該当し,同構
成要件を充足する。
「」()ウ発明による課題の解決にとって不可欠なもの特許法101条2号
被告製品2は,これを原告製プリンタに装着すると,本件発明2及び本
件訂正発明2の「液体供給システム」ないし「液体インク供給システム」
を生成するものであり,インクタンクの誤った位置への装着を解消すると
いう,上記各発明の課題を解決するために不可欠なものである。
これに対し,被告は,原告製プリンタは,誤って2個同色を装着すると
いう同プリンタにおいてインクタンクの誤装着を生ずる唯一の場合に,本
件光照合処理による誤装着の検出を行わないものであるから,本件発明2
及び本件訂正発明2の特徴的技術手段である,上記誤装着検出手段を直接
形成するものには当たらず,特許法101条2号所定の,本件発明2及び
「」。本件訂正発明2の課題の解決に不可欠なものに該当しないと主張する
しかしながら,原告製プリンタにおいてインクタンクの誤装着を生ずる
のは,誤って2個同色を装着する場合に限られないことは前記()イ(カ)1
で認定したとおりであるから,被告の主張はその前提を欠くものである。
被告製品2は,発光部や制御部,情報保持部といった構成を備えること
により,原告製プリンタと協働して,システムとしての機能を達成してい
るといえるから「発明による課題の解決にとって不可欠なもの」である,
と認められる。
エ「日本国内において広く一般に流通しているもの(特許法101条2」
号)について
被告は,被告製品2は,市場において広く取引され,たやすく入手する
ことができる物であり,本件発明2及び本件訂正発明2の特徴的機能を有
しない67機種の原告製造のプリンタにおいても使用することができる一
方,同機能を有している原告製プリンタの数は23機種にすぎないから,
仮に,同製品が本件発明2及び本件訂正発明2の実施に適しているとして
も,それ以外の用途も有する汎用品であるといえ,特許法101条2号所
定の「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当すると主張
する。
しかしながら,特許法101条2号所定の「日本国内において広く一般
に流通しているもの」とは,より広い用途を有するねじや釘のような普及
品を想定して制定されたものである。原告製プリンタにしか使用すること
ができない被告製品2は,発光と受光という本件発明の特徴的機能を有し
ない機種計67機種の他の原告製プリンタにも使用することができるとし
ても,汎用品ということは到底できず「日本国内において広く一般に流,
通しているもの」とは認められない。上記「日本国内において広く一般に
流通しているもの」とは,汎用の部品や材料が,特許発明の侵害する製品
の製造に用いられたとしても,間接侵害とならないように設けられた規定
であり,被告製インクタンクは,原告製プリンタ専用のインクタンクであ
るから,到底,汎用の部品とはいえない。
したがって,被告製品2は「日本国内において広く一般に流通してい,
るもの」とは認められない。
オ消尽について
被告は,特許製品としての原告製プリンタ及び同梱インクタンクが,特
許権者である原告により,我が国においていずれもユーザーに譲渡された
時点で,本件特許権2は消尽し,原告は,当該特許製品であるプリンタ及
びインクタンクについて特許権を行使することはできないと主張する。
しかしながら,インク供給システムの発明において,インクタンクは,
プリンタ装置本体と同等に重要な構成要素(主要な部品)であるといえ,
その主要な部品を新たなものに交換する行為は,修理等の域を超えて,実
施対象を新たに生産するものと考えられるから,被告製インクタンクを原
告製プリンタに装着する行為は,インク供給システムの新たな生産とみな
すことができ,本件特許権2は消尽していないと解するのが相当である。
カ小括
被告は,被告製品2を「CANON対応製品「キヤノン互換インク,」,
カートリッジ」として販売しており,被告製品2が原告製プリンタに装着
されると上記各発明の実施に使用されることを理解した上で,被告製品2
を輸入,販売している。
したがって,被告製品2を輸入,販売する行為は,特許法101条2号
により本件特許権2を侵害するものとみなされる。また,被告は,本件特
許2についても,同特許の特許無効審判により無効にされるべきものであ
ると主張するものの(争点3,その主張する無効理由は,本件特許1に)
ついて主張する無効理由とほぼ同様のものであるから,前記1で判示した
点に照らして,同主張に理由がないことは明らかである。
よって,原告の被告に対する特許法100条1項に基づく被告製品2の
輸入,販売又は販売のための展示の差止請求は,理由がある。
3被告製品1に関する請求について
原告は,前記第2の3のとおり,被告製品1が本件特許権を侵害する旨の主
張を第4回弁論準備手続期日において撤回し,本件訴訟において,被告製品1
が本件特許権を侵害する旨の主張はしていない。
したがって,原告の請求のうち,被告製品1の輸入,販売及び販売のための
展示の差止めを求める部分については,理由がない。
4結語
よって,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるから認容し,その余の
請求については理由がないからこれを棄却することとし,仮執行宣言について
は相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官山門優
裁判官柵木澄子
(別紙特許公報省略)

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