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平成13年(行ケ)第395号 審決取消請求事件
平成14年10月24日口頭弁論終結
          判      決
    原   告    ヴァルキリー コーポレイション
    訴訟代理人弁護士 志知俊秀
    被   告    ベアー ユー エス エー インコーポレーテッド
    訴訟代理人弁護士 吉武賢次,弁理士 菊地栄,復代理人弁護士 宮嶋学
          主      文
 特許庁が平成11年審判第35776号事件について平成13年4月19日にし
た審決のうち,「登録第3335699号の指定商品中『洋服,コート,セーター
類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,ずきん,すげがさ,ナイト
キャップ,ヘルメット,帽子』についての登録を無効とする。」との部分を取り消
す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
 本判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
          事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 主文1,2項と同旨
第2 前提となる事実関係等
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 本件登録商標(以下「本件商標」という。)
  商標権者  原告
  登録出願日 平成6年12月1日
  設定登録日 平成9年8月1日
  登録番号  第3335699号
  商標の構成 別紙審決書写しの別掲(1)本件商標参照。
  指定商品  第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き
類,下着,水泳着,水泳帽,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽
子,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」
 (2) 本件手続
  無効審判請求日 平成11年12月24日(平成11年審判第35776号)
  審決日     平成13年4月19日
  審決の結論   「登録第3335699号の指定商品中『洋服,コート,セ
ーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,ずきん,すげがさ,
ナイトキャップ,ヘルメット,帽子』についての登録を無効とする。
          その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。
          審判費用は被請求人の負担とする。」
  審決謄本送達日 平成13年5月9日(原告に対し)
 2 審決の理由
 審決の理由は,別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)のとおりである。
要するに,本件商標は,引用商標(登録第2667318号商標で審決書の別掲
(2)引用商標として示されたもの。平成3年10月16日出願,平成6年5月31
日設定登録,指定商品は旧第17類「被服,布製身回品,寝具類」。)と類似する
ものであって,本件商標の指定商品中「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ
類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘル
メット,帽子」は,引用商標の指定商品と同一又は類似するものであるから,本件
商標は,上記の同一又は類似する指定商品については,商標法4条1項11号に違
反して登録されたものであって,その登録を無効とすべきであり,他方,その余の
指定商品についての登録には,この違反はないから,これを無効とすることはでき
ない,というものである。
 3 基本的な事実関係
 (1) 1978年(昭和53年)にワーナー ブラザーズ インコーポレーテッ
