弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鈴木多人上告趣意第一点について。
 しかし、原判決は、被告人のAに対する殺意の点についても、司法警察官の被告
人に対する第一、二回訊問調書中における被告人の自供及び強制処分の請求に基く
判事の被告人に対する訊問調書中における被告人の自供の外、医師D作成の診断書
及び押収にかかる薪割一挺をも綜合してこれを認定したものであることは、原判文
上明らかであるから、右殺意の点を被告人の判事、司法警察官に対する自白のみに
よつて認定したと主張する論旨はあやまりである。なほ、論旨は右各自白は強制に
よるものであるから、証拠力はないと主張するけれども、本件において、右の自由
が強制に基くものであるとみるべき何等の証拠もない。ただ、被告人は原審公判に
おいて裁判長から司法警察官の第一回訊問調書中、Aに対する殺意のくだりを読み
聞かされた際に「その時は警察官に叱られたので、左様に殺すつもりで殴つたと申
上げしまたが実際は殺す気がなかつたのであります」と述べ、また第一審公判にお
いても、同様右調書について「係官がそうだろうそうだろうと申すのでとうとうそ
うだと申しておいたのでありましたが云々」と述べていることは記録上明らかであ
るけれども、これだけのことにわつて、直ちに、右自白が強制にもとずくものであ
るということのできないのは勿論であるのみならず、この点に関して、原審でも、
第一審でも、被告人からも、弁護人からも、右訊問の衝にあたつた栃木県警察署の
B警部補を証人として訊問の申請をした事実のないところからみても、被告人の右
の供述も、強く右訊問の不公正を主張した趣旨ではなく、要するに、公判において、
Aに対する殺意を否認したのに過ぎないと解するほかなく、その他事件の全般を通
じて右自白が強制にもとずくものであることを思はせる何等の根跡もない本件にお
いては、弁護人の右の論旨は、とうてい採用することはできないのである。(論旨
が強制処分に基く判事の訊問調書中被告人の供述として摘録しているところは、記
録によれば検事の訊問調書中の被告人の供述を誤つて摘録したものであること明白
であり、しかも、右検事の訊問調書は原判決が証拠として採用していないところで
ある。)また原判決には所論のような、相互に矛盾した証拠を採用した違法もなく、
その他論旨は畢竟、原審の専権に属する事実の認定を非難するものであつて、上告
適法の理由とならない。
 同第二点について。
 しかし起訴事実についてどの程度に証拠調をするかということは事実審裁判所の
裁量に委せられていることであつて原審が所論のようにC及A並びに栃木県警察署
司法主任B警部補を職権で以て証人として喚問しなかつたとしてもそれはその必要
を認めなかつたからに外ならないのであつて、その一事により直ちに原審が日本国
憲法第三十七条第一項にいふ「公平な裁判所」でなかつたということはできない。
裁判所が公平な構成員よりなつて法律の定めた手続によつて裁判をする以上公平な
裁判所の公正な裁判といはなければならぬ。又日本国憲法第三十七条第二項が「刑
事被告人はすべての証人に対し審問する機会を充分に与へられる権利を有する」と
いつているのは裁判所自身が必要と認めないすべての関係人を論旨のように職権で
以て証人として採用し被告人に直接訊問する機会を与へなければならないと云ふ意
味のものとは解せられない。しかして原審公判調書によれば本件においては原審裁
判長は証拠調終了後被告人に対し更に利益となる証拠があれば提出することができ
る旨を告げたのであるが、被告人及弁護人においては所論のC及Aは勿論のことB
警部補さへも証人として訊問の請求をしなかつたことは明白であるから原審がこれ
らの者を職権で以て証人として喚問し被告人に直接訊問の機会を与へなかつたから
と云つてこの措置を目して日本国憲法第三十七条第二項に違反するものといふこと
はできない。
 論旨はいずれも理由がない。
 被告人Eの上告趣意について。
 しかし所論の点に関する被告人の司法警察官に対する自白が強制によるものでな
いことは既に弁護人鈴木多人の上告趣意第一点に対して説明を与へた通りである。
 論旨は更に情状を酌量して有期懲役刑に処して貰いたいと述べているがこのよう
な上告理由は日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十三
