弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人土谷明の上告趣意のうち、憲法三六条違反をいう点は、刑法一九九条に定
める死刑が憲法三六条にいう残虐な刑罰に当たらないことは当裁判所の判例(昭和
二二年(れ)第一一九号同二三年三月一二日大法廷判決・刑集二巻三号一九一頁、
昭和二六年(あ)第三一〇四号同二七年一月二三日大法廷判決・刑集六巻一号一〇
四頁)とするところであるから、所論は理由がなく、その余は、判例違反をいう点
を含め、実質は量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
 また、所論(弁護人本田兆司、同原田香留夫、同桂秀次郎及び同服部融憲の所論
を含む。)にかんがみ、記録を精査しても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは
認められない(本件は、被告人が、遊興にふけって金銭に窮したため、身代金を交
付させる目的で、被告人からソフトボールの指導を受けるなどしてこれに信頼を寄
せていた被害者(当時九歳)を普通乗用自助車に乗せて誘拐した上、その約一時間
半後に被害者が身代金取得のために足手まといになると考え、自助車内においてそ
の首をネクタイで絞出で殺害じ、身代金要求に必要な被害者の帽子だけを残して死
体を山林に投げ捨て、その後警察官の張り込みを想定して身代金取得場所を変更し
ながら、被害者が生存しているように偽って七回にわたり被害者宅に電話をかけ、
その安否を憂慮する両親から現金一五万円及びキャッシュカードを取得するととも
に、更に電話で、被害者の父親に対し、身代金一〇〇〇万円を要求したという極め
て悪質な犯行である。金銭欲から児童む誘拐して殺害し、その死体を遺棄した後、
身代金を要求・取得するという本件の罪質及びその結果は共に極めて重大であり、
動機に酌量の余地はない上、被告人は、下校途中の被害者に出会ってから誘拐を思
い付いたものではあるが、誘拐を決意した後は冷静周到に行動しており、殺害の態
様も、車に酔って泣き出した被害者の背中をさするような素振りをしながら、いき
なり首にネクタイを巻き付け両手で力一杯絞めつけて殺害したものであって、冷酷
非道というほかはない。加えて、にわかに愛児の生命を奪われた両親ら遺族の被害
感情は強烈であり、社会に与えた影響もまた軽視し難い。以上のような本件犯行の
罪質、動機、態様及び結果、遺族の被害感情等に照らすと、被告人は事前に計画を
立てて本件を敢行したものでないこと、前科がないこと、本件につき反省悔悟して
いること等を考慮しても、その罪責は誠に重く、原判決が維持した第一審判決の死
刑の科刑は、やむを得ないものとして当裁判所もこれを是認せざるを得ない。)。
 よって、刑訴法四一四条、三九六条、一八一条一項但書により、裁判官全員一致
の意見で、主文のとおり判決する。
検察官古畑恒雄 公判出席
  平成三年六月一一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    貞   家   克   己
            裁判官    佐   藤   庄 市 郎
            裁判官    可   部   恒   雄

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