ド(ワーナー)は,サーフィン映画「ビッグ・ウェンズデー」(本件映画)を製作
した。原告は,本件映画の監督であったAが設立し,代表者を務める法人である。
本件映画は,3人のサーファーとサーフボードを製作する者との友情を描いた青春
映画であるところ,登録第3335700号の商標(本件商標の「SNOW」が
「SURF」となっているほかは,同一のもの。この商標は,本件商標と同様に平
成11年審判第35777号事件として審理され,平成13年(行ケ)第396号
事件として審決取消訴訟が係属している。以下,この商標を「原告別件商標」とい
う。)が本件映画のために創作され,映画中で「ベアー」というニックネームで呼
ばれるサーフボード職人が製作し,主人公である3人のサーファー達の1人が使用
したサーフボードや,上記「ベアー」の経営するサーフ・ショップで売られ,主人
公達が着用するTシャツなどのブランド・マークとして用いられた。本件映画は,
米国内興行収入が約850万米ドル,米国外興行収入が約340万米ドルとヒットし,全
世界でのテレビ放映は800回を超え,ビデオ,DVDも全世界で約8万本売り上げて
いる。また,本件映画は,日本における平成14年のBSデジタル映画祭(NH
K,WOWOW及び民放BS各局の共同企画)の夏休み選りすぐりの300本の1
本にも選ばれて放送された。原告は,1991年(平成3年)11月7日にワーナ
ーから原告別件商標に関する権利を譲り受けたものである。(以上の事実につき,
甲6,7,8の1~3,9の1~18,24,25,弁論の全趣旨)
 (2) 日本における原告別件商標に関する経済活動のうち,広告宣伝活動は,主
として,ファッション雑誌,サーフィン専門誌,繊研新聞などにおける広告をし,
宣伝広告費は,平成12年から14年までの間は年間2000万円弱から2650
万円強の間で推移している(甲30~36,37の1~3,弁論の全趣旨)。日本
における被服の年間売上げは,平成9年12月から平成13年11月までの間,約
25億円,約31億円,約19.6億円,約14.6億円と推移し,その後,平14
年5月までの半年で約9.5億円となっており,原告別件商標を付した商品全体でみ
ると,同じ期間において,約28億円,約35億円,約23億円,約19.7億円と
推移し,平成14年5月までの半年で約10.56億円となっている(甲38,弁論
の全趣旨)。
 (3) 本件商標は,原告別件商標における「SURF」が「SNOW」となって
いるほかは,これと同一のものである(甲3の1の1)。すなわち,本件商標は,
審決書の別掲(1)本件商標として記載されたとおりであり,菱形に近い輪郭を有す
る枠(菱形状の枠)を備え,菱形状の枠は,黒塗りの菱形状の太線の内側に細線で
描かれた菱形を有し,菱形状の枠の内部には,枠から上半身を乗り出し,首を右に
曲げて観察者の正面を向いた羆(ヒグマ)のように見える熊の上半身の図が写実的
に描かれ(熊の手足は描かれていない。),熊の図の胸の前方に,菱形状の枠と
「B」と「R」の文字が部分的に重なり,「B」の下部,「R」の右下部が菱形状
の枠からはみ出しているように配置された大きな文字で「BEAR」と表示されて
おり(文字は白抜きの籠字で,Bの文字がE,A,Rの文字よりもやや大きくなっ
ている。),菱形状の枠の内部で熊の両側の余白位置に,「SNOW」の文字と
「BOARDS」と文字が「BEAR」よりも小さい字で表示されている。
(4) 引用商標は,審決書の別掲(2)引用商標として記載されたとおりであり,
「BeaR」とのアルファベット4文字からなり,第1文字と第4文字が大文字,
第2文字と第3文字が小文字である。
 引用商標は,平成3年10月16日,株式会社フルーツ(フルーツ)によって出
願され,特許庁審査官から拒絶理由通知がされたが,フルーツが意見書を提出し,
平成6年5月31日設定登録(指定商品は旧第17類)された。そして,平成8年
3月29日フルーツから被告に引用商標が譲渡され,同年7月8日その旨登録され
た(甲3の7の1~2,5の2,弁論の全趣旨)。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 1 本件商標と引用商標とは類似しない。審決の本件商標を無効とした部分は,
認定を誤っており,取り消されるべきである。その理由は,以下のとおりである。