条第二項により適法な上告理由ということができない。
 本件に関する裁判官栗山茂の意見は次のとおりである。
 弁護人鈴木多人上告趣意第一点及び被告人E上告趣意について。
 被告人に対する司法警察官第一回訊問調書を見ると「娘の方は殺す考は最初は有
りませんでしたが、目を覚したので殺す心算になつたのであります」と供述したの
に関聯して、被告人は第一審第一回公判調書によると「係官がそうだろうと申すの
で到々そうだとは申して置いたのでありましたが、実は左様ではないのであり本日
申上げましたことが間違いないのであります」と述べ、控訴審第一回公判調書には
「その時は警察に叱られたので左様に殺す心算で殴つたと申上げましたが実は殺す
気がなかつたのであります」と述べて、司法警察官の聴取の際に殺意を自認したの
は強制によつたものであると主張している。
 被告人が裁判所で、司法警察官なり検察官なりの聴取の際に、強要されたと主張
するとすれば、論理上は一見主張する側に挙証の責があるように思はれるけれども、
実は公訴機関が右聴取書を証拠として提出する以上は、(弾劾制度の建前からいえ
ば左様に考えるべきものである。)強制が加はつていない供述だけを証拠として提
出すべき義務があるものであるから、公訴機関側に強制が加はつていないことの挙
証の責があるというべきである。而てこれは刑訴応急措置法第十条がある以上、事
実審理にあたる裁判官の看過してはならぬことである。こう考えると、第一審第一
回公判で被告人が司法警察官に聴取の際強要されたと主張する以上、裁判所は検察
官側に対して右聴取書に強制が加はつていないことを立証させ強制の事実を取調べ
た上でなければ、被告人の供述を証拠にとれないものというべきである。即ち被告
人乃至弁護人が本件警察官を証人としてその喚問を申請しなくとも裁判所は職権を
以てその事実を取調べて、被告人の主張する強制があつたとしても、経験則上その
強制が憲法第三十八条刑訴応急措置法第十条にいう強制かどうかを判断した上で証
拠にとるべきものである。第一審で右の手続をとらなかつたとすれば控訴審第一回
公判でも被告人は右強制の事実を主張したのであるから同様の手続をとるべかりし
ものである。かゝる証拠法の手続を確立しない以上は憲法第三十八条の国民の特権
はいつまでたつても尊重されないことになるのである。
 或はかような手続を確立せしめること、狡猾な被告人は絶えず裁判所で強制の事
実を口実にして、犯意を否認するであろうし又その違憲性を口実に上告理由とする
であろうと言はれるかもしれないが、事実審でかゝる手続をとることが犯罪捜索の
機関が不当に人権をじうりんしないことにもなり他面事実審理の裁判所としても国
民の特権を尊重する以上は一応は強制の事実を取調べて証拠法の手続の確立を期す
べきであろう。又上告審としては、自由の任意性についての判断は事実に関する判
断であるから、事実審裁判所がした判断が経験則に反することが顕著でなくては、
法律問題として取扱う要のないものといえるから、かゝる証拠に関る手続を事実審
が実行する以上は、かような問題が上告の理由になることも稀な場合であろうと思
はれる。
 本事案について見ると、被告人が司法警察官に取調の際叱られた位では強要では
ないと言えるかもしれないが、事実審で被告人の司法警察官に対する供述の任意性
について事実を取調べた上で、判決の理由中に強制の有無について判断を下すこと
が必要であつて、この点で憲法第三十八条、刑訴応急措置法第十条が特に強制によ
る自白の証拠能力を排斥しているにもかゝはらず而て本件被告人の抗弁にもかゝは
らず、強制の有無について何等取調を行つた形跡がないのは、憲法第三十一条にい
わゆる法律の定める手続によらなかつた違法があるというべきである。以上の理由
で原判決は破毀を免れないものと考へる。
 よつて裁判所法第十条但書第一号刑事訴訟法第四百四十六条に従い主文のとおり
判決する。
 この判決は裁判官栗山茂を除く裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 福尾彌太郎関与
  昭和二三年七月一四日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介

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