 2 商標の登録阻却要件としての類似性の判断をするについては,一般に次のよ
うな事項が考慮されるべきである。
 (1) 不使用商標の類似性は狭く解釈すべきである。
 (2) 取引実情を考慮すべきである。登録の場面においては,商標自体ではな
く,商品の出所に関する混同のおそれが評価基準とされるべきであり,商標の認知
度などの取引の実情を具体的に斟酌すべきである。
 (3) 自他識別機能が欠如しているなどの理由により独占させるべきでない部分
を共通にするにすぎない場合には,類似性が否定されるべきである。
 3 本件商標の外観,観念,称呼等
 (1) 原告別件商標は,次のような構成となっている。① 菱形に近い輪郭を有
する枠(菱形状の枠)を備え,菱形状の枠は,黒塗りの菱形状の太線の内側に細線
で描かれた菱形を有している。② 菱形状の枠の内部には,枠から上半身を乗り出
し,首を右に曲げて観察者の正面を向いた黒い熊の上半身の図が描かれている(熊
の手足は描かれていない。)。③ 熊の図の胸の前方に,菱形状の枠と「B」と
「R」の文字が部分的に重なるように大きな文字で「BEAR」と表示されてい
る。④ 菱形状の枠の内部で熊の両側の余白位置に,「SURF」の文字と「BO
ARDS」の文字が「BEAR」よりも小さく表示されている。
 (2) 本件商標は,上記原告別件商標の「SURF」の部分を「SNOW」に置
き換えたものであり,上記①ないし④の構成要素が一体不可分の関係になって構成
されているものである。原告別件商標が本件映画の重要なシンボルとして創作さ
れ,使用されていたことからしても,需用者が本件商標の外観,称呼及び観念を判
別する場合に,上記①ないし④の構成要素の一部だけを商標から分離してその分離
した構成要素を本件商標の要部として認識することはない。
 (3) 原告別件商標の図柄が,前記のように,本件映画で使用されたほか,実際
のマーケットにおいても,1978年以来,本件商標は,原告別件商標とともに,
原告による世界的商品化がされ,日本でも原告のライセンスの下,1980年代後
半からサーフボード,Tシャツなどの衣類について宣伝,広告活動,商品展開が本
格化した。その結果,本件商標は,日本において,サーフブランドである原告別件
商標とともに,周知性,著名性を獲得している。引用商標は,平成3年10月16
日に出願されたものであるが,本件商標は,その出願前から,世界的にも日本国内
においても著名であった。
 (4) 原告別件商標の観念は,単なる「熊」,「ベアー」,「BEAR」ではな
く,上記映画中の登場人物である「ベアー」のサーフボードを想起せしめるもので
あり,その称呼は,「ベアーサーフボード」,「ベアーサーフ」,「サーフベア
ー」なるものを有するものである。そして,本件商標は,原告別件商標の「SUR
F」の部分を「SNOW」に置き換えたもので,原告別件商標と関連するブランド
として認識されているのであるから,観念としては,単なる「熊」,「ベアー」,
「BEAR」ではなく,上記「ベアー」のスノーボードを想起せしめるものであっ
て,称呼としても「ベアースノーボード」,「ベアースノー」あるいは「スノーベ
アー」なる称呼を有するものである。
 4 引用商標について
 (1) 引用商標は,「BeaR」というもので,語頭及び語尾の各1文字をアル
ファベットの大文字で表し,中間の2文字をアルファベットの小文字で表した4文
字の商標であり,上記4文字のアルファベット以外の文字や図形を含んでいない。
したがって,引用商標の外観,称呼及び観念は,この4文字のアルファベットだけ
から判断されることになる。
 審決は,引用商標から「世人一般に親しまれている『熊』の意を有す英語『Be
ar』を容易に想起」する旨認定しているが,引用商標のようにアルファベットの
大文字,小文字,小文字及び大文字という特異な配列をとる英単語は存在しない。
「B」,「e」,「a」及び「R」という文字の配列をみて,直ちに「英単語」で
あることを想起させるというのは通常の経験則に反する不合理なものである。した
がって,引用商標から「Bear」という英単語を想起し,あるいは「ベアー」又
は「ベア」の称呼,「熊」の観念を生じるものとすることもまた困難である。
 (2) 引用商標の出願以前及び以後のいずれにおいても「bear」,「BEA
R」,「ベアー」の文字を含んだ商標が多数登録されている。この事実は,引用商
標の類似範囲が非常に狭いものであることを裏付けている。また,引用商標の出願
の前後を通じて,熊の図形とともに,「BEAR」,「Bear」を含む文字が表
示された商標が登録されている。これも引用商標の類似範囲が非常に狭いものであ
ることを裏付けている。
 審決は,上記の状況を認めつつも,「ベアー(熊)」の称呼,観念が生じる登録
商標は,原告別件商標,本件商標,引用商標以外には,本件商標より後に被告が登
録を受けた商標「ベアー」及び「BEAR」しか存在しないことなどを根拠とし
て,引用商標についても「ベアー(熊)」の称呼,観念が生じるとしているようで
あるが,そもそも,商標「ベアー」及び「BEAR」は,自他識別機能のないもの
として,あるいは登録前後の状況から,いずれも登録されるべきものではなかった
のであるから,引用商標の権利範囲(類似とされる範囲,以下同じ。)の判断に当
たって考慮されるべきでない。
 (3) 引用商標の出願経過において,拒絶理由通知が出され(既に登録されてい
る「GOLDBEAR」の文字からなる商標(A商標),「熊の図柄とGOLDと
BEARの各文字の二段並記」の商標(A’商標),「GOLDENBEAR」の
商標,「ゴールデン ベアー」の商標が引用された。),これに対して出願人は,
意見書(甲5の2)において,「甲の英文字綴「BeaR」に対してAの「BEA
R」及びA’の「BEAR」がアルファベット共通文字を各々共有するものの甲の
アルファベット綴の態様が特異であり一見して熊等を意味する英単語を想起するこ
とが困難である。」と,また「称呼上,甲は「ベアー」又は「ビール」である」と
主張した。引用商標について,上記主張が客観的に正しいものと特許庁が判断した
ことから,引用商標が登録されたものであるから,その権利範囲もかかる主張に沿
って解釈されるべきである。
 (4) 「ベアー(熊)」,「BEAR(若しくはBear又はbear)」のみ
の外観,称呼あるいは観念には,自他商品識別機能がないことが明らかであるか
ら,これらは引用商標の権利範囲から除かれるべきである。
 「ベアー(熊)」,「BEAR(若しくはBear又はbear)」の文字を含
んだ被服に関する商標が多数登録されており,現実の取引においても,これらの文
字が単独で使用される場合も含めて,被服等の商品に多数使用されていることなど
からも,これらが被服に関する標章として顕著性を欠き,自他商品識別機能がない
ことが明らかである。すなわち,これらは,単独では自他商品識別機能がなく,こ
れらに図形や他の文字が付け加わって初めて,特別顕著性を有するようになるので
ある。
 (5) 被告は,引用商標を一切その商品に付して使用していない。したがって,
引用商標の権利範囲は狭く解されるべきである。
 5 以上からすれば,本件商標と引用商標との間で商品の出所の誤認混同を生ぜ
しめるような類似性はなく,本件商標と引用商標とは,外観,称呼,観念のいずれ
においても相違するものであり,類似性は認められない。
第4 被告の主張の要点
 1 本件商標について
 (1) 本件商標からは「ベアー」の称呼も生じる。その理由としては,原告主張
のように「ベアースノーボード」と連続して称呼するには長いこと,意味上も「ベ
アー」の「スノーボード」であり,明確に2つに分けることができること,「スノ
ーボード」は,商品の種類ないし用途を示すものであって自他識別力を有する部分
でないこと,「BEAR」の文字が本件商標の中央部分に大きく浮き出るような視
覚的印象を呈するように表示されているのに対し,「SNOW」「BOARDS」
の文字は,「BEAR」の文字より小さな文字でその左右に表示されているにすぎ
ないこと,「BEAR」は「熊」であることを表す英語である上,本件商標の中央
部分の顕著に表示された「熊の上半身の図形」からも「ベアー」の称呼が生じるこ
とが挙げられる。
 原告は,本件商標が周知,著名であるというが,とても認められない。そもそ
も,原告別件商標自体も著名であることはおろか,周知であることも全く認められ
ないものである。「ビッグ・ウェンズデー」なる映画の日本における売上げは定か
でない。仮に,興行当時,一定の周知性を獲得したとしても,時の経過とともにそ
の周知性は消滅したとみるのが自然である。また,本件映画中の原告別件商標の図
柄も,特に注目して観察していない限り,とりたてて印象に残るものとはいえず,
本件映画によって原告別件商標の図柄が多少知られることとなったとしても,原告
別件商標の図柄の知名度は,本件映画の知名度に比べればかなり低いものというべ
きである。
 仮に,周知,著名であっても,それを理由に,本件商標が「ベアースノーボー
ド」なる称呼のみを生じ,「ベアー」との称呼を生じないことにはならない。
 (2) 本件商標の中央部分に顕著に表示された「熊の上半身の図形」と,中央部
分の顕著に表示された熊を意味する英単語である「BEAR」からすれば,本件商
標が「ベアー(熊)」の観念を生じることは明白である。
 2 引用商標について
 (1) 「B」「e」「a」「R」の4つのアルファベットは,横一列に間断なく
表記されており,ひとまとまりのものとして看取される。そして,日本の今日の英
語教育水準からすれば「Bear」が「熊」を意味する英単語であることは容易に
理解されるものである。なお,「R」は大文字で記載されているが,これが「r」
の大文字であることは容易に理解されるのであり,このことによって,「熊」を意
味する英単語であることを看取することが妨げられることはない。そして,「Be
ar」の発音が「ベアー」であることは需用者に広く認識されていることは明らか
である。「ビール」という称呼が生じるとする原告の主張には理由がない。
 (2) 引用商標は「熊」を意味する英単語を容易に想起させるのであるから,
「ベアー(熊)」との観念を生じることは明らかである。
 (3) 被告は,引用商標を実質的に指定商品に使用している。また,既に引用商
標につき,日本国内の業者とライセンス契約を締結している。そもそも,商標法4
条1項11号においては,願書に記載された商標同士を対比するべきであり,原告
主張のように使用の有無という事情を斟酌すべきではない。
 (4) 原告は,「bear」「BEAR」「ベアー」の文字を含んだ商標が多数
登録されていることなどから,引用商標の類似範囲が非常に狭いなどど主張する
が,本件商標出願以前に,「ベアー(熊)」の称呼,観念が生ずるといえる登録商
標は,引用商標以外に存在しないのであるから,「bear」「BEAR」「ベア
ー」の文字を含んだ商標が多数登録されているとしても,「ベアー(熊)」の称
呼,観念が生じる商標同士の類似性判断には,何の影響もないのである。原告の主
張は,「BEAR」等の文字と他の文字部分等が一体として要部となっている商標
(例えば,「KING BEAR」)と,「BEAR」等の文字部分が要部となっ
ている商標(例えば「BeaR」)の類似性判断の場面において適用されるもので
あり,本件に関しては関係のない主張である。
 (5) 原告は,「ベアー(熊)」,「BEAR(若しくはBear又はbea
r)」のみの外観,称呼あるいは観念には,自他商品識別機能が欠如していること
から,これらは引用商標の権利範囲から除かれるべきである旨主張する。しかし,
本件商標の出願以前に「ベアー(熊)」の称呼,観念を生じるといえる登録商標
は,引用商標以外には存在しないのであり,「ベアー(熊)」などのみの外観,称
呼あるいは観念を有する商標が自他商品識別機能が欠如しているなどとはいえな
い。原告が挙げる証拠は,「BEAR(bear)」以外のアルファベット,図柄
等が併存していたり,そもそも「BEAR(bear)」の部分が出所表示識別機
能を有する部分でなかったりするものであり,これらの商品の存在によって,原告
の主張を裏付けることはできない。
 (6) 原告は,引用商標の出願手続における出願人の意見書を引用し,引用商標
の権利範囲もこの意見書の主張に沿って解釈すべきである旨主張する。しかし,出
願人の意見書は審査官を何ら拘束するものではなく,参考にすぎないのであって,
審査官が出願人の主張を客観的に正しいものと判断したことから引用商標が登録さ
れたとはいえず,原告の主張は失当である。引用商標の客観的に判断される外観,
称呼,観念は,既に主張し,審決も認定判断したとおりである。
 なお,上記意見書では,出願人は,引用商標が「ベアー」なる称呼を生じ,
「熊」なる観念を生じることも主張しており,結局,意見書でも,引用商標が審決
で認定された外観,称呼,観念を有することを何ら否定していない。
 3本件商標と引用商標とは,称呼,観念を共通にするものであり,両商標の外
観の差異は,互いの称呼,観念上の類似性を凌駕するほどのものとはいえないとみ
るのが相当であるから,両商標は,類似の商標である。
第5 当裁判所の判断
 1 本件商標は,前記第2の3「基                    
                本的な事実関係」に判示したとおりである。
 本件商標の称呼を検討するに,原告は,「ベアースノーボード」,「ベアースノ
ー」あるいは「スノーベアー」の称呼が生じると主張するが,本件商標の中央部分
に大きく表示された「BEAR」の文字は,白抜きの籠字とされ,全体の構成上も
浮き出るような視覚的印象を与えるものであり,これに加えて中央部分に極めて強
い印象を与える熊の上半身の図形が存在するのであり,通常は,「ベアー(熊)」
の称呼を生じるものと認められる。「スノーボード」は,1つの複合語であるとし
ても,「スノーボード」又は「スノー」と「ベアー」とは,別の単語である上,意
味上も常に一体のものとして把握しなければならないほどの関連性はないのであっ
て,本件商標登録時において本件商標の指定商品の需要者,取引者の間で「ベアー
スノーボード」,「ベアースノー」あるいは「スノーベアー」という一体不可分の
商標と認識される著名なものとなっていたとまでは認めるに足りない(雪(スノ
ー)は,本件映画から直接想起されるわけでもない。)。したがって,原告の主張
は採用の限りではない。
 次に,本件商標の観念を検討するに,上記の文字,図形,全体の構成にかんがみ
れば,本件商標から観念されるのは,「ベアー(熊)」であると認められる。な
お,原告は,本件商標から,単なる「熊」,「ベアー」,「BEAR」ではなく,
「本件映画に登場するサーフボード職人『ベアー』(ニックネーム)のスノーボー
ド」が想起される旨主張する。しかし,指定商品である衣類等の需用者,取引者の
間において,「ベアー」にとどまらず「スノーボード」であるところまで観念が生
じるほどに一体不可分のものとして認識されるものとなっていたことについて認め
るに足りないことは,称呼に関して検討したところと同旨である上,本件商標から
「本件映画に登場するサーフボード職人『ベアー』(ニックネーム)」までをも想
起するのが通常であるといえるほどに周知のものであるとまでは認めるには足りな
い。そうすると,本件商標から想起される観念は,「熊」との意味を有する「ベア
ー」であると認められる。
 以上によれば,本件商標の外観,称呼,観念に関する審決の認定に誤りがあると
はいえない。
 
2 引用商標は,前記第2の3「基本的な事実関係」に判示したとおりである。
 被告は,引用商標につき,「熊」を意味する「Bear」の第4文字を大文字に
したものと容易に認識することができ,称呼,観念ともに「ベアー(熊)」である
旨主張し,審決も同旨の認定判断をしているものと解される。
 確かに,そのような理解も可能ではある。しかし,英語の通常の表記によれば,
「BEAR」,「Bear」,「bear」となるはずで,ひとつの単語を引用商
標のように第1文字と最終文字のみを大文字で構成することは通常ではなく,特異
な態様ということができ,引用商標の場合には,「Bea」と「R」を組み合わせ
たか,又は「B」と「R」との間に「ea」を挟んだ造語ないし何らかの略称であ
ると見ることも十分に可能である。
 前者によれば,称呼,観念ともに「ベアー(熊)」とされるが,後者の場合に
は,称呼は,「ビー,アール」又は「ビール」であり,特定の観念は生じさせない
ことになる。
 以上によれば,引用商標「BeaR」は,そこから生じる称呼及び観念において
多分に不確定なものを含んでおり,少なくとも,引用商標から「ベアー」の称呼及
び「熊」の観念が確定的に生じるということはできない。
 なお,この点について,引用商標の出願人であったフルーツも,拒絶理由通知に
対する平成5年3月2日付け意見書の中で,「甲(判決注:引用商標のこと,以下
同じ。)のアルファベット綴の態様が特異であり一見して熊等を意味する英単語を
想起することが困難である。・・・称呼上,甲は「ベアー」又は「ビール」である
のに対し,・・・観念上,甲は「熊」をはじめ「運ぶ」,「耐える」等の意味を想
起させるのに対し,・・・」などと主張していたところである(甲5の2)。
 したがって,引用商標の称呼,観念に関する審決の認定には,上記に反する限度
で誤りがあるといわざるを得ない。
 3 衣類(被服等)には,かねてから,熊,犬,猫,馬などの動物名を使った標
章が好んで多用されていることは,公知であるが,「BEAR」,「Bear」等
に関する登録された商標の状況についてみると次のとおりである。すなわち,引用
商標の出願日(平成3年10月16日)よりも前のものをみただけでも,「LUC
KY BEAR」,「GOLD BEAR」,「BABYBEAR」,「GOLD
EN BEAR」,「MAC BEAR」,「BEAR FAMILY」,「LI
TTLE BEAR」,「ABCBEARS」,「SEABEAR」,「TINY
 BEAR」,「MAMABEAR」,「ROYALBEAR」,「DREAMY
 BEAR」,「GENTLE BEAR」,「POLAR BEAR」,「BE
AR CLUB」などおびただしい数に上っている(甲5の1)。上記以後のもの
も含めると枚挙にいとまがないといって差し支えない。
 このような状況に照らせば,「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻
き類,下着,水泳着,水泳帽,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,
帽子」という指定商品において,単なる「BEAR(ベアー)」という称呼や「ベ
アー(熊)」の観念のみによっては,自他商品の識別はできず,需用者,取引者
は,「BEAR」等に付加された語句や図形などの差異によって,種々存在する
「BEAR(ベアー)」の商標を識別しているものと推認される。
 この観点からみると,引用商標「BeaR」は,4文字の構成が,大文字-小文
字-小文字-大文字というもので,特に末尾の「R」が大文字という特異でユニー
クな配列,表記である点で自他商品識別能力を具備し得たものというべきである
(単に文字だけで「BEAR」,「Bear」,「bear」,「ベアー(熊)」
などという構成としたのであれば,商標登録の有効性に多大の疑問が生じる。)。
 4 以上を踏まえて,本件商標と引用商標との類否を検討する。
 本件商標の称呼,観念は,「ベアー(熊)」であると認められる。他方,引用商
標「BeaR」は,前記のように,多分に不確定なものを含んでおり,「ベアー」
の称呼及び「熊」の観念が生じる余地もあるが,「ビー,アール」又は「ビール」
との称呼が生じるとともに,特定の観念は生じない余地も十分にあり得る。このよ
うに,称呼,観念において,共通する点はあるものの,これをもって直ちに両商標
が類似するとは断定し難い。
 次に外観をみると,本件商標は,前記のとおり,羆のように見える熊の上半身の
図柄が強烈な印象を与えるのに対し,引用商標は,文字のみによる商標であり,末
尾の「R」の大文字が特異な外観を呈するものである。外観において,両商標は,
紛れる余地の全くないほどに非類似のものである。
 そして,前記認定のとおり,被服等の取引分野においては,「BEAR」,「B
ear」,「bear」,「ベアー(熊)」等の文字を含む商標が多数存在すると
いう実情と,両商標の称呼,観念,外観として対比認定した点を総合すれば,本件
商標と引用商標とは,出所混同のおそれのない,類似しない商標であると認められ
る。
 そうすると,審決は,商標の類否に関する認定,判断を誤ったものであるという
ほかなく,この誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものとして,審決は取消しを免
れない。
 5 結論
 よって,原告の請求は理由があるので,これを認容することとし,主文のとおり
判決する。
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官      永   井   紀   昭
           裁判官      古   城   春   実
           裁判官      田   中   昌   利

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